関連審決 | 審判1998-19215 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成12ネ1016特許権侵害差止請求控訴事件 | 判例 | 特許 |
平成19行ケ10006審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成13行ケ337審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成15行ケ67特許取消決定取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成16行ケ86審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 発明者 / 物の発明 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 相違点の判断 / 試行錯誤 / 技術常識 / 化学構造 / 置換 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 拒絶査定 / 請求の範囲 / |
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事件 |
平成
11年
(行ケ)
320号
審決取消請求事件
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原告 東洋インキ製造株式会社 訴訟代理人弁理士 佐伯憲生 被告 特許庁長官及川耕造 指定代理人 井出隆一 同 森田 ひとみ 同 大橋良三 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2001/04/12 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が平成10年審判第19215号事件について平成11年7月5日にした審決を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 2 被告 主文と同旨 |
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当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は、発明の名称を「光硬化性被覆組成物」とする発明(以下「本願発明」という。)につき昭和62年5月7日に特許出願(特願昭62-111496号)をしたところ、平成10年11月17日に拒絶査定を受けたので、拒絶査定不服の審判を請求した。特許庁は、この請求を平成10年審判第19215号事件として審理した結果、平成11年7月5日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本を平成11年9月1日原告に送達した。 2 特許請求の範囲 (a)エチレン性不飽和光重合性化合物 (b)2-アルキル-1-(4-(アルキルチオ)フェニル)-2-モルフォリノ-プロパノン-1 (c)チオキサントンあるいは、炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基もしくはハロゲン原子で置換されたチオキサントン誘導体 (d)下記一般式[T]で示される化合物 (R1,R2は炭素数1〜3のアルキル基、R3は炭素数 1〜13のアルキル基、フェニル基または を示す。)を含むことを特徴とする光硬化性被覆組成物。 3 審決の理由 別紙審決書の理由の写しのとおり、本願発明は、特開昭58-157805号公報(以下「引用例1」という。)及び特開昭54-153889号公報(以下「引用例2」という。)記載の各発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法29条2項に該当すると認定判断した。 |
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原告主張の審決取消事由の要点
審決の理由1(手続の経緯・本願発明の要旨)、2(原査定の理由)、3(引用例)は認める。同4(対比・判断)は、11頁下から8行〜6行の「紫外線硬化促進のために第3アミンを添加してもよいこと(摘記事項(1-8))が記載され」、11頁末行〜12頁1行の「混合物が着色組成物の硬化に使用されていたこと(摘記事項(1-7))が記載され」、及び12頁13行〜14頁1行を争い、その余を認める。同5(むすび)は争う。 審決は、相違点の判断について、組合せの困難を看過し(取消事由1)、本願発明の奏する顕著な作用効果を看過した(取消事由2)ものであって、これらの誤りは、それぞれ審決の結論に影響を与えることが明らかであるから、違法として取り消されるべきである。 1 取消事由1(組合せ困難の看過) (1) 本願発明の組成物は、結果的には、その特許請求の範囲に記載された(a)成分に、(b)、(c)及び(d)成分(以下各成分を、単に「(a)成分」などという。)を添加・混合したものであるにすぎない。しかし、この添加・混合は、無意味になされたものではなく、それぞれの成分にそれぞれに固有の役割を果たさせる意図の下になされたものである。すなわち、(b)及び(c)成分は光開始剤であり、(d)成分は増感剤として添加されたものである。このことは、 本願明細書に、「本発明被覆組成物は、光開始剤として、・・・2-アルキル-1-(4-(アルキルチオ)フェニル)-2-モルフオリノ-プロパノン-1(b)と、1種または2種以上のチオキサントンまたはその誘導体(c)を含有する。」(本件公告公報(甲第5号証)5欄2行〜8行)、「増感剤としては、1種または2種以上の式[I]で示された化合物(d)を含有する。」(同5欄30行〜31行)と記載されていることから、明らかである。 本願発明は、色相、塗膜厚や紫外線量に左右されない光開始剤と増感剤との新たな組合わせを探索することを目的としたものであり、発明者は、この目的を実現することを動機付けとして、研究を続けた結果、(b)、(c)及び(d)成分が、それぞれ自己に課せられた光開始剤あるいは増感剤としての役割を果たすことにより、当該目的を達成し得る組合せであることを見出して、本願発明に至った。しかし、そもそも、このような動機付けは、引用例1、2には記載されていないのである。そうである以上、引用例1あるいは同2に上記各成分自体は記載されているとしても、これらを組み合わせて本願発明に至ることが容易であることにはならないはずである。 光開始剤として多数の化合物が知られ、増感剤としても多種多様のものが知られているから、これらの組合わせとして考えられるものの数は、天文学的なものとなる。しかも、組み合わせたことの作用効果は実験により知るほかはない。当業者は、これらの組合せの中から目的とするものに適合したものを、実験による試行錯誤に基づいて、見出さなければならないことになる。 上記のように天文学的な数の組合せの中から、本願発明の組合せを新たに選択してくること自体に技術的な困難性があることは、明らかというべきである。 (2) 審決は、(d)成分に相当する化合物が引用例1にも、引用例2にも記載されているから、引用例1に記載された光硬化性組成物に当該化合物を併用することは容易に想到し得た、と認定した(審決書12頁13行〜13頁2行)が、誤りである。 ア 引用例1には、単に「第3アミンのような連鎖移動剤」を加えてもよい旨が記載されているのみであり、(d)成分に相当する特定の化合物が「連鎖移動剤」に相当するとの記載はない。したがって、これを本願発明の「色相、塗膜厚や紫外線量に左右されない光開始剤と増感剤との新たな組合せ」における増感剤として使用することは、当業者が容易に想到し得るものではない。 イ 引用例1には、従来のケトン系光開始剤と特定のアミンとの組合せが相乗的効果を有し、この混合物が光開始剤として使用されていたことが記載されているのみであり、その特定のアミンと引用例1に開示された光硬化性組成物との組合せについては、記載も示唆もされていない。 引用例1に記載された特定のアミンが、他の光開始剤との組合せにおいてどのような作用効果を奏するかということは、当業者といえども予測することはできない。引用例1には、このことにつき、記載も示唆もなされていない。 ウ 引用例2には、(d)成分に相当する4-ジアルキルアミノアセトフェノンを「光重合開始剤」として使用し、これをチオキサントン誘導体と併用することにより高い光硬化性が示されたことが開示されている。しかし、(d)成分に相当する上記化合物を「増感剤」として引用例1に開示されている光開始剤と併用することについては、何ら記載も示唆もされていない。 2 取消事由2(顕著な作用効果の看過) (1) 本願発明に係る明細書(以下「本願明細書」という。)には、実施例1ないし8及び比較例1ないし6が記載されている。これらのうち、実施例1ないし4は、(a)ないし(d)成分を含む紅インクの例、実施例5ないし8は、それらと同一の(a)ないし(d)成分を含む黒インクの例である。比較例1は(a)ないし(c)成分を含む紅インクの例、比較例4は、比較例1と同一の(a)ないし(c)成分を含む黒インクの例である。 ア これらの実施例、比較例の結果から明らかなように、実施例1ないし8の本願発明のインクは、比較例1及び4(引用例1記載のインクに対応)と比較して、1.83倍ないし2.33倍という驚くべき硬化速度を示す。このような作用効果は、引用例1、2には、記載も示唆もされていない予想外に顕著なものである。 さらに、紅インクの硬化速度を100とし、これと顔料のみが異なる同一組成の黒インクの硬化速度とを比較すると、本願発明のインクにおいては、89ないし93であるのに対し、引用例1に対応するインクにおいては75である。本願発明が、この点においても顕著な作用効果を達成していることは、明らかである。 このように、本願明細書には、本願発明の組成物(インク)は色相や顔料の含有量や紫外線量による影響を受けにくいことが、明瞭に示されているのである。 イ 審決は、「これらの実施例は顔料以外にエチレン性不飽和光重合性化合物等の配合量が互いに異なるものであつて、そのデ-夕の比較から紅と黒の顔料と組成物の硬化速度との関係について直ちに論ずることはできず、さらに、この特定のデータのみに基づいて、一般の顔料について本願発明の光硬化性組成物が請求人主張のような効果を生ずるものと認めることはできない。」(審決書13頁14行〜14頁1行)と認定したが、誤りである。 これらの実施例、比較例は、黒の顔料は紅の顔料に比べて、比較的少量の配合で充分な色を出すことができることから、顔料の量を調整し、これに合わせて重合体の量を調整したにすぎない。このような調整を行わない方がむしろ不自然であり、これによりデータの信憑性が左右されるものではない。 一般に、顔料としては紅及び黒が代表的なものであること、とりわけ黒色顔料は紫外線透過量が少なく顔料による変動の大きなものであることは当業者によく知られている。本願明細書には、代表的な顔料を挙げて、本願発明の作用効果が示されている。明細書においてはすべてのデータが要求されるものではなく、当業者が理解し得る代表例があれば足りるのである。 (2) 本願発明の組合せが顕著な作用効果を奏することは、甲第7号証(原告従業員作成の平成12年2月28日付け実験報告書。以下「甲第7号証報告書」といい、その実験を「甲第7号証実験」という。)及び甲第10号証(原告従業員作成の平成12年5月30日付け実験報告書。以下「甲第10号証報告書」といい、その実験を「甲第10号証実験」という。)からも、明らかである。 ア 甲第7号証実験は、引用例1の実施例2を可能な限り忠実に再現して実験したものである。この実験の結果によれば、ベース組成物((a)成分を含有する。)に、本願発明の光開始剤である(b)、(c)成分、及び本願発明の増感剤である(d)成分を組み合わせて混合した組成物(本願発明の組成物)は、160ないし173m(この速度は、使用した測定装置の最高速度である。)の極めて早い硬化速度を示すのに対し、本願発明の組成物の成分のうち、(c)及び(d)成分を含まないもの(引用例1に記載された組成物の一つに該当する。)、(d)成分を含まないもの(同じく引用例1に記載された組成物の一つに該当する。)、及び(b)成分を含まないもの(引用例2記載の組成物に該当する。)の硬化速度は、15ないし80mと極めて低い値を示している。 上記結果によれば、本願発明の組成物が、引用例1及び引用例2の記載から予測できない顕著な作用効果を奏することは明らかである。 イ 甲第10号証実験は、(d)成分に代えて、連鎖移動剤として作用する第3アミン化合物であるエチル-4-ジメチルアミノベンゾエート及びN,N-ジメチルアニリンを使用して、甲第7号証実験と同様に実験したものである。エチル-4-ジメチルアミノベンゾエートは、被告が提出した「R&DレポートNo.11 感光性樹脂の合成と応用(続)」(株式会社シーエムシー昭和55年11月21日発行。以下「乙第3号証刊行物」という。)中に化学構造式で示されている。その結果は、甲第10号証報告書の「表3」のとおり、(d)成分を使用した場合(同報告書の組成物番号6及び7)には、硬化速度は実験装置の限界値である173m/分であったのに対して、その他の第3アミンを使用した場合には、硬化速度はわずかに95m/分にすぎない。このような第3アミンを添加しない場合には90m/分であるから、本願発明のように特定のアミン化合物により顕著な作用効果を奏することは予想外のことであり、格別顕著なものであることは明らかである。 ウ さらに、本願発明の光開始剤と増感剤の組合せの作用効果が予想外に顕著であることは、本願明細書の実施例、比較例、引用例1、2、甲第7、第10号証報告書、加藤清視・中原正二「UV硬化技術入門」(株式会社高分子刊行会昭和60年3月10日発行。以下「乙第4号証刊行物」という。)に記載された光開始剤と増感剤の組合せによる硬化速度の変化をとりまとめた別表から明らかである。 |
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被告の反論の要点
1 取消事由1(組合せ困難の看過)について (1) 印刷用インクの分野においては、本願出願前よりその技術の進歩に伴い、 より硬化速度の速いものが要求されていた。そして、複数の光開始剤や増感剤、その他の硬化促進剤の組合せにより硬化速度を速くすることは、本願出願前から行われており、さして目新しい手法ではない。 (2) 引用例1には、2種の硬化促進成分の組合せが開示され、同引用例には、 更に硬化速度を上げるために連鎖移動剤や他の公知の光開始剤を添加することがうたわれている。したがって、引用例1の記載に従って、添加する成分として、市販されている汎用の硬化促進剤から1種類ずつ取り出し、試験したとしても、容易に本願発明の組合せに到達してしまうことになる。 また、インクの硬化の確認は、特別の分析装置や分析作業を要するものではなく、例えば、印刷サンプルを白色紙に押圧して白色紙の着色の有無で確認する方法(引用例1の実施例1)あるいは指触による確認(引用例2の実施例1)のように、人間の五感によってたやすく確認できるものである。作用効果を確認することはこのように容易であるから、1種類ずつ試験したとしても、多くの時間や労力がかかるものではない。 (3) 本願明細書では、塗膜の硬化(指触による)に要したコンベアスピードをもって硬化速度とし、具体的数値を示して予想外の作用効果であるとする。そこにおいて数値で表現されているのは、特定の塗膜形成条件を採用した場合の固有の数値であり、その測定値自体を正しく予測する事自体は確かに不可能に近いといえよう。しかし、作用効果を促進する成分を加えた結果、確かに硬化が速まったという点において予測通り、期待通りの結果が出ているにすぎないのであり、コンベア速度などを持ち出すまでもなく、五感でその速さの違いは容易に確認することができるのである。 (4) 例えば、食品分野において甘味を好む顧客層がいることが知られており、 その層向けに、既にある程度の甘みを有する食品Aにさらなる甘味増強のため、公知の甘味剤の一種であるXを添加し甘味が増したという作用効果を記載して出願し、多くの種類の甘味剤が存在する中でXを選択したとか、官能試験結果で甘みが2倍であるとの評価が出たなどと作用効果を数値化して主張する場合を想定するとする。本願発明は、この場合に似ているのである。 すなわち、新たに加わった構成(引用例1との相違点)に係る化合物が、 その作用効果を奏することが既に知られている市販商品のような容易に入手できるものの中から選択され、その作用効果も五感によってすぐに確認できるような場合、そのような作用効果を格別に大きいと評価したり、それを根拠に発明に進歩性があると判断したりするべきではない。 (5) 引用例1には、本願発明と全く軌を一にする光硬化性組成物の発明が記載されており、その発明において、本願発明の四つの成分のうち、三つまでが、用いられることが記載されている。そして、残る一つである(d)成分には、広範なアミンが包含され、引用例1自体に記載されたミヒラーのケトン及び引用例2に記載された4-ジアルキルアミノアセトフェノンもその中に含まれる。これらが、その機能及び他の開始剤との組合せの点から、引用例1記載の光硬化性組成物に併用することが容易なものであることは、審決の説示するとおりである。 更に強調しておきたいのは、これらの化合物が当業者にとって余りにも当たり前のものであるという点である。特にミヒラーのケトンに至っては、光硬化性樹脂の書物をひもとけば、必ずと言ってよいほど目にする化合物であり、光重合の開始剤、増感剤としては、当業者の誰もが第一に頭に思い浮かべるものである。このようなものを公知の光硬化性組成物に付加することには、何らの困難性もないのである。 2 取消事由2(顕著な作用効果の看過)について (1) 本願発明における硬化時間の実際の短縮がいかほどであるのかは疑問である。 すなわち、硬化時間がもともと短い場合は、わずかの短縮でも、短縮率としては大きくみえる。 このような点を念頭に置き本願明細書の表1、2をみると引用例1、2に対応する比較例1、3はベンゾフェノンと増感剤を組み合わせた比較例2に比べてその硬化時間の短縮の程度は大きいといえる。しかし、本願発明の実施例1から4は、既に硬化時間がかなり短くなっている硬化剤の組合せに更に硬化促進成分を付加するものであり、比較例1、3の組成物(引用例1、2記載の発明)が比較例2の組成物に対して達成している硬化時間の短縮幅からみれば、さほど大きいものではないといえる。 したがって、本願発明は、引用例1、2の組合せにより、組合せの行われないものとの関係において短い硬化時間を実現しており、その意味で、硬化時間の短縮効果はあるとはいえるが、その短縮効果が予想をこえて格別顕著であるとはいい難い。本願発明の作用効果は、たとい従来のものよりも若干優れたところがあるとしても、引用例1記載の発明を前提として、引用例1、2の開示に従って、硬化速度向上のためにミヒラーのケトンあるいは4-ジアルキルアミノアセトフェノンをこれと併用することによる、当然期待される作用効果にすぎないのである。 (2) 本願明細書の実施例、比較例、引用例1、2、甲第7、第10号証報告書、乙第4号証刊行物に記載された数値は、それぞれ光硬化性組成物の組成、配合量及び硬化速度の測定方法を異にするものであり、共通の基盤に立つものではないから、そのままでは比較のしようがないのである。これをそのまま比較したことを根拠に、本願発明に顕著な作用効果があることが認められるものではない。 (3) このように、構成があまりにも容易な発明が、作用効果を数値化しただけで、予想を超える作用効果と評価され、権利化されるということになれば、特許となっている引用例1記載の発明の権利期間の実質的延長がなされたに等しい。そうなれば、権利期間の満了を機にその技術の改良や、実施化を準備している第3者を含む印刷業界の被る迷惑は計り知れず、発明の保護及び利用を図ることにより発明を奨励し、もって産業の発達に寄与するという特許法1条の精神にもとることになるというべきである。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(組合せ困難の看過)について (1) 甲第3号証(引用例1)によれば、引用例1には、「第3アミン・・・のような連鎖移動剤を紫外線硬化促進・・・を得るために加えてもよい」(27頁左上欄6ないし8行)との記載があることが認められる。 (2) 「第3アミン・・・のような連鎖移動剤」について ア 乙第3号証(乙第3号証刊行物)によれば、同号証刊行物の「5.2 光重合促進剤、連鎖移動剤」の項(438ないし439頁)には、@「光重合促進剤としてはアミン化合物が主に使用される。」との記載、A「アミンを促進剤として添加すると・・・連鎖移動剤として作用する・・・。アミンを添加すると空気の重合阻害作用が著しく軽減される理由については次の反応によって、溶存酸素がラジカル連鎖的に消費されるためと考えられている。」として、アミン上のラジカルが他のアミンに連鎖的に移動する機構の図解、及び、B「アミン化合物としてはトリ(モノ、ジ)エタノールアミン・・・、4,4’-ビスジエチルアミノベンゾフェノン・・・、エチル-4-ジメチルアミノベンゾエート・・・、2-(ジメチルアミノ)エチルベンゾエート・・・などが使われている。」との記載があることが認められる。そして、4,4’-ビスジエチルアミノベンゾフェノンが第3アミンであり、かつ、(d)成分に該当することは、その化学構造(同刊行物435頁参照)から明らかである。なお、トリエタノールアミン、エチル-4-ジメチルアミノベンゾエート、2-(ジメチルアミノ)エチルベンゾエートが第3アミンであることも、明らかである。 イ 乙第4号証(乙第4号証刊行物)によれば、同号証刊行物の「4.1.4(1) 増感剤の機能」の項(72頁〜77頁)には、@「増感剤は・・・単独ではUV照射によって活性化しない。しかし、光開始剤と一緒に使用すると、光開始剤単独の場合よりも効果がある。」(72頁)との記載、A「光開始剤のベンゾフェノン・・・増感剤の4,4-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン(判決注・4,4’-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノンの誤記と認める。この文献中において以下同じ。)・・・4-ジメチルアミノアセトフェノンを配合すると、・・・硬化速度ははやくなる。」(73頁〜74頁)との記載、B「表30 光開始剤と増感剤の組合せ効果」として「4,4-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、4-ジメチルアミノアセトフェノン」の添加によって硬化速度が速くなることを示す記載、C「このようにアミンの添加によって、硬化速度が速くなるのは、次のような理由によるものである。・・・これらの作用のために、アミンが存在すると硬化速度、特に表面硬化速度が速くなる。」(74頁〜75頁)として、 光開始剤上に発生したラジカルがアミンに移動してアミンラジカルが生成し、このラジカルが他のアミンに連鎖的に移動する機構の図解、D「なお、各物質の相対吸光度を図22に示す」(74頁)、「図22 光開始剤および増感剤の吸収特性 A 4,4’-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン B 4-ジエチルアミノアセトフェノン C 4-ジメチルアミノアセトフェノン・・・G 4,4’-ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン」(75頁)として、7種類の光開始剤及び増感剤を挙げている記載、E「ミヒラーケトン(判決注・4,4’-ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノンの別名である。)は光開始剤と増感剤の両方の作用をもつものといえる。類似の構造をもつ次の3種類の物質をベンゾフェノンに添加した場合・・・ミヒラーケトンが最も反応性がよく、硬化速度が速い。」(79頁)との記載、がそれぞれあることが認められる。そして、4,4’-ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4-ジメチルアミノアセトフェノン、及び、4-ジエチルアミノアセトフェノンが、第3アミンであり、かつ、(d)成分に該当することは、その化学構造から明らかである。 ウ 以上の事実によれば、本願出願前から、第3アミンが連鎖移動剤として作用すること、及び、これを光開始剤と組み合わせて増感剤として使用することにより硬化を促進することが技術常識であったこと、並びに、連鎖移動剤として作用する代表的な第3アミンとして、(d)成分としての要件を満たす、4,4'-ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4'-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン(以下、この両者をまとめて「4,4'-ビス(ジアルキルアミノ)ベンゾフェノン」という。すなわち、ここにいうアルキル基は、メチル基又はエチル基を指す。)、4-ジメチルアミノアセトフェノン、4-ジエチルアミノアセトフェノン(以下、この両者をまとめて「4-ジアルキルアミノアセトフェノン」という。すなわち、ここにいうアルキル基は、メチル基又はエチル基を指す。)が知られていたことが認められる。 (3) 甲第3号証によれば、引用例1には、「着色組成物、例えば印刷インク又は塗料、の硬化に今まで当業界に使用されていた光開始剤は、殆んどの場合、ケトン系光開始剤と特定のアミンとの相乗混合物、例えばベンゾフェノンとミヒラーの(Michler´s)ケトン(4,4’-ビス-ジメチルアミノベンゾフェノン)・・・との混合物である。」(4頁右上欄15行〜左下欄3行)と記載されており、この記載によれば、ミヒラーのケトン、すなわち4,4’-ビス-ジメチルアミノベンゾフェノンが、ケトン系光開始剤と組み合わせて相乗効果を達成する化合物として、本願出願前から常用されていたことが認められる。 (4) 甲第4号証(引用例2)によれば、同引用例には、特許請求の範囲として「4-ジアルキルアミノアセトフェノン(但しアルキル基は、メチル基又はエチル基)」(1頁左下欄6行〜8行)、光硬化性被覆組成物の硬化特性について、「4-ジアルキルアミノアセトフェノンを単独で用いた場合には光硬化性は、非常に小さく、また、同様に化合物〔T〕(判決注・(c)成分に該当する。)も単独で用いた場合においては、光硬化性は非常に小さい。しかるに驚くべきことには、この2つの光重合開始剤4-ジアルキルアミノアセトフェノンと、化合物〔T〕とを・・・用いた場合においては、各々の化合物から想像出来ないほどの高い光硬化性を示し・・・このような組み合せが、何故選択的にこのような感度を与えるかということの詳細は明らかではないが・・・両者の化合物に発生するラジカルが相互的に複雑な反応を行う事により、このような相乗効果が起るものと推定される」(2頁右下欄15行〜3頁左上欄9行)との記載があることが認められる。 (5) 上記(1)ないし(3)の事実によれば、引用例1には、引用例1記載の発明(審決が、本件発明との比較の対象として認定した発明)に第3アミンの連鎖移動剤を加えた発明が記載されているというべきである。 もっとも、同引用例には、具体的に、「第3アミンの連鎖移動剤」として、何を選ぶべきかということが明示されているわけではない。しかし、上記(1)ないし(4)の事実によれば、引用例1、2に接した当業者は、引用例1の「第3アミン・・・のような連鎖移動剤を紫外線硬化促進・・・を得るために加えてもよい」との記載から、紫外線硬化促進のために引用例1記載の発明に加える「第3アミンのような連鎖移動剤」として、連鎖移動剤として作用する代表的な第3アミンであり、光開始剤と組み合わせて相乗効果を達成する化合物として本願出願前から常用されており、しかも、そのことが引用例1にも記載されている4,4’-ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノンを使用することは、仮に、引用例1自体に記載されているのも同然であるとまでは言い切れないとしても、極めて自然に想到し得たものであり、また、同じく連鎖移動剤として作用する代表的な第3アミンであるとされていた4,4’-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、4-ジアルキルアミノアセトフェノンを使用することも、これまた極めて自然に想到し得たものと認められる。 (6) 原告の主張について ア 原告は、引用例1には、単に「第3アミンのような連鎖移動剤」を加えてもよい旨が記載されているのみであり、(d)成分が「連鎖移動剤」に相当するとの記載はないと主張する。しかし、(d)成分に該当する4,4’-ビス(ジアルキルアミノ)ベンゾフェノン、及び、4-ジアルキルアミノアセトフェノンが連鎖移動剤であることが技術常識であったことは、前記(2)の認定のとおりである。 イ 原告は、引用例1には、従来のケトン系光開始剤と特定のアミンとの組合せが相乗的効果を有し、この混合物が光開始剤として使用されていたことが記載されているのみであり、その特定のアミンと引用例1に開示された光硬化性組成物との組合せについては、記載も示唆もされていないと主張する。しかし、引用例1には、引用例1記載の発明に、「第3アミン・・・のような連鎖移動剤を紫外線硬化促進・・・を得るために加えてもよい」と記載されているのであるから、その記載に従って、紫外線硬化促進を得るために、引用例1記載の発明に、連鎖移動剤として作用する代表的な第3アミンである4,4’-ビス(ジアルキルアミノ)ベンゾフェノンや、4-ジアルキルアミノアセトフェノンを加えることが容易であったことは明らかである。 ウ 原告は、引用例2には、(d)成分に相当する4-ジアルキルアミノアセトフェノンを「光重合開始剤」として使用することは開示されているが、「増感剤」として引用例1に開示の光開始剤と併用することについては、何ら記載も示唆もされていないと主張する。しかし、当業者が、4-ジアルキルアミノアセトフェノンが「増感剤」であると認識しなければ、これを加えることができない、などという筋合いのものではない。「増感剤」と認識すると否とにかかわらず、紫外線硬化促進を得るために、第3アミンであり、連鎖移動剤である4-ジアルキルアミノアセトフェノンを加えることが容易であったことは、前示のとおりである。 なお、4-ジアルキルアミノアセトフェノンを増感剤として使用することが技術常識であったことは、前記(3)の認定のとおりである。 エ 原告は、色相、塗膜厚や紫外線量に左右されない光開始剤と増感剤との新たな組合わせを探索するという動機付けが、引用例1、2には記載されていないと主張する。 しかし、甲第3号証(27頁右上欄〜左下欄)、第5号証(本願公告公報。その5欄〜6欄)によれば、引用例1記載の発明や本願発明の用途は、印刷インク、ペイント(塗料)、フォトレジスト材料等であることが認められる。そして、印刷インクやフォトレジスト材料の硬化速度が遅ければ、これを使用した製品(印刷物、フォトレジスト)は、紫外線照射後すみやかに重ねることができない、 あるいは次工程に進むことができない等の不都合が生じるから、その硬化速度をできる限り速くすることは、自明の課題である。また、その硬化速度が、色相、塗膜厚や紫外線量に左右されないということが望ましいことも、自明である。そして、 硬化速度を速くするために、光開始剤、増感剤を組み合わせて使用することが技術常識であったことは、前記(2)の認定のとおりである。 そうである以上、色相、塗膜厚、紫外線量に左右されることのない新しい光開始剤と増感剤の組み合わせを探索することは、当業者に自明の動機であることが明らかである。 2 取消事由2(顕著な作用効果の看過)について (1) 乙第4号証によれば、同号証刊行物には、@「増感剤は・・・光開始剤と一緒に使用すると、光開始剤単独の場合よりも効果がある。・・・増感剤によるゲル化時間短縮の例を不飽和ポリエステル樹脂について示す。・・・表28 増感剤の効果(不飽和ポリエステル樹脂)」(72頁)として、光開始剤のベンジルに各種の増感剤(第3アミン等のアミンである。)を添加した場合に、増感剤を添加しない場合に比べてゲル化時間が約3分の1ないし80分の1(硬化速度は約3倍ないし80倍)となったこと、A「表29 増感剤の効果(ポリエステルアクリレート系)」(73頁)として、各種の光開始剤に増感剤トリエチレンテトラミン(アミンである。)を添加した場合に、増感剤を添加しない場合に比べて硬化時間が3分の2ないし20分の1(硬化速度は1.5倍ないし20倍)となったこと、B「表30 光開始剤と増感剤の組合せ効果」(74頁)として、光開始剤のベンゾフェノンと増感剤の4-ジメチルアミノアセトフェノンの組合せに、増感剤の4,4’-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノンを更に組み合わせた場合に、硬化速度が2倍になったこと、及び、光開始剤のベンゾフェノンと増感剤の4,4’-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノンの組合せに、増感剤の4-ジメチルアミノアセトフェノンを更に組み合わせた場合にも、硬化速度が約2倍になったことが記載されていることが認められる。 上記事実に、前記1(2)ないし(4)の事実を加えて総合すれば、当業者は、 引用例1記載の発明に、4,4’-ビス(ジアルキルアミノ)ベンゾフェノンや、 4-ジアルキルアミノアセトフェノンを加えた場合には、紫外線硬化が促進されて、硬化速度が、例えば乙第4号証刊行物の前記記載のような相当の程度に速くなることを予測するものと認められる。 ところが、以下のとおり、本願発明が、引用例1記載の発明に比べて、上記当業者の予測を超えるほどの作用効果を奏するものと、認めることはできない。 (2) 甲第7号証実験について ア 甲第7号証報告書には、下記@ないしDの結果が記載されている。 @ 特定の(a)、(b)、(c)、(d)成分を含む組成物(組成物No.8ないし10。(d)成分は、4,4’-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノンである。本願発明に該当する。)の特定の条件下での硬化速度は、分速173mのコンベア速度に対応できるものであったこと。 なお、同号証には、上記毎分173mという数値は、使用した実験装置の最大値であるとの記載があるけれども、組成物No.8ないし10の硬化速度が、それよりも速いと認めるに足りる証拠はない。 A 上記@の組成物と同一の(a)、(b)、(c)成分を含み、(d)成分を含まないもの(組成物No.2ないし4)の同じ条件下での硬化速度は、分速80ないし90mのコンベア速度に対応できるものであったこと。 B 上記@の組成物と同一の(a)、(b)、(d)成分を含み、(c)成分(「カヤキュア-ITX」。引用例1実施例2の「PS1」である。)に替えて「チオキサントン誘導体A」(引用例1実施例2の「PS4」)を含むもの(組成物No.11ないし13)の同じ条件下での硬化速度は、分速160mのコンベア速度に対応できるものであったこと。 C 上記@の組成物と同一の(a)、(b)成分を含み、(c)、(d)成分を含まないもの(組成物No.1)の同じ条件下での硬化速度は、分速15mのコンベア速度に対応できるものであったこと。 D 上記@の組成物と同一の(a)、(b)、(d)成分を含み、(c)成分を含まないもの(組成物No.15)の同じ条件下での硬化速度は、分速70mのコンベア速度に対応できるものであったこと。 イ 甲第3、第7号証によれば、甲第7号証実験は、引用例1の実施例2と比較すると、ポリエステルアクリレート樹脂(エベクリル593)に代えてポリオールアクリレート樹脂(ネオマーDA600)が使用され、かつ、一部の溶剤(N-ビニル-2-ピロリドン)が省略されたものと、本願発明とを比較したものであることが認められる。したがって、同号証実験を、引用例1記載の発明と本願発明の作用効果を比較したものということはできない(同一の光開始剤・増感剤の組合せであっても、添加対象の組成物の成分が異なると、硬化促進の程度が異なるものとなる可能性があることは自明である。この点に関して、原告は、N-ビニル-2-ピロリドンの添加による硬化速度の違いがないことを実験によって確認したと主張する。しかし、原告の主張によっても、上記実験は、甲第7号証実験とは異なるベースインキ((a)成分)を使用し、引用例1の実施例とも異なる量のN-ビニル-2-ピロリドンを添加したものであって、これを根拠にN-ビニル-2-ピロリドンの添加が、甲第7号証実験における硬化速度に影響を及ぼさないと認めることはできない。)。 ウ また、前記(1)認定の事実に照らせば、(a)、(b)、(c)成分を含む組成物(Aの組成物)に、(d)成分を加えたことによる硬化促進の効果(本願発明に該当する@の組成物の硬化促進の効果)は、当業者が予測し得たものと認められる。すなわち、@の組成物は、Aの組成物よりも硬化速度が速いものではある。しかし、Aの組成物に(d)成分を加えれば硬化速度が、例えば、前記乙第4号証刊行物に記載された程度に相当に速くなることは、当業者が予測し得たことであり、@、Aの各組成物の硬化速度の差をこの程度を超えるものとすることはできないから、結局のところ、甲第7号証報告書は、このことを数値化したにすぎないものというべきであり、これを「予想外の効果」とすることはできないのである。 エ @の組成物がBの組成物よりも硬化速度が速いことは、引用例1に「実施例2 増感剤としてのチオキサントンの併用」(29頁右上欄)として開示されている6種類のチオキサントン誘導体のうち、引用例1記載の発明の「PS1」((c)成分に該当する。)が、これに該当しない「PS4」より硬化促進効果が若干強いことを示すものではあるが、その程度はわずかなものというべきである。 そして、上記6種類のチオキサントン誘導体がそれぞれ物質が異なる以上、引用例1に接した当業者において、硬化促進効果が全く同じということはなく、若干の優劣はあるものと推測することは当然であるから、上記「PS4」よりも「PS1」が硬化促進効果が若干強いことをもって、予想外のものということはできない。 (3) 本願明細書の実施例・比較例について ア 甲第5号証(本願公告公報)によれば、本願明細書には、実施例及び比較例として、下記のような成分を含む光硬化性被覆組成物が記載されていることが認められる。 @(a)、(b)、(c)及び(d)成分を含む組成物(実施例1ないし8) A(a)、(b)、(c)成分を含み、(d)成分を含まない組成物(比較例1及び4) B(a)、(d)成分を含み、(b)、(c)成分を含まない組成物(但し、(b)、(c)成分に替え、周知の光開始剤であるベンゾフェノンを使用)(比較例2及び5) C(a)、(c)、(d)成分を含み、(b)成分を含まない組成物(比較例3及び6) イ 甲第5号証によれば、本願発明である@の組成物は、(d)成分を含まないAの組成物(引用例1記載の発明)よりも、硬化速度が速いものの、その程度は、前記(2)と同様、前記(1)の事実に照らせば、それが当業者の予想を超えるものということはできない。 ウ 上記B及びCの組成物は、引用例1記載の発明の(b)、(c)成分の一方又は双方を含まないものであって、その硬化速度は、引用例1記載の発明の硬化速度を上回るものではないことが認められるから、本願発明が、それらよりも硬化速度が速いとしても、このことをもって、本願発明の作用効果が顕著であることの証左とすることはできない。 (4) 甲第10号証実験について ア 甲第10号証報告書には、下記@ないしBの結果が記載されている。 @ 特定の(a)、(b)、(c)、(d)成分((d)成分は、4,4'-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン又はN,N-ジメチルアミノアセトフェノン)を含む組成物(組成物No.6、7。本願発明に該当する。)の特定の条件下での硬化速度は、分速173mのコンベア速度に対応できるものであったこと。 A 上記@の組成物と同一の(a)、(b)、(c)成分、及び、(d)成分に該当しない第3アミンの連鎖移動剤(エチル-4-ジメチルアミノベンゾエート又はN,N-ジメチルアニリン)を含むもの(組成物No.8、9)の同じ条件下での硬化速度は、分速95mのコンベア速度に対応できるものであったこと。 B 上記@の組成物と同一の(a)、(b)、(c)成分を含み、第3アミンの連鎖移動剤を含まないもの(組成物No.10)の同じ条件下での硬化速度は、分速90mのコンベア速度に対応できるものであったこと。 イ しかし、甲第10号証実験は、甲第7号証実験と同様に、引用例1の実施例とは異なる組成物を対象とするものであるから、直ちに、同号証実験を、引用例1記載の発明に第3アミンの連鎖移動剤を添加したときの作用効果を示すものとすることはできない。 ウ のみならず、前記(1)認定の事実に照らせば、(a)、(b)、(c)成分のみを含む組成物に、(d)成分を加えることにより相当程度大きい硬化促進の効果が生ずるであろうことは、、当業者が予測し得たものと認められることは、前記(2)で述べたとおりである。そうである以上、他の第3アミンの連鎖移動剤の中に、特定の(a)、(b)、(c)成分を含む組成物に加えた場合における特定の条件下の硬化速度において、(d)成分を加えたものより劣るものが2種類あるとしても、そのことは、上記(a)、(b)、(c)成分を含む組成物に、(d)成分を加えたことによる硬化促進の効果を当業者が予測し得た範囲内のものであるとする認定を左右するに足りるものではないというべきである。ちなみに、上記エチル-4-ジメチルアミノベンゾエートが記載されている乙第3号証刊行物の438頁には、これと並んで、トリエタノールアミン、2-(ジメチルアミノ)エチルベンゾエートが記載され、乙第4号証刊行物の72ないし73頁には、トリエチルアミン、ジエチルアミノエチルメタクリレートの効果が顕著であることが記載されており、本願発明の作用効果が、このような代表的な第3アミンの連鎖移動剤を通常の条件下において引用例1記載の発明に添加した場合と比べて特段優れていると認めるに足りる証拠もないのである。 (5) 甲第3ないし第5、第7、第10号証、乙第4号証によれば、別表は、 光硬化性組成物の組成、配合量及び硬化速度の測定方法等の条件の異なる実験結果を比較したものにすぎないから、これをもって、本願発明が顕著な作用効果を奏することの証左とすることはできない。 (6) 原告は、紅インクの硬化速度を100とし、顔料のみが異なる同一組成の黒インクの硬化速度を比較すると、本願発明のインクにおいては、89ないし93であるのに対し、引用例1に対応するインクにおいては75であり、本願発明が、この点においても顕著な作用効果が達成されていると主張する。 しかし、本願発明は、「紅インク」「黒インク」であることも、顔料その他の着色物質を含むことを要件とするものではないことは、特許請求の範囲の記載から明らかである。したがって、仮に、紅インクと黒インクについて、原告主張の作用効果があるとしても、それは、本願発明の特定の実施例の作用効果にすぎないものであって、これを本願発明そのものの作用効果とすることはできない。 3 以上のとおりであるから、原告主張の取消事由はいずれも理由がなく、その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。 |
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よって、本訴請求は、理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担に
ついて行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 山下和明 |
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裁判官 | 山田知司 |
裁判官 | 宍戸充 |