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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成8ワ16782特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成11ワ24433特許権損害賠償等請求事件 判例 特許
平成12ワ12728特許権侵害差止請求事件 判例 特許
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平成12ワ5352-A 特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
関連ワード 使用方法 /  頒布された刊行物 /  進歩性(29条2項) /  実施料相当額 /  消尽 /  権利の濫用(権利濫用) /  特許発明 /  実施 /  権原 /  加工 /  差止請求(差止) /  侵害 /  実施料 /  不法行為(民法709条) /  実施権 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 13年 (ワ) 6000号 特許権に基づく製造販売禁止等請求事件
原告 昭和デバイスプラント株式会社
被告 スカイアルミニウム株式会社
訴訟代理人弁護士 長谷川 俊明
同 山宮道代
同 松本宗大
同 橋本昌司
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2001/11/30
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告は,別紙物件目録記載の高速遠赤乾燥機の製造を第三者に委託したり,販売してはならない。
2 被告は,上記装置を廃棄せよ。
3 (主位的) 被告は,原告に対し,金1億500万円及びこれに対する平成13年4月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(予備的) 被告は,原告に対し,金4188万2480万円及びこれに対する平成13年7月25日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
事案の概要等
1 争いのない事実 (1) 当事者 原告は,赤外線温度制御ヒーターの製作販売等を業とする株式会社である。
被告は,アルミニウム加工品の製造及び販売等を業とする株式会社である。
(2) 原告が有する特許権 原告は,以下の特許権(以下「本件特許権」といい,その発明を「本件発明」という。)を有している。
【特許番号】 第2952264号 【発明の名称】 遠赤外線放射球 【出願日】 平成4年10月27日 【登録日】 平成11年7月16日 【特許請求の範囲】 別添「特許公報」該当欄記載のとおり (3) 被告は,原告から本件発明を実施して製造した遠赤外線放射球(以下「本件ヒーター」という。)を買い受け,これを組み込んだ別紙物件目録記載の高速遠赤外線乾燥機(以下「本件乾燥機」という。)の製造を富士科学器械株式会社(以下「富士科学器械」という。)に委託し,富士科学器械が製造した本件乾燥機を販売していた。
2 事案の概要 本件は,原告が被告に対し,本件発明の実施品である本件ヒーターを組み込んだ本件乾燥機を製造委託して販売する行為は,本件特許権を侵害するとして,本件乾燥機の製造委託及び販売の差止め並びに民法709条に基づく損害賠償を求める事案である。
3 本件の争点 (1) 被告が本件ヒーターを組み込んだ本件乾燥機を製造委託して販売する行為が本件特許権を侵害するといえるかどうか (2) 原告の損害等
争点に関する当事者の主張
1 争点(1)について 【被告の主張】 (1) 被告は,原告が本件発明を実施して製造した本件ヒーターを原告から購入し,本件乾燥機の部品として富士科学器械に支給している。そして,富士科学器械は本件ヒーターを組み込んだ本件乾燥機を製造し,それを被告が販売している。したがって,本件において,原告の本件特許権は消尽している。
なお,被告が原告から本件ヒーターを購入する際,その使途について乾燥装置開発に限定するとの条件がついていたという事実はない。
(2) 本件発明は,その出願前に全部公知である。すなわち,本件発明の内容は,別添特許公報記載のとおり,発熱体の上下を断熱材で挟み,それを金属板により形成される平板状の箱型ハウジング内に装着し,ハウジング裏面中央部に延設されるソケット支持本体と,この支持本体の先端に取り付けられ,外部電源と通電可能に接続されるソケット部を有し,ハウジング表面に発熱体の発熱に伴い遠赤外線を放射する遠赤外線放射層を付着させた遠赤外線放射球であるところ,外部電源と接続して発熱体に通電すると発熱体が熱を発生し,その熱が遠赤外線放射材に伝導し遠赤外線放射材が遠赤外線を放射する遠赤外線放射球は,遠赤外線ヒーターとして本件特許出願前に頒布された刊行物(乙3)に掲載されている。また,原告は,本件特許出願前である平成4年9月10日に本件ヒーターについて詳細に記載したパンフレット(乙2)を特許庁図書館に納入している。したがって,本件発明は,その出願前に頒布された刊行物に記載されており,また,進歩性を欠如しているから,本件特許は明らかに無効であり,このような無効な特許権に基づく原告の請求は権利濫用として認められない。
【原告の主張】 (1) 原告は,本件ヒーターを被告に販売したが,その使途は放射球を組み込んだ乾燥装置を開発するためである。
被告は,平成9年12月ころより,原告から購入した本件ヒーターを既に製品として完成した本件乾燥機に使用しており,このような使用方法は,上記目的外のものである。
(2) 被告の全部公知の主張は,すべて争う。
2 争点(2)について 【原告の主張】 (1) 主位的 被告は,遅くとも平成9年12月1日から平成13年3月末日までの間に本件乾燥機を製造委託して販売し,その間の売上高は,3億5000万円である。
被告は,本件乾燥機の製造委託販売により,少なくとも1億500万円の利益を得ている。
(2) 予備的 ア 被告は,平成12年9月までの間に,本件乾燥機を1台当たり1200万円で,28台販売した。
イ 被告の原告に対する技術料相当額は,12%であるところ,上記28台分の技術料総額は,4032万円となる(1200万円×28台×0.12)。
ウ また,本件乾燥機1台に組み込まれる本件ヒーター(単価7800円)は,144個であるところ,上記28台分の本件ヒーターの総個数は,4032個であるから,本件ヒーターの販売価格合計は,3144万9600円である。
本件ヒーターの実施料相当額は,5%であるところ,上記28台分に係る本件ヒーターの実施料相当額は,157万2480円となる(3144万9600円×0.05)。
エ したがって,被告は原告に対し,本件ヒーターに関し,技術料相当額及び実施料相当額合計4189万2480円を支払う義務を負う。
【被告の主張】 被告が,平成9年12月1日から平成13年3月末日までの間本件乾燥機を富士科学器械に委託して製造し,販売していたことは認め,その余はすべて争う。
争点に対する当裁判所の判断
1 特許権者又は特許権者から許諾を受けた実施権者(以下「特許権者等」という。)が我が国の国内において当該特許発明に係る製品(以下「特許製品」という。)を譲渡した場合には,当該特許製品については,特許権はその目的を達したものとして消尽し,もはや特許権の効力は,当該特許製品を使用し,譲渡する等の行為には及ばないものというべきである(最高裁平成9年7月1日第三小法廷判決・民集51巻6号2299頁参照)。
上記争いのない事実及び弁論の全趣旨によると,原告は被告に対し,本件発明を実施した製品である本件ヒーターを販売したこと,被告は,本件乾燥機の製造を富士科学器械に委託し,本件ヒーターを富士科学器械に支給していること,富士科学器械は本件ヒーターをそのまま組み込んだ本件乾燥機に製造し,被告は,富士科学器械が製造した本件乾燥機を販売していること,以上の事実が認められる。以上の事実からすると,原告から被告に販売された本件ヒーターについては,本件特許権は,その目的を達したものとして消尽し,被告が,原告から買い受けた本件ヒーターを組み込んだ本件乾燥機の製造を委託し,それを販売する行為には,本件特許権の効力は及ばないものというべきである。
2 この点,原告は,被告に対して本件ヒーターを販売したのは,本件乾燥機を製品として開発するためであり,製品として完成した後の製品に関しては本件ヒーターの使用を許諾していないと主張する。
証拠(甲16の1ないし17,甲16の19ないし29)及び弁論の全趣旨によると,原告と被告は,本件ヒーターを利用した高速乾燥機の開発を行っていたことが認められる。しかしながら,原告が被告に対して本件ヒーターを販売するに当たって本件ヒーターの使途を限定する旨の上記原告主張に係る合意があったことを認めるに足りる証拠はない。のみならず,原告自身,次のとおり,上記原告主張に係る合意の存在と矛盾する主張をしている。すなわち,原告は,平成13年7月24日付け予備的請求の申立書において,平成6年3月15日,原告と被告との間で,高速乾燥機の開発について,(1)被告は遠赤外線材料の開発をすること,(2)原告は,放射球を開発し,放射球を組み入れた高速乾燥機の装置の技術指導をすること,(3)被告は,高速乾燥機の製品を製造企業に委託し,原告は被告の委託した製造企業に対し,放射球と高速乾燥機の装置の開発について技術指導をすること,(4)高速乾燥機の開発に成功して,被告が高速乾燥機を販売したときは,高速乾燥機1台につき,技術料として高速乾燥機の販売価格の12パーセントを原告に支払うこと,高速乾燥機に組み込まれる放射球1個の販売価格7800円の5パーセントを実施料として支払うこと,を内容とする契約を締結した旨主張しているが,この契約は,原告が被告に販売した本件ヒーターを被告が製品として完成した後の高速乾燥機に組み込んで販売することを内容とする契約であるから,上記原告主張に係る合意の存在と矛盾するものである。したがって,上記原告主張に係る合意の存在を認めることはできない。
また,そもそも特許権者等が我が国の国内において特許製品を譲渡した場合に当該特許製品に関して特許権の効力が及ばないとされる実質的な根拠は,これを認めなければ,市場における商品の自由な流通が阻害されて,かえって特許権者自身の利益を害する結果を来し,ひいては特許法の目的にも反することとなり,他方,特許権者等は,譲渡代金を取得し,実施料を取得することによって,特許発明の公開の代償を確保する機会が保障されていることにあることに照らして考えると,原告の主張する上記合意が存在していたとしても,原告から被告に販売された本件ヒーターについて,本件特許権は,その目的を達したものとして消尽し,被告が,原告から買い受けた本件ヒーターを組み込んだ本件乾燥機の製造を委託し,それを販売する行為には,本件特許権の効力は及ばないと解するのが相当である。したがって,この点においても,原告の上記主張は理由がない。
3 以上の次第で,原告の本件請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がないから主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 森義之
裁判官 内藤裕之
裁判官 上田洋幸