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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成10ワ14072特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
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平成12ワ12728特許権侵害差止請求事件 判例 特許
平成12ワ16531特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成13ワ15276特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
関連ワード 発明者 /  技術的思想 /  29条1項3号 /  頒布された刊行物 /  容易に発明 /  技術的範囲 /  発明の詳細な説明 /  択一的 /  実質的に同一 /  実施料相当額 /  登録意匠 /  権利の濫用(権利濫用) /  存続期間 /  技術的意義 /  均等 /  不存在 /  特許発明 /  実施 /  交換 /  構成要件 /  差止請求(差止) /  侵害 /  損害額 /  逸失利益 /  実施料 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 12年 (ワ) 2091号 特許権侵害差止等請求事件
原告A
訴訟代理人弁護士 滝井朋子
補佐人弁理士 酒井正美
被告 ラサ工業株式会社
訴訟代理人弁護士 藤田一伯
補佐人弁理士 尾股行雄
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2001/10/18
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 別紙イ号物件目録及びロ号物件目録記載の掘進機が特許第1388999号特許権に係る特許発明技術的範囲に属することの確認を求める訴えを却下する。
2 被告は原告に対し、金1600万2000円を支払え。
3 原告のその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用は、これを3分し、その2を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。
5 この判決の第2項は仮に執行することができる。
事実及び理由
請求
1 被告が製作し、使用し、譲渡し、貸し渡し又は譲渡若しくは貸渡しの申出(譲渡又は貸渡しのための展示を含む)をしている、別紙イ号物件目録記載のイ(一)号、イ(二)号、イ(三)号の各掘進機「ユニコーンG」、及び別紙ロ号物件目録記載のロ(一)号、ロ(二)号、ロ(三)号の各掘進機「ユニコーンロング」は、いずれも特許第1388999号特許権に係る特許発明技術的範囲に属することを確認する。
2 被告は原告に対し、金2373万5000円を支払え。
事案の概要
本件は、掘進機に関する特許発明に係る特許権をその存続期間満了まで有していた原告が、被告に対し、被告が製造、貸渡し等をしている掘進機が当該特許発明技術的範囲に属することの確認を求めるとともに、特許権侵害による損害賠償を請求した事案である。
1 争いのない事実 (1) 原告は、次の特許権(以下「本件特許権」、その発明を「本件発明」、その特許出願に係る明細書を「本件明細書」という。)を、その存続期間満了(平成13年7月6日)まで有していた(本件発明に係る特許公報(以下「本件公報」という。)を本判決に別紙として添付する。)。
特許番号 第1388999号 発明の名称 掘進機 出 願 日 昭和56年7月6日 公 告 日 昭和61年12月2日(特公昭61-56391) 登 録 日 昭和62年7月14日 特許請求の範囲 「1 管状本体の先に刃口部を同軸に冠着し、刃口部を本体に対して首振り可能にし、刃口部の先端にカッターヘッドを回転可能に付設し、カッターヘッドの後部には大歯車を一体に固定して小歯車と咬み合わせ、小歯車の駆動によりカッターヘッドを回転させるようにした掘進機において、原動機を管状本体内に固定し、原動機の出力軸と小歯車の軸との間に、自在軸継手とその伸縮機構とを備えた連結桿を付設して、回転力を伝達するようにした掘進機。
2 刃口部を管状にし、刃口部の管軸方向の長さを管径の3分の1ないし3分の2としてなる、特許請求の範囲第1項に記載の掘進機。」 (2) 本件発明(特許請求の範囲第1項)は、次の構成要件に分説することができる。
A 管状本体の先に刃口部を同軸に冠着し、刃口部を本体に対して首振り可能にし、刃口部の先端にカッターヘッドを回転可能に付設し、カッターヘッドの後部には大歯車を一体に固定して小歯車と咬み合わせ、小歯車の駆動によりカッターヘッドを回転させるようにした掘進機において、
B 原動機を管状本体内に固定し、
C 原動機の出力軸と小歯車の軸との間に、自在軸継手とその伸縮機構とを備えた連結桿を付設して、回転力を伝達するようにした掘進機 (3) 被告は、平成9年ころから、別紙イ号物件目録記載のイ(一)号、イ(三)号の掘進機「ユニコーンG」及び別紙ロ号物件目録記載のロ(一)号、ロ(二)号、ロ(三)号物件の掘進機「ユニコーンロング」を各1台製造し、貸し渡し(レンタル)、貸渡しの申出をしてきた(以下、別紙イ号物件目録記載の掘進機を「イ号物件」、別紙ロ号物件目録記載の掘進機を「ロ号物件」といい、イ号物件とロ号物件を併せて「被告物件」という。)。
(4) 被告物件は、本件発明の構成要件Aを充足する。
2 争点 (1) 請求第1項に係る訴えの適否 (2) 被告物件は本件発明の技術的範囲に属するか。
(3) 本件特許には明白な無効理由が存在するか。
(4) 損害額
争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(請求第1項に係る訴えの適否)について 【原告の主張】 原告は、特許権者として、被告物件が本件特許権を侵害していることを理由としてその差止めと損害賠償を求めて本訴を提起したが、本件特許権は、その判決を待たずに存続期間満了により消滅した。しかし、被告物件が本件特許権を侵害していたか否かの判断は、例えば、刑事告訴をするなどの際には原告にとって極めて重要な意義を有する。したがって、上記理由により差止請求が認められなくなる以上、権利侵害の有無について十分審理を尽くした本訴においては、これに代わるものとして、侵害の有無についての確認判決がなされるべきであり、原告はこれを求めるについて法律上の利益を有する。
【被告の主張】 本件特許権が存続期間満了により消滅した以上、被告物件が本件発明の技術的範囲に属することの確認を求める利益はない。
2 争点(2)(被告物件は本件発明の技術的範囲に属するか)について 【原告の主張】 (1) 構成要件B、C充足性 本件発明の構成要件B、Cにいう「原動機」とは、火力、水力、電力などのエネルギーを機械的エネルギーに変換する装置の総称であって、熱機関、水力機関、電動機、風力機などをいい(広辞苑第5版)、電動モータも油圧モータも、本件発明にいう「原動機」に含まれる。こうした「原動機」は、必要に応じて、更に減速機などの他の機構を追加的に付加使用することがあるが、その場合にも、「原動機」はあくまで前記定義に合致するモータを指すものである。
被告物件は、カッタモータを本体テール部内に固定しているところ、カッタモータは電動機であるから、本件発明にいう「原動機」に相当し、また、被告物件の本体テールは後方筒と共に本件発明の「管状本体」に当たる。したがって、被告物件は、原動機が管状本体内に固定されているといえる。本件発明では、減速機については構成要件としていないから、これを使用してもしなくても、またどの場所に使用しても、構成要件該当性には何の影響もない。
被告物件は、減速機をカッタモータ(原動機)から切り離し、刃口部最後部であって、連結桿と小歯車との間に介在させているが、本件発明の構成要件Cを充足することに変わりはない。
したがって、被告物件は本件発明の構成要件B、Cを充足する。
(2) 作用効果 ア 本件発明の技術分野における特許出願前の従来技術に係る掘進機では、
原動機を刃口部内に付設していたが、本件発明は、原動機を管状本体の内部に移し、カッターヘッドと原動機の間に回転力の伝達手段として自在軸継手とその伸縮機構を備えた連結桿を設けることにしたものである。その結果、本件発明は、次のような作用効果を奏し、技術的利点を有するものである。
@ 従来の掘進機では、大きな重量を持った原動機が、刃口部の中に固定されていたが、本件発明の掘進機では、原動機が刃口部から離れて、管状本体の後部内に固定されている。このため、従来の掘進機では刃口部に重量が集中していたが、本件発明の掘進機では刃口部が軽量となり、管状本体が逆に重量を増加し、掘進機全体を通じて重量がほぼ均等に分散し、均等化されている。その結果、刃口部が自重のために従来沈下し勝ちであったのを抑制することができる。したがって、
刃口部を首振りさせて、掘進機の進行方向を定めることが容易になる。
A 本件発明では、自在軸継手とその伸縮機構とを備えた連結桿を用いるので、カッターヘッドが管状本体に対して傾斜しても、管状本体内の原動機により、常にカッターヘッドを確実に回転させることができる。また、上述のような連結桿を用いるので、刃口部と原動機との間を大きく離すことができる。したがって、刃口部のあとにある空間を大きく取ることができる。その結果、刃口部への出入が容易となり、また掘進機内での作業がしやすくなる。
イ 被告物件は、前記のとおり、本件発明にいう原動機に当たるカッタモータを管状本体内に固定しているものであり、その結果、前記アの@、Aに記載した本件発明の作用効果を奏している。
すなわち、被告物件は、カッタモータ(原動機)を刃口部から管状本体内に移したことにより、カッタモータの重量分だけ刃口部の重量が軽くなっており、このため軽くなった分だけ刃口部の沈下する傾向が抑制され、したがって、それなりに掘進機の進行方向を定めることが容易となっている。また、カッタモータを刃口部から管状本体内に移したことにより、刃口部の後の空間が広がり、したがって、刃口部への出入が容易となり、ビットの取り替えなどの掘進機内での作業が容易となっている。
【被告の主張】 (1) 構成要件B、C充足性 本件明細書の特許請求の範囲には、「原動機」の意義が特定されていないが、本件明細書の発明の詳細な説明によれば、従来の掘進機の刃口部は原動機のため重かったので、これを管状本体に移して刃口部を軽量化したものとされている。
この記載からすると、電動機と直結した減速機の場合、それらを一体化したものを原動機と呼び、これを管状本体に移すことによって、その目的・効果を達成しようとしたものと考えられる。このことは、本件明細書の発明の詳細な説明及び図面において、原動機は一貫してカッタモータと減速機とが一体化したものとして特定され、第1図及び第2図では、原動機7・17の引き出し線がいずれもカッタモータではなく減速機を指し示していることからも裏付けられる。また、掘進機の技術分野では、電動モータを使用した場合には、掘削に必要な高いトルクを得るために、
減速機はモータと一体的になって駆動源を供給する必須の構成要素である。現在使用されている種々の掘進機において、カッタモータと減速機は一体のものとして設置されており、しかも、一体化されたカッタモータと減速機のうちカッタモータを指示する場合には「原動機」という名称は用いられておらず、「駆動モータ」、
「電動機」あるいは「モータ」といった名称が使用されている。このような技術的慣行からみても、本件発明の「原動機」という用語が、カッタモータと減速機が一体化されたものとして特定されていることは疑いない。
これに対し、被告物件におけるカッタモータは、あくまで電動機だけであり、減速機は別に設置されているので、本件発明の原動機に該当しない。被告物件では、本体フロント(刃口部)が本体テール(管状本体)に対して首振りする際に本体テールがカッタモータと互いに干渉しないよう、単にカッタモータを本体テール側に移設し、カッタモータと減速機とを自在軸継手とその伸縮機構とを備えた連結桿で連結したものである。これを本件発明と対比すると、いわば原動機内に連結桿を介装したものであり、本件明細書添付図面において原動機7・17として指示されている減速機は、本体フロント(刃口部)に固定されているものであるから、
被告物件は、本件発明にいう原動機を管状本体に移したものではなく、さらには原動機の出力軸と小歯車との間に連結桿を付設したものでもない。したがって、被告物件は本件発明の構成要件B、Cを充足せず、本件発明とはその技術的思想を異にする。なお、被告物件の「後方筒」は、付属機器類が装着されており、付属機器類は掘進機の基本的構成品ではなく、あくまで補助的なものであるから、後方筒を本件発明の「管状本体」に含ませるべきではない。
(2) 作用効果 ア 刃口部の沈下 (ア) 本件発明の掘進機は、主に土砂の層を掘進する装置であるため、刃口部の重量が重いと、その重量で刃口部が下方に沈下するのを問題とする掘進機であり、この課題解決のために原動機を刃口部から管状本体側に移すという構成を採ったものである。これに対し、被告物件は、主に岩盤層及び礫層を掘進する装置であるため、刃口部の沈下が問題になることは少ない掘進機である。
被告物件におけるカッタモータの総重量は、5台分合計約500sないし650sであるのに対し、本体フロント(刃口部)の重量は、カッタモータよりも重量の大きな減速機が依然として固定されている結果、減速機を含めて約6.0tないし8.4tであり、さらに、カッタモータと減速機との間に連結桿を介装した結果、組立後の製品たる被告物件においては、右重量に当該連結桿5台分の総重量(約100s)の2分の1程度が別途加算されている。したがって、カッタモータを本体フロント側から本体テール(管状本体)側に移設することによる本体フロントの重量軽減効果はわずかであり、これによっても本体フロント(刃口部)の重量は、本体テール(管状本体)の重量よりも、約3.5ないし5.0tも大きいのである。
前記重量比から明らかなように、被告物件は、本件発明の前記【原告の主張】(2)ア@の効果(重量に関する効果)を奏し得るものではない。
(イ) また、被告物件においては、カッタモータのみを本体フロント(刃口部)から本体テール側に移設したことにより、逆に刃口部が沈下しようとする作用が増大しているから、原告の主張は失当である。
本体フロント(刃口部)は、本体テールに対して、方向修正ジャッキの回転自在継手位置を首振りの支点として沈下しようとする。被告物件において、
本体フロントに減速機及びカッタモータ(首振りの支点から距離l2後方)が取り付けられている場合は(モータはテールに支持されていない)、本体フロントを沈下させようとする方向に、減速機を含む本体フロント及びカッタヘッドの総重量(m1)×首振り支点とカッターヘッドの重心位置との距離(l 1)で表される回転モーメント(M1)が生じ、本体フロントを持ち上げようとする方向に、カッタモータの重量(m2)×支点からの距離(l 2)で表される回転モーメント(M 2)が生じるため、本体フロントを支点まわりに沈下させようとする回転モーメントMは、M=M1-M 2となる。しかし、被告物件のようにカッタモータを本体テール側に移設した場合は、カッタモータが本体テールに支持されている結果(モータの重量はフロントにはかかっていない)、支点まわりに本体フロントを持ち上げようとする方向の回転モーメントが生じなくなり、本体フロントを沈下させようとする方向の回転モーメント(M′=m1×l 1=M 1)のみが生じることになるため、前記本体フロントに減速機及びカッタモータが取り付けられている場合(M=M1-M 2)と比べて、支点まわりに本体フロントを沈下させようとする回転モーメントが大きくなる。
イ 被告物件は、本件発明の前記【原告の主張】(2)アAの効果(空間に関する効果)も奏しない。
すなわち、被告物件は、カッタモータと減速機との間に連結桿を設けた結果、連結桿はカッタモータの出力軸と同じ毎分1000回転以上の高速で回転するため、安全上必須の構成として、連結桿の周囲に軸カバーが設けられている。そのため、被告物件においては、カッタモータの移設後においても、依然として本体フロントに固定されている減速機と連結桿の周囲に設けた軸カバーにより、移設前と比較して本体フロント後方に大きな空間が取れないばかりか、かえって、減速機からカッタモータまでの長さ寸法が大きくなる結果、軸線方向に狭い空間の範囲が増加している。例えば、イ(一)、(三)号物件について、カッタモータ移設の前後における本体フロント後方の空間の変化について対比すると、最も内径の大きなイ(三)号物件では、カッタモータを移設しない場合に、本体フロント後方の空間884oの範囲に、幅621ないし651oの狭い空間が形成されていたのに対し、カッタモータ移設後は、本体フロント後方の空間1513oの範囲に、幅621ないし670oの狭い空間が形成されるようになった。また、内径の最も小さいイ(一)号物件においては、カッタモータを移設しない場合に、本体フロント後方の空間807ミリの範囲に、幅516ミリの狭い空間が形成されていたのに対し、カッタモータ移設後においては、本体フロント後方の空間1356oの範囲に、幅516ないし550oの狭い空間が形成されるようになった。
したがって、被告物件は、本件発明における「刃口部のあとにある空間を大きく取ることができる。その結果、刃口部への出入が容易となり、また掘進機内での作業がしやすくなる」との効果を奏し得ない。
3 争点3(本件特許には明白な無効理由が存在するか)について 【被告の主張】 本件特許には次のとおり無効理由が存在することが明らかであるから、本件特許権に基づく損害賠償請求は、権利の濫用であり許されない。
本件特許出願前に頒布された刊行物である米国特許第3907365号明細書(乙12の1、以下「米国明細書1」という。)図2及び図3には、掘削時にトンネル内面に固定されるシールド10内に、内側シールド11が複数の複動ピストン-シリンダユニット16によって軸線方向に進退自在に設けられ、この内側シールド11の先端に、支持リング21が複数のピストン-シリンダユニット28、29によって相対的に全方向に移動可能に設けられ、この支持リング21にカッタ片12を有するカッタヘッド22が回転自在に設けられたトンネル掘削機の構成が記載されている。また、同掘削機においては、カッタヘッド22の歯付リング27に、支持リング21に回転自在に設けられたピニオン24が噛合され、このピニオン24を回転させるモータ25が内側シールド11に設けられるとともに、これらピニオン24とモータ25の出力軸とが、関節軸(カルダン軸33)を介して互いに連結されている構成も記載されている。
同掘削機は、本件発明も対象とするシールド工法に用いられるトンネル掘削機であり、シールド10は掘削時にトンネル面に拘束されるもので、前進する内側シールドの反力を受けるものであるから、本件発明と対比すると、「内側シールド11」が本件発明における「管状本体」に相当し、「支持リング21」が「刃口部」に対応する。また、支持リング21がユニット28、29によって移動した際には、モータ25とピニオン24との間においては当然相対角度のみならず軸間距離も変化するから、明示はないものの、関節軸(カルダン軸33)が伸縮機構を有することは当業者において明白である(そのような構成は実公昭54-41882号実用新案公報(乙13)にも記載されている。)。
なお、米国明細書1記載の掘削機においては、支持リング21が、複数のピストン-シリンダユニット28・29を制御することにより、ロッド23後端を回転中心として首振り可能に設けられており、一方、本件発明においては、単に刃口部が首振り可能に設けられていることのみを特定しているから、これらは互いに同一の構成である。ちなみに、本件明細書には、刃口部12が、方向制御ジャッキ13により軸線に対して傾斜するように首振り可能となる実施例が記載されているが、仮に特許請求の範囲において、刃口部の首振り状態を上記実施例記載の構成に限定するとしても、このような構成は、本件特許出願前に頒布された刊行物である米国特許第3672726号明細書(乙11、以下「米国明細書2」という。)に示されるように、本件特許出願前における公知の技術である。
そうすると、本件発明は、米国明細書1に記載された発明と実質的に同一であるか、又は、米国明細書1と、米国明細書2及び/又は実公昭54-41882号実用新案公報とを組み合わせることにより、当業者であれば容易に発明することができたものである。
したがって、本件特許は、特許法29条1項3号又は同条2項の規定に違反してされた無効理由を有することが明らかである。
【原告の主張】 米国明細書1及び2に記載された掘進機は、いずれも、外側シールドの中に内側シールドを入れ子式に嵌め込んで伸縮可能とした二重シールド構造の掘進機である。その掘進様式は、まず外側シールドを固定して内側シールドを伸ばし、内側シールドの先に付設したカッターヘッドで地山を掘削し、次いで内側シールドを固定し、外側シールドを進行させて長さを縮め、これを繰り返して掘進するという、
尺取虫様に進行するものである。したがって、この掘進機は、内側シールドが先行して掘削した空洞内に外側シールドを誘導して進行するので、外側シールドの沈下は起こり得ない。また、この掘進機は、土砂が崩れるような軟弱地盤で使用されることは当初から予定されていない。
したがって、これら二重シールドの掘進機には、土砂が崩れ落ちるような軟弱地盤で使用する際に生ずる掘進機の沈下を防ごうとする思想は初めから存在しない。また、この掘進機は軟弱地盤の際には避けることのできない、土砂の掘進機内への流れ込みを想定していないから、掘進機の内部に隔壁を設けていない。それ故に、この隔壁を設けることによって必然的に要求される隔壁用のドアを付設する必要がない。
これに対し、本件発明の属する型の掘進機は、日本においてはよく見られる軟弱地盤にも用いられることが出発点である。それは、管状本体が一重シールドで構成されていて、その先端に付設された刃口部は管状本体に対して首振り可能とされ、進むべき方向に刃口部を向けて全体を一体として推進する。したがって、この型の掘進機は、刃口部を取り巻く地盤が軟弱となって刃口部を支えきれなくなると、刃口部が沈下することを避けられない。さらに、この型の掘進機は、軟弱地盤でも用いられることが予定されているから、地山が崩れて土砂が掘進機内に進入する場合に備えて、刃口部の後に隔壁を設けるが、この隔壁には、人が掘進機内の後方から先端のカッターヘッドへ接近することを可能とするためにドアを付設している。
このように、前記公知文献上の掘進機は、本件発明の掘進機とは、そもそも掘削する地盤が異なり、それ故に掘進機の構造及び掘進機構が全く異なるから、これらの公知文献に本件発明の技術・構成が記載されているとはいえない。
米国明細書1と本件発明の構成の対比において、本件発明にいう「管状本体」に相当するものは、「内側シールド11」だけでなく、「外側シールド10」も加えたものであり、また、「支持リング21」は、カッターヘッドを支える部品にすぎないから、本件発明の「刃口部」には相当するものではない。
4 争点(4)(損害額)について 【原告の主張】 次の(1)を主位的に主張、予備的に(2)及び(3)を択一的に主張(いずれも損害金内金として請求第2項記載の金員を請求)。
(1) 本件特許権の存続期間中に被告が製造したことを自認している下記各物件の基礎価格は、被告の価格表によれば次のとおりである。
イ(一)号物件 105,700,000円 イ(三)号物件 121,500,000円 ロ(一)号物件 117,400,000円 ロ(二)号物件 124,700,000円 ロ(三)号物件 135,000,000円 合 計 604,300,000円 被告は、前記各物件を生産することにより本件特許権を侵害したものであるから、原告は、被告がこれらを販売して代価として利益を一度に取得したか、又は、貸渡しを繰り返すことによりレンタル料として利益を逐次取得したかにかかわらず、本件特許権侵害による損害賠償として前記製品価格を基礎として実施料相当額を請求できるものというべきである。本件発明の実施に対し受けるべき実施料の額は、前記製品価格の5%を下らない。したがって、原告は被告に対し実施料相当額として3021万5000円の損害賠償請求権を有する。
(2) 被告は、平成10年9月から平成12年3月までの間に、被告物件(イ(二)号物件を除く。)のいずれかを第三者に対し合計4082m使用させ、そのレンタル料として少なくとも3億2004万円の収益を得た。レンタル料金はその7割が粗利益であるから、被告は少なくとも2億2402万8000円の粗利益を得た。原告は、同額の損害賠償請求権を有する。
(3) 被告は、(2)記載のとおり、被告物件(イ(二)号物件を除く。)のレンタル料として少なくとも3億2004万円の収益を得たところ、このレンタル料金を基礎にした原告が受けるべき実施料はその15%である。したがって、原告は4800万6000円の損害賠償請求権を有する。
【被告の主張】 (1) 【原告の主張】(1)のうち被告が被告物件(イ(二)号物件を除く。)を合計5台製造したことは認めるが、その余は争う。原告は、本件特許権を自らは実施せず、代表取締役を務める株式会社推研に実施させていたものであるから、逸失利益の損害賠償を請求できない。
(2) 同(2)、(3)のうち、被告が被告物件(イ(二)号物件を除く。)を原告主張の数量を第三者にレンタルし、主張の収益を上げたことは認めるが、その余は否認する。
争点に対する判断
1 争点(1)(請求第1項に係る訴えの適否)について 請求第1項に係る訴えの適否について検討するに、原告のこの訴えは、口頭弁論終結時には既に存続期間が満了し消滅した本件特許権の特許権者であった原告が、被告において本件特許権の存続期間中に製造等をした被告物件が本件発明の技術的範囲に属することの確認を求めるものである。原告と被告の間で被告物件が本件発明の技術的範囲に属するかどうかについて争いがあっても、技術的範囲に属するか否かは事実上の判断であって、判断の対象は権利又は法律関係ではない(しかも、特許権が消滅している以上、過去の事実関係である。)。したがって、特許権侵害の有無について紛争を生じている場合において、その紛争が技術的範囲の属否の争いに起因しているときでも、その紛争を解決するためには特許権侵害による損害賠償の訴え又はそのような請求権の不存在確認の訴えを提起する必要があり、かつ、それで足りるのであって、そのほかに技術的範囲に属することの確認の訴えを認めることはできず、その必要もない(登録意匠についての権利範囲確認の訴えの適否について判示した最高裁昭和47年7月20日判決・民集26巻6号1210頁参照)。よって、請求の趣旨第1項に係る訴えは不適法である。
2 争点(2)(被告物件は本件発明の技術的範囲に属するか)について (1) 被告は、本件発明の「原動機」は、電動機と直結した減速機の場合、それらを一体化したものを指すと主張する。しかし、「原動機」という用語は、原告が主張するように、火力、水力、電力などのエネルギーを機械的エネルギーに変換する装置の総称であって、熱機関、水力機関、電動機、風力機などをいうものであり、また、「減速機」とは回転速度を減少させ、動力を伝達する装置をいうから、
原動機と減速機とは区別された概念である。このように、本件発明の「原動機」は、特許請求の範囲に記載された用語自体からその技術的意義が明らかである。電動機(モータ)は原動機の一種であるが、電動機と減速機が直結されている場合でも、両者は一体として原動機と称されるわけではないし、掘進機において電動機と減速機が離れて設置されている場合に、電動機のみで原動機に当たることは明らかである。本件明細書の記載をみても、減速機に触れた記述は一切なく、本件発明にいう「原動機」が減速機も含めたものとして特定されることを示唆するものはない。被告は、明細書添付の図面第1図、第2図の引出線7、17がいずれも減速機を指示していると主張するが、これら図面(第1図は従来の掘進機の縦断面図、第2図は本件発明に係る掘進機の縦断面図)上その趣旨が明確であるともいえないし、
この点について明細書中に格別の説明もなく(本件公報参照)、仮に被告の主張するとおりであるとしても、電動機と減速機が直結されて一体になった場合にこれを全体として原動機と称したものと解し得る余地があるにすぎず、電動機と減速機が分離されている場合にも、減速機まで本件発明の原動機に含めなければならない根拠とはならない。本件発明においては、減速機は構成要件に含まれていないから、
これを使用するかしないか、また使用するとしてどの場所にどのような態様で使用するかは、構成要件該当性の判断に影響しないものというべきである。
被告物件においては、当事者間に争いのない別紙イ号物件目録及びロ号物件目録の記載によれば、カッタモータ5個が本体テール部内に固定されているものであるところ、カッタモータは原動機に当たり、また、本体テールが本件発明の「管状本体」に該当することは明らかである(被告も認めている。)から、被告物件においては、原動機が管状本体内に固定されているといえる。したがって、被告物件は、本件発明の構成要件Bを充足する。
また、前記各目録の記載によれば、被告物件は、「カッタモータの出力軸と減速機との間を、自在軸継手とその伸縮機構とを備えた連結桿であるユニバーサルジョイントで連結し、減速機を介して小歯車の軸に回転力を伝達するようにした掘進機」であるから、本件発明の構成要件Cと比べると、減速機を介するという点が加わっただけで、ほかは同一であるということができ、減速機を介したからといって、構成要件Cの構成を備えることには変わりがない。したがって、被告物件は、本件発明の構成要件Cを充足する。
(2) 作用効果について ア 刃口部の重量軽減の効果 a 本件明細書の発明の詳細な説明の欄には次のような内容の記載のあることが認められる(甲2)。
本件発明は、シールド工法や推進工法に用いられる掘進機に関する発明であるところ、従来の掘進機(本件公報第1図)では、原動機が刃口部内に付設されていた。その理由は、原動機がカッターヘッドを回転させるためのものであるから、これをカッターヘッドの近くに設けるのが便利であり、逆に原動機を管状本体内に設けたのでは、刃口部を管状本体に対して首振りさせるために、原動機と小歯車との連結が複雑になるからである。しかし、本件発明の発明者は、従来の掘進機では、原動機を刃口部に設けているために、かえって、原動機のために刃口部が重くなり、刃口部が重力によって下方に沈下する傾向を生じ、また、刃口部を動かすのに大きな力を要し、このため進行方向の制御が予期したとおりになり得ないという欠点のあることを見出した。本件発明は、小歯車を回転させるための原動機を管状本体の内部に移し、これに伴い、カッターヘッドが管状本体に対してある程度傾斜しても、カッターヘッドが原動機によって回転されることを確実にするために、カッターヘッドと原動機との間に、回転力の伝達手段として、例えばユニバーサルジョイントとスプラインとを備えた連結桿を設けることとした。
その結果、本件発明の掘進機(本件公報第2図)が従来の掘進機と異なる点の一つが次の点である。「従来の掘進機では、大きな重量を持った原動機7が、刃口部2の中に固定されていたが、この発明の掘進機では、原動機17が刃口部12から離れて、管状本体11の後部内に固定されている。このため、従来の掘進機では刃口部2に重量が集中していたが、この発明の掘進機では刃口部12が軽量となり、管状本体11が逆に重量を増加し、掘進機全体を通じて重量がほぼ均等に分散し、均等化されている。その結果、刃口部12が、自重のために従来沈下し勝ちであったのを抑制することができる。従って、刃口部12を首振りさせて、掘進機の進行方向を定めることが容易となる。」(本件公報4欄4行〜16行) b 被告物件は、前記のとおり、本件発明の原動機に当たるカッタモータを刃口部でなく、管状本体である本体テール部内に設けたものである。被告の主張によれば、被告物件におけるカッタモータの総重量は、5台分合計約500sないし650sというのであるから、重量の大きい減速機が刃口部に固定されていることによりその効果が減殺されているとはいえ、カッタモータが刃口部から管状本体に移設されていることにより、刃口部に原動機(被告物件でいえばカッタモータ)を設けた従来の掘進機と対比すれば、刃口部と管状本体の重量の均等化に無視できない寄与をしており、その結果、刃口部の沈下の抑制の効果を奏しているものと認められる(刃口部の沈下の有無・程度はその重量と地盤支持力との相対関係によるが、刃口部が軽くなることによって軟弱地盤における沈下抑制に寄与することは明らかである。)。証拠(乙3の1ないし5、乙7の1ないし5、乙15の1ないし5)によれば、被告物件においては、刃口部の重量が大きく、イ(一)号物件では、
カッタディスクと本体フロント(両者で刃口部)の重量が約6050s、本体テールの重量が約2500s、後方筒の重量が約2800sであること(減速機と電動機の重量は別)、同様にイ(三)号物件は順に約8400s、約3400s、約2800sであり、ロ(一)号物件は順に約7000s、約2500s、約1400sであること(なお、カッタモータは1個約100ないし150s、減速機は1個110ないし150s)が認められる。被告物件においては、本体テールの後ろに油圧ユニットその他の付属機器類を収納する後方筒が存在するところ(別紙イ号物件目録及びロ号物件目録添付の各図面参照)、本件発明の掘進機は刃口部と管状本体とからなり、その重量の均等化を問題にするものであるから、本件発明との対比の上では本体テールと後方筒を含めたものが本件発明の管状本体に相当するものというべきである。そうすると、上記重量の対比からみても、被告物件でカッタモータを刃口部でなく管状本体内に設置したことにより、相応の重量の分散、均等化が図られているものとみることができる。
c 被告は、本件発明の掘進機は、主に土砂の層を掘進する装置であるのに対し、被告物件は、主に岩盤層及び礫層を掘進する装置であるため、刃口部の沈下が問題になることは少ない掘進機であると主張する。そこで検討するに、甲4によれば、被告物件のカタログでは、イ号物件(ユニコーンG)について、「概要」欄に「主に岩盤層を対象とした掘進機」であること、「特長」欄に「カッタ交換により軟岩から硬岩まで幅広い岩質の掘削が可能」であることが記載されており、ロ号物件(ユニコーンロング)については、「概要」欄に「本掘進機は長距離推進を対象とした掘進機」であり、「長距離推進においては、当然ながら普通土から巨礫・岩さらにこれ等を含む互層地盤に遭遇しますが、地層に応じたカッタを機内から取り替えながら長距離推進に対応します。」と、「特長」欄に「カッタ交換により普通土から巨礫・岩、互層地盤の推進が可能です。」と記載されていることが認められる。また、乙8、9の各1ないし3によれば、被告従業員がイ号物件及びロ号物件をそれぞれ紹介した論文において、イ号物件の適用土質として、主として岩盤層としながら、「岩盤層から砂礫層や軟弱土層に変化したり複合層等の複雑な土質条件でも適用できる」(66頁)と記載されており、ロ号物件の工法の特長の項に「普通土〜砂礫層で呼び径の約100倍……の曲線推進が可能である」(149頁)と記載され、適用土質の項に「次の土質条件では補助工法を必要とする。(1)N値が3以下の軟弱層で方向修正やカーブ推進のための地盤反力が不足する。」(151頁)と記載されていることが認められる。これらの事実に照らせば、被告物件、特にイ号物件は、確かに主として岩盤層を対象にした掘進機であるといえるが、軟弱土層でも適用可能であるとされており、本件発明の作用効果である刃口部の沈下の抑制が無関係なものとはいえない。
d なお、被告は、被告物件においては、カッタモータのみを本体フロント(刃口部)から本体テール側に移設したことにより、方向修正ジャッキの回転自在継手位置(首振りの支点)のまわりに本体フロントを持ち上げようとする方向の回転モーメントが働かなくなり、逆に刃口部が沈下しようとする作用が増大していると主張する。
同被告の主張は、掘進機を支持する力が「首振りの支点」一点のみにかかり、かつ、「カッタモータと減速機が刃口部にある場合」にも、減速機が「首振りの支点」より前方に、カッタモータが支点より後方にあることを前提にしている。しかし、本件明細書の詳細な説明によれば、本件発明に係る「掘進機」とは、
「シールド工法や推進工法に用いられ」(本件公報1欄17〜18行)、「孔の全断面を機械力によって削り取り、削り取った土砂を後方に運び出しつつ、自から進行方向を定めて前進していく機械掘りのもの」(同1欄19〜22行)であり、
「管状本体1と刃口部2との間に複数個のジャッキ3が付設され、各ジャッキ3の伸び具合により、刃口部2が本体1に対して傾斜自在にされた」(同2欄1〜4行)ものである。このような掘進機は、地中を進行する際には、刃口部と管状本体をジャッキで一体化した底面全体が地盤支持力により支えられているのであり、方向修正ジャッキの回転継手位置(被告のいう「首振りの支点」)一点のみで支持されているものではない。このように、同被告の主張は、掘進機が使用される場合にかかる地盤支持力を無視するもので採用できない。
イ 空間に関する効果 a 本件明細書の発明の詳細な説明の欄には、本件発明の掘進機と従来の掘進機との別の相違点の一つとして、「上述のような連結桿を用いるので、刃口部と原動機との間を大きく引き離すことができ、従って、刃口部のあとにある空間を大きく取ることができる。その結果、刃口部への出入が容易となり、また掘進機内での作業がしやすくなる。」(本件公報5欄10行〜15行)との記載があることが認められる(甲2)。
b 被告は、被告物件においては、連結桿の周囲に軸カバーが設けられているため、カッタモータの管状本体側への移設前と比較して本体フロント後方に大きな空間が取れないばかりか、かえって、減速機からカッタモータまでの長さ寸法が大きくなる結果、軸線方向に狭い空間の範囲が増加している旨主張する。なるほど、別紙イ号物件目録及びロ号物件目録添付の各図面によれば、被告物件には、連結桿の周囲に軸カバーが設けられていることが認められる。しかし、これらの各図面の記載と乙16及び弁論の全趣旨によれば、被告物件の連結桿の軸カバーは、カッタモータに比べれば小径である上、ボルトで本体テール部に取り付けられているので、必要に応じ取り外し可能であると認められ、このことと甲5の1ないし3によれば、被告物件においても、カッタモータを刃口部ではなく管状本体(本体テール)に設けたことにより、そうでない掘進機に比べれば作業空間を広く取ることができていると認められる。したがって、被告物件は刃口部と原動機を引き離すことにより刃口部のあとの空間を大きく取ることができるという前記の本件発明の作用効果と同様の作用効果を奏しているものというべきである。
(3) 以上によれば、被告物件は、本件発明の技術的範囲に属する。
3 争点3(無効理由)について 乙12の1、2によれば、米国明細書1に記載された発明は、外側シールドと内側シールドの二重シールドからなるトンネル掘削機に関するものであり、内側シールド11は外側シールド10に対して軸方向に変位できるようになっており、カッターヘッド22を内側シールド11の先端に接続した支持リング21によって支持し、支持リング21と内側シールド11の間に複数設けられたピストン-シリンダユニット28、29によって支持リング21を一定範囲内で全方向に移動可能にしており、カッタヘッド22に設けられた歯付リング27と支持リング21に支持されるピニオン24が噛合し、内側シールド11内に設けたモータ25によって駆動されることによってカッターヘッド22が回転可能となっており、また、図3では、モータ25の出力軸を関節軸すなわちカルダン軸33を介して連結する構成が示されていることが認められる。米国明細書1に記載された発明に係る掘進機は、前記のとおり、二重シールド構造のものであり、原告主張のような掘進動作をするものであるが、被告が本件発明の管状本体に相当すると主張する内側シールド11は、外側シールド10によって保持されているのであるから、そもそも、本件発明のように、刃口部と管状本体との重量の分散というような課題とは無関係である。また、被告が本件発明の刃口部に相当すると主張する米国明細書1における支持リング21は、カッターヘッドを支持する内側シールド先端に取り付けられた部材にすぎないから、管状本体との関係でその重量や軸方向長さが問題になる本件発明の刃口部とは異なるものというべきである。このように、米国明細書1に記載された発明は、本件発明とは基本的な構成が異なっている。
また、米国明細書2に記載された発明も、二重シールド構造の掘進機に関するものであるから(乙11)、やはり、本件発明とは基本的な構成が異なっている。
前記事実からすれば、米国明細書1に本件発明と実質的に同じ技術が記載されているとはいえないし、これらの明細書及び実公昭54-41882号実用新案公報(乙13)を組み合わせることによって当業者が容易に本件発明をすることができたとも認められない。したがって、本件特許に無効理由があることが明白であるとはいえない。
4 争点4(損害額)について 被告が、本件特許権の存続期間内に被告物件(イ(二)号物件を除く。)を製造し、これを第三者に貸し渡してきた(レンタル)こと、その使用数量は合計4082メートルであり、レンタル料として3億2004万円の収益を得たことは当事者間に争いがない。
原告は、主位的には、被告物件の価格表による基礎価格を基準として実施料相当額を請求するものであるところ、被告は、被告物件を製造したものの、これを販売したわけではないのであるから、逸失利益の算定に当たって、販売する場合の価格に基づいて実施料相当額を算出することはできない。
次に、被告は、前記のとおり被告物件(イ(二)号物件を除く。)を第三者に貸し渡して収益を得ているところ、原告は特許権者ではあったが、自ら本件発明を実施していたことの主張立証はないから、上記貸渡しによって被告が得た利益をもって原告の損害の額と推定することはできないものというべきである。また、この点を措くとしても、被告が得た利益の額を具体的に認め得る証拠はない。
一方、原告は、被告の上記被告物件の製造と貸渡し行為により本件特許権を侵害されたものであるから、実施料相当額を請求できるものというべきである。本件発明は、前記のとおり、従来の掘進機が原動機を刃口部に設けていたことによる欠点を、原動機を管状本体に移すことによって解決しようとしたものであるところ、被告物件は主として岩盤層を対象としたり(イ号物件)、長距離推進を対象とする(ロ号物件)掘進機であって、刃口部の重量が大きく、また、減速機が原動機(カッタモータ)と切り離されて刃口部内にあることとも相まって、被告物件が本件発明と同一の構成を採ったことによるその効果の寄与はそれほど大きくないと推認されること、その他本件に現われた諸般の事情を勘案すると、原告が受けるべき実施料としては、レンタル料の5%が相当であると認める。甲16(原告の陳述書)には、レンタル料金の15%が実施料として支払われるべきである旨の記載があるが、特段の根拠が示されているわけではなく、採用できない。そうすると、原告が被告に請求できる損害額は、前記3億2004万円の5%に当たる1600万2000円となる。
5 以上によれば、請求第1項に係る訴えは不適法であるから却下し、請求第2項は上記金額の支払を求める限度で理由があるから、この限度で認容し、その余は失当であるから棄却する。
裁判長裁判官 小松一雄
裁判官 阿多麻子
裁判官 前田郁勝
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