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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成12ネ1016特許権侵害差止請求控訴事件 判例 特許
平成19行ケ10006審決取消請求事件 判例 特許
平成13行ケ337審決取消請求事件 判例 特許
平成15行ケ67特許取消決定取消請求事件 判例 特許
平成10行ケ401審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 発明者 /  製造方法 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  設定登録 /  訂正審判 /  請求の範囲 /  訂正明細書 /  異議申立 / 
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事件 平成 16年 (行ケ) 86号 審決取消請求事件
原告 アサヒ飲料株式会社
訴訟代理人弁理士 正林真之,相川俊彦,藤田和子,渡邉昭彦
被告 特許庁長官小川洋
指定代理人 田中久直,種村慈樹,一色由美子,大橋信彦,井出英一郎
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2005/02/03
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
「特許庁が訂正2003-39103号事件について平成16年1月28日にした審決を取り消す。」との判決。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 本件特許第3246896号「新規な半発酵茶飲料」は,平成11年1月7日に特許出願され,平成13年11月2日に特許権の設定登録がなされ,その後,その特許について,特許異議の申立て(異議2002-71713号)があり,平成14年11月26日に訂正請求がなされた。
異議申立てについて,平成15年1月7日,「訂正を認める。特許第3246896号の請求項1ないし3に係る特許を取り消す。」との決定があり,原告はその取消訴訟を東京高裁に提起した(平成15年(行ケ)第67号)。
原告は,その審理中の平成15年5月21日,本件特許につき訂正審判の請求をしたが(訂正2003-39103号),平成16年1月28日,審判請求不成立の審決があり,その謄本は同年2月9日原告に送達された。
2 本件発明の要旨 (1) 設定登録時の特許請求の範囲 【請求項1】 浸出前の原料において包種茶の配合量が50重量%以上であって,タンニンの含有量が20から60mg/100mlに調整されていて,テアニンの含有量が2.00mg/100ml以上に設定されることを特徴とする半発酵茶飲料。
【請求項2】 テアニンの含有量が2.00mg/100ml以上に設定されることによって茶飲料の苦味と渋みが抑制させられ,すっきり感が増大された半発酵茶飲料。
【請求項3】 テアニンの含有量を2.00mg/100ml以上に設定することによって茶飲料の苦味と渋みを抑制する方法。
(2) 本件訂正審判請求に係る特許請求の範囲(下線部が訂正箇所) 【請求項1】 浸出前の原料において包種茶の配合量が50重量%以上であって,タンニンの含有量が20から60mg/100mlに調整されていて,テアニンの含有量が2.00mg/100ml以上に設定されることを特徴とするPETボトル 充填用加熱殺菌処理後 のPET ボトル 入り半発酵茶飲料。
【請求項2】 テアニンの含有量が2.00mg/100ml以上に設定されることによって半発酵茶飲料の苦味と渋みが抑制させられ,すっきり感が増大されたPETボトル 充填用加熱殺菌処理後 のPET ボトル 入り半発酵茶飲料。
【請求項3】 テアニンの含有量を2.00mg/100ml以上に設定することによってPETボトル 充填用加熱殺菌処理後 のPET ボトル 入り半発酵 茶飲料の苦味と渋みを抑制し,すっきり 感を増大 させる 方法。
(以下,訂正後の請求項1ないし3に係る本件発明を,それぞれ「訂正発明1」などと表記する。) 3 審決の理由の要点 (1) 引用例 引用例1(「茶業研究報告」第60号54〜58頁,1984年。本訴甲第3号証)には,「半発酵茶は紅茶と緑茶の中間的な茶で,特有な味と香りをもっていることで知られており,中国(福建省,台湾省)で主として製造されているが,・・・・・・・・一方包種茶は発酵程度が10〜20%と少なく緑茶に近いものとされている。」(54頁左欄2〜7行),「試料の内容は表1に示すとおりである。なお,試料は粉砕し0.5mmのふるいを通して分析に供した。」(54頁左欄19〜20行),「烏龍茶,包種茶の個別カテキン含量を表5に示したとおりである。これによると,烏龍茶のカテキン類の中で(-)‐エピカテキン,・・はこれまで分析された日本の緑茶におけるこれらの含量の約半量程度であった。包種茶の4種のカテキン含量はいずれも緑茶の含量に近かった。」(55頁右欄8行〜56頁左欄1行),「烏龍茶,包種茶ともにアミノ酸合計値は少なく,日本の緑茶の下級茶並みであった。」(56頁左欄7〜8行),及び「また,包種茶のアミノ酸含量は緑茶と大体同じ含量組成を示した。」(56頁右欄10〜11行)と記載されている。
また,引用例1の表3及び表6には,1979年産の包種茶の上級茶,中級茶,下(上)級茶,下級茶には,それぞれ16.09,15.88,15.58,16.07%のタンニンが含まれ,また,それぞれ636.9,899.0,860.7,883.2mg/100gのテアニンが含まれていることが,同じく1980年産の包種茶の上級茶,中級茶,下級茶には,それぞれ11.70,11.55,12.75%のタンニンが含まれ,また,それぞれ931.2,639.8,820.4mg/100gのテアニンが含まれていることが記載されている。
さらに,引用例1の表6には,1979年産の烏龍茶の上級茶,中級茶,下(上)級茶,下級茶には,それぞれ497.1,490.6,332.1,326.4mg/100gのテアニンが含まれていることが,同じく1980年産の烏龍茶の上級茶,中級茶,下級茶には,それぞれ496.0,507.7,383.1mg/100gのテアニンが含まれていることが記載されている。
引用例2(「日本食品工業学会誌」第19巻第10号475〜480頁,1972年。本訴甲第4号証)には,「緑茶の普通審査法に近い濃度にするため,18gの緑茶を大型のきゅうすに入れ熱湯1080mlを注ぎ,4分間静置したのち,1lの三角フラスコに浸出液をとり,・・・官能検査に使用した。また,一部のものについては,緑茶の量を上記の1/3,1/2,2/3,3/2,2,9/4倍とし,同様な方法によって浸出液を調製した。」(475頁右欄8〜14行),及び「また,同じく中級煎茶の普通審査液の2/3の濃度のものに,テアニンを茶に対して3,6,12%の割合で加えた結果では,第4図に示すように,3%の添加ではし好度がわずかに増加したが,12%では低下した。この場合,テアニンの添加はうま味,甘味の増加よりもむしろ苦味,渋味を抑える方向に作用しており,12%添加では苦味,渋味がかなり抑えられて味が弱くなり過ぎたため,し好度が低下したものと思われた。」(479頁右欄下から10〜3行)」と記載されている。
引用例3(月刊「茶」1998年/3月号24頁〜30頁。本訴甲第5号証)には,「上質煎茶ほどアミノ酸(テアニンやアルギニン)が多く旨みの主体とされている。しかしテアニンは味が弱く旨味を左右するというより,むしろ苦渋味を抑制する働きがあって,結果として緑茶の旨味に貢献している可能性が―と提言している。」(24頁),「緑茶の浸出液の渋みやうま味などの測定を行った結果,玉露や上級煎茶は,うま味が強く,嗜好度が高かった。これは,うま味成分であるアミノ酸類,とくに,テアニン,アルギニンを多く含んでいるためと考えられる。しかし,テアニンを多く含んでいても,必ずしも,うま味が強いとは限らない。」(28頁),及び「結論 緑茶のうま味は,嗜好度に大きな影響をもつ重要な要素であるが,テアニンは,味が極めて弱く,従って,テアニン自体の味がうま味の主体になっているとは考えにくい。ただし,テアニンには,苦渋味を抑える作用があるので,間接的には,うま味に貢献していると考えられる。一方,茶の場合,うま味は,苦渋味の強さによって左右され,カテキン(タンニン)の影響が大きいことが認められた。このように緑茶中には,種々の味を持つ成分が共存し,これらが総合的に組み合わされた結果,緑茶の味がきまる。」(29頁〜30頁)と記載されている。
引用例4(特開平9-313129号公報。本訴甲第6号証)には,「本発明者らは,風味改善に効果のある物質について検討した結果,緑茶に多く含まれているアミノ酸の一種,テアニンを含有させることで上記課題を解決し,本発明を完成した。テアニンを含有することを特徴とする風味改善組成物の効果についてはこれまで知られておらず,本発明者らが初めて見いだした新規効果である。さらに詳しくは風味改善の中でも特に苦味,酸味,塩味改善に効果的であることを見いだした。」(【0005】),「本発明における風味改善とは,苦味,酸味,塩味,えぐ味,辛味,渋味など体感可能な風味を改善し,又はより好ましい風味に改善することを指し,より好ましくは苦味,酸味,塩味の改善である。本発明に用いられるテアニンは,茶の葉に含まれているグルタミン酸誘導体で,茶の旨味の主成分である。」(【0006】),「風味改善を要する飲食品としては特に限定されるものではないが,好ましくは・・・各種嗜好飲料・・・が挙げられ,苦味物質としては・・・タンニン類・・・が挙げられる。」(【0007】),及び「本発明において風味改善組成物として用いるには,改善する風味の強さによって異なるが,一般に風味改善を要する製品に対してテアニンとして0.001重量%以上であれば充分な効果を得ることができる。テアニンの添加量に特に上限は存在しないが,テアニンの特有の呈味と経済性を考慮すると一般的に製品に対して5重量%程度を越えないことが好ましい。従って,本発明の風味改良剤がその効果を充分に発揮するためには,テアニンを製品に対して0.001重量%〜5重量%添加することが好ましい。さらに望ましくは0.001重量%〜0.5重量%添加することが好ましい。また,0.001重量%〜0.05重量%とすることが最も好ましい。」(【0009】)と記載されている。
(2) 訂正発明1についての対比・判断 訂正発明1と引用例1に記載の発明を対比すると,包種茶の茶葉をきゅうすに入れ,熱湯を注ぎ所定時間おいたあと,茶碗につぎ分ければ半発酵茶飲料の一種である包種茶飲料が得られることは自明な事項であり,また,引用例1に記載の1979年産及び1980年産のタンニン及びテアニンを上記量で含む包種茶の茶葉を通常の浸出方法により茶成分を浸出させた場合には,得られる包種茶飲料にタンニン及びテアニンが含まれていることは明らかであることを考慮すると,両者は,包種茶を主原料とする半発酵茶飲料である点で一致し,(a) 前者は,浸出前の原料として包種茶を50重量%以上配合したものを用い,かつ,浸出後の半発酵茶飲料中のタンニンの含有量が20から60mg/100mlに調整され,テアニンの含有量が2.00mg/100ml以上に設定されているのに対して,後者では,浸出前の原料として包種茶100重量%のものを用いており,また,該包種茶原料を通常の浸出方法により茶成分を浸出させたとき,得られる半発酵茶飲料の一種である包種茶飲料にどの程度のタンニン及びテアニンが含まれるのか明らかでない点,(b) 前者は,PETボトル入り半発酵茶飲料であるのに対して,後者には,半発酵茶飲料の一種である包種茶飲料をPETボトルに充填することについて記載されていない点,及び(c) 前者は,半発酵茶飲料をPETボトルに充填する前に該飲料を加熱殺菌処理するのに対して,後者には,この点が記載されていない点で,両者は相違する。
上記相違点について検討する。
相違点(a)について 訂正明細書の請求項1の記載及び実施例の記載からみて,訂正発明1は,浸出前の原料として包種茶の茶葉のみからなるもの,すなわち包種茶の配合量が100重量%のものを用いる態様を包含するものである。
ところで,訂正明細書には,実施例として「原料茶において包種茶の配合量がほぼ100パーセントの半発酵茶を作製し,香りの好み,苦渋味の好み,飲んだ感じ(スッキリ感),総合飲用感についての官能試験を行った。試験は,対照物として現存のウーロン茶4種類を選び,これらと本発明に係る半発酵茶飲料につき,・・・・・なお,これらに含まれるテアニン量・タンニン量は,下記の表1の通りである。」(段落0026)と記載され,表1には,サンプルA,B,C,D,Qのテアニン量(mg/100ml)が,それぞれ0.660,0.652,1.358,1.809,3.254であること,サンプルA,B,C,D,Qのタンニン量(mg/100ml)が,それぞれ51.0,55.8,48.2,31.7,40.0であることが示されている。
上記実施例には,包種茶原料として特殊な包種茶を用いる旨の記載はなく,また,包種茶の茶葉成分を浸出させるに当たって特別な浸出手段を採用する旨の記載はないのであるから,極く普通の包種茶の茶葉(すなわち,包種茶の配合量が100重量%に相当)を通常の浸出方法により茶成分を浸出させた包種茶飲料に含まれるテアニン及びタンニン量を測定した結果を表1に記載したものと解するのが妥当である。
そうすると,極く普通の包種茶の茶葉(すなわち,包種茶の配合量が100重量%に相当)を通常の浸出方法により包種茶飲料を作製したときには,それに含まれるテアニン及びタンニン量は,訂正発明1で規定する範囲内にあるものということができる。
一方,引用例1に記載の1979年産の包種茶の上級茶,中級茶,下(上)級茶,下級茶,及び1980年産の包種茶の上級茶,中級茶,下級茶は,包種茶原料として極く普通のものと認められ,該包種茶原料から通常の浸出方法により作製された引用例1に記載の包種茶飲料には,上記実施例と同様に,訂正発明1で規定する範囲内のタンニン及びテアニンが含まれていると認めるのが相当である。
してみると,上記相違点(a)は,両者の実質的な相違点とはいえない。
なお,訂正発明1において,浸出前の原料において包種茶の配合量が100重量%であるものを用いる態様を除いた,「包種茶の配合量が50重量%以上である」ものを用いる態様について検討しても,「浸出前の原料として包種茶を50重量%以上配合したものを用い,かつ,浸出後の半発酵茶飲料中のタンニンの含有量が20から60mg/100mlに調整し,テアニンの含有量を2.00mg/100ml以上に設定する」ことは,以下に示すとおり,当業者が容易になし得ることである。
緑茶に含まれているテアニンには,茶の苦味,渋味を抑制する働きがあり,結果として緑茶の旨み,嗜好度に貢献していることが引用例2及び3に記載されていること,及びテアニンは茶の旨みの主成分であることが引用例4に記載されていることからすれば,半発酵茶飲料に含まれるテアニン量と該飲料の食味,食感とは密接に関連し,該テアニン量が半発酵茶飲料の食味,食感に大きな影響を及ぼすことは当業者なら容易に予想できることである。
してみると,半発酵茶飲料の食味,食感とテアニン含有量との関係を実験により確認して,テアニンの最適含有量を2.00mg/100ml以上に設定することは,当業者が容易になし得ることであり,そのために浸出前の原料として包種茶を50重量%以上配合することも,鳥龍茶の茶葉よりも包種茶の茶葉の方が多量のテアニンを含むことが引用例1に記載されていることを考慮すると,当業者において容易になし得ることである。
また,訂正明細書実施例の表1に示される包種茶100重量%の包種茶飲料及び現存のウーロン茶4種類に含まれるタンニン量は,すべて訂正発明1で規定する範囲内にあることからみて,「20から60mg/100ml」なる数値は,半発酵茶飲料に含まれるタンニン量として格別なものではなく,浸出後の半発酵茶飲料中のタンニン含有量を20から60mg/100mlに調整することは,当業者が適宜なし得ることである。
相違点(b)について 茶飲料をPETボトルに充填してPETボトル入り茶飲料とすることは,本件特許の出願時周知であったことからすれば,半発酵茶飲料をPETボトルに充填してPETボトル入り半発酵茶飲料とすることは,当業者が容易になし得ることである。
相違点(c)について 茶等の飲料を容器に充填する前にあらかじめ加熱殺菌処理することは当業者の慣用手段であることから,半発酵茶飲料を容器に充填する前に該飲料を加熱殺菌処理することは,当業者が容易になし得ることである。
そして,訂正発明1の「図1に示されるように,本発明に係る半発酵茶飲料は,PETボトル飲料の場合に,現存のウーロン茶よりも高い評価を得ている。」という効果は,単にPETボトルに充填した普通の包種茶飲料が現存のPETボトル入りウーロン茶飲料よりも食味,食感が優れていることをいっているにすぎない。
包種茶飲料は,本件特許の出願前に半発酵茶飲料として当業者において広く知られていたものであり,包種茶飲料をPETボトルに充填することもさきに説示したとおり,当業者において容易になし得ることである以上,上記効果は格別なものとはいえない。
また,PETボトル入り半発酵茶飲料が缶入り半発酵茶飲料に比べて食味,食感が優れているという訂正発明1の効果についても,かかる効果は,お茶などの流通容器として極く普通に用いられるPETボトルを採用したことにより必然的に生じた効果であって,格別なものとはいえない。
してみると,訂正発明1は,引用例1に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(3) 訂正発明2についての対比・判断 訂正発明2と引用例1に記載の発明を対比すると,両者は,半発酵茶飲料である点で一致し,(d) 前者は,浸出後の半発酵茶飲料中のテアニンの含有量を2.00mg/100ml以上に設定することによって,苦味と渋味が抑制させられ,すっきり感が増大された半発酵茶飲料とするのに対して,後者には,得られる半発酵茶飲料の1種である包種茶飲料にどの程度のテアニンが含まれるのか明らかでなく,また,苦味,渋味,すっきり感等の食味,食感について記載されていない点,(e) 前者は,PETボトル入り半発酵茶飲料であるのに対して,後者には,半発酵茶飲料をPETボトルに充填することについて記載されていない点,及び(f) 前者は,半発酵茶飲料をPETボトルに充填する前に該飲料を加熱殺菌処理するのに対して,後者には,この点について記載されていない点で,両者は相違する。
上記相違点について検討する。
相違点(d)について 上記相違点(a)の項に説示したとおり,引用例1に記載の半発酵茶飲料の1種である包種茶飲料には,訂正発明2で規定するテアニン量が含まれており,結果として,後者の半発酵茶飲料は,苦味と渋味が抑制され,すっきり感が増大したものと認められるので,上記相違点(d)は,両者の実質的な相違点とはいえない。
なお,上記相違点(d)が両者の実質的な相違点であるとしても,引用例1に記載の包種茶飲料中に含まれるテアニンの含有量を2.00mg/100ml以上に設定することによって,苦味と渋味が抑制させられ,すっきり感が増大された半発酵茶飲料とすることは,以下に示すとおり,当業者が容易になし得ることである。
緑茶に含まれているテアニンには,茶の苦味,渋味を抑制する働きがあり,結果として緑茶の旨み,嗜好度に貢献していることが引用例2及び3に記載されていること,及びテアニンは茶の旨みの主成分であることが引用例4に記載されていることからすれば,半発酵茶飲料に含まれるテアニン量と該飲料の食味,食感とは密接に関連し,該テアニン量が半発酵茶飲料の食味,食感に大きな影響を及ぼすことは当業者なら容易に予想できることである。
してみると,半発酵茶飲料の食味,食感とテアニン含有量との関係を実験により確認して,テアニンの最適含有量を2.00mg/100ml以上に設定することによって,苦味と渋味が抑制させられ,すっきり感が増大された半発酵茶飲料とすることは,当業者において容易になし得ることである。
相違点(e)及び(f)について 訂正発明1の相違点(b)及び(c)に説示したとおりの理由で,半発酵茶飲料をPETボトルに充填してPETボトル入り半発酵茶飲料とすること,及び半発酵茶飲料をPETボトルに充填する前に該飲料を加熱殺菌処理することは,当業者が容易になし得ることである。
そして,訂正発明2は,訂正発明1と同様の理由で,格別の効果を奏するものではない。
してみると,訂正発明2は,引用例1に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4) 訂正発明3についての対比・判断 訂正発明3と引用例1に記載の発明を対比すると,両者は,テアニンを含む半発酵茶飲料に関する技術である点で一致し,(g) 前者は,テアニンの含有量を2.00mg/100ml以上に設定することにより,半発酵茶飲料の苦味と渋みを抑制し,すっきり感を増大させるのに対して,後者には,この点の記載がない点,及び (h) 前者は,PETボトル入り半発酵茶飲料であるのに対して,後者には,半発酵茶飲料をPETボトルに充填することについて記載されていない点,(i) 前者は,半発酵茶飲料をPETボトルに充填する前に該飲料を加熱殺菌処理するのに対して,後者には,この点について記載されていない点で,両者は相違する。
上記相違点について検討する。
相違点(g)について 緑茶に含まれているテアニンには,茶の苦味,渋味を抑制する働きがあり,結果として緑茶の旨み,嗜好度に貢献していることが引用例2及び3に記載されていること,及びテアニンは茶の旨みの主成分であることが引用例4に記載されていることからすれば,半発酵茶飲料に含まれるテアニン量が該飲料の食味,食感に大きな影響を及ぼすことは当業者なら容易に予想できることである。
してみると,半発酵茶飲料の食味,食感とテアニン含有量との関係を実験により確認することにより,最適なテアニン含有量を2.00mg/100ml以上に設定して,半発酵茶飲料の苦味と渋みを抑制し,すっきり感を増大させることは,当業者において容易になし得ることである。
相違点(h)及び(i)について 訂正発明1の相違点(b)及び(c)に説示したとおりの理由で,半発酵茶飲料をPETボトルに充填してPETボトル入り半発酵茶飲料とすること,及び半発酵茶飲料をPETボトルに充填する前に該飲料を加熱殺菌処理することは,当業者が容易になし得ることである。
そして,訂正発明3は,訂正発明1と同様の理由で,格別の効果を奏するものではない。
してみると,訂正発明3は,引用例1ないし4に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(5) 審決のむすび 以上のとおり,訂正後の請求項1ないし3に係る発明は,上記引用例1ないし4に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって,本件審判の請求は,同法126条4項の規定に適合しない。
原告主張の審決取消事由
1 取消事由1(相違点(a)の判断の誤り) (1) 審決は「引用例1に記載の包種茶飲料には,・・・訂正発明1で規定する範囲内のタンニン及びテアニンが含まれていると認めるのが相当である」と認定し,「してみると,上記相違点(a)は実質的な相違点ではない」と判断した。しかし,この認定判断は誤りである。
訂正発明1は「PETボトル用加熱殺菌処理後」のものであり,引用例1に係る飲料はかかる工程を経ていないものである。
テアニン及びタンニンの含有量が加熱によって変化することは,当業者において周知なものである。両者は代謝的に表裏の関係にあり,テアニンはタンニンに代謝転換され,その代謝は温度が高くなるにつれて促進されるものである(甲第8号証)。すなわち,熱を加えることにより,タンニン及びテアニンの含有量は変化してしまうことが公知の事実として存在している。
淹れたての茶と加熱殺菌処理工程を経た茶とでは,成分の含有量も相違してくるはずであるにもかかわらず,審決においてはかかる点について留意されていない。
訂正発明1に係る飲料は加熱殺菌処理を経たものであり,引用例1に係る飲料はかかる工程を経ていないものであるにもかかわらず,その相違を看過して「引用例1に記載の包種茶飲料には,訂正発明1で規定する範囲内のタンニン及びテアニンが含まれていると認めるのが相当である」とした審決の認定は,誤りである。
(2) 審決は,「緑茶に含まれているテアニンには,・・・緑茶の旨み,嗜好度に貢献していることが引用例2及び3に記載されていること,及び,テアニンは茶の旨みの主成分であることが引用例4に記載されていることからすれば,半発酵茶飲料に含まれるテアニン量と該飲料の食味,食感とは密接に関連し,該テアニン量が半発酵茶飲料の食味,食感に大きな影響を及ぼすことは当業者なら容易に予想できることである」と判断して「テアニンの最適含有量を2.00mg/100ml以上に設定することは,当業者が容易になし得ること」であると判断した。しかし不発酵茶である緑茶と半発酵茶とが異なる飲料であることを充分に理解している当業者が,緑茶とテアニンとの関係が半発酵茶にそのまま転用できると予想するとは考えられないから,審決の上記判断は誤りである。
包種茶と緑茶とは,そもそも品質の判断基準が異なる性質である。
旨みが品質を左右する緑茶とテアニン量との間における密接な関連を示す文献や研究報告(引用例2,3)があるからといって,香りが品質を左右する包種茶においてテアニン量が風味にどのような影響を及ぼすのかは当業者が容易に予測することはできない。緑茶と包種茶における成分含有量は,例えば加水分解型タンニンの量は玉露において包種茶よりも3倍以上と大変多くなっているなど,大きく相違する(甲第7号証)。
香りが品質を左右する包種茶においても旨み成分であるテアニンが「包種茶の食味,嗜好度に影響を及ぼす成分であると当業者が考えるのが普通である」と判断することは,茶の種類ごとに製造工程,品質管理等を異ならしめている当業者の常識を無視したものである。
「半発酵茶飲料に含まれるテアニン量・・・が半発酵茶飲料の食味,食感に大きな影響を及ぼすことは当業者なら容易に予想できることである」とした認定は誤りであるから,その認定を根拠に「テアニンの最適含有量を2.00mg/100ml以上に設定することは,当業者が容易になし得ること」であるとの判断も誤りである。
各引用例においては,茶にテアニンが所定量含有されていることは記載されている。しかし,いずれの引用例のどこにもテアニンを訂正発明1の好適な数値にするということについては開示されていない。
引用例4にはテアニン量の数値は記載されているが,「テアニンとして0.001重量%以上であれば充分な効果を得ることができる」,「テアニンの特有の旨味と経済性を考慮すると一般的に製品に対して5重量%程度を超えないことが好ましい」,「本発明の風味改良剤がその効果を充分に発揮するためには,テアニンを製品に対して0.001重量%〜5重量添加することが好ましい。さらに望ましくは0.001重量%〜0.5重量%添加することが好ましい。また,0.001重量%〜0.05重量%とすることが最も好ましい」(【0009】)との記載があり,訂正発明1の2.00mg/100ml以上のように,単にテアニンが多ければよいということは示されていない。
引用例2においても,テアニンの添加量による呈味構造につき,「浸出温度を変えることにより,苦味,渋味を増加させることは可能であったが,うま味,甘味を増加させることは困難であり,テアニンを添加してもうま味,甘味があまり増加しなかった」(478頁右欄10行〜480頁左欄2行)ことが記載されており,単にテアニンを多量に入れるだけでは好適な緑茶を製造することはできないことが明らかにされている。
(3) 審決は,テアニンの最適含有量を設定するために「浸出前の原料として包種茶を50重量%以上配合することも,烏龍茶の茶葉よりも包種茶の茶葉の方が多量のテアニンを含むことが引用例1に記載されていることを考慮すると,当業者において容易になし得ることである」と断じたが,誤りである。
引用例2から4において示される緑茶におけるテアニン量の調整は,テアニンのみを抽出して添加したりする複雑な方法を経るものである。そして,緑茶でさえも単にテアニンの含有量を増やすだけでは好適な飲料とすることができないことが示されている。
茶葉の量を調整するだけでテアニン量が好適に調整できることが記載されていない以上,テアニン量を最適な量に調整する手段として包種茶葉を用いることも,当業者において容易になし得ることということはできないはずである。
ただ「テアニンを多く含むから」という理由だけで包種茶の茶葉を用いて好適な半発酵茶を製造できると,茶飲料における風味調整の困難性を熟知している当業者が容易に想到するとは考えられない。
訂正発明1は,「テアニンの含有量を所定量以上に設定することによって・・・今までよりもマイルドな風味の半発酵茶が得られること,そしてそれは通常のウーロン茶よりも発酵度の低い包種茶を50%以上配合することによって容易に実現することができることを見いだし,本発明を完成するに至った」(【0006】)のであって,各引用例で示される複雑な方法を経ることなく,「テアニン及びタンニンの含量を一定量に設定すること」を積極的な調整・設定を行うことなく,単に包種茶葉量の調整という簡易な手段によってテアニンの調整を可能としている。
(4) 審決は,「実施例の表1に示される包種茶及びウーロン茶4種類に含まれるタンニン量は,すべて訂正発明1で規定する範囲内にあることからみて,半発酵茶飲料に含まれるタンニン量として格別なものではなく,浸出後の半発酵茶飲料中の含有量を20から60mg/100mlに調整することは,当業者がなし得ることである」と判断した。
この判断も,実施例のものはすべて加熱殺菌処理を経たものであることを看過したものであり,誤りである。
2 取消事由2(訂正発明1の進歩性の判断の誤り) 審決は「茶飲料をPETボトルに充填してPETボトル入り茶飲料とすることは本件特許の出願時周知」であり,「茶等の飲料を容器に充填する前にあらかじめ加熱殺菌処理することは当業者の慣用手段」であるから,相違点(b)及び相違点(c)は,「当業者が容易になし得ることである」と判断した。
茶飲料をPETボトルに充填してPETボトル入り茶飲料とするためには,あらかじめ加熱殺菌処理を施さなければならない。このこと自体は,確かに本件特許の出願時周知であったものということもできる。
しかしながら,上述したように,半発酵茶飲料に加熱殺菌処理を施した後に所定のテアニン及びタンニン量を含有した状態にするということと,加熱殺菌処理を施す前に所定のテアニン及びタンニン量とするということとは,異なる。
半発酵茶飲料に加熱殺菌処理を施した後に所定のテアニン及びタンニン量を含有した状態にすることは,当業者が適宜なし得るということはできない。不発酵茶である「緑茶」と「半発酵茶」とはその品質,性質を異にするものであり,容器詰めにして販売ルートに乗せるに当たり,その取扱いを異ならせるというのが当業者の常識と考えられる。
このようなことから,「半発酵茶飲料をPETボトルに充填してPETボトル入り半発酵茶とすること」や「半発酵茶飲料を容器に充填する前に該飲料を加熱殺菌処理すること」自体は当業者がなし得ることであったとしても,訂正発明1に係る効果を奏する状態においてかかる作業を行うことは,当業者が容易になし得ることではない。
したがって,上記相違点についての審決の判断は誤りである。 3 取消事由3(訂正発明2の進歩性の判断の誤り) (1) 審決は,「引用例1に記載の半発酵茶飲料の1種である包種茶飲料には,訂正発明2で規定するテアニン量が含まれており,結果として苦味と渋味が抑制され,すっきり感が増大したものと認められる」と認定し,「相違点(d)は実質的な相違点とはいえない」と判断する。
しかし,訂正発明2は「加熱殺菌処理」を経たものであるが,引用例1には加熱殺菌処理については記載されていない。
茶飲料は加熱殺菌処理工程を経ることにより風味に影響が出るものであり,「すっきり感」も加熱殺菌処理工程で害される可能性が高い。事実,実施例で示されるウーロン茶のみで作成された半発酵茶飲料では,すっきり感が損なわれている。
加熱殺菌処理工程の有無によって訂正発明2に係る飲料と引用例1に記載された飲料とは明らかに相違するものであるにもかかわらず,審決は加熱殺菌処理工程の有無の相違を看過し,「相違点(d)は実質的な相違点とはいえない」と誤って判断したものである。
(2) 審決は,「テアニンの含有量を2.00mg/100ml以上に設定することによって,苦味と渋味が抑制させられ,すっきり感が増大された半発酵茶飲料とすることは,・・・当業者において容易になし得ることである」と判断した。
しかし,訂正発明2は加熱殺菌処理後のテアニン量が所定以上とされているものである。
このテアニン量の調整によって加熱殺菌処理後の半発酵茶の苦味と渋味を抑制させるということが容易であるということはできない。 また「すっきり感」とは,飲んだ瞬間に感じるものではなく,喉を通過して「飲んだ」に至った状態の「喉越し」に重点がおかれたものである。訂正発明2は,茶飲料についても「飲んだ後の感じ」を改善した,最初の半発酵茶飲料である。そしてこの「すっきり感」は,缶飲料とした場合には維持できないような微妙な味である。訂正発明2はかかる繊細な味覚に着目して,テアニンを所定量に設定することによりその増大を可能としたのである。
これに対し,引用例1〜4に記載されている発明は,すべて,旨味,呈味,苦味,渋味などを飲むとき(茶を口に含んだ瞬間)に感じられる感覚,すなわち舌の上で味わうものにすぎない。訂正発明2によって従来看過されていた「飲んだ後の感じ」が増大されたことは,実質的な差異である。
(3) 審決は,「緑茶に含まれているテアニンには,茶の苦味,渋味を抑制する働きがあり・・・半発酵茶の食味,食感に大きな影響を及ぼすことは当業者なら容易に予想できることである」と判断して「半発酵茶飲料の食味,食感とテアニン含有量との関係を実験で確認して」最適なテアニン含有量を設定し,「苦味と渋味が抑制させられ,すっきり感が増大された半発酵茶飲料とすることは,当業者において容易になし得ることである」と判断した。しかし,不発酵茶である緑茶と半発酵茶との相違にかんがみれば,誤りである。
半発酵茶の風味を調整しようとすること自体も容易になし得るものではない。そして,半発酵茶の特性や飲料業界の常識にかんがみれば,半発酵茶飲料の食味や食感とテアニン含有量との関係を予測することは,当業者にとって容易なものではない。
したがって,実験により確認して最適なテアニン含有量を設定し,苦味と渋味を抑制してすっきり感を増大させることは「当業者に容易になし得ることである」こと自体も,容易になし得るものではない。
このようなことを容易とする認定判断は,訂正発明2の内容を見た後にされたものであり,典型的な後知恵(hind-sight)であって,特許庁の審査官や審判官が起こす判断ミスの典型例である。
(4) 相違点(e)及び相違点(f)は,上述の相違点(b)及び相違点(c)について述べたのと同様に,実質的な相違であり,「当業者が容易になし得ることである」とする判断は誤りである。
4 取消事由4(訂正発明3の進歩性の判断の誤り) (1) 訂正発明3は,「すっきり感を増大した」半発酵茶飲料の製造方法であり,「すっきり感を増大した」とは,従来の茶飲料においては考慮されていなかった「飲んだ(後の)感じ」を改善したものである。
そしてこの「すっきり感」は,図1において明らかにされているように,PETボトル入り飲料とした場合には維持できるものの缶飲料とした場合には維持できないような微妙な味であり,訂正発明3はかかる繊細な味覚に着目して,これを,テアニンを所定量に設定することによりその増大を可能とした方法である。
これに対し,引用例1から4に記載されている発明は,すべて,旨味など舌の上で味わうものにすぎず,飲んだ感じ,すなわち舌の上を通過した後の感じについては何ら記載も示唆もされていない。このように,訂正発明3によって増大が可能となった「すっきり感」は従来看過されていた味なのであり,この有無は,実質的な差異である。
また,半発酵茶飲料の食味や食感とテアニン含有量との関係は,半発酵茶の特性や飲料業界の常識にかんがみれば,予測することは当業者にとって容易なものではない。したがって,実験により確認して最適なテアニン含有量を設定し,苦味と渋味を抑制してすっきり感を増大させることは「当業者に容易になし得ることである」とする審決の判断は誤りである。
(2) 相違点(h)及び相違点(i)は,相違点(b)及び(c)について述べたのと同様に,実質的な相違であり,「当業者が容易になし得ることである」とする判断は誤りである。
当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点(a)の判断の誤り)について (1) 原告は,茶におけるタンニン及びテアニン量は加熱により変化するものであるから,この点に触れずに引用例1の包種茶原料から通常の浸出方法により作製された包種茶飲料のタンニン及びテアニン量は訂正発明1で規定する範囲内であるとする審決の認定は誤りであり,その認定に基づく上記判断も誤りであると主張する。
ここで,請求項1においてタンニン及びテアニン量の範囲を規定する構成,「タンニンの含有量が20から60mg/100mlに調整されていて,テアニンの含有量が2.00mg/100ml以上に設定される」は,その記載から「PETボトル充填用加熱殺菌処理後のPETボトル入り半発酵茶飲料」の構成を規定するものであることは明らかである。
してみると,訂正発明1で規定するタンニン及びテアニン量は「PETボトル充填用加熱殺菌処理」の後の半発酵茶飲料におけるものであると認められる。
審決の「引用例1に記載される包種茶原料から通常の浸出方法により作製された引用例1に記載された包種茶飲料」が「PETボトル充填用加熱殺菌処理」を経たものであるか否かいずれであるかについては明らかではない。
そして,引用例1の包種茶原料から通常の浸出方法により作製された「PETボトル充填用加熱殺菌処理」前の包種茶飲料のタンニン及びテアニン量は訂正発明1で規定する範囲内のものである点について原告が争うところではなく,後記(2)に判示するとおり,「PETボトル充填用加熱殺菌処理」によって半発酵茶飲料におけるタンニン及びテアニン量が変化するものではないから,「PETボトル充填用加熱殺菌処理」を経たものであるか否かいずれにしても,引用例1に記載の包種茶飲料には,「訂正発明1で規定する範囲内のタンニン及びテアニンが含まれていると認めるのが相当である」とした審決の認定に誤りはない。
(2) 原告は,茶における加熱によりタンニン及びテアニン量は変化するものであると主張しており,その根拠として「茶の科学」1991年3月15日発行(甲第8号証。以下「甲8文献」という。)を提出する。
甲8文献は茶樹の葉における酸化酵素が関与するテアニンからカテキンを中心としたポリフェノールへの代謝について記載するものであり(35頁1行〜7行),原告が上記主張の根拠とする「テアニンの代謝は温度によって明らかに影響を受け,気温が高いほど,温度が10°上がれば10日速く,代謝は促進する」(同頁下から5行〜2行)との記載は,上記テアニンからカテキンを中心としたポリフェノールへの代謝速度における気温(図2.25によれば20℃と30℃)の影響についての記述である。
しかしながら,この記載からは,茶樹の葉におけるテアニンのカテキンを中心としたポリフェノールへの代謝が気温が20℃より30℃の方が速いことが認められるにすぎず,茶葉の浸出物である茶飲料におけるテアニンの温度による変化について,しかも「135℃で30秒程度の短時間の超高温」のような高温,短時間の「PETボトル充填用加熱殺菌処理」条件におけるテアニンの温度による変化について示唆するものではない。
他に,原告の主張を認めるべき証拠はない。
訂正明細書(甲第9号証)の記載をみても,包種茶飲料を含め半発酵茶飲料におけるタンニン及びテアニン量が「PETボトル充填用加熱殺菌処理」により変化することを認めることはできない。むしろ訂正明細書の記載によれば,当業者には,半発酵茶飲料におけるタンニン及びテアニン量は「PETボトル充填用加熱殺菌処理」の前後で変化するとの認識はなかったことがうかがわれる。
(3) 原告は審決の相違点(a)の判断のうち,なお書きの説示について縷々主張する。
審決のここでの説示は,上記「訂正発明1において,浸出前の原料において包種茶の配合量が100重量%であるものを用いる態様」を除いた,「包種茶の配合量が50重量%以上であるものを用いる態様」について検討し,その判断を記載するものである。
訂正発明1に包含されることが明らかな「浸出前の原料として包種茶の茶葉のみからなるもの,すなわち包種茶の配合量が100重量%のものを用いる態様」についての相違点(a)の判断は,上記のとおり誤りがないのであるから,原告のこれらの主張を検討するまでもなく,相違点(a)の判断に誤りはない。
2 取消事由2(訂正発明1の進歩性の判断の誤り)について (1) 原告の主張は,相違点(b)及び相違点(c)に関する構成は周知慣用手段であるとしても,これらの構成を適用した結果,所定量のタンニン及びテアニンを含む半発酵茶飲料とした点に顕著な効果があるから,審決の訂正発明1についての進歩性の判断は誤りであるというにある。
そこで判断するに,まず,包種茶飲料は本件特許の出願時において茶飲料の一種として周知である(刊行物1,乙第1号証,乙第2号証参照)。
一方茶飲料において,PETボトルや缶等の密封容器に充填されて流通,販売されることが本件特許の出願時周知であり,それらの密封容器への充填前又は充填後に茶飲料を加熱殺菌処理をすることも,当業者の慣用手段であったものである(弁論の全趣旨。審決が認定するところであり,原告はこの点を争っていない。)。
そして,半発酵茶飲料におけるタンニン及びテアニン量は「PETボトル充填用加熱殺菌処理」により変化するとは認められないことは,取消事由1に関して説示したとおりである。その他,少なくとも「PETボトル充填用加熱殺菌処理」して「PETボトル入り」とすることにより半発酵茶飲料が劣化するなど,相違点(b)及び相違点(c)に関する構成の包種茶飲料への適用を阻害する特段の要因も認めることはできない。
そうすると,本件特許の出願時に周知である包種茶原料から通常の浸出方法により作製された包種茶飲料について,密封容器に充填して流通,販売しようとすること,そのとき従来茶飲料におけるようにPETボトルや缶等の密封容器に充填すること,それらの密封容器への充填前又は充填後に茶飲料を加熱殺菌処理をすること,すなわち包種茶飲料を「PETボトル充填用加熱殺菌処理後のPETボトル入り」とすることは,当業者にとって容易に想到し得ることであるというべきである。
そして,刊行物1の包種茶原料から通常の浸出方法により作製された包種茶飲料には「PETボトル充填用加熱殺菌処理後のPETボトル入り」とする前においても後においても,訂正発明1で規定する範囲内のタンニン及びテアニンが含まれていると認められることは,前記説示のとおりである。したがって,「PETボトル充填用加熱殺菌処理後のPETボトル入り」の包種茶飲料は,「タンニンの含有量が20から60mg/100mlに調整されていて,テアニンの含有量が2.00mg/100ml以上に設定される」と認めることができる。
したがって,当業者にとって「タンニンの含有量が20から60mg/100mlに調整されていて,テアニンの含有量が2.00mg/100ml以上に設定される」ところの「PETボトル充填用加熱殺菌処理後のPETボトル入り」の包種茶飲料とすること,すなわち訂正発明1の1つの態様の構成とすることは容易になし得たことというべきである。
(2) 訂正発明1の効果についてみるに,まず訂正発明1の上記1つの態様が現実に有する効果が,当該構成「PETボトル充填用加熱殺菌処理後のPETボトル入り」としたものの効果として予想されるところと比べて格段に異なるものであるかについて検討する。
ここで,「PETボトル充填用加熱殺菌処理」をしていない包種茶飲料を含め本件特許の出願時周知の茶飲料について,「PETボトル充填用加熱殺菌処理後のPETボトル入り」としたときに何らかの変化があることを示す証拠は存在しないので,包種茶飲料を「PETボトル充填用加熱殺菌処理後のPETボトル入り」とした場合も,本件特許の出願時周知の茶飲料に,相違点(b)及び相違点(c)に関する構成を適用した場合と同様,実質的に変化はないというのが予想されたというべきである。
してみると,包種茶飲料を「PETボトル充填用加熱殺菌処理後のPETボトル入り」とした訂正発明1の上記1つの態様が有する現実の効果が,訂正発明1の包種茶飲料に上記構成を採用したものの効果として予想されるところと比べて格段に異なるというためには,訂正発明1の上記1つの態様が現実に有する効果が包種茶飲料を「PETボトル充填用加熱殺菌処理後のPETボトル入り」とする前に比べて,何らかの評価において格別の向上が認められる等の格段の効果が認められなければならない。そこで,次にこの点について検討してみる。
(3) 甲第1号証及び甲第9号証によれば,訂正明細書には,「PETボトル充填用加熱殺菌処理後のPETボトル入り」の構成に基づく効果に関して以下の記載があることが認められる。
a「[密封容器への充填]缶やPETボトル(ペットボトル)などの密封容器への充填は,常法に従い,浸出により得られた原液を純水で飲用濃度まで希釈し,ビタミンCなどの酸化防止剤等を適宜添加してから行う」(【0023】) b「PETボトルに充填する場合と缶に充填する場合とを比較した場合の工程上における相違は,加熱殺菌してから,殺菌された容器に充填するか(PETボトルに充填する場合),容器に充填してから容器ごと加熱殺菌(レトルト殺菌)を行うか(缶に充填する場合),ということである。そして,前者は135℃で30秒程度の短時間の超高温殺菌に供するのに対し,後者は120℃で7〜10分程度の加熱を行う」(【0024】) c「同じ密封容器であっても,本発明に係る半発酵茶飲料においては,後の実施例に示すように,缶に充填した場合よりもPETボトルに充填したほうが需要者の評判がよい。この原因は,茶系飲料の缶ドリンクにある特有のレトルト臭によるもの等,種々の要因が考えられるが明らかではない。しかしながら,いずれにしても,従来のウーロン茶飲料等の半発酵茶飲料では充填容器の相違に起因する消費者の評価について客観的かつ顕著な相違は見られないのであるから,このことは本発明に係る半発酵茶飲料について特有のものと認められる」(【0025】) d「【実施例】原料茶において包種茶の配合量がほぼ100パーセントの半発酵茶飲料を作製し,香りの好み,苦渋味の好み,飲んだ感じ(スッキリ感),総合飲用感についての官能試験を行った。試験は,対照物として現存のウーロン茶4種類を選び,これらと本発明に係る半発酵茶飲料につき,缶飲料とPETボトル飲料のそれぞれについて行った。なお,これらに含まれるテアニン量・タンニン量は,下記の表1の通りである。パネラーは30名,評価は7段階のモナディック評価により行ってもらった」(【0026】) e「【発明の効果】図1に示されるように,本発明に係る半発酵茶飲料は,PETボトル飲料の場合に,現存のウーロン茶よりも高い評価を得ている。従って,本発明によれば,現在の消費者の好みにマッチした半発酵茶飲料(特に,密閉容器入り半発酵茶飲料)が提供されたことになる」(【0029】) (4) 以上の記載によれば,実施例においてPETボトルに充填した包種茶飲料Qは表1のタンニン及びテアニン量からみて訂正発明1の上記1つの態様の例と認められる。
「パネラーは30名,評価は7段階のモナディック評価」した結果を示す【図1】の評価によれば,このPETボトルに充填した包種茶飲料Qは,缶に充填したものより「香りの質の好み」,「苦渋味の好み」,「飲んだ感じ」,「総合」いずれの項目においても評価の値が高いことが認められ,「缶に充填した場合よりもPETボトルに充填したほうが需要者の評判がよい」との所見が得られている。また,PETボトルに充填したウーロン茶飲料A,B,C,Dよりも,いずれの項目においても評価の値が高く,一応「ウーロン茶よりも高い評価を得ている」との所見が得られている。
しかし,これらの所見は,包種茶飲料を含め半発酵茶飲料において「PETボトル充填用加熱殺菌処理後のPETボトル入り」とする構成の適用する前と比較して後において,何らかの評価が向上したことを示すものではない。
訂正明細書実施例には「PETボトル入り」の訂正発明1の包種茶飲料Q及びウーロン茶飲料A〜D4種については「PETボトル充填用加熱殺菌処理」前のもの,「PETボトル充填用加熱殺菌処理」後であって「PETボトル入り」とする前のものいずれについても上記各評価は記載されていない。その他,訂正明細書その他の証拠によっても,包種茶飲料において上記構成の適用する前と比較し,その後において,何らかの評価が向上した等効果が格段に異なることを認めることはできない。
以上のとおり,訂正発明1の上記1つの態様に観察された効果が,包種茶飲料を「PETボトル充填用加熱殺菌処理後のPETボトル入り」としたものの効果として予想されるところと比べて格段に異なるものと認めることはできない。
(5) 原告は,加熱殺菌処理を施した半発酵茶飲料の「タンニンの含有量が20から60mg/100mlに調整されていて,テアニンの含有量が2.00mg/100ml以上に設定される」という所定のテアニン及びタンニン量を含有した状態にすることにより苦味と渋味が抑制され,すっきり感が増大した茶飲料を得ることができたものであることを,訂正発明1の格別の効果である旨主張する。
しかしながら,原告のこの主張は,以下のとおり根拠がないものである。
上記のとおり訂正明細書実施例においてPETボトルに充填した包種茶飲料Qは,PETボトルに充填したウーロン茶飲料A〜Dに比べて,評価の値が概ね大きいことが認められる(【図1】) しかし,これら包種茶飲料Q,ウーロン茶飲料A〜Dの評価をみても,各茶飲料におけるタンニン及びテアニン量と各評価項目における評価の値との間に相関があることは認められない。すなわち,タンニン及びテアニン量と苦味と渋味が抑制され,すっきり感が増大した茶飲料とすることとの間に関連があるかについて確認することはできない。
(ア) テアニン量について 「PETボトル入り」の各茶飲料におけるテアニン量(mg/100ml)は包種茶飲料Qのみ訂正発明1で規定する範囲内であって,ウーロン飲料茶B(0.652)<同A(0.660)<同C(1.358)<同D(1.809)<(2.00)<包種茶飲料Q(3.254)の順に増大することが認められる(【表1】)。
【表1】 しかし,各茶飲料におけるテアニン量と苦み,渋み(評価項目「苦渋味の好み」が相当すると認められる。)及び,すっきり感(評価項目「飲んだ感じ」に相当。
【0026】)等の評価はこの順になっていない。例えば,それら茶飲料の「苦渋味の好み」の評価項目において評価はウーロン茶飲料B<同A<同D<同C<包種茶飲料Qの順であって,ウーロン茶D,Cにおいて逆転が認められる。また,「すっきり感」の評価項目において評価はウーロン茶飲料D<同B=同C<同A<包種茶飲料Qの順である。その他の評価項目いずれにおいても,各茶飲料におけるテアニン量と評価の値との間に相関があることは認められない。
(イ) タンニン量について 「PETボトル入り」の各茶飲料におけるタンニン量(mg/100ml)は,いずれも訂正発明1で規定する範囲内であって,(20)<ウーロン茶飲料D(31.7)<包種茶飲料Q(40.0)<ウーロン茶飲料C(48.2)<同A(51.0)<同B(55.8)<(60)の順に増大することが認められる(【表1】)。
しかし,各茶飲料におけるタンニン量と苦み,渋み及び,すっきり感等の評価の間に相関があることは認められない。例えば,それらの「苦渋味の好み」は上記のとおりウーロン茶飲料B<同A<同D<同C<包種茶飲料Qの順,「すっきり感」の評価はウーロン茶飲料D<同B=同C<同A<包種茶飲料Qの順である(【図1】)。その他の評価項目いずれにも,各茶飲料におけるタンニン量との間に相関があることは認められない。
その他タンニン及びテアニン量と,苦味と渋味が抑制されすっきり感が増大した茶飲料とすることとの間に関連があることを認めるに足りる証拠はない。
(6) 訂正明細書には,訂正発明1で規定するタンニン及びテアニン量を含有した包種茶飲料Q1例についてPETボトルに充填したもの及び缶に充填したものについての評価の値が記載されている。それらのタンニン及びテアニンの量は両者同じである(【表1】)。それにもかかわらず,上記評価項目における評価の値は両者相違することが認められる。ウーロン茶飲料A〜Dについても,PETボトルに充填したもの及び缶に充填したものとタンニンやテアニンの量は同じである(【表1】)にもかかわらず,評価の値は相違することが認められる。
そうであれば,上記評価項目の評価は,各茶飲料におけるタンニンやテアニン量以外のものにより影響されているものというべきである。すなわち,苦味と渋味が抑制され,すっきり感が増大した茶飲料であることがタンニンやテアニン量以外のものによる効果であることも認められるのである。
してみれば,「PETボトル入り」の包種茶飲料Qが,苦み,渋みが抑制され,すっきり感が「PETボトル入り」ウーロン茶飲料A〜Dに比較して,良好であるという評価が認められるとしても,何によってその効果がもたらされたものであるのかは明らかではなく,少なくともそれが訂正発明1で規定するタンニンやテアニンの量を含むことによるものであると明確には認めることはできない。
以上のとおり,所定のタンニン及びテアニン量を含有した状態にすることにより苦味と渋味が抑制され,すっきり感が増大した茶飲料を得ることができたとの原告の主張は,理由がない。
(7) したがって,相違点(b)及び相違点(c)を当業者が容易になし得ることと認め,その効果も格別のものとはいえないから,「訂正発明1は引用例1に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである」とした審決の判断に,誤りはない。
3 取消事由3(訂正発明2の進歩性の判断の誤り)について (1) 原告は,審決が相違点(d)について「引用例1に記載の・・・包種茶飲料には,訂正発明2で規定するテアニン量が含まれており,結果として,後者の半発酵茶飲料は,苦味と渋味が抑制され,すっきり感が増大したものと認められるので,上記相違点(d)は,両者の実質的な相違点とはいえない」とした判断は誤りである,と主張する。
しかし,前記説示のとおり,引用例1に記載の包種茶飲料には,訂正発明2に規定するテアニン量が含まれている。そして,そのテアニン量は,刊行物1の包種茶原料から通常の浸出方法により作製された包種茶飲料に含まれる量である。一方で,そのテアニン量が所定量以上に設定したことと包種茶飲料の上記評価項目における評価の間には相関は認められないことも前記説示のとおりである。
そうすると,刊行物1の包種茶原料から通常の浸出方法により作製された包種茶飲料を「PETボトル入り」の飲料としたものは,訂正発明2で規定するテアニンを含むものであると認められ,苦みと渋みが抑制され,すっきり感の増大したものとなると認められる。よって,相違点(d)に関する審決の上記判断に誤りはない。
(2) 原告は,審決の相違点(d)の判断のうち,なお書きの記載について縷々主張する。
審決のここにおける説示は,訂正発明2において,浸出前の原料において包種茶の配合量が100重量%であるものを用いる態様を除いた,包種茶の配合量が50重量%以上であるものを用いる態様に関するものである。
しかしながら,上記のとおり,審決の訂正発明2に包含される包種茶の配合量が100%の態様についての判断に誤りがないのであるから,原告のこれらの主張を検討するまでもなく,相違点(d)の判断に誤りがあるとすることはできない。
(3) そして相違点(e)及び相違点(f)の判断が誤りであるとする主張は,訂正発明1と引用例1に記載された発明との相違点(b)及び相違点(c)の判断が誤りであるとする主張と同様の理由により,理由がない。
4 取消事由4(訂正発明3の進歩性の判断の誤り)について (1) 原告は,相違点(g)について訂正発明3は,テアニンを所定量に設定することによりすっきり感の増大を可能とした方法であると主張する。
しかし,上記のとおり,テアニンを所定量に設定することと,すっきり感の増大,さらに苦みと渋みとの間には相関を認めることができない。訂正発明3は,刊行物1の包種茶原料から通常の浸出方法により作製された包種茶飲料を「PETボトル入り」飲料とする方法にすぎないといわざるを得ない。
(2) 相違点(h)及び相違点(i)の判断が誤りであるとする主張は,訂正発明1と引用例1に記載された発明との相違点(b)及び相違点(c)の判断が誤りであるとする主張についてと同様の理由により,理由がない。
(3) よって,訂正発明3に関する審決の判断に原告主張の誤りはない。
結論
以上のとおり,原告主張の審決取消事由は理由がないので,原告の請求は棄却されるべきである。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 塩月秀平
裁判官 野輝久