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審判番号(事件番号) データベース 権利
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関連ワード 使用方法 /  技術的範囲 /  発明の詳細な説明 /  特許発明 /  侵害 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 14年 (ワ) 6427号 損害賠償請求事件
原告A
被告 株式会社ウィルソン
訴訟代理人弁護士 中村智廣
同 三原研自
被告 シーシーアイ株式会社
訴訟代理人弁護士 後藤昌弘
同 川岸弘樹
被告 株式会社錦之堂
訴訟代理人弁護士 片岡信恒
同 逵本紀世
被告 株式会社ソフト九九コーポレーション
訴訟代理人弁護士 小松 陽一郎
同 福田 あやこ
同 宇田浩康
同 井崎康孝
同 辻村和彦
被告 株式会社ミツバ
訴訟代理人弁護士 植村公彦
同 伊藤拓
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2002/10/22
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告株式会社ウィルソン(以下「被告ウィルソン」という。)は、原告に対し、金300万円を支払え。
2 被告シーシーアイ株式会社(以下「被告シーシーアイ」という。)は、原告に対し、金300万円を支払え。
3 被告株式会社錦之堂(以下「被告錦之堂」という。)は、原告に対し、金300万円を支払え。
4 被告株式会社ソフト九九コーポレーション(以下「被告ソフト九九」という。)は、原告に対し、金300万円を支払え。
5 被告株式会社ミツバ(以下「被告ミツバ」という。)は、原告に対し、金300万円を支払え。
事案の概要
本件は、「車両用エアワイパー」の特許発明の特許権者である原告が被告らに対し、被告らの製造、販売する自動車用ガラス油膜取り剤、自動車用ガラスコーティング剤は、同特許発明技術的範囲に属すると主張して、損害賠償を請求した事案である。
1 争いのない事実等 (1) 原告は、次の特許権を有している(甲1の1・2。以下「本件特許権」といい、その特許発明を「本件発明」、その特許公報を「本件公報」という。原告が本件特許権を有することは、原告と被告シーシーアイ以外の被告らとの間では争いがない。)。
ア 発明の名称 「車両用エアワイパー」 イ 登録番号 特許第2566512号 ウ 出 願 日 平成4年11月24日(特願平4-334937号) エ 公 開 日 平成6年6月3日(特開平6-156204号) オ 登 録 日 平成8年10月3日 カ 特許請求の範囲 車体内に設置された圧縮空気供給手段と、前面ウィンドガラス下端の前方近傍位置で前記前面ウィンドガラスの下端縁に沿って所定間隔毎に設置され、前記圧縮空気供給手段から送られた空気を前記前面ウィンドガラス外表面に沿って下方から上方に噴射し第1のエアカーテンを形成する第1のエア噴射ノズル部と、前記前面ウィンドガラス下端縁の前方近傍位置で前記圧縮空気供給手段から送られた空気を上方に噴射するように設置され、かつ前記前面ウィンドガラスの外表面に略平行な方向に首振り運動可能に設けられ、前記首振り動作により前記第1のエアカーテンより前記前面ウィンドガラスから遠い位置に第2のエアカーテンを形成する第2のエア噴射ノズル部と、前記第2のエア噴射ノズル部に前記首振り動作を行わせる首振り駆動手段と、を含む車両用エアワイパーにおいて、前記第2のエア噴射ノズル部は、複数個のノズルからなり、該ノズルは、互いに前記前面ウィンドガラスからの距離を異にする2以上の小カーテンから前記第2のエアカーテンを構成するように、前記前面ウィンドガラスの左右方向の中央位置部分に設置された1又は複数のセンターノズルパートと、左右両側寄りにそれぞれ1又は複数個ずつ設置され前記前面ウィンドガラスの外表面に対して前記センターノズルとは異なる傾斜角で首振り動作するサイドノズルパートと、から成り、各ノズルは、噴射エアが前記前面ウィンドガラスの左右両側辺から外方へはみ出さないような首振り動作角とされ、前記前面ウィンドガラス下端縁の前方近傍でかつ前記第1のエア噴射ノズル部近傍位置に吹出し口が配され温風を前記前面ウィンドガラス外表面に沿って上方へ送出する温風供給手段が設けられたことを特徴とする車両用エアワイパー。
(2)ア 被告ウィルソンは、商品名を「ガラスコンパウンドSuper」、「ガラスコンパウンドmini」、「新補修 ガラスコンパウンド」とする3種類の自動車用ガラス油膜取り剤を販売している(乙1の1〜5、乙2の1〜4、乙3の1〜5。
被告ウィルソンが自動車用ガラス油膜取り剤「ガラスコンパウンド」を販売していることは、争いがない。)。
イ 被告シーシーアイは、商品名を「雨ん坊」とする自動車用ガラスコーティング剤を販売している(争いがない。)。
ウ 被告錦之堂は、商品名を「シリコンX」とする自動車用ガラス油膜取り剤、商品名を「スーパーレインX」とする自動車用ガラスコーティング剤を販売している(「スーパーレインX」が自動車用ガラスコーティング剤であることは弁論の全趣旨により、その余の事実は争いがない。)。
エ 被告ソフト九九は、商品名を「ガラコ」とする自動車用ガラスコーティング剤を販売している(争いがない。)。
オ 被告ミツバは、商品名を「ドクター・レイン バリューパック」とする自動車用ガラスコーティング剤並びにガラスコーティング前処理剤及び被膜取りをセットにした商品を販売している(検己1。被告ミツバが「ドクター・レイン バリューパック」を販売していることは、争いがない。)。
2 争点 (1) 被告らの商品は、本件発明の技術的範囲に属するか。
(2) 損害の発生及び額
争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(被告らの商品は本件発明の技術的範囲に属するか。)について 【原告の主張】 本件公報の3欄18行には「油」と記載され、3欄46行には「車両のウインドガラス内外に温度差で結露が生じやすい」と記載され、4欄8行には「曇りを有効に防止することができる」と記載されている。
原告は、油の膜を車両のウインドガラスの外側に付けて雨水滴を風圧で吹き飛ばしやすく発明、発案、考案をしたのであり、被告らは、この油の膜をまねて、
他の流体を混合して固体、液体にして、車両のウインドガラスの外側に付けて車の走行中に風圧を利用して雨水滴を吹き飛ばしやすくして商品化して販売している。
したがって、被告らの商品は、いずれも本件発明の技術的範囲に属する。
【被告ウィルソン】 被告ウィルソンの「ガラスコンパウンド」が、本件発明の技術的範囲に属することは否認する。
「ガラスコンパウンド」は、いずれも、石油系溶剤とセラミックパウダーとから主として構成されている液体である。用途は、いずれも自動車のガラスに付着残存する油膜や汚れの除去剤である。使用方法は、商品「ガラスコンパウンド」なる液体をスポンジ等に着け、これをガラス面にこするように塗布し、液体が白色化した後にその白色部を拭き取るという工程を経ることにより、油膜等の除去が完成するという商品である。
したがって、いかなる意味でも、被告ウィルソンの「ガラスコンパウンド」が、「車両用エアワイパー」に係る本件発明の技術的範囲に属することはあり得ない。
【被告シーシーアイの主張】 被告シーシーアイの「雨ん坊」が、本件発明の技術的範囲に属することは否認する。
本件発明は、車両用エアワイパーに関するものであるところ、被告シーシーアイは、ガラスコーティング剤を販売しているに過ぎず、いかなる意味においても本件特許権を侵害するものではない。
【被告錦之堂の主張】 被告錦之堂の「シリコンX」及び「スーパーレインX」が、本件発明の技術的範囲に属することは否認する。
本件発明は、要約すると「車体内に設置された圧縮空気供給手段と、前面ウインドガラス下端に数個のエア噴射ノズルを設け、その圧縮空気噴射によるエア噴射ノズルを利用しエアカーテンを車両前面ウインドガラス外側に形成し、雨水滴をエアにより吹き払う機械的な仕組みで、かつ温風供給手段が設けられたことを特徴としている車両用エアワイパー」に関するものである。
すなわち、本件発明は、あくまでも「機械的な仕組み」についてのものであるにもかかわらず、原告は「自動車用窓ガラス及びガラス製ミラーの油膜取り剤」について特許を有すると主張するものであって、原告の主張は失当である。
【被告ソフト九九の主張】 被告ソフト九九の「ガラコ」が、本件発明の技術的範囲に属することは否認する。
本件発明は「車両用エアワイパー」に係るものであるのに対し、被告ソフト九九の商品は自動車用ガラスコーティング剤であって、本件発明の特許請求の範囲の「圧縮空気供給手段」、「エア噴射ノズル部」、「首振り駆動部」、「温風供給手段」及び「車両用エアワイパー」の構成をいずれも備えていないから、同商品の製造販売が本件特許権を侵害しないことは明らかである。
【被告ミツバの主張】 被告ミツバの「ドクター・レイン バリューパック」が、本件発明の技術的範囲に属することは否認する。
原告の本件発明は、発明の名称にもあるとおり、車両用エアワイパーであって、要するに、自動車のフロントガラス前方近傍位置に圧縮空気を供給する複数のエア噴射ノズルを設置し、当該エア噴射ノズルから噴射される圧縮空気により、複数のエアカーテンを形成し、これにより雨水を、それがウインドガラスに到達する前に吹き飛ばそうというものである。
これに対し、「ドクター・レイン バリューパック」は、特殊フッ素系ガラス撥水剤「ドクター・レイン」(被告ミツバの別商品)の1回使用料相当分に、
「ドクター・レイン」を使用する際に必要となる専用コーティングツール、専用ガラスクリーナー、及びガラス前処理専用スポンジをセットにして販売しているものである。すなわち、「ドクター・レイン バリューパック」は、専用ガラスクリーナー及びガラス前処理専用スポンジによって、自動車のフロントガラス外表面の油膜を取り除いた後、特殊フッ素系撥水剤である「ドクター・レイン」を専用コーティングツールによってフロントガラス外表面にコーティングすることで、フロントガラスに付着した雨水を水滴状とし、自動車の走行によって生じる風圧により雨水が吹き飛ばされやすくなるようにするというものである。したがって、被告ミツバの上記商品は、「ドクター・レイン」なる液体状の薬剤に関するものである。
そうすると、被告ミツバの「ドクター・レイン バリューパック」は、本件発明の構成と全く異なる完全な別物であるから、本件発明の技術的範囲に含まれないことは、明らかである。
2 争点(2)(損害の発生及び額)について 【原告の主張】 被告らは、前記第2の1(2)記載の各販売行為により、それぞれ何億円かの利益を得ているので、原告は、被告らに対し、上記利益相当額の損害金の内金として各300万円の損害賠償を請求する。
【被告らの主張】 原告の主張は否認する。
争点に対する判断
1 争点(1)(被告らの商品は本件発明の技術的範囲に属するか。)について (1) 本件発明は、特許請求の範囲の記載からすれば、圧縮空気供給手段と、第1及び第2のエア噴射ノズル部並びに首振り駆動手段とを含み、エア噴射ノズルからエアを噴出することによってエアカーテンを形成する車輌のエアワイパーの技術に関するものである。
(2) これに対し、被告らが販売している商品は上記のとおりであるところ、その内容は次のようなものである。
ア 被告ウィルソンの「ガラスコンパウンド」及び被告錦之堂の「シリコンX」は、液状の研磨剤をスポンジ等によって自動車ガラス表面を磨くことにより、
自動車ガラスの油膜等を除去する自動車用ガラス油膜取り剤である(乙1の1〜5、
乙2の1〜4、乙3の1〜5、弁論の全趣旨)。
イ 被告シーシーアイの「雨ん坊」、被告錦之堂の「スーパーレインX」、
被告ソフト九九の「ガラコ」は、いずれもアルコール類、シリコーンないしフッ素等からなる液体を自動車ガラスに塗布して、撥水性の被膜を形成する自動車用ガラスコーティング剤である(戊1・2、弁論の全趣旨)。
ウ 被告ミツバの「ドクター・レイン バリューパック」は、液状の研磨剤をスポンジ等によって自動車ガラス表面を磨くことにより自動車ガラスの油膜等を除去する自動車用ガラスコーティング前処理剤と、アルコール類、フッ素等からなる液体を自動車ガラスに塗布して撥水性の被膜を形成する自動車用ガラスコーティング剤とをセットにした商品である(検己1)。
エ これらの商品は、いずれも、圧縮空気供給手段と、第1及び第2のエア噴射ノズル部並びに首振り駆動手段との構成を備えたものではなく、また、エア噴射ノズルからエアを噴出することによってエアカーテンを形成する機能を有するものでもない。
したがって、被告らの上記商品が本件発明の技術的範囲に属するとの原告の主張は理由がない。
その他、被告らが、本件発明の技術的範囲に属する車輌用エアワイパーを販売している事実を認めるに足りる証拠はない。
(3)ア なお、原告は、本件公報の3欄18行には「油」と記載され、3欄46行には「車両のウインドガラス内外に温度差で結露が生じやすい」と記載され、4欄8行には「曇りを有効に防止することができる」と記載されていると指摘しており、こうした記載を理由に、自動車用ガラス油膜取り剤や自動車用ガラスコーティング剤についても、本件発明の技術的範囲に属すると主張するものと解される。
イ 原告が指摘するように、本件公報の【発明の詳細な説明】の【従来の技術】の項には、「(従来の)機械式のワイパでは前面ウィンドガラス外表面に油膜が付着し易いという欠点もある。」(3欄17〜19行)、【発明が解決しようとする課題】の項には、「(従来のエアワイパーは)前面ウィンドガラスの前方で強い風を起すこととなるので、前記前面ウィンドガラスの外方と内方で温度差が大きくなり、前面ウィンドガラスの内側面に結露するおそれがある。」(3欄44〜48行)、
「本発明は、上記種々の問題を解決することを課題とてなされたものであり、その目的は、雨水の吹き飛し作用をより効果的なものとし、かつ結露による前面ウィンドガラスの曇りを有効に防止することのできる車両用エアワイパーを提供することにある。」(4欄5〜9行)と記載されている(甲1の2)。
ウ しかしながら、特許発明技術的範囲は、願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならないのであるから(特許法70条1項)、【発明の詳細な説明】において、従来の機械式のワイパーでは油膜が付着し易いという欠点を有していたことや、従来のエアワイパーでは前面ウィンドガラスの外方と内方で温度差が大きくなりガラスの内側面に結露するおそれがあったことなどの従来技術の有する問題点が指摘されており、また、雨水の吹き飛し作用をより効果的なものとし、かつ結露による前面ウィンドガラスの曇りを有効に防止するようにするとの本件発明の目的が記載されているとしても、そのことから、車両用エアワイパーに関する本件発明の技術的範囲が、自動車用ガラス油膜取り剤や自動車用ガラスコーティング剤にも及ぶとすることはできない。
2 以上によれば、原告の請求はいずれも理由がない。
裁判長裁判官 小松一雄
裁判官 阿多麻子
裁判官 前田郁勝