関連審決 | 異議1999-71419 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成11ワ21280特許権不侵害確認請求事件 平成12ワ7516特許権侵害差止請求事件 | 判例 | 特許 |
平成11ワ24433特許権損害賠償等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成12ワ12728特許権侵害差止請求事件 | 判例 | 特許 |
平成12ワ13799特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成12ワ5352-A 特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 技術的思想 / 頒布された刊行物 / 容易に発明 / 周知技術 / 技術的範囲 / 技術的手段 / 補償金請求権 / 共有 / 警告 / 権利の濫用(権利濫用) / 置換 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 差止請求(差止) / 侵害 / 請求の範囲 / |
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事件 |
平成
11年
(ワ)
6302号
特許権侵害差止等請求事件
平成 11年 (ワ) 9994号 特許権侵害差止等請求事件 |
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原告 株式会社トミー 原告 株式会社日本カプセルプロダクツ 原告ら訴訟代理人弁護士 大場正成 同 尾崎英男 同 嶋末和秀 同 藤本欣伸 原告ら訴訟復代理人弁護士 松田暖甲事件被告 ケミテック株式会社 甲事件被告 東邦化工株式会社 乙事件被告 株式会社アガツマ 乙事件被告 コンビ株式会社 被告ら訴訟代理人弁護士 松田武 同 鮎川定徳 被告ら訴訟復代理人弁護士 清水正明 被告ら補佐人弁理士 中島幹雄 被告コンビ株式会社訴訟代理人弁護士 土方邦男 同 川崎泰徳 同被告訴訟復代理人弁護士 久野健 |
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裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 2001/07/27 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
(甲事件) 1(1) 被告ケミテック株式会社は,別紙原告物件目録(1)記載の物件を製造,販売してはならない。 (2) 被告ケミテック株式会社は,その占有する別紙原告物件目録(1)記載の物件を廃棄せよ。 (3) 被告ケミテック株式会社は,原告株式会社日本カプセルプロダクツに対し,金8349万3650円及びこれに対する平成12年3月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2(1) 被告東邦化工株式会社は,別紙原告物件目録(2)記載の物件を製造,販売してはならない。 (2) 被告東邦化工株式会社は,その占有する別紙原告物件目録(1)及び(2)記載の物件を廃棄せよ。 (3) 被告東邦化工株式会社は,原告株式会社トミーに対し,金1億2938万5881円及びこれに対する平成12年3月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (乙事件) 1(1) 被告株式会社アガツマは,別紙原告物件目録(3)記載の物件を製造,販売してはならない。 (2) 被告株式会社アガツマは,その占有する別紙原告物件目録(1)及び(3)記載の物件を廃棄せよ。 (3) 被告株式会社アガツマは,原告株式会社トミーに対し,金9444万0336円及びこれに対する平成12年3月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2(1) 被告コンビ株式会社は,別紙原告物件目録(4)記載の物件を製造,販売してはならない。 (2) 被告コンビ株式会社は,その占有する別紙原告物件目録(1)及び(4)記載の物件を廃棄せよ。 (3) 被告コンビ株式会社は,原告株式会社トミーに対し,金97万0577円及びこれに対する平成12年3月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 |
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事案の概要
1 争いのない事実等 (1) 原告らは,次の特許権(以下「本件特許権」という。)を共有している。 特許番号 特許第2873825号 登録日 平成11年1月14日 出願日 昭和63年11月28日 発明の名称 磁気ディスプレーシステム 特許請求の範囲請求項1 「少なくとも一枚が透明な二枚の非磁性体基板間に,油状液体中に分散した,光吸収性磁性粉と光反射性非磁性粉を封入したマイクロカプセル層を塗設してディスプレーとし,透明な基板側を表面とするディスプレーの表面または裏面の一方から局部的または全面的に磁場を印加することによって前記マイクロカプセル内の光吸収性磁性粉の複数粒子を磁気作用によって凝集させつつ,ディスプレーの面の磁場を印加した側に吸引移動させ,またその移動に対応して,その同じマイクロカプセル内の光反射性非磁性粉を磁場を印加したディスプレーの面の反対側に移動させて,ディスプレー面に光の吸収・反射のコントラストを与えて文字や像の形成及び消去を行う磁気ディスプレーシステム。」 特許請求の範囲請求項2 「前記基板間に塗設するマイクロカプセル内に封入する光吸収性磁性粉として,外部よりの磁場印加によって容易に磁化できる透磁率が大きく,また外部よりの磁場印加を取除いたときの残留磁化の小さい特徴をもつ黒色酸化鉄粉の複数粒子を用いる請求項(1)記載の磁気ディスプレーシステム。」 特許請求の範囲請求項3 「前記基板間に塗設するマイクロカプセルが,光吸収性磁性粉と光反射性非磁性粉を分散した油状液体を,それと相溶性のない水性媒体の連続相中に懸濁して生じる前記油状液体の液滴界面上に,水性媒体の連続相に添加したポリマー水溶液よりポリマー濃厚相を析出・吸着させて実質的に透明な壁膜を形成するマイクロカプセルである請求項(1)記載の磁気ディスプレーシステム。」 特許請求の範囲請求項4 「前記ディスプレーの表面または裏面より磁場を印加してマイクロカプセル内の光吸収性磁性粉と光反射性非磁性粉のそれぞれの位置を相互に移動させる手段として永久磁石を用いる請求項(1)記載の磁気ディスプレーシステム。」 (2) 本件特許につき,特許請求の範囲のすべての請求項(請求項1ないし4)に対して特許異議の申立てがなされ,特許庁において,平成11年異議第71419号事件として審理された。この審理の過程で,原告らは,本件特許請求の範囲を後記のとおり訂正すること(以下「本件訂正」という。)を請求したが,特許庁はこの請求を認めず,平成12年6月21日付けで,本件特許のすべての請求項に係る特許を取り消す旨の決定(以下,「本件異議決定」という。)をした(甲11,乙1の1ないし9,乙12)。 原告は,この決定に対する取消訴訟を東京高等裁判所に提起したが,東京高等裁判所は,平成13年3月27日,原告の請求を棄却する判決を言い渡した(乙27)。 原告らが請求した本件訂正における本件特許請求の範囲は次のとおりである(甲11)。 ア 特許請求の範囲請求項1(以下,この発明を「訂正発明1」という。) 少なくとも一枚が透明な二枚の非磁性体基板間に,油状液体中に分散した,光吸収性磁性粉と光反射性非磁性粉とを封入したマイクロカプセル層を塗設してディスプレーとし,該ディスプレーのうち透明な基板側を表面とし,他の基板側を裏面とし,該裏面から局部的または全面的に磁場を印加することによって,前記マイクロカプセル内の光吸収性磁性粉の複数粒子を磁気作用によって凝集させつつ,前記ディスプレーの裏面側に吸引移動させ,その移動に対応して,前記マイクロカプセル内の光反射性非磁性粉を前記ディスプレーの表面側に移動させて,前記ディスプレーの表面が光反射性非磁性粉の反射色を示し,文字や像の形成は,表面から局部的に磁場を印加することによって,その印加部分のマイクロカプセル内の光吸収性磁性粉の複数粒子を磁気作用によって凝集させつつ,前記ディスプレーの表面側に吸引移動させ,その移動に対応して,その同じマイクロカプセル内の光反射性非磁性粉を,前記ディスプレーの裏面側に移動させて,前記ディスプレー表面に光の吸収・反射のコントラストを与え,文字や像の形成及び消去を行う磁気ディスプレーシステム。 イ 特許請求の範囲請求項2を削除し,特許請求の範囲請求項3を請求項2に,特許請求の範囲請求項4を請求項3にする。 (3)ア 被告ケミテック株式会社(以下,「被告ケミテック」という。)は,磁気ディスプレーシートを製造販売している。 イ 被告東邦化工株式会社(以下,「被告東邦化工」という。)は,磁気ディスプレーシートを使用した磁気表示玩具を製造販売している。 ウ 被告アガツマ株式会社(以下,「被告アガツマ」という。)は,磁気ディスプレーシートを使用した磁気表示玩具を販売している。 エ 被告コンビ株式会社(以下,「被告コンビ」という。)は,磁気ディスプレーシートを使用した磁気表示玩具を販売している。 2 本件は,本件特許権を共有している原告らが,被告らに対し,被告東邦化工が製造販売し,被告アガツマ及び同コンビが販売している磁気表示玩具は,特許請求の範囲請求項1,2,4の各発明(以下「本件各発明」という。)の技術的範囲に属するものであり,また,被告ケミテックが製造販売している磁気ディスプレーシートは,この磁気表示玩具の生産にのみ使用するものであるから,これらの製造及び販売は,本件特許権の侵害であると主張して,これらの製造販売の差止め並びに補償金及び損害賠償の支払を求める事案である。 |
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争点及びこれに関する当事者の主張
1 争点 (1) 被告らが製造等をしている磁気ディスプレーシート及び磁気表示玩具の特定 (2) 上記磁気表示玩具が本件各発明の「二枚の非磁性体基板」を充足するかどうか (3) 本件特許が明らかに無効であるかどうか (4) 損害等の発生及び額 2 争点に関する当事者の主張 (1) 争点(1)について (原告らの主張) 被告ケミテックが製造販売している磁気ディスプレーシートは,別紙原告物件目録(1)記載のとおり特定され,被告東邦化工が製造販売している磁気表示玩具は同目録(2)記載のとおり特定され,被告アガツマが販売している磁気表示玩具は同目録(3)記載のとおり特定され,被告コンビが販売している磁気表示玩具は同目録(4)記載のとおり特定される。 (被告ケミテック及び被告東邦化工の主張) 被告ケミテックが製造販売している磁気ディスプレーシートは,別紙被告物件目録記載のとおり特定される。 (被告アガツマ及び被告コンビの主張) 原告らの上記主張は否認する。 (2) 争点(2)について (原告らの主張) 被告ケミテックが製造販売している磁気ディスプレーシートは,別紙原告物件目録(1)記載のとおり,非磁性体のポリエチレンテレフタレート樹脂からなるフィルムを2枚備えているから,本件各発明の「二枚の非磁性体基板」を充足する。 したがって,その余の被告らが製造等をしている磁気表示玩具は,本件各発明の「二枚の非磁性体基板」を充足する。 (被告ケミテック及び同東邦化工の主張) 本件各発明の「二枚の非磁性体基板」は,裏面層の2枚目基板が,硬質で,かつ,剥離しうる層がなく,剥離できないものであることを意味するところ,被告ケミテックが製造販売している磁気ディスプレーシートのディスプレーの裏面層は,弾性と柔軟性を有する紫外線硬化樹脂と薄膜ポリエチレンテレフタレートフィルムの二層構造部材からなるから,硬質の基板ではないし,薄膜ポリエチレンテレフタレートフィルムは剥離することができる。したがって,この磁気ディスプレーシートは,本件各発明の「二枚の非磁性体基板」を充足しない。よって,その余の被告らが製造等をしている磁気表示玩具は,本件各発明の「二枚の非磁性体基板」を充足しない。 (被告アガツマ及び同コンビの主張) 原告らの上記主張は否認ないし争う。 (3) 争点(3)について (被告らの主張) 本件各発明は,本件特許出願前に頒布された,以下の各刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから,本件特許請求の範囲請求項1ないし4に係る特許は明らかに無効である。 ア 特開昭60-107689号公報(以下「刊行物1」という。)(乙1の4) イ 特開昭50-160046号公報(以下「刊行物2」という。)(乙1の5) ウ 特開昭48-56393号公報(以下「刊行物3」という。)(乙1の8) エ 特開昭55-29880号公報(以下「刊行物4」という。)(乙1の2) (被告ケミテック及び同東邦化工の主張) 本件各発明は,本件特許出願前に頒布された,以下の各刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから,本件特許請求の範囲請求項1ないし4に係る特許は,明らかに無効である。 ア 刊行物1ないし4 イ 特開昭63-153197号公報(以下「刊行物5」という。)(乙1の6) ウ 特公昭40-19226号公報(乙1の3) エ 特公昭38-14898号公報(乙1の7) (原告らの主張) ア 刊行物1ないし4は,それぞれ全く別個の作動原理と構成をもつ発明であって,刊行物1の発明に,刊行物2ないし4の発明の要素を転用することはできない。これらを観念的に組み合わせても,実際上は組み合わせる動機付けもないし,逆に組み合わせられない阻害要因もあるので,組み合わせるという考え自体が失当である。したがって,これらの刊行物の記載に基づいて,訂正発明1を容易に推考することはできない。 イ 訂正発明1と刊行物1記載の発明は,多くの相違点があるところ,マイクロカプセル利用の磁気表示パネルに属する発明は,発明思想や作動原理及びこれを実施するための構成の違いにより,それぞれ別発明が成立するるから,このような相違点があれば,別の発明であって,これに他の刊行物の記載を補っても,刊行物1記載の発明から訂正発明1が容易に推考できたとはいえない。 ウ 刊行物1記載の発明は,微小磁石粉を油状液体に分散したマイクロカプセルを使用するものであるが,微小磁石粉は,マイクロカプセルに封入する前段の工程で凝集してしまうから,結局,同発明は,物理的化学的法則に反する技術的手段によらなければ実施することができない。また,この発明から,この物理的化学的法則に反する技術的手段を除くと,他にこの発明の目的を達成するための具体的手段の記載も示唆もないから,完全に空虚な発明になる。このように,この発明は,単なる記載の不備や未完成にとどまらず,物理的化学的法則に反する手段に基づく,あるいは,実体のない空虚な発明であるから,この発明に他の発明を組み合わせることは不可能である。 エ 訂正発明1と刊行物1記載の発明は,前者が2枚の非磁性体基板間にマイクロカプセル層を塗設するのに対し,後者は1枚の非磁性体基板上にマイクロカプセル層を塗設する点で相違する。そして,この相違点は,刊行物2及び刊行物5記載の発明によって補うことはできない。 (ア) 刊行物2記載の発明において,塗布層を塗布した基体が訂正発明1の非磁性体基板に該当するところ,赤いエナメル層は,塗布層の一部であって,塗布層を支持する基体ではない。 (イ) 訂正発明1の非磁性体基板は,@マイクロカプセル層(バインダーを含む。)を両面から支持する支持基板であり,Aマイクロカプセル層を外側から保護する保護層であり,B書込み・消去をくり返す磁気印加のため,その表面を永久磁石で走査するときの基板となるものであり,Cそのうちの表面の透明基板は,これを通して表示読取りを行う表示板の役割をし,磁気ペン等の書込み用具を繰り返し走査するときのマイクロカプセル層の保護機能を果たすものである。 一方,刊行物2記載の発明の赤いエナメル層は,表示,書込みを行った箇所で,鮮やかな色彩反射を提供する反射面であるから,訂正発明1の非磁性体基板の役割を果たさない。 (ウ) 刊行物2記載の発明の赤いエナメル層は,フレーク状の磁性粉の行うシャッター作用において,光が透視できる場合の反射面を提供することにより,透視部分に文字や画像を形成させるものである。一方,刊行物1記載の発明の磁気表示は,表裏をNーS極で異なる色に着色した微小磁石粉の表面又は裏面自体の反射色によって文字・画像を形成するものであるから,底面からの反射光は障害になる。 したがって,刊行物1記載の発明に刊行物2記載の発明の赤いエナメルの基体層を組み合わせることについては,そうすべき動機付けがなく,かえってそれについての阻害事由があるというべきである。 (エ) 刊行物2記載の発明の場合には,表示は,透明基板を上にしてマイクロカプセル層の外側(底面)を透視することになる。一方,刊行物1記載の発明は,その逆に,マイクロカプセルの中の微小磁石表面を透視するので,マイクロカプセル層の外側に赤いエナメル層のようなものを塗布すれば,表示は透視できなくなる。 したがって,刊行物1記載の発明に刊行物2記載の発明の赤いエナメルの基体層を組み合わせることについては,動機付けの発生を阻害する事由があるというべきである。 (オ) 刊行物5に記載された発明において,マイクロカプセル層の上面に保護フィルムを塗布しているが,この保護フィルムは,バインダー等と一体となったマイクロカプセル層の一部をなすものであって,訂正発明1のものと同じ構成や役割を持つものではないから,訂正発明1の2枚の非磁性体基板とは異なる。 オ 訂正発明1と刊行物1記載の発明は,マイクロカプセルの内容物及び挙動において相違するが,この相違は,刊行物4記載の発明により補うことはできない。 (ア) 刊行物4の第4図では,磁気印加された部位においては,磁性体が印加部分に偏在しているものの,他の部位においては,磁性体とルチルがランダムに混在していることが示されている。しかし,訂正発明1は,磁性体と非磁性体が完全に入れ替わり,一方が他を覆う形になるものであって,磁気印加されていない他の部位においても,磁性体と非磁性体がランダムに混在しているものではない。刊行物4記載の発明は,このように,磁性体と非磁性体が完全に入れ替わり,一方が他を覆う形になるものを全く想定していない。 (イ) 発明の中核となるべきマイクロカプセル内の内容物及び作動方式が異なるものを置換して用いることは,発明の骨格を取り換えることであって,全く別の発明を別の観点から行うことになるから,容易に想到し得ることではない。 (ウ) 刊行物1の微小磁石粉を包含するマイクロカプセルはそれ独自のもので他の磁性粉などを包含するマイクロカプセルと同一原理で製造できないので,この要素だけ刊行物4の技術に置換することはできない。 カ 訂正発明1と刊行物1記載の発明は,磁場の印加の手法において相違するが,この相違は,刊行物3記載の発明により補うことはできない。 刊行物3記載の発明は,マイクロカプセルを利用した発明ではなく,2枚の基板間を多数の小室に物理的に仕切ったものである。 文字や像を,表面から磁場を印加することにより形成し,裏面から磁場を印加することにより消去するという,刊行物3記載の発明のような方式は,マイクロカプセル利用の磁気表示パネルには公知例がなかったものであり,これを,マイクロカプセル利用の磁気表示板である刊行物1記載の発明に組み合わせるべき動機付けは全く存在しない。 (4) 争点(4)について (原告株式会社日本プロダクツ(以下「原告日本プロダクツ」という。)の主張) 被告ケミテックは,原告らから本件特許の公開公報につき通知を受けた後である平成8年8月から本件特許の登録日である平成11年1月14日までの間に,別紙原告物件目録(1)記載の磁気ディスプレーの製造販売によって,少なくとも2億8035万2000円の売上収入を得ているところ,そのロイヤリティの率は10パーセントが相当である。したがって,原告日本プロダクツは,同被告に対し,2803万5200円の補償金請求権を有する。 被告ケミテックの平成11年1月15日から平成12年2月末日までの上記製品の売上高は少なくとも2億2605万4200円であって,これにより,同被告が得た利益は5545万8450円である。したがって,原告日本プロダクツは,同被告に対し,5545万8450円の損害賠償請求権を有する。 (原告株式会社トミー(以下「原告トミー」という。)の主張) ア 被告東邦化工は,原告らから本件特許公開公報につき通知を受けた後である平成8年8月から平成11年1月14日までの間に,別紙原告物件目録(2)記載の磁気表示玩具の製造販売によって,少なくとも5億7596万6850円の売上収入を得ているところ,そのロイヤリティの率は6パーセントが相当である。したがって,原告トミーは,同被告に対し,3455万8011円の補償金請求権を有する。 被告東邦化工の平成11年1月15日から平成12年2月末日までの上記製品の売上高は少なくとも1億5804万6450円であって,これにより,同被告が得た利益は9482万7870円である。したがって,原告トミーは,同被告に対し,9482万7870円の損害賠償請求権を有する。 イ 被告アガツマは,原告らから本件特許公開公報につき通知を受けた後である平成8年8月から平成11年1月14日までの間に,別紙原告物件目録(3)記載の磁気表示玩具の販売によって,少なくとも5億8840万5600円の売上収入を得ているところ,そのロイヤリティの率は6パーセントが相当である。したがって,原告トミーは,同被告に対し,3530万4336円の補償金請求権を有する。 被告アガツマの平成11年1月15日から平成12年2月末日までの上記製品の売上高は少なくとも1億5840万円であって,これにより,同被告が得た利益は5913万6000円である。したがって,原告トミーは,同被告に対し,5913万6000円の損害賠償請求権を有する。 ウ 被告コンビは,被告ケミテックが原告らから本件特許に関する警告を受けていることを知りながら,別紙原告物件目録(4)記載の磁気表示玩具を販売し,平成8年8月から平成11年1月14日までの間に,少なくとも1568万7000円の売上収入を得ているところ,そのロイヤリティの率は6パーセントが相当である。したがって,原告トミーは,同被告に対し,94万1220円の補償金請求権を有する。 被告コンビの平成11年1月15日から平成12年2月末日までの上記製品の売上高は48万9285円であるが,これに,上記6パーセントを乗じると2万9357円になる。したがって,原告トミーは,同被告に対し,2万9357円の損害賠償請求権を有する。 (被告らの主張) 損害等の発生及び額については争う。 |
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当裁判所の判断
1 争点(3)について (1)ア 証拠(乙1の4)によると,本件発明1と,本件特許出願前に頒布された刊行物1に記載された発明は,非磁性体基板に,マイクロカプセル層を塗設してディスプレーとし,ディスプレーの表面又は裏面の一方から局部的又は全面的に磁場を印加することによって,ディスプレー面に光の吸収・反射のコントラストを与えて文字や像の形成及び消去を行う磁気ディスプレーシステムである点で一致し,次の点で相違することが認められる。 (ア) 前者が,少なくとも1枚が透明な2枚の非磁性体基板間にマイクロカプセル層を塗設し,透明な基板側を表面とするディスプレーであるのに対し,後者は,1枚の非磁性体基板上にマイクロカプセル層を塗設したディスプレーである点 (イ) 前者が,油状液体中に分散した,光吸収性磁性粉と光反射性非磁性粉を封入したマイクロカプセルを使用し,マイクロカプセル内の光吸収性磁性粉の複数粒子を磁気作用によって凝集させつつ,ディスプレーの面の磁場を印加した側に吸引移動させ,またその移動に対応して,その同じマイクロカプセル内の光反射性非磁性粉を磁場を印加したディスプレーの面の反対側に移動させるものであるのに対し,後者は,黒色磁性塗料と白色非磁性塗料とを二層に塗布し,乾燥した後に着磁・粉砕した微小磁石粉を油状液体中に分散したマイクロカプセルを使用し,磁場の印加により,微小磁石粉を単に反転移動させるものである点 イ(ア) 相違点(ア)について 証拠(乙1の5)によると,本件特許出願前に頒布された刊行物2には,磁気ディスプレーであって,非磁性体である透明シートと,赤いエナメルの不透明な層という,2枚の非磁性体基板間にマイクロカプセル層を塗設し,透明シート側を表面とし,他の基板側を裏面とする発明が記載されていることが認められる。 また,証拠(乙1の6)によると,本件特許出願前に頒布された刊行物5には,「このようにして得られた磁気カプセルはバインダ-と混合して塗液とし基材上に塗設して目視可能像を形成する磁気記録層とし,必要に応じて磁気記録層表面に保護膜を設けて磁気記録材料とする。基材は紙,合成樹脂シート・・・記録層の支持体となり得るものであれば何ら制限はない。」(4頁左上欄6行〜12行),「磁気記録層の上に設ける保護フィルムは透明で,傷つき難く,変形し難いものであれば材質は限定されない。ポリエステル,ポリカーボネート,ポリメタクリル酸等が好ましく用いられるが,しかし,目視可能記録像の解像力の点からいえば,保護フィルムは薄い程好ましく」(4頁右上欄8行〜13行)との記載があることが認められ,この記載によると,刊行物5には,磁気ディスプレーであって,透明で変形し難い非磁性体である保護フィルムと非磁性体である基材という,2枚の非磁性体基板の間にマイクロカプセル層を塗設し,保護フィルム側を表面とし,他の基板側を裏面とする発明が記載されているということができる。 以上の事実によると,磁気ディスプレーであって,少なくとも1枚が透明な2枚の非磁性体基板の間にマイクロカプセル層を塗設し,透明な基板側を表面とする構成は,本件特許出願前に周知の技術であったことが認められる。 そうである以上,同じく磁気ディスプレーである刊行物1記載の発明に,上記周知技術を適用することは,当業者が容易になし得たものというべきである。 原告らは,刊行物2記載の発明の赤いエナメル層は,基板ではない,あるいは,非磁性体基板としての一定の役割を果たさないと主張する。しかし,刊行物2における「実施例1の組成物をポリスチレン又はポリエチレンテレフタレートの様な重合体物質の透明なシート上に塗装し,乾燥した時,該組成物を赤いエナメルの不透明な基体層でおおう。」(乙1の5,9頁左下欄10行〜13行)との記載からすると,刊行物2記載の発明の赤いエナメル層は,基板であると認められる。また,本件発明1の非磁性体基板が,前記第3,2(3)(原告らの主張)エ(イ)で原告らが主張するような役割を果たすものに限定されるとは認められないが,仮に,そうであり,かつ,刊行物2記載の発明の赤いエナメル層が表示,書込みを行った箇所で,鮮やかな色彩反射を提供する反射面であるとしても,そのことにより,刊行物2記載の発明の赤いエナメル層から上記周知の技術が認識できなくなるというものではない。 原告らは,刊行物1記載の発明に刊行物2記載の発明の赤いエナメルの基体層を設けることを組み合わせることについて阻害事由があると主張するが,上記認定のとおり,刊行物1記載の発明に適用することが容易であるのは,刊行物2記載の発明の赤いエナメルの基体層自体ではなく,上記周知の技術であるから,原告らの主張は,採用できない。 原告らは,刊行物5に記載された発明における保護フィルムについて,バインダー等と一体となったマイクロカプセル層の一部をなすと主張するが,前記認定に係る刊行物5の記載からすると,この主張を認めることはできず,刊行物5に記載された発明から上記周知の技術が認識できないということはない。 (イ) 相違点(イ)について 相違点(イ)は,マイクロカプセルの種類に基づく相違,すなわち,磁気泳動タイプか磁気反転タイプかの違いに基づくものと認められるところ,証拠(乙1の2)と弁論の全趣旨によると,磁気泳動タイプのマイクロカプセルは,刊行物4に開示されているように周知であることが認められるから,このようなタイプのマイクロカプセルで刊行物1記載の磁気ディスプレーのマイクロカプセルに置換することは,格別な技術困難性を伴うことなく,当業者が容易になし得ることである。 原告らは,刊行物1記載の発明と刊行物4記載の発明について,マイクロカプセル内の内容物,作動方式等が異なるから,それらを置換して用いることは当業者が容易に想到し得ないと主張する。 しかしながら,証拠(乙1の2,乙1の4)によると,刊行物4において,磁気泳動タイプのマイクロカプセルは,磁力を利用して表示を行うディスプレーであって,内部に移動可能な磁性体を封入したマイクロカプセル配列パネルに,外部から局部的に磁場を印加して磁性体を移動させて表示を行うものについても,適用されていること,刊行物1記載の発明は,磁力を利用して表示を行うディスプレーであって,内部に移動可能な磁石粉を封入したマイクロカプセル配列パネルに,外部から局部的に磁場を印加して磁石粉を移動させて表示を行うものであることが認められるから,刊行物1記載の発明に,磁気泳動タイプのマイクロカプセルを適用することは,当業者が容易になし得るものというべきである。 また,原告らは,刊行物4記載の発明は,磁性体と非磁性体が完全に入れ替わり,一方が他を覆う形になるものを想定していないと主張するが,そうであるとしても,上記認定のとおり,磁気泳動タイプのマイクロカプセルは周知であり,刊行物1記載の発明に,磁気泳動タイプのマイクロカプセルを適用することは,当業者が容易になし得るものというべきであるから,原告の上記主張は,上記認定を左右するものではない。 ウ 以上によると,本件発明1は,刊行物1記載の発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明することができたものと認められる。 原告らは,刊行物1記載の発明は,物理的化学的法則に反する手段に基づくもの,あるいは,実体のない発明であるから,この発明に他の発明を組み合わせることは不可能であると主張する。 しかしながら,証拠(乙1の4)によると,同刊行物には,「非磁性体基板に,マイクロカプセル層を塗設してディスプレーとし,磁場を印加することによって,前記ディスプレー表面に光の吸収・反射のコントラストを与え,文字や像の形成及び消去を行う磁気ディスプレーシステム。」との技術的思想が記載されていることが認められるから,仮に,刊行物1記載の発明が,物理的化学的法則に反する手段に基づくもの,あるいは,実体のない発明であったとしても,刊行物1から「非磁性体基板に,マイクロカプセル層を塗設してディスプレーとし,磁場を印加することによって,前記ディスプレー表面に光の吸収・反射のコントラストを与え,文字や像の形成及び消去を行う磁気ディスプレーシステム。」との技術的思想を認識し,これと他の発明を組み合わせることが不可能とはいえない。 エ 本件発明2は,本件発明1に「前記基板間に塗設するマイクロカプセル内に封入する光吸収性磁性粉として,外部よりの磁場印加によって容易に磁化できる透磁率が大きく,また外部よりの磁場印加を取除いたときの残留磁化の小さい特徴をもつ黒色酸化鉄粉の複数粒子を用いる」という限定を加えたものであるところ,証拠(乙1の3,乙1の7)によると,複数の微粒子状の黒色酸化鉄粉を用いることは,周知であると認められ,磁気によって文字や像の形成及び消去を行うものであることからすると,「外部よりの磁場印加によって容易に磁化できる透磁率が大きく,また外部よりの磁場印加を取除いたときの残留磁化の小さい特徴をもつ」ことは当然想定されるべきことであるから,本件発明2についても,当業者が容易に発明することができたものと認められる。 本件発明4は,本件発明1に,磁場を印加する手段として永久磁石を用いる限定を加えたものであるが,証拠(乙1の8)と弁論の全趣旨によると,磁気ディスプレーにおけるこのような技術は周知の手段であると認められるから,本件発明4についても,当業者が容易に発明することができたものと認められる。 (2) 原告は,第2の1(2)のとおり,本件特許についての特許異議事件において,本件訂正を請求したが,以下のとおり,訂正発明1及び3は,いずれも,当業者が容易に発明することができたものと認められる。 ア 証拠(乙1の4)によると,訂正発明1と刊行物1に記載された発明は,非磁性体基板に,マイクロカプセル層を塗設してディスプレーとし,ディスプレーの表面又は裏面の一方から局部的又は全面的に磁場を印加することによって,ディスプレー面に光の吸収・反射のコントラストを与えて文字や像の形成及び消去を行う磁気ディスプレーシステムである点で一致し,次の点で相違することが認められる。 (ア) 前者が,少なくとも1枚が透明な2枚の非磁性体基板間にマイクロカプセル層を塗設し,透明な基板側を表面とし,他の基板側を裏面とするのに対し,後者は,1枚の非磁性体基板上にマイクロカプセル層を塗設する点 (イ) 前者が,油状液体中に分散した,光吸収性磁性粉と光反射性非磁性粉を封入したマイクロカプセルを使用し,マイクロカプセル内の光吸収性磁性粉の複数粒子を磁気作用によって凝集させつつ,前記ディスプレーの裏面側に吸引移動させ,その移動に対応して,前記マイクロカプセル内の光反射性非磁性粉を前記ディスプレーの表面側に移動させ,磁場の印加部分のマイクロカプセル内の光吸収性磁性粉の複数粒子を磁気作用によって凝集させつつ,前記ディスプレーの表面側に吸引移動させ,その移動に対応して,その同じマイクロカプセル内の光反射性非磁性粉を,前記ディスプレーの裏面側に移動させるものであるのに対し,後者は,黒色磁性塗料と白色非磁性塗料とを二層に塗布し,乾燥した後に着磁・粉砕した微小磁石粉を油状液体中に分散したマイクロカプセルを使用し,磁場の印加により,微小磁石粉を単に反転移動させるものである点 (ウ) 前者が,まず,裏面から局部的または全面的に磁場を印加することによって,ディスプレーの表面が光反射性非磁性粉の反射色を示し,次に,文字や像の形成は,表面から局部的に磁場を印加することによって行うものであるのに対し,後者は,磁場の印加の手法について具体的に言及していない点 イ(ア) 相違点(ア)について 前記(1)イ(ア)で認定した事実によると,磁気ディスプレーであって,少なくとも1枚が透明な2枚の非磁性体基板の間にマイクロカプセル層を塗設し,透明な基板側を表面とし,他の基板側を裏面とする構成は,本件特許出願前に周知の技術であったことが認められ,磁気ディスプレーである刊行物1記載の発明に,上記周知技術を適用することは,当業者が容易になし得たものと認められる。 (イ) 相違点(イ)について 相違点(イ)は,マイクロカプセルの種類に基づく相違,すなわち,磁気泳動タイプか磁気反転タイプかの違いに基づくものと認められるが,上記認定のとおり,磁気泳動タイプのマイクロカプセルは周知であって,この技術を,刊行物1記載の磁気ディスプレーに適用することは,当業者が容易になし得ることである。 (ウ) 相違点(ウ)について 証拠(乙1の8)によると,本件特許出願前に頒布された刊行物3の記載(とりわけ,「表示した模様を消去するには,基板(2)あるいは(3)の側から分散系に一様に磁界を作用させ磁性粉(6)を基板(2)ないし(3)のいずれかの表面に集めてしまえばよい。あるいは分散系に超音波などを照射して磁性粉(6)を分散媒(5)の中に一様に再分散させてもよい。」(2頁右上欄7〜13行)との記載)からすると,磁場の印加手法として,まず,裏面から一様に(全面的に)磁場を印加することによって,ディスプレーの表面を分散媒(光反射性非磁性粉)の反射色とし,次に,表面から局部的に磁場を印加することによって文字や像を形成することが,磁気泳動タイプの磁気ディスプレーにおける周知の手法であったことが認められる。 したがって,上記周知の手法は,刊行物1記載の発明の磁気ディスプレーを磁気泳動タイプとするに伴い当然に採用されるべき選択肢の一つであるものというべきである。 原告らは,刊行物3記載の発明は,マイクロカプセルを利用した発明ではなく,二枚の基板間を多数の小室に物理的に仕切ったものであるから,これを,マイクロカプセル利用の磁気表示板である刊行物1記載の発明に組み合わせるべき動機付けは全く存在しないと主張する。 しかし,上記認定に係る磁場の印加手法が,磁気泳動タイプの磁気ディスプレーにおける周知の手法である以上,これをマイクロカプセルを利用した磁気泳動タイプの磁気ディスプレーに適用できないとする理由はない。 ウ 以上によると,訂正発明1は,刊行物1記載の発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明することができたものと認められる。 また,訂正発明3は,訂正発明1に,磁場を印加する手段として永久磁石を用いる限定を加えたものであるが,前記認定のとおり,磁気ディスプレーにおけるこのような技術は周知の手段であると認められるから,訂正発明3についても,当業者が容易に発明することができたものと認められる。 (3) したがって,本件特許には,無効理由が存在することが明らかであるから,本件特許権に基づく差止め,損害賠償の請求は,いずれも権利の濫用に当たり許されないとするのが相当である。 2 よって,原告らの本訴請求は,いずれも理由がないから,これらを棄却することとし,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 森義之 |
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裁判官 | 男澤聡子 |
裁判官 | 岡口基一 |