関連審決 |
訂正2000-39038
審判1998-35498 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成15行ケ230審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
昭和52行ケ46 | 判例 | 特許 |
昭和41行ツ1審決取消請求 | 判例 | 特許 |
平成20行ケ10151審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成15行ケ39審決取消請求参加事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 物の発明 / 方法の発明 / 使用方法 / 新規性 / 公知技術 / 実質的同一 / 同日出願 / 発明の要旨認定 / 実質的同一性 / 実施 / 加工 / 構成要件 / 設定登録 / 訂正審判 / 誤記の訂正 / 請求の範囲 / 減縮 / 変更 / 独立特許要件 / 訂正明細書 / 審決確定(審決が確定) / 公知事実 / 不服申立 / |
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事件 |
平成
11年
(行ケ)
376号
審決取消請求事件
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原告 株式会社益田建設 訴訟代理人弁理士 北村仁、弁護士 飯田秀郷、和田聖仁、復代理人弁護士 七字賢彦 被告 株式会社シェルター 訴訟代理人弁理士 笹島富二雄、西山春之、弁護士 熊倉禎男、富岡英次、飯田圭 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2002/11/14 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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原告の求めた裁判
「特許庁が平成10年審判第35498号事件について平成11年9月10日にした審決を取り消す。」との判決。 |
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事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 (1) 被告は、名称を「建築物の骨組構築方法」とする特許第1928997号発明(昭和62年3月20日特許出願(特願昭62-64392号)、平成6年8月3日出願公告(特公平6-57973号)、平成7年5月12日設定登録。本件発明)の特許権者であるが、原告は、平成10年10月20日、本件発明について無効審判請求をし、平成10年審判35498号事件として審理され、平成11年2月1日訂正請求があったが、平成11年9月10日、本件審判の請求は成り立たないとの審決があり、その謄本は同年10月25日原告に送達された。 (2) 被告は、平成11年2月1日、本件特許につき訂正請求をしたが、審決の理由中において認められないと判断された。被告は、本訴提起後の平成12年4月13日、本件特許につき訂正審判を請求し(訂正2000-39038。特許請求の範囲の減縮及び誤記の訂正を目的とするもの)、同年5月25日、「特許第1928997号発明の明細書及び図面を本件審判請求書に添付された訂正明細書及び図面のとおり訂正することを認める。」との審決(訂正審決)があり、確定した。 2 本件発明の要旨 (1) 訂正審決前の要旨 以下のBに示される締結手段と、Cに示される建築部材用継手装置と、を用い、 Aに示される建築部材を連結構成して建築物の骨組を構築する建築物の骨組構築方法。 A 次の(a1)及び(a2)を含む建築部材。 (a1)材軸が鉛直方向に延びる少なくとも1つの鉛直建築部材。 (a2)材軸が水平方向に延びる少なくとも1つの水平建築部材。 B ボルトと該ボルトにねじ嵌合されるナットとからなる締結手段。 C 次の(c1)の継手部材に(c2)及び(c3)の少なくとも1つの継手部材を組み合わせて構成した建築部材用継手装置。 (c1)鉛直方向に所定間隔をもって平行に対面して配置された一対の第1及び第2の側板部と、 これら側板部の相対する内面の中央部に両側端が固定されて両側板部を相互連結し、かつ第1の前記締結手段のボルトが挿通される挿通孔が開設され、鉛直方向に配置された中間板部と、 前記側板部及び中間板部に周端の一端が固定され、水平方向に配置された端板部と、を含んで構成され、少なくとも1つの第1の前記鉛直建築部材の端部が嵌合される空間を構成するH形の水平方向断面形状をなす基本継手部材。 (c2)板面が前記基本継手部材の前記中間板部と同一面内に延び、一側端が前記基本継手部材の一方の前記側板部の外面中央部への固定部となり、第1の前記水平建築部材を連結するための第2の前記締結手段のボルトが挿通される挿通孔が開設された第1の連結用板部を含んで構成された第1の応用継手部材。 (c3)前記基本継手部材に嵌合される第1の前記鉛直建築部材の端部のうち前記中間板部に平行な少なくとも1つの側面に固定取付されるための第3の前記締結手段のボルトが挿通される挿通孔が開設された第3の側板部と、 該第3の側板部の中央部に一側端が固定され、前記第1及び第2の側板部に平行に延び、第1の前記水平建築部材に対して直角方向に延び、材軸が鉛直方向に延びる第2の前記水平建築部材を連結するための第4の前記締結手段のボルトが挿通される挿通孔が開設された第2の連結用板部と、 を含んで構成された第2の応用継手部材。 (2) 訂正審決後の要旨 以下のBに示される締結手段と、建築物の箇所に応じて構成されたCに示される建築部材用継手装置と、を用い、Aに示される建築部材を連結構成して建築物の骨組を構築する建築物の骨組構築方法。 A 次の(a1)及び(a2)を含む建築部材。 (a1)材軸が鉛直方向に延び、端面に溝部を有するか又は2本の平行部材のプレカット木材からなる、少なくとも1つの鉛直建築部材。 (a2)材軸が水平方向に延び、端面に溝部を有するか又は2本の平行部材のプレカット木材からなる、少なくとも1つの水平建築部材。 B ボルトと該ボルトにねじ嵌合されるナットとからなる締結手段。 C 次の(c1)の継手部材に(c2)及び(c3)の少なくとも1つの継手部材を使用数及び使用箇所を適宜選択して組み合わせて構成した建築部材用継手装置。 (c1)鉛直方向に所定間隔をもって平行に対面して配置された一対の第1及び第2の側板部と、これら側板部の相対する内面の中央部に両側端が固定されて両側板部を相互連結し、かつ、前記鉛直建築部材を固定するための第1の前記締結手段のボルトが挿通される挿通孔が開設され、鉛直方向に配置され、該鉛直建築部材の溝部に嵌合されるか又は該鉛直建築部材の2本の平行部材間に挟み込まれる中間板部と、前記側板部及び中間板部に周端の一端が固定され、水平方向に配置され、該鉛直建築部材の端面を受ける端板部と、を含んで構成され、少なくとも1つの第1の前記鉛直建築部材の端部が嵌合される空間を構成するH形の水平方向断面形状をなす基本継手部材。 (c2)板面が前記基本継手部材の前記中間板部と同一面内に延び、一側端が前記基本継手部材の一方の前記側板部の外面中央部への固定部となり、第1の前記水平建築部材をその端面を該側板部の外面で受けて連結するための第2の前記締結手段のボルトが挿通される挿通孔が開設され、該第1の前記水平建築部材の溝部に嵌合されるか又は該第1の前記水平建築部材の2本の平行部材間に挟み込まれる第1の連結用板部を含んで構成された第1の応用継手部材。 (c3)前記基本継手部材に嵌合される第1の前記鉛直建築部材の端部のうち前記中間板部に平行な少なくとも1つの側面に固定取付されるための第3の前記締結手段のボルトが挿通される挿通孔が開設された第3の側板部と、該第3の側板部の中央部に一側端が固定され、前記第1及び第2の側板部に平行に延び、第1の前記水平建築部材に対して直角方向に延び、材軸が水平方向に延びる第2の前記水平建築部材を連結するための第4の前記締結手段のボルトが挿通される挿通孔が開設され、該第2の前記水平建築部材の溝部に嵌合されるか又は該第2の前記水平建築部材の2本の平行部材間に挟み込まれる第2の連結用板部と、を含んで構成された第2の応用継手部材。 3 審決の理由の要点 審決は、平成11年2月1日にした訂正請求は、特許法134条2項ただし書き各号に該当せず、かつ、同条5項で準用する特許法126条3項の規定に適合しないので、認められないとの判断をした上、本件発明の要旨を上記2の(1)のとおり認定して、本件発明は特許法36条5項所定の要件を充足しないとの原告(請求人)主張の無効理由1は理由がないとし、本件発明は特許法39条2項に該当するとの原告主張の無効理由2について、次のとおり判断した上、本件発明の特許を無効とすることはできないとした。 (1) 同日出願発明 本件特許と同日付け同一人から出願された特許第1928996号の請求項1に係る発明(同日出願発明)は、公告決定された特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。 「以下のAに示される締結手段と共に用いられ、Bに示される基本継手部材にC及びDに示される第1及び第2の応用継手部材の少なくとも1つを組み合わせて構成された建築部材用継手装置。 A ボルトと該ボルトにねじ嵌合されるナットとからなる締結手段。 B 鉛直方向に所定間隔をもって平行に対面して配置された一対の第1及び第2の側板部と、 これら側板部の相対する内面の中央部に両側端が固定されて両側板部を相互連結し、かつ第1の前記締結手段のボルトが挿通される挿通孔が開設され、鉛直方向に配置された中間板部と、 前記側板部及び中間板部に周端の一端が固定され、水平方向に配置された端板部と、を含んで構成され、材軸が鉛直方向に延びる少なくとも1つの第1の鉛直建築部材の端部が嵌合される空間を構成するH形の水平方向断面形状をなす基本継手部材。 C 板面が前記基本継手部材の前記中間板部と同一面内に延び、一側端が前記基本継手部材の一方の前記側板部の外面中央部への固定部となり、材軸が水平方向に延びる第1の水平建築部材を連結するための第2の前記締結手段のボルトが挿通される挿通孔が開設された第1の連結用板部を含んで構成された第1の応用継手部材。 D 前記基本継手部材に嵌合される前記第1の鉛直建築部材の端部のうち前記中間板部に平行な少なくとも1つの側面に固定取付されるための第3の前記締結手段のボルトが挿通される挿通孔が開設された第3の側板部と、該第3の側板部の中央部に一側端が固定され、前記第1及び第2の側板部に平行に延び、第1の前記水平建築部材に対して直角方向に延び、材軸が水平方向に延びる第2の水平建築部材を連結するための第4の前記締結手段のボルトが挿通される挿通孔が開設される第2の連結用板部と、を含んで構成された第2の応用継手部材。」 (2) 本件発明と同日出願発明との対比 同日出願発明における、「Aに記載された締結手段」、「Bに記載された基本継手部材」、「Cに記載された第1の応用継手部材」、「Dに記載された第2の応用継手部材」は、本件発明における、「Bに記載された締結手段」、「(c1)に記載された基本継手部材」、「(c2)に記載された第1の応用継手部材」、「(c3)に記載された第2の応用継手部材」にそれぞれ対応するものであり、同日出願発明においても、建築部材として「材軸が鉛直方向に延びる少なくとも1つの第1の鉛直建築部材」及び「材軸が水平方向に延びる少なくとも1つの水平建築部材」を用いるものであるから、本件発明と同日出願発明は、「Aに示された建築部材とBに示された締結手段を用い、(c1)の継手部材に(c2)及び(c3)の少なくとも1つの継手部材を組み合わせて構成した建築部材用継手装置」という点で両者の構成は一致し、次の相違点で両者の構成は相違する。 相違点:本件発明においては、前記構成の建築部材用継手装置を、建築物の骨組を構築する建築物の骨組構築方法としたのに対して、同日出願発明においては、建築部材用継手装置とした点。 (3) 相違点についての審決の判断 本件発明における「建築物の骨組」とは、「建築大辞典」(株)彰国社昭和59年第1版第8刷発行の1431頁「骨組」の項には、「線材の組合せによって造られた構造要素。主として構造力学上荷重を支持し外力に抵抗する目的で用いられるもの。」、また同書の同頁「骨組構造」の項には、「柱や梁、あるいはトラスなどの線材の組合せで主として荷重を支え、外力に抵抗できるように構成された構造。」というように定義されている。 一方、同日出願発明における「建築部材用継手装置」における「建築部材」とは、前記「建築物の骨組」を構築するための建築部材を含む広範な部材の総称であることは明らかであり、広範な建築部材に対して、前記「建築部材用継手装置」を適用した建築物構築方法は、建築部材として、荷重を支持する「鉛直建築部材」及び「水平建築部材」を選択し、前記「建築部材継手装置」を用いた「建築物の骨組構築方法」とした本件発明と相違するものであるから、本件発明と同日出願発明は、単にカテゴリーのみが相違するだけでなく、その構成が実質的に相違するものである。 (4) 審決の結論 したがって、本件発明は特許法39条2項の規定に該当するという請求人(原告)の理由2についての主張は採用することができない。 |
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原告主張の審決取消事由
訂正審決が確定したことにより、審決は、本件発明の要旨の認定を誤ったことになり(取消事由1)、また審決は、本件発明と同日出願発明との同一性の判断を誤ったものである(取消事由2)。 1 取消事由1(要旨認定の誤り) 明細書の特許請求の範囲が訂正審決により減縮された場合には、減縮後の特許請求の範囲に新たな要件が付加されているから、通常の場合、訂正前の明細書に基づく発明について対比された同日出願発明との異同のみならず、当該付加された新たな要件が同日出願発明との同一性についてどのように関係するかの判断を行わなければ、右発明が特許を受けることができるかどうかの判断をすることができない。 そして,この判断は訂正審決が違法か否かの審理に等しい。 このような訂正審決が違法か否かの審理を、特許庁における無効審判の手続を経ることなく、訂正審決前になされた審決に対する不服申立にかかる審決取消訴訟の係属する裁判所において第一次的に行うことはできないと解すべきである。 したがって、本件においては、審決がした発明の要旨の認定が事後的に誤りとなったという違法が存するから、その余の判断をするまでもなく審決を取り消し、その上で、特許庁の審判手続をもって、訂正後の明細書に基づく発明の要旨を認定し、同日出願発明との同一性について改めて審理をすべきである。 2 取消事由2(同日出願発明との同一性の判断の誤り) 審決は「本件発明と同日出願発明は、・・・その構成が実質的に相違するものである。」と判断したが、この判断は、訂正前の本件発明だけでなく、訂正後の本件発明についても誤りである。 本件発明(訂正後のものを含む。)と同日出願発明は、以下の@〜Bで一応相違するが、いずれも実質的な相違ではない。 @ カテゴリーの相違 本件発明は「骨組構築方法」に係る発明であるのに対し、同日出願発明は「建築部材用継手装置」に係る発明である。 しかし、本件発明は、同日出願発明の「建築部材用継手装置」という物の発明を、単に方法的に記載したものにすぎず、実質的な相違とはいえない。 A 建築部材、継手部材、及び連結方法についての相違 本件発明が、建築部材を「端面に溝部を有するか又は2本の平行部材のプレカット木材からなる」と限定し、基本継手部材の挿通孔の開設の目的を鉛直建築部材を固定するためであることと限定し、基本継手部材の端板部及び側板部外面が鉛直建築部材及び第1の水平建築部材の端部を受けるものであることを限定し、並びに中間板部、第1及び第2の連結用板部と建築部材の連結方法を「建築部材の溝部に嵌合されるか又は・・・2本の平行部材間に挟み込まれる」と限定しているのに対し、同日出願発明はそのような限定がない。 しかし、同日出願発明にも基本継手部材の中間板部、並びに第1及び第2の応用継手部材の第1の連結用板部及び第2の連結用板部が存在し、建築部材はこれら中間板部、第1の連結用板部、及び第2の連結用板部に嵌合するものであるから、建築部材の端面においては溝部を設けるか、2本の平行部材としその隙間に嵌合するかの連結しかあり得ないから、実質的な相違とはいえない。なお、同日出願発明にも基本継手部材の端板部及び側板部外面が存在し、これらが、鉛直建築部材及び第1の水平建築部材の端部を受けることは自明であるし、プレカット木材との限定についても、同日出願発明の継手装置を使用する時には、所望の長さにカットされた建築部材を適用するのであって、技術的に実質的な差異はない。さらに、挿通孔開設の目的についても、同日出願発明にも「前記締結手段のボルトが挿通される挿通孔が開設され」との要件があり、これによって鉛直建築部材を固定することは自明である。 B 基本継手部材と応用継手部材の組合せについての相違 本件発明は、基本継手部材と応用継手部材の組合せに当たり、第2の応用継手部材の使用数及び使用箇所を適宜選択することを構成要件とするのに対し、同日出願発明はそのようなことを構成要件としない。 しかし、「使用数及び使用箇所を適宜選択する」ことは、建築物を構築する際の継手装置の使用態様として自明のことであり、これによって何らかの技術的な機能があるわけではない。したがって、実質的な相違とはいえない。 |
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審決取消事由に対する被告の反論
1 取消事由1に対して (1) 訂正審決が確定した場合に特許を無効とすべき審決を取り消すべきものとの判断を示した最高裁第三小法廷平成11年3月9日判決(民集53巻3号303頁)は、無効審判請求を成り立たないとした審決の取消しを求める訴訟についてまで判断していない。 無効審判が成り立たないとする審決に対する取消訴訟においては、訂正前の明細書に基づく発明(例えばA+B)について対比された公知事実(例えばa+b)によって、訂正前の特許を無効と判断することができない以上、同訴訟係属中に減縮された発明(例えばA+B+C)が、その他の公知事実(例えばa+b+c)との対比を行うことによって、無効と判断されることは通常あり得ない。 したがって、上記最高裁判決は、無効審判請求が成り立たないとする審決に対する取消請求訴訟に関しては妥当しない。無効審判請求が成り立たないとする審決に対する取消請求訴訟において訂正がなされた場合においては、裁判所は、訂正後の明細書の記載に基づく発明に基づいて審決の当否を判断することが許され、また、 判断することが妥当である。 (2) 加えて、本訴における審決は、特許法39条2項の同日付で同一人から出願された同日出願発明と訂正前後の明細書の記載に基づく発明との同一性又は実質的同一性、すなわち、一発明一特許の原則に関するものである。このような厳格な同一性の認定の方法が要求される一発明一特許の原則の判断の場合と、実質的に公知技術との対比とを行う場合とを同一に論ずる必要はない。 仮に審決を取り消したとしても、特許庁は、審決において訂正前の本件発明と同日出願発明とが同一でないと判断し、その後、訂正審判において、更に訂正後の本件発明と同日出願発明との相違を認定して独立特許性を認める審決をしているので、取消後の審決において、訂正後の本件発明と同日出願発明との同一性ないし実質的同一性を、特許庁が認定する余地はない。本件発明の要旨が変更されたことを理由に審決を取り消してみても、訂正審決と同様の審決がされることは明らかであり、審決を取り消した場合には結局特許庁は3度にわたり同じ対象特許との同一性の判断を繰り返すことになって、手続経済からも著しく不当である。 2 取消事由2に対して 本件発明(訂正後のもの。取消事由2に対する被告の主張の項において「本件発明」というときは訂正後のものを指す。)と同日出願発明は、以下に示す相違点を有するものであり、カテゴリー相違の発明にとどまらない。 @ カテゴリーの相違 本件発明と同日出願発明とは、同一人の同日出願に係る発明であり、いずれも特許された発明である。この場合、両発明が同一であるとすると、特許権者は、いずれか1つの発明を特許権として存続させるように選択することが不可能となり、両特許ともに無効とならざるを得ない。これは不合理であり、このような特殊事情下にあっては、カテゴリーの相違のみでも、発明の同一性を妨げるものというべきである。 A 建築部材、継手部材、及び連結方法についての相違(ア)本件発明では、建築部材は「骨組」を構築するためのものであり、少なくとも一つの「鉛直建築部材」及び同「水平建築部材」であること(構成要件(a1)、 (a2))、「鉛直建築部材」は「材軸が鉛直方向に延び、端面に溝部を有するか又は2本の平行部材のプレカット木材からなる」ものであること(構成要件(a1))、及び「水平建築部材」は「材軸が水平方向に延び、端面に溝部を有するか又は2本の平行部材のプレカット木材からなる」ものであること(構成要件(a2))を構成要件とするものである。 これに対し、同日出願発明は、連結すべき「建築部材」を独自の構成要件とはしておらず、ただ、「建築部材用継手装置」の構成を説明するために、「材軸が鉛直方向に延びる少なくとも1つの第1の鉛直建築部材」(構成要件B)及び「材軸が水平方向に延びる第1の水平建築部材」(構成要件C)と記載している部分があるのみである。 そして、同日出願発明は、「建築部材」に関し、いずれも「建築物の骨組」を構築するためのものであるとは特定しておらず、まして、本件発明の各部材のように「端面に溝部を有するか又は2本の平行部材のプレカット木材からなる」という特定の構成を採用することは記載されていない。 (イ)例えば、同日出願発明の建築部材用継手装置を使用する方法において、組み合わされる建築部材としては、「骨組」を構築するものには限定されないから、端部を嵌合可能に加工した面材でも構わない。骨組用の木材等であっても、一つ又は二つの鉛直建築部材が必ずしも中間板部の両側からこれを挟む形で嵌合する必要性はなく、鉛直建築部材は、中間板部の一方の面にのみ接して嵌合され、他面には、 面材あるいは水平建築部材の端部がこれに接するように嵌合されて使用されても構わない。 したがって、組み合わされる建築部材について、本件発明と同日出願発明には実質的な相違があり、さらに、同日出願発明においては、基本継手部材の中間板部には、必ずしも鉛直建築部材のみが固定されるとは限らないのであるから、基本継手部材の挿通孔が鉛直建築部材を固定することも実質的な相違である。 (ウ)同日出願発明を使用する際に組み合わせられる鉛直建築部材は、骨組用のものとしても、鉄骨その他のものでもよい。本件発明の方法は、プレカット木材を使用する場合にこそ、その効果を発揮するものであるために、建築部材としてこれを選択して構成要件としたのであって、その特定がない同日出願発明と技術的に実質的な差異がないということはできない。 ここで、「鉄骨その他のもの」の使用例としては、断面コ字状又はロ字状の鉄骨を中間板部の両側に嵌合し、中間板部及び第3の側板部に形成された挿通孔にボルトを挿通することにより連結する例を挙げることができる。 (エ)同日出願発明においては、当然に、基本継手部材の端板部及び側板部外面が、鉛直建築部材及び第1の水平部材の端面に接しない構成を含むものであり、基本継手部材の端板部及び側板部外面が鉛直建築部材及び第1の水平建築部材の端部を受けることも、実質的な相違である。 B 基本継手部材と応用継手部材の組合せについての相違 本件発明にあっては、「建築部材用継手装置」が、建築物の個所に応じて構成されるものとされているのに対し、同日出願発明においては、そのような特定のないことは、カテゴリーの相違同様、両発明の明らかな相違である。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1について 一般に、特許の無効事由が認められないとして無効審判請求は成り立たないとした審決があった後に、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正審決が確定したときには、比較される発明との対比において主張された特許の無効事由は認められないとした審決の判断に直ちに影響を及ぼすものではないのが通例である。原告主張の取消事由1も、この通例に属することを覆すべき事実関係を主張するものではない。特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正審決が確定した場合には、当然に審決が取り消されなければならないとした最高裁第三小法廷平成11年3月9日判決(民集53巻3号303頁)及び最高裁第一小法廷平成11年4月22日判決(判時1675号115頁、判タ1002号126頁)は、特許を無効とすべきものとしたいわゆる無効審決の取消訴訟に関する事案についてのものであるから、無効審判請求を成り立たないものとした審決の取消しを求める事案に射程が及ぶものではないと解される。 特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正があった場合においても、構成要件が新たに付加され、訂正後の発明の新規性等の判断に際し新たな公知文献に記載の発明との対比が必要となって、審判で審理されず審決で判断されなかった事項が審理判断されなければならない場合などにおいては、無効審判請求の対象とされている特許の発明の要旨認定を結果的に誤ったことが違法であるとして、無効審判請求を成り立たないものとした審決を取り消し、特許庁の審理を先行させるのが相当な事案もあり得よう。しかし、本件においては、訂正前の本件発明と同日出願発明との同一性の有無について判断して無効審判請求を不成立とし、その後本件発明の特許請求の範囲を減縮する訂正審判請求があり、特許庁は、無効審判請求においても本件発明と対比された同日出願発明との対比において独立特許要件が認められると判断して、訂正審決に至っている。したがって、訂正後の本件発明と同日出願発明との間の同一性の有無についての特許庁の判断は、訂正審決により、無効審判請求における審決が判断の対象とした同日出願発明の関係で示されていて、この点につき特許庁の判断が先行しているものである。このように、訂正審決確定後において本訴で主張されている無効理由(訂正後の本件発明と同日出願発明とが同一であること)は、審判請求時の無効理由(訂正前の本件発明と同日出願発明とが同一であること)のいわば延長線上にあるものであって、審決時の無効理由と本訴で主張されている無効理由に変更はないものと理解することができる。このような経緯にある本訴においては、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正審決が確定したことをもって直ちに審決を取り消すべきではなく、訂正後の本件発明と同日出願発明との同一性の有無について審理判断をすることができるものと解するのが相当である。 原告の取消事由1も、訂正審決が確定したことをもって直ちに審決は取り消されるべきであるとするのみであるし、他に訂正審決が確定したことに伴って審判請求を再度行わせるべき特段の事実関係も認めることはできない。よって、本件において、訂正審決が確定したことのみをもって審決を取り消すべきものとする取消事由1は、採用することができない。 2 取消事由2について (1) 本件発明(訂正後のもの。以下、取消事由2に対する判断「本件発明」というときは訂正後のものを指す。)と同日出願発明の関係についてみるに、本件発明が同日出願発明の「建築部材用継手装置」を使用する方法の発明であることについては、当事者双方とも当然の前提とするところである。このとおり、本件発明は、 物の発明たる同日出願発明を使用する方法発明であるから、本件発明の実施をすれば、自動的に同日出願発明も実施されるものである。このような場合、同日出願発明の装置の使用方法が、本件発明の方法に限られるのであれば、両発明はそのカテゴリーの相違にかかわらず同一発明というべきであるが、同日出願発明の装置の使用方法が本件発明の方法に限られないのであれば、両発明を同一ということはできない。 (2) そこで検討するに、甲第4号証(特許第1928996号の特許出願公告公報)によれば、同日出願発明の要旨は、前記審決の理由の要点の(1)に示されているとおりと認められる。 同日出願発明は、「建築部材用継手装置」に係る発明であり、この継手装置の用途である「建築部材」については、「基本継手部材」の空間に材軸が鉛直方向に延びる第1の鉛直建築部材の端部が嵌合されること、「第1の応用継手部材」に材軸が水平方向に延びる第1の水平建築部材が連結されること、及び「第2の応用継手部材」に材軸が水平方向に延びる第2の水平建築部材が連結されることを除いては、特段の規定を設けていないことが明らかである。そうすると、同日出願発明を使用するに当たっては、これら第1の鉛直建築部材、第1及び第2の水平建築部材をそれぞれ、基本継手部材の空間に嵌合、第1及び第2の応用継手部材に連結との要件を満たす限度においては、どのような建築部材であっても使用が許されるものと認められる。 第1の鉛直建築部材について検討すると、材軸が鉛直方向に延びることからみて、また、端部が基本継手部材の空間に嵌合されるという性質からして、この部材がいわゆる線材であることはいえるものの、その材質が限定されるものでない。そして、建築に用いる線材として、木材と鉄材(鉄骨材)とがあることが周知の事実であることは明らかである。さらには、中間板部によって区分された基本継手部材の各空間部と同一形状をなす断面ロ字状の鉄骨材2本を、基本継手部材の各空間部に嵌合し、第2の応用継手部材の第3の側板部及び基本継手部材の中間板部に形成された挿通孔を介してボルトにより連結するという使用方法が存在することも明らかに認められる事実である。 同日出願発明の特許出願公告公報(甲第4号証)には、第1の鉛直建築部材について、「継手装置で接合される建築部材はプレカット木材を使用する」(11欄46〜47行)など木材であることの記載はあっても、鉄骨材を含むことの記載はみられないけれども、鉄骨材を排除する旨の記載もみられない。そして、同日出願発明の特許請求の範囲の記載によれば、同日出願発明は第1の鉛直建築部材について、「材軸が鉛直方向に延びる」こと及び端部が基本継手部材の空間に嵌合されることのみを構成要件とし、それ以外の規定を一切設けていないのであるから、同日出願発明の装置の使用方法として、鉄骨材である第1の鉛直建築部材を使用する方法が含まれるのは明らかである。 (3) これに対し、本件発明の「材軸が鉛直方向に延び、端面に溝部を有するか又は2本の平行部材のプレカット木材からなる、少なくとも1つの鉛直建築部材」(構成要件(a1))及び「第1の前記鉛直建築部材の端部が嵌合される空間を構成するH形の水平方向断面形状をなす基本継手部材」(構成要件(c1))との要件によれば、鉛直建築部材は、材軸が鉛直方向に延びること及び端部が基本継手部材の空間に嵌合されることに加えて、端面に溝部を有するか又は2本の平行部材の木材であることをも要件としており、明らかに鉄骨材を排除するものである。なお、構成要件(a1)には「プレカット木材」との記載もあるが、本件発明は建築部材、継手部材、及び締結手段の組合せによって建築物の骨組を構築する方法であり、その建築部材をいつどこで作成するかは、上記組合せとは技術的に無関係の事項というべきである。そして「プレカット」とは、建築現場でカットするのではなく、あらかじめ工場等で規格寸法にカットされた木材であることを意味すると解されるが、建築現場で同寸法にカットした木材であっても、組合せ自体に差異が生じるものではないから、プレカットであることをもって本件発明の構成とすることはできない。 (4) 以上のとおり、同日出願発明の1つの使用方法である、鉄骨材である第1の鉛直建築部材を使用する方法は、本件発明に含まれないことから、同日出願発明の使用方法が本件発明に限られないことは明らかである。したがって、この点において、本件発明と同日出願発明を同一発明ということはできず、取消事由2は理由がない。 |
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結論
よって、原告主張の審決取消事由は理由がなく、原告の請求は棄却されるべきである。 (平成14年10月24日口頭弁論終結) |
裁判長裁判官 | 永井紀昭 |
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裁判官 | 塩月秀平 |
裁判官 | 田中昌利 |