審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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昭和60ワ4297特許権に基づく侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成12ワ7221特許権侵害差止請求事件 | 判例 | 特許 |
平成11ワ21280特許権不侵害確認請求事件 平成12ワ7516特許権侵害差止請求事件 | 判例 | 特許 |
平成12ワ7510特許権侵害差止請求事件 | 判例 | 特許 |
平成11ワ23013特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 物の発明 / 製造方法 / 頒布された刊行物 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 公知技術 / 技術的範囲 / 発明の詳細な説明 / 実質的に同一 / 実施料相当額 / 権利の濫用(権利濫用) / 参酌 / 特許発明 / 実施 / 構成要件 / 構成要件充足性 / 差止請求(差止) / 侵害 / 実施料 / 不法行為(民法709条) / 請求の範囲 / |
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事件 |
平成
12年
(ワ)
27115号
損害賠償請求事件
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原告甲 同訴訟代理人弁護士 日野和昌 同 大井暁 同補佐人弁理士 丹羽宏之 同 野口忠夫 被告 株式会社ジャパンエナジー 同訴訟代理人弁護士 清永利亮 同補佐人弁理士 藤野清也 同 吉見京子 同 藤野清規 |
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裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 2001/11/22 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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原告の請求
被告は,原告に対し,7920万円及びこれに対する平成13年1月18日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 |
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当事者の主張
1 請求原因 (1) 原告は,次の特許権(以下「本件特許権」という。)を有していた。 特許番号 第1365713号 発明の名称 透過光と反射光兼用画像板およびその製造方法 出願日 昭和56年4月4日 出願番号 特願昭56-50958号 出願公告日 昭和61年7月24日 出願公告番号 特公昭61-32156号 登録日 昭和62年2月26日 (2) 本件特許権の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。本判決末尾添付の特許公報〔甲2。以下「本件公報」という。〕参照)の特許請求の範囲1の記載は,次のとおりである(以下,この発明を「本件特許発明」という。)。 「透明プラスチツク板1の上に画像を形成させた透明画像板Aを表側に,半透明白色プラスチツク板4の上に画像を形成させた半透明白色画像板Bを内側に,かつ,半透明白色プラスチツク板4の両側に画像があるようにして,この両画像3が完全に一致したところで,透明画像板Aと半透明白色画像板Bを接着固定したものよりなる透過光と反射光兼用画像板。」 (3) 本件特許発明を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,「構成要件@」などという。)。 @ 透明プラスチック板の上に画像を形成させた透明画像板を表側に, A 半透明白色プラスチック板の上に画像を形成させた半透明白色画像板を内側に, B 半透明白色プラスチック板の両側に画像があるようにして, C この両画像が完全に一致したところで,透明画像板と半透明白色画像板を接着固定したものよりなる透過光と反射光兼用画像板。 (4) 被告は,「JOMO」の記載のあるサインポールの電飾看板(以下「被告製品」という。)をその特約店であるガソリンスタンドにおいて使用させている。 被告製品の具体的な構造等は別紙「物件目録(原告提出)」(以下「原告目録」という。)に記載のとおりである。 そして,被告製品の構造を分説すれば,次のとおりである。 (@)透明プラスチック板11の裏側に画像31のある透明画像板aを表側に, (A)半透明白色体41の裏側に画像31のある半透明白色画像部bを内側に, (B)半透明白色体41の両側に画像31,31があるようにして, (C)この両画像31,31を完全に一致させて,透明画像板aと半透明白色 画像部bを一体とし,さらにその裏側に透明プラスチック板Pを配置した 天地模様の透過光と反射光兼用画像板 (5) 本件特許発明の構成要件と被告製品の構造とを対比すると,被告製品の構造(@)〜(C)は,本件特許発明の構成要件@〜Cをそれぞれ充足する。 本件特許発明の構成要件Aでは「半透明白色プラスチック板」としているのに対し,被告製品の構造(A)では「半透明白色体」となっているが,ここでいう「半透明白色プラスチック板」は半透明白色物質であれば足り,材料を問わないから,本件特許発明の構成要件Aを充足する。 (6) 以上のとおり,被告の前記(4) の行為は本件特許権を侵害するものであるが,原告は,これにより,本件特許発明の実施料に相当する損害を被った。この実施料相当額は,被告製品の販売価格の5%を下らないところ,被告製品の価格は1個当たり約15万円であり,被告の系列のガソリンスタンドは全国で約5280店舗ある。そして,被告製品である看板は各店舗に少なくとも2個以上設置されているから,被告製品は少なくとも1万0560個使用されていることになる。 したがって,本件の実施料相当額は,7920万円を下らない。 (計算式 10,560 ×150,000 ×0.05 =79,200,000) (7) よって,原告は,被告に対し,不法行為に基づく損害賠償請求として7920万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成13年1月18日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 2 請求原因に対する認否及び被告の主張 (1) 請求原因に対する認否 請求原因(1),(2),(3) の各事実は認める。 請求原因(4)のうち,被告がその特約店であるガソリンスタンドにおいて被告製品(「JOMO」の記載のあるサインポールの電飾看板)を使用させていることは認めるが,その構造は否認する。被告製品の具体的な構造等は,別紙「物件目録(被告提出)」(以下「被告目録」という。)に記載のとおりである。 請求原因(5) は否認する。被告製品は,後記のとおり,本件特許発明の技術的範囲に属しない。 請求原因(6) は否認し,争う。 (2) 被告の主張 ア 被告製品は,本件特許発明の構成要件を充足しない。これを各構成要件についてみると,次のとおりである。 (ア)構成要件@について 本件特許発明の構成要件@は「透明プラスチック板の上に画像を形成させた透明画像板を表側に」となっているのに対し,被告製品の構成は,「表側に位置する透明アクリル板1の内側に透明粘着剤層2,透明塩ビフィルム3,透明プライマー層4,着色インキ層5がその順にあり」というものである。 被告製品の「透明アクリル板1」が構成要件@の「透明プラスチック板」に該当するとしても,「透明アクリル板」の上に「画像」を形成していない。 すなわち,被告製品の「透明アクリル板1」と「着色インキ層5」との間には,「透明粘着剤層2」「透明塩ビフィルム3」「透明プライマー層4」が介在している。このうちの「透明粘着剤層2」は,「透明アクリル板」と「透明塩ビフィルム3」とを接着するため,「透明塩ビフィルム3」に塗布しているのであり,また,「透明塩ビフィルム3」は,「着色インキ層5」「白色インキ層6」などの支持体ともいうべきものである。このような支持体を必要とするのは,上記各層がミクロン単位の極めて薄い層であるからである。さらに,「透明プライマー層4」は,「透明塩ビフィルム3」と「着色インキ層5」との密接性を上げるために,「透明塩ビフィルム3」の上に形成したものである。印刷技術を用いて被告製品のような電飾看板を製造するには,このような層が必要となる。 被告製品は,上記のとおり極めて薄い「着色インキ層5」を用いているので,そのほかの層を必要としたのであるが,本件特許発明は,被告製品の「透明塩ビフィルム3」「透明プライマー層4」に相当するものを必要としない。 以上によれば,被告製品は,本件特許発明の構成要件@を充足しない。 (イ)構成要件Aについて 本件特許発明の構成要件Aは,「半透明白色プラスチック板の上に画像を形成させた半透明白色画像板を内側に」となっているのに対し,被告製品は「また,その内側に白色インキ層6,着色インキ層5と同じ色の着色インキ層5’があり」というものである。 構成要件Aの「半透明白色プラスチック板」にいう「板」は,被告製品の「白色インキ層6」にいう「層」に該当しない。 すなわち,本件明細書は「板」という用語について別段の定義をしていないので,その有する普通の意味でこれを用いているものと解される。そこで,一般の用語例をみると,「板」とは「材木を薄く平たくひきわったもの。金属や石などを薄く平たくしたもの。」をいうところ(広辞苑第4版140頁),その点から,「板」には「固いもの」という意味もある(小学館・新選国語辞典61頁)。 それゆえ,構成要件Aの「半透明プラスチック板」は,それ自体で一定の形体を保持し得るような固さを有するものであることを意味すると解すべきである。 一方,被告製品の「白色インキ層6」は厚さ1〜3μm程度の極めて薄いものであって,構成要件Aの「板」には該当しないというべきである。 また,同様に,被告製品の1〜3μm程度の極めて薄い「白色インキ層6」の上に同じく厚さ2〜8μm程度の極めて薄い「着色インキ層5’」を印刷したものは,構成要件Aの「半透明白色画像板」にいう「画像板」に該当しない。 以上によれば,被告製品は,本件特許発明の構成要件Aを充足しない。 (ウ)構成要件Bについて 本件特許発明の構成要件Bは,「半透明白色プラスチック板の両側に画像があるようにして」となっているのに対し,被告製品は前記(イ)のとおり「半透明白色プラスチック板」を有するものではないので,その両側に「画像がある」ものにはなり得ない。 したがって,被告製品は,本件特許発明の構成要件Bを充足しない。 (エ)構成要件Cについて 本件特許発明の構成要件Cは,「この両画像が完全に一致したところで,透明画像板と半透明白色画像板を接着固定したものよりなる」となっているのに対し,被告製品はそのような構造を有しない。 すなわち,構成要件Cにいう「透明画像板」は,「透明プラスチック板の上に画像を形成させた」ものであるのに対し,被告製品は,前記(ア)のとおり,「透明プラスチック板1」の上に「画像」を形成していない。そして,構成要件Cにいう「半透明白色画像板」は,「半透明白色プラスチック板の上に画像を形成させた」ものであるのに対し,被告製品は,前記(イ)のとおり,本件特許発明のように「半透明白色プラスチック板」の上に「画像」を形成していない。 また,本件特許発明の構成要件Cは,「透明画像板と半透明白色画像板を接着固定した」ものであるところ,仮に,被告製品の「透明アクリル板1の内側に透明粘着剤層2,透明塩ビフィルム3,透明プライマー層4,着色インキ層5がその順にあり」という構造が「透明画像板」に,被告製品の「また,その内側に白色インキ層6,着色インキ層5と同じ色の着色インキ層5’があり」という構造が「半透明白色画像板」にそれぞれ対応しているとしても,被告製品においては,この両者は「接着固定」されていない。 すなわち,本件明細書は,「接着固定」の用語について別段の定義をしていないので,用語の普通の意味についてみるに,「接着」とは「くっつけること」(広辞苑第4版1446頁)をいい,「固定」とは「動かないようにすること」(同945頁)をいうところ,本件特許発明の透過光と反射光兼用画像板を製造する方法に係る特許請求の範囲2の発明につき,その特許請求の範囲には「透明画像板A半透明白色画像板Bを透明接着剤で接着固定する」(本件公報1欄26行〜27行)と記載され,本件特許発明に関しても,本件公報の第1図に,実施例として透明画像板と半透明白色画像板とが透明接着剤で接着し一体となった構造が図示されている。 一方,被告製品では,「透明粘着剤層2」「透明塩ビフィルム3」「透明プライマー層4」「着色インキ層5」がある「透明アクリル板1の内側」に「白色インキ層6」が印刷され,その内側に「着色インキ層5’」が,更にその内側に「透明保護クリアー層7」が順次印刷されているにすぎない。 このように,被告製品においては,構成要件Cにいう「接着固定」するという技術手段は採用していない。 さらに,本件特許発明では「透明画像板」と「半透明白色画像板」との間に必然的に接着剤が介在するところ,被告製品では接着剤は介在していない。 以上によれば,被告製品は,本件特許発明の構成要件Cを充足しない。 イ 本件特許権に基づく原告の請求は,権利濫用に当たり許されない。 本件特許発明は昭和56年4月4日に出願されたものであるところ,出願前の公知技術として次のものがある。 (ア) 昭和46年10月6日に出願公告された実公昭46-28803号実用新案公報(乙1)記載の考案(以下「乙1考案」という。) (イ) 昭和49年10月5日に公開された実開昭49-116993号のマイクロフィルム(乙2の1)記載の考案(以下「乙2考案」という。) (ウ) 昭和51年6月29日に出願公告された実公昭51-25574号実用新案公報(乙3)記載の考案(以下「乙3考案」という。) (エ) 昭和53年11月17日に公開された特開昭53-131838号公開特許公報(乙4)記載の発明(以下「乙4発明」という。) 上記の公知技術を総合すると,本件特許発明は,特許出願前に日本国内において頒布された刊行物に記載された発明と実質的に同一であるか,仮にそうでないとしても,本件特許発明の出願前に当業者が前記公知技術に基づいて容易に発明をすることができたものというべきである。 そして,当該特許に無効理由が存在することが明らかなときは,その特許権に基づく差止め,損害賠償の請求は,特段の事情がない限り,権利の濫用に当たり許されないと解されるところ,本件特許発明は前記公知技術と実質的に同一であるか,又は公知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであって,本件特許には特許法123条1項2号所定の同法29条の規定に違反して特許されたという無効理由が存在することが明らかであり,上記特段の事情も存しない。 したがって,本件特許権に基づく原告の本訴請求は,権利濫用に当たり許されない。 ウ 仮に,本件特許に無効理由が存しないとしても,上記の乙1ないし4の考案・発明の存在を前提として本件特許発明の構成要件を解釈すると,被告製品は本件特許発明の技術的範囲に属しない。 すなわち,本件特許発明の構成と乙1考案の構成とを対比すると,両者の相違は,本件特許発明では「透明プラスチック板」と「半透明白色プラスチック板」を用い,かつ,「(透明プラスチック板の上に画像を形成させた)透明画像板と(半透明白色プラスチック板の上に画像を形成させた)半透明白色画像板を接着固定」する構成を採用したのに対して,乙1考案では,「半透明プラスチツクス,フィルムの表裏両面にインキ皮膜を形成」する構成を採用した点にある。 そうすると,公知技術である乙1考案との関係においては,本件特許発明は上記の構成を採用したことのみに特徴があるものといわざるを得ない。 これに対して,被告製品の構造は,別紙被告目録のとおりであり,本件特許発明にいう「半透明白色プラスチック板」を用いておらず,また,「透明画像板と半透明白色画像板を接着固定」するという構造を有しない。 次に,前記公知技術のうち,乙3考案を参酌することとして,本件特許発明の構成と乙3考案の構成とを対比すると,両者の相違は,本件特許発明では「透明プラスチック板」「半透明白色プラスチック板」を用い,かつ,「透明画像板と半透明白色画像板を接着固定」する構成を採用したのに対して,乙3考案では,「透明プラスチックシート」「合成紙」の構成を採用した点にある。 そうすると,公知技術である乙3考案との関係においては,本件特許発明は上記の構成を採用したことのみに特徴があるものといわざるを得ない。 これに対して,被告製品の構造は,別紙被告目録のとおりであり,本件特許発明の「透明プラスチック板」に相当する「透明アクリル板1」は用いているが,「半透明白色プラスチック板」を用いること及び「透明画像板と半透明白色画像板を接着固定」するという構造を有しない。 以上のとおり,出願前の公知技術との関係で本件特許発明の構成を解釈すると,被告製品は本件特許発明の技術的範囲に属しない。 3 被告の主張に対する原告の反論 (1) 被告目録記載の構造を前提にしても,被告製品は本件特許発明の技術的範囲に属する。 すなわち,被告目録のV図面を基に被告製品の構造を分説すると,次のとおりである。 (@') 透明アクリル板1の裏側に,透明粘着剤層2,透明塩ビフィルム3,透明プライマー層4,画像を構成する着色インキ層(画像)5がその順に配置された,透明画像板aを表側に (A') 半透明白色インキ層6の裏側に,着色インキ層(画像)5’のある半透明白色画像部bを内側に (B') 半透明白色インキ層6の両側に,着色インキ層5,5’があるようにして, (C') 着色インキ層5,5’の両画像を完全に一致させて,透明画像板aと半透明白色画像部bを一体とし,さらにその裏側に,透明保護クリアー層7を配置した透過光と反射光兼用画像板 (なお,被告製品の6の部分につき,被告は「白色インキ層」というが,原告の主張においては「半透明白色インキ層」の語を用いる。) そして,上記の被告製品の構造と本件特許発明の構成要件とを対比すると以下のとおりである。 ア 被告製品の構造(@') について 被告製品の「透明アクリル板1」「着色インキ層5」は,本件特許発明の構成要件@の「透明プラスチック板」「画像」にそれぞれ該当する。 そして,被告製品の「着色インキ層」は,「透明アクリル板1」の「裏側」に配置され,「透明画像板a」を構成している。 被告製品では,「透明アクリル板1」と「着色インキ層5」との間に,「透明粘着剤層2」「透明塩ビフィルム3」「透明プライマー層4」が存在するが,本件公報の第1図では「透明接着剤2」は存在するものの,「透明塩ビフィルム3」「透明プライマー層4」は存在しない。 しかし,「透明塩ビフィルム3」「透明プライマー層4」は,「透明アクリル板1」の裏側に「着色インキ層5」を配置,固定,印刷するための付加的構造にすぎず,本件特許発明が解決した技術的課題とは無関係であるから,本件特許発明の技術的範囲を定めるに当たって何ら意味を有しない。 したがって,被告製品の構造(@') は,本件特許発明の構成要件@を充足する。 イ 被告製品の構造(A') について 被告製品の「着色インキ層5’」は,本件特許発明の構成要件Aの「画像」に該当する。「着色インキ層5’」は,「半透明白色インキ層6」の「裏側」に配置され,「半透明白色画像部b」を構成し,前記透明画像板aの「内側に」配置されている。 被告製品では「半透明白色インキ層6」となっているのに対し,本件特許発明の構成要件Aでは「半透明白色プラスチック板」となっており,この点において相違するようにもみえる。しかし,本件特許発明は,両画像の間に,透過光を適切に透過し,同時に反射光を適切に反射することのできる半透明白色プラスチック板が存在する点を特徴とするものであり,半透明白色プラスチック板と同等の効果を有する半透明白色体であれば,たとえその素材がインキであったとしても,本件特許発明の技術的範囲に属するというべきである。 そして,本件特許発明における「半透明白色画像板」の「板」とは,薄く平らかなものを正面からみた場合の表現であるのに対し,「インキ層」の「層」とは断面を見た場合を指しており,見る方向による表現の差異にすぎない。被告製品の「インキ層」も板状のものであり,「板」の概念に包含される。 したがって,被告製品の構造(A') は,本件特許発明の構成要件Aを充足する。 ウ 被告製品の構造(B') について 被告製品では,「半透明白色インキ層6」の「両側に」,「着色インキ層5」と「着色インキ層5’」が配置されている。 前記イのとおり,「半透明白色プラスチック板」か「半透明白色インキ層」かは,本件特許発明の技術的範囲に属するか否かの判断に当たっては重要な意味を有しないから,被告製品の構造(B') は,本件特許発明の構成要件Bを充足する。 エ 被告製品の構造 (C') について 被告製品では,「着色インキ層5」と「着色インキ層5’」の両画像は完全に一致するように配置される。そして,透明画像板aと半透明白色画像部bを一体として,さらにその裏側に「透明保護クリアー層7」が配置され,天地模様の透過光と反射光兼用の画像板を形成する。 本件特許発明の構成要件Cでは,透明画像板と半透明白色画像板とが「接着固定」されるものであるところ,被告は,被告製品では「板」を「接着固定」することはないと主張する。 しかし,この点の相違は,被告製品では「半透明白色インキ層」を印刷により他の層と接着するという製造方法を採っていることに起因するものであり,構造上の差異には当たらない。 なお,被告製品では「透明保護クリアー層7」が配置されているが,単なる保護層にすぎないから,構造上重要な意味を有しない。 したがって,被告製品の構造(C') は,本件特許発明の構成要件Cを充足する。 (2) 本件特許発明は,両画像の間に「半透明白色プラスチック板」を配置することにより,従来の技術とは異なり,透過光反射光兼用画像板として,極めて顕著な効果を発揮する点に進歩性が認められた発明である。 被告は,前記2(2) イ記載の考案等を挙げてこれを公知技術と称し,本件特許発明が無効である旨主張するが,以下のとおり理由がない。 ア 乙1考案について 乙1考案に係る明細書の実用新案登録請求の範囲には「透明または半透明プラスチツクス,フイルムの表裏両面にオフセツト耐候(光)性速乾性インキ皮膜を密着形成せしめたことを特徴とする立体的デイスプレイ効果を有する印刷物。」と記載されている。 被告は,このうち「半透明プラスチツクス」を用いた場合が本件特許発明と同一であるかのように主張する。 しかし,「半透明プラスチツクス」は,正面からの太陽光を透過させてしまうため,乙1考案では反射光による鮮明な画像を見ることはできない。 また,「半透明プラスチツクス」は,背面からの透過光の光源(例えば蛍光灯)まで透過して見せてしまうことがあり,使用に耐えない。 これに対し,本件特許発明は,両画像の間に「半透明白色プラスチック板」を用いるため,太陽光すなわち反射光を適切に反射するだけでなく,透過光の光源が透過して見えることもない。 以上のとおり,乙1考案と本件特許発明は全く異なるものである。 イ 乙2考案について 乙2考案に係る明細書(ただし,補正後のもの)の実用新案登録請求の範囲には「光源1を内装した匣体2の開放正面3に,紙葉或いは合成樹脂シートに印刷または焼付けた多色刷り印刷,写真片4を,2枚重ね合せて張設した写真片または印刷シートの装飾灯。」と記載されている。 乙2考案では,写真片4が2枚重ねて張設されているだけで,画像の間に半透明白色体は全く用いられていない。その上,この考案は,透過光の光源に関する考案であり,透過光反射光兼用画像板に関する技術ではない。 さらに,写真が不透明な紙等に印刷されている場合は,背後からの光が透過せず,透明なシート等であれば反射光によって画像を見ることができず,考案としては未完成,不完全というほかはない。 以上のとおり,乙2考案は本件特許発明とは著しく異なるものである。 ウ 乙3考案について 乙3考案に係る明細書の実用新案登録請求の範囲には「光を透過した場合両面の印刷図柄が一致するように粗面化した合成紙の両面に印刷を施し,少くとも片方の表面に透明プラスチックシートを貼合したことを特徴とする装飾シート。」と記載されている。 乙3考案で用いられる「粗面化した合成紙」は,本件特許発明における「半透明白色プラスチック板」とは著しく異なる。 すなわち,この考案は「粗面化した合成紙」を用いることにより,パルプ紙印刷物の場合にパルプ繊維が見えるという欠陥を改善したものとされている。 しかし,合成紙もあくまで紙であるため,半透明であったとしても透過光の透過率は極めて低いものにとどまる。その結果,合成紙を用いて透過光反射光兼用画像板を作っても,透過光による画像がほとんど見えず,実施不能である。 本件特許発明における「半透明プラスチック板」は,反射光を適切に反射する一方,透過光を適切に透過する点において画期的発明となっている。 エ 乙4発明について 乙4発明に係る明細書の特許請求の範囲1〜8には,写真乳剤層とリジン層を形成する2枚の印画部を接着する方法が述べられているが,リジン層は,不透明白色であり透過光でこれを見ることは著しく困難である。 本件特許発明は,これと異なり,半透明白色プラスチック板を用いることにより,透過光と反射光との兼用を可能としたものであり,両者は著しく異なるものである。 以上のとおり,本件特許発明は,被告が指摘する乙1考案〜乙3考案及び乙4発明とは技術的に見て全く異なるものであり,本件特許発明には被告の主張するような無効理由は存在しない。 |
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当裁判所の判断
1 請求原因(1) (原告が本件特許権の特許権者であったこと),同(2) (本件明細書の特許請求の範囲の記載),同(3) (構成要件の分説)については,当事者間に争いがない。 2 請求原因(4) のうち,被告がその特約店であるガソリンスタンドにおいて被告製品(「JOMO」の記載のあるサインポールの電飾看板)を使用させていることは,当事者間に争いがない。被告製品の構造については,証拠(乙5の1,2,検乙1)によれば,6の層を「白色インキ層」と表記するか「半透明白色インキ層」と表記するかの点を除き,被告目録のV図面のとおりと認められる。 そこで,被告製品の構造が被告目録のV図面のとおりであることを前提として,被告製品が本件特許発明の技術的範囲に含まれるかどうかを検討する。 証拠(乙5の1,2,検乙1)及び弁論の全趣旨によれば,被告製品の構成のうち「透明塩ビフィルム3」,「透明プライマー層4」及び「透明保護クリヤー層7」は,印刷インキを定着し,インキ層を保護するために配置された付加的な構成であると認められる。 これらを除いた構成と本件特許発明とを対比した場合,被告製品の「透明アクリル板1」,「着色インキ層5」,「(半透明)白色インキ層6」及び「着色インキ層5’」が,本件特許発明の「透明プラスチック板」,「画像」「半透明白色プラスチック板」及び内側の「画像」(本件公報の第1図参照)とその配置及び光学的な機能に関して一応の対応関係にあることは,当事者間に争いがない。そして,上記構成のうち,「透明アクリル板1」と「透明プラスチック板」及び「着色インキ層5,同5’」と「両画像」がそれぞれ対応するものであることも,当事者間に争いがない。 以上によれば,構成要件充足性における争点は,被告製品の「(半透明)白色インキ層6」が本件特許発明の「半透明白色プラスチック板」に該当するかという点である。 3 そこで,この点について検討すると,本件明細書における特許請求の範囲の記載及び発明の詳細な説明欄の実施例の記載からすれば,本件特許発明の画像板は,「半透明白色プラスチック板」の上に画像を形成させた半透明白色画像板が,透明画像板に形成された画像と一致したところ(位置)で透明画像板と接着固定されてなるものであるから,「半透明白色プラスチック板」についても,半透明で白色であるという光学的な性質を有することに加えて,少なくとも所定の厚みを有し,それ自体単独で存在し得る性状の部材であると解するのが相当である。 一方,被告製品における「(半透明)白色インキ層6」は,厚みがあるといっても数μm程度の印刷層であり(乙5の1,2により認められる。),板状の部材として単独で存在し得るものではないと考えられ,「(半透明)白色インキ層」の上に「着色インキ層」が形成されたものが単独で存在し,着色インキ層の画像が一致したところで透明画像板と接着固定されている,といえるものでもない。 したがって,被告製品の「(半透明)白色インキ層6」は,本件特許発明の「半透明白色プラスチック板」に該当せず,被告製品は,少なくとも本件特許発明の構成要件A,同Bを充足しないものというべきである。 4 上記の判断は,以下のとおり,本件特許権の出願前の公知技術である乙1ないし4の考案・発明(乙1〜4によれば,これらの考案・発明が,本件特許権出願前に頒布された刊行物に記載されていることが認められる。)と本件特許発明を対比して検討した結果に照らしても,是認できるところである。 (1) 乙1考案について 乙1考案は,立体的ディスプレイ効果を有する印刷物に係るものである。 従来,透明紙印刷物の肉乗りの悪い欠点を補い,透視のときに2倍濃厚な模様等を顕現するために,セロハン紙等の透明紙の両面の同一位置に模様等を印刷したものがあった。しかし,この従来技術では,色再現性等の特性を発揮させること及び反射光,透過光の両方によって立体的にディスプレイの効果を顕現させることができない。そこで,乙1考案は,透明又は半透明プラスチックス,フィルムの表裏両面にオフセット耐候(光)性速乾性インキ皮膜を密着形成させたものである(乙1〔実用新案公報〕により認められる。)。 (2) 乙2考案について 乙2考案は,写真片又は印刷シートの装飾灯に係るものである。 従来,写真フィルムを用いて裏側から光を当てる装飾灯があったが,光源が消灯したときは暗く,両面がはっきりしないという欠点があった。そこで,乙2考案は,光源を内装した箱体正面に,紙葉あるいは合成樹脂シートに印刷又は焼き付けた多色刷り印刷,写真片を2枚張り合わせて張設したものである。これにより,裏面からの光を受けても写真の色彩が薄くなることがなく,光源を利用しないとき,すなわち反射光で見たとき,写真は特に濃く印刷していないので天然色を維持することができる(乙2の1〜3〔マイクロフィルム,手続補正書〕により認められる。)。 (3) 乙3考案について 乙3考案は,装飾宣伝用シートに係るものである。 従来,装飾・宣伝用等のパネルには,パルプ紙印刷物,パルプ紙印刷物とプラスチックシートとの貼合物,透明プラスチックシートの印刷物が使用されているが,光を透過して装飾効果を得ようとする場合に,パルプ紙の印刷物であるとパルプ繊維が見えて基材の不均一性が目立ち,透明プラスチックシートの印刷物であると裏面に光を乱反射させる基材を用いないと効果が得られないという問題点があった。 乙3考案は,光を均一に散乱させる組織を有する半透明ないし不透明な粗面化した合成紙を用い,光を透過した場合に両面の印刷図柄が一致するように,合成紙の両面に印刷を施し,少なくとも一方の面に透明プラスチックシートを貼合したものである。これにより,パルプ紙を用いた場合のようにパルプの繊維が見えることがなく,透明プラスチックシートのように印刷物の裏側に光を散乱させる材料を用いる必要がないという作用効果を奏することができる(乙3〔実用新案公報〕により認められる。)。 (4) 乙4発明について 乙4発明は,透過光及び反射光両用写真及びその成形方法に係るものである。 一般に,写真には,透過光を利用して鑑賞できる透明なガラス板又はフィルム面に印刷したものと,反射光を利用して鑑賞できる印画紙の感光面に印刷したものがあるが,この両者を兼用できる写真はなかった。 乙4発明は,同一画像を有する2枚の写真の各印刷面を形成する写真乳剤層とリジン層を印画紙から剥離し,前記画像が一致するように互いに接着したものである。これにより,昼間は反射光利用の写真となり,また夜間は点灯された電源による透過光利用の写真となる。そして,いずれの場合も鮮明な画像を提供できるという作用効果を奏する(乙4〔公開特許公報〕により認められる。)。 上記(1)〜(4)を前提に,本件特許発明の画像板と乙1考案〜乙3考案及び乙4発明の画像板とを比較するに,両者は透過光及び反射光のいずれを利用しても鮮明な画像が得られるという効果において共通する。 そして,その完成時の構造をみると,本件特許発明は,「透明プラスチック板-画像-半透明白色プラスチック板-画像」というものであるのに対し,乙1考案においては「画像-半透明プラスチック板-画像」,乙2考案においては「画像-合成樹脂シート-画像-合成樹脂シート」,乙3考案においては「透明プラスチック板-画像-半透明合成紙-画像」,乙4発明においては「透明プラスチックフィルム-画像-透明プラスチックフィルム-画像」となっており,一見すると類似しているようにみえる。 しかし,本件明細書の特許請求の範囲及び実施例の記載からすれば,本件特許発明にいう画像板は,「透明プラスチック板上に画像を形成した透明画像板」と「半透明白色プラスチック板上に画像を形成した半透明白色画像板」を備え,この2つの画像板を「半透明白色プラスチック板の両面に画像があるようにして接着固定」して構成したものと認めることができる。 すなわち,乙1考案〜乙3考案及び乙4発明の存在にもかかわらず本件特許発明が特許されたことからすれば,本件特許発明は,画像板を形成する層の性状(機能,材質)やその並べ方で特定された構造のみに特徴がある発明というわけではなく,製造方法(作成手順)によっても特徴づけられた(特定された)物の発明と理解するべきである。 この点について,乙1,3の各考案においては,画像板は,半透明プラスチック板(合成紙)の両面に画像を印刷して形成されたものであり,それぞれに画像が形成された2つの画像板を接着固定するという技術思想がない。また,乙2の考案における画像板は表面に画像が形成された2枚の合成樹脂シート(半透明シート)を張り合わせて形成したもの,乙4の発明における画像板は表面に画像が形成された2枚の透明プラスチックフィルムを張り合わせて形成したものであって,それぞれに画像が形成された2つの画像板を接着するという点では本件特許発明と共通するものの,それが透明のプラスチック板と半透明白色のプラスチック板という異なった種類の画像板であるという点については示唆されていない。 以上のとおり,本件特許発明は透明プラスチック板と半透明白色プラスチック板の両方に画像が形成されたものを接着して形成した構成に特徴があるところ,被告製品においては,画像板は透明プラスチック板に印刷層であるところの画像インキ層,(半透明)白色インキ層を重ねて形成(印刷)したものであり,半透明プラスチック板を備えているということができないので,本件特許発明の構成要件を充足しているとは認められない。 5 以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担につき民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 三村量一 |
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裁判官 | 和久田道雄 |
裁判官 | 田中孝一 |