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関連審決 無効2002-35531
関連ワード 頒布された刊行物 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  周知技術 /  公知技術 /  課題の共通性 /  作用の共通性 /  内容中の示唆 /  発明の詳細な説明 /  権利の濫用(権利濫用) /  存続期間 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  構成要件 /  構成要件充足性 /  差止請求(差止) /  侵害 /  販売数量(販売数) /  不法行為(民法709条) /  実施権 /  専用実施権 /  設定登録 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 14年 (ワ) 7456号 特許権侵害差止等請求事件
原告A
原告 ミスミ株式会社
原告ら訴訟代理人弁護士 石井義人
同 濱田佳志
原告ら補佐人弁理士 杉本勝徳
被告 日本コパツク株式会社
訴訟代理人弁護士 増田利昭
補佐人弁理士 佐藤英昭
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2003/10/09
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告は、別紙イ号物件目録及びロ号物件目録記載の各物件を製造、販売してはならない。
2 被告は、その本店及び営業所内に存する前項の各物件を廃棄せよ。
3 被告は、
(1)原告Aに対し、金3750万円、
(2)原告ミスミ株式会社に対し、金2000万円 及び上記各金員に対する平成14年8月8日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
本件は、被告による各物件の製造販売の行為が、後記特許権を侵害するとして、その特許権者である原告Aから専用実施権の設定を受けた原告ミスミ株式会社が、同専用実施権に基づき、被告による上記各物件の製造販売の差止めと廃棄を請求するとともに、各原告が、民法709条、特許法102条1項に基づき、損害賠償を請求した事案である。
(基本的事実) 1 原告Aは次の特許権を有している(以下、「本件特許権」といい、その発明を「本件発明」、その特許出願に係る明細書を「本件明細書」という。)。
特許番号 第2956956号 発明の名称 合成樹脂製クリップ 出願年月日 平成7年2月3日(特願平7-17174) 登録年月日 平成11年7月23日 特許請求の範囲 本判決末尾添付の別紙特許公報(以下「本件公報」という。)該当欄記載のとおり。
2 本件発明の構成要件を分説すれば、次のとおりである。
A 一端に挟着部を形成したクリップ片を向かい合わせに対峙させ、
B 両クリップ片に亙って“U”字形に折り返されて形成された合成樹脂製バネを装着し、
C 該合成樹脂製バネの弾性力により両クリップ片の挟着部同士が圧接する方向に弾性付勢してなる合成樹脂製クリップにおいて、
D 合成樹脂製バネの先端内面部分に掛合部を形成し、
E 該掛合部が掛合する受け止め部と、受け止め部より折り返えし部側の合成樹脂製バネ部分を被う飛散防止部とをクリップ片に設けるとともに、
F 受け止め部に対面する飛散防止部の先端側部分に空間を形成し、
G 受け止め部の飛散防止部側先端部と飛散防止部の受け止め部側先端部とがクリップ片を成形する金型の摺動方向に直交する方向で重なり合わないように形成したことを特徴とする合成樹脂製クリップ。
3 原告ミスミ株式会社は、原告Aから、本件特許権について次の内容の専用実施権の設定を受け、平成13年11月1日、その登録をした(甲1)。
範囲 地域 日本全国 期間 本件特許権の存続期間満了まで 内容 全部 4 被告は、別紙イ号物件目録記載の物件(その製品型番はMB-4である。以下「イ号物件」という。)及びロ号物件目録記載の物件(その製品型番はCAB-1である。以下「ロ号物件」という。)を製造、販売していた(ただし、いずれもその具体的構成につき当事者間に争いがある。)。
(争点) 1 構成要件EないしG「飛散防止部」の充足性 (原告らの主張) イ号物件及びロ号物件は、いずれも上記構成要件を充足する。被告の主張に対しては、次のとおり反論する。
(1)被告の主張(1)に対して 被告主張のガイド部7(別紙被告主張図イ号物件の該当部分を指す。以下同じ。)も6部分の端であるから、ガイド部7を受け止め部5に対面しているということができる。ガイド部7がガタツキ防止効果を有する旨の被告の主張は否認するが、仮にそうであるとしても、本件発明との関係では単なる付加にすぎず、その構成要件充足性を否定するものではない。
(2)被告の主張(2)に対して 別紙イ号物件目録及びロ号物件目録の各図面に照らし、6部分が飛散防止の効果を有することは明らかである。
(3) 被告の主張(3)に対して 別紙ロ号物件目録の各図面に照らし、6部分の先端6a側部分に空間を形成することは明らかである。
(被告の主張) (1)本件発明における「飛散防止部」は、その特許請求の範囲の記載(構成要件F)から明らかなとおり、受け止め部に対面する部分でなければならない。
イ号物件のガイド部7は、別紙イ号物件目録第3図及び第4図から明らかなとおり、受け止め部5には対面していない。したがって、原告らの主張するように、ガイド部7を受け止め部5に対面している6部分の一部とすることはできない(ガイド部7は、合成樹脂製バネをクリップ片の外側から内側へ押圧しており、その弾性力により、合成樹脂製バネのガタツキを防止するという本件発明にはない独自の作用効果を奏するものである。)から、上記構成要件を充足しない。
ロ号物件では、受け止め部に対面する部分は存在していない(受け止め部に対面するのは、略凸型に形成された空間にすぎない。)から、上記構成要件を充足しない。
(2)本件発明の「飛散防止部」とは、本件明細書【0015】によれば、
「クリップ片2の操作部から合成樹脂製バネ3の掛合部4の近傍位置まで延出されたもの」でなければならない。
ロ号物件は、クリップ片操作部から合成樹脂製バネの先端近傍まで略凸型の空間を設け、同空間部の上方突端部分両側にはクリップの押圧操作に耐える強度を与える補強部6(6は飛散防止部ではないから、これと異なるロ号物件の特定に関する原告らの主張は否認する。)を設けたものであって、本件発明の上記構成とは全く異なる。したがって、ロ号物件は、上記構成要件を充足しない。
イ号物件においても、6部分につき、その中間部に空間が設けられていない点で、(ロ号物件よりも更に)クリップ片の強度補強の作用効果があるから、6部分は飛散防止部ではない(これと異なるイ号物件の特定に関する原告らの主張は否認する。)。したがって、イ号物件も、上記構成要件を充足しない。
(3)本件発明では、その特許請求の範囲の記載(構成要件F)から明らかなとおり、「飛散防止部」の先端側部分に空間が形成されなければならない。
ロ号物件の空間は、クリップ片の操作部からバネの先端近傍まで略凸型に設けられたものであり、飛散防止部の先端側部分に設けられたものではないから、
上記構成要件を充足しない。この点に関する原告らの主張は、略凸型に形成された空間の一部分を捉えるものであり、失当である。
2 構成要件E「受け止め部より折り返えし部側の合成樹脂製バネ部分を被う」の充足性 (原告らの主張) イ号物件及びロ号物件は、いずれも上記構成要件を充足する。被告の主張に対しては、次のとおり反論する。
「被う」とは、「一部を被う」と「全部を被う」の両者を包含する概念であり、被告主張のように、全体的にかぶせてしまうことのみに限定解釈すべき理由はない。本件明細書の図面にも、このような限定はない。むしろ、バネ部分を被うのはバネが破損した際にその飛散を防止するためであるから、このような観点から合目的的に解釈すれば、上記構成要件にいう「被う」とは、バネが破損した際にバネの飛散を防止し得る程度にバネ部分にかぶさっていれば足りるというべきである。
イ号物件及びロ号物件のいずれも、6部分(ガイド部7を含むが、仮にガイド部7を除外したとしても、その効果は同様である。)は、バネの折り返し3a部分からバネの先端にかけてバネ全体の半分以上にかぶさっており、バネが破損した際にバネの飛散を防止し得る程度にバネ部分にかぶさっているから、上記構成要件を充足する。仮に被告主張の凸部8(別紙被告主張図イ号物件の該当部分を指す。
以下同じ。)が破損片飛出防止用の機能を有するとしても、ガイド部7と同様に、
本件発明との関係では単なる付加にすぎず、上記構成要件の充足性を否定するものではない。
(被告の主張) 「被う」とは、広辞苑によれば、「露出するところがないように、全体的にかぶせてしまう」というものでなければならない。
イ号物件においては、6部分がバネ3部分を全体的にかぶせてしまうようには被われておらず(これと異なるイ号物件の特定に関する原告らの主張は否認する。)、バネのガタツキ防止のためのガイド部7を除いてしまえば、6部分の先端6a側に設けられた窓部から折れたバネが飛び散ってしまうことになる。イ号物件において破損片飛出防止用の機能を有するものは、凸部8である。しかし、凸部8は、一対のクリップ片2の内側上端部に備えられ、互いに接触しない点対称の位置で、左右いずれかに突出させて設けた略L字形状のリブであって、バネ3部分を全体的にかぶせてしまうように被うものではないから、上記構成要件を充足しない。
ロ号物件も、イ号物件と同様に、バネ部分を被っていないから、上記構成要件を充足しない。
3 構成要件G「受け止め部の飛散防止部側先端部と飛散防止部の受け止め部側先端部とがクリップ片を成形する金型の摺動方向に直交する方向で重なり合わないように形成」の充足性 (原告らの主張) イ号物件及びロ号物件は、いずれも上記構成要件を充足する。被告の主張に対しては、次のとおり反論する。
イ号物件において、6a及びガイド部7のいずれも6部分の端であり、6部分の先端部ということができるから、被告の主張は前提を欠く。仮に被告主張のように、6部分の受け止め部側先端部がガイド部7の先端部分である7aであるとしても、受け止め部5は、別紙イ号物件目録各図面のとおり、6aの中央部分が凸型に形成されていることに対応して、凹型に形成されており、5a部分とは重なり合っていない。
ロ号物件においても、別紙ロ号物件目録各図面のとおり、6部分中央が凹型に形成されていることから、5a部分と6a部分が重なり合わないことは明らかである。
(被告の主張) イ号物件においては、クリップ片の窓部分にはガイド部7が設けられているから、6部分の受け止め部側先端部とすべきは、6aではなく、ガイド部7の先端部分である7aである(これと異なるイ号物件の特定に関する原告らの主張は否認する。)。したがって、受け止め部5の6部分側先端5a部と6部分の受け止め部側先端部7aとはクリップ片2を成形する金型の摺動方向]に直交する方向で重なり合っていることになるから、上記構成要件を充足しない。
ロ号物件においても、受け止め部5の先端5aと6部分の先端6aとがY方向で重なる構成を備えているから、上記構成要件を充足しない。
4 明白な無効理由その1-進歩性欠如 (被告の主張) (1)本件発明は、本件特許出願前に日本国内において頒布された刊行物である実開平2-19359号公開実用新案公報(公開日平成2年2月8日、乙1、乙5添付の甲1。以下「引用刊行物1」という。)及び登録番号第782935号意匠公報(平成2年3月7日発行、乙5添付の甲2。以下「引用刊行物2」という。)並びに本件特許出願前に外国において頒布された刊行物である特許番号第4,701,983号米国特許公報(1987(昭和62年)10月27日ころ発行、乙5添付の甲3。以下「引用刊行物3」という。)に基づいて容易に発明をすることができた(特許法29条2項違反)。
したがって、本件特許には無効理由が存在することが明らかであるから、
本件特許権に基づく請求は権利の濫用として許されない。
(2)原告らの主張(2)について反論すれば、本件発明のような被服用ハンガークリップにおいては、残留針の検出が金属探知器により行われていたことから、合成樹脂(プラスチック)で成形することは公知技術であった。引用刊行物3には、「この発明の目的は、進歩したプラスチック製クリップ組立部品を提供することにある。」(同公報2欄11行〜12行)、「クリップ組立部品10は、一対の顎部材12と、顎部材12に取り付けるためのU字バネ14とから成ることが示されている。」(同公報2欄65行〜3欄1行)という記載があり、一対の顎部材とU字バネの材質に合成樹脂を用いることが示されている。特開平7-139524号公開特許公報(発明の名称「ハンガークリップ」、出願日平成5年11月16日、公開日平成7年5月30日、乙14)や特開平3-71083号公開特許公報(発明の名称「衣服中に残存する磁性体金属針の検出方法」、公開日平成3年3月26日、乙15)の構成要件にも、バネやハンガークリップ全体の材質を合成樹脂とする技術が示されている。
そして、合成樹脂製バネが破損しやすいものであることは自明のことであり、この破損したバネの飛散を防止するために、引用刊行物2のように、バネ全体を被えば飛散防止効果が高くなること、さらに、バネ全体を被っていなくても、バネを被う部分を多くすれば飛散防止効果を高められることは、当業者なら容易に想到し得る。
(原告らの主張) (1)被告の主張(1)は否認する。
(2)進歩性が欠如するか否かは、引用刊行物の内容中の示唆課題の共通性、機能作用の共通性等に照らし、本件発明の起因ないし契機となり得るものがあるか否かという観点から判断すべきである。
本件発明は、「受け止め部に対面する飛散防止部の先端側部分に空間を形成し」とあるように、クリップの外壁部分とバネの受け止め部との間に、バネを挿入し得る空間を形成し、内側に挿入されるバネと干渉せずにクリップの外壁部分を延出して飛散防止部を形成し得る構成とした点に大きな進歩性を有する。
これに対し、被告主張の引用刊行物1〜3には、合成樹脂製バネを用いたクリップにおけるバネ破損時の飛散防止に関する内容中の示唆はない。引用刊行物1の課題は、クリップの組立てを容易にすること、クリップ片を連結するバネによるニット製品等の損傷を防止すること及びクリップ片のパッド部の接着剤による製品の汚損を防止することにあり、本件発明の課題(バネ破損時の飛散防止)との共通性はない。このことは、引用刊行物3についても同様である。引用刊行物1及び3の機能作用も、バネ破損時の飛散防止効果が存しない点で本件発明と異なる。引用刊行物2も、一対の金型が成形できない点で、本件発明とは異なる。したがって、引用刊行物1〜3をもって本件発明の進歩性を否定することはできない。
5 明白な無効理由その2-記載不備 (被告の主張) 本件明細書の特許請求の範囲は、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載していない(平成6年法律第116号による改正前の特許法36条5項2号違反)。この点からも、本件特許には無効理由が存在することが明らかであるから、本件特許権に基づく請求は権利の濫用として許されない。
(原告らの主張) 被告の主張は争う。
6 原告らの損害 (原告らの主張) (1)原告A ア 被告は、平成12年8月ころから同13年10月31日までの間、1本当たりイ号物件又はロ号物件2個を装着したハンガーを1月当たり少なくとも25万本販売したから、この間の被告によるイ号物件及びロ号物件の合計販売数は750万個(2個×25万本×15月)である。
イ 原告Aは、上記アの期間中、本件発明の実施品であるクリップを装着したハンガーを販売しており、同クリップ1個当たりの同原告の利益の額は5円である。
ウ したがって、原告Aの損害は、3750万円(5円×750万個)である。
(2)原告ミスミ株式会社 ア 被告は、平成13年11月1日から同14年6月30日までの間、1本当たりイ号物件又はロ号物件2個を装着したハンガーを1月当たり少なくとも25万本販売したから、この間の被告によるイ号物件及びロ号物件の合計販売数は合計400万個(2個×25万本×8月)である。
イ 原告ミスミ株式会社は、本件特許権につき専用実施権設定登録を受けた上記アの期間中、本件発明の実施品であるクリップを装着したハンガーを販売しており、同クリップ1個当たりの同原告の利益の額は5円である。
ウ したがって、原告ミスミ株式会社の損害は、2000万円(5円×400万個)である。
(被告の主張) 原告ら主張の損害は否認する。
争点4(明白な無効理由その1-進歩性欠如)に対する当裁判所の判断
1 本件明細書には、次のような記載がある(甲2)。
本件発明は、主としてハンガーに装着して使用される合成樹脂製クリップに関するものである(本件公報(甲2)の「産業上の利用分野」。以下、括弧内は本件公報の該当部分を指す。)。従来、衣服等を挟持するクリップを備えたハンガーは、水平に保持されるハンガー部材の両端寄り部に金属製の“U”字形をしたバネでクリップ片の挟着部同士が圧接する方向に弾性付勢してなる合成樹脂製クリップを装着し、この合成樹脂製クリップに衣服等を吊持するようにしている。ところで、衣服等を製造メーカーから商社あるいは小売店に納品する場合にも上述のハンガーに衣服等を吊持した状態で納品するのであるが、昨今、製造物責任法、いわゆる“PL法”により衣服等の縫製にも金属探知器により針等が残留していないのを確認してから納品されるようになっており、金属製の“U”字形をしたバネでクリップ片の挟着部同士が圧接する方向に弾性付勢してなる合成樹脂製クリップでは、
この金属製バネに金属探知器が反応してしまう。そこで、こうした金属探知器に対応するために高密度カーボネイト樹脂を主体とした複合材料により“U”字形に折り返した弾性を有する合成樹脂製バネを合成樹脂製クリップに装着し、
当該クリップをハンガーに装着したものが用いられている(従来の技術)。他方、
クリップ片を成形する時に合成樹脂製バネを被うようにすることも考えられるが、
こうした場合には成形用金型の型抜きができなくなったり、成形用金型を複雑な構造で、かつ金型の数(点数)が増えたりしてしまうことから、イニシャルコスト及びランニングコストが高くなってしまうという問題もあった。そこで、本件発明は、上記問題点に鑑み、安全でかつ安価な合成樹脂製クリップを提供できるようにすることを目的として(課題を解決するための手段)、本件特許請求の範囲所定の構成を備えることにより、クリップ片を成形する成形金型も簡単な構造の一対の金型で済み、イニシャルコストやランニングコストを低減して大量生産することができるとともに、合成樹脂製バネで合成樹脂製クリップが形成してあるので、これを例えばハンガーに装着して検針用の金属探知器に通すこともできる。また、合成樹脂製バネがその折り返し部分で折れた場合、この折れた合成樹脂製バネはその反動で飛散しようとするが、これを飛散防止部が受け止めるので、従来のように飛散する合成樹脂製バネの破片で手や顔を傷つけたりすることがなく安全性を大幅に向上させることができるという作用効果を奏するものである(発明の効果)。
2 これに対し、引用刊行物1(乙1、乙5添付の甲1。考案の名称「ハンガー」。公開日平成2年2月8日)に開示された考案は、ハンガー、特にファッション流通業界で製品の出荷、運搬、保管用に使用されるハンガーに関するものであり(同明細書の「産業上の利用分野」。以下、括弧内は同明細書の該当部分を指す。)、その実用新案登録請求の範囲には、次の記載があることが認められる。
@ 上面中央にフックを有するハンガーバーと、衣類を吊下支持させる少なくとも一対のクリップとの組合せからなり、前記ハンガーバーは両面中央長手方向に滑らかな曲面で上下縁に連結する断面係止溝を有し、前記クリップは屈曲板バネで開閉可能に連結した一対のクリップ片からなり、両クリップ片の対向内縁に前記ハンガーバーの係止溝に形成された滑らかな曲面に沿うカム面を備え、前記係止溝にカム面を圧接させてクリップを前記ハンガーバーに着脱可能に装着したことを特徴とするハンガー(請求項1)。
A 前記両クリップ片の内面に、前記屈曲板バネのバネ受けを設けた請求項第1項に記載のハンガー(請求項2)。
同考案は、従来のハンガーは、「ハンガーバー30と、ハンガーバー30に摺動可能に支持され衣類を挟持吊下するクリップ31とを有し(中略)ハンガーバー30にはその上下端に突条縁30a、30aが設けられており、一方、クリップ31をなす一対の開閉可能なクリップ片31a、31aには多角の溝32がそれぞれ設けられており」、クリップ片の角形溝にハンガーバーの突条縁を受け入れて一対のクリップ片間にハンガーバーを差し込み、一対のクリップ片を逆U字状のバネ33で開閉可能に連結した構造になっていた(従来の技術)ところ、「従来のハンガーはハンガーバー30の突条縁30aとクリップ片31aの溝32とは角形の凹凸構造で嵌合しているため、一対のクリップ片31aをハンガーバー30の両側にあてがい、…バネを治具を用いて押し開いて一対のクリップ片間に組み込む必要があり、組立てが厄介である。また、クリップ片31a間を連結するバネ33の端縁33aがクリップ片31aの外側に露出しているため、特に製品がニット製品である場合にはその編目に引掛けて傷付けてしまい、製品の価値を台無しにしてしまう欠点があった。」ことを解決課題の一つとするものであり(考案が解決しようとする課題)、上記実用新案登録請求の範囲の構成を備えることにより、
「クリップ片の内面にバネのバネ受けが設けられ、バネの端縁が外部に露出しないため、製品に引掛けてしまうことを防止できる。」という効果を奏するものである(考案の効果)。その実施例の項の「本考案に係るハンガーを組立てるにあたっては、まず一対のクリップ片2a、2aを下端縁を揃えてV字状に組合せ、その間に屈曲板バネ4を介挿して該バネ4の端縁4aを各クリップ片2aのバネ受け6に装着し、一対のクリップ片2aをバネ4で開閉可能に連結してクリップ2を組立てる」という記載や、第1図(本考案の一実施例を示す正面図)、第2図(第1図のU-U線断面図)及び第3図(組立状態を示す断面図)の各図面も総合すれば、引用刊行物1には、「一端に挟着部を形成したクリップ片2aを向かい合わせに対峙させ、両クリップ片2aに亙って“U”字形に折り返されて形成された屈曲板バネ4を装着し、該屈曲板バネ4の弾性力により両クリップ片2aの挟着部同士が圧接する方向に弾性付勢してなる構成、屈曲板バネ4の先端内面部分に凸部を形成した構成、クリップ片2aに、該凸部が係合するバネ受け6を設けた構成、
クリップ片2aの上端縁10が、屈曲板バネ4の折り返えし部を越える位置まで延長形成されており、上端縁10の下方部が屈曲板バネ4の折り返し部近傍のバネ部分を被う構成、上端縁10の下方部の先端側部分にクリップ片2aの厚み方向に貫通し、かつバネ受け6の表面部にスペースを提供する窓状穴が形成されている構成、及び、バネ受け6の上端縁10の下方部側先端部と上端縁10の下方部のバネ受け6側先端部とがクリップ片2aの長さ方向に間隔を有している構成」が示されているということができる。
3 本件発明と引用刊行物1の考案とを対比すれば、両者は後記(1)の点で一致し、後記(2)及び(3)の点で相違する。
(1)共通点 一端に挟着部を形成したクリップ片を向かい合わせに対時させ、両クリップ片に亙って“U”字形に折り返されて形成されたバネを装着し、該バネの弾性力により両クリップ片の挟着部同士が圧接する方向に弾性付勢してなるクリップにおいて、バネの先端内面部分に掛合部を形成し、該掛合部が掛合する受け止め部と、
受け止め部より折り返えし部側のバネ部分を被う飛散防止部とをクリップ片に設けるとともに、受け止め部の飛散防止部側先端部と飛散防止部の受け止め部側先端部とがクリップ片を成形する金型の摺動方向に直交する方向で重なり合わないように形成したことを特徴とするクリップ。
(2)相違点@ バネ及びクリップの材質が、本件発明ではいずれも合成樹脂製とされているのに対し、引用刊行物1の考案では明確に特定されていない。
(3)相違点A 本件発明が「受け止め部に対面する飛散防止部の先端側部分に空間を形成し」た構成を有しているのに対し、引用刊行物1の考案は「上端縁10の下方部(飛散防止部)の先端側部分にクリップ片2aの厚み方向に貫通し、かつバネ受け6(受け止め部)の表面部にスペースを提供する窓状穴を形成し」た構成を有している。
4(1)相違点@についての検討 特開平7-139524号公開特許公報(発明の名称「ハンガークリップ」、出願日平成5年11月16日、公開日平成7年5月30日、乙14)や特開平3-71083号公開特許公報(発明の名称「衣服中に残存する磁性体金属針の検出方法」、公開日平成3年3月26日、乙15)、引用刊行物3(公開日1987年(昭和62年)10月27日ころ、乙5添付の甲3)並びに本件明細書【0003】及び【0004】の記載によれば、本件発明の属する技術分野(被服用ハンガークリップ)において、残留針の検出が金属探知器により行われていたことから、クリップ片やバネが金属探知器に反応することを回避するため、これらの材質を(金属ではなく)合成樹脂とすることは、本件特許出願当時の周知技術であったことが認められる(本件特許権者である原告Aも、無効2002-35531号無効審判請求事件の第1回口頭審理期日において、引用刊行物1の考案につき合成樹脂製バネとすることは容易である旨を自認している(乙19の2)。)。
したがって、引用刊行物1記載の考案に上記の周知技術を組み合わせて、
合成樹脂製バネを採用した合成樹脂製クリップとすることは、当業者であれば容易に推考し得ることというべきである。
(2)相違点Aについての検討 本件発明の構成要件Fにいう「受け止め部に対面する飛散防止部の先端側部分に空間を形成し」の解釈につき、原告らは、クリップの外壁部分とバネの受け止め部との間に、バネを挿入し得る空間を形成し、内側に挿入されるバネと干渉せずにクリップの外壁部分を延出して飛散防止部を形成し得る構成である旨を主張する。しかし、本件明細書の特許請求の範囲はもとより、その発明の詳細な説明を精査しても、これを裏付けるに足りる記載は全く窺われないから、この点に関する原告らの主張は採用することができない。
むしろ、本件明細書の特許請求の範囲には「受け止め部の飛散防止部側先端部と飛散防止部の受け止め部側先端部とがクリップ片を成形する金型の摺動方向に直交する方向で重なり合わないように形成し」(構成要件G)と記載され、その発明の詳細な説明の「課題を解決するための手段」の項にも同様の記載が認められ、これを受けて、「発明の効果」の項に「受け止め部の飛散防止部側先端部と飛散防止部の受け止め部側先端部とがクリップ片を成形する金型の摺動方向に直交する方向で重なり合わないように形成してあるので、クリップ片を成形する成形金型も簡単な構造の一対の金型で済み、イニシャルコストやランニングコストを低減して大量生産することができると言う利点がある」という記載があることが認められる。さらに、「実施例」の項にも「飛散防止部8の先端8aと受け止め部6の先端6aとはこのクリップ片2を成形する金型(図示せず)の摺動方向Xに直交する方向Yで重なり合わないように隙間をもたせてある。このように、飛散防止部8の先端8aと受け止め部6の先端6aとが方向Yで重なり合わないようにすると金型が互いに干渉しないことから、クリップ片2を形成する成形金型が一対で済ませられる」(【0015】)という記載があることも総合すれば、本件発明の構成要件Fにいう「空間」とは、クリップ片を成形する成形金型が干渉しないように飛散防止部の先端側に設けられるもの、つまり、受け止め部に対面した飛散防止部をそのまま延長した部分に設けた、クリップ片を成形する成形金型が干渉しないようにするための空間というべきである。
そうすると、引用刊行物1における「窓状穴」は、同明細書第2図及び第3図から明らかなとおり、受け止め部に対面した上端縁10の下方部(飛散防止部)をそのまま延長した部分に設けた、クリップ片を成形する成形金型が干渉しないようにするための空間に相当するというべきである。
(3)これに対し、原告らは、引用刊行物1〜3には、合成樹脂製バネを用いたクリップにおけるバネ破損時の飛散防止に関する内容中の示唆はない旨を主張する。しかし、合成樹脂製バネが破損しやすいものであることは、その材質上、自明のことであるから、この破損したバネの飛散を防止することも当業者にとって当然の解決課題ということができる。そして、この課題を解決するために、引用刊行物2(この意匠公報には、クリップ片がバネ全体を被っている「衣服ハンガー用挟持具」の構造が図示されている。乙5)のように、バネ全体を被えば飛散防止効果が高いこと(本件特許権者である原告Aも、無効2002-35531号無効審判請求事件の第2答弁書(乙17)において、引用刊行物2の構成に飛散防止機能があることを認めている。本件明細書【0006】の「クリップ片を成形する時に合成樹脂製バネを被うようにすることも考えられる」という記載からも、同様の技術思想は既に自明であったことが窺われる。)、さらに、バネ全体を被っていなくても、バネを被う部分を多くすれば飛散防止効果を有すること(飛散防止効果を有する程度に、バネを被う部分を多くすること)は、当業者であれば容易に想到し得るというべきであるから、原告らの上記主張は採用することができない。
(4)したがって、本件特許出願前に日本国内において頒布された引用刊行物1(実開平2-19359号公開実用新案公報、乙1、乙5添付の甲1)記載の考案と本件発明との上記@、Aの各相違点はいずれも大きなものではなく、これらの相違点の存在を前提としても、当業者であれば、上記考案(引用刊行物1)に上記(1)(2)で判示した技術を組み合わせることによって本件発明に容易に想到し得たものというべきである。したがって、本件発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は、同法123条1項2号に該当し、無効であることが明らかなものというべきである。そして、本件特許について、特段の事情の存在も認められない。
そうすると、本件特許権に基づき原告らが被告に対して権利行使をすることは、権利の濫用として許されない(最高裁判所平成12年4月11日第三小法廷判決・民集54巻4号1368頁参照)。
結論
以上によれば、原告らの請求は、その余の点について判断するまでもなく、
いずれも理由がない。
追加
イ号物件目録(図面の説明)第1図合成樹脂製クリップの斜視図第2図合成樹脂製クリップの縦断側面図第3図クリップ片の正面図(合成樹脂製クリップとなったときの外側をクリップ片の正面とする。)第4図クリップ片の裏面図(合成樹脂製クリップとなったときの内側をクリップ片の裏面とする。)第5図クリップ片の縦断側面図第6図合成樹脂製クリップ2個を装着したハンガーの斜視図(構成の説明)a一端に挟着部1を形成したクリップ片2を向かい合わせに対峙させ、
b両クリップ片に亙って“U”字形に折り返されて形成された合成樹脂製バネ3を装着し、
c該合成樹脂製バネ3の弾性力により両クリップ片の挟着部1同士が圧接する方向に弾性付勢してなる合成樹脂製クリップにおいて、
d合成樹脂製バネ3の先端3b内面部分に掛合部4を形成し、
e該掛合部4が掛合する受け止め部5と、受け止め部5より折り返えし部3a側の合成樹脂製バネ3部分を被う6部分とをクリップ片2に設けるとともに、
f受け止め部5に対面する6部分の先端6a側部分に空間を形成するとともに同6aの中央部分を凸型に形成し、
g受け止め部5の6部分側先端5a部と6部分の受け止め部側先端部6aとがクリップ片2を成形する金型の摺動方向]に直交する方向で重なり合わないように形成したことを特徴とする合成樹脂製クリップ第1図〜第6図ロ号物件目録(図面の説明)第1図合成樹脂製クリップの斜視図第2図合成樹脂製クリップの縦断側面図第3図クリップ片の正面図(合成樹脂製クリップとなったときの外側をクリップ片の正面とする。)第4図クリップ片の裏面図(合成樹脂製クリップとなったときの内側をクリップ片の裏面とする。)第5図クリップ片の縦断側面図第6図合成樹脂製クリップ2個を装着したハンガーの斜視図(構成の説明)a一端に挟着部1を形成したクリップ片2を向かい合わせに対峙させ、
b両クリップ片に亙って“U”字形に折り返されて形成された合成樹脂製バネ3を装着し、
c該合成樹脂製バネ3の弾性力により両クリップ片の挟着部1同士が圧接する方向に弾性付勢してなる合成樹脂製クリップにおいて、
d合成樹脂製バネ3の先端3b内面部分に掛合部4を形成し、
e該掛合部4が掛合する受け止め部5と、受け止め部5より折り返えし部3a側の合成樹脂製バネ3部分を被う6部分とをクリップ片2に設けるとともに、
f受け止め部5に対面する6部分の先端6a側部分に空間を形成するとともに同6aの中央部分を凹型に形成し、
g受け止め部5の6部分先端5a部と6部分の受け止め部側先端部6aとがクリップ片2を成形する金型の摺動方向]に直交する方向で重なり合わないように形成したことを特徴とする合成樹脂製クリップ第1図〜第6図被告主張図
裁判長裁判官 小松一雄
裁判官 田中秀幸
裁判官 守山修生
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