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審判番号(事件番号) データベース 権利
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事件 平成 15年 (ワ) 3010号 損害賠償等請求事件
平成 15年 (ワ) 11198号 損害賠償等請求事件
原告A
被告 シャープ株式会社
被告訴訟代理人弁護士 竹田稔
同 川田篤
同補佐人弁理士 小栗久典
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2003/10/23
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
1 原告 (1)(第1事件) 被告は,原告に対し,1億5602万5000円及びこれに対する平成15年3月10日(第1事件訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)(第2事件) 被告は,原告に対し,1億円及びこれに対する平成15年6月21日(第2事件訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告 主文と同じ。
事案の概要
本件は,実体視動画表示装置についての特許権を有する原告が,被告が製造,販売する合計5種類のテレビ(うち1種類(後記のイ号物件)に関するのが第1事件,その余の4種類(後記のロ号ないしホ号物件)に関するのが第2事件)が,当該特許発明技術的範囲に属し,その製造,販売は原告の特許権を侵害するものであるとして,被告に対して損害賠償を求めた事案である。
被告は,本件において,これらのテレビが特許発明技術的範囲に属することを争うとともに,当該特許に無効事由が存することは明らかであり,本訴請求は権利の濫用に当たり許されないと主張している。
1 前提となる事実(当事者間に争いのない事実及び該当箇所末尾に掲げた証拠により容易に認定できる事実) (1) 原告は,次のような内容の特許権(以下「本件特許権」という)を有している(第1事件甲1)。
ア 特許番号 特許第2127180号 イ 登録年月日 平成9年2月10日 ウ 発明の名称 実体視動画表示装置 エ 出願年月日 昭和63年11月2日 オ 出願番号 特願昭63-277722 カ 出願公告年月日 平成6年8月24日 キ 出願公告番号 特公平06-066969 (2) 本件特許権に係る明細書(平成8年2月16日付け手続補正書による補正後のもの。以下「本件明細書」という。)本判決末尾添付の特許公報(以下「本件公報」という。)参照の特許請求の範囲第1項の記載は次のとおりである(以下,この発明を「本件特許発明」という。乙1の1,2)。
「通常の観視距離からスクリーンの画面を観視するときの視覚に於て,スクリーンに接する外周枠ぶち体の前面のスクリーンの上辺の部分の大部分とスクリーンの下辺の部分の大部分の色が該前面のスクリーンの側辺の部分の大部分の色と明らかに違う事を特徴とする実体視動画表示装置」 (3) 本件特許発明構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,それぞを「構成要件A」などという。)。
A 通常の観視距離からスクリーンの画面を観視するときの視覚において, B スクリーンに接する外周枠ぶち体の C 前面のスクリーンの上辺の部分の大部分とスクリーンの下辺の部分の大部分の色が該前面のスクリーンの側辺の部分の大部分の色と明らかに違うことを特徴とする D 実体視動画表示装置 (4) 被告は,次のとおり,カラーテレビを製造,販売した(第1事件甲5,乙7,第2事件甲5の1ないし5,弁論の全趣旨)。
ア ワイド型フラットカラーテレビ(商品番号32C-PD1-A)のうちスピーカー部分が青色のもの(以下「イ号物件」という。)を,平成11年7月から平成12年9月まで イ ワイド型カラーテレビ(商品番号32C-FD20。以下「ロ号物件」という。) ウ ワイド型カラーテレビ(商品番号32C-FZ20。以下「ハ号物件」という。) エ スタンダード型カラーテレビ(商品番号29C-FH20。以下「ニ号物件」という。) オ ワイド型カラーテレビ(商品番号28C-PD4。以下「ホ号物件」という。以下,イないしホ号製品を総称して「各被告製品」という。) (5) 各被告製品の構成を,本件特許発明の各構成要件に対応する形で記載すると,次のとおりである(以下,これらを「イ号物件構成a」などという。なお,色の記載については,淡いか濃いかにつき当事者間に争いがある。第1事件甲5,乙7,第2事件甲5の1ないし5,弁論の全趣旨)。
ア イ号物件(正面図は,別紙図1) a 最適視距離からブラウン管の蛍光面(以下「蛍光面」という。)を正面から観視するときの視覚において b@ 蛍光面の上下左右に蛍光面を囲むようにしてブラックコーティング部(幅7.3mmないし7.7mm)が施され A ブラックコーティング部の上下左右の辺にテレビ筺体が施され B テレビ筺体の,ブラックコーティング部と接する全ての辺に枠状にリブ部(幅4.4ないし6.5mm)が施され C テレビ筺体の左右辺にリブ部に接してスピーカー・グリル部(幅73.5mm)が施され c@ ブラックコーティング部の上下辺及び側辺がいずれも暗黒色で A テレビ筺体が,銀灰色で, B テレビ筺体のうちリブ部は黒色で, C スピーカー・グリル部が青色であることを特徴とする d テレビ イ ロ号物件(正面図は,別紙図2) a 最適視距離から蛍光面を正面から観視するときの視覚において b@ 蛍光面の上下左右に蛍光面を囲むようにしてブラックコーティング部(幅8.2mm)が施され A ブラックコーティング部の上下左右辺にテレビ筺体が施され B テレビ筺体の左右辺にスピーカー・グリル部(幅64mm)が施され c@ ブラックコーティング部の上下辺及び側辺がいずれも暗黒色で A テレビ筺体の上下左右辺がいずれも光沢のない金灰色で, B スピーカー・グリル部が光沢のない青色であることを特徴とする d テレビ ウ ハ号物件(正面図は,別紙図3) a 最適視距離から蛍光面を正面から観視するときの視覚において b@ 蛍光面の上下左右に蛍光面を囲むようにしてブラックコーティング部(幅8.2mm)が施され A ブラックコーティング部の上下左右辺にテレビ筺体が施され B テレビ筺体の左右辺にスピーカー・グリル部(幅64mm)が施され c@ ブラックコーティング部の上下辺及び側辺の色がいずれも暗黒色で A テレビ筺体の上下辺及び側辺の色がいずれも光沢のない銀灰色で B スピーカー・グリル部が光沢のない青色であることを特徴とする d テレビ エ ニ号物件(正面図は,別紙図4) a 最適視距離から蛍光面を正面から観視するときの視覚において b@ 蛍光面の上下左右に蛍光面を囲むようにしてブラックコーティング部(幅8.5mm)が施され A ブラックコーティング部の上下左右の辺にテレビ筺体が施され B テレビ筺体の,上辺のブラックコーティング部と接する部分に線状にリブ部(はば4.2mm)が施され C テレビ筺体の左右側辺にスピーカー・グリル部(幅64mm)が施され c@ ブラックコーティング部の上辺,下辺及び側辺の色が暗黒色で A リブ部が銀灰色で B テレビ筺体の上下辺及び側辺の色が光沢のない銀灰色で C スピーカー・グリル部が光沢のない青色であることを特徴とする d テレビ オ ホ号物件(正面図は,別紙図5) a 最適視距離から蛍光面を正面から観視するときの視覚において b@ 蛍光面の上下左右に蛍光面を囲むようにしてブラックコーティング部(幅8mm)が施され A ブラックコーティング部の上下左右の辺にテレビ筺体が施され B テレビ筺体の,ブラックコーティング部と接する全ての辺に枠状にリブ部(幅6mmないし10.4mm)が施され C テレビ筺体の左右辺にリブ部に接してスピーカー・グリル部(幅66.2mm)が施され c@ ブラックコーティング部の上下辺及び側辺がいずれも暗黒色で A リブ部の上下辺及び側辺がいずれも黒色で B テレビ筺体の上辺,下辺が光沢のない銀灰色で C スピーカー・グリル部が光沢のない,上記テレビ筺体より濃い銀灰色で(以下,テレビは筺体の色より濃いという意味で,「濃い銀灰色」という。),かつ,縁の部分を除いて網目状になっていることを特徴とする d テレビ (6) 各被告製品の構成aは,それぞれ構成要件Aを充足する(弁論の全趣旨)。
2 争点 (1) 各被告製品の構成bのうちどの部分が構成要件Bの「スクリーンに接する外周枠ぶち体」に該当するか(争点1) (2) 各被告製品が構成要件Cを充足するか(争点2) (3) 各被告製品が構成要件Dを充足するか(争点3) (4) 本件特許権が無効事由を有することが明らかであるか(争点4) (5) 損害について(争点5)
争点に関する当事者の主張
1 争点1(各被告製品の構成bのうちどの部分が構成要件Bの「スクリーンに接する外周枠ぶち体」に該当するか) (原告) 各被告製品においては,構成bのうち「テレビ筺体」及び「スピーカー・グリル部」が構成要件Bの「スクリーンに接する外周枠ぶち体」に該当する。
この点に関し,被告は,各被告製品の構成bのうち「ブラックコーティング部」ないし「リブ部」が,「スクリーンに接する外周枠ぶち体」に該当する旨を主張するが,「ブラックコーティング部」は「蛍光面」と共に構成要件Bの「スクリーン」に該当する。映写機(プロジェクター)のパンフレットである甲13ないし16においては,映像を映すための白い面だけでなく,黒く縁どった部分をも含めて「スクリーン」と称しており,テレビにおける「蛍光面」と「ブラックコーティング部」もこれと同様に考えられる。また,蛍光面とテレビ筺体ないしスピーカー・グリル部との間に介在するブラックコーティング部ないしテレビ筺体(リブ部)は,極めて細く,一般の観視者が通常の観視距離(蛍光面の縦の長さ×7で計算して,イ号物件からホ号物件の順に2668mm,2601mm,2601mm,2839mm,2265mm)から見ているときは,これによって色による遠近感を感じることはないから,無視し得る程度のものであって,立体視の効果を阻害するものではない。特に,テレビ画面を見ているときは,観視者は,テレビ画面の光量に合わせて瞳孔の絞りを調節するから,上記程度の幅のものは見えなくなってしまうものである。
このことは,イ号物件のパンフレット(第1事件甲5)に「立体感のある美しい映像」と記載されていることからも明らかである。なお,被告は,各被告製品を「立体感のある美しい映像」と宣伝しているのは,「『1024階調』4メガ10ビット3次元Y/C分離回路」という性能を備えているからであって,外周枠ぶち体の色が異なるからではない旨主張するが,上記性能は,画像の質を上げるためのものであって,画像が立体的に見えることとは無関係である。
(被告) (1) 各被告製品においては,構成要件Bの「スクリーンに接する外周枠ぶち体」に該当するのは,ブラックコーティング部である。
本件特許発明は,「外周枠ぶち体」が映像と接することによって画像が同一平面にあるように見えてしまうという課題を解決するための発明であるから,「外周枠ぶち体」は画面上の映像と接している必要がある。このことは,本件明細書の「発明の詳細な説明」欄の「画面の山のA点に於いて,山Aとふち2との間に視差が無いから山のA点とふち2とは同一距離にある,と吾々の眼は見る。」(本件公報3欄3ないし5行)との記載及び本件公報の第1図から明らかである。
この点に関し,原告は,各被告製品の構成bのうち「テレビ筺体」及び「スピーカー・グリル部」が構成要件Bの「スクリーンに接する外周枠ぶち体」に該当するのであって,ブラックコーティング部ないしリブ部は無視し得る程度のものものにすぎず,イ号物件は,ブラックコーティング部ないしリブ部が存在したとしても各被告製品の画像が立体的に見えているのであるから,各被告製品は本件特許発明実施品である旨を主張する。
しかしながら,そもそも,本件特許発明に係る明細書には,外周枠ぶち体の幅について特に限定がない上,各被告製品のブラックコーティング部の幅は,イ号物件からホ号物件の順に,7.3ないし7.7mm,8.2mm,8.2mm,8.5mm,8.0mmであり,最適視距離(蛍光面の縦の長さ×5で計算して,イ号物件から順に,1863.0mm,1858.0mm,1858.0mm,2028.0mm,1618.0mm)から蛍光面を見る際に明瞭に意識されるものであって,無視し得る程度のものとはいえない。そもそも,デスクトップのコンピューター用の液晶モニターでは,外枠部正面の幅が20mmに足りないものがあり,ラップ・トップのコンピュータにおいては,外枠部正面の幅が数mmのものがありふれているのであるから,上記程度の幅で無視し得る程度ということはできない。
また,イ号物件の画像が立体的に見えるのは,「『1024階調』4メガ10ビット3次元Y/C分離回路」によるものであって,外周枠ぶち体の色とは関係がない。すなわち,4メガ10ビット3次元Y/C分離回路とは,テレビ映像信号の輝度信号と色信号を分離し,ちらつきやにじみを最小限にする方式であり,1024階調とは,解像度を上げることにより,よりきめの細かい深みのある映像であることを表現するものである。イ号物件と同じ構造を有し,スピーカー・グリル部分がテレビ筺体部分と同一色である製品についても,上記と全く同様の立体的な画像が映し出されることからも,イ号物件の画像が,本件特許発明の効果によるものでないことは明らかである。
(2) 仮に,ブラックコーティング部が「スクリーン側辺の外周枠ぶち体」に該当しないとしても,各被告製品については,ブラックコーティング部の外側に,テレビ筺体(イ号物件及びホ号物件に関してはテレビ筺体のうちリブ部)がスクリーンの上下左右辺に施されているから,テレビ筺体が「スクリーン側辺の外周枠ぶち体」に該当するというべきである。
ブラックコーティング部とスピーカー・グリル部の間のテレビ筺体は,幅が13mm(ロ号物件,ハ号物件),13.6mm(ニ号物件),6.0ないし10.4mm(ホ号物件)であり,無視し得る程度の幅ではない。
2 争点2(各被告製品が構成要件Cを充足するか) (原告) (1) 本件特許発明に係る明細書記載の「色が明らかに異なる」とは,人間なら誰でも容易に見分けられる程度に色が異なることを意味するところ,各被告製品は,次のとおり,スクリーン上下辺の外周枠ぶち体であるテレビ筺体の色とスクリーン側辺の外周枠ぶち体であるスピーカー・グリル部の色が明らかに違う。
ア イ号物件については,上下辺にあたるテレビ筺体は白に近い色で,左右側辺に当たるスピーカー・グリル部は濃青色であり,明色と暗色が組み合せられている。
イ ロ号物件については,上下辺にあたるテレビ筺体が白に近い色で,左右側辺に当たるスピーカー・グリル部が濃青色であり,明色と暗色が組み合せられている。
ウ ハ号物件については,上下辺に当たるテレビ筺体が白に近い色で,左右側辺にあたるスピーカー・グリル部が濃青色であり,明色と暗色が組み合せられている。
エ ニ号物件については,上下辺に当たるテレビ筺体が白に近い色で,左右側辺にあたるスピーカー・グリル部が濃青色であり,明色と暗色が組み合せられている。
オ ホ号物件については,上下辺に当たるテレビ筺体の色と,左右側辺にあたるスピーカー・グリル部の色とは,明暗差が明らかである。
したがって,各被告製品は,構成要件Cを充足する。
(2) 被告は,ブラックコーティング部ないしテレビ筺体が「スクリーン側辺の外周枠ぶち体」である旨主張するが,前記のとおり,ブラックコーティング部はスクリーン側辺の外周枠ぶち体に該当しない。
(被告) (1) 「スクリーン側辺の外周枠ぶち体」がブラックコーティング部である場合 「枠辺の前面のスクリーンの上辺の部分の大部分とスクリーンの下辺の部分の大部分の色」が暗黒色で,「該前面のスクリーンの側辺の部分の大部分の色」も暗黒色であるから,両者の色は同一であって「明らかに違う」ということはできない。
したがって,各被告製品は,構成要件Cを充足しない。
(2) 「スクリーン側辺の外周枠ぶち体」がテレビ筺体である場合 ア イ号物件及びホ号物件 「枠辺の前面のスクリーンの上辺の部分の大部分とスクリーンの下辺の部分の大部分の色」が暗黒色で,「該前面のスクリーンの側辺の部分の大部分の色」も暗黒色であるから,両者の色は同一であって「明らかに違う」ということはできない。
イ ロ号物件 「枠辺の前面のスクリーンの上辺の部分の大部分とスクリーンの下辺の部分の大部分の色」が光沢のない淡い金灰色で,「該前面のスクリーンの側辺の部分の大部分の色」も光沢のない淡い金灰色であるから,両者の色は同一であって「明らかに違う」ということはできない。
ウ ハ号物件及びニ号物件 「枠辺の前面のスクリーンの上辺の部分の大部分とスクリーンの下辺の部分の大部分の色」が光沢のない銀灰色で,「該前面のスクリーンの側辺の部分の大部分の色」も光沢のない銀灰色であるから,両者の色は同一であって「明らかに違う」ということはできない。
(3) スクリーン側辺の外周枠ぶち体がスピーカー・グリルである場合 仮に,「スクリーン」にブラックコーティング部が含まれ,テレビ筺体及びスピーカー・グリル部分が「外周枠ぶち体」であったとしても,次のとおり,各被告製品においてテレビ筺体の色とスピーカー・グリル部の色が「明らかに違う」ということはできない。
ア イ号物件については,テレビ筺体は光沢のない淡い銀灰色で,スピーカー・グリル部は光沢のない淡青色であり,いずれも寒色で,明暗の差が顕著であるとはいえない。 イ ロ号物件については,テレビ筺体が光沢のない淡い金灰色で,スピーカー・グリル部が光沢のない淡青色であり,いずれも寒色であって,明暗の差が顕著であるとはいえない。 ウ ハ号物件については,テレビ筺体は光沢のない淡い銀灰色で,スピーカー・グリル部が光沢のない淡青色であり,いずれも寒色であって,明暗の差が顕著であるとはいえない。
エ ニ号物件については,テレビ筺体は光沢のない淡い銀灰色で,スピーカー・グリル部が光沢のない淡青色であり,いずれも寒色であって,明暗の差が顕著であるとはいえない。
オ ホ号物件については,テレビ筺体は光沢のない淡い銀灰色で,スピーカー・グリル部が光沢のない淡い銀灰色であり,いずれも同一色である。
3 争点3(各被告製品が構成要件Dを充足するか) (原告) 各被告製品構成dの「テレビ」は構成要件Dの「実体視動画表示装置」に当たる。
被告は,中心窩から視角が10度以上開く範囲にある枠は,視覚的効果がないとして,イ号物件を最適視距離から見ると,テレビの枠の縦の大きさが視角20度,横の大きさが視角11度に位置し,テレビ枠による効果は失われるから,各被告製品は,「実体視動画表示装置」ではない旨を主張する。被告の主張は,各被告製品の最適視距離を少なく見積もり(蛍光面の縦の長さ×5),かつ,観視者が絶えずスクリーンの中心部のみを見ていることを前提としているが,各被告製品の最適視距離は蛍光面の縦の長さ×7で計算すべきであるし,また,観視者は,スクリーンの中心部のみを見ているわけではないから,前提を誤っている。
また,被告は,本件特許発明の作用効果をねらって各被告製品を作成したものではない旨を主張するが,客観的にみて各被告製品が本件特許発明構成要件を充足しているか否かが問題なのであって,被告の意図は関係がない。
(被告) 各被告製品は,本件特許発明に係る明細書に記載されるような「実体視」または「立体視」というような作用効果を有していないから,「実体視動画表示装置」ではない。
すなわち,視覚特性に関する網膜の機能は,網膜の中心窩があらゆる点において優れているが,中心窩から視角が開くにつれて機能が低下し,テレビの枠の縦又は横の大きさが視角10度を超える範囲にある場合には枠の効果がないとされているところ,各被告製品を最適視距離から見た場合,テレビの枠の縦の大きさが視角11度,横の大きさが視角20度に位置するから,テレビ枠による効果は失われる。
また,各被告製品の企画にあたって,本件明細書に記載されているような作用効果を一切考慮していない(@本件特許発の効果を奏しないスピーカー・グリル部の色がテレビ筺体の色と同一の光沢のない銀灰色である商品を主力とし,スピーカー・グリル部が青色の商品と全く同一に扱っている,Aテレビ筺体のスクリーン側を,わざわざ同一の暗色で着色してリブ部の枠を設けており,本件特許発明の課題解決手段と矛盾するような着色をしている)ことからも,各被告製品が「実体視」の作用効果を有する実体視動画表示装置たり得ないことが裏付けられる。
4 争点4(本件特許権が無効事由を有することが明らかであるか) (被告) (1) 特許法29条1項柱書違反の無効事由について 特許発明は,当業者が,明細書の記載に基づいて反覆実施して目的とする技術効果を挙げることができる程度に具体的・客観的なものでなければならない。
このようなレベルに至らない発明は,特許法上の発明としては未完成であり,特許法29条1項柱書にいう「発明」に当たらないことを理由に出願を拒絶することが要請される。
これを本件特許発明について検討すると,本件特許発明は,次のア又はイ記載のいずれかの認識に基づいているものと考えられるところ,次のとおり,アの認識は科学的根拠を欠き,イの認識の下では,そもそも,本件特許発明の課題が生じないことになる。また,本件明細書には,次のウのように,科学的に誤った記載がなされている。
以上から,本件特許発明は,当業者が明細書の記載に基づいて反覆実施しても,画像が立体的に見えるという技術効果を挙げることができないから,発明として未完成といわざるを得ない。
したがって,本件特許は,特許法29条1項柱書に違反して登録されたものであり,本件特許権は,同法123条1項2号の無効事由を有することが明らかである。
ア 本件特許発明は,枠ぶちと画面が同じ両眼視差を有しているために同一平面上に見えることから,枠の色を変えることによって枠を破壊すれば,画像を立体的に見ることができるとの認識の下になされたものということができる。
しかしながら,色を変えても,両眼視差は変化しない(網膜に移る像がずれることはない)のであるから,枠の色を変えることによって枠を破壊することはできない。枠の色を変えれば枠を破壊できるという認識は,科学的根拠を欠くというべきである。
イ 本件特許発明は,色を変えることによって,両眼視差は変化しないものの,奥行感が変化して枠を破壊することができるとの認識の下になされているとも考えられる。
しかしながら,色が変化することによって奥行感が変化するというのであれば,もともと枠と画面は色が違うのであるから,枠と画面とが同一平面にあるとの一体感は生じないのであって,本件特許発明の課題がそもそも生じないことになる。
ウ 本件明細書には,「物体が動いている場合は,刻々変わる視差を識別する能力は人間にはない。」(2欄5ないし6行)との記載があるが,人間は,動く物体についても運動視差により立体的な動きを感じることができる公知の視覚関連の研究成果と明らかに認識を異にしており,誤った記載である。
(2) 特許法29条1項1号ないし3号違反の無効事由について 本件特許発明は,本件特許出願前の昭和63年4月までに,三菱電機株式会社によって製造販売されたテレビ「15C-M1(RE)」(正面図は,別紙図6。以下「REテレビ」という。)により,公然知られ,公然実施されていた。REテレビは,日本において頒布された刊行物である「三菱カラーテレビ総合カタログ」(昭和63年4月発行。乙8)にその正面写真と共に掲載されていたから,本件特許発明は,特許法29条1項1号ないし3号に違反して登録されたものであり,同法123条1項2号の無効事由を有することが明らかである。
すなわち,REテレビは,通常の観視距離からスクリーンの画面を観視するテレビであって,正面視においてテレビ筺体の一部を構成する正面枠の上部及び下部が赤色であり,同右部及び左部(以下「側辺の黒色部分」という。)の大半が黒色となっているから,スクリーンに接する外周枠ぶち体の前面のスクリーンの上辺の部分の大部分とスクリーンの下辺の部分の大部分の色が該前面のスクリーンの側辺の部分の大部分の色と明らかに違うテレビであって本件特許発明のすべての構成要件を備えたものである。
(3) 以上のとおり,本件特許は無効事由を有することが明らかであるから,原告が,被告に対し,本件特許権に基づいて損害賠償請求をすることは,権利の濫用に当たり許されない。
(原告) (1) 特許法29条1項柱書違反の無効事由について 被告は,本件特許発明は,当業者が明細書の記載に基づいて反覆実施しても,画像が立体的に見えるという技術効果を挙げることができないから,発明として未完成であると主張する。
たしかに,本件特許発明は,人の感覚に関する発明であるため,その効果は人によって個人差が生じるが,原告が,アンケート調査をした結果によると,約80%が「よく立体的に見えた」又は「やや立体的に見えた」と回答している。人の感覚に関する発明である以上,この程度の不確実性はやむを得ないことであり,これを理由に未完成発明とすることは科学の進歩を妨げることになる。
また,被告が,本件特許発明が未完成発明である根拠として主張する点については,次のアないしウのとおり,前提を誤っている。
ア 被告は,枠ぶちの色を変えても両眼視差は変わらないから,本件特許発明は技術的根拠を欠く旨を主張する。
しかし,そもそも,本件特許発明は,枠ぶちと画面の両眼視差を生じさせることを目的としたものではないから,被告の上記主張は前提を誤っている。
すなわち,観視者は,画面を中心窩で見ており(正視),枠ぶちを中心窩では見ることなく網膜に写している(傍視)ところ,傍視の場合には両眼視差による遠近感は生じないから,画面と枠ぶちの両眼視差は問題とならない。本件特許発明は,傍視の場合にも色の違いによる遠近感は生じる(ただし,色の面積が視覚作用を起こすに十分な場合に限る。)ことに着目してなされたものである。
イ 被告は,色が変化することによって奥行感が変化するというのであれば,もともと色が異なる枠とが面とが同一平面にあるとの一体感が生じないのであるから,本件特許発明の課題がそもそも生じない旨を主張する。
しかしながら,枠ぶちとスクリーンの関係は,常に枠ぶちが,スクリーンを遮蔽する形になっていることから,色の関係に拘わらず,枠ぶちが手前に,画像が奥に感じられるようになっているのである。
ウ 被告は,「物体が動いている場合は,刻々変わる視差を識別する能力は人間にはない。」との認識が誤りである旨を主張するが,これは原告の実験に基づく認識であって間違っているはずはない。
(2) 特許法29条1項1号ないし3号違反の無効事由について REテレビは,スクリーンと外周枠ぶち体が同一平面上になく,外周枠ぶち体の方が,蛍光面より少し前に出ているところ,側辺の黒色部分は,スクリーンと外周枠ぶち体の段差を結ぶ平面である。被告は,この黒色部分がスクリーンの側辺に位置する外周枠ぶち体の前面部分であることを前提に,この部分の色(黒色)と,スクリーンの上下辺の外周枠ぶち体の前面の色(赤色)とが明らかに異なっているとして,REテレビが本件特許発明と同様の構成を備えている旨を主張する。
しかしながら,黒色部分は,スクリーンの側辺に位置する外周枠ぶち体の側壁であって前面ではない。REテレビにおいて,スクリーンの側辺に位置する外周枠ぶち体の前面とは,黒色部分のさらに左右辺に設けられている赤色部分(以下「側辺の赤色部分」という。)である。そうすると,スクリーンの上下辺の外周枠ぶち体の前面の色(赤色)とスクリーンの側辺の外周枠ぶち体の前面の色(赤色)とは同一であるから,REテレビが本件特許発明と同一の構成を備えているとはいえない。
実際にもREテレビにおいては,側辺の黒色部分の四隅に形成されている額縁状の線(別紙6参照)が,黒色部分の上下左右辺が同一平面上にあることを強調しており(なお,黒色部分の傾斜が緩やかな場合,テレビを真正面から見ると,上記額縁上の線が見えにくいこともあり得るが,テレビを真正面から見ることは極めて稀であり,ほとんどの場合は,斜め上方又は斜め下方から見るのであるから,いずれにしても,上記額縁上の線がはっきり見えてしまい,本件特許発明の作用効果が阻害されることになる。),また,スクリーンの上下辺が湾曲しているため,横縞効果(横の線は,はっきり見えて,両眼視差による遠近感が生じにくいという効果)及び縦縞効果(両眼視差による遠近感は生じるが,線がはっきり見えにくいという効果)が生じにくく(すなわち,REテレビにおいては,外周枠ぶち体上下辺のラインが湾曲しているため,横縞効果による遠近感が出にくく,色による遠近感のみが際だつという横縞効果が生じにくく,外周枠ぶち体側辺ラインによる立体感の阻害が弱くなるという縦縞効果が生じにくい。),本件特許発明の作用効果が得られにくい。このように,REテレビのように旧型でスクリーンの湾曲の大きなテレビは,外周枠ぶち体の側壁の幅が広くならざるを得ないため,本件特許発明に係る実体視動画装置たり得ないのである。
仮に,被告主張のとおり,側辺の黒色部分が外周枠ぶち体の前面であったとしても,暖色と寒色または明色と暗色の組み合わせでなければ色の違いによる遠近差感は生じないのであって,REテレビのような暗い赤色と黒色の組み合わせでは,枠の色の違いによる遠近差感は生じない。
したがって,いずれにしても,REテレビが本件特許発明と同一の構成を備えているとはいえない。
5 争点5 (損害について) (原告) (1) イ号物件について イ号物件1台の小売価格は26万円である。
イ号物件は,少なくとも,平成11年7月から平成12年9月までの間販売されていたところ,同期間のテレビ国内出荷統計と,イ号物件と同様の型(32インチ,フラット型)のテレビの出荷割合から算出すると,同期間に国内で販売されたイ号物件と同型のテレビは42万7064台であった。少なくとも,うち1割に相当する4万2706台がイ号物件であったと考えられる。
そして,原告が,本件特許発明実施に対し受けるべき実施料は,売上の3%が相当である。
よって,原告が支払を受けるべき実施料相当額は,3億3311万円(26万円×4万2706台×0.03)である。
(2) ロ号物件及びハ号物件について ロ号物件1台の小売価格は26万円,ハ号物件1台の小売価格は24万円である。
ロ号物件及びハ号物件は,少なくとも,平成10年7月から平成12年6月までの間販売されていたところ,同期間のテレビ国内出荷統計と,ロ号物件及びハ号物件と同様の型のテレビの出荷割合から算出すると,同期間に国内で販売されたロ号物件及びハ号物件と同型のテレビは合計約68万8063台であった。少なくとも,うち12分の1はロ号物件,うち12分の1はハ号物件であったと考えられるから,同期間に販売されたロ号物件及びハ号物件の台数は,少なくとも約各5万7338台,合計約11万4677台であった。
そして,原告が,本件特許発明実施に対し受けるべき実施料は,売上の3%が相当である。
よって,ロ号物件及びハ号物件の実施について原告が支払を受けるべき実施料相当額は,8億6007万円{(26万円×5万7338+24万円×5万7338)×0.03}である。
(3) ニ号物件 ニ号物件1台の小売価格は14万円である。
ニ号物件は,少なくとも,平成10年9月から平成12年4月までの間販売されていたところ,同期間のテレビ国内出荷統計から,ニ号物件と同様の型のテレビの出荷割合を掛けると,同期間に国内で販売されたニ号物件と同型のテレビは210万9166台であった。少なくともうち8分の1は,ニ号物件であったと考えられるから,同期間に販売されたニ号物件の台数は,少なくとも26万3645台であった。
そして,原告が,本件特許発明実施に対し受けるべき実施料は,売上の3%が相当である。
よって,原告が支払を受けるべき実施料相当額は,11億0730万9000円(14万円×26万3645台×0.03)である。
(4) ホ号物件 ホ号物件1台の小売価格は10万円である。
ホ号物件は,少なくとも,平成14年2月から平成15年2月までの間販売されていたところ,同期間のテレビ国内出荷統計から,ホ号物件と同様の型のテレビの出荷割合を掛けると,同期間に国内で販売されたホ号物件と同型のテレビは46万6516台であった。少なくともうち12分の1は,ホ号物件であったと考えられるから,同期間に販売されたホ号物件の台数は,少なくとも3万8876台であった。
そして,原告が,本件特許発明実施に対し受けるべき実施料は,売上の3%が相当である。
よって,原告が支払を受けるべき実施料相当額は,1億1662万8000円(10万円×3万8876台×0.03)である。
(5) 上記によれば,被告のイ物件の製造販売による本件特許権の侵害に基づく損害額は,実施料相当額合計3億3311万円であり,ロ号物件ないしホ号物件の製造販売による本件特許権の侵害に基づく損害額は,実施料相当額合計20億8400万7000円(8億6007万円+11億0730万9000円+1億1662万8000円)である(特許法102条3項)。
よって,原告は,第1事件において上記のイ号物件の製造販売による損害3億3311万円の内金として1億5602万5000円,第2事件において上記のロ号物件ないしホ号物件の製造販売による損害20億8400万円の内金として1億円の各支払を求める。
(被告) 原告の主張する損害額は,争う。
当裁判所の判断
1 争点1(各被告製品の構成bのうちどの部分が構成要件Bの「スクリーンに接する外周枠ぶち体」に該当するか)について 本件明細書の「発明の詳細な説明」欄には,次の(1)ないし(3)の記載がある(乙1の1,2)。
(1)「枠ぶちを色分けすると云ったが当然その場合は観視者から見える所,即ち枠ぶちの前面へ色分けを施す必要があるのであって‥‥‥」(本件公報4欄9行ないし11行) (2)「出っぱりを形成する処の枠体の側壁部分2-6があるが,この部分の観視者の網膜上の視覚映像に占める(感ずる)面積は極めて小さいから問題ではなく,枠の平面的一体感を破かいするための色分けを施す必要があるのは当然の事乍ら枠体の前面‥‥‥に於いてである。」(同4欄18行ないし23行) (3)「例ではスクリーンの上辺枠前面の色又は下辺枠前面の色を単一色である如くに示したが之はその一部に他の色があっても大部分の色がその一色であればそれでよい。何故なら我々がスクリーンの画面を専ら見ているためにただぼんやりとしか眼に映じていない処の枠前面の視覚に於ては,大部分の色がその一色であれば,おおよそ其所の色は他部の色と区別して視覚されるからである。」(同4欄47行ないし5欄4行) 本件明細書の上記の各記載を前提とすれば,本件特許発明における「スクリーンに接する外周枠ぶち体の前面」(構成要件B,C)とは,色や素材の違いにかかわらず,枠ぶち体のうち観視者から見える全面をいうものと解すべきである。
そうすると,各被告製品の構成bの「ブラックコーティング部」,「テレビ筺体」及び「スピーカー・グリル部」の全てが構成要件Bの「スクリーンに接する外周枠ぶち体」に該当するというべきである。
2 争点2(各被告製品が構成要件Cを充足するか)について (1) 証拠(第1事件甲5,乙7,第2事件甲5の1ないし5)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
ア イ号物件 (ア) スクリーンの上下辺に接する枠辺の前面の色 暗黒色,黒色及び銀灰色の3色で,その面積の比率は,次のとおりである。
a 暗黒色のブラックコーティング部 約11.4% 10425.8mm2(7.7×677+7.7×677) b 黒色のリブ部 約8.6% 7886.7mm2(6.5×685.8+5.0×685.8) c 銀灰色のテレビ筺体 約79.8% 72763.38mm2(44.9×685.8+61.2×685.8) (イ) スクリーンの側方の枠ぶちの前面の色 暗黒色,黒色及び青色の3色で,その面積の比率は,次のとおりである。
a 暗黒色のブラックコーティング部 約6.7% 5664.8mm2(7.3×388+7.3×388) b 黒色のリブ部 約4.2% 3515.6mm2(4.4×399.5+4.4×399.5) c 青色のスピーカー・グリル部 約89.0% 74323.2mm2(73.5×505.6+73.5×505.6) イ ロ号物件 (ア) スクリーンの上下辺に接する枠辺の前面の色 暗黒色及び金灰色の2色で,その面積の比率は,次のとおりである。
a 暗黒色のブラックコーティング部 約10.0% 11102.8mm2(8.2×677+8.2×677) b 金灰色のテレビ筺体 約89.9% 98842mm2{(703+840)×78÷2)+(55×703)} (イ) スクリーンの側方の枠ぶちの前面の色 暗黒色,金灰色及び青色の3色で,その面積の比率は,次のとおりである。
a 暗黒色のブラックコーティング部 約7.7% 6363.2mm2(8.2×388+8.2×388) b 金灰色のテレビ筺体 約12.2% 10088mm2(13×388+13×388) c 青色のスピーカー・グリル部 約80.0% 66150.4mm2(64×516.8+64×516.8) ウ ハ号物件 (ア) スクリーンの上下辺に接する枠辺の前面の色 暗黒色及び銀灰色の2色で,その面積の比率は,次のとおりである。
a 暗黒色のブラックコーティング部 約10.0% 11102.8mm2(8.2×677+8.2×677) b 銀灰色のテレビ筺体 約84.4% 98842mm2{(703+840)×78÷2)+(55×703)} (イ) スクリーンの側方の枠ぶちの前面の色 暗黒色,銀灰色及び青色の3色で,その面積の比率は,次のとおりである。
a 暗黒色のブラックコーティング部 約7.7% 6363.2mm2(8.2×388+8.2×388) b 銀灰色のテレビ筺体 約12.2% 10088mm2(13×388+13×388) c 青色のスピーカー・グリル部 約80.0% 66150.4mm2(64×516.8+64×516.8) エ ニ号物件 (ア) スクリーンの上下辺に接する枠辺の前面の色 暗黒色,黒色及び銀灰色の3色で,その面積の比率は,次のとおりである。
a 暗黒色のブラックコーティング部 約13.5% 9482.6mm2(8.5×557.8+8.5×557.8) b 黒色のリブ部 約3.3% 2342.76mm2(4.2×557.8) c 銀灰色のテレビ筺体 約83.0% 58088.25mm2{(585+722)×49.5÷2)+(44×585)} (イ) スクリーンの側方の枠ぶちの前面の色 暗黒色,銀灰色及び青色の3色で,その面積の比率は,次のとおりである。
a 暗黒色のブラックコーティング部 約8.4% 7184.2mm2(8.5×422.6+8.5×422.6) b 銀灰色のテレビ筺体 約13.7% 11608.96mm2(13.6×426.8+13.6×426.8) c 青色のスピーカー・グリル部 約77.8% 65920mm2(64×515+64×515) オ ホ号物件 (ア) スクリーンの上下辺に接する枠辺の前面の色 暗黒色,黒色及び銀灰色の3色で,その面積の比率は,次のとおりである。
a 暗黒色のブラックコーティング部 約11.9% 9459.2mm2(8.0×591.2+8.0×591.2) b 黒色のリブ部 約10.8% 8568mm2(8×612+6×612) c 銀灰色のテレビ筺体 約77.1% 61016.4mm2(42×612+57.7×612) (イ) スクリーンの側方の枠ぶちの前面の色 暗黒色,黒色及び前記銀灰色より多少濃い銀灰色の3色で,その面積の比率は,次のとおりである。
a 暗黒色のブラックコーティング部 約7.4% 5433.6mm2(8.0×339.6+8.0×339.6) b 黒色のリブ部 約10.1% 7354.88mm2(10.4×353.6+10.4×353.6) c 濃い銀灰色のスピーカー・グリル部 約82.4% 60003.68mm2(66.2×453.2+66.2×453.2) (2) 上記によれば,各被告製品の「スクリーンの上下辺に接する枠辺の前面の大部分の色」は,テレビ筺体の色すなわち銀灰色(イ号物件,ハ号物件,ニ号物件及びホ号物件)ないし金灰色(ロ号物件)であり,「スクリーンの側辺に接する枠辺の前面の大部分の色」は,スピーカー・グリル部の色すなわち青色(イないしニ号物件)ないし濃い銀灰色(ホ号物件)というべきである。
(3) そして,イ号物件,ハ号物件及びニ号物件においては銀灰色と青色,ロ号物件においては金灰色と青色,ホ号物件においては銀灰色と濃い銀灰色を対比すると,いずれも,色が「明らかに違う」というべきである(なお,ロ号物件,ハ号物件,ニ号物件については,スピーカー・グリルブの色が,グレー,グリーン,ワインレッドに変更可能であるが(第2事件甲5の1,2,5),いずれにしても色が「明らかに違う」ことに変わりはない。)。
したがって,各被告製品の構成b及びcは,構成要件B及びCを充足する。
3 争点3(各被告製品が構成要件Dを充足するか)について 実体視動画表示装置の意味に関して,本件明細書の「発明の詳細な説明」欄には「本明細書に於ては画面中の映像が動く‥‥‥処の画面の表示装置,例えばテレビ受像機,投影式テレビや映画やアイドホール等の映写スクリーン等を動画表示装置と定義する。」(本件公報4欄5ないし8行)との記載がある。
上記を前提とすると,各被告製品が本件明細書に記載されている作用効果を奏するものかどうかは必ずしも明らかでないにしても,テレビは,構成要件Dの実体視動画表示装置に該当するといわざるを得ない。
したがって,各被告製品の構成dは構成要件Dを充足する。
以上によれば,各被告製品は,本件特許発明構成要件BないしDを充足しており,各被告製品が構成要件Aを充足することは前記のとおり弁論の全趣旨により認められるから,結局,各被告製品は本件特許発明構成要件をすべて充足する。
4 争点4(本件特許権が無効事由を有することが明らかであるか)について (1) 特許法29条1項1号ないし3号違反の無効事由について ア 証拠(乙8)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(ア) 三菱電機株式会社は,昭和63年4月ころ,REテレビを販売しており,同月ころ発行された「三菱カラーテレビ総合カタログ」に,同テレビをその正面写真と共に掲載した。
(イ) REテレビの構成は,スクリーンを囲むように黒色の枠が施され,同枠の上下辺に赤茶色のテレビ筺体が,左右側辺に黒色の平面体が施され,黒色の平面体のさらに左右側辺に赤茶色のテレビ筺体が施されているというものである。
テレビを正面から見た場合,上下辺においては,黒色部分の幅は狭く,大部分が赤茶色のテレビ筺体部分である。左右側辺においては,上記黒色の平面体の幅とその左右側辺に施された赤茶色のテレビ筺体の幅との比は,約8対1の割合であり,大部分が黒色の平面体である。
イ 上記のREテレビの構成によれば,「スクリーンの側辺に接する枠辺の前面」に当たる部分は,黒色の平面体とその左右側辺に施された赤茶色のテレビ筺体であるというべきである。
この点,原告は,REテレビにおける「スクリーンの側辺に接する枠辺の前面」は,黒色の平面体のさらに左右側辺に施された赤茶色の筺体部分のみであって,黒色の平面体は外周枠ぶち体に当たらない旨主張する。
しかし,前記のとおり,構成要件Bにいう「スクリーンに接する外周枠ぶち体の前面」とは色や素材の違いにかかわらず,枠ぶち体のうち観視者から見える全面をいうものと解されるところ,黒色部分も赤色部分も枠ぶち体のうち観視者から見える面であるから,「スクリーンに接する外周枠ぶち体の前面」に該当するというべきである。
ウ 上記によれば,REテレビは,「スクリーンの上下辺に接する枠辺の前面の大部分の色」が赤茶色で,「スクリーンの側辺に接する枠辺の前面の大部分の色」が黒色であり,両者は明らかに異なるということができる。そうすると,REテレビは,「通常の観視距離からスクリーンの画面を観視するときの視覚に於て,スクリーンに接する外周枠ぶち体の前面のスクリーンの上辺の部分の大部分とスクリーンの下辺の部分の大部分の色が該前面のスクリーンの側辺の部分の大部分の色と明らかに違うことを特徴とする実体視動画表示装置」に該当するから,本件特許発明と同一の構成を有するというべきである。 したがって,本件特許発明は,特許出願前に日本国内において公然知られ,公然と実施され,かつ,特許出願前に日本国内において頒布された刊行物に記載された発明である。
(2) 以上によれば,本件特許権は,特許法29条1項1号ないし3号に違反して特許されたものであって無効事由を有することが明らかであるから,原告が,被告に対し,本件特許権に基づいて損害賠償請求をすることは,権利の濫用に当たるものとして許されない。
5 結論 以上によれば,その余の点につき判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がない。よって,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 三村量一
裁判官 青木孝之
裁判官 吉川泉