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事件 平成 10年 (ワ) 13560号 特許権侵害差止等請求事件
原告 フェリック株式会社
訴訟代理人弁護士 小松 陽一郎
訴訟復代理人弁護士 宇田浩康
補佐人弁理士 前直美
被告 桐灰化学株式会社
訴訟代理人弁護士 吉原省三
同 小松勉
補佐人弁理士 朝日奈 宗太
同 佐木啓二
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2001/04/19
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告は、商品名「きりばいきんきらきん はる」、あるいは「はる キリダンボ」からなる使い捨てカイロの発熱体であって、該発熱体に使用されている通気性微細孔を有するシートの通気性が、0.2〜1.6×10-4t・p-2・sec-1・Torr-1の範囲にあるものを製造し、販売し、販売の申出をし、又は販売のために展示してはならない。
2 被告は、前項記載の発熱体及びそれに使用する袋材を廃棄せよ。
3 被告は、原告に対し、金1億円及びこれに対する平成10年12月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
本件は、「発熱組成物収納用袋の袋材」の特許発明の特許権者である原告が被告に対し、被告の製造、販売する使い捨てカイロの収納用袋の袋材は同特許発明技術的範囲に属すると主張して、その差止め等と損害賠償を請求した事案である。
1 争いのない事実等 (1) 原告は次の特許権(以下「本件特許権」という。)を有している。
ア 特許番号 第2132756号 イ 出願日 昭和61年10月18日(特願昭61-247988号) ウ 出願公告日 平成6年4月13日(特公平6-26555号) エ 登録日 平成9年10月17日 オ 発明者 A カ 特許請求の範囲は、別添特許公報(補正後のもの)記載のとおり(以下同公報掲載の本件特許出願に係る明細書を「本件明細書」といい、特許請求の範囲1項に記載された発明を「本件発明」という。)。
(2) 本件発明の構成要件は次のとおり分説するのが相当である。
A 空気の存在下で発熱し得る発熱組成物を収納する収納用袋の袋材であって、
B 該袋材の片面の全面が通気性微細孔を有するシートから成り、
C 他方の側の面が無孔フィルムであり、
D 該シートは通気性が0.2〜1.6×10-4t・p-2・sec-1・Torr-1の範囲にあることを特徴とする E 発熱組成物収納用袋の袋材。
(3) 被告は、商品名「きりばいきんきらきん はる」及び「はる キリダンボ」の使い捨てカイロ(以下「被告製品」という。)を製造、販売しており、各使い捨てカイロの収納用袋の袋材は、別紙「イ号、ロ号袋材目録」記載のとおりである(以下「きりばいきんきらきん はる」の収納用袋の袋材を「イ号袋材」、「はる キリダンボ」の収納用袋の袋材を「ロ号袋材」という。)。
なお、同目録中の符号9(水玉以外部分)について、原告は「通気性部分」であると主張し、被告は「難通気性部分」であると主張している。
(4) イ号、ロ号袋材は、本件発明の構成要件A、C、Eをそれぞれ備えている。
2 争点 (1) 構成要件充足性 ア イ号、ロ号袋材は、構成要件Bを充足するか。
イ イ号、ロ号袋材は、構成要件Dを充足するか。
(2) 権利濫用-明白な無効理由 本件特許には明白な無効理由があり、本件特許権に基づく権利行使は権利濫用に当たるといえるか。
ア 明細書の記載不備(無効理由@) イ 新規性又は進歩性の欠如(無効理由A) ウ 特許法29条の2違反(無効理由B) (3) 損害の発生及びその額
争点に関する当事者の主張
1 争点(1)ア(構成要件Bの充足性)について 〔原告の主張〕 (1) 構成要件Bの「全面が通気性微細孔を有するシートから成り、」とは、単一シートのものに限定されるものではなく、二重構造等の積層体であってもよい。
(2) イ号、ロ号袋材のブレスロン(EVA多孔質層2、PE多孔質層3及びナイロン不織布を貼り合わせたもの)は、構成要件Bの「通気性微細孔を有するシート」に該当する。
仮に、ブレスロンが、構成要件Bの「通気性微細孔を有するシート」に該当しないとしても、イ号、ロ号袋材の多孔質フィルム層(EVA多孔質層2、PE多孔質層3から成る部分)が、「通気性微細孔を有するシート」に該当する。したがって、同多孔質フィルム層にナイロン不織布1が張り合わせてあったとしても、
無意味な付加的部分にすぎず、構成要件Bを充足することに変わりはない。
(3) 被告は、イ号袋材の水玉以外部分9を難通気性部分であるとし、構成要件Bの「通気性微細孔を有するシート」は水玉部分(通気性部分)8のみであると主張するが、水玉以外部分9の通気性は、被告の測定値(ナイロン不織布1を含む測定値は、0.25×10-4t・p-2・sec-1・Torr-1。ナイロン不織布1を含まない測定値は、0.38×10-4t・p-2・sec-1・Torr-1)によっても、本件発明の構成要件Dの通気性の数値範囲内であるから、水玉部分(通気性部分)8及び水玉以外部分9から成るイ号袋材は、構成要件Bの「全面が通気性微細孔を有するシートから成り、」との構成を備えている。
〔被告の主張〕 (1) 構成要件Bの「通気性微細孔を有するシート」とは、通気性微細孔を有する1枚のシートのみから成っていることを意味し、貼り合わせ膜を含まないものと解すべきである。
このことは、本件発明の先行公知技術である特開昭58-92752号公開特許公報(乙6、以下「乙6公報」という。)の実施例第2図に、微細孔膜5と孔6を全体に設けた有孔非通気性膜7を貼り合わせて通気度を調整することが記載されており、得られる積層シートは本件発明の特許請求の範囲の通気度の範囲と明らかに重複することになる実施態様が示されていること、しかも、原告は、本件特許権に係る特許異議申立事件で提出した平成8年12月25日付け上申書(乙18)において、乙6公報の実施例第2図のように、貫通孔をもった非通気性膜を多孔質膜にはりつける方法は、本件発明のように、微細孔たとえばミクロン単位の微細孔を無数に持つ多孔質膜を全面に使用することによって、所定の通気量を得る技術とは質的に異なると主張していることからしても、明らかである。
(2) イ号、ロ号袋材の通気性シートのブレスロンは、EVA多孔質層2とPE多孔質層3とからなる多孔質フィルム層と、ナイロン不織布1の2枚のシートを貼り合わせたものであって、1枚のシートを意味する構成要件Bの「通気性微細孔を有するシート」には該当しない。
(3) また、イ号袋材の多孔質フィルム層は、通気性部分である水玉部分8と難通気性部分である水玉以外部分9から成り、水玉部分(通気性部分)8の通気性(ナイロン不織布1を含んだ測定値)は、2.90×10-4t・p-2・sec-1・Torr-1)、難通気性の水玉以外部分9の同通気性は、0.25×10-4t・p-2・sec-1・Torr-1)で、その比は12もあって均一ではない。また、その面積比は、全体を100とすると、水玉部分(通気性部分)8が20、水玉以外部分9が80であって、全面が均一でないから、通気性が均一ではなく、構成要件Bの「全面が通気性微細孔を有するシートから成り」という構成を備えていない。
2 争点(1)イ(構成要件Dの充足性)について 〔原告の主張〕 (1) イ号、ロ号袋材の通気性シートのブレスロン(EVA多孔質層2、PE多孔質層3及びナイロン不織布1を貼り合わせたもの)の通気性は、約0.6〜0.8×10-4t・p-2・sec-1・Torr-1であるから、構成要件Dを充足する。
なお、被告による同通気性の測定結果は、イ号袋材の水玉部分(通気性部分)8と水玉以外部分9を含めた平均値(ナイロン不織布を含む。)が、0.69×10-4t・p-2・sec-1・Torr-1であり、ロ号袋材のブレスロン(ナイロン不織布を含む。)の通気性が0.60×10-4t・p-2・sec-1・Torr-1であるから、同測定値によっても、イ号、ロ号袋材は、構成要件Dを充足することになる。
(2) 仮に、イ号、ロ号袋材の通気性シートを、多孔質フィルム層(EVA多孔質層2及びPE多孔質層3から成る層)と解したとしても、その通気度は構成要件Dに記載の通気度の範囲内にある。
そのことは、原告が、財団法人化学技術戦略推進機構の高分子試験・評価センターに依頼して測定した結果(甲12、13の各1及び2)によれば、イ号袋材に用いられる水玉タイプの多孔質フィルム層〔水玉部分(通気性部分)8と水玉以外部分9を含む。〕の通気度は、0.93×10-4t・p-2・sec-1・Torr-1であって構成要件Dの範囲内の値であったこと、また、多孔質フィルム層とナイロン不織布を重ね合わせた時の通気抵抗は、多孔質フィルム層単独の通気抵抗の約1.2倍であり、ナイロン不織布を重ね合わせることは通気度にほとんど影響しないことから明らかである。
被告による多孔質フィルム層の通気度の測定結果(乙31)は、サンプリング材料の物性値やその加工条件等が明らかではなく、イ号、ロ号袋材自体の測定でもないから、同測定値をもって、イ号、ロ号袋材が構成要件Dを充足しないということはできない。
〔被告の主張〕 (1) イ号、ロ号袋材の多孔質フィルム層(EVA多孔質層2とPE多孔質層3から成る層)の平均の通気性は、旭化成工業株式会社及び日東電工株式会社に依頼して測定した結果(乙31)によれば次のとおりであり、いずれも構成要件Dの通気性の範囲を超えている。
ア イ号袋材:1.79×10-4t・p-2・sec-1・Torr-1(ただし、水玉部分(通気性部分)8と水玉以外部分9を含むフィルム層の測定値) イ ロ号袋材:4.94×10-4t・p-2・sec-1・Torr-1 (2) また、イ号、ロ号袋材に用いられるブレスロンからナイロン不織布を剥がした多孔質フィルム層(EVA多孔質層2とPE多孔質層3から成る層)の平均の通気性は、日東電工株式会社に依頼して測定した結果(乙36)によれば次のとおりであり、いずれも構成要件Dの通気性の範囲を超えている。
ア イ号袋材:1.66〜1.68×10-4t・p-2・sec-1・Torr-1(ただし、水玉部分(通気性部分)8と水玉以外部分9を含むフィルム層の測定値) イ ロ号袋材:1.69×10-4t・p-2・sec-1・Torr-1 (3) したがって、イ号、ロ号袋材の多孔質フィルム層(EVA多孔質層2とPE多孔質層3から成る層)の通気度は、構成要件Dの通気性の数値範囲外であるから、構成要件Dを充足しない。
(4) また、前記のとおり、本件発明は、先行公知技術である乙6公報記載のものとは異なるとして特許されたのであるから、乙6公報に開示されている範囲では特許発明とはいえない。したがって、構成要件Dに記載の通気度の範囲内のうち、
乙6公報記載の通気量(その計測誤差の範囲を含む)のものは、本件発明の技術的範囲に含まないと解すべきであり、この点においても、イ号、ロ号袋材は構成要件Dを充足しない。
3 争点(2)ア(無効理由@-明細書の記載不備)について 〔被告の主張〕 本件発明は、構成要件Dに記載されている通気量の範囲について、その測定方法が本件明細書に記載されていない。本件特許出願当時、そのような範囲を直接測定する方法も知られていなかったから、発明を特定することができないものである。原告は、本件明細書に記載された通気量はパーミヤグラフ法によるものであると主張するが、パーミヤグラフが市場に現われたのは平成元年12月以降である。
したがって、本件明細書は記載が不備であり、本件特許には明白な無効理由がある。
〔原告の主張〕 被告の主張は争う。
本件特許出願当時、パーミヤグラフは試作機として存在しており、本件発明の発明者であるAは、株式会社東洋精機製作所のパーミヤグラフの試作機を用いて、本件発明の試作品について通気量を測定したものである。
また、出願当時、パーミヤグラフ法が一般的でないとしても、ガーレー法で通気量を測定し、それをパーミヤグラフ値に換算することは、当業者であれば十分に可能である。発熱体の業界において、「ml/p2・min・atm」という単位が通気度を表すものとして本件発明の出願前から使用されていた。
4 争点(2)イ(無効理由A-新規性又は進歩性の欠如)について 〔被告の主張〕 (1)ア 乙6公報には、20ミクロン以下の微細孔を有する膜を袋体とする使い捨てカイロなどの発熱体が記載されており、片面又は両面に通気部を設けることも記載され、その第2図には、実施例として、片面のほぼ全面を微細孔膜と有孔非通気性膜を貼り合わせて覆ったカイロが示されているから、本件発明の構成要件A、
B、C、Eが開示されている。
構成要件Dに規定される通気度については、乙6公報の発明の詳細な説明中に「ガーレー通気度として通常20〜10000秒/100t程度のものが使用される。」と記載されている。乙6公報の発明が出願された昭和56年当時、ガーレー法による通気度測定には、サンプル膜にかける圧力の大きさによって標準型と高圧型の2種類の測定方法が存在していたが、当業者であれば、測定時間を短縮できる高圧型によるのが一般的であるから、同通気量を高圧型による測定値であるとして、構成要件Dと同じ単位に換算すると、前記数値は340〜0.68×10-4t・p-2・sec-1・Torr-1となり、構成要件Dと0.68〜1.6×10-4t・p-2・sec-1・Torr-1の範囲においてかなりの部分が重複する。
仮に、乙6公報に記載のガーレー通気度を標準型の測定方法であるとして単位換算すると、799〜1.598×10-4t・p-2・sec-1・Torr-1となるが、それでも構成要件Dと一部重複する。
ウ また、前記のとおり、乙6公報には、実施例として、微細孔膜に、同微細孔膜の孔よりも大きい孔を多数穿設した有孔非通気性膜を貼り合わせることによって通気度を小さくし、本件特許出願より前に本件発明の範囲内の上記通気度を達成する技術が示されているから、当業者であれば、同技術から容易に本件発明に到達することができる。
エ したがって、本件発明は、乙6公報に示された技術と同一、あるいは少なくとも容易に発明できたものである。
(2) 実開昭60-58125号公開実用新案公報(乙24、以下「乙24公報」という。)には、片面の全部が通気性微細孔を有するシートからなり、他方の側の面が無孔フィルムからなる使い捨てカイロが示されているのであって、これと乙6公報の技術を組み合せれば、本件発明は当業者にとって容易に発明することができたものである。
(3)ア 実開昭59-178548号公開実用新案公報(乙44、以下「乙44公報」という。)には、次の構成の発熱体組成物収納用袋の袋材の技術が開示されている。
a 空気中の酸素と接触させるだけで発熱する発熱組成物を袋に収納した発熱体である。
b 袋は一面が微細孔膜5と孔6を有する有孔非通気性膜7からなっている。
c 他面は非通気性膜3からなっている。
d bのシートの通気性は、19,100sec/100tの例が示されている。
e 上記a〜dを特徴とする発熱組成物を袋に収納した発熱体である。
イ 本件発明の構成要件Dの通気度を、標準型ガーレー通気度で換算すると79,917〜9,990sec/100t、高圧型ガーレー通気度で換算すると34,000〜4,250sec/100tとなり、上記構成dの値はこの範囲内に該当する。
ウ したがって、乙44公報の公知技術は、本件発明の構成要件をすべて備えている。
〔原告の主張〕 (1)ア 乙6公報の第2図の構成のものは、「長方形の微細孔膜5と、比較的大きい孔6、……、6が多数穿設してあり、かつ微細孔膜5とほぼ同形の有孔非通気性膜7とをはり合わせて一層とし、これに長方形の微細孔膜5とほぼ同形の非通気性膜8をさらに重ね、これらを周縁9で互いにはり合わせて袋とし、この袋の発熱組成物を収納した発熱体」であるが、本件発明は「片面の全面が通気性微細孔を有するシートからな」るものであるから(構成要件B)、全く別の構成のものである。
イ また、乙6公報の通気量は、ガーレー法の標準型による測定値であると解すべきであり、それに基づいて単位換算すべきである。そのことは「JIS P8117」がガーレー法の標準型であることからも明らかである。
(2) 乙24公報の技術は、本件発明と構成が大きく異なるものであるとともに、本件発明特有の効果を奏するものでもなく、また両面通気の場合の通気量と片面通気の場合の通気量との関係が記載されているが、本件発明は、あくまで片面通気についての通気量の範囲に関する権利であって、異なる技術である。
(3) したがって、本件発明が、乙6公報の技術と同一、あるいは、乙6公報や乙24公報の技術から容易に発明することができたとの原告の主張は理由がない。
(4) 乙44公報の考案は、乙6公報の特許出願を実用新案登録に出願変更したもので、両者は実質的に同一であるから、乙44公報に基づく被告の主張に対する反論は、前記(1)のとおりである。
5 争点(2)ウ(無効理由B-特許法29条の2違反)について 〔被告の主張〕 (1)ア 特開昭62-183759号公開特許公報(乙34、以下「乙34公報」という。)は、本件特許出願前の昭和61年2月10日に、三井化学株式会社(出願時の商号は、三井東圧株式会社。以下「三井化学」という。)によってされた出願(特願昭61-25975号)に係る公開特許公報であるが(公開日は昭和62年8月12日)、次の構成の使い捨ての保温具とその袋材の技術が開示されている。
a 空気の存在下で発熱し得る鉄紛等からなる発熱組成物を収納する収納用袋である。
b 袋面の片面の全面が通気性微細孔を有するシートから成っている。
c 他方の側が非通気性フィルムである。
d 通気量は、「より望ましくは、10,000〜100,000秒/100t程度である」(乙34公報の2頁左下欄8〜9行、以下「本件通気度記載部分」という。)。
e 上記a〜dを特徴とする発熱組成物収納用袋の袋材 イ 上記構成のうち、a、b、c、eは、本件発明の構成要件A、B、C、
Eに一致する。
また、上記構成dの通気量は、標準式ガーレー法による測定値として本件発明の構成要件Dの単位に換算すると、0.1598〜1.598×10-4t・p-2・sec-1・Torr-1となり、0.2〜1.6とする構成要件Dの構成とほぼ一致する。
ウ したがって、本件発明は、乙34公報に記載された発明と同一である。
(2) 仮に、上記(1)アa〜e記載の技術内容が、原告から三井化学に伝えられたものであるとするならば、三井化学との間で明確な秘密保持に関する契約の存在が認められない以上、秘密保持に関する暗黙の合意があったとはいうことはできないから、同研究情報を伝えた時点で公知となったといえる。そうすると、この点においても明らかな無効理由原因を有することになる。
(3) 原告は、乙34公報の本件通気度記載部分を含む技術は、発明として未完成であって、これを理由として本件発明が無効であるとすることはできないと主張する。
しかし、三井化学は、平成6年3月25日付け手続補正書(乙40)によって、乙34公報の通気度に関する記載部分「10,000〜100,000秒/100t」を特許請求の範囲に取り込む等の補正を加え、特公平7-90030号(乙41)として出願公告されている。この補正は原明細書の記載に基づくものであり、補正された特許請求の範囲の記載は、本件発明の特許請求の範囲と対比しても、発明として完成していることが明らかである。この事実からしても、発明未完成であるとの原告の主張は理由がない。
(4) 原告は、通気性フィルムに求められる適切な通気度等に関するAの研究情報が三井化学の研究員Bに伝わり、これが乙34公報に記載されたとし、乙34公報の本件通気度記載部分を含む発明と本件発明は発明者が同一である旨主張する。
ア しかし、Bに伝わったとされる通気度はガーレー式の数値によっているのに対し、本件発明はパーミヤグラフの値によっており、本件発明の数値そのままではない。また、本件発明は構成要件A〜Eを内容とするものであるから、通気度に関するAの研究成果がBに伝わったとしても、それは、本件発明のうち、構成要件Dの部分のみにすぎない。
イ しかも、三井化学は、乙34公報の出願日(昭和61年2月10日)以前からカイロの袋材の研究開発をし、昭和61年3月20日にも使い捨ての保温具に関する特許出願(特願昭61-60743号、乙47)をしているから、好ましい通気度の範囲を探っていたことが窺われる。したがって、カイロの袋材の研究を始めた動機が仮に原告によるサンプルの発注であったとしても、乙34に関する開発と発明は三井化学によってされたものである。
原告は、乙34公報の出願日(昭和61年2月10日)時点では、本件発明の目途がついていたものの、完成には至っていなかった。
ウ そもそも、業界を代表する三井化学が、他社の発明を無断で取り込んで権利化を図るようなことはないと考えるのが自然である。
上記ア〜ウよりすれば、乙34公報の本件通気度記載部分を含む発明は、
Aの行った発明ではなく、三井化学の研究員によって開発されたものというべきであって、原告の主張は理由がない。
(5) 以上によれば、本件発明は、本件特許出願日前に出願され、本件特許出願後に公開された特許出願に係る願書に最初に添付した明細書に記載された発明と同一であるから、本件特許は特許法29条の2の規定に違反してされたものであり、
明らかな無効理由がある。
〔原告の主張〕 (1) 特許法29条の2にいう「先願の明細書に記載された発明」は、単なる示唆に止まるものや発明として未完成のものは含まれないと解される。乙34公報の本件通気度記載部分について、実験結果を裏付けるデータは一切記載されていないし、乙34公報の特許請求の範囲の発明は、もともと通気度に着目したものではなく、その裏付けとなる実験も行われていなかった。
したがって、乙34公報の本件通気度記載部分を含む技術は、発明として完成しているとはいえないから、これを理由として本件特許権が無効であるとすることはできない。
(2) 原告は、本件発明の完成に至るまでの過程において、三井化学から試験試料として通気性フィルムの提供を受ける関係にあり、本件発明の発明者であるAによる開発中の袋材に関する情報が、三井化学の研究員Bに伝わり、乙34公報に記載されるに至ったものである。
三井化学では、発熱組成物収納用の袋材の通気度と発熱温度との関係に関する実験がされたこともないし、乙34公報の本件通気度記載部分に関する知見は当時知られていなかったから、三井化学の研究員等において独自に発熱温度との関係において望ましい通気度範囲を特定できなかったことは明らかである。
乙34公報の特許請求の範囲に記載の技術は、三井化学が孔径に着目して開発したものであり、通気度に着目したものではない。
したがって、乙34公報の本件通気度記載部分を含む技術は本件発明の発明者であるAが発明したもので、発明者が同一であるから、特許法29条の2かっこ書により、乙34公報の本件通気度記載部分を含む発明は本件発明に対して同条の定める先願に当たらない。
(3) なお、原告が本件発明につき主体的に開発していることから、原告はもちろん三井化学においても安易に本件発明に関する情報を漏洩するとは考えられないこと、原告は複数のフィルムメーカーのフィルムを試用したものの、三井化学以外のメーカーについては市販製品を使用したにすぎず、具体的に交渉に入ったのは三井化学だけであったことからすれば、原告と被告との間には、契約書の有無にかかわらず、信義則上の黙示の守秘義務が認められるから、原告が、乙34公報の本件通気度記載部分等の内容を三井化学のBに伝えたとしても、そのことで当該技術内容が公知になったということはできない。
6 争点(3)(損害の発生及び額)について 〔原告の主張〕 被告は、平成9年11月1日以降の1年間で、被告製品を少なくとも卸値20円にて1億個(合計金20億円)を販売しており、被告の得た利益は少なくともその5%の1億円であるから、原告の被った損害は、1億円と推定される。
〔被告の主張〕 原告の主張事実は否認する。
争点に対する判断
1 争点(2)ウ(無効理由B-特許法29条の2違反)について (1) 乙34公報(特開昭62-183759号公開特許公報)は、本件発明の特許出願日前の昭和61年2月10日に三井化学により出願(特願昭61-25975号)され、昭和62年8月12日に出願公開されたものである。
そして、乙34公報の特許請求の範囲は、「発熱剤を通気性の被覆で覆い、これを非通気性の袋に収納して成る使い捨ての保温具に於て、通気性の被覆が10μm以下の超微孔性通気フィルムである上記の保温具。」(以下「乙34クレーム」という。)というものであり、発明者は、B、C及びDの3名とされている。
(2) 乙34公報の本件通気度記載部分を含む技術と本件発明との同一性について検討する(なお、原告はこの同一性について特に争っていないと解される。)。
ア 乙34公報の発明の詳細な説明の〔実施例〕の項には、使い捨てカイロの袋材に収納される発熱剤について、「発熱剤1は、例えば、鉄粉、NaCl(触媒)及び湿り気を与える程度のH2Oから成り、使用時に上記通気フィルム2及びレーヨン不織布3を通じて侵入してくる空気中の酸素と鉄粉が反応し、その酸化反応熱によって発熱する」(2頁右上欄15〜19行)と記載され、収納用袋の袋材に「空気の存在下で発熱し得る発熱組成物」が収納されるという本件発明の構成要件Aと同一の構成が示されている。
イ また、同〔実施例〕の項には、「第2図に示した実施例のものは、発熱剤1を包む袋の片側が上記と同様の通気フィルム2及びレーヨン不織布3から成るのに対し、他の片側は非通気性フィルム5とレーヨン不織布3から形成されている。」(2頁右下欄15〜19行)と記載され、第2図には、片面の非通気性フィルム5から成り、一方の片面のほぼ全面が通気フィルム2から成る保温具の一実施例を示す断面図が明示されており、本件発明の「袋材の片面の全面が通気性微細孔を有するシートから成」るとの構成要件B、「他方の側の面が無孔フィルムであ」るとの構成要件C、同袋材が「発熱組成物収納用袋の袋材」であるとの構成要件Eがそれぞれ示されている。
ウ さらに、同〔実施例〕の項には、「而して、通気フィルム2として、本発明に於ては10μm以下の超微孔を有するフィルムを用いる。即ち、懐炉等に用いる保温具に於て適切な発熱量を得るための通気フィルム2の通気量としては、通気度500秒/100t(JIS-P8117)以上が望ましく、より望ましくは、10,000〜100,000秒/100t程度である。通気量が100,000秒/100t以上であると、保温具として必要な温度が得られなくなり、500秒/100t以下であると、発熱が7〜8時間持続しなくなる。」(2頁左下欄3〜13行)との記載がある。
そして、乙10及び弁論の全趣旨によれば、「JIS-P8117」とは標準型ガーレー法による測定を意味するから、乙34の実施例1において、望ましいとされる通気量「10,000〜100,000秒/100t」を標準型ガーレー法による測定値として本件発明の構成要件Dのパーミヤグラフ法による単位に換算すると、0.1598〜1.598×10-4t・p-2・sec-1・Torr-1となる。
同通気量を本件発明の構成要件Dの「0.2〜1.6×10-4t・p-2・sec-1・Torr-1」と比較すると、上限値は同一であり(有効桁数未満の差は無視できる。)、下限値は若干低いが、その差に格別な技術的意義も認められないから、両者は実質的に同じと解され、乙34公報には本件発明の構成要件Dも示されている。
エ したがって、本件発明の構成要件は、乙34公報にすべて記載されているといえる。そして、弁論の全趣旨によれば、乙34公報の記載は、その特許出願に係る願書に最初に添付した明細書及び図面と同じであると認められる。
(2) 原告は、乙34公報の本件通気度記載部分を含む発明と本件発明とは発明者が同一であるから特許法29条の2かっこ書により本件特許権は無効原因を有しないと主張するので、この点について検討する。
ア 同法29条の2かっこ書において、発明者が同一の者である場合に同法29条の2の規定は適用されないとした趣旨は、発明者が自己の発明によって特許出願が拒絶されることがないようにすべきであること、及び先願の特許請求の範囲に当該発明を記載していないことが直ちにその発明についての権利を放棄したものともみられない場合があること等を考慮したものと解されるが、その趣旨からして、発明者の「同一」とは完全な同一をいい、当該発明が共同発明の場合には全員が一致しなければならず、一人でも異なる場合には、「同一の者」とはいえないものと解するのが相当である。
イ そこで、乙34公報に記載の発明の発明者について検討するに、証拠(甲8、14〜17、乙38〜43、47、証人B、原告代表者本人)によれば、
次の事実が認められる。
(ア) 原告は、昭和60年当時、医療用温湿布、使い捨てカイロの開発をしていたが、それに用いる通気性フィルムの開発は、原告社員のAが担当し、同開発に関する外部との折衝は原告代表取締役のEが行っていた。
(イ) Eは、袋材には全面に通気性を有するフィルムが適していると考え、様々な新規フィルムの開発をしていた三井化学に試作フィルムを依頼することとし、樹脂加工本部マーケット開発室課長のFを通じて試作フィルムの依頼事項を伝えた。
(ウ) 三井化学のBは、昭和59年ころから、名古屋工業所加工研究室にて、主に紙おむつのバックシートに用いることを目的として、樹脂にフィラ(無機物の粉末等の異物)を添加して延伸し、樹脂とフィラの界面にできる空隙により通気性を生じさせたフィルムの製造開発等に従事していたが、原告の依頼を受けたFを通じて、使い捨てカイロの試作フィルムの開発を担当することとなった。
(エ) 原告においては、当初、三井化学から、紙おむつ用のフィルムの提供を受けたが、途中でカイロが膨れる等の問題があったため、その後、高通気度のものから低通気度のもの(単位時間当たりの通気量がより少ないもの)へと通気度を変えることを三井化学に依頼し、その試作フィルムの提供を受け、それに加工を加えるなどして、発熱温度、持続時間、袋体の膨張の有無等の実験をし、使い捨てカイロの通気性フィルムにおける適正な通気度が、10,000〜80,000秒/100tであるとの知見を得て、これを三井化学に伝えた。
Bは、ガーレー式に準じた王研式の測定器を用いて、試作フィルムの通気度を測定して、これを原告に提供していたが、カイロとしての発熱温度、持続時間、袋体の膨張の有無等を試験することはなかった。
なお、Eは、三井化学以外に、使い捨てカイロの通気性フィルムにおける適正な通気度に関する情報を伝えてはいない。
(オ) 三井化学は、昭和61年2月10日、原告に何ら告知をすることなく、乙34公報に係る発明について特許出願をし、平成4年12月9日に審査請求したところ、平成5年12月14日に特許庁審査官から拒絶理由通知を受け、平成6年3月25日付け手続補正書により、特許請求の範囲を「発熱剤を通気性フィルムから成る袋に収容し 、これを非通気性の袋に気密に 収納して成る使い捨ての保温具に於て、通気性フィルムの通気孔が10μm以下の超微孔であり、且つ 、その通気量が10,000〜100,000秒/100tであって、使用時に通気性フィルムから成る袋の内圧が負圧となることを特徴とする 上記の保温具。」(下線部は補正部分を示す。)と補正した。
上記特許出願は、平成7年10月4日に出願公告されたが、特許異議の申立てがなされ、特許庁審査官は、平成9年3月17日に特許異議の決定をした。
(カ) また、三井化学は、昭和61年3月20日、「使い捨ての保温具」の発明につき特許出願したが(特願昭61-60743号)、その発明者は乙34公報の発明者3名にGを加えた4名とされており、その特許請求の範囲は、「空気の存在下で発熱し得る発熱剤を通気性の被覆材で覆い、これを非通気性の袋の収納して成る使い捨ての保温具に於て、該通気性の被覆材として、ポリオレフィン系樹脂100重量部と電気伝導度が250μs/p以下でかつ粒径が0.1〜7.0μmである硫酸バリウム50〜500重量部から成る樹脂組成物を溶融製膜後少なくとも一軸方向に1.5〜7.0倍延伸した超微孔通気性フィルムを用いることを特徴とする使い捨ての保温具。」というものである。
そして、同発明の特許公報(特公平6-28678号、乙47)の【発明の詳細な説明】の〔問題を解決するための手段〕の項には、「懐炉等に用いる保温具において適切な発熱量を得るための超微孔通気性フィルムの通気度としては500秒/100t以上が望ましく、より望ましくは5,000〜50,000秒/100tである。
尚、この通気度はJIS-8117に準じて測定した値である。」(5欄4〜8行)との記載がある。
ウ(ア) なお、Bの陳述書(乙14、16)及び同証言中には、乙34クレームの発明について、通気性フィルムの孔径に着目したもので通気度に着目したものではなく、原告からの情報に基づいて防衛目的で適当に広い範囲の通気度を記載したにすぎないとの記載ないし供述部分がある。
(イ) しかしながら、乙34クレーム発明の詳細な説明の〔従来の技術〕、〔発明が解決しようとする問題点〕、〔問題点を解決するための手段〕の欄によれば、乙34クレームは、@使い捨て保温具の時間当たりの発熱量は、通気性の被覆の通気量に依存しているため、通気量が多すぎると使用時に熱くなりすぎ、
逆に通気量が少なすぎると十分な発熱が得られず保温具としての役割を果たし得ないという問題があったこと(1頁右下欄1〜12行)、A従来は通気性の被覆の選択が適切ではなく、又は好適な被覆材料がなかったため適切な通気量を確保することができず、多くの場合通気量が多過ぎるという問題点があったこと(1頁右下欄13〜18行)から、Bこうした問題点を解決するため、発熱剤に対して適切な酸素供給量を確保し、これにより時間当たりの発熱量を適正に維持するとともに、使用時間数を延ばし、更には使用時の装着性も良好な保温具を提供することを目的としており(1頁右下欄20行〜2頁左上欄5行)、C上記目的を達成するため、使い捨て保温具の通気性の被覆として、10μm以下の超微孔性通気フィルムを用いたことを特徴としたものであること(2頁左上欄7〜11行)、とされている。
(ウ) したがって、乙34公報の上記記載からすれば、乙34クレームには通気性フィルムの孔径のみが規定されており、通気度による限定はされていないものの、その目的とするところは、使い捨て保温具に用いる通気性フィルムにおいて適正な通気度を実現するところにあるというべきである。
そして、そのことは、証人Bの証言によれば、通気性フィルムの通気度は、フィラ(無機物の粉末等の異物)による孔径のみで決まるわけではなく、当該フィルムの延伸倍率も、同通気度に影響することが認められること、三井化学が、その後、平成6年3月25日、乙34クレームに「通気量が10,000〜100,000秒/100t」との通気度による限定を加えた補正をしていることからしても明らかである。
(エ) したがって、Bの陳述書及び同証言中の上記記載ないし供述部分は、採用することができない。
エ(ア) 以上の認定事実によれば、三井化学は、原告から、使い捨てカイロに使う通気フィルムに係る通気度の指示を受けて、その条件に沿う通気性フィルムを開発し、原告は、その通気性フィルムをもとに、カイロとしての発熱温度、持続時間、袋体の膨張の有無等を試験した結果、適正な通気度に関する知見を得て、これを三井化学に伝えたものであって、三井化学は、使い捨てカイロの温度特性を左右する重要な要素である通気性フィルムの製作、及び適正な通気度に関する知見の獲得に当たり、極めて重要な役割を果たしたものであるというべきである。そして、三井化学の果たした同役割の重要性は、たとえ、通気性フィルムをカイロに用いた場合の発熱温度、持続時間、袋体の膨張の有無等を独自に試験していなかったとしても変わるものではない。
したがって、使い捨てカイロに用いる通気性フィルムの適正な通気度に関する当該知見は、原告において研究開発に携わったAのみの単独発明ということはできず、少なくとも三井化学において研究開発に携わったBも共同発明者であるというべきである。
(イ) さらに、本件発明は、構成要件A〜Eを要素とするものであって、
それに対応する乙34公報の本件通気度記載部分を含む発明も、構成要件A〜Eに対応する各構成全体として把握すべきであり、上記通気度に関する知見のみを発明と捉えるべきではない。
三井化学は、上記経過で得た使い捨てカイロに関する適正な通気度に関する知見(乙34の本件通気度記載部分)のほかに、袋材の片面の全面が通気性微細孔を有するシートから成ることや、他方の側の面が無孔フィルムであること等の構成も加えて、使い捨てカイロに関する発明として独自に完成させたものというべきであって、そのことは、上記のとおり乙34クレーム自体が通気度と切り離されたものと解することができないこと、三井化学が、乙34公報記載の発明に加え、使い捨てカイロに関する乙41公報の出願をする等、独自に使い捨てカイロを念頭においた通気性フィルムの開発をしていたことが窺われること、原告が得たとされる通気度の知見「10,000〜80,000秒/100t」と、三井化学の出願に係る乙34公報に記載の通気度の知見「10,000〜100,000秒/100t」及び特公平6-28678号特許公報(乙47)に記載の通気度の知見「5,000〜50,000秒/100t」とが相互に異なっていることに照らしても明らかである。
そうすると、原告が主張するように、乙34の本件通気度記載部分を含んだ上記発明部分が、本件発明の発明者であるAのみによってされたものではないことは明らかである。
オ 以上によれば、本件発明と乙34公報の本件通気度記載部分を含む発明の各発明者について、その全員が一致することを認めることはできないものといわざるを得ず、特許法29条の2かっこ書所定の事由が存するとの原告の主張は理由がない。
(3) また、原告は、乙34公報の本件通気度記載部分を含む技術は、発明として未完成であると主張するが、上記のとおり、三井化学は、通気性フィルムの開発に携わる中で通気度に関する知見を得て、それを基に、乙34公報に記載の発明として完成させたものであるから、原告の同主張は理由がない。
(4) 以上によれば、本件発明は、本件特許出願日前に出願され本件特許出願後に公開された特許出願に係る願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した発明と同一であり、かつ両発明の発明者は同一であるともいえないから、本件特許は特許法29条の2の規定に違反してされたものであり、同法123条1項2号の無効理由があることが明らかである。
そうすると、原告の本件特許権に基づく本訴請求は、特段の事情がない限り権利の濫用として許されないところ(最高裁判所平成12年4月11日第三小法廷判決・民集54巻4号1368頁参照)、本件において特段の事情があるとも認められないから、原告の請求は権利の濫用に当たるというべきである。
2 よって、原告の請求は、その余の争点について検討するまでもなく、いずれも理由がない。
裁判長裁判官 小松一雄
裁判官 阿多麻子
裁判官 前田郁勝
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