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関連審決 無効2000-35178
この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成11ワ21280特許権不侵害確認請求事件 平成12ワ7516特許権侵害差止請求事件 判例 特許
平成11ワ24433特許権損害賠償等請求事件 判例 特許
平成12ワ12728特許権侵害差止請求事件 判例 特許
平成12ワ13799特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成12ワ5352-A 特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
関連ワード 技術的思想 /  容易に発明 /  公知技術 /  発明の詳細な説明 /  補償金請求権 /  実質的に同一 /  警告 /  実施料相当額 /  時効 /  権利の濫用(権利濫用) /  技術的意義 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  構成要件 /  業として /  差止請求(差止) /  侵害 /  損害額 /  販売数量(販売数) /  実施料 /  不法行為(民法709条) /  訂正審判 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 11年 (ワ) 13512号 製造販売差止等請求事件
原告 トタニ技研工業株式会社
訴訟代理人弁護士 伊原友己
補佐人弁理士 武石靖彦
被告 西部機械株式会社
訴訟代理人弁護士 増岡章三
同 増岡研介
同 片山哲章
補佐人弁理士 下田達也
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2002/01/29
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 被告は、別紙イ号物件目録及びハ号物件目録記載の各装置を製造し、販売し、販売のために展示してはならない。
2 被告は、その本店、営業所及び工場において占有する前項記載の各装置を廃棄せよ。
3 被告は、原告に対し、金1億0438万1100円及び内金6526万1100円に対する平成11年10月1日から、内金3912万円に対する平成11年12月25日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
5 訴訟費用は2分し、その1を原告の、その余を被告の各負担とする。
6 この判決は、第3項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
請求
1 被告は、別紙イ号物件ないしハ号物件目録記載の各装置を製造し、販売し、
販売のために展示してはならない。
2 被告は、その本店、営業所及び工場において占有する前項記載の各装置を廃棄せよ。
3 被告は、原告に対し、金3億1000万円及びこれに対する平成11年10月1日(最終不法行為日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
(略称) 後記争いのない事実等1(1)記載の特許権 ― 第1特許権 後記争いのない事実等1(2)記載の特許権 ― 第2特許権 第1特許権の発明(特許請求の範囲請求項1)― 第1発明 第2特許権の発明(特許請求の範囲請求項1)― 第2発明 第1特許権出願に係る明細書 ― 第1明細書 第2特許権出願に係る明細書 ― 第2明細書 第1特許権に係る別紙特許公報 ― 第1公報 第2特許権に係る別紙特許公報 ― 第2公報 別紙イ号物件目録記載の装置 ― イ号物件 別紙ロ号物件目録記載の装置 ― ロ号物件 別紙ハ号物件目録記載の装置 ― ハ号物件 本件は、第1特許権及び第2特許権を有する原告が、被告によるイ号物件及びロ号物件の製造販売等の行為が第1特許権を、ハ号物件の製造販売等の行為が第2特許権をそれぞれ侵害するとして、被告に対し、第1特許権に基づくイ号物件及びロ号物件の、第2特許権に基づくハ号物件の各製造販売等の差止め(請求の第1項)と廃棄(同第2項)を請求するとともに、第1特許権について特許法65条1項に基づく補償金と民法709条、特許法102条3項に基づく損害賠償を、第2特許権について民法709条、特許法102条3項に基づく損害賠償(同第3項)をそれぞれ請求した事案である。
(争いのない事実等) 1 原告は、次の各特許権を有している。
(1) 第1特許権 特許番号 第2528064号 発明の名称 プラスチックフィルム層をヒートシールする装置 出願日 平成4年10月9日(特願平4-297914号) 公開日 平成5年9月7日(特開平5-229008号) 登録日 平成8年6月14日 特許請求の範囲 第1公報(甲2)該当欄請求項1記載のとおり。
(2) 第2特許権 特許番号 第2805515号 発明の名称 プラスチック袋製造装置 出願日 平成元年12月27日(特願平1-342569号) 登録日 平成10年7月24日 特許請求の範囲 第2公報(甲4)該当欄請求項1記載のとおり。
2 第1発明の構成要件を分説すれば、次のとおりである。
A1 固定シールバーと、前記固定シールバーに間隔を置いて対向するよう配置された可動シールバーと、
A2 2層に重ね合わせたプラスチックフィルムを前記可動シールバーと前記固定シールバー間に通し、一定長さずつ間欠的に送り、その間欠送り毎に、前記プラスチックフィルム層を一時的に停止させるプラスチックフィルム間欠送り機構と、
A3 前記プラスチックフィルム層の間欠送り毎に、前記可動シールバーを、
前記可動シールバーが前記固定シールバーに接近し、前記プラスチックフィルム層が前記可動シールバーと前記固定シールバー間に挟まれる第1位置P1と、前記可動シールバーが前記固定シールバーおよび前記プラスチックフィルム層から離れる第2位置P2間に往復移動させ、
A4 前記プラスチックフィルム層が一時的に停止しているとき、前記プラスチックフィルム層を前記可動シールバーと前記固定シールバー間に挟み、これによって前記プラスチックフィルム層をヒートシールする可動シールバー駆動機構とを有する装置において、
B 前記プラスチックフィルム間欠送り機構および前記可動シールバー駆動機構に接続され、前記プラスチックフィルム層の送り速度V0、前記プラスチックフィルム層の送り時間T1、前記可動シールバー駆動機構の駆動速度V1、V2および前記可動シールバーによって前記プラスチックフィルム層がヒートシールされる時間T2を選定し、前記プラスチックフィルム間欠送り機構および前記可動シールバー駆動機構をプログラム制御することができ、前記プラスチックフィルム層の送り時間T1とヒートシール時間T2の間に待ち時間T4を入れ、これによって装置のサイクル時間T3を変化させることもできるコンピュータを備えた C ことを特徴とするプラスチックフィルム層をヒートシールする装置。
3 第2発明の構成要件を分説すれば、次のとおりである。
A ヒートシールされた2枚のプラスチックフィルム(1)の送り経路に設けられ、前記プラスチックフィルム(1)をその長さ方向スリット線(4)に沿ってスリットするスリット刃(3)と、
B 前記プラスチックフィルム(1)の送り経路において、前記スリット刃(3)の下流位置に設けられ、前記プラスチックフィルム(1)のスリット後、前記プラスチックフィルム(1)をその幅方向切断線(6)に沿って切断し、これによってプラスチック袋を製造するカッタ(5)と、
C 前記プラスチックフィルム(1)の送り経路において、前記カッタ(5)の上流位置に設けられ、前記プラスチックフィルム(1)の切断前、前記プラスチックフィルム(1)の長さ方向スリット線(4)と幅方向切断線(6)の交差領域を打ち抜き、前記プラスチック袋をコーナーカットする打ち抜き工具(7)と、
D 前記カッタ(5)に連結され、前記プラスチックフィルム(1)をその幅方向切断線(6)に沿って切断するにあたって、前記カッタ(5)を2回にわたって動作させ、前記プラスチックフィルム(1)をその幅方向切断線(6)の両側で切断するカッタ駆動機構と E を備えたことを特徴とするプラスチック袋製造装置。
4(1) 被告は、イ号物件ないしハ号物件をいずれも業として製造し、販売し、販売のために展示していた(ただし、ロ号物件については、その構成につき、別紙ロ号物件目録下線部のとおり、一部争いがある。)。
(2) イ号物件及びロ号物件は、第1発明の構成要件中、後記争点1及び2記載以外の構成要件をいずれも充足する。
(3) ハ号物件は、第2発明の構成要件をすべて充足する。
5 原告は、第1発明について、平成6年7月21日付け通知書(甲7)及び別便郵送の方法による第1公報を被告に送付して警告し、各書面は、同月31日ころ、被告に到達した。
(争点) 1 第1発明の構成要件B「待ち時間T4」の充足性 (原告の主張) (1) 第1発明の「待ち時間T4」は、定常運転時の送り速度での送り時間T1とヒートシール時間T2との間に入れることにより、装置のサイクル時間T3を変化させるものであるから、「定常運転時の送り速度でフィルムを送っておらず、シールもしていない時間」をいう。
イ号物件において、シール固定及び送り固定の各操作により、製袋条件を変更させることなく、製袋速度を落とそうとすれば、必然的に「フィルムを送っておらず、シールもしていない時間」が入ることになる。「待ち時間T4」の設定は、
他の設定情報からコンピュータにより演算処理されれば足り、被告主張のような人為的な入力は必要ではない。ロ号物件においても、本稼働状態の送りの前後に「待ち時間T4」以外には技術的に無意味な微動送り時間がある(フィルムのテンションを維持するためのローラは別途存する。)から、これが「待ち時間T4」に相当する。仮にそうでないとしても、少なくとも1分間当たりのショット数(製袋速度)を20に落とした状態であれば、シールしておらず、送りが停止している状態が発生しているから、いずれも上記構成要件を充足する。
(2) 被告の主張(2)は否認する。「待ち時間T4」の間に可動シールバーが連続運動していることは、第1明細書の図3(可動シールバー上下位置図)の記載に照らすと、上記構成要件の充足性を何ら左右しない。
(3) 被告の主張(3)は否認する。被告主張のセーフスペースは、送り動作とシール動作との干渉防止のために設けられたものであって、わずかな時間差で足り、かつ、時間的にも一定で足りるから、不必要に長い干渉防止時間は「待ち時間T4」に当たる。
(被告の主張) (1) 原告の主張(1)は否認する。「待ち時間T4」は、結果的不可避的に生ずるものではなく、少なくともヒートーシールの条件を変えることなくショット数を下げるたびごとに人為的に入力設定されるものであることが必要である。
イ号物件において、シール固定と送り固定を共にオンにしてショット数を減少させる場合、送り時間もシール時間も固定したままショット数を減少させるため、フィルムを送っておらず、シールもしていない状態が結果的に発生することはあるが、これは人為的に入力するものではない。フィルムを送っておらず、シールもしていない時間が結果的に発生したとしても、「装置のサイクル時間T3」とは無関係である。ロ号物件においては、送り同期とシール固定を共にオンにしてショット数を減少させても、緩急をつけてフィルムが送られている(実際の稼動時とあまり変わらないテンションを維持するためであり、技術的意味を有する。)のであるから、フィルムを送っておらず、シールもしていない状態は、そもそも結果的にも発生していない。
(2) 「待ち時間T4」はヒートシール時間T2とは異なる概念であり、第1明細書の【0010】や図2の記載によれば、ヒートシール時間T2にはプラスチックフィルム層1をシールしている時間のみならずシールするために可動シールバーが上下する時間が含まれるから、「待ち時間T4」とは「可動シールバーが上昇端(第2位置P2)において止まっている時間」をいう。
イ号物件においては、送り固定とシール固定を共にオンにしたという極めて例外的な場合であっても、速度パーセントをゼロにしない限り(実際上は不可能である。)、可動シールバーは連続運動を行い、上昇端において止まっている時間はないから、上記構成要件を充足しない。
(3) イ号物件及びロ号物件における可動シールバーには、セーフスペース(プラスチックフィルム層をヒートシールしている時の位置とそれより若干上方に離間して設定されたプラスチックフィルム層の送りを停止・始動させる時点での可動シールバーの位置との間の距離をいう。)が存在する。これは、間欠送りで搬送物を圧着するような製袋機であれば、可動シールバーと固定シールバーによるプラスチックフィルム層に対する噛み込みの危険を避けるために、旧来から行われてきたものである。イ号物件及びロ号物件のセーフスペースは、時間により設定されたものではなく、位置として機械的に設定されたものであるから、ショット数を減少させて遅くすれば、可動シールバーがセーフスペースの位置と下降端との間を移動する時間が長くなるのは当然である。また、可動シールバーがこのセーフスペースを移動するための時間は定常運転時にも存在し、除去することはできない。したがって、
「待ち時間T4」には、可動シールバーによるセーフスペースの移動時間は含まれないから、イ号物件及びロ号物件は上記構成要件を充足しない。
2 第1発明の構成要件B「送り速度V0、送り時間T1、可動シールバー駆動機構の駆動速度V1、V2及びヒートシール時間T2の選定」の充足性 (原告の主張) (1) 第1発明において、「送り速度V0、送り時間T1、可動シールバー駆動機構の駆動速度V1、V2及びヒートシール時間T2」は、操作画面上で直接設定できなければならないものではなく、他の設定項目からコンピュータが演算処理して選定できるものであれば足りる。
イ号物件において、送り時間は、「送り変更」により任意に設定し、「送り固定」により固定でき、ヒートシール時間も「シール変更」により任意に設定し、「シール固定」により固定できるから、@カット長さL(=送り速度V0×送り時間T1)、A1分間当たりのショット数B及びBシール時間と非シール時間の比率Pを入力すれば、コンピュータの演算処理により、「送り速度V0、送り時間T1、可動シールバー駆動機構の駆動速度V1、V2及びヒートシール時間T2」が選定されることにほかならず、上記構成要件を充足する。ロ号物件において、イ号物件における「送り固定」を「送り同期」に変更したとしても、同様に上記構成要件を充足する。
(2) 被告の主張(2)は否認する。イ号物件及びロ号物件が、一定の時間内に一定の長さのフィルムを送るものである以上、これに必要な「送り時間」と「送り速度」はコンピュータにより演算処理されて選定されている。送り速度の値が一定しているか変化するかは問題とならないから、上記構成要件の充足性を妨げるものではない。
(被告の主張) (1) 原告の主張(1)は否認する。イ号物件及びロ号物件において選定することができるのは、@カット長さL、A1分間当たりのショット数(製袋速度)B及びBシール時間と非シール時間の比率Pであり、「送り速度V0、送り時間T1、可動シールバー駆動機構の駆動速度V1、V2及びヒートシール時間T2」を選定することはできないから、上記構成要件を充足しない。
(2) イ号物件及びロ号物件においては、@カット長さL、A1分間当たりのショット数(製袋速度)B及びBシール時間と非シール時間の比率Pを選定することにより、シール時間と非シール時間が決定される。非シール時間が決定されると、
この時間内に、決められたカット長さだけ送る送り量から送り速度の変化のさせ方が決定される。この送り速度の変化のさせ方は常に変化するのであって、一定の「送り速度V0」は観念することができず、これを選定することもできないから、
上記構成要件を充足しない。
3 権利の濫用(明白な無効理由) (被告の主張) 本件第1特許権及び第2特許権は、以下のとおり、明らかな特許の無効理由があるから、これらの特許権の行使は権利の濫用に当たり許されない。
(1) 第1特許権について 第1発明のプラスチックフィルム間欠送り機と可動シールバー駆動機構の駆動速度をコンピュータによりプログラム制御するという仕組み自体は出願前の公知技術(乙3〜7)と実質的に同一の構成であるから、第1発明の本質的部分はプラスチックフィルム層1の送り時間T1とヒートシール時間T2の間に待ち時間T4を入れ、これによって装置のサイクル時間T3を変更することができる点にあるところ、「待ち時間T4」は、特開昭55-34929号公報(乙2)記載の発明における「冷却用追加時間N」と同一の機能を奏するものであり、同発明は、プラスチックフィルム間欠送り機と可動シールバー駆動機構の駆動速度をコンピュータによりプログラム制御するという仕組みを備えていない点で第1発明と相違するだけである。したがって、当業者であれば、乙2記載の発明から第1発明を容易に想到することができた。
(2) 第2特許権について 第2発明の目的は、プラスチックフィルムの長さ方向スリット線と幅方向切断線の交差領域を打ち抜くプラスチック袋製造装置において、プラスチック袋のコーナーカット部分の突出段差を完全に除去することにある。しかし、第2発明は、請求項2記載の送りローラ(2)や請求項3記載の2枚スリット刃(3)のような突出段差(10)を除去する手段を備えていないため、突出段差(12)を完全に除去することができず、前記目的を達成することができないから、第2発明は未完成である。
(原告の主張) (1) 被告の主張(1)は否認する。特開昭55-34929号公報(乙2)記載の発明は「冷却」という製袋工程を加えることに技術的意義がある点で、第1発明とは技術的思想が全く異なる上、同公報には第1発明の作用効果等を示唆する記載も見受けられない。したがって、第1発明は、当業者が乙2記載の発明から容易に想到することができたとはいえない。
(2) 被告の主張(2)は否認する。製袋に際し、実用上無視し得ない程の突出段差が常に発生するものではなく、カッタ(5)を2度動作させて、幅方向切断線の(6)の両側で切断することにより、突出段差は充分に除去されるから、第2発明は完成している。
4 原告の損害 (原告の主張) (1) 第1特許権について 補償金 1億1500万円(23000000×100×0.05) 実施料相当損害金 1億7250万円(23000000×150×0.05) 弁護士費用 500万円 (ア) イ号物件及びロ号物件の1台当たりの売上額は2300万円であり、その製造販売数は、原告の被告に対する警告到達日(平成6年7月31日)から第1特許権登録日の前日(平成8年6月13日)までの間が100台、第1特許権登録日(平成8年6月14日)から平成11年10月1日までの間が150台を下らない。
(イ) 第1特許権の実施料相当額は売上額の5%である。
(2) 第2特許権について 実施料相当損害金 1600万円(8000000×40×0.05) 弁護士費用 150万円 (ア) ハ号物件の1台当たりの売上額は800万円であり、第2特許権登録日(平成10年7月24日)から平成11年10月1日までの間における製造販売数は40台を下らない。
(イ) 第2特許権の実施料相当額は売上額の5%である。
(被告の主張) (1) 第1特許権について (ア) イ号物件について、原告の被告に対する警告到達日(平成6年7月31日ころ)から第1特許権登録日の前日(平成8年6月13日)までの間の販売数は96台、売上高は19億5600万円、第1特許権登録日(平成8年6月14日)から平成10年12月までの間の販売数は146台、売上高は29億6100万円である。
(イ) 第1特許権の価値は極めて乏しく、その実施料は売上額の3%が、寄与度も4%が相当であるから、全体としてはせいぜい0.12%(0.03×0.04=0.0012)にすぎない。
(2) 第2特許権について (ア) 第2発明は容易に分離可能なオプションとして製袋機に付属するにすぎず、当該オプション部分以外の部分に及ぶことはないから、製品の全体価格(1台当たり3137万円)を基礎とすべきではなく、第2発明の実施部分の価格(1台当たり245万円)を算定すべきである。
(イ) 原告主張の期間内に、ハ号物件目録記載のHSE-600-SS型を2台、同目録記載のSBM-600-SSG型を1台を製造販売したことは認めるが、その余は否認する。
(ウ) 第2特許権の実施料はせいぜい売上額の1%が相当である。
5 差止等請求の可否 (原告の主張) (1) (第1特許権について)本件訴訟の経緯に照らすと、被告がその製造販売する製袋機において「送り固定」を廃止したとはいえない。
(2) (第2特許権について)被告の主張(2)は否認する。
(被告の主張) (1) (第1特許権について)被告は、平成11年1月以降、その製造販売する製袋機の設定仕様として「送り固定」を廃止し、「送り固定」と全く機能を異にする「送り同期」に変更した。
(2) (第2特許権について)被告は、平成11年2月をもって、その製造販売する製袋機の設定仕様として「2度切り」を廃止し、「2丁切り(2つのカッタで各1度ずつ切ること)」に変更した。
判断
1 争点1(第1発明の構成要件B「待ち時間T4」の充足性)について 一般に「待ち時間」には「順番が来るまでの、待っている時間」という意味がある(岩波書店「広辞苑」第五版)。しかし、第1発明の構成要件Bにいう「待ち時間T4」の具体的内容については、第1明細書の特許請求の範囲欄の記載上、
必ずしも明らかでないため、第1明細書の他の記載も考慮して、これを検討する必要がある。
(1) 第1明細書によれば、第1発明は「プラスチックフィルム層をヒートシールする装置に関するものである。」(第1公報3欄41行〜42行)。すなわち、
「従来技術とその問題点」の項には、「特開平3-197119号公報の装置では、プラスチックフィルム層の送り時間とヒートシール時間が互いに連続し、プラスチックフィルム層が一時的に停止すると同時に、プラスチックフィルム層が可動シールバーと固定シールバー間に挟まれ、可動シールバーによってプラスチックフィルム層がヒートシールされ、その後、可動シールバーがプラスチックフィルム層から離れると同時に、プラスチックフィルム層が再度送られていた。したがって、
プラスチックフィルム層の送り時間とヒートシール時間によって装置のサイクル時間が決定され、そのサイクル時間毎に、プラスチック袋がそれぞれ製造される。このため、プラスチックフィルム層の送り時間とヒートシール時間を一旦選定すると、それによってプラスチック袋の製造速度が決定され、これを変化させることができず、融通性がないという問題があった。たとえば、プラスチックフィルム層の送り時間とヒートシール時間の選定後、装置を調整するにあたって、プラスチックフィルム層を試験的に送り、試験的にヒートシールするとき、プラスチックフィルム層の送り時間とヒートシール時間は選定された値に保つ必要があるが、プラスチック袋の製造速度はその必要はない。プラスチック袋の製造速度については、むしろ、プラスチックフィルムの材料コスト上、製造速度を低下させることが好ましい。しかしながら、プラスチックフィルム層の送り時間とヒートシール時間を一旦選定すると、それによって装置のサイクル時間、すなわちプラスチック袋の製造速度が決定され、プラスチック袋の製造速度だけを低下させることはできないという問題があった」(第1公報4欄19行〜47行)ことを指摘した上、第1発明の目的を「送りローラなどのプラスチックフィルム間欠送り機構によってプラスチックフィルム層を送り、クランクなどの可動シールバー駆動機構によって可動シールバーを往復移動させ、プラスチックフィルム層を可動シールバーと固定シールバー間に挟み、これによってプラスチックフィルムをヒートシールするようにした装置において、プラスチックフィルム層の送り時間とヒートシール時間を選定された値に保ち、装置のサイクル時間を任意に変化させること」(第1公報4欄49行〜5欄7行)にあるとしている。そして、第1発明の構成について「コンピュータがプラスチックフィルム間欠送り機構および可動シールバー駆動機構に接続され、コンピュータによってプラスチックフィルム層の送り速度V0、プラスチックフィルム層の送り時間T1、可動シールバー駆動機構の駆動速度V1、V2およびプラスチックフィルム層のヒートシール時間T2が選定され、プラスチックフィルム間欠送り機構および可動シールバー駆動機構がプログラム制御される。コンピュータにより、プラスチックフィルム層の送り時間T1とヒートシール時間T2の間に待ち時間T4を入れ、これによって装置のサイクル時間T3を変化させることもできる。」(第1公報5欄10行〜21行)と記載した上、その効果につき「この発明によれば、プラスチックフィルム層1の送り時間T1とヒートシール時間T2の間に待ち時間T4を入れ、これによって装置のサイクル時間T3を変化させることができる。したがって、たとえば、プラスチックフィルム層1の送り時間T1とヒートシール時間T2の選定後、装置を調整するにあたって、プラスチックフィルム層1を試験的に送り、試験的にヒートシールするとき、プラスチックフィルム層1の送り時間T1とヒートシール時間T2を選定された値に保ち、装置のサイクル時間T3を任意に変化させ、長くすることができる。したがって、プラスチック袋の長さおよびプラスチックフィルム層のヒートシール条件を変化させず、プラスチック袋の製造速度を任意に低下させることができ、プラスチックフィルム層1の材料コストを最小限にとどめることができる。その後、装置を運転し、プラスチック袋を製造するとき、待ち時間T4を除去することもでき、装置のサイクル時間T3を短縮し、プラスチック袋の製造速度を高めることができる。」(第1公報8欄35行〜9欄3行)と記載している。第1明細書の図3、4上も、製袋サイクル(サイクル時間と同義である。)T3は、送り時間T1、シール時間T2及び「待ち時間T4」から成り、三者はいずれも相互に重複することのない時間として位置づけられている。
第1明細書のこのような記載に照らすと、「待ち時間T4」は、送り時間T1及びヒートシール時間T2と対置される概念であることは明らかであるから、
文字どおり、プラスチックフィルム層を送りもせず、ヒートシールもしない時間であって、かつ、第1発明の目的効果を達成するものとして、装置のサイクル時間T3を変化させるために入れたり除去できるものでなければならないというべきである。
(2)ア 原告は、「待ち時間T4」が装置のサイクル時間T3を変化させるものであることを根拠として、「定常運転時の送り速度でフィルムを送っておらず、シールもしていない時間」であると主張する。しかし、第1明細書には、そのような解釈を示唆するような記載は全く窺われず、かえって、第1明細書の図3、4においては、送り時間T1における送り速度V0が時間の流れに応じて台形上に変化しているのに対し、「待ち時間T4」における送り速度V0は、「シール時間T2」の場合と同様に、その全時間についてゼロとされている。原告自身も、その特許無効審判事件(無効2000-35178)で提出した平成12年7月24日付け審判事件答弁書において、「待ち時間T4」の意義を「プラスチックフィルム層1に対し送りもせず、ヒートシールもせず、何もしない時間」であると主張していた(甲14)ことに照らしても、原告の前記主張は、採用することができない。
イ 他方、被告は、「待ち時間T4」が人為的に入力設定される必要がある旨を主張する。しかし、第1明細書において、そのような解釈を示唆するような説明はなく、むしろ実施例の説明の項に「待ち時間T4を入れるには、コンピュータ18によってクランク15の第2速度V2を調整し、変化させればよい。図3の制御特性では、クランク15の第2速度V2が図2の第2速度V2よりも低くおさえられ、これによって待ち時間T4が入れられる。図4の制御特性では、クランク15の第2速度V2がその第1速度V1よりも低い値に選定される。したがって、その待ち時間T4は図3の待ち時間T4よりも長い。」(第1公報8欄13行〜21行)という記載があり、同実施例の場合を特許請求の範囲から除外したとは解されないから、第1発明にいう「待ち時間T4」は、それ自体を人為的に入力設定する場合に限られず、クランク15の第2速度V2の調整により結果的に発生する場合を含むというべきである。この点に関する被告の主張は採用することができない。
ウ 被告は、第1明細書の【0010】や図2を根拠に、ヒートシール時間T2にはプラスチックフィルム層1をシールしている時間のみならずシールするために可動シールバーが上下する時間を含むことを前提として、「待ち時間T4」とは、可動シールバーが上昇端(第2位置P2)において止まっている時間をいうと主張する。確かに、第1明細書の図2によれば、送り速度V0がゼロであるにもかかわらず、可動シールバーがシール時の位置であるP1よりもわずかに上昇した部分が認められ、このような部分も形式的に「プラスチックフィルム層を送りもせず、ヒートシールもしない時間」に該当することは否定できない。しかし、第1明細書の図2において、「シールするために可動シールバーが上下する時間」は送り時間T1にも含まれているとみることもできるから、これをすべてヒートシール時間T2に含まれるとする被告の前提には無理があり、待ち時間T4に可動シールバーが上下する場合を含むことが明らかな図3や図4とも整合しない。第1明細書の【0010】の記載(第1公報7欄1行〜12行)も、「待ち時間T4」が入れられていない場合の制御特性について言及したものにすぎず、被告の前記主張を根拠づけるものではない。したがって、この点に関する被告の主張も採用することができない。
エ 被告は、「待ち時間T4」には、可動シールバーによるセーフスペースの移動時間は含まれない旨を主張する。確かに、可動シールバーがこのセーフスペースを移動するための時間それ自体は定常運転時にも存在し、除去することはできない。しかし、セーフスペースが設けられたのは、送り動作とシール動作とが干渉することを防止するためであって、セーフスペースを移動するための時間は、一定のわずかな時間がありさえすれば足り、それを超過する部分については除去することも可能であると解されるから、被告の前記主張は採用することができない。
(3) 当事者間に争いがないイ号物件目録の構成によれば、イ号物件は、「シール固定」設定スイッチをオンにすると、速度パーセントを下げることにより1分間当たりのショット数(B)を減少させても、ヒートシールする時間は初期設定時のまま変わらないように制御し、「送り固定」設定スイッチをオンにすると、速度パーセントを下げることにより1分間当たりのショット数(B)を減少させても、フィルム送りモーターの送り時間と送り速度は初期設定時のまま変わらないように制御するコンピュータを備え、「シール固定」設定スイッチと「送り固定」設定スイッチをオンにし、速度パーセントを下げることにより1分間当たりのショット数(B)を減少させると、プラスチックフィルム層の停止時間は前記ヒートシールする時間とセーフスペースに要する時間の合計時間より長い時間となるというものである。したがって、イ号物件には、装置のサイクル時間T3を変化させるため、プラスチックフィルム層を送りもせず、ヒートシールもしない時間が設けられており、これは「シール固定」設定スイッチ、「送り固定」設定スイッチの各オンオフにより、入れたり除去できるものであるから、「待ち時間T4」に該当するというべきである。
(4) 次に、ロ号物件についてみると、別紙ロ号物件目録記載の構成のうち、下線部以外の部分については当事者間に争いがなく、下線部部分については、証拠(甲15、検乙3、4)によれば、被告主張事実(下線部中の括弧書部分)が認められる。これによれば、ロ号物件は、速度パーセントを下げることにより1分間当たりのショット数(B)を減少させても、プラスチックフィルム層の送り最高速度を、ほぼ、初期設定時のままとしながら、その前後の加速度と減速度を制御して、
定常運転時の速度より遅い速度で送り続けるように制御するものであり、装置のサイクル時間T3を変化させるための、プラスチックフィルム層を送りもせず、ヒートシールもしない時間があるとはいえないから、「待ち時間T4」の構成要件を充足しないというべきである。
原告は、技術的に無意味な微動送り時間は「待ち時間T4」に相当すると主張するが、微動送りもプラスチックフィルム層を送っている以上、技術的に無意味であると直ちにいうことはできず、この技術的当否の点を除外しても、前記(1)で判示した「待ち時間T4」の意義に照らすと、プラスチックフィルム層を送りもしない時間ではない以上、「待ち時間T4」には該当しないというほかない。また、
原告は、1分間当たりのショット数(製袋速度)を20に落とした状態であれば、
シールしておらず、送りが停止している状態が発生しているとも主張するが、前記条件下においても、微動送りの状態があるにとどまり(検乙2。これに対し、原告従業員が作成した報告書では、被告提出の検乙3のビデオテープを分析した結果、
フィルムの完全停止時間があるとするが、その基礎資料に限界がある上、原告の自認する「停止状態に近い非常にゆっくりとした送り時間」との区別が明確でない点で、採用することができない。)、シールしておらず、送りが停止している状態が発生しているとはいえないから、原告の前記主張も採用することができない (5) なお、第1特許権について、弁論の全趣旨によれば、前記特許無効審判請求事件について請求は成り立たないとの平成13年2月20日付け審決(甲16)があったところ、被告は審決取消訴訟を提起したが、原告はその後、「待ち時間T4を送り時間T1の後ヒートシール時間T2の前に入れる」旨の訂正審判請求をしたことが認められる。しかし、この訂正審判請求が容れられたとしても、第1特許権侵害に関する判示の結論に影響を及ぼすものではない。
2 争点2(第1発明の構成要件B「送り速度V0、送り時間T1、可動シールバー駆動機構の駆動速度V1、V2及びヒートシール時間T2の選定」の充足性)について (1) 第1明細書の特許請求の範囲(請求項1)や発明の詳細な説明欄(第1公報5欄12行〜16行)の記載によれば、第1発明において、送り速度V0、送り時間T1、可動シールバー駆動機構の駆動速度V1、V2及びヒートシール時間T2の選定がコンピュータによることは明らかであるところ、被告は、イ号物件では、「送り速度V0、送り時間T1、可動シールバー駆動機構の駆動速度V1、V2及びヒートシール時間T2」を選定することはできない旨を主張する。そこで、
イ号物件において、送り速度V0、送り時間T1、可動シールバー駆動機構の駆動速度V1、V2及びヒートシール時間T2がコンピュータにより選定されているかを検討する。
当事者間に争いがないイ号物件の構成は、カット長さL、1分間当たりのショット数B及びシール時間と非シール時間の比率Pを設定するものであり、これらの設定に基づき、送り時間T1とシール時間T2が自動的に算定される(この状況は検乙1にも示されている。)というのであるから、送り時間T1とシール時間T2は、コンピュータにより選定されているということができ、カット長さLが送り速度V0×送り時間T1によって決定されることからすれば、送り速度V0もコンピュータにより選定されているということができる。また、送りモーター及びシールモーターをプログラム制御することができ、可動シールバーの移動距離が第1位置P1と第2位置P2との間に固定され、送り時間T1、シール時間T2も、前記のとおり、コンピュータにより選定される以上、プラスチックフィルム層がヒートシールされる間の速度V1、プラスチックフィルム層が送られる間の速度V2も、コンピュータにより選定されるということができる。したがって、この点に関する被告の主張は採用することができない。
(2) 被告は、イ号物件では一定の送り速度V0を観念することができないから、これを選定することができないとも主張する。
しかし、前記(1)で判示したとおり、イ号物件においても、カット長さ(L)が送り速度V0×送り時間T1によって決定される以上、カット長さ(L)が設定されれば、送り速度V0もコンピュータにより制御されるのであって、送り速度V0を観念し得ることは明らかである。送り速度V0の値が変化するとしても、その選定自体を否定することにはならないから、この点に関する被告の主張も採用することができない。
3 争点3(権利の濫用(明白な無効理由))について (1) 被告の主張(1)の根拠とする特開昭55-34929号公報(乙2)記載の発明についてみると、その特許請求の範囲は「原反を間欠的に移送し、その間欠停止中に溶着を行なう製袋機の制御方法であつて、冷却操作回路をオンしたときのみ、原反に対して接近離間を行なう溶着用加熱板が原反から離間したときから離間限に達するまでの間の設定した位置または離間限の位置で、製袋機駆動装置を設定した時間だけ停止させることを特徴とする製袋機の制御方法」というものであり、
その発明の詳細な説明の欄には「溶着部が充分に冷却されていないのに次回の移送を行なつたとき、該溶着部が伸びて弱くなり、ひどいときには引張り切断されてしまう。これを防止するために従来では間欠駆動速度を遅くし、それにより間欠停止時で溶着後の時間を充分に取って溶着部の冷却を確実に行なつていた。しかしこの方式によると、(中略)間欠駆動速度が遅いことから搬送速度もスローになり、全体速度が遅くなって製袋能率に限度を生じ」る問題点があったことを指摘した上、
発明の目的を「間欠駆動を高速で行なえながらも、溶着部の冷却は充分に行なつてシール強度を強くなし得る製袋機の制御方法を提供するもの」と位置づけ、「溶着用加熱板22が離間限(U1)に達したときから設定時間だけ製袋機駆動装置が停止され、そして再び元のサイクルに戻ることになる」ための停止時間として「冷却用追加時間N」を設けたということが記載されている。発明の効果も、「原反の間欠停止中に溶着を行なうに、この原反の材質、厚み、溶着用加熱板の加熱温度に基づいて、該原反の間欠移送を、所期の一定サイクルで行なうか、あるいは相応の冷却時間を挿入したサイクルで行なうか使い分けることができ、特に冷却時間は、溶着用加熱板が原反から離間したときから離間限に達するまでの間の設定した位置または離間限の位置で、製袋機駆動装置を設定した時間だけ停止させることより成ることから、その冷却のための追加時間は、最も効果のよいポイントにおいて最低必要分だけ取ることができ、これは全体の間欠移送サイクルを遅くする形式に比べて製袋能率を向上できながらも、溶着部の冷却は充分に行なつてシール強度を強くできる。また冷却時間を充分に取り且つ加熱温度を上げることにより、今迄の標準製袋機で出来なかつた厚物原反のシールを確実に行なうことができる。」というものである。
確かに、特開昭55-34929号公報(乙2)記載の発明において、
「冷却追加時間N」がシールもせず送りもしない時間であり、その挿入によりサイクル時間が延長されることがある(乙2の第3図参照)点で、第1発明における「待ち時間T4」と共通するところが皆無ではないものの、争点1(1)で判示した第1発明とは、その目的効果を全く異にするものであることは明らかである。そうすると、当業者が前記発明に基づいて第1発明を容易に発明をすることができたとはいえないというべきである。この点に関する被告の主張は採用することができない。
(2) 被告の主張(2)について検討するに、第2明細書によれば、第2発明は、
「プラスチックフイルムの長さ方向スリット線と幅方向切断線の交差領域を打抜くプラスチック袋製造装置において、プラスチック袋のコーナーカット部分の突出段差を完全に除去すること」(第2公報5欄25行〜28行)を目的とし、「プラスチック袋のコーナーカット部分(8)に突出段差(12)は生じない。」(同公報9欄34行〜35行)という効果を得るために、「スリット刃(3)によってプラスチックフィルム(1)がスリットされ、スリット後、カッタ(5)によってプラスチックフィルム(1)が切断される。これによってプラスチック袋が製造される。
さらに、プラスチックフィルム(1)の切断前、プラスチックフィルム(1)の長さ方向スリット線(4)と幅方向切断線(6)の交差領域において、打抜き工具(7)によってプラスチックフィルム(1)が打ち抜かれる。これによってプラスチック袋がコーナーカットされる。(中略)プラスチックフィルム(1)をその幅方向切断線(6)に沿って切断するにあたって、駆動機構によってカッタ(5)が駆動され、カッタ(5)が2回にわたって動作し、プラスチックフィルム(1)が幅方向切断線(6)の両側で切断される。」(同公報9欄20行〜34行)という構成を採用したものであると認められる。第2明細書の上記記載によれば、第2発明(特許請求の範囲請求項1)の目的、構成及び作用効果は明確であって、第2発明の構成を備えたプラスチック袋製造装置がコーナーカット部分の突出段差を除去できることは明らかであり、それ自体で完成された発明であるということができる。被告が主張するように、請求項2記載の送りローラ(2)や請求項3記載の2枚スリット刃(3)を備えていないことをもって、第2発明が未完成であるとはいえない。この点に関する被告の主張は採用することができない。
4 争点4(原告の損害)について (1) 第1特許権について ア 証拠(乙33)によれば、被告によるイ号物件の販売数量は、原告の被告に対する警告到達日(平成6年7月31日ころ)から第1特許権登録日の前日(平成8年6月13日)までの間の販売数が96台、売上額が19億5600万円、第1特許権登録日(平成8年6月14日)から平成10年12月までの間の販売数が146台、売上額が29億6100万円であることが認められる。これに対し、原告の主張する販売数及び売上額を認めるに足りる証拠はない。
実施料率について検討するに、第1発明はプラスチックフィルム層をヒートシールする装置に関するものである。その目的や効果は、前記1(1)で判示したとおりであり、被告自身も、被告製品のカタログ(甲8)において、「シール時間と温度を一定に保ちながら、運転スピードを可変できます。」、「フィルムのロスが(を)大幅に減少します。」などと、第1発明の価値が高いものであることを前提として、その効果を当該製品のアピールポイントとして大きく宣伝しているのであるから、それなりの寄与度があるものというべきであり、実施料率は売上額の2%をもって相当と認める。この点に関する被告の主張は、本件訴訟提起後に実施された被告の顧客に対するアンケート(乙25の1ないし65)を主たる根拠とするが、
同アンケートは、その実施態様や質問内容等の点で直ちに信用することができず、
他に同主張を基礎づけるに足りる証拠もないから、採用することができない。
ウ したがって、第1特許権侵害による損害及び仮保護の権利による補償金請求の実施料相当額は、次式のとおりとなる。
(補償金請求) 1956000000×0.02=39120000 (損害賠償請求)2961000000×0.02=59220000 エ 前記損害賠償請求に関する弁護士費用について、本件事案の難易、請求額、認容額、その他諸般の事情を考慮し、500万円をもって相当と認める。
オ なお、補償金請求権の法的性質は、不法行為に基づく損害賠償請求権ではなく、特許法の規定により創設された特別の権利であると解すべきであるから、
補償金請求の遅延損害金の起算日は、本件においては、請求のあったことが明らかな訴状送達日の翌日(平成11年12月25日)とするのが相当である。
(2) 第2特許権について ア ハ号物件について、原告は、第2特許権登録日(平成10年7月24日)から平成11年10月1日までの間における製造販売数は40台を下らないと主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。確かに、原告の平成10年6月23日付け通知書(甲10)に対する被告の同年11月13日付け回答書(甲6)によれば、ハ号物件の製造台数につき、現在まで約20台、うち前記通知を受けてからは4台であると被告が自認したこと、本件訴訟上の被告の主張も2台から3台へ変遷したことは認められるが、被告代表者の陳述書(乙9の3頁)に照らすと、前記回答書(甲6)上の自認台数は第2特許権登録日(平成10年7月24日)前までの期間に販売されたものを含む可能性を否定することができず、被告の主張の変遷も、当初、前記回答書(甲6)上の自らの回答を念頭に置き、同回答後の製造販売台数を失念していたにすぎない(追加主張に係るハ号物件の販売日は平成11年2月6日である。)とも考えられるのであるから、結局、本件訴訟上の被告による自認台数(3台)より多くの製造販売数を認めるには足りない。原告の前記主張は採用することができない。
実施料率について検討するに、第2発明はプラスチック袋製造装置に関するものであるが、同発明の目的効果はプラスチック袋のコーナーカット部分の突出段差を完全に除去するというものにすぎず、被告製品のカタログ(甲8)上も、
「2度切りシステム取付可能」な点を「オプション機能」として宣伝するにとどまるほか、原告自身も、第1特許権の場合のイ号物件及びロ号物件に比し、第2特許権の場合のハ号物件1台当たりの売上額を800万円と大きく減額して算定していることに照らすと、ハ号物件の全体価格(1台当たり3137万円、乙26及び弁論の全趣旨)を基礎としつつも、その実施料率は、1%にとどめるのが相当である。
ウ したがって、第2特許権侵害による実施料相当損害額は、次式のとおりとなる。
31370000×3×0.01=941100 エ 弁護士費用について、本件事案の難易、請求額、認容額、その他諸般の事情を考慮し、10万円をもって相当と認める。
(3) まとめ 39120000+59220000+5000000+941100+100000=104381100 5 争点5(差止等請求の可否) (1) イ号物件について、被告は、平成11年1月以降、その製造販売する製袋機の設定仕様として「送り固定」を廃止したと主張し、この主張は、「送り固定」の設定仕様であるイ号物件についての差止等の必要性がない旨をいう趣旨と解される。
確かに、証拠(乙17ないし24、33)によれば、被告によるイ号物件の販売が平成10年12月までであり、その後、「送り同期」の設定仕様であるロ号物件を製造販売していることは認められるものの、ロ号物件の設定仕様を変更してイ号物件の構成にすることは容易になし得ることであると解される上、本件訴訟における被告の主張立証態度に照らすと、被告においてイ号物件の製造販売を再開するおそれが依然存するものと認めるのが相当であるから、前記事実をもってイ号物件についての差止等の必要性が消滅したとはいえない。この点に関する被告の主張は、採用することができない。
(2) 次に、被告は、ハ号物件について、「2度切り」を廃止し「2丁切り(2つのカッタで各1度ずつ切ること)」に変更した旨を主張し、この主張は、ハ号物件についての差止等の必要性がない旨をいう趣旨と解される。
確かに、証拠(乙26ないし31)によれば、被告によるハ号物件の販売が平成11年2月までにとどまり、その後は、「2丁切り」の設定仕様である装置を製造販売していることは認められるものの、被告によるハ号物件の製造販売の再開のおそれを否定できないことは、前記(1)の場合と同様であるから、この点に関する被告の主張も採用することができない。
結論
以上によれば、原告の請求は上記の限度で理由がある。仮執行宣言は、主文第1項、第2項については相当でないから付さない。
なお、被告は、消滅時効の抗弁の提出を予告して弁論の再開を上申したが、
当該防御方法の提出が時機に後れたことにつき合理的な説明は何らされていないばかりか、本件口頭弁論を再開するとすれば、原告被告間の事前交渉における時効中断事由の有無が争点化することが予想され、この点に関する審理の続行を余儀なくされるほか、仮に消滅時効の抗弁が認められたとすれば、消滅時効期間の未だ経過していない不当利得返還請求への訴えの変更も問題となり得るところであり、訴訟の完結を遅延させることは明らかであるから、本件口頭弁論を再開するのは相当でない。
追加
イ号物件目録「送り固定」設定仕様である以下の製袋機(型番)HSE-600-SS型、HSE-600-SSG型、
SBM-600-SS型、SBM-600-SSG型、
HSP-350-SS型、HSP-500-SS型(構成)a1固定シール台と同固定シール台に間隔を置いて対向するよう配置された可動シール台と、
a2二層を重ね合わせたプラスチックフィルム(以下「プラスチックフィルム層」という。)を可動シール台と固定シール台の間に通し、一定長さずつ間欠的に送り、その間欠送りごとに、プラスチックフィルム層を一時的に停止させる、プラスチックフィルム層送りローラを間欠的に回転駆動するモーター(以下「送りモーター」という。)と、
a3プラスチックフィルム層の間欠送りごとに、可動シール台がクランクと上下動部材とを介して固定シール台に対して下方移動して接近し、プラスチックフィルム層を可動シール台と固定シール台とで挟みつける下端位置(第1位置P1)と、可動シール台が固定シール台及びプラスチックフィルム層に対して、クランクと上下動部材との動きによって上方移動して離隔し、固定シール台及びプラスチックフィルム層から離れる上方位置(第2位置P2)との間を往復移動させ、
a4プラスチックフィルム層が一時停止しているとき、プラスチックフィルム層を下端位置において可動シール台と固定シール台間で挟み、これによってプラスチックフィルム層をヒートシールする可動シール台の駆動モーター(以下「シールモーター」という。)とを有する装置であって、
bカット長さ(L)、1分間当たりのショット数(B)及びシール時間と非シール時間の比率(P)を選定し、送りモーター及びシールモーターをプログラム制御することができ、かつ、「シール固定」設定スイッチと「送り固定」設定スイッチを備え、「シール固定」設定スイッチをオンにすると、速度パーセントを下げることにより1分間当たりのショット数(B)を減少させても、ヒートシールする時間は初期設定時のまま変わらないように制御し、「送り固定」設定スイッチをオンにすると、速度パーセントを下げることにより1分間当たりのショット数(B)を減少させても、フィルム送りモーターの送り時間と送り速度は初期設定時のまま変わらないように制御するコンピュータを備え、「シール固定」設定スイッチと「送り固定」設定スイッチをオンにし、速度パーセントを下げることにより1分間当たりのショット数(B)を減少させると、プラスチックフィルム層の停止時間は前記ヒートシールする時間とセーフスペース(プラスチックフィルム層送りローラによるプラスチックフィルム層の送りと、可動シール台及び固定シール台によるプラスチックフィルム層のヒートシールとが、干渉することを避けるために設けられるもの)に要する時間の合計時間より長い時間となるcことを特徴とするプラスチックフィルム層をヒートシールする装置。
ロ号物件目録「送り同期」設定仕様である以下の製袋機(型番)HSE-600-SS型、HSE-600-SSG型、
SBM-600-SS型、SBM-600-SSG型、
HSP-350-SS型、SBM-600-ST型(構成)a1固定シール台と同固定シール台に間隔を置いて対向するよう配置された可動シール台と、
a2二層を重ね合わせたプラスチックフィルム(以下「プラスチックフィルム層」という。)を可動シール台と固定シール台の間に通し、一定長さずつ間欠的に送り、その間欠送りごとにプラスチックフィルム層を一時的に停止させる、プラスチックフィルム層送りローラを間欠的に回転駆動するモーター(以下「送りモーター」という。)と、
a3プラスチックフィルム層の間欠送りごとに、可動シール台がクランクと上下動部材とを介して固定シール台に対して下方移動して接近し、プラスチックフィルム層を可動シール台と固定シール台とで挟みつける下端位置(第1位置P1)と、可動シール台が固定シール台及びプラスチックフィルム層に対して、クランクと上下動部材との動きによって上方移動して離隔し、固定シール台及びプラスチックフィルム層から離れる上方位置(第2位置P2)との間を往復移動させ、
a4プラスチックフィルム層が一時停止しているとき、プラスチックフィルム層を下端位置において可動シール台と固定シール台間で挟み、これによってプラスチックフィルム層をヒートシールする可動シール台の駆動モーター(以下「シールモーター」という。)とを有する装置であって、
bカット長さ(L)、1分間当たりのショット数(B)及びシール時間と非シール時間の比率(P)を選定し、送りモーター及びシールモーターをプログラム制御することができ、かつ、「シール固定」設定スイッチと「送り同期」設定スイッチを備え、「シール固定」設定スイッチをオンにすると、速度パーセントを下げることにより1分間当たりのショット数(B)を減少させても、ヒートシール時間は初期設定時のまま変わらないように制御し、「送り同期」設定スイッチをオンにすると、速度パーセントを下げることにより1分間当たりのショット数(B)を減少させても、送り速度が平均的に一様に遅くなるように制御するのではなく、プラスチックフィルム層の送り最高速度を、ほぼ、初期設定時のままとし、その前後の加速度と減速度を制御して、定常運転時の速度より遅い速度で送り、その後、前記可動シール台がフィルムに圧着している時間より長いフィルム停止時間が設定される(送り続ける)ように制御するコンピュータを備えたcことを特徴とするプラスチックフィルム層をヒートシールする装置。
(注)下線部のうち、本文が原告の主張であり、括弧内が被告の主張である。
ハ号物件目録(型番)HSE-600-SS型、HSE-600-SSG型、
SBM-600-SS型、SBM-600-SSG型(構成)aヒートシールされた2枚のプラスチックフィルムの送り経路に設けられ、前記プラスチックフィルムをその長さ方向切断線に沿って切断するスリット刃と、
b前記送り経路において、スリット刃の下流側に設けられ、前記プラスチックフィルムのスリット後、前記プラスチックフィルムを幅方向に切断し、プラスチック袋を製造するカッターと、
c前記送り経路において、カッターの上流側に設けられ、前記プラスチックフィルムの切断前、前記プラスチックフィルムの長さ方向切断線と幅方向切断線との交差領域を打ち抜くパンチ工具と、
dカッターに連結され、前記プラスチックフィルムをその幅方向切断線に沿って切断するにあたって、カッターを2回動作させ、その本来の幅方向切断線の両側で前記プラスチックフィルムを2度切りできるカッター駆動機構とeを備えたことを特徴とするプラスチック袋製造装置。
裁判長裁判官 小松一雄
裁判官 中平健
裁判官 田中秀幸