審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成14ワ3043特許権侵害差止請求事件 | 判例 | 特許 |
平成11ワ3942特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成11ワ101特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成14ワ7743特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成11ワ8434特許権侵害差止請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 技術常識 / 発明の詳細な説明 / 実施 / 加工 / 構成要件 / 差止請求(差止) / 侵害 / 請求の範囲 / |
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事件 |
平成
12年
(ワ)
19529号
特許権侵害差止請求事件
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原告 日鉱商事株式会社 訴訟代理人弁護士 久保田 穰 同 増井和夫 訴訟復代理人弁護士 橋口尚幸 被告 ハインツ日本株式会社 訴訟代理人弁護士 大塚一郎 同 三橋 友紀子 同 西田武 補佐人弁理士 大石征郎 |
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裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 2001/11/28 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 被告は,別紙目録1の(1)ないし(4)及び(8)ないし(10)記載のペットフードの宣伝文書に,「茶葉から抽出された」との表示を用いてはならない。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用はこれを5分し,その1を被告の,その余を原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
1 主位的請求 被告は,別紙目録1記載のペットフードを製造,販売してはならない。 2 予備的請求 (1) 被告は,別紙目録1記載のペットフード又はその宣伝文書に別紙目録2記載の表示を使用してはならない。 (2) 被告は,以下のペットフードを販売してはならない。 ア 別紙目録2の(1)及び(2)の表示を付した,別紙目録1の(1)ないし(4)記載のペットフード イ 別紙目録2の(1)ないし(3)の表示を付した,別紙目録1の(5)ないし(7)記載のペットフード ウ 別紙目録2の(1),(2)及び(4)の表示を付した,別紙目録1の(8)ないし(10)記載のペットフード |
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事案の概要
原告は,ペットフードを製造,販売する被告に対し,主位的には,特許権に基づいてその製造,販売の差止めを求め,予備的には,被告がその製品等に付した表示は,商品の品質,内容について誤認させる表示であるとして,不正競争防止法に基づいて,表示の使用の差止め及び製品の販売の差止めを求めた。 1 争いのない事実 (1) 原告は,金属加工品及び化学品等の販売を業とする株式会社であり,被告は食品及びペットフード等の製造販売を業とする株式会社である。 (2) 原告は,下記の特許権(以下「本件特許権」といい,その発明を「本件発明」という。)を有している。 特許番号 2507602号 発明の名称 ペットフード,ペットフード用排泄物消臭剤およびペットの排泄物消臭方法 出願 平成元年6月15日 登録 平成8年4月2日 特許請求の範囲【請求項1】 ペット用の飼料と,茶葉の生葉の抽出物もしくは茶葉の乾燥葉の抽出物からなる排泄物消臭成分とを含有していることを特徴とする,ペットフード。 (3) 本件発明の特許請求の範囲の記載(請求項1)を構成要件に分説すると以下のとおりとなる。 A ペット用の飼料を含有していること。 B 茶葉の生葉の抽出物もしくは茶葉の乾燥葉の抽出物からなる排泄物消臭成分を含有していること。 C ペットフードであること。 (4) 被告は,平成6年ころから,別紙目録1記載のペットフード(以下「被告製品」という。)を販売している(なお,被告が被告製品を製造していること,別紙目録1の(5)ないし(7)記載のペットフードを平成10年11月以降も販売していることについては争いがある。)。 (5) 被告製品の容器の表面には,以下の表示が付されている。 ア 被告製品のすべてに,別紙目録2(1)の表示及び同(2)の表示が付されている。 イ 別紙目録1の(5)ないし(7)記載のペットフードには,別紙目録2(3)の表示が付されていた(現在の販売については争いがある。)。 ウ 別紙目録1の(8)ないし(10)記載のペットフードには,別紙目録2(4)の表示が付されている。 (6) 被告が被告製品の宣伝用に作成配布している文書(甲7)には,被告製品の説明として,別紙目録2(5)が記載されている。 2 争点及び当事者の主張〔主位的請求──特許権侵害〕 被告製品は構成要件Bを充足するか。 (原告の主張) 被告製品は,以下の理由から,茶葉の生葉の抽出物もしくは茶葉の乾燥葉の抽出物(以下「茶葉の抽出物」という場合がある。)からなる排泄物消臭成分を含有している。よって,被告製品は構成要件Bを充足し,被告製品を製造,販売する行為は本件特許権侵害を構成する。 (1) 被告は,被告製品は,20mmHg という減圧条件下で,摂氏180ないし200度に加熱する方法で製造した緑茶乾留物のみを含み,抽出物を含んでいないと主張する。しかし,被告の同主張は,以下のとおり失当である。 緑茶の消臭成分を代表するのはカテキン類であるから,「緑茶消臭成分配合」と表示する被告製品も,カテキン類を主要消臭成分としていると推測される。 また,被告は,訴外白井松新薬株式会社(以下「白井松新薬」という。)が製造した原料を使用しているが,白井松新薬の届出に係る既存添加物名簿収載品目リストの記載からも,本件乾留物にはカテキン類が含まれていると判断できる。 ところで,「乾留」とは,固形物に含まれる蒸発性の成分を,加熱により沸騰,留出させてこれを加熱器の外で冷却し,液化して採取するところの蒸留の一態様であるが,カテキン類は相当に分子量が大きく,多数の水酸基を有する複雑な構造であるから,その沸点は相当程度に高くなるものと思われ,被告の主張に係る20mmHg程度の減圧条件下で,摂氏180ないし200度に加熱する乾留によってカテキン類が採取されるということは,技術常識から見て考えられない。以上のとおり,被告製品は,緑茶の抽出物が含まれていると推測される。 (2) 本件明細書の実施例の記載によれば,25キログラムの茶葉を使用して50グラムの乾留物を得ると記載されているので,収率は0.2パーセントに止まる。これに対し,アルコール抽出法によれば,カテキン類を含む高い消臭効果を有する抽出物を高い収率で得ることができる。原料となる茶葉の価格等を考慮しても,被告製品が茶葉の乾留物のみを使用しているとは考えられない。 (3) 被告は,被告製品やその宣伝用文書に,「緑茶消臭成分配合」,「緑茶エキス」,「さらに,猫の糞尿臭をやわらげる効果のある緑茶消臭成分を配合。」,「さらに猫の糞尿臭をやわらげる効果のある緑茶消臭成分を配合しています。」,「緑茶消臭成分とは,茶葉から抽出された自然エキスです。悪臭の成分をつつみこみ,分解,中和するため,いやな臭いをやわらげます。」と記載しているところから,被告製品が茶葉の抽出物を含有することは明らかである。 (被告の主張) 構成要件Bにおける「抽出物」は,水や溶剤による抽出物のみを指し,茶葉を減圧条件下に乾留して得られる乾留物を含まない。 被告製品に含まれる緑茶消臭成分は,白井松新薬が,「FS(フレッシュシライマツ)-500G」及び「フレーバーアップ」の製品名で製造販売する緑茶乾留物(以下「本件乾留物」という。)である。被告製品は,20mmHgという減圧条件下で,摂氏180ないし200度に加熱する方法で製造した緑茶乾留物のみを含み,抽出物を含んでいないから,被告製品は,構成要件Bを充足しない。 (1) 本件乾留物と茶葉の抽出物とでは,高速液体クロマトグラフによる成分比較において大きく異なり,被告製品には茶葉の抽出物が含まれていないことが分かる。本件乾留物は,カテキン類を有意な量として含むものではないが,茶葉の抽出物よりも大きな消臭効果を有している。原告は,緑茶の消臭成分はカテキン類に限られるとの前提に立って,被告製品には乾留物が含まれていないと主張するが,原告の同主張は失当である。 (2) 原告は,減圧乾留の方法は収率が低いので,乾留物を使用することには経済合理性がない旨主張する。しかし,確かに,20mmHg,摂氏180ないし200度程度の減圧乾留では収量は大きくないが,消臭に関係しない夾雑物の割合が小さいので,本件乾留物の消臭効果は極めてすぐれている。 〔予備的請求──不正競争防止法に基づく請求〕 被告が被告製品に「緑茶消臭成分」「抽出」「エキス」等の表示をすることは,商品の品質,内容を誤認させる不正競争行為に当たるか。 (原告の主張) 高速液体クロマトグラフィーその他の方法による分析結果では,本件乾留物には,緑茶の消臭成分であるカテキン類及びカテキン類以外のポリフェノール化合物は含まれておらず,少量のカフェイン以外には,実質的な量の有機化合物は含まれていないことが判明した。 それにもかかわらず,被告は,このような原料を含有させた被告製品及びその宣伝文書に,別紙目録2記載のとおり,緑茶消臭成分又は緑茶エキスを配合し,糞尿臭をやわらげる効果がある,茶葉から抽出された自然エキスである旨の表示をしているが,このような表示は,商品の品質,内容を誤認させる不正競争行為(不正競争防止法2条1項12号)に当たる。 ところで,原告は,訴外日進香料株式会社に委託して生産させた茶葉の抽出物を,これを使用したペットフードを製造する訴外いなば食品株式会社(以下「いなば食品」という。)に販売しているから,別紙目録2記載の表示を付したペットフードを販売する被告の行為は,原告の営業上の利益を侵害する。 (被告の主張) 緑茶には,カテキン類以外にも消臭成分が含まれている。カテキン類は緑茶に含まれる消臭成分の一つであるが,その消臭効果は必ずしも高くなく,純粋なカテキン類の消臭力は,カテキン類の含量の少ない粗製品よりも劣る。本件乾留物は,緑茶の重要な消臭成分を巧みに取り出したものであり,被告製品には本件乾留物が使用されている。したがって,「緑茶消臭成分」あるいは「緑茶エキス」を配合している旨表示することは,不正競争行為には当たらない。 |
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争点に対する判断
〔主位的請求──特許権侵害〕 1 被告製品が構成要件Bを充足しているか否かについて検討する。 (1) 構成要件Bにおける「抽出物」の意義 構成要件Bにおける「抽出物」とは,以下のとおり,水やアルコール等の溶液中に溶出させ分離回収することによって得られたものという趣旨に限定され,これ以外の方法によって得られたものは含まないと解するのが相当である(なお,この点の解釈について,当事者間に争いはない。) すなわち,@本件発明の出願前の公知文献として,特公昭61-8694号(甲9)があり,その「特許請求の範囲」(第1項)には「茶を乾留して得られる沸点範囲が20mmHgの場合で180〜200℃にある乾留分を有効成分とする消臭剤。」と記載され,また,特公昭60-18383号(乙2)があり,その「特許請求の範囲」には「ツバキ科植物の乾留分であってその沸点が20mmHgにおいて180〜200℃に相当する留分を有効成分とする食品の風味改良剤。」と記載されていること,A本件発明の当初出願明細書における「特許請求の範囲」には,「ツバキ科植物あるいはクスノキ科植物の生葉もしくは乾燥葉の抽出物,あるいは乾溜物を含有することを特徴とするペットフード」と記載されていたが,平成6年8月24日,「乾溜物」という文言を削除した上,「ツバキ科植物あるいはクスノキ科植物の生葉もしくは乾燥葉の抽出物を飼料100重量部当たり0.01〜0.05重量部含有することを特徴とする排泄物の臭気を減少させるペットフード」と補正され,その後,さらに補正及び訂正により「ペット用の飼料と,茶葉の生葉の抽出物もしくは茶葉の乾燥葉の抽出物からなる排泄物消臭成分とを含有していることを特徴とする,ペットフード。」となったこと(甲3,乙4,5,6,25),さらに,B本件発明の詳細な説明の欄には,「こうした抽出物は,茶葉の生葉又は乾燥葉を,水やアルコール系溶剤によって抽出することによって得ることができる」と記載されていることに照らして,「抽出物」を上記のとおり狭義に解釈すべきことは明らかである。 (2) 被告製品の販売について 証拠(乙12,13)及び弁論の全趣旨によれば,以下のとおりの事実が認められ,これに反する証拠はない。 ア 別紙目録1の(1)ないし(4)記載のペットフードは,訴外三洋食品株式会社が白井松新薬から購入した本件乾留物(FS-500G)を使用して製造し,被告が販売している。 イ 別紙目録1の(8)ないし(10)記載のペットフードは,訴外三菱商事株式会社が白井松新薬から購入した本件乾留物(フレーバーアップ)を使用して製造し,被告が販売している。 ウ 本件全証拠によるも,被告が,別紙目録1の(5)ないし(7)記載のペットフードを販売していることを認めることはできない(甲7には,同記載のペットフードである「猫の気持」シリーズが掲載されているが,平成10年4月時点におけるものであり,現在販売していないとの上記認定を左右するものではない。)。 (3) 被告製品と構成要件Bとの対比について ア 証拠(甲4,5,8,15ないし18,20,21,24ないし28,乙3,26,28,29)及び弁論の趣旨によれば以下の事実が認められ,これに反する証拠はない。 (ア) 本件乾留物のサンプリング及び分析結果について 財団法人日本食品分析センター(以下「食品分析センター」という。)が実施した,白井松新薬の工場内に存在する本件乾留物(FS-500G及びフレーバーアップ)に関する分析結果は以下のとおりである。 すなわち,本件乾留物のうちFS-500G(液状製品)を対象とした,ガスクロマトグラフ法,高速液体クロマトグラフ法,液体クロマトグラフ-質量分析法その他の方法による分析結果では,水分,グリセリン,エタノールのほか,灰分,ナトリウム,クエン酸,無水カフェインが検出されたものの,カテキン類についてはすべて検出限界(0.5ミリグラム/100グラム)以下となり,検出されなかった。また,本件乾留物のうちフレーバーアップ(粉末製品)を対象とした,高速液体クロマトグラフ法,液体クロマトグラフ-質量分析法による分析を行った結果では,無水カフェインは検出されたものの,カテキン類についてはすべて前記検出限界以下となり,検出されなかった。 (イ) お茶の水女子大学における茶葉の乾留実験等について お茶の水女子大学理学部化学科D教授が実施した,茶葉の乾留実験の内容及び分析結果は以下のとおりである。 白井松新薬の工場の製造施設から採取した緑茶乾留物の原液にFS-500Gと同様の配合割合でグリセリン,エタノール,精製水を加えたもの(以下「FS-500G同等品」という。)を対象とする分析,及び白井松新薬が原料として用いている茶葉(粉茶)及びバンドヒーターを用いて茶葉の乾留実験を行った。 上記茶葉及びバンドヒーターを用いて,乾留塔内の温度200ないし205度,減圧度20mmHgという条件下で3時間15分乾留を行い,200グラムの茶葉から,赤褐色油状物302ミリグラム,褐色固形物361ミリグラム及び液体27.04グラムを得た(この時得られた乾留物を本項において「乾留物」という。)。 次に,FS-500G同等品の減圧蒸留を行い,3種類の留分(そのうち沸点175度ないし177度,19ないし20mmHgの条件で分画された留分を本項において「留分」という。)に分画し,残渣(本項において「残渣」という。)及びトラップからの回収物を得た。 留分,残渣,乾留物を対象とした,薄層クロマトグラフィー(TLC)による分析の結果によれば,いずれにもカフェインが含まれることは認められたが,その余の成分については,特定されるに至らなかった。留分と残渣を対象とした,核磁気共鳴スペクトル(NMR)による分析の結果によれば,芳香族プロトンのプロトン化学シフトの範囲内に吸収ピークは観測されなかった。このことは,ポリフェノールなどの芳香族化合物が,留分及び残渣には含まれていないことを示唆する。 (ウ) 原告製品の成分について 「カメリア50EX」(以下「原告製品」という。)は,訴外日進香料株式会社が,緑茶の成分をアルコールで抽出し,脂質,夾雑物を取り除いて精製処理した緑茶抽出物(液体)であり,原告はこれを購入して,販売している。 食品分析センターが,原告製品を対象にして実施した実験結果は以下のとおりである。すなわち,高速液体クロマトグラフィー及びガスクロマトグラフィーによる分析の結果では,原告製品には,エピガロカテキンガレートが12パーセント,エピカテキンが1.7パーセント,エピカテキンガレートが2.5パーセント,エピガロカテキンが6.5パーセント含まれているとされた。また,食品分析センターが原告の依頼を受けて再度実施した実験結果でも,試料100グラム当たり,エピカテキンが0.95グラム,エピガロカテキンが3.9グラム,エピカテキンガレートが1.8グラム,エピガロカテキンガレートが8.1グラム含まれているとされた。 (エ) 緑茶の成分について 茶葉の成分をアルコール等で抽出し精製した緑茶抽出物には,水分や灰分のほか,カテキン類等のフラボノイド,糖類,無水カフェイン,カテキン配糖体,アミノ酸,有機酸等の多くの成分が含まれている(エタノール抽出による緑茶抽出物の組成を分析したところ,カテキン類21.3パーセント,糖類12.8パーセント,無水カフェイン,1.7パーセント,全窒素0.9パーセント,灰分0.9パーセント,水分55.0パーセントとの結果が得られた例がある。)。 イ 以上認定した事実を基礎に判断する。 茶葉のアルコール(エタノール)抽出物には,原告製品を含め,カテキン類が約15ないし22パーセント程度含まれるのであるから,茶葉の抽出物(狭義)を本件乾留物にごく僅か混入しただけでも,カテキン類が検出されるはずである。ところが,食品分析センターが行った分析の結果によれば,本件乾留物には検出限界(0.5mg/100g)を超える量のカテキン類は含まれていないのであるから,本件乾留物には茶葉の抽出物は含まれていないのみならず,ごく僅かでも混入されていないものということができる。以上のとおりであるから,本件全証拠によるも,被告の製品が,茶葉の抽出物からなる排泄物消臭成分を含有していると認定することはできない。 2 よって,被告製品は本件発明の構成要件Bを充足しないので,原告の主位的請求は理由がない。 〔予備的請求──不正競争防止法に基づく請求〕 1 被告が被告製品等に「緑茶消臭成分」,「抽出」及び「エキス」の各表示をすることは,商品の品質,内容を誤認させる不正競争行為に当たるかについて検討する。 (1) 「緑茶消臭成分」との表示部分について ア 別紙目録2記載の各表示中,同目録(1)(緑茶消臭成分配合),同目録(3)(さらに,猫の糞尿臭をやわらげる効果のある緑茶消臭成分を配合。),同目録(4)(さらに猫の糞尿臭をやわらげる効果のある緑茶消臭成分を配合しています。),同目録(5)(緑茶消臭成分とは,茶葉から抽出された自然エキスです。悪臭の成分をつつみこみ,分解,中和するため,いやな臭いをやわらげます。)の各表示が被告製品の品質,内容を誤認させるものであるか否かについて検討する。 イ 証拠(それぞれの箇所で示す。)によれば,以下のとおりの事実が認められ,これに反する証拠はない。 (ア) 「緑茶抽出物の消臭効果について」と題する論文(甲8)には,以下のとおりの記載がある。 @ 同論文に先行する試験の内容として,エタノール抽出による緑茶抽出物を溶媒抽出によって葉緑素画分,精油画分,フラボノイド画分,残渣部画分に分画し,それぞれの消臭効果を試験したところ,糖類,アミノ酸類,有機酸類を含有する残渣部画分の消臭効果を示す数値は,フラボノイド類,カテキン類を含有するフラボノイド画分のそれよりも大きかった。 A 茶葉からエタノール抽出を行い精製した緑茶抽出物,精製して調整したカテキン類を混合し希釈したカテキン水溶液,緑茶水溶液の組成になるよう調整した糖類水溶液について消臭試験を行ったところ,緑茶抽出物(カテキン類とそれ以外の成分が混合されている。)とカテキン水溶液(カテキン類のみからなる。)については消臭効果が認められたものの,緑茶抽出物はカテキン水溶液よりも優れた消臭能力をもつとの結果が示された。 B 緑茶抽出物にはカテキン類,糖類以外にも,カテキン配糖体,アミノ酸,有機酸等の多くの成分が含有され,これらが悪臭の成分によっては消臭効果を発揮することも考えられ,消臭剤として実用に供するには抽出物全体を利用するのが効果的である。 C なお,緑茶抽出物の消臭機構については,フラボノイド類のフェノール基と-NH基との反応,アミノ酸による中和反応等の化学的作用,及び吸着,包接作用等の物理的作用等が考えられる(そのメカニズムを明確には述べていない。)。 (イ) なお,証拠(甲2,9,20,乙1,9,15ないし22)によれば,特公昭61-8694号の「特許請求の範囲」(第1項)には,「茶を乾留して得られる沸点範囲が20mmHgの場合で180〜200℃にある乾留分を有効成分とする消臭剤。」と記載されていること,白井松新薬は,昭和62年に,緑茶乾留エキスについて,消臭基剤としての医薬部外品の認可を得たこと,本件乾留物を含む茶葉の乾留物は,殺虫剤,化粧品,菓子,トイレタリー関連商品において,消臭剤などとして利用されていること,本件発明の詳細な説明の欄には,「ツバキ科植物及びクスノキ科植物の抽出物及び乾溜物に消臭効果があることは公知であり,これらの抽出物や乾溜物は,担体に含浸したり,紙や布等に含ませて粒状,粉状,シート状,その他様々な形状に成形して利用することが知られている」との記載のあることが認められる。 ウ 以上認定した事実によれば,カテキン類には,確かに消臭効果が認められるが,他方,フラボノイド類,カテキン類を抽出した後の残渣画分の方が大きい消臭効果を示し,またカテキン水溶液よりも緑茶抽出物の方が大きい消臭効果を示したことに照らすと,茶葉の成分中には,カテキン類又はフラボノイド類だけではなく,これら以外にも消臭効果を奏する成分があるということができる。 そうとすると,被告が,本件乾留物を使用した被告製品に,緑茶消臭成分を配合している旨の表示をすることが,商品の品質,内容を誤認させる不正競争行為に当たると直ちにいうことはできず,原告の主張は理由がないことになる。 (2) 「抽出」,「エキス」との各表示部分について ア 別紙目録2記載の各表示中,同目録(2)(緑茶エキス),同目録(5)(緑茶消臭成分とは,茶葉から抽出された自然エキスです。)の各表示が商品の品質,内容を誤認させるものであるか否かについて検討する。 イ 「抽出」 「抽出」の語は,その方法を特に限定せず,広く「抜きだすこと。混合物から特定の物質を分離して取り出すこと。」を意味する場合(広義と,「特定の成分を水やアルコール等の溶液中に溶出させ分離回収すること」を意味する場合(狭義)の両者があり得る。 しかし,前掲各証拠によれば,@緑茶成分を含んだペットフードについては,平成元年ころから,原告製品を使用した「いなば食品」のペットフードと白井松新薬の本件乾留物を使用した被告のペットフードとが競合し,両者の寡占状態にあったこと,A原告は,茶葉の抽出物からなることを特徴とするペットフードに係る本件特許権を有し,前記「いなば食品」の製品は,原告特許を実施した製品と推認されること,B他方,白井松新薬は,茶の乾留分を有効成分とする消臭剤に係る特許権を有し,被告製品は,同特許を実施した製品と推認されること,C被告製品が,「茶葉の抽出物」を使用している場合には,正に,原告の有する本件特許権の実施を意味すること,このような状況を前提にすると,茶葉の抽出物か乾留物かは,商品の品質及び内容を示す重要な要素であると理解されること等の事実を認めることができる。 そうすると,本件乾留物を使用した被告製品の宣伝文書に,別紙目録2(5)の「茶葉から抽出された」との表示を付する行為は,商品の品質,内容を誤認させるものであると解するのが相当である。 ウ 「エキス」 「エキス」の語は,これを狭義の抽出物の意味に限定して解するのは相当でなく,「緑茶エキス」あるいは「茶葉の自然のエキス」との表現に接した需用者は,単に茶葉の成分を取り出したものであると理解するのが一般的であると解される。したがって,被告製品及びその宣伝文書に「エキス」という表示を付する行為は,商品の品質,内容を誤認させるものではなく,不正競争行為には当たらないというべきである。 なお,原告は,乾留を行えば成分が熱分解するから,自然にはない成分が含まれる乾留物に「自然のエキス」と表示することは,商品の品質,内容を誤認させるものであると主張する。しかし,「自然のエキス」との表示に接した需用者は,合成された物質ではなく,自然の産物に由来する成分を集めた趣旨に理解するというべきであるから,茶葉を乾留することによって得られた本件乾留物を「自然のエキス」と表示することが,商品の品質,内容に誤認させるものであるとはいえない。不正競争行為に当たるとの原告の主張は採用できない。 2 小括 以上のとおり,別紙目録1の(1)ないし(4)及び(8)ないし(10)記載のペットフードの宣伝文書に「茶葉から抽出された」との表示を用いることは,不正競争行為に当たるから,その差止めを求める原告の請求は理由がある。 なお,別紙目録1の(5)ないし(7)記載のペットフードについては,被告が販売していると認めるに足りる証拠はないから,原告の請求は失当である。 〔結論〕 1 主位的請求は理由がないから棄却する。 2 予備的請求のうち,別紙目録1の(1)ないし(4)及び(8)ないし(10)記載のペットフードの宣伝文書に「茶葉から抽出された」との表示を用いることの差止めを求める部分は理由がある。その余の請求はいずれも理由がないので棄却する。 |
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追加 | |
目録1下記の商品名を有する猫用ペットフード(1)猫公爵厳選まぐろ・さけ・花がつお入り(2)猫公爵厳選ささみ・かつお・チーズ入り(3)猫公爵厳選まぐろ・かつお・チーズ入り(4)猫公爵厳選まぐろ・たら・ささみ(5)猫の気持まぐろ(6)猫の気持ささみ入りまぐろ(7)猫の気持かに入りまぐろ(8)ニャン・ミーまぐろかつおだしゼリー包み(9)ニャン・ミーあじ鶏がらスープゼリー包み(10)ニャン・ミー海の幸魚介スープゼリー包み目録2(1)緑茶消臭成分配合(2)緑茶エキス(3)さらに,猫の糞尿臭をやわらげる効果のある緑茶消臭成分を配合。 (4)さらに猫の糞尿臭をやわらげる効果のある緑茶消臭成分を配合しています。 (5)緑茶消臭成分とは,茶葉から抽出された自然エキスです。悪臭の成分をつつみこみ,分解,中和するため,いやな臭いをやわらげます。 |
裁判長裁判官 | 飯村敏明 |
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裁判官 | 谷有恒 |
裁判官 | 佐野信 |