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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成13ワ3485特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成15ワ6750特許権専用実施権に基づく差止等請求事件 判例 特許
平成14ワ3043特許権侵害差止請求事件 判例 特許
平成13ワ15719特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成11ワ11856損害賠償請求事件 判例 特許
関連ワード 確実性 /  技術的思想 /  公然実施(29条1項2号) /  頒布された刊行物 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  発明の詳細な説明 /  分割出願 /  共有 /  権利の濫用(権利濫用) /  置き換え /  実施 /  構成要件 /  構成要件充足性 /  差止請求(差止) /  侵害 /  不法行為(民法709条) /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 14年 (ワ) 7743号 特許権侵害差止等請求事件
原告 三洋電機株式会社
原告 タカラベルモント株式会社
両名訴訟代理人弁護士 松本司
同 緒方雅子
被告 株式会社大廣製作所
訴訟代理人弁護士 後藤秀継
同 赤松純子
同 玉置健
補佐人弁理士 鮫島武信
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2003/06/24
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告は、別紙イ号物件目録記載の物件を製造し、販売してはならない。
2 被告は、前項の物件を廃棄せよ。
3 被告は、原告三洋電機株式会社に対し金666万6667円、原告タカラベルモント株式会社に対し金333万3333円及びいずれもこれに対する平成14年8月1日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
本件は、「自動洗髪機」について特許権を共有する原告らが、被告による別紙イ号物件目録及びロ号物件物件目録記載の各物件の製造販売が同特許権を侵害するとして、被告に対し、民法709条、特許法102条2項に基づく損害賠償を請求するとともに、現在も製造販売を継続しているイ号物件目録記載の物件につき上記特許権に基づく差止等を請求した事案である。
(基本的事実) 1 原告らは、次の特許権(以下、「本件特許権」といい、その特許請求の範囲請求項1記載の発明を「本件発明」、本件特許出願に係る明細書を「本件明細書」という。)を共有している(原告タカラベルモント株式会社への本権の一部移転の登録年月日は平成13年3月21日である。甲1、2)。
特許番号 第3091754号 発明の名称 自動洗髪機 出願年月日 平成7年6月28日(特願平11-287114号。特願平7-162582号の分割) 登録年月日 平成12年7月21日 特許請求の範囲 本判決末尾添付の別紙特許公報(以下「本件公報」という。)【特許請求の範囲】欄請求項1記載のとおり。
2 本件発明の構成要件を分説すれば、次のとおりである(特許請求の範囲の記載中には、「温水噴射ノズル」の語と「温水噴射用ノズル」の語があるが、両者は同義であると認められるから、本判決では、すべて「温水噴射用ノズル」の語に統一する。)。
A1 洗髪に使用する温水を溜めるための貯湯タンクと、
A2 温水噴射用ノズルと、
A3 上記貯湯タンクに溜められている温水を汲み出して上記温水噴射用ノズルに与えるためのポンプと、
A4 洗髪コースに従って被洗髪者の髪を自動的に洗髪するよう指示するためのスタートキーと、
A5 上記温水噴射用ノズルに至る経路に溜まっている水を前記温水噴射用ノズルを通じて排出する処理の実行を手動で指示するための水抜きキーと、を有し、
B1 前記スタートキーが操作されると、洗髪コースに従って前記ポンプを駆動して洗髪を実行し、
B2 前記スタートキーが操作されていない場合において前記水抜きキーが操作されると、前記ポンプが駆動され、前記温水噴射用ノズルに至る経路に溜まっている水を排水する処理を実行する B3 マイクロコンピュータを備えた C ことを特徴とする自動洗髪機。
3(1) 被告は、これまで別紙イ号物件目録記載の物件(製品名「AUTO SHAMPOO SHAMPLIZE V」、以下「イ号物件」という。)及び別紙ロ号物件目録記載の物件(製品名「AUTO SHAMPOO SHAMPLIZE U」、以下「ロ号物件」という。)を製造販売してきた(甲3、甲4の1及び2)。
(2) 被告は、現在も、イ号物件を製造販売している(甲3)。
(3) イ号物件及びロ号物件(以下、一括して「被告物件」という。)の各具体的構成については、後記争点1のとおり当事者間に争いがある。
(争点) 1 本件発明の構成要件充足性 (原告らの主張) (1) 被告物件の構成を本件発明の構成要件に対応させると、別紙主張対照表(原告らの主張)欄記載のとおりであり、被告物件は、本件発明の構成要件をすべて充足する。
(2) 構成要件A5及びB2の「水抜きキー」について詳論すると、イ号物件の製品カタログ(甲3)には「新しくなった7つの機能」の1つとして「シャンプーをする時、少しぬるいお湯が出て、ヒヤっとさせられることがあります。それは最初ホースやシャワーヘッドに残っていた冷めたお湯が出てくるためです。こういった、お客様に与える小さな不快感も解消しています。」、「配管内の冷えた水を利用したシンク洗浄モード付き。・・・18カ所のノズルより、全体的に吐出させる」と記載されていることや、同取扱説明書(乙2)には「シンク内洗浄をかねて配管内の冷えた水を捨てます。(8頁)」、「シンク洗浄キーを押すと約20秒間シャワーが吐出し、シンク洗浄を行うと共に本体内の冷えた水を捨てます。次の洗髪をするまでに時間があきますと配管内のお湯が冷えるので、シンク洗浄をおすすめします。(12頁)」という記載があることに照らすと、被告物件においても、本件発明の水抜き処理に相当する配管内の冷水の排水処理を行う、すなわち、被告物件の「シンク洗浄キー」が本件発明の「水抜きキー」に相当することは明らかである。
(3) 仮に被告の主張するように、シンク(洗髪槽)を洗浄する機能(以下「シンク洗浄機能」という。)が被告物件にあるとしても、本件発明との関係では付加にすぎないから、本件発明の構成要件充足性を否定するものではない。
(被告の主張) (1) 被告物件の構成を本件発明の構成要件に対応させると、別紙主張対照表(被告の主張)欄記載のとおりであり、被告物件は、A3以外の本件発明の構成要件をすべて充足しない。
(2) 構成要件A5及びB2の「水抜きキー」について詳論すると、「排水」とは「不用又は有害な水を他に流しやること。また、その水。」(広辞苑第5版)をいうから、本件明細書にいう「排水」もすべて用途のない水を排除する場合に限られ、「水抜きキー」により実行される処理である「排水」も不要な水を他に流しやることと解すべきであり、被告物件のシンク洗浄機能のように、特定の用途のために水をノズルから噴射する場合を含まない。したがって、被告物件は、「水抜きキー」を有さず、上記構成要件を充足しない。原告らの指摘する被告製品のカタログや取扱説明書の記載は、シンク洗浄に伴う当然の事実の一面を説明したものにすぎない。
(3) 原告らは、シンク洗浄機能は本件発明との関係では付加にすぎないと主張する(原告らの主張(3))が、本件発明と被告物件とはその技術的思想が大きく相違するから、被告物件のシンク洗浄機能を単なる付加ということはできない。すなわち、吐水の対象を見ると、本件発明がノズル前経路内冷水のみを排水の対象とするのに対し、被告物件はシンク洗浄機能を果たすために、貯湯タンク内の大量の温水もノズルから噴射するものである(原告タカラベルモント株式会社による本件発明の実施品であるアクアバイブロ802型(以下「原告新製品」という。)では経路容積約0.8リットル、吐水量約1.1リットルであるのに対し、イ号物件では経路容積約1.89リットル、吐水量約9.4リットルである(乙10)。)。また、排水の態様や作用効果から見ても、本件発明のノズル前経路内冷水の排出処理が被洗髪者の髪に冷水が当たらないようにこれをノズルから捨て去るだけである(本件発明では、シンク洗浄は美容師がハンドシャワーを使用して手動で行うことが予定されており、本件明細書の実施例におけるノズルの配置位置、配置方向及び配置数に照らしても、シンク洗浄機能を付加するのになじまない構造とされている。)のに対し、被告物件では、シンク洗浄のため、多数の噴射ノズルから順々に多方向から勢いよくシンク内に激しく温水を当てるものである。このような相違は、両者の技術的思想の相違に基づくものであるから、被告物件は本件発明の構成要件を充足するものではない。
2 明白な無効理由(進歩性欠如)その1 (被告の主張) 本件特許権には次のとおり特許の無効理由が存在することが明らかであるから、本件特許権に基づく請求は権利の濫用として許されない。
(1) 本件特許出願前に日本国内において公然実施をされた従来技術を採用した原告タカラベルモント株式会社製の洗髪機アクアバイブロ800型、801型(以下「原告旧製品」という。)は、@洗髪キー(ショート又はミディアム・ロング。
以下同じ。)を押すと、洗髪槽内の弓状ノズル棒が一番下に下がった状態で停止し、ノズルから約26秒間配管内の水が自動的に初期排水される、Aこの初期排水が終了すると、弓状ノズル棒が自動的に上に上がり、指定の洗髪操作を開始する、
Bしかし、洗髪キーを押して初期排水が完了した後に、再度洗髪キーを押すと、操作プログラムの進行が一時停止される(ここで、被洗髪者の頭部を洗髪槽内に入れて、洗髪が実行可能な状態にする。)、Cその後、再度洗髪キーを押すと、一時停止は解除され、操作プログラムが再開され、洗髪行程が開始されるというものであった。すなわち、原告旧製品における洗髪キーは、初期排水とその後の洗髪行程を開始するキーであるのみならず、一時停止とこれを解除する作用を有するキーでもあるから、手動による初期排水(水抜き)キーであるとともに、洗髪の実行キーでもあった。
(2) これに対し、本件発明の実施品である原告新製品では、@リンク排水キー(本件発明の構成要件の「水抜きキー」に相当する。)を押すと、リンク(ノズル)配管内の水が排水され、約20秒後に自動停止する(ここで、被洗髪者の頭部を洗髪槽内に入れて、洗髪が実行可能な状態にする。)、Aその後、洗髪キーを押すと、洗髪行程が開始されるというものである。
(3) 原告旧製品と原告新製品は、水抜きに要する時間(原告旧製品が約26秒であるのに対し、原告新製品は約20秒である。)、キーを押す回数(原告旧製品が3回であるのに対し、原告新製品は2回である。)、水抜きが手動停止(原告旧製品)か自動停止(原告新製品)かの点で相違するが、このようなわずかな相違点(特に前二者)に進歩性があるとはいえない。相違点のうち、水抜きが自動停止することについては、実開平6-87486号公開実用新案公報(乙14、公開日平成6年12月22日)の従来技術、特開平6-22878号公開特許公報(乙15、公開日平成6年2月1日)の【0029】、特開平6-142001号公開特許公報(乙16、公開日平成6年5月24日)の【0023】により示されている。したがって、本件発明は、その出願前に当業者がこれらの発明又は考案に基づいて容易に発明することができたものであるから、進歩性がない。
(原告らの主張) (1) 原告旧製品では、被告主張のような一時停止及び再開は、その使用上、予定されていない。すなわち、原告旧製品における一時停止の機能は、洗髪運転中に被洗髪者の頭部のセット状態を修正したり、被洗髪者から洗髪停止の要請があったりした場合に使用される機能にすぎない。原告旧製品において、スタートキーを押した後にこれを一時停止させると、流出管等に溜まっている冷水を十分に排水できない場合があり、操作者は初期排水(冷水の排水)が完了したか否かを正確に把握できない(原告旧製品では、フードを開けた状態でスタートキーを押しても初期排水が開始されないため、操作者は排水が冷水か否かを確認できない。)。このような場合、再度スタートキーを押して再開すれば、被洗髪者に冷水がかかってしまうことになり、本件明細書にいう従来技術の問題点(本件公報【0004】)が解決されないことになる。逆に、この一時停止が遅すぎると、洗髪行程の途中から洗髪を開始することになるという不都合が生ずる。
(2) これに対し、本件発明は、従来の技術的課題を解決し、洗髪時間を長くすることなく、流出管等に溜まっている冷水を確実に排水するために、原告旧製品にはなかった「(洗髪キー=スタートキーとは独立した)水抜きキー」という新たな構成を採用したのである(なお、本件発明の実施品である原告新製品においても、
洗髪キーを再度押すと、一時停止し、これを更に押すと再開するという一時停止機能は備えている。)。
(3) したがって、本件発明が進歩性を有することは明らかである。
3 明白な無効理由(進歩性欠如)その2 (被告の主張) 本件特許権には次の点でも特許の無効理由が存在することが明らかであるから、本件特許権に基づく請求は権利の濫用として許されない。
(1) 本件特許出願前に日本国内において頒布された刊行物である実開平7-30902号公開実用新案公報(乙9の1、公開日平成7年6月13日)には、自動洗髪をする前の段階で、この自動洗髪とは別に、温水噴射用ノズルに至る経路に溜まっている冷水を排水する自動洗髪機が記載されており、その作用効果も自動洗髪における洗髪時間が長くなることがないという点で、本件発明と共通する。
(2) 他方、本件発明と上記公報(乙9の1)に記載された考案とは、次の点で相違する。
ア 給湯方式 本件発明 「貯湯タンク」に溜められている温水を「ポンプ」で汲み出して与える。
乙9の1 「貯湯タンク」及び「ポンプ」のいずれも備えておらず、温水は「給湯源」から直接供給され、温水を与えるための手段も 「電磁弁」の開閉による。
イ 事前水抜きの指示方式 本件発明 事前水抜きを水抜きキーの操作により「手動」で水抜きの指示を行う。
乙9の1 事前水抜きを「自動」で行う。
しかし、アの相違点についてみると、「貯湯タンク」に溜められている温水を「ポンプ」で汲み出して与えることは、特開平6-217819号公開特許公報(乙9の2、公開日平成6年8月9日)、特開平6-46918号公開特許公報(乙9の3、公開日平成6年2月22日)、実開平6-24606号公開実用新案公報(乙9の4、公開日平成6年4月5日)、特開平6-78819号公開特許公報(乙9の5、公開日平成6年3月22日)に開示されているとおり、既に多くの自動洗髪機に採用されていた周知の技術にすぎない。イの相違点についても、人体に対してノズルから温水を噴射する装置において事前水抜きを手動で行うことは、実開平6-87486号公開実用新案公報(乙14、公開日平成6年12月22日)、
特開平6-22878号公開特許公報(乙15、公開日平成6年2月1日)、特開平6-142001号公開特許公報(乙16、公開日平成6年5月24日)に開示されているとおり、周知の技術にすぎない。
原告らは、後記原告らの主張(2)のとおり、上記各公報記載の発明又は考案は、いずれも配管経路に溜まった冷水をすべて排水するものではないと主張する。
しかし、そもそも本件発明の特許請求の範囲が「すべての」冷水を排水する構成を採用しておらず、その作用効果でもないから、この点に関する原告らの主張は、その前提を欠く。仮にそうでないとしても、「すべての冷水を排水する」構成は、上記公報(乙9の1)自体に開示されている(同考案は、「給湯源から湯水混合栓9までの経路の捨て水」(第1段階)と「湯水混合栓9からシャワーヘッドまでの経路の捨て水」(第2段階)とを連続して行うもの(同公報【0029】、【0031】)である。乙14〜16についても同様である。)。
(3) 実開平7-30902号公開実用新案公報(乙9の1)記載の考案とその余の上記各公報(乙9の2〜5、14〜16)記載の発明又は考案とは、いずれも関連する技術分野の技術手段であり、両者を組み合わせることに何らの阻害事由もないから、本件発明は、これらの発明又は考案に基づいて容易に発明をすることができたものであり、進歩性を欠く。
原告らの主張(3)について反論すると、自動と手動とは可逆性のある概念である。すなわち、マイコン技術の発達した平成7年当時、手動で行えることを自動でも行えるようにすると同時に、自動で行えることを手動で行えるようにすることは、各種の技術分野で当然の設計事項として行われていた周知の技術であった。実際上も、昭54-102065号公開特許公報(乙18、公開日昭和54年8月11日)、昭54-144053号公開特許公報(乙19、公開日昭和54年11月9日)、昭55-106196号公開特許公報(乙20、公開日昭和55年8月14日)には、(全)自動洗濯機において自動選択コースと手動洗濯コースとを自由に選択できることが開示されており、自動と手動とは利用者の便宜に応じて自由に選択して採用されるものである。同様に、カーエアコンに関する昭57-138412号公開特許公報(乙21、公開日昭和57年8月26日)及び昭60-1011号公開特許公報(乙22、公開日昭和60年1月7日)や、給水装置に関する平2-261135号公開特許公報(乙23、公開日平成2年10月23日)にも、
自動と手動を適宜使い分ける技術が開示されている。本件特許の分割出願前の原出願(平7-162582号)に対する拒絶理由通知書(乙7)においても、「洗髪作業に入る前に、初期排水行程を実行し、被洗髪者に冷水がかからないようにした自動洗髪機が記載されており、本願発明は、それを単に手動化したものにすぎないもの」は進歩性を欠くとされたことからも明らかである。
(原告らの主張) (1) 本件発明と被告主張に係る実開平7-30902号公開実用新案公報(乙9の1)の考案とは、次の点で相違する。
ア 本件発明 残水を温水噴射用ノズルを通じて排出する。
乙9の1 残水を温水噴射用ノズルとは別経路である「捨て水経路」から排出する(流路中途から排水する。)。
イ 本件発明 手動で指示するための水抜きキーを有する。
乙9の1 そのようなキーを有しない。
ウ 本件発明 スタートキーの操作により洗髪が実行される。
乙9の1 洗髪スイッチオンにより、捨て水処理(同公報【0029】)が行われた後、洗髪が実行される。
(2) 本件発明が温水噴射用ノズルに至る経路に溜まっているすべての冷水を排水するものである(本件公報【0007】、【0078】参照)のに対し、被告主張に係る各公報(乙14〜16)の発明又は考案は、いずれも配管経路に溜まった冷水をすべて排水するものではない。すなわち、実開平6-87486号公開実用新案公報(乙14)は、その【実用新案登録請求の範囲】上、洗浄ノズルに温水を供給する供給路と、該供給路から分岐した捨て水流路を備えるものであり、【考案の詳細な説明】の【0008】、【0014】、【0021】及び【図1】の記載に照らしても、初期冷水を可能な限り少なくすることができるものにすぎない。このことは、特開平6-22878号公開特許公報(乙15、その【発明の詳細な説明】の【0029】及び【図1】参照。)や、特開平6-142001号公開特許公報(乙16、その【発明の詳細な説明】の【0023】及び【図1】参照。)についても同様である。
(3) 被告主張の各発明又は考案の組み合わせ(乙9の1〜5と乙14〜16との組み合わせ)には次のような阻害事由があるから、本件発明の進歩性を否定することにはならない。すなわち、
ア 初期排水の発明又は考案(乙9の1〜5)は、いずれもこれを自動的に行うものであるのに対し、上記(2)の各公報記載の発明又は考案(乙14〜16)は、いずれも排水を手動で行うものであるところ、自動と手動とは相反する構成であり、
自動化の技術思想の延長線上に、技術的に退歩に見える手動の発明又は考案を結合させる(手動を自動化することはあっても、逆に、自動を手動化する)ことは考えがたい。
イ 被告主張の考案(乙9の1)は、本件発明と同様に、操作者と利用者(被洗髪者)が異なることを前提としたものであり、その技術的課題は、利用者(被洗髪者)の便宜のため、操作者が予めどのように調整できるかという観点から設定されたものであるのに対し、上記(2)の各公報記載の発明又は考案(乙14〜16)は、いずれも操作者自身が利用者でもあって、上記のような技術的課題はそもそも存しない。
ウ 特開平6-22878号公開特許公報(乙15)の発明は、多機能シャワー装置における保守点検作業の容易化、安全化を目的とするため、配管内を空にするというものであり、本件発明や上記考案(乙9の1)の流路内の冷水を温水に置き換える「水抜き」とは大きく相違する。また、本件発明の水抜きキーはスタートキーが操作されていない場合に操作されるキーであるが、乙15及び乙16の発明は、水抜きキーに相当するスイッチが他のスイッチに優先する構成となっている点でも異なる。
4 原告らの損害 (原告らの主張) (1) 被告は平成12年7月21日から同13年7月31日までの間、ロ号物件(単価100万円)を少なくとも100台販売したことにより、500万円の利益を得た。
(2) 被告は、平成13年8月1日から同14年7月31日までの間、イ号物件(単価100万円)を少なくとも100台販売したことにより、500万円の利益を得た。
(3) 原告らの損害は次のとおりである。
(原告三洋電機株式会社) ロ号物件 500万円×(8月/12月+4月/12月×1/2)=416万6667円 イ号物件 500万円×1/2=250万円 合計 416万6667円+250万円=666万6667円 (原告タカラベルモント株式会社) ロ号物件 500万円×4月/12月×1/2=83万3333円 イ号物件 500万円×1/2=250万円 合計 83万3333円+250万円=333万3333円 (被告の主張) いずれも否認する。
判断-争点3(明白な無効理由(進歩性欠如)その2)について
1(1) 実開平7-30902号公開実用新案公報(乙9の1、公開日平成7年6月13日)の考案は、自動捨て水装置、より詳しくは、給湯源とこの給湯源に接続され電磁弁の開閉によって吐水及び停止を行う吐水装置を備えた自動洗髪機等の自動捨て水装置に関するものである(同公報【0001】)。従来技術では、ウエットや濯ぎのときに供給する温水を使用後長時間放置しておくと、湯の供給源とノズルまでの流路に残っている湯が冷えてしまい、再び使用するときには、この流路中に残って冷たくなった水が押し出されるようにしてノズルから放出されることになり、特に冬の寒冷期では使用者に不快感を与えてしまうという問題があった。そこで、使用初期の低温の洗浄水の吐出を短時間で解消し、常に快適に使用できるようにすることを解決課題として(同公報【0007】〜【0010】)、「給湯源と該給湯源に接続された電磁弁の開閉によって吐水及び停止を行う吐水装置を備え、
さらに前記給湯源と吐水装置の流路中途に、前記電磁弁閉止後所定時間経過して、
又は前記電磁弁が閉止状態の時の残水が設定温度以下の場合に、前記流路内の残水を自動的に排除する制御系を備えたことを特徴とする自動捨て水装置」という構成を備えたものである(同公報【実用新案登録請求の範囲】請求項1)。同公報には「以上の構成において、自動洗髪スイッチオンによって、電磁弁13(11とあるは、【符号の説明】の記載に照らし、13の誤記と認める。以下同じ。)が開き、
ボール1内の捨て水ノズル(図示せず)から吐水が開始し、給湯温度がサーミスタ12で温度47度を感知したら電磁弁13を閉じ、シャワーヘッド3やノズルヘッド4等へ適温湯が供給される。また、電磁弁13を閉じると同時に、洗面機から吐水が飛び出ない位置に設けられたシャワーヘッド3の開閉弁3dが開かれ、その後順次残りの電磁弁を開けて捨て水を完了する。(同公報【0029】)」、「ここで、先の使用後に流路系に残る湯や水が冷えてこれが吐出されるのを防ぐため、上記したように、シャワーヘッド3、5、ノズルヘッド4、又はハンドシャワー6からの吐水終了後20分継続して再度の使用がない場合、上記した捨て水制御(20分間隔毎の捨て水)が行われる。これによって、前回の使用から長時間たっている場合でも、混合水供給経路9a中は常に適温となっているので、従来のように捨て水を長時間することなく、シャワーヘッド3、5、ノズルヘッド4及びハンドシャワー6にただちに適温の湯を供給することが可能となる。(同公報【0031】)」、「なお、上記実施例では、電磁弁閉止後20分毎に捨て水する構成としたが、無論これに限定されず、例えば混合水供給経路9a中にサーミスタを設け、
混合水供給経路9aの中の残水がたとえば40℃以下となったときに捨て水する構成としてもよい。この場合、先の実施例に比べ、特に無駄な捨て水を排除することができる。また、本考案の捨て水装置は、上記自動洗髪機に限らず、一般の水栓やボディシャワー装置等にも適用可能である。(同公報【0032】)」、この考案の効果として「給湯源と吐水装置の流路中途の残水は、吐水装置の使用の如何にかかわらず、予め設定された時間あるいは温度によって自動的に外部に排出されるため、冷めた残水が給湯源と吐水装置の流路内に滞ることが無く、速やかに適温を吐水することができ、常に快適な使用が可能となる。」(同公報【0033】)ことが開示されている。
(2) 上記公報(乙9の1)に記載された考案は、自動洗髪をする前の段階で、
この自動洗髪とは別に、(温水噴射用)ノズルに至る経路に溜まっている冷水を排水する(自動洗髪行程とは別個に、事前水抜き行程を行う)ものである点で、本件発明と共通し、次の2点で相違する。なお、本件発明は、マイクロコンピュータを備えることを構成要件としているところ、乙9の1の公報にはマイクロコンピュータを使用することは明示されていないが、同公報には、捨て水のために開閉される捨て水用電磁弁13がコントロール部20に連動していることが記載されており、コントロール部をマイクロコンピュータで構成することは普通に行われることであるから、上記考案のコントロール部は本件発明のマイクロコンピュータに相当する。
@ 本件発明が「貯湯タンク」に溜められている温水を「ポンプ」で汲み出して与えるものであるのに対し、上記公報に係る考案は「貯湯タンク」及び「ポンプ」のいずれも備えておらず、「給湯源」から直接温水が電磁弁の開閉により供給されるものである。
A 本件発明が水抜きキーの操作により「手動」で事前水抜きの指示を行うものであるのに対し、上記公報に係る考案はこの事前水抜きを「自動」で行うものである。
(3) これに対し、原告らは、流路途中の残水を温水噴射用ノズルとは別経路である「捨て水経路」から排出することも、上記公報(乙9の1)の考案と本件発明との相違点である、これに関連して、被告主張の公報(乙14)に開示された技術も、本件発明とは異なり、配管経路に溜まった冷水をすべて排水するものではないと主張する。確かに、本件明細書の【特許請求の範囲】は「温水噴射用ノズルに至る経路に溜まっている水を前記温水噴射用ノズルを通じて排出する処理」をするものであり、その【発明の効果】の項にも「冷水を残さずに確実に排水することができる」ことが記載されているのに対し、上記公報中、乙9の1(【0023】、【0024】、【図7】)には流路途中に吐水流路と別系統で設けた「捨て水回路」が示されており、乙14の【実用新案登録請求の範囲】欄にも、該洗浄ノズルに温水を供給する供給路とは別に「該供給路から分岐した捨て水流路」が記載され、その【作用】の項においては「必要最小限の水を捨てて初期冷水を可能な限り少なくすることができる。」と記載されている。
しかし、本件明細書の【発明の詳細な説明】によれば、「初期排水の指示をたとえば被洗髪者を洗髪可能な状態にする前に行えば、美容師等が手などで排水されている水の温度を確認した上で洗髪を開始することができるので、冷水を残さずに確実に排水することができる。」(本件公報【0012】)、「洗髪開始前であって、かつ被洗髪者を洗髪可能な状態にする前に初期排水指示を行えば、美容師等が手などで排水されている水の温度を確認した上で洗髪を実行することができる。そのため、冷水を残さずに確実に排水することができる。」(同公報【0079】)、「洗髪行程が実行される前に、水抜きキー49を押圧することによって、
冷水を排水するための手動初期排水行程を実行することができる。したがって、被洗髪者を洗髪可能な状態にする前に、冷水が完全に排水されたかどうかを確認することができる。すなわち、貯湯タンク76に貯留されている温水は冷水が完全に排水された後に上ノズル62等から噴射されるので、手などで噴射されている水の温度を確かめれば、冷水が完全に排水されたかどうかを確認できる。」(同公報【0063】)とあるように、本件発明における冷水の確実な排水というのも、美容師等の手による温度確認を経た上でのものにすぎない。その実施例でも、「マイクロコンピュータ200では、水抜きキー49が押圧されたか否かが監視されている(ステップS1)。・・・水抜きキー49が押圧されたと判別されると、・・・水抜きキー49は一定時間t(たとえばt=2秒)以上連続して押圧されているか否かが判別される(ステップS4)。その結果、連続押圧時間が一定時間t未満であると判別されると、予め定める初期排水時間にわたって手動初期排水行程が実行される(ステップS5、S6)。」(同公報【0055】)、「マイクロコンピュータ200では、上記手動初期排水行程を実行している間、手動初期排水行程の開始から予め定める初期排水時間t1 (たとえばt 1 =20秒)が経過したか否かが監視されている(ステップS6)。その結果、手動初期排水行程の開始から初期排水時間t1 経過したと判別されると、・・・手動初期排水行程が終了する(ステップS9)」(同公報【0060】)、「一方、上記ステップS1での判別の結果、水抜きキー49が一定時間t以上押圧されていると判別された場合には、・・・手動初期排水行程が実行される(ステップS7)。ただし、水抜きキー49が一定時間t以上押圧されている場合、マイクロコンピュータ200では、手動初期排水行程の開始から初期排水時間t1 経過したか否かを監視するではなく、水抜きキー49がオフされたか否かが監視されている(ステップS8)。その結果、水抜きキー49がオフされたと判別されると、・・・手動初期排水行程が終了する(ステップS9)。」(同公報【0061】、【0062】)、「この自動洗髪機では、手動初期排水行程の実行時間を水抜きキー49の連続押圧時間によって調整することができるので、もしも初期排水時間t 1 にわたる手動初期排水行程で冷水が完全に排水されない場合でも、その後に水抜きキー49を噴射される水が適温になるまで連続して押圧すれば、冷水を完全に排水することができる。」(同公報【0065】)と記載されており、冷水の排水の程度は、排水行程の実行時間の長短に影響されることを当然の前提としていることが窺われるにとどまる。つまり、本件発明において、排水経路が専ら温水噴射用ノズルからであることが冷水の排水の確実性に結びつくことは予定されていない。このことは、実開平7-30902号公開実用新案公報(乙9の1)において、「前記電磁弁閉止後所定時間経過して、又は前記電磁弁が閉止状態の時の残水が設定温度以下の場合に」(同公報【実用新案登録請求の範囲】)という構成を採用し、その実施例でも、「先の使用後に流路系に残る湯や水が冷えてこれが吐出されるのを防ぐため、上記したように、シャワーヘッド3、5、ノズルヘッド4、又はハンドシャワー6からの吐水終了後20分継続して再度の使用がない場合、上記した捨て水制御(20分間隔毎の捨て水)が行われる。」(同公報【0031】)、「混合水供給経路9a中にサーミスタを設け、混合水供給経路9aの中の残水がたとえば40℃以下となったときに捨て水する構成としてもよい。」(同公報【0032】)ことが開示され、実開平6-87486号公開実用新案公報(乙14)においても、「(洗浄ノズルに温水を供給する)該供給路及び捨て水流路の少なくとも一方に感温表示体を設けたこと」(同公報【実用新案登録請求の範囲】の請求項1)により「この感温表示体を見ながら捨て水流路から水を排出させ、感温表示体が適温を表示するようになった時点で捨て水を終了させるようにする」(同公報【0014】)ことが開示されているにとどまり、冷水の排水の確実性が排水経路として温水噴射用ノズルとは別経路である「捨て水経路」を設けることと格別関連づけられていないことからも明らかである。もともと、人体にとっての適温としての「温水」や、逆に、不快感を与える「冷水」というのも、季節や設置場所の寒暖差という一般的な条件に左右され(本件公報【0005】参照)、いったん洗髪行程を終了した後再度同行程を開始するまでの経過時間の長短という個別的な条件にも影響を受ける(乙9の1の【0007】)ことは、当業者にとって周知の事柄であると認められるにもかかわらず、
以上のように、時間や温度そのものによる調整を検討するにとどまり、冷水を確実に排水するためにいかなる排水経路を設けるか否かという観点からの技術的検討がまったく存しない点に照らすと、冷水の確実な排水とその排水経路とは直接的な関連性を有しないものといわざるを得ず、排水経路に関する相違は当業者が適宜選択する設計的事項上の微差にすぎないと考えられる。したがって、原告らの上記主張は採用することができない。
(4) また、原告らは、手動で指示するための水抜きキーを有するか否か(争点3(原告らの主張)(1)イ)、スタートキーの操作により洗髪が実行されるか、又は洗髪スイッチオンにより捨て水処理が行われた後、洗髪が実行されるか(同ウ)も、本件発明と上記公報(乙9の1)の考案との相違点である旨を主張するが、これらの点は、上記Aの相違点として指摘した点(事前水抜きを手動で行うか自動で行うか)に集約されるものにすぎないと解される。
2(1) 上記@の相違点について検討すると、「貯湯タンク」に溜められている温水を「ポンプ」で汲み出して与えるものは、被告の主張に係る各公報(乙9の2〜5)に開示されているとおり、本件発明の特許出願時に既に多くの自動洗髪機に採用されていた周知の技術であったことが優に認められる。
(2) 次に、上記Aの相違点について検討すると、実開平6-87486号公開実用新案公報(乙14、公開日平成6年12月22日)は、発明の名称を「温水洗浄装置」とし、人体臀部を温水で洗浄する温水洗浄装置(シャワートイレ)に関する考案が記載されており、人体の一部に温水を噴射してこれを洗浄するという点で本件発明と共通する技術分野に関するものである。この【実用新案登録請求の範囲】の請求項1には「洗浄ノズルと、該洗浄ノズルに温水を供給する供給路と、該供給路から分岐した捨て水流路と、該供給路から捨て水流路への流路選択を行なう手動式の切換弁とを有する温水洗浄装置において、該供給路及び捨て水流路の少なくとも一方に感温表示体を設けたことを特徴とする温水洗浄装置」と記載され、捨て水流路への流路選択を行う切換弁を手動式とすることが開示されている。その【実施例】においても、「捨て水ボタン92」が配列され(同公報【0019】、
図2〜図5)、この「捨て水ボタン92を操作して捨て水用開閉弁70を開弁させると、配管50及びそれよりも上流側の流路内の水が捨て水配管74を介して洋風便器78の弁鉢78a内に排出される。」(同公報【0021】)、「このようなことから、シャワーノズル58又はチャームノズル66の使用を開始するに先立って、・・・捨て水操作を行うことにより、十分に冷水排出を行うことができる。」(同公報【0023】)ことが記載されている。上記事実によれば、同公報には自動洗髪機における事前水抜きを手動で行うことについて契機となり得る技術思想が十分開示されているということができる。
(3) これに対し、原告らは、被告主張の各発明又は考案の組み合わせには、自動(乙9の1〜5)を、技術的に退歩に見える手動(乙14)化することは考えがたい、操作者と利用者(被洗髪者)が異なるもの(乙9の1)と、操作者自身が利用者でもあるもの(乙14)とは設定されるべき技術的課題の観点が異なる旨を主張する。
しかし、昭54-102065号公開特許公報(乙18、公開日昭和54年8月11日)、昭54-144053号公開特許公報(乙19、公開日昭和54年11月9日)、昭55-106196号公開特許公報(乙20、公開日昭和55年8月14日)には、洗浄の機能を有する電気製品という点で本件発明と産業上の利用分野が比較的近接する(全)自動洗濯機において、自動洗濯コースと手動洗濯コースとを自由に選択できる旨が開示されており(乙18の特許請求の範囲には「入力スイッチが自動プログラム作動用と手動プログラム作動用の両スイッチからなり」と記載されている。乙19の3欄末行〜4欄3行には「第2図に示すように全自動、洗いのみ、排水脱水、すすぎ脱水の実行行程を指定する自動復帰押釦形のスイッチ2、3、4、5」と記載されている。乙20の9欄6行〜11行には「手動-自動切換スイッチ(85)は、洗濯機の運転を全自動式にするか、手動運転にするかの切換スイッチであり、手動側にしておいて前記キーボードスイッチ(6)のドラム回転キー(ニ)あるいは脱水キー(ホ)を押せば、洗濯行程のみ、あるいは脱水のみを行う。」と記載されている。)、これによれば、自動と手動とは利用者の便宜に応じて自由に選択して採用されるものと考えられ、手動化が「自動」と比較して技術的に退歩に見える、又は自動と手動とが相反する構成であるということはできない。同様に、カーエアコンに関する昭57-138412号公開特許公報(乙21、公開日昭和57年8月26日)及び昭60-1011号公開特許公報(乙22、公開日昭和60年1月7日)や、給水装置に関する平2-261135号公開特許公報(乙23、公開日平成2年10月23日)にも、自動と手動を適宜使い分ける技術が開示されており、自動を手動化することに特段の阻害事由も見い出せない。したがって、「自動」の手動化の点に関する原告らの主張は採用することができない。
また、操作者が同時に利用者を兼ねる場合であっても、操作者が自ら(利用者)の便宜を考慮して種々の調整を行うべきことは自明の技術的課題であるにすぎず、操作者と利用者とが別人に分離したとしても、利用者が操作者にとって顧客等の立場にあれば、利用者の便宜を一層考慮すべきであるという程度の相違があるにとどまり、両者の技術的課題が相違するということはできないから、技術的課題の観点に関する原告らの主張も採用することができない。
3 したがって、本件特許出願前に日本国内において頒布された刊行物である実開平7-30902号公開実用新案公報(乙9の1)に記載された考案と本件発明との上記@、Aの相違点はいずれも大きなものではなく、これらの相違点の存在を前提としても、当業者であれば、上記考案(乙9の1)を上記2記載の各公報(乙9の2〜5、14、18〜23)に開示された技術と組み合わせることによって容易に本件発明に想到し得たものというべきである。したがって、本件発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は、同法123条1項2号に該当し、無効であることが明らかなものというべきである。そして、本件特許について、訂正請求がされている等の特段の事情の存在も認められない。
そうすると、本件特許権に基づき原告らが被告に対して権利行使をすることは、権利の濫用として許されない。
結論
以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告らの請求はいずれも理由がない。
追加
イ号物件目録(図面の説明)第1図イ号物件の全体斜視図第2図水槽を前上方より見た斜視図(写真)第3図操作パネル平面図第4図配管図第5図シンク洗浄動作説明フロー図(構成)1自動洗髪機であって、洗髪に使用する温水を溜めるための貯湯タンク1と、18個の温水噴射用ノズル2、2…2と、上記貯湯タンク1に溜められている温水を汲み出して上記温水噴射用ノズル2、2…2に与えるためのポンプ3とを備えている。
2以下の各処理はマイクロコンピュータ4(図示しない。)により制御されている。
(1)操作パネル5のスタートキー51を操作すると、前記ポンプ3を駆動して、予め選択されていた洗髪モード(ショートヘア、ロングヘア又はヘアカラー)に従って被洗髪者の髪を自動的に洗髪する。
(2)前記スタートキー51が操作されていない場合において、シンク洗浄キー52が操作されると、前記ポンプ3を駆動して、上記温水噴射用ノズルに至る配管6に溜まっている水を前記温水噴射用ノズル2、2…2を通じて排出する。
第1図第2図第3図第4図第5図ロ号物件目録(図面の説明)第1図-1ロ号物件の全体斜視図(フェイスシールつまみ3個)第1図-2ロ号物件の全体斜視図(フェイスシールつまみ4個)第2図水槽を前上方より見た斜視図(写真)第3図操作パネル平面図第4図配管図第5図シンク洗浄動作説明フロー図(構成)ロ号物件にはフード7の後方面が平面視で円弧状となりフェイスシールつまみ71が3個の製品と、フード7の後方面が平面視で円弧状となりフェイスシールつまみ71が4個の製品とがある。その他はイ号物件の構成と同じである。すなわち、
1自動洗髪機であって、洗髪に使用する温水を溜めるための貯湯タンク1と、18個の温水噴射用ノズル2、2…2と、上記貯湯タンク1に溜められている温水を汲み出して上記温水噴射用ノズル2、2…2に与えるためのポンプ3とを備えている。
2以下の各処理はマイクロコンピュータ4(図示しない。)により制御されている。
(1)操作パネル5のスタートキー51を操作すると、前記ポンプ3を駆動して、予め選択されていた洗髪モード(ショートヘア、ロングヘア又はヘアカラー)に従って被洗髪者の髪を自動的に洗髪する。
(2)前記スタートキー51が操作されていない場合において、シンク洗浄キー52が操作されると、前記ポンプ3を駆動して、上記温水噴射用ノズルに至る配管6に溜まっている水を前記温水噴射用ノズル2、2…2を通じて排出する。
第1図-1、2第2図第3図第4図第5図主張対照表
裁判長裁判官 小松一雄
裁判官 田中秀幸
裁判官 守山修生