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審判番号(事件番号) データベース 権利
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平成15ワ23943特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
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事件 平成 11年 (ワ) 25247号 特許権侵害差止等請求事件
原告 株式会社コンピュータ・テクニカ
訴訟代理人弁護士 松尾和子
同 富岡英次
補佐人弁理士 大塚文昭
同 竹内英人
被告 日本電気株式会社
訴訟代理人弁護士 花岡巖
同 新保克芳
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2001/09/28
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告は,別紙「原告物件目録」記載の物件を生産し,譲渡し,若しくは貸し渡し,又は譲渡若しくは貸渡しの申出をしてはならない。
2 被告は,別紙「原告物件目録」記載の物件及び仕掛品を廃棄せよ。
3 被告は,原告に対し,金5億円及びこれに対する平成11年11月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
本件は,情報伝送方式に関する特許権を有する原告が,被告に対し,被告によるファクシミリ及びファクシミリ,プリンタ,コピーの複合機の製造販売が原告の特許権の侵害に当たると主張して,その製造販売の差止め,損害賠償等を求める事案である。
1 争いのない事実 (1) 原告は,次の特許権(以下「本件特許権」といい,特許請求の範囲記載の発明を「本件発明」という。また,本件特許に係る明細書(別紙特許公報(甲第2号証)参照)を,「本件明細書」という。)を有している。
登録番号 特許第1690095号 発明の名称 情報伝送方式 出願日 昭和60年1月18日 (特願昭60-8180号) 公告日 平成3年8月12日 (特公平3-52704号) 登録日 平成4年8月27日 特許請求の範囲 「電話回線に接続されるモデムとコンピュータとの間に,前記コンピュータから送信されたデータ及び前記モデムを介して受信したデータをそれぞれ停電時にも蓄えておく信号送信用及び受信用の不揮発バッファメモリと,相手局の受信バッファ又は自局のコンピュータがデータを受け取る状態にあるときにデータを出力する伝送制御手段とを設け,データ送信時に,自局のコンピュータは自局の信号送信用不揮発バッファメモリに送信要求信号と相手局の電話番号と送信データとからなる信号を送信し,伝送制御手段は,自局の信号送信用不揮発バッファメモリに送信データがあるときには,相手局に対し,自局のアドレスを付けて前記電話回線を介してデータを相手局の信号受信用の不揮発バッファメモリに送信し,受信側の局のコンピュータは,受信側の受信用不揮発バッファメモリに対してデータが来ているかどうかを問い合わせ,来ているときはそのデータを引き取るという手順で情報を伝送することを特徴とする情報伝送方式。」 (2) 本件発明の構成要件を分説すると次のとおりである(下線部を挿入するかどうかについては,当事者間に争いがある。被告は,挿入することを主張し,原告は,挿入すべきでないと主張する。)。
ア 情報伝送方式であって,次のことを特徴とする。すなわち, イ 電話回線に接続されるモデムとコンピュータがあり,その間に,前記コンピュータから送信されたデータ及び前記モデムを介して受信したデータをそれぞれ停電時にも蓄えておく信号送信用及び受信用の不揮発バッファメモリを設けていること, ウ 電話回線に接続されるモデムとコンピュータがあり,その間に, 相手局の受信バッファ又は自局のコンピュータがデータを受け取る状態にあるときにデータを出力する伝送制御手段を設けていること, エ 自局のコンピュータは,データ送信時に,自局の信号送信用不揮発バッファメモリに送信要求信号と相手局の電話番号と送信データとからなる信号を送信すること, オ 伝送制御手段は,自局の信号送信用不揮発バッファメモリに送信データがあるときには,相手局に対し,自局のアドレスを付けて前記電話回線を介してデータを相手局の信号受信用の不揮発バッファメモリに送信し, カ 受信側の局のコンピュータは,受信側の受信用不揮発バッファメモリに対してデータが来ているかどうかを問い合わせ,来ているときはそのデータを引き取るという手順で情報を伝送すること。
(3) 被告は,型名「NEFAXH980」及び「NEFAX980」の各ファクシミリ並びに型名「MULTINAα1800」,「MULTINAα2500」及び「MULTINAα3500」の各ファクシミリ,プリンタ,コピーの複合機(以下これらを「被告製品」という。)を製造販売している。
2 争点 (1) 被告製品の特定 (2) 被告製品が構成要件アを充足するか。
(3) 被告製品が構成要件イを充足するか。
ア 電話回線に接続されるモデムとコンピュータがあるか。
イ データを停電時にも蓄えておく不揮発バッファメモリがあるか。
ウ 不揮発バッファメモリが電話回線に接続されるモデムとコンピュータとの間に設けられているか。
(4) 被告製品が構成要件ウを充足するか。
ア 相手局の受信バッファがデータを受け取る状態にあるときにデータを出力する伝送制御手段を設けているか。
イ 自局のコンピュータがデータを受け取る状態にあるときにデータを出力する伝送制御手段を設けているか。
(5) 被告製品が構成要件エを充足するか。
(6) 被告製品が構成要件オを充足するか。
(7) 被告製品が構成要件カを充足するか。
(8) 被告製品は公知技術実施か。
(9) 損害の発生及び額 3 争点に関する当事者の主張 (1) 争点(1)について 【原告の主張】 被告が製造販売している被告製品は,別紙「原告物件目録」記載のとおりである。
【被告の主張】 別紙「原告物件目録」記載の構成は不正確かつ不十分であり,別紙「原告物件目録(被告の認否)」中,下線を付した部分を否認し,( )内に注記を付した部分は,( )内の内容であることを前提として認め,その余は認める。
被告製品の構成は,別紙「被告物件目録」(一)ないし(三)記載のとおりである。
(2) 争点(2)について 【原告の主張】 被告製品は,本件発明の構成要件アを充足する。
【被告の主張】 本件発明の情報伝送方式で伝送される「情報」は,データであり,機種などを超えてコンピュータ相互が利用できるものである。
これに対し,被告製品のようなファクシミリ装置では,画情報が送受信されるだけであり,印字する以外には相互に利用できない。
したがって,被告製品は,本件発明の構成要件アを充足しない。
(3) 争点(3)アについて 被告製品に,電話回線に接続されるモデムがあることは当事者間に争いがない。
【原告の主張】 ア 本件明細書の特許請求の範囲では,「コンピュータ」という用語を,「パソコン」や「マイコン」とは区別して,それらの上位概念に当たるものとして使用している。
また,本件明細書の発明の詳細な説明において,「FAやOAシステムで用いられるマイコンやパソコン」と例示している(別紙特許公報3欄6行及び7行ほか)。
したがって,本件発明にいう「コンピュータ」は「パソコン」に限定されるものではない。
イ 本件発明の目的の一つは,データ伝送の処理が必要なマイコンやパソコンにおいて,主業務を担うメインのCPU又はこれを中心とする制御機構の負担を軽くすることにある。したがって,本件発明にいう「コンピュータ」とは,データ伝送以外の業務を主業務とするパソコン,マイコン等の機器において,その主業務を制御するCPU又はこれを中心とする制御機構を意味する。
ウ 被告製品(以下においては,「NEFAXH980」を例に主張するが,その主張は,他の被告製品についても同様に当てはまる。)は,本件発明にいう「コンピュータ」を備えている。すなわち,被告製品において,伝送制御以外のファクシミリの主業務(ファクシミリのユーザーが入力している原稿のスキャニング処理,ディスプレイへの表示,プリントアウト等のデータの出力処理等の業務)を制御するのは,別紙「被告製品における情報の流れにかかる説明書(1CPU)」及び別紙「被告製品における情報の流れにかかる説明書(2CPU)」並びに別紙「全体ブロック図」に示された,基板1の16ビットマイクロプロセッサ(CPU)及びそのバスに接続されるメインコントロールRAM(ワーク用RAM),マスクROM,LCDコントローラ,4ビット制御用マイコン(CPU)等の部分であり,これが本件発明の「コンピュータ」に該当する。
【被告の主張】 ア 本件発明は,別紙特許公報第1図及び第2図の点線で囲まれた構成を「パソコン」と「モデム」の間に設けるものであるから,本件発明にいう「コンピュータ」は,この「パソコン」のことであり,点線中の「CPU」などは本件発明の「コンピュータ」に当たらない。
イ 本件明細書に,「異メーカーや異機種のマイコン,パソコン間は,プロトコルが不統一であるので,直接接続はできない。そこで,データを一旦不揮発メモリに書き込んだらパソコンは別のJOBに移り,相手先のパソコンは相手先のバッファメモリに対してデータが来ているかどうかを問い合わせ,来ていれば引き取ることとする。これにより,パソコン相互,マイコン相互のプロトコルには無関係でデータの授受ができることになる。」(別紙特許公報4欄26行ないし35行)と記載されているとおり,本件発明の「コンピュータ」は,特定のプロトコルに則った情報のやりとりをしない。本件発明は,「コンピュータ」とは別に設けられた「不揮発バッファメモリ」と「伝送制御手段」にデータの送受信をさせるという具体的な解決手段によって,「コンピュータ」自身が通信プロトコルに従ったデータ送受信をしなくてすむようにしたものである。
一方,被告製品のようなファクシミリにおいては,送信側及び受信側の双方のファクシミリ,あるいはそのCPUが,通信プロトコルに則った情報のやりとりをリアルタイムで対話して行うものであるから,被告製品の制御回路(CPU,FCU,DRAM,BBRAM等)は本件発明の「コンピュータ」には該当しない。
(4) 争点(3)イについて 被告製品が,不揮発RAM8(画像用)及び不揮発RAM6(管理用)を備えていること,これらが不揮発メモリであることは,当事者間に争いがない。
【原告の主張】 ア 本件発明にいう「不揮発バッファメモリ」は,@自局のコンピュータが直ちにデータ処理を行える状況にない場合,又は,相手方のコンピュータに接続ができない場合に,受信したデータ又は送信のためのデータを一時保存できること,A伝送のための処理によりコンピュータの主業務に負担をかけることを防ぐものであること,B瞬間停電があっても,データの内容が壊れないこと,以上の要件を充たすものである。
イ 被告製品においては,送信時には画像データ及び電話番号を含む送信要求のデータを不揮発RAM8(画像用)及び不揮発RAM6(管理用)メモリに格納しながら送信することができ,電話回線が使用中であったり,相手局が話し中,あるいは処理繁忙の場合には,送信可能になってから,メモリに格納されていたデータが送信される。受信時には受信した画像データを不揮発RAM8(画像用)に格納しながら,同時に主業務コンピュータが読み出しつつプリントすることができ,用紙切れや用紙詰まりなど,記録系に障害が生じて受信内容を用紙に記録できない状態のときは,メモリに格納された受信データが,障害が除かれた後に,記録用紙に記録されることになる。したがって,被告製品における不揮発RAM8(画像用)及び不揮発RAM6(管理用)メモリは,上記アの各要件を充足する。
ウ よって,被告製品における不揮発RAM8(画像用)及び不揮発RAM6(管理用)は,「コンピュータから送信されたデータ及び前記モデムを介して受信したデータをそれぞれ停電時にも蓄えておく信号送信用及び受信用の不揮発バッファメモリ」に該当する。
【被告の主張】 被告製品において,CPUの処理速度と伝送処理諸装置の処理速度を同期するバッファ機能は,画像メモリ及び管理用メモリではなく,主メモリ(DRAM,メインコントロールRAM14)が担っている。画像メモリは,一旦データを保存し,必要な時に主メモリに書き出すものであり,CPUの処理のバッファとして随時,データの書込みや読出しを行うものではない。
したがって,被告製品における画像メモリ及び管理用メモリは,本件発明にいう「不揮発バッファメモリ」には該当しない。
(5) 争点(3)ウについて 【原告の主張】 ア 本件発明にいう「モデムとコンピュータとの間に」とは,本件のようなコンピュータを使用するシステムの発明にあっては,データの流れに着目して機能的にとらえるべきであり,物理的な位置関係の意味に限定して解すべきではない。
イ 本件発明において,伝送処理負担を主として行うのは,伝送制御手段であるところ,本件発明における「伝送制御手段」とは,特許請求の範囲に定義された「相手局の受信バッファ又は自局のコンピュータがデータを受け取る状態にあるときにデータを出力する」機能を有し,伝送処理以外のコンピュータの主業務をおろそかにすることなく,コンピュータの伝送処理の負担を軽減するものであればよく,特にその機能を実現するハードウェアは特定されていない。すなわち,コンピュータと伝送制御手段との区別は,機能的なものにすぎない。例えば,データ通信に不可欠な,授受するデータを通信プロトコルに従って相手方に単位データの受信が完了したかどうかを確認しながら順次伝送処理してゆくという最も負担の重い処理を,コンピュータの主業務から機能的に区別される方法で行うものであれば足りる。
ウ 多重プロセッサ(multiprocessor)は,二つ以上の独立した演算装置やそれに関係した制御論理を含んでいる中央処理装置であり,二つの全く独立した作業を行うことができる。このような中央処理装置の一方を伝送処理以外のコンピュータの主業務に,他方を伝送処理に充てれば,前者がコンピュータ,後者が伝送処理手段ということになり,後者は,前者に伝送処理負担をかけることなく,伝送処理を行うことができる。
時分割(time sharing)システムも,同一のCPUにおいて,一方の処理に負担をかけないで他方の処理を行うことができるシステムであり,この場合も一方を伝送処理以外のコンピュータの主業務に,他方を伝送処理に充てれば,後者は,前者に伝送処理負担をかけることなく,伝送処理を行うことができる。
したがって,これらのシステムを使用することにより,物理的にはコンピュータから独立した伝送制御手段を備えないように見える装置であっても,伝送処理がコンピュータの伝送処理以外の主業務とは独立して処理され,不揮発バッファメモリに蓄積されたデータを相手方の受信用バッファメモリ又は自局のコンピュータに伝送するものであり,従来の通信プロトコルに従った伝送処理を行うコンピュータに比べて,はるかに伝送処理の負担が軽減されているものであれば,本件発明のメールポスト方式を実施しているものということができる。
エ(ア) 被告製品は,別紙「原告物件目録」記載の構成を備え,その情報の流れは,同目録,別紙「全体ブロック図」,別紙「ブロック図」2及び3(2CPUのとき),別紙「ブロック図」4A及び4B(1CPUのとき)並びに別紙「被告製品における情報の流れにかかる説明書(1CPU)」及び「被告製品における情報の流れにかかる説明書(2CPU)」記載のとおりである。
(イ) 送信時 2CPUのときの送信時の信号の流れは,別紙「ブロック図」2のとおりである。
a 相手局の電話番号データを含む送信要求のデータは,主業務コンピュータ(CPU1)の制御により,メインコントロールRAM(ワーク用RAM)14に呼び出され,さらに主業務コンピュータ(CPU1)の制御により,不揮発RAM6(管理用)のメモリに格納される。
b 「メモリ入力送信」の機能が備えられ,送信原稿をセットして送信の操作をしたとき,主業務コンピュータ(CPU1)は送信原稿から読み取ったデータをメモリ(不揮発RAM8(画像用))に書き込みながら,伝送制御手段(CPU2)が読み出しながら送信し,電話回線が使用中であったり,相手局が話し中,あるいは処理繁忙の場合には,主業務コンピュータ(CPU1)が送信原稿をこのメモリに書き込んで保存し,送信可能になってから伝送制御手段(CPU2)により送信される。
c 各画像データには,各送信単位毎に受付順で番号が割り付けられる。自局のメモリ(不揮発RAM8(画像用))に送信データがあるときは,伝送制御手段により,受付番号順に,相手局に対して,自局の電話番号を付けてデータを相手局に送信する。
(ウ) 受信時 2CPUのときの受信時の信号の流れは,別紙「ブロック図」3のとおりである。
a 受信の際には,NCU及びモデムを介して受信したデータは,伝送制御手段(CPU2)の制御により,デュアルポートRAMを通らない別の経路により,セミカスタムLSIを介して,メモリ(不揮発RAM8(画像用))に格納される。
b 記録系に障害がない場合は,伝送制御手段(CPU2)が受信しながら,主業務コンピュータ(CPU1)の制御により,記録用紙に記録される。
c 用紙切れや用紙詰まりなど,記録系に障害が生じて受信データを用紙に記録(プリントアウト)できない状態のときでも,伝送制御手段のCPU2の制御により,受信データはメモリ(不揮発RAM8(画像用))に格納される。
d 同メモリに格納されたこの受信データは,用紙の補給をしたり紙詰まりを除去して障害を除いた後に,主業務コンピュータ(CPU1)の制御により,記録用紙に記録される。
(エ) これらの情報の流れの中で,(イ)a,b及び(ウ)b,dにおけるCPU1の制御はコンピュータの主業務を遂行しているものであるが,それ以外におけるCPU2の制御は,データの送受信に関する業務,すなわち伝送制御業務を遂行している。
1CPUの場合には,データの送受信に関する業務も,CPU1が遂行しているが,そのCPU1の制御は,主業務の遂行に関する制御の部分(コンピュータとして機能している部分)と,伝送制御業務に関する部分に分けることができ,一つのCPUを時分割により,二つ以上のCPUと同様の機能を果たさせているものである。
したがって,CPUの制御を,主業務の遂行に関する制御の部分(コンピュータとして機能している部分)と,伝送制御に関する部分に分けてその動作を見ると,画像データ並びに電話番号及び送信要求データは,主業務のコンピュータの制御を受けてメモリ(不揮発RAM8(画像用)及び不揮発RAM6(管理用))に書き込むまでの部分,それ以降のデータをメモリから読み出して行う伝送制御業務(送受信に関する業務)の遂行に関する制御を受けて流れる部分,及びモデムから電話回線に接続する部分とに分けることができ,データは,この順序又はその逆の順序で流れている。
また,メモリ(不揮発RAM8(画像用)及び不揮発RAM6(管理用))は,主業務コンピュータと伝送制御手段との間にあって,データを保管するものであるから,物理的にも「コンピュータとモデムとの間」に位置しているということができる。
オ 以上によると,被告製品の「不揮発バッファメモリ」として機能する不揮発RAM8(画像用)及び不揮発RAM6(管理用)は,「コンピュータ」と「モデム」の間に存在する。
【被告の主張】 ア 本件発明においては,データ送信時に自局のコンピュータは「不揮発バッファメモリ」にデータを送り,受信時には,「受信側の局のコンピュータは,受信側の受信用不揮発バッファメモリに対してデータが来ているかどうかを問い合わせ,来ているときはそのデータを引き取る」。したがって,「コンピュータ」は「不揮発バッファメモリ」とは全く別個の存在でなければならない。異機種間でもデータの伝送ができ,相手方のパソコンが生きていない場合(スタンバイしていない場合など)でも相手方の受信バッファまでは送信する(別紙特許公報4欄39行以下)ためには,「コンピュータ」と「不揮発バッファメモリ」が物理的に別であることが必要である(ただし,別の筐体に納められていることまで必要としない。)。
また,「伝送制御手段」についても,コンピュータの伝送処理負担を軽減するという本件発明の特徴から言って,「コンピュータ」と別であることが必要である。
本件発明においては,上記のように,「不揮発バッファメモリ」と「伝送制御手段」が「コンピュータ」と別であるからこそ,「モデム」と「コンピュータ」の「間に」設けているのである。
ところが,被告製品においては,仮に制御回路が「コンピュータ」に,画像メモリと管理用メモリが「不揮発バッファメモリ」にそれぞれ該当するとしても,主メモリと管理用メモリは,「コンピュータ」の内部にあるし,画像メモリは制御回路を経ないとモデムとのデータのやりとりができないので,いずれのメモリもモデムと「コンピュータ」の間には存在しない。
イ 原告が主張するように,コンピュータと伝送制御手段との区別を機能的なものにすぎないと解し,データ伝送という最も負担の重い処理を主業務と区別して行う機能を有するものであれば,多重プロセッサや時分割システムによるものでもよいとすると,「モデムとコンピュータの間に」,「不揮発バッファメモリ」と「伝送制御手段」を設けるという解決手段によって,コンピュータの伝送処理負担を軽減するという本件発明の特徴が全く無視されることになる。
ウ また,仮に,被告製品において,制御回路が「コンピュータ」に,画像メモリと管理用メモリが「不揮発バッファメモリ」にそれぞれ該当するとしたうえ,データの流れに着目して機能的に考えたとしても,画情報の流れは次のとおりであるから,モデムとコンピュータの間に「不揮発バッファメモリ」はない。
送信側では,画像メモリに格納された画情報と管理メモリに格納された電話番号データは,いずれも,主メモリ(メインコントロールRAM14)に書き込まれ,CPUの制御によりモデムに転送される。したがって,実際に送信される際の画情報の流れは,【画像メモリ→制御回路(CPU,主メモリ)→モデム】となる。
受信側では,別紙「被告物件目録(一)」第5項のとおり,制御回路が,モデムを介して受信したデータを主メモリに書き込み,そのデータが復号化された後SRAMに書き込まれ,さらにファイルコントローラで符号化されて画像メモリに格納される。したがって,実際に受信される際の画情報の流れは,【モデム→制御回路(CPU,主メモリ)→画像メモリ】となる。
エ 被告製品のようなファクシミリにおいては,伝送が主業務であるから,主業務と伝送制御を区別することはできない。
(6) 争点(4)アについて 【原告の主張】 被告製品は,別紙「原告物件目録」第1項(2)記載のとおり,電話回線が使用中であったり,相手局が話し中,あるいは処理繁忙の場合には,送信原稿がメモリに入力され,送信可能になってから送信される。そして,同目録第1項(4)記載の通信予約の機能により,コンピュータは,自局のメモリに送信データがあるときは,受付番号の順に,相手局に対して,自局の電話番号を付けてデータを相手局に送信する。
具体的には,送信先の電話番号データは,主業務コンピュータ(CPU1)の制御により,不揮発RAM6(管理用)から読み出され伝送制御手段に渡される。伝送制御手段が自動ダイヤルを実行し,電話回線が確立していること,相手局の伝送制御手段が受信用バッファメモリに書き込める体制が整っていることを確認する。
もし,電話回線が使用中であったり,相手局が話し中,あるいは処理繁忙の場合には,送信側の伝送制御手段はその旨をCPU1に回答し,一定時間経過後に再試行する。
相手局の伝送制御手段が受信用バッファメモリに書き込める体制が整っていることを確認できた場合には,送信側の伝送制御手段は,不揮発RAM8(画像用)から読み出されたデータをCODECで画像圧縮してモデムを介して相手方に送信する。
したがって,被告製品は,「相手局の受信バッファがデータを受け取る状態にあるときにデータを出力する伝送制御手段」を備えている。
【被告の主張】 被告製品においては,電話回線が使用中からそうでない状態に変わった場合にデータ送信されるにすぎず,送信側の伝送制御手段が,相手局の伝送制御手段が受信用バッファメモリに書き込める体制が整っていることを確認することはない。
したがって,被告製品には,本件発明の「相手局の受信バッファまたは自局のコンピュータがデータを受け取る状態にあるときにデータを出力する伝送制御手段」がない。
(7) 争点(4)イについて 【原告の主張】 被告製品は,別紙「原告物件目録」第1項(4)及び(5)記載のとおり,受信に際して,モデムを介して受信したデータは,伝送制御手段によりメモリに格納され,記録系に障害がない場合(すなわち,コンピュータが主業務であるデータの出力を命ずることができる状況にあるとき)は,受信の都度,伝送制御手段はメモリに格納し,同時に主業務コンピュータはメモリから読み出しながら,記録用紙に記録する。用紙切れや用紙詰まりなど,記録系に障害が生じて受信内容を用紙に記録できない状態のとき(すなわち,コンピュータが主業務であるデータの出力を命ずることができる状況にないとき)は,受信データはメモリに格納され,メモリに格納された受信データは,障害が除かれた後に,記録用紙に記録される。
また,主業務コンピュータ自体の処理が繁忙状態の際に,相手局から更に受信したデータも伝送制御手段によりメモリに格納され,繁忙状態解除後に(すなわち,主業務コンピュータがメモリからデータを受け取ることができる状態となったときに),引き続き受信データを自動的に記録用紙に出力する。
したがって,被告製品は,「自局のコンピュータがデータを受け取る状態にあるときにデータを出力する伝送制御手段」を備えている。
【被告の主張】 前記のとおり,被告製品には「コンピュータ」がないし,仮に制御回路を「コンピュータ」と呼ぶとしても,別に「伝送制御手段」は存在しない。
本要件は,構成要件カ「受信側の局のコンピュータは,受信側の受信用不揮発バッファメモリに対してデータが来ているかどうかを問合せ,来ているときはそのデータを引き取る」に対応して,不揮発バッファメモリからコンピュータにデータを送ることを出力と呼んでいる。
被告製品では,モデムを介して受信した画情報データは受信バッファとして利用される主メモリに書き込まれ,ファイルコントローラで蓄積用符号化方式の符号化をされて一旦画像メモリに格納されるが,格納された画情報データを印字することは,原告の主張によれば制御回路の主業務に他ならないから,不揮発バッファメモリからデータを印字部に送るのは主業務としての制御回路が行うことであって,伝送制御手段が行うことではない。
したがって,被告製品には,「自局のコンピュータがデータを受け取る状態にあるときにデータを出力する伝送制御手段」はない。
(8) 争点(5)について 【原告の主張】 被告製品は,別紙「原告物件目録」第1項(2)及び(3)記載の構成を有しており,具体的な情報の流れとしては,別紙「被告製品における情報の流れにかかる説明書(1CPU)」及び「被告製品における情報の流れにかかる説明書(2CPU)」各第二項1@ないしC記載のとおりである。
したがって,被告製品は,「自局のコンピュータは,データ送信時に,自局の信号送信用不揮発バッファメモリに送信要求信号と相手局の電話番号と送信データとからなる信号を送信する」ものであり,本件発明の構成要件エを充足する。
【被告の主張】 被告製品において,送信時に,送信要求信号と相手局の電話番号が管理メモリに,送信される画情報が画像メモリにそれぞれ格納されることは認める。
しかし,前記のとおり,被告製品には,「コンピュータ」も「不揮発バッファメモリ」もないから,被告製品は構成要件エを充足しない。
(9) 争点(6)について 【原告の主張】 被告製品は,別紙「原告物件目録」第1項(4)記載のとおり,メモリ入力通信機能に関連して通信予約の機能が備えられている。通信予約を管理するために,各送信単位毎に受付順で番号が割り付けられ,コンピュータは,自局のメモリに送信データがあるときは,受付番号の順に,相手局に対して,自局の電話番号を付けてデータを相手局に送信する。
具体的な情報の流れは,別紙「被告製品における情報の流れにかかる説明書(1CPU)」及び「被告製品における情報の流れにかかる説明書(2CPU)」各第二項1CないしF記載のとおりである。
相手局が,画像データをプリントアウトするときには,自局の電話番号がともに印刷されているから,自局の伝送制御手段は,自局の信号送信用不揮発バッファメモリに送信データがあるときには,相手局に対し,「自局のアドレスを付けて」前記電話回線を介してデータを相手局の信号受信用の不揮発バッファメモリに送信している。
したがって,被告製品は,「伝送制御手段は,自局の信号送信用不揮発バッファメモリに送信データがあるときには,相手局に対し,自局のアドレスを付けて前記電話回線を介してデータを相手局の信号受信用の不揮発バッファメモリに送信」するという構成を備えている。
【被告の主張】 ア 前記のとおり,被告製品には,「伝送制御手段」も「不揮発バッファメモリ」もない。
なお,原告は,被告製品について,「コンピュータは,自局のメモリに送信データがあるときには,受付番号の順に,相手局に対して,自局の電話番号を付けてデータを相手局に送信する」と主張するが,原告の主張ではコンピュータと伝送制御手段は別のはずであり,この主張は,そのような区別が被告製品に当てはまらないことを端的に示すものである。
イ 被告製品において,相手局が,画像データをプリントアウトするときには,自局の電話番号がともに印刷されているかどうかは明らかではない。
ウ 被告製品においては,相手側のファクシミリと対話しながら画情報を送り,受け取った後で相手側が画像メモリに格納しているのであるから,「電話回線を介してデータを相手局に送信し」ているにすぎず,「相手局の信号受信用不揮発バッファメモリに送信し」ているのではない。
エ したがって,被告製品は,構成要件オを充足しない。
(10) 争点(7)について 【原告の主張】 被告製品においては,別紙「原告物件目録」第1項(5)記載のとおり,モデムを介して受信したデータは,伝送制御手段により不揮発RAM8(画像用)に格納される。記録系に障害がない場合は,受信の都度,記録用紙に記録される。用紙切れや用紙詰まりなど,記録系に障害が生じて受信内容を用紙に記録できない状態のときには,不揮発RAM8(画像用)に格納された受信データは,用紙の補給をしたり紙詰まりを除去して障害を除いた後に,記録用紙に記録される。また,主業務のコンピュータの処理が繁忙状態の際に,相手局から更に受信したデータも伝送制御手段によりメモリに格納され,繁忙状態解除後に,引き続き自動的に記録用紙に出力される。
具体的な情報の流れは,別紙「被告製品における情報の流れにかかる説明書(1CPU)」及び「被告製品における情報の流れにかかる説明書(2CPU)」第一項1B及びC記載のとおりであり,CPU1は,不揮発RAM8(画像用)に受信データがきているか否かを問い合わせ,来ていれば,そのデータをメインコントロールRAM14に読み込み,プリンタコントローラを通じてプリンタに出力する。
したがって,被告製品は,「受信側の局のコンピュータは,受信側の受信用不揮発バッファメモリに対してデータが来ているかどうかを問い合わせ,来ているときはそのデータを引き取るという手順で情報を伝達すること」という要件を充足する。
【被告の主張】 ア 前記のとおり,被告製品には,「コンピュータ」も「不揮発バッファメ モリ」もない。
イ 被告製品のようなファクシミリでは,送信側から受信側へ通信プロトコルに従ってリアルタイムで対話しながら直接画情報が伝送される。被告製品においては,受信側の制御回路は,モデムを介して受信した画情報を主メモリに書き込み,主メモリから読み出された画情報は,通信用符号化方式で符号化された後SRAMに書き込まれ,ファイルコントローラで蓄積用符号化方式の符号化をされて画像メモリに格納される。すなわち,モデムを介して画情報が受信側に来た時点で,制御回路に入るので,画像メモリに対して「データが来ているかどうかを問い合わせ,来ているときはそのデータを引き取る」ということは全く行っていない。
ウ したがって,被告製品は,構成要件カを充足しない。
(11) 争点(8)について 【被告の主張】 ア 送受信された画情報を不揮発の記録媒体に保持するファクシミリ装置は公知である。
(ア) 本件特許出願前に刊行された「NEC技報」(乙第1号証)記載の「画像蓄積機能を有する複合PPCファクシミリ」は,固定ディスクを内蔵しており,この固定ディスクは,その中に記憶された情報が電源が落ちても失われない「不揮発性」である。
(イ) 不揮発のデータ蓄積装置として,磁気ディスク,バックアップ電源のあるICメモリ等が利用できることは周知の技術である(乙第5号証4欄11ないし17行)ところ,データの記憶場所として,ハードディスクを用いるかRAMを用いるかは,単なる設計上の問題にすぎない。
昭56ー20377号公開特許公報(乙第7号証)には,不揮発のデータ蓄積装置として,磁気ディスク,バックアップ電源のあるICメモリ等を利用できることが明記されている(4欄2ないし7行)。
(ウ) 本件特許の出願前に刊行された「RICOH TECHNICAL REPORT」(乙第4号証)記載の「テレテックス リコーEX5120」は,ワードプロセッサ機能,通信機能等を総合したテレテックス装置であるが,その通信制御装置のCCUはCPU,ROM,RAM等で構成されており,このCCUのRAMは不揮発バッファメモリである。
イ したがって,被告製品は公知の技術を使用しているにすない。
【原告の主張】 ア(ア) 本件発明における不揮発バッファメモリは,前記(4)【原告の主張】ア記載の@ないしBの要件を充たすものであるところ,ハードディスクは,通常,CPUとメインメモリとの処理速度の同期をとるために設けられているバッファメモリに使用されるRAMと比較して,アクセス時間が1000倍以上,場合により200万倍以上となるものであるから,Aの要件を充たさない。したがって,ハードディスクは,通常,「不揮発バッファメモリ」に含まれない。
(イ) 被告が主張する「テレテックス リコーEX5120」について,前記「RICOH TECHNICAL REPORT」(乙第4号証)には,「リコーEX5120では,受信メモリとして,SCU制御下のフロッピーディスクを採用している」ことが記載されており,受信用のメモリとして不揮発バッファメモリを使用しているものではないことは明らかである。
イ よって,被告製品が公知技術実施であるということはできない。
(12) 争点(9)について 【原告の主張】 被告は,遅くとも平成7年から被告製品を生産,譲渡しているが,現在までに販売した被告製品の売上高は,少なくとも290億円になる。
原告が本件特許権について受けるべき実施料率は,売上高の5パーセントを下らない。
したがって,原告は,被告に対し,売上高の290億円の5パーセントである14億5000万円を,自己が受けた損害の額として賠償請求し得るところ,このうち5億円の支払を求める。
【被告の主張】 原告の主張を争う。
当裁判所の判断
1 争点(4)について (1) 「伝送制御手段を設けていること」の意味について ア 原告は,本件発明における「伝送制御手段」とは,伝送処理以外のコンピュータの主業務をおろそかにすることなく,コンピュータの伝送処理の負担を軽減するものであればよく,その機能を実現するハードウェアは特定されていないと主張する。すなわち,コンピュータと伝送制御手段との区別は,機能的なものにすぎず,データ伝送という最も負担の重い処理を,コンピュータの主業務から機能的に区別される方法で行うものであれば,多重プロセッサ(multiprocessor)や時分割(time sharing)システム(以下これらを「多重処理」という。)のように,物理的にはコンピュータから独立した伝送制御手段を備えない装置であっても,「伝送制御手段を設けていること」という要件を充たすと主張する。
そこで,この点について検討するに,次に述べる理由により,本件発明にいう「コンピュータ」と「伝送制御手段」は,機能ではなく,ハードウェアによって定義されなければならず,「コンピュータ」とは別に独立のハードウェアとして「伝送制御手段」が設けられる必要があるというべきである。
(ア) 本件明細書には,本件発明が解決しようとする問題点として,「伝送処理負担を軽減すること FAやOAシステムで用いられるマイコンやパソコンは,各々の主業務を担っており,データ伝送のための処理を行なうと,主業務がおろそかになりがちであるが,本発明ではデータ伝送を負担なしで行ないたい。」(別紙特許公報3欄5行ないし10行)と記載され,これを解決するための手段として,「本発明は,電話回線に接続されるモデムとコンピュータとの間に,前記コンピュータから送信されたデータ及び前記モデムを介して受信したデータをそれぞれ停電時にも蓄えておく信号送信用及び受信用の不揮発バッファメモリと,相手局の受信バッファ又は自局のコンピュータがデータを受け取る状態にあるときにデータを出力する伝送制御手段とを設け」(別紙特許公報3欄34行ないし41行)ることが記載されている。
「伝送制御手段」が主業務を行うコンピュータとハードウェアを共通にしている場合には,当該ハードウェアがデータ伝送のための処理を行うことに変わりはないから,「伝送制御手段」を設けても当該ハードウェアの負担を軽減することにはならず,結局,「コンピュータ」の処理負担を軽減することはできない。
これは,多重処理の場合であっても同様であり,「伝送制御手段」が「コンピュータ」とハードウェアを共通にしている以上,当該ハードウェアの仕事量は変わらないのであって,通信を原因とする待ち時間を減少することで処理効率を上げて「コンピュータ」の処理を効率化することにはなっても,「コンピュータ」の処理負担を軽減することにはならない。
「コンピュータ」の処理負担を軽減するためには,「コンピュータ」のハードウェアの仕事量自体を減少させることが必須であり,不揮発バッファメモリを設けるのみならず,「コンピュータ」のハードウェアから独立した「伝送制御手段」を設けることによって始めて「コンピュータ」の処理負担を軽減することが可能になるというべきである。
また,原告が主張するように,コンピュータと伝送制御手段との区別をその機能にかからしめ,本件発明にいう「コンピュータ」を,主業務を制御するCPU又はこれを中心とする制御機構というというように機能から定義するならば,もともと「コンピュータ」が主業務ではないデータ伝送のための処理を行うことはないから,「コンピュータ」の「伝送処理負担を軽減する」ということ自体,あり得ないことになる。この点からいっても,原告の主張は採用できない。
(イ) 本件明細書には,本件発明が解決しようとする問題点として,「自由なシステム構成ができること 工場の生産システムは刻々と変化する。これに応じて,拡張,縮小変更が自由に行なえるばかりか,臨時的なデータ収集も可能なほどの自由度が欲しい。」(別紙特許公報3欄11行ないし15行)と記載されている。
この記載によると,本件発明の目的の一つとして,システム構築時に比してシステムの容量が増加し,主業務の業務量の増加に対応できるハードウェアに置き換える必要が生じた場合に,より自由なシステム変更を可能にするシステム構成が求められていると解される(別紙特許公報9欄37行ないし10欄2行参照)。
「伝送制御手段」や「不揮発バッファメモリ」のハードウェアが主業務を行う「コンピュータ」から独立していない場合には,これらをすべて変更しなければシステムの変更ができないのに対し,これらがハードウェアとして「コンピュータ」から独立している場合には,主業務を行うコンピュータのみを置き換えることでシステムの変更が可能となる。
したがって,システム変更の自由度を高めるという観点からも,「伝送制御手段」がハードウェアとして,「コンピュータ」から独立していることが前提とされている。
(ウ) 本件明細書には,本件発明が解決しようとする問題点として,「異メーカーや異機種のマイコンやパソコンが接続できること 伝送規約(プロトコル)が異メーカー,異機種でまちまちになっており,これらを直接接続することができない。そこで,使用言語が異なってもデータだけは間接的でよいから伝送したい。」(別紙特許公報3欄16行ないし22行)と記載され,これを解決するための手段として,「異メーカーや異機種のマイコン,パソコン間は,プロトコルが不統一であるので,直接接続はできない。そこで,データを一旦不揮発メモリに書き込んだらパソコンは別のJOBに移り,相手先のパソコンは相手先のバッファメモリに対してデータが来ているかどうかを問い合わせ,来ていれば引き取ることとする。これにより,パソコン相互,マイコン相互のプロトコルには無関係でデータの授受ができることになる。」(別紙特許公報4欄26行ないし35行)と記載されている。
この記載によると,本件発明の「コンピュータ」は,特定のプロトコルに基づくデータの授受をしないものと解される。すなわち,本件発明は,データの送受信を「コンピュータ」とは別に設けられた「不揮発バッファメモリ」と「伝送制御手段」が行うことにより,「コンピュータ」自体は,通信プロトコルに従ったデータの送受信をしなくてよいようにしたものであり,その結果,「コンピュータ」相互のプロトコルに関係なくデータの授受を可能にしたものである。
そうすると,この点からも,「伝送制御手段」がハードウェアとして,「コンピュータ」とは独立していることが本件発明の前提となっているということができる。
(エ) 本件明細書には,問題点を解決するための手段として,「停電や相手方のパソコンが生きていない(相手方のパソコンが別のJOBをしてる場合やスタンバイしていない場合など,データを受ける状態になっていない)場合でも,相手方の受信バッファまでは送信することにより,確実に保存するようにした。」(別紙特許公報4欄40行ないし5欄1行)という記載がある。
この記載及び弁論の全趣旨によると,相手方の「コンピュータ」が何らかの原因で「生きていない」,すなわちシステムエラー等何らかの原因でスタンバイしていない場合であっても,相手方の受信バッファまではデータを送信するためには,「コンピュータ」の稼働状態にかかわらず,「伝送制御手段」が機能することが必要であると認められる。
「コンピュータ」と「伝送制御手段」がハードウェアを共通にしていたとすると,「コンピュータ」にデータを受けることができなくなるようなトラブルが発生し,正常に動作しなくなっている場合には,「伝送制御手段」も動作しなくなる可能性が高い。このことは,多重処理の場合でも,同様であると考えられる。
したがって,相手方のパソコンが「生きていない」場合でも,相手方の受信バッファまでは送信することが可能であるためには,やはり,「伝送制御手段」がハードウェアとして,「コンピュータ」から独立していることが必要である。
(オ) 本件明細書には,「コンピュータ」の例示として,「マイコンやパソコン」があげられている(別紙特許公報3欄6行及び7行ほか)。そして,実施例(別紙特許公報5欄15行以下)においては,CPUなどからなる「伝送制御手段」が,「コンピュータ」であるパソコンとは別に設けられている。すなわち,「伝送制御手段」は,ハードウェアとして「コンピュータ」から独立している。
その他,本件明細書に,本件発明において,「コンピュータ」とは別に独立のハードウェアとして「伝送制御手段」が設けられる必要はなく,それらは,機能的に区別されていれば足りると解すべき記載は認められない。
(2) 1CPU構成の被告製品について 証拠(甲第12ないし第14号証,乙第8,第11号証)及び弁論の全趣旨によると,被告製品のうち,「MULTINAα1800」は一つのモデムしか使用できないこと,「MULTINAα2500」,「MULTINAα3500」,「NEFAX980」は,標準型では一つのモデムしか使用できないが,オプションで二つのモデムを使用できるマルチポート仕様にすることができること,「NEFAXH980」は,標準型で二つのモデムを使用することができること,二つのモデムが使用できる場合には,別紙「被告物件目録(二)」添付のブロック図でいう基板1のモデムを使用するか又は基板2のモデムを使用するかを使用者において選択できること,以上の事実が認められる。
したがって,原告が別紙「被告製品における情報の流れにかかる説明書(1CPU)」に記載している被告製品は,「MULTINAα1800」及び他の被告製品のうち基板1のモデムを使用したものとなる。
これらの被告製品において,一つのCPUが主業務と伝送制御の両方に兼用されていることは当事者間に争いがないから,これらの被告製品は,「コンピュータ」からハードウェアとして独立した「伝送制御手段」を設けているということはできない。
よって,これらの被告製品は,本件発明の構成要件ウにいう「伝送制御手段を設けていること」という要件を充足しない。
(3) 2CPU構成の被告製品について ア 前記認定の事実によると,原告が別紙「被告製品における情報の流れにかかる説明書(2CPU)」に記載している被告製品は,「MULTINAα1800」を除く被告製品のうち基板2のモデムを使用したものとなる。
イ これらの被告製品には,主業務を行う「コンピュータ」である基板1上のCPU(以下「CPU1」という。)とは別に,ハードウェアとして独立した基板2上のCPU(以下「CPU2」という。)が存し,このCPU2が伝送制御に関与していることは,当事者間に争いがない。
ウ 原告は,2CPU構成の被告製品については,別紙「被告製品における情報の流れにかかる説明書(2CPU)」記載のとおり,CPU1が主業務を,CPU2が伝送制御を担っており,CPU1は伝送制御には関与せず,CPU2は主業務に関与しない旨主張する。確かに,これらの被告製品が原告の主張するとおりのものであれば,本件発明のいう「伝送制御手段」に該当するCPU2を設けていることになるので,以下検討する。
甲第21,第22号証によると,画像データは,別紙「ブロック図」2及び3記載のとおり,デュアルポートRAMとCPUバスを通らずに流れていることが認められる。しかし,弁論の全趣旨によると,データがデュアルポートRAMとCPUバスを通らなくとも,伝送についてCPU1の制御を受けることがあり得るものと認められるから,デュアルポートRAMとCPUバスを通らないことが直ちに,CPU1が画像データの伝送を制御していないということはできないというべきである。
甲第23号証及び乙第11号証によると,送受信中の100マイクロ秒間を観測した場合には,CPU1が動作しておらず,CPU2が動作していることが観測されること,送受信中の20ミリ秒間を観測した場合には,CPU1が動作していることが観測されることが認められる。以上のとおり,少なくとも,20ミリ秒間を観測した場合には,CPU1が動作していることが観測される以上,100マイクロ秒間にCPU1の動作が観測されなかったからといって,直ちにCPU1が伝送制御に関与していないと認めることはできない。
被告は,2CPU構成の被告製品において,伝送制御に当たり,CPU1は,ファイルコントローラを制御していると主張する。原告は,これを争うが,2CPU構成の被告製品において,伝送制御に当たり,CPU1は,ファイルコントローラを制御していないことを認めるに足りる証拠はない。乙第11号証の実験は,被告製品において,送受信中にCPU1が動作していることを示すことを目的としてされた実験であって,CPU1がファイルコントローラを制御しているかどうかを確認するための実験ではなく,また,CPU1が画像メモリの書込み,読出し動作といかなる相関関係をもって動作していればファイルコントローラを制御しているものと認められるのかについての証拠も存しないから,同号証を根拠として,CPU1がファイルコントローラを制御していないことを認めることもできない。
以上によると,CPU1が伝送制御に関与しないということを認めることはできず,2CPU構成の被告製品について,主業務を担っているCPU1が伝送制御には関与しないという原告の前記主張は採用できない。なお,この点について,裁判所は,弁論準備手続期日において,原告に対して,CPU1が伝送制御に関与しない証拠を提出するのであれば,早急に提出するよう求め,提出する十分な機会を与えたが,結局以上のとおり提出されなかったものである。
よって,これらの被告製品が原告主張の構成を備えていると認めることはできないから,その構成を前提として,被告製品が本件発明の構成要件を充足するとする原告の主張も認められない。
エ なお,念のため,2CPU構成の被告製品において,CPU1が伝送制御の一部に関与している場合に,CPU2が本件発明にいう「伝送制御手段」たり得ないことについて補足する。
前記(1)記載のとおり,本件明細書には,「本発明ではデータ伝送を負担なしで行ないたい。」(別紙特許公報3欄9行及び10行),「相手方のパソコンが生きていない(相手方のパソコンが別のJOBをしてる場合やスタンバイしていない場合など,データを受ける状態になっていない)場合でも,相手方の受信バッファまでは送信する」(別紙特許公報4欄40行ないし44行)といった記載がある。しかるところ,たとえ一部でも伝送制御に主業務の「コンピュータ」が関与するとなると,@主業務の「コンピュータ」における伝送の負担は減少してもゼロにはならない,A相手方の「コンピュータ」が「生きていない」場合に,伝送制御において必要な「コンピュータ」の関与部分が実行できないため,相手方の受信バッファまで送信することができないことになる。
したがって,本件発明にいう「伝送制御手段」は,「コンピュータ」からハードウェアとして独立していることは勿論,「コンピュータ」の部分的な関与も必要としないような完全な独立が求められるものと解される。
よって,2CPU構成の被告製品が,CPU1が伝送制御の一部にでも関与しているのであれば,本件発明にいう「伝送制御手段」を設けるという要件を充足しない。
2 以上によると,その余の点を判断するまでもなく,原告の本訴請求は,いずれも理由がないから,これらを棄却することとし,主文のとおり判決する。
追加
別紙原告物件目録1被告製品は以下の構成を有する。すなわち,(1)被告製品は,コンピュータを備え,このコンピュータの制御により電話回線を介して相手局との間で情報データの送信及び受信を行うように機能する情報伝送機能を備えたファクシミリ装置である。電話回線への接続のためにモデムを備え,このモデムを介して相手局とのデータの送受信を行う。
(2)送受信データを一時的に蓄積するためにメモリが備えられる。すなわち,送信のためには「メモリ入力送信」の機能が備えられ,送信原稿をセットして送信の操作をしたとき,送信原稿から読み取ったデータをメモリに入力しながら送信することができる。電話回線が使用中であったり,相手局が話し中,あるいは処理繁忙の場合には,送信原稿がこのメモリに入力され,送信可能になってから送信される。
(3)送信操作のために,操作パネルが設けられ,この操作パネルに,相手局の電話番号を入力するためのダイヤルボタン,送信開始要求のためのスタートボタン,送信停止のためのストップボタンなどが配置されている。送信操作は,送信原稿をセットして相手局の電話番号を入力し,スタートボタンを操作することにより行われる。したがって,メモリには,送信原稿から読み取った送信用の情報データに加えて,相手局の電話番号データ及び送信要求の信号も送られる。
(4)メモリ入力通信機能に関連して通信予約の機能が備えられる。通信予約を管理するために,各送信単位毎に受付順で番号が割り付けられる。コンピュータは,自局のメモリに送信データがあるときは,受付番号の順に,相手局に対して,自局の電話番号を付けてデータを相手局に送信する。
(5)受信に際しては,モデムを介して受信したデータは,メモリに格納される。
記録系に障害がない場合は,受信の都度,記録用紙に記録される。用紙切れや用紙詰まりなど,記録系に障害が生じて受信内容を用紙に記録できない状態のときは,受信データはメモリに保持される。メモリに保持されたこの受信データは,用紙の補給をしたり紙詰まりを除去して障害を除いた後に,記録用紙に記録されることになる。また,コンピュータの処理が繁忙状態の際に,相手局から更に受信したデータもメモリに格納され,繁忙状態解除後に,引き続き受信データを自動的に記録用紙に出力する。
(6)このメモリにはバックアップ用の電池又は蓄電コンデンサが備えられており,電源を切った状態でも所定の時間内は,メモリに蓄積されたデータが保存されるようになった不揮発性機能のものである。
2被告製品には,型名「NEFAXH980」及び「NEFAX980」の各ファクシミリ,並びに,型名「MULTINAα1800」,「MULTINAα2500」及び「MULTINAα3500」の各ファクシミリ,プリンタ,コピー複合機が含まれる。
以上別紙原告物件目録(被告の認否)1被告製品は以下の構成を有する。すなわち,(1)被告製品は,コンピュータを備え,このコンピュータの制御により電話回線を介して相手局との間で情報データの送信及び受信を行うように機能する情報伝送機能を備えたファクシミリ装置である。電話回線への接続のためにモデムを備え,このモデムを介して相手局とのデータの送受信を行う。
(2)送受信データを一時的に蓄積するためにメモリが備えられる。すなわち,送信のためには「メモリ入力送信」の機能が備えられ,送信原稿をセットして送信の操作をしたとき,送信原稿から読み取ったデータをメモリに入力しながら送信することができる。電話回線が使用中であったり,相手局が話し中,あるいは処理繁忙の場合には,送信原稿がこのメモリに入力され,送信可能になってから送信される。
(3)送信操作のために,操作パネルが設けられ,この操作パネルに,相手局の電話番号を入力するためのダイヤルボタン,送信開始要求のためのスタートボタン,送信停止のためのストップボタンなどが配置されている。送信操作は,送信原稿をセットして相手局の電話番号を入力し,スタートボタンを操作することにより行われる。したがって,メモリには,送信原稿から読み取った送信用の情報データに加えて,相手局の電話番号データ及び送信要求の信号も送られる。
(4)メモリ入力通信機能に関連して通信予約の機能が備えられる。通信予約を管理するために,各送信単位毎に受付順で番号が割り付けられる。コンピュータは,自局のメモリに送信データがあるときは,受付番号の順に,相手局に対して,自局の電話番号を付けてデータを相手局に送信する。
(5)受信に際しては,モデムを介して受信したデータは,メモリに格納される。記録系に障害がない場合は,受信の都度,記録用紙に記録される。用紙切れや用紙詰まりなど,記録系に障害が生じて受信内容を用紙に記録できない状態のときは,受信データはメモリに格納される。メモリに格納されたこの受信データは,用紙の補給をしたり紙詰まりを除去して障害を除いた後に,記録用紙に記録されることになる。また,コンピュータの処理が繁忙状態の際に,相手局から更に受信したデータもメモリに格納され,繁忙状態解除後に,引き続き受信データを自動的に記録用紙に出力する。
(6)このメモリにはバックアップ用の電池又は蓄電コンデンサが備えられており,電源を切った状態でも所定の時間内は,メモリに蓄積されたデータが保存されるようになった不揮発性機能のものである。
2被告製品には,型名「NEFAXH980」及び「NEFAX980」の各ファクシミリ,並びに,型名「MULTINAα1800」,「MULTINAα2500」及び「MULTINAα3500」の各ファクシミリ,プリンタ,コピー複合機が含まれる。
以上別紙被告物件目録(一)下記の構成を有する装置(NEFAX980,NEFAXH980で基板1のモデム使用時)1制御回路(図1の点線で囲む範囲)を備え,この制御回路の制御により電話回線を介して相手局との間で情報データの送信及び受信を行う情報伝送機能を備えたファクシミリ装置である。電話回線への接続のためにモデムを備え,このモデムを介して相手局とのデータの送受信を行う。
2送受信データをいったん蓄積するために画像メモリが備えられている。制御回路のファイルコントローラが画像メモリの制御を行う。送信は「メモリ送信」の機能により行われる。
3送信操作のために,操作パネルが設けられ,この操作パネルに,相手局の電話番号を入力するためのダイヤルボタン,送信開始要求のためのスタートボタンなどが配置されている。送信操作は,送信原稿をセットして相手局の電話番号を入力し,スタートボタンを操作することにより行われる。
送信操作が行われると,制御回路の制御によりスキャナが送信原稿を読み取り,その画情報データは,ファイルコントローラで蓄積用符号化方式で符号化されて画像メモリに蓄積される。また,制御回路の制御により,相手局の電話番号データを含む発呼要求のデータは管理用メモリに格納される。
画像メモリへ送信原稿一頁分の記憶を終了すると,制御回路は,自局が回線を使用していなければ相手局の電話番号データを管理用メモリから読み出して回線に送出した後,相手局が回線を使用していなければ回線が接続され,ITU―Tに準拠した規約による手順で交信する。交信の結果,相手局が受信可能な状態であることが確認できた場合,制御回路は,管理用メモリから自局の電話番号データを主メモリに読み出し画情報データに変換して主メモリに書き込み,さらにSRAMに書き込む。制御回路は,画像メモリに記憶された画情報データをファイルコントローラで蓄積用符号化方式で復号化して読み出しSRAMに書き込む。
このようにしてSRAMに書き込まれた画情報データは,CODECでITU―Tに準拠した規約に従って通信用符号化方式で符号化された後主メモリに書き込まれ,次に主メモリを送信バッファとして利用してモデムに転送され,モデムに転送された画情報データは制御回路の制御のもとにITU―Tに準拠した規約に従って相手局に送信される。
4送信できなかった場合,相手局の電話番号データを含む発呼要求のデータは,管理用メモリに,送信原稿の画情報は画像メモリにそれぞれ保持される。リダイヤル機能によって,各メモリに保持されたデータが主メモリに読み出されて再度送信が行われる。
5受信に際して,制御回路は,モデムを介して受信したデータを受信バッファとして利用される主メモリに書き込む。主メモリから読み出されたデータは,CODECでITU―Tに準拠した規約に従って通信用符号化方式で復号化された後SRAMに書き込まれる。SRAMに書き込まれたデータは,ファイルコントローラで蓄積用符号化方式の符号化をされていったん画像メモリに格納される。
制御回路は,画像メモリにいったん格納したデータを,記録系に障害がない場合には,受信の都度ファイルコントローラで蓄積用符号化方式の復号化をしてプリンタに出力し,プリンタはそれを記録用紙に記録する。
用紙切れや用紙詰まりなど,記録系に障害が生じて受信内容を用紙に記録できない状態のときは,受信データは画像メモリに保持される。プリンタは自身が記録ができる状態であるか記録できない状態であるかを制御回路のメカコントローラに表示し,制御回路はその表示を確認して,プリンタが記録できない状態であるときは記録動作を開始しない。画像メモリに保持されたこの受信データは,用紙の補給をしたり紙詰まりを除去して障害を除いた後に,記録用紙に記録されることになる。
なお,装置に電源が入っていない場合にメモリ受信を行うことができない。
6主メモリおよびSRAMはバックアップされておらず,電源を切れば,データは失われる。画像メモリ及び管理用メモリは電池によりバックアップされており,電源を切った状態でも所定の時間内は蓄積されたデータが保存される。
以上図1別紙被告物件目録(二)下記の構成を有する装置(2CPUを備えるNEFAX980,NEFAXH980で,基板2のモデム使用時)1基板1および基板2に制御回路(図の点線で囲む範囲)を備え,これらの制御回路の制御により電話回線を介して相手局との間で情報データの送信及び受信を行う情報伝送機能を備えたファクシミリ装置である。電話回線への接続のためにモデムを備え,このモデムを介して相手局とのデータの送受信を行う。
2送受信データをいったん蓄積するために画像メモリが備えられている。基板1の制御回路は,ファイルコントローラを介して画像メモリの制御を行う。送信は「メモリ送信」の機能により行われる。
3送信操作のために,操作パネルが設けられ,この操作パネルに,相手局の電話番号を入力するためのダイヤルボタン,送信開始要求のためのスタートボタンなどが配置されている。送信操作は,送信原稿をセットして相手局の電話番号を入力し,スタートボタンを操作することにより行われる。
送信操作が行われると,基板1の制御回路の制御によりスキャナが送信原稿を読み取り,その画情報データは,ファイルコントローラで蓄積用符号化方式で符号化されて画像メモリに蓄積される。また,基板1の制御回路の制御により,相手局の電話番号データを含む発呼要求のデータは管理用メモリに格納される。
画像メモリへ送信原稿一頁分の記憶を終了すると,基板1の制御回路は,基板2の制御回路により書き込まれた状態データをデュアルポートRAMから読み出して状態を確認し,その結果自局が回線を使用していなければ相手局の電話番号データを管理用メモリから読み出しデュアルポートRAMへ書き込む。基板2の制御回路は,デュアルポートRAMに書き込まれた相手局の電話番号データを読み出し,基板2の主メモリを介して回線に送出した後,相手局が回線を使用していなければ回線が接続され,ITU―Tに準拠した規約による手順で交信する。交信の結果,相手局が受信可能な状態であることが確認できた場合,基板1の制御回路は,管理用メモリから自局の電話番号データを基板1の主メモリを介してデュアルポートRAMに書き込む。基板2の制御回路は自局の電話番号データをデュアルポートRAMから基板2の主メモリに読み出し画情報データに変換して基板2の主メモリに書き込み,さらに基板2のSRAMに書き込む。基板1の制御回路は,画像メモリに記憶された画情報データをファイルコントローラで蓄積用符号化方式で復号化して読み出し基板2のSRAMに書き込む。
このようにして基板2のSRAMに書き込まれた画情報データは,基板2のCODECでITU―Tに準拠した規約に従って通信用符号化方式で符号化された後基板2の主メモリに書き込まれ,次に基板2の主メモリを送信バッファとして利用してモデムに転送され,モデムに転送された画情報データは基板2の制御回路の制御のもとにITU―Tに準拠した規約に従って相手局に送信される。
4送信できなかった場合,相手局の電話番号データを含む発呼要求のデータは,管理用メモリに,送信原稿の画情報は画像メモリにそれぞれ保持される。リダイヤル機能によって,各メモリに保持されたデータが基板2の主メモリに読み出されて再度送信が行われる。
5受信に際して,基板2の制御回路は,モデムを介して受信したデータを受信バッファとして利用される基板2の主メモリに書き込む。基板2の主メモリから読み出されたデータは,基板2のCODECでITU―Tに準拠した規約に従って通信用符号化方式で復号化された後基板2のSRAMに書き込まれる。基板2のSRAMに書き込まれたデータは,基板1の制御回路の制御により,ファイルコントローラで蓄積用符号化方式の符号化をされていったん画像メモリに格納される。
基板1の制御回路は,画像メモリにいったん格納したデータを,記録系に障害がない場合には,受信の都度ファイルコントローラで蓄積用符号化方式の復号化をしてプリンタに出力し,プリンタはそれを記録用紙に記録する。
用紙切れや用紙詰まりなど,記録系に障害が生じて受信内容を用紙に記録できない状態のときは,受信データは画像メモリに保持される。プリンタは自身が記録ができる状態であるか記録できない状態であるかを基板1の制御回路のメカコントローラに表示し,基板1の制御回路はその表示を確認して,プリンタが記録できない状態であるときは記録動作を開始しない。画像メモリに保持されたこの受信データは,用紙の補給をしたり紙詰まりを除去して障害を除いた後に,記録用紙に記録されることになる。
なお,装置に電源が入っていない場合にメモリ受信を行うことができない。
6基板1の主メモリ,基板2の主メモリおよびSRAMはバックアップされておらず,電源を切れば,データは失われる。画像メモリ及び管理用メモリは電池によりバックアップされており,電源を切った状態でも所定の時間内は蓄積されたデータが保存される。
以上図別紙被告物件目録(三)下記の構成を有する装置(MULTINAα1800,2500,3500)1制御回路(図2の点線で囲む範囲)を備え,この制御回路の制御により電話回線を介して相手局との間で情報データの送信及び受信を行う情報伝送機能を備えたファクシミリ装置である。電話回線への接続のためにモデムを備え,このモデムを介して相手局とのデータの送受信を行う。
2送受信データをいったん蓄積するために画像メモリが備えられている。制御回路のファイルコントローラが画像メモリの制御を行う。送信は「メモリ送信」の機能により行われる。
3送信操作のために,操作パネルが設けられ,この操作パネルに,相手局の電話番号を入力するためのダイヤルボタン,送信開始要求のためのスタートボタンなどが配置されている。送信操作は,送信原稿をセットして相手局の電話番号を入力し,スタートボタンを操作することにより行われる。
送信操作が行われると,制御回路の制御によりスキャナが送信原稿を読み取り,その画情報データは,ファイルコントローラで蓄積用符号化方式で符号化されて画像メモリに蓄積される。また,制御回路の制御により,相手局の電話番号データを含む発呼要求のデータは管理用メモリに格納される。
画像メモリへ送信原稿一頁分の記憶を終了すると,制御回路は,自局が回線を使用していなければ相手局の電話番号データを管理用メモリから読み出して回線に送出した後,相手局が回線を使用していなければ回線が接続され,ITU―Tに準拠した規約による手順で交信する。交信の結果,相手局が受信可能な状態であることが確認できた場合,制御回路は,管理用メモリから自局の電話番号データを主メモリに読み出し画情報データに変換して主メモリに書き込む。制御回路は,画像メモリに記憶された画情報データをファイルコントローラで蓄積用符号化方式で復号化して読み出し主メモリに書き込む。
このようにして主メモリに書き込まれた画情報データは,制御回路でITU―Tに準拠した規約に従って通信用符号化方式で符号化された後再び主メモリに書き込まれる。次に主メモリを送信バッファとして利用してモデムに転送され,モデムに転送された画情報データは制御回路の制御のもとにITU―Tに準拠した規約に従って相手局に送信される。
4送信できなかった場合,相手局の電話番号データを含む発呼要求のデータは,管理用メモリに,送信原稿の画情報は画像メモリにそれぞれ保持される。リダイヤル機能によって,各メモリに保持されたデータが主メモリに読み出されて再度送信が行われる。
5受信に際して,制御回路は,モデムを介して受信したデータを受信バッファとして利用される主メモリに書き込む。主メモリから読み出されたデータは,制御回路でITU―Tに準拠した規約に従って通信用符号化方式で復号化された後再び主メモリに書き込まれる。主メモリに書き込まれたデータは,ファイルコントローラで蓄積用符号化方式の符号化をされていったん画像メモリに格納される。
制御回路は,画像メモリにいったん格納したデータを,記録系に障害がない場合には,受信の都度ファイルコントローラで蓄積用符号化方式の復号化をしてプリンタに出力し,プリンタはそれを記録用紙に記録する。
用紙切れや用紙詰まりなど,記録系に障害が生じて受信内容を用紙に記録できない状態のときは,受信データは画像メモリに保持される。プリンタは自身が記録ができる状態であるか記録できない状態であるかを制御回路のファイルコントローラに表示し,制御回路はその表示を確認して,プリンタが記録できない状態であるときは記録動作を開始しない。画像メモリに保持されたこの受信データは,用紙の補給をしたり紙詰まりを除去して障害を除いた後に,記録用紙に記録されることになる。
なお,装置に電源が入っていない場合にメモリ受信を行うことができない。
6主メモリはバックアップされておらず,電源を切れば,データは失われる。画像メモリ及び管理用メモリは電池によりバックアップされており,電源を切った状態でも所定の時間内は蓄積されたデータが保存される。
以上図別紙被告製品における情報の流れにかかる説明書(1CPU)一1受信の際,被告製品において,画像データ等の情報は次の通り流れる(本説明書添付の受信図@ないしC。)。
@受信の際,NCU(全体ブロック図にのみ図示),モデムを介して受信した画像データは,CPU1の制御により,メインコントロールRAM14に書き込まれる。
(上記のCPU1及びメインコントロールRAM14は,明細書に記載されたコンピュータの主業務(ユーザーが入力しているデータの処理,ディスプレイへの表示・プリントアウト等のデータの出力処理。以下「前記主業務」という。)を担っておらず,情報の伝送を制御するための機能(以下「伝送制御機能」という。)を担っている。)AメインコントロールRAM14に書き込まれた画像データはCPU1の制御により,蓄積用符合化方式の符合化をされて,セミカスタムLSI11(D65658GDE44,全体ブロック図にのみ図示)を介して,不揮発RAM8(画像用)に格納される。
(上記のCPU1,メインコントロールRAM14は,前記主業務を担っておらず,伝送制御機能を担っている。)B不揮発RAM8(画像用)に格納された画像データは,CPU1の制御により,セミカスタムLSI11(D65658GDE44)を介して,メインコントロールRAM14に再度読み出される。
(なお,この時点におけるCPU1,メインコントロールRAM14は,明細書に記載されたコンピュータの主業務を担っている。)CメインコントロールRAM14の画像データは,CPU1の制御により,プリントコントローラを通じてプリンタに出力され,プリンタはそれを記録用紙に記録する。
(上記のCPU1及びメインコントロールRAM14,前記主業務を担っている。)2以上のように,受信時に,モデムを介して受信した画像データは,伝送制御の機能を担うメインコントロールRAM14,不揮発RAM8(画像用),前記主業務を担うメインコントロールRAM14,プリントコントローラと流れ,プリントアウトされる。
二1送信の際,被告製品において,画像データ等の情報は次の通り流れる(本説明書添付の送信図@ないしF)。
@送信操作が行われると,CPU1の制御により,スキャナが送信原稿を読み取り,その画像データは,セルベースゲートアレイ(全体ブロック図にのみ図示)を介して,メインコントロールRAM14に読み出される。
(上記のCPU1及びメインコントロールRAM14は,前記主業務を担っている。)AメインコントロールRAM14の画像データは,CPU1の制御により,セミカスタムLSI11(D65658GDE44)を介して,不揮発RAM8(画像用)に蓄積される。
(上記のCPU1及びメインコントロールRAM14は,前記主業務を担っている。)B送信操作の際に入力された相手局の電話番号データを含む発呼要求のデータは,CPU1の制御により,メインコントロールRAM14に読み出される。
(上記のCPU1及びメインコントロールRAM14は,前記主業務を担っている。)CメインコントロールRAM14に読み出された相手局の電話番号データを含む発呼要求のデータは,CPU1の制御により,不揮発RAM(管理用)のメモリに格納される。
(上記のCPU1及びメインコントロールRAM14は,前記主業務を担っている。)DCPU1の制御により,自局の電話番号データは,不揮発RAM6(管理用)からメインコントロールRAM14に読み出され,画像データに変換されてメインコントロールRAM14に書き込み,相手局が受信可能な状態であることを確認する。
(上記のCPU1及びメインコントロールRAM14は,前記主業務を担っておらず,伝送制御機能を担っている。)E不揮発RAM8(画像用)に記憶された画像データは,CPU1の制御により,セミカスタムLSI11(D65658GDE44)を介して,メインコントロールRAM14に書き込まれる。
(上記のCPU1及びメインコントロールRAM14は,前記主業務を担っておらず,伝送制御機能を担っている。)FメインコントロールRAM14に書き込まれた画像データは,CPU1の制御により,デュアルポートRAM(全体ブロック図にのみ図示)を介して,モデムに転送され,NCU(全体ブロック図にのみ図示)を介して,相手局に送信される。
(上記のCPU1及びメインコントロールRAM14は,前記主業務を担っておらず,伝送制御機能を担っている。)2以上のように,送信時にスキャナから読み取られた画像データは,前記主業務を担うコントロールRAM14,不揮発RAM8,伝送制御のための機能を担うメインコントロールRAM14と流れ,モデムから送信される。
以上原告ブロック図(送信)原告ブロック図(受信)別紙被告製品における情報の流れにかかる説明書(2CPU)(2CPUの場合には,1CPUの場合と比べて二つの電話回線と接続できるようになっている。一つの電話回線と接続する場合には,1CPUの場合と情報の流れは全く同一であるから,ここでは省略し,他方の電話回線と接続する場合の情報の流れのみをここで説明する。)一1受信の際,被告製品において,画像データ等の情報は次の通り流れる(本説明書添付の受信図@ないしC)。
@受信の際,NCU(全体ブロック図にのみ図示),モデムを介して受信した画像データは,サブCPU2の制御により,サブコントロールRAM(全体ブロック図の「ワーク用RAM」)に書き込まれる。
(上記のサブCPU2,サブコントロールRAMは,明細書に記載されたコンピュータの主業務(ユーザーが入力しているデータの処理,ディスプレイへの表示・プリントアウト等のデータの出力処理。以下「前記主業務」という。)を担っておらず,伝送を制御する機能(以下「伝送制御機能」という。)を担っている。)AサブコントロールRAMに書き込まれた画像データはサブCPU2の制御により,蓄積用符合化方式の符合化をされて,セミカスタムLSI11(D65658GDE44,全体ブロック図にのみ図示)不揮発RAM8(画像用)に格納される。
(上記のサブCPU2,サブコントロールRAMは,前記主業務を担っておらず,伝送制御機能を担っている。)B不揮発RAM8(画像用)に格納された画像データは,CPU1の制御により,前記セミカスタムLSI11(D65658GDE44を介してメインコントロールRAM14に再度読み出される。
(上記のCPU1,メインコントロールRAM14は,前記主業務を担っている。)CメインコントロールRAM14の画像データは,CPU1の制御により,プリンタコントローラを通じてプリンタに出力され,プリンタコントローラはそれを記録用紙に記録する。
(上記のCPU1,メインコントロールRAM14,プリンタコントローラは,前記主業務を担っている。)2以上のように,受信時に,モデムを介して受信した画像データは,サブコントロールRAM,不揮発RAM8(画像用),メインコントロールRAM14,プリンタコントローラと流れ,プリントアウトされる。
二1送信の際,被告製品において,画像データ等の情報は次の通り流れる(本説明書添付の送信図@ないしF)。
@送信操作が行われると,CPU1の制御により,スキャナが送信原稿を読み取り,その画像データは,セルスベースゲートアレイ(全体ブロック図にのみ図示)を介して,メインコントロールRAM14に読み出される。
(上記のCPU1,メインコントロールRAM14は,前記主業務を担っている。)AメインコントロールRAM14の画像データは,CPU1の制御により,セミカスタムLSI11(D65658GDE44)を介して,不揮発RAM8(画像用)に蓄積される。
(上記のCPU1,メインコントロールRAM14は,前記主業務を担っている。)B送信操作の際に入力された相手局の電話番号データを含む発呼要求のデータは,CPU1の制御により,メインコントロールRAM14に読み出される。
(上記のCPU1,メインコントロールRAM14は,前記主業務を担っている。)CメインコントロールRAM14に読み出された相手局の電話番号データを含む発呼要求のデータは,CPU1の制御により,不揮発RAM6(管理用)のメモリに格納される。
(上記のCPU1,メインコントロールRAM14は,前記主業務を担っている。)DサブCPU2の制御により,自局の電話番号データは,不揮発RAM6(管理用)からサブコントロールRAMに読み出され,画像データに変換されてサブコントロールRAMに書き込み,相手局が受信可能な状態であることが確認する。
(上記のサブCPU2及びサブコントロールRAMは,前記主業務を担っておらず,伝送制御機能を担っている。)E不揮発RAM8(画像用)に記憶された画像データは,サブCPU2の制御により,セミカスタムLSI11(D65658GDE44),ドュアルポートRAM(全体ブロック図にのみ図示)を介して,サブコントロールRAMに書き込まれる。
(上記のサブCPU2及びサブコントロールRAMは,前記主業務を担っておらず,伝送制御機能を担っている。)FサブコントロールRAMに書き込まれた画像データは,サブCPU2の制御により,モデムに転送され,相手局に送信される。
(上記のサブCPU2,サブコントロールRAMは,前記主業務を担っておらず,伝送制御機能を担っている。)2以上のように,送信時にスキャナから読み取られた画像データは,メインコントロールRAM14,不揮発RAM8(画像用),サブコントロールRAMと流れ,モデムから送信される。
以上原告ブロック図(送信)図原告ブロック図(受信)別紙全体ブロック図
裁判長裁判官 森義之
裁判官 岡口基一
裁判官 男澤聡子