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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成11ワ12586特許権侵害差止等請求事件 平成13ワ3381特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成14ワ11630損害賠償請求事件 判例 特許
平成12ワ17298損害賠償等請求事件 判例 特許
平成11ワ5104特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成14ワ10511特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
関連ワード 製造方法 /  新規性 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  寄せ集め /  公知技術 /  技術的範囲 /  クレーム /  抵触 /  権利の濫用(権利濫用) /  出願経過 /  数値限定 /  均等 /  置換 /  置換可能性 /  同一の作用効果 /  置換容易性 /  容易に想到(容易想到性) /  意識的除外(意識的に除外) /  実施 /  構成要件 /  差止請求(差止) /  侵害 /  損害額 /  逸失利益 /  生産能力 /  実施料 /  不法行為(民法709条) /  設定登録 /  発明の範囲 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  釈明 /  異議申立 / 
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事件 平成 12年 (ワ) 22926号 損害賠償請求事件
原告 川鉄鉱業株式会社
同訴訟代理人弁護士 大場正成
同 尾崎英男
同 嶋末和秀
被告 大塚化学株式会社
同訴訟代理人弁護士 三木善續
同 伊原友己
同 加古尊温
同補佐人弁理士 三枝英二
同 掛樋悠路
同 藤井淳
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2002/07/19
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告は,別紙物件目録(1)記載の繊維状チタン酸カリウムウィスカーを別紙方法目録記載の方法で造粒してはならない。
2 被告は,別紙物件目録(2)記載の顆粒状ウィスカーからなる顆粒状製品を販売してはならない。
3 被告は,別紙物件目録(2)記載の顆粒状ウィスカーを樹脂に混合して樹脂コンパウンドを製造してはならない。
4 被告は,別紙物件目録(2)記載の顆粒状ウィスカーを廃棄せよ。
5 被告は,別紙装置目録記載の装置を廃棄せよ。
6 被告は,原告に対し,金8億3733万円及びこれに対する平成12年11月6日(訴状送達の日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
1 争いのない事実等 (1) 原告は,次の特許権(以下「本件特許権」という。特許請求の範囲請求項1記載の発明を「第1発明」,同請求項2記載の発明を「第2発明」といい,併せて「本件発明」という。また,本件特許に係る特許公報(甲2の1,2)を「本件公報」という。)を有している。
特 許 番 号 特許第2131511号 登 録 日 平成9年8月15日 出 願 日 昭和63年12月19日 発明の名称 顆粒状ウィスカーおよびその製造方法 特許請求の範囲請求項1 「繊維径0.1〜10μm,繊維長5〜200μmのチタン酸カリウムウィスカー,炭化ケイ素ウィスカー及び窒化ケイ素ウィスカーから選ばれたウィスカーのみ,又は該ウィスカーと加水分解により無機物表面に付着する有機金属とのみから成り,顆粒の直径が0.1〜10mmで嵩比重が0.2〜1.0s/lであり,材料へ混合したとき元の繊維状になり材料中に分散する分散性を有することを特徴とするほぼ球形の顆粒状ウィスカー。」 特許請求の範囲請求項2 「繊維径0.1〜10μm,繊維長5〜200μmのウィスカー粉末に水または水と有機金属の混合液を加えて加湿し,混合撹拌して一次凝集体を形成し,次いでこの一次凝集体に転がり運動を与えて顆粒化し,顆粒の直径が0.1〜10oで嵩比重が0.2〜1.0s/lの顆粒体を製造することを特徴とする顆粒状ウィスカーの製造方法。」 (2)ア 第1発明は,次のとおり分説される(弁論の全趣旨)。
A@ 繊維径0.1〜10μm,繊維長5〜200μmのチタン酸カリウムウィスカー,炭化ケイ素ウィスカー及び窒化ケイ素ウィスカーから選ばれたウィスカーのみ,又は A 該ウィスカーと加水分解により無機物表面に付着する有機金属とのみから成り, B@ 顆粒の直径が0.1〜10oで A 嵩比重0.2〜1.0s/lであり B 材料へ混合したとき元の繊維状になり材料中に分散する分散性を有することを特徴とする C ほぼ球形の顆粒状ウィスカー。
イ 第2発明は,次のとおり分説される。
A@ 繊維径0.1〜10μm, A 繊維長5〜200μmのウィスカー粉末に B 水または水と有機金属の混合液を加えて加湿し, B 混合撹拌して一次凝集体を形成し, C 次いでこの一次凝集体に転がり運動を与えて顆粒化し, D 顆粒の直径が0.1〜10oで嵩比重が0.2〜1.0s/lの顆粒体を製造することを特徴とする E 顆粒状ウィスカーの製造方法
(3) 被告は,平成6年ころから,顆粒状チタン酸カリウムウィスカーを製造販売しており,その商品名は,「ティスモ-DHG」,「ティスモ-D101HG」,「ティスモ-D101SG」,「ティスモ-D102PG」,「ティスモ-D102SG」である(以下,これらを「被告製品」という。)。
被告製品の構成は,ウィスカーの繊維径が0.1〜10μm,顆粒の嵩比重が0.2〜1.0s/lであり,材料に混合したときに繊維状になり材料中に分散する性質を有する。
被告は,被告製品を別紙方法目録記載の方法で造粒している(乙48,弁論の全趣旨。以下「被告方法」という。)。
2 本件は,本件特許権を有している原告が,被告に対し,被告製品及び被告方法は,本件発明の技術的範囲に属するから,本件特許権の侵害であると主張して,前記第1の1ないし5の各差止め及び廃棄を求めるとともに,不法行為による損害賠償又は不当利得の返還を求める事案である。
争点及びこれに関する当事者の主張
1 争点 (1) 被告製品が,第1発明の技術的範囲に属するかどうか。
構成要件A@の「繊維長5〜200μm」を充足するか。
構成要件B@の「顆粒の直径が0.1〜10o」を充足するか。
構成要件Cの「ほぼ球形」を充足するか。
(2) 被告方法が,第2発明の技術的範囲に属するかどうか。
構成要件AAの「繊維長5〜200μm」を充足するか。
構成要件Dの「顆粒の直径が0.1〜10o」を充足するか。
構成要件Bの「一次凝集体を形成し」,構成要件Cの「次いでこの一次凝集体に転がり運動を与えて顆粒化し」を充足するか。
(3) 被告製品及び被告方法は,本件発明と均等であるか。
(4) 本件特許には無効理由が存在することが明らかであるから,本件請求は権 利の濫用であるか。
(5) 損害の発生及び額 2 争点に関する当事者の主張 (1) 争点(1)について (原告の主張) ア 被告製品の繊維状ウィスカーの繊維長は,別紙物件目録(2)記載のとおりである。
特許請求の範囲中の「繊維長5〜200μmの・・・ウィスカーのみ・・・から成り」とは,限定された化学組成のウィスカー以外に含有成分が存在しないことを明確にしたものであって,繊維長や繊維径の数値範囲の記載にまでかかっているものではないから,繊維状ウィスカーを製造するときに必然的に混入する5μm(四捨五入して5μmになる4.45μm)未満の微細な繊維の破片までもが含有されてはならないことを意味するものではない。このような破片が生じるのは不可避であり,わざわざ除去して造粒することを必要としない。
したがって,被告製品は,構成要件A@の「繊維長5〜200μm」を充足する。
イ 被告製品の顆粒の直径は,別紙物件目録(2)記載のとおりである。
顆粒化は,ウィスカーの凝集した微粒子が転がり運動によって成長するプロセスであるから,直径0.1〜10oの顆粒を造粒する場合に,当然成長過程の0.1o(四捨五入して0.1oになる0.04445o)未満の大きさの顆粒も混在する。0.1o(0.04445o)未満の顆粒は,顆粒ではなく粉体であるので,第1発明の構成要件とは無関係であるから,被告製品に0.1o(0.04445o)未満の粒子が含まれていることを理由として,被告製品全体が第1発明の技術的範囲外となるものではない。また,0.1o(0.04445o)未満の粒子も顆粒ということができるとしても,被告製品を篩分けしたところ,0.1o(0.04445o)未満の大きさの粒子は,重量パーセントで極めてわずかである。
したがって,被告製品は,構成要件B@の「顆粒の直径が0.1〜10o」を充足する。
ウ 被告製品の顆粒の形状は,別紙物件目録(2)記載のとおりである。
「ほぼ球形」とは,転がり運動によって文字通り球形になった顆粒だけでなく,球形になるプロセスの途中の顆粒の形状をも包含し,転がり運動の方法で造粒された顆粒の形状を表現したものである。個々の顆粒の中にはその形状が不定形状の粒子が混在していたとしても,そのことを理由として顆粒状ウィスカー全体が第1発明の技術的範囲外となるものではない。原告が,出願手続中に補正によって第1発明に「ほぼ球形」の限定を加えたのは,先願の明細書(乙43の10)に記載された造粒方法で造粒される円柱形状を除外したものであって,このような出願経過も考慮されるべきである。
したがって,被告製品は,構成要件Cの「ほぼ球形」を充足する。
(被告の主張) ア 構成要件A@の「繊維長5〜200μmの・・・ウィスカーのみ・・・から成り」という要件は,ウィスカーが繊維長5〜200μmのもののみからなるという意味であるところ,被告製品を構成するウィスカーの繊維長は,5μm未満のものが半数以上であるから,この要件を充足しない。
イ 被告製品の顆粒形状は,不定形の小塊状粒子(岩石状粒子)であり,およそ球形などと呼べるものではない。したがって,被告製品の顆粒の直径というものは観念することができないのであるが,顆粒の長径をとってみても,ほとんどのものが0.1o未満である。したがって,被告製品は,構成要件B@の「顆粒の直径が0.1〜10o」及び構成要件Cの「ほぼ球形」を充足しない。
(2) 争点(2)について (原告の主張) ア 前記(1)(原告の主張)アに同じ。
イ 前記(1)(原告の主張)イに同じ。
ウ 被告方法では,高速回転するディスク上に供給された繊維状ウィスカーは撹拌されながら,スリーブに押しつけられるような状態に吹き飛ばされる。この過程で繊維状ウィスカーと水が混合され,加湿粒子が形成されるが,これが一次凝集体に該当する。
高速回転ディスクから飛び出した加湿粒子(一次凝集体)は,遠心力で造粒スリーブに押しつけられ,高速回転ディスクによってディスクの回転方向の速度が与えられているので,静止しているスリーブとの摩擦でスリーブの内周面に沿って転がり運動を行い,造粒される。造粒過程の粒子は高速回転するディスクの外周に取り付けられたブレードにより叩打され,これによって造粒過程の粒子はさらに転動を促され,一定以上の大きさになった粒子にはせん断作用が働く。
このような撹拌造粒は撹拌によってせん断力を与えながら粒子が転がり運動によって付着凝集するプロセスであるから,必ず一次凝集体の転がり運動による顆粒化を含む。
したがって,被告方法は,構成要件B,Cを充足する。
(被告の主張) ア 前記(1)(被告の主張)アに同じ。
イ 前記(1)(被告の主張)イに同じ。
ウ 第2発明は,一次凝集体を形成した後に,これを傾斜回転皿に入れ,約10分間ほど転がり運動を与えて二次凝集体を造ることにより,顆粒化するという2段階製法であることが特徴である。しかし,被告方法は,このような2段階製法を取らず,市販の連続撹拌造粒機を使用し,粉体を水と混合すると同時に瞬時に顆粒化しているのであるから,一次凝集体を形成せず,これに転がり運動を与えて顆粒化するものでもない。
(3) 争点(3)について (原告の主張) 仮に,被告製品及び方法が文言上本件発明の構成要件に該当しないとしても,被告製品及び方法は,均等の要件の下で本件発明の技術的範囲に属する。
ア 非本質的部分であること 本件発明は,水のみをバインダーとして転がり運動により繊維状ウィスカーを造粒することによって,使用時にはプラスチック材料への分散性を損なわず,かつ,運搬,貯蔵,混合時の取扱いが容易な顆粒状ウィスカーを得ることができるものである。被告が主張する被告製品及び被告方法と本件発明との前記相違点は,いずれも些末なものであり,それらの置換によって,被告製品及び被告方法が本件発明の技術思想とは別個のもの又は異なる解決原理に属すると評価されることはない。
置換可能性 被告製品及び方法は,本件発明と同一の目的で同一の作用効果を奏するものであるから置換可能性がある。
置換容易性 被告が主張する前記相違点は,いずれも被告製品製造時において置換が容易なものであった。
公知技術から容易推考されるものではないこと 被告製品及び被告方法は,本件特許出願時の公知技術から容易に推考されるものではない。
オ その他の特段の事情がないこと 原告が,出願手続中に補正によって第1発明に「ほぼ球形」の限定を加えたのは,先願の明細書(乙43の10)に記載された造粒方法で造粒される円柱形状を除外したものであって,被告製品の顆粒の形状を意識的に除外したものではないから,被告製品について第1発明の均等を認めることを妨げる特段の事情には当たらない。その他,特段の事情は存しない。
(被告の主張) ア 原告の均等の主張は,時機に後れた攻撃防御方法であるから,却下を求める。
イ 被告製品及び被告方法は,均等の要件を充足しない。
@ 非本質的部分について 第1発明は,公知技術(乙42の11)や先願技術(乙43の10)との抵触を回避するため,ウィスカーの繊維長及び顆粒直径を上限値・下限値をもって厳格に定めた数値限定要件をクレーム化し,顆粒の形状においても「ほぼ球形」という特殊形状のものとして規定することにより,かろうじて権利化できたものである。したがって,前記争点部分の構成要件は,いずれも独占権を得るための根元的価値のある部分,すなわち本質的部分に他ならない。
第2発明の前記争点部分は,第1発明の規定する「ほぼ球形」という特殊形状の顆粒状ウィスカーをいかにして製造するのかという点の「解」を提供するものであるから,第2発明の本質的部分である。
A 置換可能性について 第1発明は,取扱性,流動性,分散性及び補強効果の向上を目的とするものであり,そのためにウィスカーの繊維長及び顆粒の直径の上限値・下限値を定めた数値限定要件及び顆粒の形状要件を必須の要件として採用したものである。
したがって,これらの要件が充足されないことには第1発明が企図する作用効果を奏するものではない。また,第1発明の顆粒を製造する技術が第2発明である以上,不定形の顆粒体しか製造し得ない被告方法は,第2発明の作用効果を奏し得ないものである。したがって,第1発明と被告製品,第2発明と被告方法は,それぞれ同一の作用効果を奏するものということはできず,置換可能性はない。
B 置換容易性について 前項のとおり,被告製品及び被告方法は,本件発明に対して置換可能性がないのであるから,置換容易性を検討する前提を欠いている。
C 公知技術,先願技術からの容易推考性について 本件特許の出願及び無効審判の経過からして,数値限定の範囲外の繊維や顆粒及び「ほぼ球形」の顆粒形状以外の形状のものについては,公知・先願技術又は周知の造粒法によって成形可能なものであり,被告製品及び被告方法はこのようなウィスカーの顆粒化技術を用いたものに過ぎないから,出願前の公知技術,先願技術から容易に推考することができるものである。
D 意識的除外等の特段の事情について 本件特許の出願及び無効審判の経過からして,数値限定の範囲外の繊維や顆粒及び「ほぼ球形」の形状以外の顆粒形状のものについては,前記のとおり,先願技術等の域を出ないものであるから,第1発明は,構成要件をすべて厳格に充足するものに限定し,他を意識的に除外したものである。
第2発明も,前記争点部分において先願の発明と異なることを明らかにして,権利化及び権利維持に成功したものである。このように明確に権利範囲が限定されたがゆえに特許が付与された経過にかんがみれば,被告方法は,第2発明から意識的に除外されたものである。
(4) 争点(4)について (被告の主張) 原告の本件訴訟における技術的範囲論を前提とする限り,本件発明は,顆粒化された繊維,又は,周知の造粒法(転動造粒法)で繊維を顆粒状にする方法という非常に広範な技術的範囲を有することになるから,公知技術(乙42の11)及び先願技術(乙43の10)と実質的な差異がなくなる。したがって,本件特許は,新規性及び進歩性欠如並びに先願の発明と同一という無効理由を有することが明らかであるから,原告の主張するような広範な技術的範囲を有するものとしての本件特許権の行使は権利の濫用に当たる。
(原告の主張) 被告の主張を争う。
(5) 争点(5)について (原告の主張) ア 被告は,平成9年11月1日から平成12年10月末日までの間に被告製品を少なくとも3600t販売した。
原告は,平成3年5月に,顆粒状ウィスカーTIBREX(以下「原告製品」という。)を発表し,平成4年4月に販売を開始した。原告製品の販売による平成9年11月1日から平成12年10月末日までの間におけるt当たりの利益額は少なくとも32万3700円である。原告の同期間中の生産能力は,少なくとも1080tであり,原告はこの期間中180tを生産したので,900tの余剰生産能力があった。
したがって,原告は,少なくとも900tについては,特許法102条1項に基づく逸失利益の請求をすることができ,その額は,2億9133万円である。
イ 平成9年11月1日から平成12年10月末日までの間の900tを超える被告の販売量は,少なくとも2700tとなり,その販売金額は少なくとも35億1000万円である。また,平成9年10月末日以前の被告製品の販売量は少なくとも5700tであり,その販売金額は少なくとも74億1000万円である。
したがって,合計額である109億2000万円に対し,相当な実施料率5%を乗じて得られた5億4600万円が特許法102条3項によって算出される損害金額又は不当利得金額となる。
ウ よって,原告の全損害額は,2億9133万円に5億4600万円を加えた合計8億3733万円である。 (被告の主張) 原告の主張を争う。
当裁判所の判断
1 本件特許の出願経過等について (1) 平成4年12月11日,本件特許の出願公告がされた(甲2の1,2)。
当初の特許請求の範囲は,請求項1が「繊維径0.1〜10mm,繊維長5〜200mmのウィスカーの顆粒化体から成り,顆粒の直径が0.1〜10oで嵩比重が0.2〜1.0s/lである顆粒状ウィスカー。」,請求項2が「ウィスカーがチタン酸カリウムウィスカー,炭化ケイ素ウィスカー,窒化ケイ素ウィスカーまたは短繊維ガラスファイバーである請求項1記載の顆粒状ウィスカー。」とされており,請求項3は,本件特許請求の範囲請求項2とほぼ同じであった(乙71の1,2)。
(2) 平成5年2月17日,被告から,上記(1)の請求項1及び請求項2の発明に係る顆粒は,先願の明細書(乙43の10,以下「引用例1」という。)に記載された「平均繊維径が0.1〜1.0mmであり,平均アスペクト比が50〜300であり,吸油量が400ml/100g以上である無機質繊維を造粒することにより得られる平均径が0.5〜5oであり,嵩比重が0.15〜0.4である造粒繊維」と同一であること,上記(1)の請求項1及び請求項2の発明に係る顆粒は,特許公報(乙42の11,以下「引用例2」という。)に記載された「単繊維繊度が0.01ないし50de,繊維長が0.1ないし50oの短繊維に水を含浸させて回転ドラム中で撹拌処理する繊維粒状体の製造法」によって得られたものと同一であるか又はこれから容易に発明することができたこと等を理由として,特許異議の申立てがされた(乙42の9,10)。
原告は,同年11月15日,手続補正書を提出して(乙42の14,乙72),請求項1を「繊維径0.1〜10mm,繊維長5〜200mmのチタン酸カリウムウィスカー,炭化ケイ素ウィスカー,窒化ケイ素ウィスカー及び短繊維ガラスファイバーから選ばれたウィスカーのみ,又は該ウィスカーと加水分解により無機物表面に付着する有機金属とのみから成り,顆粒の直径が0.1〜10oで嵩比重が0.2〜1.0s/lであるほぼ球形の顆粒状ウィスカー。」と補正し(第1発明),「〜のみから成り」「ほぼ球形の」という要件を加えた。そして,従前の請求項2を削除し,従前の請求項3を請求項2と補正した(第2発明)。
(3) 原告は,同日,特許異議答弁書を提出し(乙42の12),引用例1に記載された造粒繊維は,ウィスカー粉体の加湿水による界面張力による造粒体でないので,本件発明とは形状が異なり,円柱状である等の主張をした。また,原告は,同答弁書において,第2発明について,「転動造粒そのものが,公知であることは,この証拠を示されるまでもないことでありますが,特定の材料に対して特定の条件で特定の造粒物を製造する方法についての記載は甲第10号証(特許異議申立事件の甲第10号証で,「造粒便覧」という名称の書籍)には全く記載されていません。」,「本願の第2の発明はこれら公知のものを用いて,巧妙に特定の材料を特定の用途に最適な態様に特定の条件下において,造粒することを具体的,個別的に達成する手段を示しているのであって,これらの公知のものを単に寄せ集めればできるというものではありません。」と主張した。
(4) 平成7年2月17日,特許庁審査官は,引用例2に記載された発明に基づいて容易に本件発明をすることができたものと認め,進歩性欠如を理由に,特許異議申立てを認めて拒絶査定を行った(乙42の15,16)。
すなわち,第1発明は,引用例2において使用する無機繊維をチタン酸カリウムウィスカー,炭化ケイ素ウィスカー,窒化ケイ素ウィスカーに限定する点及び繊維径を0.1〜10μmとしている点しか相違点がないが,いずれも容易に想到されるものであるし,第2発明は,回転ドラムで撹拌処理する引用例2に対して,転がり運動により顆粒化する点が異なるが,両者の造粒方法に格別の差はないとした。
(5) 原告は,平成7年9月28日,拒絶査定に対する不服審判請求を行い(乙42の4),同年10月30日,手続補正書を提出し(乙42の6),請求項1に「材料へ混合したとき元の繊維状になり材料中に分散する分散性を有することを特徴とする」という要件を加えるなど,本件特許請求の範囲請求項1及び2のとおりに補正した。
さらに,原告は,同日,審判請求理由補充書を提出した(乙42の7)。
この中で,原告は,@引用例2の実施例では,繊維径及び繊維長が本件発明の範囲外であること,A第1発明では,顆粒状ウィスカーは分散性が損なわれないが,引用例2には,このような記載はないこと,B引用例2の実施例では,多量の水を用いるため,あたかも水中で造粒しているのに対し,第2発明では,このような方法を排除しており,「傾斜皿は,各単独の粒子が独立に転動運動をすることが必要である」から,引用例2の実施例のように繊維性袋に入れて製造することはできないことを主張した。
(6) 特許庁審判官は,平成9年6月27日,原査定を取り消し,特許すべきものとする審決を行った(乙42の19)。その理由は,第1発明に関しては,その構成要件である,粒状体を成す繊維の成分が,チタン酸カリウム,炭化ケイ素又は窒化ケイ素であり,その形態がウィスカーであること,及び,繊維の粒状体が材料へ混合したとき元の繊維状になり材料中に分散する分散性を有することについて,引用例2に記載がないことであり,第2発明に関しては,引用例2は,出発材料の繊維が短繊維であって,ウィスカー粉末ではないこと,及び,引用例2は出発材料に水を含浸させて回転ドラム中で撹拌処理するという1つの処理工程で一挙に出発材料の粒状体を製造する方法であって,第2発明のように,出発材料に水又は水と有機金属の混合液を加えて加湿し,混合撹拌して一次凝集体を形成する第1の処理工程と,第1の処理工程で形成した一次凝集体に転がり運動を与えて顆粒化する第2の処理工程とを施すものではないことである。
これにより,本件特許権は,平成9年8月15日に,設定の登録がされた(甲1)。
(7) 被告は,平成10年10月1日,本件発明は,引用例1に記載されている発明と同一であることを理由として,本件特許の無効審判請求を行った(乙43の1,6)。
原告は,これに対し,答弁書(乙43の16)において,第1発明については,@第1発明が繊維径及び繊維長の上下限を明示しているのに対し,引用例1では平均繊維径及び平均繊維長のみを示しており,その上下限が全く不明であるから,数字の範囲が重複するといっても,概念の全く異なる数字であること,A引用例1は,高い吸油性を有する繊維に関する記載のみであること,B引用例1は,押出成形による円柱状の造粒繊維の発明であって,顆粒の形状がほぼ球形になる造粒法については記載がないこと,C引用例1には,造粒繊維の平均径の記載はあるが,顆粒の直径の上下限を示す記載はないことを主張した。
また,第2発明については,引用例1には,第2発明の@ウィスカー粉末繊維長,繊維径等の要件,A加湿,一次凝集,転動造粒等の製造工程の要件及びB顆粒の直径の要件について何らの記載もなく,記載されている工程は第2発明とは全く異なる押出成形のみであるから,第2発明の製造方法について同一性を有する記載がないと主張した。
特許庁審判官は,この原告の主張に対し,繊維径,繊維長及び顆粒直径の数値,繊維の吸油量,球形という形状について,本件発明は引用例1と区別がつかないのではないかとの釈明を求めた(乙43の20)。
原告は,口頭審理陳述要領書において,@引用例1は平均繊維径だけで規定されており,上下限を限定していないから,引用例1の「平均繊維径が0.1〜1.0μm」という記載と本件発明の「繊維径0.1〜10μm」という記載は同一ではなく,繊維長及び顆粒直径についても同様である,A本件発明が対象とする繊維の吸油量は,引用例1が排除している400ml/100g未満である,B本件発明において,直径のみを規定する顆粒は,「球形又はこれに近いもの」,又は「円形平板状の顆粒」に限定される,本件発明で粒径を規定せず直径のみを規定したのは,顆粒がほとんど球形であるためで,「通常,粒子の粒径は不定形の場合直径で示さない」,これに対し,引用例1には,「直径のみを規定する特定形状の粒子」についての記載がないと主張し(乙43の21),さらに,口頭審理において,口頭で,「本件発明は,特定の数値範囲の繊維径,繊維長,顆粒直径を有する球形の顆粒ウィスカーであり,繊維等についてこのような数値範囲を特定した顆粒状ウィスカーは引用例1には記載がない」旨主張した(乙43の33)。
(8) 特許庁審判官は,平成12年3月2日,無効請求は成り立たないとする審決を行った(乙43の37)。
その理由は,第1発明については,@引用例1には,押出造粒法についての記載しかないところ,この方法では「ほぼ球形」のものは得られないから,「ほぼ球形」の顆粒状ウィスカーを得ることができる製造方法についての開示がなく,引用例1には,「ほぼ球形」の点について具体的な記載及び示唆がないこと,A第1発明が対象とする繊維の吸油量は,引用例1に記載されている400ml/100g以上である又は400ml/100g以上のものがあると認めることができないことであり,また,第2発明については,引用例1に記載されている押出造粒法は,第2発明の工程を備えるものではないし,転動造粒法等の造粒方法が造粒物の製造方法として周知のものであることを認めることはできるとしても,顆粒状ウィスカーの製造方法として,ウィスカー粉末に水又は水と有機金属の混合液を加えて加湿し,混合撹拌して一次凝集体を形成し,次いでこの一次凝集体に転がり運動を与えて顆粒化するという構成の点までもが本件特許出願前に周知であったことを認めることはできないことである。
この審決は確定した(弁論の全趣旨)。
2 被告製品の形状等について 被告製品のうち,ティスモ-DHG(検甲1ないし3,検乙1),ティスモ-D102PG(検乙2),ティスモ-D102SG(検乙3)について,測定結果が証拠として提出されているところ,その内容は,次のとおりである。
(1) 顆粒の形状 原告が,ティスモ-DHGを篩分けしたものの各粒度の試料を顕微鏡で観察した結果の写真(甲24の写真3-1ないし8)を画像解析装置に取り込み,輪郭を認識できる顆粒の長径/短径比を計測したところ,粒径の大きな顆粒のグループは,長径/短径比が1に近い頻度が高く,粒径の小さな顆粒のグループは,長径/短径比が1.8を超える粒子も存在するが,各粒度に篩い分けた顆粒の平均長径/短径比は,1.16ないし1.43であった(甲25)。また,ティスモ-D102PGを篩分けしたものの各粒度の試料をデジタルマイクロスコープで撮影した写真(甲27の写真4-1ないし8),同じくティスモ-D102SGを篩分けしたものの各粒度の試料をデジタルマイクロスコープで撮影した写真(甲27の写真4-9ないし16)は,ほぼ上記ティスモ-DHGの写真と同様のものである。
他方,被告がティスモ-DHGを円錐4分法により採取し,導電ペースト上にのせてSEM写真撮影を行い,デジタルノギスで顆粒の長径及び短径を実測したところ,1回目は,1439個測定して,長径の平均が91.61μm,短径の平均が59.06μmで,長径/短径比は,平均1.66であり,2回目は,908個測定して,長径の平均が97.50μm,短径の平均が62.25μmで,長径/短径比が1.65であった(乙40)。同様に,ティスモ-D102PGを測定したところ,2213個測定して,平均長径は75.41μm,平均短径が45.06μmであり,その平均長径/短径比は,1.99であり,ティスモ-D102SGについては,1019個測定して,平均長径は108μm,平均短径が66.83μmであり,平均長径/短径比は,1.92であった(乙62)。
(2) 顆粒の直径 ティスモ-DHGをロータップ振とう機で篩分けを行い,粒度分布を測定した結果,篩の目開き106μm未満の顆粒が重量比で2.24%又は2.43%存在し,それ以外は,0.106〜4.8oの範囲にあった(甲3,17)。同様に測定したところ,ティスモ-D102PGでは,106μm未満の顆粒が重量比で7.85%存在し,ティスモ-D102SGでは,106μm未満の顆粒が重量比で2.25%存在したが,それ以外は,0.106〜4.8oの範囲にあった(甲27)。
他方,ティスモ-DHGを円錐4分法により採取し,導電性ペースト上にのせてSEM写真撮影を行い,デジタルノギスで顆粒の長径,短径の実測を行ったところ,1回目は,1439個中長径が100μm未満のものが1013個(68%)であり,2回目は,908個中長径が100μm未満のものが612個(67%)であった(乙40)。同様に,ティスモ-D102PGを実測したところ,2213個測定して,長径100μm以上のものが351個(15.9%)であり,ティスモ-D102SGについては,1019個測定して,長径100μm以上のものが398個(39.1%)であった(乙62)。
3 争点(1)について (1) 争点(1)ウ(顆粒の形状)について 第1発明の構成要件C「ほぼ球形」は,@その文言,A第1発明は,顆粒の直径についても構成要件となっている(構成要件B@)が,直径は,球形であって初めて観念することができること,及び,B前記1(7)で認定したとおり,原告は,本件特許の無効審判手続において,「本件発明において,直径のみを規定する顆粒は,『球形又はこれに近いもの』,又は『円形平板状の顆粒』に限定される。
本件発明で粒径を規定せず直径のみを規定したのは,顆粒がほとんど球形であるためで,『通常,粒子の粒径は不定形の場合直径で示さない』」と主張していることからすると,「球形又はそれに近いもの」を意味するものと認められ,単に丸みを帯びた形状では「ほぼ球形」ということはできないものというべきである。
原告は,出願手続中に補正によって第1発明に「ほぼ球形」の限定を加えたのは,先願の明細書(乙43の10)に記載された造粒方法で造粒される円柱形状を除外したものであると主張し,前記1認定の本件特許の出願経過からすると,原告が,第1発明に「ほぼ球形」の限定を加えたのは,先願の明細書(乙43の10)に記載された造粒方法で造粒される円柱形状を除外する目的があったことが認められるが,特許請求の範囲を,出願経過に基づいて,文言に反して広く解釈することはできないから,原告のこの主張は,構成要件Cの「ほぼ球形」を「球形又はそれに近いもの」よりも広く解釈することの根拠となるものでない。
被告製品のうち,ティスモ-DHGの写真(甲24,乙40,乙41の1),ティスモ-D102PGの写真(甲27,乙46,62),ティスモ-D102SGの写真(甲27,乙47,62)のいずれを見ても,球径の大きな顆粒には,ほぼ球形といえる形状のものも散見されるが,大部分は形が定まっておらず,直径という概念を想起し難い不定形のものであり,顆粒が小さいものほどその傾向が著しくなるものと認められる。前記2(1)認定のとおり,顆粒の平均長径/短径比は,被告のデータでは1.65ないし1.99であり,原告のデータでも1.16ないし1.43であり,中には1.8を超えるものも存在したところ,別紙「長径/短径比と形状変化」(乙37別紙6)から明らかなように,平均長径/短径比が1.3を超えるものは,「ほぼ球形」とはいい難い。しかも,上記写真によると,いずれの顆粒もほぼ楕円形というわけではなく,ごつごつした岩状のものであるから,単に長径/短径比が1に近ければほぼ球形であるというわけでもない。株式会社東レリサーチセンターの報告書(乙41の1)では,ティスモ-DHGの顆粒は不定形であり,直径の測定は不可能であったとされており,株式会社UBE科学分析センターの報告書(乙62)でも,ティスモ-D102PG及びティスモ-D102SGの顆粒は,卵型や丸形をしたもの等,いろいろな形をしており,不定形であったとされている。
なお,長径/短径の体積平均値を求めると,ティスモ-DHGは1.413,ティスモ-D102PGは1.344,ティスモ-D102SGは1.541である旨の原告作成の報告書(甲52)が存するが,体積平均値でなければならない根拠が認められない上,この報告書によっても,長径/短径の体積平均値は,1.3を超えているから,「ほぼ球形」とはいい難い。また,A博士の鑑定意見書(甲34)では,被告の製品は「ほぼ球形」の要件を満たすとされているが,この鑑定書は粒子がいずれも丸みを帯びた形状であることを述べているに過ぎないところ,単に丸みを帯びた形状では「ほぼ球形」ということはできないことは,前述のとおりである。
以上述べたところに,弁論の全趣旨によると,ティスモ-D101HG及びティスモ-D101SGの顆粒は,ティスモ-DHG,ティスモ-D102PG及びティスモ-D102SGの顆粒と同様の形状を有していると認められることを総合すると,被告製品の顆粒は,「ほぼ球形」とはいえないから,第1発明の構成要件Cを充足しない。
(2) 争点(1)イ(顆粒の直径)について 第1発明は,「顆粒の直径が0.1〜10o」と数値を限定している。そして,これは,本件発明の効果の1つである,空中に舞いやすく扱いにくい粉状ウィスカーを顆粒にして,粉塵が舞い上がらないようにする(本件公報2欄19ないし22行,6欄25行)ためには,ある程度の大きさの顆粒が必要であるので,顆粒の直径の下限値を設定したものと考えられる。また,本件特許の明細書第2表(本件公報5欄,6欄)は,実施例において得られた顆粒を篩分けしたと思われる重量パーセントによる粒度分布であるところ,これによると,粒子径0.149o未満のものは重量比で0.04%しか含まれていない。さらに,前記1(7)で認定したとおり,原告は,本件特許の無効審判手続において,引用例1が造粒繊維の平均径の記載を示しているのに対し,直径の上下限を示す第1発明とは異なること,本件発明は,特定の数値範囲の顆粒直径を有する顆粒ウィスカーであることを主張している。これらのことからすると,顆粒の直径が0.1oを下回るものが含まれている場合は,次に述べるような場合を除いては,第1発明の構成要件を充足しないというべきである。下限値が四捨五入して0.1oになる44.45μmであるとする原告の主張は,本件特許請求の範囲請求項1には「0.1o」と明示されており,他に本件特許の明細書(甲2の1,2)等に原告主張のように解すべき根拠が存するとも認められないから,原告主張のように解することはできず,第1発明における顆粒の直径の下限は,本件特許請求の範囲請求項1に記載されているとおり,0.1oであると認められる。
もっとも,本件特許の明細書第2表(本件公報5欄,6欄)には,粒子径0.149o未満のものが重量比で0.04%存在したことが記載されているから,この中には,顆粒の直径が0.1o未満のものが含まれている可能性があり,このことからすると,顆粒の直径が0.1o未満のものが,ごくわずか,すなわち,上記第2表の程度含まれている場合には,顆粒の直径が0.1o未満のものが含まれているとしても,構成要件を充足する余地があるものということができる。
そこで,被告製品について判断するに,前記(1)で認定したとおり,被告製品の顆粒は「ほぼ球形」とはいえず,不定形なものであるから,そもそも,このような不定形なものについて,直径を観念することはできない。
原告は,被告製品を篩分けしたところ,0.1o未満の大きさの粒子は,重量パーセントで極めてわずかであると主張する。しかし,上記認定のとおり,上記第2表では,粒子径0.149o未満のものが重量比で0.04%存在したことが記載されているところ,前記2(2)認定のとおり,ティスモ-DHG,ティスモ-D102PG及びティスモ-D102SGにおいては,106μm未満のものが,2.24%ないし7.85%も存在しているのであり,弁論の全趣旨によると,ティスモ-D101HG及びティスモ-D101SGについても同様であると認められるから,被告製品においては,上記第2表より粒径の小さいものがはるかに多いということができる。
また,被告が示したデータ(乙62)に基づき,個数ではなく体積で比較すると,100μm未満の顆粒は,ティスモ-D102PGについては,全顆粒の合計体積の0.8%,ティスモ-D102SGについては,顆粒の合計体積の0.6%に過ぎない旨の被告作成の報告書(甲30)が存する。しかし,この報告書の記載は,篩分けによるものではない上,この記載によっても,被告製品における100μm未満の顆粒の重量パーセントによる割合は,上記第2表に記載されているものよりも多く,同表の記載と同程度であるとは認められない。
なお,原告は,0.1o未満の顆粒は,顆粒ではなく粉体であるとも主張するが,本件特許の明細書(甲2の1,2)には,顆粒と粉体を大きさで区別する記載はなく,0.1o未満の顆粒は,顆粒ではなく粉体であるとすると,構成要件において顆粒の直径の下限を設定する意味もなくなることからすると,原告の主張は採用できない。
以上述べたところを総合すると,被告製品の顆粒は,「顆粒の直径が0.1〜10o」であるとはいえないから,第1発明の構成要件B@を充足しない。
4 争点(2)について (1) 争点(2)のうち,イについては,前記3(2)で認定したとおりであるから,被告方法は構成要件Dを充足しない。
(2) 争点(2)ウについて 本件特許請求の範囲請求項2は,「一次凝集体を形成し,『次いで』この一次凝集体に転がり運動を与えて」と記載されていること,第2発明の唯一の実施例は,ウィスカーをヘンシェルミキサに入れ,水及び有機金属を混合加湿し,次にこの加湿粉体を傾斜回転皿に入れ,10分間回転運動を与え,乾燥して,ウィスカーの顆粒を得るというものであること(甲2の1,2),前記1(4)ないし(6)で認定したとおり,原告は,第2発明は繊維に水を含浸させて回転ドラム中で撹拌処理する引用例2と格別の差はないとした拒絶査定に対し,不服審判請求を行い,特許庁審判官は,引用例2は1つの処理工程で一挙に出発材料の粒状体を製造する方法であって,第2発明のように,一次凝集体を形成する第1の処理工程と,第1の処理工程で形成した一次凝集体に転がり運動を与えて顆粒化する第2の処理工程とを施すものではないとして,拒絶査定を取り消し,本件特許は,設定登録がされたものであり,前記1(8)で認定したとおり,無効審判請求における審決においても,2段階の工程を備えるものが周知であったとは認められないとして,無効審判請求は成り立たないとされたことからすると,第2発明は,ウィスカー粉末と水を混合して一次凝集体を形成する工程とそれに続く転がり運動を与えて顆粒化する工程という明確に区別された2段階の工程からなる製造方法であると認められる。
被告方法は,高速回転するディスク上に別々に供給された水と繊維状ウィスカーが撹拌されながらディスクにはねとばされ,造粒スリーブとの摩擦によって撹拌造粒されるものであり,瞬時に造粒され,造粒時間は1秒以内である(乙48ないし60,64,65)。
被告方法の造粒過程を細かく検討すると,@高速回転するディスク上に供給された繊維状ウィスカーが撹拌されながら,スリーブに押しつけられるような状態に吹き飛ばされ,この過程で繊維状ウィスカーと水が混合されて加湿粒子が形成され,この加湿粒子が遠心力で造粒スリーブに押しつけられ,高速回転ディスクによってディスクの回転方向の速度が与えられているので,静止しているスリーブとの摩擦でスリーブの内周面に沿って転がり運動を行い,造粒されるという原告主張の経過をたどる粒子が存在するものと推認される。しかし,他方で,A高速回転するディスク上で,既に転がり運動により顆粒化を開始し始める粒子が存在するものと推認されるし,B高速回転ディスク上に供給されたウィスカー及び水の中には,高速回転ディスク上で加湿粒子を形成せずに,高速回転ディスク面に衝突する反動でそのまま造粒スリーブ面に吹き飛ばされ,造粒スリーブ表面で初めて加湿粒子を形成する粒子も存在するものと推認される。上記の原告主張の経過をたどる場合であっても,この過程は瞬間的に生じる1つの処理工程であるから,2段階の工程が存するとはいい難い上,まして,ABの経過をたどる場合は,一次凝集体を形成する過程と,その凝集体が転がり運動をする過程とは,混然としていて区別し難いから,被告方法においては,2段階の工程が存在するとは認められない。
したがって,被告方法は,第2発明の構成要件B及びCを充足しない。
5 争点(3)について (1) 被告は,原告の均等の主張は,時機に遅れた攻撃防御方法であると主張するが,これは第11回弁論準備手続期日において平成14年2月15日付け準備書面で主張されたもので,弁論準備手続は第11回をもって終結し,次の第2回口頭弁論期日において弁論が終結されたのであるから,訴訟の完結を遅延させるものということはできない。したがって,原告の均等の主張に対し,判断する。
(2) 第1発明について 第1発明は,「繊維径0.1〜10μm,繊維長5〜200μmの細かい繊維状物質は,粉体の嵩比重が0.1程度で嵩ばるばかりでなく,空中に舞いやすいため取扱い難いものであった」(本件公報2欄19行ないし22行)という欠点を解消するため,「貯蔵,運搬,混合などの取扱いが容易な顆粒状化したウィスカーであって,使用時には容易に元の繊維状となって材料中に均一に分散するようにした顆粒状ウィスカーを提供することを目的とする」(本件公報3欄19行ないし23行)もので,「本発明の顆粒状ウィスカーは顆粒の粒径が0.1〜10mmのほぼ球形に近いもので,嵩比重が0.2〜1.0s/lであり,・・・容積が減って取扱い易くなったばかりでなく,顆粒体であるから粉体の流動性も顕著に改善され,移送,添加操作も非常に迅速に行うことができるようになった。」(本件公報4欄24行ないし30行)という作用を有し,「ウィスカーを使用時に分散できる顆粒にし,嵩比重を著しく高めることで,容積を従来の数分の1に減じ,したがって,その移送,取扱いが容易になり,かつ,粉塵が舞い上がる心配もないため,作業環境も著しく改善することができる」(本件公報5欄26行ないし27行,6欄23行ないし26行)という効果を奏するものである。
前記1(2)(3)で認定したとおり,原告は,本件特許の出願公告時にはなかった「ほぼ球形」という要件を,特許異議申立てがされた後に手続補正書を提出して加え,特許異議の審理の中で,引用例1とは「ほぼ球形」という形状という点で異なると主張している。また,前記1(7)(8)で認定したとおり,原告は,本件特許の無効審判手続において,引用例1が造粒繊維の平均径の記載を示しているのに対し,第1発明は,顆粒の直径の上下限を明示するものである,本件発明で粒径を規定せず直径のみを規定したのは,顆粒がほとんど球形であるためである,本件発明は,特定の数値範囲の顆粒直径を有する球形の顆粒ウィスカーであると主張し,審決でも,引用例1には,「ほぼ球形」の点について具体的な記載及び示唆がないことを理由の1つとして無効審判請求が成り立たないとされた。
以上述べたところからすると,原告は,第1発明について,顆粒の形状を「ほぼ球形」と規定し,その顆粒の直径を上下限値をもって定めることによって,上記作用効果を奏し,先願技術(引用例1)とも異なる発明として,特許を得たものと認められるから,第1発明における顆粒の形状,顆粒の直径を規定した本件争点部分の構成要件は,いずれも本件発明の本質的部分であるということができる。
そして,以上の本件特許の出願経緯等からすると,この顆粒直径の数値範囲及び形状を外れる製品は特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たると認められる。
したがって,顆粒の直径が第1発明の数値範囲を外れ,形状が第1発明の形状と異なる被告製品は,第1発明と均等なものとは認められない。
(3) 第2発明について 顆粒の直径が0.1〜10oであることは,第2発明の本質的部分であって,この数値範囲を外れる製品を製造する方法は,第2発明の特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たると認められることは,前記(2)で述べたとおりである。
第2発明は,顆粒の直径が0.1〜10oで嵩比重が0.2〜1.0s/lの顆粒体を製造する方法に関する発明であって,「水または水と有機金属の混合液を加えて加湿し,混合撹拌して一次凝集体を形成し,次いでこの一次凝集体に転がり運動を与えて顆粒化する」という2段階の工程からなるものであるところ,本件特許出願当時,原料とバインダーを混合して形成された湿潤粉体に転がり運動を与えて造粒する造粒法が周知であったこと(乙43の12,14,15,37,乙61),前記1(4)ないし(6)で認定したとおり,拒絶査定に対する不服審判において,2段階の工程からなる点に,引用例2との違いを認めて,特許すべきものとされたこと,前記1(7)(8)で認定したとおり,無効審判請求における審決においても,2段階の工程を備えるものが周知であったとは認められないとして,無効審判請求は成り立たないとされたことからすると,2段階の工程からなる点は,第2発明の本質的部分であると認められる。
したがって,顆粒の直径が第2発明の数値範囲を外れる製品を製造する方法であり,かつ,2段階の工程を有しない被告方法は,第2発明と均等なものとは認められない。
6 以上のとおり,被告製品は,第1発明の技術的範囲に属するとはいえず,被告方法は,第2発明の技術的範囲に属するとはいえない。
よって,その余の点につき判断するまでもなく,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 森義之
裁判官 東海林保
裁判官 瀬戸さやか