関連審決 | 不服2000-3837 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成17行ケ10046審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成14行ケ162審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 一致点の認定 / 優先権 / 実施 / 拒絶査定 / 請求の範囲 / |
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事件 |
平成
13年
(行ケ)
164号
審決取消請求事件
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原告 アールシーエーライセンシング コーポレイシ ヨン 訴訟代理人弁理士 伊東忠彦 同 湯原忠男 同 鈴木憲七 同 梶並順 被告 特許庁長官太田 信一郎 指定代理人 小林秀美 同 高橋泰史 同 大橋良三 同 涌井幸一 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2003/04/08 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は,原告の負担とする。 3 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が不服2000-3837号事件について平成12年12月4日にした審決を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 2 被告 主文第1,2項と同旨 |
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当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,発明の名称を「テレビジョン偏向装置」とする発明(以下「本願発明」という。)について,1986年(昭和61年)4月18日に英国においてした特許出願及び同年12月18日にアメリカ合衆国においてした特許出願に基づく優先権を主張して,昭和62年4月17日に特許出願(以下「本願出願」という。)をしたが,平成11年12月22日に拒絶査定を受けたので,平成12年3月21日,これに対する不服の審判の請求をした。特許庁は,同請求を不服2000-3837号事件として審理し,その結果,平成12年12月4日に「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本を同年12月25日に原告に送達した。なお,出訴期間として90日が付加された。 2 本願発明の特許請求の範囲 「垂直同期入力信号の信号源と, 垂直偏向巻線に上記垂直同期入力信号の周波数より高い偏向周波数で垂直偏向電流を発生する垂直偏向回路と, 上記垂直同期入力信号に応答して上記偏向周波数の周波数を有し上記垂直同期入力信号に関して位相変調された垂直制御信号を発生する手段と, 上記位相変調された垂直制御信号に応答して上記位相変調された垂直制御信号に同期した鋸波形を有する第2の信号を発生する鋸波発生器とよりなり,上記第2の信号は所定の偏向サイクルにおいて第1の方向に変化するトレース部分と上記第1の方向と実質的に逆の方向に変化するリトレース部分とを有し,上記垂直偏向回路は上記第2の信号に応答して上記垂直偏向巻線に鋸波形状の上記垂直偏向電流を発生し, 上記垂直偏向電流はトレース期間中に,上記第2の信号の上記トレース部分に対応するものであって上記位相変調された垂直制御信号に従って位相変調されるトレース部分を有し,上記垂直偏向電流は上記位相変調された垂直制御信号の位相が変化する偏向サイクルの各々において上記位相変調された垂直制御信号と同位相に維持される構成のテレビジョン偏向装置」 3 審決の理由 別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本願発明は,実願昭59-95586号(実開昭61-14572号公報)のマイクロフィルム(甲第7号証,以下,審決と同じく,「刊行物1」という。)記載の発明(以下「刊行物1発明」という。)及び特公昭54-33807号公報(甲第8号証,以下,審決と同じく,「刊行物2」という。)記載の発明(以下「刊行物2発明」という。)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項に該当し,特許を受けることができない,としたものである。 審決が上記結論を導くに当たり認定した本願発明と刊行物1発明との一致点・相違点は,次のとおりである。 (一致点) 「垂直同期入力信号の信号源と, 垂直偏向巻線に上記垂直同期入力信号の周波数より高い偏向周波数で垂直偏向電流を発生する垂直偏向回路と, 上記垂直同期入力信号に応答して上記偏向周波数の周波数を有し上記垂直同期入力信号に関した垂直制御信号を発生する手段と, 上記垂直制御信号に応答して上記垂直制御信号に同期した鋸波形を有する第2の信号を発生する鋸波発生器とよりなり,上記第2の信号は所定の偏向サイクルにおいて第1の方向に変化するトレース部分と上記第1の方向と実質的に逆の方向に変化するリトレース部分とを有し,上記垂直偏向回路は上記第2の信号に応答して上記垂直偏向巻線に鋸波形状の上記垂直偏向電流を発生し, 上記垂直偏向電流はトレース期間中に,上記第2の信号の上記トレース部分に対応するものであって上記垂直制御信号に従ったトレース部分を有し,上記垂直偏向電流は上記垂直制御信号の位相が変化する偏向サイクルの各々において上記垂直制御信号と同位相にされる構成のテレビジョン偏向装置」 (相違点) ア「上記「垂直制御信号」が,本願発明においては「位相変調された」ものであるのに対して,刊行物1発明においては「位相変調された」について,特に,明記されていない点」(以下「相違点ア」という。) イ「上記「トレース部分」が,本願発明においては「位相変調される」ものであるのに対して,刊行物1発明においては「位相変調される」について,特に,明記されていない点」(以下「相違点イ」という。) ウ「上記「垂直偏向電流は垂直制御信号と同位相にされる構成」の「同位相にされる」が,本願発明においては「同位相に維持される」のに対して,刊行物1発明においては,「維持される」について,特に,明記されていない点」(以下「相違点ウ」という。) |
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原告主張の審決取消事由の要点
審決の理由中,「第1 本件発明」,「第2 刊行物発明」は認める。「第3刊行物発明と本件発明との対比・検討」のうち,「1 刊行物発明と本件発明との対比」は,4頁34行ないし5頁7行を争い,その余は認める。「2 刊行物発明と本件発明との一致点・相違点の検討」,「3 相違点についての検討」は争う。「第4 むすび」は,争う。 審決は,刊行物1発明の認定を誤り,その結果,本願発明と刊行物1発明との相違点としなければならない点を一致点として,相違点を看過し(取消事由1),相違点ウについての判断を誤った(取消事由2)ものであり,これらの誤りがそれぞれ審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,違法として取り消されるべきである。 1 取消事由1(刊行物1発明の認定の誤りによる一致点の認定の誤り(相違点の看過)) (1) 審決は,本願発明と刊行物1発明とは,「上記垂直偏向電流はトレース期間中に,上記第2の信号の上記トレース部分に対応するものであって上記垂直制御信号に従ったトレース部分を有し,上記垂直偏向電流は上記垂直制御信号の位相が変化する偏向サイクルの各々において上記垂直偏向信号と同位相にされる」(5頁30行〜33行)点において一致する,と認定した。 しかしながら,審決は,上記一致点の認定の前提となる刊行物1発明の認定を誤っており,上記一致点に係る構成は,本願発明にあって刊行物1発明にないものであるから,この点は,両発明の相違点とされなければならない。 ア 審決は,刊行物1発明について,「(7)刊行物1の発明における「垂直偏向信号S2」は,トレース期間中に,鋸歯状波信号S1のトレース部分に対応するものであって垂直同期信号の2倍の周波数の信号に従ったトレース部分を有するから,本件発明における「垂直偏向電流」に対応する。」(審決書4頁35行〜38行)と認定した。 (ア) トレース期間の不一致 本願発明の「垂直偏向電流はトレース期間中に,第2の信号のトレース部分に対応するものであって位相変調された垂直制御信号に従って位相変調されるトレース部分を有し,」との構成は,垂直偏向電流のトレース部分の期間が第2の信号のトレース部分の期間と一致することを意味する。 刊行物1(甲第7号証)の第4図(別紙図面2参照)には,垂直出力回路(17)(第3図)における,垂直同期信号A,鋸歯状波信号S1及び垂直偏向信号S2の様子が示されている。 垂直同期信号Aは,フィールド周波数の2倍の周波数を有しかつ位相補正されたパルス信号である。 鋸歯状波信号S1は,垂直同期信号Aに基づき鋸歯状波発生器(19)で発生し,一定の傾斜で下方に変化するトレース部分と同トレース部分の終了時に開始し急峻に上方に変化するリトレース部分とを有する信号である。 垂直偏向信号S2は,鋸歯状波信号S1に基づき増幅器20,22等を介して発生し垂直偏向コイル(13V)を流れる電流信号であり,同様にトレース部分とリトレース部分とを有する。 鋸歯状波信号S1のリトレースの開始点と垂直偏向信号S2のリトレースの開始点とは一致する。しかし,鋸歯状波信号S1のリトレースは瞬時に終了するのに対し,垂直偏向信号S2のリトレースは所定時間を経過した後に終了するため,鋸歯状波信号S1のトレースの開始時点と垂直偏向信号S2のトレースの開始時点は一致せず,垂直偏向信号S2のトレースは,鋸歯状波信号S1のトレースより遅れて開始する。この遅れは,リトレースの振幅(したがって,直前のトレースの長さ)に応じて変化し一定ではない。 刊行物1の第4図(別紙図面2参照)には,垂直偏向信号S2のトレース部分と鋸歯状波信号S1のトレース部分とは一見同時に開始するよう示されている。しかし,上に述べたとおり,垂直偏向信号S2のトレース部分の開始時点と鋸歯状波信号S1のトレース部分の開始時点は一致せず,上記二つのトレース部分の開始は,同時ではない。その結果,刊行物1発明においては,垂直偏向信号S2のトレース部分の期間は,鋸歯状波信号S1のトレース部分の期間と異なるものとなり,両期間は一致しない。 刊行物1発明の「垂直偏向信号S2」は,そのトレース部分の期間において,本願発明の「垂直偏向電流」に対応していない。 (イ) 被告の主張について @ 被告は,「トレース部分の期間が異なる」との原告の主張は,特許請求の範囲の記載に基づかないものであると主張する。 しかしながら,本願発明の特許請求の範囲の「上記垂直偏向電流はトレース期間中に,上記第2の信号の上記トレース部分に対応するものであって上記位相変調された垂直制御信号に従って位相変調されるトレース部分を有し,」は,垂直偏向電流のトレース部分に関するものである。原告は,刊行物1発明の垂直偏向信号S2のトレース部分は鋸歯状波信号S1のトレース部分に対応していないことを,具体的に「トレース部分の期間が異なる」として説明したものである。 A 被告は,垂直偏向信号S2のトレース部分の開始点の遅れを理由に「トレース部分の期間が異なる」とするのは一般的ではない,と主張する。 しかしながら,鋸歯状波信号S1は垂直同期信号Aに基づいて発生し,垂直偏向信号S2は鋸歯状波信号S1に基づいて発生する。垂直偏向信号S2のトレース部分の終了点(リトレースの開始点)は,垂直同期信号Aのパルス位置によって決まるとともに鋸歯状波信号S1のトレース部分の終了点と一致しもする。そうすると,垂直偏向信号S2のトレース部分の開始点が遅れることは,同トレース部分の長さが鋸歯状波信号S1のトレース部分の長さよりも短くなることを意味する。すなわち,垂直偏向信号S2のトレース部分の期間が鋸歯状波信号S1のトレース部分の期間と異なることにほかならない。 イ 審決は,刊行物1発明について,「(9)刊行物1の発明における「垂直偏向信号S2」は,所定の偏向サイクルの各々において垂直同期信号の2倍の周波数の信号と同位相にされるから,本願発明における「垂直偏向電流」に対応する。」(5頁5行〜7行),と認定した。 (ア) パルス位置の不一致 本願発明の「垂直偏向電流は垂直制御信号の位相が変化する偏向サイクルの各々において垂直偏向信号と同位相に維持される」との構成は,少なくとも,垂直偏向電流のトレースの開始時点と垂直制御信号のパルス位置(垂直制御信号パルスの後縁の時点)とが同位相に維持されること(つまり一致していること)を意味する。 これに対し,刊行物1発明においては,垂直偏向信号S2のトレース部分の開始時点は直前のリトレースに要する時間中の所定の長さだけずれ,垂直制御信号Aの立下り時点(垂直同期信号Aのパルス位置)と一致しない。 刊行物1発明の「垂直偏向信号S2」は,そのトレースの開始点の垂直偏向信号Aのパルス位置との関係において,本願発明の「垂直偏向電流」との対応を欠くものである。 (イ) 被告の主張について @ 被告は,垂直偏向信号S2のトレースの開始点は垂直同期信号Aのパルス位置と一致しない,との原告の主張は,特許請求の範囲の記載に基づかないものであると主張する。 しかしながら,本願発明は,フリッカを減少するために垂直偏向周波数を2倍に増加した場合において,偶数フィールドを偶数フィールドに,奇数フィールドを奇数フィールドにそれぞれ完全に重ね,重ねられた偶数フィールド対と奇数フィールド対とをインターレースして表示することを課題とするものであり,本願出願の願書に添付した明細書(以下,同願書に添付した図面と併せて「本願明細書」という。)中の図5(B)(別紙図面1参照)の垂直制御信号パルスの後縁の位置からトレースが開始されて初めて同表示が可能となる。 本願発明の「対応する」や「同位相に維持される」は,上記課題を考慮して解釈されるべきである。そうすると,「同位相に維持される」は,前記のとおり,垂直偏向電流のトレースの開始時点と垂直制御信号のパルス位置(垂直制御信号パルスの後縁の時点)とが同位相である(一致する)ことを意味することが明らかである。 これに対し,刊行物1発明においては,垂直偏向信号S2のトレース部分の開始時点と垂直同期信号Aの立ち下がり時点(垂直同期信号のパルス位置)とは一致しない。 原告は,このことを,「垂直偏向信号S2のトレースの開始点は,所定の時間だけずれ,垂直同期信号Aのパルス位置と一致しない」と説明したものである。 A 被告は,刊行物1発明においても本願発明においても,信号が「同期」するのであるならば,それらの信号は「一致」するということが許される,しかし,実際には,信号処理を行う都合でわずかな遅延は避けられず,実際には完全に同期させることはできない,この場合でも,わずかな遅延は実際上無視できるので,垂直偏向電流は垂直制御信号と同位相である,ということはできるが,本願発明における垂直偏向電流と垂直制御信号とが,「同期」しているという意味で「一致」している,とする原告の主張は,誤りである,と主張する。 本願発明は,前述のとおり,フリッカを減少するために垂直偏向周波数を2倍に増加した場合において,偶数フィールドを偶数フィールドに,奇数フィールドを奇数フィールドにそれぞれ完全に重ね,重ねられた偶数フィールド対と奇数フィールド対とをインターレースして表示することを課題とするものであり,本件図面の図5(B)の垂直制御信号パルスの後縁の位置からトレースが開始されて初めて同表示が可能となる。 本願発明の「対応する」や「同位相に維持される」は,上記課題を考慮して解釈されるべきである。 そうすると,「同位相に維持される」は,垂直偏向電流のトレースの開始(トレースの開始点)と垂直制御信号(垂直偏向電流のトレースの開始時点に対応する垂直制御信号パルスの後縁の時点)とが同位相,つまり,一致することを意味することが明らかである。 2 取消事由2(相違点についての判断の誤り) 審決は,本願発明と刊行物1発明との相違点の一つ(相異点ウ・「垂直偏向電流は垂直制御信号と同位相にされる構成」の「同位相にされる」が,本願発明においては「同位相に維持される」のに対して,刊行物1の発明においては「維持される」について,特に,明記されていない点)について,「刊行物2の発明は,垂直の飛越走査がうまく行われなくなるという問題を解決するために,垂直同期信号に同期した鋸歯状波信号を発生する鋸歯状波電圧発生用スイッチングトランジスタ(2)に容量値制御回路(9)を設けて,垂直同期信号に同期して垂直偏向信号のリトレース部分(Tr)とトレース部分(Ts)との間の微小期間(Δt)にダイオードD1をON状態とすることにより,微小期間(Δt)が所定の電圧に維持される垂直出力回路でもあるから,刊行物1の発明における「垂直出力回路(17)」に代えて,刊行物2の発明を適用することは,当業者が容易になし得ることである。従って,「垂直偏向電流は垂直制御信号と同位相にされる構成」の「同位相にされる」を「同位相に維持される」とすることは,刊行物1の発明に基づいて,当業者が,適宜なし得ることである。」(審決書6頁24行〜34行)と判断した。しかし,この判断は誤りである。 (1) 動機付けの欠如 刊行物2発明における垂直偏向電流が通常周波数の垂直偏向電流であるのに対して,刊行物1発明における垂直偏向電流は,通常周波数の2倍の周波数のかつ位相補正された垂直偏向電流である。両者は,前提となる垂直偏向電流の性状において異なる。 また,刊行物2発明は,「水平偏向回路や糸巻き歪補正回路等からの帰還ループが,飛越走査に悪影響を及ぼすという問題」を解決の対象とするのに対し,刊行物1発明は,「フリッカーの減少を目的として2倍の垂直偏向周波数で表示する場合において,位相補正された垂直同期信号を用いたことに起因して垂直方向の振動(ジッター)が発生するという問題」を解決の対象とするものである。両者は解決の対象とする問題が異なる。 刊行物1発明と刊行物2発明とは,技術分野を共通にするとはいっても,前提となる垂直偏向電流の性状及び解決対象において異なるから,これらを組み合わせる動機付けがないのである。 (2) 構成の欠如 刊行物1発明の「垂直出力回路(17)」に刊行物2発明の回路を適用しても,刊行物1発明の水平周波数の信号の漏れに起因する変動を低減することができるだけであり,位相補正された垂直同期信号に起因する画像振動(ジッター),という刊行物1記載の問題を解決することはできない。すなわち,本願発明のように,「垂直偏向電流は・・・偏向サイクルの各々において・・・垂直制御信号と同位相に維持される」構成を有し,垂直偏向電流の開始時点が駆動信号の振幅の変動に影響されないようにすることはできない。 (3) 作用効果の非予測性 本願発明は,「上記垂直偏向電流はトレース期間中に,上記第2の信号の上記トレース部分に対応するものであって上記位相変調された垂直制御信号に従って位相変調されるトレース部分を有し,上記垂直偏向電流は上記位相変調された垂直制御信号の位相が変化する偏向サイクルの各々において上記位相変調された垂直制御信号と同位相に維持される」構成に基づいて,受信信号の2倍の垂直偏向周波数を有し位相変調された垂直同期信号を用いても,偶数フィールドを偶数フィールドに,奇数フィールドを奇数フィールドにそれぞれ重ね,かつ各フィールド対をインターレースして表示することができる。これは,刊行物1及び刊行物2の記載からは予測することができない作用効果である。 |
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被告の反論の要点
審決の認定,判断に誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。 1 取消事由1(刊行物1発明の認定の誤りによる一致点の認定の誤り(相違点の看過))について (1) 原告は,垂直偏向信号S2のトレース部分の開始は鋸歯状波信号S1のトレース部分の開始より遅れるため,垂直偏向信号S2のトレース部分の期間は鋸歯状波信号S1のトレース部分の期間と異なるから,刊行物1発明の「垂直偏向信号S2」は本願発明の「垂直偏向電流」に対応しない,と主張する。 しかしながら,本願発明の特許請求の範囲には,「トレース期間」との記載はあるものの,「トレース部分の期間」との記載はない。原告の「トレース部分の期間が異なる」との主張は,特許請求の範囲の記載に基づかないものである。 「期間」とは開始点と終了点との間をいうのであるから,開始点だけでなく終了点をも考慮しなければ「期間が異なる」とは言えない。原告は「開始点が遅れる」ことだけをもって「期間が異なる」と主張しているが,根拠がない。 (2) 原告は,刊行物1発明の垂直偏向信号S2は,そのトレース部分の開始点が垂直同期信号Aのパルス位置と一致しないので,本願発明の「垂直偏向電流」に対応しない,と主張する。 ア 「垂直偏向電流」と「垂直制御信号」との関係につき,本願発明の特許請求の範囲には,まず,「位相変調された垂直制御信号に同期した鋸波形を有する第2の信号」及び「垂直偏向電流はトレース期間中に,上記第2の信号の上記トレース部分に対応するものであって上記位相変調された垂直制御信号に従って位相変調されるトレース部分を有し,」と記載されている。この記載は,垂直偏向電流が,垂直制御信号に同期した鋸波形を有する第2の信号に対応することを述べているだけである。 本願発明の特許請求の範囲には,これに続き,「垂直偏向電流は上記位相変調された垂直制御信号の位相が変化する偏向サイクルの各々において上記位相変調された垂直制御信号と同位相に維持される」と記載されている。この記載は,垂直偏向電流が垂直制御信号と同位相であることを述べているだけである。 刊行物1発明においても本願発明においても,信号が「同期」する場合には,それらの信号は「一致」する,ということが許される。しかし,実際には,信号処理を行う都合でわずかな遅延は避けられず,二つの信号を完全に同期させることはできない。このような場合を「対応する」といい,このうち,遅延がわずかで実際上無視できる場合を「同位相に維持される」というのである。本願発明の特許請求の範囲にいう「同位相に維持される」は,「同期する」とは異なるから,「一致する」と同義であると解することはできない。 このように,本願発明の特許請求の範囲には,垂直偏向電流のトレース部分の開始点が垂直制御信号のパルス位置と一致することに関する記載はない。 原告の主張は,特許請求の範囲の記載に基づかないものであり,失当である。 イ 仮に,本願発明の「垂直制御信号と同位相に維持される」が「垂直偏向電流のトレース部分の開始点とパルス位置とが一致すること」を意味するものであるとしても,審決は,「垂直制御信号と同位相に維持される」点につき,相違点ウとして指摘し,その検討もしているのであるから,この点について,審決に,相違点としなければならないものを一致点としたという,認定の誤りはないというべきである。 2 取消事由2(相違点についての判断の誤り)について (1) 動機付けの欠如の主張について 原告は,刊行物1発明と刊行物2発明とは,垂直偏向電流の性状及び解決対象とする問題において異なるから,組合せの動機がないと主張する。 しかし,刊行物1発明及び刊行物2発明は,いずれも,テレビジョン信号の偏向技術に関するものである。たとい,刊行物1発明が刊行物2発明とは異なり2倍の周波数の垂直偏向信号を対象とする技術であるとしても,この技術を開発するに当たっては通常の垂直偏向信号の技術が要求されるから,上記の違いを,刊行物1発明と刊行物2発明とを組み合わせる上での阻害要因とすることはできない。 (2) 構成の欠如の主張について 原告の主張には理由がない。 (3) 効果の非予測性の主張について 原告は,本願発明は,重ねられた奇数フィールド対と重ねられた偶数フィールド対とがインターレースされて表示される主張する。 しかしながら,原告の主張は,本願発明の特許請求の範囲の記載に基づかない主張である。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(刊行物1発明の誤認による一致点の認定の誤り(相違点の看過))について (1) 原告は,本願発明の「垂直偏向電流はトレース期間中に,第2の信号のトレース部分に対応するものであって位相変調された垂直制御信号に従って位相変調されるトレース部分を有し,」との構成は,垂直偏向電流のトレース部分の期間が第2の信号のトレース部分の期間と一致することを意味し,刊行物1発明は上記構成を充足しない,と主張する。 ア 刊行物1(甲第7号証)には,次の記載がある。 (ア) 「現行のテレビ方式においては,・・・例えばCCIR方式においては,フィールド周波数は50Hzであり,この周波数ではちらつきを完全に除去できるものではなく,・・・そこで本出願人は,先に第1図(判決注・別紙図面2参照)に示すようなテレビジョン受像機を提案した」(甲第7号証1頁18行〜2頁10行) (イ) 「同図において,・・・分離回路(6)からの垂直同期信号が2逓倍回路(14)に供給されて2倍の周波数の信号とされ,この信号が位相補正回路(15)に供給される。さらに分離回路(6)からの水平垂直の同期信号がタイミング発生回路(16)に供給されて後述する所定のタイミングの信号が発生される。この信号が位相補正回路(15)に供給され,補正された信号が垂直出力回路(17)を通じて偏向コイル(13)に供給される。」(同2頁12行〜3頁18行) (ウ) 「垂直同期信号の2倍の周波数の信号が形成されると共に,上述の第1,第2副フィールドの水平走査位置が奇数フィールドの水平走査位置に等しくされ,第3,第4副フィールドの水平走査位置が偶数フィールドの水平走査位置に等しくされるように,信号の位相が補正される。」(同6頁1行〜6行) (エ) 「第1,第2副フィールド,あるいは第3,第4副フィールドでの水平走査位置が等しくなるように垂直偏向の位相が補正されているので,これによってちらつきが発生することもない。」(同6頁19行〜7頁3行) (オ) 「この第1図例によれば,・・・垂直偏向の位相が補正されるものであり,各垂直同期(判決注・「各垂直周期」の誤りと認める)はわずかずつ異なっている。」(同7頁4行〜8行) (カ) 「一方,垂直出力回路(17)は,例えば第3図に示すように構成されている。同図において,端子(18)には位相補正回路(15)で位相補正された信号(第4図Aに図示)(判決注・別紙図面2参照)が垂直同期信号として供給され,この信号は鋸歯状波発生器(19)に供給され,これよりそのピークレベル(始点レベル)が一定である鋸歯状波信号S1(第4図Bに図示)が得られる。」(同7頁9行〜15行) (キ)「この信号S1は差動増幅器(20)の非反転入力端子に供給される。…偏向コイル(13V)に垂直偏向信号S2が流される。」(同7頁15行〜8頁1行) (ク) 「このように垂直出力回路(17)が構成されているものにおいては,DC変動防止のためDC帰還をかけており,しかも上述したように各垂直周期が異なっているので,垂直偏向電流S2は,第4図Cに示すようにピークレベル(始点レベル)が一定でないものとなる。従って,垂直方向に画像の振動(ジッター)が生じる欠点がある。」(同8頁10行〜16行) (ケ) 第4図(A)には,位相補正された垂直同期信号A(上向きの矢印)が時系列に示され,同垂直同期信号Aから伸びる波線上に鋸歯状波信号S1のリトレース部分の終点及びトレース部分の始点が存在するように示され,同じく同波線上に垂直偏向信号S2のリトレース部分の終点及びトレース部分の始点が存在するように示され,さらに,鋸歯状波信号S1の始点レベルは一定であり垂直偏向信号S2の始点レベルは一定ではないことが示されている。(第4図) 刊行物1の以上の記載によれば,刊行物1発明においては,垂直偏向信号(垂直偏向電流)S2は鋸歯状波信号S1に応答して発生するものであることが明らかである。ただし,刊行物1中には,垂直偏向信号S2のトレース部分の期間が鋸状波信号S1のトレース部分の期間と一致するとの記載も,一致しないとの記載も見当たらない(甲第7号証)。 いずれにせよ,上記(ク),(ケ)の記載によれば,刊行物1発明の画像の振動(ジッター)は,鋸歯状信号S1のトレース部分の始点レベルが一定である一方,垂直偏向信号S2のトレース部分の始点レベルが一定でないものになることにより,垂直方向に生じるものである。すなわち,刊行物1発明の垂直偏向信号S2のトレースは,仮に,本来の時点から開始したとしても,本来の地点とは異なる地点から開始する(始点レベルが一定でない)ことが明らかである。そうだとすると,刊行物1発明における垂直偏向信号S2のトレース部分の期間と鋸歯状波信号S1のトレース部分の期間は,開始地点も含めて考えると,結果的に一致しないと解することも可能である。 イ しかしながら,そもそも,本願発明の「垂直偏向電流はトレース期間中に,第2の信号のトレース部分に対応するものであって位相変調された垂直制御信号に従って位相変調されるトレース部分を有し,」との構成は,原告の主張する垂直偏向電流のトレース部分の期間が第2の信号のトレース部分の期間と一致することのみを意味する,と解釈することはできないというべきである。 「対応」は,一般的に,「@互いに向き合うこと。相対する関係にあること。A両者の関係がつりあうこと。B相手や状況に応じて事をすること。」(広辞苑第5版参照),「@互いに向かい合っていること,A二つの物事が互いに一定の関係にあること,B相手に応じて物事をすること。」(大辞林参照)を意味する語であって,両者が一致する場合のみを指す語でないことが明らかである。 本願明細書(甲第6号証参照)中には,垂直偏向電流と第2の信号との関係について,上記特許請求の範囲中の記載のほかには,「上記垂直偏向回路は上記第2の信号に応答して上記垂直偏向巻線に鋸波形状の上記垂直偏向電流を発生し,」(特許請求の範囲),「第2の信号に従って鋸波形を有する偏向電流が,偏向巻線に供給される。この偏向電流は,トレース期間中,第2の信号の第1部分に対応しうるトレース部分を有する。」(段落【0005】)との記載があるのみで,他に両者の関係についての記載はない。本願明細書のこの記載状況によれば,本願発明の特許請求の範囲中の「垂直偏向電流はトレース期間中に,第2の信号のトレース部分に対応するものであって位相補正された垂直制御信号に従って位相補正されるトレース部分を有し」との構成中の「対応する」とは,垂直偏向電流が第2の信号に応答して発生するものであるという意味において,両者の各トレース部分が互いに関係するものであることを示すにすぎないと解釈すべきであり,「開始点の一致」をも含めた「各トレース部分の期間が一致する」との意味に限定して解釈すべき根拠はない。 たとい,刊行物1発明の垂直偏向信号S2のトレース部分の期間が鋸歯状波信号S1のトレース部分の期間と一致しないとしても,このことを理由として,前記刊行物1発明の認定及びこれに基づく一致点の認定が誤りであるとすることはできない。審決による一致点の認定を誤りとする原告の主張は,本願発明の特許請求の範囲の記載に基づくことなく本願発明を特定した上でこれと刊行物1発明とを対比せよ,というに等しいものであり,採用することができない。 (2) 原告は,本願発明の「垂直偏向電流は垂直制御信号の位相が変化する偏向サイクルの各々において垂直偏向信号と同位相に維持される」との構成は,少なくとも,垂直偏向電流のトレースの開始時点と垂直制御信号のパルスの後縁の時点とが一致していることを意味し,刊行物1発明はこの構成を有しないから,審決の刊行物1発明の認定(「刊行物1の発明における「垂直偏向信号S2」は,所定の偏向サイクルの各々において垂直同期信号の2倍の周波数の信号と同位相にされるから,本件発明における「垂直偏向電流」に対応する。」)及び本願発明と刊行物1発明との一致点の認定(「上記垂直偏向電流は上記垂直制御信号の位相が変化する偏向サイクルの各々において上記垂直制御信号と同位相にされる構成」を有する点)は,誤りである,と主張する。 しかしながら,審決は,垂直偏向電流が垂直制御信号と同位相にされることを一致点であると認定した上で,「同位相に維持される」ことは刊行物1に明記されていないとして,これを本願発明と刊行物1発明との相違点(相違点ウ)としているのであるから,刊行物1発明が本願発明の「同位相に維持される。」構成を有していないことをもって,審決の刊行物1発明の認定並びに本願発明と刊行物1発明との一致点についての上記認定が誤りであるということができないことは,明らかである。 原告の主張は,採用することができない。 (3) 以上のとおりであるから,取消事由1は理由がない。 2 取消事由2(相違点についての判断の誤り)について (1) 動機付けの欠如の主張について 原告は,刊行物1発明と刊行物2発明とは,前提となる垂直偏向電流の性状及び解決対象が異なるから,両者を組み合わせる動機付けがない,と主張する。 ア 刊行物1発明についての記載 前記1(1)アで認定したとおり,刊行物1には,ちらつきを除去する目的で通常の2倍の周波数でかつ位相補正した垂直同期信号Aにより表示を行なう従来の受像機が記載され,同刊行物の第4図(別紙図面2参照)によれば,同受像機では,垂直偏向信号S2の始点レベル(垂直走査期間開始時のレベル)が副フィールドごとに変動し,この始点レベルの変動により画像振動が生ずる問題点があること,垂直同期信号Aを位相補正することなくそのままとし垂直偏向信号S2の直流レベルを副フィールド毎に補正することにより,上記問題点を解決することが記載されている。 そうすると,刊行物1には,上記従来の受像機において,垂直偏向信号の始点レベルの変動を実質的になくして画像振動の発生を防止するとの目的も開示されているということができる。 イ 刊行物2発明についての記載 刊行物2(甲第8号証)には,次の記載がある。 (ア)「鋸歯状波電圧発生回路のスイッチングトランジスタはON状態になり,水平偏向回路や糸巻歪補正回路等からの水平信号が帰還ループを介して鋸歯状波電圧発生回路に印加されやすくなっており,而も垂直走査は水平走査に対し,1フィード(判決注・「フィールド」の誤記と認める。)毎に異った位相関係にあるため,垂直帰線期間終了時には,鋸歯状波電圧発生回路中の鋸歯状波電圧形成用充放電容量の両端電圧が1フィールド毎に異なる直流レベルをもつことになり,その結果,垂直の飛越走査がうまく行なわれなくなるという問題が起こる。」(甲第8号証1頁1欄36行〜2欄10行) (イ)「垂直走査は水平走査に対し1フィールド毎(判決注・奇数及び偶数フィールドごと)に異った位相関係にあるため,糸巻歪補正回路や偏向コイルから帰還ループfへ誘起される誘起電圧等の影響により,この帰線期間終了時充放電コンデンサC1の端子電圧が1フィールド毎異る値をもつ場合があり,走査時における充放電コンデンサC1の両端子電圧は1フィールド毎に直流レベルが異り,帰還動作により出力電流の直流レベルの変動を生み,飛越走査を劣化させる。即ち充放電コンデンサの端子電圧の変動は第3図の如くなり,飛越走査は不良となる。」(同2頁3欄29行〜39行) (ウ)「鋸歯状波電圧発生回路の充放電容量両端電圧を,垂直帰線期間終了時を含む微小期間実質的に一定値にクランプすること」(特許請求の範囲) (エ)「第11図は直線性補正用帰還ループによる垂直の飛越走査への悪影響を防止するための更に他の実施例を示す。この場合は充放電コンデンサC1の両端電圧を帰線期間終了時を含む一定期間一定電圧に固定する」(同3頁5欄7行〜11行) (オ) 第3図,第4図(別紙図面3参照)に,従来,帰線期間Tr(判決注・リトレースに対応)の終点(判決注・垂直走査期間Ts(トレースに対応)の始点)において偶数フィールドと奇数フィールドとでは異なる値であったものが(別紙図面3の第3図参照),両フィールドとも一定値にすることが開示されている(別紙図面3の第4図参照)。 刊行物2の以上の記載によれば,同刊行物には,鋸歯状波電圧形成用の充放電コンデンサの垂直帰線期間終了時(垂直走査期間開始時)の端子電圧は,奇数フィールドと偶数フィールドとでは異なる直流レベルを持ち,この垂直走査期間開始時の直流レベルの変動により飛越走査が劣化するとの問題点があること,垂直帰線期間終了時を含む微小期間,充放電コンデンサの両端電圧を一定値にすることにより,上記変動を実質的になくして飛越走査の劣化を防止することが開示されているということができる。 ここで,「垂直帰線期間終了時を含む微小期間の間,充放電コンデンサの両端電圧を一定値にすること」は,すなわち,「垂直走査期間開始時の鋸歯状波電圧のレベルを奇数フィールドと偶数フィールドとで一定値にすること」であることが明らかである。 ウ 上記ア,イで述べたところによれば,刊行物1発明は,垂直偏向信号S2の始点レベル(垂直偏向走査期間開始時のレベル)が副フィールド(奇数フィールドの各副フィールド及び偶数フィールドの各副フィールド)ごとに変動するのを一定にして画像振動を防止することを目的とするものであり,一方,刊行物2発明は,鋸歯状波電圧の垂直偏向走査期間開始時のレベルがフィールド毎(奇数フィールド及び偶数フィールド)に変動するのを一定にすることにより飛越走査の劣化を防止することを目的とするものであるから,両者は,垂直走査期間開始時のフィールドごとのレベル変動をなくして一定にするという点で解決課題,目的が共通するものということができる。 そうすると,刊行物1の垂直偏向信号S2の始点レベルの変動に対して,刊行物2に開示された「垂直帰線期間終了時を含む微小期間の間,充放電コンデンサの両端電圧を一定値にすること」(垂直走査期間開始時の鋸歯状波電圧のレベルを奇数フィールドと偶数フィールドとで一定値にすること)を適用することについての,動機付けは十分にあるというべきである。 刊行物1発明のフィールド周波数は刊行物2発明のそれの2倍である点において異なるものの,いずれも垂直偏向信号を対象とする技術であるから,このことが上記適用を阻害する要因となるということはできない。 また,上に述べたところによれば,刊行物2発明は鋸歯状波電圧の始点レベルの変動に対処するものであるのに対し,刊行物1発明は垂直偏向信号S2の始点レベルの変動に対処するものであり,対象とする信号が異なること,刊行物2の飛越走査の劣化は水平周波数の影響によるものである一方,刊行物1の画像振動は垂直偏向周期が異なることによるものであり,原因が異なることが,認められる。しかし,鋸歯状波電圧のレベルの変動も垂直偏向電流のレベルの変動もいずれも表示画像の振動の原因となることに変わりはなく,どちらの信号についてもそのレベルを一定にする必要があることは明らかであるから,前記対象及び原因の相違は刊行物2の刊行物1への適用を妨げる要因とすることはできない。 (2) 構成の欠如の主張について 原告は,刊行物1発明の「垂直出力回路(17)」に代えて刊行物2発明の技術を採用しても,刊行物発明1の水平周波数の信号の漏れに起因する変動を低減することができるだけであり,刊行物1記載の位相補正に起因する画像振動(ジッター)の問題を解決することはできず,本願発明のように,「垂直偏向電流は・・・偏向サイクルの各々において・・・垂直制御信号と同位相に維持される」構成を有し,垂直偏向電流の開始時点を駆動信号(鋸歯状波信号S1,第2の信号)の振幅の変動に影響されないようにすることはできないと主張する。 しかしながら,本願発明の「垂直偏向電流は・・・偏向サイクルの各々において・・・垂直制御信号と同位相に維持される」との上記構成は,得るべき垂直偏向電流の性状を特定するものであって,そのための具体的回路構成を特定するものではない。そして,審決は,刊行物1発明に刊行物2発明の具体的回路構成をそのまま適用することによって相違点ウに係る本願発明の構成が得られる,といっているのではない。審決は,刊行物1発明に,刊行物2に開示された「垂直走査期間開始時の鋸歯状波電圧のレベルを奇数フィールドと偶数フィールドとで一定値にすること」という技術思想を適用して,刊行物1発明の垂直偏向信号の始点レベルを一定にすることは容易になし得る,と判断したものであることが明らかであり,その判断に誤りはない。 原告の主張は,審決の正しい理解に基づくものということはできず,採用することができない。 (3) 効果の非予測性の主張について 原告は,本願発明は,重ねられた奇数フィールド対と重ねられた偶数フィールド対とをインターレースして表示することができる,という予測できない作用効果を有する,と主張する。 しかしながら,原告が本願発明の作用効果と主張するところのものは,前記第5の1(1)ア(ウ),(エ)で認定した刊行物1の記載から想到することが容易な構成(本願発明の構成の一態様)を本願発明の作用効果と称しているだけのものにすぎない,というべきである。 原告の主張は,採用することができない。 (4) 上に述べたとおりであるから,取消事由2も理由がない。 |
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結論
以上のとおりであるから,原告主張の審決取消事由は,いずれも理由がなく,その他,審決の認定判断にはこれを取り消すべき誤りは見当たらない。よって,原告の請求を棄却することとし,訴訟費用の負担,上告及び上告受理の申立てのための付加期間について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,96条2項を適用して,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 山下和明 |
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裁判官 | 設樂隆一 |
裁判官 | 阿部正幸 |