関連審決 |
審判1998-35126
審判1993-18041
審判1996-19266 審判1996-4066 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成13行ケ1審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 承継 / 発明者 / 協議 / 使用方法 / 新規性 / 公然知られ(29条1項1号) / 守秘義務 / 秘密保持義務 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 周知技術 / 手続違反 / 発明の詳細な説明 / 技術的特徴 / 着想 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 社会通念 / 加工 / 構成要件 / 設定登録 / 拒絶査定 / 訂正審判 / 請求の範囲 / 変更 / |
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元本PDF | 裁判所収録の全文PDFを見る |
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事件 |
平成
12年
(行ケ)
457号
審決取消請求事件
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原告 石川島播磨重工業株式会社 訴訟代理人弁護士 近藤惠嗣、弁理士 荒崎勝美、復代理人弁護士 窪田英一郎 被告 日本ロール製造株式会社 訴訟代理人弁護士 増岡章三、増岡研介、片山哲章、弁理士 早川政名、長南満 輝男、細井貞行、石渡英房 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2002/02/05 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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原告の求めた裁判
「特許庁が平成5年審判第18041号事件について平成12年10月17日にした審決を取り消す。」との判決。 |
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事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 被告は、名称を「6本ロールカレンダーの構造及び使用方法」とする発明(昭和60年7月5日特許出願(昭和60年特許願第146690号)、平成2年8月16日出願公告(特公平2-36370号)、平成5年2月17日に特許権の設定登録(特許第1735179号)。本件発明)の特許権者である。 原告は、平成5年9月14日、本件特許につき無効審判を請求し、平成5年審判第18041号事件として審理され、平成7年12月22日、本件特許請求の範囲第1項ないし第2項に記載された発明についての特許を無効とする旨の審決(第1次審決)があった。 被告は、東京高等裁判所に第1次審決の取消訴訟を提起するとともに(平成8年(行ケ)第19号)、平成8年3月21日、訂正審判の請求を行い(平成8年審判第4066号)、同年11月13日に、別の訂正審判を請求し(平成8年審判第19266号)、これに伴い、同月21日、前者の訂正審判の請求を取り下げた。後者の訂正審判事件において、平成9年1月8日、被告請求の訂正を認める審決があった。 この訂正審決を受けて、平成9年11月19日、東京高等裁判所において第1次審決を取り消す旨の判決があり、平成11年4月22日最高裁判所の上告棄却の判決により確定した。 これを受けて本件無効審判請求の審理が改めて行われ、平成12年10月17日「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(本件審決)があり、その謄本は平成12年11月8日原告に送達された。 2 本件発明の要旨(「または」を「又は」と表記した。本件明細書を引用する際も同様。) (1) ゴム及びプラスチック等の高分子用カレンダーにおいて、第一ロールR1と第二ロールR2とを略水平に並列し、該第二ロールR2の下側又は上側に第三ロールR3を第二ロールR2と平行でかつ第一ロールR1方向と略直交状に配置し、該第三ロールR3の横側で第一ロールR1と反対側位置に第四ロールR4を第三ロールR3と略水平でかつ第二ロールR2方向と略直交状に並置し、この第四ロールR4の下側又は上側で前記第二ロールR2と反対側位置にロール軸交叉装置を備えた第五ロールR5を第四ロールR4と略平行でかつ第三ロールR3方向と略直交状に配置し、更に第五ロールR5の下側又は上側で前記第二ロールR2と反対側位置にロール間隙調整装置を有する第六ロールR6を第四ロールR4及び第五ロールR5と平行でかつ第三ロールR3と略直交状に設置し、各ロール周速を第一ロールR1から順次後方に行くに従って速くしたことを特徴とする6本ロールカレンダーの構造。 (2) ゴム及びプラスチック等の高分子用カレンダーにおいて、第一ロールR1と第二ロールR2とを略水平に並列し、該第二ロールR2の下側又は上側に第三ロールR3を第二ロールR2と平行でかつ第一ロールR1方向と略直交状に配置し、該第三ロールR3の横側で第一ロールR1と反対側位置に第四ロールR4を第三ロールR3と略水平でかつ第二ロールR2方向と略直交状に並置し、この第四ロールR4の下側又は上側で前記第二ロールR2と反対側位置にロール軸交叉装置を備えた第五ロールR5を第四ロールR4と略平行でかつ第三ロールR3方向と略直交状に配置し、更に第五ロールR5の下側又は上側で前記第二ロールR2と反対側位置にロール間隙調整装置を有する第六ロールR6を第四ロールR4及び第五ロールR5と平行でかつ第三ロールR3と略直交状に設置し、各ロール周速を第一ロールR1から順次後方に行くに従って速くした6本ロールカレンダーの構造において、第一ロールR1と第二ロールR2との間に高分子材料を投入して両ロール間で圧延し、 これを第二ロールR2のロール表面に沿って後方に送り、次に第二ロールR2と第三ロールR3との間で圧延して、順次第三ロールR3と第四ロールR4との間で圧延し、更に第四ロールR4と第五ロールR5との間で圧延して、最後に第五ロールR5と第六ロールR6との間で圧延する各ロール間でバンクの回転が順次反対方向となることを特徴とする6本ロールカレンダーの使用方法。 (3) ゴム及びプラスチック等の高分子用カレンダーにおいて、第一ロールR1と第二ロールR2とを略水平に並列し、該第二ロールR2の下側又は上側に第三ロールR3を第二ロールR2と平行でかつ第一ロールR1方向と略直交状に配置し、該第三ロールR3の横側で第一ロールR1と反対側位置に第四ロールR4を第三ロールR3と略水平でかつ第二ロールR2方向と略直交状に並置し、この第四ロールR4の下側又は上側で前記第二ロールR2と反対側位置にロール軸交叉装置を備えた第五ロールR5を第四ロールR4と略平行でかつ第三ロールR3方向と略直交状に配置し、更に第五ロールR5の下側又は上側で前記第二ロールR2と反対側位置にロール間隙調整装置を有する第六ロールR6を第四ロールR4及び第五ロールR5と平行でかつ第三ロールR3と略直交状に設置し、各ロール周速を第一ロールR1から順次後方に行くに従って速くした6本ロールカレンダーの構造において、第二ロールR2を上側又は下側に移動して第二ロールR2と第三ロールR3との間隔をとり、第一ロールR1と第二ロールR2とで圧延された材料を均一なシート状に剥がして第三ロールR3と第四ロールR4間のバンクに送り、第三ロールR3と第四ロールR4との間で圧延し、順次第四ロールR4と第五ロールR5との間で圧延して最後に第五ロールR5と第六ロールR6との間で圧延することを特徴とする6本ロールカレンダーの使用方法。 3 審決の理由の要点 (1) 請求人(原告)の主張 原告は、審判甲第1〜20号証及び審判甲第22〜27号証を提出して次のような主旨の主張をしている。 (1)-1 本件請求項1に係る発明(本件第1発明)は、審判甲第1〜10号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。 (1)-2 本件請求項2に係る発明(本件第2発明)は、本件第1発明を普通に使用する方法にすぎないものであって、上記(1)-1の主張の理由によって当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。 (1)-3 被告は、昭和56年9月以降本件出願日までの間に、本件発明を記載した図面を守秘義務を負わせることなく日本国内の顧客に対して提示していたことにより、本件発明は日本国内において公然知られたものとなったから、特許法第29条第1項第1号の規定に違反して特許されたものである。 (1)-4 被告は、遅くとも、本件出願前に本件発明を台湾のAに提示したが、その際、秘密保持義務を負わせることはなかった。そして、同人は昭和60年2月8日までに、日本国内で原告に対して本件発明を開示し、原告は同人の開示に基づいて図面を作成した。この事実から、本件発明は本出願前日本国内において公然知られたものとなったものであるから、特許法第29条第1項第1号の規定に違反して特許されたものである。 (2) 原告の主張についての審決の検討 (2)-1 (1)-1の主張について (2)-1-1 審判甲第1号証(「PLASTICS AGE」、第20巻、8月号、(株)プラスチックスエージ、昭和49年8月1日発行、p.93-98)には、Z形4本ロールカレンダ(3.4の項)や傾斜Z形及びS形4本ロールカレンダ(3.5の項)や5本ロールカレンダ(3.6の項)等について記載されており、その第94頁の第11図の中央には、シーテイング用のM形5本ロールの配置が示されており、また、その第95頁左欄6行から中央欄6行には、「わが国ではZ形にロールを1本追加したM形5本ロールカレンダ(写真11、図11中)が採用されている。この形式はバンクと次のバンクとの距離がすべて1/4円周づつで最も短いので、無可塑塩化ビニル樹脂の透明度のよいフィルムや厚いシート類の高速生産には最適である。」と記載されている。 審判甲第2号証(「PLASTICS AGE」、第20巻、6月号、(株)プラスチックスエージ、昭和49年6月1日発行、p.101-106)には、「カレンダの歴史と進歩」について記載されており、その第101頁の図1には、カレンダ変遷の歴史として、ロール数が2本や3本や4本や5本の多数のカレンダ方式の例が示されており、5本ロールのM形の例も示されている。 しかし、このM形5本ロールの構造は、本件第12図にも示されている従来のカレンダー型式のものにすぎず、本件第1発明の6本カレンダーの構造と、審判甲第1号証や審判甲第2号証に示されるM形5本ロールの構造とを対比すると、原告が審判請求書第11頁9行から末行でいうように、両者は、ゴム及びプラスチック等の高分子用カレンダーにおいて、第一ロールと第二ロールとを略水平に並列し、該第二ロールの下側に第三ロールを第二ロールと平行に配置し、該第三ロールの横側で第一ロールと反対側位置に第四ロールを第三ロールと略水平に並置し、この第四ロールの下側で前記第二ロールと反対側位置に第五ロールを配置したカレンダーの構造である点で一致しており、(1)前者は、第五ロールの下側に第六ロールを設けているのに対し、後者は、第五ロールの下に第六ロールを設けていない点(相違点(1))、(2)前者は、第五ロールにロール軸交叉装置を備えると共に、第六ロールにロール間隙調整装置を備えているのに対し、審判甲第1号証や審判甲第2号証には、第五ロールにロール軸交叉装置を設けることが記載されておらず、また、後者はロール間隙調整装置を備えている第六ロールを設けていない点(相違点(2))、(3)前者は、各ロール周速を第一ロールから順次後方に行くに従って速くしているのに対して、審判甲第1号証や審判甲第2号証には各ロールの周速については記載されていない点(相違点(3))で相違している。 (2)-1-2 相違点について原告は次のとおり主張する。 相違点(1)についての原告の主張「(A-1)審判甲第1号証には、これから先、目的によってはさらに6本、7本とロールを増して、マルチロールカレンダ化が考えられることが記載されており、 (A-2)審判甲第2号証には、3本から4本、5本とロールを増すと、希望の厚さのものを製造することができ、その精度が高く、表面がきれいになり、また気泡の混入がなくなることが記載されており、(A-3)審判甲第3号証(特公昭49-44586号公報)には品質、外観等の改善のためにロール数を増やしてバンク数を増やすことが記載されており、(A-4)審判甲第4号証(特開昭51-144459号公報)にはロールを増して6本、7本としたマルチロールカレンダが、 審判甲第5号証(特開昭51-41761号公報)には逆L-L型6本カレンダが、審判甲第6号証(特公昭57-27821号公報)にはL型6本ロールカレンダが、審判甲第7号証('Modern Plastics International'第4巻第1号(1974)p.18〜21)にはバーシュトルフ社が6本ロールカレンダを建造中であると記載されているので、(A-5)ロール数を増やしてバンク数を増やすことによって、シート・フィルムなどの製品の品質、外観をよくするため、審判甲第1号証記載の発明のM形の5本ロールカレンダの最終ロールに1本を加えて6本ロールカレンダとすることは当業者が必要に応じて容易になし得ることである。 さらに、前記事項が当業者が容易に想到できることは、原告の出願に係る審判甲第11〜15号証及び当該出願の拒絶査定謄本である審判甲第16号証を参考にすれば、自明ということができる。 (B-1)次に、M形の5本ロールカレンダに1本のロールを加える場合のロールの位置を検討すると、比較的好ましい位置として、第五ロールの水平右側か第五ロールの垂直下側が考えられる。(B-2)審判甲第7号証に6本の主ロール及び4本のニーダーロールを含むカレンダの6本の主ロールのうち後半の3本の主ロールは垂直に配列されたものが記載されており、これより第五ロールの垂直下側に第六ロールを付加して、第四ロールないし第六ロールを直列的に配列することが示唆されているといえる。(B-3)また、M型第五ロールカレンダの場合、第五ロールにロール軸交叉装置を設ける必要があるが、この場合第五ロールに後続するテイクオフロールとの間の平行度が崩れ、フィルム又はシート厚みに誤差が生じる欠点がある。この欠点は、最終ロール以前の3本以上のロールが直線上になるようにロールを配置した逆L型四本ロールカレンダにはない(審判甲第8〜10号証など参照)ので、第五ロールの下に第六ロールを配置することで最終ロール以前の3本以上のロールが直線上になるように配置すればこの欠点を取り除けることは、当業者が容易に予測できることにすぎない。(B-4)したがって、第六ロールを第五ロールの下側で、第四ロール及び第五ロールと平行に設けることは当業者が必要に応じて容易になし得ることである。」 相違点(2)についての原告の主張「(C-1)第五ロールの下に第六ロールを設ける場合、第五ロールと第六ロールの間で最後の圧延をすることになるので、ロールの撓みによりシートの両端部より中央部が厚くなる誤差を補正するため、第五ロールと第六ロールの何れか一方のロールにロール軸交叉装置を設ける必要があり、また間隙を調整する必要があるため、何れか一方のロールに間隙調整装置を設ける必要がある。(C-2)これらのロールのうちの第五ロールは中間に配置されているので、間隙調整装置を設けることは不可能ではないが困難であり、また、相違点(1)で述べたように第六ロールにロール軸交叉装置を設けることは適当でない。(C-3)そうすると、第五ロールにロール軸交叉装置を備え、第六ロールに間隙調整装置を備えることになり、他に選択の余地がない。このことは、審判甲第8,9号証の逆L型4本ロールにおける最終3本ロールの第3ロールで軸交叉を行い、第4ロールで間隙調整を行うことからも、当業者にとって周知である。(C-4)したがって、第五ロールにロール軸交叉装置をを備えるとともに第六ロールにロール間隙調整装置を備えることは、第五ロールの下に第六ロールを設ける場合に当業者が、必要に応じて容易になし得ることである。」 相違点(3)についての原告の主張「(D-1)審判甲第1号証には、理想的な回転バンクを形成するには、前のロールより次のロールの周速を速くするとよいことが記載されており、(D-2)上記M形に1本加えた6本カレンダーにおいて、第一ロールから順次後方のロールに巻き付けて成形する場合、各ロール周速を第一ロールから順次後方に行くに従って速くすることは当業者が必要に応じて適宜なし得ることである。」 (2)-1-3 しかしながら、(A-1)で指摘している審判甲第1号証には、 「これから先、目的によってはさらに6本、7本とロールを増して、前述のようなマルチロールカレンダ化も考えられる…」(審判甲第1号証第95頁右欄11〜13行)と記載されているだけであって、6本、7本のロール構造について具体的に示すところはなく、M形5本ロールにロールを追加することを具体的に示しているわけではないし、また、(A-2)で指摘している審判甲第2号証には、「初期の直立2本ロールカレンダでは、その前工程のミクシングミルで混練・予熱された配合ゴム材料をバンクに供給して、1パスでシート化することをねらったが、材料の種類や製品の程度によっては必ずしもすべての目的を達しなかった。すなわち、希望の厚さやその精度・表面のきれいさ・気泡の混入・材料の温度ムラなどの点で2本ロール1パスの限界を知った。これを改善する方向として、一つには金属圧延機のように2本ロール機を1ラインに2台ないし数台直列に並べて順次圧延してゆく〈タンデムカレンダ〉と、もう一方ではロールの本数を3本から4本5本と増してゆく〈多数ロールカレンダ方式〉とにここで分かれた(図1参照)。」(審判甲第2号証の101頁左欄下から5行から中央欄11行)と記載されているにすぎず、 希望の厚さやその精度・表面のきれいさ・気泡の混入・材料の温度ムラなどの点に関する2本ロール1パスの欠点を改善する方向の一つとしての、ロールの本数を3本から4本5本と増してゆく、審判甲第2号証の第101頁の図1に示されているところの〈多数ロールカレンダ方式〉を紹介しているにすぎないし、(A-3)で指摘している審判甲第3号証のロール数は4又は5個にとどものであるし、さらに(A-4)で指摘している審判甲第4号証には、多ロールカレンダの構造高さ及び構造幅を低減することを課題(第2頁右上欄17〜19行を参照)としている「ゴム或いは合成樹脂用多ロールカレンダ」に関する発明が記載されており、その第2図にはL型6本ロールカレンダ、第4図にはL型7本ロールカレンダの例が示されているだけであるし、審判甲第5号証には逆L型4本カレンダに間隙を設けてさらに2本のロールを平行に並べたものが、審判甲第6号証にはL型6本ロールカレンダが示されているだけであり、M型5本ロールにロールを追加しているものではないから、(A-1)ないし(A-4)で指摘した事項から、(A-5)の結論が導かれるものではない。 そして、(B-1)は、(A-5)のM型5本ロールに、さらにロールを1本追加することが容易であったとの結論の上での議論であるから、上記のように(A-5)の結論が導かれるものではない以上、(B-1)のようにいうことはできない。また、(B-2)で指摘している審判甲第7号証は、本件第1発明とせいぜい、6本ロールからゴム又はプラスチックのシートを製造するものである点で一致している位で、後者は、上の2本のロールがロールミルであり、下の4本のロールがカレンダーを構成するものであり、上の傾斜した2本のロールのそれぞれの下に2本一対のニーダーロールを設けている等本件第1発明とその構造において大きく異なるものであり、また(B-3)で指摘している審判甲第8〜10号証は逆L型4本ロールに関するものであるから、(B-1)、(B-2)及び(B-3)から、(B-4)の結論が導かれるものでない。 したがって、結局、(A-1)〜(A-4)及び(B-1)〜(B-3)から、 第六ロールを第五ロールの下側で、第四ロール及び第五ロールと平行に設けることは当業者が必要に応じて容易になし得ることであるという(B-4)の結論が導き出せるものではない。 また、(C-1)〜(C-3)は上記第六ロールの配置場所を第五ロールの下とすることを前提とした上での議論であるし、また(C-3)で指摘する審判甲第8又は9号証は逆L型4本ロールに関するものであるから、上記のとおり第六ロールを第五ロールの下側で、第四ロール及び第五ロールと平行に設けることが当業者にとって容易想到といえない以上、(C-4)の「第五ロールにロール軸交叉装置を備えるとともに第六ロールにロール間隙調整装置を備えることは、第五ロールの下に第六ロールを設ける場合に当業者が当然行うことである」という結論が導き出せるものでない。 さらに、(D-1)で指摘している審判甲第1号証の第96頁左欄下から12行から7行に「理想的な回転バンクを形成するには、古くから経験的に言われているように、前のロールより次のロールのほうが、(1)周速が速く、(2)ロール温度が高く、(3)ロール表面が粗く、しかも(4)配合的にはロール表面への付着力の大きい材料のほうがよいわけである。」と記載されているものの、審判甲第1号証の96頁中央欄5〜10行に、「ところが、プラスチックシーテイング用の傾斜Z形カレンダ(図12)では、最終のNo.4ロール表面にはフィルムを巻きつけず、No.3ロール側へ引き取るために、一般に機械はNo.3ロールの周速の方がほうがNo.4ロールより速くつくられている。」と記載されており、また審判甲第1号証や審判甲第2号証に記載されたM型5本ロールではシートは第四ロールの方に巻き付いているから、そのM型5本ロールでは第五ロールより第四ロールの方が周速が速いはずである。 してみると、カレンダ構造において、必ず各ロールの周速を第一ロールから順次後方に行くに従って速くしているといえるわけではないので、(D-2)でいう「上記M型(審判甲第1号証や審判甲第2号証に記載されたM型5本ロールのこと)に一本加えた6本カレンダーにおいて、第一ロールから順次後方のロールに巻き付けて成形する場合、各ロールの周速を第一ロールから順次後方に行くに従って速くすることは当業者が容易になし得ることである。」という結論を導くことはできない。 そして、本件第1発明は相違点(1)〜(3)をその構成の一部に備えることによって、従来のM型5本ロールに比べて材料転換が行われるバンクが1か所増加するばかりでなく、ロール間隔調整装置を設けたロールからシートを剥がせるようになるという審判甲第1〜10号証からは予測できない効果を奏するものであるから、本件第1発明が審判甲第1〜10号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとする(1)-1の主張は理由がない。 なお、原告は(1)-1に関する相違点(1)に関する主張の中で、原告の出願に係る審判甲第11〜16号証を提出して、その容易性は自明であるというが、前記各審判甲号証のものは別件の出願に係るもので、かつ本件第1発明とは異なる構造のロールカレンダに係るものであるから、これをもって本件第1発明が容易であったという原告の主張は根拠がない。さらに、審判甲第19〜21号証は単に原告に係る会社内の資料にすぎず、原告の特許法第29条第2項の証拠とはなり得ない。 (2)-2 (1)-2の主張について 本件第2発明は、原告がいうように、本件第1発明を使用する方法であるから、(1)-1の主張についての項で述べた理由と同様の理由により、(1)-2の主張も理由がない。 (2)-3 (1)-3の主張について 原告は、56年9月の日付のあるM-6298という図番の日本ロール製造株式会社(被告)の6本ロールカレンダの計画図を審判甲第22号証とし、56年9月の日付のあるM-6299という図番の日本ロール製造株式会社の6本ロールカレンダの計画図を審判甲第23号証として提出し、これらの図面番号は被告の図面台帳記録(審判甲第24号証)に記載されているところ、この台帳は表紙に「承認図、見積図」「見積図 M番」と記されているとおり顧客に提出した図面を記録する台帳と認められ、さらに別件の平成10年審判第35126号の証人尋問における証人BやCの証言(審判甲第26号証)によれば、日本ロール製造株式会社は、 見積図を顧客に提出するに当たって守秘義務を課していなかったことが明らかであるから、上記図面及びその後作成された本件発明を記載した図面が被告の顧客に提供されたことによって、本件第1発明及び本件第2発明は日本国内において公然知られたものとなった旨主張している。 そして、原告は、前記審判甲第24号証に係る「承認図、見積図」「見積図 M番」台帳の顧客名簿を消去していないものを見れば、当該図面及び被告がその後に作成した本件発明を記載した図面が顧客に提出されていたことが容易に証明されるから、被告は顧客名を消去していない前記台帳を証拠として提出すべきであるとして、証拠提出命令の申立てを行った。 そこで、前記主張について検討すると、審判甲第26号証の上記別件の審判事件の証人尋問調書(被告従業員・B及びCの証言参照)から、前記審判甲第22及び23号証は昭和56年9月に被告によって、顧客からの要望に基づいて、その要望を満たすためのアイデア確認のために設計、図面化されたものであるということは認められるが、これを顧客に提出したかどうかについては不明である。さらに、同調書から本数の多いロールの引き合いに対して6本ロールの提案をしたことは認められるものの、当該図面を顧客に提出したかどうかは不明である。 また、審判甲第22及び23号証に係る図面は、6本ロールの配置の基本構造において本件第1及び第2発明と同一といえるものが記載されているものの、本件第1又は第2発明の構成である第5ロールに軸交叉装置を、第6ロールにロール間隙調整装置を備えること及び各ロールの周速を第1ロールから順次後方に行くに従って速くすることも示されていないから、これらの図面に記載されたものは、本件第1及び第2発明と同一とはいえない。 原告は、これらの図面を顧客に提出したことは、「承認図、見積図(見積図 M番)」のM6262からM6563の6本ロールカレンダ関係の箇所に記載されている顧客名から証明できるというが、そもそも、一般的に技術開発がらみの引き合いにおける相談において、当事者双方は、互いに秘密保持について特段の要請をしていなくとも、その引き合いの具体的内容を当事者以外の他人に漏らすことは、社会通念上信義に反することである上に、審判甲第26号証には、被告従業員のBやCが、それらの図面を見せたり説明をしたりした引き合いの相手に守秘義務がない旨を告げたことを証言したとも記載されていないから、原告の申し立てた「承認図、見積図(見積図 M番)」のM6262からM6563の本件発明に係る6本ロールカレンダに関する箇所に、たとえ複数の顧客名が記載されていたとしても、 これのみではその技術内容が公然知られたものとすることはできない。 なお、審判合議体は念のため平成12年6月20日に、特許庁において、原告の申し立てた「承認図、見積図(見積図 M番)」のM6262からM6563について検証を行ったが、本件発明の6本ロールカレンダに関するものと推定される図面番号の顧客名をみても、被告と直接取引のあった富順公司以外の不特定多数の顧客名は見当たらないので、前記証拠提出命令申立書において申請された証拠は提出する必要がないと判断した。 (2)-4 (1)-4の主張について 原告は、審判甲第27号証を提示し、「被告は昭和59年12月に本件発明を記載した審判甲第27号証に係る図面を作成し、昭和60年1月に台湾においてAに渡しているが、この際被告はAに対し守秘義務を課していない。そして、同じころ原告はAより前記本件特許と同一内容のカレンダー構造の説明を受け、昭和60年2月8日に審判甲第20号証として提出した図面を作成した。したがって、原告は本件発明を本件出願前の昭和60年2月までに日本国内において原告が知ったことにより公然知られたものとなった。」と主張する。 審判甲第26号証によれば、被告が昭和59年12月に本件発明を記載した審判甲第27号証に係る図面を作成し、昭和60年1月に台湾においてA(富順公司関係者)に渡していること、及び同じころ原告はAより前記カレンダー構造についての説明を受け、昭和60年2月8日に審判甲第20号証として提出した図面を作成したことは認められる。 しかしながら、原告が当該技術内容を元に作成したという図面には、6本ロールの配置の基本構造において本件第1及び第2発明と同一といえるものが記載されているものの、本件第1又は第2発明の構成である第5ロールに軸交叉装置を、第6ロールにロール間隙調整装置を備えること及び各ロールの周速を第1ロールから順次後方に行くに従って速くすることも示されていないから、Aが原告に開示した発明は本件第1及び第2発明と同一とはいえない。 したがって、審判甲第20号証の図面に係る技術内容を原告がAの説明によって知ったとしても、これをもって、本件第1及び第2発明が公然知られた状態に至ったという原告の主張は理由がない。 また、本件審判請求書における審判甲第17及び18号証に係る証人尋問は取り下げられた。 なお、原告は本件特許について、平成8年審判第19266号に係る訂正審判の請求によって認められた訂正は、特許法第126条の規定に違反してなされたものであるから、本件特許は特許法第123条第1項第8号の規定に該当し無効であると主張するが、本件無効審判は平成5年に請求されたものであって、平成5年改正法(平成6年1月1日施行)以前の特許法が適用され、訂正が適法でないことは無効理由とはなっていないので、本件無効審判において前記主張をすることはできない。 (3) 審決の結び 以上のとおりであるから、原告の主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件発明に係る特許を無効にすることはできない。 |
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原告主張の審決取消事由
1 取消事由1(本件第1発明の容易推考性の判断の誤り) 本件出願時において、甲第3号証ないし甲第12号証(審判甲第1号証ないし同第10号証)に示される技術水準から当業者が本件第1発明に想到するのは極めて容易であったのに、審決は判断を誤ってこれを容易ではないとしたものである。 (1) 本件第1発明が容易に推考し得たか否かは、本件第1発明に係る具体的な6本のロールの配置が当業者に容易に想到し得たかどうかにかかっている。なぜならば、第五ロールに軸交叉装置を設け、第六ロールに間隙調整装置を設けて、第一ロールから第六ロールまでの周速を速めていくことは周知の技術であって、この具体的な6本ロールを前提にすれば、当業者はこれらの技術を当然にかかる6本ロールに適用したであろうからである。 (2) 本件6本ロールの容易推考性について (2)-1 本件出願の1年前である昭和59年当時のわが国のカレンダ構造の状況は審判甲第1号証(「PLASTICS AGE」、第20巻、8月号、(株)プラスチックスエージ昭和49年8月1日発行。甲第3号証の1ないし3)及び審判甲第2号証(「PLASTICS AGE」、第20巻、6月号、(株)プラスチックスエージ昭和49年6月1日発行。甲第4号証の1ないし3)から摘示すると、以下のようなものである。 「昭和20年代にわが国で使われていたカレンダは、・・・4本ロール形式はほとんど逆L形であった。・・・昭和32年にはわが国最初のゴム用Z形4本ロールカレンダが製作された。その後はゴム引布用やフリクショニング(布へのゴムすり込み)作業用、又は特殊な軟質ゴムシート用などの比較的プラスチックに類似した用途を除いては、Z形や傾斜Z形又は前記の傾斜つき3本ロール形式に移行し、逆L形やL形がゴムコーティング用に新規採用されることはほとんどなくなった。 一方、プラスチック用4本ロールカレンダの分野では、ゴムと同様にZ形や傾斜Z形配列に移ってフィルム精度を向上させる方向と、他方では逆L形やL形の特長を生かし、欠点を後述の各種の方法で是正して改良発展させる方向と両方をたどった。」(甲第4号証の3105頁中欄15ないし40行) 「近年はタイヤやベルト用のダブルコーティング用カレンダ(写真6)の大部分、および軟質や硬質プラスチックのフィルム・シート用高速大型カレンダ(写真7)の相当数にZ形配列が採用され、わが国でも数年前がZ形全盛時代であった。」(甲第3号証の3 93頁左欄29ないし35行) 「(5本ロールカレンダに関しては)わが国ではZ形にロールを1本追加したM形5本ロールカレンダ(写真11、図11中)が採用されている。」(甲第3号証の3 95頁左欄6行ないし中欄2行) 「これから先、目的によってはさらに6本、7本とロールを増して、前述のようなマルチロールカレンダ化も考えられる」(甲第3号証の3 95頁右欄11ないし13行) 甲第3号証の3には、その他に傾斜Z形が多く実用化されていることが記載されている」(94頁)。 (2)-2 上記に加え、甲第6号証(審判甲第4号証(特開昭51-144459号公報))、第7号証(審判甲第5号証(特開昭51-41761号公報))、第8号証(審判甲第6号証(特公昭57-27821号公報))及び第9号証(審判甲第7号証('Modern Plastics International'第4巻第1号(1974)p.18〜21))より、以下の事実が明らかである。 L型の6本ロールあるいは7本ロールは公知であった(甲第6号証第2図、第4図、甲第8号証第2図)。 逆L型4本ロールと2つのロールを組み合わせた6本のロールからなるカレンダは公知であった(甲第7号証図面)。 ニーダーロールを備えてはいるものの、傾斜Z型4本ロールの下に2つのロールを付した6本ロールは公知であった(甲第9号証20頁図面)。 (2)-3 さらに、本件明細書の発明の詳細な説明中には、以下の記載がある。 「ゴム及びプラスチック等の高分子材料をフィルム又はシートに加工する場合、 これらの材料の配合物を混練した後圧延するために用いるカレンダーとしては、逆L型4本カレンダー(第7図)、L型4本カレンダー(第8図)、Z型4本カレンダー(第9図)等の4本カレンダーが多く使用されて来た。」(甲第2号証の4、 2頁最終行ないし3頁3行) 「逆L型4本カレンダーの第二ロールR2から第四ロールR4への延長線上に第五ロールを設けた逆L型5本カレンダー(第10図)及びこの型式を逆にしたL型5本カレンダー(第11図)が出現した。然るにこれらの型式のカレンダーは・・・機構上及び操作上複雑で且つ機械が高価になる欠点がある。 これに対処するためにZ型4本カレンダー(第9図)の下側に第五ロールR5を設けたM型5本カレンダー(第12図)が一部で使用されている」(甲第2号証の4、3頁9ないし19行) (2)-4 以上を総合すると、本件出願時において、わが国では逆L型4本ロール、Z型及び傾斜Z型が最も普通に使用されており、5本ロールカレンダではM型が最も多く使用されていたことが分かり、また6本ロールカレンダも実現していたことが分かる。 5本ロールカレンダから6本ロールカレンダへと進んでいくであろうことは甲第1号証及び甲第2号証からも明らかであったが、このような状況において、新たな6本ロールカレンダを製作するに当たって本件発明に想到する道筋は、簡単に思い付くだけでも以下のとおり複数あり、いずれも当時の技術水準で普通に用いられているカレンダを組み合わせたもので、その組合せの容易なことは明らかである。 (a) M+1 M型5本ロールの下に1個ロールを付すだけで本件発明に想到し得る。 本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたとおり、M型5本ロールの場合、 「圧延された材料が第12図の太実線に示す様に第四ロールR4のロール表面に沿わせてから該ロールより剥がされる場合、第五ロールR5の周速を第四ロールR4より遅くしなければならない。(原告注:これは、甲第3号証の3にも示されているとおり、材料が周速の速い方のロールに巻き付くからである。) そのためバンクB3とバンクB4の回転方向が同方向となり、バンクB4内での材料の転換(軟化した材料の反転による練り返し)に効果がない欠点がある。また、圧延された材料が第12図の点線の様に、第五ロールR5の周速を第四ロールR4より速くして、第五ロールR5のロール表面に沿わせてから剥がされる場合には、圧延力によるロールの撓みにより圧延されたフィルム又はシートの中央部が両端部より厚くなる誤差を補正するために、第五ロールR5を軸交叉(ロールクロス)すると、このロールに後続するテイクオフロール(剥取ロール)と第五ロールR5との間の平行度が崩れ、圧延されたフィルム又はシートに厚み誤差が発生するという欠点がある。」(甲第2号証の4、3頁20行ないし4頁1行)。 このようなM型5本ロールの欠点は、本件出願時において十分に認識されており、このような欠点を解決して6本ロールカレンダを製作しようと思えば、新たなロールの取付位置はM型の最下部となる。この位置に新たなロールを設け、引取りをこのロールから行えば、上記したM型5本ロールの欠点が解決されることは自明だからである。もちろん、第五ロールの右側に新たなロールを設ける構成もこの過程では考慮されるであろうが、そのような構成を採用する積極的な理由は少なく(あるとすれば全体の高さを低く押さえるためくらいである。)、かかる構成を採用するとすれば(Z型の場合と同様に)最終ロールに軸交叉装置を設けることになるから、最終ロールからの引取りが困難であるとの問題点は解決されない。もっとも、仮に第五ロールの横にロールを設ける構成が考えられるとしても、それが本件発明の容易想到性を妨げることにはならない。本件で問題になっているのは、あくまで本件発明の6本ロールを容易に想到し得たか否かであって、他の構成が考えられるかどうかは直接関係ないからである。 なお、M型の下側に新たなロールを設けた場合の最後の4つのロールは、軸交叉装置を最後から2つ目のロールに設け、間隙調整装置を最終ロールに設けて、周速を後ろに行くに従って速くする点も含め、逆L型ロールと同じであり(このことは、本件発明の最後の4つのロールを逆L型と同じ機能で運転することもできる(甲第2号証の4、6頁5ないし9行、第3図)とされていることからも明らかである。)、この点からも新たなロールを設ける場合はM型の第五ロールの下に付すのが当業者にとって最も素直な構成であることが明らかである。 (b) 逆L型4本ロール+2本のロール 前述したとおり、本件発明は最後の4つのロールを逆L型4本ロールと同じ機能で運転できるように構成されており、この点からみれば逆L型4本ロールの上に新たに2本のロールを設けたものにすぎない。 5本ロールカレンダが出現した背景がミクシングミルを4本ロールカレンダの上に持っていって直結することにあること(甲第3号証の3 94頁右欄13ないし25行)を考えれば、このような2本のロールを上に持っていって直結することは当業者にとってごく自然な発想である。 しかも、このような2本のロールを上に設ける場合、当業者はZ型ロールを熟知しているから、上記図に示した場所にこれを設けるのもごく自然であり、これを想到するのに困難性は全くない。 (c) Z型+逆L型 (図中斜線部分は、重なる部分を示す。) 前述したとおり、当業者は本件出願時においてZ型4本ロール及び逆L型4本ロールに深く接しており、これらを組み合わせて本件発明に想到することも極めて容易であった。 (d) M型+逆L型 (図中斜線部分は、重なる部分を示す。) 同様に、M型5本ロール及び逆L型4本ロールが周知であることから、これらを組み合わせて本件第1発明に想到することも極めて容易であった。 (e)甲第9号証(審判甲第7号証) 甲第9号証の20頁に示された6本ロールカレンダは、傾斜Z型4本ロールの下側に2本のロールを付した構成を採っている(上記の図は、左右逆転して表示)。この傾斜Z型ロールの部分を単純なZ型ロールにすれば、本件第1発明と同じロールの配置となる。 もちろん、甲第9号証の発明にはニーダー・ロールがあって本件第1発明と全く同じだということにはならないが、前記のとおりミキシングミルの用途を持つロールをカレンダに直結する発想は既にあり、6本ロールを新たに開発しようと考える場合に本件公知文献が参考にならないわけはない。 (2)-5 以上のように、本件出願時の技術水準から考えれば、本件第1図に示されるような具体的構成を持った6本ロールカレンダに想到することが極めて容易であることは、いかなる観点からも明白である。 審決は、原告提出の証拠に、M型5本ロールにロールを追加する旨の記載がないとして、「M型5本ロールカレンダの最終ロールに1本を加えて6本ロールカレンダとすることは当業者が必要に応じて容易になし得ることである」との点を否定し、さらに特に理由を示さずに「第六ロールを第五ロールの下側で、第四ロール及び第五ロールと平行に設けることは当業者が必要に応じて容易になし得ることである」との点を否定するが、かかる判断は、新規性を備えるものはすべて進歩性を備えるとの考えにつながるものであり、不当である。 (3) 周速を順次速くすることについて 前記したとおり、本件第1図記載の具体的構成を有する6本ロールカレンダは本件出願時当業者が容易に想到し得たものであり、同様に本件第3図記載の6本ロールカレンダも、4本ロールカレンダにおいてL型と逆L型が併存していることをとってみても、容易に想到し得るものである。 この具体的構成を有する6本ロールカレンダにおいて、周速を第一ロールから第六ロールにかけて順次速くしていくことは、正に当業者が用途に応じて選択できる設計事項にほかならない。すなわち、成形されたシートを第五ロールから引き出そうと思えば(実際には、そのようなことが行われることはまれであろうが。)、第五ロールの周速を第六ロールより速くすればよく、逆に第六ロールからシートを引き出そうとすれば、第六ロールの周速を第五ロールより速くするにすぎない。なお、第一ロールから第五ロールまでの周速が、次のロールにシートを巻き付けるために徐々に速くされていることは通常の機械であれば当然で、よほど特殊なことをしていない限りはそのような設定がされている。 本件第1発明は、材料を転換させて練り返すことを目的の一つとしており、本件6本ロールの構成を前提にした場合、最終の第六ロールまで材料を巻き付けて練り返すために第一ロールから第六ロールまで順次周速を速めることは当業者にとっては明白である。 この点に関し、審決は最終のロールからシートが引き取られているとは限らず、 最終の1つ前のロールからシートが引き取られ、その最終の1つ前のロールの方が最終のロールよりも周速が速い場合のあることから、「上記M型に一本加えた6本カレンダーにおいて、第一ロールから順次後方のロールに巻き付けて成形する場合、各ロールの周速を第一ロールから順次後方に行くに従って速くすることは当業者が容易になし得ることである。」という結論を導くことはできないとするが、この論理は他の可能性があるだけで、もう1つの可能性がないとするものであり、誤りである。 (4) 第五ロールに軸交叉装置を設け、第六ロールに間隔調整装置を設けることについて 審決は、この点について明確な判断をせず、そもそも本件第1発明のような配置の6本ロールカレンダが容易に想到し得るものではないから、この点も容易に想到し得るものではないとする。審決の前提が間違っていることは前記のとおりであるが、念のためこの点が周知技術であり、それを採用するか否かが当業者が容易に選択できる設計事項であることを明らかにする。 本件第1発明の6本ロールカレンダでは、第五ロール及び第六ロールとの間は最終のバンクを形成するから、ここにおいてシートの最終仕上げをしなければならない。本件明細書の発明の詳細な説明中にもあるとおり、この最終バンクにおいてシートの中央部が両端部より厚くなる誤差を補正するために、いずれかのロールを軸交叉させる必要がある。しかし、もし第六ロールからシートを引き取ることを前提にして第六ロールを軸交叉させるとなれば、テイクオフロールと第六ロールとの平行度が崩れるため、本件明細書の発明の詳細な説明においてM型に関する欠点として指摘されているのと同様の問題が生ずる。したがって、軸交叉装置は第五ロールに設けるほかはない。 また、最終のバンクにおいて厚さを調整するための間隔調整をする必要があるが、第五ロールは第四ロールと第六ロールに挟まれているため、第五ロールで間隔調整をすることは実質的にできない。結局間隔調整装置は第六ロールに設置せざるを得ない。 このように第五ロールに軸交叉装置を設け、第六ロールに間隔調整装置を設けることは、本件第1発明の6本ロールの配置及びその目的から必然的に生じてくる問題であり、当業者であればかかる設計をすることは本件出願時に自明であった。 これは、本件第1発明の6本ロールの配置がM型にロールを1本足した構成だとすれば、M型の第五ロールには軸交叉装置が設けられているから(本件明細書の発明の詳細な説明)、それに間隔調整装置を備えた第六ロールを付したにすぎないし、また本件第1発明の6本ロールの配置の最後の4本が逆L型ロールを形成している点を捉えれば、周知の逆L型4本ロールの技術をそのまま取り入れたにすぎない(甲第10号証第5図、第7図、同第11号証第5図、第8図)。 2 取消事由2(本件第2発明の容易推考性) 審決も認定しているとおり、本件第2発明は本件第1発明を普通に使用する方法にすぎない。したがって、本件第1発明と同様に、本件第2発明は、本件出願時において、甲第3号証ないし甲第12号証(審判甲第1号証ないし同第10号証)に示される技術水準から当業者が極めて容易に想到し得たものである。 ところが、審決はこの点の判断を誤って、本件第2発明に想到するのは容易ではないとしたものである。 3 取消事由3(本件第1及び第2発明の公知性に関する認定、判断の誤り) (1) 図面の認定の誤り 審決は、甲第20号証(審判甲第20号証)、第22号証(審判甲第22号証。 M-6298図面)及び第23号証(審判甲第23号証。M-6299図面)の図面のいずれについても、「6本ロールの配置の基本構造において本件第1及び第2発明と同一といえるものが記載されているものの、本件第1又は第2発明の構成である第5ロールに軸交叉装置を、第6ロールにロール間隙調整装置を備えること及び各ロールの周速を第一ロールから順次後方に行くに従って速くすることも示されていない」とするが、誤りである。 甲第20号証及び第22号証の第五ロールの中心から左手の外枠にはモータが設けられており、このモータが第五ロールに作用するものであることは、その位置から明らかである。このモータは、第五ロールの左右方向に影響を与えるものであるから、多少でもカレンダについて知識がある者にとってはそれが軸交叉装置を表していることは容易に分かる。 また、甲第20号証及び第22号証の第六ロールの下側にはやはりモータが設けられており、このモータが第六ロールに作用するものであることは、その位置から明らかである。このモータは、第六ロールの上下方向に影響を与えるものであるから、多少でもカレンダについて知識がある者にとってはそれが間隙調整装置を表していることは容易に分かる。 さらに、甲第20号証、第22号証、第23号証のいずれもが第六ロールの右側にテイクオフロールを有している。したがって、カレンダに供給される材料は、本件第1図と同様に流れることになるが、このように材料を流していくためには第一ロールから第六ロールにかけて順次周速を速くしなければならないことも、カレンダについて知識のある者であれば容易に理解する。 このように、少なくとも甲第20号証及び第22号証については、「第5ロールに軸交叉装置を、第6ロールにロール間隙調整装置を備えること及び各ロールの周速を第1ロールから順次後方に行くに従って速くすること」が実質的に開示されている。 (2) 被告による顧客への開示について 審決は、甲第22号証及び第23号証の図面が「承認図、見積図(見積図 M番)」と題した台帳に記載されているにもかかわらず、「前記審判甲第22及び23号証は昭和56年9月に被告によって、顧客からの要望に基づいて、その要望を満たすためのアイデア確認のために設計、図面化されたものであるということは認められるが、これを顧客に提出したかどうかについては不明である。さらに、同調書から本数の多いロールの引き合いに対して6本ロールの提案をしたことは認められるものの、当該図面を顧客に提出したかどうかは不明である。」とする。 しかし、「承認図、見積図(見積図 M番)」と題した台帳は顧客に提出した図面を記録する台帳であると考えるのが最も自然であり、実際にアイデア確認のためだけに設計、図面化が行われたと考えるのは経験則に反する。仮に図面が実際に顧客に渡されなかったとしても、被告が引き合いに対して6本ロールを提案していた以上、本件発明は顧客に開示されていたとみるべきである。 (3) 顧客の守秘義務について 審決は、「そもそも、一般的に技術開発がらみの引き合いにおける相談において、当事者双方は、互いに秘密保持について特段の要請をしていなくとも、その引き合いの具体的内容を当事者以外の他人に漏らすことは、社会通念上信義に反することである上に、審判甲第26号証には、被告従業員のBやCが、それらの図面を見せたり説明をしたり引き合いの相手に守秘義務がない旨を告げたことを証言したとも記載されていないから、原告の申し立てた「承認図、見積図(見積図 M番)」・・・に、たとえ複数の顧客名が記載されていたとしても、これのみではその技術内容が公然知られたものとすることはできない。」とする。 しかし、そもそも被告に対して昭和56年から6本ロールに関して行われた引き合いは、「技術開発がらみの引き合い」ではなく、単なるカレンダに関する商談である。かかる商談において、顧客がメーカーに対して秘密保持義務を負うことは、 メーカーが明示的に顧客に秘密保持義務を負わせる場合を除いてはあり得ない。問題となるのは、メーカーが顧客に対して「守秘義務がない」と告げたかどうかではなく、メーカーが顧客に対して「守秘義務がある」と告げたかどうかである。この点、被告の従業員B、Cは、顧客に守秘義務を負わせた旨の証言を一切行っておらず、被告が顧客に6本ロールに関連して守秘義務を負わせなかったことは明らかである。 審決には、経験則上守秘義務を負わせることのない場面で守秘義務を認定した点で誤りがある。 4 取消事由4(手続違背) 審決は、審判合議体により、「『承認図、見積図(見積図 M番)』のM6262からM6563について検証を行った」とするが、かかる手続に請求人たる原告は全く関与しておらず、実際にどのような手続が行われたか不明である。 この手続について、原告において審判の記録を取得したところ、平成12年6月20日にこの点について審判官と被告側の面接が行われていたことが判明した(甲第30号証)。この面接に立ち会った審判官への変更が原告に知らされたのは同月28日付けであって(甲第31、32号証)、変更通知前に変更後の審判官が面接を行っていることは手続的に極めて問題である。 同面接記録(甲第30号証)上は当初「提出が必要な文書の選択を行う。」との記事があったが、これは後に削除されている。また、被告が提出した上申書(甲第33号証)には、図面台帳上に顧客を特定するような情報がないとの記載が一切ないにもかかわらず、審決ではこの点が認定されて同図面台帳の提出が必要ないとされている。その経緯は明らかではないが、この手続は不透明であり、不公正なものである。このような手続は不当であり、違法である。 |
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審決取消事由に対する被告の反論
1 取消事由1(本件第1発明の容易推考性の判断の誤り)に対して (1) ロール配置構成について (1)-1 原告は、本件出願時において公知となっていた@M形5本ロールと1本のロール、A逆L形4本ロールと2本のロール、BZ形と逆L形、C傾斜Z形4本ロールと2本のロール(甲第9号証、審判甲第7号証)の各組合せから本件第1発明のロール配置構成に想到し得る旨及び第五ロールに軸交叉装置を設け第六ロールに間隙調整装置を設けることとロールの周速を順次速めていくことは周知な技術である旨主張し、本件第1発明の進歩性を否定する。 しかし、以下に述べるとおり、本件第1発明のロール配置は、公知のロール配置の組合せではなく、また、軸交叉装置及び間隙調整装置の設置位置やロールの周速も周知な技術ではないから、原告の主張は誤りである。 (1)-2 高品質のシートを生産するためには、ロールの数を増やすことが考えられる。しかしながら、ロールの数を増やすと材料がロール間を通り抜ける回数(パス回数)も増えることになるところ、パス回数を増やすと材料が熱を持ち、焼けてしまうことがあるので、格別の創意工夫を経ることなく単純にロール数を増やすことはできない。そこで、ロールの数とともにその配置構成を工夫することが必要となり、どのような目的のためにどのようなロール本数及び配置構成が最良であるかにつき、詳細な検討が必要である。その結果として、被告が想到したのが本件第1発明である。原告提出の書証には、様々なロール本数と配置構成が記載されており、特に甲第4号証の3(101頁中欄8ないし11行目並びに図1及び102頁図2)には、カレンダ変遷の歴史のみならず将来のマルチロール高速カレンダの構想も記載されているが、いずれにも、本件第1発明のロール配置構成は記載されていない。 しかも、本件第1発明は、間隙調整装置、軸交叉装置、ロールの周速といった他の構成要件も踏まえて総合的に判断し最良の選択として当該配置位置が決定されたものであるから、当該配置位置だけを取り出して着想することの難易を論ずることはできない。 公知のロール配置構成の組合せを列挙すると極めて多様となり、これを検討するだけでも容易ではない。まして、検討すべき課題は、配置構成のみにとどまらないから、本件第1発明のような発明が、単なる周知事項の組合せにより容易に想到できるとする原告主張は誤りである。 (2) 軸交叉装置及び間隔調整装置について @軸交叉装置を第五ロールに設け、間隙調整装置を第六ロールに設けること、及びAロールの周速を第一ロールから順次後方へ行くに従って速くしていくこと、の2点は、本件第1発明の具体的なロール構造を前提とするものであるところ、前項で述べたとおり、当業者が当該ロール配置構成を選択すること自体が容易といえない以上、それだけで、@及びAの2点についても、当業者において容易に想到することはできないことが明白である。 2 取消事由2(本件第2発明の進歩性及び公知性)に対して 本件第2発明は、本件第1発明を普通に使用する方法であるから、本件第1発明と同じ理由により、容易に推考できた発明であるとも、公知の発明であるともいえない。 3 取消事由3(公知性の認定判断の誤り)に対して (1) 原告は、被告が図番M-6298の図面(甲第22号証(審判甲第22号証))及び図番M-6299の図面(甲第23号証(審判甲第23号証))を顧客に開示した旨主張し、かかる開示により本件発明は出願前に公知となった旨主張する。 しかし、B証人は6299図面作図の経緯を証言しているだけであり、同図面の開示の有無・態様等、並びに6298図面作図の経緯、及び同図面の開示の有無・態様等につき具体的な証言をしていない(甲第28号証9ないし10頁)。これらのことと、結局、商談が成立するに至らなかったことにかんがみれば、前記各図面を顧客に開示するに至らなかった可能性が高い。また、以下に述べるように、上記各図面には本件発明のすべての構成要件、特に各ロールの周速を第一ロールから順次後方にいくに従って速くしたとの構成要件は表れていない。 (2) 6298図面を見ると、上端に2本のシャフトとモーターが、左端に3本のシャフトとモーターが、下端に1本のシャフトとモーターが設けられているのが分かるが、いずれが間隙調整装置であり、いずれが軸交叉装置であるとの記載はなく、図面から特定することはできない。そして、技術的には第一、第五、第六ロールに軸交叉装置を設けている可能性があるから、図面により当然に本件発明のように第五ロールに軸交叉装置が設けられているなどと断定することはできない。また、軸交叉装置が隠れて内部に設置されている場合は図示されないから、図面だけ見て第六ロールに設けられている可能性を否定することはできない。 したがって、甲第22号証の図面では、間隙調整装置が第六ロールに設けられ、 軸交叉装置が第五ロールに設けられていることは読み取ることはできない。 本件発明のうち、ロールの周速が順次速くなっていくという構成要件については、動きを伴う要件であることから、一層、図面から読み取ることはできない。 原告は、最終ロールに右側に引き取りロールがあることを根拠にロールの周速が順次速くなっている旨主張する。しかし、ロールの周速を等速とする構成もあり、 この場合であっても、ロールの温度との関係から、次のロールに巻き付かせることができることができ、事実、逆L字型4本カレンダにおいては、第三ロールと第四ロールは等速で回し、温度によりシートの送り先を決定している(乙第3号証及び乙第4号証)。 したがって、図面上、引き取りロールが最終ロールの右側にあることをもって、 ロールの周速が順次速くなっているとの構成要件を読み取ることはできない。 (3) 仮に、6298図面又は6299図面を顧客に開示していたとしても、顧客は、以下に述べるように守秘義務を負うから、公知とはならない。 発明の内容が、発明者のために秘密を保つべき関係にある者に知られたとしても、特許法29条1項1号にいう「公然知られた」には当たらないが、この発明者のために秘密を保つべき関係は、法律上又は契約上秘密保持の義務が課せられることによって生ずるほか、社会通念上又は商慣習上、発明者側の特段の明示的な指示や要求がなくとも、秘密扱いとすることが暗黙のうちに求められ、かつ、期待される場合においても生じる。 本件は、仮に被告が顧客に図面を開示していたとしても、それは、正に、製造販売者と需要者とが新規に開発された技術を含む製品について商談し、需要者が暗黙のうちに第三者に新技術を開示しないことを求められ、製造販売者もそうすることを期待し信頼して当該技術を需要者に開示した場合である。したがって、被告が顧客に対し前記各図面を開示したとしても、本件発明が公然知られた状態になったものということはできない。 4 取消事由4(手続違背)に対して 原告は、審判合議体が、出願前公知の主張の当否を審理するに当たり、「承認図、見積図(見積図 M番)」と題した台帳を実際に閲覧した点につき、手続上違法があった旨主張するが、審判合議体は、被告の営業上の秘密が記載された前記台帳につき、被告の提出義務の有無ないし当該台帳の取調べの要否を調査しただけであるから、原告主張の手続上の瑕疵はない。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(本件第1発明の容易推考性の判断の誤り)について (1) ロール配置について 原告は、本件第1発明のロール配置は、(a)M形5本ロールと1本のロールの組合せ、(b)逆L形4本ロールと2本のロールの組合せ、(c)Z形4本ロールと逆L形4本ロールの組合せ、(d)M形5本ロールと逆L形4本ロールの組合せ、あるいは(e)傾斜Z形4本ロールに2本のロールを付した構成の6本ロールカレンダから当業者が容易に想到し得たものである旨主張するので、以下検討する。 (1)-1 M形5本ロールと1本のロールの組合せについて (1)-1-1 甲第4号証の1ないし3によれば、審判甲第2号証(「PLASTICS AGE」、第20巻、6月号、(株)プラスチックスエージ昭和49年6月1日発行)に、原告従業員であるDによる「プラスチック成形加工講座-カレンダ加工Dカレンダ構造(1)」との論文が掲載されているところ、その「1.カレンダの歴史と進歩」の節には、「カレンダ変遷の歴史」として下記の図が示されているところ、同図によれば、ロールカレンダは、2本ロールから3本、4本、5本ロールへと多様な発展を遂げたものであり、5本ロールカレンダについても、直立型、 L型、F型、M型と多様なロール配置が知られていることが認められる。 また、甲第5号証(原告出願の特公昭49-44586号公報)によれば、5本ロールカレンダとして、上記甲第4号証に記載のタイプ以外に、下記のような多種多様なロール配置のものが知られていることが認められる。 しかも、上記各図によれば、隣接するロールの相対配置についても、下流のロールは、必ずしも水平方向あるいは垂直方向に配されるものではなく、斜め上方、斜め下方に配置される等、多様な配置があり、さらには、一本のロールに隣接して3本のロールを配するものなど多様な配置形態が知られており、ロールの数が5本のロールカレンダであっても、ロール配置は多種多様であることが認められる。 そして、このように多種多様な配置を有するロールカレンダについて、甲第3号証の1ないし3によれば、審判甲第1号証(「PLASTICS AGE」、第20巻、8月号、(株)プラスチックスエージ昭和49年8月1日発行)における原告従業員Dの「プラスチック成形加工講座-Eカレンダ構造(2)」との論文中に、 「今までの説明からも推測がつくと思うが、今日のようにかなり進歩し改良された精密型カレンダといえども、各形式にはそれぞれ長所と同時に欠点があり、どんな目的にも絶対これがよいとすすめられるものはない。製品の種類や作業目的に応じ、また前後設備との関連や将来の構想もよく話して、専門の技術者と充分協議することが形式を決める最良の方法である。」(95頁右欄17ないし25行)と記載されていることが認められ、これら多種多様なロールカレンダは、それぞれの長所、短所に応じて使い分けられていたものと認められる。 (1)-1-2 このように多種多様なロールカレンダが知られ、それぞれの長所短所に応じて使い分けられているような状況の下で、仮に、当業者が6本ロールカレンダの製作を企図し、5本ロールカレンダに1本ロールを追加することを着想したしても、ロールを1本追加する対象として、M型5本ロールを選択することが当業者に容易であると直ちに断定することはできない。 しかも、仮に、M型5本ロールにロールを1本追加することを着想したとしても、その追加位置として、第五ロールの下側を選択することが当業者に容易であったものということはできない。その理由は以下のとおりである。 (1)-1-3 甲第3号証の1ないし3によれば、前記Dの論文「カレンダ構造(2)」の中でZ型4本ロールカレンダについて、「Z形カレンダはバンクから次のバンクまでの距離がすべて1/4円周で最も短いために、材料の温度低下が少なく高速化に適している・・・などの利点も多い」(93頁左欄25ないし31行)ことが記載され、M型5本ロールカレンダについて、「わが国ではZ形にロールを1本追加したM形5本ロールカレンダ・・・が採用されている。この形式はバンクと次のバンクとの距離がすべて1/4円周づつで最も短いので、無可塑塩化ビニル樹脂の透明度のよいフィルムや厚いシート類の高速生産には最適である。」(95頁左欄6行ないし中欄6行)と記載されていることが認められるところ、これによれば、M型5本ロールはZ型4本ロールから発展したものであり、両者は「バンクから次のバンクまでの距離がすべて1/4円周で最も短い」との構成で共通し、この構成に伴う技術的特徴を継承するものと認められる。 また、前示のとおり、審判甲第2号証の図1には、「カレンダ変遷の歴史」が図示されているところ、M型5本ロールカレンダが、Z型4本ロールカレンダから発展したものであることは、同図において、Z型4本ロールカレンダからM型5本ロールカレンダに矢印が引かれていることからも明らかである。そして、同図に示されたZ型4本ロールカレンダとM型5本ロールカレンダのロール配置をみると、両者に共通する「バンクから次のバンクまでの距離がすべて1/4円周で最も短い」との構成は、第一ロールから下流に向けてロールを、順次、水平右側、垂直下側、 水平右側、垂直下と規則的に配設することにより達成されるものであることが看取される。 そうすると、仮に、当業者がM型5本ロールカレンダをさらに発展させ、これにロールをもう1本追加することを着想したとしても、ロールの追加位置として、Z型4本ロールカレンダ、M型ロールカレンダに共通する前記技術的特徴を承継、発展させる得る位置、すなわち、第五ロールの水平右側を選択するのが自然であり、 M型5本ロールカレンダの「バンクから次のバンクまでの距離がすべて1/4円周」との技術的特徴をあえて排し、第五ロール(最終ロール)の下に第六ロールを配置することを当然に選択するものとはいえない。 このことは、審判甲第2号証(甲第4号証の1ないし3)に、「カレンダの進歩と将来」として、「このようにカレンダ成形の分野も多様化してきたので、カレンダの将来の発展の方向も一様ではない。カレンダの形式一つをとってみても、・・・図2に示すような将来のマルチロールカレンダや複合フィルム形成カレンダなど(筆者の構想)もありうる。」(102頁中欄7ないし19行)と記載した上で、「図2 将来のマルチロール高速カレンダーの構想」として第一ロールから順に「水平右側、垂直下側」に規則的にロールが配置する8本ロールカレンダ: (図の左から2番目)が示されていることからも裏付けられる。 (1)-1-4 原告は、本件明細書(甲第2号証の4)の発明の詳細な説明に、M型5本ロールカレンダの欠点について、「・・・第五ロールR5を軸交叉(ロールクロス)すると、このロールに後続するテイクオフロール(剥取ロール)と第五ロールR5との間の平行度が崩れ、圧延されたフィルム又はシートに厚み誤差が発生するという欠点がある。」と記載されていること、この問題点は、M型5本ロールカレンダの第五ロールの水平右側にロールを追加しても解消されないこと等を理由に、当業者が6本ロールカレンダを製作しようと思えば、新たなロールの取付け位置は、M型5本ロールカレンダの最下部(第五ロールの下)になる旨主張する。 しかしながら、当業者がロールの追加位置として、第五ロールの水平右側を選択するのがむしろ自然であることは前示のとおりであるところ、全証拠によっても、 M型5本ロールカレンダの上記欠点が、同タイプのロールカレンダ及びZ型4本ロールカレンダに共通する「バンクから次のバンクまでの距離がすべて1/4円周」との技術的特徴をあえて排してまで、解決すべき問題であると本件出願前に当業者に認識されていたと認めるに足りる根拠を見いだすことはできない。 かえって、甲第11号証の1、2によれば、「石川島播磨技報」第9巻第5号、 昭和44年9月石川島播磨重工業株式会社発行には、(@)軸交叉(ロールクロス)装置を備えたロールからシートがテイクオフロール(剥取ロール)に巻き取られるため、ロール間の平行度について上記M型5本ロールカレンダと共通する問題を有するZ型4本ロールカレンダと、 (A)本件第1発明と同様に、最終ロールに間隙調整装置を、その前段のロールに軸交叉装置をそれぞれ配設し、最終ロールからシートをテイクオフロールに巻き取る構成とされ、このためテイクオフロールとの平行度に関する問題のない逆L型4本ロールカレンダとの関係について、「カレンダーロールの配置は設備全体の形態に大きな影響を与える重要なものである。これは、 主として精度に関連した面、作業性の面から検討され決定される。」(同号証574頁11ないし13行)と、ロール配置は、主として加工の精度及び作業性の面から決定されるとした上で、「従来、この点に関して種々の議論、とくに逆L形・・・とZ形・・・の得失についての論議が重ねられ、精度の根本的な問題・・・から、Z形ロール配置の優位は動かしがたいものとなっている。」(574頁13ないし17行)と記載されていることが認められる。 上記記載によれば、(@)のZ型4本ロールは、シートの巻き取りの際のロールの平行度に問題があるとしても、精度等の点で 、そのような問題のない(A)の逆L型4本ロールカレンダより動かし難いほどの優位にあると、本件出願前において、当業者が認識していたことは明らかである。 上記にかんがみれば、当業者は、M型5本ロールカレンダの第五ロールの水平右側にロールを1本追加した場合(上記(@)に相当する)と、本件第1発明のように第五ロールの下側にロールを1本追加した場合(上記Aに相当する)では、むしろ前者(上記(@))が有利であると考え、前者を選択するのが自然であるものと認めることができる。 したがって、原告の主張は理由がない。 (1)-2 逆L形4本ロールと2本のロールの組合せについて (1)-2-1 原告は、本件第1発明は、逆L型4本ロールの上に新たに2本のロールを設けたものにすぎないから当業者が容易に発明することができたものであるとし、その理由として、5本ロールカレンダが出現した背景がミクシングミルを4本ロールカレンダの上に持っていって直結することにあること(審判甲第1号証(甲第3号証)94頁右欄13ないし25行)を考えれば、このような2本のロールを上に持っていって直結することは当業者にとってごく自然な発想である、旨主張する。 しかしながら、甲第3号証には、前記のとおり原告従業員のDによる「カレンダ構造(2)」に関する論文が掲載されているところ、その3.6 節には「5本ロールカレンダ」とのタイトルの下に、「プラスチックのカレンダリングの歴史において、昔の3本形から4本形に移行した現在でも、ほとんどのカレンダの前工程にはミクシングミル・・・が設置され、材料の可塑化混練や予熱工程を受け持っている。それならば、この練りロールを4本ロールカレンダの上の方に持っていって直結した方が、設備費が安くエネルギの節約にもなると考えても不思議はない。これが5本ロールカレンダの出発点で・・・ある。」(94頁右欄13ないし25行)と記載されていることが認められる。 上記記載は、5本ロールカレンダについて解説した節の中で、「練りロール」を「4本ロールカレンダの上にもっていって直結」することが、「5本ロールカレンダの出発点」であると述べるものであるから、「練りロール」の数は、「5本」-「4本」=「1本」であることは明らかである。 このことは、上記箇所に続く記載からも明らかである。すなわち、甲第3号証の上記記載に続く部分には、「最初につくられた5本ロールカレンダは・・・L形5本形式(写真10、11図左)の硬質ビニルフィルム用である。」(同頁右欄26ないし29行)、「わが国では、Z形にロールを1本追加したM形5本ロールカレンダ(写真11、図中)が採用されている。」(95頁左欄6行ないし中欄2行)、「これ以外の5本ロールカレンダの構想としては、F形(図11右)など、 おもしろい配列で、・・・多目的に利用できる特長がある。」(同頁右欄3ないし6行)と各種の5本ロールについて解説した上で、これらに対応する5本ロールカレンダが図11: として示されているところ、これらは、いずれも、「4本ロールカレンダ」に、 「1本」のロールを「直結」して練りロールを構成することにより、「5本ロールカレンダ」としたものであることは、明らかである。 (1)-2-2 以上のとおり、甲第3号証には、4本ロールカレンダに「1本」のロールを直結して5本ロールカレンダとすることが記載されているにすぎない。 本件第1発明の構成が公知になっていない本件出願前の時点において、当業者が、上記のような記載に基づいて、4本ロールに直結する練りロールの数を「2本」と理解し、その上で、「練りロール」を直結する対象として「逆L型4本ロール」を選択し、本件第1発明のロール配置を着想することが容易であったものということはできない。 (1)-3 Z形4本ロールと逆L形4本ロールの組合せについて 原告は、当業者は、Z型4本ロールカレンダ及び逆L型4本ロールカレンダに深く接していることを理由に、これら2種のロールカレンダを組み合わせることにより、本件第1発明を極めて容易に想到できる旨主張する。 しかしながら、Z型4本ロールカレンダと逆L型4本ロールカレンダとを組み合わせて本件第1発明の構成に至るには、単に両者を結合するのではなく、Z型4本ロールカレンダの下流の2本のロール、逆L型4本ロールカレンダの上流の2本のロール、あるいはそれぞれから1本のロールを取り外した上で、両者を組み合わせることが必要であることは明らかであるが、全証拠によっても、そのようなことが容易に着想することができたと認めるに足る根拠を見いだすことはできない。 (1)-4 M形5本ロールと逆L形4本ロールの組合せについて 原告は、M型5本ロールカレンダ及び逆L型4本ロールカレンダが周知であることを理由に、当業者が、これら2種のロールカレンダを組み合わせて本件第1発明を想到することは極めて容易であったと主張する。 しかしながら、M型5本ロールカレンダと逆L型4本ロールカレンダを組み合わせて本件第1発明の構成に至るには、単に両者を結合するのではなく、M型5本ロールカレンダの下流の3本のロール、逆L型4本ロールカレンダの上流の3本のロール、あるいは両者から合計3本のロールを取り外した上で、両者を組み合わせることが必要であることは明らかであるが、全証拠によっても、そのようなことが容易に着想することができたと認めるべき根拠を見いだすことはできない。 (1)-5 傾斜Z形4本ロール+2本のロールについて 原告は、審判甲第7号証(甲第9号証)に記載された6本ロールカレンダの上流側4本の傾斜Z型ロールを単純なZ型ロールとする(すなわち、傾斜のない水平な配置とする)と、本件第1発明の6本ロールカレンダと同一の構成となるから、本件第1発明は、甲第9号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものである旨主張する。 しかしながら、甲第9号証に実際に記載されている6本ロールカレンダは、次図のロール配置を有するものであるところ(20頁左欄中段の図)、その第一ロール及び第二ロールのニップ(間隙)部に、ホッパ及びスタッフィングユニットからシートを形成するための原材料が供給されることは、図より明らかである。また、その説明に、「硬質PVCと可塑化PVCの両方を処理するプラスチケータ/フィーダが、振動ラムでもって高圧で材料を第1ニップへと押しやるスタッフィングユニットを有する。第一及び第二ロールのもとのニーダロール(差込図)は、ロール幅にわたった混合(mixing)を提供する。」(20頁左欄中断の図の説明、訳文6頁下5ないし2行)と記載されていることから、甲第9号証記載の6本ロールカレンダ において、第一ロール及び第二ロールは、その下部のニーダロールとともに、ミキシング機能を奏していることは明らかであり、第一及び第二ロールが後続のカレンダロールに直結していることも図より明らかである。 そうすると、甲第9号証記載の6本ロールカレンダの第一及び第二ロールは、水平の配置ではないにもかかわらず、後続のロールと直結され、現に、ミキシング機能を奏しているのであるから、原告の上記主張は理由がない。 (2) 周速、軸交叉装置及び間隔調整装置について 原告は、第一ロールから第六ロールにかけて周速を順次速くすること、最終ロールに間隔調節装置を設けること、最終ロールの前段のロールに軸交叉装置を設けることは、いずれも周知技術であり、当業者が容易に選択できる設計事項であると主張する。 しかしながら、原告の上記主張は、本件第1発明のロール構成が当業者に容易に想到し得ることを前提とするものであることろ、この前提が成立しないことは前示のとおりである (3) したがって、本件第1発明の容易推考性についての原告の主張は理由がなく、取消事由1は理由がない。 2 取消事由2(本件第2発明の容易推考性の判断の誤り)について 本件第2発明は、本件第1発明に係る6本ロールカレンダの使用方法に係る発明であるが、本件第1発明に係る6本ロールカレンダが、当業者に容易に想到し得たものでないことは前示のとおりである。 そうである以上、その使用方法についても、当業者にとって容易に想到し得たものということはできず、取消事由2も理由がない。 3 取消事由3(本件第1及び第2発明の公知性の判断の誤り)について 原告は、被告が本件出願前に、守秘義務のない客先に対して、6298図面(甲第22号証)、6299図面(甲第23号証)を提示又は交付して、本件第1発明及び本件第2発明の実施に当たる6本ロールカレンダーを公然知られた状態とした旨主張する。 しかしながら、6298図面、6299図面によっても、6本のロールの配置はともかく、ロール軸交叉装置及びロール間隙調整装置の各位置並びにロール周速を第1ロールから順次後方に行くに従って速くした点を読み取ることはできない。すなわち、6298図面(甲第22号証)には、6本ロールカレンダーの上端に2本の、左端に3本の、下端に1本の各シャフト及びモーターが記載されているが、そのいずれがロール間隙調整装置で、いずれがロール軸交叉装置であるかについての記載はないから、同図面上それを特定することはできず、また、技術的には第1、 第5、第6ロールにロール軸交叉装置を設けることが可能であるから、第5ロールにロール軸交叉装置が設けられているなどと断定することはできない。のみならず、ロール軸交叉装置が内部に設置されている場合は図示されないから、図面だけから第6ロールに設けられている可能性を否定することはできない。したがって、 6298図面によっても、ロール間隙調整装置が第6ロールに設けられ、ロール軸交叉装置が第5ロールに設けられていることを読み取ることはできない。 以上のとおり、6298図面に、本件第1発明及び本件第2発明のすべての構成要件が記載されているということはできず、この点は6299図面に関しても同様である。原告は、甲第20号証の図面にも本件第1発明及び本件第2発明の構成が示されているとも主張するが、同様、これを認めることはできない。したがって、 原告主張のようにこれらの図面の提示又は交付があったとしても、本件第1発明及び本件第2発明が公然知られていたとすることはできない。 他に、上記図面以外に本件発明の構成が公知になっていたことを間接に裏付けるべき証拠もないので、原告主張のその余の点について判断するまでもなく、取消事由3も理由がない。 4 取消事由4(手続違背)について 取消事由4の手続違背の主張は、原告が本件第1発明及び本件第2発明が公知であると主張する点に関する審判の手続に瑕疵があったというものであるが、審判及び本訴で提出された書証によっても公知に関する原告の主張が認められないことは、取消事由3について判断したとおりである。そして、取消事由4における審判の手続上の瑕疵の主張は、不公正さを主張するのみであり、法律上の手続違反を述べるものではない。 そうすると、原告主張の手続違背をもって、審決にこれを取り消すべき瑕疵があるということはできず、取消事由4も理由がない。 |
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結論
以上のとおり、原告主張の審決取消事由は理由がないので、原告の請求は棄却されるべきである。 (平成14年1月22日口頭弁論終結) |
裁判長裁判官 | 永井紀昭 |
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裁判官 | 塩月秀平 |
裁判官 | 古城春実 |