運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成11ワ21280特許権不侵害確認請求事件 平成12ワ7516特許権侵害差止請求事件 判例 特許
平成11ワ24433特許権損害賠償等請求事件 判例 特許
平成12ワ12728特許権侵害差止請求事件 判例 特許
平成12ワ13799特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成12ワ5352-A 特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
関連ワード 発明者 /  技術的思想 /  新規性 /  進歩性(29条2項) /  公知技術 /  29条の2(拡大された先願の地位) /  上位概念 /  技術的範囲 /  発明の詳細な説明 /  補償金請求権 /  優先権 /  警告 /  悪意 /  登録実用新案 /  権利の濫用(権利濫用) /  特許出願日 /  優先日 /  出願経過 /  参酌 /  技術的意義 /  不存在 /  特許発明 /  実施 /  構成要件 /  構成要件充足性 /  差止請求(差止) /  侵害 /  実施料 /  実施許諾(実施の許諾) /  請求の範囲 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
元本PDF 裁判所収録の別紙1PDFを見る pdf
事件 平成 11年 (ワ) 4025号 差止請求権不存在確認等請求事件
平成 11年 (ワ) 6198号 特許権侵害差止等請求事件
平成 11年 (ワ) 11127号 特許権侵害差止等請求事件
平成 12年 (ワ) 3700号 損害賠償請求事件
甲事件被告兼乙・丙・丁事件原告 X
訴訟代理人弁護士 山元真士甲事件原告兼乙事件被告 株式会社奥田製作所 甲事件原告兼乙事件被告 株式会社カワノ 丙事件被告 株式会社イナックス 丁事件被告 株式会社ノーリツ
上記4名訴訟代理人弁護士 上原洋允
同 小杉茂雄
同補佐人弁理士 喜多秀樹
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2001/05/31
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 甲事件被告兼乙・丙・丁事件原告Xは、甲事件原告兼乙事件被告株式会社奥田製作所及び同株式会社カワノが別紙物件目録記載1の耐震ロック装置を製造販売する行為が、特許第2873441号、同第2896568号及び同第2926114号の各特許権を侵害する旨を文書又は口頭で第三者に言いふらしてはならない。
2 甲事件被告兼乙・丙・丁事件原告Xの請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、甲・乙・丙・丁事件を通じて、甲事件被告兼乙・丙・丁事件原告Xの負担とする。
事実及び理由
請求
(以下、甲事件被告兼乙・丙・丁事件原告Xを「原告」、甲事件原告兼乙事件被告株式会社奥田製作所を「被告奥田製作所」、甲事件原告兼乙事件被告株式会社カワノを「被告カワノ」、丙事件被告株式会社イナックスを「被告イナックス」、丁事件被告株式会社ノーリツを「被告ノーリツ」、被告奥田製作所、被告カワノ、被告イナックス及び被告ノーリツを合わせて「被告ら」という。)(甲事件) 主文1項同旨。
(乙事件) 1 被告奥田製作所及び被告カワノは、原告に対し、金1200万円及びこれに対する平成11年6月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 同被告らは、別紙物件目録記載1の耐震ロック装置を製造販売してはならない。
(丙事件) 被告イナックスは、原告に対し、金1億0350万円及びこれに対する平成12年4月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(丁事件) 被告ノーリツは、原告に対し、金7560万円及びこれに対する平成12年4月21日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
乙・丙・丁事件は、原告が、被告らに対し、被告らが耐震ロック装置及びそれを取り付けた収納ボックスを製造販売する行為は原告の有する3つの特許権を侵害すると主張して、その差止め及び補償金ないし損害金を請求した事案であり、甲事件は、被告奥田製作所及び被告カワノが、原告に対し、前記耐震ロック装置を製造販売することが原告の前記特許権を侵害する旨を文書又は口頭で第三者に言いふらす行為は虚偽の事実の陳述又は流布であるから、不正競争防止法2条1項13号に該当するとして、その禁止を求めた事案である。
1 争いのない事実等 (1) 原告は、次のAないしC記載の各特許権を有している(以下、これらの各特許権を順次「A特許権」などといい、後記各請求項に係る特許発明を順次「A発明」などといい、各特許権に係る明細書(補正後のもの)を順次「A明細書」などという。)。
Aa 発明の名称 地震時ロック方法、装置及びその解除方法 b 特許番号 第2873441号 c 出 願 日 平成7年10月13日(特願平7-301860号) d 公 開 日 平成9年6月17日(特開平9-158591号) e 登 録 日 平成11年1月14日 f 特許請求の範囲は、別添特許公報A該当欄記載のとおり。
g A発明の構成要件は、次のとおり分説できる。
【請求項3】 (a) 家具、吊り戸棚等の本体内に固定された装置本体の係止手段が開き戸の係止具に地震時に係止するロック方法において (b) 開き戸が閉止状態からわずかに開かれた位置で開き停止させ (c) 及び開き停止した前記開き戸が閉止位置に戻る際にその動きで前記係止手段が係止解除される解除方法を用いたロック及び解除方法であって (d) 装置本体に収納された係止手段が地震時に装置本体外に突出して開き戸の係止具に係止する (e) 地震時ロック及び解除方法 【請求項6】 (f) 請求項3の地震時ロック及び解除方法を用いた (g) 吊り戸棚 【請求項7】 (h) 請求項3の地震時ロック及び解除方法を用いた (i) 家具 Ba 発明の名称 開き戸のロック方法 b 特許番号 第2896568号 c 出 願 日 平成7年7月30日(特願平7-225669号) d 公 開 日 平成8年7月2日(特開平8-170467号) e 登 録 日 平成11年3月12日 f 特許請求の範囲は、別添特許公報B該当欄記載のとおり。
g B発明の構成要件は、次のとおり分説できる。
【請求項1】 (a) 家具、棚等の本体内に装置本体を固定し、
(b) 開き戸側に係止具を設け、
(c) 前記装置本体内に軸支されず突出可能に収納された係止手段が (d) 地震時に突出して前記係止具に係止するロック方法において、
(e) 該係止状態は開き戸がわずかに開かれた位置で開き停止する係止状態である (f) 開き戸のロック方法 【請求項2】 (g) 家具、棚等の本体内に装置本体を固定し、
(h) 開き戸側に係止具を設け、
(i) 前記装置本体内に軸支されず突出可能に収納された係止手段が (j) 地震の前後方向ゆれに起因して上下方向に突出し前記係止具に係止するロック方法において、
(k) 該係止状態は開き戸がわずかに開かれた位置で開き停止する係止状態である (l) 開き戸のロック方法 【請求項3】 (m) 収納されている係止手段が地震時に突出する (n) 請求項1又は2のロック方法を用いた (o) 家具 【請求項4】 (p) 収納されている係止手段が地震時に突出する (q) 請求項1又は2のロック方法を用いた (r) 棚 【請求項5】 (s) 家具、棚等の本体内に固定された装置本体内に (t) 軸支されず収納された係止手段が突出することによりわずかに開かれて開き停止した開き戸が (u) 閉止位置に戻る際にその開き戸の動きで前記係止手段の突出が戻される (v) 開き戸の解除方法 【請求項6】 (w) 請求項1又は2のロック方法と請求項5の解除方法を用いた (x) 家具 【請求項7】 (y) 請求項1又は2のロック方法と請求項5の解除方法を用いた (z) 棚 Ca 発明の名称 地震時ロック装置及びその解除方法 b 特許番号 第2926114号 c 出 願 日 平成7年7月16日(特願平7-210921号) d 公 開 日 平成8年8月6日(特開平8-199886号) e 登 録 日 平成11年5月14日 f 特許請求の範囲は、別添特許公報C該当欄記載のとおり。
g C発明の構成要件は、次のとおり分説できる。
【請求項2】 (a) 家具、吊り戸棚等の本体内に固定された装置本体に (b) 動き可能に係止手段を設け (c) 該係止手段が開き戸の係止具に (d) 地震時のゆれが原因で振動を伴わず係止するロック方法において (e) 開き戸を閉止状態からわずかに開かれた位置で開き停止させ (f) 開き戸の解除を伴って戻る際に弾性手段の抵抗が作用する (g) 開き戸の地震時ロック方法 【請求項4】 (h) 請求項2を用いた (i) 吊り戸棚 【請求項5】 (j) 請求項2を用いた (k) 家具 【請求項6】 (l) 閉じる方向の動きで係止解除される際に (m) 弾性手段の抵抗が存在する解除方法を用いた (n) 地震時に開き停止される開き戸 【請求項8】 (o) 請求項6を用いた (p) 吊り戸棚 【請求項9】 (q) 請求項6を用いた (r) 家具 (2) 被告奥田製作所は、平成9年1月ころから、別紙物件目録記載1の耐震ロック装置(以下「本件装置」という。)を製造して被告カワノに卸し、被告カワノは、キッチンメーカー各社に対し、本件装置を販売している。
被告イナックス及び被告ノーリツは、本件装置を取り付けた別紙物件目録記載2の収納ボックス(以下「本件収納ボックス」という。)を製造、販売している。
(3)ア 原告は、弁理士であり、AないしC特許権の出願前から地震時における吊り戸棚等の開き戸の自動ロック方法を開発するなどし、完成後、見本市において展示するなどしていた(弁論の全趣旨)。
イ 原告は、被告奥田製作所及び被告カワノの取引先であるキッチンメーカー及びハウスメーカー各社に対し、本件装置の販売行為に関し、平成9年12月3日付書面により、A特許権を侵害する旨警告し、その後も平成10年11月までに、数度にわたり、AないしC特許権を侵害する旨の特許法65条に基づく警告をした。
その後、原告は、前記キッチンメーカー及びハウスメーカー各社に対し、平成10年12月9日又は10日付書面により、補償金請求権及び特許後の実施料の請求権が近々発生することを予告するとともに、平成11年2月10日付書面により、一部のキッチンメーカーに対し、補償金の支払を催告した。
ウ また、原告は、被告イナックスに対し、A特許権に関し平成9年11月18日到達の書面により、B特許権に関し同年12月5日到達の書面で、それぞれ本件収納ボックスの販売行為が、各特許権を侵害する旨の同法65条に基づく警告をした。
2 争点 (1) 本件装置及び本件収納ボックスは、A発明の各構成要件を充足するか。
(2) 本件装置及び本件収納ボックスは、B発明の各構成要件を充足するか。
(3) 本件装置及び本件収納ボックスは、C発明の各構成要件を充足するか。
(4) B発明及びC発明について明らかな特許無効理由が存在するか。
(5) 損害及び補償金の額
争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(A発明の構成要件充足性)について 〔原告の主張〕 (1) 本件装置及び本件収納ボックスにおける地震時ロック及び解除方法は、A発明の請求項3の各構成要件に対応させて特定すると、次のようになる。
(a') 家具、釣り戸棚等の本体2内に固定されたロック装置5の係止手段10が、開き戸4が閉止位置に戻るのを許容した状態で、開き戸4の係止具7に地震時に係止されるロック方法である。
(b') 開き戸4が閉止状態からわずかに開かれた位置で開き停止させ、その戻る動きで係止解除を可能にしたロック方法である。
(c') 開き停止した開き戸4が閉止位置に戻る際に、その動きで係止手段10が係止解除される解除方法であるが、係止手段10を突出させるばねの弾性が弱いため、地震の波のゆれごとに係止解除される解除方法である。
(d') 装置本体6に収納された係止手段10が、地震時に装置本体6外に突出して、開き戸4の係止具7に係止する。
(e') 地震時ロック及び解除方法である。
(2) A発明の請求項3の構成要件(a)〜(e)と本件装置及び本件収納ボックスが用いる方法の構成(a')〜(e')とを比較する。
構成要件(a)と構成(a')では、構成(a')に「開き戸が閉止位置に戻ることを許容した状態で」という限定のある以外は同旨である。なお、「係止」とは「かかって何らかの動きが止まる」という意味であり、その文言上、両方向(開く方向と閉じる方向)の動きが止まる場合のみならず、一方(開く方向のみ)の動きが止まる場合も含まれ、被告らが主張するように限定的に解する根拠はない。
構成要件(b)と構成(b')では、構成(b')の「開き戸が、閉止状態からわずかに開かれた位置で開き停止させるロック方法であること」及び「開き戸の戻る動きで係止解除する」という2点は、構成要件(b)、(c)を併せたものと全面的に同旨である。
あるいは、換言すれば、「開き戸を、閉止状態からわずかに開かれた位置で開き停止させる」目的が、「開き戸が、その位置から閉止位置まで戻る間の動きを利用して係止解除する」ことにある点で同一である。
構成要件(c)と構成(c')とでは、開き戸が閉止位置に戻る動きで係止手段が解除される点では同旨であるが、構成(c')では、係止手段を突出させるばねの弾性が弱いため、地震のゆれの波ごとに係止解除されるという、ばねの強さについての限定が付加されている(この点、A発明の実施例では、ばねの弾性が相対的に強いため、いったん開き停止したうえは、その後地震のゆれが持続しても開き停止したままの状態を維持し続けるのである。)。
構成要件(d)と構成(d')及び構成要件(e)と構成(e')とは、文字通り全く同一である。
(3) 上記比較のとおり、本件装置及び本件収納ボックスが用いる地震時ロック及び解除方法の構成(a')〜(e')は、A発明の請求項3の構成要件(a)〜(e)をすべて同旨に包含しつつ、ただ、係止手段を構成する弾性手段(ばね)の強さに起因する限定を付けただけのものにすぎない。
したがって、本件装置及び本件収納ボックスが用いる方法が、A発明の請求項3の構成要件をすべて基礎に置いた利用発明であることは明らかであって、本件装置及び本件収納ボックスは、A発明の請求項3の方法の実施にのみ使用する物であり、また、本件収納ボックスは、請求項3を引用する請求項6、7の構成要件を備える物であり、A発明(請求項6、7)の技術的範囲に属する。
〔被告らの主張〕 本件装置及び本件収納ボックスは、A発明の「地震時に係止」及び「開き停止」との構成(構成@)、並びに、「係止手段が地震時に装置本体外に突出」との構成(構成A)を備えていない。その理由は以下のとおりである。
(1) 明細書の実施例の参酌 ア A明細書には、特許請求の範囲に記載の構成に関する概念的な説明(発明思想の開示)がないので、実施例に具現化されている構成とその作用から技術的思想を把握することにより、上記構成@及び構成Aの技術的意義を確定すべきである。
イ 構成@について A明細書の各実施例におけるロック作用を考慮すると、A発明にいう「地震時に係止」とは、係止具を閉止状態に戻さないように係止手段が係止具に引っ掛かる状態を意味し、「開き停止」とは、そのような係止状態の係止手段によって、開き戸が閉止位置に戻らないように開いたままの状態で停止させることであると解すべきである。
本件装置及び本件収納ボックスは、地震時において扉4がボックス本体2に対して開きと閉じを繰り返すようにしてロックされる「ばたつき」方式を採用しているから、A発明にいう「地震時に係止」及び「開き停止」との構成を備えていない。
ウ 構成Aについて A明細書の各実施例における振動検出方法を考慮すると、A発明にいう「係止手段が地震時に装置本体外に突出」とは、係止手段が地震のゆれに伴う自らの慣性力で地震の振動を検出して突出すること(セルフ検出方式)を規定したものであると解すべきである。
本件装置及び本件収納ボックスは、ロック部材10がブラケット7に対するロック機能のみを担い、地震のゆれの検出機能は転動ボール14が担うトリガー方式ないし別体方式を採用しているから、A発明にいう「係止手段が地震時に装置本体外に突出」との構成を備えていない。
(2) 出願当初明細書の参酌 ア 補正を経て特許された特許発明の特許請求の範囲の用語を解釈するに当たっては、出願当初明細書又は図面の記載内容に対して新規事項を含まないように、すなわち、当初明細書又は図面から直接かつ一義的に導き出せる事項を限度として、その用語の意義を認定すべきである。
イ A発明の出願当初明細書(特開平9-158591号公開特許公報(甲8)掲載)の特許請求の範囲発明の詳細な説明には、開き戸を閉止位置に戻らないように開いたままの状態で停止させるロック及び解除方法しか記載されていないので、構成@に関する上記解釈は正当である。
ウ 当初明細書の特許請求の範囲発明の詳細な説明には、セルフ検出方式の振動検出方法を用いたロック及び解除方法しか記載されていないので、構成Aに関する上記解釈は正当である。
(3) 構成@に関する公知技術参酌 「地震時に係止する」及び「開き停止」(構成@)が開き戸の戻りを許容するロック状態を含むと解釈すると、A発明は、米国特許第5035451号公報(甲3)に示された技術(以下「甲3発明」という。)に照らして明白に新規性又は進歩性が欠如したものになるので、構成@に関する上記解釈は正当である。
(4) 構成Aに関する出願経過書類の参酌 A発明の出願人が出願過程で自発的に提出した刊行物等提出書(乙3の1)における「…係止手段で地震を検出する…」(係止手段そのものが振動検出機能を担っていること)という意見表明を考慮しても、構成Aに関する上記解釈は正当である。
〔被告らの主張に対する原告の反論〕 (1) 明細書の実施例の参酌について ア 構成@について 被告らは、開き戸が閉止位置に戻らない、すなわち両方向(閉じる方向と開く方向)に動かない状態になることと解釈するが、そのように限定的に解する根拠はない。
A明細書の請求項1では「開き保持して開き停止」とされ、請求項3は単に「開き停止」と表現していることからも、請求項3の「開き停止」とは「開き保持」を含まない意味であることは明らかである。
なお、本件装置及び本件収納ボックスのように、地震時に開き戸が閉止位置に戻る状態、すなわち「ばたつく」状態であることは、A発明の実施例と比較して何の利点も見出せない。
また、地震時に開き戸がわずかに開いた状態で収納物が開き戸にもたれかかることにより、地震終了時において、被告らが主張する開き戸が両方向に動かない状態になることもあり得る。
イ 構成Aについて 被告らは、係止手段が地震のゆれに伴う自らの慣性力で地震の振動を検出して突出すること(セルフ検出方式)と解釈するが、そのように限定的に解する根拠はない。
本件装置及び本件収納ボックスのように、地震の震動が、球14、保持部材12、ばね11等を通じて、ロック部材10の上下方向の動きに伝達されるとしても、
そのことにより、地震のゆれに伴う自らの慣性力で地震の震動を検出する場合に比較して著しい効果があるものではない。
ウ 地震時の開き戸ロック装置に関しては、AないしC発明の出願当時、開き戸の隙間から解除具を挿入して解除するという実用に耐えないような技術はあったものの、「棚本体側で地震検出しながら開き戸の戻る動きで解除する」という解除の原理はなかったところ、AないしC発明の発明者はこの解除の原理を発見し、
その技術的思想についてAないしC発明の特許出願をしたものである。
AないしC発明の構成要件を解釈するに当たっても、その技術的思想に着目すべきであって、被告らが主張するような構成の差異があっても同じ技術的思想に含まれることは明らかであり、AないしC発明の構成要件の充足性に影響を与えるものではない。
(2) 当初明細書の参酌について 被告らは、補正後の特許請求の範囲の記載を、出願当初明細書の実施例に記載された構成と比較し、そこにはなかった新規事項を付加して解釈することは許されないことを前提として主張しているとも思われるが、特許請求の範囲実施例の上位概念(不必要な構成要件を省略したもの)であって、被告らが主張するように、当初明細書あるいはA明細書には、「弾性手段」の強弱、「開き戸の解除を伴って戻る」原因の力、「閉じる方向の動きで係止解除」する原因の力について、特定の構成の実施例しか記載されていなかったとしても、出願人が特許請求の範囲を定めるに当たり、そうした構成を不必要な構成要件として省略したものであるから、特許請求の範囲の解釈においては、実施例に限定されるということはできない。
(3) 公知技術参酌について 甲3発明の技術は、ラッチアーム(係止手段)が開き戸側に取り付けられ、そのラッチアームは、地震時に開き戸が開閉し家具等の本体に衝突する衝撃を検出して作動するものであって、A発明とは本質的な相違があるから、被告らの主張は理由がない。
(4) 出願経過参酌について 刊行物提出書(乙3の1)における「…係止手段で地震を検出する…」とは、係止手段自身が地震のゆれで動かされるとの意味に限定したものではない。そのことは同刊行物提出書において「係止手段自身を震動検出装置とする場合と否の場合を含め」(10頁)と明記されていることからも明らかである。
2 争点(2)(B発明の構成要件充足性)について 〔原告の主張〕 (1) 本件装置及び本件収納ボックスが用いる開き戸のロック方法は、「家具、
棚等の本体2内に装置本体6を固定し、開き戸4側に係止具7を設け、前記装置本体6内に軸支されず突出可能に収納された係止手段10が地震時に突出して前記係止具7に係止するロック方法」であり、かつ「該係止状態は開き戸4がわずかに開かれた位置で開き停止する係止状態である」から、B発明の請求項1の構成要件(a)〜(f)を充足する。
(2) 本件装置及び本件収納ボックスが用いる開き戸のロック方法は、(1)に加えて、「係止手段10が地震時の前後方向ゆれに起因して上下方向に突出」するものであるから、B発明の請求項2の構成要件(g)〜(l)を充足する。
(3) 本件装置及び本件収納ボックスが用いる開き戸の解除方法は、「家具、棚等の本体2内に装置本体6内に軸支されず収納された係止手段10が突出することによりわずかに開かれて開き停止した開き戸4が閉止位置に戻る際にその開き戸4の動きで前記係止手段10の突出が戻される解除方法」であるから、B発明の請求項5の構成要件(s)〜(v)を充足する。
(4) したがって、本件装置及び本件収納ボックスは、B発明の請求項1、2、
5の方法の実施にのみ使用される物であり、また、本件収納ボックスは、同請求項1、2を引用する請求項3、4、及び請求項5を引用する請求項6、7の構成要件を備える物であり、B発明(請求項3、4、6、7)の技術的範囲に属する。
〔被告らの主張〕 本件装置及び本件収納ボックスは、B発明の「地震時に係止」及び「開き停止」との構成(構成@)、並びに、「装置本体内に収納された係止手段が突出」との構成(構成A)を備えていない。その理由は以下のとおりである。
(1) 明細書の実施例の参酌 ア B明細書には、特許請求の範囲に記載の構成に関する概念的な説明(発明思想の開示)がないので、実施例に具現化されている構成とその作用から技術的思想を把握することにより、上記構成@及び構成Aの技術的意義を確定すべきである。
イ 構成@について B明細書の各実施例におけるロック作用を考慮すると、B発明にいう「地震時に係止」とは、係止具を閉止状態に戻さないように係止手段が係止具に引っ掛かる状態を意味し、「開き停止」とは、そのような係止状態の係止手段によって、開き戸が閉止位置に戻らないように開いたままの状態で停止させることであると解すべきである。
本件装置及び本件収納ボックスは、地震時において扉4がボックス本体2に対して開きと閉じを繰り返すようにしてロックされる「ばたつき」方式を採用しているから、B発明にいう「地震時に係止」及び「開き停止」との構成を備えていない。
ウ 構成Aについて B明細書の各実施例における振動検出方法を考慮すると、B発明にいう「装置本体内に収納された係止手段が突出」とは、係止手段が地震のゆれに伴う自らの慣性力で地震の振動を検出して突出すること(セルフ検出方式)を規定したものであると解すべきである。
本件装置及び本件収納ボックスは、ロック部材10はブラケット7に対するロック機能のみを担い、地震のゆれの検出機能は転動ボール14が担うトリガー方式ないし別体方式を採用しているから、B発明にいう「装置本体内に収納された係止手段が突出」との構成を備えていない。
(2) 出願当初明細書の参酌 ア B発明の出願当初明細書(特開平8-170467号公開特許公報(甲9)掲載)の特許請求の範囲発明の詳細な説明には、開き戸を閉止位置に戻らないように開いたままの状態で停止させるロック及び解除方法しか記載されていないので、構成@に関する上記解釈は正当である。
イ 当初明細書の特許請求の範囲発明の詳細な説明には、セルフ検出方式の振動検出方法を用いたロック及び解除方法しか記載されていないので、構成Aに関する上記解釈は正当である。
(3) 構成@に関する公知技術等の参酌 「地震時に係止する」及び「開き停止」(構成@)が開き戸の戻りを許容するロック状態を含むと解釈すると、B発明中請求項1、2の発明は、出願時の公知技術である甲3発明及び米国特許第5152562号公報(甲20)記載の発明(以下「甲20発明」という。)と実質同一か、又はそれらの発明に照らして明白に進歩性を欠如したものとなり、また、先願に係る特表平10-502713号公表特許公報(甲21)記載の発明(以下「甲21発明」という。)及び登録実用新案第3016794号公報(甲22)記載の考案(以下「甲22考案」という。)と実質同一となる。さらに、請求項5の発明は、甲3発明と実質同一か、これに照らして明白に進歩性を欠如したものとなる。したがって、これらの公知技術や先願発明等を参酌すると、構成@に関する上記解釈は正当である。
〔被告らの主張に対する原告の反論〕 (1) 明細書の実施例の参酌について ア 構成@について B発明の請求項1及び2は「わずかに開かれた位置で開き停止」と表現し、請求項5は「わずかに開かれて停止」と表現しているのであって、「開き保持」なる用語はないから、「開き停止」は「開き保持」を含まない意味であることは明らかである。
イ 構成Aについて B発明の請求項1及び2は「係止手段が…地震時に係止する」と表現し、請求項5は「係止手段が突出することによりわずかに開かれて開き停止」と表現しているのであって、「地震時のゆれの力で係止手段が動くか否か」に関する限定は全くない。
ウ その他の主張は、争点(1)に関する〔被告らの主張に対する原告の反論〕の(1)で述べたとおりである。
(2) 出願当初明細書の参酌については、争点(1)に関する〔被告らの主張に対する原告の反論〕の(2)で述べたとおりである。
(3) 公知技術参酌について ア 甲3発明については、争点(1)に関する〔被告らの主張に対する原告の反論〕の(3)で述べたとおりである。
イ 甲20発明は、係止手段に相当するものが装置本体内部に収納された紐付の球であって地震時に突出する係止手段ではない点で、B発明とはロック原理が異なり、またロックを解除するには球についた紐を人が手で引っ張って球を元の位置に戻す作業を行うという点で、B発明とは解除原理も異なる。
ウ 甲21発明は、係止手段が装置本体内に収納されず外部に露出したままで、突出するものではなく、また、解除も手で操作して解除する点で、B発明とは異なる。
エ 甲22考案は、上記ウ記載の技術と同様に、係止手段が装置本体内に収納されず外部に露出したままであること、また、解除には人の手で直接係止部分を操作しなければならない点で、B発明とは異なる。
3 争点(3)(C発明の構成要件充足性)について 〔原告の主張〕 (1) 本件装置及び本件収納ボックスが用いる開き戸のロック方法は、「(a') 家具、吊り戸棚等の本体2内に固定された装置本体6に、(b') 動き可能に係止手段10を設け、(c') 該係止手段10が開き戸4の係止具7に、(d') 地震時のゆれが原因で振動を伴わず係止するロック方法」であり、かつ「(e') 開き戸4を閉止状態からわずかに開かれた位置で開き停止させ、(f') 開き戸4の解除を伴って戻る際に弾性手段11の抵抗が作用する、(g') 開き戸4の地震時ロック方法」であり、C発明の請求項2の構成要件(a)〜(g)を充足する。
(2) 本件装置を取り付けた開き戸は、「閉じる方向の動きで係止解除される際に弾性手段11の抵抗が存在する解除方法」を用いるものであるから、C発明の請求項6の構成要件(l)〜(n)を充足する。
(3) したがって、本件装置及び本件収納ボックスは、C発明の請求項2の方法の実施にのみ使用され、本件装置は、請求項6の開き戸の生産にのみ使用される物であり、本件収納ボックスは、請求項2を引用する請求項4、5、及び請求項6を引用する請求項8、9の構成要件を備える物であり、C発明(請求項4、5、8、
9)の技術的範囲に属する。
〔被告らの主張〕 本件装置及び本件収納ボックスは、C発明の「開き停止」及び「弾性手段の抵抗」との構成(構成@)、並びに、「装置本体に動き可能に設け(た)係止手段が…係止具に地震時にゆれが原因で…係止する」(請求項2)との構成(構成A)を備えていない。その理由は以下のとおりである。
(1) C明細書の実施例の参酌 ア C明細書の課題や発明の効果を参酌すると、C発明の「開き停止」は、
開き戸が閉止位置に戻らないように開いたままの状態で停止させることと解すべきである。
イ 一方、C明細書の実施例以外の欄を参照しても、上記構成@の「弾性手段の抵抗」や構成Aに関する説明はいっさいされていないので、これらの技術的意義実施例に具現化されている構成とその作用から技術的思想を把握することによって確定せざるを得ない。
ウ 構成@について C明細書の各実施例におけるロック作用を考慮すると、C発明の「弾性手段の抵抗」とは、開き戸が閉止位置に戻らないように開いたままの状態に停止(これが開き停止である。)させるために、地震による慣性力よりも強い力で係止手段をロック位置に保持するためのばね力による抵抗のことであると解すべきである。
本件装置及び本件収納ボックスは、地震時において扉4がボックス本体2に対して開きと閉じを繰り返すようにしてロックされる「ばたつき」方式を採用しているから、C発明にいう「開き停止」との構成を備えていないし、第1コイルバネ11のばね力は、扉(4)の閉じを許容する弱いものであるから、C発明の「弾性手段の抵抗」との構成を備えていない。
エ 構成Aについて C明細書の各実施例における振動検出方法を考慮すると、C発明にいう「装置本体に動き可能に設け(た)係止手段が…係止具に地震時のゆれが原因で…係止する」とは、係止手段が地震のゆれに伴う自らの慣性力で地震の震動を検出して突出すること(セルフ検出方式)を規定したものであると解すべきである。
本件装置及び本件収納ボックスは、ロック部材10はブラケット7に対するロック機能のみを担い、地震のゆれの検出機能は転動ボール14が担うトリガー方式ないし別体方式を採用しているから、C発明にいう「装置本体に動き可能に設け(た)係止手段が…係止具に地震時のゆれが原因で…係止する」との構成を備えていない。
(2) 出願当初明細書の参酌 ア C発明の出願当初明細書(特開平8-199886号公開特許公報(甲10)掲載)の特許請求の範囲発明の詳細な説明には、開き戸を閉止位置に戻らないように開いたままの状態で停止させるロック及び解除方法しか記載されていないので、構成@に関する上記解釈は正当である。
イ 当初明細書の特許請求の範囲発明の詳細な説明には、セルフ検出方式の振動検出方法を用いたロック及び解除方法しか記載されていないので、構成Aに関する上記解釈は正当である。
(3) 構成Aに関する出願経過書類の参酌 ア C発明の出願人が出願過程で自発的に提出した平成9年7月2日付刊行物等提出書(甲23)における「…係止手段で地震を検出する…」(係止手段そのものが振動検出機能を担っていること)という意見表明を考慮しても、構成Aに関する上記解釈は正当である。
イ 出願人が自発的に提出した平成9年4月30日付刊行物等提出書(甲24)において、トリガー方式のタイプCが実施例として存在しないとした意見表明をしていることを考慮しても、構成Aに関する上記解釈は正当である。
〔被告らの主張に対する原告の反論〕 (1) 明細書の実施例の参酌について ア 構成@について C発明の請求項2においては、「解除…際に弾性手段の抵抗」と表現しているのに対し、請求項3は「わずかな開きを保持可能に弾性手段の強さを設定した請求項2の」とされている。そうすると、請求項2の「弾性手段の抵抗」は、
「わずかな開きを保持可能」な程度に「強い」場合と、そうでなく「弱い」場合の両者を含む意味であり、請求項3はそれを「強い」場合に限定していることは明らかである。
請求項6は、請求項2の用語とほとんど同じであるから、上記同様に、
「弾性手段の抵抗」は「強い」場合と「弱い」場合の両者を含む意味であることは明らかである。
また、「開き停止」については、請求項2は「わずかに開かれた位置で開き停止」と表現し「開き保持して」なる用語がないのに対して、請求項3は請求項2を引用した上で「わずかな開きを保持可能に」とされているのであるから、
「開き停止」は「開き保持」を含まない意味であることは明らかである。
イ 構成Aについて C発明の請求項2は「係止手段が開き戸の係止具に地震時のゆれが原因で振動を伴わず係止する」、すなわち「地震時のゆれが原因で」と表現しているだけで「地震のゆれの力で動く」とはしていないから、係止手段が係止する過程で、
係止手段が地震のゆれの「力」で動くかどうかには無関係であることは明らかである。
ウ その他の主張は、争点(1)に関する〔被告らの主張に対する原告の反論〕の(1)で述べたとおりである。
(2) 出願当初明細書の参酌については、争点(1)に関する〔被告らの主張に対する原告の反論〕の(2)で述べたとおりである。
(3) 構成Aに関する出願経過書類の参酌について 平成9年7月2日付刊行物等提出書(甲23)における「…係止手段で地震を検出する…」とは、係止手段自身が地震のゆれで動かされるとの意味に限定したものではない。
また、平成9年4月30日付刊行物等提出書は、審査開始前に、上記同年7月2日付刊行物等提出書に差し替えられたものである。
4 争点(4)(B発明及びC発明について明白な特許無効理由が存在するか)について 〔被告らの主張〕 B発明及びC発明は、次のとおり明らかに特許無効理由が存在するから、B特許権及びC特許権に基づく原告の本件請求は権利の濫用に当たる。
(1) B発明について B発明の特許出願日は平成7年7月30日であり、A発明の優先権主張の優先日は同年7月4日であるから、B発明はA発明の後願であるところ、B発明の請求項1、5はA発明の請求項3と、B発明の請求項3、6はA発明の請求項7と、B発明の請求項4、7はA発明の請求項6とそれぞれ実質同一であるから、B発明にはダブルパテントを禁止した特許法39条1項に違反する特許無効理由が存在することが明らかである。
(2) C発明について ア C発明の請求項6は、先願に係る特開平7-305551号公開特許公報記載の発明(以下「乙3の5発明」という。)と実質同一であり、明らかに特許法29条の2の規定に違反して特許されたものであるから、明白な無効理由がある。
イ C発明の請求項2、6は、先願に係るA発明の請求項1と、C発明の請求項4、8は同A発明の請求項6と、C発明の請求項5、9は同A発明の請求項7とそれぞれ実質同一であるから、B発明にはダブルパテントを禁止した特許法39条1項に違反する特許無効理由が存在することが明らかである。
〔原告の主張〕 (1) B発明について B発明の請求項1及び5には、係止手段が「軸支されず」との限定がされており、A発明の請求項3の構成とは異なる。さらに、B発明の請求項1、5を引用する請求項3、4、6、7についても、A発明の請求項6、7の構成と異なることとなる。
(2) C発明について ア 乙3の5発明は、開き戸の閉じる方向の動きでは未だ解除されず、係止状態はそのまま維持され、更に開き戸を開く操作で初めて係止解除されるのであって、「(わずかに開かれた位置からの)閉じる方向の動きで係止解除される」ことを要件とするC発明の請求項6とは、構成が異なる。
イ C発明の請求項2は「振動を伴わず係止するロック方法において」との限定があるのに対し、A発明の請求項1はそのような限定はない。
また、C発明の請求項6は「係止解除される際に弾性手段の抵抗が存在する」とされ、「係止解除される際」の弾性手段の抵抗を意味するのに対し、A発明の請求項1は「弾性手段による戻り抵抗で開き保持して開き停止させ」とされ「開き保持のため」の弾性手段の抵抗を意味する。
したがって、C発明の請求項6の「弾性手段の抵抗」は解除抵抗を意味し、A発明の請求項1の「弾性手段の抵抗」よりも狭い概念であって、C発明の請求項6は、A発明の請求項1の上位概念ではない。
5 争点(5)(損害及び補償金の額)について (1) 乙事件について 〔原告の主張〕 被告奥田製作所及び被告カワノは、遅くとも平成10年1月1日までに、
原告が平成9年12月3日付書面でキッチンメーカー各社に対して行ったA特許権に係る警告の事実を知り、本件装置及び本件収納ボックスの製造販売行為がA特許権等を侵害する旨知っていた。
被告カワノは、キッチンメーカー各社に対し、本件装置(その前身の類似品を含む。)を、平成10年1月1日から約17か月間、少なくとも毎月4万個を1個当たり250円で販売し、1個当たりの利益が50円であるから合計3400万円の利益を得ている。また、被告奥田製作所は、被告カワノと共同して同販売を推進した。
原告は、被告奥田製作所及び被告カワノに対し、平成10年1月1日から同年6月30日までの6か月間の販売分24万個により得た利益1200万円に相当する額を、AないしC特許権に基づく補償金として請求する。
〔被告奥田製作所及び被告カワノの主張〕 争う。
(2) 丙事件について 〔原告の主張〕 原告は、被告イナックスに対し、A特許権に関し平成9年11月18日到達の書面で、B特許権に関し同年12月5日到達の書面で、特許法65条警告をした。
また、被告イナックスは、原告に対し、原告から平成10年12月22日付でC特許権に関する警告を受けたことを前提とする内容の書面を送付しているから、同書面の内容によれば、平成10年12月22日以降、本件収納ボックスの製造販売行為がC特許権を侵害していることについて悪意であったというべきである。
被告イナックスは、本件収納ボックスを、少なくとも毎月5000セット、1セット当たり少なくとも6000円で販売したが、1セット当たりの補償金ないし損害賠償金としては同販売代金の5%の300円が相当であり、1か月当たり150万円となる。
原告は、被告イナックスに対し、A特権権に関し、平成10年1月1日から平成12年3月31日までの27か月分として4050万円、B特許権に関し、
平成10年1月1日から平成12年3月31日までの27か月間として4050万円、C特許権に関し、平成10年12月22日から平成12年3月21日までの15か月分として2250万円、合計1億0350万円の補償金及び損害賠償金を請求する。
〔被告イナックス〕 争う。
(3) 丁事件について 〔原告の主張〕 被告ノーリツは、AないしC特許権の登録日以前から、本件収納ボックスを少なくとも毎月7000セット、1セット当たり6000円で販売した。
1セット当たりの損害金としては、各特許権ごとに、販売額の5%に当たる1セット当たり300円が相当であり、1か月当たり210万円となる。
原告は、被告ノーリツに対し、A特許権については、平成11年1月14日(登録日)から平成12年3月13日まで14か月分の損害金として2940万円、B特許権については、平成11年3月12日(同)から平成12年3月11日まで12か月分の損害金として2520万円、C特許権については、平成11年5月14日(同)から平成12年3月13日まで10か月分の損害金として2100万円の合計7560万円を請求する。
〔被告ノーリツ〕 争う。
争点に対する判断
1 争点(1)(A発明の構成要件充足性)について (1) A発明の請求項3の「開き停止」との構成について ア 請求項3においては、構成要件(a)では「装置本体の係止手段が開き戸の係止具に地震時に係止するロック方法」とされ、構成要件(b)では「開き戸が閉止状態からわずかに開かれた位置で開き停止」するとされ、構成要件(d)では、「係止手段が地震時に装置本体外に突出して開き戸の係止具に係止する」とされている。ここにいう「係止」及び「開き停止」は、開き戸が地震時にロックするための方法ないしロックした状態を示すことと解されるところ、これらの用語の通常の意味を考えると、「係止」とは「係わり合って止まること」(特許技術用語集、乙8)を意味し、「開き停止」とは「開く」又は「開き」と「停止」が合成された言葉であるから、一般的には「開く途中で止まること、開いて止まること」といった意味と解されるが、A発明の特許請求の範囲上は、「開き停止」の具体的状態も、また、係止手段や係止具の具体的構造、係止(停止)する機構や係止(停止)の具体的状態について明示されておらず、A発明の「係止」や「開き停止」が、開き戸の開く方向と閉じる方向の双方の動きを阻止する状態をいうのか、開く方向の動きだけを阻止するような状態で足りるのかは、一義的に明確とはいえない。
なお、原告は、A明細書の請求項1では「開き保持して開き停止」とされ、請求項3は単に「開き停止」と表現していることからも、請求項3の「開き停止」とは「開き保持」を含まない意味であると主張するが、請求項1は「軸で支持された係止手段」という構成を採っており、「開き停止」と「開き保持」との文言の差異も、そうした構成の差異に伴うものと解する余地があるから、この文言の差異から直ちに「開き停止」の意味を導くことはできない。
イ そこで、A明細書の発明の詳細な説明及び図面を検討する(甲2)。
(ア) A明細書の【従来の技術】及び【本発明が解決しようとする課題】の項には、従来において解除が容易な開き戸の地震時ロック方法、装置及びその解除方法は未だ開発されていなかったことから、本発明は以上の従来の課題を解決し解除が容易な開き戸の地震時ロック方法、装置及びその解除方法の提供を目的とするとされるのみで(3欄10〜16行)、上記「開き停止」の文言の具体的な解釈の指針となる記載はない。
(イ) 【実施例】の項を見ると、本件発明の実施例として、@図1〜図4には、先端部が鉤型の係止手段(4)を採用した実施例が、A図5には、図1〜図4の実施例に、係止具に磁石(5c)を設けるとともに、係止手段(4)を支持する「ローラーR」を付加した実施例が、B図6〜図9には、鋼球の係止手段(14)を採用した実施例が、C図10〜図13には、装置本体(3)の軸(3f)に回動可能に支持した係止手段(4)を採用した実施例が、D図14〜図17には、図1〜図4の実施例に係止具5の凹部内の磁石(5c)を付加した実施例が、E図18及び図19には、図5の実施例にマグネットキャッチ(70)又は戸当たり(90)を付加した実施例が示されている。
そして、これらの実施例では、地震が起きた場合には、係止手段はその地震のゆれの力で動いて係止具に係止し、その係止した状態においては、係止手段がばね又は磁石によって初期状態に戻ることが規制され、地震の継続中も、その戻り抵抗が地震の加速度よりも大きいため、開き戸が閉じる方向に動くことなく、わずかに開いたままの状態でロックされるようになっていることが認められる。A明細書の発明の詳細な説明及び図面には、開き戸が開く方向への動きのみが規制されて、閉じる方向への動きが阻止されないような実施例は示されていない。
ウ 次に出願経過について検討する(甲8)。
(ア) A発明の出願当初明細書における「地震時ロック及び解除方法」に関する請求項(磁石やマグネットキャッチを用いることを要件としていないもの)は、請求項2及び3のみであり、それらの内容は次のとおりであった。
【請求項2】地震のゆれの力で係止手段を開き戸の係止具に係止させ該係止手段を閉止状態から開き戸がわずかに開かれた位置で戻りを停止した状態でロックさせる地震時ロック方法 【請求項3】請求項2記載の地震時ロック方法においてわずかに開かれた開き戸を押しその背面の係止手段に動きを伝えて解除する解除方法 上記請求項2には、補正後のA明細書の特許請求の範囲には記載されていない「戻りを停止した状態で」ロックさせるとの記載がある。
(イ) A発明の当初明細書に開示されていた「地震時ロック及び解除方法」に関する技術的思想は、地震のゆれの力で前進する係止手段を「戻りを停止した状態」でロックすることによって、開き戸をわずかに開かれた状態に停止させるロック方法を用い、その開いた状態に停止した開き戸を使用者が強く押すことによってロックを解除する解除方法を用いたロック及び解除方法であった。
また、当初明細書における実施例の記載は、A明細書の【実施例】の項と同じである。
(ウ) その後、A明細書の特許請求の範囲の記載のとおりに補正された。
エ A発明の構成要件は、当初明細書に示された技術の範囲内で解釈すべきである。そのように解しないと、補正により新規事項を追加したことになり、特許法17条の2第3項に反することとなる。そうすると、請求項3の「開き停止」との構成は、地震時に係止手段が係止具に係止することによって、開き戸が「戻りを停止した状態」となることを意味するものと解すべきである。そして、そのような解釈は、A明細書及び当初明細書の上記実施例にも沿い、また、請求項3における「ロック方法」との文言にも適合するものといえる。
オ 本件装置及び本件収納ボックスにおいては、別紙物件目録記載のとおり、第1コイルばね11の付勢力fでロック部材10が解除ばね34に押し付けられることに伴う扉4の開閉方向の摩擦力は、ばね付き蝶番3による扉4の付勢力Fに比べて弱いため、ボックス本体2内に収納物のない空の状態においては、扉の付勢力Fによって閉鎖位置に戻る扉4に取り付けてある解除ばね34のカム機構により、ロック部材10がアンロック位置Aに戻るものである。
したがって、本件装置及び本件収納ボックスにおいては、地震時において、開き戸は、戻りを停止した状態でロックするものではなく、地震の加速度による戻りを許容し、ばたついた状態でロックするものであるから、A発明の請求項3の「開き停止」との構成を備えていないというべきである。
(2) そうすると、その余の点について判断するまでもなく、本件装置及び本件収納ボックスが用いる地震時ロック及び解除方法は、A発明の請求項3の技術的範囲に属さない。また、本件装置及び本件収納ボックスは、請求項3を引用する請求項6、7の技術的範囲にも属さない。
したがって、原告のA特許権に基づく請求は理由がない。
2 争点(2)(B発明の構成要件充足性)について (1) B発明の請求項1、2、5の「開き停止」との構成について ア 請求項1においては、構成要件(d)に「(係止手段が)地震時に突出して前記係止具に係止するロック方法」、構成要件(e)に「該係止状態は開き戸がわずかに開かれた位置で開き停止する係止状態である」とされ、請求項2においては、構成要件(j)に「(係止手段が)地震の前後方向ゆれに起因して上下方向に突出し前記係止具に係止するロック方法」とされ、構成要件(k)は構成要件(e)と同じであり、
請求項5においては、構成要件(t)に「係止手段が突出することにより(開き戸が)わずかに開かれて開き停止」とされているが、先に争点(1)に対する判断で述べた(1(1))のと同じく、B発明にいう「開き停止」の意義も特許請求の範囲の記載上一義的に明確ではない。
イ そこで、B明細書の発明の詳細な説明及び図面を検討する(乙1の2)。
(ア) B明細書の【従来の技術】及び【本発明が解決しようとする課題】には、従来において地震等の際に開き戸をロックする開き戸のロック方法においてそのロックを確実にする方法の開発が求められていたことから、本発明はその課題を解決し地震等の際に開き戸を確実にロックする開き戸のロック方法の提供を目的とするとされている(3欄2〜8行)。
(イ) 【実施例】の項を見ると、@図5、図6には、先端部が鉤型の係止体(係止手段)(14)を採用し、この係止体(14)は装置本体(13)内のローラー(15)上に前後移動可能に支持され、係止具(16)の凹所(17)には、係止体(14)の先端部を吸着する磁石(17a)が設けられた実施例が、A図7、図8には、装置本体(13)にマグネット(44)を設けてマグネットキャッチ機能を付加したこと以外は、図5、図6の実施例と同じ構成の実施例が示されている。そして、これらのいずれの実施例も、地震が起きた場合には、係止手段はその地震のゆれの力で動いて係止具に係止し、その係止した状態においては、係止手段が磁石によって初期状態に戻ることが規制され、地震の継続中も、その戻り抵抗が地震の加速度よりも大きいため、開き戸が閉じる方向に動くことなく、わずかに開いたままの状態でロックされるようになっている。B明細書の発明の詳細な説明及び図面には、開き戸が開く方向への動きのみが規制されて、閉じる方向への動きが阻止されないような実施例は示されていない。
ウ 次に出願経過について検討する(甲9)。
(ア) B発明の出願当初明細書の特許請求の範囲は請求項1のみであり、
その内容は「家具、住宅、棚等に固定された装置本体に動き可能に支持された障害物が地震等のゆれにより移動し開き戸の開放を阻止するロック装置において該障害物を磁力によりロック位置に保持する開き戸のロック保持方法」というものであり、「開き停止」という文言は含まれていない。
また、当初明細書の【産業上の利用分野】、【従来の技術】及び【課題】の項によれば、B発明は地震時ロック装置においてそのロックを確実に保持するロック保持方法の提供を目的とするとされていた。
そして、その【実施例】の項には、B明細書の図5、図6に示されたものと同様の実施例が記載され、補正後のB明細書と同様の記載となっており、ロック状態を解除するには、「ロック解除は開き戸(61)を強い(地震時の開き戸(61)にかかる加速度による戻り力以上の)力で押すことにより係止体(14)がばね(19)を押し縮めていきそれを通過させて慣性で係止体(14)を図5(初期状態)の状態に復帰させる。」(4欄35〜40行)(B明細書の6欄30〜35行に同じ)とされていた。
(イ) 上記事実によれば、当初明細書に開示されていた「地震時ロック及び解除方法」に関する技術的思想は、地震のゆれの力で前進する係止手段を戻りを停止した状態で磁石によってロックし、それによって、開き戸を確実にロックさせる地震時ロック方法であったということができる。
(ウ) その後、B明細書の特許請求の範囲のとおり補正された。
エ B発明の構成要件は、当初明細書に示された技術の範囲内で解釈すべきであるところ、当初明細書の特許請求の範囲に記載されていなかった「開き停止」との構成が補正によって付加されたことからすると、B発明の「開き停止」が意味するロック状態とは、当初明細書の実施例における 係止状態を解除する場合の前記記述が示すような、地震時における係止状態の開き戸の戻り抵抗が地震の加速度よりも大きいため、開き戸が閉じる方向に動くことなく、わずかに開いたままロックされた状態をいうと解すべきである。
そのような解釈は、当初明細書において、B発明は地震時ロック装置においてそのロックを確実に保持するロック保持方法を目的とするとされていることや、B明細書に掲げられている実施例にも沿い、補正後のB発明の特許請求の範囲請求項1、2の「ロック方法」との文言にも適合するものである。
オ 本件装置及び本件収納ボックスにおいては、前記1、(1)、オで述べたように、地震時において、開き戸は、戻りを停止した状態でロックするものではなく、地震の加速度による戻りを許容し、ばたついた状態でロックするものであって、B発明の請求項1、2、5の「開き停止」との構成を備えていないというべきである。
(2) そうすると、その余の点について判断するまでもなく、本件装置及び本件収納ボックスの用いるロック方法ないし解除方法は、B発明の請求項1、2、5の技術的範囲に属さない。また、本件装置及び本件収納ボックスは、これらの請求項を引用する請求項3、4、6、7の技術的範囲にも属さない。
したがって、原告のB特許権に基づく請求は理由がない。
3 争点(3)(C発明の構成要件充足性)について (1) C発明の請求項2、6の「開き停止」との構成について ア 請求項2においては、構成要件(e)に「開き戸を閉止状態からわずかに開かれた位置で開き停止させ」、請求項6においては、構成要件(n)に「地震時に開き停止される開き戸」とされているところ、開き停止の具体的状態については特許請求の範囲の記載上明示されておらず、先に争点(1)について述べたのと同じく、C発明についても「開き停止」の意味するところは一義的に明確とはいえない。
イ そこで、C明細書の発明の詳細な説明及び図面を検討する(乙2の2、
乙33)。
(ア) C明細書の【従来の技術】及び【本発明が解決しようとする課題】の項には、従来において解除が容易な開き戸の地震時ロック方法、装置及びその解除方法は未だ開発されていなかったことから、本発明は以上の従来の課題を解決し解除が容易な開き戸の地震時ロック方法、装置及びその解除方法の提供を目的とするとされるのみで(2欄14行〜3欄4行)、特許請求の範囲の「開き停止」の具体的な解釈の指針となる記載はない。
(イ) 【実施例】の項を見ると、本件発明の実施例として、図1〜図13が示されているが、それらの各実施例は、A明細書の図1〜図13の実施例と同一であり(ただしC明細書の図3は同図1と同じであり、A明細書の図3とは異なっているが、これはC明細書の実施例の説明と齟齬しており、C明細書の図3が誤りであると考えられる。)は、それについての説明部分(B明細書の3欄12行〜5欄20行)も、A明細書と同一である(A明細書の3欄29行〜5欄42行。ただし、5欄20〜24行の「すなわち地震の…ロックするのである。」までを除く。)。
なお、C明細書の図14、15に示されたロック装置は、図5の実施例から弾性手段(6)を除いたものであるが、ロックを解除する際には、開き戸の閉じる方向の動きによるのではなく、開き戸(2)と家具、吊り戸棚などの本体(1)の間の隙間から操作するものであって(5欄31〜34行)、C発明の請求項2、6の実施例とはいえない。
そして、C発明についてのいずれの実施例も、地震が起きた場合には、係止手段はその地震のゆれの力で動いて係止具に係止し、その係止した状態においては、係止手段がばね又は磁石によって初期状態に戻ることが規制され、地震の継続中も、その戻り抵抗が地震の加速度よりも大きいため、開き戸が閉じる方向に動くことなく、わずかに開いたままの状態でロックされるようになっている。C明細書の発明の詳細な説明及び図面には、開き戸が開く方向への動きのみが規制されて、閉じる方向への動きが阻止されないような実施例は示されていない。
ウ 次に出願経過について検討する(甲10)。
(ア) C発明の出願当初明細書の特許請求の範囲は次のとおりであったことが認められる。
【請求項1】地震のゆれの力で動き可能に支持された開き戸の係止具に係止される係止手段と、閉止状態から開き戸がわずかに開かれた位置で前記係止手段を停止する装置本体の停止部とからなる地震時ロック装置 【請求項2】前後方向の地震のゆれの力で動き可能に支持され開き戸の係止具に係止される係止手段とした請求項1記載の地震時ロック装置 【請求項3】請求項1又は2記載の地震時ロック装置においてわずかに開かれた開き戸を押しその背面の係止手段に動きを伝えて解除する解除方法 【請求項4】請求項1又は2記載の地震時ロック装置においてわずかに開かれた開き戸の隙間から手で操作して解除する解除方法 上記のように、当初明細書の特許請求の範囲には、「開き停止」という文言はなく「閉止状態から開き戸がわずかに開かれた位置で係止手段を停止する」という表現がされていた。
(イ) また、当初明細書における【実施例】に列挙されている各実施例はC明細書の各実施例と同じである。
(ウ) その後、C明細書の特許請求の範囲のとおり補正された。
エ C発明の構成要件は、当初明細書に示された技術の範囲内で解釈すべきであるところ、前記のような当初明細書の記載に照らせば、C発明の「開き停止」とは、開き戸が閉じる方向に動くことなく、わずかに開いたままの状態でロックされる状態をいうものと解釈すべきである。
そして、そのような解釈はC明細書に示される実施例にも沿い、また特許請求の範囲請求項2の「ロック方法」との文言にも適合するものといえる。
オ 本件装置及び本件収納ボックスにおいては、前記1、(1)、オで述べたように、地震時において、開き戸は、戻りを停止した状態でロックするものではなく、地震の加速度による戻りを許容し、ばたついた状態でロックするものであるから、C発明の請求項2、6の「開き停止」との構成を備えていないというべきである。
(2) そうすると、その余の点について判断するまでもなく、本件装置及び本件収納ボックスないしこれらが用いる開き戸の地震時ロック方法は、C発明の請求項2、6の技術的範囲に属さない。また、これらの請求項を引用する請求項4、5、
8、9の技術的範囲にも属さない。
したがって、原告のC特許権に基づく請求は理由がない。
4 以上によれば、原告が被告奥田製作所及び被告カワノの取引先に対し、同被告らが本件装置を製造販売する行為がAないしC特許権を侵害する旨警告することは、同被告らの営業上の信用を害する虚偽の事実の陳述又は流布に当たる。
原告は、AないしC特許権の権利者であるとともに、前記第2の1(3)ア記載のとおり、自ら、地震時における吊り戸棚等の開き戸の自動ロック方法を開発するなどし、完成後、見本市において展示するなどしていた者であり、さらに、証拠(甲17、乙41)によれば、原告は、平成7年5月20日付の業界新聞「ホームリビング」に、原告特許事務所名で、地震時における開き戸の開放防止装置等に関し「当事務所製品の製造販売を希望される場合はその旨お知らせ下さい。」等の内容を記載した広告を掲載し、また、被告ら以外の他社との間で、AないしC特許権等に関し、製造ないし販売の実施許諾契約を締結していることが認められる。これらの事実によれば、原告は、本件装置を製造ないし販売する被告奥田製作所及び被告カワノと、競争関係にあるというべきである。
よって、同被告らは、不正競争防止法3条1項2条1項13号に基づき原告による前記陳述・流布行為の差止めを請求することができる。
5 以上の次第で、乙事件、丙事件及び丁事件における原告の請求はいずれも理由がないから棄却し、甲事件における被告奥田製作所及び被告カワノの請求は理由があるから認容することとし、主文のとおり判決する。
追加
(別紙)物件目録1耐震ロック装置:以下の第1、第2、第4の説明及び本目録添付図面により特定される耐震ロック装置2収納ボックス:以下の第1、第3、第4の説明及び本目録添付図面により特定される耐震ロック装置を有する収納ボックス第1本目録添付図面の説明図1は、扉が開き状態にある場合の耐震ロック装置の側面断面図である。
図2は、ロック装置本体の分解斜視図である。
図3aは、ブラケットの平面図、図3bは同ブラケットの側面図、図3cは同ブラケットの背面図である。
図4は、耐震ロック装置を有するウィング付き収納ボックスの斜視図である。
図5は、耐震ロック装置によるロック方法を示す側面図であり、aは扉の閉じ状態、bは扉の開き状態を示す。
第2耐震ロック装置が取り付けられる収納ボックスの構造図4に示すように、収納ボックス1は、キッチン等に設置されるボックス本体2と、このボックス本体2の前方開口部にばね付き蝶番3によって開閉自在に枢着された扉4と、を備えている。この扉4は、ばね付き蝶番3のばね力によって常に閉鎖方向に付勢されている。
第3耐震ロック装置が取り付けられた収納ボックスの構造図4に示すように、収納ボックス1は、キッチン等に設置されるボックス本体2と、このボックス本体2の前方開口部にばね付き蝶番3によって開閉自在に枢着された扉4と、を備えている。この扉4は、ばね付き蝶番3のばね力によって常に閉鎖方向に付勢されている。
ボックス本体2の天板8の前縁部下面には後述する耐震ロック装置5のロック装置本体6が取り付けられ、扉4の内面には同ロック装置5のブラケット7が取り付けられている。
第4耐震ロック装置の構造1構成部品図1に示すように、耐震ロック装置5は、ボックス本体2側に取り付けられるロック装置本体6と、ボックス本体2を閉鎖する方向に付勢された扉4側に取り付けられるブラケット7と、を備えている。
2ロック装置本体の構造(1)図1及び図2に示すように、ロック装置本体6は、ボックス本体2の天板8の前縁部下面に取り付けられたケーシング9と、このケーシング9内に上下出退自在に挿通されたロック部材10と、このロック部材10を常に上方へ付勢する第1コイルばね11と、ロック部材10を予めケーシング9内に保持しておく保持部材12と、
この保持部材12を常にロック部材10側に付勢する第2コイルばね13と、地震等に伴うボックス本体2の揺れで転動して保持部材12をロック部材10から解除する転動ボール14と、を備えている。
(2)ケーシング9の後上面には、上方に突出するスペーサ部15が一体形成されており、このスペーサ部15をボックス本体2の天板8の下面にねじ止めすることにより、天板8の下面とケーシング9との間でブラケット7の挿通空間16が形成されている。
図2に示すように、ケーシング9の内部には、前後方向(扉4の開閉方向)に伸びる収納部17が形成され、この収納部17内に、前記保持部材12と転動ボール14が前後方向に移動自在に収納されている。
(3)保持部材12は、上方に開いた逃げ凹部18を中央部に有する板材で構成され、収納部17内に立設された左右一対のガイド板19、19間に摺動自在に嵌め込まれている。
保持部材12の前端部には、ロック部材10の側面に形成した係止凹部20に嵌合する係止片21が形成され、保持部材12の後端部には、第2コイルばね13の一端部が連結されている。第2コイルばね13は、その他端を圧縮状態にして収納部17の後壁面に当接させることで保持部材12を常に前方へ付勢している。
そして、この第2コイルばね13の付勢力によって保持部材12の係止片21がロック部材10の係止凹部20に強制的に嵌合され、これにより、ロック部材10がケーシング9内に没入するアンロック位置Aに保持されている。
(4)ロック部材10は、ケーシング9の前部に形成された上下方向のガイド孔23に出退自在でかつ抜け止めされた状態で挿通されている。このロック部材10の下端部に設けた収納孔24には第1コイルばね11が挿通され、このコイルばね11は、その下端を圧縮状態にしてガイド孔23の底面に当接することにより当該ロック部材10を常に上方へ付勢している。
この第1コイルばね11の付勢力fでロック部材10が後述する解除ばね34に押し付けられることに伴う扉4の開閉方向の摩擦力は、ばね付き蝶番3による扉4の付勢力Fに比べて弱い。このため、ボックス本体2内に収納物のない空の状態においては、扉の付勢力Fによって閉鎖位置に戻る扉4に取り付けてある解除ばね34のカム機構により、ロック部材10がアンロック位置Aに戻る。また、ロック部材10の突出端部には、その解除ばね34が当接する前方に向かって下方に傾斜するカム面25が形成されている。
(5)ケーシング9の収納部17の左右両壁面には上方拡幅状のテーパ溝26が形成され、このテーパ溝26に解除プレート27の左右両端部が前後揺動自在に嵌め込まれている。
解除プレート27の下端は、保持部材12の逃げ凹部18側の縁部に形成された係合溝28に嵌合されている。
(6)転動ボール14は、解除プレート27よりも後方に位置するように保持部材12の逃げ凹部18内に配置され、この配置関係でケーシング9の収納部17内に前後方向に転動自在に収納されている。
このため、転動ボール14が後方(図1の左側)に転動すると、同ボール14が保持部材12そのものに衝突し、その力によって保持部材12が後方に移動してその係止片21がロック部材10の係止凹部20から外れ、ロック部材10が挿通空間16に向かって上方に突出するロック位置Bとなる。
他方、転動ボール14が前方(図1の右側)に転動すると、同ボール14が解除プレート27に衝突し、この解除プレート27の下端がその衝突による力で保持部材12を後方に移動させ、これによって同保持部材12の係止片21が掛止凹部20から外れ、ロック部材10が挿通空間16に向かって突出するロック位置Bとなる。
(7)ロック部材10は、それがアンロック位置Aにある場合において、その上端縁10Aがケーシング9の上面から若干露出する長さに形成されている(図5a参照)。
3ブラケットの構造(1)図3に示すように、ブラケット7は、取付板29とこれに直交する被掛止板30とから側面視ほぼL字状に屈曲形成されている。被掛止板30は、その中途部から先端に至る部分を上方に屈曲してなる逃げ部31を備え、また、その先端部に、ロック位置Bに移動したロック部材10の突出端部に引っ掛かる引っ掛け爪32を備えている。
(2)図1に示すように、このブラケット7は、取付板29を取付ねじ33によって扉4の内面にねじ止めすることにより、被掛止板30が扉4の内面から後方へ突出するように取り付けられている。このブラケット7の取付位置は、扉4の閉鎖状態において、被掛止板30がロック装置本体6の挿通空間16に入り込む高さ位置とされている。
(3)図1及び図3に示すように、ブラケット7の取付板29には、ロック部材10をケーシング9内に没入させるための解除ばね34が取り付けられている。この解除ばね34は、上下方向に弾性変形自在な金属製の板ばねよりなり、ロック部材10のカム面25と同じ向きに傾斜した当接部分35を先端部側に有する。この当接部分35は被掛止板30の下方でかつ同板30の前後方向ほぼ中央部に対応する位置に配置されている。
図1図2図3図4図5
裁判長裁判官 小松一雄
裁判官 阿多麻子
裁判官 前田郁勝