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関連審決 不服2001-7937
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成17行ケ10436審決取消請求事件 判例 特許
平成13行ケ489審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 技術的思想 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  相違点の判断 /  発明の詳細な説明 /  参酌 /  数値限定 /  拒絶査定 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 14年 (行ケ) 41号 審決取消請求事件
原告 株式会社ブリヂストン
訴訟代理人弁理士 鈴木悦郎
同 渡邊公義
被告 特許庁長官太田信一郎
指定代理人 安藤勝治
同 中田誠
同 大野克人
同 宮川久成
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/03/31
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が不服2001-7937号事件について平成13年11月28日にした審決を取り消す。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,平成5年3月29日,名称を「防舷材」とする発明(以下「本願発明」という。)について特許出願(特願平5-95220号,以下「本件特許出願」という。)をし,同年7月10日,本件特許出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)及びその図面の補正(以下「平成5年補正」といい,出願当初の本件明細書を「当初明細書」,平成5年補正に係る本件明細書を「補正明細書」という。)をし,平成13年3月19日,本件明細書の特許請求の範囲の補正(以下「平成13年補正」という。)をしたが,同年4月17日,拒絶査定を受けたので,同年5月14日,これに対する不服の審判を請求した。特許庁は,同請求を不服2001-7937号事件として審理した上,平成13年11月28日,「本件審判の請求は,成り立たない。」とする審決をし,その謄本は,同年12月19日,原告に送達された。
2 平成13年補正に係る本件明細書の特許請求の範囲の記載 【請求項1】全体がゴム弾性体にて形成された防舷材本体(2)からなる座屈型防舷材において,座屈点に隣接又は近接した防舷材本体(2)の内周領域の少なくとも片側に,内方に張り出す肉盛部(T)を設け,当該肉盛部(T)の高さ(t1)及び長さ(L)を,防舷材本体(2)の肉厚(t),高さ(H)に対し,0.01×t≦t1≦0.1×H,L≦0.3×Hとしたことを特徴とする防舷材。
3 審決の理由 審決の理由は,別添審決謄本写し記載のとおり,本願発明の要旨を上記2記載のとおり認定した上,本願発明は,特公昭55-50537号公報(本訴甲6,以下「引用例」という。)に記載された発明(以下「引用例発明」という。)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。
原告主張の審決取消事由
審決は,本願発明と引用例発明の一致点の認定を誤り(取消事由1),両発明の相違点の判断を誤り(取消事由2),本願発明の顕著な効果を看過し(取消事由3),拒絶理由の通知を欠く違法(取消事由4)があるから,取り消されるべきである。
1 取消事由1(一致点の認定の誤り) (1) 審決は,本願発明と引用例発明は,「『全体がゴム弾性体にて形成された防舷材本体からなる座屈型防舷材において,座屈点に隣接又は近接した防舷材本体の内周領域の少なくとも片側に,内方に張り出す肉盛部を設けた防舷材』である点で一致」(審決謄本2頁「3.対比・判断」第1段落)すると認定したが,誤りである。
(2) 本願発明の「肉盛部」は,座屈点に隣接又は近接した領域に設けるものであり,座屈点に隣接又は近接した領域とは,座屈点と接触点の間の領域であって,防舷材本体の端に至るような広い領域ではない。
他方,引用例発明の「突起」は,受衝壁の座屈変形領域に設けるものであり,座屈変形領域とは,ゴム筒の両端までの範囲を含む。「突起」の対は,座屈変形を生じ始める直前において互いに突き合わされる配置で,接触が開始する部分に設けるものであるから,接触点の接触とは全く無関係に,突起同士が接触しさえすればよく,そのため,引用例においては,「突起」の位置に関して範囲の制限をしていない。
したがって,本願発明における「座屈点に隣接又は近接した領域」に相当するような限定された領域については,引用例に何らの記載も示唆もなく,引用例発明の「座屈変形領域」と一致するものではないから,本願発明と引用例発明は,「座屈点に隣接又は近接した領域に肉盛部を設ける」点で一致しない。
2 取消事由2(相違点の判断の誤り) (1) 審決は,本願発明と引用例発明について,「『本願発明においては,「肉盛部(T)の高さ(t1)及び長さ(L)を,防舷材本体(2)の肉厚(t),高さ(H)に対し,0.01×t≦t1≦0.1×H,L≦0.3×Hとした』のに対し,引用例記載の発明においては肉盛部の高さ,長さについての具体的な記載のない点」を相違点と認定(審決謄本2頁「3.対比・判断」第2段落)した上,「肉盛部の高さ,長さをどの程度にするかは,本来,反力-歪曲線等を考慮しつつ,当業者が適宜決定できる設計的事項であると言える」(同3頁第3段落)と判断したが,肉盛部の高さ及び長さは,当業者が適宜決定できる設計的事項ではなく,誤りである。
(2) 本件明細書(甲2)には,「防舷材にあって,実際上の使用範囲はA点(注,歪みの極大点)の反力と同一反力B点までの歪範囲とされ,防舷材の吸収エネルギーはB点までの歪-反力曲線と横軸とで囲まれる面積で表されるが,反力が減少した部分・・・だけ吸収エネルギーが小さくなる」(段落【0003】,【図2】)と記載され,「B点までの歪-反力曲線と横軸とで囲まれる面積」が最大になる歪-反力曲線が理想とされている。反力-歪曲線を理想の形に近づける方策として,原点からA点に向かう反力-歪曲線の傾きを大きくする,A点とB点の反力を大きくする,AB間における反力の落ち込みをなくす,B点の歪を大きくするなど,複数の構成があり得るから,上記いずれの構成を採用するかは,設計的事項ではなく,技術的思想の問題になる。本件明細書の【図2】の反力-歪曲線は,「肉盛部」がないとAB間で落ち込むが,「肉盛部」の作用によって「ほぼ水平に推移する」ようになっているから,AB間における反力の落ち込みをなくすという技術的思想を採用するのに対し,引用例発明においては,A点とB点の反力を大きくするという技術的思想を採用するものであって,本願発明と技術的思想が相違する。
(3) 本願発明において,肉盛部の高さ及び長さを数値限定したのは,本願発明の課題を解決し効果を奏するのに必要なためである。すなわち,肉盛部の高さが低すぎると,座屈点の両側が接触せず,これが高すぎると,接触点が接触しない。また,肉盛部の長さが長すぎると,肉盛部が接触点を超えてしまう。したがって,肉盛部の高さ及び長さの数値限定は,空洞部における接触に関する臨界的意義がある。
3 取消事由3(顕著な効果の看過) (1) 本願発明(甲2)の解決すべき課題は,「減少した吸収エネルギーを補償した防舷材を提供すること・・・具体的には,防舷材の支衝部の座屈変形により発生する反力の落ち込み現象を・・・防止した高効率の防舷材を提供する」(段落【0004】)ことである。一方,引用例発明(甲6)における解決すべき課題は,「受衝反力を簡便有利に増強する」(1欄「発明の詳細な説明」第1段落)ことであり,反力の落ち込み防止については,何ら考慮されておらず,本願発明と引用例発明とは,解決すべき課題が異なる。また,本願発明は,肉盛部を設けることで座屈点における空洞部を積極的になくすことにより反力の低下を防止するという,引用例発明にない有利な効果を奏する。
(2) 一方,引用例発明(甲6)は,「受衝壁の座屈変形領域に,該変形に際してその向きで互いに対向する突起を設け」(特許請求の範囲)ることで,「ゴム質材料の使用量増加を格段に伴わずして有効な受衝反力の増強を介した接げん衝撃エネルギの吸収性能向上がもたらされる」(4欄第3段落)という効果を奏するものである。
(3) したがって,本願発明は,引用例発明より優れた顕著な効果を奏する。
4 取消事由4(拒絶理由通知に係る手続違背) 本件特許出願に対する拒絶理由通知では,引用例(甲6),特開昭58-189403号公報(甲9)及び特公平3-80927号公報(甲10)を引用して進歩性を欠くとされたが,拒絶査定は,甲9,10のみを引用して進歩性を欠くとするものである。一方,審決においては,引用例(甲6)のみが引用され,拒絶査定の理由と異なる理由による拒絶査定がされているにもかかわらず,審判手続において,引用例(甲6)に基づく拒絶理由は通知されていないから,審決には,拒絶理由を事前に通知せず,原告に意見を述べる機会を与えなかった違法がある。
被告の反論
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について (1) 審決は,引用例発明の「座屈変形領域」が本願発明の「座屈点に隣接又は近接した領域」と一致すると認定したものではない。引用例に記載された「座屈変形領域」は,本願発明における「座屈点に隣接又は近接した領域」を含む「内周領域」に相当するものである。
(2) ところで,引用例(甲6)には,本件明細書の「V型防舷材」に相当するアーチタイプ防舷材について,突起の対が,座屈変形を生じ始める直前において互いに突き合わされる配置で受衝壁の内面に設けられるものであるから(4欄第2段落,第6図),上下の突起の間に座屈点が存在し,突起は座屈点に隣接又は近接した領域に設けられているということができる。そうすると,引用例発明にも「座屈点に隣接又は近接した領域に肉盛部を設ける」という技術的事項が採用され,本願発明と引用例発明は「座屈点に隣接又は近接した領域に肉盛部を設ける」点で一致する。
(3) したがって,審決における本願発明と引用例発明の一致点の認定に誤りはない。
2 取消事由2(相違点の判断の誤り)について (1) 本願発明が,反力の落ち込みを肉盛部によって防ぐという技術的思想を採用するものであるとしても,本件明細書の特許請求の範囲には,その技術的思想を反映する記載はない。例えば,本件明細書には,反力-歪曲線において落ち込み部が形成されるような座屈型防舷材を対象とすることや,座屈点における空洞部をなくすための肉盛部の具体的形状についての記載はなく,単に,高さ及び長さが規定された肉盛部を設けることしか記載されていないのであって,高さ及び長さの規定を除けば,本願発明の肉盛部は,引用例発明の突起と何ら相違はない。
(2) また,高さ及び長さの規定の根拠についても,本件明細書には,ある特定の形状及び寸法の防舷材を対象にして肉盛部の高さ及び長さを決定したことが示されている。このことは,肉盛部の高さ及び長さをどの程度にするかは,当業者が適宜決定できる程度の設計的事項であることを示しているということができる。
(3) したがって,審決における本願発明と引用例発明の相違点の判断に誤りはない。
3 取消事由3(顕著な効果の看過)について (1) 本件明細書は,従来の座屈型防舷材として,反力-歪曲線において極大点に達した後に反力が減少するものを例示し,これとの比較において,本願発明の課題を,防舷材の支衝部の座屈変形により発生する反力の落ち込み現象を防止することとしている。一方,引用例においては,従来の座屈受衝式防舷材として,座屈が開始されて,たわみのみが進行する定反力区域を有するものを例示し,これとの比較において,発明の課題を「受衝反力を簡便有利に増強する」としている。
しかしながら,一見相違するかに見える両発明の課題は,比較の対象とする従来の座屈型防舷材の相違に伴う表現上の相違にすぎないものであり,本願発明が,防舷材の支衝部の座屈変形により発生する反力の落ち込み現象を防止することは,受衝反力を増強することにほかならない。したがって,本願発明と引用例発明とは,受衝反力を増強するという課題において相違がないものである。
(2) また,原告は,本願発明について,「肉盛部」を設けることで座屈点における空洞部を積極的になくすものであって,このため,反力-歪曲線にあって,反力の低下を生じない効果を生ずると主張する。
しかしながら,本件明細書の特許請求の範囲には,肉盛部がどのような形状であるかについて記載されておらず,単に高さ及び長さが規定された肉盛部を設けることしか記載されていない。すなわち,高さ及び長さの規定を除けば,本願発明の肉盛部は,引用例に記載された突起と何ら相違しないものであるから,引用例発明にない有利な効果を奏するとはいえない。
(3) したがって,審決が本願発明の顕著な効果を看過しているとする原告の主張は理由がない。
4 取消事由4(拒絶理由通知に係る手続違背)について 本件特許出願に対する拒絶理由通知書には,引用例(甲6)が拒絶理由に示されている。原告は,拒絶査定が甲9,10のみを引用しており,引用例(甲6)に言及していないことを問題とするが,既に通知した拒絶理由と同趣旨の理由により審決をする場合には,改めてその旨の拒絶理由を通知する必要はなく,審決に原告主張の手続違背はない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について (1) 原告は,審決が,本願発明(甲2)と引用例発明(甲6)を対比して,「『全体がゴム弾性体にて形成された防舷材本体からなる座屈形防舷材において,座屈点に隣接又は近接した防舷材本体の内周領域の少なくとも片側に,内方に張り出す肉盛部を設けた防舷材』である点で一致する」(審決謄本2頁「3.対比・判断」)と認定したのは誤りであり,「座屈点に隣接又は近接した領域に肉盛部を設ける」との本願発明の構成は,座屈点と接触点の間の領域に肉盛部を設けたものであって,引用例(甲6)の「座屈変形領域」とはゴム筒の両端までの範囲を含むから,本願発明の「座屈点に隣接または近接した領域」は,引用例発明の「座屈変形領域」と一致するものではないと主張する。
(2) そこで,検討するに,確かに,当初明細書(甲2)の発明の詳細な説明の【作用】欄には「防舷材の内面に座屈点Pをはさんで空洞Dが発生することを突き止めたものであって,この空洞Dができる部位に肉盛部Tを備えるものであり,相互に接触圧縮することにより反力の落ち込みを補償したものである」(段落【0006】)と記載され,補正明細書(甲2)の同【作用】欄には「座屈点P・・・からやや離れた点Qで接触している。しかしながら,P-Q間には接触していない空間が残っていることが分かる。そこで,本発明にあっては,P-Q間の領域に肉盛部Tを備え,A-B間で積極的に接触圧縮域を増やすことにより反力を増やすことができる」(段落【0006】)と記載され,これらの記載による限り,原告の主張するように,本願発明の「座屈点に隣接又は近接した防舷材の内周領域」を「座屈点と接触点の間の領域」と解することも可能であるかのごとくである。
(3) しかしながら,本件明細書の特許請求の範囲は,上記第2の2記載のとおりであり,肉盛部が設けられる位置について,「座屈点に隣接又は近接した防舷材本体(2)の内周領域の少なくとも片側」と記載され,それ以上の限定は付されていない。原告は,肉盛部が設けられる位置について,座屈点と接触点の間の領域に限定して解釈されるべきであると主張するが,本件明細書(甲2)の特許請求の範囲は,上記のとおりであって,肉盛部が設けられる位置について,このような限定は付されていないことが明らかである。
加えて,本件明細書の発明の詳細な説明の【発明が解決しようとする課題】欄には,「この発明は・・・防舷材の支衝部の座屈変形により発生する反力の落ち込み現象を内面座屈点に隣接又は近接するように設けた肉盛部の圧縮により反力の落ち込みを防止した高効率の防舷材を提供する」(段落【0004】)と記載され,【課題を解決するための手段】欄には,「本発明は以上の目的を達成するために次の構成としたものである。即ち,本発明の要旨は,座屈型防舷材において,座屈点に隣接又は近接した防舷材の内周領域の少なくとも片側に,内方に張り出す肉盛部を設けたことを特徴とする防舷材に係るものである」(段落【0005】)と記載され,これらの記載においては,肉盛部を座屈点と接触点の間に設けるとの構成ではなく,これを座屈点に隣接又は近接した防舷材の内周領域に設けるとの構成が示されている。また,以上の記載は,【作用】欄に「P-Q間の領域に肉盛部Tを備え」との記載が加入された平成5年補正の際に何ら変更されておらず,かつ,【特許請求の範囲】のみが変更された平成13年補正の際にも,「座屈型防舷材」について「全体がゴム弾性体にて形成された」との限定が付され,肉盛部の高さ及び長さに上記数値限定が付されたにもかかわらず,肉盛部を設ける位置については,何ら限定が付されることはなかった。
さらに,「座屈点を挟んで空洞が発生する部位に肉盛部を備えて相互に接触圧縮することにより反力の落ち込みを補償する」という本願発明の効果を奏するためには,肉盛部が座屈点の隣接又は近接した領域に備えられれば足り,その領域が座屈点と接触点の間に限定されるべき技術的な必要性は見いだし難い。
以上を総合すると,本願発明の「座屈点に隣接又は近接した領域に肉盛部を設ける」との本願発明の構成を,「座屈点と接触点の間の領域に肉盛部を設ける」の意義であるとする原告の主張は,採用することができない。
(4) 他方,引用例(甲6)には,全体がゴム弾性体で形成されたアーチタイプの座屈形防舷材が開示され(第6図),荷重を受けて防舷材が座屈状態となった状態がその左側図に記載されている。また,引用例の「矢印方向に働く接げん荷重Wによつて受衝壁2'が図の左半のように曲げられ,ついで座屈変形を生じはじめる直前において互いに突き合わさる配置として受衝壁2'の内面に突起10'の対を設けることにより,この突起10'の圧縮変形抵抗が支持反力の増強をもたらす」(4欄第2段落)との記載を参酌すれば,引用例発明の1対の突起は,座屈点に隣接又は近接して設けられることが開示されているというべきである。そして,「突起」とは,本体の一部が盛り上がって突出した部分であるから,本願発明の「肉盛部」に相当すると認められる。
(5) したがって,本願発明と引用例発明の一致点に係る審決の認定に誤りがあるとする原告の主張は,採用することができない。
2 取消事由2(相違点の判断の誤り)について (1) 原告は,本願発明の「肉盛部」の高さ及び長さの数値限定について,これを当業者が適宜決定できる設計的事項であるとした審決の判断が誤りであると主張するので検討する。
(2) 原告は,本件明細書の【図2】の反力-歪曲線は,「肉盛部」がないとAB間で落ち込むが,「肉盛部」の作用によって「ほぼ水平に推移する」ようになっているから,AB間における反力の落ち込みをなくすという技術的思想を採用するものであり,一方,引用例発明においては,A点とB点の反力を大きくするという技術的思想を採用するものであって,本願発明と技術的思想が相違すると主張する。
しかしながら,原告の主張するように,本願発明が引用例発明と上記の点で異なる技術的思想を採用するものであるとしても,上記のとおり,防舷材の座屈点に隣接又は近接した領域に肉盛部ないし突起を設け,防舷材の座屈変形により発生する反力の落ち込みを防止するという点で,両発明の採用する技術的思想に異なるところはなく,また,座屈変形中の応力の変動は形状に依存するものであるところ,本願発明と引用例発明の双方において,その応力特性に特段意味があるわけではないから,このような事項を技術的思想と呼ぶかどうかはともかく,当業者が適宜採用することのできる構成として,これを設計的事項ということに誤りはない。
したがって,この点に係る原告の主張は,上記構成が設計的事項であるとする審決の判断を左右するものではない。
(3) 原告は,肉盛部の高さ及び長さの特定について,空洞部における接触に関する臨界的意義があると主張するが,上記のとおり,本願発明に係る肉盛部の構成を採用するか,又は引用例発明に係る突起の構成を採用するかという点ですら,当業者が適宜採用することのできる設計的事項である以上,肉盛部の構成を採用する場合において,更に具体的構成としてどのような肉盛部の高さ及び長さを採用するかも,当業者にとって設計的事項というべきである。
確かに,本願発明に係る肉盛部の高さ及び長さを採用することで,当業者が通常予測し得ない顕著な効果が得られるような場合には,この構成を設計的事項ということはできないが,防舷材の座屈点に隣接又は近接した領域に肉盛部ないし突起を設けることで,防舷材の座屈変形により発生する反力の落ち込みを防止するという本願発明の効果について,上記数値限定を採用することによって当業者の予測し得ないような顕著な効果が奏されることは,本件全証拠によってもうかがわれない。
3 取消事由3(顕著な作用効果の看過)について (1) 原告は,本願発明が「防舷材の支衝部の座屈変形により発生する反力の落ち込み現象を防止した高効率の防舷材を提供するもの」であり,一方,引用例は「受衝反力を簡便有利に増強するもの」であって,「反力の落ち込み防止」については何らの考慮もなされていないものであると主張する。
(2) しかしながら,そのような解決すべき課題又は効果の相違が両発明に存在するとしても,上記2のとおり,この程度の技術的事項の相違は,当業者が予測し得ない顕著なものということはできないから,審決に顕著な作用効果の看過があるとする原告の主張は理由がない。
4 取消事由4(拒絶理由通知に係る手続違背)について (1) 審査においてした手続は,拒絶査定に対する審判においても効力を有し(特許法158条),審査官のした拒絶理由の通知(同法50条)も,審査における他の手続と異なるところはない。審査官は,本願発明について,引用例発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとする拒絶理由通知書(甲8)を発しているから,審判において,上記拒絶理由に基づいて審判請求が成り立たない旨の審決をする限り,改めて拒絶理由の通知をすることを要しない。
(2) 原告は,拒絶理由を事前に通知しなかったことにより原告に意見を述べる機会が与えられなかったと主張するが,原告には,審査官の発した上記拒絶理由通知に対し意見を述べる機会を与えられているから,同一の拒絶理由について改めて審判において通知を受けなくとも,意見を述べる利益を害されたということはできない。したがって,拒絶理由通知に係る手続違背をいう原告の主張は理由がない。
5 以上のとおりであるから,原告主張の審決取消事由は理由がなく,他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 岡本岳
裁判官 長沢幸男