運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

関連ワード 公知技術 /  技術的範囲 /  発明の詳細な説明 /  発明の利用 /  実施料相当額 /  参酌 /  均等 /  置き換え /  置換 /  置換可能性 /  同一の作用効果 /  容易に想到(容易想到性) /  意識的除外(意識的に除外) /  不存在 /  特許発明 /  実施 /  加工 /  構成要件 /  差止請求(差止) /  侵害 /  損害額 /  実施料 /  不法行為(民法709条) /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 /  減縮 /  異議申立 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 平成 11年 (ネ) 3750号 差止請求権不存在確認等請求,特許権侵害行為差止等請求控訴事件
控訴人(本訴被告・反訴原告) 株式会社ハマキャスト
訴訟代理人弁護士 白波瀬文夫
同 山上和則
補佐人弁理士 池内寛幸
被控訴人(本訴原告・反訴被告) 恒和化学工業株式会社
訴訟代理人弁護士 上原洋允
同 水田利裕
同 小杉茂雄上原洋允訴訟復代理人弁護士 川西絵理
補佐人弁理士 安田俊雄
同 喜多秀樹
裁判所 大阪高等裁判所
判決言渡日 2001/04/17
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原判決主文第1項のうち、控訴人は、被控訴人が原判決添付別紙目録1記載の吹き付け塗装方法を実施することが、控訴人の有する特許第2119087号の特許権を侵害する旨を、文書又は口頭により、第三者に対して告知し又は流布してはならない旨命じた部分を取り消す。
2 前記取消部分に係る被控訴人の請求を棄却する。
3 控訴人のその余の本件控訴をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は、第1,第2審を通じてこれを10分し、その1を被控訴人の負担とし、その余を控訴人の負担とする。
事実及び理由
控訴の趣旨
1 原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。
2 被控訴人の本訴請求のうち、原判決主文第1項に係る請求を棄却する。
3 被控訴人は、別紙目録2記載の方法を用いて混合材を塗布し又は第三者をして塗布させてはならない。
4 被控訴人は、別紙目録3記載の方法を用いて混合材を塗布し又はこれによって得られる自然石材調外壁板を販売してはならない。
5 被控訴人は、別紙目録2、3記載の方法を宣伝、広告してはならない。
6 被控訴人は、控訴人に対し、金5000万円及びこれに対する平成10年1月22日(反訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
1 本件各事件における請求の内容 (1) 本訴 本訴事件は、被控訴人が、控訴人に対し、@被控訴人が実施する混合剤の塗装方法(後記イないしハ号方法)はいずれも控訴人が有する特許第2119087号の特許権(以下「本件特許権」という。)の技術的範囲に属しないとして、被控訴人が被控訴人方法を実施することに対して本件特許権に基づく差止請求権を有しないことの確認を求めるとともに、A控訴人による書面の送付(後記1(5))が不正競争防止法2条1項13号の不正競争行為に該当するとして、(ア)同法3条に基づき、被控訴人方法の実施が本件特許権を侵害する旨を第三者に告知等することの差止めを求め、(イ)同法4条に基づき、控訴人の同行為によって被った損害の賠償を請求するものである。
(2) 反訴 反訴事件は、控訴人が、被控訴人に対し、被控訴人が実施する前記各混合剤の塗装方法はいずれも本件特許権の技術的範囲に属するから、それらの実施は本件特許権を侵害するとして、@本件特許権に基づき、被控訴人方法の実施、被控訴人方法によって製造された外壁板の販売及び被控訴人方法の宣伝広告の差止めを求めるとともに、A本件特許権及び本件特許権の出願公告による仮保護の権利の侵害に基づき、平成5年2月6日から同10年1月6日までの間の被控訴人方法の実施による実施料相当額の支払(不法行為又は不当利得に基づく)を各請求するものである。
原判決は、本訴請求のうち、被控訴人が、被控訴人方法を実施することに対して本件特許権に基づく差止請求権を有しないことの確認を求めた部分を却下し、
被控訴人方法の実施が本件特許権を侵害する旨を第三者に告知等することの差止めを求めた部分を認容し、その余の本訴請求及び反訴請求をいずれも棄却した。
そこで、控訴人(本訴被告兼反訴原告)がこれを不服として控訴した。なお、控訴人は、特許庁に対して本件特許請求の範囲減縮する旨の訂正請求を行ったことに伴い、本件に関しても、当審において、後記イ号方法に関する請求をすべて取り下げた。
【以下、第2の2,3及び第3については、原判決を加削訂正した。ゴシック体太字部分が当審において追加、訂正した部分であるが、語句の部分的削除については、特に広範にわたらない限り、指摘していない。】 2 基礎となる事実(いずれも争いがないか弁論の全趣旨により認められる。) (1) 当事者 被控訴人及び控訴人は、それぞれ塗装材料の製造及び販売並びに塗装工事の請負を業とする会社である。
(2) 控訴人の特許権 控訴人は、次の内容の本件特許権を有している。
ア 発明の名称 混合材の塗布方法 イ 出願日 昭和58年5月11日 (特願昭58ー83098号) ウ 公告日 平成5年2月5日 (特公平5ー9587号) エ 登録日 平成8年12月6日 オ 特許番号 第2119087号 カ 特許請求の範囲 本件特許権の特許出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の記載は、本判決添付の特許公報の該当欄記載のとおりである(以下、本件特許権に係る特許発明を「本件発明」という。)。
(3) 本件発明の構成要件の分説 本件発明の構成要件は、次のとおり分説するのが相当である。なお、本件特許権の請求項2及び3は、請求項1の実施態様項であるから、本件各請求の当否を判断するに当たっては、請求項1のみを検討すれば足りる。
A 適度に粉砕した自然石を、合成樹脂中に混入してなる混合材の B 異なる色のもの複数種を1機のスプレーガン内の別個のタンクにそれぞれ用意し、
C 該複数種の混合材を複数の吹き付け口を有する多頭式スプレーガンの別個の吹き付け口から D 同時に吹き付けることによって、
E 非混合多色状に塗布すること F を特徴とする混合材の塗布方法。
なお、控訴人は、平成12年7月14日付で、特許庁に対し、本件発明に関する、特許請求の範囲の訂正請求を申し立てたが、特許庁は、訂正拒絶理由通知を兼ねる無効理由通知書(乙59)を同年9月12日に控訴人宛発送した。そのため、控訴人は、同年11月17日付で、特許庁に対し、本件発明に関する、特許請求の範囲の第二次訂正請求を申し立てたが、当審における口頭弁論終結時点では、
これに対する特許庁による許否の判断はされていない。そのため、本件については、従前の特許請求の範囲の記載に基づいて、判断することとする。
(4) 被控訴人の行為 被控訴人は、@ 異なる色の混合材を多頭式ガンを使用して吹き付ける方法を実施して壁面塗装工事を行い、それによって得られる天然石調厚付け仕上塗材を「ダイヤアールストーン」の商品名で宣伝広告し(以下、ダイヤアールストーン用塗装方法を「イ号方法」という。)、A @と同様の方法を実施して壁面塗装工事を行い、それによって得られる天然石調厚付け仕上塗材を「ダイヤアールストーンデラックス」の商品名で宣伝広告し(以下、ダイヤアールストーンデラックス用塗装方法を「ロ号方法」という。)、B @と同様の方法を実施して、これによって得られる天然石材調シートを「クリスタルアート」の商品名で宣伝、広告及び販売してきた(以下、クリスタルアート用塗装方法を「ハ号方法」という。また、これらの方法を併せて「被控訴人方法」と総称する。)。
(5) 控訴人による書面の送付 控訴人は、平成8年12月20日、訴外東急建設株式会社に対し、「『特許』のお知らせとお願いについて」と題する書面(甲7)を送付した。
(6) 被控訴人のイ号、ロ号方法はいずれも本件発明の構成要件B、C、D及びFを充足し、ハ号方法は本件発明の構成要件C、D及びFを充足する。
3 争点 (1)(本訴・反訴共通) 被控訴人方法は、本件発明の技術的範囲に属するか。
ア イ号ないしハ号方法の特定 イ 被控訴人方法は、本件発明の構成要件Aの「自然石」の要件を充足する方法又は同要件と均等の方法か。
ウ ハ号方法は、本件発明の構成要件Bの「1機のスプレーガン内の別個のタンクにそれぞれ用意」の要件を充足するか。
エ 被控訴人方法は、本件発明の構成要件Eの「非混合多色状」の要件を充足するか。
(2)(本訴関係) ア 控訴人による書面の送付(前記1(5))が不正競争防止法2条1項13号の営業誹謗行為に該当するか。
差止請求の可否 (3)(反訴関係) 控訴人が被控訴人に請求し得る損害額
争点に関する当事者の主張
1 争点(1)ア(イ号ないしハ号方法の特定)について 【控訴人の主張】(当審における追加主張) イ号ないしハ号方法は、別紙目録1ないし3に各記載の方法である。すなわち、イ号ないしハ号方法における塗装材料は、成分として大量の方解石(炭酸カルシウム)を含み、客観的に見てこれを主成分と目すべきである。被控訴人が主張する「体質顔料」なるものも、方解石である以上、目的の如何とは無関係に、本件発明にいう「適度に粉砕した自然石」に含まれることは明らかである。
また、原判決添付別紙目録1ないし3の記載によれば、骨材原料たる粉砕された寒水砂と珪砂の双方について、顔料をまぶして加熱し、表面に顔料を焼結させて着色砂を得るものとされている。しかし、寒水砂は約500度を超える温度で熱分解が始まるので、高温で顔料を焼き付けることができない。したがって、寒水砂に顔料を焼結させて着色骨材とすることはできない。顔料をまぶして加熱し着色骨材とするのは珪砂のみである。
したがって、いずれにしても、原判決添付別紙目録1ないし3は訂正されるべきである。
【被控訴人の主張】 イ号ないしハ号方法は、原判決添付別紙目録1ないし3各記載の方法である。
控訴人によるイ号ないしハ号方法の製品の分析結果において検出された「方解石」(炭酸カルシウム)は、塗装材料の色彩を決定づける「骨材成分」としての本件発明の「自然石」とは無関係の、「体質顔料」としてイ号ないしハ号の塗装材料中に添加された岩石成分にすぎない。かかる「体質顔料」は、専ら、塗料の安定性、流動性、作業性を向上したり、塗膜の補強のために使用されるものであり、色彩とは関係のない目的で添加されているものであるから、これを塗装材料の色彩を決定づける「骨材成分」(本件発明の「自然石」)に含めて議論するのは失当である。したがって、原判決の目録に何ら誤りはなく、同目録を訂正する必要はない。
2 争点(1)イ(「自然石」の要件の充足・均等)について 【控訴人の主張】 (1) 本件発明の特許請求の範囲には、「自然石」と記載されており、その概念は明確であって、これを特別の限定された意味に解する理由はないところ、被控訴人方法では寒水砂と珪砂が骨材として使用されており、これらは自然石であるから、被控訴人方法で用いられている骨材は「自然石」である。被控訴人方法では、
これらの自然石に顔料で着色しているが、顔料で着色してみてもそれらが人造石になるわけではなく、「自然石」である点に変わりはない。仮に着色に意味があるとすれば、せいぜい自然石に顔料を加えた点で本件発明の利用ないし付加に該当するにすぎない。
被控訴人は、本件明細書中の発明の詳細な説明を指摘して、「自然石」とは、粉砕以外の人工的な加工を排除した意味での自然石のことであると解すべきであると主張するが、被控訴人指摘の本件明細書中の記載はいずれも本件発明の典型的な実施例やその効果についての説明にすぎず、自然石に加工を加えることを積極的に排除する趣旨ではないから、被控訴人主張のような限定解釈は不当である。
(2)(当審における追加主張) 前記1のとおり、被控訴人方法は、着色しない文字どおりの自然石を主成分とし、これに比較的少量の着色骨材を添加したものにすぎない。すなわち、被控訴人方法は、文字どおりの「自然石」を用いて本発明を実施しつつ、自然石に着色をなした「着色骨材」を少量添加しているのであり、本件特許発明の利用にすぎないから、本件発明の技術的範囲に属する。
(3) 仮に被控訴人方法の「顔料で着色した着色砂」が本件発明の「自然石」の要件を満たさないとしても、次のとおり、均等の範囲に属する。
本件発明は、多頭式スプレーガンを用いて、別個の吹き付け口から骨材を含む塗料(混合材)を同時に吹き付けることにより自然石調の塗装壁面を形成することに特徴があるものである。したがって、次のとおり、自然石に顔料で着色したものが均等の範囲に属するのは明らかである。
ア 自然石骨材に少量の着色骨材を添加することは、本件発明の本質的部分ではない。
イ 自然石に少量の着色骨材を添加しても、本件発明の目的たる「自然石と同様の美観を呈し、安価で簡単に製造できる建築用仕上材」を得ることを達成でき、同一の作用効果を奏する。現に被控訴人方法による塗装面は、本件発明と同様の「天然石調」である。
ウ 上記のように置き換えることは、本件明細書に記載されており、また、
別件特許出願に対する特許庁審判官の拒絶理由通知(甲6添付)からしても、当業者であれば、被控訴人方法の実施の時点において容易に想到することができたものである。
エ 多頭式スプレーガンを用いて、別個の吹き付け口から、自然石に少量の着色骨材を添加したものを含む混合材を同時に吹き付けることにより、自然石調の塗装壁面を形成する方法が、本件発明の特許出願時における公知技術と同一又はこれから容易に推考できたものではなく、本件発明の特許出願の手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もない。
なお、特許庁の審判官も、本件発明の「自然石」を「セラミックス」に置換することは均等方法であるとしているから、まして着色自然石との間には均等が成立する。
【被控訴人の主張】 (1) 本件発明の構成要件Aの「自然石」の意義を、本件明細書中の発明の詳細な説明を斟酌して解釈するに、@「課題を解決するための手段」の欄には、「本発明でいう骨材の製造法としては、自然石を粉砕するだけでよい。」とあり、A「実施例」の欄には、「自然石を粉砕して使用するため、人工的に顔料を加えたもの等に比較して、粒度が大きめの方がよい。これは、色が出にくいことと、自然石が持つ縞模様、点々模様等をなるべく有効に活かすためである。」とあり、B「発明の効果」の欄には、骨材として自然石を使用したことの効果として、焼成したセラミックスのような単一色の骨材を使用する場合に比べて、「粒子自体が自然の模様、
色の微妙な差を有しており、出来上がったものは、より自然石に近いものとなる。」とあり、また、「自然石の色そのままであるため、色合い等は当然自然石と変わら」ないと記載されている。また、@の記載は、平成元年9月25日付けの手続補正書によって、それまで項分け記載がなされていなかった本件明細書の発明の詳細な説明の欄に項分けを施した際に、「課題を解決するための手段」の欄に項分けされたものである。
これらの本件明細書の記載及び補正の経過からすれば、本件発明の構成要件Aの「自然石」とは、塗布結果物としての建築物がより自然の石(例えば御影石)に近い外表面となるような、粉砕以外の人工的な加工を排除した意味での自然石のことであると解すべきである。
したがって、自然石を顔料で着色したものを骨材として用いる被控訴人方法は、粉砕した自然石そのものの原色を利用していないので、いずれも本件発明の構成要件Aの「自然石」の要件を満たさない。
(2) 控訴人は、被控訴人方法につき本件発明の利用関係が成立する旨主張するが、被控訴人方法で使用している「方解石」(炭酸カルシウム)が塗装材料の色彩に影響しない「体質顔料」であって、塗装材料の色彩を決定付けるために混入される本件発明の「自然石」と無関係の岩石成分であることは、前記1のとおりである。したがって、「方解石」を含んでいる塗装材料を吹き付け塗装する被控訴人方法を実施したとしても、本件発明をそっくりそのまま実施したことにもならないので、被控訴人方法は、本件発明の利用に該当しない。
(3) 控訴人は、均等の主張をするが、「自然石」を「顔料で着色した着色砂」に置換した場合には、(1)で指摘した本件発明の効果を奏することがないため、置換可能性の要件を充足しない上、裸の自然石以外のものは明細書で明確に除外されている(本件公報4欄14〜15行)から、意識的除外等に該当しないことという要件も充足しない。 3 争点(1)ウ(「1機のスプレーガン内の別個のタンクにそれぞれ用意」)について 【被控訴人の主張】 本件発明の構成要件Bは、混合材の異なる色のもの複数種を「1機のスプレーガン内の別個のタンクにそれぞれ用意」することとされているが、ハ号方法では、「3機のスプレーガンの各タンクにそれぞれ用意」するものであるから、ハ号方法は同構成要件を充足しない。
【控訴人の主張】 別紙目録3の添付第1図によれば、混合材を塗布する際に吐出圧を付与するコンプレッサー8は、吹き付けノズル5A、5B、5Cを一括して制御しているはずである。したがって、ハ号方法のスプレーガンは、6A、6B、6Cの材料タンクが形式上分離されているとしても、「1機のスプレーガン」に該当するから、ハ号方法は構成要件Bを充足する。
4 争点(1)エ(「非混合多色状」)について 【被控訴人の主張】 (1) 「非混合多色状」の語は、吹き付け塗装の分野において一般的に用いられている用語ではないので、本件明細書中の発明の詳細な説明及び図面を斟酌して解釈する必要があるところ、本件明細書中の「課題を解決するための手段」の欄に、
「非混合多色状とは、それぞれ色の異なった混合材を、互いに色が混ざらないように、塗布するということである。」との記載がある。しかし、この記載では、どの程度に色が混ざらない状態であれば本件発明の目的である自然石調の外観が達成されるのかについては定かでないので、本件明細書の第1図及び第2図に関する説明部分(本件公報5欄19〜35行目)をも参酌すると、本件発明による塗布結果物が自然石と同様の外観を呈するのは、各着色部がその原料骨材である黒色微粒、灰色微粒及び白色微粒そのままの色として一体に認識されるためであると解され、そのためには、各微粒同士が互いに混在せずに存在する必要があり、このことは第2図に描かれた状態とも合致する。
したがって、「非混合多色状」とは、各着色部がその原料骨材である微粒そのままの色として一体に認識されるように、その各微粒同士が混在して中間色の部分が発生しないように色分けされていることと解すべきである。
これに対して、被控訴人方法では、原判決添付別紙目録1の第3図、同目録2の第4図、同目録3の第2図にあるとおり、各微粒同士が混在して中間色の部分が塗布後の表面の至る所に発生しているので、構成要件Eの「非混合多色状」の要件を充足しない。
(2) 仮に控訴人が主張するとおり、各混合材の色が混ざった混合色部分が発生するものも「非混合多色状」であるとすれば、本件発明の先願発明(特願昭57ー1138号〔甲12〕)と同一発明となる。だからこそ、その点が問題となった本件発明の特許異議申立てに対する決定においても、「各混合材の吹き付け最小単位は自然石の微粒であるため、相互の微粒が混ざりあって色がそれらの中間色になることがなく…」等と認定され、前記先願発明との相違が認められて、異議申立てが排斥されたのである。
また、仮に各混合材の色が混ざった混合色部分が発生するものも「非混合多色状」であるとすれば、本件発明の特許出願前に訴外鈴鹿塗料株式会社が販売していた「ラフトン ふぶき」「ラフトン さざなみ」という塗材(甲14)によって全部公知の発明となる。したがって、「非混合多色状」を控訴人主張のように広く解釈することはできない。
【控訴人の主張】 (1) 本件明細書の記載のうち、被控訴人の指摘する部分に加え、「本発明塗布方法によれば、吹き付け単位が別個であるため混合したものとならず、比較的大きな同一色部分ができ、自然石とほとんど同様の外観を呈することができる。」(本件公報6欄19〜23行目)との記載を併せ考慮すると、「非混合」とは、「異なる色の混合材が、スプレーガンの別個の吹き付け口から同時に飛び出し、同色の複数の骨材同士が集合した状態で、外壁等に貼着すること」を意味し、「多色状」とは、「複数種の自然石の骨材色そのものがランダムに複数種存在し、その外観が自然石とほとんど同様な状態であること」と理解できる。
したがって、「非混合多色状」とは、「異なる色の混合材が、同色の複数の骨材同士が集合した状態で外壁等に貼着する結果、複数種の自然石の骨材色そのものの色がランダムに複数種存在し、その外観が自然石の外観と同様な状態」と解するのが相当であり、よりわかりやすくいえば、「その外観が自然石の外観と同様な状態」をいう。
被控訴人方法によって得られた製品は、いすれも着色材料の輪郭が比較的明瞭に表れた部分が存在し、その外観が自然石の外観と同様な状態であるから、いずれも構成要件Eの「非混合多色状」の要件を充足する。また、各製品のカタログにおいて、被控訴人自身が各製品は「天然石調」であることを強調して販売していることからも、上記要件を充足していることは明らかである。
(2) 被控訴人は、「非混合多色状」には各混合材の色が混ざった混合色部分が発生するものは含まれないと主張するが、本件発明で用いる塗材は、粘度は比較的高いものの、液体であるから、塗布面においては別個の吹き付け単位が多少は混合したり、境界面が多少は混合する場合があることは、当業者の常識である。このような混合部分が存在したとしても、本件発明は、従来技術と比較すると、「非混合多色状」の部分が相対的に多く存在するので、「その外観が自然石の外観と同様な状態」に観察されるのである。
また、被控訴人は、甲12の先願発明及び甲14の公知技術を指摘するが、いずれも構成要件Bのみが示されているだけであって、「非混合多色状」を被控訴人主張のように解さなければ本件発明が同先願発明及び公知技術と同一又は全部公知になるわけではない。また、甲14の公知技術による塗装面は、自然石調からはほど遠いものである。
5 争点(2)ア(営業誹謗行為の有無)について 【被控訴人の主張】 控訴人は、平成8年12月20日頃、被控訴人の取引先である東急建設株式会社に「『特許』のお知らせとお願いについて」と題する文書(甲7)を送付したが、そこでは、被控訴人の商品そのものは明記されていないものの、被控訴人が実施しているような、異なる色の混合材を多頭式スプレーガンで同時に吹き付けて自然石調に塗装する方法は、塗装用骨材の材質を問わず、すべて本件特許権を侵害すると読み取れる内容が記載されており、そのため、東急建設は、被控訴人方法が本件特許権を侵害するのではないかと疑念を抱き、何度も問い合わせをしてきた。
しかるに、争点(1)に関する被控訴人の主張のとおり、被控訴人方法は本件特許権を侵害しないから、前記文書の内容は虚偽であり、しかも被控訴人の営業上の信用を害するものである。
したがって、控訴人による前記文書の送付は、不正競争防止法2条1項13号の不正競争行為に該当する。
【控訴人の主張】 まず、甲7の文書は、特定の事業者を指して特許権侵害と呼んで営業上の信用に関わる事実を記載しているものではないから、被控訴人の営業上の信用を害するものではない。
また、甲7の文書が被控訴人の営業上の信用を害するものだとしても、争点(1)に関する控訴人の主張のとおり、被控訴人方法は本件特許権を侵害しているから、その内容は虚偽ではない。
(原判決別紙16頁19行目「5 争点(3)」から17頁7行目「原告の主張は争う。」までを削除する。) 6 争点(3)(反訴請求の損害額)について 【控訴人の主張】 本件特許権の出願公告がなされた平成5年2月6日から本件反訴提起前の平成10年1月6日までの間に、被控訴人方法の実施によって被控訴人が得た売上高は、@イ号方法の実施による分については金9億8000万円を下らず、Aロ号方法の実施による分については同額を下らず、Bハ号方法の実施による分については14億7000万円(合計34億3000万円)を下らないところ、本件特許権の実施料率は6%を下らないから、実施料相当損害金の額は、2億0580万円を下らない。
本件反訴では、そのうち金5000万円の請求をする。
【被控訴人の主張】 控訴人の主張は争う。
争点に対する当裁判所の判断
1 争点(1)ア(イ号ないしハ号方法の特定)について 被控訴人が実施するイ号ないしハ号方法の具体的内容が原判決添付別紙目録1ないし3のとおりであることは,原審において概ね争いがないものとなっていた。しかるに,控訴人は,当審において,原判決添付別紙目録はいずれも不正確であり,本判決添付の別紙目録1ないし3に訂正する必要がある旨主張する。その主な理由は、(1) イ号ないしハ号方法における塗装材料は、成分として大量の方解石(炭酸カルシウム)を含み、これも本件発明にいう「適度に粉砕した自然石」に含まれること、及び、(2) 寒水砂は約500度を超える温度で熱分解が始まるので、
高温で顔料を焼き付けることができず、着色骨材とすることはできないから、顔料をまぶして加熱し着色骨材とするのは珪砂のみであるの2点である。
しかしながら、まず、控訴人が当審でその存在を強調する方解石は、色を伴わないもの(無色ないし白色)と考えられるところ、本件発明は、「適度に粉砕した自然石を、合成樹脂中に混入してなる混合剤の異なる色のもの複数種を・・・別個のタンクにそれぞれ用意し、該複数種の混合剤を・・・同時に吹き付けることによって、非混合多色状に塗布することを特徴とする」ものであり、異なる色の自然石を別個のタンクに用意すること、すなわち自然石が有色であり、かつ異なった色であることに特徴を有するものである。そして、被控訴人方法は、複数のタンクに異なる色の着色砂を入れているものの、控訴人指摘の着色していない方解石は、体質顔料として、各タンクにいずれもほぼ同量用意されていると考えられるのであり、塗装剤の発色に関する本件発明とは技術的に無関係といわざるを得ない。したがって、被控訴人方法の目録に記載する必要はないというべきである。
また、乙13の47頁第3図によると、なるほど炭酸カルシウム(寒水砂)は約500℃を越えた温度域付近から熱分解(二酸化炭素を発し、酸化カルシウムに変化する。)が始まるものの、その量はわずかであり、同書証の48頁の本文及び第4図によると熱分解のピークは900ないし950℃前後であることが認められる。そして、顔料の焼結が500℃以下では不可能であることを窺わせる証拠もないことに鑑みると、約500℃を超える温度で熱分解が始まるからといって、直ちに寒水砂に顔料焼結ができないということにはならない。
したがって、イ号ないしハ号方法の具体的内容は,原判決添付別紙目録1ないし3の各記載のとおりと認めるのが相当であり、これを控訴人主張のように訂正する必要はないというべきである。
2 争点(1)イ(「自然石」の要件の充足・均等)について (1) 争点(1)イ(イ号方法の「自然石」の要件の充足)についての認定及び判断は、次のとおり付加訂正するほか、原判決別紙「事実及び理由」第4の1(1)ないし(6)(18頁2行目から31頁11行目まで)のとおりであるから、これを引用する。
ア 19頁11、12行目「本件公報3欄1〜31行目」を「本件公報3欄2〜31行目」と改める。
イ 20頁14、15行目「本件公報5欄1〜6行目」を「本件公報5欄1〜16行目」と改める。
ウ 24頁7行目「甲14」の次に「、乙22」を加え、同10、11行目「甲14、15によれば、同パンフレットは昭和48年3月の発行に係る」を「甲14、15、
乙22によれば、甲14のパンフレットは昭和48年3月に、乙22のパンフレットは昭和53年11月にそれぞれ発行された」と改める。
エ 30頁19行目から31頁11行目までを削除する。
(2)(当審における追加主張に対する判断) 控訴人は、被控訴人方法について、「自然石」を用いて本発明を実施しつつ、自然石に着色をなした「着色骨材」を少量添加しているのであり、本件特許発明の利用にすぎない旨主張する。しかし、この控訴人の主張は、着色されていない方解石も「自然石」に含まれることを前提とするものであるが、この前提自体が失当であることは前記1で説示したとおりである。また、被控訴人方法により完成した塗装面が本件発明と同一の作用効果を奏するものでないことは、後記(3)の引用に係る原判決別紙「事実及び理由」第4の1(7)のうち31頁21行目から32頁14行目までのとおりである。
したがって、被控訴人方法が本件発明を利用したものであるとの主張も、
また、失当といわざるを得ない。
(3) 構成要件Aの「自然石」の要件に関する均等の成否についての判断部分は、原判決別紙「事実及び理由」32頁2行目の「タンク」を「ノズル」と訂正するほかは、原判決別紙「事実及び理由」第4の1(7)(31頁12行目から34頁14行目まで)のとおりであるから、これを引用する。
3 以上よりすれば、被控訴人方法は、本件発明の構成要件Aの「自然石」の要件を充足せず、均等でもないから、その余の争点について判断するまでもなく、控訴人の反訴請求は、いずれも理由がないこととなる。
4 争点(2)ア(営業誹謗行為の成否)について 本争点についての認定、判断については、次のとおり付加訂正するほか、原判決別紙「事実及び理由」第4の4(1),(2)(41頁10行目から45頁7行目まで)のとおりであるから、これを引用する。
(1) 44頁2行目「標的」を「対象」と、同14行目「争点1(1)」を「争点(1)イ」とそれぞれ改める。
(2) 45頁2、3行目「不正競争防止法2条1項11号」を「不正競争防止法2条1項13号」と改める。
(3) 45頁5行目「そして,」から同7行目「と認められる。」までを削除する。
5 争点(2)イ(差止請求の可否)について 本件訴訟の経緯及び控訴人の主張内容からすれば、ロ号方法及びハ号方法については、控訴人において今後も同様の行為を行うおそれがあるものと認められる。
他方、イ号方法については2頭式のスプレーガンを使用するものであるところ、控訴人は、2頭式のスプレーガンを使用して本件発明を実施することは公知技術(甲14、15、乙26)から推考容易である(甲27参照)との考慮のもと、本件発明の技術的範囲から2頭式スプレーガンを使用する場合を除外すべく、本件特許請求の範囲の訂正請求を特許庁に申し立て(乙23)、それに伴って、本件訴訟においてもイ号方法を侵害差止等の請求対象から除外するべく請求の減縮を行っているものである。このような事情に照らすと、今後控訴人がイ号方法について本件特許権を侵害する旨の事実を告知する可能性はなくなったと考えられ、イ号方法について被控訴人の営業上の利益が侵害されるおそれは消滅したといえる。
結論
以上の次第で、被控訴人の本訴請求のうち、被控訴人がロ号方法又はハ号方法を実施することが本件特許権を侵害する旨を、文書又は口頭により、第三者に対して告知し又は流布することの差止めを求める請求は理由があるが、イ号方法に関する同旨の差止請求は理由がない。したがって、本訴請求に関し被控訴人の差止請求を全て認容した原判決は一部不当であり、本件控訴はその限度で理由がある。
他方、控訴人の反訴請求はいずれも理由がなく、これを棄却した原判決は相当であるから、これに関する本件控訴は理由がない。
よって、主文のとおり判決する。
追加
別紙目録1原判決添付別紙目録1のうち,「第一」の「一」の部分を次のとおり改めたもの一塗装材料寒水石を粉砕してこれを篩にかけて粒度を調整することにより,寒水砂を得る。
珪砂にチタンペーストその他の顔料をまぶして加熱することにより,珪砂の表面に顔料を焼結させ,着色珪砂を得る。
前記寒水砂を主成分とし,これに少量の前記着色珪砂を添加したものを,透明なアクリルエマルジョンの中に混入してなる塗装材料の色違いのものを2種類用意する。
別紙目録2原判決添付別紙目録2のうち,「第一」の「一」の部分を次のとおり改めたもの一塗装材料寒水石を粉砕してこれを篩にかけて粒度を調整することにより,寒水砂を得る。
珪砂にチタンペーストその他の顔料をまぶして加熱することにより,珪砂の表面に顔料を焼結させ,着色珪砂を得る。
前記寒水砂を主成分とし,これに少量の前記着色珪砂を添加したものを,透明なアクリルエマルジョンの中に混入してなる塗装材料の色違いのものを3種類用意する。
別紙目録3原判決添付別紙目録3のうち,「第一」の「一」の部分を次のとおり改めたもの一使用材料寒水石を粉砕してこれを篩にかけて粒度を調整することにより,寒水砂を得る。
珪砂にチタンペーストその他の顔料をまぶして加熱することにより,珪砂の表面に顔料を焼結させ,着色珪砂を得る。
前記寒水砂を主成分とし,これに少量の前記着色珪砂を添加したものを,透明なアクリルエマルジョンの中に混入してなる塗装材料の色違いのものを3種類用意する。
裁判官 若林諒
裁判官 西井和徒
裁判長裁判官 鳥越健治