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審判番号(事件番号) データベース 権利
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平成12ワ5352-A 特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
関連ワード 技術的思想 /  新規性 /  頒布された刊行物 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  公知技術 /  技術的範囲 /  出願公開 /  発明の詳細な説明 /  クレーム /  権利の濫用(権利濫用) /  特許発明 /  権原 /  構成要件 /  差止請求(差止) /  侵害 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  減縮 /  拡張 /  変更 /  訂正明細書 / 
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事件 平成 11年 (ワ) 7141号 特許権侵害差止請求事件
原告 株式会社メリックス
訴訟代理人弁護士 木村圭二郎
被告 株式会社キャリバー
訴訟代理人弁護士 石井教文
同 川上良
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2001/05/24
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第1 請求1 被告は、別紙物件目録記載の使用電力量制御装置を、製造し、販売し、貸し渡してはならない。
2 被告は、前項の使用電力量制御装置を廃棄せよ。
第2 事案の概要(争いのない事実)1 原告の特許権原告は、次の特許権(以下「本件特許権」といい、その特許を「本件特許」という。)を有している。
(1) 特許第2934417号(2) 発明の名称 使用電力量制御システム及び使用電力量制御方法並びに使用電力量制御プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体(3) 出 願 日 平成9年5月2日(特願平9−114815号)(4) 登 録 日 平成11年5月28日2 本件特許権に係る特許出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲請求項1の記載は次のとおりである(以下「本件発明」という。)。なお、本件明細書については、平成12年8月18日付異議の決定中で、訂正が認められている(甲10。同訂正後の明細書は甲9添付の全文訂正明細書のとおりである。)。
「室外機と送風を行う室内機とを有する空調機を複数備える電力設備の使用電力量を制御するシステムであって、電力量の削減率に対応した各室外機の運転制御パターンを複数種類格納する運転制御パターン格納手段と、一定時間の使用上限電力量のデータを格納する使用上限電力量格納手段と、前記室外機を一つの削減率に対応した運転制御パターンに従って一定時間のオン/オフ運転制御を開始し、その制御中に、運転開始から現在時刻までの使用電力量を演算により求める現在使用電力量演算処理手段と、この現在使用電力量演算処理手段により求めた使用電力量から一定時間後の使用予測電力量を演算により求め、その求めた使用予測電力量と前記使用上限電力量格納手段に格納されている使用上限電力量とを比較し、使用予測電力量が使用上限電力量を超えている場合には削減率の増加を指示する信号を出力する削減率決定処理手段と、この削減率決定処理手段からの指示信号に基づいて削減率を切り換えることにより、その削減率に対応する運転制御パターンに従って各室外機のオン/オフ運転制御を行うとともに、室内機については室外機をオフとしたときでも送風を行う運転制御手段とを備え、前記各室外機の運転制御パターンが、各室外機をオフにするタイミングを所定時間づつずらせるようにするとともに、前記一定時間経過後は、その一定時間経過前の削減率の運転制御パターンに従って、次の一定時間の運転制御を開始することを特徴とする使用電力量制御システム。」また、特許請求の範囲請求項5は次のとおりである。
「次の一定時間のオン/オフ運転制御は、その直前の一定時間のオン/オフ運転制御に従った運転制御パターンで開始するものである請求項1、2、3又は4記載の使用電力量制御システム及び使用電力量制御方法。」3 本件発明は次のとおり分説するのが相当である。
(1) 室外機と送風を行う室内機とを有する空調機を複数備える電力設備の使用電力量を制御するシステムであって、
(2) 電力量の削減率に対応した各室外機の運転制御パターンを複数種類格納する運転制御パターン格納手段と、
(3) 一定時間の使用上限電力量のデータを格納する使用上限電力量格納手段と、
(4) 前記室外機を一つの削減率に対応した運転制御パターンに従って一定時間のオン/オフ運転制御を開始し、その制御中に、運転開始から現在時刻までの使用電力量を演算により求める現在使用電力量演算処理手段と、
(5) この現在使用電力量演算処理手段により求めた使用電力量から一定時間後の使用予測電力量を演算により求め、その求めた使用予測電力量と前記使用上限電力量格納手段に格納されている使用上限電力量とを比較し、使用予測電力量が使用上限電力量を超えている場合には削減率の増加を指示する信号を出力する削減率決定処理手段と、
(6) この削減率決定処理手段からの指示信号に基づいて削減率を切り換えることにより、その削減率に対応する運転制御パターンに従って各室外機のオン/オフ運転制御を行うとともに、室内機については室外機をオフとしたときでも送風を行う運転制御手段とを備え、
(7) 前記各室外機の運転制御パターンが、各室外機をオフにするタイミングを所定時間づつずらせるようにするとともに、前記一定時間経過後は、その一定時間経過前の削減率の運転制御パターンに従って、次の一定時間の運転制御を開始することを特徴とする(8) 使用電力量制御システム。
4 被告は、「ESPER SYSTEM」の名称のもとに、使用電力量制御装置を製造、販売してきているが、遅くとも平成12年5月22日までには、同装置のバージョンアップを行っている(以下バージョンアップ前の装置を「イ号物件」といい、バージョンアップ後の装置を「ロ号物件」という。)。
イ号物件及びロ号物件は、いずれも、少なくとも別紙物件目録一及び二の各(一)ないし(三)、(六)の構成を有する使用電力量制御システムに関するプログラムを記録したコンピュータ読取可能な記録媒体を登載した使用電力量制御装置であり、その使用電力量制御システムは、本件発明の構成要件(1)ないし(3)、(6)及び(8)を充足する。
(原告の請求)原告は、被告が製造、販売しているとするイ号物件及びロ号物件は、別紙物件目録記載のとおり特定すべきところ、それらの物件は、いずれも本件発明の技術的範囲に属するとして、被告に対して、イ号物件及びロ号物件の製造、販売の差止め及び廃棄を求めている。
(争点)1 イ号物件及びロ号物件は、「現在使用電力量演算処理手段」を有するか(構成要件(4)及び(5)充足性)。
2 イ号物件及びロ号物件は、「前記各室外機の運転制御パターンが、前記室外機をオフにするタイミングを所定時間づつずらせるように」しているか(構成要件(7)充足性その1)。
3 イ号物件及びロ号物件は、「前記一定時間経過後は、その一定時間経過前の削減率の運転制御パターンに従って、次の一定時間の運転制御を開始」しているか(構成要件(7)充足性その2)。
4 自由技術の抗弁。
権利濫用の抗弁。
第3 争点に関する当事者の主張1 争点1(構成要件(4)及び(5)充足性)について【原告の主張】(1) 現行の日本における電気料金は、基本料金と使用料金の2つの料金体系からなっており、基本料金は、過去1年間の使用電力量の中でも最も使用電力量の多い月の使用電力量を基準とし、これに一定の金額等を乗算して毎月の基本料金が設定されている。本件発明は、従来技術同様、使用電力量を削減することにより、基本料金を節約するとともに、使用料金を節約することも可能とする発明である。このことからすれば、本件発明の「現在使用電力量演算処理手段」とは、需要者の使用する全電力設備の現在使用電力量を演算処理するものであることは明らかである。
なお、本件発明は、従来のデマンドコントローラーに比べ、運転開始時点から室外機を細かく制御することにより、職場環境に極力変化を与えないようにして最大使用電力量の削減を図ることができるという効果を奏するという点に新規性進歩性が認められるのであるから、本件発明の特許出願時点における公知技術を前提としても、「現在使用電力量演算処理手段」の計測対象を空調機に限定する理由はない。
(2) イ号物件及びロ号物件は、電力会社が設置している電力量計から出力された使用電力に関するパルス信号を積算して現在使用電力量を求めているから、「現在使用電力量演算処理手段」を具備する。
【被告の主張】(1) 本件発明の「現在使用電力量演算処理手段」とは、以下の理由により、施設の電力設備における空調機の使用電力量のみを求めるものを意味するものであり、空調機以外のその他の負荷をも含め電力設備全体の総使用電力量を演算するものではないというべきである。
ア 特許請求の範囲によれば、本件発明の対象が「室外機と送風を行う室内機とを有する空調機」の制御であることは明らかであり、現在使用電力量演算処理手段は、室外機の制御中に、運転開始から現在時刻までの使用電力量を演算により求めるものである。
イ 本件明細書には、現在使用電力量演算処理部は、わざわざ各空調機の負荷の電力を計測する計測値に基づいて空調機全体の現在使用電力量を求めるものが、「現在使用電力量演算処理部5」として開示されている(【0020】)。
ウ 本件発明の特許出願公開時において、その特許請求の範囲は「複数の負荷を備える電力設備」を使用電力量制御の対象としていたが、原告は、その後、特開昭63−234837号公開特許公報(乙2)による拒絶査定を免れるため、特許請求の範囲を「室外機と送風を行う室内機とを有する空調機を複数備える電力設備」と限定した。もともと、現実に電力会社から提供されるデマンドは、空調機のみならずその他の負荷をも含む電力設備全体の総使用電力量をパルスとして提供するものであるが、このデマンドを利用して電力設備の使用電力量を計測し、一定時間後の使用予測電力量を演算により求めるという技術は、本件発明の特許出願当時既に公知のものであった。
原告が、特許請求の範囲を「空調機」に限定した経緯からすれば、本件発明の技術的範囲もこれに対応して空調機に関する範囲に限定されたものと解すべきである。
エ 本件発明の制御方法は、本件特許出願当時公知であったのであり(乙3、4)、本件発明の本質は、設備の負荷全体を一括計測せずに、空調機単体の電力量を個々に演算により求め、各空調機を時間差で制御するという空調機の制御に特化した点にあるのである。
(2) また、本件明細書の記載(【0042】)によれば、本件発明の「現在使用電力量演算処理手段」は、すでに計測済みである電力量を加算する処理手段をいうと解すべきである。
(3) イ号物件及びロ号物件は、設備に設置された空調機のみならずその他の電気設備付加をも含む当該設備全体の総使用電力量を、受電点において電力会社によって設置された電力量計から出力される使用電力に関するパルス信号をシーケンサー内で積算することにより把握するものである。
したがって、イ号物件及びロ号物件は、当該設備における空調機の使用電力量のみを基礎とするものではなく、また、本件発明にいう「演算」を行っていないのであるから、「現在使用電力量演算処理手段」を具備しない。
2 争点2(構成要件(7)充足性その1)について【原告の主張】(1) イ号物件は、室内機を複数台ごとにグループ分けをし、グループ内の各室外機につき、「オフにするタイミングを所定時間づつずらせるようにしたもの」であるから、構成要件(7)を充足する。
(2) ロ号物件は、イ号物件同様のグループ分けとともに、個々の空調機ごとに削減率を設定できるようにしたというが、それぞれの削減率において、所定時間において、削減率と台数によって規定された一定間隔の停止信号が発信されているのである。したがって、ロ号物件においても、制御の対象となっている空調機がすべて同じ削減率の場合には、停止信号の発信される間隔は一定となり、各室外機をオフにするタイミングは所定時間づつずれることになるのである。
そして、ロ号物件は、本件発明の技術的思想を前提として、一の削減率を実行する同一グループ内のある空調機において、別の削減率を実行しようとすることを可能とし、その場合には、別の削減率を実行する空調機については、一の削減率に基づき一定間隔で発せられる停止信号を拾わず、別の削減率で一定間隔をもって発せられる停止信号を拾う形での制御を可能とするための改良を施したものにすぎない。
【被告の主張】(1) 本件発明は、施設全体の複数の空調機を相互に関連づけて、一つの運転制御パターンで一元的に時間差制御するものである。すなわち、本件発明は、全空調機を一体として制御する全体制御であるため、室内環境への環境を抑えるために、
「所定時間づつずらす」ことは不可欠の構成要素である。
(2) イ号物件は、各室外機をグループに分け、グループ内において作動時間をずらすというグループ制御を採用しており、グループ相互間においては独自に空調機の制御を行っている。したがって、イ号物件は、構成要件(7)の「所定時間づつずらす」という構成を具備していない。
(3) ロ号物件は、イ号物件同様のグループ分けを行うとともに、削減率の設定をグループ単位一括で設定するのではなく、個々の空調機ごとに自由に削減率を設定できるようにしているので、削減率0%も可能とした。したがって、利用者が空調機ごとに設定した任意の削減率に基づいて制御を行うものであり、「所定時間(等間隔の時間)づつずらす」という形態での制御を全く行っていない。
(4) よって、イ号物件及びロ号物件は、ともに構成要件(7)を充足しない。
3 争点3(構成要件(7)充足性その2)について【原告の主張】(1) 構成要件(7)の「一定時間経過前の運転制御パターン」というのは、その前の30分の基本運転制御パターン(デマンドが働いていない状態での制御パターン)を意味する。
「前記一定時間経過後は、その一定時間経過前の削減率の運転制御パターンに従って、次の一定時間の運転制御を開始する」という構成は、本件明細書の【0050】をクレームアップしたものであるが、【0050】の記載及び同記載が引用する図7からすれば、一定時間経過後に、当初設定された削減率に関する基本運転制御パターンに至っていることは明らかである。
(2) イ号物件及びロ号物件は、30分という一定時間経過後、その前の30分の基本運転制御パターンに従って、次の30分の運転制御を開始しているから、
「前記一定時間経過後は、その一定時間経過前の削減率の運転制御パターンに従って、次の一定時間の運転制御を開始」している。
したがって、イ号物件及びロ号物件は構成要件(7)を充足する。
(3) なお、本件明細書の特許請求の範囲請求項5は、「次の一定時間のオン/オフ運転制御」が「直前の一定時間の運転制御に従った運転制御パターン」によるとしているから、一定時間経過後は、被告の主張するもとの基本運転制御パターンに復帰することを述べていることになる。仮に請求項1の上記箇所を被告の主張のように解釈するとすれば、イ号物件及びロ号物件はいずれも請求項5の発明の技術的範囲に属することになる。
【被告の主張】本件発明では、例えば、最初の30分間を10%で運転制御し、次の30分間においてデマンドにより削減率が20%にアップされた場合、その次の30分間は、経過前の削減率10%で運転制御される。さらに、次の30分間については、
「その30分経過前の削減率の運転制御パターンに従う」ことから、その30分経過前の削減率である20%で運転制御を行うものである。
これに対し、イ号物件及びロ号物件は、30分経過後次の30分の運転制御開始時には、予め設定された平常時制御パーセントに復帰して運転制御を開始するものである。
したがって、イ号物件及びロ号物件は、構成要件(7)を充足しない。
4 争点4(自由技術の抗弁)について【被告の主張】イ号物件は、公知技術である電力会社提供のデマンドメータを利用し、公知技術である時間差制御方式を利用しているのであるから、すべて公知技術によって成り立っているものである。
したがって、原告が、本件特許出願当時公知の技術を用いたにすぎないイ号物件を、特許権侵害であると主張することは許されない。
【原告の主張】争う。
5 争点5(権利濫用の抗弁)について【被告の主張】本件発明は、その出願時の公知技術である特開昭63−234837号公開特許公報(乙2)、特公昭64−4417号特許公報(甲6添付)、昭和62年5月28日国会図書館受付「電設資材」(甲6添付)、株式会社アイデック社製エアコン制御システム「ecomax」のカタログ(乙6)、大崎電気工業株式会社製デマンドコントローラー「スーパーマックス」(乙4)、富士電機株式会社「富士デマンドコントローラ」のカタログ(乙3)に開示されている発明によって、全部公知の発明ないし進歩性がない発明であることが明らかである。したがって、本件特許は無効理由があることが明らかであり、本件特許権に基づく本件請求は権利の濫用である。
【原告の主張】争う。
第4 争点に対する判断1 争点3(構成要件(7)充足性その2)について(1) 構成要件(7)の「前記一定時間経過後は、その一定時間経過前の削減率の運転制御パターンに従って、次の一定時間の運転制御を開始すること」という要件は、一定時間経過後に開始する運転制御パターンについて定めたものであるが、その内容である「その一定時間経過前の削減率の運転制御パターン」は、一定時間経過する直前の削減率の運転制御パターン(例えば、午前10時に運転を開始して、
午前10時30分の経過によって一定時間経過という場合には、午前10時30分を経過した段階で開始する運転制御パターンは、午前10時30分を経過する直前の運転制御パターンとすること)を意味すると理解するのが自然であるともいえるが、他方で、「一定時間経過前」という言葉は、時間的に幅のある概念とも理解することができるので、その意味を特許請求の範囲の記載から一義的に確定することはできない。
(2) 証拠(甲1、6ないし10)によれば、構成要件(7)の「前記一定時間経過後は、その一定時間経過前の削減率の運転制御パターンに従って、次の一定時間の運転制御を開始すること」という要件は、本件特許に対する特許異議手続において、特許請求の範囲減縮を理由とする訂正請求(甲9)が認められて追加された要件であり、訂正前である特許登録時の特許請求の範囲中の構成要件(7)の部分は「上記各室外機の運転制御パターンが、各室外機をオフにするタイミングを一定時間づつずらせるようにしたものであることを特徴とする」というものであったことが認められる。原告は、その訂正請求書において、この訂正事項については、本件明細書【0050】第1行〜第4行目に記載されたものであり、願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内での訂正であり、実質上特許請求の範囲拡張又は変更するものではない旨主張している。
証拠(甲1)によれば、本件明細書の【0050】には、「そして、30分経過後は、(図7の)ステップS4からステップS12へと動作を進め、システム全体の運転停止指示が入力されなければ、ステップS13へと動作を進めて、その30分経過前の削減率の運転制御パターンに従って、次の30分の運転制御を開始する。」と記載されていること、本件明細書添付の図7(本件発明の使用電力量制御方法を実行するシステムの動作を説明するためのフローチャート図)のステップのS13には、「30分経過前の運転制御パターンで運転開始」とあるのみで、
ステップのS3のように、当該運転制御パターンの読み出しをしていないことが認められる。
このことからすると、「30分経過前の運転制御パターンで運転開始」とは、運転制御パターンを読み出す必要がないパターンで運転開始すること、すなわち、30分経過する直前の運転制御パターンで運転を開始するものとみるのが自然であるといえる。原告が主張するように、「一定時間経過前の運転制御パターン」というのが「その前の30分の基本運転制御パターン」を意味するとすれば、前記図7のフローチャート図のステップ13において、そのような運転制御パターンを読み出すことが記載されていてしかるべきである。
(3) 他方、証拠(甲6、7)によれば、上記特許異議においては、本件特許の出願前に国内において頒布された刊行物として特開昭63−234837号公開特許公報が甲第1号証として提出されていたところ、特許庁は、原告に対して、「本件請求項1〜6に係る発明は、その出願前に国内において頒布された下記(1)〜(5)の刊行物(上記甲第1号証を含む)に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する分野における通常の知識を有するものが、容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」として、取消理由通知を発したことが認められる。
そして、上記甲第1号証には、次の発明が記載されていることが認められる。
「 空調設備を複数備える電力設備の使用電力量を制御するシステムであって、予め最大需要電力量を設定し、複数の空調機を一つの制御パターンに従って一定時間のオン/オフ運転制御を開始し、その制御中に、使用電力量を積算し、この使用電力量からデマンド監視時間内での総使用電力量を予測し、その予測された総使用電力量が予め設定された最大需要電力量を超過しているか否かの判定を行い、
超過した場合は電力の負荷を下げるべく指示を出し、間欠運転の運転時間と停止時間とを設定変更を行い、前記一定時間経過後は、その一定時間が経過する直前の運転制御パターンに従って、次の一定時間の運転制御を開始することを特徴とする使用電力量制御システム。」すなわち、上記甲第1号証に記載された発明における一定時間経過後に開始する運転制御パターンは、上記(1)及び(2)で解釈したところの本件発明の構成要件(7)に記載されたそれと同一であるということができる。
これに対し、証拠(甲8、9)によれば、原告は、上記(2)記載のとおり、
特許請求の範囲の記載の訂正請求をするとともに、本件特許に対する特許異議手続における特許異議意見書において、上記要件に関して、次のように意見を述べていることが認められる。
「 本件特許発明では、一定時間の30分が経過すると、それまでの削減率が30%であっても、最初の削減率である10%に戻して、再び次の一定時間の運転制御を開始するのに対して、甲第1号証に記載の制御では、設定温度を順次上げていく一方向の制御(若しくは、運転時間の割合を順次短くしていく一方向の制御)にしかならない。そして、このような制御の違いは、効果においてより大きな違いとして現れる。
すなわち、本件特許発明のものでは、例えば真夏の昼間に運転を開始すると、30分経過直前には例えば30%、40%といった高い削減率になっている場合があるが、この制御を繰り返し、例えば日差しが傾く夕方になり、削減率が20%でも使用上限電力量を超えない状態になると、30分経過直前の削減率が20%に留まることになる。また、夜になって、削減率が10%でも使用上限電力量を超えない状態になると、30分経過直前の削減率が10%に留まることになる。」この原告の意見からすると、原告としては、「前記一定時間経過後は、その一定時間経過前の削減率の運転制御パターンに従って、次の一定時間の運転制御を開始すること」という要件は、一定時間経過後は、直前の一定時間の当初の削減率で運転を開始するという意味であると主張していたものと考えられる。
そして、証拠(甲10)によれば、特許異議の決定は、この原告の主張を容れ、本件発明に進歩性を認め、特許査定を維持したと考えられる。
(4) ところで、本件明細書の特許請求の範囲には、請求項5として「次の一定時間のオン/オフ運転制御は、その直前の一定時間のオン/オフ運転制御に従った運転制御パターンで開始するものである請求項1、2、3又は4記載の使用電力量制御システム及び使用電力量制御方法。」という発明(以下「第5発明」という。)が記載されていることは前記のとおりであり、本件明細書によれば、第5発明の効果は、「次の一定時間のオン/オフ運転制御を、その直前の一定時間のオン/オフ運転制御に従った運転制御パターンで開始するので、その後の制御が安定したものとなる。」(【0056】)というものであることが認められる(甲1)。
上記のように、本件明細書で第5発明が制御の安定性という効果を奏するとされていることからすると、同発明の「その直前の一定時間のオン/オフ運転制御に従った運転制御パターンで開始する」とは、直前の一定時間の最後の運転制御パターンで開始することを意味すると見るのが相当である。仮に、これを、原告が前記特許異議意見書で述べたように、「一定時間の30分が経過すると、それまでの削減率が30%であっても、最初の削減率である10%に戻して、再び次の一定時間の運転制御を開始する」との趣旨に解するとすると、制御の安定性という効果を奏するとはいい難い。
そして、特許請求の範囲に記載された発明は明細書の発明の詳細な説明に記載されていなければならないところ(特許法36条6項1号)、第5発明の「次の一定時間のオン/オフ運転制御は、その直前の一定時間のオン/オフ運転制御に従った運転制御パターンで開始する」に対応する記載は、本件明細書【0050】の1〜4行目しかないと認められる。
また、第5発明の請求項は、本件発明の請求項を引用しているから、第5発明の「その直前の一定時間のオン/オフ運転制御に従った運転制御パターン」と本件発明の「その一定時間経過前の削減率の運転制御パターン」という要件は同じ意味に解さなければならないというべきである。
(5) 以上の事実、すなわち、「その一定時間経過前の削減率の運転制御パターン」という文言の自然的意味、本件明細書の統一的解釈、第5発明と本件発明の整合性からすると、特許異議手続における原告の特許異議意見書の主張にもかかわらず、本件発明の「その一定時間経過前の削減率の運転制御パターン」とは、一定時間経過する直前の削減率の運転制御パターンと見るのが相当である。仮に、前記特許異議意見書で原告が主張したように、前記訂正によって請求項1に加えられた「前記一定時間経過後は、その一定時間経過前の削減率の運転制御パターンに従って」という構成を、一定時間経過後は、直前の一定時間の当初の削減率で運転を開始するという意味に解釈するとすれば、この訂正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲を超えるものというべきであるから、本件特許は無効理由を有することになり(特許法123条1項8号120条の4第3項で準用する126条2項)、そのような解釈をすることは相当でない。
(6) 弁論の全趣旨によれば、イ号物件及びロ号物件においては、一定時間経過後は、直前の一定時間の当初の運転制御パターンで、運転を開始するものと認められるから、本件発明の構成要件(7)を充足しない。
したがって、イ号物件及びロ号物件は、ともに本件発明の技術的範囲に属さない。
なお、前記のとおり、第5発明(請求項5)も本件発明と同一の要件からなるものというべきであるから、イ号物件及びロ号物件は第5発明の技術的範囲にも属さない。
2 よって、その余の争点について検討するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないから、主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第21民事部裁判長裁判官 小 松 一 雄裁判官 安 永 武 央裁判官高松宏之は転勤のため署名押印することができない。
裁判長裁判官 小 松 一 雄別紙 物件目録
事実及び理由
全容