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審判番号(事件番号) データベース 権利
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事件 平成 13年 (ワ) 6924号 特許権に基づく差止並びに損害賠償請求事件
原告 ビジネスプラン株式会社
訴訟代理人弁護士 鳩谷邦丸
同 別城 信太郎
同 種谷 有希子
被告 株式会社ディー・エム・シーネットワーク
被告 有限会社プラウト
上記2名訴訟代理人弁護士 森下弘
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2003/04/03
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 被告株式会社ディー・エム・シーネットワークは、別紙物件目録(1)及び(3)記載の物件を販売してはならない。
2 被告有限会社プラウトは、別紙物件目録(1)ないし(4)記載の物件を製造し、販売してはならない。
3 被告株式会社ディー・エム・シーネットワークは、前記第1項記載の物件を廃棄せよ。
4 被告有限会社プラウトは、前記第2項記載の物件を廃棄せよ。
5 被告らは、原告に対し、連帯して、金61万8650円、及び内金11万3117円に対する平成14年7月1日から、内金50万5533円に対する同年9月1日から、各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
6 有限会社プラウトは、原告に対し、金20万1272円及びこれに対する平成14年9月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
7 原告の被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。
8 訴訟費用は、これを2分し、その1を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。
9 この判決は、第5項及び第6項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
請求
1 被告株式会社ディー・エム・シーネットワーク(以下「被告ディー・エム・シー」という。)は、別紙物件目録(1)及び(3)記載の物件を、被告有限会社プラウト(以下「被告プラウト」という。)は、別紙物件目録(1)ないし(4)記載の物件を製造し、販売し、又は頒布してはならない。
2 被告ディー・エム・シーは、別紙物件目録(1)及び(3)記載の物件を、被告プラウトは、別紙物件目録(1)ないし(4)記載の物件を廃棄せよ。
3 被告らは、原告に対し、連帯して、金500万円及びこれに対する平成13年8月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被告プラウトは、原告に対し、金300万円及びこれに対する平成13年8月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
本件は、後記特許発明の特許権者である原告が被告らに対し、同特許権の侵害を理由として、侵害行為の差止めと侵害物件の廃棄及び損害賠償を求めた事案である。
1 当事者間に争いのない事実 (1) 本件特許権 原告は、次の特許権(以下「本件特許権」といい、請求項1の発明を「本件発明1」、請求項7の発明を「本件発明2」といい、本件発明1及び2を総称して「本件発明」という。また、本件特許出願の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)を有している。
特許番号 第3110724号 発明の名称 純粋二酸化塩素液剤、これを含有するゲル状組成物及び発泡性組成物、並びに、これらを入れるための容器 出願日 平成10年11月26日(特願平10-335690号) 登録日 平成12年9月14日 優先日 平成9年11月28日(特願平9-329049号) 優先権主張国 日本 特許請求の範囲 別紙特許公報(甲1)該当欄のとおり (2) 本件発明は、次の構成要件に分説することができる。
ア 本件発明1(請求項1) A 溶存二酸化塩素ガス、亜塩素酸塩及び酸性に保つpH調整剤を構成成分に有することを特徴とする B 純粋二酸化塩素液剤 イ 本件発明2(請求項7) a 溶存二酸化塩素ガス、亜塩素酸塩及び酸性に保つpH調整剤を構成成分に有する純粋二酸化塩素液剤並びに b 高吸水性樹脂を含有することを特徴とする c ゲル状組成物 (3) 被告ディー・エム・シーの行為 被告ディー・エム・シーは、別紙物件目録(1)記載の液剤(以下「イ号物件」という。)及び同目録(3)記載のゲル剤(以下「ハ号物件」という。)を販売している。
(4) 被告プラウトの行為 被告プラウトは、別紙物件目録(1)ないし(4)記載の液剤及びゲル剤を製造し、そのうちイ号物件及びハ号物件を被告ディー・エム・シーに販売し、自らは、
別紙物件目録(2)記載の液剤(以下「ロ号物件」という。)及び同目録(4)記載のゲル剤(以下「ニ号物件」という。)を販売している(以下、イ号物件及びロ号物件を「被告液剤」、ハ号物件及びニ号物件を「被告ゲル剤」、イ号物件ないしニ号物件を総称して「被告製品」という。)。
(5) 被告液剤(イ号、ロ号物件)の構成 被告液剤は、亜塩素酸塩及び酸性に保つpH調整剤を構成成分に有する液剤である。
(6) 被告ゲル剤(ハ号、ニ号物件)の構成 被告ゲル剤は、酸性に保つpH調整剤を構成成分に有し、高吸水性樹脂を含有するゲル状組成物である。
(7) 被告製品の売上高 ア 被告ディー・エム・シーの平成12年9月14日(本件特許権の登録日)から平成14年6月までの間の別紙商品目録(1)ないし(5)記載の商品(イ号物件及びハ号物件)の売上げは、226万2340円である。
また、被告ディー・エム・シーの上記各商品の平成14年7月及び8月分の売上げは、合計11万0660円である。
したがって、平成12年9月14日から平成14年8月末までの間に、
被告プラウトが製造して被告ディー・エム・シーに供給し、被告ディー・エム・シーが販売したイ号物件及びハ号物件の売上げは、237万3000円となる。
イ 被告プラウトの平成12年9月14日から平成14年8月末までの別紙商品目録(6)及び(7)記載の商品(ロ号物件及びニ号物件)の売上げは、金402万5447円である。
2 争点 (1) 被告液剤は、本件発明1の構成要件Aの「溶存二酸化塩素ガス」との構成及び構成要件Bの「純粋二酸化塩素液剤」との構成を備えているか。
(2) 被告ゲル剤は、本件発明2の構成要件aを充足するか。
(3) 原告の損害額
争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(被告液剤は、本件発明1の構成要件Aの「溶存二酸化塩素ガス」との構成及び構成要件Bの「純粋二酸化塩素液剤」との構成を備えているか)について 【原告の主張】 (1)ア 本件特許出願前の従来技術は、安定化二酸化塩素水溶液(二酸化塩素ガスを過酸化炭酸ナトリウム水溶液に溶解して得られるアルカリ性水溶液。二酸化塩素は溶液中で亜塩素酸ナトリウムに変化し、二酸化塩素イオン(ClO2-)の形で存在する。)に対し、使用直前に酸性を示すpH調整剤を加えて賦活させることにより、二酸化塩素ガスを強制的に発生させるというものであった。しかし、この従来技術では、安定的に二酸化塩素ガスを持続的に発生させるためには、安定化二酸化塩素水溶液と酸性に保つpH調整剤を持続的に外部の力で化学反応させ続けねばならないという問題点があり、他方、安定化二酸化塩素水溶液にあらかじめ刺激剤や酸を添加した場合には、使用目的に応じた二酸化塩素ガスの発生濃度を調整できないという問題点があった。
イ 本件発明は、従来技術で使用されていた安定化二酸化塩素水溶液及び酸性に保つpH剤に加え、新たに溶存二酸化塩素ガスを構成成分の一つとし、溶存二酸化塩素ガス、安定化二酸化塩素水溶液及び酸性に保つpH調整剤の3種類を一定の酸性状態で配合することにより、下記の化学反応を用いて、当初から液剤中に存在する二酸化塩素ガスが放散によって失われても、その分を新たに順次補充して二酸化塩素ガスの発生を持続させることにより、二酸化塩素ガスを発生させるために安定化二酸化塩素水溶液に継続的に酸性に保つpH調整剤を加え続ける手間を不要とし、かつ、高濃度から低濃度まで任意の濃度の二酸化塩素ガスを長時間持続して放出させることを可能とした発明である。
本件発明において、任意の濃度の二酸化塩素ガスの発生が長期間維持されることになるメカニズムは、次のとおりである。
(ア) 二酸化塩素ガス(ClO2)が徐々に放散し、ガスの量が減少する(下記式@右側)。
(イ) 二酸化塩素ガス(ClO2)の放散(上記(ア))に伴い、下記式@左の亜塩素酸(HClO2)が減少する。
(ウ) 下記式@左で減少したHClO2の分だけ、安定化二酸化塩素水溶液中の亜塩素酸イオンと酸性に保つpH調整剤の酸との化学変化によりHClO2が順次発生し(下記式A)、溶液中に補充される。
↑放散 HClO2+HClO 3 2ClO 2+H 2O @ ↑補充 HClO2 ← ClO2-+H+ A (亜塩素酸) (亜塩素酸イオン)(酸性) ウ したがって、本件発明1の構成要件Bにいう「純粋二酸化塩素液剤」は、二酸化塩素が液剤中において本来の状態である「二酸化塩素ガスとして存在する」ことを意味し、二酸化塩素ガスそれ自体が構成成分として必要不可欠であることを意味している。
(2)ア 被告液剤の製造方法は、「@前もって、亜塩素酸ナトリウム水溶液(セーバー・ケミカル社製)を希釈した物にクエン酸数gを投入し、1日置いて十分部活(実際には「賦活」の意と解される)させる。A上記希釈亜塩素酸ナトリウム水溶液に、亜塩素酸ナトリウム水溶液(セーバー・ケミカル社製)を同量加えた後、
水で希釈した物10Lに、クエン酸数gを投入」するというものである(甲9)。
被告は、上記@の工程によって、希釈亜塩素酸ナトリウム水溶液中に溶存二酸化塩素ガスを発生させており、上記Aの工程によって、この十分賦活化されて溶存二酸化塩素ガスを発生させた希釈亜塩素酸ナトリウム水溶液に、亜塩素酸ナトリウム水溶液(pH9以上のアルカリ性であるため溶存二酸化塩素ガスは存在していない。)及びクエン酸を加えることにより、溶存二酸化塩素ガス、亜塩素酸塩及び酸性に保つpH調整剤(クエン酸)という3種類の構成成分を一定の酸性状態で配合して被告液剤を製造している。
そうすると、被告液剤は、二酸化塩素が液剤中において本来の状態である二酸化塩素ガスの状態で溶解している「純粋二酸化塩素液剤」であるから、本件発明1の構成要件Aの「二酸化塩素ガス」の構成及び構成要件Bの「純粋二酸化塩素液剤」の構成を備えている。
イ 被告ディー・エム・シーの特許出願に係る特開2000-63217号公開特許公報(甲7)及び、被告プラウトの代表取締役Xの特許出願に係る特開2000-211901号公開特許公報(甲8)に記載された発明は、いずれも亜塩素酸塩及び酸性に保つpH調整剤の2種類に加えて溶存二酸化塩素ガスを不可欠の構成成分とし、かかる3種類の構成成分を一定の酸性状態で配合するという方法により、二酸化塩素が持続的かつ高濃度に発生する液剤及びかかる液剤を含有したゲル状組成物という、本件発明の構成に、塩素酸を付加するなどして本件発明を利用したものであるから、これらの発明の実施品である被告製品は、本件発明1の技術的範囲に属する。
【被告らの主張】 (1) 二酸化塩素ガス水溶液についての公知の知見からすると、従来より、安定的に二酸化塩素ガスを発生させる化合物を含む水溶液である「安定化二酸化塩素水溶液」が存在し、その二酸化塩素はガス状で含有されているもの(溶存二酸化塩素)と、イオン化して亜塩素酸塩として含有されているものがあった。本件発明は、溶存二酸化塩素(ガス)、亜塩素酸塩及びpH調整剤を構成成分とする混合物を「純粋二酸化塩素液剤」と呼び、この「純粋二酸化塩素液剤」を用いて二酸化塩素系製剤を製造するところに発明の新規性がある。要するに、本件発明の構成要件B及びaにいう「純粋二酸化塩素液剤」とは、亜塩素酸塩水溶液中に、二酸化塩素ガスをバブリングして溶解し、併せて、酸性に保つpH調整剤を溶解して製造したものをいい、その具体的内容は、亜塩素酸リチウムを用いた「亜塩素酸塩水溶液」に二酸化塩素ガスを溶解させた水溶液(二酸化塩素ガス水溶液)を混合させて製造したパスタライズ株式会社(以下「パスタライズ」という。)製造に係る「SG液」のことである。
「溶存二酸化塩素ガス」「亜塩素酸塩」「pH調整剤」を使用して二酸化塩素ガスを発生させる二酸化塩素系製剤に該当するものがすべて本件発明に抵触するというのであれば、現在市販されている他社の二酸化塩素系製剤はすべて本件発明と同一性を有するものといわざるを得ず、そのような結論が不当であることは論をまたない。
(2) 被告製品は、上記(1)にいう「純粋二酸化塩素液剤」(SG液)を使用しておらず、従来の「安定化二酸化塩素水溶液」を用いる技術の範囲内に止まるものであるから、本件発明の技術的範囲に属しない。
2 争点(2)(被告ゲル剤は、本件発明2の構成要件aを充足するか) 【原告の主張】 被告ゲル剤は、前記1【原告の主張】で述べた方法により製造された被告液剤を含有したゲル状組成物であるから、溶存二酸化塩素ガス、亜塩素酸塩及び酸性に保つpH調整剤を構成成分に有する純粋二酸化塩素液剤を含有する。したがって、被告ゲル剤は、本件発明2の構成要件aを充足する。
【被告らの主張】 被告ゲル剤がpH調整剤を構成成分に有することは認めるが、その余は争う。被告ゲル剤が本件発明2の「純粋二酸化塩素液剤」を含んでいないことは、前記1【被告らの主張】で述べたところと同じである。
3 争点(3)(原告の損害額)について 【原告の主張】 (1) 実施料相当損害金(特許法102条3項) ア 前記第2の1(7)のとおり、被告ディー・エム・シーの平成12年9月14日(本件特許権の登録日)から平成14年8月末までの別紙商品目録(1)ないし(5)記載の商品(イ号物件及びハ号物件)の売上げは237万3000円であり、
被告プラウトの平成12年9月14日から平成14年8月末までの別紙商品目録(6)及び(7)記載の商品(ロ号物件及びニ号物件)の売上げは、402万5447円である。
イ 原告は、被告らの売上高に実施料率5%を乗じた実施料相当額の損害を被った。すなわち、原告は、被告らが共同してイ号物件及びハ号物件(別紙商品目録(1)ないし(5))を製造、販売したことにより実施料相当額として11万8650円、被告プラウトがロ号物件及びニ号物件(別紙商品目録(6)及び(7))を販売したことにより、実施料相当額として20万1282円の損害を被った。
(2) 弁護士費用 100万円 (3) よって、原告が被告らに請求できる金額は、次のとおりの金額と遅延損害金である(ただし、請求額は、訴状記載の金額(請求欄記載のもの)を維持する。)。
ア 被告ら(連帯) 111万8650円 イ 被告プラウト 20万1272円 【被告らの主張】 被告らの平成12年9月から現在までの被告製品の売上額は認めるが、その余は争う。
当裁判所の判断
1 争点(1)(被告液剤は、本件発明1の構成要件Aの「溶存二酸化塩素ガス」との構成及び構成要件Bの「純粋二酸化塩素液剤」との構成を備えているか)及び争点2(被告ゲル剤は、本件発明2の構成要件aを充足するか)について (1) 本件発明1の構成要件B及び本件発明2の構成要件aにいう「純粋二酸化塩素液剤」の意義について ア 本件明細書の特許請求の範囲請求項1及び7の記載によれば、本件発明1の構成要件B及び本件発明2の構成要件aにいう「純粋二酸化塩素液剤」は、
「溶存二酸化塩素ガス」、「亜塩素酸塩」及び「酸性に保つpH調整剤」の3つの構成成分を含有する液剤である。
イ 本件明細書の発明の詳細な説明には、次の記載が存在する(甲1)。
(ア) 【従来の技術】の項に、「二酸化塩素ガスは、強力な酸化剤であるので、その酸化作用により、滅菌したり、また、悪臭成分を分解したりすることが知られており、そのために、二酸化塩素は、殺菌剤、消臭剤等として使用されている。かかる二酸化塩素は、水の容積の20倍解けて黄褐色の水溶液となるので、その取り扱いの観点から、水溶液の形態で用いることが望まれるが、二酸化塩素水溶液は、空気と触れると、二酸化塩素ガスを急激に発生させる。そこで、二酸化塩素ガスを過酸化炭酸ナトリウム(Na2C 2O 6)水溶液に溶解させて亜塩素酸ナトリウム(NaClO2)を主成分とするpH9に保持した水溶液、いわゆる安定化二酸化塩素水溶液とすることによって、安定性を維持しつつ二酸化塩素ガスを持続的に発生させることが提案されている。」(【0002】)との記載がある。
(イ) 【発明が解決しようとする課題】の項に、
a 「安定化二酸化塩素水溶液は、その安定性を維持するためにpH9のアルカリ性に保持されているので、該水溶液中では、次の式(1)に示されているように解離している。」(【0004】)、
b 「【化1】NaClO2→Na++ClO2-(1)」(【0005】)、
c 「そのために、殺菌、消臭等の作用を発現させる遊離の二酸化塩素ガスの発生が極めて少なく、十分な殺菌、消臭等の効果を達成することは、難しいという問題がある。」(【0006】)、
d 「安定化二酸化塩素水溶液にその使用直前に刺激剤を充分に添加したり、また、酸を添加してそのpHを7以下にして、二酸化塩素ガスを発生させることが提案されているが、このように安定化二酸化塩素水溶液にその使用直前に刺激剤を充分に添加したり、また、酸を添加してそのpHを7以下にしたりすることにより、該溶液を活性化することは、そのための器具、設備等を必要とするために、コストがかかるという問題がある。」(【0007】)、
e 「安定化二酸化塩素水溶液にあらかじめ刺激剤や酸を添加しておくとしても、二酸化塩素ガスの発生濃度及び発生持続性は、安定化二酸化塩素水溶液の濃度のみに依存しているので、…安定化二酸化塩素水溶液は、使用目的に応じた二酸化塩素ガスの発生濃度及び発生持続性を有する殺菌・消臭液剤とすることができないという問題がある。」(【0008】)、
f 「本発明は、かかる問題を解決することを目的としている。即ち、
本発明は、溶存二酸化塩素を、高濃度に含有させることができると共に、高濃度から低濃度にいたる濃度に自由に調節して含有させることができ、しかも、略一定の薬効濃度に維持された二酸化塩素ガスを長時間継続して放出させることができる純粋二酸化塩素液剤、これを含有するゲル状組成物…を低コストで提供することを目的としている。」(【0011】) との各記載がある。
(ウ) 本件発明の作用については、次の記載がある。
a 「二酸化塩素ガスを水に溶解した場合の平衡反応及び平衡定数は、
例えば、次の式(2)及び(3)でそれぞれ示される。」(【0063】)、
b 「【化2】 2ClO2+H 2O HClO 2+HClO 3(2)」(【0064】)、
c 「【化3】 〔HClO2〕〔HClO3〕 ─────────────── =1.2×10-7(20℃)(3) 〔ClO2〕 (【0065】)、
d 「上記式(2)及び式(3)により、二酸化塩素ガス(ClO2)は、常温では圧倒的に溶存二酸化塩素として存在する。」(【0066】)、
e 「かかる溶存二酸化塩素の水溶液に亜塩素酸塩及び酸性に保つpH調整剤として、それぞれ、亜塩素酸リチウム及びクエン酸を添加すると、該液のpHが酸性に保持されると共にそのpHの急激な変化が抑制される。そのために、亜塩素酸リチウムは、クエン酸が存在によって、次の式(4)に示されるように、水中で電離して亜塩素酸を生成する。」(【0067】)、
f 「【化4】 LiClO2+H+→Li++HClO2(4) 」(【0068】)、
g 「このように、亜塩素酸が生成すると、平衡状態にある式(2)においては、反応が←方向、即ち、左方向に進行することとなるので、二酸化ガス水溶液に亜塩素酸リチウム及びクエン酸がそれぞれ存在すると、上記溶存二酸化塩素ガスの最大濃度の2900ppm以下では、溶存二酸化塩素ガス濃度が増大することとなる。そのために、本発明の『純粋二酸化塩素液剤』は、溶存二酸化塩素を高濃度に含有することができる。」(【0069】)、
h 「さらに、式(2)における4種の化合物の内で、ClO2が最も反応性が高く且つ水溶液中から揮発しやすい…ために、式(2)における反応が←方向、即ち、左方向に進行することとなるので、溶存二酸化塩素の減少が亜塩素酸リチウム由来の亜塩素酸によって常に補充されることになる。」(【0070】)、
i 「しかも、クエン酸は、本発明の純粋二酸化塩素液剤のpHを酸性にするのみならず、pHの急激な低下を抑制するバッファーとして働き、上記式(4)において、亜塩素酸リチウムから亜塩素酸への急激な変化を抑えて、式(2)における溶存二酸化塩素の急激な放出増加による該液剤の抗菌、消臭等に係わる効力の持続性の減少を抑制する。」(【0071】)、
j 「したがって、本発明の『純粋二酸化塩素液剤』によれば、溶存二酸化塩素を、高濃度に含有することができると共に、高濃度から低濃度にいたる濃度に自由に調節して含有させることができ、しかも、該溶存二酸化塩素を放出しても補充させることによって略一定の薬効濃度に維持された二酸化塩素ガスを長時間継続して放出させることができ、しかも、溶存二酸化塩素の急激な放出増加による該液剤の抗菌、消臭等に係わる効力の持続性の減少を抑制することができる。このような本発明の『純粋二酸化塩素液剤』の優れた作用は、本発明の『ゲル状組成物』…においても、同様に発揮される。」(【0072】) との各記載がある。
(エ) 【発明の効果】の項には、「本発明によれば、溶存二酸化塩素を、
高濃度に含有することができると共に、高濃度から低濃度にいたる濃度に自由に調節して含有させることができ、しかも、略一定の薬効濃度に維持された二酸化塩素ガスを長時間継続して放出させることができる純粋二酸化塩素液剤、これを含有するゲル状組成物…を低コストで提供することができる。」(【0076】)との記載がある。
ウ 本件発明の出願経過をみると、平成12年6月27日付けで、特許庁審査官から、「純粋二酸化塩素ガス」なる表現における「純粋」の意味するところが不明である点で特許法36条6項2号の規定を満たしていないことを理由の一つとする拒絶理由通知がされた(甲11)。これに対し、出願人である原告は、同年7月10日、上記「純粋」とは、純度の高いものを意味するのではなく、二酸化塩素が液剤中において本来の状態である二酸化塩素ガスとして存在すること、すなわち、従来技術である「安定化二酸化塩素」のように亜塩素酸ナトリウムに形を変えることなく、液剤中において溶存二酸化塩素ガスの状態で存在することを意味する旨の意見書を提出し、その結果、本件出願は、同年7月28日特許査定を受け、同年9月14日特許登録された(甲2、3)。
エ 以上のような本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願経過参酌すれば、本件発明1の構成要件B及び本件発明2の構成要件aにいう「純粋二酸化塩素液剤」とは、二酸化塩素が液剤中において本来の状態である二酸化塩素ガスとして存在すること、すなわち、亜塩素酸ナトリウムに形を変えることなく、液剤中に溶存二酸化塩素ガスを含有することを意味するものと解される。本件発明は、溶存二酸化塩素ガス、安定化二酸化塩素水溶液及び酸性に保つpH調整剤の3種類を一定の酸性状態で配合することにより、液剤から溶存二酸化塩素が消費されると、
液剤に含有される亜塩素酸から化学平衡的に二酸化塩素が補充され、二酸化塩素ガスが順次自動的に補充供給されることから、略一定の薬効濃度に維持された二酸化塩素ガスを長時間維持することができるようにしたところにその特徴がある発明というべきである。
この点について、被告らは、「純粋二酸化塩素液剤」とは、亜塩素酸塩水溶液中に二酸化塩素ガス水溶液をバブリングして溶解し、併せて、酸性に保つpH調整液を溶解して製造したものに限られる、その具体的内容は、亜塩素酸リチウムを用いた「亜塩素酸塩水溶液」に二酸化塩素ガスを溶解させた水溶液(二酸化塩素ガス水溶液)を混合させて製造したパスタライズ製造に係る「SG液」のことであると主張する。しかし、本件発明の「純粋二酸化塩素液剤」にいう「純粋」とは、上記イ及びウで認定した事実からすれば、二酸化塩素が液剤中において本来の状態である二酸化塩素ガスとして存在することを意味し、本件明細書の【0057】ないし【0061】に記載された実施例1ないし5の製法により製造されたものに限定されるものではなく、パスタライズ製の「SG液」なる特定の液剤に限定される根拠もないから、上記被告らの主張は失当である。
(2) 被告製品について ア 被告液剤について 被告ディー・エム・シー作成に係る商品名「プロプレミスト(10L)」(別紙商品目録(2)・イ号物件)の製造方法説明書(甲9)には、液剤である同商品の製造方法として、「まず、前もって、亜塩素酸ナトリウム水溶液(セーバー・ケミカル社製)を希釈した物に、クエン酸数gを投入し、1日置いて十分部活(賦活の誤記と認める。)させる。上記希釈亜塩素酸ナトリウム水溶液に、亜塩素酸ナトリウム水溶液(セーバー・ケミカル社製)を同量加えた後、水で希釈した物10Lに、クエン酸数gを投入したものをバッグインBOXで出荷しています。」と記載されていることが認められるから、同商品の製造方法はこのとおりであると推認される。
そして、亜塩素酸ナトリウムを希釈した水溶液にpH調整剤であるクエン酸数gを投入し、1日置いて十分賦活させた場合には、当該水溶液中には二酸化塩素ガスが発生し、液剤中において、二酸化塩素が本来の二酸化塩素ガスとして存在することになるものと考えられる。
そうすると、上記「プロプレミスト」(別紙商品目録(2)・イ号物件)は、溶存二酸化塩素ガス、亜塩素酸塩(亜塩素酸ナトリウム)及び酸性を保つpH調整剤(クエン酸)の3成分を構成成分とする液剤であり、本件発明1の構成要件Bの「純粋二酸化塩素液剤」に当たるものと認められる(被告液剤が亜塩素酸塩及び酸性を保つpH調整剤を構成成分に有することは、当事者間に争いがない。)。
したがって、「プロプレミスト」(別紙商品目録(2)・イ号物件)は、本件発明1の構成要件Aの「溶存二酸化塩素ガス」との構成及び構成要件Bの「純粋二酸化塩素液剤」との構成を備えており、本件発明1の技術的範囲に属する。そして、「プロプレミスト」以外の被告液剤についても、他に特段の反証もないから、
同様の製造方法で製造されているものと推認でき、同じく、本件発明1の技術的範囲に属するものと認められる。
イ 被告ゲル剤について (ア) 被告液剤の製造方法が上記のようなものであるとすれば、高吸水性樹脂を含有するゲル状組成物である被告ゲル剤は、上記方法で製造された「純粋二酸化塩素液剤」を用いてゲル状組成物にしたものと推認されなくもない(本件明細書の実施例の記載(【0046】)では、【0045】記載の方法で調製された純粋二酸化塩素液剤を高吸水性樹脂(粉末)に添加し、これらを室温で十分に攪拌して製造されるとされている。)。被告液剤も被告ゲル剤も、同じく被告プラウトが製造しているのであるから、同被告が被告ゲル剤の製造過程で利用する液剤について、被告液剤と異なった製造方法を用いる合理的理由があるのか疑わしい。
しかし、他方、被告ディー・エム・シー作成に係る上記製造方法説明書(甲9)には、商品名「プロプレゲル(40g・150g)」(別紙商品目録(1)の「プロプレ(S)」「プロプレ(M)」〔ハ号物件〕と同じ。)の製造方法として、「亜塩素酸ナトリウム水溶液(セーバー・ケミカル社製)を水で希釈した希釈液を、高吸収性樹脂に含ませ、AS樹脂に封入した物。クエン酸は使用していません。」と記載されていることが認められ、クエン酸(pH調整剤)を用いていない点などで、一見すると上記アとは異なっている。甲9記載の上記製造方法によって製造された場合、上記「プロプレゲル」(ハ号物件)は、上記「プロプレミスト」とは異なり、亜塩素酸ナトリウム水溶液中に二酸化塩素ガスが発生することはなく、溶存二酸化塩素ガスを構成成分とする「純粋二酸化塩素液剤」の構成を具備していないようにも見える(構成要件aの「溶存二酸化塩素ガス」及び「酸性に保つpH調整剤」の構成も備えていない。)。もっとも、被告ゲル剤がpH調整剤を構成成分に有することは当事者間に争いがないから、この点で既に甲9記載の「プロプレゲル」の製造方法は、被告ゲル剤の製造方法と異なっていると考えられる。
(イ) 証拠(甲6の1ないし3)によれば、被告ディー・エム・シーが配布しているプロプレシリーズの商品パンフレット(甲6の1)では、ゲル剤である「プロプレ(S)」、「プロプレ(M)」(別紙商品目録(1)・ハ号物件)について、「プロプレシリーズにつきましては、製品とその用途に関して特許出願しております。」と記載されていること、2001年(平成13年)3月14日時点で、
インターネット上で、ゲル剤である「ネオテック」(別紙商品目録(4)・ハ号物件)の広告中に、「特許出願中」「純粋CLO2(二酸化塩素)配合」等の宣伝がされており(甲6の1)、「ネオテック」の発売元である株式会社ジェネシスの商品パンフレット(甲6の3)にも、「純粋CLO2水溶液」「特許出願中」等の宣伝がされていることいること、被告プラウトが開設しているインターネットホームページには、2001年(平成13年)11月22日時点で、ゲル剤と液剤を含む「ピュアシリーズ」(別紙商品目録(3)・(6)・(7)、ハ号・ニ号・ロ号物件)の商品紹介が掲載され、「ピュアシリーズは、世界特許PureCLO2(純粋二酸化塩素水溶液)を成分とし…」、「ピュアシリーズの製品は、特許(出願中)の国内技術により、高い安全性と長期間効力を発揮する、世界に例のない製品として誕生しました。」等の宣伝がされていること(甲6の2)が認められる。
(ウ) 証拠(甲7、8、15)によれば、被告ディー・エム・シー及び被告プラウト代表者は、それぞれ次の発明の特許出願を行っていることが認められる。
すなわち、被告ディー・エム・シーは、発明の名称を「徐放性がありかつ保存安定性に優れた二酸化塩素含有液剤」とする発明について、平成10年6月11日に特許出願を行い、平成11年5月28日、上記出願につき優先権主張をして特許出願をし、平成12年2月29日に出願公開(特開2000-63217号)された(以下、この公開公報を「被告公開公報1」といい、その発明を「被告発明1」という。)。また、被告プラウト代表取締役Xは、発明の名称を「二酸化塩素含有ゲル状組成物とその製造方法及びその保管方法並びに二酸化塩素含有ゲル状組成物の充填体と二酸化塩素含有ゲル状組成物の充填体収納袋及び二酸化塩素含有ゲル状組成物収納容器」とする発明(以下「被告発明2」という。)について、
平成11年6月15日に特許出願(優先権主張日平成10年11月17日)し、平成12年8月2日に出願公開(特開2000-211901号)された(以下、この公開公報を「被告公開公報2」という。)。
そして、前記第2の1(3)、(4)のとおり、被告製品は、いずれも被告プラウトが製造したものであり、イ号及びハ号物件を被告プラウトが被告ディー・エム・シーに卸販売し、ロ号及びニ号物件を被告プラウトが自ら消費者に販売しているものであることに照らせば、上記のホームページやパンフレットに記載された「出願中の特許」とは、被告発明1又は被告発明2のいずれか(あるいはその双方)を意味し、被告製品は、被告発明1又は被告発明2の実施品である可能性が高いと推認できる。
(エ) 被告発明1について 被告公開公報1(甲7)の特許請求の範囲は、「溶存二酸化塩素ガス、塩素酸および/または塩素酸塩、亜塩素酸塩およびpH調整剤を含有する二酸化塩素含有液剤。」(請求項1)、「溶存二酸化塩素ガス、塩素酸および亜塩素酸塩を含有する二酸化塩素含有液剤。」(請求項2)、「請求項1〜6いずれかに記載の二酸化塩素含有液剤およびゲル剤を含有する二酸化塩素含有ゲル状組成物。」(請求項7)などというものである。
まず、請求項1の記載を本件発明と比較すると、@被告発明1の請求項1では、本件発明の配合成分である「溶存二酸化塩素ガス、亜塩素酸塩及びpH調整剤」の3つの構成成分に加え、「塩素酸および/または塩素酸塩」を更に配合していること、A本件発明では「純粋二酸化塩素液剤」とされているのに対し、被告発明1の請求項1では「二酸化塩素含有液剤」とされていることの2点に相違点があるといえる。
しかし、本件発明にいう「純粋二酸化塩素液剤」が、二酸化塩素が液剤中において本来の状態である二酸化塩素ガスとして存在すること、すなわち亜塩素酸ナトリウムに形を変えることなく、液剤中に溶存二酸化塩素ガスを含有するものであることは、前記(1)エで詳述したとおりであり、本件発明にいう「純粋二酸化塩素液剤」は、被告発明1の請求項1にいう「二酸化塩素含有液剤」と何ら異なるものではない。
そうすると、被告発明1の請求項1が本件発明と実質的に異なる点は、「塩素酸および/または塩素酸塩」が添加されている点のみとなる。
被告公開公報1(甲7)の【発明の詳細な説明】には、「二酸化塩素は熱安定性が悪く極めて不安定な物質であるため、二酸化塩素の金属塩を溶解させ水溶液の形態(「安定化二酸化塩素」と呼ばれている)で使用し、二酸化塩素自体の不安定性の問題を回避しようとする試みが行われている。二酸化塩素の金属塩としては、亜塩素酸ナトリウムあるいは亜塩素酸リチウム等があり、例えば亜塩素酸ナトリウムを例にとると、それは水溶液中では以下のように電離している。NaClO2→Na++ClO 2- 」(【0004】)、「ここで、このような安定化二酸化塩素を殺菌剤あるいは消臭剤として使用しようとする場合、殺菌および消臭等の成分である亜塩素酸イオンは、その酸化力が二酸化塩素ガスより劣るため、殺菌力および消臭力等も二酸化塩素ガスより劣る。また、係る溶液から発生する二酸化塩素ガスの発生量は極めて少量であり、十分な殺菌および消臭効果を期待することができない。」(【0005】)という、前記(1)イ(イ)で認定した本件発明の課題と全く同一の課題が記載されている。
しかも、上記発明の詳細な説明には、溶存二酸化塩素ガス、亜塩素酸塩及びpH調整剤に加え、塩素酸あるいは亜塩素酸を加えることの意義について、
「本発明の二酸化塩素含有液剤は保存安定性に優れており、しかも、その効果に徐放性、持続性があり、長期にわたって二酸化塩素の有する抗菌、消臭効果を得ることができる。効果の徐放性、持続性は、液剤から溶存二酸化塩素が消費されると、
液剤に含有されている塩素酸(塩素酸塩)および/または亜塩素酸塩から化学平衡的に二酸化塩素が補充されるためと考えている。」(【0018】)、「本発明の溶存二酸化塩素含有液剤は、ゲル剤に吸収させて使用しても良い。…ゲル状にすることにより効果の徐放性、持続性をより向上させることができる。ゲル剤としては高吸水性ポリマー、例えば合成ポリマー、デンプン系ポリマー、セルロース系ポリマー等種々の高吸水性ポリマーが使用できる。高吸水性ポリマーが酸性の場合は、
本発明の二酸化塩素含有液剤は酸性に調整していなくてもよい。酸性の高吸水性ポリマーにpH調整剤の役割を兼ねさせることができる。」(【0019】)との各記載があり、被告発明1では、塩素酸および/または塩素酸塩の存在下でも、亜塩素酸からも化学平衡的に二酸化塩素が補充されることにより、効果の徐放性、持続性が維持されることが想定されている。しかし、塩素酸塩の解離が亜塩素酸塩の解離に常に先行すると認めるに足りる証拠はないし、仮に塩素酸塩の解離が先行するとしても、液剤の酸性が維持される、すなわち液剤中にH+が残存している限り、引き続き亜塩素酸塩の解離に起因する反応式「2ClO2+H 2O HClO2+HClO 3(本件明細書の発明の詳細な説明中の(2)式)の左方向への平衡反応は発生するのであるから、亜塩素酸塩に起因する平衡反応の機構は、被告発明1においても残されているといえる。
さらに、上記発明の詳細な説明には、実施例1として、「溶存二酸化塩素ガス2500ppm含有する水溶液250mlに、亜塩素酸ナトリウムを5%含有する水溶液749mlを加えた。このものに塩素酸ナトリウムを5%含有する水溶液1mlを加え、さらにクエン酸3g加えて室温で30分撹拌した。このものを二酸化塩素含有液剤とした。」(【0031】)との記載があり、実施例1における亜塩素酸ナトリウムと塩素酸ナトリウムの配合比(749:1)からすると、
被告発明1においては、主として多量成分である亜塩素酸塩から化学平衡的に二酸化塩素が補充されることが意図されていると考えられる。
したがって、被告発明1の請求項1における「塩素酸および/または塩素酸塩」は、単なる付加であり、被告発明1の請求項1は本件発明を利用するものというべきである。また、請求項3は、「溶存二酸化塩素ガス、塩素酸塩、亜塩素酸塩およびpH調整剤を含有する二酸化塩素含有液剤」というものであるから、
請求項1について述べたことがそのまま当てはまる。
次に、被告発明1の請求項2についてみると、本件発明と比較して、
@塩素酸を構成成分に加えていること、ApH調整剤が構成成分に入っていないこと、B「二酸化塩素含有液剤」とされていて「純粋二酸化塩素液剤」とされていないことの3点で本件発明と異なっている。このうち、@とBは既に被告発明1の請求項1について述べたところと同じである。BのpH調整剤は構成成分に入っていない点についてみると、被告公開公報1の発明の詳細な説明中に「pH調整剤としてはリン酸二水素ナトリウム、…クエン酸、…等が使用できる。このpH調整剤は最終的に得られる本発明の液剤を酸性、好ましくはpHを2〜7にするために添加されるものである。塩素酸が含まれる場合には、本発明の液剤が最終的に酸性を示しておれば、上記pH調整剤の添加は必ずしも必要ではない。」(【0012】)とされているところから明らかなように、請求項2では、塩素酸を加えることにより液剤が酸性を示すようにし、pH調整剤を不要としたものと解される。しかし、
実施例では、pH調整剤を加えないで被告発明1の二酸化塩素含有液剤を製造する例は示されていないし、被告製品が塩素酸を加えていることを認めるに足りる証拠もない(加えて、被告ゲル剤がpH調整剤を構成成分に有することは、被告らが自認するところである。)。
被告発明1の請求項7の「二酸化塩素含有ゲル状組織物」については、上記のとおり、「請求項1〜6いずれかに記載の二酸化塩素含有液剤およびゲル剤を含有する」とされているところ、請求項1ないし3は上記のとおりであり、
請求項4〜6は、請求項1〜3の塩素酸塩、亜塩素酸塩ないしpH調整剤をより限定したものであり、また、請求項7にいう「ゲル剤」は、被告公開公報2の発明の詳細な説明の前記【0019】の記載を参酌すると、本件発明2にいう「高吸水性樹脂」に相当するものと認められる(被告ゲル剤が高吸水性樹脂を含有することは、当事者間に争いがない。)。したがって、結局、被告ゲル剤が被告発明1の実施品であるとすれば、被告ゲル剤は本件発明2の構成要件aを充足し、その技術的範囲に属するものというべきである。
(オ) 被告発明2について 被告公開公報2(甲8)によれば、被告発明2は、発明の名称及び「二酸化塩素を安定に長時間放出可能で製造及び取り扱いが容易な二酸化塩素含有ゲル状組成物とその充填体等を提供する。」(【要約】の欄の【課題】)と記載されていることから分かるように、二酸化塩素含有のゲル状組成物及びそれに関連する発明を内容とするものであり、特許請求の範囲請求項1は、「亜塩素酸塩の水溶液を高吸収性樹脂に吸収させてなる二酸化塩素含有ゲル組成物。」である。この請求項1は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された従来技術(【0002】、
【0003】)である「安定化二酸化塩素水溶液」を含むゲル状組成物と同じものであり、本件発明2の技術的範囲に属するものとはいえない。また、これは、甲9に記載された「プロプレゲル」の製造方法(前記(ア))と同様のものといえる。
しかし、請求項1自体は、従来技術そのものであって、特許性を備えていないことが明らかであるし、被告プラウトは、前記のとおり自らが開設しているホームページにおいて、「ピュアシリーズ」に関する商品紹介の中で、ゲル状組成物「ピュアマジック」(別紙商品目録(3)・ハ号物件)等について、従来品である安定化二酸化塩素製剤を超える性能を宣伝していることに加え、「ピュアシリーズ」の解説中で、「純粋二酸化塩素と安定化二酸化塩素の違いについて」として、
「二酸化塩素の効用が認められ、最近では安定化二酸化塩素(NaCLO2)を用いた抗菌スプレーなどもありますが、これもCLO2とは別物質です。NaCLO 2から出るCLO 2はごくわずかで、効力も低く、即効性もありません。当社ではCLO2=NaCLO 2という誤解が生じないようPureCLO 2(純粋二酸化塩素)という独自性を全面に表示しています。」と記載し、被告プラウト製造販売に係る「ピュアシリーズ」の商品が、従来品である安定化二酸化塩素とは異なる「純粋二酸化塩素」を用いていることを宣伝広告していることが認められる(甲6の2)。これらの事実からすれば、被告プラウトによる被告ゲル剤の製造方法が被告発明2によっているものとしても、被告ゲル剤が請求項1と同じものとは考えられない。
被告公開公報2(甲8)の特許請求の範囲の他の請求項をみると、請求項5ないし8は「二酸化塩素含有ゲル状組成物の製造方法」に関する発明であるところ、これらはいすれも、亜塩素酸塩を含有する水溶液と高吸水性樹脂を構成に有し、pH6.0〜6.5に調整されており、さらに、請求項6ないし8は、いずれもpH調整剤を添加している(請求項5は、塩素酸を含む水溶液を用い得る構成になっている。)。そして、これらのうちで、最も詳細な構成を記載した請求項8は、「所定の高濃度の亜塩素酸塩含有水溶液を希釈して所望の濃度にし、この後pH調整剤を添加し所定時間放置して上記水溶液中の二酸化塩素が放出されやすい状態にした第一の水溶液を形成するとともに、溶存二酸化塩素ガスを有し高濃度の亜塩素酸塩含有水溶液である第二の水溶液を形成し、上記第一の水溶液と第二の水溶液とを混合し、pHを6.0〜6.5に調整し、このpH調整した混合液剤を高吸収性樹脂に吸収させる二酸化塩素含有ゲル状組成物の製造方法。」というものであり、発明の詳細な説明参酌すると、被告ゲル剤が被告発明2の方法で製造されているとすれば、請求項8の方法が用いられている可能性が高く、そうでないといしても、請求項6又は7の方法が用いられているものと推認される。
しかるところ、高濃度の亜塩素酸塩水溶液を希釈したものにクエン酸等のpH調整剤を投入し、所定時間放置して賦活させた場合、当該水溶液中には二酸化塩素ガスが発生し、液剤中において二酸化塩素が本来の二酸化塩素ガスとして存在することになるから、本件発明2の構成要件aにいう「純粋二酸化塩素液剤」の構成を具備することになることは、上記アで詳述したとおりである。そうすると、被告発明2の請求項6ないし8の方法によって製造されるゲル状組成物は、いずれも、本件発明2の構成のゲル状組成物と異なるものではなく、ことに、上記のような構成で二酸化塩素ガスが放出されやすい状態にした第一の水溶液と、溶存二酸化塩素ガスを有する高濃度の亜塩素酸塩含有の第二の水溶液とを混合する請求項8の方法で得られるゲル状組成物は、本件発明2そのものであるといえる。
したがって、被告ゲル剤が被告発明2の実施品(請求項6ないし8の方法で製造されるゲル状組成物)であったとしても、被告ゲル剤は、本件発明2の構成要件aを充足し、その技術的範囲に属することになる。
ウ 以上をまとめると、被告液剤は、甲9に記載された「プロプレミスト」の製造方法で製造されていると認められ、この製造方法によって製造された被告液剤は、本件発明1の技術的範囲に属する。また、被告ゲル剤は、被告液剤と同じ方法で製造された液剤を用いてゲル状組成物とされた可能性が否定できない(その場合は、被告ゲル剤は本件発明2の技術的範囲に属する。)が、そうでないとしても、被告ゲル剤は、被告発明1又は2の方法で製造されていると推認され、やはり、本件発明2の技術的範囲に属する(なお、「プロプレミスト」以外の被告液剤が甲9に記載された製造方法で製造されていると断定できないとしても、その場合は、被告発明1の方法で製造されているものと推認すべきであるから、やはり、本件発明1の技術的範囲に属する。)。
(3) したがって、原告は、被告ディー・エム・シーに対しては、イ号物件及びハ号物件の販売の差止め及び廃棄を求めることができ、被告プラウトに対しては、
被告製品の製造、販売の差止め及び廃棄を求めることができる。なお、原告は、被告らに対し頒布の禁止も求めているが、販売以外の発明の実施に該当する頒布行為の内容は明らかでなく、現にそのような行為をしているか、又はするおそれがあることの主張立証もないから、この部分は認容できない。
2 争点(3)(原告の損害額)について (1) 実施料相当損害金 前記第2の1(7)によれば、平成12年9月14日(本件特許権の登録日)から平成14年8月末までの間に、被告プラウトが製造して被告ディー・エム・シーに供給し、被告ディー・エム・シーが販売した別紙商品目録(1)ないし(5)記載の商品(イ号物件及びハ号物件)の売上げは、237万3000円(このうち、平成14年6月末までの売上げは226万2340円)である。弁論の全趣旨によれば、これらの商品は、被告ディー・エム・シーが被告プラウトに製造を委託したものであり、被告両名は、これらの商品の製造販売を関連共同して行ったものと認められる。また、前記第2の1(7)によれば、被告プラウトが平成12年9月14日から平成14年8月末までの間に別紙商品目録(6)及び(7)記載の商品(ロ号物件及びニ号物件)を製造、販売したことによる売上げは402万5447円である。
弁論の全趣旨によれば、本件において原告が受けるべき実施料としては、
売上額の5%が相当であると認められる。そうすると、原告が被告らに連帯して請求することができる実施料相当損害金は、前記237万3000円の5%に当たる11万8650円(このうち、平成14年6月末までの分は11万3117円であり、それ以降の分は5533円である。)となり、原告が被告プラウトに請求できる実施料相当損害金は、前記402万5447円の5%に当たる20万1272円となる。
(2) 弁護士費用 本件事案の性質、内容、訴訟の経過、訴訟の結果等を考慮すれば、原告が被告らに請求できる弁護士費用の額は、50万円と認めるのが相当である。
(3) 以上によれば、原告は、損害賠償金として、被告らに対し61万8650円、及び内金11万3117円に対する平成14年7月1日から、内金50万5533円に対する同年9月1日から各支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を連帯して支払うこと、被告プラウトに対し20万1272円及びこれに対する平成14年9月1日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を支払うことを請求することができる。
3 以上によれば、原告の本訴請求は、主文掲記の限度で理由があるが、その余は失当である(なお、主文第1ないし第4項については、仮執行宣言を付さないことにする。)。
追加
物件目録(1)商品名「プロプレミスト」、「PAC5000S」(2)商品名「ピュアプロセス505」、「ピュアシークレット101」、「ピュアリキッド」(3)商品名「プロプレ(S)」、「プロプレ(M)」、「ネオテック」、「ピュアマジック」(4)商品名「ピュアマジック303」、「ピュアマジックプチ」、「ピュアマジックインソール」以上・商品目録(1)商品1:商品名「プロプレ(S)」(ゲル状組成物-物件目録(3)〔ハ号物件〕)商品名「プロプレ(M)」(同上〔ハ号物件〕)(2)商品2:商品名「プロプレミスト」(液剤-物件目録(1)〔イ号物件〕)(3)商品3:商品名「ピュアマジック」(ゲル状組成物-物件目録(3)〔ハ号物件〕)(4)商品4:商品名「ネオテック」(ゲル状組成物-物件目録(3)〔ハ号物件〕)(5)商品5:商品名「PAC5000S」(液剤-物件目録(1)〔イ号物件〕)(6)商品6:商品名「ピュアマジック303」(ゲル状組成物-物件目録(4)〔ニ号物件〕)商品名「ピュアマジックプチ」(同上〔ニ号物件〕)商品名「ピュアマジックインソール」(同上〔ニ号物件〕)(7)商品7:商品名「ピュアプロセス505」(液剤-物件目録(2)〔ロ号物件〕)商品名「ピュアシークレット101」(同上〔ロ号物件〕)商品名「ピュアリキッド」(同上〔ロ号物件〕)以上
裁判長裁判官 小松一雄