運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

関連審決 不服2002-10993
この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成18行ケ10444審決取消請求事件 判例 特許
平成17行ケ10507審決取消請求事件 平成17行ケ10652審決取消請求事件 判例 特許
平成18行ケ10452審決取消請求事件 判例 特許
平成17行ケ10490審決取消請求事件 判例 特許
平成18行ケ10167審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 方法の発明 /  アクセス /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  引用発明の認定 /  一致点の認定 /  周知技術 /  発明の詳細な説明 /  択一的 /  優先権 /  優先日 /  参酌 /  技術的意義 /  置換 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  拡張 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 平成 17年 (行ケ) 10046号 審決取消請求事件
原告 ドイチエトムソン−ブラント ゲゼルシヤフト ミツト ベシユ レンクテル ハフツング
訴訟代理人弁護士 加藤義明
同 町田健一
同 角田邦洋
同 弁理士 アインゼル・フェリックス ラインハルト=
同 矢野敏雄
同星公弘
被告 特許庁長官中嶋 誠
指定代理人 片岡栄一
同 山田洋一
同 小池正彦
同 大場義則
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/09/12
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が不服2002−10993号事件について平成16年10月6日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
請求
主文同旨
当事者間に争いがない事実
1 特許庁における手続の経緯原告は,平成3年3月2日,発明の名称を「記録担体上のデイジタルデータの記録および/又は再生方法」とする発明について特許出願(特願平3-505170号,優先権主張1990年〔平成2年〕3月12日〔以下「本件優先日」という。〕・ドイツ)をしたが,平成14年3月19日(発送日)付けで拒絶査定を受けたので,同年6月17日,拒絶査定に対する不服の審判を請求し,同年7月16日付け手続補正書により特許請求の範囲について手続補正(以下「本件手続補正」という。)をした。
特許庁は,これを不服2002-10993号事件として審理し,平成16年10月6日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同月22日,原告に送達された。
2 本件手続補正により補正された明細書(甲9,以下,願書に添付した明細書〔甲2〕と併せ,「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下「本願発明」という。)の要旨走査可能な記録担体に少なくとも1つのトラックを設け,記録時には該トラックにデータをバースト状に記録し,再生時には該トラックからバースト状に記録されたデータを読み出す形式の,正味データレートでディジタルオーディオデータ信号またはディジタルビデオデータ信号を走査可能な記録担体に記録または該記録担体から再生する方法において,記録担体に記録すべきデータの各バーストをトラックの一部分つまり1つのクラスタに,その正味データレートとは無関係にまえもって定められた物理的な書き込みデータレートを用いて該記録担体に記録し,またはまえもって定められた物理的な読み出しデータレートを用いて該記録担体から読み出し,前記正味データレートは前記まえもって定められた書き込みデータレートまたは前記まえもって定められた読み出しデータレートよりも小さく,バーストのデータを一時記憶メモリ(6)を使用して記録または再生装置に一時記憶して,記録すべきデータの正味データレートを書き込みデータレートに変換し,または読み出しデータレートを再生すべきデータの正味データレートに変換し,前記記録担体へのそれらのデータの書き込み後または記録担体からのそれらのデータの読み出し後,書き込みまたは読み出しにあたり休止期間を挿入し,現在のクラスタまたはバーストの書き込み後または読み出し後の前記休止期間中,記録または再生装置を次のクラスタまたはバーストの開始位置に位置決め,それぞれ正味データレートで前記記録担体に記録すべきまたは該記録担体から再生されるディジタルオーディオデータ信号またはディジタルビデオデータ信号は,データ圧縮プロセスを用いてデータ圧縮したオーディオ信号またはビデオ信号であり,走査値のブロックをスペクトル係数の対応のブロックに変換することを特徴とする,正味データレートでディジタルオーディオデータ信号またはディジタルビデオデータ信号を走査可能な記録担体に記録または該記録担体から再生する方法。
〔本件明細書の特許請求の範囲の請求項1には,上記のとおり,記録担体に記録する方法の発明と記録担体から再生する方法の発明とが択一的に記載されているところ,審決は,そのうち,記録担体に記録する方法の発明を対比の対象としているので(審決謄本7頁第2段落),以下,引用発明との対比においては,同方法の発明を「本願発明」という。〕3 審決の理由( ) 審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,本願発明が,特開平1-292 1670号公報(甲10,以下「引用例」という。)に記載された発明(以下「引用発明」という。)及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。
( ) 審決が認定した,本願発明と引用発明の一致点及び相違点は,それぞれ次 2のとおりであるア 一致点(審決謄本7頁第3段落)走査可能な記録担体に少なくとも1つのトラックを設け,記録時には該トラックにデータをバースト状に記録し,再生時には該トラックからバースト状に記録されたデータを読み出す形式の,ディジタルオーディオデータ信号またはディジタルビデオデータ信号を走査可能な記録担体に記録する方法において,記録担体に記録すべきデータの各バーストをトラックの一部分つまり1つのクラスタに,まえもって定められた物理的な書き込みデータレートを用いて該記録担体に記録し,バーストのデータを一時記憶メモリを使用して記録または再生装置に一時記憶し,前記記録担体へのそれらのデータの書き込み後,書き込みにあたり休止期間を挿入し,現在のクラスタまたはバーストの書き込み後の前記休止期間中,記録または再生装置を次のクラスタまたはバーストの開始位置に位置決め,それぞれ前記記録担体に記録すべきディジタルオーディオデータ信号またはディジタルビデオデータ信号は,データ圧縮プロセスを用いてデータ圧縮したオーディオ信号またはビデオ信号である,ディジタルオーディオデータ信号またはディジタルビデオデータ信号を走査可能な記録担体に記録する方法。
イ 相違点(同第4段落〜8頁第1段落)(ア) 相違点a記録担体に記録するデータレートに関し,本願発明においては,「記録担体に記録する際のまえもって定められた物理的な書き込みデータレート」とは無関係でこれより小さい「正味データレート」で行い,「記録すべきデータの正味データレートを書き込みデータレートに変換」するものであるのに対し,引用例に記載された発明においては,このことについて特に示されていない点。
(イ) 相違点b本願発明においては,記録担体に記録すべきまたは該記録担体から再生される,データ圧縮プロセスを用いてデータ圧縮したオーディオ信号またはビデオ信号は「走査値のブロックをスペクトル係数の対応のブロックに変換する」ものであるのに対し,引用例に記載された発明においては,このことについて特に示されていない点
原告主張の審決取消事由
審決は,引用発明の認定を誤り(取消事由1),本願発明と引用発明との相違点を看過し(取消事由2,3),相違点aについての判断を誤った(取消事由4)結果,本願発明が進歩性を欠くとの誤った結論を導いたものであって,違法であるから,取り消されるべきである。
1 取消事由1(引用発明の認定の誤り)( ) 審決は,引用発明につき,「上記記載事項( )〜( ),及び第2図を 1 AD参酌すると,ディスクのトラックへの記録は記録パルスの出力によって(バースト状に)行われるものであることは明らかである。」(審決謄本5頁第5段落)と認定したが,誤りである。引用例には,ディスクのトラックへの記録が「バースト状」に行われることは記載されていない。
そして,審決が引用発明を誤って認定し,本願発明と引用発明との一致点を誤って認定したことが,審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであり,審決は取り消されるべきである。
( ) 「バースト」という用語について,本件優先日当時の各種文献をみると, 2「バースト ある現像の発生において,隣接した2個の発生時間間隔 burstママが,あらかじめ指定した時間間隔以内である場合をいう。一般概念としては,burst 現像の集中的発生をいう。」(甲14),「バースト伝送《通信》無線通信の方式。伝送内容を一定時間蓄積した後,通 transmission常の10倍から100倍の速度で送出する。受信側ではいったんこれを記録した後,受信者のために通常の速度に戻す。」(甲15),「バースト順々に転送されるデータのうち特定の規定により一単位と扱われる信 burst号データの塊。」,「バースト伝送 [ ] 制御され burst transmission JISた間欠的な時間間隔で行われる特定のデータ信号速度によるデータ伝送。
備考 この方法を用いれば,種々のデータ端末装置間の通信が可能である。」(甲16)等と定義されている。
これらによれば,本件優先日当時,「バースト」とは,@現象が間欠的に起こること,A当該現象が短時間に起こること,B当該現象の速度が高速であることの内容を含む概念として解することが相当である。
これに対し,引用発明において,記録担体のトラックへの記録は,既トラックの記録終了位置から休止期間(スペース)を挿入することなく記録自体が連続するように行われ,スペースが存在するように間欠的に記録されているわけではない(要件@関係)。また,一般に,読み出しデータレートと書き込みデータレートが存在し,その相関関係について何も記載されていなければ同一の値を使用しているとみるのが通常であるところ,引用例にはその相関関係の記載がなく,また,引用例の第2図の記載からも,書き込みデータレートと読み出しデータレートとが同じであるとみることができる。そして,これらのデータレートが同じである以上,トラックへの書き込みが短時間に,高速に行われることはない(要件A,B関係)。したがって,引用発明においては,ディスクのトラックへの記録は,「バースト状」に行われるものではない。
( ) 本件明細書の発明の詳細な説明には,「1つのバーストデータとは所定の 3データ量(集合),例えば1つ又は複数ビットの所定のデータ量(集合)のことである」(3頁右上欄第4段落)と記載されている。「所定の量」とは,変化しない固定の量を意味することは明らかであるから,本願発明において,バースト状に記録するとは,記録の休止期間と休止期間との間に記録されるデータが,所定のデータ量であって可変ではないことを意味する。
2 これに対し,引用発明は,バッファメモリのデータ量が第2のレベルV以下になると記録が中断する。中断のタイミングはバッファメモリに入力されるデータ量の入力状況に依存しているのであるから,中断が入る前のデータ群の大きさも変化する。例えば,バッファメモリにデータが次から次へ入力される場合には,中断前のデータのかたまりは長いデータ長のかたまりとなり,データの入力がすぐに途切れるような場合には中断前のデータのかたまりは短いデータ長のかたまりとなる。したがって,引用発明では,所定のデータ量のかたまりによるデータの記録は行われないので,バースト状に記録されていない。
2 取消事由2(相違点の看過@)( ) 本願発明は,バースト状の記録間に,休止期間に対応して空間的・物理 1的なスペースが存在するのに対し,引用発明は,このようなスペースがなく,記録が連続的に行われているから,審決は,この空間的・物理的なスペースの存否という本質的な相違点を看過したものである。
( ) 本願発明は,実施例の説明の図1の出力例10に示すように,バースト 2をCDのトラックに書き込んだ後,次のバーストを書き込む際,最初のバーストと次のバーストとの間に休止期間が存在し,さらに,次のバーストとの間にも休止期間が存在するものであり,バーストとバーストとの間に,記録間隙が生じる。また,逆に,CDからバーストデータを読み出す場合にも,バーストを読み出した後,次のバーストの読み出しとの間も,バースト間の記録間隙のためにそれらの間に休止期間が存在する。そして,本願発明において,「クラスタ間では当該記録は連続的でない」(本件明細書の6頁左上欄最終段落)とか,「1つのクラスタに対するランダムの書込アクセスには十分長い間隙のため」(同頁右上欄第2段落)とされているように,休止期間は,記録と記録との間に間隙(スペース)を生じさせるためのものであることが明白である。
また,本願発明の特許請求の範囲には,「前記記録担体へのそれらのデータの書き込み後または記録担体からのそれらのデータの読み出し後,書き込みまたは読み出しにあたり休止期間を挿入し」と記載され,クラスタとクラスタとの間には必ず休止期間(休止時間)が挿入される。そして,当該記録担体は回転しているのであるから,その休止時間中にクラスタとクラスタの間に空間的・物理的なスペースが発生するのは必然の結果である。
本願発明は,このようなスペースが存在するため,各クラスタに対してランダムに読み出しアクセス,書き込みアクセスをすることができ,前後に位置するクラスタに記録された情報が損なわれることがなく,また,1つのクラスタに対するランダムの書き込みアクセスに対しレーザ光の高速のランニングアップ及びランニングダウンも必要ではないし,さらに,1つのクラスタの書き込み後,次のクラスタの始まりとの間に存在する休止期間ないしポーズを利用して,直前のクラスタ全体を再度読み出し,記録誤差が発生したかどうか検出することができるという優れた効果を奏する。
( ) 他方,引用発明は,トラックの既記録部分とこれから記録しようとする 3部分との間に間隙(スペース)が全く生じないようにデータをつめて連続記録するものであり,引用発明の書き込みデータとデータの記録部分間には,スペースが存在しないことが明らかである。また,そのようなスペースが存在しないため,本願発明と同様の効果を奏することはない。
3 取消事由3(相違点の看過A)( ) 本願発明の「休止期間」は,1トラックより小さく,かつ,固定長である 1「クラスタ」に対する書き込みと,次のクラスタに対する書き込みとの間に必ず挿入されるものであり,1トラックごとに必ず生じる。これに対し,引用発明においては,書き込みの中断時間は,バッファメモリのデータ蓄積量に対応して,条件付きで発生する,すなわち,バッファメモリの容量が第2のレベルV 以下になるという条件がある場合にのみ記録が中断されるもの2であり,書き込みの中断が発生した場合の中断前後のデータの集群(被告のいう「クラスタ」)は,1トラックより大きく,可変長である。審決は,本願発明と引用発明のこのような休止期間がどのような場合に発生するか,休止期間の前後のデータのかたまりがどのようなものであるかについての相違点を看過した。
本願発明は,1トラックより小さい固定長のクラスタごとに必ず休止期間を設けるという構成をとることによって,メモリにデータが次から次へ入力される場合でも,小さいデータ単位で,必ず休止期間を挿入して,クラスタ単位での迅速な書き込みエラーチェックや読み込みエラーチェックが可能になるのであり,同構成は本質的なものであって,上記相違点の看過は,審決の結論に影響を及ぼすものである。
( ) 本願発明において,記録の休止期間は,クラスタへのデータの書き込みご 2とに必ず挿入されるものであるのに対し,引用発明において,記録の中断は,発生しない場合もある。
ア 本願発明の特許請求の範囲には,「前記記録担体へのそれらのデータの書き込みの後(または記録担体からのそれらのデータの読み出し後),書き込み(または読み出し)にあたり休止期間を挿入し」と記載され,本願発明においては,クラスタへのデータの書き込みの際,前のクラスタの書き込みと次のクラスタの書き込みの間に,必ず休止期間が発生する。
イ 引用発明は,バッファメモリに蓄積されたデータ容量の条件が,上記のとおり,特定のレベル以下になるという条件がある場合にのみ,記録が中断されるものであり,例えば,バッファメモリにデータが途切れることなく入力されれば,中断は発生しない。
被告は,休止期間によって分割されて書き込まれたデータの,各々の集群をクラスタと称するのであるから,引用発明においても,隣接する2つのクラスタの書き込み間には,当然に休止期間が存在している旨主張するが,「隣接する2つのクラスタ」という表現は,それ自体,既に休止期間の存在を前提としていることになるのであり,休止期間の存在を前提として休止期間の存在を証明しようとすることはトートロジーであって,失当である。
( ) 本願発明の「クラスタ」は,「固定長」のものを指すのに対し,引用発明 3のデータのかたまりは,可変長である。
ア 「クラスタ」とは,「OSが管理するハードディスク上のブロックの最小単位」(甲18)をいい,「単位」との文言からも明らかなとおり,固定長のものをいい,本件優先日当時,フロッピーディスクのような記録担体において「クラスタ」という用語は,メモリ管理の1単位,すなわち固定長のものとして認識されていた。
「クラスタ」が固定長のものを指すことは,「JIS準拠コンピュータデータ通信用語解説集」(甲23),特開昭64-35624号公報(甲24),特開平1-155555号公報(甲25),特開昭62-239475号公報(乙4)に記載された「クラスタ」が,固定長のものを指すことからも明らかである。
被告は,特開昭61-9721号公報(乙3,以下「乙3公報」という。)を引用し,「クラスタ」が,固定長のものに限られるわけではない旨主張する。しかし,乙3公報は,磁気ディスク等に不可避的,かつ,任意に生じる欠陥セクタと欠陥セクタの間の有効なセクタをまとめて把握する場合の概念として「クラスタ」という用語を用いているところ,このような物理的な欠陥セクタを回避するための技術は,本願発明のように有効な記録担体があることを前提に,これに対するランダムの読み出し,書き込みアクセスによるデータ記録,再生を行わせようとする発明とは対象を異にするというべきであり,ここでの引用は不適切である。
また,原告が,「クラスタ」は固定長のものを指すものとして掲げる上記各文献は,乙3公報よりも後の,本件優先日により近接したものであり,遅くとも,本件優先日当時には,当業者は,「クラスタ」は固定長のものを指すとの認識を有していた。
イ 仮に,特許請求の範囲の「クラスタ」の記載の意義が一義的に明確でないものとすれば,明細書の発明の詳細な説明参酌すべきところ,本件明細書の発明の詳細な説明には,「1つのクラスタの長さはまた任意の大きさではない。クラスタレコーディングによるMOD13に対しては次のクラスタ長1 が設定されている。1 =1176EFMフレーCL CLム=12ATIPブロック=0.16sec」(5頁右下欄第1段落〜第2段落)と記載されており,これによれば,「クラスタ」が固定長であることは明白である。
ウ 他方,引用発明においては,バッファメモリのデータ量が第2のレベルV 以下になると記録が中断するが,データ量がレベルV 以下になら2 2ずにバッファメモリにデータが次から次へ入力される場合には,被告が「クラスタ」と称するデータのかたまりは,長いデータ長のかたまりとなり,データの入力がすぐに途切れるような場合には,データのかたまりは短いデータ長となる。つまり,引用発明のクラスタと称するデータのかたまりのデータ長は可変である。
エ 被告は,クラスタの大きさを可変長のものに代えて,固定長のものとする程度のことは,当業者が必要に応じて適宜なし得た事項である旨主張する。
しかし,被告の上記主張は,それ自体理由が全く示されていないばかりでなく,この点は,本願発明の進歩性に関する結論を導くに当たって必要な認定判断であるから,これを欠くことは,それ自体,審決が違法であることを示している。
また,引用発明は,データの入力状態に応じて柔軟にデータの書き込みの中断,再開を行うことによって高密度記録が実現するのであるから,データのかたまり(被告主張のクラスタ)が,可変長でなければならないことは引用発明の絶対条件であり,引用発明において,クラスタの大きさを可変長のものに代えて,固定長のものとすることは,当業者が必要に応じて適宜なし得た事項であるというようなものではない。
( ) 本願発明の「クラスタ」は,1トラックよりも小さいものであるのに対し, 4引用発明のデータのかたまりは,1トラックよりも大きいものである。
ア 本願発明の「クラスタ」は,特許請求の範囲に,「トラックの一部分つまり1つのクラスタ」と記載されているとおり,1トラックより小さい部分を意味している。
そして,本願発明の「トラック」とは,記録担体において記録される線状の部分のうち,記録担体1回転相当部分をいい,「トラックの一部分」とされる「クラスタ」は,記録担体1回転相当部分よりも小さいこととなる。
被告は,本願発明の「トラック」は,ディスクのらせん状につながった記録される線状の部分の一本全体を指すものであり,「クラスタ」は,「トラックの一部分」というのであるから,記録担体1回転相当部分を超える設定も可能である旨主張する。
しかし,「トラック」という語は,@記録担体において記録される線状の部分の1本全体を指すものとしての用法だけでなく,Aその1回転相当部分(1周分)を指すものとしての用法もあり,本願発明において,被告のように「トラック」を1本全体を指すものとすると,本願発明の特許請求の範囲の「トラックの一部分」という記載が,「記録担体全部の一部分」という当然のことを意味することとなり,意味をなさないことになってしまうことも考慮すれば,本願発明における「トラック」は,上記のとおり,記録担体1回転相当部分を指すものと解すべきである。
また,仮に,「トラック」の意義が不明確であるとすれば,明細書の発明の詳細な記載を参酌すべきであり,本件明細書の記載(7頁)等からも,その意味は,記録担体1回転相当部分と理解できる。
イ 一方,被告が主張する引用発明における,「クラスタ」は,「休止期間によって分割されて書き込まれたデータの,各々の集群」と定義されるもので,その大きさに限定がなく,被告主張の「クラスタ」は,1トラックを超える大きいデータの集群をも含むものである。引用例の図2の(c)(記録パルス)をみても,(d)再生検波出力に明示されている1回転周期(すなわち1トラック)のパルスより広い期間である記録期間において,中断が入ることなくデータが記録されている。
4 取消事由4(相違点aについての判断の誤り)( ) 審決は,相違点aについて,「引用例に記載された発明(注,引用発 1明)は,バッファメモリ19(一時記憶メモリ)にバースト状に記憶されたデータの量が第1のレベルV 以上になるとバッファメモリ19(一時記1憶メモリ)からデータを出力し,ディスク(記録担体)9に記録するものである。この場合,バッファメモリ(一時記憶メモリ)に入力されるデータのレート(正味のデータレート)が出力されるデータのレート(あらかじめ定められた物理的な書き込みデータレート)より大きいとバッファメモリ19のデータ量が増加しバッファメモリがすぐ満杯になる恐れがあること,ディスク(記録担体)には通常できるだけ速やかにデータを記録する必要があること等を考えると,バッファメモリ(一時記憶メモリ)に入力されるデータレート(正味のデータレート)を,ディスク(記録担体)に記録される(書き込み)データレート(あらかじめ定められた物理的な書き込みデータレート)とは関係なく,これより小さいものとすることは当業者が容易に想到できたものである(なお,記録装置において,バッファメモリの入力より高いデータレートで信号を読み出して記録媒体に記録することは,特開昭63-118854号公報(特に,第3頁等),特開昭63-14870号公報(特に,第2頁右上欄〜左下欄等)にもみられるように,本願の優先権主張の日前に周知の技術である。)」(審決謄本8頁第5段落)と判断したが,誤りである。
( ) 引用発明において,バッファメモリへの入力データレート(本願発明に 2いう「正味データレート」となるもので,以下,単に「入力データレート」という。)と記録担体に記録される(書き込み)データレート(バッファメモリからの読み出し〔出力〕データレートでもあり,以下,単に「書込データレート」という。)を同一にすれば,バッファメモリが満杯になることはなく,前者のデータレートを後者のデータレートより小さくする必要性や技術的意義はない。
すなわち,引用例において,「バッファメモリ19の容量は,ディスク9の1トラック当たりのデータ記憶容量の2倍以上の記録容量を有しており」(4頁左上欄第2段落)とバッファメモリの容量に触れられているように,引用発明において,入力データレートと書込データレートを同一にしても,バッファメモリの記録容量を拡張すれば,バッファメモリが満杯になるという問題は生じないから,入力データレートを小さくする必要性はないし,データレートを変えるためには,本願発明の実施例におけるように分周器7などが必要となり,装置の費用もかかるから,入力データレートを書込データレートより小さくするする技術的意義はない。
( ) 引用発明において,入力データレートを書込データレートより小さくする 3必要があったとしても,その必要性は,本願発明における必要性とは異なるのであるから,技術的意義が異なる。
すなわち,本願発明において,入力データレートを書込データレートより小さくするのは,バーストとバーストとの間に休止期間を発生させることを目的としている。他方,引用発明において,入力データレートを書込データレートより小さくする必要があるとすると,それは,上記休止期間を発生させることを目的とするものではなく,バッファメモリが満杯になることを避けるためにされるのであり,その技術的意義は,本願発明におけるものとは全く異なるものである。
( ) 引用発明と,審決が挙げた,バッファメモリが満杯になるのを防止するた 4めに入力データレートより書込データレートを大きくするという周知技術とは,バッファメモリにおけるデータ量の変動という観点からすると,技術的に相反する方向性を持つものであり,引用発明と審決が述べた周知技術を組み合わせることはできない。
すなわち,引用発明は,データが供給されない場合に,バッファメモリからの読み出しを停止させ,バッファメモリにデータが蓄積されるのを待つという,データ量を蓄積する方向での技術である。それに対し,審決が述べた周知技術は,バッファメモリが満杯になるのを防止するため,入力データレートより書込データレートを大きくするというものであり,データ量を減少させる方向の技術である。
そして,このように背反する内容の技術を組み合わせると,次のような不都合が生じる。
すなわち,引用発明を固定データレートとして解釈すると,瞬時で見れば入力データレートと書込データレートは等しく,このとき,@データが連続して入力されている場合には記録も連続して行われ,Aデータ入力が断続的になり,バッファメモリデータ量がレベルV 以下になる場合には,バッフ2ァメモリからの読み出しを停止し,バッファメモリデータ量がレベルV に 1なるまでデータの蓄積をするという,引用発明の意図する高密度記録制御が実行されることとなる。他方,引用発明の高密度記録制御に,書き込みのクロック周波数より読み出しのクロック周波数が高い周知技術を組み合わせると,書き込みのクロック周波数より読み出しのクロック周波数が高いため,データが連続して入力されていてもバッファメモリ内のデータ量は時間とともに減少し,レベルV 以下になってしまうから,Aのデータ入力が断続的2に行われる場合のみならず,@のデータが連続して入力される場合においても高密度記録制御が実行されてしまう。このように,Aの場合のみならず,@のデータ入力が連続する場合まで高密度記録制御が動作することは,記録ヘッドが不必要に頻繁に動作,停止を繰り返すことを意味し,ディスクへの記録時間が余分に必要となるという不都合が生じることとなる。
( ) 被告は,入力されるデータ量に応じて変化するものを「データレート」と 5して主張するが,クロック周波数だけでなく,バッファメモリに入力されるデータ量により変化するこのような「データレート」は,被告の独自の解釈である。
そして,被告主張のように「データレート」を解釈すると,引用発明は,1クラスタ程度のデータが連続して入力される一般的な場合でも,本願発明の「正味データレートは前記まえもって定められた書き込みデータレートよりも小さく」という要件を満たさないことになるので,本願発明と引用発明との新たな相違点が発生することとなるし,また,被告主張のように「データレート」を解釈すると,引用発明において,平均すれば,入力データレートが書込データレートより小さくなるのは,バッファメモリに入力されるデータ量が断続することによるのであって,引用発明には,「バッファメモリへの書き込みデータレートを読み出しデータレートに変換する」工程が存在しなくなることになるのであり,その点においても,本願発明と引用発明との相違点が発生することとなる。
また,被告は,ディスクへの記録がされている期間全体の平均でみれば,入力データレートが書込データレートより小さい旨主張するが,そこでいうディスクへの記録がされる期間が,ディスクへの書き込み行為が現実に行われている期間を意味すると解すると,本願発明は,そのような期間に限定されるものではないので,上記主張は理由がなく,その期間がデータの入力開始から記録の終了までの期間を意味するものとしても,平均をとれば双方のデータレートは同一になるはずであるから,この点でも被告の主張は理由がない。
被告の反論
審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
1 取消事由1(引用発明の認定の誤り)について( ) 原告は,「バースト」という用語について,各種文献における定義を引用 1して,特定の内容を含む概念として解すべきであると主張するが,原告の主張は,本件明細書の記載を無視したものであり,失当である。
特許請求の範囲に記載された用語の意味内容が,明細書又は図面において定義ないし説明されている場合には,その定義,説明に基づいて用語を理解ないし解釈するのが妥当であるところ,本件明細書には,「バースト」について,「基本的に,デジタルデータの通常の連続的記録が,バーストごとの記録によって置換され,ここにおいて各バーストデータはそれ自体連続的に記録される。データのバーストごとの記録によって,有利に各バーストは記録担体上に1つのクラスタ(集群)を形成する。1つのバーストデータとは所定のデータ量(集合),例えば1つ又は複数ビットの所定のデータ量(集合)のことである。1つのクラスタ(集群)とは実質的に1つのバーストデータを含むトラック部分である。そのようなクラスタによる記録は以下“クラスタ記録”と称される。」(3頁右上欄第4段落)との記載がある。そうすると,本願発明における「バースト」は,「記録担体に記録するとクラスタ(集群)が形成されるような,所定のデータの集合」といった程度の意味に解するのが妥当であり,それ以上に限定を加えて解釈すべき理由はない。
また,そのように解しても,本願発明の特許請求の範囲の記載,発明の詳細な説明の他の記載及び図面の記載とも,何ら矛盾は生じない。
原告は,本件明細書の上記記載中の,「1つのバーストデータとは所定のデータ量(集合),例えば1つ又は複数ビットの所定のデータ量(集合)のことである。」との記載から,本願発明のバーストが固定長である旨主張するが,「所定」の語は「一定」あるいは「固定」を意味せず,同記載は,本願発明の「バースト」が固定長であることの根拠にはならない。
( ) 原告は,引用発明においては,ディスクのトラックへの記録が「バースト 2状」にされない旨主張するが,失当である。
本願発明における「バースト」は,上記のとおり,「記録担体に記録するとクラスタ(集群)が形成されるような,所定のデータの集合」といった程度の意味に解するのが妥当である。そして,引用例の第2図に示される実施例において,バッファメモリからの読み出し信号(記録媒体への書き込み信号)には,休止期間があり,休止期間以外の期間におけるバッファメモリからの読み出し信号(記録媒体への書き込み信号)が所定のデータの集合を形成し,それが記録媒体に記録されると,データのクラスタ(集群)が形成されることも明らかであるから,引用発明においてもバーストが生じている。
2 取消事由2(相違点の看過@)について( ) 原告は,本願発明は,バースト状の記録間に,休止期間に対応して空間的 1・物理的なスペースが存在するのに対し,引用発明は,このようなスペースがなく,記録が連続的に行われているという相違点があり,審決はこの相違点を看過している旨主張するが,失当である。
( ) 本願発明の「休止期間」は,特許請求の範囲の記載からして,文字どおり, 2「時間的な休止期間」と解すべきであり,原告がいうような空間的・物理的なスペースの意味に解すべき理由はない。このことは,本願発明の特許請求の範囲には,物理的な間隙を表す「休止区域」,「休止領域」等の文言は何ら使用されておらず,バースト状の記録間に休止期間に対応して空間的・物理的な「スペース」が存在することについて何ら規定されていないことからも明らかであり,原告の主張は,特許請求の範囲の記載に基づかないものである。
そして,引用発明においては,記録に「休止期間」を挿入することが記載されていることが明らかであるから,審決に原告主張の相違点の看過はない。
( ) 原告は,本件明細書の実施例の図1の出力例10を上記主張の根拠とする 3が,図1の出力例10の横軸は時間軸であることは明らかであり,「1.バースト」と「2.バースト」との間に示されている期間は,記録する時間的間隔と解されるので,このことから,記録トラックに記録される「1.バースト」と「2.バースト」との間に空間的・物理的なスペースが存在するとはいえない。
また,記録部間の未記録部分(物理的なスペース)を最小限にして高密度に記録しようとすることは,引用例にも記載があるように通常のことであり,休止期間が存在するとしても,単に,記録担体が回転していることのみを根拠として,記録部間に物理的なスペースが発生するとは直ちにはいえない。
3 取消事由3(相違点の看過A)について( ) 原告は,本願発明の「休止期間」は,クラスタへのデータの書き込みごと 1に,必ず挿入されるのに対し,引用発明の記録の中断は,バッファメモリのデータ蓄積量に対応して,条件付きで発生するという相違がある旨主張するが,失当である。
ア 本願発明において,クラスタの書き込みと次のクラスタの書き込みの間に,必ず休止期間が挿入されるが,引用発明においても,休止期間によって分割されて書き込まれたデータの,各々の集群をクラスタと称するのであるから,隣接する2つのクラスタの書き込み間には,当然に休止期間が存在し,休止期間に係る構成について,両発明に相違はない。
2 イ 原告は,引用発明においてはバッファメモリの容量が第2のレベルV ,以下になるという条件がある場合にのみ記録が中断されるものであり,バッファメモリにデータが途切れなく入力されるなど,バッファメモリに蓄積されたデータ容量の条件により,記録の中断は発生しない旨主張するが,失当である。
審決は,引用例から,引用発明として,「バッファメモリに蓄積されるデータ量が第2のレベルV 以下になり得るような状況の下で,引用例の2装置により実現される方法」を認定したものであり,このような引用発明において,記録媒体への記録中にバッファメモリに蓄積されたデータ量が第2のレベルV 以下になるという状況が発生した場合には,必ず記録を2中断し,休止期間を挿入するものである。
一方,本願発明も,休止期間の挿入間隔が一定間隔であることまでを要件とするものではないので,「引用発明が,バッファメモリに蓄積されたデータ量が第2のレベルV 以下になった場合にのみ記録を中断(休止期2間を挿入)するものである」点は,本願発明との相違点ではない。
( ) 原告は,「クラスタ」は,固定長のものに限られる旨主張するが,失当で 2ある。
ア 「クラスタ( )」という用語は,本来「群れ」「かたまり」とい clusterうイメージを有する単語であり,必ずしも一定の大きさ,量を示す意味は備えていない。記録/再生の技術分野で,本件優先日前に,連続するセクタの数を「クラスタ」としてその長さを記録することによりデータを管理することは,乙3公報にもみられるように周知の技術であり,乙3公報において,「クラスタ」とは,単に連続するセクタに記録されたデータの「かたまり」にすぎず,クラスタの長さは個々に異なるものであることを前提としていることが明らかである。
イ 本願発明の特許請求の範囲には,クラスタに関し,「記録担体に記録すべきデータの各バーストを・・・1つのクラスタに,・・・物理的な書き込みデータレートを用いて該記録担体に記録し」とあるだけで,クラスタの長さについて何ら言及されておらず,単にデータが記録される領域として示されているにすぎないのであるから,本願発明における「クラスタ」は,固定長のものに限定されず可変長のものも含まれているというべきであり,「クラスタ」を必ずしも固定長のものに限定して理解すべき特段の技術的理由は存在しない。
ウ 引用発明においては,バッファメモリのデータ容量があらかじめ定められたレベル以上のときに記録信号がディスク(のセクタ)に記録され,その場合,記録されたデータのかたまりの長さは個々に異なっていてもよく,そのデータのかたまりを「クラスタ」ということができる。
エ さらに,引用発明において,ディスクに記録されるデータのかたまり(クラスタ)の長さは個々に異なっていてもよいが,クラスタの大きさを可変長のものに替えて単に固定長のものとする程度のことは,当業者が必要に応じて適宜なし得た事項であるともいえる。
( ) 原告は,「トラック」が,記録担体において記録される線状の部分のうち 3記録担体1回転相当部分である旨主張するが失当である。
ア 本願発明の特許請求の範囲には,トラックに関し,「1つのトラック」「トラックの一部分」等とあるだけで,「トラックの一周分」等と記載されていないのであるから,原告主張のように記録担体1回転相当のトラック部分に限定して解釈しなければならない特段の技術的理由は存在しない。
原告が主張する「CD等の記録担体」においては,ディスクにらせん(スパイラル)状につながった1本のトラックがあるのであるし,本願発明は,記録担体がディスク状のものであることすら限定していない。
また,本件優先日前において,クラスタをトラック一周分を超えて設定することは,特開昭62-239475号公報(乙4)にみられるように周知であり,この場合,トラックはスパイラル状であることから,クラスタは「トラックの一部分」であるともいうことができる。
イ 引用発明において,ディスクに記録されるデータのかたまり(クラスタ)は,当然に「トラックの一部分」に記録されることになる。
4 取消事由4(相違点aについての判断の誤り)について( ) 原告は,相違点 についての審決の判断の誤りを主張するが,相違点 は, 1a a本来,相違点でなかったということができる。
「データレート」とは,その単位が,例えば,〔 〕等と表されるよ bit/secうに,単位時間当たりに伝送されるデータ量の意味にごく普通に理解されるものであり,本願発明の特許請求の範囲の記載においても,単に「正味データレート」,「物理的な書き込みデータレート」などとあるのみで,データレートとクロック周波数との関係は何ら示されていないので,本願発明の「データレート」は,単位時間当たりに伝送されるデータ量である。
そして,引用例の実施例(第2図)によれば,バッファメモリ19内のデータ容量が第1のレベルV 以上の間,バッファメモリへの入力データがな1いとき,入力データレートは,バッファメモリから単位時間当たりに読み出されるデータ量としての書込データレートより小さく,バッファメモリ19への入力データが連続して存在するとき,入力データレートと書込データレートとは等しいこととなる。そして,ディスクへの記録がされている期間全体の平均でみれば,入力データレートは,書込データレートより小さい。
つまり,引用発明においては,記録動作期間中,入力データレートは,瞬時では,書込データレートと等しい場合も存在するが,ディスクへの記録がされている期間全体の平均でみれば,書込データレートより小さい。
したがって,相違点 は実質的な相違点でなく,審決における相違点aに aついての判断の当否を検討するまでもなく,審決の結論は正しいということができる。
( ) 相違点aに係る構成について,入力データレートが,瞬時値でみても常に, 2書込データレートより小さくなるよう制御することも,当業者が容易に想到できる。
すなわち,バッファメモリの蓄積データ容量には限りがあり,ディスクへの記録動作時にしかバッファメモリ内のデータ容量を減少方向とすることができないのであるから,記録動作時には,入力データレートを書込データレートより小さくなるように制御しなければならない。このことを考えれば,引用発明においても,ディスクへの記録動作時,瞬時値でみて,入力データレートが書込データレートと等しくなる期間についても,記録動作時の他の期間と同様,入力データレートが書込データレートより小さくなるように制御することは,当業者が容易に想到できたというべきである。
( ) 原告は,引用発明において,バッファメモリの記録容量を拡張すれば,バ 3ッファメモリが満杯になることはない旨主張する。
しかし,引用発明において,バッファメモリの記憶容量が比較的小さい場合というのは十分に想定でき,その場合には,バッファメモリに入力されるデータの入力データレートが,出力される書込データレートより大きいと,バッファメモリがすぐ満杯になるおそれがあることは明らかである。そして,バッファメモリ(一時記憶メモリ)をすぐ満杯にさせず,併せて,ディスク(記録担体)には通常,速やかにデータを記録する必要があること等も考慮すると,バッファメモリへの入力データレートを,バッファメモリから出力される書込データレートより小さいものとすることは,当業者が容易に想到できたものである。
しかも,記録装置において,バッファメモリに対して入力されるより大きいデータレートで信号を読み出して記録媒体に記録すること自体は,特開昭63-11885 号公報(甲11)及び特開昭63-148470号公報 4(甲12)にもみられるように,本件優先日前に周知の技術であって,何ら格別のものではない。
( ) 原告は,本願発明において,入力データレートを書込データレートより小 4さくする必要があったとしても,それは,バーストとバーストとの間に休止期間を発生させるためであり,引用発明における,バッファメモリが満杯になることを防ぐという必要性とは異なり,技術的意義が異なる旨主張する。
しかし,原告主張の意味で技術的意義が異なることは,審決の相違点aについての判断が誤っていることの理由にはならない。
( ) 原告は,引用発明は,データ量を蓄積する方向での技術であるのに対し, 5審決が挙げた周知技術はデータ量を減少させる方向の技術であり,技術的に相反する方向性を持つものであるから,両者を組み合わせることはできない旨主張する。
しかし,審決においては,引用発明と周知技術とを直接組み合わせて相違点aに係る構成とすることについて検討しているわけではなく,引用発明において,バッファメモリのデータ容量には限りがあり,満杯になるのを防ぐためには,ディスクへの記録動作時しかバッファメモリ内のデータ容量を減少方向とすることができないことを考えると,記録動作時に,入力データレートを書込データレートより小さくなるように制御することは当業者が容易に想到できたことについて,入力データレートを書込データレートより小さくするようにバッファメモリを制御した記録装置の例として周知技術を挙げたものにすぎないのであり,原告の主張は失当である。引用発明に周知技術を組み合わせることには,何らの阻害要因もなく,むしろ積極的にこれを組み合わせることができる。
( ) 原告は,引用例に周知技術を組み合わせると,バッファメモリにデータが 6連続して入力される場合にまで高密度記録制御動作が実行され,記録ヘッドが不必要に頻繁に動作,停止を繰り返すことになるので,ディスクへの記録時間が余分に必要となるという不都合が生じる旨主張する。
しかし,ディスクに記録データを記録しようとする場合,高密度記録及び記録時間の短縮等はいずれも必要とされる記録態様等に応じて要求されることであり,ディスクへの記録時間が余分にかかり,記録時間が長くなるとしても,高密度記録が望まれる場合も当然に想定し得るのであって,そのような場合,記録時間が長くなることを不都合というのは余りにも一面的な理解であり,不当である。
当裁判所の判断
1 取消事由1(引用発明の認定の誤り)について( ) 審決は,引用発明について,「上記記載事項( )〜( ),及び第2図 1 ADを参酌すると,ディスクのトラックへの記録は記録パルスの出力によって(バースト状に)行われるものであることは明らかである。」(審決謄本5頁第5段落)と認定したのに対し,原告は,引用例には,ディスクのトラックへの記録が「バースト状」に行われることは記載されていない旨主張するので,以下検討する。
( ) 審決は,本願発明との対比において,引用発明においてディスクのトラッ 2クへの記録が「バースト状」に行われているとして,両発明が「記録時には該トラックにデータをバースト状に記録し,再生時には該トラックからバースト状に記録されたデータを読み出す」点において一致すると認定したのであるから,審決の上記認定の当否を検討するに当たっては,本願発明における「バースト状」に記録することの意義を明らかにする必要がある。
ア 本願発明の要旨は,前記第2の2記載のとおりであり,特許請求の範囲には,データを「バースト状」に記録するとの記載があるほか,「バーストのデータ」及び「クラスタまたはバースト」という記載はあるが,「バースト状」との用語の意義を直接的に明らかにした記載はない。
そこで,まず,本件優先日当時の技術水準の下で,本願発明の「バースト」がどのような技術的意義を有するものとして当業者に理解されるかについてみると,昭和59年1月19日ラテイス株式会社発行「最新 データ通信用語辞典」(甲14)には,「バースト ある現像の発生に burstママおいて,隣接した2個の発生時間間隔が,あらかじめ指定した時間間隔以内である場合をいう。一般概念としては,現像の集中的発生をいう。」との記載があり,昭和63年2月20日電波新聞社発行「情報処理用語辞典」(甲16)には,「バースト順々に転送されるデータのうち burst特定の規定により一単位と扱われる信号データの塊。」,「バースト伝送[ ] 制御された間欠的な時間間隔で行われる特 burst transmission JIS定のデータ信号速度によるデータ伝送。 備考 この方法を用いれば,種々のデータ端末装置間の通信が可能である。」との記載がある。
本願発明において,「バースト」という用語は,データの記録担体への記録について用いられており,上記各文献に記載されたバーストについての用語の意義を考慮すると,本願発明にいう「バースト状」に記録するとは,一定の期間をおいて記録することを意味するとも考えられるが,また,データについて,一単位として扱われるデータの塊として記録することを意味するとも考えられ,特許請求の範囲の記載の他の構成に照らしても,その意味が一義的に明らかであるとはいえない。
イ ところで,出願人は,特許明細書の用語について,その意味を定義して使用することによって,特定の意味で使用することができるところ(特許法施行規則24条様式29〔備考〕8),本件明細書をみると,「基本的に,デジタルデータの通常の連続的記録が,バーストごとの記録によって置換され,ここにおいて各バーストデータはそれ自体連続的に記録される。
データのバーストごとの記録によって,有利に各バーストは記録担体上に1つのクラスタ(集群)を形成する。1つのバーストデータとは所定のデータ量(集合),例えば1つ又は複数ビットの所定のデータ量(集合)のことである。1つのクラスタ(集群)とは実質的に1つのバーストデータを含むトラック部分である。そのようなクラスタによる記録は以下“クラスタ記録”と称される。」(3頁右上欄第4段落)との記載がある。
上記記載によれば,本件明細書は,1つの「バーストデータ」が,「例えば1つ又は複数ビット」の「所定のデータ量」のことであると定義している。
さらに,同明細書の「中間記憶装置(一時記憶メモリ)は制御ユニット8により制御され,上記制御ユニット8は就中記録担体11上の実際の位置データ14を設定-位置データと比較する。一時記憶メモリ6にて,調整された設定-バーストにおけると少なくとも同数のデータが記憶されている際はじめて,一時記憶メモリは信号線路13“データレディ”(“”)についてシグナリング通報する。当該記録ユニットがそれ Data Readyの規定(設定)位置に到達すると,出力制御線路“ ”12Output Controlを介して当該メモリの読出が行なわれ,相応のバーストデータが,一時記憶メモリから,毎秒1.4112MbitのCD-標準記録データレートで読出され,リードソロモンコード化器9にてCIRC-誤り(エラー)防止コード( )を施され,インターリ Cross-Interleaved-Reed-So1omon-Code-ビング(コード拡張)操作を受ける。当該インターリ-ビングのためコード化器(エンコーダ)9中にインターリ-ビングメモリ(図示せず)が設けられている。デジタルデータの処理及び記録の時間的経過を図1に示す。」(4頁左上欄最終段落〜右上欄第1段落)との記載においては,ディスクへの記録を行うに当たって中間記憶装置(一時記憶メモリ)内のデータ量が問題となっているところ,中間記憶装置(一時記憶メモリ)のデータ量について,「バースト」は「所定のデータ量」を示す語として使用されているものと理解できる。
そして,特許請求の範囲の,「記録担体に記録すべきデータの各バーストをトラックの一部分つまり1つのクラスタに,その正味データレートとは無関係にまえもって定められた物理的な書き込みデータレートを用いて該記録担体に記録し」との記載及び「バーストのデータを一時記憶メモリ(6)を使用して記録または再生装置に一時記憶して,記録すべきデータの正味データレートを書き込みデータレートに変換し,または読み出しデータレートを再生すべきデータの正味データレートに変換し,前記記録担体へのそれらのデータの書き込み後または記録担体からのそれらのデータの読み出し後,書き込みまたは読み出しにあたり休止期間を挿入し」との記載に照らせば,本願発明は,記録担体に対し,連続的に記録を行うのではなく,バーストのデータを一時記憶メモリに一時記憶した上で,記録担体のトラック部分に設定されたクラスタごとに記録を行うものであると認められる。このことに上記「バースト」の意義を併せ考えれば,本願発明は,「所定のデータ量」である1つのバーストデータを,1つのクラスタごとに記録する発明であると認められる。本願発明の「バースト状」に記録することの意義をこのように「所定のデータ量」ごとに記録することであると解することは,バーストについて,「一単位として扱われる信号データの塊」(甲16)と説明する文献があることに照らしても,当業者に通常使われる語義からかけ離れたものを選択したものではない。その他,本件明細書を検討しても,「バースト」の上記定義に反する記載は見当たらない。
以上のとおり,本願発明における「バースト」とは,「所定のデータ量」のことであり,「バースト状」に記録することとは,「所定のデータ量」ごとに記録することであると解される。
ウ 被告は,本願発明における「バースト」は,「記録担体に記録するとクラスタ(集群)が形成されるような,所定のデータの集合」といった程度の意味に解するのが妥当であり,それ以上に限定を加えて解釈すべき理由はなく,また,そのように解しても,本願発明の特許請求の範囲の記載,発明の詳細な説明の他の記載及び図面の記載とも何ら矛盾は生じないし,そもそも,「所定」の語は,「一定」あるいは「固定」を意味しないと主張する。
しかし,上記のとおり,本件明細書によれば,本願発明に係る「バースト」の語は,「所定のデータ量」を意味するものであって,単なる「データの集合」という意味ではなく,被告の主張は,本件明細書による定義を無視するものである。そして,「所定」とは,文字どおり,「定まっていること。定めてあること。」(広辞苑 第5版),「定められていること」(大辞林第2版)であって,「所定」の語から,不特定あるいは可変の意味を読み取ることはできない。被告の主張は,失当というほかない。
なお,原告は,「バースト」の用語の意義について,所定のデータ量であることを意味するほか,現象が間欠的に起こること,現象が短時間に起こること,現象の速度が高速であることを意味する旨主張するが,上記説示に照らし,採用できない。
( ) 進んで,引用発明について検討する。 3ア 引用例には,次の記載がある。
(ア) 「円盤状記録媒体の1トラック当りのデータ記録容量の2倍以上の記憶容量を有し,A/D変換されデータ圧縮及び符号化されたデータ信号を記憶するバッファメモリと,このバッファメモリから得たデータ信号をコード変換する記録回路と,この記録回路から得た記録信号を前記円盤状記録媒体のトラックに記録し,再生時,前記トラックに記録された前記記録信号を再生する記録再生ヘッドと,前記バッファメモリと前記記録再生ヘッドとの間に介挿されており,前記バッファメモリに記憶された前記データ信号のデータ容量が第1のレベル以上の間,前記記録再生ヘッドを前記円盤状記録媒体の未記録トラック上に進行させて前記記録信号を順次記録し,前記データ容量が第2レベル以下の間,前記記録再生ヘッドの記録動作を中断し,前記データ容量が第1レベルと第2レベルとの間の際,前記記録再生ヘッドを,順次,1トラックづつ,前記未記録トラック上から既記録トラック上に退行させるキック制御命令が前記記録再生ヘッドに対して出力されると同時に,前記記録再生ヘッドを再生状態にして前記既記録トラックにおける既記録部分を走査して再生エンベロープ検波し,この既記録部分の終了位置に到達すると,前記既記録トラックにおける未記録部分の先端から前記記録信号を断続記録するように前記記録再生ヘッドを制御する制御回路とからなることを特徴とする情報記録再生装置。」(特許請求の範囲)(イ) 「(産業上の利用分野) 本明(注,本発明〔引用発明〕の誤記と認める。)は円盤状記録媒体(以下,ディスクと記す)を用いて情報信号を劣化させることなく圧縮し,長時間記録再生を可能にした情報記録再生装置に関する。」(1頁右下欄最終段落)(ウ) 「(従来の技術) 第3図は従来の円盤状記録媒体の記録フォーマットを説明する図,第4図は従来の情報記録再生装置のブロック構成図である。従来,ディスクにディジタルデータを記録再生する装置としては,フロッピーディスク装置が良く知られており,又,光デイスク装置も実用化されようとしている。これらの記録再生装置はコンピュータの補助記録装置として用いられるため,データの再生品質,特に信頼性に重点が置かれているから,記録密度は高くできない。そして,コンピュータと接続されてデータの読み出し書き込みのため,データがブロック化され,しかもデータは固定長記録されるのが一般的である。固定長記録されるディスクの記録フォーマットは,第3図に示すように,ディスク1の1本のトラック2はプリアンブル,複数個のセクタ(セクタ01,セクタ02,・・・,セクタN),ポストアンブルから構成されている。
セクタ01,セクタ02,・・・,セクタNは,夫々,IDフィールド,Gap,データフィールド,Gapから構成されている。上記のトラック2へのデータの書き始めは,同図に示すように,記録再生装置を構成するインデックス検出器がディスク1の図示しないインデックスホールを検出して発生するインデックスパルスがこれに当たる。このような記録フォーマットを有するディスク1に,音声あるいはビデオ信号の通常データを記録する場合には,トラック単位の記録が行なわれ,1トラックに満たない場合はゼロデータが記録される。従って,このようなフォーマットを有するディスク1に大量のデータを記録する際,冗長度が大となり,大量のデータを記録するには不向きであった。又,CDのように,ディスクに一定の記録レートで記録する方式も広く利用されてはいるが,記録する情報の転送レートが一定である場合には問題がないが,データ圧縮を行ない,しかも,この効率を向上させるために可変長符号(例,ハフマン符号)を用いる場合には,(1)大容量のバッファメモリ等を用い,記録レートを一定に保つ方法,(2)不用なデータを記録し,記録レートを一定にする方法が考えられる。」(1頁右下欄最終段落〜2頁左下欄第1段落)(エ) 「(実施例)本発明は,大略,記録すべき信号を高能率符号化によりデータ圧縮し,不等長符号化されたデータをバッファメモリに蓄積し,メモリに蓄積されたデータ量に応じて,ディスクの1トラックキックを利用し,ディスクの未記録トラックあるいは既記録トラックの未記録部分を検出し,既記録トラックの既記録部分の終了位置以後から断続記録を行ない,既記録トラックの未記録部分(ギャップ)を最小限にすることによって,データをディスクのトラックに長時間記録再生する情報記録再生装置である。 第1図は本発明になる情報記録再生装置の一実施例になるブロック構成図,第2図は第1図に示す情報記録再生装置の動作を説明する図である。 ・・・本発明になる情報記録再生装置17は,第1図示すように,記録系18(A/D変換回路5,データ圧縮回路6,符号化回路7,バッファメモリ19,記録回路8,制御回路20),ディスク9を回転するモータ10,再生系11(ピックアップ12,再生回路13,復号回路14,データ伸張回路15,D/A変換回路16),記録/再生ヘッド21から構成されている。」(3頁左下欄最終段落〜同頁右下欄第3段落)(オ) 「まず,情報記録再生装置17の記録動作について説明する。入力ビデオ信号A/D変換回路5でA/D変換され,データ圧縮回路6でデータ圧縮され,符号化回路7に印加され,ここで,符号化信号(第2図( )に示す信号a)されたデータ信号はバッファメモリ19に印加され, aここに記憶される。バッファメモリ19の容量は,ディスク9の1トラック当たりのデータ記憶容量の2倍以上の記録容量を有しており,この符号化信号aをバッファメモリ19にメモリすると,同図( )に示す信b号bとなり,そのデータ容量のレベルは変動する。制御回路20はバッファメモリ19と記録/再生ヘッド21との間に介挿されており,バッファメモリ19に記憶されたデータ信号のデータ容量が予め定められた第1のレベルV 以上の間,記録/再生ヘッド21に記録パルス(第21図( )に示す信号c)を出力することによって,記録/再生ヘッド21 cをディスク9の未記録トラック上に進行させて記録回路8から出力される記録信号を記録する。又,制御回路20はバッファメモリ19に記憶されたデータ信号のデータ容量が第2のレベルV (但し,V >V )212以下の間,記録/再生ヘッド21の記録動作は中断する。更に,データ容量が第1のレベルV と第2のレベルV の間,制御回路20は記録/12再生ヘッド21に対して,記録/再生ヘッド21を,順次,1トラックづつ,先の未記録トラック(記録が中断した現トラック)上から隣接する既記録トラック上に退行(ディスク9の半径方向に1トラック分移動)させるキック制御命令を出力すると同時に,記録/再生ヘッド21を再生状態にして,この既記録トラックにおける既記録部分を走査して再生エンベロープ検波し(第2図( )に示す信号d),既記録部分の終 d了位置に到達すると,再生検波出力がゼロになるので,この検波出力の後縁のエッジでデータ容量のレベルをラッチし,既記録トラックにおける未記録部分の先端から記録信号を断続記録するように記録/再生ヘッド21を制御することによって,記録信号がディスク9に記録される。」(3頁右下欄最終段落〜4頁左下欄第1段落)(カ) 「(発明の効果) 上述したように,本発明になる情報記録再生装置は,データ圧縮された情報をディスク上に高密度で記録でき,従って,情報の長時間記録,長時間再生ができる効果を有する。」(4頁左下欄第3段落)イ 上記アによれば,引用発明において,データ信号は,一度,バッファメモリに記憶され,円盤状記録媒体(ディスク)に対する記録は,バッファメモリに記憶されたデータ信号のデータ容量のレベルによって記録動作が異なってくるものであり,@ 同データ容量のレベルが一定のレベル(V )以上の間は,記録ヘッドをディスクの未記録トラック上に進行させ1てディスクへの記録を行い,A 上記データ容量のレベルが一定のレベル(V ただしV >V )以下の間,記録動作は中断し,B 上記データ212容量がV とV の間,記録ヘッドは,順次1トラックずつ,未記録トラッ 12ク上から隣接する既記録トラック上に退行し,既記録トラックの既記録部分の終了位置に到達すると,データ容量のレベルをラッチし,既記録トラックにおける未記録部分の先端から記録信号を記録する,というものである。
換言すると,引用発明は,従来の技術において,固定長記録されるディスク(円盤状記録媒体)の「このような記録フォーマットを有するディスク1に,音声あるいはビデオ信号の通常データを記録する場合には,トラック単位の記録が行なわれ,1トラックに満たない場合はゼロデータが記録される。従って,このようなフォーマットを有するディスク1に大量のデータを記録する際,冗長度が大となり,大量のデータを記録するには不向きであった。」(上記ア(ウ))ことに着目し,ゼロデータの記録を排除するために,上記のとおり,バッファメモリのデータ容量のレベルが,一定のレベル(V )以上のときには未記録トラックに記録を行い,一定の1レベル(V ただしV >V )以下のときには記録動作を中断し,V と 212 1V の間のときには,未記録トラックから隣接する既記録トラックに戻り, 2既記録トラックの既記録部分の終了位置から記録を行い,かくして,「本発明になる情報記録再生装置」は,「データ圧縮された情報をディスク上に高密度で記録でき,従って,情報の長時間記録,長時間再生ができる効果を有する。」というものである。
ウ そうすると,引用発明において,記録担体に対する記録は,バッファメモリ内のデータ容量に応じて継続したり,中断したり,別のトラックに移ったりするものであって,それぞれのデータのまとまりのデータ量は,まとまりごとに異なったものになるということができ,「所定のデータ量」の記録とならないことが明らかである。
( ) 以上によれば,本願発明の「バースト状」に記録するとは,「所定のデー 4タ量」ごとに記録することであると解されるところ,引用発明においては,上記のとおり,「所定のデータ量」ごとに記録するものではなく,本願発明にいう「バースト状」に記録するという構成を欠くものであり,上記( )判3示の引用発明の本質から,通常,データを「バースト状」に記録することはできないものである。
したがって,引用発明について,審決の,ディスクのトラックへの記録が「バースト状」にされているとの認定,及び,これを前提とする本願発明との一致点の認定は誤りであり,この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,原告の取消事由1の主張は,理由がある。
2 取消事由3(相違点の看過A)について( ) 原告は,本願発明の「休止期間」は,1トラックより小さく,かつ,固定 1長である「クラスタ」に対する書き込みと,次のクラスタに対する書き込みとの間に必ず発生するものであり,1トラックごとに必ず生じるのに対し,引用発明では,書き込みの中断時間はバッファメモリのデータ蓄積量に対応して,条件付きで発生する,すなわち,バッファメモリの容量が第2のレベルV 以下になるという条件がある場合にのみ記録が中断されるものであり,2書き込みの中断前後のデータの集群(被告のいう「クラスタ」)は,1トラックより大きく,可変長であり,審決は,本願発明の「休止期間」及び「クラスタ」の技術的意義を誤解し,上記相違点を看過した旨主張する。
( ) そこで,まず,記録の「休止期間」について検討する。 2ア 本願発明は,特許請求の範囲の「記録担体に記録すべきデータの各バーストをトラックの一部分つまり1つのクラスタに,その正味データレートとは無関係にまえもって定められた物理的な書き込みデータレートを用いて該記録担体に記録し」との記載や「バーストのデータを一時記憶メモリ(6)を使用して記録または再生装置に一時記憶して,記録すべきデータの正味データレートを書き込みデータレートに変換し,または読み出しデータレートを再生すべきデータの正味データレートに変換し, 前記記録担体へのそれらのデータの書き込み後または記録担体からのそれらのデータの読み出し後,書き込みまたは読み出しにあたり休止期間を挿入し,現在のクラスタまたはバーストの書き込み後または読み出し後の前記休止期間中,記録または再生装置を次のクラスタまたはバーストの開始位置に位置決め」との記載のとおり,記録担体に記録をするに当たり,一時記憶メモリを使用し,記録担体上のトラック部分に設定されたクラスタごとに記録を行うものであり,1つのバーストデータを1つのクラスタに記録するごとに,記録の休止期間が挿入されるものであると認めることができる。
この「休止期間」は,「期間」である以上,時間の観念を有することは明らかであり,しかも,クラスタへの記録と記録との間に,記録又は再生装置を位置決めするために「挿入」されるべき有為の時間であると認められる。
イ 他方,引用発明は,前記1( )イのとおり,バッファメモリ内のデータ 3容量のレベルが一定のレベル(V )以上のときには,記録ヘッドをディ1スクの未記録トラック上に進行させてディスクへの記録を行い,一定のレベル(V ただしV >V )以下のときには,記録動作を中断し,V と212 1V の間のときには,未記録トラックから隣接する既記録トラックに戻り, 2既記録部分の終了位置から記録を行うものであるから,バッファメモリ内のデータ容量のレベルが,一定のレベル(V )以上のときには,記録動1作の中断は生じず,V とV の間のときには,未記録トラックから隣接す 12る既記録トラックに戻るので記録動作の一時的中断が生じ,一定のレベル(V ただしV >V )以下のときには,記録動作の継続的な中断が生212じる。バッファメモリのデータ容量のレベルがV とV の間のときには, 12記録の一時的中断が生じるが,単にトラックを戻した結果生じる時間遅れ( )であり,これを期間の「挿入」とはいえず,この一時中断が有 time lag為の時間の観念を含むものでないことが明らかである。また,バッファメモリのデータ容量が一定のレベル(V ただしV >V )以下の時には,212記録動作の継続的な中断が生じるが,V 以下の状態から回復しない限り, 2中断したままであって,クラスタへの記録動作の間に「挿入」されるものであるとはいい難い。
ウ 審決は,引用発明につき,「ディスクへのデータの記録(書き込み)後,バッファメモリのデータ容量の減少に伴い,記録動作を中断し,記録再生ヘッドを移動し(この期間が「休止期間」に相当する。),既記録トラックの未記録部分の先端(「次の開始位置」に相当する。)からデータを断続記録するものである。」(審決謄本7頁第1段落)と認定し,被告も,引用発明において,休止期間によって分割されて書き込まれたデータの,各々の集群をクラスタと称するのであるから,引用発明においても,隣接する2つのクラスタの書き込み間には,当然に休止期間が存在する旨主張するが,上記のとおり,隣接する2つのクラスタの書き込み間に存在するのは「中断」の結果生じる時間遅れであって,本願発明にいう「休止期間」とはいえないのであって,失当である。
( ) 次に,「クラスタ」について検討する。 3ア 上記( )アのとおり,本願発明においては,記録担体に記録をするに当 2たり,一時記憶メモリを使用し,記録担体上のトラック部分に設定されるクラスタごとに記録を行うものであり,1つのバーストデータを1つのクラスタに記録するごとに,記録の休止期間が挿入されるものである。
ここで,本願発明において,上記1のとおり,バーストとは所定のデータ量を示すものであり,各バースト,すなわち所定のデータ量が,1つのクラスタに記録されるものではあるが,特許請求の範囲の記載そのものには,クラスタにつき,「トラックの一部分」であると限定されているのみであって,クラスタが固定長の意味を含むか否かについては,明示的な記載はない。
イ そこで,本件優先日である平成2年3月当時,当業者間において,「クラスタ」がどのような技術的意義を有するものとして理解されていたかを検討する。
(ア) 昭和60年8月5日株式会社日本理工出版会発行「JIS準拠コンピcluster ュータデータ通信用語解説集」(甲23)には,「クラスタメモリ管理の1単位。例えば,フロッピーディスクの場合,セクタを8個,16個などにまとめて1クラスタとして管理している。」(67頁)との記載がある。
(イ) 特開昭64-35624号公報(甲24,発明の名称「デイスクの空きエリア管理方式」)には,次の記載がある。
「空きエリアの管理をセクタとクラスタの両方で行なうようにし, aフアイル・システム内で使用するディレクトリ管理のテーブルのサイズやフアイルのデータ格納テーブル等のサイズを同一にし,これを1クラスタのサイズにする。クラスタ・サイズの 倍でないエリアの取n得は,セクタ単位で行ない,デイレクトリ管理テーブル等のクラスタ・サイズの 倍と同じ大きさのエリアの取得はクラスタ単位で行な nう。」(2頁左上欄第3段落〜第4段落)「1クラスタのサイズを4セクタとすると4セクタの 倍取得の要 bn求の場合,クラスタ管理テーブル1-5をサーチし,それ以外の時はセクタ管理テーブル1-4をサーチする。」(同左下欄最終段落)(ウ) 特開平1-155555号公報(甲25,発明の名称「デイスクレコーダー」)には,次の記載がある。
「第3図に従来の2チャンネル装置を4ヤャンネルに拡張した場合 aを説明すると,各チヤンネルに2個のメモリーを有し書き込み,読み出しを順次実行させる。仮にデイスクの回転数を3482rpm,1トラツクの容量を16384バイト,最大シーク時間50m ,S一度に読み書きするデータの量を32768バイト(2トラック)とするとこのデイスクをランダムにアクセスして得られる転送速度は次の式によって得られる。」(1頁右下欄最終段落〜2頁左上欄第1段落)「〔発明が解決しようとする問題点〕一度に読み書きするデータの bブロツクをクラスターと呼ぶことにすると通常は2クラスター分のメモリーをチヤンネル毎に設け,・・・」(2頁左上欄最終段落〜同頁右上欄第1段落)(エ) 乙3公報(特開昭61-9721号公報,発明の名称「磁気ディスク装置のセクタ管理方式)には,次の記載がある。
「磁気ディスク等の記憶装置には必ず,欠陥セクタが存在し,計算 a機システムで生成されたファイルはこの欠陥セクタを避けたエリアに格納しなければならない。」(1頁右下欄第2段落)「この有効セクタテーブルは,先頭セクタの番号と,該先頭セクタ bから何セクタが連続して有効かを示すデータ,すなわちクラスタから形成されている。」(2頁左上欄第3段落)「欠陥セクタを除いた有効セクタは欠陥セクタによって分断される cため,いくつかの連続したかたまり(クラスタ)に分れる。」(2頁左下欄最終段落〜同頁右下欄第1段落)「本発明は,ファイルの管理情報を論理番号で作成しているので, d従来のように,連続した有効セクタのかたまり(クラスタ)のデータが不要になり,ファイル管理システムが簡単になる。」(4頁右上欄第3段落)(オ) 特開昭62-239475号公報(乙4,発明の名称「情報記録媒体」)には,以下の記載がある。
「円周方向に1回転あたり一定数のセクタに分割されたスパイラル a状のトラックを有する円盤状の情報記録媒体において,前記一定数を越えるセクタ数を1単位としてクラスタが形成され,各各のクラスタの開始点が,所定数のセクタに対応する長さだけ円周方向に順次ずらして形成されたことを特徴とする情報記録媒体。」(1頁左下欄第2段落)「本発明においては第1図で示すように,ディスクを1回転した場 b合の円周方向のセクタ数よりも多いセクタ数を1つのクラスタとし,そのクラスタに対し論理トラックの割付けを行った。第1図では論理トラックに含まれるセクタ数をディスク1回転あたり円周方向に存在するセクタ数の2倍,つまりディスク2周分に含まれるセクタ数よりも2セクタ少ない数を1つのクラスタとしている。」(3頁左上欄最終段落〜同頁右上欄第1段落)ウ これらによれば,乙3公報においては,欠陥セクタにより分断されるセクタのかたまりがクラスタと呼ばれるなどし,そこでのクラスタの長さは一定のものとは認められないが,他の各文献においては,いずれも,記録担体において,記録部分の最小単位であるセクタを特定の数だけまとめるなど,記録部分の一定の単位がクラスタと呼ばれていて,上記イ(ア)によっても,一般的には,クラスタと呼ばれるものは,単位となるような固定長のものとされていたのであり,「クラスタ」をこのような用語として用いることが,一般的であったものと推測される。
エ しかし,「クラスタ」について,乙3文献のように,固定長ではなく,一定のデータのまとまりを指す用例もあり,本願発明の「クラスタ」の意義が必ずしも一義的であるとまではいえないので,本件明細書の発明の詳細な説明をみると,以下の記載がある。
(ア) 「基本的に,デジタルデータの通常の連続的記録が,バーストごとの記録によって置換され,ここにおいて各バーストデータはそれ自体連続的に記録される。データのバーストごとの記録によって,有利に各バーストは記録担体上に1つのクラスタ(集群)を形成する。1つのバーストデータとは所定のデータ量(集合),例えば1つ又は複数ビットの所定のデータ量(集合)のことである。1つのクラスタ(集群)とは実質的に1つのバーストデータを含むトラック部分である。そのようなクラスタによる記録は以下“クラスタ記録“と称される。」(3頁右上欄第4段落)(イ) 「1つのクラスタ(集群)の長さを次のように設計すると有利である,即ち,1つのATIPブロックの整数倍,ひいてはEFMフレームの整数倍に相応するように設計すると有利である。従って1つのクラスタに対する1つのATIPブロック及び1つのEFMフレームの一義的対応関係性(帰属性)が設定,確定されており,それにより1つのクラスタの一義的アドレッシング可能性が確保される。」(3頁右下欄第2段落)(ウ) 「各クラスタにて生じる,始めにおける損失,並びに終りにてインターリービングメモリの空ら(非有効)書込みによる空ら(非有効)データの損失をわずかに抑えるため,クラスタは必ずしもできるだけ短かくされない。記録されたデータに対するダイレクトリの所要の構成,及び記録担体の基本的に存在する融通性(これは勿論クラスタレコーディングによって除かれるべきでない)のため,1つのクラスタの長さはまた任意の大きさではない。
クラスタレコーディングによるMOD13に対しては次のクラスタ長1 が設定されているCL1 =1176EFMフレームCL=12ATIPブロック=0.16sec1つのクラスタ内での分布は次のようになる。
EFMフレームの個数 内 容1 リンクフレーム( )Link-frame2 ランイン( )run-in1029 データ( )Data111 インターリービング( )Interleaving2 ランアウト( )run-out1 リンクフレーム( )Link-frame30 不使用( )unused上記の構成仕様によっては24696ビツトの有効データが,本来28224ビットのスペースを占める1つのクラスタ中に記録される。
記憶容量の損失は1/8=12.5%である。」(5頁左下欄最終段落〜右下欄最終段落)上記記載によれば,本願発明において,データは休止期間をはさんで,各クラスタに記録されるものであるが(上記(ア)),上記(イ)及び(ウ)は,その場合のクラスタの長さとしてどのような長さが適切かを記載しているのであり,それらの記載において,クラスタが固定長であることを前提としていることは明らかである。その上で,上記各記載において,「1つのクラスタ(集群)の長さ」をどのように設計したらよいかについて,「1つのATIPブロックの整数倍」,ひいては「EFMフレームの整数倍」がよいこと(上記(イ)),効率性や他の制約の関係から,「1つのクラスタの長さはまた任意の大きさではない」として,特定の条件の下で「本来28224ビットのスペースを占める1つのクラスタ」が設定されることが示されているのである。
したがって,本件明細書の発明の詳細な説明の用語を参酌しても,「クラスタ」は,当然のように,記録担体における記録部分の長さの単位を示す語として用いられているのであり,本件において,特許請求の範囲の記載において,そこで使用されたのと異なった意義で使用する理由はないから,発明の詳細な説明参酌しても,本願発明の「クラスタ」は,記録担体における記録部分の長さの単位となる固定の長さを示すものであると認めることができる。
したがって,本願発明の「クラスタ」は,記録担体のトラックにおける固定長の管理単位を示すものを意味しており,本願発明は,各バースト,すなわち所定のデータ量が,記録担体における,1つのクラスタ,すなわち,トラック上の所定の長さを持った部分に記録され,そのような各バーストのクラスタに対する記録ごとに休止期間が挿入されるものである。
オ 被告は,本願発明の「クラスタ」は,固定長のものに限られない旨主張し,「クラスタ( )」という用語は,本来「群れ」「かたまり」と clusterいうイメージを有する単語であり,必ずしも一定の大きさ,量を示す意味は備えていないこと,乙3公報において,クラスタの長さは個々に異なるものであることを指摘し,また,本願発明の特許請求の範囲においては,クラスタの長さについて何ら言及はなされておらず,単に記録すべきデータが記録される領域として示されているにすぎないのであるから,本願発明における「クラスタ」には,固定長のものに限定されず可変長のものも含まれている旨主張する。
しかしながら,「クラスタ」について,本来「群れ」「かたまり」というイメージを有する単語であったとしても,本件においては,本件優先日当時の当該技術分野における「クラスタ」という語の技術的意義が問題となるのであり,本願発明の「クラスタ」の技術的意義が被告主張のようなものでないことは,上記のとおりである。
カ 他方,引用発明は,前記1( )ウのとおり,バッファメモリのデータ容 3量に応じて,ディスクに対する記録が中断されたり,されなかったりするものであるから,連続して記録される個々のデータのまとまりのデータ量は,通常,異なったものとなる。そして,引用例において,データ量が異なるにもかかわらず,連続して記録される一つのデータのまとまりが,記録担体上の特定の長さを有する一つの部分に記録されることをうかがわせる記載はない。
キ 被告は,「クラスタ」が必ずしも固定長のものに限定して理解されないことを前提に,引用発明においても,記録されたデータのかたまりの長さは個々に異なるものの,そのデータのかたまりを「クラスタ」ということができる旨主張するが,「クラスタ」について,被告主張の意義を採用できないことは前記( )オのとおりであり,被告の主張はその前提を欠くも 3のである。
また,被告は,引用発明において,ディスクに記録されるデータのかたまり(クラスタ)の長さは個々に異なっていてもよいところ,そのクラスタの長さを可変長のものに代えて,単に固定長のものとする程度のことは当業者が必要に応じて適宜なし得た事項である旨主張する。
しかし,ここで問題となっているのは,引用発明が固定長のクラスタを開示しているか否かであり,進歩性の議論をしているわけではないから,被告の上記主張は,それ自体失当である。のみならず,被告は,当業者が必要に応じて適宜なし得た事項であるとする根拠も示していないが,念のために検討を加えておく。
そもそも,引用発明においては,入力されるデータ量の変動がある通常の場合,記録の中断によって生じるまとまりごとのデータ量は,全く異なったものとなるのであり,引用発明において,連続して記録されるデータのまとまりのデータ量を所定の量とすることは,発明の本質上,困難である。
そして,引用発明において,連続して記録されるデータの一つのまとまりを固定長の管理単位である一つのクラスタに対する記録とすることが,当業者が適宜なし得た事項であるということもできない。
すなわち,連続して記録されるデータのまとまりをそれぞれディスク上の一つの固定長に記録するためには,上記のとおり,バッファメモリのデータ容量がV 以上の場合には記録が連続してされることを考慮しなけれ1ばならない。仮に,通常の場合に連続して記録される最大限のデータのまとまりを記録し得る固定長の設定が可能であったとしても,各記録のまとまりのデータ量は,大きく異なるにもかかわらず,連続して記録されるデータのまとまりをそれぞれディスク上の一つの固定長に記録するためには,各データのまとまりを上記最大限のデータのまとまりを記録し得る一つの固定長の部分に記録することとなるが,その場合には,記録されなくなる部分が多数出て,「(発明の効果)上述したように,本発明になる情報記録再生装置は,データ圧縮された情報をディスク上に高密度で記録でき,従って,情報の長時間記録,長時間再生ができる効果を有する。」(上記1( )ア(カ))という引用発明の効果を全く奏さないものとなる。 3( ) 以上によれば,本願発明は,所定のデータ量ごとに,記録担体のトラック 4の所定の長さを有する部分(クラスタ)として記録がされるもので,そのような記録を行うごとに,記録を休止するものである。これに対し,引用発明は,バッファメモリのデータ容量に応じ記録の中断を行い,通常の場合,連続して記録されるデータ量は毎回異なったものであり,また記録の休止によって生じるひとまとまりのデータがトラックにおいて記録される部分の長さは異なったものである。
したがって,本願発明は,固定長である「クラスタ」に対する書き込みと,次の書き込みとの間に必ず,記録の「休止期間」を挿入するものであるのに対し,引用発明においては,書き込みの中断はバッファメモリのデータ蓄積量に対応して,条件付きで発生するものであり,書き込みの中断が発生した場合の中断前のデータの集群は,可変長である点で相違することとなる。
引用発明において,この相違点に係る構成を本願発明の構成とすることは,上記のとおり,引用発明の本質上,困難であり(上記1( ),2( )キ),上43記相違点の看過が,審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。
( ) したがって,原告の取消事由3の主張は理由がある。 53 以上によれば,原告主張の取消事由1及び取消事由3は理由があるから,その余の点について検討するまでもなく,審決は違法として取消しを免れない。
よって,原告の請求は理由があるから認容することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 宍戸充
裁判官 柴田義明