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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成12ワ16531特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成11ワ2311特許権等侵害差止等請求事件 判例 特許
平成12ワ12728特許権侵害差止請求事件 判例 特許
平成12ワ7510特許権侵害差止請求事件 判例 特許
平成12ワ2091特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
関連ワード 公然実施(29条1項2号) /  頒布された刊行物 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  公知技術 /  技術的範囲 /  出願公開 /  権利の濫用(権利濫用) /  均等 /  置き換え /  置換 /  同一の作用効果 /  容易に想到(容易想到性) /  意識的除外(意識的に除外) /  実施 /  先使用権(先使用) /  加工 /  構成要件 /  差止請求(差止) /  侵害 /  訂正審判 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 12年 (ワ) 16275号 特許権侵害差止等請求事件
原告 株式会社金澤製作所
訴訟代理人弁護士 島田康男
被告 株式会社東京スペリア
被告 株式会社東京共榮商会
被告ら訴訟代理人弁護士 山田茂
同 小島功一
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2002/01/29
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告らは,別紙物件目録記載1及び2記載の物件を製造し,販売してはならない。
2 被告らは,被告ら本店,工場,作業所に有する別紙物件目録1及び2記載の物件及びその仕掛品を廃棄せよ。
事案の概要及び争点
1 争いのない事実等 (1) 原告は,土木建設機械の製造,販売を業とする株式会社である。被告株式会社東京スペリア(以下「被告東京スペリア」という。)は,土木建設機械の製造,販売,リースを業とする株式会社であり,被告株式会社東京共榮商会(以下「被告東京共榮商会」という。)は土木建設機械の製造,販売,リースを業とする株式会社である。
(2) 原告は,次の特許権(以下「本件特許権」といい,特許請求の範囲第1項の発明を「本件発明」という。また,本件特許に係る明細書を「本件明細書」という。)を有している。
ア 発明の名称 切換弁 イ 出願日 平成6年12月12日 ウ 出願番号 平6-332114 エ 出願公開日 平成8年6月25日 オ 出願公開番号 平8-166067 カ 登録日 平成10年12月4日 キ 特許番号 第2859546号 ク 特許請求の範囲 【請求項1】 「流入口と流出口とを備える注入管部に,該流入口と該流出口との間において弁管部が接続され,該弁管部内に弁体が軸心方向に変位動可能且つ回動可能に嵌合されて,該弁体の回動位置及び変位動位置に基づき,前記注入管部と前記弁管部との接続個所を遮断する注入状態と前記注入管部の流出口を外部に対して遮断する非注入状態とが取り得るようにされ,前記弁体に,前記注入状態及び前記非注入状態にするための駆動力を付与する駆動機構が連係されている切換弁において,前記駆動機構が,前記弁管部の周面に形成される案内溝と,前記弁体の外周面に突設され前記案内溝を介して外部に摺動可能に突出される案内棒と,前記弁管部の軸心上に軸心が配設されて,該弁管部に対して一端部が回転可能に支持され他端部が前記弁体の径方向中央部に螺合されているねじ棒と,を備え,前記案内溝が,前記弁管部の周方向に延びる第1案内溝部と,該第1案内溝部に連続し該弁管部の軸心方向に延びる第2案内溝部と,を有している,ことを特徴とする切換弁」 (3) 本件発明は,次のように分説される。
A 流入口と流出口とを備える注入管部に,該流入口と該流出口との間において弁管部が接続され, B 該弁管部内に弁体が軸心方向に変位動可能且つ回動可能に嵌合されて, C 該弁体の回動位置及び変位動位置に基づき,前記注入管部と前記弁管部との接続個所を遮断する注入状態と前記注入管部の流出口を外部に対して遮断する非注入状態とが取り得るようにされ, D 前記弁体に,前記注入状態及び前記非注入状態にするための駆動力を付与する駆動機構が連係されている切換弁において, E 前記駆動機構が,@前記弁管部の周面に形成される案内溝と,A前記弁体の外周面に突設され前記案内溝を介して外部に摺動可能に突出される案内棒と,B前記弁管部の軸心上に軸心が配設されて,該弁管部に対して一端部が回転可能に支持され他端部が前記弁体の径方向中央部に螺合されているねじ棒と,を備え, F 前記案内溝が,前記弁管部の周方向に延びる第1案内溝部と,該第1案内溝部に連続し該弁管部の軸心方向に延びる第2案内溝部とを有している G ことを特徴とする切換弁 2 本件は,本件特許権を有する原告が,被告らに対し,別紙物件目録1記載の切換弁(以下同目録添付の図面記載の装置を「イ号装置」という。)及び別紙物件目録2記載の切換弁(以下同目録添付の図面記載の装置を「ロ号装置」という。)を製造,販売する行為は,本件特許権を侵害すると主張して,それらの製造,販売の差止めを求めると共に,それら及びそれらの仕掛品の廃棄を求める事案である。
3 争点 (1) 被告らは,イ号装置及びロ号装置を製造,販売しているかどうか。
(2) 被告らが製造,販売している切換弁が,本件発明の技術的範囲に属するかどうか。
(3) 被告らが製造,販売している切換弁は,本件発明と均等かどうか。
(4) 本件特許に無効理由が存在することが明らかであるかどうか。
(5) 先使用の抗弁の成否。
4 争点に関する当事者の主張 (1) 争点(1)について 【原告の主張】 被告東京スペリアは,イ号装置及びロ号装置を製造,販売,リースしている。被告東京共榮商会は,別紙物件目録1及び2記載の切換弁を販売,リースしている。
【被告らの主張】 ア 被告東京スペリアが,別紙被告図面記載の切換弁をリースしたことはあるが,被告らが,別紙物件目録1記載の切換弁を製造,販売,リースしたことはない。 イ 被告東京スペリアが,別紙物件目録2添付の図面記載の切換弁(ただし,外筒下フランジが弁管の径方向に渡っていないもの)を製造,販売,リースしていることは認める。被告東京共榮商会は,別紙物件目録2添付の図面記載の切換弁(ただし,外筒下フランジが弁管の径方向に渡っていないもの)をリースした可能性があるが,この製品を販売していない。
(2) 争点(2)について 【原告の主張】 被告らが製造,販売,リースしているイ号装置及びロ号装置は,本件発明の構成要件AないしGを充足し,本件発明の技術的範囲に属する。
雄ねじ及び雌ねじが,弁管部の軸心上に軸心が配設され,弁体の径方向中央部に配設され,両者が螺合していれば,本件発明の構成要件EBを充足するところ,イ号装置及びロ号装置は,いずれも,そのような構成を有している。
【被告らの主張】 ア イ号装置において,雄ねじは弁体にボルトで固定されており,螺合されていない。また,雄ねじは,その中程の部分において合わせフランジを介して弁管部に支持されているが,回転可能に支持されていない。したがって,イ号装置は,本件発明の構成要件EBを充足しない。
イ ロ号装置において,雄ねじの一端部が回転可能に支持されているのは,弁管部に対してではなく,弁体に対してであり,また,他端部は弁体に螺合されておらず,弁管部に取り付けてある外筒フランジに螺合しているから,本件発明の構成要件EBを充足しない。
(3) 争点(3)について 【原告の主張】 ア 本件発明と被告ら装置との相違点 (ア) 本件発明とイ号装置との相違点 本件発明においては,@雄ねじは回転するが,軸心方向には変位動せず,A雌ねじは弁体に固定されており,B雄ねじの回転に伴って,雌ねじ及びこれに固定された弁体が軸心方向に変位動するのに対し,イ号装置においては,@雌ねじは回転するが,軸心方向には変位動せず,A雄ねじは弁体に固定されており,B雌ねじの回転に伴って,雄ねじ及びこれに摺動可能に保持された弁体が軸心方向に変位動するから,以上の点で本件発明とイ号装置とは異なる(以下「相違点イ」という。)。
(イ) 本件発明とロ号装置との相違点 本件発明においては,@雄ねじは回転するが,軸心方向には変位動せず,A雌ねじは弁体に固定されており,B雄ねじの回転に伴って,雌ねじ及びこれに固定された弁体が軸心方向に変位動するのに対し,ロ号装置においては,@雌ねじは,弁管部フランジ部に固定されているので,軸心方向には変位動しない,A雄ねじの頭部は,弁体底部に固定された円板状部材に回転可能に嵌合されており,雄ねじは工具によって回転し,軸心方向に変位動する,B雄ねじは軸心方向に変位動し,雄ねじの頭部はこれに従って円板状部材を押し上げ,引き下げし,弁体を軸心方向に変位動させるから,以上の点で本件発明とロ号装置とは異なる(以下「相違点ロ」という。)。
同一の作用効果を奏すること イ号装置及びロ号装置(以下「被告ら装置」という。)においては,弁体を所定の回動位置にするために,シリンダ装置との連結を外して弁体を回転させ,その後,再びシリンダ装置を連結する作業が不要となり,注入,非注入状態の切り換えに際しての作業性を向上させることができることになる。しかも,案内棒が外部に突出していることから,案内棒の位置を視認することにより,弁体の位置を確認することができ,このため上記切り換えを確実に行うことができる。したがって,被告ら装置は,本件発明と同一の作用効果を奏し,本件発明の目的を達成できる。
ウ 本質的部分でないこと 本件発明は,雄ねじと雌ねじの一方の回転運動あるいは直線運動を抑制することにより,雄ねじ又は雌ねじの回転運動を直線運動に転換する作用を利用して,弁体を軸心方向に変位動させることに特徴があるところ,雄ねじと雌ねじの一方の回転運動あるいは直線運動を抑制することにより,雄ねじ又は雌ねじの回転運動を直線運動に転換する組合せは1つに限らないのであり,本件発明における「弁管部の軸心上に軸心が配設されて,該弁管部に対して一端部が回転可能に支持され他端部が前記弁体の径方向中央部に螺合されているねじ棒」というのもその組合せの1つである。したがって,雄ねじと雌ねじの一方の回転運動又は直線運動を抑制することにより,雄ねじ又は雌ねじの回転運動を直線運動に転換する組合せとして上記のものを採用したことは,本件発明の本質的部分ということはできない。
容易に想到することができること 雄ねじと雌ねじの一方の回転運動又は直線運動を抑制することにより,雄ねじ又は雌ねじの回転運動を直線運動に転換する組合せを考えることは,当業者にとっては格別困難なものでない。したがって,被告ら装置の製造時に当業者は相違点イ及び相違点ロをそれぞれイ号装置及びロ号装置におけるものと置き換えることは容易に想到できたというべきである。
公知技術から容易推考でないこと 被告ら装置の構成は本件特許出願時にはみられなかった技術であり,また,当業者が本件特許出願時にこれを公知技術から容易に推考できたということはない。
意識的に除外されたものでないこと 本件において,雄ねじと雌ねじの組合せについて,被告ら装置の組合せを本件特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外したということはない。
キ 以上によると,本件発明の構成要件EBを,被告ら装置の構成に置き換えた被告ら装置は,本件発明と均等である。
【被告らの主張】 ア 本質的部分において異なること 明細書に対する第三者の信頼を保護しなければならないので,特許請求の範囲において新規の構成要素として開示されている限り,本質的部分というべきである。
本件発明においては,雄ねじと雌ねじの一方の回転運動又は直線運動を抑制することにより,雄ねじ又は雌ねじの回転運動を直線運動に転換させるための手段として,「弁管部の軸心上に軸心が配設されて,該弁管部に対して一端部が回転可能に支持され他端部が前記弁体の径方向中央部に螺合されているねじ棒」という構成が,特許請求の範囲において新規の構成要素として開示されているから,この部分は,本質的部分というべきである。しかるところ,被告ら装置は,この本質的部分において,本件発明と異なっている。
イ 作用効果が異なること 相違点イ,ロについてイ号装置,ロ号装置のようにその構成を置換することによって,内筒の内部にねじ機構が存在しないので,コンクリート漏れが内筒内部に生じても使用不可能となることはないし,内筒の盲板の摩耗がひどければ内筒先端部を切断して内筒自体を短く加工して再利用することができるという顕著な別個の作用効果が奏される。
したがって,相違点イ,ロをイ号装置,ロ号装置におけるものと置換しても,同一の作用効果を奏するとはいえない。
公知技術から容易に推考できたものであること 一般に外筒と内筒とで構成されている二重の筒状のものにおいて,内筒を外筒内において軸心方向に変位動させ,かつ,内筒をその周方向に回転させる必要があるとき,外筒の周方向に延びる案内溝とこれに連続し外筒の軸心方向に延びる案内溝を外筒の周面に設け,内筒に案内棒を取り付けてこの案内棒を上記案内溝に沿って移動することにより,内筒を外筒内において軸心方向に変位動させ,かつ,内筒をその周方向に回転させることが可能となるが,このような技術は,本件特許出願時には,公知技術であった。しかるところ,被告ら装置は,上記公知技術を利用するに当たり,内筒を軸心方向に変位動させるための駆動機構として,ねじ機構を用いたというものに過ぎないから,当業者が本件特許出願時に容易に推考できたものである。
また,乙14の1及び2(乙26の1及び2)の図面記載の佐賀工業株式会社(以下「佐賀工業」という。)製の切換弁(以下「佐賀工業製品」という。)は,本件特許の出願日である平成6年12月12日時点において,広く日本各地の作業現場に納入されていたものであり公知技術であったところ,被告ら装置は当業者が上記公知技術から容易に推考できたものである。
【原告の反論】 ア 均等かどうかは,本件発明と同一の作用効果を奏することが要件とされているのであって,異なる構成に置き換えることによって,置き換えた構成に独自の作用効果が存することは当然のことであり,置き換えた構成に独自の作用効果が存するとしてもそのこと自体によって均等の成立が否定されることはない。
イ 後記(4)【原告の主張】イのとおり,佐賀工業製品には,問題点があったところ,被告ら製品においては,本件発明と同様にこれらの問題点は解決されているから,被告ら製品は,佐賀工業製品から容易に推考できたものではない。
(4) 争点(4)について 【被告らの主張】 ア 原告は,昭和61年1月には本件発明にかかる切換弁と同一の切換弁について,少なくとも設計を完了し(乙12),遅くとも平成3年7月ころまでには本件発明にかかる切換弁と同一の切換弁を製品化し,建設工事現場に実際に納入していた(乙13)から,本件特許はその出願日である平成6年12月12日よりも前に日本国内において公然実施されていた発明である。
イ 前記(3)【被告らの主張】ウのとおり,佐賀工業製品は,本件特許の出願日である平成6年12月12日時点において,広く日本各地の作業現場に納入されていたものであるところ,この製品は,本件発明の構成要件のうち,ねじ棒の他端部が弁体の径方向中央部に螺合されているとの点を除いて,すべての構成要件を備えている。このように,本件発明と佐賀工業製品とでは,ねじ棒の機構のみが異なるから,本件発明は,本件特許出願前に日本国内において実施されていた佐賀工業製品から容易に推考できたものというべきである。
ウ 佐賀工業製品は,月刊誌「トンネルと地下」1983年(昭和58年)1月号(乙24)の「トンネル用機器材の手びき」「V資料編」の中に「PP式コンクリート注入口」として紹介されている。
したがって,本件発明は,本件特許出願前に日本国内において頒布された刊行物に記載された発明から容易に推考できたものというべきである。
エ 以上のとおり,本件特許には無効理由が存在することが明らかであるから,原告の本件特許権に基づく権利行使は権利濫用に当たる。
【原告の主張】 ア 乙12は原告において試作していた図面であり,顧客に納品し実施したものではないし,乙13の製品は,図面から明らかなとおり回転棒及び第1案内溝が存在しておらず,本件発明の実施品ではない。
イ 佐賀工業製品には,次のような問題点があったところ,この問題点は,次のとおり本件発明によって解決されているから,本件発明は,佐賀工業製品から容易に推考できたものではない。
(ア) 佐賀工業製品の場合,雄ねじの回転によって弁体を回転させるため,雄ねじのピッチによって直線的に回転させることができず,その結果,弁体に取り付けたガイドピンが周方向の溝の中をスムーズに移動することができない。
(イ) 佐賀工業製品の場合,弁体の径と雄ねじの径の差が大きいため,弁体を回転させるために雄ねじにかかる負荷が大きく,無理に回転させると雄ねじが曲がってしまうおそれがあり,ネジ山がつぶれてしまうおそれがある。特に弁体にコンクリート等が付着すると抵抗が増し,弁体の回転はますます困難になる。
(ウ) これに対し,本件発明の場合,第1案内溝部内を案内棒を直線的に移動させることによって弁体を軸心と垂直に回転させるから,佐賀工業製品における上記(ア)(イ)の問題点は解消されている。
弁体にコンクリート等が付着すると,回転に対する抵抗が増すが,本件発明の構成では,弁体は外周面に突設された案内棒に力を加えて回転させる構成であるから,案内棒に力を加えたときの作用の径は弁体の径よりも大きく,佐賀工業製品のような問題はない。
【被告の反論】 ア 本件発明の弁体に使用されている案内棒は,本件明細書【0021】中に「・・・案内棒114を手で握り,該案内棒114を・・・内端部に位置するように変位動させる」との操作方法が例示してあるだけで,「案内棒に作業者が力を加える」ことについての具体的構成が特許請求の範囲に含まれていないから,弁体をどのように回転させるかの構成は,本件特許請求の範囲に含まれていない。したがって,佐賀工業製品の弁体のガイドピンと本件発明の弁体の案内棒は,構成上同一である。
イ 佐賀工業製品の周方向の溝は直線的に形成され,その周方向の溝の幅が雄ねじのピッチ以上に大きく形成されている。そのため,弁体は厳密には直線的には回転しないが,弁体に取り付けたガイドピンが溝の中をスムーズに移動することができる。また,佐賀工業製品においては,通常のメインテナンスがされている限り,雄ねじが曲がってしまったり,ネジ山がつぶれることはなかった。したがって,佐賀工業製品には,原告が主張するような問題点はなかったものである。
(5) 争点(5)について 【被告らの主張】 被告東京スペリアは,原告の本件特許出願の日である平成6年12月12より前から日本国内でロ号装置と同一の切換弁が装着されたスチールフォームを製造し販売していた。
被告東京スペリアは,上記スチールフォームを,平成2年2月に三井建設株式会社四街道作業所に,平成2年8月ころ株式会社大林組豊田工事事務所に,平成3年6月ころ青木・大旺建設共同企業体秋川幹線作業所に,同年7月ころ飛鳥・東鉄・田口特定建設工事共同企業体那珂湊幹線作業所に,同年9月ころ日産・クリエート共同企業体秋川幹線作業所に,平成4年4月ころ戸田・西武・寄神建設JVに,同年12月ころ鹿島・清水建設共同企業体宇部下水工事事務所に,平成5年1月ころ株式会社熊谷組に,平成6年2月ころ株式会社大林組・鹿熊建設共同企業体にそれぞれ納入した。
【原告の主張】 否認する。
当裁判所の判断
1 争点(4)について まず,本件特許には,明らかな無効理由があって,本件特許権に基づく権利行使が権利濫用として許されないかどうかという点について検討する。
(1) 証拠(乙14の1,2,乙26の1ないし4,乙27,31)及び弁論の全趣旨によると,以下の事実が認められる。
ア 乙14の1(乙26の1)の図面は,佐賀工業のスチールフォームに付属する切換弁の図面であり,乙14の2(乙26の2)の図面は,乙14の1の切換弁の組立図である。
乙14の1の図面は昭和56年12月に,乙14の2の図面は昭和57年1月14日に作成された。
イ 佐賀工業は,上記図面に記載された切換弁(佐賀工業製品)を昭和57年1月ころから製造し,同社のスチールフォームに付属して,同月ころから平成8年までに約1800台納入した。
ウ 佐賀工業製品と本件発明を比較すると,前者は後者の構成要件AないしD,E@,F,Gと同一である。
(2) 佐賀工業製品と本件発明には,次のような違いがあるものと認められる。
ア 証拠(甲2)と弁論の全趣旨によると,本件発明は,「弁管部の軸心上に軸心が配設されて,該弁管部に対して一端部が回転可能に支持され他端部が弁体の径方向中央部に螺合されているねじ棒」を備えていること(構成要件EB),そのため,本件発明においては,ねじ棒(雄ねじ)を回転させることによって,それが径方向中央部に螺合されている弁体が上下動すること,以上の事実が認められる。これに対し,証拠(乙14の1,2,乙26の1,4,乙27,31)及び弁論の全趣旨によると,佐賀工業製品においては,弁管部の軸心上にねじ棒の軸心が配設されているが,ねじ棒の一端部が弁管部に回転可能に支持された雌ねじに螺合されているうえ,ねじ棒の他端部は弁体の径方向中央部に固定接合されており,螺合されていないこと,そのため,佐賀工業製品においては,ラチェットハンドルによって雌ねじを回転させることにより,ねじ棒(雄ねじ)は回転せずに上下動し,これに伴いねじ棒に固定接合されている弁体も上下動すること,以上の事実が認められる(以下「相違点A」という。)。
イ 証拠(甲2)と弁論の全趣旨によると,本件明細書【課題を解決するための手段,作用】の項【0008】には「上述の請求項1に記載の構成において,第1案内溝部が弁管部の周方向に延び,しかも,ねじ棒が,弁管部の軸心上に配設されて,該弁管部に対してそのねじ棒の一端部が回転可能に支持される一方,ねじ棒の他端部が弁体の径方向中央部に螺合されていることから,第1案内溝部内を案内棒が変位動するように該案内棒に力を加えれば,弁体はねじ棒と共に円滑に回動(共回り)することになる。」と記載されており,本件明細書【実施例】の項【0017】には 「案内棒114が図4に示すように第1案内溝部113aの内端部に位置しているときには(第2案内溝部113bの内端部に位置しているとき),弁体112が回動のみされる結果,図2に示すように,上述の変位動位置を維持しつつ弁体112の底面が反転して,該底面112aが型枠101の外周面に対して対向することになり,」と記載されており,同【0021】には「そしてこの後,切換弁104を非注入状態とするには,先ず,案内棒114を手で握り,該案内棒114を,図4,図5に示すように,第1案内溝113aの内端部に位置するように変位動させる。これにより,弁体112と共にねじ棒117が,規制されることなく回動することになり,弁体112の底面112aは,図2に示すように,反転することになる。」と記載されていること(図面については,別紙本件特許図面参照)が認められる。
以上に照らすと,本件発明においては,弁体を回転させるには案内棒を操作するものと認められ,他の方法が存するとは認められないから,本件発明の構成要件EAの「案内棒」は,弁体を回転させるものでなければならないというべきであり,「本件発明は弁体をどのように回転させるかの構成を含んでおらず,必ずしも案内棒で回転させる構成に限定されない」旨の被告らの主張は採用できない。
これに対し,証拠(乙14の1,2,乙26の1,2,4)及び弁論の全趣旨によると,佐賀工業製品においては,ねじ棒(雄ねじ)が弁体の径方向中央部に固定されていること,ねじ棒の先端は断面四角形となっており,ラチェットを受け入れることが可能な構造となっていること,案内溝から弁体に固定されたガイドピンが外部に突き出ているが,ガイドピンの長さは4.3センチメートルしかなく,ガイドピンに手で力を加えて弁体を回転させることは困難であること,以上の事実が認められる。
そうすると,佐賀工業製品は,ねじ棒の先端をラチェットで回転することによって弁体を回転させるものであって,ガイドピンを持って弁体を回転させるものではないと認められるから,佐賀工業製品のガイドピンは,本件発明の「案内棒」(構成要件EA)に当たるものではないと認められる(以下「相違点B」という。)。
(3) そこで,当業者が佐賀工業製品から本件発明を容易に推考することができたかどうかについて検討する。
ア 相違点Aについて 佐賀工業製品において,弁体の駆動機構は具体的には(2)アのとおり,ねじ棒の一端部が弁管部に回転可能に支持された雌ねじに螺合され,ねじ棒の他端部は弁体の径方向中央部に固定接合されており,螺合されていないため,ラチェットハンドルによって雌ねじを回転させることにより,ねじ棒(雄ねじ)は回転せずに上下動し,これに伴いねじ棒に固定接合されている弁体も上下動するものであるが,これは雄ねじと雌ねじからなる回転運動-直線運動変換機構と称すべき原理を利用するものであって,この場合雄ねじと雌ねじの一方の回転運動又は直線運動を抑制することによって,雄ねじ又は雌ねじの回転運動を直線運動に変換すればよく,具体的にどのような構成とするかは,当業者が適宜選択できる設計事項といえる。
本件発明においては,弁体の駆動機構は(2)アのとおり,「弁管部の軸心上に軸心が配設されて,該弁管部に対して一端部が回転可能に支持され他端部が弁体の径方向中央部に螺合されているねじ棒」を備え,そのため,ねじ棒(雄ねじ)を回転させることによって,それが径方向中央部に螺合されている弁体が上下動するものであり,佐賀工業製品と同様に雄ねじと雌ねじからなる回転運動-直線運動機構と称すべき原理を利用したものであるから,本件発明は佐賀工業製品から当業者が容易に推考することができたものと認められる。
イ 相違点Bについて 証拠(乙14の1,2,乙26の1,2,4,乙27)及び弁論の全趣旨によると,佐賀工業製品には,L字型の案内溝が存在し,弁体に固定されたガイドピンが,案内溝から外部に突き出ていること,弁体が回転するとガイドピンも回転すること,ガイドピンに強い力を加えると,弁体は回転するものであること,以上の事実が認められる。そして,弁体を回転させる場合,ねじ棒の先端部分を回転させるよりもガイドピンを回転させることの方がはるかに力を要しないことは当業者にとって自明な事項であると考えられるから,このガイドピンを,もう少し大きくするなどして,これを持って弁体を回転させることができるようなものとすることは,当業者が容易に推考できたものと認められ,そうすることに,格別困難な点があったとは認められない。
(4) 以上述べたところによると,本件発明は,佐賀工業製品に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということができるから,本件特許は特許法29条2項に違反して特許されたものである。したがって,本件特許に,同法123条1項2号に規定する無効理由が存在することは明らかであり,本件においては,本件特許に関して訂正審判の請求がされているなどの特段の事情も認められないから,本件特許権に基づく本件請求は,権利の濫用として許されない。
2 争点(1)ないし(3)について (1) 争点(1)について ア 原告は,甲3の写真に写っている切換弁について,被告東京スペリア製造にかかる別紙物件目録1記載の切換弁(イ号装置)であると主張するが,この写真のみでは,その構造の詳細は明らかでないから,いまだ,甲3から,被告らがイ号装置を製造,販売,リースしていた事実を認めることはできず,他にこの事実を認めるに足りる証拠はない。なお,被告東京スペリアは,別紙被告図面記載の切換弁をリースしていたと主張するが,この装置が,同図面記載のとおりのものであるとすると,内筒上昇下降用ターンバックルを回転させると,ターンバックル自体がねじ棒に沿って上下し,内筒が上下することはないものと考えられるから,同被告がそのようなものをリースしていたとは認められない。
もっとも,(2)以下では,念のため,イ号装置が本件発明の技術的範囲に属するかどうかについて判断する。
イ 証拠(乙4)及び弁論の全趣旨によると,被告東京スペリアは,別紙物件目録2添付の図面記載の切換弁(ただし,外筒下フランジが弁管の径方向に渡っていないもの,以下,これを「ロ'号装置」という。)を製造,販売,リースしていること,被告東京共榮商会は,ロ'号装置をリースした可能性があること,以上の事実が認められる。
(2) 争点(2)について イ号装置及びロ'号装置が本件発明の構成要件EBを充足するかどうかについて判断する。
本件発明の構成要件EBは,ねじ棒(雄ねじ)に対する弁管部と弁体との関係について,ねじ棒の一端部が弁管部に対して「回転可能」,ねじ棒の他端部が弁体に対して「螺合」と明確に規定している。これに対して,イ号装置の場合,ねじ棒の一端部が弁管部に回転可能に支持された雌ねじに螺合し,ねじ棒の他端部が弁体に固定されており,ロ'号装置の場合,ねじ棒の一端部が弁管部に螺合され,ねじ棒の他端部が弁体に対して回転可能であるから,イ号装置及びロ'号装置が本件発明の構成要件EBを充足するとは認められない。
(3) 争点(3)について そこで,上記相違部分について均等が成立するかどうかについて判断する。
ア 前記1で認定した佐賀工業製品の構成に弁論の全趣旨を総合すると,イ号装置及びロ'号装置も佐賀工業製品も,ともに本件発明の構成要件AないしD,E@,F,Gの各構成を備えていること,イ号装置及びロ'号装置は,弁体を案内棒で回転させるものであって,本件発明の構成要件EAの構成を備えていること,佐賀工業製品は,案内棒で弁体を回転させるものではないこと,佐賀工業製品とイ号装置は,いずれも弁管部の軸心上にねじ棒の軸心が配設されているうえ,ねじ棒の一端部が弁管部に回転可能に支持された雌ねじに螺合しており,ねじ棒の他端部が弁体に固定されていること,佐賀工業製品とロ'号装置は,いずれも弁管部の軸心上にねじ棒の軸心が配設されているが,佐賀工業製品では,ねじ棒の一端部が弁管部に回転可能に支持された雌ねじに螺合しており,ねじ棒の他端部が弁体に固定されているのに対し,ロ'号装置では,ねじ棒の一端部が弁管部に螺合され,ねじ棒の他端部が弁体に対して回転可能であること,以上の事実が認められる。
イ 以上の事実によると,佐賀工業製品とイ号装置は,案内棒で弁体を回転させるかどうかという点のみが異なり,佐賀工業製品とロ'号装置は,雄ねじと雌ねじの一方の回転運動又は直線運動を抑制することによって,雄ねじ又は雌ねじの回転運動を直線運動に変換しているという点は同じであるが,それを行う具体的機構が異なっているほか,案内棒で弁体を回転させるかどうかという点が異なっているものと認められる。 ウ しかしながら,前記1(3)イで認定したとおり,佐賀工業製品から案内棒で弁体を回転させるようにすることは容易に推考できるし,前記1(3)アで認定したとおり,雄ねじと雌ねじの一方の回転運動又は直線運動を抑制することによって,雄ねじ又は雌ねじの回転運動を直線運動に変換するのにどのような具体的機構を用いるかは当業者が適宜選択できる事項であるから,イ号装置及びロ'号装置はいずれも佐賀工業製品から容易に推考できたということができる。
エ したがって,被告ら装置は本件発明と均等なものということはできない。
3 よって,その余の争点について判断するまでもなく原告の請求はいずれも理由がない。
裁判長裁判官 森義之
裁判官 内藤裕之
裁判官 上田洋幸