運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

関連審決 異議2000-73583
この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成17行ケ10665特許取消決定取消請求事件 判例 特許
平成19行ケ10256審決取消請求事件 判例 特許
平成17行ケ10445審決取消請求事件 判例 特許
平成19行ケ10315審決取消請求事件 判例 特許
平成12行ケ91取消決定取消請求事件 判例 特許
関連ワード 技術的思想 /  創作性(創作) /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  相違点の認定 /  技術常識 /  数値限定 /  技術的意義 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  構成要件 /  設定登録 /  発明の範囲 /  対価 /  請求の範囲 /  訂正明細書 /  取消決定 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
元本PDF 裁判所収録の別紙1PDFを見る pdf
事件 平成 13年 (行ケ) 424号 特許取消決定取消請求事件
原告 富士川建材工業株式会社
訴訟代理人弁理士 福田賢三
同 福田伸一
同 福田武通
被告 特許庁長官太田信一郎
指定代理人 木原裕
同 鈴木憲子
同 大橋良三
同 山口由木
同 高木進
同 涌井幸一
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/06/19
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が異議2000-73583号事件について平成13年8月6日にした特許取消決定のうち,特許第3023836号の請求項1に係る特許を取り消す,とした部分を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,発明の名称を「建築物の外壁の施工方法」とする特許第3023836号の特許(平成8年9月26日出願(以下「本件出願」という。),平成12年1月21日に特許権設定登録,以下「本件特許」という。設定登録時の請求項の数は2である。)の特許権者である。
本件特許の請求項1,2のすべてについて,特許異議の申立てがなされ,特許庁は,この申立てを,異議2000-73583号として審理した。原告はこの審理の過程で,本件出願の願書に添付した明細書について,請求項2の削除を含む,訂正を請求した(以下「本件訂正」といい,本件訂正にかかる明細書を「訂正明細書」という。)。特許庁は,審理の結果,平成13年8月6日に,「訂正を認める。特許第3023836号の請求項1に係る特許を取り消す。」との決定をし,同月27日にその謄本を原告に送達した。
2 特許請求の範囲(本件訂正後のもの・請求項1) 「建築物の下地に防水シートを敷設してメタルラスを取り付け,セメント20〜60wt%,無機質混和材20〜60wt%,有機質混和材2〜10wt%で,練り上り時の単位容積質量が1.0〜1.5である軽量セメントモルタルを塗着し,その表面に質量が40〜250g/m2で,引張強度が100kgf/mm2以上である網材を押圧して埋設した後,仕上げ施工することを特徴とする建築物の外壁の施工方法。」(以下「本件発明」という。) 3 決定の理由 別紙決定書の写し記載のとおりである。要するに,本件発明は,「1995建築仕上材ガイドブック」(日本建築仕上材工業会編集,株式会社工文社,平成7年4月20日発行,161頁。審判甲第1号証,本訴甲第5号証。以下「刊行物1」という。)記載の発明(以下「刊行物1発明」という。)及び特開昭59-217861号公報(審判甲第3号証。本訴甲第7号証。以下「刊行物2」という。)記載の発明(以下「刊行物2発明」という。)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法29条2項の規定に該当し,特許を受けることができない,というものである。
決定が上記結論を導くに当たり認定した本件発明と刊行物1発明との一致点・相違点は,次のとおりである(この一致点・相違点の認定については,当事者間に争いがない。)。
(一致点) 「建築物の下地に防水シートを敷設してメタルラスを取り付け,セメント,無機質混和材,有機質混和材からなる軽量セメントモルタルを塗着する建築物の外壁の施工方法。」である点 (相違点) 「(1) 軽量モルタルセメントにおいて,セメント,無機質混和材,有機質混和材の混合割合及び練り上り時の単位容積質量における具体的数値範囲が,本件発明と刊行物1記載の発明とは相違している点」(以下「相違点1」という。) 「(2) 本件発明は,塗着した軽量セメントモルタル表面に,その質量が40〜250g/m2で,引張強度が100kgf/mm2以上である網材を押圧して埋設した後,仕上げ施工するのに対し,刊行物1には,そのような施工をすることが記載されていない点」(以下「相違点2」という。)
原告主張の決定取消事由の要点
決定は,相違点1,2についての判断を誤ったものであり,これらの誤りがそれぞれ結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,違法として取り消されるべきである。
1 相違点1についての判断の誤り (1) 決定は,相違点1(軽量モルタルセメントに関する具体的数値範囲における相違)についての判断において,「本件発明の刊行物1記載の発明と相違する上限値又は下限値に格別の臨界的意義も認められない。なお,権利者は,特許異議意見書において,軽量セメントモルタルの練り上がり時の比重の上限値(1.5)が設けられていない点で明確な相違がある(同書3頁22〜23行)と主張しているが,その根拠となる同書の測定結果を検討しても,単位容積比重をそれぞれ1.9;1.3;0.8の3種類の軽量セメントモルタルの比較(測定結果A〜E)(同書10頁〜12頁)が記載してあるだけで,軽量セメントモルタルの練り上がり時の比重を1.5前後で測定したわけではないから,練り上がり時の比重の上限値を1.5とした根拠が明らかでなく,この点に臨界的意義があるとは認められない。」(決定書5頁下から3行〜6頁7行)と認定判断した。しかし,この認定判断は誤りである。
(2) 本件発明が規定する軽量セメントモルタル及び網材の数値範囲は臨界的意義を有する。このことは,原告が本件異議の手続において提出した特許異議意見書(甲第12号証)に記載された測定結果AないしE(10頁5行〜12頁19行),原告準備書面(第3回)に記載された測定結果A’ないしC’(甲第17ないし第20号証参照)から明らかである。
【測定結果AないしE】 〔測定結果A〕(網材なし) 単位容積質量(比重) ひび割れ発生時の荷重 変位量 (以下「単位容積質量」という。) 1.9 65.0kgf/cm2 0.2mm 1.3 30.2kgf/cm2 0.3mm 0.8 16.9kgf/cm2 0.5mm 〔測定結果B〕(ガラス繊維 質量145g/m2 引張強度150kgf/mm2使用) 単位容積質量 ひび割れ発生時の荷重 変位量 1.9 110.4kgf/cm2 3.5mm 1.3 90.8kgf/cm2 9.9mm 0.8 25.0kgf/cm2 4.0mm 〔測定結果C〕(ビニロン繊維ネット 質量45g/m2 引張強度183kgf/mm2使用) 単位容積質量 ひび割れ発生時の荷重 変位量 1.9 68.0kgf/cm2 0.3mm 1.3 60.1kgf/cm2 0.5mm 0.8 18.6kgf/cm2 0.5mm 〔測定結果D〕(ガラス繊維ネット 質量35g/m2 引張強度95kgf/mm2使用) 単位容積質量 ひび割れ発生時の荷重 変位量 1.9 66.7kgf/cm2 0.2mm 1.3 32.0kgf/cm2 0.5mm 0.8 18.0kgf/cm2 0.2mm 〔測定結果E〕(ガラス繊維ネット 質量260g/m2 引張強度800kgf/mm2使用) 単位容積質量 ひび割れ発生時の荷重 変位量 1.9 45.6kgf/cm2 2.0mm 1.3 50.1kgf/cm2 4.0mm 0.8 25.5kgf/cm2 3.0mm @ 測定結果Bによれば,本件発明の特定範囲の網材及び軽量セメントモルタル(単位容積質量1.3)を用いた場合には,網材を用いていない測定結果Aに比べてひび割れ発生時の荷重が約3倍になり,耐久強度及び撓み性が著しく向上することが確認された。これに対し,軽量セメントモルタルの単位容積質量が上限値を超えるもの(1.9)ではひび割れ発生時の荷重が測定結果Aの約1.7倍,下限値に満たないもの(0.8)では測定結果Aの約1.5倍向上したにすぎない。
変位量も,本件発明の特定範囲の軽量セメントモルタルが最も大きい値を示した。
測定結果Cでも同様の傾向が見られ,本件発明の特定範囲の軽量セメントモルタルを用いた場合には,測定結果Aに比べひび割れ発生時の荷重で約2倍になったのに対し,上限値を超えるものでは約1.1倍,下限値に満たないものでは約1.1倍向上したにすぎず,有意な差が認められた。
以上の測定結果A〜Cによれば,本件発明の特定範囲の軽量セメントモルタルと特定の網材とを併用した場合には,ひび割れ発生時の荷重及び変位量において大幅な向上が認められ,顕著な相乗効果を発揮することが明らかである。
A 測定結果D,Eによれば,本件発明の特定範囲外の網材を用いた場合には,いずれの軽量セメントモルタルを用いたとしても,測定結果Aに比べてひび割れ発生時の荷重で約1〜1.1倍程度であるにすぎず,有用な相乗効果が得られないことは明らかである。
【測定結果A’ないしC’】 測定結果A’ないしC’は,別表記載のとおりである。
@ 測定結果A’ないしC’によれば,本件発明の特定範囲の単位容積質量(1.0,1.3,1.5)の軽量セメントモルタルを用いて網材と併用させたものは,網材を使用しないものに比べてひび割れ発生時の荷重で約2倍以上になり,変位量もエネルギー値も著しく向上した。
A 単位容積質量が0.8,0.9の軽量セメントモルタルを網材と併用したものでも,網材を使用しない場合に比べてひび割れ発生時の荷重,変位量,エネルギー値のそれぞれにおいて幾分の向上効果が認められたものの,その向上効果に大きな差があった。単位容積質量が1.0,1.3,1.5の軽量セメントモルタルをガラス繊維ネットと併用した場合のエネルギー値に比べ,単位容積質量が0.8,0,9の軽量セメントモルタルとガラス繊維ネットとを併用した場合のエネルギー値は約半分程度に過ぎない低いエネルギー値(破断が起こりやすいことを示している。)であった。最大荷重,ひび割れ発生時の荷重,変位量のそれぞれにおいても同様な傾向があった。
このような測定結果によれば,軽量セメントモルタルの単位容積質量の下限値1.0には臨界的意義があるというべきである。
B 単位容積質量が1.9の軽量セメントモルタルを網材と併用したものでは,ひび割れ発生時の荷重において,全試験体中で最も高い値(約110kgf)を示したものの,ガラス繊維ネットを用いた場合のエネルギー値は約80kg・mmで最も低い値であった。この結果は,荷重を全体に分散させることができずに破断してしまったことは明らかである。すなわち,一点集中型のある程度の衝撃等における瞬間的に生じる外力には,硬質であるため耐久性があるものの,風力等の全体的かつ継続的に生ずる外力には柔軟性がないため耐久性がないことを示している。
単位容積質量が1.6の軽量セメントモルタルでは,網材を使用しない場合に比べてひび割れ発生時の荷重及びエネルギー値においては優れた向上効果が認められたものの,ガラス繊維ネットを用いた場合の変位量は4.0mmであり,単位容積質量1.0,1.3,1.5の場合の5.2mm,9.9mm,4.3mmよりも低かった。この結果は,外壁が硬質に偏り,柔軟性に欠けることを示唆するものである。単位容積質量1.6,1.9の軽量セメントモルタルをガラス繊維ネットと併用した場合には,繊維の剪断が生じていることも確認されている。
単位容積質量が1.5と1.6とでは,当然に後者の方が重い外壁が施工されるため,メタルラスの取付部に作用する応力も大きくなる。単位容積質量が1.5の場合にひび割れ防止効果が得られたことも確認されている。
これらの測定結果によれば,軽量セメントモルタルの単位容積質量の上限値1.5には臨界的意義がある,というべきである。
(3) 本件発明は,モルタルのひび割れ防止のための技術的課題として,@モルタルの乾燥収縮の低減,Aモルタルの引張強さの改善,Bモルタルの引張応力の分散,Cモルタルヘのゴム弾性の付与を挙げている。本件発明における軽量セメントモルタルの練り上がり時の比重を特定するためには,これらの技術的課題及び特定の網材を用いた場合の相乗効果を考慮しなければならない。
刊行物1には,これらの課題が全く記載されていない。したがって,「モルタル層の耐久性の向上」,「モルタル層のひび割れ,剥離防止」等を目的として軽量セメントモルタルの練り上がり時の比重を特定することは,当業者が必要に応じて選択し得る程度のものである,ということはできない。
2 相違点2についての判断の誤り (1) 本件発明と刊行物2発明のひび割れ防止のための技術的課題の相違について 決定は,「「網材は,その質量が40〜250g/m2で,引張強度が100kgf/mm2 以上である」構成は,建築物の外壁の施工方法において本来的な目的である「モルタル層の耐久性の向上」,「モルタル層のひび割れ,剥離の防止」等を考慮して,実験等により当業者が必要に応じて選択できうる程度(の)ものである。」(決定書6頁27行〜31行)と認定した。
本件発明は,モルタルのひび割れ防止のための技術的課題として,@モルタルの乾燥収縮の低減,Aモルタルの引張強さの改善,Bモルタルの引張応力の分散,Cモルタルヘのゴム弾性の付与を挙げている。
本件発明における網材の特質を特定するためには,これらの技術的課題及び特定の軽量セメントモルタルを用いた場合の相乗効果を考慮しなければならない。
刊行物2において,技術的課題とされているのは,@モルタルの乾燥収縮の低減だけであり,上記AないしCは技術的課題として記載されていない。「モルタル層の耐久性の向上」,「モルタル層のひび割れ,剥離の防止」等を考慮して,網材の特質を特定することは,実験等により当業者が必要に応じて選択し得る程度のものである,ということはできない。
(2) 刊行物1発明と刊行物2発明とを組み合わせることの阻害要因 決定は,「第2)点における本件発明の構成(判決注・相違点2に係る本件発明の構成)」は,ラス工法で施工される刊行物1記載の発明の建築物の外壁に上記刊行物2記載の発明を当業者が付加することで容易に想到できたものである。」(決定書6頁下から6行〜下から4行)と判断した。しかし,この判断は誤りである。
刊行物1発明は軽量セメントモルタルに関するものであり,刊行物2発明は普通セメントモルタルに関するものである。普通セメントモルタルと軽量セメントモルタルとは,その本質的かつ技術的内容において著しい相違があり,建築技術,特にモルタル壁の組成に関する通常の知識を有する者においては,全く別異の技術領域に属すると認識されている。
特に,既調合である軽量セメントモルタルは,原則として希釈水以外の新たな材料の添加等が厳しく制限されている。刊行物1発明に刊行物2発明を組み合わせるということは,刊行物1記載の軽量セメントモルタルの組成物中に,ガラス短繊維のチョップドストランドと膨張剤を配合してネットを埋設するということであるから,新たな材料の添加等が厳しく制限されている軽量セメントモルタルの原則に反するものとなる。
このように,刊行物1発明と刊行物2発明とを組み合わせることには,阻害要因がある。
被告の反論の要点
1 相違点1についての判断の誤り,の主張について 本件発明において,「セメント20〜60wt%,無機質混和材20〜60wt%,有機質混和材2〜10wt%で,練り上り時の単位容積質量が1.0〜1.5」である軽量セメントモルタルが,質量と引っ張り強度とを特定した網材と併用した場合に限って顕著な相乗効果を発揮することは,本件訂正明細書に全く記載されていない。
測定結果AないしCから分かることは,たかだか,網材を用いた軽量セメントモルタルが網材を用いない軽量セメントモルタルよりも強度が増す(ひび割れ発生荷重が大きい)こと,同じ網材を用いても軽量セメントモルタルの比重が大きい方が強度が増す(ひび割れ発生荷重が大きい)という程度のことである。セメントモルタルの比重の上限を1.5に限定した点に臨界的意義は認められない。
網材は,その質量及び引張強度が小さければ,モルタルの強度に寄与しないことは,測定結果Dを見るまでもなく,技術常識である。
測定結果Eのひび割れ発生荷重は,測定結果Aの1.7倍もあり,本件発明の範囲外の網材を用いた場合にも,網材を用いない場合に比べ,ひび割れ発生荷重が大幅に改善される場合があることを示している。
本件発明における軽量セメントモルタルの練り上り時の比重の数値範囲の限定の臨界的意義を,測定結果A〜Eから導き出すことはできない。
ひび割れ防止等,モルタルの耐久性の向上を図ることは,モルタル壁における当然の課題であり,そのために練り上り時の比重を適切な数値範囲とすることは,軽量セメントモルタルの種類や下地の強度等に応じて適宜設定し得る程度のことである。
2 相違点2についての判断の誤り,の主張について (1) 本件発明と刊行物2発明とのひび割れ防止対策の相違について 本件発明が解決しようとする課題は,ひび割れの発生を防止することである(訂正明細書【0004】)。刊行物2には,ひび割れ防止を解決するため,本件発明と同様に,躯体にセメントモルタルを塗着し,壁面全体の表面に網材を埋設した構成が記載されている。原告が主張するひび割れ防止対策のA,Bと@とは,セメントモルタルのひび割れ防止対策のために網材を埋設する点で一致するもので,その課題(ひび割れ防止対策)をどのようにとらえるかは程度の差にすぎない。
建築物の外壁に用いる軽量セメントモルタルにおいて,引張強さの改善や引張応力の分散のために軽量セメントモルタルにガラス繊維ネット等を埋設することは周知であり,軽量セメントモルタルにおいて,ひび割れを防止するために刊行物2の技術を適用することに阻害要件はない。
原告が主張するひび割れ防止対策のCは,軽量セメントモルタルが有している特性であり,刊行物1記載の発明が有している効果にすぎない。
セメントモルタル壁において,ひび割れを防止することは自明の課題であるから,刊行物1記載の外壁の施工において,ひび割れを防止するために刊行物2記載の技術を適用し,軽量セメントモルタルに網材を貼設してみようとすることは,当業者が容易に想到し得ることである。その際,モルタル層のひび割れ,剥離の防止効果のある網材を選択することは,市販のセメントモルタル用網材を使用した実験等により当業者が適宜なし得る程度のことである。
(2) 刊行物1発明と刊行物2発明とを組み合わせることの阻害要件について 刊行物2には,クラックが発生しやすい場所にガラス繊維で織ったネットを埋設することが示されている。決定は,刊行物2に,原告主張のように「ガラス短繊維のチョップドストランドと膨張剤を配合したモルタルにネットを埋設する技術」が記載されていると認定したものではなく,「建築物の下地に防水シートを敷設してラスを取り付け,セメントモルタルを塗着し,その表面に・・・網材を押圧して埋設した後,仕上げ施工する建築物の外壁の施工方法」の発明が記載されていると認定した上で,刊行物1発明と上記認定発明とは,いずれも,セメントモルタルを用い本建築物の外壁の施工方法である点で一致し,これら両発明を組み合わせるのに,何ら阻害要件は認められない,としたものである。
当裁判所の判断
1 相違点1についての判断の誤り,の主張について (1) 原告は,本件発明の特定の数値範囲の軽量セメントモルタルは,特定の数値範囲の網材を併用した場合に顕著な相乗効果を発揮するものであるから,本件発明の軽量セメントモルタルの数値は臨界的意義を有する,と主張する。
しかしながら,ある数値範囲を選択した発明が,その数値範囲の選択のゆえに,特許に値する進歩性を認められるためには,当該発明で選択されたところのものが,当該発明によって開示されることがなくとも,通常のこととして採用されるようなものである,というような場合でないことが必要であると解するべきである。当該発明による開示がなくとも通常のこととして採用されているものを選択することに,特許に値する技術的思想創作としての価値を認めることはできない,というべきだからである。
刊行物1に「たて枠と受け材に構造用合板を取付けた建築物の下地にアスファルトフェルトを敷設しメタルラスを取り付け,軽量セメントモルタルを塗着する建築物の外壁の施工方法」に関する発明(刊行物1発明)が記載されていること,同発明と本件発明における軽量セメントモルタルのそれぞれの材料の混合割合及び練り上がり時の単位容積質量の数値範囲を比較すると,@セメントは,本件発明のものが20〜60wt%であるのに対し,刊行物1発明のものは40〜65wt%,A無機質混和材は,本件発明のものが20〜60wt%であるのに対し,刊行物1発明のものは30〜60wt%,B有機質混和材は,本件発明のものが2〜10wt%であるのに対し,刊行物1発明のものは12wt%以下であり,C軽量セメントモルタルの練り上がり時の単位容積質量は,本件発明のものが1.0〜1.5であるのに対し,刊行物1発明のものは1.0以上であることは,当事者間に争いがない。
上に述べたところによれば,本件発明における軽量セメントモルタルのものとして特定されている各数値範囲は,いずれも,建築の世界で一般に用いられている軽量セメントモルタルのものと広い範囲で重なっており,本件発明による開示がなくとも普通に採用されるものを多く含むものであることは,明らかである。
原告の主張は,主張自体失当であり,上記数値の臨界的意義について検討するまでまでもなく,採用することができないという以外にない。臨界的意義についての決定の説示は,結論を導く上で不要のものであったというべきである。
(2) 念のため,原告主張の数値の臨界的意義について検討する ア 訂正明細書(甲第13号証に添付されたもの)には,次の記載がある。
@「前記本発明に用いる軽量セメントモルタルとしては,特にその原材料について限定するものではないが,セメント20〜60wt%,無機質混和材20〜60wt%,有機質混和材2〜10wt%を含有し,練り上り時の単位容積質量が1.0〜1.5である軽量セメントモルタルを使用する。・・・前記範囲の軽量セメントモルタルは,外壁を施工した場合にモルタルの乾燥収縮が小さく,ゴム弾性等を有し,ひび割れが発生しにくく,耐久性能を確保でき,また防火性能,防火構造・準耐火構造の確保ができる。」(段落【0006】) A「前記軽量セメントモルタルの表面に埋設する網材としては,特にその材質及び特性について限定するものではないが,質量40〜250g/m2のもので,引張強度が100kgf/mm2以上の網材を使用することが望ましい。前記範囲の網材は,外壁を施工した場合にひび割れの発生がなく,耐久性の向上及び美観上の点で優れている。」(段落【0007】) B「本発明においては,軽量セメントモルタルに埋設させる網材が,軽量セメントモルタルの乾燥収縮を低減し,且つ引張強さを補強するため,ひび割れを抑制することができる。また,この網材は,外壁全面に亙って配設されるので,部分的に引張応力を集中させることがなく,全面に引張応力を分散することができる。さらに,軽量セメントモルタル層にゴム弾性を付与することができるので,この網材と内部のメタルラスとが共振して仮りに地震等の多大な応力が発生しても表面の仕上げ材層に微細なひびが入る程度であって,内部にまで至る亀裂等の大きなひび割れは発生しない。」(段落【0008】) C 訂正明細書には,具体例として,網材を使用しないものと特定の網材を使用したものについて,最大荷重,ひび割れ発生時の荷重,エネルギー値,変位量(表1,2参照)及び1点曲げ荷重を加えた際のエネルギー値の変化のチャート(図4参照)が示されている。
訂正明細書中には,特定の数値範囲内のものと数値範囲外のものとの具体的な対比を行っている記載は見当たらない(甲第13号証)。
訂正明細書の上記ア,イの記載状況によれば,訂正明細書には,特定の数値範囲の軽量セメントモルタルと特定の数値範囲の網材とを併用することによる効果について,一般的な説明がされていることは認められるものの,訂正明細書において,上記特定の数値範囲の臨界的意義が明らかにされているものとは,認めることができず,むしろ,同明細書は,上記臨界的意義を述べるものではない,ということができる。
エ 原告は,本件発明における特定の数値範囲に臨界的意義があるとの主張の根拠として,本件異議手続において提出した特許異議意見書(甲第12号証)及び本件訴訟において提出した証拠(甲第18号証)に示された測定データを挙げる。
しかしながら,上記測定データに基づく原告の主張は,それ自体失当というべきである。訂正明細書に原告主張の臨界的意義が記載されていると認めることができないことは,上記のとおりであり,このように,出願に当たり開示していない技術的事項を後に明らかにして,その技術的事項を根拠に,出願発明の特許性(進歩性)を主張することが許されることになれば,出願時を基準時として,出願発明につき公開の対価として特許という独占権を与える特許制度の目的に反する結果となることが明らかであるからである(ある発明の構成の有する技術的意義は,多数存在し得るものであり,それらは,客観的には出願時に既に決まっているものである。しかし,それらすべてを出願人が認識しているとは限らない。出願後になって知るに至ることもあるであろう。また,出願人が認識している事項であっても,それが開示されるとは限らない。そして,明細書に接した者も,そこに開示されていない技術的意義は,特許の対価に値する価値のあるものとして利用することができないのである。)。
オ 上記の点はおいて,原告の挙げるデータを検討してみても,原告主張の臨界的意義を認めることはできない。
上記甲第12号証の測定データは,特定の数値範囲内の単位容積質量の軽量セメントモルタル(単位容積質量1.3)と,特定の数値範囲外の単位容積質量の軽量セメントモルタル(本件発明における特定範囲の上限値を超えるもの(単位容積質量1.9)及び下限値に満たないもの(単位容積質量0.8))とを作製した上,網材を用いずにボードを作製してひび割れ発生時の荷重及び変位量を測定したもの(測定結果A),本件発明の特定の数値範囲内の質量及び引張強度の網材を用いてボードを作製して同様の測定をしたもの(測定結果B,C),本件発明の特定の数値範囲外の網材として質量が限値を超えるもの(質量260g/m2)及び質量及び引張強度が下限値に満たないもの(質量35g/m2,引張強度95kgf/mm2)を用いてボードを作製して同様の測定をしたもの(測定結果D,E)の測定結果を示すものである。
甲第18号証の測定データ(別表参照)は,軽量セメントモルタルの単位容積質量について,上記に加え,それぞれ単位容積質量0.8,0.9,1.6,1.9の軽量セメントモルタルを用いて同様の測定をしたものの測定結果を示すものである。
上記の実験結果のデータは本件発明における軽量セメントモルタルの数値範囲のうち,単位容積質量のみを変化させた場合の測定結果を示したものであり,他の数値については明らかにされていない。また,網材については,甲第12号証においては,質量が本件発明における特定の数値範囲内のものとその範囲外のもの,網材を使用しないものについての比較がなされているものの,引張強度については,特定の数値範囲内のものについて,その範囲外のものとの比較はなされていない。甲第18号証では特定の網材を使用したものと使用しないものとの比較のみがされている。したがって,上記各測定結果によっても,セメントの量,無機質混和剤の量,有機質混和剤の量,網材の引張強度の4種の変数についての臨界的意義については不明のままである。
結局,上記の実験結果から検討を要するのは,軽量セメントモルタルの単位容積質量の特定の数値範囲である1.0ないし1.5が,特定網材との組合せにおいて,特定の数値範囲外の単位容積質量の軽量セメントモルタルを用いた場合に比して顕著な効果を奏するものであることが認められるかどうかということである。
甲第18号証の測定データは,甲第12号証の測定結果AないしCを含み,その数値もほぼ一致している(測定結果A’の単位容積質量1.9の場合の変位量が測定結果A(別表の同欄のかっこ内の数値)と異なっている。)ため,甲第18号証の測定データ(別表参照)について検討する。
@ エネルギー値について 軽量セメントモルタルをガラス繊維ネットと併用した場合(測定結果B’),軽量セメントモルタルの単位容積質量が本件発明の数値範囲内である1.0,1.3,1.5のもののエネルギー値は,0.8,0.9のものよりも高い値を示している。しかし,単位容積質量が本件発明の数値範囲外である1.6のものは,本件発明の数値範囲内である1.5のものよりも高い値を示しているから,同測定結果からは,単位容積質量の上限値を1.5とした根拠は不明である。
軽量セメントモルタルをビニロン繊維ネットと併用した場合(測定結果C’),本件発明の範囲である単位容積質量1.5のエネルギー値は,本件発明の数値範囲外である単位容積質量1.6のものよりも高いものの,本件発明の数値範囲内である単位容積質量1.0,1.3のエネルギー値は,本件発明の数値範囲外である単位容積質量1.6のものよりも低く,本件発明の数値範囲内である単位容積質量1.0のもののエネルギー値は本件発明の数値範囲外である単位容積質量1.9のものよりも低いから,本件発明の単位容積質量の数値範囲を1.0から1.5とした根拠が不明である。
以上のとおり,エネルギー値の測定結果からは,本件発明における単位容積質量の数値範囲を1.0ないし1.5とした根拠を見出すことはできない。
A 最大荷重及びひび割れ発生時の荷重について 軽量セメントモルタルをガラス繊維ネットと併用した場合(測定結果B’)も,軽量セメントモルタルをビニロン繊維ネットと併用した場合(測定結果C’)も,単位容積質量が0.8から1.6まで変化する間に,最大荷重及びひび割れ発生時の荷重は,漸増しているのみであり,この間に,これらの荷重が急激に上昇するなどの臨界値は現れていない。
また,上記いずれの測定結果においても,本件発明の数値範囲外である単位容積質量が1.9の場合の最大荷重及びひび割れ発生時の荷重は,本件発明の数値範囲内である単位容積質量が1.5の場合のそれよりも高い。
上記測定結果からは,同じ網材を併用した場合において,軽量セメントモルタルの比重が大きい方が強度が増す(ひび割れ発生荷重が大きい)ということが認められるにすぎない。
以上のとおり,最大荷重及びひび割れ発生時の荷重の測定結果からも,本件発明における単位容積質量を1.0ないし1.5とした根拠を見出すことはできない。
B ひび割れ発生時の変位量について 軽量セメントモルタルをビニロン繊維ネットと併用した場合(測定結果C’),本件発明の数値範囲内である単位容積質量1.0,1.3のもののひび割れ発生時の変位量は,本件発明の数値範囲外である単位容積質量0.8,0.9のものと比較して0.1mmしか異ならない。また,本件発明の数値範囲外である単位容積質量1.6のもののひび割れ発生時の変位量は,本件発明の数値範囲内である単位容積質量1.0,1.3,1.5のものと比較して,わずかではあるが(0.5〜0.2mm)かえって優れている。
軽量セメントモルタルをガラス繊維ネットと併用した場合(測定結果B’),本件発明の数値範囲内である単位容積質量1.3のもののひび割れ発生時の変位量は,本件発明の数値範囲外である単位容積質量0.8.0.9,1.6,1.9のものに比べて約2倍となっているものの,本件発明の数値範囲内である単位容積質量1.5のもののひび割れ発生時の変位量は,本件発明の範囲外である単位容積質量0.9のものと同じであり,単位容積質量0.8,1.6のものに比べわずか(0.3mm)優れているにすぎない。
以上のとおり,測定結果,B’,C’の変位量の測定結果からは,本件発明における単位容積質量を1.0ないし1.5とした根拠を見出すことはできない。
他に,上記測定結果中において,本件発明における単位容積質量を特定の数値範囲に限定した根拠となるデータを見出すことはできない。
ウ 以上に検討したところによれは,本件発明の特定範囲の軽量セメントモルタルの数値に関して臨界的意義を認めることはできないというべきである。
原告の,本件発明における数値範囲の臨界的意義についての主張は,採用することができない。
(3) 原告は,決定が,「軽量セメントモルタルを本件発明のような数値範囲にすることは,建築物の外壁の施工方法において本来的な目的である「モルタル層の耐久性の向上」,「モルタル層のひび割れ,剥離防止」等を考慮して,実験により当業者が必要に応じて選択できることにすぎない。」(決定書6頁8行〜11行)と判断したことについて,刊行物1には本件発明の技術的課題が記載されていないことを挙げて,上記判断を争う。
しかしながら,本件発明の数値範囲が,本件発明による開示がないとしても通常のこととして採用されるものと認められる軽量セメントモルタルの多くのものの数値を包含するものであることは,上述のとおりであり,当業者がこのような数値の軽量セメントモルタルを用いることは,何ら困難なことではないことが明らかである。そして,このことは,刊行物1に,本件発明の技術的課題が記載されているか否かとは,関係なくいい得ることである(動機付けが完全に一致しなければ同一の構成に至り得ない,などということはない。それどころか,全く別の動機付けにより同一の構成に至ることも,十分あり得ることである。)。決定の上記説示にいう,「本件発明のような数値範囲にすること」は,「本件発明の数値範囲内の数値にすること」の意であると理解することができ,このように理解するとき,決定の上記判断には何ら誤りはない。
原告の主張は,決定の理由の正しい理解に立ったものではなく,採用することができない。
2 相違点2についての判断の誤り,の主張について (1) 本件発明と刊行物2発明のひび割れ防止のための技術的課題の相違について 原告は,決定が,「「網材は,その質量が40〜250g/m2で,引張強度が100kgf/mm2 以上である構成は,建築物の外壁の施工方法において本来的な目的である「モルタル層の耐久性の向上」,「モルタル層のひび割れ,剥離の防止」等を考慮して,実験等により当業者が必要に応じて選択できうる程度(の)ものである。」(決定書6頁27行〜31行)と判断したことについて,刊行物2ににおいて,技術的課題とされているのは,前記@モルタルの乾燥収縮の低減だけであり,前記AないしCは技術的課題として記載されていないから,「モルタル層の耐久性の向上」,「モルタル層のひび割れ,剥離の防止」等を考慮して,網材の特質を特定することは,実験等により当業者が必要に応じて選択できうる程度のものである,ということはできないとして,上記判断を争う。
しかしながら,刊行物2発明で用いられている網材の質量が65g/m2であること,及び,原告が実施例に挙げている網材が,いずれも市販されたものであって特別のものではないこと(いずれも,当事者間に争いがない。)からすれば,本件発明で網材の質量及び引張強度の構成要件とされている数値範囲は,何らかの理由により網材を用いようとする者により,本件発明による開示がなくとも,普通に採用されるものと広い範囲において重なっているということができる。そうだとすれば,本件発明の進歩性の検討において,本件発明における網材に係る数値限定に格別の意義を認めることができないことは,明らかである(前述の12頁ないし13頁参照)。
この点をおいて,原告が主張の根拠とする本件発明の網材の数値範囲についての臨界的意義についてみても,前記甲第18号証の測定結果においては,本件発明の数値範囲内の網材と数値範囲外の網材を用いた実験が行われていることが認められるものの,本件発明の数値範囲(質量40〜250g/m2,引張強度100kgf/mm2以上)については,その限定の根拠を明らかにするデータは示されておらず,その他本件全証拠を検討しても,その臨界的意義を認めるに足りる証拠はない。
いずれにせよ,原告の主張は,採用することができない。
(2) 刊行物1発明と刊行物2発明とを組み合わせることの阻害要件について 原告は,刊行物1発明は軽量セメントモルタルに関するものであり,刊行物2発明は普通セメントモルタルに関するものであるから,刊行物1発明と刊行物2発明とを組み合わせることには阻害要件がある,と主張する。
原告は,上記主張の根拠として,既調合である軽量セメントモルタルは,原則として希釈水以外の新たな材料の添加等が厳しく制限されており,刊行物1発明に刊行物2発明を組み合わせるということは,刊行物1記載の軽量セメントモルタルの組成物中に,ガラス短繊維のチョップドストランドと膨張剤を配合してネットを埋設するということであるから,新たな材料の添加等が厳しく制限されている軽量セメントモルタルの原則に反するものとなる,ということを挙げる。
しかしながら,刊行物2(甲第7号証)には,「本発明はこのような点を改良するために提案されたもので,壁面にモルタルを施工するに際し,施工の作業性を減じない程度の少量ガラス繊維と膨張材とをモルタルに混入し該モルタルを躯体に下塗り後,クラックを生じ易い隅部に重点的にガラス繊維のネットを埋設し,次いで上塗りする工程とから成ることを特徴とするものである。・・・壁面10は柱31や下地板32からなる躯体をベースにして施工され,通常アスファルトフェルト33とワイヤラス34を介してモルタル40を下塗りする。次いで下塗りした層の表面に,或いはわずかに埋めた状態にガラス繊維のネット50を設ける。」(1頁右欄下から4行〜2頁左上欄13行)との記載があり,同記載によれば,刊行物2には,クラックが発生しやすい場所にガラス繊維で織ったネットを埋設することによってセメントモルタルのクラックを防止する技術が示されている,ということができる。決定は,刊行物2発明を,原告主張のように「ガラス短繊維のチョップドストランドと膨張剤を配合したモルタルにネットを埋設する技術」であると認定したものではなく,上記のとおり,「建築物の下地に防水シートを敷設してラスを取り付け,セメントモルタルを塗着し,その表面に・・・網材を押圧して埋設した後,仕上げ施工する建築物の外壁の施工方法」の発明が記載されていると認定したものであることは,決定の記載から明らかである。そして,決定が,刊行物2の記載から,このような発明を認定したことに誤りはない。原告の主張は,決定の認定した刊行物2発明を正しく把握したものではなく,採用することができない。他に刊行物1発明と刊行物2発明とを組み合わせることを阻害する要因があることを認めるに足りる証拠はない。
原告の主張は,採用することができない。
結論
以上のとおりであるから,原告主張の決定取消事由はいずれも理由がなく,その他,決定にはこれを取り消すべき誤りは見当たらない。
よって,原告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 阿部正幸
裁判官 高瀬順久