関連審決 | 審判1997-13659 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成13行ケ99審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成13行ケ219審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成17行ケ10006審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成10行ケ95審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成12行ケ352審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 発明者 / 技術的思想 / 製造方法 / 頒布された刊行物 / 容易に実施 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 技術的手段 / 技術常識 / 発明の詳細な説明 / 明細書の記載要件 / 明瞭でない記載 / クレーム / 援用権(援用) / 出願経過 / 参酌 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 加工 / 構成要件 / 侵害 / 設定登録 / 混同 / 請求の範囲 / 拡張 / 変更 / 釈明 / 訂正明細書 / 要旨変更 / 異議申立 / |
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事件 |
平成
11年
(行ケ)
23号
審決取消請求事件
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原告 株式会社佐竹製作所 訴訟代理人弁護士 池田昭、弁理士 竹本松司、湯田浩一 被告 株式会社東洋精米機製作所 被告 財団法人雑賀技術研究所 被告ら訴訟代理人弁理士 小原英一 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2001/04/10 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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原告の求めた裁判
「特許庁が平成9年審判第13659号事件について平成10年12月18日にした審決を取り消す。」との判決。 |
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事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 被告らは、名称を「洗い米の製造方法」とする特許第2602090号発明(平成1年3月14日に特許出願(特願平1-62648号)、平成9年1月29日設定登録。本件発明)の特許権者であるが、原告は、平成9年8月8日、本件特許を無効とすることについて審判を請求し、平成9年審判第13659号事件として審理された。その答弁書提出期間内に訂正請求があり、これに対して訂正拒絶理由の通知があって再度の答弁指定期間内に上記訂正請求の撤回があり、新たな訂正請求(本件訂正)があったが、平成10年12月18日、「訂正を認める。本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は平成11年1月6日原告に送達された。 2 本件発明の要旨(本件訂正後) 精白米を水に浸け、洗滌、除糠を行い、吸水部分が主に米粒の表層部である洗い米を得、更に除水工程において洗滌水と表面付着水の除水を行い、洗い米を製造する方法であって、水中への浸漬から除水までの工程を米粒の吸水量が極くわずかであるうちに完了し、水の浸透を主に米粒の表層部でとどめるようにし、かつ米粒の含水率が除水した時点で16%を超えないことを特徴とする米粒に亀裂を有さない洗い米の製造方法。 3 審決の理由の要点 (1) 原告(請求人)の主張及び提出した証拠方法 (1)-1 無効理由1 本件明細書は、平成8年7月3日付けの手続補正書によって補正されたものであり、この補正により、「除水」とは「米粒表層部に付着吸収した水分を除去すること」(本件特許公報第4欄17〜18行)と定義されたことにより、その特許請求の範囲に記載された本件発明の構成要件である「洗滌水と表面付着水の除水を行い」が、本件出願の当初の明細書(当初明細書)に記載された事項の範囲内でない技術的思想を包含するものとなり、また、本件訂正前の特許請求の範囲に記載された「ほぼ16%を越えない」は、当初明細書にある「16%以下」とは意味が異なるので、上記補正は、明細書の要旨を変更するものであって、特許法40条の規定により、本件出願の出願日は、前記手続補正書が提出された平成8年7月3日となる。 そうすると、下記審判甲第1号証は、本件出願日前の国内において頒布された刊行物であり、本件発明と審判甲第1号証に記載された発明を比較すると、次の点で相違し、その他の点では一致する。 (a) 本件発明は、吸収された水分も除水されるが、審判甲第1号証記載のものは、 吸収された水分は除去されない。 (b) 本件発明が「ほぼ16%を越えない」であるのに対し、審判甲第1号証記載のものは、「16%以下」である。 そして、本件発明の相違点(a)のようになすことは、審判甲第1号証のものも除水後含水率を「16%以下」として、カビ防止、亀裂防止を図ったものであり、下記審判甲第2〜6号証に吸収した水分を洗滌後調整することが記載されていることから当業者が容易に想到できることである。また、相違点(b)においては、両者はほとんど共通しており、この点に本件発明の格別のものはない。 以上のことから、本件発明は、審判甲第1〜6号証記載のものから当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法29条2項の規定により特許を受けることができず、本件特許は、無効とされるべきものである。 (1)-2 無効理由2 本件発明の方法においては、「水中への浸漬から除水までの工程を米粒の吸水量が極くわずかであるうちに完了し」なければならず、しかも「水の浸透を主に米粒の表層部にとどめるようにし、かつ米粒の含水率が除水した時点でほぼ16%を越えない」ようにしなければならない。しかし、本件明細書には、これが実施できる具体的方法又は装置は記載されていないので、当業者といえども本件明細書記載事項から、本件発明は、容易に実施できない。ちなみに公知の連続洗米機や除水装置を調査した結果、下記審判甲第13〜26号証のものがあったが、これらを改良しても本件発明は実施できない。 したがって、本件明細書は、当業者が本件発明を容易に実施できる程度に記載されていないので、特許法36条3項の規定に違反し、本件特許は、無効とされるべきものである。 (1)-3 無効理由3 本件明細書の「発明の詳細な説明」の項に「除水とは米粒表層部に付着吸収した水分を除去すること」とあるが、特許請求の範囲の記載には「洗滌水と表面付着水の除水を行い」との記載があるものの、「吸収した水分を除去する」記載はないので、特許請求の範囲には、本件発明の必須の構成が記載されていない。 したがって、本件明細書は、特許法36条4項2号の規定に違反し、本件特許は、無効とされるべきものである。 (1)-4 証拠方法 審判甲第1号証:特開平 2-242647号公報 審判甲第2号証:特開昭59-183663号公報 審判甲第3号証:特開昭61-115858号公報 審判甲第4号証:特開平 3- 10646号公報 審判甲第5号証:特開平 4-320656号公報 審判甲第6号証:特開平 5- 15322号公報 審判甲第7号証:特開平 3-154643号公報 審判甲第8号証:特願平1-291938号に対する株式会社東洋精米機製作所の特許異議申立理由補充書(平成6年11月5日付け)(1,20,21頁) 審判甲第9号証:同上の弁駁書(平成8年4月12日付け)(1,3,5頁) 審判甲第10号証:特願平1-291938号に対する柳野隆生の特許異議申立理由補充書(平成6年11月4日付け)(1,33,34,40,49頁) 審判甲第11号証:同上の弁駁書(平成8年4月12日付け)(1〜3頁) 審判甲第12号証:「稲学大成第1巻形態編」農山漁村文化協会、1990.11.10発行、311頁 審判甲第13号証:特公昭30-1833号公報 審判甲第14号証:特公昭33-2820号公報 審判甲第15号証:実公昭35-10989号公報 審判甲第16号証:実公昭35-14091号公報 審判甲第17号証:実公昭45-23588号公報 審判甲第18号証:特公昭47-34144号公報 審判甲第19号証:特開昭50-25767号公報 審判甲第20号証:特開昭61-50642号公報 審判甲第21号証:特開昭62-282648号公報 審判甲第22号証:実公平 1-16515号公報 審判甲第23号証:特公昭30-1315号公報 審判甲第24号証:実公昭47-67号公報 審判甲第25号証:実公昭48-5160号公報 審判甲第26号証:実公昭63-27786号公報 審判甲第27号証:「広辞苑」第3版、2399頁 審判甲第28号証:「判例特許侵害法U」(社)発明協会、平成8年8月23日発行、258,259頁 審判甲第29号証:広島県立食品工業技術センターの試験成績表(広食工技第143号)(平成10年3月30日付け)(平成10年10月13日付け、株式会社佐竹製作所知的財産室長坂下隆一による審判長宛説明書添付) 審判甲第30号証:特許第2616821号に対する株式会社東洋精米機製作所の特許異議申立書(平成9年12月3日付け)1,14頁 審判甲第31号証:特願平1-291938号に対する柳野隆生の特許異議申立理由補充書(平成6年11月4日付け)(1,38頁) 参考書面1:報告書:精白米の吸水試験、平成9年3月21日付け、株式会社佐竹製作所科学研究室課長尾崎雄一作成 参考書面2:審判甲第13〜26号証の索引 参考書面3:表面付着水及び吸収水の説明 参考書面4:「穀物の水分測定方法の基準」(昭和50年5月)農業機械学会(調製加工部会)(部会研究会資料No.1(1975))表紙、13頁 参考書面5:「生体計測の実際」山下律也著、(有)山本健美術、平成7年3月22日発行、表紙、奥付及び115頁 参考書面6:特許第2616821号公報 (2) 被告(被請求人)らの答弁及び提出した証拠方法 (2)-1 無効理由1に対し 「除水」が「米粒表層部に付着吸収した水分を除去すること」であることは、当初明細書に示唆されていた事項であり、また、本件明細書記載から、「ほぼ16%」も「16%」も実質的に同じことを意味していることは明らかである。(なお、「ほぼ16%」及び「約16%」は、「16%」に訂正請求した。)。したがって、原告の主張するような要旨変更はなく、本件出願の出願日は、繰り下がらない。してみれば、審判甲第1号証は、本件出願日以降に発行されたものであるので、これに基づき本件発明が容易に発明をすることができたとする前記無効理由1に理由がないことは明らかである。 (2)-2 無効理由2に対し 訂正する本件明細書には、「除水装置は、洗滌水及び付着水を除去出来る機能さえあれば公知の機器でよい」及び「公知の除水装置の中には、吸水の要因となる洗滌水等の大部分を、瞬時に近い短時間に除去出来るものがあるから、それを選べばよいと云うことである」と記載されている。そして、公知の除水装置には、遠心分離装置もあるが、審判甲第1,5〜8号証に記載されている風力を利用したバンド乾燥機も古くから知られている。また、遠心分離装置では、洗滌米の微細な陥没部に入り込んでいる付着水を短時間に除去することは不可能であり、含水率を16%以下にすることはできないことが当業者において知られている。そうすると、短時間に洗滌米を16%以下の含水率に除水しようと思えば、当業者であれば、遠心分離装置と前記のようなバンド乾燥機との組み合わせ、若しくはバンド乾燥機で本件発明の除水を行うことは容易になし得ることであり、またその際バンド乾燥機の送風量や洗滌米の移送速度などは適宜決められることである。 以上のことから、本件明細書には、除水装置について具体的な記載はないが、上記のような明細書の記載及び公知の除水装置から当業者であれば、本件発明を容易に実施することができ、本件出願は、特許法36条3項の規定を満たすものである。 (2)-3 無効理由3に対し 本件発明における吸収水の除去は、強制的な表面付着水の除去に伴う当然の結果である。したがって、特許請求の範囲の記載としては、「洗滌水と表面付着水の除水を行い」で十分である。よって、原告の主張する特許法36条4項2号違反の根拠はない。 (2)-4 証拠方法 審判乙第1号証:特開昭61-115858号公報 審判乙第2号証:特開昭53-122975号公報 審判乙第3号証:特公昭55-25900号公報 審判乙第4号証:実公昭40-11180号公報 審判乙第5号証:実公昭46-34708号公報 審判乙第6号証:実開昭61-121946号公報 審判乙第6号証の1:実開昭61-121946号公報(実願昭60-4860号)のパトリスによる出願経過調査結果 審判乙第7号証:特公昭35-8642号公報 審判乙第8号証:特開昭64-4257号公報 審判乙第9号証:「世界大百科事典 5」初版第11刷、1968年5月20日、平凡社発行、346頁 審判乙第10号証:「世界大百科事典 3」初版第11刷、1968年5月20日、平凡社発行、250頁 審判乙第11号証:「商経アドバイス」昭和62年7月2日、(株)商経アドバイス発行、4頁、(株)米山穀機発明所公告 審判乙第11号証の1:「上新粉製造実証プラント見積書」昭和63年1月12日付け、(株)躍進機械製作所食品機械事業部粉体機器事業部 審判乙第11号証の2:和歌山地方裁判所平成4年(ワ)第459号事件における平成7年10月18日の河合忠彰氏の本人調書 審判乙第11号証の3:「増補 遠心分離」昭和60年1月6日、(株)化学工業社発行、8頁 審判乙第12号証:「食品製造工程図集」昭和45年10月1日、(株)化学工業社発行、 同号証の1〜28は、それぞれ上記図集の2,3頁、4,5頁、6,7頁、8,9頁、12,13頁、14,15頁、21頁、24,25頁、33頁、35頁、37頁、55頁、58頁、59頁、60頁、62頁、63頁、124,125頁、126,127頁、227頁、294,295頁、373頁、375頁、601〜603頁、637〜640頁、642頁、644頁及び646頁である。 審判乙第13号証:「食料振興」’93年秋期号、(社)全国食料振興会発行、4頁 審判乙第14号証:「食料振興」’94年秋期号、(社)全国食料振興会発行、13頁 審判乙第15号証:「精米工業」No.142、平成5年9月、(社)日本精米工業会発行、14、18頁 審判乙第16号証:「商経アドバイス」平成4年3月2日、(株)商経アドバイス発行、3頁、 審判乙第17号証:「米穀新聞」平成4年12月10日、(株)米穀新聞社発行、 3頁 審判乙第18号証:特許第2788091号公報 審判乙第19号証:特開昭55-157335号公報 審判乙第20号証:実開昭51-105092号公報 審判乙第21号証:弁理士竹本松司による「口頭鑑定メモ」平成4年5月12日付け 審判乙第22号証:(株)椿本チェンカタログ「つばき小型コンベアチェーン」(昭和62年4月1日発行)22頁 審判乙第23号証:(株)椿本チェンカタログ「TSUBAKI POWER TRANSMISSION PRODUCTS1975」295頁 審判乙第24号証:食品技術士センター編「改訂 食品加工技術ハンドブック」昭和53年7月10日、(株)建帛社発行、557,558頁 審判乙第25号証:和歌山県工業試験所所長名の平成9年8月8日付け「試験分析等成績書」の写し 審判乙第26号証:食糧庁検査課監修「農産物検査関係法規」平成4年9月1日、 (株)糧友社発行、79頁 審判乙第27号証:食品設備実用総覧編集委員会編「食品設備実用総覧」昭和55年1月15日、(株)産業調査会出版部発行、216,217頁、1-105頁 審判乙第28号証:「米とその加工」倉澤文夫著、昭和57年11月25日、 (株)建帛社発行、332,336頁 参考書面1:紙束の内、上部3枚の拡大想像図 参考書面2:精白米の吸水特性 参考書面3:BG無洗米の吸水特性 参考書面4:「米とその加工」倉澤文夫著、昭和57年11月25日、(株)建帛社発行、66〜68頁 参考書面5:「ジフライス設備」平成3年5月、(株)佐竹製作所発行、8頁 参考書面6:「標準計測方法」平成元年6月、食糧庁発行、25〜29頁 参考書面7:「食品製造工程図集」昭和45年10月1日、(株)化学工業社発行、646頁 (3) 本件訂正についての審決の判断 (3)-1 訂正請求の趣旨及びその要旨 請求の趣旨は、本件特許の明細書を訂正請求書添付の訂正明細書のとおりに訂正することを求めることであり、その要旨は、明瞭でない記載の釈明を目的として、 特許請求の範囲に記載の「ほぼ16%」を「16%」に、また発明の詳細な説明の項記載の「ほぼ16%」(本件明細書3頁18行、3頁22行、同4頁6行、同4頁29行、同7頁25行、及び同8頁4行)を「16%」に、更に「約16%」(本件明細書3頁14行、同7頁1行及び同7頁21行)を「16%」に訂正することである。 (3)-2 訂正の適否 「ほぼ16%」も「約16%」も数値的には、文言上曖昧な表現であるので、これらを「16%」と訂正することは、数値的に文言上明確にすることであり、この訂正は明瞭でない記載の釈明を目的とするものであると認められる。そして、訂正前の本件明細書に「16%以下であると洗米過程における米粒の吸水部が主に表層部にある内に洗滌を行い得るからである。含水率が16%を越えるときは洗滌過程において水が表層部から米粒内部まで浸透している」(3頁18〜21行)及び「平均含水率16%以下の含水率になっているように洗米機が設計されることが重要である」(4頁12〜14行)等と記載されていることから、この訂正は、願書に添付された明細書の記載事項の範囲内でもある。さらには、この訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。 そうすると、本件訂正は、特許法134条2項ただし書の規定、及び同条5項の規定により準用する同法126条2、3項に規定された訂正が、平成6年法律第116号附則6条1項の規定により「なお従前の例による」とされることから適用される平成5年改正特許法126条1項ただし書、同条2項の規定に適合するので、 本件訂正は認められる。 (4) 本件発明 本件発明は、前述のように訂正が認められる訂正後の本件明細書の記載によれば、その特許請求の範囲に記載された以下の事項を必須の構成とするものと認められる。(なお、後述するように、原告の主張する無効理由2、3によっては本件出願が特許法36条に違反しているとすることができない。)「精白米を水に浸け、洗滌、除糠を行い、吸水部分が主に米粒の表層部である洗い米を得、更に除水工程において洗滌水と表面付着水の除水を行い、洗い米を製造する方法であって、水中への浸漬から除水までの工程を米粒の吸水量が極くわずかであるうちに完了し、水の浸透を主に米粒の表層部でとどめるようにし、かつ米粒の含水率が除水した時点で16%を越えないことを特徴とする米粒に亀裂を有さない洗い米の製造方法。」 (5) 無効理由1についての審決の判断 原告は、前述のように平成8年7月3日付けの手続補正書で、「除水」を「米粒表層部に付着吸収した水分を除去すること」とした補正は、明細書の要旨を変更するものであると主張するのでこの点について検討する。なお、特許請求の範囲の「ほぼ16%を越えない」という記載は、前記の本件訂正により「16%を越えない」と訂正されたので、原告の主張する「ほぼ16%を越えない」という記載も明細書の要旨を変更するものであるという主張に理由がなくなった。 ところで、当初明細書の内容を掲載した審判甲第1号証には、以下の記載がある。 (A)精白米は一旦水に浸けたら、これを乾燥せしめると必ず亀裂が入り、その内に砕粒化してしまうので、今まで洗米した後、乾燥させた米、即ち「乾燥洗い米」と云えるものは全く存在しなかった。(2頁左上欄2〜6行)(B)本発明は、このような点に鑑み、消費者が洗わずに炊け、然も食味が落ちない「乾燥洗い米」及びその製造方法を開示するものである。(2頁左下欄5〜8行)(C)本発明の技術的手段は、精白米を水洗し、且つ、含水率が16%以下に除水処理した乾燥洗い米であり、(2頁左下欄12〜14行)(D)一般的に、洗米によって含水してから乾燥させた米に先ず亀裂が入る原因は、ひずみに弱い特性を有する米粒が吸水、除水の際、その都度、部分的に膨張と収縮が生じ、ひずみができるからである。然らば、洗米時や除水時に、ひずみの因子となる膨張と収縮が生じない程度の、わずかの吸水量、及び除水量に押さえることが出来れば、精白米をたとえ水中へザブンと漬けて洗米し、乾燥させても亀裂が生じないことになる。(2頁右下欄4〜12行)(E)本発明は、高速度で攪拌する洗米工程で、極く短時間に精白米を水に漬けた状態で洗米して除糠を行い、直ちに除水工程によって洗滌水と表面付着水の除水を行うのである。(3頁右上欄5〜8行)(F)本明細書で、乾燥洗い米と表現している「乾燥」なる意味であるが、米粒を常温で保存していても、腐敗したり発カビしない限度、即ち、含水率が16%以下の含水状態を指すのである。(3頁左下欄10〜13行)(G)除水後、即ち付着水分を除かれた時の水分、いわゆる内部含水率が16%以下の含水率になっているように設計されることである。(5頁右上欄14〜17行)(H)以上の通りの要領で、精白米を洗米工程と除水工程を通過させると、精白米はごく短時間に洗滌、除水が行われるので、米粒内に水がほとんど浸透することなく、除水装置より排出されたときには16%以下の含水率になっており、長期間室内でそのまま放置しても表面にほとんど亀裂も生じず、勿論砕粒化もしていない乾燥洗い米が得られるのである。(6頁右上欄1〜8行)(I)然るに、本発明では、洗米しても高含水化するのは極表面だけで、内部まで高含水化させないから、1粒全体としては、わずかに含水率が高くなるだけで、ほとんど元の乾燥した状態のままになっているのである。(6頁右上欄18行から同頁左下欄2行) そこで、これら記載事項をみてみると、(A)の記載から、「乾燥洗い米」は、 洗米した後、乾燥させた米と認められ、(B)の記載から、当初明細書でいうところの本発明は、この「乾燥洗い米」及びその製造方法を開示するものと認められる。また、(C)(H)及び(I)の記載からは、この「乾燥洗い米」は、含水率が16%以下に除水処理されたもので、この除水(装置)では、極く表面だけが高含水化して16%以下の含水率で、ほとんど元の乾燥した状態で排出されるものと認められる。さらに、(D)の記載に、吸水、除水の際にひずみが生じやすく、吸水量と除水量をわずかに押さえれば、米をザブンと水に浸けて洗米し、乾燥させても亀裂が生じないとあるように、当初明細書に除水と乾燥を同一視している記載が認められる。 そうすると、これら記載を総合すると、当初明細書における「除水」は、「乾燥」手段によることが示されていると認められる。なお、(F)の記載にある「乾燥」は、「乾燥洗い米」における「乾燥」状態について規定するもので、(A)及び(D)の記載にある「乾燥させ」は、乾燥手段によって乾燥させることを意味していると解される。 他方、(E)の記載から、除水は、洗滌水と表面付着水を取り除くことであると認められる。 ところで、当初明細書記載全体から当初明細書記載の「除水」は、機械的手段によって行われるものと認められる。そして、本件出願前、精白米を洗滌した後に洗滌水を機械的に除去する手段としては、大別して審判甲第13号証にみられるような遠心力によるものと審判乙第1,5〜7号証にみられるような空気を吹き付ける通風によるものがあると認められるところ、遠心脱水は、粒子と粒子の間に毛管上昇の作用で存在する水又は液体を除去することが狙いで、粒子表面に付着している水分、粒子内の間隙に存在する水分などはその対象でないことが当業者において技術常識であること(要すれば、審判乙第11号証の3参照)を考えると、遠心力による即ち遠心脱水によっては、前記付着水を短時間で除去できず、当業者であれば、前記除水は、空気を吹き付ける通風によるものと解すると認められる。 以上のことから、当初明細書に記載された「除水」は、空気を吹き付ける通風による乾燥手段によってなされることが示されていると、当業者であれば、理解する。また、除水は、極く短時間で行う必要性から、当業者であれば、この乾燥手段と他の除水手段との組合せもあることは当然理解するところでもある。 してみれば、当初明細書には、これに記載の「除水」は、洗滌水と表面付着水を除去することを目的とし、少なくとも空気を吹き付ける通風による乾燥手段によって洗滌水と表面付着水の除去を行うことが示されていると認められる。そして、表面付着水を前記通風による乾燥によって除去すれば、その際当然、除去される前記洗滌によって吸収された前記表層部の水分があることは、当業者にとって自明のことである。 なお、被告らは、前記(G)の記載の水分は、その水分という文言の意味するところから、前記表層部に吸収された水も含んでいると主張するが、前記付着水分とは、付着した水と解するのが前記(G)記載の文言からは自然であり、この点の被告らの主張は採用できない。 したがって、前記補正において「除水」を「米粒表層部に付着吸収した水分を除去すること」としたことは、当初明細書に示されていたことから当業者において自明のことであり、前記補正は、明細書の要旨を変更するものではなく、本件出願の出願日は、前記補正をしたときに繰り下がらない。 よって、原告の主張する無効理由1は、本件出願の出願日が、前記補正をしたときに繰り下がることを前提としたもので、本件出願日以降に頒布された刊行物である審判甲第1号証と本件発明を比較して、本件発明の容易性を主張するものであるので、この理由1は採用できないものであることは明らかである。 (6) 無効理由2についての審決の判断 (6)-1 訂正後の本件明細書をみてみると、「洗滌、除糠工程及び除水工程を従来とは桁違いに短い時間で行い米粒の吸水量が極く僅かなうちに完了してしまえば米粒に亀裂も入らず炊飯に適した洗い米が得られることを見出し、発明を完成した」(3頁7〜9行)とし、「水洗から除水までの工程は米粒の吸水量が極くわずかであるようにする必要がある。処理時間は洗滌条件によって変わるが、数分以内でかつ、上記した含水率を満たすような短時間とすればよ」く(4頁2〜4行)、 「数分以内とは大体3分〜4分より短い時間であり、好ましくは2分〜3分、更に好ましくは1分以内である。」(4頁8,9行)と記載され、(実施例1)及び(実施例2)において、それぞれ45秒、約5秒としたものが記載されている。 (6)-2 そこで、このような短時間で洗滌、除水を行うための手段についてみてみると、「洗滌方法及び除水方法は短時間で効率よく除糠できる方法であれば特に限定されない」(4頁10,11行)とし、洗滌については、「本発明の洗滌過程では公知の連続洗米機を用いることもできるが、一部改造の要がある。即ち、洗米槽を小径となし回転数も毎分600回転以上が可能となるように改造するのが望ましい。」(4頁11〜13行)と記載され、この連続洗米機における米の在槽通過時間と洗米機の回転数の設定の仕方についても記載され(5頁1〜18行参照)、 (実施例1)及び(実施例2)において、洗滌水の温度、精白米の含水率及び投入量を具体的に示し、前記回転数がそれぞれ毎分600回転、毎分1800回転と記載されている。そうすると、本件発明における洗滌、除糠において吸水部分が主に米粒の表層部である洗い米とするための具体的手段として、連続洗米機が例示され、この連続洗米機が本件発明の目的を達成するための必要な諸条件が具体的に示されており、またこれら示されている条件では、当業者が本件発明を容易に実施することができないとする理由もないので、訂正後の本件明細書の記載に基づき、本件発明における洗滌、除糠を当業者は容易に実施できるものと認められる。 (6)-3 他方、除水について、その方法は前記のように本件発明の目的が達成できるものであれば、特に限定されないとし、「米粒は大量の洗滌水と共に排出されるので、これを間髪をいれず、直ちに前記洗米装置の後行程に設けた除水装置にて、洗滌水は勿論のこと、米粒に付着している付着水をも除去するのである。なお、除水装置は、洗滌水及び付着水を除去出来る機能さえあれば公知の機器でよいが、只、洗滌水の除去に時間のかかるものではいけない。何故ならば、折角洗米工程で、米粒への吸水を制限したのに、除水工程にて、洗滌水等の除去に時間がかかり洗滌水等が米粒内部に吸収されては無意味だからである。尤も公知の除水装置の中には、吸水の要因となる洗滌水等の大部分を、瞬間に近い短時間に除去出来るものがあるから、それを選べばよいと云うことである。」(5頁19〜28行)と記載されているが、(実施例1)及び(実施例2)の記載を含め他に具体的な除水手段の記載はない。 (6)-4 ところで、「一般的に、洗米によって含水してから乾燥させた米に先ず亀裂が入る原因は、ひずみに弱い特性を有する米粒が吸水、除水の際、その都度、 部分的に膨張と収縮が生じ、ひずみが出来るからである。然らば、洗米時や除水時に、ひずみの因子となる膨張と収縮が生じない程度の、僅かの吸水量、及び除水量に押さえることが出来れば、精白米をたとえ水中へ漬けて洗米し、乾燥させても亀裂が生じないことになる。」(6頁1〜6行)という記載では、除水と乾燥を同一視しており、また、この記載から当業者は本件発明のような洗滌後の洗い米が僅かの吸水量であるものは、乾燥によって除水しても亀裂が生じないものと理解する。 (6)-5 また、「本発明で除水とは米粒表層部に付着吸収した水分を除去することであって、米粒がもともと有している水分を乾燥させることではない。」(3頁16,17行)と記載されている。この記載は、前記した除水装置が洗滌水と米表面に付着した付着水を除去するという記載とにおいて整合性を欠くが、当業者であれば、本件発明の除水は、前記洗滌水と表面付着水の除去を目的とするが、その際、除去される洗滌時に米粒表層部に吸収された水分も対象としていると理解するところである。そして前記のように本件発明において使用される除水装置は、公知のものから選べばよいとしていることから、公知の洗滌後の洗い米を除水する装置を考えると、前記無効理由1で述べたように、大別して審判甲第13号証にみられるような遠心力によるものと審判乙第1,5〜7号証にみられるような空気を吹き付ける通風によるものとがあると認められる。そこで、遠心脱水における前記技術常識を考えると、当業者であれば、遠心力による即ち遠心脱水によっては、前記付着水は短時間で除去できず、ましてや前記吸収水分は除去できないと理解し、前記除水は、空気を吹き付ける通風によるものと解する。 さらに、この記載では、米粒がもともと有している水分を乾燥させることではないとして、「除水」が、内部水分の除去を意図する乾燥即ち通常行われる米の乾燥とは違うことを言及していることから、「除水」がこれとは違う乾燥によるものであることが窺い知れる。 (6)-6 以上のことから、訂正された本件明細書に記載された「除水」は、空気を吹き付ける通風による乾燥手段によってなされることが示されていると、当業者であれば、理解する。また、除水は、極く短時間で行う必要性から、当業者であれば、乾燥手段と他の除水手段との組み合わせもあることは当然理解するところでもある。 (6)-7 そして、審判乙第1,第5〜7号証に記載されるような、空気を吹き付ける通風による乾燥手段は、当業者において、公知であり、また、前記通風の温度、湿度、風量(風速)及び洗滌米の移送速度によって、前記「除水」の程度が決まるものであることは、当業者において技術常識であり、本件発明の「除水」を行うためには、前記の公知のものと比べ、前記風量などにおいて高出力化等を図る必要があることは当然理解されるところである。そして、被告らが説明した、訂正後の本件明細書に記載の(実施例1)及び(実施例2)の具体的除水手段(この手段は、本件発明における「除水」を達成することができないという理由がないものである。)は、上記風量等において当業者が設定できないというものではない。 (6)-8 以上のことを考慮すると、訂正後の本件明細書の記載から、当業者は、 本件発明の、とりわけ洗滌、除糠及び除水を容易に実施することができると認められる。 (6)-9 なお、原告は、次の旨主張している。 @ 洗米装置への投入後、除水装置から排出されるまでの所用時間がわずか5秒であるということは、除水装置としては高性能の遠心脱水機だけしか考えておらず、乾燥は除外されていることが明確に示唆されているものである。蓋し、仮に遠心脱水機の後行程に乾燥装置をとりつけたとすれば、約5秒内外といった極めて短時間にて全行程を完了させることは技術的に不可能である。 A 審判甲第9,30号証などにみられるように、被告らが本件発明の除水装置として考えているのは、遠心脱水機であり、バンド乾燥機は、本件出願当時は認識しておらず、当業者も本件明細書から除水手段として、バンド乾燥機は想到することができない。 B 被告らが、本件発明の実施例として口頭審理で説明した審判乙第1,5〜7号証のバンド乾燥機をもってしても種々の調製及び工夫を必要とし、これを使用して本件発明を実施することは当業者といえども容易でない。 C 遠心分離機によっても、水分16%にすることは可能であるので、被告らの主張する遠心分離機で16%以下にはできないことが当業者において常識であるという主張に根拠がない。そして、これは亀裂が生じ本件発明の目的を達成することができない。 (6)-10 そこで、原告の主張する@〜Cについて検討すると、@、Bについては、前述したように、本件発明の除水は少なくとも前記通風による乾燥手段によるものであり、これによった場合、全行程約5秒でできないという技術的理由がない。また前記被告らが説明した、本件発明の(実施例1)及び(実施例2)の具体的除水手段において、洗米をならすための「ならし板」を設けたり、ファンを増設する程度のことは当業者であれば、技術常識的に対応することでもある。そうすると、前記@、Bの理由で本件発明が当業者において容易に実施できないとすることはできない。次に、Aについては、前述したように訂正後の本件明細書に記載から、前記「除水」手段は、少なくとも前記通風による乾燥手段が使用されるものであると認められる以上、たとえ、被告らが、審判甲第9,30号証などにおいて「除水」が遠心分離で行われるものであると主張したとしても、前記認定はこれに左右されるものではない。さらにCについては、前記のように本件発明の「除水」は、少なくとも前記通風による乾燥手段が使用されるものであると認められることから、遠心分離のみで「除水」することは、本件発明の実施例にならないものであるので、遠心分離のみの「除水」に基づくこの主張は当を得ない。 したがって、これら原告の主張は採用できない。 以上のことから、訂正後の本件明細書の記載から、当業者は本件発明を容易に実施することができ、本件出願は、特許法36条3項の規定を充足しており、この無効理由2によって、本件特許を無効にすることはできない。 (7) 無効理由3についての審決の判断 訂正後の本件明細書の発明の詳細な説明の項には、前記したように「本発明で除水とは米粒表層部に付着吸収した水分を除去すること」と規定されていることから、当該特許請求の範囲に、この吸収された水分も除去させることが明記されていなくとも、当該特許請求の範囲の「除水工程において洗滌水と表面付着水の除水を行い」との記載は、除水工程において洗滌水と表面付着水と前記吸収した水分(洗滌水と付着水の除去に際し、除去されるもの)を除水することを示していることは明らかであり、原告の主張するこの無効理由3によって、本件出願が特許法36条4項2号の規定を充足しないとすることはできない。なお、前記無効理由2で述べたところの、本件発明における「除水」が、少なくとも前記通風による乾燥手段によって行われることは、それを実施するための態様であって、本件発明の「除水」において、この通風による乾燥手段が必須の構成となるものではない。 (8) 審決の結語 したがって、本件特許は、原告の主張する前記各理由及び提出した証拠方法によっては無効にすることができない。 よって、本件訂正を認め、本件審判請求は成り立たないものとする。 |
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原告主張の審決取消事由
1 取消事由1(補正が要旨変更に当たらないとした審決の認定の誤り) 審決は、当初明細書に記載の事項の認定を誤り、本件出願においては、補正により「除水」の対象が洗滌水及び表面付着水のみならず、米粒の表層部に吸収された水分にまで拡大されており、これに伴って除水手段につき遠心脱水のみならず「風力、熱力」をも含ませているが、これは、当初明細書が除水の対象を「洗滌水及び表面付着水」に限定し、かつ除水手段につき遠心脱水に限定していたこととの関連においては、要旨変更となる点を誤認したものである。 (1) 審決は、その理由の要点(5)において、 「 そこで、これら記載事項をみてみると、(A)の記載から、「乾燥洗い米」は、洗米した後、乾燥させた米と認められ、(B)の記載から、当初明細書でいうところの本発明は、この「乾燥洗い米」及びその製造方法を開示するものと認められる。また、(C)(H)及び(I)の記載からは、この「乾燥洗い米」は、含水率が16%以下に除水処理されたもので、この除水(装置)では、ごく表面だけが高含水化して16%以下の含水率で、ほとんど元の乾燥した状態で排出されるものと認められる。さらに、(D)の記載に、吸水、除水の際にひずみが生じやすく、 吸水量と除水量を僅かに押さえれば、米をザブンと水に浸けて洗米し、乾燥させても亀裂が生じないとあるように、当初明細書に除水と乾燥を同一視している記載が認められる。 そうすると、これら記載を総合すると、当初明細書における「除水」は、「乾燥」手段によることが示されていると認められる。なお、(F)の記載にある「乾燥」は、「乾燥洗い米」における「乾燥」状態について規定するもので、(A)及び(D)の記載にある「乾燥させ」は、乾燥手段によって乾燥させることを意味していると解される。」と認定判断しているが、誤りである。 (2) すなわち、この「乾燥」については、当初明細書において「米粒を常温で保存していても、腐敗したり発カビしない限度、すなわち、含水率が16%以下の含水状態を指すものである。」と明確に定義されている。この定義は、当初明細書における「乾燥洗い米」は「含水率が16%以下の含水状態」によっているものであるから、米粒に残存している含有水分の上限値を数値的に限定したものといえる。 それゆえ、「含水率が16%以下の含水状態」を達成するための手段を、この「乾燥」の定義から演繹することは理論的に不可能である。 (3) 当初明細書において、「乾燥洗い米」以外に使用されている「乾燥」の技術的意味内容はいろいろあるが、いずれも米粒の内部水分を除去することを指しており、内部水分を除去することを意味する。 そして、当初明細書における「除水」は、「除水装置」にて行われること、また、「除水」の対象は内部水分でなく、外部水分たる「洗滌水及び付着水」であり、その「洗滌水及び付着水」を除去することによって「内部水分16%以下の含水率」の状態にするものと解される。したがって、当初明細書における発明に直接関連した「除水」とは、「除水行程」を担う「除水装置」によって行われるものであり、「除水」の対象となるものは米粒の内部水分ではなく、外部水分たる「洗滌水及び付着水」であることが明白である。 このような外部水分たる「洗滌水及び付着水」を除去することによって、米粒の「内部含水率が16%以下の含水率」の状態にするものと解される。 (4) このように、当初明細書における発明に直接関連した「除水」とは、外部水分たる「洗滌水及び付着水」を除去することであって、決して内部水分を取り除くことではない。これに対し、当初明細書における「乾燥洗い米」以外の「乾燥」とは、前述のように、内部水分を取り除くことである。 したがって、「除水」と「乾燥」とは同じ水分除去であっても、取り除く対象が前者は外部水分、後者は内部水分と明確に異なるので、審決が、「除水」と「乾燥」とを同一視したり、「除水」は「乾燥」手段によるものと認定したのは、誤りである。 (5) 「除水」の意義と当初明細書記載の発明の基本原理からみても、審決の上記認定は誤りである。 すなわち、本件においてその解釈が問題となっている「除水」なる用語は、当初明細書のクレームに記載されている文言である。それゆえ、「除水」なる用語の解釈は、当初明細書の発明の詳細な説明の項の記載を参酌する以前において、まず、 通常のクレームの解釈論によるべきである。 各種工学辞典、ハンドブック、便覧及び教科書等の技術関係文献では、「除水」なる用語自体を見いだし得ない。そうだとすると、「除水」なる用語は、学術上の技術用語ではなく、一般用語であることから、「広辞苑」によるものとし、これによれば「水を排除する」という意味を有するにとどまり、「除水」とは、「水をおしのけのぞくこと」を意味する。「除水」とは、液体としての水を排除するものであって、この用語によって、固体粒子(米粒等)から水分(液体とは厳然と区別された「みずけ」)を除去するという意味合いを導き出すのは理論上不可能である。 これに対し、「乾燥」なる用語は、学術上の技術用語であって、当初明細書のクレームにおける「除水」とは、液体としての水を排除することであるのに対し、技術用語としての「乾燥」とは、熱の導入によって水分を気化蒸発させることであり、前者が液体としての水をそのまま除去するのに対し、後者は固体に含まれている水分を相変化により気化蒸発させるという明白な差異が存する。 (6) 当初明細書記載の発明の基本原理について述べると、当初明細書の発明の詳細な説明の項の「作用」欄には次のような記載があり、次のとおり評価することができる。 @ 精白米の吸水特性について「精白米は水中に浸漬後、約1時間で飽和点の含水率約30%に到達する。・・・浸漬時間と水分上昇の関係は定率で進行するのではなく、極めて反加速度的に進行する。 従って、浸漬直後、最初の1秒間の吸水量は、最終の10分間の吸水量に匹敵する程、最初は最も急上昇し、更にその最初の1秒間について分析しても、最後の0.1秒間の吸水量よりも最初の0.1秒間の吸水量の方が、はるかに多いことはいうまでもないことである。このように米の吸水特性は、水に侵漬(「浸漬」の誤記)直後より、時間の経過と共に吸水速度は加速度的に鈍化する。従って、浸漬直後は極く短時間でも、かなりの量の吸水をするので、それに到らない僅かの時間内に洗米を完了し、直ちに除水することである。」(当初明細書公報2頁右下欄15行ないし3頁左上欄10行) この記載によると、米粒は、水に漬けると直ちに吸水を開始し、かつ、その吸水量は当初ほど大きく、吸水速度は極めて反加速度的なものであるとしているが、この米粒の吸水速度に関する記載は、当初明細書の発明者の独自の見解にすぎない。 A 精白米の洗米特性について「精白米の表面には肉眼では見えない無数で微細な陥没部があり、それに入り込んでいる澱粉粒や糠粉を除去するには、やはり、どうしても米粒群を水の中にザブンと漬けて、少なくとも30回以上は攪拌して洗米する必要がある。その理由は、糠粉等が入り込んでいる陥没部は、開口面よりも深みが長く、然も大半はミクロン単位の狭い開口面だから、その奥の方に入り込んでいる糠粉等を除去するには、水中に浸して激しく攪拌されている間に、糠粉等を水に浮遊させて洗い流す以外にない。 然もそのような洗米は、前記のとおり、僅かの時間内に行なう必要がある。」(当初明細書公報3頁左上欄12行ないしないし右上欄4行) この記載によると、洗米によって除去すべき対象物は、無数で微細な陥没部に入り込んだ澱粉粒や糠粉であって、これらを洗い流すといった手法が見いだされている。 (7) 当初明細書の記載では、水洗から除水までの全行程を完了させる間に、米粒には約2%の水分しか吸収させないことが述べられている。 ところで、精白米の通常含水率は約14%であるから、これに増加水分たる約2%をプラスしても、約16%の含水率にしかならない。これにより、除水は付着水分(もちろん、洗滌水も含む。)の除去のみで事足りることになり、それゆえ、米粒の表面部若しくは内側部に吸収された水分を除去する必要は毛頭ない。 (8) 以上のとおり、「表層部」に吸収された水分を除去することは当初明細書に包含されていない。 (9) 本件明細書には、表面付着水の除去と吸収された水分との関係についての記載があり、この記載によれば、本件発明は最大限において約2%までの水分増加を許容している。そこで、精白米におけるこの増加した約2%の水分の所在分布を考察すれば、次のとおりである。 精白米の吸水試験(甲第30号証)によれば、水中への浸漬からおおむね45秒以内の短い時間帯では、脱水後の精白米の水分値にはほとんど差が認められない。 すなわち、3秒目から45秒目までの42秒間において、わずか0.1%しか含水率が増加しておらず、この増加した0.1%の水分は、精白米に吸収された水分と推察される。 このように、精白米の水分吸収速度が誠に遅々たるものだとすると、浸漬時間3秒における増加した精白米の含水率1.9%のほとんどは、表面付着水と考えられる。そうだとすると、最大限約2%近くの表面付着水が精白米に残留しているのに、これを飛び越えて精白米に吸収された水分の除去を想定することは、物理的には背理である。 また、甲第30号証を基に付着水分の厚さを計算すると、米粒の表面には最大値でいまだ厚さ11.6μmの水分が付着しているから、米粒内部に吸収された水分を除去する必要はない。 (10) レーザー顕微鏡による吸水試験の追試(甲第67、第69及び第70号証)からも、水中への浸漬からおおむね45秒以内の短い時間帯では、脱水後の精白米の水分値にはほとんど差が認められないことは明らかである。すなわち、米粒内面への水の浸透は、約45秒経過時点まではほとんど認められず、60秒経過時点から徐々に浸透が始まっているのである。 したがって、本件発明においては、増加が許容されている2%の水分の大部分は、表面付着水であり、除水の対象となるのは、洗滌水の全部と表面付着水の全部ではなくその一部であって、除去された後の米粒にはいまだ表面付着水が残存しているもので、吸収された水分の除去は毛頭必要ない。 (11) 審決は、「遠心脱水は、粒子と粒子の間に毛管上昇の作用で存在する水又は液体を除去することが狙いで、粒子表面に付着している水分、粒子内の間隙に存在する水分等はその対象でないことが当業者において技術常識である」と認定している。 しかし、遠心脱水に関する文献の記述によると、遠心脱水(若しくは遠心力)によって物体の表面に付着している液体は除去されることが明白であり、したがって、審決の認定の基礎となった審判乙第11号証の3(「増補 遠心分離」昭和60年1月5日、(株)化学工業社発行、8頁。本訴甲第10号証)の「粒子表面に付着している水分・・・は遠心脱水の対象ではない。」との記載は一学者の意見であって、当業者の技術常識でもない。 そうだとすると、審決が、唯一この文献を根拠に、遠心脱水では表面付着水を除去することはできないと認定したのは誤りである。 (12) 遠心脱水により粒子表面に付着している水分が除去できることは、甲第31〜第33号証により明らかである。甲第31〜第33号証の試験1ないし3の結果によれば、遠心脱水にて洗滌水及び表面付着水を除去して、米粒の含水率を16%以内に抑えることが充分可能であるといった結果が導き出されている。 したがって、遠心脱水にて表面付着水を除去した結果、米粒の含水率は16%以内に抑えることができるものであるから、審決の認定は誤りである。 (13) 審決は、上記の事実誤認に端を発して、「遠心脱水によっては、前記付着水を短時間で除去できず、当業者であれば、前記除水は、空気を吹き付ける通風によるものと解する。」と認定しているが、これも誤りである。 すなわち、遠心脱水によって短時間に米粒の含水率を16%以内に抑えるような表面付着水を除去できるものであるから、当業者であれば、前記「除水」はこの遠心脱水によるものと解するのが一般であったからである。 2 取消事由2(明細書の記載要件の判断の誤り - 特許法36条3項) 審決は、公知の連続洗米機と公知の除水装置とによって米粒に亀裂を有さない洗い米を製造することは当業者が容易に実施できる事項であると認定しているが、審決のかかる認定は、次に示すとおり誤りである。 (1) 本件明細書には、本件発明における「除水」の意義とその技術的構成要件が記載されておらず、当業者は、明細書の記載に基づいて、公知の機器の中からそれを実施できる除水装置を選ぶことができない。そもそも、「除水」は学術上の技術用語としては存在せず、国語の意味では水を排除する、すなわち排水のことであって、洗滌槽や脱水槽に貯留した水を排水することが普通の意味である。 したがって、公知の除水装置という文言からは、連続洗米機の洗米槽から洗滌水を排水する装置という意義しか導けず、米粒に付着している付着水を除去する機能は奏さないものである。すなわち、公知の除水装置によって洗滌水と表面付着水とを除去できるものであれば、それは極めて特殊な除水装置であるということになり、その具体的構成が明らかにされない限り、当業者は本件発明を容易に実施をすることができない。 (2) 本件発明の特許請求の範囲の「米肌に亀裂がなく」とは、米肌に亀裂が全くない米粒の集合であるが、かかる課題を克服する必要な公知の連続洗米機と公知の除水装置とが何ら明らかにされておらず、また、遠心脱水機だけで水分が16%以下になるが、遠心脱水機だけで水分を16%以下にした場合に亀裂のない洗い米を得ることは不可能である。 (3) 当初明細書には、連続洗米機に関し「従来の連続洗米機は通常毎分200回転程度だが、本発明の場合は洗米槽を小径となし、毎分600回転以上とするのが望ましい。」(5頁右上欄8〜11行)と記載されており、また、本件明細書においても、「本発明の洗滌過程では公知の連続洗米機を用いることもできるが、一部改造の要がある。即ち、洗米槽を小径となし回転数も毎分600回転以上が可能となるように改造するのが望ましい。」(第4欄49行〜第5欄2行)と記載されているところである。 これらの記載によれば、公知若しくは従来の連続洗米機とは、公報等の文献によって示された技術思想を意味するのではなく、市販されかつユーザーにおいて現実に使用されている連続洗米機即ち現物を意味することになる。なぜなら、当初明細書において従来の連続洗米機の回転数は前述したとおり毎分200回転と特定されているからである。 しかるに、この商品たる連続洗米機を探すに、該当の機種のものを見いだすことはできなかったのであり、また、洗米槽の槽径を小径となすといっても、基準となる現物が不明である以上、改造のしようがない。 (4) また、本件明細書によれば、除水装置について、「洗滌水及び付着水を除去出来る機能さえあれば公知の機器でよいが、只、洗滌水の除去に時間がかかるものではいけない。…公知の除水装置の中には、吸水の要因となる洗滌水等の大部分を、瞬間に近い短時間に除去出来るものがあるから、それを選べばよいと云うことである。」(第6欄7〜15行)と記載されており、ここにおける「公知の機器」とか、「瞬間に近い短時間に除去出来るものがあるから、それを選べばよいと云うことである。」との文言によれば、前記連続洗米機と同様に、除水装置も現物があり、この中から要件を具備するものを選択すればよいと理解される。 しかるに、空気を吹き付ける通風による乾燥手段で、何らの改造も加えることなく、瞬時にして付着水を除去できるものは、一切存在せず、ただ、遠心力を利用した脱水装置があるのみである。それゆえ、本件明細書を見た当業者は、通常、除水手段として遠心力を利用した脱水装置を採用するものである。 審決は、連続洗米機及び除水装置に関して、現物の存在に何ら思い至ることなく、審判乙第1、第5〜第7号証の公報類に記載の技術的思想を基に、風量等について高出力化等を図れば容易に実施可能であったとしているが、本件明細書によれば、連続洗米機については改造の要があったが、除水装置については改造の要は何もなかったものであるから、審決の認定は本件明細書の記載を逸脱したものである。 (5) 本件発明の「除水」概念の内容において送風乾燥手段を含むとするなら、当業界における前述したような熱を利用した送風乾燥の急速処理をタブー視していた現実を打破するような記載があってしかるべきである。なぜなら、本件発明の「除水」概念の内容を考えるについては、当時、米穀業界において熱を利用した送風乾燥については、ゆっくり徐々に行うといった周知の事項を考慮に入れると、極めて短時間に除水処理するには、遠心脱水しか当業者は思い至らなかったからである。 しかるに、そのような記載はない。 |
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審決取消事由に対する被告らの反論
1 取消事由1に対して (1) 審決は引用箇所(F)を乾燥状態の定義であると認定しているが、それをもって、その乾燥状態に至らしめる行為、すなわち乾燥手段によることまで演繹しているわけではなく、引用箇所(A)及び(D)に記載されている「乾燥させ」から、乾燥手段によって乾燥させると解されるとしているものである。 (2) 本明細書においては「乾燥」なる語句が多々用いられているが、動詞、名詞、形容詞付きの名詞等によって「乾操」なる用語を用いているから、その用い方によって意味が異なるのは当然である。審決が引用した(D)の「然からば」以降に記載される「乾燥させても」は、本件発明の原理説明に関する除水手段としての「乾燥」を表しているものである。 (3) 本件発明は、除水することによって「内部水分が16%以下の含水率の状態」にするものではない。洗滌時に、米粒の内部、すなわち深層部にまで吸水させるわけではないから、米粒内部は、洗米、除水に関係なく元の16%以下の状態のままである。 (4) 洗米時に米粒表層部に吸収された水も吸収時において物理的状態の変化が生じるわけではなく、この米粒表層部の「水分」「みずけ」も「洗滌着水」と区別のない「液体の水」であって、本件発明における「除水」の対象となる「水」は、それぞれの文意から、「液体である水」、「水分」、「みずけ」等に理解すべきであって、同じ「水」という記載がされていても、全体の文意から「粒子群の付着液」あるいは、「粒子に付着している水分」とそれぞれに理解すべきものである。 本件発明の要件として「16%以下」が不可欠なのに、それを原告は、その「以下」を見落とし、処理前にどのような含水率の精白米でも、すべて「16%」に仕上げるものと誤認して主張しているにすぎない。本件発明は、確かに米粒の内部(深層部)には吸水させないし、また、その内部の水分(元からの水分)を除去することはしない。表面部(表層部)に吸収された水分のうち、表面に近い部分の水分は必然的に表面付着水と共に除去されるのである。そもそも米粒は、洗米工程中は無論のこと、除水工程中の初期においても吸水する。除水工程に入っても、米粒に付着している水が除去されるまでの間は、その水が米粒表層部に吸収されるのであり、本件発明では、ほとんどの場合、表層部の表面寄りでない部分の吸収水は除去されず残存する。 してみると、米粒の付着水のうち、米粒表層部に吸収されかつ除去しきれずに吸収残存水となったもの以外の付着水は除去していることになる。 (5) また、本件明細書において「約2%」に関する記載は一箇所しかなく、それは「本発明はこのように約2%までの水分を吸収(洗浄液の水分が元の水分より僅かに水分アップした状態)するまでの極く短時間に、水洗から除水までの各工程を全部処理することにより・・・」(第4欄28〜31行)と記載されている箇所である。そこには「水分を吸収するまで」と記載されているとおり、「約2%」は吸収される水分であり、この「約2%」には付着している水は一切含まれていないことは、上記記載により明白である。 当初明細書の記載を参照すれば、当初明細書には、表面部(表層部)のうち、表面寄りの部分の吸収水が除去されていることが示されていることも明らかである。 (6) 甲第30号証の報告書の水分値はいずれも作為的数値の疑いが濃厚であり、 その内容は事実に反する。 (7) 甲第67、第69及び第70号証のような試験は、米の吸水試験にはなり得ない。米粒の特性として、米粒の表面に近い部分は別として、それより深部には水以外の物質は全くといってよいほど浸透しないのである。したがって、甲第67号証等のように、サフラニン1%水溶液(ほかの水溶液でも同じであるが)に、精白米粒を1時間浸漬しても、サフラニンは表面に近い部分より深部には浸透できない。 このことは業界の常識であり、1時間浸漬していても赤色のサフラニンは表面部分より内部へは浸透していないとの結果を示す乙第56号証によれば、甲第67号証等の試験では米粒の吸水状態を捉えられていないことは明白である。 (8) 本件発明は除水手段として遠心脱水の使用を限定するものではない。本件明細書には「除水装置は、洗滌水や付着水を除去できる機能さえあれば公知の機器でよいが、只、洗滌水や付着水を除去の時間がかかるものではいけない。何故ならば・・・尤も公知の除水装置の中には、吸水の要因となる洗滌水や付着水の大部分を、瞬時に近い短時間に除去できるものがあるから、それを選べばよいと云うことである」(本件公報第6欄7〜15行)と記載されているのであるから、本件発明において「除水」を遠心脱水に限定していないことは明らかである。 したがって、原告主張のように、「除水」手段としては、本件出願当時、当初明細書によれば当業者は遠心脱水によるものと理解するのが通常であるとすることはできない。 (9) 本件補正の当初案では、通常の乾燥(長時間かけて徐々に水分を減らしていく乾燥)と誤解されるおそれのある「乾燥」の文字は削除していたものの、当初明細書に示されていた本件発明の構成に不可欠な「除水」の範疇に含まれる「瞬間的乾燥」までも削除されたかのような文意となっているとの指摘が、審判官からあった。この経緯を経て、本件発明の「除水」の範疇に入る「乾燥」が、長時間かける通常の乾燥や、特別の乾燥(例えば、紙袋入りの高含水玄米を低湿度倉庫に少なくとも10日以上保管して含水率を下げる乾燥)をするものと誤解されたり、又は、 当初明細書にも記されている「付着水分の除去」を行うための「瞬間的乾操」までしないものとの誤解を避けるため、正式な手続補正により、明細書に「なお本発明で除水とは米粒表層部に付着吸収した水分を除去することであって、米粒がもともと有している水分を乾燥させることでない。」との文言を挿入したものである。 したがって、手続補正書の補正は、通常の意味の長時間「乾燥」との混同を避けるためにしたのであって、要旨変更には当たらない。 2 取消事由2に対して (1) 本件出願当時の当業界の実状は、「洗米から除水完了までを短時間に行う」ことにより、従来にない、亀裂のない洗い米が製造可能であることが知られていたにもかかわらず、そのように短時間に処理する具体的方法や装置がなかったために、そのような洗い米の製造ができなかったというようなものではなかった。 しかし、当時の当業界では、それはプラス効果など全くなく、しかも、著しいマイナス効果が生じるとだれもが信じていたのである。したがって、本件発明の開示は「短時間に洗米除水をするだけで、何故亀裂のない洗い米ができるのか」を当業者に理解させることが最も重要であり、「どのようにして短時間に洗米除水を達成するか」は、当業者にとって、格別教えられなくとも十分知り得たことである。 (2) 本件明細書の実施例1の説明文中には、 @「公知の構造の回転式連続洗米機の攪拌体を毎分600回転となし」、 A「その出口のところに連続して除水装置を設けてなる水洗行程と除水工程を構成し」、 B「該洗米機に3℃の水を注入し乍ら・・・精白米を連続的に毎分1kgペースで投入する」、 C「精白米は洗米機の洗米槽の中で運動している注入水の中にザブンと入り、水中で攪拌され洗米され乍ら洗米機の出口より洗滌水と共に排出され、直ちに次工程の除水装置に入る」、 D「ここで洗滌水及び付着水が除去されて除水装置より排出される」と記されている。 実施例2の説明文中には、 E「上記洗米機の回転数を1800回転となし」、 F「除水装置を高性能にした除水行程を構成し」、 G「25℃の水を注入し乍ら・・・精白米を連続的に毎分10kgペースの速さで投入する」、 H「精白米が洗米槽の水に漬かった時から、除水装置から排出されるまでの時間は約5秒であった」、 I「除水工程より出たての米は含水率14.5%になっており」と記されている。 以上により、当業者は本件明細書の実施例の洗米機は乙第1号証のような洗米機であること、また、実施例の除水装置は単独、若しくは併用のいずれの場合でも、 最終工程はバンド式通風乾燥装置が用いられていることを知ることができる。 洗米機と除水装置との組合せの構成は、洗米機の出口から排出された米が除水装置に直ちに入るように組み合わされていることも、前記Aにて知ることができる。 (3) 「米肌に亀裂がなく」とは、本件発明の実施例1においても、「10粒に1粒の割合でしか亀裂が入らず(元の精白米が約50粒に1粒の割合で亀裂の入った米であった)」(第8欄21〜23行)と記載されているように、せいぜい2%から10%程度に増加する程度であるとしているのであり、100%亀裂が入らないとしているのではないことは明らかである。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(明細書の要旨変更の判断の誤り)について (1) 当初明細書の記載中、審決が引用したのに代表される「除水」に関する部分は、次のとおりである(甲第4号証)。 (A)精白米は一旦水に浸けたら、これを乾燥せしめると必ず亀裂が入り、その内に砕粒化してしまうので、今まで洗米した後、乾燥させた米、すなわち「乾燥洗い米」といえるものは全く存在しなかった。(2頁左上欄2〜6行)(B)本発明は、このような点にかんがみ、消費者が洗わずに炊け、しかも食味が落ちない「乾燥洗い米」及びその製造方法を開示するものである。(2頁左下欄5〜8行)(C)本発明の技術的手段は、精白米を水洗し、かつ、含水率が16%以下に除水処理した乾燥洗い米である。(2頁左下欄12〜14行)(D)一般的に、洗米によって含水してから乾燥させた米に先ず亀裂が入る原因は、ひずみに弱い特性を有する米粒が吸水、除水の際、その都度、部分的に膨張と収縮が生じ、ひずみができるからである。然らば、洗米時や除水時に、ひずみの因子となる膨張と収縮が生じない程度の、わずかの吸水量、及び除水量に押さえることができれば、精白米をたとえ水中へザブンと漬けて洗米し、乾燥させても亀裂が生じないことになる。(2頁右下欄4〜12行)(E)本発明は、高速度で攪拌する洗米工程で、極く短時間に精白米を水の中に漬けた状態で洗米して除糠を行い、直ちに除水工程によって洗滌水と表面付着水の除水を行うのである。(3頁右上欄5〜8行)(F)除水後、即ち付着水分を除かれた時の水分、いわゆる内部含水率が16%以下の含水率になっているように設計されることである。(5頁右上欄14〜17行) (2) 上記のとおり、当初明細書は、従来存在しなかった、消費者が洗わずに炊け、食味が落ちない「乾燥洗い米」及びその製造方法を開示するものであり、従来の洗い米においては、洗米の際の吸水、乾燥に伴う膨張、収縮により、ひずみを生じて米粒に亀裂が生じることから、そこの記載においては、これを生じないほどのごく短い時間に洗滌、除糠と除水を行うという方法により実現するものであることが開示されている。このように、当初明細書に開示されている技術は、極めて短い時間内に米粒の洗浄及び除水を行うことによって、米粒の吸水を最小限に抑えることにより米粒のひずみの発生を抑え、これにより米粒のひび割れ、砕粒の発生を防止するという作用効果を奏するものであることが明らかである。 そうすると、その作用効果を奏するためには、洗米後、速やかに、洗滌水のみならず、表面付着水も完全に除去する必要があることも、当初明細書の記載から明らかに認められる。 (3) そして、甲第10号証によれば、「増補 遠心分離」昭和60年1月5日、 (株)化学工業社発行8頁(審判乙第11号証の3)に、「遠心脱水は主として堆積層をなす粒子と粒子の間に毛細上昇の作用で存在する水または液体を除去することがねらいである。したがって、粒子表面に付着している水分・・・は遠心脱水の対象ではない。」と記載されていることが認められ、この記載によれば、少なくとも、遠心脱水の方法によっては、物質の表面付着水の全部をごく短時間に除去することはできないものと認められる。したがって、当初明細書に開示されている除水を達成する手段としては、公知の送風乾燥等の手段を用い、あるいはこれと組み合わせて他の脱水手段を用いるべきことは、当業者にとって自明の事項と認めることができる。 原告は甲第31ないし第33号証の試験結果をもって、遠心脱水でも粒子表面に付着している水分の除去が可能であると主張するが、仮にそれが可能であるとしても、当業者としては、甲第31ないし第33号証に示された遠心脱水による試験結果(本件審判請求後に行われたものである。)から、遠心脱水の手段のみが開示されていると理解するよりは、一般的な技術文献の記載によって当初明細書に開示の除水達成手段の適用を考えるのが自然であると認められる。 なお、甲第2号証の本件明細書によれば、本件発明は、除水手段について特に限定するものではなく、公知の遠心分離装置の利用を排除しているものではないと認められるが、上記「増補 遠心分離」の記載からすると、本件発明が構成とする16%以下の平均含水率を達成するためには、遠心分離装置を利用するときには他の除水手段と併用する必要があると、一般的には理解されるものと認められる。 (4) したがって、当初明細書に記載された「除水」を、本件明細書において「米粒表層部に付着吸収した水分を除去すること」と補正した点において、明細書の要旨の変更があったものと認めることはできない。取消事由1は理由がない。 (5) 上記の判断に関連する原告主張の主張について、以下判断する。 (5)-1 「除水」は、クレーム上の文言である点に関し 原告は、「除水」は技術用語や国語の通常有する意味に解釈すべきであり、「除水とは、液体としての水を排除するもの」であって、個体粒子(米粒等)から水分を除去する意味合いを導き出すのは不可能であると主張している。 しかし、洗滌時に米粒表層部に吸収される水は、その吸収時に物理的状態が変化するわけでもなく、米粒表層部に吸収された水分と米粒表面の付着水との間に物理的状態に差異がなく、いずれも液体としての水であって、両者に、原告の主張するような厳然たる区別のあることを認めることはできず、原告の主張は採用することができない。 (5)-2 表面付着水の除去と吸水された水分との関係に関し 原告は、当初明細書における「除水」とは、洗滌水と、表面付着水すなわち精白米の外部水分を取り除くことは明白であり、補正により米粒表面に吸収された水分の除去をも付加したのは、要旨変更であると主張する。 しかしながら、当初明細書記載の除水工程に入っても、米粒に付着している水が除去されるまでの間は、その水が米粒表層部に吸収されることは自明であり、米粒は洗米工程中のみならず、除水工程中の初期においても吸水するものと認められる。そうすると、米粒の付着水のうち、米粒表層部に吸収され、かつ除去しきれず吸収残存水となったもの以外の付着水は除去していることになる。 また、甲第2号証によれば、本件明細書において「約2%」に関する記載は、 「本発明はこのように約2%までの水分を吸収(洗浄液の水分が元の水分より僅かに水分アップした状態)するまでの極く短時間に、水洗から除水までの各工程を全部処理することにより・・・」(本件公報第4欄28〜31行)との部分のみであることが認められるが、そこに「水分を吸収するまで」とあるとおり、「約2%」は吸収される水分であり、この「約2%」に、付着している水は含まれていないことは明らかである。さらに、本件明細書には、「なお、本発明で洗い米の「平均含水率」というのは付着水を除いた直後の水分が米粒全体に均一になっていない時点で測定したのである」(本件公報第4欄34〜37行)と記載されていることが認められ、除水後の米粒の増加した水分が、付着水ではなく吸収された水分であることが示されている。 そうすると、当初明細書中の「付着水分を除かれた時」(審決摘示の(G)の記載)とは、「表面付着水を除去した結果、必然的に米粒表層部に吸収された水分の一部まで除去された時」を意味するものと理解することができる。そして、そのような「付着水分」まで除去するには、当然のことながら、それよりも外側にある「表面付着水」を除去した上でないと達成することができないのは自明のことであって、「表面付着水」が除去される際、必然的に表面部(表層部)に吸収されていた水分の一部も除去されるものということができ、補正により米粒表面に吸収された水分の除去を付加した点をもって、要旨変更に当たるとする原告の主張は理由がない。 (5)-3 甲第30号証による主張に関し 原告が甲第30号証(原告研究室の試験結果)を援用するのは、米粒の吸水速度に関して、浸漬直後から約45秒間では、遠心脱水後の米粒水分値に大きな変化はなく、この間に、大量に吸水しているとは認められず、米粒は、浸漬後、徐々に吸水を開始するとして、吸水の速度に関する本件明細書の記載は独自の見解であるとの点にある。すなわち、甲第30号証の試験結果では、水中への浸漬からおおむね45秒以内の短い時間帯では、脱水後の精白米の水分値にはほとんど差が認められず、3秒目から45秒目までの42秒間において、わずか0.1%しか含水率が増加してとされていることを援用し、この増加した0.1%の水分は、精白米に吸収された水分と推察されると主張している。 しかしながら、乙第55号証(和歌山県工業技術センターの行った試験分析等成績表)の試験結果によれば、甲第30号証の実験結果と同じ機具及び方式により得られたのが、45秒浸漬場合17.33%、17.21%、17.41%であること、3秒浸漬の場合16.91%、16.77%、16.85%であることが認められ、その平均は前者においては17.32%、後者においては16.84%であってその差は0.48%となる。この第三者機関による乙第55号証の試験結果を排斥すべき根拠は認められないので、甲第30号証の試験結果をもって、原告主張のように本件明細書の記載に誤りがあると認めることはできない。 (5)-4 甲第67、第69及び第70号証による主張について 原告は、甲第67、第69及び第70号証の試験結果を根拠にして、本件発明においては、増加が許容されている2%の水分の大部分は、表面付着水であり、除水の対象となるのは洗滌水の全部と表面付着水の全部ではなくその一部であって、除去された後の米粒にはいまだ表面付着水が残存しているもので、吸収された水分の除去は毛頭必要ないのであると主張する。 しかしながら、乙56号証(和歌山県工業技術センターが行った「試験分析等成績書」。米粒の特性として、米粒の表面に近い部分は別として、それより深部には水以外の物質は浸透しないものであることを示している。)に照らせば、甲第67号証等の試験結果をそのまま認めることはできないし、表面部(表層部)に吸収された水分のうち、表面に近い部分の水分の一部は必然的に表面付着水と共に除去されることは自明であるから、甲第67号証等の試験結果をもってしても、吸収された水分の除去が行われないものということはできず、原告の上記主張は理由がない。 2 取消事由2(明細書の記載要件の判断の誤り - 36条3項)について (1) 原告は、審決は、公知の連続洗米機と公知の除水装置とによって米粒に亀裂を有さない洗い米を製造することは当業者が容易に実施することができる事項であると認定しているが、誤りであると主張する。 しかしながら、甲第2号証、乙第3号証(審判乙第6号証)、乙第4号証(審判乙第1号証)、乙第5号証(審判乙第5号証)及び乙第6号証(審判乙第7号証)によれば、審決がその理由の要点(6)-1〜8で説示したとおりの理由により、本件明細書の記載により、当業者は本件発明を容易に実施することができるものと認めることができる。 (2) 原告は、本件明細書には、本件発明における除水の意義とその技術的構成要件が記載されておらず、当業者は、明細書の記載に基づいて、公知の機器の中からそれを実施することのできる除水装置を選ぶことができないと主張する。 しかしながら、まず、本件発明における除水の要件さえ分かれば、当業者は、明細書の記載に基づいて、公知の機器の中からそれを実施可能な除水装置を選ぶことができるのは当然である。次に、本件発明を実施するための除水装置は限定されておらず、当業界には、公知の除水手段として遠心分離装置以外の除水装置も数多く知られており、洗滌米の除水には、ネットコンベアすなわちバンド式の通風乾燥機を用いることが普遍的に行われてきたことは、乙第3ないし第6号証及び弁論の全趣旨から認めることができる。 本件発明の除水は、短時間に完了することが要件であるが、前記公知例として挙げた乙各号証には、そのような記載はないが、本件発明における除水の要件は、従来よりも短時間に行うだけのことであるから、公知の除水装置であっても、乾燥条件の一部又は全部を高めるだけで本件発明における除水の目的を達成し得ることは、当業者には容易に理解することができるものと認められる。 (3) 原告は、本件特許請求の範囲の「米肌に亀裂がなく」とは、米肌に亀裂が全くない米粒の集合であるとし、かかる課題を克服する必要な公知の連続洗米機と公知の除水装置とが何ら明らかにされていないとし、そして、遠心脱水機だけで水分が16%以下になるが、遠心脱水機だけで水分を16%以下にした場合に亀裂のない洗い米を得ることは不可能であると主張する。 しかしながら、「米肌に亀裂がなく」とは、本発明の実施例1においても、「10粒に1粒の割合でしか亀裂が入らず(元の精白米が約50粒に1粒の割合で亀裂の入った米であった)」(本件公報第8欄21〜23行。甲第2号証)と記載されているように、せいぜい2%から10%程度に増加する程度であるとしているのであり、100%亀裂が入らないとしているのではなく、多少の亀裂を許容しているものである。また、前記1(3)のとおり、本件発明は除水手段について特に限定するものではなく、除水装置として遠心脱水機を限定して開示しているものでないことは明らかである。したがって、殊更特殊な装置でなく、公知の洗米装置を多少改良し従来から良く知られた除水装置とを用いて、本件発明の実施は当業者にとって容易に可能なものであるというべきである。 (4) 原告は、本件出願当時、米粒の急激乾燥はタブー視されていたのであるから、本件明細書にはそれを打破するような記載があってしかるべきであると主張する。 しかし、本件明細書には、例えば、「一般的に洗米によって含水してから乾燥させた米に先ず亀裂が入る原因は、ひずみに弱い特性を有する米粒が吸水、除水の際、その都度、部分的(米粒表面と深層部)に膨張と収縮が生じ、ひずみが出来るからである。然らば、洗米時や除水時に、ひずみの因子となる膨張と収縮が生じない程度の、僅かの吸水量、及び除水量に押さえることが出来れば、精白米をたとえ水中へ漬けて洗米し、乾燥させても亀裂が生じないことになる。」(本件公報第6欄17〜24行。甲第2号証)と開示されていること(なお、当初明細書にもこれと同趣旨の記載がある。前記1(1)(D))が認められ、原告の上記主張は理由がないことが明らかである。 (5) 以上のとおりであり、取消事由2も理由がない。 |
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結論
以上のとおり、原告主張の審決取消事由は理由がないので、原告の請求は棄却されるべきである。 (平成13年3月27日口頭弁論終結) |
裁判長裁判官 | 永井紀昭 |
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裁判官 | 塩月秀平 |
裁判官 | 橋本英史 |