審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成13ワ24051特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成12ワ12754特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成12ワ2916特許権損害賠償請求事件 | 判例 | 特許 |
平成13ワ15276特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成12ワ17298損害賠償等請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 使用方法 / 新規性 / 29条1項3号 / 頒布された刊行物 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 公知技術 / 下位概念 / 技術的範囲 / 同一の発明 / 発明の詳細な説明 / 遡及効 / 遡及 / 分割出願 / 実質的に同一 / 援用権(援用) / 権利の濫用(権利濫用) / 出願経過 / 参酌 / 技術的意義 / 容易に想到(容易想到性) / 禁反言 / 特許発明 / 実施 / 社会通念 / 間接侵害 / 構成要件 / 業として / 具体的態様 / 差止請求(差止) / 侵害 / 同意 / 設定登録 / 訂正審判 / 請求の範囲 / 減縮 / 審決確定(審決が確定) / |
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事件 |
平成
13年
(ワ)
831号
特許権侵害差止等請求事件
平成 13年 (ワ) 6097号 特許権侵害差止請求事件 |
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第1・第2事件原告 未来工業株式会社 訴訟代理人弁護士 伊神喜弘 同 柳瀬陽子 補佐人弁理士 樋口武尚第1・第2事件被告 日動電工株式会社 訴訟代理人弁護士 上原健嗣 同 上原理子 補佐人弁理士 鈴江孝一 同 鈴江正二 |
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裁判所 | 大阪地方裁判所 |
判決言渡日 | 2002/08/27 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 原告の第1事件及び第2事件の各請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は、第1事件及び第2事件を通じて、原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
〔第1事件〕 1(1) 被告は、別紙イ号物件目録記載の物件を製造し、使用し、譲渡し、貸し渡し、又は譲渡若しくは貸渡しの申出(譲渡又は貸渡しのための展示を含む。)をしてはならない。 (2) 被告は、別紙商品目録1、2記載の4oバー埋込用を製造し、使用し、譲渡し、貸し渡し、又は譲渡若しくは貸渡しの申出(譲渡又は貸渡しのための展示を含む。)をしてはならない。 2(1)ア 被告は、@別紙イ号物件目録添付商品リスト記載のとおりの4oバーボックス、A別紙商品目録1、2記載の4oバー埋込用及びB4oバー(埋込用)取付法を記載したカタログを配布してはならない。 イ 被告は、これらカタログを廃棄せよ。 (2)ア 被告は、既に配布済みの「2000-2001 電設系総合カタログ」を回収の上、廃棄せよ。 イ 被告は、「2000-2001 電設系総合カタログ」の配布済みの配布先に対して別紙削除部分目録1記載の部分が使用できない旨を記載したカタログ取扱説明書を配布せよ。 (3)ア 被告は、既に配布済みの「2001~2002 電設系総合カタログ」を回収の上、廃棄せよ。 イ 被告は、「2001~2002 電設系総合カタログ」の配布済みの配布先に対して別紙削除部分目録2記載の部分が使用できない旨を記載したカタログ取扱説明書を配布せよ。 3 被告は、別紙イ号物件目録添付商品リスト記載のとおりの4oバーボックスを含む別紙イ号物件目録記載の物件及びその製造用金型を廃棄せよ。 〔第2事件〕 1 被告は、別紙ハ号物件目録記載の物件を製造し、使用し、譲渡し、貸し渡し、又は譲渡若しくは貸渡しの申出(譲渡又は貸渡しのための展示を含む。)をしてはならない。 2(1)ア 被告は、@別紙ハ号物件目録添付商品リスト記載のとおりの4oバーボックス、A4oバー(埋込用)取付法を記載したカタログを配布してはならない。 イ 被告は、これらカタログを廃棄せよ。 (2)ア 被告は、既に配布済みの「2000-2001 電設系総合カタログ」を回収の上、廃棄せよ。 イ 被告は、「2000-2001 電設系総合カタログ」の配布済みの配布先に対して別紙削除部分目録3記載の部分が使用できない旨を記載したカタログ取扱説明書を配布せよ。 (3)ア 被告は、既に配布済みの「2001~2002 電設系総合カタログ」を回収の上、廃棄せよ。 イ 被告は、「2001~2002 電設系総合カタログ」の配布済みの配布先に対して別紙削除部分目録4記載の部分が使用できない旨を記載したカタログ取扱説明書を配布せよ。 3 被告は、別紙ハ号物件目録添付商品リスト記載のとおりの4oバーボックスを含む別紙ハ号物件目録記載の物件及びその製造用金型を廃棄せよ。 |
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事案の概要
〔第1事件〕 第1事件は、「コンクリート埋設物」に係る特許権(特許第2567807号)の特許権者である原告が、被告による別紙イ号物件目録記載のコンクリート埋設用電線接続ボックス(別紙イ号物件目録添付商品リスト記載の4oバーボックスと別紙商品1、2目録記載の4oバー埋込用を組み合わせたもの〔イ号物件〕)の製造、販売及びその宣伝広告の態様が、上記特許権の直接侵害又は間接侵害に当たるとして、被告に対し、イ号物件の製造、使用等の差止め並びにイ号物件及びその製造用金型の廃棄を求めるとともに、特許法100条2項に基づき、被告の商品カタログの配布の差止め、廃棄等を求めた事案である。 〔第2事件〕 第2事件は、「コンクリート埋設物」に係る別の特許権(特許第2838511号)の特許権者である原告が、被告の製造、販売する別紙ハ号物件目録記載のコンクリート埋設用電線接続ボックス(別紙ハ号物件目録添付商品リスト記載の4oバーボックス〔ハ号物件〕)が、上記特許権の直接侵害に当たるとして、被告に対し、ハ号物件の製造、使用等の差止め並びにハ号物件及びその製造用金型の廃棄を求めるとともに、特許法100条2項に基づき、被告の商品カタログの配布の差止め、廃棄等を求めた事案である。 1 争いのない事実等 (1) 当事者 ア 原告は、電気設備資材、給排水設備機械等の製造、販売等を目的とする株式会社である。 イ 被告は、電力用配電機材及び住宅用電設資材等の製造、販売等を目的とする株式会社である。 (2) 本件特許権1 ア(ア) 原告は、次の特許権(以下「本件特許権1」といい、その特許を「本件特許1」、その特許出願に係る願書に添付した明細書を「本件明細書1」、 特許請求の範囲第1項の発明を「本件発明1」という。)を有している。 特許番号 第2567807号 発明の名称 コンクリート埋設物 分割の表示 特願平1-306218の分割 出 願 日 昭和59年1月17日(特願平5-271610) 公 開 日 平成6年10月25日(特開平6-299698) 登 録 日 平成8年10月3日 特許請求の範囲 別紙特許公報1該当欄記載のとおり (イ) 本件特許1は、昭和59年1月17日に出願された特願昭59-6833号(以下「親出願」という。)の特許出願の一部を平成元年11月24日に特願平1-306218号(以下「子出願」という。)として分割出願し、該分割出願の一部を平成5年10月29日に特願平5-271610号として分割出願した特許出願(以下「孫出願」又は「本件出願1」という。)に係るものであり、平成8年10月3日に設定登録がされた(別紙「親出願(特願昭59-6833号)からの分割出願の推移一覧」〔以下「分割経緯図」という。〕参照)。 (ウ) 被告は、本件特許1について特許庁に無効審判を請求(無効2000-35598号)し(乙3)、原告は、答弁書提出期間内に提出した平成13年2月5日付け訂正請求書(甲18の2)により、本件明細書1から図43及び図44並びにその説明を削除する訂正請求をした(以下、この訂正を「本件訂正1」という。)。特許庁審判官は、平成13年8月31日付けで、「訂正を認める。本件審判の請求は成り立たない。」との審決をした(甲36)。なお、この審決は未確定である。 イ 本件発明1は、次の構成要件に分説することができる。 A 手による三次元方向に自在に折り曲げが可能で、かつ曲げられた状態で型枠に埋設物本体の開口部を押圧できる突張り強度を有し、コンクリート壁の支骨をなす鉄筋に架設される線状の複数の支持部材を有するものであること、 B 複数の支持部材の各々を、鉄筋に対し埋設物本体を任意の位置に設置するのに十分な長さの自由端を残して、埋設物本体の外方に突出するように埋設物本体の開口部の反対側に、線状又は複数の点状に固着するものであること、 C コンクリート埋設物であること。 (3) 本件特許権2について ア(ア) 原告は、次の特許権(以下、「本件特許権2」といい、その特許を「本件特許2」、その特許出願に係る願書に添付した明細書を「本件明細書2」、 特許請求の範囲第1項の発明を「本件発明2(1)」、同第2項の発明を「本件発明2(2)」、本件発明2(1)と(2)を併せて「本件発明2」という。)を有している。 特許番号 第2838511号 発明の名称 コンクリート埋設物 分割の表示 特願平7-173552の分割 出 願 日 昭和59年1月17日(特願平8-85107) 公 開 日 平成8年12月24日(特開平8-338130) 登 録 日 平成10年10月16日 特許請求の範囲 別紙特許公報2該当欄記載のとおり (イ) 本件特許2は、本件出願1の一部を平成7年7月10日に特願平7-173552号として分割出願し(以下「曾孫出願」という。)、該分割出願の一部を平成8年4月8日に特願平8-85107号として分割出願した特許出願(以下「玄孫出願」又は「本件出願2」という。)に係り、平成10年10月16日に設定登録がされた(別紙分割経緯図参照)。 (ウ) 被告は、本件特許2について特許庁に無効審判を請求(無効2000-35604号)し、原告は、答弁書提出期間内に提出した平成13年2月19日付け訂正請求書により、本件明細書2から図43及び図44並びにその説明を削除する訂正請求をした(以下、この訂正を「本件訂正2」という。)。特許庁審判官は、平成13年8月31日付けで、「訂正を認める。本件審判の請求は成り立たない。」との審決をした(甲37)。なお、この審決は未確定である。 イ 本件発明2(1)は、次の構成要件に分説することができる。 a 手による三次元方向に自在に折り曲げが可能であると共に、曲げられた状態で型枠に埋設物本体の開口部を押圧できる突張り強度を有し、コンクリート壁の支骨をなす鉄筋に架設される線状の複数の支持部材の各々を、前記埋設物本体の開口部の反対側に複数箇所で取付ける取付部を備えるものであること、 b コンクリート埋設物であること。 ウ 本件発明2(2)は、次の構成要件に分説することができる。 (a) 手による三次元方向に自在に折り曲げが可能であると共に、曲げられた状態で型枠にボックスの開口部を押圧できる突張り強度を有し、コンクリート壁の支骨をなす鉄筋に架設される線状の複数の支持部材の各々を、前記ボックスの開口部の反対側の4隅における複数箇所で取付ける取付部を備えるものであること、 (b) コンクリート埋設物であること。 (4) 被告製品(イ号物件、ハ号物件) ア 被告は、別紙ハ号物件目録記載の電線接続ボックス(商品名・4oバーBOX。以下、第1事件においては「ボックス」、第2事件においては「ハ号物件」という。)を業として製造、販売している(ただし、ハ号物件が「コンクリート埋設用」か否かは当事者間に争いがある。)。 イ 被告は、別紙商品目録1、2記載のバー(商品名・4oバー(埋込用)、以下「埋込用バー」という。)を業として販売している。 原告は、被告がボックスに埋込用バーを付設した別紙イ号物件目録記載のコンクリート埋設用電線接続ボックス(以下「イ号物件」という。)を製造、販売していると主張するが、被告はこれを否認している。 なお、別紙イ号及びハ号物件目録添付商品リスト記載のボックスのうち、@4oバーBOX薄型4OB(商品コード25B4OB3Z、品番V-4OB3Z)、A4oバーBOX薄型(品番V-4OB3Z)、B4oバーBOX薄型(品番V-4OBL3Z)は、埋込用バーを挿通させることができない(甲27、 弁論の全趣旨)。 2 争点 〔第1事件〕 (1) イ号物件の製造、販売について、本件特許権1の直接侵害が成立するか。 また、イ号物件を構成するボックス及び埋込用バーについて、間接侵害(特許法101条1号)が成立するか。 ア イ号物件の構成 (ア) 被告はボックスと埋込用バーを組み合わせたイ号物件を製造、販売しているか。 (イ) 仮に、被告がボックスと埋込用バーを別個に販売しているとしても、被告の販売形態及び宣伝広告活動によれば、両商品の組合せをもって直接侵害を構成するか。 (ウ) ボックス及び埋込用バーは、本件発明1の実施にのみ使用する物か。 イ イ号物件は、本件発明1の技術的範囲に属するか。 (ア) 本件発明1の構成要件Bにいう「開口部の反対側」及び「固着」の意義 (イ) イ号物件は、構成要件Bにいう「開口部の反対側」及び「固着」の構成を備えているか。 ウ 原告が、支持部材を横方向から挿入する構成を有するイ号物件について、本件発明1の技術的範囲に属すると主張することは、禁反言の原則により許されないか。 エ イ号物件は、本件発明1の作用効果を奏しないため、本件発明1の技術的範囲に属しないといえるか。 (2) 本件特許1には明らかな無効理由が存在するか。 ア 進歩性欠如 イ 本件発明1は、子出願につき分割不適法と判断して子出願に係る特許を無効とした審決が確定したことにより、その出願日が親出願の出願日に遡及しないこととなる結果、新規性又は進歩性を欠くか。 〔第2事件〕 (3) ハ号物件は、本件発明2の技術的範囲に属するか。 ア ハ号物件は、本件発明2(1)の構成要件b及び本件発明2(2)の構成要件(b)にいう「コンクリート埋設物」に当たるか。 イ ハ号物件は、本件発明2(1)の構成要件a及び本件発明2(2)の構成要件(a)にいう「開口部の反対側」及び「取付ける」の構成を備えているか。 ウ 原告が、支持部材を横方向から挿入する構成を有するハ号物件について、本件発明2の技術的範囲に属すると主張することは、禁反言の原則により許されないか。 エ ハ号物件は、本件発明2の作用効果を奏しないため、本件発明2の技術的範囲に属しないといえるか。 (4) 本件特許2には明らかな無効理由が存在するか。 ア 新規性又は進歩性欠如 イ 本件発明2は、子出願につき分割不適法と判断して子出願に係る特許を無効とした審決が確定したことにより、その出願日が親出願の出願日に遡及しないこととなる結果、新規性又は進歩性を欠くか。 |
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争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(イ号物件の製造、販売について、本件特許権1の直接侵害が成立するか。また、イ号物件を構成するボックス及び埋込用バーについて、間接侵害(特許法101条1号)が成立するか。)について (1) 同ア(イ号物件の構成)について ア 同(ア)(被告はボックスと埋込用バーを組み合わせたイ号物件を製造、 販売しているか。)について 【原告の主張】 被告はボックスに埋込用バーを付設したイ号物件を製造、販売している。 【被告の主張】 被告は、ボックス及び埋込用バーをそれぞれ単体で販売しており、本件発明1の構成要件を充足する状態で販売していない。 イ 同(イ)(仮に、被告がボックスと埋込用バーを別個に販売しているとしても、被告の販売形態及び宣伝広告活動によれば、両商品の組合せをもって直接侵害を構成するか。)について 【原告の主張】 被告は、ボックスの線材保持部に埋込用バーが挿通、固定されることを意図して、ボックスと埋込用バーという本件発明1の二つの有体物要素を販売し、 両者を組み合わせる用法をカタログ(甲7の1、甲9)に掲載して、本件発明1の構成を充足する使用方法を教唆している。仮に埋込用バーとボックスが別個に販売されていたとしても、被告の行為は、端的に直接侵害に該当する。 【被告の主張】 被告は、ボックスを間仕切用、天井用に使うための部材も販売しており、ボックス及び埋込用バーは、販売時点ではコンクリート埋込用に使用されるか、それ以外の用途に使用されるか特定できない。よって、被告の行為には本件特許権1の侵害のおそれがない。 ウ 同(ウ)(ボックス及び埋込用バーは、本件発明1の実施にのみ使用する物か。)について 【原告の主張】 ボックスは、コンクリート埋設用としてのみ使用することを目的に販売、使用され、その物一般が性質上本件発明1の実施以外に使用されない物であるから、特許法101条1号にいう「その物の生産にのみ使用する物」に当たる。ボックスの線材保持部1Cを間仕切用及び天井用に使用することは、社会一般通念上、経済的、商業的ないし実用的な用途とはいえず、これらの使用法をもって、ボックスが特許法101条1号の「のみ」の要件を充足しないとはいえない。 【被告の主張】 ボックスは、間仕切用、天井用という実用的な他の用途にも使用され、 コンクリート埋設用に「のみ」使用されるものではないから、被告の行為は本件特許権1の間接侵害(特許法101条1号)に当たらない。 (2) 同イ(イ号物件は、本件発明1の技術的範囲に属するか。)について ア 同(ア)(本件発明1の構成要件Bにいう「開口部の反対側」及び「固着」の意義)について 【原告の主張】 (ア) 本件発明1の構成要件Bにいう「開口部の反対側」は、「埋設物本体の開口部の反対面も含む開口部の反対側」であれば足り、「背面」に限定されない。また、「固着」は、本件発明1の本質から解釈して、支持部材と埋設物本体との相対的な動きを前後、左右、上下方向に規制するという意味での拘束関係があれば足り、取付位置が容易に相対移動せず、容易に両者が分離しなければ、ある程度がたつくものも含まれる。 (イ) 被告は、親出願の出願当初明細書に、複数の支持部材の各々を埋設物本体の背面に設けた実施例があることを根拠に、「開口部の反対側」は、埋設物の背面に限定されると主張する。しかし、本件発明1は、親出願に含まれていた発明を当時の特許法に基づいて分割出願したものであり、実施例に限定解釈される理由がないし、原告が本件発明1の出願経緯において「開口部の反対側」を「埋設物本体の開口部の反対面」に積極的に限定した事実もないから、複数の線状の支持部材の各々の取付位置が背面に限定される理由はない。 (ウ) 被告は、原告が本件発明1の出願経過で提出した平成7年7月10日付け意見書(乙8)の「押圧力を面圧として加える箇所は…埋設物本体に取り付ければよい」との記載を根拠に、原告が「開口物の反対側」の意義を前記(ア)のとおり主張することは、禁反言の原則により許されないと主張する。しかし、上記意見書の記載は、「本願発明のコンクリート埋設物の要旨は、明細書の特許請求の範囲に記載の通りである」という記載を前提にして、実施例の説明をするものにすぎないから、これにより禁反言が生じることはない。また、被告は、原告が、前記意見書の「(2)の構成により、前述の如き支持部材からの押圧力を面圧として埋設物本体の背面に加えることができ、埋設物本体を型枠に均一に押圧することができます」(2頁6〜8行目)との記載により、「固着」の概念を限定したと主張する。しかし、上記記載は固着方法を特定するものではないから、「固着」を定義する概念が介在する余地はなく、原告の主張が禁反言の原則に反する理由はない。 【被告の主張】 (ア) 本件発明1の構成要件Bにいう「埋設物本体の開口部の反対側」は、埋設物本体の背面をいい、埋設物本体がボックスの場合、従来からあるボックスの背面をいう。これは、本件明細書1の段落番号【0028】【0029】【0030】【0032】に記載された「外壁」が、図面と照合すると、いずれも「埋設物本体の開口部と正反対の背面の壁」であることから明らかである。また、「固着」は、離れないように結合力をもったしっかりしたくっつけで、縦方向、横方法、或いは斜め方向と、種々の方向の押圧力を加えることができる不動の固着を意味する。 (イ) 本件発明1は、親出願(特願昭59-6833号)から分割した子出願(特願平1-306218号)から更に分割出願したものであるが、親出願の出願当初明細書(乙6)及び図面は、支持部材を埋設物本体に固着する場合として、埋設物本体の背面(ボックス10の場合は従前からあるボックス10の背面)にのみ固着する場合を挙げており、これによれば、本件発明1の構成要件Bにいう「開口部の反対側」は、埋設物本体の背面に限定される。また、親出願の当初明細書及び図面に具体的に記載された「固着」(溶接、ビス止め、加締め(カシメ)等)は、すべて「離れないように結合力をもったくっつけ」であるから、本件発明1の構成要件Bにいう「固着」も、親出願と同様、「離れないように結合力をもったくっつけ」を意味する。 (ウ) 原告は、本件特許1の出願経過で提出した平成7年7月10日付け意見書(乙8)で、「特筆すべき点は…(2)『複数の支持部材の各々を、埋設物本体に線状又は複数の点状に固着したこと』、であります。」(1頁15〜21行)と主張することにより、支持部材からの押圧力を面圧として加える箇所が「埋設物本体の背面」であると言明し(2頁6〜7行)、同日付け手続補正書(乙8)で、明細書の作用の欄(【0005】)に「各支持部材の線状又は複数の点状の固着部分に加わる押圧力は、面圧として埋設物本体に加わり、この面圧により、埋設物本体が型枠に均一に密接される。」との文言を追加した。このように、「開口部の反対側」が背面を意味することは明らかであり、原告が本件訴訟において「埋設物本体の開口側の反対側」に限定がないと主張することは、禁反言の原則により許されない。 また、原告が、同意見書で、「固着」について「埋設物本体における支持部材の各固着部分に、縦方向、横方向、或は斜め方向と、種々の方向の押圧力を加えることができ、埋設物本体を型枠により一層均一に押圧することができる」(5頁2〜4行)と主張したことによれば、本件発明1の構成要件Bにいう「固着」が縦方向、横方向、或いは斜め方向と、種々の方向の押圧力が加えられても埋設物本体の背面から支持部材が動かないことを意味することは明らかであり、原告が本件訴訟において「固着」の意味に限定がないと主張することは、禁反言の原則により許されない。 イ 同(イ)(イ号物件は、構成要件Bにいう「開口部の反対側」及び「固着」の構成を備えているか。)について 【原告の主張】 イ号物件は、線材2からの押圧力を面圧としてボックス本体1に加えるものであるから、本件発明1の構成要件Bにいう「開口部の反対側」の要件を充足し、線材の動きが規制されているから「固着」の要件も充足する。 【被告の主張】 イ号物件は、ボックス本体1の側面と背面1Bが交差する四つの外縁部のうち相反する側の一対の外縁部に線材保持溝1E(別紙参考図参照)を形成するとともに、その一対に線材保持部1Cを設け、線材保持部1Cの線材挿通孔1Dに線材2を送入して、側面と背面1Bが交差する外縁部(角部)に配置させる構成を有するもので、従来からあるボックス本体1の背面に線材2を配置するものではないから、本件発明1の構成要件Bにいう「開口部の反対側」を満たさない。 また、イ号物件は、埋込用バーを線材保持部1Cの前後内面にくっつけるものではなくガタツキが発生するものであり、外力が加わった時に埋込用バーが線材保持部1Cの前内面又は後内面に当たることによりボックスと埋込用バーとの相対的な動きが規制されるものであるから、本件発明1の構成要件Bにいう「固着」の要件を満たさない。しかも、イ号物件は、線材保持部1C一つでは線材の動きを規制することはできず、線材保持部1C二つで初めて折り曲げた線材の長手方向の動きを規制できるものであるから、本件発明1の構成要件Bにいう「点状に固着」も充足しない。 (3) 同ウ(原告が、支持部分を横方向から挿入する構成を有するイ号物件について、本件発明1の技術的範囲に属すると主張することは、禁反言の原則により許されないか。)について 【被告の主張】 原告は、本件訂正1により、ボックス10の背面に形成した突起76にボックス10の背面と直交する横部分から支持部材71を挿入し、横方向から挿入した支持部材71をボックス10の背面に固着する構成(図43・図44)をすべて削除した。特許請求の範囲の記載文言自体が訂正されなくとも、ある実施例がすべて削除された場合は、これを含まないものに特許請求の範囲の構成が減縮されたものと解されるから(最高裁判所平成3年3月19日第三小法廷判決・民集45巻3号209頁参照)、本件訂正1により、支持部材71をボックス10(埋設物本体)横方向から挿入して固着する構成は本件発明1から除外された。原告は、本件発明1から支持部材の横方向挿入を除外したものであり、侵害訴訟において、支持部分を横方向から挿入する被告のボックスが本件発明1の技術的範囲に属すると主張することは、禁反言の原則に反する。 【原告の主張】 本件発明1の要旨は、特許請求の範囲に記載の事項にある。図43・図44に示す実施例の削除は、あくまで実施例の削除にとどまるものであり、当該実施例の概念を拡大解釈される理由がない。 (4) 同エ(イ号物件は、本件発明1の作用効果を有しないため、本件発明1の技術的範囲に属しないといえるか。)について 【被告の主張】 本件発明1では、各支持部材の線状又は複数の点状の固着部分に加わる押圧力は、埋設物本体(ボックス)の開口部の反対側(背面)に面圧として加え、この面圧により、埋設物本体(ボックス)が型枠に均一に密接されるようにしているものである。これに対し、イ号物件は、線材2からの押圧力をボックス本体1の線材保持部1Cにおける前内面1I’から周壁1J(別紙参考図参照)に加えるものであり、線材2を背面に固着して線材2からの押圧力をボックス本体1の背面に面圧として加えるものではない。よって、イ号物件は、本件発明1の作用効果を有しないから、本件発明1の技術的範囲に属しない。 【原告の主張】 被告は、イ号物件は、線材2を背面に固着して線材2からの押圧力をボックス本体1の背面に面圧として加えるものでないと主張するが、本件発明1は、線材2を背面に固着するようなものに限定して解釈される理由はない。したがって、 被告の主張は失当である。 2 争点(2)(本件特許1には明らかな無効理由が存在するか。)について (1) 同ア(進歩性欠如)について 【被告の主張】 本件発明1は、特開昭53-145096号公開特許公報(乙46)、実公昭57-40653号実用新案公報(乙47)、刊行物「なまし鉄線」(発行:西日本線材製品工業組合、発行日:1981年3月、乙52)、実開昭57-165027号公開実用新案公報(乙53)及び実公昭58-7770号実用新案公報(乙54)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許1は、特許法29条2項の規定に違反してされたものとして、 同法123条1項2号の無効理由を有することが明らかである。本件特許権1に基づく権利行使は権利の濫用である。 【原告の主張】 争う。 (2) 同イ(本件発明1は、子出願につき分割不適法と判断して子出願に係る特許を無効とした審決が確定したことにより、その出願日が親出願の出願日に遡及しないこととなる結果、新規性又は進歩性を欠くか。)について 【被告の主張】 本件特許1は、子出願をもとの出願として分割出願されたものである。子出願に係る特許(特許2562698号)については、同特許についての無効審判事件(無効2000-35610号)において、平成13年8月31日付けで、子出願の特許は、親出願からの「分割出願の明細書又は図面は、原出願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内でないものを含むから、本件分割は不適法なものであって、本件特許発明に係る出願の出願日は、平成5年10月29日である。」として、その出願日が親出願の出願日である昭和59年1月17日に遡及せず、平成5年10月29日に出願されたものと認められるから、既に公開されている親出願の公開特許公報(乙6)から当業者が容易に発明をすることができた発明についての特許であり、特許が特許法29条2項に違反してされたものとして、特許法123条1項2号により無効であるとする審決がされた(乙61、 以下「本件無効審決」という。)。しかし、原告は、本件無効審決に対し、出訴期間内に東京高等裁判所に審決取消訴訟を提起しなかったので、本件無効審決の確定により子出願の特許権は消滅し、子出願は不適法な分割出願として親出願との関係が切断され、出願日の遡及の利益を享受することができなくなった。その結果、子出願を原出願として分割した本件特許1(孫出願に係る特許)の出願日は、当該分割出願が適法であった場合においても平成5年10月29日となり、親出願の出願日である昭和59年1月17日まで遡及することはあり得ない。そうすると、本件発明1は、既に公開されている親出願の公開特許公報(乙6)によって出願前全部公知の発明若しくは当業者が容易にできた発明にすぎず、特許法29条1項3号又は同条2項に違反するもので無効であることが明白である。なお、子出願に係る特許については、特許法123条1項の無効審決が確定した後であるから、もはや訂正審判により明細書の訂正をすることができない(特許法126条5項)。 よって、本件特許1は無効であることが明白であるから、本件特許権に基づく権利行使は権利の濫用として許されず、原告の本訴請求は直ちに棄却されるべきである。 【原告の主張】 ア 子出願に係る特許についての本件無効審決は、原明細書(親出願の明細書)又は図面に記載された発明の目的及び特許請求の範囲の記載によれば、「線状の支持部ないし支持部材」が必須の要件であるところ、平成5年10月29日付け手続補正書による補正後の子出願の明細書の特許請求の範囲に記載された「支持部材」には「線状」という限定がなく、原出願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内でないものを含むから、上記手続補正書で特許請求の範囲から「線状」を削除した分割出願(子出願)は不適法であって、子出願の出願日は平成5年10月29日であると認定したものである。これに対し、子出願の分割出願時の原出願の明細書(当初明細書)及び孫出願の分割出願直前の子出願願書の明細書(平成5年3月19日付け手続補正書による補正後のもの)は、いずれも、 特許請求の範囲には「線状」という限定を付した事項を発明の要旨としているから、本件出願1(孫出願)は、原出願(親出願、子出願)の最初に添付した明細書(親出願の明細書)又は図面に記載した事項の範囲内であり、かつ、分割直前の明細書又は図面に記載した事項の範囲内であるから、適法に分割されたものである。 このことは、本件特許1についての無効審判請求事件(無効2000-35598号)の審決(甲36)において、本件特許1(孫出願)の分割出願が適法とされたことからも裏付けられる。 イ 特許法44条1項は、分割出願のできる時期を、「願書に添付した明細書又は図面について補正をすることができる時又は期間内」に限定している。このため、実体的要件からいえば、原出願から直接分割できるものでも、分割時期を徒過していれば、他の分割出願(子出願)の使用を余儀なくされる。被告の主張に従えば、同一分割内容の分割出願でも、他の理由によって無効になる確率が変化し、 権利の安定性に違いが生じることになる。分割の適法・不適法を検討するのは、分割直前の原出願明細書及び図面と分割出願明細書及び図面の記載であり、適法に分割出願がなされた後に、当該分割出願の特許請求の範囲の構成の変化によって分割が不適法となったとしても、それは当該分割出願のみの問題であって、その結果が自動的に以降の分割出願に波及することはあり得ない。 3 争点(3)(ハ号物件は、本件発明2の技術的範囲に属するか。)について (1) 同ア(ハ号物件は、本件発明2(1)の構成要件b及び本件発明2(2)の構成要件(b)にいう「コンクリート埋設物」に当たるか。)について 【原告の主張】 本件発明2(1)の構成要件b及び本件発明2(2)の構成要件(b)にいう「コンクリート埋設物」とは、「コンクリート埋設に好適であるボックス(電線接続ボックス)」としての特徴を示すものであって、電気配線用の埋込ボックスを含み、ハ号物件はこれに該当する。 【被告の主張】 ハ号物件は、軽量間仕切用にも天井用にも使用できる単体のボックスであるから、本件発明2(1)の構成要件b及び本件発明2(2)の構成要件(b)にいうコンクリート埋設用に限定される「コンクリート埋設物」ではない。 (2) 同イ(ハ号物件は、本件発明2(1)の構成要件a及び本件発明2(2)の構成要件(a)にいう「開口部の反対側」及び「取付ける」の構成を備えているか。)について ア 「開口部の反対側」及び「取付ける」の意義について 【原告の主張】 (ア) 本件発明2(1)の構成要件a及び本件発明2(2)の構成要件(a)にいう「開口部の反対側」は、本件発明1の構成要件Bと同様、「埋設物本体の開口部の反対面も含む開口部の反対側」であれば足りる。本件明細書2の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明にも、原告が本件特許2の出願経過において提出した平成9年6月27日付け意見書(乙48)にも、「反対側」を「背面」と特定した記載はない。 (イ) 親出願の明細書の特許請求の範囲(1)には、「…、支持部(支持部材)をコンクリート壁内に埋設される埋設物に取付ける取付部と…」と記載されており、当該「取付ける」は本件発明2の「取付ける」と相違するものではないから、本件発明2(1)の構成要件a及び本件発明2(2)の構成要件(a)にいう「取付ける」は、特許請求の範囲の記載どおりに判断されるべきである。また、「4隅における複数箇所で取り付ける取付部」は、「4隅」のうちの「複数箇所で取り付ける」意味であることは自明である。 【被告の主張】 (ア) 本件特許2の親出願からの分割出願の経緯は、別紙分割経緯図のとおりであるところ、親出願の明細書及び図面の記載等に照らすと、本件発明2(1)の構成要件a及び同(2)の構成要件(a)にいう「複数の支持部材の各々を……埋設物本体の開口部の反対側に」という構成は、親出願の明細書の記載に鑑みると、コンクリートに埋設する電気配線用ボックスの場合、複数の支持部材の各々を従来からある埋設物本体の背面にという意味で限定記載したことが明らかである。したがって、「開口部の反対側」は、「ボックスの背面」を意味し、「外縁部」を含まない。 また、原告が本件発明2の出願経過で提出した平成9年6月27日付け意見書(乙48・2頁の(2)本願発明の作用・効果の欄)に照らしても、本件発明2にいう「反対側」は「背面」を意味することが明白であり、「外縁部」を含まない。 (イ) 本件明細書2の段落番号【0005】及びこの加入訂正に関する平成9年6月27日付け意見書(乙48・2〜3頁)によれば、本件発明2の「取付ける」は、本件発明1の「固着」と同義であり、複数の支持部材の各々を複数箇所でしっかりとくっつけて、縦方向、横方向、或いは斜め方向と、種々の方向の押圧力が加えられても離れず動かないようにするという意味に限定される。また、背面に複数の支持部材を取り付けることができるコンクリート埋設ボックスは、後記4、(1)のとおり本件発明2の出願前に公知であるから、本件発明2は、本件明細書2の図面に記載された構造のもので、しかも、「上記線状の複数の支持部材の各々のみを、埋設物本体の開口部の反対面に複数箇所で又はボックスの反対面の4隅における複数箇所で取付けるもので上記線状の複数の支持部材以外の支持部材は取り付けるものでない専用の取付部を備えたコンクリート埋設物」に限定される。 イ 同(イ)(ハ号物件は、「開口部の反対側」及び「取付ける」の構成を備えているか。)について 【原告の主張】 ハ号物件は、本件発明2(1)の構成要件a及び本件発明2(2)の構成要件(a)にいう「開口部の反対側」「取付ける」の構成を備えている。 【被告の主張】 ハ号物件は、ボックスの背面ではなく外縁部に埋込用バーを取り付けるものであり、本件発明2(1)の構成要件a及び本件発明2(2)の構成要件(a)にいう「開口部の反対側」の構成を備えていない。 また、ハ号物件は、埋込用バーと線材保持部1Cの前後内面の間でガタツキが発生し、外力が加わった時に埋込用バーが線材保持部1Cの前内面又は後内面に当たりボックスと埋込用バーの相対的な動きが規制されるものであるから、 「しっかりくっつけて種々の方向の押圧力が加えられても離れず動かないようにする」という本件発明2の2(1)の構成要件a及び本件発明2(2)の構成要件(a)にいう「取付ける」の構成を備えていない。 (3) 同ウ(原告が、支持部材を横方向から挿入する構成を有するハ号物件について、本件発明2の技術的範囲に属すると主張することは、禁反言の原則により許されないか。)について 【被告の主張】 原告は、本件訂正2により、ボックス10の背面に形成した突起76に、 ボックス10の背面と直交する横部分から支持部材71を挿入し、その横方向から挿入した支持部材71をボックス10の背面に固着する構成(図43・図44)をすべて削除した。特許請求の範囲の記載文言自体が訂正されなくとも、ある実施例がすべて削除された場合は、これを含まないものに特許請求の範囲の構成が減縮されたと解されるから(前掲最高裁判所平成3年3月19日第三小法廷判決参照)、 これにより、支持部材71をボックス10(埋設物本体)横方向から挿入して固着する構成は本件発明2から除外された。原告は、本件発明2から支持部材の横方向挿入を除外したものであるから、侵害訴訟において、支持部材を横方向から挿入する被告のボックスが本件発明2の技術的範囲に属すると主張することは、禁反言の原則に反する。 【原告の主張】 争う。 (4) 同エ(ハ号物件は、本件発明2の作用効果を有しないため、本件発明2の技術的範囲に属しないといえるか。)について 【被告の主張】 本件特許2の出願経過における前記平成9年6月27日付け意見書の内容からすると、本件発明2は、埋設物本体がボックスの場合、各支持部材の押圧力をボックスの背面に面圧として加え、この面圧により、ボックスが型枠に均一に密接されるようにしているものである。これに対し、ハ号物件は、埋込用バーの押圧力をボックスの背面ではなく、周壁1J(別紙参考図)に加えるものであり、本件発明2の作用効果と相違する。 【原告の主張】 本件発明2が、被告主張のように、各支持部材の押圧力を「ボックスの背面」に面圧として加えるものに限定して解釈される理由はないから、被告の主張は失当である。 4 争点(4)(本件特許2には明らかな無効理由が存在するか。)について (1) 同ア(新規性又は進歩性欠如)について 【被告の主張】 ア 本件発明2(1)、(2)は、特開昭53-145096号公開特許公報(乙46)又は実公昭和57-40653号実用新案公報(乙47)に記載されたコンクリートに埋設されるボックス(コンクリート埋設物)の発明と実質的に同一である。そうでないとしても、本件発明2(1)、(2)は、乙46、47に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができた。したがって、本件特許2は、 特許法29条1項3号又は同条2項の規定に違反して特許されたものであり、同法123条1項2号の無効理由を有することが明らかである。 イ 本件発明2(1)、(2)は、乙46、47に加えて、乙52ないし54(前記2(1)の【被告の主張】参照)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。したがって、本件特許2は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、同法123条1項2号の無効理由を有することは明らかである。 【原告の主張】 争う。 (2) 同イ(本件発明2は、子出願につき分割不適法と判断して子出願に係る特許を無効とした審決が確定したことにより、その出願日が親出願の出願日に遡及しないこととなる結果、新規性又は進歩性を欠くか。)について 【被告の主張】 本件特許2は、別紙分割経緯図のとおり、子出願の系統から分割されたものであるところ、子出願は、前記2(2)【被告の主張】で述べたとおり、不適法な分割出願として親出願との関係が遮断され、親出願までの出願日の遡及の利益を享受することができなくなった結果、出願日が平成5年10月29日に確定した。その結果、子出願の系統から分割した本件特許2の出願日も、子出願の出願日である平成5年10月29日よりも前の出願日まで遡及することはあり得ないのであり、親出願の出願日である昭和59年1月17日に遡及することはない。 そうすると、本件特許2もまた、出願前頒布された親出願の公開公報に記載された発明、若しくは、その発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、その特許が特許法29条1項3号若しくは同条2項の規定に違反してされたものとして、同法123条1項2号による無効理由があることは明らかである。 【原告の主張】 争う。本件特許2は、曾孫出願からの分割出願に係るところ、分割出願当初明細書の特許請求の範囲第1項及び第2項は、共に「線状」という特定を付した「支持部材」をその構成とするから、原出願(親出願、子出願、孫出願〔本件出願1〕、曾孫出願)の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内であり、かつ、分割直前の明細書又は図面に記載した事項の範囲内であるから、適法に分割出願されたものといえる。また、本件特許2は、無効審判請求事件(無効2000-35604号)の審決(甲37)で、適法に分割出願されたものと認定された。この審決は、子出願に係る本件無効審決をした合議体と同一の合議体が同一日付でした審決である。分割不適法の適用を受けた後の分割出願が分割出願になるのであれば、その後の分割出願を適法とする審決が出ることはないし、本件無効審決の確定がその後の分割出願の成否を左右するのであれば、当該分割出願以降の審決が同日付でされることもあり得ない。 |
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当裁判所の判断
〔第1事件〕 1 争点(1)(イ号物件の製造、販売について、本件特許権1の直接侵害が成立するか。また、イ号物件を構成するボックス及び埋込用バーについて、間接侵害(特許法101条1号)が成立するか。)について (1) 同ア(イ号物件の構成)について ア 同(ア)(被告はボックスと埋込用バーを組み合わせたイ号物件を製造、 販売しているか。)について 原告は、被告がボックスに埋込用バーを付設したイ号物件を製造、販売していると主張するが、同事実を認めるに足りる証拠はない。かえって、証拠(甲7の1、甲8、9、乙51)によれば、被告は、ボックス、埋込用バー及び軽量間仕切用バーを自社カタログに別個の商品として掲載し、それぞれに商品コード及び品番を付していること、埋込用バーを100本単位で梱包し、単体で販売していることが認められ、被告は、ボックス及び埋込用バーをそれぞれに単体の商品として販売していると推認される。 イ 同(イ)(仮に、被告がボックス及び埋込用バーを別個に販売しているとしても、被告の販売形態及び宣伝広告活動により、両商品の組合せをもって直接侵害を構成するか。)について 原告は、被告がボックスと埋設用バーという本件発明1の二つの有体物要素を販売し、カタログ等で両者を組み合わせる方法を宣伝することが、本件特許権1の直接侵害に当たると主張する。しかし、特許法は、特許発明のすべての構成を一体的に実施する行為を特許権侵害(直接侵害)と定めた上で、この原則がもたらす不都合については、間接侵害(特許法101条)により修正することとしているから、第三者が業として特許発明の構成の一部のみを実施していても、現行特許法上、それだけでは特許権の侵害(直接侵害)を構成しない。そうすると、原告が主張するように、被告がボックスと埋込用バーとを組み合わせる用法をカタログに掲載しているとしても、そのことをもって、イ号物件について本件特許権1の直接侵害が成立するとすることはできない。 ウ 争点(ウ)(ボックス及び埋込用バーは、本件発明1の実施にのみ使用するものか。)について 特許法101条1号にいう「その物の生産にのみ使用する物」とは、社会通念上経済的、商業的ないしは実用的な他の用途のないことをいい、他の用途があるというためには、抽象的ないしは試験的な使用の可能性があるだけでは足りないというべきである。 (ア) ボックスについて 当事者間に争いのない別紙ハ号物件目録の記載及び証拠(甲7の1、 検甲1〜6の各2、乙32、33、36)によれば、被告の製造、販売するボックスは、両端が線材保持部1Cの線材挿通孔1Dから成り、ボックスの外縁部の二方向に設けられた埋込用溝のほかに、埋込用溝に沿ったボックス底面(4OBL4B、4OBL5B)又は、埋込用溝とは異なる方向の外縁部(4OB4B、4OB5B)に後付可能な間仕切用溝が設けられていること、同ボックスにおいては、埋込用溝も間仕切用溝(甲7の1、11頁)も4ミリ幅であるため、予め上下各2か所の線材挿通孔に間仕切用バーを挿通して軽量間仕切を施工することができること、平成11年2月ないし同年6月ころ北陸電気工事株式会社が施工した東京農工大学BASE校舎新営電気設備工事において、ボックスの線材挿通孔(貫通穴)に間仕切バーを挿通して小ねじで止めた軽量間仕切法が実際に行われたこと(乙36、拡大写真C-4、C-6、C-8)が認められる。これらの事実によれば、ボックスの線材保持部1Cは、その線材挿通孔1Dに埋込用バーを挿通してコンクリート埋設用とすることのほかに、間仕切用バーを挿通して軽量間仕切に使用することも可能であり、現実にもその使用例があるといえる。そうすると、被告のボックスには、コンクリート埋設物として使用する以外の実用的な他の用途があると認められ、ボックスの製造、販売は、本件発明1に係るコンクリート埋設物の生産にのみ使用する物の譲渡に当たらないから、本件特許権1の間接侵害は成立しない。 (イ) 埋込用バーについて 証拠(甲7の1、甲9、乙34の1・2)によれば、被告は、商品カタログ及びホームページにおいて、埋込用バーについては、ボックスと組み合わせてコンクリート埋設物とする方法以外の用法を紹介していないこと、ボックスと組み合わせて間仕切用に使用する4oバーは、埋込用4oバーと区別した型番の「4oバー軽量間仕切用」が存在すること、埋込用4oバーは、曲げやすいようにバーに細かい溝が切ってあり、間仕切用4oバーとは差別化されていること、被告は、 埋込用バーを販売する際の梱包には、軽量間仕切に用いるための仮止め用の小ねじを同封していないことが認められ、これらの事実によれば、被告は、埋込用バーについては、これを埋込用以外の用途に用いることを予定していないものと推認される。乙34の1・2(有限会社太宰府電工専務取締役外1名作成の証明書)には、 平成8年12月ころから平成9年12月ころまで行われた久留米大学病院総合診療棟工事において、埋込用バーをボックスの線材挿通孔に挿入して間仕切用とした旨の記載があるが、これらの証明書は、前記(ア)の間仕切用バーをボックスの線材挿通孔に挿入して軽量間仕切に使用した例と異なり、当時の施工写真が添付されておらず裏付けに乏しい。また、仮に同工事において埋込用バーをボックスの線材挿通孔に挿入して軽量間仕切に使用していたとしても、前記のとおり、被告自身が埋込用バーについて埋込用以外の用途を予定していないことによれば、それだけで、このような用法が一工事業者による試験的、便宜的使用の程度を超えて、社会通念上、経済的、商業的ないしは実用的な使用方法に至っていたとは認められない。乙60(被告商品開発部次長作成の陳述書)の「埋込用の4oバーも間仕切用に使用されていることは、業界では周知のことであ」る旨の記載は、裏付けに乏しく採用できない。 以上によれば、埋込用バーは、ボックスと埋込用バーにより構成されるコンクリート埋設物(イ号物件)の生産にのみ使用される物と認められるから、 イ号物件が本件発明1の技術的範囲に属する場合には、埋込用バーの製造、販売は、本件発明1に係る物の生産にのみ使用する物の製造、販売として、特許法101条1号にいう間接侵害に当たる。 (2) 同イ(イ号物件は、本件発明1の技術的範囲に属するか。)について ア 同(ア)(本件発明1の構成要件Bにいう「開口部の反対側」及び「固着」の意義)について (ア) 本件明細書1(甲1)の特許請求の範囲自体には、「開口部の反対側」「固着」の意義を限定する記載はない。一般的に、「開口」とは、「外に向かって穴が開くこと。また、その穴。」(岩波書店「広辞苑〔第5版〕」433頁)を意味し、「固着」とは、「かたくしっかりとつくこと。一定の場所に留まって移らないこと。」(同975頁)を意味する。他方、発明協会発行・特許庁編「特許からみた機械要素便覧・固着」(甲17)には、各種の固着技術(固着方法、固着の型)が記載されているところ、同書に挙げられた「固着手段」としては、釘、リベット、ねじ、ボルト、ナット、クランプ・クリップ等による接続のほか、フックによる係止、引掛け、嵌合のように、接続具と接続対象の間で多少の動きが不可避なものも含まれていることが認められる。そうすると、「固着」の一般的意義としては、様々な方向から力を加えても、接続対象の部材が相互の接点から離れないことまで要するものではないと解するのが相当である。 (イ) 本件明細書1の発明の詳細な説明の項及び図面には、次の記載がある。 a 【発明が解決しようとする課題】の項に、「本発明は…埋設物を埋設するにあたって、コンクリート壁の支骨をなす鉄筋への架設状態を自由に設定でき、埋設物を容易かつ迅速に設置し、作業の効率化を図ることのできる埋設物を提供する」(【0003】)との記載がある。 b 【課題を解決するための手段】の項に、「上記課題を解決するための手段として、本発明は、手による三次元方向に自在に折り曲げが可能で、かつ曲げられた状態で型枠に埋設物本体の開口部を押圧できる突張り強度を有し、コンクリート壁の支骨をなす鉄筋に架設される線状の複数の支持部材の各々を…、埋設物本体の開口部の反対側に、線状又は複数の点状に固着して成る埋設物を、その要旨としている。」(【0004】)との記載がある。 c 【作用】の項に、「支持部材は曲げられた状態で型枠に埋設物を押圧できる突張り強度を有するから埋設物を型枠に確実に密接させておくことができる。」、「各支持部材は、各々、埋設物本体に線状又は複数の点状に固着されている。これにより、各支持部材の押圧力、すなわち、埋設物本体における各支持部材の線状又は複数の点状の固着部分に加わる押圧力は、面圧として埋設物本体に加わり、この面圧により、埋設物本体が型枠に均一に密接される。」(【0005】)との記載がある。 d 【実施例】の項に、埋設物の使用状態における作用を説明するための側面図及び平面図(図1・2)について、「支持部材1は、…図1に示すように、埋設物本体4を型枠6に押し当てた状態のときに、埋設物本体4に対して加わる矢印61方向の力に対して、支持部材1が曲げられた状態で、これに対向するように矢印62方向に埋設物本体4を突っ張らせる押圧力を有している。この状態では埋設物本体4は支持部材1によって、型枠6に押しつけられた状態換言すれば密接した状態に保たれている」(【0008】)、「取付部2を介して支持部材1を埋設物本体4に一体に設ける場合には、図2に示すように、埋設物本体(電気配線用ボックス)4に一様に支持部材1の押圧(矢印63)が加わるような態様とすべきである」(【0009】)との各記載がある。また、【実施例】の項には、支持部材を取付部に線状に固定する方法として、@弾性を有する凹部に嵌め込む(【0010】【0011】【0025】【0034】)、A取付部にスポット溶接する(【0011】【0018】【0021】【0023】【0028】【0029】【0033】)、Bビス頭部の下面で固定する(【0030】)、Cボックス外壁に設けられた切り起こし突起によってかしめる(【0031】)ことが挙げられている。 e 【発明の効果】の項に、「支持部材は、複数設けられており、これら各支持部材は、埋設物本体に線状又は複数の点状に固着されている。よって、各支持部材からの押圧力を面圧として埋設物本体を型枠に押さえ付けることができ、 埋設物本体を型枠に均一に密接することができる。」(【0035】)との記載がある。 これらの記載を参酌すると、本件発明1は、線状の支持部材が曲げられた状態で有する突張り強度を利用して面圧を加えることにより埋設物本体を型枠に均一に密接するようにしたものであり、「複数の支持部材の各々を…埋設物本体の開口部の反対側に、線状又は複数の点状に固着」するという構成(構成要件B)は、埋設物本体に面圧を加えて型枠に密着させる手段として採用されたものといえる。そうすると、「埋設物本体の開口部」は、実際に型枠に押し付けられる「周壁」を含む概念と解されるから、「開口部の反対側」は、周壁を含む「開口部」とは逆方向にあり、その範囲内の複数の線状又は点状に力を加えることにより「開口部」を型枠に押し付ける方向の面圧を形成できれば足りるといえる。また、「固着」は、支持部材により埋設物本体の開口部を型枠に押し付ける方向の面圧を加えるための手段であるから、埋設物本体に各々の支持部材を取り付けた時点では各接点に多少の動きがあったとしても、支持部材を支骨鉄筋に架設し、埋設物本体の開口部を型枠に当接した時点で、複数の支持部材の動きが強く規制され、支持部材が埋設物本体の一定の場所にしっかりと留まって動かない状態が形成されていればよいと解される。本件明細書1の発明の詳細な説明及び図面を参酌しても、「開口部の反対側」及び「固着」の意義をそれ以上に限定する根拠は見い出せない。 (ウ) 被告は、本件明細書1の段落番号【0028】【0029】【0030】【0032】記載の「外壁」は、図面と照合すると、いずれも背面の壁であるから、「開口部の反対側」とは埋設物本体の背面をいい、埋設物本体がボックスの場合には、従来からあるボックスの背面に限定されると主張する。しかし、これらの明細書の記載は、いずれも「埋設物本体の開口部の反対側」の下位概念であり、最も支持部材の取付けが容易な「ボックス背面の平らな面」という箇所に、 「固着」の下位概念である「スポット溶接、ビス」等という手段を用いて支持部材を取り付けた実施例を列挙したものである。そうすると、これらの記載は、当業者による常套手段を挙げたものにすぎず、「開口部の反対側」をボックス背面の平らな面に限定する趣旨とは解されない。よって、被告の主張は失当である。 (エ) 被告は、親出願の出願当初明細書(乙6)及び図面には、支持部材を埋設物本体の背面に固着する場合しか開示されておらず、固着の態様も、溶接、 ビス止め、カシメという「離れないように結合力をもったくっつけ」しか記載されていないから、「開口部の反対側」は背面に限定され、「固着」は「離れないように結合力をもったくっつけ」に限定されると主張する。 しかし、親出願の出願当初明細書及び図面(乙6)は、特許請求の範囲にも、発明の詳細な説明及び図面にも、線状の支持部材の曲げ可能性を利用して埋設物の鉄筋への架設状態を自由に設定し作業の効率化を図るとともに、線状の支持部材の突張り強度を利用して埋設物本体を型枠に押圧するという技術思想が開示されているのみであり、親出願の出願当初明細書の特許請求の範囲にも発明の詳細な説明にも、支持部材の取付位置を背面に限定したり、支持部材の取付態様を外力が加わっても接点から動かないものに限定する記載は存在しない。そうすると、親出願の出願当初明細書で開示された発明は、線状の支持部材により埋設物を型枠に押し付けることが可能であれば、取付位置及び押圧の態様を問わないものであったと解される。しかも、親出願の出願当初明細書に挙げられた埋設物の実施例(図34ないし図42、図45)は、ボックスの背面(平らな面)に、スポット溶接、ビス止め、かしめという固定方法により支持部材を取り付けるという、最も一般的な取付手段を列挙したものと解するのが自然であり、支持部材を埋設物に取り付ける方法をこれらの取付手段に限定した趣旨とは解されない。よって、被告の前記主張は失当である。 (オ) 被告は、原告が本件特許1の出願経過で提出した平成7年7月10日付け意見書(乙8)の記載を根拠にして、本件訴訟において、原告が本件発明1の「開口部の反対側」や「固着」に限定がないと主張することは禁反言の原則に反すると主張する。 しかし、前記意見書(乙8)中の被告指摘の部分は、前後の文脈から判断すると、本件発明1の「開口部の反対側」を埋設物本体の背面に限定したり、 「固着」の意義を縦方向、横方向、或いは斜め方向と、種々の方向の押圧力を加えられても埋設物本体の背面から支持部材が動かないことを意味するものに限定する意思を表示したものとは認め難い。 したがって、被告の上記主張は採用できない。 イ 同(イ)(イ号物件は、構成要件Bにいう「開口部の反対側」及び「固着」の構成を備えているか。)について (ア) 証拠(甲7の1、甲8、9、検甲1ないし6の各1・2)によれば、被告が製造販売しているボックスと埋込用バーを組み合わせたコンクリート埋設用電線接続ボックスの構造は、別紙イ号物件目録記載のとおりであり、イ号物件は、ボックス本体1の背面と側面が交差する縁部に設けられた4点の線材保持部1Cに2本の線材2を挿入し、線材2からの押圧力を、ボックス本体1の開口部の周壁1Jのうち型枠と接する端部1L(別紙参考図・図2参照)に加えるものと認められる。本件発明1の構成要件Bにいう「開口部の反対側」は、前記ア、(イ)のとおり、周壁を含む「開口部」の逆方向にあり、線状又は複数の点状に押圧力を加えることによって、開口部を型枠に押圧する面圧を形成できる部位をいうと解されるが、イ号物件は、周壁1Jを基準にして型枠と反対方向にある4点の線材保持部1Cに対して支持部材からの押圧力を加え、周壁1Jを型枠に押圧する面圧を形成するものであるから、構成要件Bにいう「開口部の反対側」の構成を備えている。 (イ) また、前記ア、(イ)によれば、本件発明1の構成要件Bにいう「固着」は、各々の接点では多少のがたつきがあったとしても、複数の支持部材を支骨鉄筋に架設し、埋設物本体の開口部を型枠に当接した時点で、支持部材が一定の場所に留まって動かない状態が形成されれば足りると解される。証拠(検甲1ないし6の各2、弁論の全趣旨)によれば、イ号物件は、線材2の両端を線材保持部1Cとの接点でそれぞれ外側に90度折り曲げることにより線材2をボックス本体に固定するものであり、線材2をボックス本体の縁部に取り付けた時点では、線材2と線材保持部1Cの間でがたつきが生じるが、開口部を型枠に当接した時点では、4個の線材保持部1Cで同様の支持接続がされる結果、線材2とボックス本体の動きが強固に規制され、線材2が埋設物本体の縁部に留まって動かない状態が生じると認められるから、構成要件Bにいう「固着」の構成を備えているといえる。 ウ 以上によれば、ボックスと埋込用バーを組み合わせたイ号物件は、本件発明1の技術的範囲に属するというべきである。 (3) 同ウ(原告が、支持部材を横方向から挿入する構成を有するイ号物件について、本件発明1の技術的範囲に属すると主張することは、禁反言の原則により許されないか。)について 被告は、最高裁判所平成3年3月19日第三小法廷判決(民集45巻3号209頁)を援用し、特許請求の範囲の文言自体が訂正されていなくても、ある実施例がすべて削除された場合は、これを含まないものに特許請求の範囲の構成が減縮されたものと解すべきところ、原告は、本件訂正1により図43・図44の実施例を削除したことにより、支持部材71をボックス10の横方向から挿入して固着する実施例をすべて削除したから、支持部材を横方向から挿入する構成は、本件発明1の特許請求の範囲から除外されたと主張する。 前記最高裁平成3年3月19日判決は、特許請求の範囲に記載されている文言(「固定部材」)の技術的意義が一義的に明確とはいえず、発明の詳細な説明及び図面から当該文言の特定の下位概念(「接着剤」)に当たる記載をすべて削除する訂正審決が確定した場合において、特許請求の範囲の記載の文言自体は訂正されていなくても、当該下位概念(接着剤)に関する記載がすべて明細書及び図面から削除されたことにより、特許請求の範囲の「固定部材」に「接着剤」が含まれると解釈して発明の要旨を認定する余地はなくなったと判示した事案である。 証拠(甲18の1・2、乙3、6)によれば、本件特許1に対して被告が請求した無効審判請求事件(無効2000-35598号)で、請求人が、訂正前の本件明細書1の段落番号【0031】及び図43・図44に記載された「ボックス10の底壁に、該底壁と両端がつながる起伏状の突起76を形成し、この起伏状の突起76の横から中に線状の支持部材71を挿入し、この挿入状態で起伏状の突起76を上からかしめて固定する」という実施態様は、親出願の当初明細書及び図面に記載も示唆もないと主張したこと、親出願の当初明細書には、「ボックス10の外壁に設けられた切り起こしによる突起76によって、架設具71をかしめボックス10と一体に形成した」との実施例の記載はあったが、本件訂正1による訂正前の本件明細書1の図43・図44及びその説明部分の記載に対応する記載はなく、その後の手続補正によって追加されたものであったこと、原告は、前記無効審判請求に対応して本件訂正1を行ったことが認められる。上記事実によれば、本件訂正1による図43・図44及びその説明部分の削除は、親出願の出願当初明細書から存在する「かしめ固定」についての実施例の記載のうち、当初明細書に記載がなく後に手続補正で追加された具体的態様に関する部分を削除したものである。したがって、本件訂正1は、本件明細書1に記載された実施例の一部を削除するものにすぎず、これをもって、原告が本件発明1の特許請求の範囲から支持部材を横方向から挿入する構成をすべて排除したと解することはできない。したがって、本件訂正1については、前記最高裁判決とは事案を異にするものであり、被告の主張は失当である。 (4) 同エ(イ号物件は、本件発明1の作用効果を奏しないため、本件発明1の技術的範囲に属しないといえるか。)について 被告は、イ号物件は、線材からの押圧力をボックス外縁部の周壁1J(別紙参考図参照)に加えるもので、「背面」に加えるものでないから、本件発明1の作用効果を奏しないと主張する。しかしながら、本件発明1の作用効果は、前記(2)、アのとおり、埋設物に面圧を加えることにより、埋設物の開口部(周壁を含む)を型枠に均一に密接することであり、前記(2)、イのとおり、イ号物件はこのような作用効果を奏するから、被告の主張は失当である。 2 争点(2)(本件特許1には明らかな無効理由が存在するか。)について (1) 進歩性欠如について 本件発明1は、前記1、(2)で認定したように、@複数の支持部材によって埋設物を支骨鉄筋に取り付ける、A曲げられた状態で突張り強度を有する支持部材からの押圧力を面圧として埋設物本体に加えることにより埋設物の開口部を型枠に均一に密接する、という構成を有するものである。 乙46、乙47、乙52ないし乙54は、いずれも親出願の出願日(昭和59年1月17日)前に日本国内において頒布されたコンクリート埋設ボックスに関する発明又は考案を開示した刊行物であるが、本件発明1が有する前記@及びAの構成の少なくとも一方を開示も示唆もしていないものである。他方、西日本線材製品工業組合発行「なまし鉄線」(乙52〔末尾の記載からみて発行時期は1981年(昭和56年)3月ころと推認される。〕)には、なまし鉄線の用途が建設現場の足場結束、型枠締付、鉄筋結束であること、及び、線径1.80oから5.00oのなまし鉄線の引張強さが記載されているが、なまし鉄線の曲げられた状態での突張り強度に関する記載はなく、なまし鉄線に、曲げられた状態での突張り強度を利用して有体物を押し付ける用途があることを示唆する記載もない。そうすると、親出願の出願日(昭和59年1月17日)当時、乙46、乙47、乙52ないし乙54に接した当業者が、これらを契機として本件発明1に容易に想到し得たとはいえないから、本件特許1に、その特許が特許法29条2項に違反してされたものという無効理由(特許法123条1項2号)が存在することが明らかとはいえない。 (2) 同イ(本件発明1は、子出願につき分割不適法と判断して子出願に係る特許を無効とした審決が確定したことにより、その出願日が親出願の出願日に遡及しないこととなる結果、新規性又は進歩性を欠くか。)について ア 本件特許1の分割出願に関する手続の経緯 (ア) 原告は、昭和59年1月17日、名称を「コンクリート埋設物の架設具および架設具を有するコンクリート埋設物」とする発明について特許出願(特願昭59-6833号〔親出願〕)をした(甲39)。その特許請求の範囲は、「 (1) 手による折り曲げが可能で、かつ曲げられた状態で型枠に埋設物を押圧できる突張り強度を有する線状の支持部と、支持部をコンクリート壁内に埋設される埋設物に取付ける取付部とからなるコンクリート埋設物の架設具。(2) コンクリート埋設物とこれに一体に設けられた線状の支持部材よりなる架設具とからなり、支持部材は手による折り曲げが可能で、かつ曲げられた状態で型枠に埋設物を押圧できる突張り強度を有し、支持部材を曲げてコンクリート壁内の支骨である鉄筋に架設し埋設物の位置決めを行なうようになした架設具を有するコンクリート埋設物。」というものであった。 (イ) 原告は、平成元年11月24日、名称を「コンクリート埋設物」とする発明について、親出願からの分割により、特許出願(特願平1-306218号〔子出願〕)をしたが、その特許請求の範囲は、「(1) 手による折り曲げが可能で、かつ曲げられた状態で型枠に埋設物の開口部を押圧できる突張り強度を有する線状の支持部材を開口部の反対側に一体に設けて成ることを特徴とするコンクリート埋設物。(2) コンクリート埋設物がボックスであり、その底壁に切り起こされた突起で支持部材を包むようにかしめて支持部材を底壁に一体に設けて成ることを特徴とする特許請求の範囲第1項記載のコンクリート埋設物。」というものであった(甲40の1)。原告は、平成5年3月19日付け手続補正書(甲40の2)により特許請求の範囲を補正した。その補正後の特許請求の範囲は、「(1) 手による三次元方向に自在に折り曲げが可能で、かつ曲げられた状態で型枠に埋設物本体の開口部を押圧できる突張り強度を有し、コンクリート壁の支骨をなす鉄筋に架設される線状の支持部材を、鉄筋に対し埋設物本体を任意の位置に設置するのに十分な長さの自由端を残して、埋設物本体の外方に突出するように埋設物本体の開口部の反対側に一体に設けて成ることを特徴とするコンクリート埋設物。(2) 埋設物本体がボックスであり、手による三次元方向に自在に折り曲げが可能で、かつ曲げられた状態で型枠にボックスの開口部を押圧できる突張り強度を有し、コンクリート壁の支骨をなす鉄筋に架設される線状の支持部材を、鉄筋に対しボックスを任意の位置に設置するのに十分な長さの自由端を残して、ボックスの外方に突出するようにボックスの底壁に切り起こされた突起でかしめて一体に設けて成ることを特徴とする特許請求の範囲第1項記載のコンクリート埋設物。」というものであった。 (ウ) さらに、原告は、平成5年10月29日付けで、子出願からの分割として、特許出願(特願平5-271610号、本件出願1〔孫出願〕)をするとともに、同日付けで、子出願について手続補正書を提出した。この手続補正書は、 子出願の発明の名称を「コンクリート埋設物の固定方法及び埋設方法」とし、特許請求の範囲を、「(請求項1) 手による三次元方向に自在に折り曲げが可能で、 かつ曲げられた状態で型枠に埋設物の開口部を押圧できる突張り強度を有する支持部材を埋設物に設け、前記支持部材を折り曲げるとともにコンクリート壁の支骨をなす鉄筋に架設して、コンクリート埋設物の開口部が型枠に密接する位置に該埋設物を固定することを特徴とするコンクリート埋設物の固定方法。(請求項2) 手による三次元方向に自在に折り曲げが可能で、かつ曲げられた状態で型枠に埋設物の開口部を押圧できる突張り強度を有する支持部材を埋設物に設け、先に立てかけた型枠に対して埋設物の開口部が密接するように前記支持部材を折り曲げるとともに支持部材をコンクリート壁の支骨をなす鉄筋に架設して、コンクリート埋設物を埋設位置に固定し、コンクリートを打設して埋設物を埋設することを特徴とするコンクリート埋設物の埋設方法。」と補正するものであった(乙7、弁論の全趣旨)。同補正前の子出願の明細書の特許請求の範囲では「線状の支持部材」とされていたのが、同補正により「支持部材」とされた。この補正により、子出願に係る明細書の特許請求の範囲の「支持部材」は「線状」でないものも含むものとなったが、そのような事項は、親出願の出願当初明細書又は図面に記載はなく、子出願の出願当初明細書又は図面にも記載されていないものであった(甲39、乙61)。 子出願については、上記平成5年10月29日付け補正の内容で特許された(乙7)。 (エ) 本件出願1(孫出願)は、前記(ウ)のとおり、平成5年10月29日付けで、子出願から分割して出願されたが、分割出願時の明細書の特許請求の範囲第1項及び第2項は、分割直前の子出願の明細書、すなわち、上記平成5年10月29日付け手続補正書による補正前の子出願の明細書の特許請求の範囲第1項及び第2項の記載と全く同一であり、発明の詳細な説明及び図面も実質的に同一であった(甲40の2、甲41、乙8)。本件出願1に係る明細書は、その後、平成7年7月10日付け手続補正書により、特許請求の範囲が「(請求項1) 手による三次元方向に自在に折り曲げが可能で、かつ曲げられた状態で型枠に埋設物本体の開口部を押圧できる突張り強度を有し、コンクリート壁の支骨をなす鉄筋に架設される線状の複数の支持部材の各々 を、鉄筋に対し埋設物本体を任意の位置に設置するのに十分な長さの自由端を残して、埋設物本体の外方に突出するように埋設物本体の開口部の反対側に、線状又は複数の点状に固着して成ることを特徴とするコンクリート埋設物。(請求項2) 埋設物本体がボックスであり、手による三次元方向に自在に折り曲げが可能で、かつ曲げられた状態で型枠にボックスの開口部を押圧できる突張り強度を有し、コンクリート壁の支骨をなす鉄筋に架設される線状の複数の支持部材の各々 を、鉄筋に対しボックスを任意の位置に設置するのに十分な長さの自由端を残して、ボックスの外方に突出するようにボックスの底壁に切り起こされた複数の突起でかしめて固着し て成ることを特徴とする請求項1記載のコンクリート埋設物。」(下線が補正箇所)と補正され、特許されるに至った(乙8)。 (オ) 被告は、平成12年11月6日、子出願に係る特許(特許2562698号)について特許庁に無効審判を請求した(無効2000-35610号)。特許庁審判官は、平成13年8月31日付けで、「特許第2562698号の請求項1及び請求項2に係る発明についての特許を無効とする。」との審決(本件無効審決)をしたが(乙61)、本件無効審決が子出願に係る特許を無効と判断した理由は、概ね次のとおりであった。 a 親出願の願書に最初に添付した明細書に記載された発明の目的ないし特許請求の範囲の記載からは、「線状の支持部」ないし「線状の支持部材」が必須の構成と認められ、発明の詳細な説明についてみても、線状の支持部ないし支持部材以外のものは記載されておらず、子出願に係る発明の構成として線状でない支持部を用いることが自明のものとも認められない。 b 「線状の支持部」を「支持部」とする平成5年10月29日付け手続補正書による補正は、線状でない支持部を含むことになり、原出願(親出願)の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではない。 c したがって、子出願に係る分割出願の明細書の図面又は図面は、原出願(親出願)の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内でないものを含むから、同分割は不適法であり、子出願の出願日は、平成5年10月29日である。 d 子出願に係る発明は、その出願前に頒布された刊行物である親出願の公開公報(特開昭60-152747号公報)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたもので、同法123条1項2号に該当し、無効にすべきである。 (カ) 本件無効審決の謄本は、同年9月14日原告に送達された。原告は、審決の決定の謄本の送達があった日から30日内に審決取消訴訟を提起しなかったので、同審決は確定し、子出願に係る特許権は、平成13年10月15日、消滅したとして、権利の消滅の登録がされた(乙62)。 イ 被告は、子出願に係る特許を無効とする本件無効審決が確定したことにより、子出願は不適法な分割出願として親出願との関係が遮断され、出願日の遡及の利益を享受できなくなったから、子出願を原出願とする孫出願の出願日は、当該分割出願が適法であった場合でも、子出願の出願日とみなされる平成5年10月29日であり、親出願の出願日(昭和59年1月17日)まで遡ることはあり得ないと主張する。 そこで、検討するに、子出願に係る特許を無効とする本件無効審決が確定したことは前記のとおりであるから、子出願に係る特許権(特許第2562698号)は初めから存在しなかったものとみなされ(特許法125条)、このことは何人も争えないところである。しかし、上記審決において、平成5年10月29日付け手続補正書による補正が親出願の出願当初明細書又は図面に記載された事項の範囲内のものでないと判断し、その結果、親出願からの子出願の分割出願の明細書又は図面は、原出願(親出願)の願書に最初に添付した明細書又は図面の事項の範囲内でないものを含むから、同分割は不適法であり、子出願の出願日は上記補正書を提出した平成5年10月29日であるとした判断は、審決の理由中の判断であるから、その審決が確定したからといって、子出願とは別個独立の出願手続である孫出願に係る特許の無効審判請求事件において、その判断が拘束力を持つと解すべき根拠はない。また、子出願の特許が後に無効とされたからといって、子出願から分割された孫出願が当然に影響を受けるということもない。 次に、上記審決の拘束力から離れて、被告の主張に鑑み、孫出願の出願日について検討する。 特許出願の分割について定めた平成6年法律第116号による改正前の特許法44条1項は、「特許出願人は、願書に添付した明細書又は図面について補正をすることができる時又は期間内に限り、二以上の発明を包含する特許出願の一部を一又は二以上の新たな特許出願とすることができる。」と規定していた(なお、上記改正後の特許法44条1項は、特許出願を分割できる時期を「明細書又は図面について補正をすることができる期間内に限り」としている。)から、分割出願が適法であるための実体的な要件としては、@ もとの出願の明細書又は図面に二以上の発明が包含されていたこと、A 新たな出願に係る発明はもとの出願の明細書又は図面に記載された発明の一部であること、が必要である。さらに、分割出願が原出願の時にしたものとみなされるという効果を有する(特許法44条2項)ことからすれば、新たな出願に係る発明は、分割直前のもとの出願の明細書又は図面に記載されているだけでは足りず、もとの出願の出願当初明細書又は図面に記載された事項の範囲内であることを要すると解される(逆に、もとの出願の出願当初明細書又は図面に記載された事項であれば、分割直前のもとの出願の明細書又は図面に記載されていない事項であっても、補正が可能であるから、分割の要件を満たすことになる。)。 ところで、本件出願1〔孫出願〕は、親出願からの分割出願である子出願を更に分割出願した出願である。特許法には、分割出願に関する規定は同法44条以外に存在しないから、分割出願(子出願)をもとの出願として更に分割出願(孫出願)を行う場合についても同条が適用されることになる。したがって、孫出願の出願日が親出願の出願日まで遡及するためには、子出願が親出願に対し分割の要件を満たし、孫出願が子出願に対し分割の要件を満たし、かつ、孫出願に係る発明が親出願の出願当初明細書又は図面に記載された事項の範囲内であることを要するというべきである。 これを子出願についてみるに、前記認定事実によれば、子出願は、これを原出願として孫出願を分割出願したのと同時(同日付け)にした平成5年10月29日付け手続補正書による「線状の支持部材」を「支持部材」とした補正が、親出願の出願当初明細書又は図面に記載されておらず、子出願の出願当初明細書又は図面にも記載されていない事項を含むものであったものである。そうすると、上記補正後の子出願の明細書は、親出願の出願当初明細書又は図面の範囲内でない事項を含むものであるから、子出願は、親出願から適法に分割されたものとはいえないことになる。したがって、子出願が親出願の時にしたとみなされることはなく、さらに、上記補正後の明細書の特許請求の範囲は、子出願の出願当初明細書又は図面の範囲内でない事項を含むものであるから、結局、子出願の出願日は、上記補正書を提出した日である平成5年10月29日と判断されることになる(平成5年法律第26号による改正前の特許法40条参照)。一方、前記のとおり、孫出願の出願当初の明細書の特許請求の範囲の記載は、分割直前の子出願の明細書の特許請求の範囲の記載と全く同じであったから、上記補正がないものとすると、孫出願に係る発明は子出願に係る発明と全く同一ということになり、「二以上の発明を包含する特許出願の一部を」新たな特許出願とするという分割出願の要件に反することになる。子出願における上記補正はこれを回避するためという目的もあって行われたものと推認される。したがって、子出願から孫出願への分割は、分割と同時に子出願について上記補正が行われたことを前提としてなされたものとして考えるべきである(この補正がなされなければ、子出願から孫出願への分割は、単に出願中の発明と全く同一の発明について新たに出願をしたにすぎず、そのようなものは分割の要件を欠くことが明らかであるといわざるを得ない。なお、孫出願における平成7年7月10日付け手続補正書による補正及び本件訂正1によっても、孫出願に係る発明と平成5年10月29日付け手続補正書による補正前の子出願に係る発明とが同一発明であることは変わりがない。)。 以上によれば、子出願は、上記補正により、親出願からの適法な分割出願であるとは認められず、その出願日は平成5年10月29日とされるから、結局、被告が主張するとおり、孫出願についても、その出願日は親出願の出願日まで遡及することはなく、子出願の出願日とされる平成5年10月29日(結果として孫出願の分割出願の日と一致する。)ということになる。 ウ この点について、原告は、次のとおり主張するので、以下検討する。 (ア) 原告は、子出願の分割出願が特許法44条1項の要件を満たさないときには、子出願からの分割出願の出願日も親出願の出願日まで遡及しないというのであれば、分割期間の制限により子出願から分割をせざるを得ない場合について、同一分割内容の分割出願でも他の理由によって無効になる確率が変化することになり、権利の安定性に違いが生じると主張する。 しかしながら、分割出願制度(特許法44条1項、2項)の趣旨は、 出願人に対し、二以上の発明を包含する特許出願の一部を新たな特許出願として出願する機会を与え、この新たな特許出願が分割出願として適法なものであるときに、新たな特許出願をもとの特許出願のときにしたものとみなすという出願日の遡及効を与えるにとどまり、それを超えて、分割可能期間の制限のため、分割出願に係る特許出願から更なる分割出願が順次されざるを得ない場合にも、分割の内容が当初の出願の明細書の記載の範囲内でありさえすれば、一連の分割出願すべてについて当初の出願の出願日までの出願日遡及の利益を保証するという趣旨ではない。 特許出願が原々出願、原出願、当該出願と順次分割された場合に、当該出願に係る発明が原々出願の出願当初明細書又は図面に記載された発明に含まれるものであったとしても、原出願が原々出願からの分割要件を欠くときには、当該出願の出願日が原々出願の出願日まで遡及しないとされることは、分割出願に関する規定が特許法44条しかないこと及びその文言に照らし、やむを得ないところである。原告の主張は失当である。 (イ) また、原告は、分割の適法・不適法を検討するのは、分割直前の原出願明細書及び図面と分割出願明細書及び図面の記載であり、適法に分割出願がなされた後に当該分割出願の特許請求の範囲の構成の変化により分割が不適法となったとしても、それは当該分割出願のみの問題であって、その結果が自動的に以降の分割出願に波及することはあり得ないと主張する。 確かに、分割に係る新たな特許出願ともとの特許出願とは、別個の出願手続であるから、特許要件の具備の有無は別個独立に審査されるものである。したがって、分割後にもとの出願について補正が行われ、その補正の内容が出願当初の明細書の記載の範囲内でないために、後にその手続補正書を提出したときにもとの出願がされたものと判断されたとしても、それはもとの出願にのみ関わることであって、分割された出願には影響しないとも考えられる。しかし、分割出願が適法であるためには、先に述べたとおり、原出願に二以上の発明が包含されていることと、新たな出願(分割出願)がこの二以上の発明の一部であることが必要であるから、上記2点に関する限りでは、原出願の内容と分割出願の内容とは関連性を有する。そして、特許出願の明細書又は図面について適法に補正がされた場合には、その明細書又は図面は、出願当初に遡及して補正後の内容であったものとみなされるとの効果を有するのである。したがって、原出願に係る発明と分割出願に係る発明とが同一であれば、「二以上の発明を包含する特許出願の一部」という分割要件を欠くことになるが、この点についての分割要件の有無は、分割後の原出願又は分割出願についての補正によって分割後に変動することは避けられないところである(ちなみに、平成6年1月1日より前の出願についての特許庁の審査基準では、分割の要件としての新たな出願に係る発明ともとの出願に係る発明が同一でないという点も審査されてきたこと、もとの出願の補正がなされた場合は、その補正の内容いかんによって同一といえるか否かを判断してきたことは、当裁判所に顕著である。)。少なくとも、本件のように、分割と同時になされ、しかも、原出願に係る発明と分割出願に係る発明との同一性に関わるような内容の原出願の補正については、その補正を前提として、分割要件の有無及び原出願の出願日を判断することにならざるを得ない。そうすると、原々出願、原出願、当該出願と順次分割がされた場合において、原出願から当該出願への分割が分割要件に欠けるところがなかったとしても、原出願についての補正の有無、内容いかんにより、原出願の原々出願からの分割がその要件を具備するか否かの帰趨が変動し、そのために、原出願の出願日がいつになるかが変動するような事態が生じることも避けがたいところである。 このことは、分割出願が原出願の内容と関連性を有する以上、やむを得ないものというべきである。したがって、この限度で、原告の主張は理由がない。 本件においては、子出願から孫出願の分割と同時になされた子出願についての補正が親出願(及び子出願)の出願当初明細書又は図面に記載された事項の範囲内でないものを含むものであるから、子出願が適法な分割出願であると認められず、しかも、子出願に係る特許を無効とする審決が確定しているから、もはや、この補正を修正することは不可能であり(本件の場合は、原告は、本件無効審決に対し審決取消訴訟を提起した上で、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正審判(特許法126条1項)を請求することにより、子出願の明細書の特許請求の範囲の記載に「線状でない支持部材」が含まれないよう明細書を訂正することも可能であったと解される。)、孫出願の出願日は、子出願についての上記状況を前提に判断すべきものである。 (ウ) なお、原告は、本件特許1についての無効審判請求事件(無効2000-35598号)の審決(甲36)が請求不成立とするものであり、被告の分割不適法の主張を理由がないと判断していることによれば、子出願を分割不適法とする本件無効審決により、本件出願1(孫出願)の出願日が親出願の出願日まで遡及しないことにはならないと主張する。しかしながら、本件特許1についての前記無効審判請求事件においては、請求人は、本件出願1(孫出願)に係る発明が親出願の出願当初明細書に記載されていない事項を含むこと等を理由として本件出願1に分割要件違反があること等を主張しており、子出願についての補正の点に関しては主張しておらず、審決中でもその点の判断はしていないから(甲36)、同審決があったことで上記判断が左右されるものではない。そればかりでなく、同審決は、本件無効審決が確定する前(本件無効審決と同じ平成13年8月31日付け)のものであり、この時点では、審決取消訴訟の提起により本件無効審決が取り消される可能性、若しくは、訂正審判の請求により子出願の分割不適法理由が解消される可能性が残っていたのであるから、同じ審判合議体のした審決であっても、補正に伴う子出願の分割不適法についての判断を示さなかったことも、首肯し得るところである。原告のこの点の主張も理由がない。 エ 以上によれば、本件出願1の出願日は、子出願の出願日と判断される平成5年10月29日以前に遡及することはない。そうすると、本件発明1は、その出願前である昭和60年8月12日に親出願の公開特許公報(乙6)が公開されているから、同公報は、本件発明1の特許出願前に頒布された刊行物に当たる。しかるところ、上記公開特許公報(記載内容は親出願の当初明細書と同じである。)の特許請求の範囲は、「(1)手による折り曲げが可能で、かつ曲げられた状態で型枠に埋設物を押圧できる突張り強度を有する線状の支持部と、支持部をコンクリート壁内に埋設される埋設物に取付ける取付部とからなるコンクリート埋設物の架設具。(2)コンクリート埋設物とこれに一体に設けられた線状の支持部材よりなる架設具とからなり、支持部材は手による折り曲げが可能で、かつ曲げられた状態で型枠に埋設物を押圧できる突張り強度を有し、支持部材を曲げてコンクリート壁内の支骨である鉄筋に架設し埋設物の位置決めを行うようにした架設具を有するコンクリート埋設物。」というものである。 そこで、本件発明1と、上記公開公報の特許請求の範囲の記載のみならず、発明の詳細な説明の記載及び図面を含めた公報の記載とを対比する。まず、上記公開公報の特許請求の範囲(1)、(2)をみると、本件発明1では、線状の支持部材が「三次元方向に自在に」折り曲げ可能であるとされているのに対して、公開公報では「三次元方向に自在に」という文言がないこと、本件発明1の支持部材は「複数」とされているが、公開公報ではその記載がないこと、本件発明1では、支持部材が曲げられた状態で型枠に「埋設物本体の開口部」を押圧できる突っ張り強度を有するとされているが、公開公報では、「埋設物を押圧」できるとされていて、 「埋設物本体の開口部」とはされていないこと、本件発明1では、「複数の支持部材の各々を、鉄筋に対し埋設物本体を任意の位置に設置するのに十分な長さの自由端を残して、埋設物本体の外方に突出するように埋設物本体の開口部の反対側に、 線状又は複数の点状に固着する」とされているが、公開公報では、単に「支持部材を曲げてコンクリート壁内の支骨である鉄筋に架設し埋設物の位置決めを行なうようにした」と記載されているにすぎない点で異なっている。しかし、公開公報の発明の詳細な説明及び図面の記載をみると、支持部材が「三次元方向に自在に」折り曲げ可能であることは、例えば、公開公報の2頁右上欄9行目〜10行目に「支持部(1)は手で曲げることができるものであって曲げ方向を自在に設定できる」と記載されている(なお、公開公報の特許請求の範囲(1)では「支持部」、同(2)では「支持部材」とされているが、これは、同(1)が対象とする「架設具」と同(2)が対象とする「コンクリート埋設物」とで用語を区別したものにすぎず、同じ物を指している。)。支持部材が「複数」であることは、公開公報の多数の図面(例えば、 電気配線用のボックスについての一例を示す斜視図である第34図)に示されている。支持部材が曲げられた状態で型枠に「埋設物本体の開口部」を押圧するものであることは、公開公報の2頁右上欄17行目〜左下欄9行目に「支持部(1)は、 曲げられた状態で型枠に埋設物を押圧できる突っ張り強度を有するものであって、 第1図に示すように、埋設物(4)を型枠(6)に押し当てた状態のときに、埋設物(4)に対して加わる矢印(61)方向の力に対して、支持部(1)が曲げられた状態で、これに対向するように矢印(62)方向に埋設物(4)を突っ張らせる押圧力を有している。この状態では埋設物(4)は支持部(1)によって、型枠(6)に押しつけられた状態換言すれば密接した状態に保たれている。」と、4頁左上欄1行目〜4行目に「ボックス(10)を型枠(6)に当接させ、型枠(6)にボックス(10)の開口部が密接するように架設具の支持部(11)を手で折り曲げて鉄筋(5)に架設すればよい。」と記載されていることや、第1図、第10図に開示されている。また、本件発明1の「複数の支持部材の各々を、鉄筋に対し埋設物本体を任意の位置に設置するのに十分な長さの自由端を残して、埋設物本体の外方に突出するように埋設物本体の開口部の反対側に、線状又は複数の点状に固着する」との点は、公開公報の発明の詳細な説明中の実施例における線状の支持部ないし支持部材の取付方法の説明の記載や多数の図面に開示されていると認められる。 そうすると、本件発明1は、上記公開公報の発明の詳細な説明の記載と図面及び当業者に自明の事項の範囲内のものであると認められ、そうでないとしても、同公報に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められる(このことは、本件出願1が、子出願からの分割出願であり、子出願が親出願からの分割出願であることの当然の帰結というべきである。)。したがって、本件特許1は、特許法29条1項3号又は2項の規定に違反してされたものとして同法123条1項2号の無効理由を有することが明らかである。そして、本件無効審決が確定している以上、もはや訂正により子出願の分割要件違反を解消して、子出願の出願日を親出願の出願日まで遡らせることは不可能であり、ひいては本件特許1の無効理由を除去することもできないというべきである。 (3) 以上によれば、本件特許権1に基づく原告の請求は、権利の濫用に当たり許されない。 〔第2事件〕 3 争点(3)(ハ号物件は、本件発明2の技術的範囲に属するか。)について (1) 同ア(ハ号物件は、本件発明2(1)の構成要件b及び本件発明2(2)の構成要件(b)にいう「コンクリート埋設物」に当たるか。)について 本件明細書2の特許請求の範囲第1項及び第2項の記載によれば、本件発明2(1)の構成要件b及び本件発明2(2)の構成要件(b)にいう「コンクリート埋設物」には、コンクリート中に埋設される有体物という以上の限定はなく、明細書の発明の詳細な説明及び図面にも「コンクリート埋設物」の意義を限定した記載はない(甲29)。したがって、電気配線用の埋込ボックスの用途を有する物は、他の用途の有無に関わりなく、本件発明2(1)の構成要件b及び本件発明2(2)の構成要件(b)にいう「コンクリート埋設物」を充足するものと解される。ハ号物件は、前記1、(1)、ウ、(ア)のとおり、コンクリート中に埋設されるボックスであるから、本件発明2(1)の構成要件b及び本件発明2(2)の構成要件(b)にいう「コンクリート埋設物」に該当する。 (2) 同イ(ハ号物件は、本件発明2(1)の構成要件a及び本件発明2(2)の構成要件(a)にいう「開口部の反対側」及び「取付ける」の構成を備えているか。)について ア 「開口部の反対側」及び「取付ける」の意義について (ア) 本件明細書2の発明の詳細な説明の項及び図面には、次の記載がある(甲29)。 a 【従来の技術】の項に、「従来、コンクリート埋設物は種々の支持部材、架設具等を使用してコンクリート壁の支骨をなす鉄筋の任意の部位に架設される。」(【0002】)との記載がある。 b 【発明が解決しようとする課題】の項に、「従来の支持部材は、…型枠に埋設物を密接させることができないものであった。」(【0003】)、 「埋設物が型枠に確実に密接されていないと、コンクリート打設時に、型枠と埋設物との隙間から埋設物の開口部にコンクリートが侵入してしまう。」(【0004】)、「本発明は、このような従来の支持部材の問題を鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、…埋設物を型枠に確実に密接させることのできる支持部材を取付けできるコンクリート埋設物を提供することにある。」(【0005】)との記載がある。 c 【課題を解決するための手段】の項に、「上記課題を解決するための手段として、請求項1の発明は、手による三次元方向に自在に折り曲げが可能であると共に、曲げられた状態で型枠に埋設物本体の開口部を押圧できる突張り強度を有し、コンクリート壁の支骨をなす鉄筋に架設される線状の複数の支持部材の各々を、前記埋設物本体の開口部の反対側に複数箇所で取付ける取付部を備えたことを、その要旨としている。また、請求項2の発明は、手による三次元方向に自在に折り曲げが可能であると共に、曲げられた状態で型枠にボックスの開口部を押圧できる突張り強度を有し、コンクリート壁の支骨をなす鉄筋に架設される線状の複数の支持部材の各々を、前記ボックスの開口部の反対側の4隅における複数箇所で取付ける取付部を備えたことを、その要旨としている。」(【0006】)との記載がある。 d 【発明の実施の形態】(作用)の項に、「上記構成により、…支持部材は曲げられた状態で型枠に埋設物を押圧できる突張り強度を有するから埋設物を型枠に確実に密接させておくことができる。」(【0007】)との記載がある。 e 【発明の実施の形態】(実施例)の項には、本発明に係るコンクリート埋設物用の支持部材の使用状態における作用を説明するための側面図及び平面図である図1・2について、「支持部材1は、…図1に示すように、埋設物本体4を型枠6に押し当てた状態のときに、埋設物本体4に対して加わる矢印61方向の力に対して、支持部材1が曲げられた状態で、これに対向するように矢印62方向に埋設物本体4を突っ張らせる押圧力を有している。この状態では埋設物本体4は支持部材1によって、型枠6に押し付けられた状態換言すれば密接した状態に保たれている。」(【0010】)、「支持部材保持体2は、支持部材1を埋設物本体4に取付けるための構造を有するものである。取付けには螺子による取付け、嵌合による取付け等種々の手段がある。…図2に示すように、埋設物本体(電気配線用ボックス)4に一様に支持部材1の押圧(矢印63)が加わるような態様となるのが型枠への密着性の点から好ましい。」(【0011】)との記載がある。そして、本件発明2に係るコンクリート埋設物の実施例として、上記のように、埋設物(ボックスのほか、インサート、エンドカバー、仮枠ブッシングが示されている。)に支持部材保持体を介して支持部材を取り付けるものと、埋設物(ボックス及びインサートが示されている。)本体に直接支持部材を設けるものとが示されている。それらにおける支持部材の具体的取付態様としては、@弾性を有する凹部に嵌め込む(【0013】【0027】【0036】)、A取付部にスポット溶接する(【0020】【0023】【0025】【0030】【0031】【0035】)、Bネジ又はボルト、ナットを用いて螺着する(【0014】【0019】)、Cビス(又はタッピングネジ)頭部の下面で固定する(【0032】)、 Dボックス外壁に設けられた切り起こし突起によってかしめる(【0033】)といった例が挙げられている。 f 【発明の効果】の項に、「本発明に係るコンクリート埋設物は、この保持部を介して取付られる支持部材が手による三次元方向に自在に折り曲げが可能であるから、手で変形させて鉄筋に架設すれば、埋設物本体を埋設したい所定の位置へ容易に設置することができる。したがって埋設物本体の設置が迅速に行なえ、埋設作業を効率よく行なうことができる。また、支持部材は手で自由に折り曲げることができるから、これらの曲げ具合を調整することによって埋設物の設置箇所の状況に応じた種々の対応が可能である。さらに、支持部材は曲げられた状態で型枠に埋設物を押圧できる突張り強度を有するから埋設物を型枠に確実に密接させておくことができる。」(【0037】)との記載がある。 これらの記載を参酌すると、本件発明2(1)及び(2)は、複数の線状の支持部材の突張り強度を利用して型枠に埋設物本体を確実に密接させるようにした発明であり、その手段として、三次元方向の曲げ可能性と突張り強度を有する複数の支持部材の各々を、「埋設物本体の開口部の反対側に複数箇所で取り付ける取付部を備える」(本件発明2(1))、「前記ボックスの開口部の反対側の4隅における複数箇所で取付ける取付部を備える」(本件発明2(2))という各構成を採用したものといえる。そうすると、「開口部の反対側」とは、外縁部も含む概念である「開口部」と逆方向に位置し、その中の複数の点で押圧力を加えることにより開口部を型枠に密接できれば足りると解されるから、被告が主張するように「外縁部」を除外すべきものではない。また、「取付け」とは、複数の支持部材と埋設物本体の接点に押圧力を加えて埋設物本体を型枠に押し付ける手段であるから、支持部材が埋設物本体を保持することにより埋設物が容易に所定の位置から移動せず、鉄筋への架設及び埋設物本体の開口部の型枠への密接な押圧を可能とする程度に埋設物本体の動きを規制しておれば足りると解するのが相当である。 (イ) 被告は、本件発明2が親出願からの分割出願であることから、「開口部の反対側」は、従来からあるボックスの背面に限定されると主張する。しかし、親出願の出願当初明細書で開示された発明は、前記1、(2)、ア、(エ)のとおり、線状の支持部材により埋設物を型枠に押し付けることができれば、取付位置及び押圧の態様を問わないものであったと解され、本件発明2の「開口部の反対側」を「背面」に限定しなければ、本件出願2が親出願の出願の範囲を超える不適法な分割出願に当たるとはいえないから、被告の主張は失当である。 (ウ) 被告は、本件発明2の出願経過で原告が提出した平成9年6月27日付け意見書(乙48)の記載を根拠にして、「開口部の反対側」や「取付け」の意義を限定して解すべきである旨主張する。しかし、上記意見書(乙48)の記載は、支持部材の取付位置である「開口部の反対側」からボックスの背面以外の部分を排除する意思を示したものとは解し難いし、「取付ける」の意義も被告主張のように限定する意思を表示したものとも認め難い。 また、被告は、背面に複数の支持部材を取り付けることができるコンクリート埋設ボックスが本件発明2の出願前に公知であったことを根拠に、本件発明2を限定して解釈すべき旨も主張するが、被告主張のような公知技術が存在することをもって本件発明2の技術的範囲を限定して解釈すべきことの根拠とはならないから、被告の主張は失当である。 イ 証拠(甲7の1、甲8、9、27)によれば、ハ号物件(前記第2、 1、(4)、イ掲記の@4oバーBOX薄型4OB〔商品コード25B4OB3Z、品番V-4OB3Z〕、A4oバーBOX薄形〔品番V-4OB3Z〕、B4oバーボックス薄形〔品番V-4OB3Z〕を除く。以下同じ。)は、ボックス状の本体の背面と側面が交差する外縁部の4隅に設けられた線材保持部1Cに2本の線材2を取り付け、これらの線材によりボックスを鉄筋に架設するとともに、線材からの押圧力をボックス開口部の周壁に加え、埋設物本体を型枠に押圧するコンクリート埋設物であることが認められる。 本件発明2(1)の構成要件a及び本件発明2(2)の構成要件(a)にいう「開口部の反対側」は周壁を含み、「取付ける」が、埋設物本体の開口部の型枠への密接な押圧を可能とする程度に埋設物本体の動きを規制することを意味することは前記アのとおりである。そうすると、ハ号物件は、本件発明2(1)の構成要件a及び本件発明2(2)の構成要件(a)にいう「開口部の反対側」及び「取付ける」を充足し、 本件発明2(1)及び(2)の技術的範囲に属する。 (3) 同ウ(原告が、支持部材を横方向から挿入する構成を有するハ号物件について、本件発明2の技術的範囲に属すると主張することは、禁反言の原則により許されないか。)について 被告は、前掲最高裁判所平成3年3月19日第三小法廷判決を援用し、特許請求の範囲の文言自体が訂正されていなくても、ある実施例がすべて削除された場合は、これを含まないものに特許請求の範囲の構成が減縮されたものと解すべきところ、原告は、本件訂正2により図43・図44の実施例を削除したことにより、支持部材71をボックス10の横方向から挿入して固着する実施例をすべて削除したから、支持部材を横方向から挿入する構成は、本件発明2の特許請求の範囲から除外されたと主張する。 前記最高裁平成3年3月19日判決の判示内容は前記1、(3)で述べたとおりであるところ、証拠(甲29、37、乙48)及び弁論の全趣旨によれば、本件訂正2による本件明細書2の図43・図44及びその説明部分の削除は、本件特許1について前記1、(3)で判示したのと同様に、親出願の出願当初明細書から存在する「かしめ固定」についての実施例の記載のうち、当初明細書に記載がなく、後に手続補正で追加された具体的態様に関する部分を削除したものであると認められる。そうすると、本件訂正2は、本件明細書2に記載された実施例の一部を削除するものに他ならなず、これをもって、原告が本件発明2の特許請求の範囲から支持部材を横方向から挿入する構成をすべて排除したと解することはできない。したがって、本件訂正2は、前記最高裁判決とは事案を異にするものであり、被告の主張は失当である。 (4) 同エ(ハ号物件は、本件発明2の作用効果を奏しないため、本件発明2の技術的範囲に属しないといえるか。)について ハ号物件は、埋込用バーの押圧力を周壁1J(別紙参考図参照)に加えるものであって「背面」に加えるものでないから、本件発明2の作用効果を奏しないと主張する。しかしながら、本件発明2の作用効果は、前記(2)、アのとおり、埋設物本体に押圧力を面圧として加えることにより、周壁を含む埋設物の開口部を型枠に均一に密接することにあり、前記(2)、イのとおり、ハ号物件は、このような作用効果を奏すると認められるのであるから、被告の主張は失当である。 4 争点(4)(本件特許2には明らかな無効理由が存在するか。)について (1) 同ア(新規性又は進歩性欠如)について ア 被告は、本件発明2は、乙46又は乙47に記載された発明と実質的に同一であるか、そうでないとしても、乙46、乙47に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたと主張する。しかしながら、前記3、(2)で認定したように、本件発明2は、@複数の支持部材によって埋設物を支骨鉄筋に取り付ける、A曲げられた状態で突張り強度を有する支持部材からの押圧力を面圧として埋設物本体に加えることにより埋設物の開口部を型枠に均一に密接する、という構成を有するものであるところ、乙46、乙47は、上記@及びAの構成の少なくとも一方を開示も示唆もしておらず、コンクリート埋設ボックスの固定装置としては、本件発明2と構成を異にするものといわざるをえず、また、乙46、乙47記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとも認められない。 イ 次に、被告は、本件発明2は、乙46、乙47に加えて乙52ないし乙54に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができた旨主張する。 しかるところ、被告の挙示するこれらの発明は、前記2のとおり、いずれも、@線状の支持部材の曲げ可能性を用いてコンクリート壁の支骨をなす鉄筋に埋設物を適宜架設すること、A線状の支持部材がその突張り強度により埋設物本体の開口部の反対側の複数の点に対して押圧力を加えることにより埋設物本体を型枠に密接させることの少なくとも一方を欠き、乙52のなまし鉄線の用法及び強度に関する記載を考慮しても、親出願出願日(昭和59年1月17日)当時の当業者がこれらの発明に基づいて前記二つの構成を備える本件発明2に容易に想到することができたとは認められない。 ウ よって、本件特許2が特許法29条1項又は2項の規定に違反してされたという無効理由があることが明らかであるとはいえない。 (2) 同イ(本件発明2は、子出願につき分割不適法と判断して子出願に係る特許を無効とした審決が確定したことにより、その出願日が親出願の出願日に遡及しないこととなる結果、新規性又は進歩性を欠くか。)について ア 本件出願2は、平成7年7月10日付けで、本件出願1の一部を分割してされた出願(特願平7-173552号〔曾孫出願〕)の一部を、平成8年4月8日付けで更に分割して特許出願(特願平8-85107号〔玄孫出願〕)したものである(前記第2、1、(3)、ア、(イ))。したがって、本件出願2(玄孫出願)、曾孫出願、本件出願1(孫出願)、子出願の各分割出願がそれぞれ特許法44条1項の分割要件を満たし、かつ、本件出願2に係る発明が親出願の出願当初明細書又は図面に記載された事項の範囲内である場合には、本件出願2の出願日は、 親出願の出願日まで遡及することになる。 イ 本件出願1は、子出願からの分割出願したものであるところ、前記2、(2)で判示したとおり、子出願の出願日は、平成5年10月29日と判断され、 親出願の出願日である昭和59年1月17日まで遡及することはない。そうすると、本件出願2は、曾孫出願からの分割が分割要件を満たしているとしても、その出願日は、せいぜい、子出願の出願日と判断される(本件出願1の分割出願の日でもある。)平成5年10月29日までしか遡及しないこととなり、親出願の出願日である昭和59年1月17日まで遡及することはない。 ウ この点につき、原告は、本件特許2についての無効審判請求事件(無効2000-35604号)の審決(甲37)において、本件出願2が適法に分割出願されたと認定されたことによれば、子出願を分割不適法とする本件無効審決により、本件出願2(玄孫出願)の出願日が親出願の出願日まで遡及しないことにはならないと主張する。しかしながら、前記2、(2)、ウ、(ウ)で述べたのと同じ理由により、原告の主張は理由がない。 エ 以上によれば、本件出願2の出願日は平成5年10月29日までしか遡及しない。そうすると、本件発明2の出願前である昭和60年8月12日に親出願の公開特許公報(乙6)が公開されているから、同公報は、本件発明2の特許出願前に頒布された刊行物に当たる。本件発明1と上記公開公報との対比は既に判示したとおりである(前記2、(2)、エ)ところ、本件発明2(1)は、本件発明1と比べると、本件発明1では、コンクリート埋設物が、線状の複数の支持部材の各々を「鉄筋に対し埋設物本体を任意の位置に設置するのに十分な長さの自由端を残して、埋設物本体の外方に突出するように埋設物本体の開口部の反対側に、線状又は複数の点状に固着する」という構成を有するのに対し、本件発明2(1)では、コンクリート埋設物が、線状の複数の支持部材の各々を「埋設物本体の開口部の反対側に複数箇所で取付ける取付部を備えた」という点で異なるだけであり、また、本件発明2(2)は、同(1)の「埋設物本体」が「ボックス」と、「反対側の複数箇所」が「反対側の4隅における複数箇所」と特定されているだけである。そして、支持部材(支持部)を埋設物に取り付ける「取付部」の構成は、上記公開公報の特許請求の範囲(1)に記載されているところであるし、この「取付部」の点を含む本件発明2と本件発明1との相違部分も、上記公開公報の発明の詳細な説明及び図面に開示されていることが明らかである。したがって、本件発明2は、上記公開公報に記載された発明と同一であるか、又は少なくとも同公報に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。そうすると、本件特許2は、特許法29条1項3号又は2項の規定に違反してされたものであり、同法123条1項2号の無効理由を有することが明らかである。本件無効審決が確定している以上、もはや訂正により子出願の分割要件違反を解消し、その出願日を親出願の出願日まで遡及させることは不可能であり、ひいては本件特許2の無効理由を除去することはできないというべきである。 (3) 以上によれば、本件特許権2に基づく原告の請求は、権利の濫用に当たり許されない。 5 以上の次第で、原告の第1事件及び第2事件の各請求は、いずれも理由がない。 |
裁判長裁判官 | 小松一雄 |
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裁判官 | 阿多麻子 |
裁判官 | 前田郁勝 |