審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成17ネ10104特許権侵害差止等請求控訴事件 | 判例 | 特許 |
平成18ネ10052特許権侵害差止等請求控訴事件 | 判例 | 特許 |
平成11ネ2334特許権侵害差止請求控訴事件 | 判例 | 特許 |
平成12ネ3891特許権侵害差止等請求控訴事件 | 判例 | 特許 |
平成16ワ11060職務発明の対価請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 技術的思想 / 新規性 / 頒布された刊行物 / 発明特定事項 / 周知技術 / 公知技術 / 技術的範囲 / 技術的手段 / 技術常識 / 発明の詳細な説明 / 実質的に同一 / クレーム / 意匠権 / 出願経過 / 参酌 / 技術的意義 / 均等 / 均等論 / 均等侵害 / 置換 / 置換可能性 / 意識的除外(意識的に除外) / 不存在 / 特許発明 / 実施 / 構成要件 / 差止請求(差止) / 侵害 / 混同 / 拒絶理由通知 / 新規事項追加(新規事項の追加) / 請求の範囲 / 減縮 / 変更 / |
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事件 |
平成
17年
(ネ)
10016号
特許権侵害差止等請求控訴事件
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控訴人 日本圧着端子製造株式会社 訴訟代理人弁護士 松本司 同 岩坪哲 同 山形康郎 訴訟復代理人弁護士 井上義隆 被控訴人 エルジー電子ジャパン株式会社 訴訟代理人弁護士 上谷清 同 宇井正一 同 萩尾保繁 同 笹本摂 同 山口健司 補佐人弁理士 島田哲郎 同 水野みな子 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2005/08/30 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 本件控訴を棄却する。 2 控訴人の当審における請求を棄却する。 3 当審における訴訟費用は,全て控訴人の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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控訴人の求めた裁判
1 控訴の趣旨 (1) 原判決を取り消す。 (2) 被控訴人は,原判決別紙被告製品目録記載の液晶テレビ,液晶モニターを輸入し,販売し,又は販売の申出をしてはならない。 (3) 被控訴人は,前項の液晶テレビ,液晶モニターを廃棄せよ。 (4) 被控訴人は,控訴人に対し,金6006万円及びこれに対する平成16年1月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (5) 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。 (6) 仮執行宣言 2 当審における新たな請求(予備的請求) 仮に,前記1(2),(3)の請求のうち,意匠権に基づく請求が認められないとしても, (1) 被控訴人は,原判決別紙被告製品目録記載の液晶テレビ,液晶モニター中に,原判決別紙「被告コネクタ意匠説明書」記載のプリント配線板用コネクタを使用し,あるいはこれを使用したものを輸入してはならない。 |
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事案の概要
本件は,控訴人が被控訴人に対して,原判決別紙被告製品目録記載の液晶テレビ等(以下「被告製品」という。)を輸入販売する行為は,控訴人がプリント配線板用コネクタに対して有する特許権及び意匠権を侵害するとして,被控訴人に対し,被告製品の輸入販売等の差止め及び廃棄並びに損害賠償を求めた事案である。 平成16年10月29日になされた原判決は,特許権及び意匠権侵害に当たらないとして,控訴人の請求をいずれも棄却したので,控訴人は,これを不服として控訴を提起した。 控訴人は,当審において新たな請求を追加し,予備的請求として前記第1の2(1)の裁判を求めた。 |
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当事者の主張
当事者双方の主張は,次のとおり訂正付加するほか,原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」の1及び2,「第3 争点に関する当事者の主張」に記載のとおりであるから,これを引用する。 1 訂正 (1) 原判決2頁14,15行目を次のとおり改める。 「 控訴人は,発明の名称を「コネクタ」とする次の特許権(以下「本件特許権」といい,請求項1の発明を「本件発明」という。)を有する(甲2)。」 (2) 原判決2頁19行目から3頁5行目までを次のとおり改める。 「「【請求項1】 絶縁ハウジンクに収容された2本のピンコンタクトが,前記ハウジングの中心線と平行して前記ハウジングの開口部に突出する接触ピン部と,前記ハウジンクから延出してプリント配線板にはんだ付けされるリード部とを有し,前記ハウジング 内に,前記両接触 ピン 部の中間 に配設 され ,前記両接触 ピン部の先端 より 長く突出 する 隔壁 が設けられ ,一方 ,前記両 リード 部は,互いに 横外側方 へ屈曲 して 延出 し,そのはんだ 付け部分 が,前記両接触 ピン 部のピッチ より 大きい ピッチ に形成 されており ,前記開口部 に他の雌コネクタ が挿入 して 嵌合 される雄コネクタ であって ,前記隔壁 の両側面 が,前記絶縁 ハウジング の中心線 と平行 に延びる 基部平行面 と,該基部平行面 に連続 し,先細 の楔形 を形成 する テーパ 面とにより 形成 されている ことを特徴とする雄コネクタ。 【請求項2】 前記ピンコンタクトの前記リード部における前記はんだ付け部分が,前方へ屈曲延出して形成されている請求項1記載の雄コネクタ。 【請求項3】 前記各ピンコンタクトの前記リード部が,前記接触ピン部の後端から横外側方へ屈曲したのち後方へ延びる中間部分と,該中間部分の後端から下方へ屈曲して延びる脚部分と,該脚部分の下端から前方へ屈曲して延びるはんだ付け部分とからなっている請求項1又は2記載の雄コネクタ。 【請求項4】 請求項1,2又は3記載 の雄コネクタ の前記開口部 に挿入して 嵌合 される 雌コネクタ であって ,前記接触 ピン 部に嵌合 する ソケットコンタクト を収容 する 絶縁 ハウジング が,前記隔壁 に係合 する 欠除部 を有する 二股状 に形成され ,前記欠除部 の相対向 する 両側面 が,前記隔壁 の前記基部平行面 に対応 する開口部平行面 と,該開口部平行面 に連続 し,前記隔壁 の前記 テーパ 面に対応 して 内奥に向け漸次幅狭 になる テーパ 面とにより 形成 されており ,前記開口部 の内側面 に設けられた 係止部 に係合 する 係止手段 を有していることを 特徴 とする 雌コネクタ 。 」 (注,下線部は後記補正に係る部分)」 (3) 原判決3頁7行目の「(乙2)」を「(乙2の1ないし6)」に改め,12行目末尾に行を改めて次のとおり加える。 「 本件補正(乙2の4)により,請求項の数は本件特許出願時の6から4に減縮されるとともに,本件補正前(特許出願時)の請求項1及び4が前記のとおりに補正されるなどした。なお,本件補正前(特許出願時)の請求項1及び4は,次のとおりであった(乙2の1)。 【請求項1】 絶縁ハウジンクに収容された2本のピンコンタクトが,前記ハウジングの中心線と平行して前記ハウジングの開口部に突出する接触ピン部と,前記ハウジンクから延出してプリント配線板にはんだ付けされるリード部とを有し,前記開口部に他の雌コネクタが挿入して嵌合される雄コネクタであって,前記ハウジング内に,前記両接触ピン部の中間に配設され,かつ,前記両接触ピン部の先端より長く突出する隔壁が設けられており,一方,前記両リード部は,互いに横外側方へ屈曲して延出させ,そのはんだ付け部分のピッチが前記両接触ピン部のピッチより大きく形成されていることを特徴とする雄コネクタ。 【請求項2】 前記ピンコンタクトの前記リード部における前記はんだ付け部分が,前方へ屈曲延出して形成されている請求項1記載の雄コネクタ。 【請求項3】 前記各ピンコンタクトの前記リード部が,前記接触ピン部の後端から横外側方へ屈曲したのち後方へ延びる中間部分と,該中間部分の後端から下方へ屈曲して延びる脚部分と,該脚部分の下端から前方へ屈曲して延びるはんだ付け部分とからなっている請求項1又は2記載の雄コネクタ。 【請求項4】 前記隔壁の両側面が,前記絶縁ハウジングの中心線と平行に延びる基部平行面と,該基部平行面に連続し,先細の楔形を形成するテーパ面とにより形成されている請求項1ないし3のいずれかに記載の雄コネクタ。 【請求項5】 請求項1ないし4のいずれかに記載の雄コネクタの前記開口部に挿入して嵌合される雌コネクタであって,前記接触ピン部に嵌合するソケットコンタクトを収容する絶縁ハウジングが,前記隔壁に係合する欠除部を有する二股状に形成されていると共に,前記開口部の内側面に設けられた係止部に係合する係止手段を有していることを特徴とする雌コネクタ。 【請求項6】 前記欠除部の相対向する両側面が,前記隔壁の前記基部平行面に対応する開口部平行面と,該開口部平行面に連続し,前記隔壁の前記テーパ面に対応して内奥に漸次幅狭になるテーパ面とにより形成されている請求項5記載の雌コネクタ。」 (4) 原判決5頁12行目の「接触ピン部と,3a」を「接触ピン部3a」と改める。 (5) 原判決7頁7行目の「別紙1」を「別紙」と,25行目の「充足性」を「非充足性」と,それぞれ改める。 (6) 原判決8頁4行目の「意見書」を「本件意見書」と,19行目の「基部平行面」を「隔壁の両側面の基部平行面」とそれぞれ改める。 (7) 原判決10頁6行目の「出願当初明細書」の後に「(乙2の1)」を加え,12行目の「加入禁止」を「追加禁止」と改める。 (8) 原判決12頁5行目の「置換可能性」を「置換可能性の欠如」と改める。 (9) 原判決16頁22行目の「2条1項3号」を「2条3項」と改める。 2 当審における当事者の主張 (1) 控訴人 ア 文言侵害について (ア) 本件特許権に係るコネクタのように液晶表示装置のインバータ基板に使用されるコネクタは,小型化された,長辺の長さ1p程度のものであり,本件発明の雄コネクタにおける「基部平行面」と雌コネクタ(請求項4)の「開口部平行面」との嵌合に際して1μmのクリアランスもなく両者が嵌合することはありえず,実機においては両者を嵌合する際に隙間が必然的に生ずる。 これは,呼び寸法を一定値に設定しても金型成型の過程において製造公差を生ずることが技術常識であるため,予め,ある程度のクリアランスを設定しておくことが不可欠だからである。むしろ,コネクタにおいて重要なのはピンコンタクト(端子)間の完全・適切な接触であり,それを実現するためにはハウジング間にある程度の余裕(クリアランス)が存在することが好ましいといえる。本件明細書の図9も,上記クリアランスの存在を示唆している。 (イ) 次に,金型樹脂成形によるコネクタハウジングの製造(極間壁あるいは左右内面壁の形成)において,金型に樹脂を回し,冷却固化させ金型から抜く際に,金型の形状が完全な平行であるとすると,平行な樹脂(極間壁)を抜く作業が円滑に実行できないのみならず,金型の製造公差によって逆テーパ状態の樹脂(極間壁)となり,これを抜くことが不可能になるとの支障を生ずることが常識であるため,予め金型からの離脱方向に対し幅広となる緩やかなテーパ面となるよう設計製造されている。 これは,「抜き勾配」として当業界に知られている金型樹脂成形における技術常識であって,本件明細書にその明記がなくとも,当業者には自明の事項として知られている。 当業者の視点からすれば,本件発明の隔壁(極間壁)の両側面の基部平行面は,完全な平行面であることの必然性を欠き(かえって完璧な平行面は上記技術常識に照らし形成困難である。),先端側に向うにつれ幅細になる緩いテーパが付された「略平行面」として解釈される。 (ウ) 以上のとおり,本件技術分野におけるコネクタにおいて雌コネクタと雄コネクタの各開口部と隔壁(極間壁)の間にはクリアランスを設けるとの技術常識が存在すること,概念上は「平行」として設計された樹脂による極間壁も金型樹脂成形の技術常識に照らせば緩やかなテーパ面(抜き勾配)を付することが当業者の自明事項であることからすれば,本件発明の隔壁の両側面の「基部平行面」(構成要件E)は,限りなく平行に近い「略平行面」を除外するものではないから,楔形の先細テーパ面に連続する略平行の基部を有する被告コネクタは,本件発明の構成要件Eの文言範囲に属するか,あるいは,これと実質的に同一であるから,構成要件Eを充足する。 イ 均等侵害について (ア) 本件発明の本質的部分 @ 均等論の適用における特許発明の本質的部分とは「特許請求の範囲に記載された構成のうち,当該発明特有の課題解決手段を基礎付ける技術的思想の中核をなす特徴的部分」である。 本件発明は,「各種電子機器の高電圧化に対応したコネクタに関し,特にパソコンなどの液晶画面の光源となるバックライトの電源回路を構成するインバータ基板(電源プリント基板)の小型化に適合した高電圧化対応型のコネクタに関するもの」であり(本件明細書(甲2)の段落【0001】),その課題・目的が「小型化を図りながら,コンタクト間の沿面距離及び空間距離を大きくして,高電圧に対応できるように構成した高電圧対応型のコネクタを提供すること」に存する点に鑑みれば(同段落【0004】),上記課題に対応する解決手段たる構成,すなわち,「…前記ハウジング内に,前記両接触ピン部の中間に配設され,前記両接触ピン部の先端より長く突出する隔壁が設けられ,一方,前記両リード部は,互いに横外側方へ屈曲して延出し,そのはんだ付け部分が,前記両接触ピン部のピッチより大きいピッチに形成されており,前記開口部に他の雌コネクタが挿入して嵌合される雄コネクタ」であること(同段落【0005】)が,本件発明の本質的部分たる構成であることは明らかである。 隔壁の両側面の形状に関する規定事項(構成要件E)に係る効果は,本件明細書の発明の効果欄(段落【0021】)に「しかも,雄コネクタと雌コネクタはがたつくことなく正しい嵌合状態に保持されると共に,嵌合状態の完了を容易に確認することができる」として,本件発明の一実施例(雌コネクタの係止突片と雄コネクタの係止溝との係合)に関するものであることが明白な効果(嵌合状態の完了を容易に確認することができる)と共に記載されていることから,上記規定事項は,本件発明特有の課題とは無関係の実施例効果に関する構成であって,本質的部分ではない。 また,本件技術分野におけるコネクタにおいて雌コネクタと雄コネクタの各開口部と隔壁(極間壁)の間にはクリアランスを設けるとの技術常識が存在すること,また,概念上は「平行」として設計された樹脂による極間壁も金型樹脂成形の技術常識に照らせば緩いテーパ面(抜き勾配)を付することが当業者の自明事項であることを勘案すれば,本件における,微細な「基部平行面」によってもたらされる「正しい嵌合」,「がたつき防止」の効果は,実際上の技術的意義の乏しい二次的な効果にすぎないことが明らかである。 A 被控訴人は,控訴人が主張する本質的部分たる構成は,先願公報(乙2の2)の図2に記載された構成であるから,本件発明の本質的部分とはなりえない旨主張するが,先願公報には,隔壁の延長により沿面距離・空間距離を拡大して高電圧化に対応しつつ,ピンコンタクトの接触ピン部とリード部の幅の変更によりコネクタの全体形状を小型化するとの技術思想は,一言一句も記載されておらず,先願公報における「開示」の存在を一介の図面のみから認めることは妥当性を欠くものであり,また,そもそも本件発明の構成部分が先願公報に開示されているがゆえに,当該部分が本質的部分とはならないということはできない。 更に言えば,特許発明の実質的価値は,「従来技術では達成しえなかった技術的課題の解決を実現するための,従来技術に見られない特有の技術的思想に基づく解決手段を,具体的構成をもって社会に開示した点」に求められるのであるから,従来技術,すなわち本件発明に対する出願前公知技術が本質的部分の抽出に当たり参酌されることはありえても,先後願の関係にあるにすぎない先願公報の開示事項に基づいて特許発明の本質的部分が左右されることはない。 B 以上によれば,被告コネクタが,本件発明の「前記隔壁の両側面が,前記絶縁ハウジングの中心線と平行に延びる基部平行面と,該基部平行面に連続し,先細の楔形を形成するテーパ面とにより形成されていることを特徴とする」との構成(構成要件E)を有していない点で本件発明と異なるとしても,上記異なる部分は,本件発明の本質的部分ではないから,被告コネクタは均等侵害が成立するための要件を満たしている。 (イ) 意識的除外等の特段の事情の不存在 @ 本件補正がされた平成13年9月25日当時の特許庁の「特許・実用新案審査基準」においては,当初明細書に明記された事項そのもののほか,「当初明細書に記載された事項から当業者が直接的かつ一義的に導き出せる事項」のみが補正の根拠となりうるとし,これ以外の事項を記載することととなる補正は,特許法17条の2第3項に違反するものとして認めていなかった(新規事項の追加禁止)。 出願当初明細書(乙2の1)記載の雄コネクタの隔壁の形状に関する実施例は,隔壁の両側面が「基部平行面とこれに連続するテーパ面」とにより形成されているもの(段落【0012】及び本件補正前の請求項4)のみであったところ,この記載事項を根拠に,基部平行面をクレームに取り入れることなく,「テーパ面」のみをクレームアップする補正をすることは,本件補正がされた当時の審査基準の下においては,当初出願明細書から直接的かつ一義的に導き出すことのできない「基部平行面を有せずテーパ面のみからなる極間壁(隔壁)の実施例」を取り込むことになる,新規事項の追加禁止に反する補正と判断される運用状況にあったため,控訴人は,「基部平行面とこれに連続するテーパ面」との発明特定事項をクレームアップする補正を行うよりほかなかったのである。 なお,出願当初明細書(乙2の1)の段落【0009】(本件補正で削除)に記載の構成は,隔壁の形状に関する上記唯一の実施例の開示の一部(先細の楔形)に関する形状の説明であるにすぎず,上記記載に基づいて「テーパ面」のみをクレームアップする補正をなしえたということはできない。 A 以上のとおり,出願当初明細書(乙2の1)に記載された雄コネクタの隔壁の形状に関する唯一の実施例(段落【0012】及び本件補正前の請求項4)は,隔壁の両側面が「基部平行面とこれに連続するテーパ面」とにより形成されており,本件補正当時の審査基準の下では,出願当初明細書に記載された事項から当業者が直接的かつ一義的に導き出すことのできない「テーパ面のみからなる隔壁」の構成を特許請求の範囲に含むことになる補正をすることは新規事項の追加禁止に反することになるため,控訴人は,特許請求の範囲に「基部平行面」を取り入れる本件補正を行うよりほかなかったのである。 したがって,控訴人は,本件補正により,「基部平行面」を他の構成に置換するに際し,当該他の構成(隔壁の両側面がテーパ面のみから形成されているもの等)を本件発明の特許請求の範囲から意識的に除外していないから,被告コネクタについて均等侵害の成立を妨げる特段の事情は存しない。 ウ 意匠権侵害について (ア) 意匠法2条3項は,意匠の「実施」について,「意匠に係る物品を製造し,使用し,譲渡し,貸し渡し,若しくは輸入し,又はその譲渡若しくは貸し渡しの申出…をする行為」と規定しており,「意匠の外観が視認可能な状態で」あることは要件とはなっていない。 そして,流通過程において意匠に係る物品を外観に現れないような細工(すなわち筐体で覆うこと)を施せば,意匠権の侵害にならないとすれば,部品,部材の意匠権は正に有名無実のものと化してしまう。 したがって,流通過程において外観に現れず,視覚を通じて認識できない物品の隠れた形状についても意匠権の保護の対象となるというべきである。 また,仮にこれが保護の対象とならないとしても,被告製品においては,その「常態」としては被告コネクタが内蔵され,看者(取引者,需要者)の目に触れないというにすぎず,故障による修理,あるいは改造を目的として筐体を取り外せば,被告コネクタの外観は看者の目に触れることとなる。 (イ) 以上によれば,本件意匠と同一の意匠を備える被告コネクタを一体不可分のものとして組み込んだ被告製品の輸入販売は,本件意匠権の侵害に当たるというべきである。 エ 当審における予備的請求について 被告製品中には被告コネクタが少なくとも使用されているから,被控訴人の上記使用は,本件意匠の実施行為である「使用」(意匠法2条3項)に該当し,本件意匠権を侵害している。 したがって,控訴人は,控訴の趣旨(2),(3)の請求のうち,意匠権に基づく請求の予備的請求として,被控訴人が,被告製品中の液晶テレビ,液晶モニター中に,原判決別紙「被告コネクタ意匠説明書」記載のプリント配線板用コネクタを使用し,あるいはこれを使用したものを輸入することの差止めを求める。 (2) 被控訴人 ア 本件発明の本質的部分に対し (ア) 本件発明は,先願公報との対比で本件発明が新規性を有する部分は,構成要件E(隔壁に基部平行面がある点)及び該構成に由来する作用効果(雌コネクタの開口平行面に密着して,雄コネクタと雌コネクタをがたつくことなく正しい嵌合姿勢に保持する作用効果)しか存在せず,本件発明のその余の部分(構成要件A,B,C,D及びF)は,先願公報の図2に全て記載された構成であり,その技術的思想も先願公報と同一であるから,本件発明の本質的部分は,構成要件E及びその効果にしか存在しようがない。 そして,本件発明に係るコネクタと被告コネクタの相違点は,前者(本件発明)の隔壁の両側面の形状が「基部平行面」と「先細の楔形を形成するテーパ面」からなるのに対して,後者(被告コネクタ)の隔壁の両側面の形状は「基部から先端に向かって先細りしている形状(すなわちテーパ面)」のみからなる点にあり,被告コネクタは,本件発明の本質的部分である「基部平行面」を有しないのであるから,構成要件Eを充足せず,文言侵害が成立しないのみならず,均等侵害も成立しない。 (イ) 控訴人は,雄コネクタと雌コネクタとの嵌合に際してクリアランスが生じることは技術常識である旨主張するが,そのようなことは本件明細書に記載がない。逆に,本件明細書には「また,この嵌合状態で隔壁7の基部平行面8,8が欠除部23の開口平行面30,30に密着するので,雄コネクタ1と雌コネクタ2はがたつくことなく正しい嵌合状態に保たれる。」(3頁6欄45行〜48行。 甲2)と,雄コネクタの基部平行面と雌コネクタの開口平行面が「密着」すること,すなわち,クリアランスが存在せずぴったりくっつくことが明記されており,本件発明は,雄コネクタの基部平行面と雌コネクタの開口平行面が厳密に密着することを要求している。控訴人主張の本件明細書の図9に照らしても,クリアランスの存在を示唆しているものとはいえない。 また,控訴人は,コネクタの隔壁に「抜き勾配」をつけることは当業者常識であるから本件発明(請求項1)の「基部平行面」の「平行」は略平行として解釈すべきである旨主張するが,雄コネクタの基部平行面が略平行であったら雌コネクタの開口平行面と密着できず,本件発明の本質的効果である上記「がたつき防止」効果を奏さなくなるので,そのような解釈は採りえない。 その上,控訴人の主張するとおりコネクタの隔壁に「抜き勾配」をつけることが当業者の常識(すなわち周知技術)であるならば,隔壁の両側面の形状を被告コネクタのそれのように「全てテーパ面」とすることも当業者の常識(周知技術)ということになろう。 さらに,「基部平行面」の形状が略平行だということは,「テーパ面」と「基部平行面」からなる隔壁の両側面の形状と,「基部から先端に向かって先細りのテーパ面」の隔壁の両側面の形状(被告コネクタの隔壁の両側面の形状)とは,同一ということである。しかし,隔壁の両側面の形状が「基部から先端に向かって先細りのテーパ面」である雄コネクタは,出願経過の際に本件特許発明の技術的範囲から明らかに除外されたものであるから,「基部平行面」の形状を略平行と解することはできず,文字どおり平行であることが要求されるというべきである。 イ 意識的除外等の特段の事情の存在 本件特許権の出願当初明細書(乙2の1)の請求項1は,コネクタの隔壁の両側面の形状に何ら限定はなく,被告コネクタを含むような形での補正,すなわち,隔壁の両側面の形状を「基部から先端に向かって先細りのテーパ面」とする補正も可能であったにもかかわらず,控訴人は,あえて,隔壁の両側面の形状を「基部平行面と,基部平行面に連続し,先細の楔形を形成するテーパ面とにより形成されている」ものに限定したのであるから,これ以外の隔壁の両側面の形状のものは,被告コネクタのように隔壁の両側面の全てがテーパ面で形成されているものも含めて,全て除外したというべきである。 そして,出願当初明細書(乙2の1)の段落【0009】には,「また,前記雄コネクタと前記雌コネクタの係合を容易,かつ確実にするため,前記雄コネクタの前記隔壁の両側面が先細の楔形に形成されていると共に,前記雌コネクタの前記欠除部の相対向する両側面が前記隔壁に対応して内奥に向け漸次幅狭に形成されている。」との記載があり,「隔壁の両側面のすべてがテーパ面」とする補正が上記記載から直接的かつ一義的に導き出せることは明らかであった。 したがって,控訴人は,本件補正当時の審査基準の下でも,被告コネクタの隔壁の両側面の形状のように,「隔壁の両側面のすべてがテーパ面」とする補正を行うことは,客観的にも主観的にも,十分可能であった。 にもかかわらず,控訴人は,そのような補正を選択せず,あえて現在の構成要件Eを追加する本件補正をしたのであるから,これに伴って,少なくとも,(被告コネクタのように)「隔壁の両側面のすべてがテーパ面」である形状のものが意識的に除外されたことは明らかである。 このことは,本件補正において,控訴人が,構成要件Eを追加すると同時に,「隔壁の両側面のすべてがテーパ面」とする補正の根拠となりえた出願当初明細書の段落【0009】を削除していることからも,裏付けられる。 ウ 意匠権の非侵害 (ア) 意匠権侵害の判断において,意匠に係る物品と対比の対象とされるべき物品は,流通過程に置かれ,取引の対象とされる独立した物品であるところ,本件では,被告製品(液晶テレビ,液晶モニター)である。 そして,被告製品と本件意匠に係る物品(プリント配線板用コネクタ)は物品が異なるので,被告製品の意匠が本件意匠と同一又は類似とされることはあり得ない。 (イ) また,意匠保護の根拠が,「流通過程における混同防止」ないしは「意匠の需要吸引力(意匠が需要者に商品を選択させる力)の保護」にある以上,意匠権侵害の成立に意匠の視認性が要件となるのは必然であり,「流通過程において外観に現れず,視覚を通じて認識することができない物品の隠れた形状」が類否判断において考慮されない。 そして,被控訴人が関与する被告製品の流通過程では,被告コネクタは外観に現れず意匠の視認性の要件を満たさない以上,被控訴人の行為が本件意匠権を侵害することはない。また,問題の部品の意匠が修理・改造等の際に看者の目に触れるとしても,修理・改造等の場面はもはや流通過程ではない。 エ 当審における予備的請求に関する主張に対し 意匠法2条3項の「実施」行為である意匠に係る物品の「使用」は,同条項の「譲渡」,「貸し渡し」と同様,意匠の需要吸引力の直接利用行為であるから,当然「使用」についても,意匠の視認性の要件は要求されるというべきである。被告コネクタは,被告製品の内部に完全に組み込まれており,全く外部から看取できず,視認性の要件を欠くから,意匠に係る物品の「使用」に当たらない。 したがって,控訴人の予備的請求は理由がない。 |
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当裁判所の判断
1 当裁判所も,控訴人の請求は,当審において追加した予備的請求を含め,理由がないものと判断する。その理由は,以下のとおり訂正付加するほか,原判決「第4 当裁判所の判断」を引用する。 2 原判決の訂正 (1) 原判決18頁23行目の「必要はないと」を「必要はなく,被告コネクタは同構成要件を充足する旨」と改める。 (2) 原判決19頁3行目の「本件明細書」の後に「(甲2)」を加える。 (3) 原判決20頁14行目から15行目にかけての「出願当初明細書」の後に「(乙2の1)」を加え,末行から21頁3行目までを次のとおり改める。 「【請求項2】 前記ピンコンタクトの前記リード部における前記はんだ付け部分が,前方へ屈曲延出して形成されている請求項1記載の雄コネクタ。 【請求項3】 前記各ピンコンタクトの前記リード部が,前記接触ピン部の後端から横外側方へ屈曲したのち後方へ延びる中間部分と,該中間部分の後端から下方へ屈曲して延びる脚部分と,該脚部分の下端から前方へ屈曲して延びるはんだ付け部分とからなっている請求項1又は2記載の雄コネクタ。 【請求項4】 前記隔壁の両側面が,前記絶縁ハウジングの中心線と平行に延びる基部平行面と,該基部平行面に連続し,先細の楔形を形成するテーパ面とにより形成されている請求項1ないし3のいずれかに記載の雄コネクタ。 【請求項5】 請求項1ないし4のいずれかに記載の雄コネクタの前記開口部に挿入して嵌合される雌コネクタであって,前記接触ピン部に嵌合するソケットコンタクトを収容する絶縁ハウジングが,前記隔壁に係合する欠除部を有する二股状に形成されていると共に,前記開口部の内側面に設けられた係止部に係合する係止手段を有していることを特徴とする雌コネクタ。 【請求項6】 前記欠除部の相対向する両側面が,前記隔壁の前記基部平行面に対応する開口部平行面と,該開口部平行面に連続し,前記隔壁の前記テーパ面に対応して内奥に漸次幅狭になるテーパ面とにより形成されている請求項5記載の雌コネクタ。」」 (4) 原判決21頁8行目末尾に「なお,前記拒絶理由通知に係る通知書(乙2の3)には,「この拒絶理由通知書中で指摘した請求項以外の請求項に係る発明については,現時点では,拒絶の理由を発見しない」との記載がある。」を加え,10行目冒頭に次のとおり付加する。 「 先願公報(乙2の2)の図1及び図2には,絶縁性のソケットハウジング3,導電性の1対のソケットコンタクト2,2,絶縁性のインシュレータ5,導電性のピンコンタクト6,導電性のホールドダウン4a,4bなどから構成されるコネクタが示されている。」 (5) 原判決21頁10行目の「先願公報には」を「そして先願公報の段落【0016】及び図2によれば,インシュレータ5は」と,19行目の「嵌合される」から20行目末尾までを「嵌合される雄コネクタである,との構成を有している。」とそれぞれ改める。 (6) 原判決21頁24行目から25行目にかけての「本件補正により」から22頁5行目末尾までを次のとおり改める。 「 本件補正による特許請求の範囲の補正として,出願当初明細書(乙2の1)の請求項1に「前記隔壁の両側面が,前記絶縁ハウジングの中心線と平行に延びる基部平行面と,該基部平行面に連続し,先細の楔形を形成するテーパ面とにより形成されていることを特徴とする」(構成要件E)との限定を付すなどして,請求項1(本件発明)を「絶縁ハウジンクに収容された2本のピンコンタクトが,前記ハウジングの中心線と平行して前記ハウジングの開口部に突出する接触ピン部と,前記ハウジンクから延出してプリント配線板にはんだ付けされるリード部とを有し,前記ハウジング 内に,前記両接触 ピン 部の中間 に配設 され ,前記両接触 ピン部の先端 より 長く突出 する 隔壁 が設けられ ,一方 ,前記両 リード 部は,互いに 横外側方 へ屈曲 して 延出 し,そのはんだ 付け部分 が,前記両接触 ピン 部のピッチ より 大きい ピッチ に形成 されており ,前記開口部 に他の雌コネクタ が挿入 して 嵌合 される雄コネクタ であって ,前記隔壁 の両側面 が,前記絶縁 ハウジング の中心線 と平行 に延びる 基部平行面 と,該基部平行面 に連続 し,先細 の楔形 を形成 する テーパ 面とにより 形成 されている ことを特徴とする雄コネクタ。」とした(下線部は補正部分)。また,出願当初明細書(乙2の1)の請求項5記載の雌コネクタ発明についても同6記載の構成を付加して限定し,新たに請求項4(前記第2の1(1))とした。 また,本件補正による発明の詳細な説明の補正として,出願当初明細書の段落【0009】の「また,前記雄コネクタと前記雌コネクタの嵌合を容易,かつ確実にするため,前記雄コネクタの前記隔壁の両側面が先細りの楔形に形成されていると共に,前記雌コネクタの前記欠除部の相対向する両側面が前記隔壁に対応して内奥に向け漸次幅狭に形成されている。」を削除し,本件明細書(甲2)の以降の段落番号を繰り上げた。さらに,本件明細書に,【発明の効果】として「しかも,雄コネクタと雌コネクタはがたつくことなく正しい嵌合状態に保持されると共に,嵌合状態の完了を容易に確認することができる。」ことを追加した(前記(ア)c)。」 (7) 原判決22頁7行目の「本件意見書」の後に「(乙2の5)」を加え,19行目末尾に行を改めて次のとおり加える。 「「なお,本願の請求項1に係る発明の補正に対応して,出願当初の請求項5に係る発明も同請求項6に係る発明の構成を付加して限定し,請求項4として補正しました。」」 (8) 原判決23頁5行目の「周知技術」を「公知技術」と,10行目から11行目にかけての「本件特許出願前の周知技術」を「本件特許出願前に頒布された刊行物である米国特許5108317号公報(乙3)に記載されるなど,公知」と,13行目の「隔壁」を「本件発明に係る雄コネクタの隔壁」と,19行目の「(【0019】)」を「(段落【0019】)」とそれぞれ改める。 (9) 原判決23頁21行目の「保持される」」の後に「(段落【0021】)」を加え,26行目の「である解するのが」を「であると解するのが」と改める。 (10) 原判決24頁6行目の「効果」を「格別の効果」と,12行目の「の周知技術であったことに照らすならば」を「に公知であったこと(前記ア(ウ))をも考慮すれば」と,17行目の「存しない。」を「存しない(乙1)。」とそれぞれ改める。 (11) 原判決25頁9行目の「前記ア(イ)」を「前記1(1)ア(イ)」と改め,15行目から16行目にかけての「記載されていたこと」の後に「,上記インシュレータの隔壁の両側面の形状が基部から先端に向かって平行面で形成されていたこと」を加える。 (12) 原判決25頁17行目の「形状を」の後に「「絶縁ハウジングの中心線と平行に延びる基部平行面と,基部平行面に連続し,先細の楔形を形成するテーパ面とにより形成されている」ものに」を加え,24行目の「周知技術」を「公知」と改める。 (13) 原判決26頁8行目の「本件発明は」から14行目の「こと等の事実」までを「出願当初明細書(乙2の1)の請求項1においては,コネクタの隔壁の両側面の形状が限定されていなかったが,同請求項1の発明がインシュレータ(コネクタ)の隔壁の両側面の形状が基部から先端に向かって平行面で形成されていた先願公報に記載された発明と同一であることを理由とする拒絶理由通知を受けて,本件発明は,本件補正により,隔壁の両側面の形状が構成要件Eのとおりに限定されたこと,一方,本件発明に係るコネクタ(雄コネクタ)の隔壁の両側面が上記のとおり限定されたことに対応して,上記コネクタに嵌合される雌コネクタにおいても,その欠除部の相対向する両側面の形状が,前記隔壁の前記基部平行面に対応する開口部平行面と,該開口部平行面に連続し,前記隔壁の前記テーパ面に対応して内奥に漸次幅狭になるテーパ面とにより形成されているものに限定されたこと(請求項4),更に本件補正により,出願当初明細書の段落【0009】の「また,前記雄コネクタと前記雌コネクタの嵌合を容易,かつ確実にするため,前記雄コネクタの前記隔壁の両側面が先細りの楔形に形成されていると共に,前記雌コネクタの前記欠除部の相対向する両側面が前記隔壁に対応して内奥に向け漸次幅狭に形成されている。」を削除したこと等の事実」と改める。 (14) 原判決28頁21行目の「2条1項3号」を「2条3項」と改める。 3 当審における控訴人の主張に対する判断 (1) 特許権に関するもの ア 控訴人は,本件技術分野におけるコネクタにおいて雌コネクタと雄コネクタの各開口部と隔壁(極間壁)の間にはクリアランスを設けるとの技術常識が存在すること,概念上は「平行」として設計された樹脂による極間壁も金型樹脂成形の技術常識に照らせば緩やかなテーパ面(抜き勾配)を付することが当業者の自明事項であることからすれば,本件発明の隔壁の両側面の「基部平行面」(本件発明の構成要件E)は,限りなく平行に近い「略平行面」を除外するものではないから,楔形の先細テーパ面に連続する略平行の基部を有する被告コネクタは,本件発明の構成要件Eの文言範囲に属するか,あるいは,これと実質的に同一であるから,構成要件Eを充足する旨主張する。 しかしながら,控訴人が主張する「略平行面」については本件明細書に記載はなく,「略平行面」の概念自体,いかなる形状のものがこれに含まれるのか,その外延が不明確であり,また,控訴人が主張するクリアランス及び抜き勾配の点が技術常識であったとしても,そのことが「基部平行面」(請求項1)の意義の解釈にいかなる影響を及ぼすのかについても,本件明細書から明らかとはいえないこと,本件発明の隔壁の両側面の「基部平行面」の形状は,文字どおり平行であることを要するとした原判決の判断(第4の1(1)イ。ただし,前記訂正後のもの)に特段不合理な点は認められないこと,被告コネクタの隔壁の両側面は,基部から先端に向かって先細りするテーパ面を呈し,平行面が存しないこと(原判決の第4の1(2))に照らすと,被告コネクタが本件発明の構成要件Eを充足するとの控訴人の前記主張は,採用することができない。 イ 控訴人は,被告コネクタが,本件発明の「前記隔壁の両側面が,前記絶縁ハウジングの中心線と平行に延びる基部平行面と,該基部平行面に連続し,先細の楔形を形成するテーパ面とにより形成されていることを特徴とする」との構成(構成要件E)を有していない点で本件発明と異なるとしても,上記異なる部分は,本件発明の本質的部分ではないから,被告コネクタは均等侵害が成立するための要件を満たしている旨主張する。 しかし,本件特許権の出願経過等(原判決の第4の1(1)ア)によれば,本件特許出願の出願当初明細書(乙2の1)の請求項1は,本件発明の構成要件AないしD及びFからなる発明として記載され,コネクタの隔壁の両側面の形状が限定されていなかったが,控訴人は,同請求項1の発明がインシュレータ(コネクタ)の隔壁の両側面の形状が基部から先端に向かって平行面で形成されていた先願公報に記載された発明と同一であることを理由とする拒絶理由通知を受けて,本件補正を行ったこと,先願発明のインシュレータ(コネクタ)は,本件発明の構成要件AないしD及びFの構成を有していたこと,本件補正により,特許請求の範囲の補正として,出願当初明細書の請求項1に構成要件Eが付加され,本件発明は,隔壁の両側面の形状が「絶縁ハウジングの中心線と平行に延びる基部平行面と,基部平行面に連続し,先細の楔形を形成するテーパ面とにより形成されている」ものに限定されるとともに,明細書(発明の詳細な説明)の補正として,発明の効果に「しかも,雄コネクタと雌コネクタはがたつくことなく正しい嵌合状態に保持されると共に,嵌合状態の完了を容易に確認することができる。」ことが追加されたことが認められる。 加えて,本件補正と同時に提出された本件意見書(乙2の5)には,出願当初明細書の請求項1の発明は構成要件Eの構成を付加して限定補正する旨明記されているほか,「上記のように補正された本願の請求項1に係る発明によれば,高電圧に対応できるものでありながら,コネクタ全体を大幅に小型化できることに加え,雄コネクタと雌コネクタはがたつくことなく正しい嵌合状態に保持されると共に,嵌合状態の完了を容易に確認することができる,という格別の効果を奏するものであります。」との記載がある。 以上の事実を総合すれば,本件明細書(甲2)の「発明が解決しようとする課題」(段落【0004】)に本件発明が「小型化を図りながら,コンタクト間の沿面距離及び空間距離を大きくして,高電圧に対応できるように構成した高電圧対応型のコネクタを提供することを目的としている。」との記載があること等を考慮してもなお,原判決が判示するように,本件発明の本質的部分は,「前記隔壁の両側面が,前記絶縁ハウジングの中心線と平行に延びる基部平行面と,基部平行面に連続し,先細の楔形を形成するテーパ面とにより形成されていることを特徴する」という構成要件Eの技術的手段を採用し,雄コネクタと雌コネクタをがたつくことなく正しい嵌合状態に保持する点にあるものと認められるから,構成要件Eの構成を有しない点で本件発明と異なる被告コネクタは,本件発明の構成と均等なものということはできない。 したがって,控訴人の前記主張は採用することができない。 ウ 控訴人は,出願当初明細書(乙2の1)に記載された雄コネクタの隔壁の形状に関する唯一の実施例(段落【0012】及び本件補正前の請求項4)は,隔壁の両側面が「基部平行面とこれに連続するテーパ面」とにより形成されており,本件補正当時の審査基準の下では,出願当初明細書に記載された事項から当業者が直接的かつ一義的に導き出すことのできない「テーパ面のみからなる隔壁」の構成を特許請求の範囲に含むことになる補正をすることは新規事項の追加禁止に反することになるため,特許請求の範囲に「基部平行面」を取り入れる補正を行うよりほかなかったものであり,本件補正により,「基部平行面」を他の構成に置換するに際し,当該他の構成(隔壁の両側面がテーパ面のみから形成されているもの等)を本件発明の特許請求の範囲から意識的に除外した等の特段の事情は存しない旨主張する。 確かに,本件補正当時の特許庁の特許・実用新案審査基準(平成15年10月改訂前のもの)には,明細書,特許請求の範囲又は図面の補正の具体的運用の基本原則として,願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項から当業者が直接的かつ一義的に導き出すことができない事項(新規事項)を記載することとなる補正は,特許法17条の2第3項の規定に違反するものとなる旨の記載があったが(弁論の全趣旨),他方で,出願当初明細書(乙2の1)には,「また,前記雄コネクタと前記雌コネクタの嵌合を容易,かつ確実にするため,前記雄コネクタの前記隔壁の両側面が先細りの楔形に形成されていると共に,前記雌コネクタの前記欠除部の相対向する両側面が前記隔壁に対応して内奥に向け漸次幅狭に形成されている。」(段落【0009】)との記載があり,この「前記雄コネクタの前記隔壁の両側面が先細りの楔形に形成されている」との構成には,文言上基部平行面を含むものではなく,これに対応する雌コネクタの欠除部の相対向する両側面の形状についても「前記隔壁に対応して内奥に向け漸次幅狭に形成されている」との記載があるにとどまり,隔壁の両側面の「基部平行面」については何ら記載されていないことに照らせば,雄コネクタの隔壁の形状について,出願当初明細書には隔壁の両側面が「基部平行面とこれに連続するテーパ面」とにより形成されたものしか記載がなかったものとは認められない。 加えて,本件補正により,隔壁の両側面の形状が構成要件Eのとおりに限定されるとともに,出願当初明細書の段落【0009】は削除されたことに照らせば,原判決が判示するように,隔壁の両側面が「基部平行面とこれに連続する先細のテーパ面」とにより形成されていないもの,すなわち,被告コネクタのように隔壁の両側面の全てがテーパ面で形成されているものは,本件発明から意識的に除外されたものと認めるのが相当である。 したがって,控訴人の前記主張は採用することができない。 (2) 意匠権に関するもの ア 控訴人は,流通過程において外観に現れず,視覚を通じて認識できない物品の隠れた形状についても意匠権の保護の対象となり,また,仮にこれが保護の対象とならないとしても,被告製品においては,その「常態」としては被告コネクタが内蔵され,看者の目に触れないというにすぎず,故障による修理,あるいは改造を目的として筐体を取り外せば,被告コネクタの外観は看者の目に触れることとなるから,被告コネクタを一体不可分のものとして組み込んだ被告製品の輸入販売は,本件意匠権の侵害に当たる旨主張する。 しかしながら,原判決が判示するように,被告コネクタは被告が関与する流通過程において,被告製品に内蔵されたままの状態で外観に現れず,被告製品の取引者,需要者によって外部から視覚を通じて認識されることはないのであるから,被告製品の輸入販売は,本件意匠の実施に当たるものとは認められず,本件意匠権を侵害するものではないというべきである。また,控訴人が主張するように被告製品の故障による修理,あるいは改造を目的として筐体を取り外した場合には,被告コネクタの外観が認識されることになるとしても,それは被告が関与する流通過程であるとはいえないから,上記判断を左右するものではない。 したがって,控訴人の前記主張も採用することができない。 イ 控訴人は,当審における控訴人の予備的請求において,被告製品中には被告コネクタが少なくとも使用されているから,被控訴人の上記使用は,本件意匠の実施行為である「使用」(意匠法2条3項)に該当し,本件意匠権を侵害している旨主張する。 しかしながら,先に説示したとおり,被告コネクタは,被告が関与する流通過程において,被告製品に内蔵されたままの状態で外観に現れず,被告製品の取引者,需要者によって外部から視覚を通じて認識されることはないのであるから,被告製品中には被告コネクタが使用されていることが,本件意匠の実施行為としての使用に該当するものと認めることはできない。 したがって,その余の点について判断するまでもなく,控訴人の予備的請求も理由がない。 4 結論 以上によれば,本件控訴は理由がないから棄却することとし,控訴人の当審における新たな請求も理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 中野哲弘 |
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裁判官 | 大鷹一郎 |
裁判官 | 早田尚貴 |