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審判番号(事件番号) データベース 権利
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平成16ワ20636特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
関連ワード 新規性 /  公然実施(29条1項2号) /  29条1項3号 /  頒布された刊行物 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  発明特定事項 /  慣用技術 /  技術的範囲 /  発明の詳細な説明 /  警告 /  登録実用新案 /  置き換え /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  間接侵害 /  構成要件 /  課題解決に不可欠(課題の解決に不可欠) /  業として /  差止請求(差止) /  侵害 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 16年 (ワ) 10153号 特許権侵害差止等請求事件
原告 株式会社日新
訴訟代理人弁護士 藤本徹
同 近藤幸夫
訴訟代理人弁理士 東尾正博
同 鳥居和久
同 田川孝由
同 北川政徳
被告 株式会社ジャストコーポレーション
訴訟代理人弁護士 安原正之
同 佐藤治隆
同 小林郁夫
同 鷹見雅和
補佐人弁理士 平崎彦治
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2005/09/05
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告は、別紙物件目録1、2記載の製品を製造し、輸入し、販売し、又は販売の申出をしてはならない。
2 被告は、別紙物件目録1、2記載の物件を廃棄せよ。
3 被告は、原告に対し、660万円及びこれに対する平成16年10月3日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
本件は、盗難防止用ケースに関する特許権を有する原告が、被告によるケースの製造販売等が上記特許権を侵害すると主張して、その差止め等と損害賠償を請求した事案である。
1 前提となる事実(当事者間に争いがない。) (1) 原告は、盗難防止用ケース等の製造販売を業とする株式会社である。
被告は、盗難防止用ケース等の販売を業とする株式会社である。
(2) 原告は、下記の特許権を有している(以下、この特許権を「本件特許権」という。) 発明の名称 盗難防止用ケース 出願日 平成11年10月22日 登録日 平成13年10月5日 特許番号 第3238920号 ア 請求項1(以下、この発明を「本件発明1」という。) 未包装の商品を収納する貸出し或いは販売用の専用ケースにおいて、このケースに抜き差し自在に差し込むスライダのガイド手段をケース内に設け、このガイド手段にスライダを差し込み、上記スライダに固有のIDコードをもち、ショップの出入口を通過の際前記出入口に設置の高周波電磁界の発生により共振回路が共振して固有のIDコードの発信にともない前記高周波電磁界を変調させるような盗難防止用のタグを設けたことを特徴とする盗難防止用ケース。
イ 請求項3(以下、この発明を「本件発明3」という。) 未包装の商品を収納する貸出し或いは販売用の専用ケースにおいて、このケースに適宜のガイド手段をケース内に設けて、このガイド手段に抜き差し自在にスライダを差し込むと共に、上記ケース或いはガイド手段と上記スライダとの対向面に前記スライダの差し込みにともない押し戻され、かつ差し込み終了にともない係合関係になるような係止手段を設けたことを特徴とする盗難防止用ケース。
(3) 構成要件の分説 ア 本件発明1の構成は、次のとおり分説することができる。
(ア) 未包装の商品を収納する貸出し或いは販売用の専用ケースにおいて、
(イ)’このケースに抜き差し自在に差し込むスライダのガイド手段をケース内に設け、このガイド手段にスライダを差し込み、
(オ) 上記スライダに固有のIDコードをもち、ショップの出入口を通過の際前記出入口に設置の高周波電磁界の発生により共振回路が共振して固有のIDコードの発信にともない前記高周波電磁界を変調させるような盗難防止用のタグを設けたことを特徴とする (エ) 盗難防止用ケース。
イ 本件発明3の構成は、次のとおり分説することができる。
(ア) 未包装の商品を収納する貸出し或いは販売用の専用ケースにおいて、
(イ) このケースに適宜のガイド手段をケース内に設けて、このガイド手段に抜き差し自在にスライダを差し込むと共に、
(ウ) 上記ケース或いはガイド手段と上記スライダとの対向面に前記スライダの差し込みにともない押し戻され、かつ差し込み終了にともない係合関係になるような係止手段を設けたことを特徴とする (エ) 盗難防止用ケース。
(4) 被告は、平成16年8月ころから、別紙物件目録1の商品名(「DVDクイックレンタルロックケースVer.W」)で、添付の各図のとおりの製品(以下「被告製品1」という。)を、同年5月ころから、同目録2の商品名(「DVDクイックレンタルロックケースVer.V」)で、添付の各図のとおりの製品(以下「被告製品2」という。)を、業として製造販売し、販売の申し出をし、また、占有している(なお、被告製品の構造の説明については後記のとおり当事者間に争いがある。)。
2 争点 (1) 被告製品1が、本件発明3の技術的範囲に属するか。
(原告の主張) ア 被告製品1を説明すると、別紙物件目録1の「2.図面の説明」、
「3.構造の説明」のとおりであり、本件発明3の構成要件をすべて備えている。
構成要件(イ)について (ア) 被告製品1は、ロックプレート50を、ケース本体内部の所定位置まで上下左右にぶれなく挿入するためのガイドになる、突片18aないしc、ガイド突条19a、bやガイド壁40を本体内に設けており、ロックプレート50がケース本体内部の所定位置までぶれなく挿入されるから、「スライダをガイド手段に差し込む」という要件を備えている。
(イ) 被告は、ロックプレート50は解除具60を用いなければ本体から離脱させることができないから、「抜き差し自在」に差し込まれるものではないと主張する。しかし、解除具60は、ロックプレート50を本体から離脱させるための単なる工具であり、ネジで例えればドライバである。被告の主張は、ドライバがなければネジの締め付けや解除が行えないから、ネジの抜き差しが自由に行えないと言っているようなもので、失当である。
構成要件(ウ)について 被告製品1の係合突部21a、21bは左ケース半体10aの水平面である突壁20a、20bの上方に突出するようにそれぞれ形成されており、突壁20a、20bは、ロックプレート50の水平壁51cと対面している。したがって、被告製品1は、構成要件(ウ)の「上記スライダと上記ケース或いは係合溝との対向面に」、「係止手段を設けた」を充足する。
(被告の主張) ア 被告製品1を説明すると、別紙被告物件目録1の「2.図面の簡単な説明」、「3.符号の説明」、「4.構造の説明」のとおりである。
構成要件(イ)について (ア) 被告製品1は、「ガイド手段に抜き差し自在にスライダを差し込む」ものではないから、構成要件(イ)を備えない。
本件発明3では、スライダは、ガイド手段に係合あるいは嵌合する等して、「ガイド手段に」対し差し込むものである。
これに対し、被告製品1は、ロックプレート50を、ケース本体10の正面上部に設けたロックプレート差入口70からケース本体10に差入れるものであり、「ガイド手段に」差し込むものではない。また、被告製品1は、ロックプレート50をガイド手段に当たる突片18aないしc、ガイド突条19a、b及びガイド壁140a、140b(なお、ガイド突条30は、ガイド手段ではない。)に、係合あるいは嵌合する等して「差し込む」ものではない。
(イ) また、被告製品1は、ロックプレート50が、ケース本体10に挿入完了時点において、その有する係合突部53a、53bが、本体の係合突部21a、21bに引っかかることによって係止状態に置かれるものであって、この状態では、ロックプレート50は解除具60を用いなければ本体から離脱させることができないから、「抜き差し自在」に差し込まれるものではない。
(ウ) 本件発明3のスライダは、単に盗難防止用タグを貼りつけるためものであるのに対し、被告製品1のロックプレート50の機能は、ケース本体の開放を阻止することにあるから、技術思想が異なる。
構成要件(ウ)について 構成要件(ウ)は、ケース又はガイド手段とスライダとが対向する面を有していて、それぞれの面にスライダの差し込み終了に伴い係合関係になるような係止手段が設けられているという構成である。
被告製品1では、係止手段である係合突部53a、53bはロックプレート50の水平壁51cに形成され、係合突部21a、21bは左ケース半体10aの側壁11aに設けられているところ、水平壁51cと側壁11aは、対向面ではなく直交する面である。したがって、被告製品1では、係止手段は「スライダとの対向面に」設けられていない。
(2) 被告製品2が、本件発明3の技術的範囲に属するか。
(原告の主張) ア 被告製品2を説明すると、別紙物件目録2の「2.図面の説明」、
「3.構造の説明」のとおりであり、本件発明3の構成要件をすべて備えている。
構成要件(イ)について (ア) 被告製品2は、ロックプレート150を、ケース本体内部の所定位置まで上下左右にぶれなく挿入するためのガイドになる、突片118aないしc、
ガイド突条119やガイド壁140a、bを本体内に設けており、ロックプレート150がケース本体内部の所定位置までぶれなく挿入されるから、「スライダをガイド手段に差し込む」という要件を備えている。
(イ) 「抜き差し自在」の要件に関しては、前記(1)イ(イ)のとおり、解除具160は、ロックプレート150を本体から離脱させるための単なる工具であって、ロックプレート150自体の抜き差しが自在であることに変わりはない。
構成要件(ウ)について 被告製品2の係合突部153a、153bはロックプレート150の水平壁151に形成され、水平に設けられているから、係合凸部121a、121bも水平に設けられていなければ係合関係が得られない。両者は、対向面に設けられている。
(被告の主張) ア 被告製品2を説明すると、別紙被告物件目録2の「2.図面の簡単な説明」、「3.符号の説明」、「4.構造の説明」のとおりである。
構成要件(イ)について (ア) 被告製品2は、「ガイド手段に抜き差し自在にスライダを差し込む」ものではないから、構成要件(イ)を備えない。
本件発明3では、スライダは、ガイド手段に係合あるいは嵌合する等して、「ガイド手段に」対し差し込むものである。
これに対し、被告製品2は、ロックプレート150を、ケース本体110の正面上部に設けたロックプレート差入口170からケース本体110に差入れるものであり、「ガイド手段に」差し込むものではない。また、被告製品2は、
ロックプレート150をガイド手段に当たる突片118aないしc、ガイド突条119、130及びガイド壁140a、140bに、係合あるいは嵌合する等して「差し込む」ものではない。
(イ) また、被告製品2は、ロックプレート150が、ケース本体110に挿入完了時点において、その有する係合突部153a、153bが、本体の係合突部121a、121bに引っかかることによって係止状態に置かれるものであって、この状態では、ロックプレート150は解除具160を用いなければ本体から離脱させることができないから、「抜き差し自在」に差し込まれるものではない。
(ウ) 本件発明3のスライダは、単に盗難防止用タグを貼りつけるためものであるのに対し、被告製品2のロックプレート150の機能は、ケース本体の開放を阻止することにあるから、技術思想が異なる。
構成要件(ウ)について 構成要件(ウ)は、ケース又はガイド手段とスライダとが対向する面を有していて、それぞれの面にスライダの差し込み終了に伴い係合関係になるような係止手段が設けられているという構成である。
被告製品2では、係止手段である係合突部153a、153bはロックプレート150の水平壁151cに形成され、係合突部121a、121bは左ケース半体110aの側壁111aに設けられているところ、水平壁151cと側壁111aは、対向面ではなく直交する面である。したがって、被告製品2では、係止手段は「スライダとの対向面に」設けられていない。
(3) 本件発明3に係る特許は、特許無効審判により無効とされるべきものか。
(被告の主張) ア 発明未完成又は記載不備 (ア) 本件特許権の明細書(以下「本件明細書」という。)では、発明の課題は、商品陳列用ケースに防犯用のタグを使用した盗難防止を施すと共に、貸出や販売時にケースからタグを取り外して店側に残し、ケースを販売や貸出用に使用することとされ、発明の効果は、「ケース」「盗難防止用のタグ付のスライダ」及び「店側の解除具」が必須要件となっている。ところが、本件発明3は、「ケース」及び「スライダ」のみをその構成要件とするものであって、「盗難防止用のタグ」が構成要素とされておらず、「店側の解除具」も何ら特定されていないから、
これでは盗難防止効果が生じない。したがって、本件明細書で発明の効果として記載されている事項と、本件発明3の作用効果とは齟齬があるから、本件発明3は、
明細書記載の課題及び効果を生じることが不可能であって、発明未完成あるいは記載不備であるから、無効理由がある。
(イ) 本件発明3は、ケースから収納商品の取出しを防止する策を講じていないために、収納商品を自由に取り出すことができるケースをその内容とするものにすぎず、収納商品の盗難防止はできない。このように、本件発明3は、盗難防止という効果を生ずることが不可能なものであって、発明未完成あるいは記載不備であるから、無効理由がある。
(ウ) 本件発明3は、構成要件(イ)で、スライダはケースのガイド手段に対し、「抜き差し自在に」差し込まれるものとしている。ここで、「抜き差し自在」とは、文字通り何ら制約されることなくという意味に他ならない。ところが、
構成要件(ウ)では、係止手段がスライダの「差し込み終了にともない係合関係になる」ものとされており、スライダが抜き差し自在でないことが記載されている。したがって、本件発明はそれ自身矛盾を含むものであるから、発明未完成あるいは記載不備であるから、無効理由がある。
新規性進歩性 (ア) 被告は、レンタルビデオ店においてビデオテープの展示・貸出に用いられる製品「カギ付きクリアケース」(以下「引用例1」という。)を、遅くとも平成11年3月1日には販売を行っていた。
引用例1は、本件発明3の構成要件を全部備えている。したがって、
本件発明3は、特許出願前に公然実施されていた発明であるから、無効理由がある。
(イ) 本件発明3の構成要件(ア)、(ウ)、(エ)は、登録実用新案第3052834号公報(平成10年10月9日発行)(以下「引用例2」という。)記載の発明が備えている。そして、引用例2記載の発明のスリット溝5は「ガイド手段」に該当し、仮にそうでないとしても、登録実用新案第3027324号公報(平成8年8月9日発行)(以下「引用例3」という。)記載の発明の収納凹部が「ケース内に設けたガイド手段」に該当する。したがって、本件発明3は、引用例2、3から、当業者が容易に発明できたものである。
(ウ) 特開平9-115062号公報(平成9年5月2日発行。以下「乙第6号証刊行物」という。)には、本件発明3の構成要件を全部備えた発明が記載されている。
(エ) 特開平10-241064号公報(平成10年9月11日発行。以下「乙第7号証刊行物」という。)には、本件発明3の構成要件(ア)、(イ)、(エ)を備えた発明が記載されている。
乙第7号証刊行物には、スライダに該当する「警報ユニット」が、ガイド手段に該当する「警報ユニット収容室」に係止される旨の記載はないから、構成要件(ウ)の「係止手段」についての記載はない。しかし、警報ユニットを係止させるために警報ユニット収容室との間で係止手段を設けることは、引用例2、乙第6号証刊行物、特開平10-95449号公報(平成10年4月14日発行、以下「乙第8号証刊行物」という。)、特開平10-53292号公報(平成10年2月24日発行、以下「乙第9号証刊行物」という。)、実開平7-29692号公報(平成7年6月2日発行、以下「乙第10号証刊行物」という。)、登録実用新案第3028488号公報(平成8年9月3日発行、以下「乙第11号証刊行物」という。)記載の発明から、容易に想到し得るものである。
(オ) 乙第8号証刊行物には、本件発明3の構成要件を全部備えた発明が記載されている。
(カ) 乙第9号証刊行物には、本件発明3の構成要件を全部備えた発明が記載されている。
(キ) 乙第10号証刊行物には、「ケース内にガイド手段を設ける」点を除き、本件発明3の構成要件を備えた発明が記載されている。そして、乙第6ないし第9号証刊行物には、ケース内にガイド手段を設ける技術に関する開示があり、
これに基づけば、ガイド手段をケース内に設けることは容易に想到し得るものである。
(ク) 乙第11号証刊行物には、本件発明3の構成要件を全部備えた発明が記載されている。
(ケ) 仮にそうでないとしても、本件発明3は、乙第6ないし第11号証刊行物記載の発明に基づいて容易に発明することができたものである。
(原告の主張) ア 発明未完成又は記載不備について 発明特定事項は、特許請求の範囲の請求項の記載事項により決まるものであり、発明の詳細な説明から発明特定事項が決まるものではない。被告の主張は、本件明細書の発明の詳細な説明から特許請求の範囲発明特定事項を決めようとするものであって、発明特定事項の考え方が根本的に誤っている。
新規性進歩性について (ア) 被告は、引用例1について、引用例2に基づいて多少修正を施した製品であるとするが、いつ、どのように修正された製品かは全く不明である。原告が平成15年12月16日時点で入手した引用例1のケースでは、ロックプレートをケース内に挿入していく途中において、ロックプレートを左右に振れば、ロックプレートはリブ10a、10bに全く当たらず、左右に自由に振られる。このように、蓋2の内面のリブ10a、10bは、ロックプレートを所定位置までガイドする役割がないから、「ガイド手段」ではない。リブ10a、10bは、ケース内にビデオテープを収容した後、ビデオテープの外面と蓋2との面接触を防止して、透明なケースが傷つかないようにするためものである。
原告が本訴提起前に入手した引用例1のケースと、被告の手元にあるケース(被告が引用例1とするもの)は、リブの高さ、リブの当たりに微妙な差がある。被告は、全く役割の異なるリブを、ガイドらしくロックプレートがあたかも当たるように、リブの高さを、後から修正したのであろう。リブの高さを高くすることは、金型のリブ形成部分を深くするだけでよいから、極めて簡単に行えることである。
(イ) 引用例3の「収容凹部」は、商品を収容した収納本体11へ施錠部14を差し込むためのガイドではなく、蓋体13をヒンジ部12によって収納本体11に対して開閉する際に、施錠部14が蓋体13から落下しないように、これを蓋体13側に装着しておくためのものであって、施錠部14の収容凹部への装着は、蓋体13を開いた状態で行われる。
(4) 被告製品1の販売等が、本件発明1の間接侵害となるか (原告の主張) ア 被告製品1は、本件発明1の構成要件(ア)、(イ)’、(エ)を充足する。
構成要件(イ)’については、前記(1)(原告の主張)イのとおり、被告製品1は、ロックプレート50を挿入するためのガイドになる、突片18aないしc、ガイド突条19a、bやガイド壁40を本体内に設けており、ロックプレート50がケース本体内部の所定位置までぶれなく挿入されるから、「スライダをガイド手段に差し込む」という要件を備えている。
イ 被告製品1は、本件発明1の構成要件(オ)を欠く。
しかし、レンタルショップでは、被告製品1のロックプレート50に、
固有のIDコードをもち、ショップの出入口を通過の際前記出入口に設置の高周波電磁界の発生により共振回路が共振して固有のIDコードの発信にともない前記高周波電磁界を変調させるような盗難防止用のタグを貼り付けている。
この、ロックプレート50に上記盗難防止用のタグを貼り付けた被告製品1は、本件発明1の構成要件を充足する。
本件発明1の課題は、被告製品1のロックプレート50に盗難防止用のタグを貼り付けることによって解決されるので、被告製品1は、本件発明1による課題の解決に不可欠なものである。
原告は、被告に対し、平成15年7月7日付の通告書により、本件発明1の特許権侵害警告を行っており、被告は、本件発明1が原告の発明であること、及び被告製品1のロックプレート50に盗難防止用のタグを貼り付けることによって、被告製品1が本件発明1の実施に用いられることを知っている。
ウ したがって、被告が、被告製品1を業として販売し、販売の申出を行う行為は、特許法101条2号に該当する。
(被告の主張) ア 被告製品1は、構成要件(イ)’を充足しない。
(ア) 被告製品1は、ロックプレート50が、ケース本体10に挿入完了時点において、その有する係合突部53a、53bが、本体の係合突部21a、21bに引っかかることによって係止状態に置かれるものであって、この状態では、
ロックプレート50は解除具60を用いなければ本体から離脱させることができないから、「抜き差し自在」に差し込まれるものではない。
(イ) また、前記(1)(被告の主張)イ(ア)のとおり、被告製品1は、ロックプレート50を、ケース本体10に差し入れるものであり、「ガイド手段に」差し込むものではないし、ロックプレート50をガイド手段に当たる突片18aないしc、ガイド突条19a、b及びガイド壁140a、140bに、係合あるいは嵌合する等して「差し込む」ものではない。
(ウ) 本件発明1のスライダは、単に盗難防止用タグを貼りつけるためものであるのに対し、被告製品1のロックプレート50の機能は、ケース本体の開放を阻止することにあるから、技術思想が異なる。
イ 被告製品1は、本件発明1の課題の解決に不可欠のものではない。
本件発明1においては、盗難防止用のタグを用いること(構成要件(オ))が発明の特徴的部分(本質的部分)といえるのであって、他の構成要件のみでは、発明の特徴的部分とはいえない。したがって、被告製品1は、構成要件(オ)を欠くから、本件発明1の課題の解決に不可欠のものではない。
ウ レンタルショップでは、被告製品1に、「固有のIDコード」を持つタグを張り付けていない。固有のIDコードというのは、物に固有の番号を付して個体識別をし、主に商品・資材管理、原材料のトラッキングなどの目的で使用されるものである。しかし、例えばDVDレンタルショップにおける商品の盗難防止という目的からすれば、店の出入口通過の際に出入口に設置されているゲートを通過する際に、商品のタグが付されているか否か(タグの存否)のみが判別できれば十分であり、個体識別技術をする必要はなく、固有のIDコードは、機能的にも価格的にも極めて過剰な技術であるから、そのようなものは付されない。
(5) 被告製品2の販売等が、本件発明1の間接侵害となるか (原告の主張) ア 被告製品2は、本件発明1の構成要件(ア)、(イ)’、(エ)を充足する。
イ 被告製品2は、本件発明1の構成要件(オ)を欠く。
しかし、レンタルショップでは、被告製品2のロックプレート150に、固有のIDコードをもち、ショップの出入口を通過の際前記出入口に設置の高周波電磁界の発生により共振回路が共振して固有のIDコードの発信にともない前記高周波電磁界を変調させるような盗難防止用のタグを貼り付けている。
この、ロックプレート150に上記盗難防止用のタグを貼り付けた被告製品2は、本件発明1の構成要件を充足する。
本件発明1の課題は、被告製品2のロックプレート150に盗難防止用のタグを貼り付けることによって解決されるので、被告製品2は、本件発明1による課題の解決に不可欠なものである。
原告は、被告に対し、平成15年7月7日付の通告書により、本件発明1の特許権侵害警告を行っており、被告は、本件発明1が原告の発明であること、及び被告製品2のロックプレート150に盗難防止用のタグを貼り付けることによって、被告製品2が本件発明1の実施に用いられることを知っている。
ウ 被告が、被告製品2を業として販売し、販売の申出を行う行為は、特許法101条2号に該当する。
(被告の主張) ア 被告製品2は、構成要件(イ)’を充足しない。
(ア) 被告製品2は、ロックプレート150が、ケース本体110に挿入完了時点において、その有する係合突部153a、153bが、本体の係合突部121a、121bに引っかかることによって係止状態に置かれるものであって、この状態では、ロックプレート150は解除具160を用いなければ本体から離脱させることができないから、「抜き差し自在」に差し込まれるものではない。
(イ) また、被告製品2は、前記(2)(被告の主張)イ(ア)のとおり、ロックプレート150を、ケース本体110に差入れるものであり、「ガイド手段に」差し込むものではない。
(ウ) 被告製品2は、ロックプレート150をガイド手段に当たる突片118aないしc、ガイド突条119、130及びガイド壁140a、140bに、
係合あるいは嵌合する等して「差し込む」ものではない。
(エ) 本件発明1のスライダは、単に盗難防止用タグを貼りつけるためものであるのに対し、被告製品2のロックプレート150の機能は、ケース本体の開放を阻止することにあるから、技術思想が異なる。
イ 被告製品2は、本件発明1の課題の解決に不可欠のものではない。
本件発明1においては、盗難防止用のタグを用いること(構成要件(オ))が発明の特徴的部分(本質的部分)といえるのであって、他の構成要件のみでは、発明の特徴的部分とはいえない。したがって、被告製品2は、構成要件(オ)を欠くから、本件発明1の課題の解決に不可欠のものではない。
ウ レンタルショップでは、被告製品2に、「固有のIDコード」を持つタグを張り付けていない。前記(4)(被告の主張)ウのとおり、例えばDVDレンタルショップにおける商品の盗難防止という目的からすれば、固有のIDコードは、機能的にも価格的にも極めて過剰な技術であるから、そのようなものは付されないのである。
(6) 本件発明1に係る特許は、特許無効審判により無効とされるべきものか。
(被告の主張) ア 発明未完成又は記載不備 (ア) 本件発明1は、「ケース」及び「盗難防止用のタグ付きスライダ」のみをその構成要件とするものであるが、自在に抜き差しできるスライダを構成とし、スライダの抜き取り防止機能を有しないものでは、顧客が当該スライダを引き抜いてしまえば商品の盗難防止効果が生じない。
本件明細書では、発明の効果は、「係止手段によって店員以外による(係止手段による係合関係の解除を、店側の解除具により行う)スライダの抜き取りを防止することもできる。」とされ、スライダの抜き取りを防止するという作用効果が得られるとされているにもかかわらず、本件発明1は、スライダは単にガイド手段に差し込むものとされているだけであり、係止手段の構成を有しない。
したがって、本件発明1は、盗難防止という効果も、明細書記載の効果も生じないから、発明未完成あるいは記載不備であって、無効理由がある。
(イ) 本件発明1は、ケースから収納商品の取出しを防止する策を講じていないために、収納商品を自由に取り出すことができるケースをその内容とするものにすぎず、収納商品の盗難防止はできない。このように、本件発明1は、盗難防止という効果を生ずることが不可能なものであって、発明未完成あるいは記載不備であるから、無効理由がある。
新規性進歩性の欠如 (ア) 前記のとおり、被告は、製品「カギ付きクリアケース」(引用例1)を、遅くとも平成11年3月1日には販売を行っていた。
引用例1は、本件発明1の構成要件を全部を備えており、本件発明1は、特許出願前に公然実施されていた発明であるから、無効理由がある。
(イ) 引用例3記載の発明は、本件発明1の構成要件を全部備えており、
本件発明1は、特許出願前に公知となっており、また、頒布された刊行物に記載された発明であるから、無効理由がある。
(ウ) 乙第6号証刊行物には、本件発明1の構成要件を全部備えた発明が記載されている。
(エ) 乙第7号証刊行物には、本件発明1の構成要件(ア)、(イ)’、(エ)を備えた発明が記載されている。
乙第7号証刊行物記載の発明では、スライダに該当する「警報ユニット」には、自ら警報を発する自鳴式の防犯タグが設けられているから、この点において、自鳴式ではないタグを構成要素とする構成要件(オ)とは相違する。しかし、
自鳴式タグもそうでない通常のタグも周知慣用技術である。しかも、乙第7号証刊行物記載の発明における「警報ユニット」が、精算の済んでいない商品を店外に持ち出そうとした場合に出入口のゲートにおいて警報を発し万引きを防止するという作用を有する点において、本件発明1の盗難防止用のタグの作用効果と何ら差異はない。したがって、乙第7号証刊行物記載の発明の自鳴式タグを通常の防犯タグに置き換えることは、容易に想到し得るものである。
(オ) 乙第8号証刊行物には、本件発明1の構成要件(ア)、(イ)’、(エ)を備えた発明が記載されている。
乙第8号証刊行物記載の発明では、「スライダ」である「移動係止体」には盗難防止用のタグが設けられておらず、蓋体側に設置されている点で、盗難防止用のタグがスライダに設けられていることを要素とする構成要件(オ)とは相違する。しかし、乙第8号証刊行物記載の発明は、ケースの開放を阻止した上で、
精算の済んでいない商品を店外に持ち出そうとした場合に出入口のゲートにおいて警報を発し万引きを防止するという作用を有する点において、本件発明1の盗難防止用のタグの作用効果と何ら差異はない。したがって、乙第8号証刊行物記載の盗難防止用のタグを「移動係止体」に設けることは、容易に想到し得るものである。
(カ) 乙第9号証刊行物には、本件発明1の構成要件(ア)、(イ)’、(エ)を備えた発明が記載されている。
乙第9号証刊行物記載の発明では、「スライダ」である「ストッパー」には盗難防止用のタグが設けられておらず、本体に設置されているから、この点において、盗難防止用のタグがスライダに設けられていることを要素とする構成要件(オ)とは相違する。しかし、乙第9号証刊行物記載の発明は、ケースからの収納商品取出しを阻止した上で、精算の済んでいない商品を店外に持ち出そうとした場合に出入口のゲートにおいて警報を発し万引きを防止するという作用を有する点において、本件発明1の盗難防止用のタグの作用効果と何ら差異はない。したがって、乙第8号証刊行物記載の盗難防止用のタグを「移動係止体」に設けることは、
容易に想到し得るものである。
(キ) 乙第10号証刊行物には、構成要件(イ)’の「ケース内にガイド手段を設ける」を除き、本件発明1の構成要件を備えた発明が記載されている。そして、乙第6ないし第9号証刊行物には、ケース内にガイド手段を設ける技術に関する開示があり、これに基づいて、ガイド手段をケース内に設けることは容易に想到し得るものである。
(ク) 乙第11号証刊行物には、本件発明1の構成要件(ア)、(イ)’、
(エ)を備えた発明が記載されている。
乙第11号証刊行物記載の発明は、「スライダ」である「スライダ具」に盗難防止用のタグが設けられておらず、本体側に設置されているから、この点において、盗難防止用のタグがスライダに設けられていることを要素とする構成要件(オ)とは相違する。しかし、乙第11号証刊行物記載の発明は、ケースからの収納商品取出しを阻止した上で、精算の済んでいない商品を店外に持ち出そうとした場合に出入口のゲートにおいて警報を発し万引きを防止するという作用を有する点において、本件発明1の盗難防止用のタグの作用効果と何ら差異はない。したがって、乙第11号証刊行物記載の盗難防止用のタグを「スライダ具」に設けることは、容易に想到し得るものである。
(ケ) 仮にそうでないとしても、本件発明1は、乙第6ないし第11号証刊行物記載の発明に基づいて容易に発明することができたものである。
(原告の主張) ア 発明未完成又は記載不備について 被告の主張は、前記(3)の(原告の主張)アのとおり、当を得ないものである。
新規性進歩性の欠如について 被告の主張(ア)、(イ)(引用例1、3記載の発明と同一との点)は、前記(3)の(原告の主張)イのとおり、当を得ないものである。
(7) 損害 (原告の主張) 被告は、平成16年5月から被告製品2を販売しているが、同月から同年7月までの間に販売した売上高は1か月平均700万円を下らない。また、被告は、同年8月ころ以降被告製品1を販売しているが、同月の被告製品1、2の合計売上高は1200万円を下らない。したがって、被告の被告製品1、2の売上高は3300万円を下らない。
被告の利益率は、売上高の20パーセントを下らないから、特許法102条2項により原告の損害と推定される、被告製品の販売により被告が受けた利益は、660万円を下らない。
(被告の主張) 否認ないし争う。
当裁判所の判断
1 争点(3)(本件発明3に係る特許の無効理由)について (1) 乙第2号証によれば、引用例2には、「ビデオテープの貸出ケースにおいて、盗難防止を図った貸出ケースの提供」(【課題】)、「図1は本考案の貸出ケースとロックプレートを表している実施例である。貸出ケースは箱形本体1と蓋2から成り、蓋2は本体1と連続して成型されていて該本体の開口に合わさって閉じることが出来る。ビデオテープ3は本体1に収容されて蓋をすることが出来、蓋をしたところでロックプレート4を蓋の下端に形成しているスリット溝5に挿入してロックすることが出来る。ロックされた蓋2はロックプレート4を取り外さなければ開くことが出来ない。」(【0011】)、「そしてこのロックプレートには防犯シールが貼着されている」(【0012】)、「本体1の下面6には概略H型断面のリブ7、7が間に空間8をおいて形成され、両リブ7,7間にはロック9が下面6に突出している。・・・下面6にはスリット溝5が切り欠き凹部10に位置するようになっている。この状態で前記ロックプレート4がスリット溝5に嵌入してロック9と嵌合し、外れないようになる。」(【0013】)、「図3はロックプレートを表している具体例であり、プレート部11とロック部12から成っている。・・・ロック部12には複数本のツメ13、13…を有している。ツメ13、
13…は先端を中心側へ寄せて傾斜しており、該ツメ13、13…をロック9に押し当てるならば該ツメ13、13…は開いてロック9と係合する。」(【0014】)との記載とともに、未包装のビデオテープ3を収納したケースが図示されていることが認められ、これによれば、引用例2には、「未包装の商品であるビデオテープを収納する貸出し用の専用ケースにおいて、このケースの蓋の下端にスリット溝を設けて、このスリット溝に抜き差し自在に防犯シールを貼着したロックプレートを差し込むと共に、上記ケースとロックプレートとの対向面に、ロックプレートの差し込みに伴い押し戻され、かつ差し込み終了にともない係合関係になるツメとロックを設けたことを特徴とする盗難防止用ケース」が記載されていることが認められる。
そして、上記ロックプレートは「スライダ」、ツメとロックは「係止手段」、スリット溝は、ロックプレートが挿入される際にはその案内の役目をしているため「ガイド手段」ということができるから、本件発明3と引用例2記載の発明は、「未包装の商品を収納する貸出し用の専用ケースにおいて、このケースに適宜のガイド手段を設けて、このガイド手段に抜き差し自在にスライダを差し込むと共に、上記ケース或いはガイド手段と上記スライダとの対向面に前記スライダの差し込みに伴い押し戻され、かつ差し込み終了にともない係合関係になるような係止手段を設けたことを特徴とする盗難防止用ケース。」との点で一致し、ガイド手段が、本件発明3では、ケース内に設けられているのに対し、引用例2記載の発明では、ケースの蓋の下端にスリット溝として設けられている点で相違する。
(2) 乙第3号証によれば、引用例3には、「本考案は、レンタルビデオ店・・・等で商品の盗難を防止するためにテープカセット等を収納しておくテープカセット等の収納容器に関するものである。」(【0001】)、「従来、レンタルビデオ店・・・等では、・・・例えば、店の出入り口に磁気センサー等を設置し、店内に陳列された商品には、全て磁気コイル等を付けておくものが提案されていた。」(【0002】)、「蓋体13は、端面の開口部15a有した収納凹部15を備えている。また、蓋体13には施錠部14が着脱自在に装着されている。施錠部14は、図5に示す如く基板部14aと、係合部14bとから構成されている。」(【0012】)、「基板部14aは、薄い磁気コイル16等が形成されている。この磁気コイル16は外部の磁気反応装置に反応する。」(【0013】)、「蓋体13の収納凹部15に施錠部14を装着した状態で蓋体13を閉じる。」(【0014】)、「前記施錠部は、前記蓋体の略中央に形成された収納凹部に着脱自在に装着される」(【0020】)との記載とともに、収納凹部15が蓋体13のケース内部側に設けられていることが図示されていることが認められ、
これによれば、引用例3には、蓋体13のケース内部側に収納凹部15を設けて、
この収納凹部15に抜き差し自在に、防犯用の磁気コイル16を貼付けている施錠部14を差し込むことを特徴とする、商品を収納する盗難防止用ケースの発明が記載されているものと認められる。
そして、上記施錠部14は、防犯用の磁気コイル16を貼付けて、収納凹部15に抜き差し自在に差し込むものであるから「スライダ」であり、収納凹部15は、施錠部14が差し込まれる際に案内をするものであるから、「ガイド手段」ということができる。
そうだとすると、引用例2記載の発明と引用例3記載の発明は、同じく商品を収納する盗難防止用ケースに係る発明であって、技術分野が同一であり、引用例2記載の発明のスリット溝は、防犯シールを貼着してケース内に挿入するスライダを案内するもの、引用例3記載の発明の収納凹部は、防犯用の磁気コイル16を貼付けてケース内に挿入するスライダを案内するものであって、いずれも蓋に設けられるものであるから、引用例2記載の発明のスリット溝に代えて引用例3記載の発明のケース内に設けられている収納凹部(ガイド手段)とし、これに引用例2記載の発明のスライダを差し込むようにすることは、当業者において容易に発明することができたものというべきである。したがって、本件発明3に係る特許は、特許法29条2項に該当するものとして、特許無効審判により無効とされるべきものである。
(3) 原告は、引用例3記載の発明の「収容凹部」について、商品を収容した収納本体へ施錠部を差し込むためのガイドではなく、蓋体をヒンジ部によって収納本体に対して開閉する際に、施錠部が蓋体から落下しないように、これを蓋体側に装着しておくためのものであると主張する。しかし、施錠部が蓋体を開いた状態で収納凹部に差し込まれるとしても、収納凹部は、施錠部が差し込まれる際の案内(ガイド)をしていることに変わりはないから、ガイド手段ということの妨げとなるものでもないし、また、これを引用例2記載の発明のスリット溝に代えることの妨げとなるものでもない。
2 争点(6)(本件発明1に係る特許の無効理由)について (1) 前記1(2)認定に係る乙第3号証の記載によれば、引用例3には、未包装の商品であるカセットテープ等を収納する貸出用の専用ケースにおいて、このケースに抜き差し自在に差し込む施錠部を案内する収納凹部をケース内に設け、この収納凹部に施錠部を差し込み、上記施錠部に、例えば、店の出入り口に設置された外部の磁気反応装置に反応する盗難防止用の磁気コイルを貼付けたことを特徴とする、盗難防止用ケースの発明が記載されているものと認められる。
そして、引用例3記載の発明の施錠部は「スライダ」、収納凹部は「ガイド手段」に相当することは前示のとおりであるから、本件発明1と引用例3記載の発明は、「未包装の商品を収納する貸出し用の専用ケースにおいて、このケースに抜き差し自在に差し込むスライダのガイド手段を設け、このガイド手段にスライダを差し込み、上記スライダに盗難防止用のタグを設けたことを特徴とする盗難防止用ケース。」との点で一致し、盗難防止用のタグが、本件発明1では、「固有のIDコードをもち、ショップの出入口を通過の際前記出入口に設置の高周波電磁界の発生により共振回路が共振して固有のIDコードの発信にともない前記高周波電磁界を変調させるような」ものであるのに対し、引用例3記載の発明は、「店の出入り口に設置された外部の磁気反応装置に反応する盗難防止用の磁気コイル」である点で一応相違する。
(2) 甲第2号証によれば、本件明細書には、従来の技術及びその課題として「盗難を防止するために、レンタル商品或いはレンタル商品の収納ケースの任意の位置に固有のIDコード(電源のない)をもつ盗難防止タグを取り付けられ、ショップの出入口には、所定の高周波電磁界を発生させておき、レンタル商品が出入口を通過する際に前記の際IDコードの共振回路が共振して固有のIDコードを発信し、高周波電磁界が変調することによりそれを検出して商品の通過を検出し、それが貸し出されたものであるか、又は無断で持ち出されたものであるかを店員が監視するようにしている。しかしながら、・・シールドしなければ、・・・検出される不都合がある。このため、シールドの手続に煩わしい作業が必要になると共に、シールド用の備品によりコストが大幅にアップする問題があった。」(【0007】〜【0009】)との記載があることが認められ、上記記載によれば、本件特許権の出願前から、固有のIDコードをもち、ショップの出入口を通過の際前記出入口に設置の高周波電磁界の発生により共振回路が共振して固有のIDコードの発信に伴い前記高周波電磁界を変調させるような盗難防止用タグを設けることは、周知慣用の技術であったことが認められる。そして、「固有のIDコードをもち、高周波電磁界の発生により共振する共振回路」は磁気コイル、「高周波電磁界」は外部の磁気反応装置であるから、当業者が、引用例3に記載された「店の出入り口に設置された外部の磁気反応装置に反応する盗難防止用の磁気コイル」に接したときは、
周知慣用の技術である「固有のIDコードをもち、ショップの出入口を通過の際前記出入口に設置の高周波電磁界の発生により共振回路が共振して固有のIDコードの発信に伴い前記高周波電磁界を変調させるような盗難防止用タグ」を認識したものと認められる。
そうだとすると、上記一応の相違点は実質的な相違点ではなく、本件発明1は、引用例3記載の発明というべきであるから、本件発明1に係る特許は、特許法29条1項3号に該当するものとして、特許無効審判により無効とされるべきものである。
(3) 原告は、引用例3記載の発明の「収容凹部」について、商品を収容した収納本体へ施錠部を差し込むためのガイドではなく、蓋体をヒンジ部によって収納本体に対して開閉する際に、施錠部が蓋体から落下しないように、これを蓋体側に装着しておくためのものであると主張するが、これが前認定の妨げとならないことは、前記1(3)のとおりである。
3 結論 以上の次第で、その余について判断するまでもなく、原告の請求は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山田知司
裁判官 高松宏之
裁判官 守山修生