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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成13ワ24051特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成13ワ831特許権侵害差止等請求事件 平成13ワ6097特許権侵害差止請求事件 判例 特許
平成15ワ9215特許権に基づく侵害差止等請求事件 判例 特許
平成14ワ3043特許権侵害差止請求事件 判例 特許
平成11ワ3012特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
関連ワード 新規性 /  進歩性(29条2項) /  公知技術 /  上位概念 /  技術的範囲 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  遡及 /  分割出願 /  警告 /  抵触 /  権利の濫用(権利濫用) /  特許出願日 /  参酌 /  特許発明 /  実施 /  加工 /  構成要件 /  差止請求(差止) /  侵害 /  新規事項追加(新規事項の追加) /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 12年 (ワ) 12754号 特許権侵害差止等請求事件
原告 ダイワ精工株式会社
訴訟代理人弁護士 山根祥利
同 的場 美友紀
同 原山邦章
補佐人弁理士 中村誠
被告 株式会社シマノ
訴訟代理人弁護士 村林隆一
同 岩坪哲
同 井上裕史
補佐人弁理士 小林茂雄
同 小野 由己男
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2002/02/26
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告は、別紙物件目録記載の魚釣用リールを製造販売してはならない。
2 被告は、その本支店、営業所及び工場に存在する前項の物件の完成品及び半製品を廃棄し、同物件の製造に必要な金型を除去せよ。
3 被告は、原告に対し、金7億5000万円及びこれに対する平成12年11月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
本件は、「魚釣用リールの逆転防止装置」の特許発明の特許権者である原告が被告に対し、被告の販売する魚釣用リールは同特許発明技術的範囲に属する逆転防止装置を用いたものであると主張して、その製造販売等の差止めと補償金及び損害賠償を請求した事案である。
1 争いのない事実等 (1) 原告は、次の特許権を有している(以下「本件特許権」といい、その特許発明を「本件発明」という。)。
ア 発明の名称 魚釣用リールの逆転防止装置 イ 特許番号 第2996339号 ウ 出 願 日 平成5年8月26日 エ 分割の表示 特願平5-232236号の分割(特願平8-178766号) オ 公 開 日 平成8年12月24日(特開平8-336348号) カ 登 録 日 平成11年10月29日 キ 特許請求の範囲は、別紙特許公報(以下「本件公報」という。)の該当欄記載のとおりである(なお、原特許出願(特願平5-232236号)に係る出願手続を「原出願手続」、その出願当初の明細書(乙1の2)を「原出願当初明細書」といい、原特許出願の分割(特願平8-178766号)に係る出願手続を「本件出願手続」、その分割当初の明細書(乙4の2)を「本件当初明細書」という。)。
(2) 本件発明の構成要件は、次のとおり分説するのが相当である。
A 環状外枠をハンドル回転に連動回転する回転軸上のリール本体に取付固定し、
B 該環状外枠の径方向内側と回転軸の径方向外側との間に位置し楔作用する方向に発条で付勢されかつ前記環状外枠の内周で径方向の外方移動が規制されるころがり部材を収容する周方向に複数形成したガイド部を有する環状保持体を前記回転軸上に回動可能に設け、
C リール本体に回動可能に支持した操作部材に形成した係合部を前記環状保持体に係合せしめ、
D 該操作部材の回動操作により前記環状保持体を回動して前記ころがり部材を楔作用する釣糸捲取り方向には回転するが逆転しない逆転防止状態と楔作用しない正逆転可能状態に切換可能とした E ことを特徴とする魚釣用リールの逆転防止装置。
(3) 被告は、別紙物件目録記載の被告イ号物件の1〜21の各魚釣用リールを製造販売している(以下、これらに用いられている逆転防止装置を「被告装置」という。)。
被告装置は、構成要件D及びEの構成を備えている。
2 争点 (1) 被告装置は、構成要件Aの「(環状外枠が)リール本体に取付固定」との構成を備えているか。
(2) 被告装置は、構成要件Bを充足するか。
ア 被告装置は「環状保持体」を備えているか。
イ 被告装置は「ガイド部」を備えているか。
ウ 被告装置は「(環状保持体が)環状外枠の径方向内側と回転軸の径方向外側に位置する」との構成を備えているか。
エ 被告装置は「発条で付勢」との構成を備えているか。
(3) 被告装置は、構成要件Cの「操作部材に形成した係合部」を「環状保持体に係合」するとの構成を備えているか。
(4) 本件特許権は明白な特許無効理由を有するか。
進歩性の欠如 イ 分割要件違反 (5) 補償金並びに損害の発生及び額
争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(構成要件Aの「(環状外枠が)リール本体に取付固定」との構成の充足性)について 〔原告の主張〕 構成要件Aの「(環状外枠が)リール本体に取付固定」との構成は、ころがり部材が逆転防止状態にある時に、「環状外枠」が周方向及び径方向に移動して楔作用面としての機能を阻害することがない程度にリール本体に固定して取り付けられていることを意味する。厳格な意味で全く動かないように固定されていることのみを意味するものではない。
被告装置のように、リール本体に外輪を回り止め嵌合させる構造において、
外輪の輪郭の精度、枠体の孔の精度、軸の揺れ、ころがり部材の外径の精度等を考慮して加工、組付け、作動上の不具合を吸収するクリアランス寸法を設けることは、当業者にとって設計上の当然の技術常識である。
被告装置の「外輪10」は、「枠体32」に対して径方向及び周方向に間隙をもって嵌められているものの、この間隙は嵌合構造における上記クリアランス以上のものではなく、「外輪10」が楔作用面として機能する程度にリール本体と一体的に固定された「枠体32」と嵌合固定されているから、環状外枠に該当する被告装置の「外輪10」は、「リール本体に取付固定」との要件を備えている。
〔被告の主張〕 被告装置は、その内周でころがり部材7の外方移動を規制する「外輪10」が存在するが、その「外輪10」はリール本体に取付固定された「枠体32」に対して径方向及び周方向に移動可能な隙間をもって遊嵌されたものである。
したがって、被告装置の外輪10は、「リール本体に取付固定」された環状外枠との構成を備えていない。
2 争点(2)(構成要件Bの充足性)について (1) 「環状保持体」の構成について 〔原告の主張〕 本件明細書の記載を参酌すると、「保持」の意味は、ころがり部材を楔作用する作動位置と楔作用しない非作動位置に保つことである。
構成要件Bの「環状保持体」とは、環状外枠の径方向内側と回転軸の径方向外側との間に位置し、ころがり部材を収容するガイド部を周方向に複数形成し、
回転軸上に回動可能に設けられた部材である。また、ころがり部材は、環状外枠により外方移動が規制されているものである。
したがって、「環状保持体」自体の形状としては、ころがり部材を収容して切換機構により同部材を逆転防止状態と正逆転可能状態に案内(ガイド)することができる部位を有する環状体という以上の限定はなく、同部材の回転軸方向の動き(前後動)を規制することも必須の要件ではない。
被告装置の「A部材9」は、その「突出部間凹部8」がころがり部材7が不測の方向に移動しないように位置を規制し案内(ガイド)するように収め入れる機能を有することによりころがり部材7を収容し、切換機構によりころがり部材7を逆転防止状態と正逆転可能状態に案内(ガイド)することができる部位を有する環状体であるから、構成要件Bの「環状保持体」に該当する。
〔被告の主張〕 「環状保持体」とは、その文言及び本件明細書の記載によれば、ころがり部材を「保持」するものであるから、少なくとも回転軸の周方向におけるころがり部材の動きと、軸方向における動き(前後動)とを規制し、脱落を防止できるものでなければならず、その保持作用は、「環状保持体」単独でなされなければならない。
すなわち、本件発明の「環状保持体」は、少なくとも、それ自体でころがり部材の「前後動」を規制できるもの、換言すれば、本件明細書に本件発明の唯一の実施形態(図5)として開示された、ころがり部材を嵌合するガイド溝孔を有し、かつころがり部材を前後から支承可能な「円環状の鳥籠形の部材」でなければならない。
被告装置は、円板状の本体部と該本体部から軸方向に突出した突出部9bにより構成された「A部材9」を有するが、ころがり部材7の前後動(軸方向の動き)は、「A部材9」の本体部と、これとは別体である枠体32の「カバー32a」とによって、かつ、該「カバー32a」が前記「枠体32」にビス止めされること等によって規制されるものであり、「A部材9」も「枠体のカバー32a」も、それ自体ではころがり部材7の前後動を規制できない。いずれも「ころがり部材を保持する機能」を有しないから本件発明の構成要件Bにいう「環状保持体」に該当しない。
(2) 「ガイド部」の構成について 〔原告の主張〕 本件発明における「ガイド部によるころがり部材の収容」とは、環状保持体が作動位置と非作動位置を回動する時に、環状外枠の径方向内側と回転軸の径方向外側との間においてころがり部材が不測の方向に移動しないように位置を規制し案内(ガイド)するように収め入れることを意味している。
「ころがり部材を収容する……ガイド部」との構成は、当業者にとって実施できる程度に明瞭であって、同構成を本件明細書の実施例に従って判断しなければならないものではないし、出願当時の明細書においても、「ころがり部材が嵌合するガイド溝孔」との構成が唯一開示されたものではなく、単なる実施例として記載されていたにすぎない。
被告装置の「A部材9」の形状は、A部材の突出部9bの外周面がころがり部材7の形状に沿った形をしており、その間のA部材の突出部間凹部8にころがり部材7を収容して切換機構により同部材を逆転防止状態と正逆転可能状態に案内(ガイド)することができるものであり、構成要件Bの「ガイド部」との構成を備えている。
〔被告の主張〕 構成要件Bの「ころがり部材を収容する……ガイド部」との文言自体は、
具体的構成手段を明確に示すものではなく、その具体的意義は、本件明細書の発明の詳細な説明及び図面を参酌して把握せざるを得ないところ、本件明細書には、
「周方向に複数形成したころがり部材を収容するガイド溝孔8」のみが開示されているのであるから、「ガイド部」については該記載に従って画定せざるを得ない。
また、「ガイド部」との要件は、本件出願手続における平成10年10月16日の手続補正で追加されたものであるところ、本件当初明細書には、「ころがり部材が嵌合するガイド溝孔」のみが記載されていたから、同手続補正によりこれと異なる構成のものが本件特許請求の範囲に含まれるとすると、本件特許は出願手続において新規事項の追加(特許法17条の2第3項)がなされた出願につき特許されたものとして無効である。したがって、構成要件Bの「ガイド部」とは、「ころがり部材が嵌合するガイド溝孔」として構成されたものに限定して解釈すべきである。
被告装置は、ころがり部材7が嵌合するガイド溝孔を有していないから、構成要件Bの「ころがり部材を収容する……ガイド部」との構成を備えていない。
(3) 「(環状保持体が)環状外枠の径方向内側と回転軸の径方向外側に位置する」との構成について 〔原告の主張〕 本件発明において「環状保持体」を「環状外枠の径方向内側と回転軸の径方向外側に位置する」構成としているのは、「環状保持体」がころがり部材を収容し、切換機構による回動によって同部材を逆転防止状態と正逆転可能状態とに案内(ガイド)する部位「ガイド部」を有することから必須の構成とされているのであって、そうした機能を有する部位が「環状外枠の径方向内側と回転軸の径方向外側に位置する」ことを意味すると解すべきである。
被告装置は、A部材の突出部9b間に本件発明の「ガイド部」に該当する部位である「A部材の突出部間凹部8」が形成されており、この部位が「環状外枠の径方向内側と回転軸の径方向外側に位置する」構成となっているから、被告装置は、
環状保持体に該当するA部材9が「環状外枠の径方向内側と回転軸の径方向外側に位置する」との構成を備えている。被告装置において、A部材9の「ガイド部」以外の一部が外輪10と重なっていたとしても「環状外枠の径方向内側と回転軸の径方向外側に位置する」との構成には何ら関係のないものである。
〔被告の主張〕 仮に、被告装置の「外輪10」が本件発明の「環状外枠」に該当し、「A部材9」が「環状保持体」に該当すると解し得たとしても、「A部材9」は「外輪10」の外径と略同径の外径を有するもの、換言すれば「外輪10」の内周よりも大径の部材であって、「外輪10の径方向内側」に位置するものではない。
したがって、被告装置は、「(環状保持体が)環状外枠の径方向内側と回転軸の径方向外側に位置する」との構成を備えていない。
(4) 「発条で付勢」との構成について 〔原告の主張〕 本件発明は、「発条による付勢」と「ガイド部による収容」により「保持」機能を向上させ、ころがり部材を収容する「環状保持体」自体の回動により楔作用する位置と楔作用しない位置の両位置へ切り換えることによって、従来の魚釣用リールの技術的問題点を改善したものである。
「発条で付勢」との要件は、発条でころがり部材を楔作用する方向に付勢することが本件発明の技術思想であるから、その発条がどのような構成で取り付けられるかは任意に選択できる設計事項である。被告が主張するように、「発条で付勢」する構成が、出願当初の明細書の実施例に限定されなければならないとする根拠はない。
被告装置は、発条に当たる「つるまきバネ11」が、ころがり部材7を付勢しているから、「発条で付勢」との要件を備えている。
〔被告の主張〕 「発条で付勢」との構成は、本件出願手続における平成10年4月17日の手続補正で特許請求の範囲に追加されたものであるところ、本件当初明細書には、ころがり部材を楔作用する方向に付勢する技術手段としては、環状保持体のガイド溝孔自体にころがり部材を付勢するための発条を設けた構成のみが開示されていた。したがって、構成要件Bの「発条」は、環状保持体のガイド溝孔に設置されたものと解すべきである。
被告装置の発条は、「枠体外周の突出部32b」にコイル部分が嵌合され、該コイル部分から延出した一端を外輪10を横断してころがり部材7に当接させた「つるまきバネ11」として構成され、該「つるまきバネ11」の一端によりころがり部材7を付勢するものであるから、被告装置は、「(環状保持体のガイド溝孔に設置された)発条で付勢」との構成を備えていない。
3 争点(3)(構成要件Cの「操作部材に形成した係合部」を「環状保持体に係合」との構成の充足性)について 〔原告の主張〕 被告装置は、リール本体に回動可能に支持した操作ロッド14(操作部材)に形成した凸部14a(係合部)を、「A部材9(環状保持体)」と一体に動く「切換規制板13」を介して「A部材9(環状保持体)」に係合したものであって、「操作部材に形成した係合部」を「環状保持体に係合」との構成を備えている。
〔被告の主張〕 構成要件Cは、「リール本体に回動可能に支持した操作部材に形成した係合部」を「環状保持体に係合」せしめることを必須の要件とする。
被告装置は、「A部材9」と、これとは別部材である「切換規制板13」とが、
「A部材9」の本体部背面に形成された「A部材の係合用凸部9c」が、「切換規制板13」に形成された係合用孔13bに係合され、さらに「切換規制板13」に形成された切り欠き部13aにリール本体に稼働可能に支持された操作ロッドの凸部14aが係合する構成であるから、「リール本体に回動可能に支持した操作部材に形成した係合部」を「環状保持体に係合」(構成要件C)との構成を備えていない。
4 争点(4)(明白な特許無効理由の有無)について (1) 進歩性欠如について 〔被告の主張〕 本件特許出願は、原特許出願の分割出願であるが、特許庁審判官は、原特許出願に係る特許(特許第2954462号、発明の名称「逆転防止装置」。以下、この特許発明を「原特許発明」という。)について、平成12年11月28日付で、特開昭56-105127号公報(乙17)、特開昭54-141285号公報(乙6)、実願平3-29039号(実開平4-117574号)のマイクロフィルム(乙18)により、進歩性を欠くとして、取消理由通知を発している。また、その他にも、「逆転防止状態と正逆転可能状態に切換可能とする環状保持体を回転軸上に回動可能に設けた」構成の逆転防止装置は、特開昭50-101752号公報(乙25)、特開平4-88221号公報(乙26)、特開平5-209637号公報(乙27)に開示されている。
本件発明は、その原特許発明における環状保持体の「前後動規制」ないし「ガイド溝孔」の要件を削除ないし上位概念化した上で、単に「魚釣用リール」に用途を限定したものにすぎない。また、ローラクラッチ機構を魚釣用リールに転用すること自体は、上記の特開昭54-141285号公報(乙6)、実開平4-117574号公報(乙18)に記載されるように周知の技術である。
したがって、本件発明についても、原特許発明と同様の理由で進歩性が否定されることは明白であり、本件特許権に基づく権利行使は権利の濫用に当たる。
〔原告の主張〕 分割出願に係る本件発明は、原特許出願に係る発明とは別のものであり、
原特許出願に係る特許に対する取消理由がそのまま本件発明に当てはまるものではない。また、原特許出願に係る特許に対して取消理由通知がなされたに過ぎず、取り消されたものでも、取消が確定したものでもない。
本件発明は、@ころがり部材が環状保持体のガイド部に収容されている、
A環状外枠でころがり部材の径方向の外方移動が規制されている、Bころがり部材が楔作用をする方向に発条で付勢されている、C環状保持体を回動させて、ころがり部材を移動させ逆転防止状態と正逆転可能状態に切り換える、という構成を採用したことにより、切換機能の安定円滑化及びころがり部材の設置の簡易コンパクト化という技術的課題を解決することができたものであるところ、被告の挙示する公知技術には、上記技術的課題を解決するために本件発明の構成を備えることに関して何らの記載も示唆もない。
したがって、被告の主張は理由がない。
(2) 分割要件違反について 〔被告の主張〕 原出願当初明細書における課題・目的は、逆転防止機構の部材がバラバラで作業性が悪いのを一体的にユニット化して解消することであり、そのために「ころがり部材の前後動規制」が可能な鳥籠型の「環状保持体」を必須構成要件としていた。これに対し、本件当初明細書における課題・目的は、「逆転防止機構のスペースの大型化を解消してコンパクトに設置しつつ切換操作を安定円滑化すること」と変更されたものであるが、この課題・目的は原出願当初明細書には記載されていない。
すなわち、原特許出願の分割に係る本件発明は、分割の基準明細書である原出願当初明細書に記載された発明ではなく、特許法44条1項の要件を充たさないものであって出願日の遡及が認められない結果、原出願の公開公報によって新規性進歩性を欠くことが明らかである。このような明白な無効理由を有する本件特許権に基づく権利行使は権利の濫用に当たる。
〔原告の主張〕 本件発明の課題は、本件明細書(段落【0003】)に記載されているように、「従来の魚釣リールのこのような問題点を改善して、ころがり部材の保持機構のリール本体への設置の簡易コンパクト化と切換機能の安定円滑化を図るようにした魚釣用リールの逆転防止装置を提供することを目的とするもの」である。
一方、原出願当初明細書には、「しかしてこの場合、……コンパクトに一体化してユニット化されているので、……ころがり部材7の支持作用も安定して円滑確実な楔作用を行うことができるものである。」(段落【0011】)と記載されているように、本件発明の課題・目的が示されている。
したがって、被告の主張は理由がない。
5 争点(5)(補償金並びに損害の発生及び額)について 〔原告の主張〕 (1) 原告は、被告に対し、本件発明の公開日後である平成9年3月17日に到達した内容証明郵便により、被告装置が本件発明に抵触している旨の警告を行った。
被告は、同警告書の到達日である平成9年3月17日の翌日から平成11年10月28日(本件発明の登録日の前日)までの期間に、被告装置138万8427個(販売金額114億8000万円)を製造販売した。
被告による本件発明の上記実施行為について、受けるべき金銭の額は販売額の5%を下らないから、原告の被告に対する補償金請求額は金5億7400万円(114億8000万円×0.05)となる。
(2) 被告は、平成11年10月29日(本件特許権の登録日)から平成12年10月31日までの期間に、被告装置37万7373個(販売金額35億2000万円)を製造販売した。
被告は、被告装置の製造販売により販売価格の10%の利益を得ており、
また、被告装置(リール全体)の販売価格のうち本件発明による寄与率は50%を下らない。
したがって、被告は、少なくとも金1億7600万円(35億2000万円×0.1×0.5)の利益を得ており、原告は、被告による被告装置の製造販売行為により同額の損害を被ったものと推定される。
〔被告の主張〕 原告の主張のうち、平成9年3月17日に原告主張の内容証明郵便が被告に到達した事実は認め、その余の事実は否認する。
争点に対する判断
1 争点(2)(構成要件Bの充足性)について (1) 構成要件Bの「環状保持体」及び「発条で付勢」との構成について検討する。
構成要件Bでは、「ころがり部材を収容する……ガイド部を有する環状保持体」とされているから、本件発明の「環状保持体」とは、ころがり部材を収容し、かつ保持するものと解される。そして、本件明細書の特許請求の範囲の記載によれば、本件発明においては、「環状保持体」を回動することにより、ころがり部材を楔作用する逆転防止状態と楔作用しない正逆転可能状態に切換可能とするものである(構成要件D)。しかし、 特許請求の範囲の記載からは、「環状保持体」がころがり部材を「保持」するということの意義及びその態様(どのように保持するのか)は、必ずしも明らかではない。
また、構成要件Bでは、「発条」はころがり部材を楔作用する方向に付勢するものとされるが、「環状保持体」によるころがり部材の収容保持機構との関係についても、明確ではない。
そこで、以下において、本件明細書の「発明の詳細な説明」の記載、本件出願手続及び原出願手続の経過並びに原特許出願時の公知技術等について検討する。
イ 本件明細書の「発明の詳細な説明」には、次のような記載がある(別紙特許公報〔甲2〕)。 (ア) 【従来の技術】の項に「魚釣用リールの回転軸の回転防止手段として、ころがり部材の楔作用を利用して回転軸を逆転防止状態にしたり、正逆転防止状態に切換ることができるようにすることが特開昭54-141285号公報で知られている。」(【0002】)と記載されている。
(イ) 【発明が解決しようとする課題】の項に、「前記従来の方式は、ころがり部材を楔作用をするガイド溝を形成したリール本体に固定された保持体の一側面に規制板を回動可能に設け、該規制板に突設した係止片によりガイド溝内の前記ころがり部材を楔作用をする作動位置と楔作用をしない非作動位置に規制保持するようにしている」ものであり、この従来技術には、「係止片によりガイド溝の周方向のスペースが大きくなり、特に強度、耐久性を向上するためころがり部材の数を増加する場合には一層逆転防止機構部が大型化してリール本体内の限られたスペース内にコンパクトに設置することが困難となる欠陥」や、「切換部材の回転によりその係止片で特にころがり部材を作動位置から非作動位置に円滑かつ支障なく移動操作することが難しく、係止片が変形損傷したり、ころがり部材を傷付けたりすることがあり、ころがり部材による逆転防止機能及び切換機能を正常に作動保持できない等の問題点がある」ことを指摘し、「本発明は従来の魚釣り用リールのこのような問題点を改善して、ころがり部材の保持機構のリール本体への設置の簡易コンパクト化と切換機能の安定円滑化を図るようにした魚釣用リールの逆転防止装置を提供することを目的としたものである。」 と記載されている(【0003】)。
(ウ) 【発明の実施の形態】の項には、「カラー6の外側には周方向に複数形成したころがり部材7を収容するガイド溝孔8を形成しかつころがり部材7を前後両側から支承した環状保持体9が回転自在に嵌着されると共に……ガイド溝孔8には収容されたころがり部材7をカラー6に対して楔作用をする方向に付勢する発条11が設けられ」(【0006】)、「環状保持体9を回動してガイド部であるガイド溝孔8に収容されているころがり部材7を図3の楔作用をする作動位置と図4の楔作用をしない非作動位置とに保持規制するように構成されている」(【0007】)、「環状保持体9を回動してころがり部材7が楔作用をする作動位置に規制保持される図3の状態」(【0008】)、「ころがり部材7は操作杆14で回動する環状保持体9に保持されて楔作用する逆転防止状態と楔作用しない正逆転可能状態とに切換えられることにより、回転軸筒3周囲の限られたスペース内にコンパクトに設置することができ」(【0009】)と記載されている。
(エ) 【発明の効果】の項には、本件発明の構成を採用し「ころがり部材をガイド部内に収容している環状保持体自体を回動することによってころがり部材を楔作用する逆転防止状態と楔作用しない正逆転可能状態に切換可能に構成するようにした」ことにより、「ころがり部材を傷付けることなく、しかもこれを収容保持する環状保持体を大型化することなくその強度、耐久性を向上すると共に……リール本体の限られたスペース内に簡易かつコンパクトに設置でき、魚釣用リールのこの種逆転防止機構の大型化の防止を図りながら簡易な構成により逆転遊度の少ないころがり部材の楔作用により高精度な逆転防止作用及び楔作用する位置と楔作用しない位置の両位置への切換作用を瞬時に支障なく円滑確実に安定して行うことができる」(【0015】)と記載されている。
(オ) また、明細書の実施例を示す図3〜図11には、いずれも発条が環状保持体の内部に形成した空間であるガイド溝孔内に設置された構成が示されている。
ウ 本件明細書において従来技術として挙げられた特開昭54-141285号公報(乙6)に記載された発明は、原告出願に係るものであるが、魚釣用スピニングリールの逆転防止装置において、ガイド溝孔を有するベアリングとこのガイド溝孔に嵌合する軸受部材(ローラー又はボール)とで構成される一方向にのみ回転するベアリングを設けるとともに、該ベアリングの一側面に、往復回動自在な規制板を設け、この規制板に突設された係止片がベアリングのガイド溝孔内に突出する構造になっており、規制板を操作杆により回動することにより、係止片がガイド溝孔内で移動し、軸受部材のガイド溝孔における位置を変化せしめ、これによって、軸受部材が軸筒部の正転方向の回転に対してのみ遊転状態になって回転させるが逆転方向の回転は阻止する逆転防止状態と、軸受部材が常時遊転状態を保持して軸筒部の逆転方向の回転も可能とする正逆転可能状態とを切り換えられるようにした構成(発条は用いられていない。)のものであることが認められる。
エ 上記のような本件明細書の「発明の詳細な説明」の記載、本件発明がその目的とする課題解決の前提となる従来技術の内容に照らせば、従来技術(乙6)が、軸受部材(本件発明のころがり部材に相当する。)とガイド溝孔によって構成されるベアリングとは別に設けた規制板を回動させ、規制板に突設された係止片によって軸受部材の位置をガイド溝孔内で移動させることによって、逆転防止状態と正逆転可能状態とを切り換える構成であるのに対し、本件発明においては、ころがり部材をガイド部(ガイド溝孔)に収容した環状保持体自体を回動させることにより、環状保持体の回動に伴って、ガイド溝孔におけるころがり部材の位置を変化させ、楔作用をする作動位置(逆転防止状態)と楔作用をしない非作動位置(正逆転可能状態)とに規制保持するように構成したものであると認められる。したがって、本件発明の環状保持体が「ころがり部材を保持する」ことの意義は、環状保持体がころがり部材の周方向の動きを規制し、ころがり部材を楔作動位置と非作動位置とに規制し保つことにあるということができる。そして、本件発明では、「楔作用する方向に」付勢する「発条」が必須の構成であり、この発条は「ころがり部材」を保持する役割を担うものであり、本件発明において発条を欠けば、環状保持体によるころがり部材の保持規制が十分に達せられないことは明らかである。
しかるところ、本件明細書の「発明の詳細な説明」中の【発明の実施の形態】の項及び図面には、前記のとおり、環状保持体内の周方向に複数形成したガイド溝孔にころがり部材を収容するともに、楔作用する方向にころがり部材を付勢する発条をガイド溝孔内に設けることにより、環状保持体がころがり部材を保持する構成、すなわち、発条が環状保持体内部に設置されている構成のみが示されている。本件発明は、このような構成を採ることにより、発条をその構成要素として内部に含む環状保持体自体によってころがり部材を保持規制することを可能とし、
「ころがり部材の保持機構のリール本体への設置の簡易コンパクト化と切換機能の安定円滑化を図るようにした魚釣用リールの逆転防止装置を提供する」との本件発明の目的を達したものと考えられる。
もっとも、本件明細書に記載された本件発明の課題・目的は、上記のとおり、従来技術(乙6)の方式では、@係止片によりガイド溝の周方向のスペースが大きくなり、コンパクトに設置することが困難となる、A係止片で特にころがり部材を作動位置から非作動位置に円滑かつ支障なく移動操作することが難しく、係止片が変形損傷したりころがり部材を傷付けたりするという問題点があり、これらの問題点を改善することにあるとされており、そのような課題・目的からすれば、
環状保持体と発条との関係が、【発明の実施の態様】に示されているような、環状保持体の内部に発条を設置して、発条が環状保持体の構成要素となった構成に限られないと解する余地もないとはいえない。しかし、後にみるような本件出願手続及び原出願手続の経過と原特許出願時の公知技術参酌すれば、本件発明の環状保持体と発条は、後者が前者の内部に設置されその構成要素となったものに限定されるものと解すべきである。
オ 本件出願手続及び原出願手続の経過について検討する。
(ア) 本件当初明細書(乙4の2)の特許請求の範囲は、「環状外枠をハンドル回転に連動回転する回転軸上のリール本体に取付固定し、該環状外枠の径方向内側に位置しかつ前記回転軸に対して楔作用して前記環状外枠で外方移動が規制されるころがり部材を保持した環状保持体を前記回転軸上の回動可能に設け、リール本体に回動可能に支持した操作部材に形成した係合部を前記環状保持体に係合せしめ、該操作部材の回動操作により前記寛恕保持体を回動して前記ころがり部材を楔作用する釣糸捲取り方向には回転するが逆転しない逆転防止状態と楔作用しない正逆転可能状態に切換可能としたことを特徴とする魚釣用リールの逆転防止装置。」とされていた。
すなわち、本件当初明細書の特許請求の範囲には「発条」に関する記載はなく、「環状保持体」のみが「環状外枠の径方向内側に位置しかつ回転軸に対して楔作用して環状外枠で外方移動が規制されるころがり部材」を保持するものとして構成されていた(なお、特許請求の範囲に「発条で付勢」との構成が付加されたのは、本件出願手続における平成10年4月17日付の手続補正書(乙9の1・2)による。)。
(イ) そして、本件当初明細書の「発明の詳細な説明」には、次の記載がある。
a 【発明が解決しようとする課題】の項、【課題を解決するための手段】の項は、本件明細書とほぼ同様の内容であった。
すなわち、上記イ(イ)記載の課題・目的を、「環状保持体がころがり部材を保持」するとの構成を含み、「発条」の構成を含まない上記特許請求の範囲の構成で、実現するものとされていた。
b また、【発明の実施の形態】の項には、上記イ(ウ)記載と同様の内容が記載され、本件当初明細書に添付された図面(乙4の3)も補正後の明細書(別紙特許公報)に添付された図面と同じであり、発条の構成に関しては、発条が環状保持体のガイド溝孔内に設けられた構成のみが示されていた。
(ウ) さらに、分割前の原出願手続における原出願当初明細書(乙1の2)をみると、特許請求の範囲は「【請求項1】回転部材に対して楔作用をするようにガイド溝孔に嵌合したころがり部材をその前後動を規制して環状保持体に支持せしめると共に該環状保持体の外側を前記ころがり部材の外方移動を規制する環状外枠に回動可能に嵌着してクラッチ本体を形成し、前記環状保持体にはころがり部材を楔作用をする作動位置と楔作用をしない非作動位置とに切換える回動操作部材を設けたことを特徴とする逆転防止装置。【請求項2】クラッチ本体の環状外枠を魚釣用リールの固定部に固定すると共に環状保持体を回転部材に嵌着した請求項1記載の逆転防止装置」というものであったこと、「発明の詳細な説明」中の【実施例】の項には、発条が環状保持体に形成したガイド溝孔に設けられる構成が示されており、発条が環状保持体と別に設けられる構成は記載されていないこと、【発明が解決しようとする課題】の項には「本出願人は先にころがり部材、環状保持体、
環状外枠及び切換部材を一体的にユニット化して製造、組込みを容易にすることを……で提案した。本発明はこのような作業性の向上を更に一層効率良くできるようにした逆転防止装置を提供することを目的とするものである。」(【0003】)との記載があり、【実施例】の項には「ころがり部材7、環状保持体9及び環状外枠10はコンパクトに一体化してユニット化されている」(【0011】)(この説明部分の第1実施例を示す図3、図4には発条11の記載がある。)との記載があり、【発明の効果】の項には「ころがり部材、環状保持体及び環状外枠を一体的にユニット化して製造時の組込み操作や分解清掃を迅速容易にして作業性を向上できる」(【0016】)と記載されていることが認められる。
カ さらに、本件証拠として提出された原特許出願日以前の公知技術のうち、逆転防止機能を有するクラッチ機構において、ころがり部材を発条で付勢しているものとして、実開昭63-132130号公開実用新案公報(考案の名称「ローラクラッチ」、乙7)、特開昭56-105127号公開特許公報(発明の名称「切り替え可能な一方向クラッチ」、乙17)、実開平4-117574号公開実用新案公報(考案の名称「魚釣用スピニングリールの逆転防止装置」、乙18)、
特開平4-88221号公開特許公報(発明の名称「2方向クラッチ」、乙26)、特開平5-209637号公開特許公報(発明の名称「2方向クラッチ」、
乙27)の各技術があるが、いずれの技術においても、発条は、ころがり部材の周方向の動きを規制する部材(本件発明の「環状保持体」に相当するもの)に設置されており、本件記録上、逆転防止機能を有するクラッチ機構において、発条がそれ以外の部材に設置されている原特許出願日以前の公知技術は見当たらない。
また、原特許出願の分割出願日(平成8年6月20日)より以前の公知技術として、被告出願に係る特開平8-112049号公開特許公報(乙19)の公知技術があり、これは、環状保持体に相当する部材とは別体として発条が設置される被告装置と同様の構成を有する「スピニングリールの逆転防止装置」の発明に関するものである。
したがって、原特許出願日においては、逆転防止機能を有するクラッチ機構において、環状保持体に相当する部材のみがころがり部材を保持し、ころがり部材を発条で付勢する場合においては、環状保持体内に発条を設置するのが一般的であったものというべきであり、また、原特許出願の分割出願日においても、上記の被告出願に係る特開平8-112049号公開特許公報の公知技術があったのみであるから、上記のとおり、ころがり部材を発条で付勢する場合においては、環状保持体内に発条を設置するのが一般的であったことには変わりはないものというべきである。
キ 以上の認定によれば、本件当初明細書及び原出願当初明細書のいずれにおいても、「発条」は特許請求の範囲の構成ではなく、「発明の詳細な説明」及び図面には環状保持体を形成するガイド溝孔内部に発条が設置される構成のみが示されており、発条が環状保持体とは別に設置される構成は全く開示されていなかったものである。そして、原特許出願時及び分割出願時において、逆転防止機能を有するクラッチ機構に関する当業者の知見としても、環状保持体に相当する部材のみがころがり部材を保持し、ころがり部材を発条で付勢する場合においては、環状保持体内に発条を設置するのが一般的であったものであるから、本件当初明細書及び原出願当初明細書に、環状保持体とは別に発条が設置されてころがり部材を保持する構成についての示唆もなかったものというべきである。そして、原出願当初明細書に記載されているような「ころがり部材、環状保持体及び環状外枠を一体的にユニット化して製造時の組込み操作や分解清掃を迅速容易にして作業性を向上できる」という作用効果を奏するためには、発条が設置される場合にも、それが環状保持体内に一体的に組み込まれていることが前提になっているものと解される。
ク 以上検討したところによれば、本件発明の構成要件Bの「環状保持体」とは、それのみによってころがり部材の周方向の動きを規制し、ころがり部材を保持、すなわち、「ころがり部材を楔作用をする作動位置と非作動位置に保持する」機能を有するものであり、同じく「発条」とは、環状保持体のガイド部内に設けられて環状保持体の一部を構成する発条をいうと解するのが相当である。
(2) 被告装置が別紙物件目録記載のとおりであることは当事者間に争いがないところ、これによれば、被告装置においては、ころがり部材7は、つるまきバネ11の一端と、A部材9の突出部9bによって、その作動位置と非作動位置が保持されており、つるまきバネ11がなくては、A部材9のみでころがり部材7を作動位置と非作動位置に保持することはできないものである。そして、つるまきバネ11は、その他端のコイル部分が枠体外周の突出部32bに嵌合されており、A部材9とは独立して設置された部材であり、操作部材の回動操作に伴ってA部材9が回動するのに対し、つるまきバネ11は何ら回動するものではなく、それぞれの動作も独立している。
したがって、被告装置においては、A部材9とつるまきバネ11は別個の部材であって、つるまきバネ11がA部材9の構成要素となっているわけではない。そうすると、A部材9は構成要件Bの「環状保持体」には当たらず、また、つるまきバネ11は構成要件Bにいう「発条」には当たらないものといわざるを得ない。
よって、被告装置は、本件発明の構成要件Bを充足しない。
2 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がない。
追加
(別紙)物件目録被告イ号物件の構成イ号-1イ号-2イ号-3イ号-4イ号-5イ号-6イ号-7イ号-8イ号-9イ号-10イ号-11イ号-15イ号-13イ号-14イ号-15イ号-16イ号-17イ号-18イ号-19イ号-20イ号-21イ号-1、2イ号-7イ号-9第3図a-A第3図a-B第3図b第3図c-1第3図c-2第3図d第3図e-A、f-A、g-A第3図e-B、f-B、g-B第4図a第5図a-A第5図a-B第5図b第5図c第5図d第5図e-A第5図e-B第6図a-A第6図a-B別表1
裁判長裁判官 小松一雄
裁判官 阿多麻子
裁判官 前田郁勝