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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成17ネ10040特許権侵害差止請求控訴事件 判例 特許
平成17ネ10080特許権侵害排除等請求控訴事件 判例 特許
平成17ネ10005損害賠償等請求控訴事件 判例 特許
平成18ネ10034特許権侵害差止等請求控訴事件 判例 特許
平成18ネ10030特許権侵害差止等請求控訴事件 判例 特許
関連ワード 新規性 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  周知技術 /  公知技術 /  特許の有効性 /  発明の詳細な説明 /  権利の濫用(権利濫用) /  容易に想到(容易想到性) /  特許発明 /  実施 /  構成要件 /  構成要件充足性 /  差止請求(差止) /  侵害 /  設定登録 /  請求の範囲 /  訂正明細書 / 
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事件 平成 17年 (ネ) 10024号 特許権侵害差止等請求控訴事件

控訴人 株式会社天木 代表者代表取締役
訴訟代理人弁護士 小南明也
補佐人弁理士 竹中一宣
同 大矢広文愛知県高浜市二池町4丁目5番地28
被控訴人 株式会社岩福セラミックス 代表者代表取締役
訴訟代理人弁護士 高橋美博
補佐人弁理士 西山聞一
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2005/11/29
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は,原判決別紙物件目録1記載の瓦を製造し,販売し,若しくは販売の申出をしてはならない。
3 被控訴人は,原判決別紙物件目録2記載の瓦を製造し,販売し,若しくは販売の申出をしてはならない。
4 被控訴人は,原判決別紙物件目録3記載の瓦を製造し,販売し,若しくは販売の申出をしてはならない。
5 被控訴人は,その占有に係る原判決別紙物件目録1ないし3記載の各瓦を廃棄せよ。
6 被控訴人は,その占有に係る原判決別紙物件目録4ないし6記載の各金型を廃棄せよ。
7 被控訴人は,控訴人に対し,5000万円及びこれに対する平成15年8月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
8 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
9 仮執行宣言
事案の概要
本件は,名称を「安定駒利用の耐震,耐風瓦工法」とする発明の特許権(特許第2905776号)を有するに至った控訴人が,被控訴人による原判決別紙物件目録1ないし3記載の各瓦(以下,イ号物件ないしハ号物件を併せて「被告各製品」と総称する。)の製造販売が上記特許権を侵害すると主張して,被控訴人に対し,被告各製品の製造販売等の差止めと金型の廃棄を求めるとともに,損害賠償として5000万円と遅延損害金の支払を求めた事案である。
原判決は,被告各製品を屋根上に設置する工法は,控訴人の上記特許権の構成要件を充足せず,また,上記特許権には進歩性の欠如による無効理由があるので,その権利行使は権利の濫用に該当するとして,控訴人の請求をいずれも棄却したので,控訴人は,これを不服として本件控訴を提起したものである。
なお,上記特許権に対し被控訴人から特許庁に対し特許無効審判請求がなされ,同庁は平成16年10月22日これを無効とする審決をしたことから,控訴人が原告となり被控訴人を被告として同審決の取消しを求める訴訟が当庁に提起され(平成17年(行ケ)第10115事件),本件訴訟と並行的に審理が進められている。
当事者の主張
1 当事者の主張は,次のとおり訂正付加するほか,原判決第2の1ないし3に記載のとおりであるから,これを引用する。
なお,以下においては,原判決の略語表示は,当審においてもそのまま用いる。
2 訂正 (1) 原判決2頁17行目から3頁9行目までを次のとおり改める。
「(2) 控訴人の特許権 ア 控訴人は,平成10年6月3日,名称を「安定駒利用の耐震,耐風瓦工法」とする発明について特許を出願し,平成11年3月26日,特許庁から特許第2905776号として設定登録を受けた(甲1の1,2。以下「本件特許」という。)。
ところが,Gから特許異議の申立てがなされたため,特許庁は,これを平成11年異議第74703号事件として審理し,その中で控訴人は,平成12年7月7日,請求項1の訂正と請求項3の削除等を内容とする訂正請求を行い(甲36の3),その結果,特許庁は,平成13年3月2日,「訂正を認める。特許第2905776号の請求項1および2に係る特許を維持する。」との決定(乙1の24。以下「本件異議決定」という。)をした。
一方,被控訴人は,平成15年12月24日,本件特許につき無効審判請求をした。特許庁は,同請求を無効2003-35521号事件(以下「本件無効審判事件」という。)として審理し,その係属中の平成16年6月14日,控訴人は,請求項1の訂正等を内容とする訂正請求をした(甲24の3。以下「本件訂正」といい,本件訂正後の明細書を「本件訂正明細書」という。)。
そして特許庁は,平成16年10月22日,「訂正を認める。特許第2905776号の請求項に係る発明についての特許を無効とする。」等を内容とした審決(以下「本件無効審決」という。)をした(乙36)。控訴人は,これを不服として審決取消訴訟を提起し,同訴訟は当庁平成17年(行ケ)第10115事件として係属している。
イ 本件特許に係る発明の内容は,以下のとおりである。
(ア) 平成11年3月26日の設定登録時 原判決末尾添付の特許公報(甲1の2)の特許請求の範囲(請求項1ないし3)のとおり。
(イ) 平成13年3月30日の本件異議決定時 原判決末尾添付の特許公報(甲1の3)6頁の(請求項1及び2)のとおり。
なお,この時点における請求項1に係る発明を,以下「本件特許発明」という。
(ウ) 平成16年6月14日の本件訂正請求時(甲24の3。下線部が前記(イ)と異なる部分) 「【請求項1】屋根地に多数本の横棧及び縦棧をクロス状に配置する棧の布設工程と,この布設工程で配置された横棧に屋根瓦の尻側裏面に設けた引掛けを係止するとともに,縦棧に屋根瓦の尻側裏面に設けた安定駒の差込み側の側面を当接した際,この 縦棧 を横棧 の表面 と屋根瓦 の瓦本体 の尻側裏面 とで 形成 される空間 に設けて 浮き上がり 防止 を図る屋根瓦の係止工程と,この係止工程において縦棧を安定駒の差込み側の側面に当接する際に,当該安定駒の底面が横棧に直接当接して安定的に葺工される安定駒当接工程と,で構成されている安定駒利用の耐震,耐風瓦工法。」(以下,請求項1に係る発明を「本件訂正後特許発明」という。) 「【請求項2】上記の屋根瓦は,瓦本体と,この瓦本体の尻側裏面に平坦形状の横棧当接部と,前記瓦本体の尻側に設けた横棧に係止される当接曲面を有する全体形状が半円弧形状でなる引掛けとで構成されている請求項1に記載の安定駒利用の耐震,耐風瓦工法。」」 (2) 同3頁10行目の「(4)」を「(3)ア」と改め,21行目の末尾に行を改めて,次のとおり加える。
「イ また,本件訂正後特許発明構成要件を分説すれば,構成要件Cを「C’ 縦桟に屋根瓦の尻側裏面に設けた安定駒の差込み側の側面を当接した際,この縦桟を横桟の表面と屋根瓦の瓦本体の尻側裏面とで形成される空間に設けて浮き上がり防止を図る屋根瓦の係止工程と,」とするほか,前記アのとおり(すなわち,構成要件A,B,C’,D及びE)である。」 (3) 同3頁22行目から4頁7行目までを削除する。
(4) 同4頁8行目の「(6)」を「(4)」と,26行目(末行)を「(4) 本件特許の無効理由の有無(争点4)」とそれぞれ改める。
(5) 同25頁18行目を「(4) 本件特許の無効理由の有無(争点4)」と改め,20行目の「明白な」及び21行目の「権利の濫用に当たるものとして」をいずれも削除する。
(6) 同28頁15行目の「決定」の後に「(本件異議決定)」を加える。
(7) 同29頁11行目及び15行目から16行目にかけての「訂正によっては」を「訂正(本件訂正)によっては」と,13行目から14行目にかけての「を申し立て(」を「を請求し(本件無効審判事件・」と,18行目から19行目にかけての「平成16年6月14日付け訂正請求に係る訂正後の特許請求の範囲(以下「本件訂正後特許発明」という。)」を「本件訂正後特許発明」とそれぞれ改める。
(8) 同34頁16行目の「訂正によっては」を「訂正(本件訂正)によっては」と改める。
3 当審における控訴人の主張 (1) イ号物件及びハ号物件の具体的構成についての事実誤認(争点1関係) ア イ号物件について イ号物件において,安定突起Fにおける差込C側側面Flが「傾斜面を形成している」(原判決38頁13行)ことは,原判決認定のとおりである。
また,「尻差込側裏面部Dに縦桟当接平坦面Dlを形成し,縦桟当接平坦面Dlの安定突起F側側部に安定突起Fの差込C側側面Flと面一に形成され,傾斜面として形成された切欠段面Eを形成する。」(原判決8頁2〜4行)ことは被控訴人が主張するとおりである。
そうであるならば,切欠段面Eと側面F1が,同じ傾斜面を形成する上部と下部であり,同一側面を指すことは疑いようのない事実である。
原判決は,「切欠段面Eは,傾斜面である尻差込側裏面部Dに縦桟当接平坦面Dlを形成することによって形成される」(原判決38頁24〜25行)などと認定しているが,そもそも,切欠段面E自体が安定突起Fの側面Flとは別のものとして存在し得ないものであり,原判決の上記認定は瓦の製作過程を無視した誤った認定である。
イ ハ号物件について ハ号物件において,「縦桟当接平坦面Dlの安定突起F側側部に傾斜 面として形成された切欠段面Eが形成される」(原判決40頁19〜21行),「誘導突起Jの差込C側側面Jlと切欠段面Eは面一に連続形成される」(原判決40頁24〜25行)ことは,原判決認定のとおりである。
そうであるならば,切欠段面Eと側面Jlが,同じ傾斜面を形成する上部と下部であり,同一側面を指すことは疑いようのない事実である。
原判決は,「切欠段面Eは,傾斜面である尻差込側裏面部Dに縦桟当接平坦面Dlを形成することによって形成されるものであり,一方,誘導突起Jは傾斜面である尻差込側裏面部Dに突起物として形成されたものである。したがって,切欠段面Eと誘導突起Jの差込C側側面Jlとは同一面を形成するように設計されたものではない。」(原判決41頁7〜11行)などと認定しているが,これも前述のイ号物件について述べたのと同様,瓦の製作過程を無視した認定である。
すなわち,誘導突起(出来上がりの瓦では,これに相当する部分が突出している。)を形成する部分は,金型自体は,それに相当する部分が彫り込まれた形状(金型の「下型」に縦穴をあけた状態)になっており,これは,被控訴人提出の図面(乙7の3)の@(縦桟当接平坦面)の近傍を見れば明らかである。
(2) 構成要件充足性についての判断の誤り(争点2関係) ア 構成要件DA解釈の誤り (ア) 原判決は,「A瓦の安定駒の底面が横桟に当接することについては,横桟は瓦の尻側裏面に当接するものであることから(本件明細書の【実施例】欄の段落【0016】においても,「尻側裏面10aに設けられた横桟当接部101」が記載されている。),瓦の尻側裏面の横桟当接部が平坦形状である場合(被告各製品の尻側裏面中央平坦部Gがこれに該当する。),同横桟当接部から延長された仮想線上に,安定駒の底面が位置する必要があるものと解するのが相当である。」(原判決41頁26行〜42頁6行)とした。
(イ) しかし,DA「安定駒の底面が横桟に当接すること」は,実際に瓦を葺いた後の状態において,安定駒の底面が横桟に当接していることであって,瓦を葺設する前の瓦自体の構成(「横桟当接部から延長された仮想線上に,安定駒の底面が位置すること」)と同義ではない。
そもそも,「横桟は瓦の尻側裏面に当接するものである」(原判決42頁1行)との前提が誤っている。横桟は,あくまでも,瓦の裏面(尻側裏面に限定されない。)の一部(平坦部による面接触か,1点による点接触かを問わない。)と接するものであり,実際に瓦を葺く場合には,その裏面に平坦部が形成されていたとしても,左右に隣接する瓦との位置関係,縦桟の高さ,その他の要因によって,その平坦部と横桟の表面が完全に一致する(面接触する)とは限らない。
瓦自体の重心を考慮しても,裏面に平坦部を呈する瓦を横桟の上に置いても,平坦面上に瓦が静止していることはないのである。
瓦は粘土を焼成して作るものであるから,平坦部を水平に形成するように設計していたからといって,実際に瓦に形成される平坦部は,粗い面であり,およそ水平面とはいえない。そのため,実際に,瓦を葺いた後でも,瓦は,横桟上を左右にガタつくのであり,このガタつきを極力防止するために,安定駒を設けているのであり,瓦の裏面に横桟当接部が平坦形状に形成されているからといって,当該瓦の葺設状態において,常に,瓦が平坦面上に収まる(面接触する)とは限らない(むしろそのような事は稀である)。
図面上,その当接部(平坦面)から延長された仮想線上に安定駒の底面が位置しないで,若干安定駒の底面が僅かに宙に浮くような程度であっても(それすら,実際には1mmあるかないかの程度であり,実質的には浮いているとはいえない。),実際に瓦を葺いた後には,瓦自体の重みや,釘による上からの押さえつけ力によって,安定駒の底面は横桟の表面に当接するのである。
(ウ) したがって,構成要件DA自体は誤りではないが,それと「横桟当接部から延長された仮想線上に,安定駒の底面が位置すること」を同義とした原判決の解釈は明らかに誤っている。
構成要件DBの誤り (ア) 原判決は,「本件特許発明においては,縦桟を瓦の裏面に当接することは構成要件となっていないこと」(原判決42頁13〜14行)を根拠として,構成要件DB「縦桟と当接する係止手段(係止凹部)を備えていない」こと(原判決42頁22〜23行,43頁13行)のような,書かれていない構成要件を付加した解釈をしている。
しかし,これは,構成要件解釈として明らかに失当である。「縦桟を瓦の裏面に当接すること」を構成要件としていない,ということは,縦桟を,瓦の裏面に当接してもよいし,当接しなくてもよい,ということである。
そして,この解釈は,他の構成要件との関係からも裏付けられている。
(イ) 原判決は,本件明細書(甲1の3)の段落【0017】の「縦桟2は,安定駒103の底面103bが横桟1の表面1aに当接した際,表面1aと瓦10の瓦本体10’の尻側裏面10aとで形成される空間Hに設けられる構成であるので,瓦10の浮き上がり防止,換言すると横桟当接部101と横桟1の表面1aとの確実な当接を図り,瓦10の飛散防止,耐震性向上,雨仕舞の向上に利用できる」との記載から,「縦桟は瓦の裏面に当接することを予定していないことに照らし」などと判断している(原判決42頁20〜21行)。
しかし,「縦桟2が・・・(横桟1の)表面1aと瓦10の瓦本体10’の尻側裏面10aとで形成される空間Hに設けられる構成」ということは,縦桟が瓦の裏面に当接することを否定する趣旨でないことは一目瞭然である。
この点は,原判決の「本件訂正後特許発明の『この縦桟を横桟の表面と屋根瓦の瓦本体の尻側裏面とで形成される空間に設ける』という構成は,縦桟の高さを,瓦本体の尻側裏面と横桟表面との間の距離と同じかそれよりも低くすることであ」る(原判決53頁15〜18行)との認定にも完全に矛盾する。
すなわち,原判決は,「空間に設ける」とは,「縦桟の高さ」を「瓦本体の尻側裏面と横桟表面の距離」以下にすることと同義であるとしている。
そうであれば,「縦桟の高さ」を「瓦本体の裏面と横桟表面の距離」と略同一にした場合には,瓦本体の裏面において縦桟表面に接する部分が必然的に発生することを認めざるを得ないということである。
そして,瓦本体の裏面と縦桟表面が接する場合には,瓦本体の裏面にその当接させやすくるための手段(原判決がいうところの「縦桟と当接する係止手段(係止凹部)」)を設ける場合があることも当然のことである。
本件特許発明においては,縦桟を瓦の裏面に当接させることは構成要件となっていないが,「空間に設ける」という記載から,縦桟を瓦の裏面に当接させる場合も,そうでない場合も,いずれも含むということである。
(ウ) したがって,構成要件Dの解釈に際して,「本件特許発明の工法に使用される瓦は,縦桟と当接する係止手段(係止凹部)を備えていない瓦を対象としている」(原判決42頁21〜22行)との限定解釈は自己矛盾であり,そのような解釈のできないことは一目瞭然である。
構成要件D@の誤り (ア) 原判決は,構成要件D@「瓦の安定駒の差込み側が縦桟に当接すること」(原判決41頁24〜25行,43頁10〜11行)としているが,この解釈も誤りである。
そもそも本件特許発明の特許請求の範囲(構成要件D)には,「この係止工程において縦桟を安定駒の差込み側の側面に当接する際に」と記載されているのであり,「安定駒の差込み側が縦桟に当接すること」ではない。
(イ) 原判決は,構成要件D@に関し,控訴人(原告)の主張(本件特許発明構成要件Cの「安定駒の差込み側の側面」を「縦桟に当接する係止工程」とは,瓦葺設後の状態ではなく,瓦を葺設する過程において「安定駒の側面」を縦桟木の側面に当接しながら位置決めをすることを指すものと解すべきとの主張)を排斥した上で,構成要件Dにつき,誤った解釈論を展開した。
本件特許発明においては,構成要件A〜Cは工法自体を指すものであるが,構成要件Dは工法自体に加えて,瓦を葺かれた後の状態をも意味しているのであり(本件特許発明の主たる作用効果は構成要件Dによって奏する。),構成要件Cに関する控訴人(原告)の主張が採用できないからといって(これ自体誤りであるが。),自らの構成要件Dに関する解釈論が正当化されるのか全く意味不明である(原判決42頁24行〜43頁15行)。
そして,構成要件C「縦桟に屋根瓦の尻側裏面に設けた安定駒の差込み側の側面を当接する屋根瓦の係止工程」における,「安定駒の差込み側の側面」を「縦桟に当接する係止工程」とは,瓦を葺設した後の状態ではなく,瓦を葺設する過程において「安定駒の側面」を縦桟木の側面に当接しながら位置決めをすることを指すことは明らかである。
(ウ) 構成要件Dにおいては「この係止工程において・・・側面に当接する際に」という用語を用いていることから,構成要件D@「瓦の安定駒の差込み側が縦桟に当接すること」と同義とした原判決の解釈は誤りである。あくまでも,瓦を葺く工程において,縦桟を安定駒の側面に当接させる工程(位置決めする工程)を経ればよいのである。
そして,縦桟工法において,縦桟を設ける理由は,「縦桟工法の本来的効果」(@施行が容易である点,A瓦を葺いた後に位置ずれ(特に横ずれ)しにくい点)を奏するためのものであるから,縦桟が設けられ,そこに位置決めのために当てるための突起が存在することで十分である。
また,構成要件Dの「この係止工程において縦桟を安定駒の差込み側の側面に当接する際に」とは,「構成要件A〜Cの縦桟工法を行う際に」という意味に理解すれば十分であり,原判決の解釈は明らかに誤っている。
エ 被告各製品の構成要件充足性の判断の誤り 以上のとおり,原判決には,構成要件Dの解釈を誤り,それを前提に被告各製品(イ号製品ないしハ号製品)が本件特許発明構成要件Dを充足しないと判断した誤りがある。
(3) 本件特許の有効性に関する判断の誤り(争点4関係) ア 引用発明と本件特許発明一致点の認定の誤り 原判決は,引用例1(乙15)に記載された発明(以下「引用発明」という。)においては「屋根瓦の尻側裏面に設けた安定駒」(本件特許発明構成要件C)が存在せず,また,「安定駒利用の耐震,耐風瓦工法」(構成要件D)でないにもかかわらず,これらの点で本件特許発明(本件異議決定時の請求項1に係る発明)と引用発明が一致すると認定したのは,次に述べるとおり誤りである。
(ア)@ 本件特許発明における「安定駒」の位置については,控訴人は,本件異議事件において特許庁から取消理由通知を受けたことを踏まえて,平成12年7月7日付け訂正請求により,「屋根瓦の尻側裏面に設けた安定駒」との訂正を行ったものであり,「尻側裏面」とは,願書に添付した図5,6(甲1の2)において安定駒103が記載された位置に限定されていることが明らかである。
そして,「尻側」とは,屋根に瓦を葺いた場合に,屋根の頂上側(棟側)に位置する瓦の上方面をいい,本件特許発明において,安定駒103が「尻側」に設けられるということは,引掛け102と面一となるように構成されていることを意味するものである。
A 他方で,引用例1(乙15)の図2,4をみると,瓦の係止用凸起12(引掛けに相当)は瓦の「尻側」に位置するが,凸部13(安定駒に相当)は,凸起12よりも内側に位置し,「尻側」には位置していないから,凸部13は,「尻側裏面」に設けられたものではない。
B したがって,引用発明には,「屋根瓦の尻側裏面に設けた安定駒」が存在しないのに,原判決が,「屋根瓦の尻側裏面に設けた安定駒」(構成要件C)が存在する点で本件特許発明と引用発明が一致すると認定したのは誤りである。
(イ)@ 縦桟工法(屋根地の上に多数本の横木を横に配置し(横桟),その上に多数本の桟木を縦にクロス状に配置し(縦桟),その上に瓦を葺いていく工法)は,横桟工法(引掛けを横桟木に係止するようにして瓦を葺いていく工法)と比べて,施工が容易である,瓦を葺いた後に位置ずれ(特に横ずれ)しにくいといった作用効果(縦桟工法の本来的効果)を奏するものである。
本件特許発明は,図4(甲1の2)から明らかなとおり,安定駒103の側面103a(差込み側の側面)を縦桟の右側側面に当接させることで,瓦の縦方向の位置決めを極めて容易にし,また,瓦を葺設した後も,安定駒の側面が縦桟木に当接していることから,瓦の横方向のずれを防止することができ,縦桟工法であること自体から導かれる「縦桟工法の本来的効果」を奏するものである。
A のみならず,本件特許発明においては,縦桟に屋根瓦の尻側裏面に設けた安定駒の差込み側の側面を当接するに際し,縦桟は,横桟の表面(1a)と瓦本体の尻側裏面(10a)とで形成される空間(H)に設けられ(図4),安定駒の底面(103b)を横桟の表面に直接当接させることにより,瓦(図3,4の左側)は安定駒の底面によって支えられるので,瓦を縦桟木の上に載置する場合と比較して,瓦の荷重は安定駒の底面にかかることになり,力点の位置がその分だけ低くなる。しかも,仮に地震,強風などで瓦に対して水平方向(横方向)の力がかかったとしても,安定駒側面の縦桟側面に対する当接に加えて,瓦のいわば脚である安定駒の底面(いわば足裏に該当する。)と横桟表面の摩擦力によっても,横方向のずれを規制することができる。したがって,長い脚を採用するという点で,横方向のずれ規制の面で最大限の効果を発揮することができ,更に浮き上がり防止を図ることも可能となる。
また,安定駒103は,瓦の「尻側裏面」に設けられ(すなわち,引掛け102と面一となるように構成される。),その一部は横桟の表面に当接しているが,一部は横桟の上にはなく宙に浮いた状態になっており,この部分の存在によって,浮き上がりや,回転防止の効果が一層高められる。仮に地震や台風によって瓦がわずかでも浮き上がったとしても,元の位置に復元することが容易となる。仮に安定駒が短く,尻側裏面まで延設されていない場合には,横桟の表面からずり落ちたり,瓦自体が回転する可能性が高くなる。
更に地震,強風などで瓦に対する垂直方向(上下方向)の力がかかったとしても,瓦のいわば脚である安定駒が横桟の表面に当接する構成,すなわち最も脚の長い構成を採用しているため,浮き上がりを防止することもできる。仮に浮き上がったとしても,縦桟の高さを超えるような上下動がない限り,安定駒の底面が縦桟に乗り上げることを回避できる。そのため浮き上がりが生じても元の状態に回復が容易である。
このように本件特許発明は,「縦桟工法の本来的効果」に付加して,浮き上がり防止,回転防止の効果などの耐震・耐風効果を奏するものであるから(本件明細書の段落【0017】,【0019】等),「安定駒利用の耐震,耐風瓦工法」である。
B 他方で,引用発明は,瓦裏面の「後部」(「尻側」ではない。)に「縦桟木の側面に当接係合し得る凸部(もしくは切欠段面)による係合部」を形成し,この係合部を形成する「平坦部14」に瓦を「載置」するものである。
また,この載置によって,引用発明の瓦工法は,横桟工法に比較して施工が容易である,瓦を葺いた後に位置ずれ(横ずれ)しにくいといった縦桟工法の本来的効果を奏するものの,この本来的効果の域を凌駕し,耐震・耐風効果を奏するものではないから,「耐震,耐風瓦工法」ではない。
C したがって,原判決が,本件特許発明と引用発明が「安定駒利用の耐震,耐風瓦工法」(構成要件E)である点で一致すると認定したのは誤りである。
イ 本件特許発明進歩性の判断の誤り 原判決は,引用発明と本件特許発明の相異点につき,引用例2(乙16)において,「瓦が横桟に載置される際に,瓦の裏面と安定駒の底面が横桟に当接すると,いわゆる二点支持の状態となるので,横揺れを生ずる心配がなく,安定性の高い瓦の屋根葺きが可能となる旨の技術が開示されているというべきである。」(原判決51頁1〜4行)と認定し,これ以外については全く検討することなく,このような公知技術が存在することだけから直ちに本件特許発明進歩性を否定したのは,誤りである。
(ア)@ 安定駒の設置部位は,「尻側裏面」であるのに,前記のとおり,原判決は,この「尻側裏面」を単に「裏面後部」と誤解している。
引用例2(乙16)の第1図,第3図,第4図,第5図,第7図,第8図を見れば,突起3,3’,突面10が「尻側」裏面に設けられていないことが明らかである。なお,第9図の突面15は尻側裏面に設けられているといえなくはないが,引掛突起2Bと一体化されているにすぎない。
一方で,引用例3(乙17)の第1図では,「従来の三河瓦を示す裏面から見た斜視図」として,脚片3が「尻側」裏面に設けられていることが示されており,従来の瓦において「安定駒」(突起,脚片などがこれに相当する。)を設ける部位について,当業者は技術的にほとんど意識しておらず,瓦の裏面(瓦の山桟部とは幅方向に反対側の差込み部側)において「横桟木に当たる位置」であれば,瓦の裏面における位置にはこだわっていなかったという事実が明らかである。
A また,引掛工法において安定駒を用いることが公知であるとしても,屋根を葺いた後の横ずれ規制効果,浮き上がり防止効果を最大限に発揮して耐震性,耐風性を図るという技術思想については,引用例2に全く示唆されておらず,安定駒の底面を積極的に横桟に当接させて耐震,耐風効果を意図しようとするものではない。
B したがって,「瓦の尻側裏面に安定駒を設けること」は周知技術ではなく,従来技術を縦桟工法に組み合わせることで本件特許発明の構成に想到することは容易ではない。
(イ)@ 本件特許発明は,瓦工法における従来技術(引掛工法,縦桟工法,安定駒)を前提とするものであるが,安定駒の設置部位の限定と,当該安定駒と縦桟木,横桟木の当接位置関係などを有機的に結びつけ統合することで,特殊な瓦・桟木(例えば,甲2の1のような嵌込み凹部や,甲2の3のようなX字溝を設けた桟木)を用いなくとも,縦桟工法の本来的効果のみならず,耐震・耐風効果を奏することができるというものであり,本件特許発明の構成によって格別の作用効果を奏するものである。
このことは,本件訂正明細書(甲24の3)の「最も簡単な操作により瓦の主として棟方向への葺設の簡便化かつ確実化を図り,かつ葺き上げ精度の向上が図れること」,「屋根瓦の浮き上がり防止,換言すると屋根瓦の飛散防止,耐震性向上,雨仕舞いの向上が図れる」との記載(段落【0019】)のとおりである。
A 他方,引用例2(乙16)及び引用例3(乙17)には,本件特許発明1の本質的部分である,縦桟工法と安定駒を組み合わせ,耐震・耐風を図るという技術思想が全く記載されておらず,示唆もされていない。また,本件異議決定もこれと同旨の判断をしている。
B したがって,原判決が,引用発明の安定駒に前記公知技術を適用して,原判決にいう本件特許発明に係る相違点の構成(係止工程で係止された縦桟と安定駒との側面係止の際に,構成要件D「当該安定駒の底面が横桟に直接当接して安定的に葺工される安定駒当接工程」を有していること)とすることは,当業者が容易に想到できたとして,本件特許発明進歩性に欠け,無効理由があると判断したのは誤りである。
ウ 本件訂正後特許発明進歩性の判断の誤り (ア) 原判決は,平成16年6月14日付け訂正請求(甲24の3)に係る訂正後の発明(本件訂正後特許発明)と引用発明の相違点に関する判断において,「本件訂正後特許発明の前記構成を設けて「浮き上がり防止を図る」ことは,安定駒の底面と横桟を当接した状態を表現したにすぎないことである。」と判断した。
しかし,本件訂正後特許発明は,「尻側裏面に設けた」「安定駒」の縦桟に対する係止,同安定駒の「横桟の表面に対する当接」などの構成の複合によって,めくり上がり,回転が抑制され,「浮き上がり防止」効果を奏するものあって,安定駒の底面を横桟の表面に当接させること,イコール「浮き上がり防止」効果ではない。
原判決は,本件訂正後特許発明,すなわち,「縦桟を横桟の表面と屋根瓦の瓦本体の尻側裏面とで形成される空間に設けて浮き上がり防止を図る」(構成要件C′)における「浮き上がり防止」の意味を全く理解していない。
(イ) したがって,原判決が本件訂正後特許発明進歩性の判断を誤ったことは明らかである。
4 当審における被控訴人の反論(争点4に対し) (1)ア(ア) 「側」とは「まわりを取り囲むもの」,「かたわら(の人)。はた」,「物の一方の一面」などを意し,「かたわら」とは,「ものの側面。脇。横腹」,「物や人のわきの方。そば」などを,「そば」とは「近くの所,かたわら」などを意味するから,「尻側」とは「尻の近くの所」を意味する。
そして,引用例1(乙15)の凸部13(安定駒)は,係止用凸起12と同じく,瓦の「裏面後端部」に設けられているから,「尻側裏面」に設けられていることは明白である。
(イ) 本件異議決定時の請求項1,2の記載によれば,引掛け,安定駒及び横棧当接面の形成位置は同じ「尻側裏面」であるが,引掛け及び安定駒と横棧当接面の形成位置は明らかに異なるから,同じ「尻側裏面」で位置説明するのであれば,何らかの説明が必要となるはずであるが,その説明はされていない。
また,本件特許発明実施例を示す図5(甲1の2)において,尻側端面と面一の安定駒103及び引掛け102が図示されているの対し,横棧当接面101は,瓦裏面における引掛け102より内側部位,すなわち頭側部位に形成されていることが明らかであり,「尻側裏面に設けた安定駒」は「引掛け102」と面一となるように構成することに限定されるものではない。
イ(ア) 本件特許の屋根瓦の「浮き上がり防止」は,あくまでも安定駒及び縦棧側面の係止工程による効果を意味するところ,引用例1(乙15)にも安定駒及び縦棧と同様の凸部及び縦桟木があるため,本件特許の屋根瓦と同じ浮き上がり防止効果がある。
そして,引用例1には,「凸部13」が本件特許発明の「安定駒」と同様に,「尻側裏面」に設けられることも明記され,凸部13を縦桟木の一方の側面に沿わせるか,係合させるようにして屋根面に載置する構成により,控訴人主張の「縦桟工法の本来的効果」を有するのみならず,「甲24の2の25枚目の図(イ)の矢印U方向の浮き上がり」を防止する作用効果もあるから,引用発明は,耐震・耐風瓦工法である。
(イ) このように「浮き上がり防止」は,あくまでも安定駒及び縦桟側面の係止工程による効果を意味するものであって,本件特許における横桟及び安定駒の当接工程による効果とは無関係であり,相乗効果なるものは存しない。
また,本件特許の屋根瓦の「回転防止」に関しては,引掛けを横桟に係止すれば自ずから回転が発生しないことは明らかである。
さらに,仮に横桟表面の摩擦力によって横方向のずれを規制することが多少なりともできるとしても,それは安定駒の横桟当接の効果であり,引用例2,3(乙16,17)から明らかなとおり従来の公知技術による作用効果にすぎず,本件特許によって,より一層の作用効果が生ずるものではない。
ウ 以上のとおり,引用発明(乙15)の安定駒に引用例2,3(乙16,17)の公知技術を適用して本件特許発明の構成とすることは,当業者であれば容易になし得ることであり,また,本件特許発明と同様に,引用発明の安定駒は「尻側裏面」に設けられ,引用発明は耐震・耐風瓦工法であることなどからすれば,本件特許には,新規性,進歩性がないというべきである。
(2) 本件訂正後特許発明の「この縦桟を横桟の表面と屋根瓦の瓦本体の尻側裏面とで形成される空間に設ける」という構成(構成要件C’)は,縦桟の高さを,瓦本体の尻側裏面と横桟表面との間の距離と同じかそれよりも低くすることであって,このことは,安定駒の底面を横桟に当接する場合,当業者が当然になし得る設計的事項である。また,本件訂正後特許発明の上記構成を設けて「浮き上がり防止を図る」ことは,安定駒の底面と横桟を当接した状態を表現したにすぎないのであって,「甲24の2の25枚目の図(イ)の矢印U方向の浮き上がり防止」のことではない。
そして,「甲24の2の25枚目の図(イ)の矢印U方向の浮き上がり」防止効果が,「安定駒の底面が横桟の表面に当接する」構成による効果ではなく,「安定駒の差込み側の側面が縦桟の側面に当接する」構成による効果であることは明らかであり,更に引用例1(乙15)にも縦桟木の側面に当接する凸部があるため,「甲24の2の25枚目の図(イ)の矢印U方向の浮き上がり」防止効果を奏することに疑問の余地はない。
したがって,本件訂正後特許発明についても,当業者が容易に想到できたものであって,進歩性に欠けることは明らかである。
当裁判所の判断
1 当裁判所は,本件特許には特許法29条2項に違反する無効理由(進歩性の欠如)があり,特許無効審判により無効にされるべきものと認められるから,特許法104条の3第1項により,特許権者たる控訴人は相手方に対し,その権利を行使することができないものと判断する。その理由は,以下のとおりである。
2 本件特許の無効理由の有無(争点4) (1) 本件訂正後特許発明進歩性の欠如の有無について 証拠(乙36)及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人は,本件異議決定がされた後に,本件特許につき無効審判を請求し,その係属中の平成16年6月14日,控訴人は,請求項1の訂正等を内容とする訂正請求(本件訂正)をしたこと,特許庁は,平成16年10月22日,「訂正を認める。特許第2905776号の請求項に係る発明についての特許を無効とする。」との審決(本件無効審決)をしたこと,本件無効審決は,本件訂正を認めた上で,本件訂正後特許発明は引用例1及び周知技術に基づいて,本件訂正後の請求項2に係る発明は引用例1及び特開平10-140741号公報に記載された発明並びに周知技術に基づいて,それぞれ当業者が容易に発明をすることができたから,特許法29条2項に違反する等としたものであることが認められる。
そこで,本件訂正後特許発明進歩性の欠如(特許法29条2項違反)の有無について判断する。
ア 引用例の記載 (ア) 引用例1(乙15)には,請求項1として「屋根面の勾配方向所要間隔に横方向に延在する横桟木を配設するとともに,この横桟木の上に勾配方向に延在する縦桟木を横方向所要間隔に配設し,他方,瓦の裏面後部に,横桟木に対する係止用凸起と縦桟木の側面に当接係合し得る凸部もしくは切欠段面による係合部とを形成しておいて,前記係止用凸起を横桟木に係止させるとともに,前記係合部を縦桟木の一方の側面に沿わせるか係合させるようにして載置し,縦桟木と横桟木とに沿って各瓦を屋根の勾配方向および横方向に並べて葺設することを特徴とする瓦の葺設工法。」との記載があり,また,図2(乙15)において,凸部13が,係止用凸起12の棟側の端面よりも軒側に後退し,かつ,横桟木2の上方に位置する瓦本体の裏面の部位に設けられていることが図示されているが認められる。
(イ) 引用例2(乙16)及び引用例3(乙17)には,桟瓦において,瓦本体の尻側裏面だけでなく,瓦の尻側裏面であって,瓦の山棧部とは幅方向に反対側の差込み部側に,横桟に直接当接する安定駒(乙16の突起3,3’,凸面10,乙17の脚片3等)を設けることの記載がある。
イ 本件訂正後特許発明と引用発明との対比 前記アの認定事実によれば,本件無効審決が認定するように,引用例1記載の発明(引用発明)の「屋根面A」,「横桟木2」,「縦桟木3」,「係止用突起12」,「凸部13」は,本件訂正後特許発明の「屋根地」,「横棧」,「縦棧」,「引掛け」,「安定駒」にそれぞれ相当すること,本件訂正後特許発明と引用発明とは,次のような一致点と相違点があることが認められる。
(一致点) 屋根地に多数本の横棧及び縦棧をクロス状に配置する棧の布設工程と,この布設工程で配置された横棧に屋根瓦の尻側裏面に設けた引掛けを係止するとともに,縦棧に屋根瓦の尻側裏面に設けた安定駒の差込み側の側面を当接した際,この縦棧を横棧の表面と屋根瓦の瓦本体の尻側裏面とで形成される空間に設ける屋根瓦の係止工程とで構成されている安定駒利用の耐震,耐風瓦工法。
(相違点1) 本件訂正後特許発明が,浮き上がり防止を図る瓦の係止工程であるのに対し,引用例1には,そのような記載のない点。
(相違点2) 本件訂正後特許発明が,係止工程において縦棧を安定駒の差込み側の側面に当接する際に,当該安定駒の底面が横棧に直接当接して安定的に葺工される安定駒当接工程を有するのに対し,引用例1には,そのような記載のない点。
ウ 相違点についての判断 (ア) 前記相違点1について検討するに,引用例1には,縦桟木(縦桟)に屋根瓦の尻側裏面に設けた凸部13(安定駒)の差込み側を当接した際,縦桟を横桟の表面と屋根瓦の瓦本体の尻側裏面とで形成される空間に設けることが記載されており,本件訂正後特許発明とこの点に関し構成が異ならないことが認められる。
そうすると,引用例1には,浮き上がり防止を図る瓦の係止工程であるとの記載がないものの,引用発明も本件訂正後特許発明と同様に浮き上がり防止(甲24の2の25枚目の図(イ)の矢印U方向)を図ることができるものと認められるから,両者に格別の相違はないというべきである。
(イ) 前記相違点2について検討するに,引用例1には,凸部13(安定駒)の底面が横桟木2(横桟)に直接当接するとの記載はないものの,引用例1に記載されているような桟瓦において,瓦の尻側裏面であって,瓦の山桟部とは幅方向に反対側の差込み部側に,横桟に直接当接する安定駒を設けることは,引用例2記載の突起3,3’,凸面10や引用例3記載の脚片3等にみられるように,本件出願当時,周知であったものと認められる。
そうすると,引用発明の安定駒に上記周知技術を適用して,本件訂正後特許発明の相違点2の構成とすることは,当業者(その発明の属する分野において通常の知識を有する者)であれば容易になし得ることであったものと認められる。
そして,上記周知技術は,揺動(甲24の2の25枚目の図(イ)の矢印T方向)防止,ずれ(同図(イ)の矢印V方向)防止という効果を当然奏するものと認められるから,本件訂正後特許発明が相違点2の構成としたことによる格別の作用効果も認められないというべきである。
(2) 控訴人の主張について 控訴人は,本件訂正後特許発明進歩性の判断の誤りの主張(前記第2の3(3)ウ)とともに,本件特許発明の有効性に関する原判決の認定判断の誤りの主張(前記第2の3(3)ア,イ)を,本件訂正後特許発明についても黙示的に主張しているものと解されるので,以下,これを前提に判断する(なお,本件明細書(甲1の3)の該当箇所は,本件訂正明細書(甲24の3)の該当箇所に読み替えることとする。)。
ア(ア) 控訴人は,本件訂正後特許発明の「屋根瓦の尻側裏面に設けた安定駒」の「尻側」とは,屋根に瓦を葺いた場合に,屋根の頂上側(棟側)に位置する瓦の上方面をいい,本件訂正後特許発明において,安定駒103が「尻側裏面」に設けられるということは,引掛け102と面一となるように構成されていることを意味するものであるところ,引用例1の凸部13(安定駒に相当)は,「尻側」に位置する瓦の係止用凸起12(引掛けに相当)よりも内側に位置し,「尻側」に位置していないから,これらの点で本件訂正後特許発明と引用発明が一致するということはできない旨主張する。
@ 本件訂正後特許発明の特許請求の範囲(請求項1)は,前記のとおり「屋根地に多数本の横棧及び縦棧をクロス状に配置する棧の布設工程と,この布設工程で配置された横棧に屋根瓦の尻側裏面に設けた引掛けを係止するとともに,縦棧に屋根瓦の尻側裏面に設けた安定駒の差込み側の側面を当接した際,この縦棧を横棧の表面と屋根瓦の瓦本体の尻側裏面とで形成される空間に設けて浮き上がり防止を図る屋根瓦の係止工程と,この係止工程において縦棧を安定駒の差込み側の側面に当接する際に,当該安定駒の底面が横棧に直接当接して安定的に葺工される安定駒当接工程と,で構成されている安定駒利用の耐震,耐風瓦工法。」であって,「尻側裏面」に関しては,「屋根瓦の尻側裏面に設けた引掛け」,「屋根瓦の尻側裏面に設けた安定駒」,「この縦棧を横棧の表面と屋根瓦の瓦本体の尻側裏面とで形成される空間に設けて」との記載がある。
また,本件訂正後の請求項2は,前記のとおり「上記の屋根瓦は,瓦本体と,この瓦本体の尻側裏面に平坦形状の横棧当接部と,前記瓦本体の尻側に設けた横棧に係止される当接曲面を有する全体形状が半円弧形状でなる引掛けとで構成されている請求項1に記載の安定駒利用の耐震,耐風瓦工法。」であって,「尻側裏面」に関しては,「この瓦本体の尻側裏面に平坦形状の横棧当接部と,前記瓦本体の尻側に設けた横棧に係止される当接曲面を有する」の記載がある。
これらの記載によれば,本件訂正後特許発明おいては,瓦の「尻側裏面」に「引掛け」,「安定駒」,「横棧当接部」が設けられること,縦桟が横桟の表面と瓦本体の「尻側裏面」とで形成される空間に設けられることが認められる。
加えて,乙37(広辞苑(第四版)株式会社岩波書店発行)によれば,「側」とは,「その物の外面・周囲」,「かたわら,はた」,「物の一方の面」などを意味することが認められる。
A 以上の認定事実に照らすと,本件訂正後の特許請求の範囲(請求項1,2)に,安定駒(103)が瓦の「尻側裏面」に設けられるということが引掛け(102)と面一となるように構成するとの記載があるものと認めることはできないし,また,「尻側」とは,屋根に瓦を葺いた場合に,屋根の頂上側(棟側)に位置する瓦の上方面(すなわち,瓦の棟側の「端面」)を意味するものと認めることもできない。かえって,瓦の棟側の「端面」よりも軒側に後退した位置にある瓦の裏面の「横棧当接部」や,「縦桟が設けられる空間を形成する瓦本体の裏面」,すなわち,「横桟の表面と対向する位置にある瓦本体の裏面」も,請求項1,2の「尻側裏面」に当たるものと認めるのが相当である。
B そして,前記(1)ア(ア)の認定事実によれば,引用例1の凸部13は,瓦本体の「尻側裏面」に設けられたものと認めるのが相当である。
したがって,控訴人の前記主張は採用することができない。
(イ) 控訴人は,本件訂正後特許発明は,横桟工法に比較して施工が容易である,瓦を葺いた後に位置ずれ(横ずれ)しにくいといった「縦桟工法の本来的効果」に付加して,浮き上がり防止,回転防止の効果などの耐震・耐風効果を奏するものであるから(本件訂正明細書の段落【0017】,【0019】等),「安定駒利用の耐震,耐風瓦工法」であるのに対し,引用発明は,瓦裏面の「後部」に「縦桟木の側面に当接係合し得る凸部(もしくは切欠段面)による係合部」を形成し,この係合部を形成する「平坦部14」に瓦を「載置」することによって,「縦桟工法の本来的効果」を奏するものの,この本来的効果の域を凌駕し,耐震・耐風効果を奏するものではなく,「耐震,耐風瓦工法」ではないから,本件訂正後特許発明と引用発明が「安定駒利用の耐震,耐風瓦工法」である点で一致するものではない旨主張する。
@ しかしながら,本件訂正後の特許請求の範囲(請求項1,2)には,「耐震,耐風瓦工法」の具体的な意味についての記載がないことが認められる。
また,本件訂正明細書(甲24の3)には,「縦棧2は,安定駒103の底面103bが横棧1の表面1aに当接した際,表面1aと瓦10の瓦本体10’の尻側裏面10aとで形成される空間Hに設けられる構成であるので,瓦10の浮き上がり防止,換言すると底面103bと横棧1の表面1aとの確実な当接を図り,瓦10の飛散防止,耐震性向上,雨仕舞の向上に利用できる。そして,通常は横棧1と縦棧2との兼用使用を図り,経費節減,管理及び作業の容易化を達成する。」(段落【0017】),「【発明の効果】請求項1の発明は,屋根地に多数本の横・縦棧をクロス状に配置し,この横棧に瓦の尻側裏面に設けた引掛けを係止するとともに,縦棧に瓦の尻側裏面に設けた安定駒の差込み側の側面を当接した際,この縦棧を横棧の表面と屋根瓦の瓦本体の尻側裏面とで形成される空間に設けて浮き上がり防止を図り安定駒の底面が横棧に直接当接して安定的に葺工される構成である。従って,最も簡単な操作により瓦の主として棟方向への葺設の簡便化かつ確実化を図り,かつ葺き上げ精度の向上が図れること,又は原則として縦棧と横棧とを兼用して使用できること,等の特徴がある。また安定駒の底面と横棧当接部と横棧の表面との確実な当接を図り,屋根瓦の浮き上がり防止,換言すると屋根瓦の飛散防止,耐震性向上,雨仕舞の向上が図れる特徴がある。」(段落【0019】)との記載があることが認められるが,これらの記載によっても,「耐震・耐風」に関する具体的な作用についての説明がされておらず,また,本件訂正明細書の「発明の詳細な説明」の他の記載をみても,「耐震・耐風効果」が,控訴人主張の「縦桟工法の本来的効果」を凌駕する作用効果である旨の具体的な説明はされていない。
そうすると,本件訂正後特許発明の「安定駒利用の耐震,耐風瓦工法」にいう「耐震,耐風」とは,特定の作用を意味するものではなく,地震や風に耐える作用を一般的に表現したにすぎないものと認めるのが相当である。
A そして,引用例1(乙15)には,「さらに,こうして葺かれた瓦は,横桟木に係止して勾配方向のずれが規制されるとともに,縦桟木によって横方向のずれも規制でき,また瓦の側端部を縦桟木に載接させることにより揺動やガタつきを規制できることもあって,地震時や強風時にもずれなく安定性のよい葺設状態を保持できる。」(段落【0038】)との記載があることに照らすと,引用発明は,地震や強風に耐える作用効果を奏することを目的とするものと認められるから,「耐震,耐風瓦工法」であるものと認められる。
したがって,控訴人の前記主張は採用することができない。
イ 控訴人は,本件訂正後特許発明は,尻側裏面に設けた安定駒の縦桟に対する係止,同安定駒の横桟の表面に対する当接などの構成の複合によって,瓦のめくり上がり,回転が抑制され,「浮き上がり防止」効果を奏するものであるのに対し,引用発明においては,縦桟工法の本来的効果のみを奏するものの,「浮き上がり防止」効果を奏するものではなく,また,本件訂正後特許発明は,瓦工法における従来技術(引掛工法,縦桟工法,安定駒)を前提とするものであるが,安定駒の設置部位の限定と,当該安定駒と縦桟木,横桟木の当接位置関係などを有機的に結びつけ統合することで,特殊な瓦・桟木(例えば,甲2の1のような嵌込み凹部や,甲2の3のようなX字溝を設けた桟木)を用いなくとも,縦桟工法の本来的効果のみならず,耐震・耐風効果を奏することができるというものであり,本件特許発明の構成によって格別の作用効果を奏するものであるから,引用発明の安定駒に公知技術を適用して,本件訂正後特許発明に係る相違点の構成(係止工程で係止された縦桟と安定駒との側面係止の際に,構成要件D「当該安定駒の底面が横桟に直接当接して安定的に葺工される安定駒当接工程」を有していること。前記相違点2の構成)とすることは,当業者が容易に想到できたものではない旨主張する。
(ア) そして,控訴人は,本件訂正後特許発明の「浮き上がり防止」効果について,@本件訂正後特許発明においては,縦桟に屋根瓦の尻側裏面に設けた安定駒の差込み側の側面を当接するに際し,縦桟は,横桟の表面(1a)と瓦本体の尻側裏面(10a)とで形成される空間(H)に設けられ(甲1の2の図4),安定駒の底面(103b)を横桟の表面に直接当接させることにより,瓦(図3,4の左側)は安定駒の底面によって支えられるので,瓦を縦桟木の上に載置する場合と比較して,瓦の荷重は安定駒の底面にかかることになり,力点の位置がその分だけ低くなり,しかも,仮に地震,強風などで瓦に対して水平方向(横方向)の力がかかったとしても,安定駒側面の縦桟側面に対する当接に加えて,瓦のいわば脚である安定駒の底面(いわば足裏に該当する。)と横桟表面の摩擦力によっても,横方向のずれを規制することができるから,横方向のずれ規制の面で最大限の効果を発揮することができ,更に浮き上がり防止を図ることも可能となる旨(以下「主張@」という。),A本件訂正後特許発明(甲24の3)の安定駒103は,瓦の「尻側裏面」に設けられ(すなわち,引掛け102と面一となるように構成される。),その一部は横桟の表面に当接しているが,一部は横桟の上にはなく宙に浮いた状態になっており,この部分の存在によって,浮き上がりや,回転防止の効果が一層高められ,仮に地震や台風によって瓦がわずかでも浮き上がったとしても,元の位置に復元することが容易となる,仮に安定駒が短く,尻側裏面まで延設されていない場合には,横桟の表面からずり落ちたり,瓦自体が回転する可能性が高くなる旨(以下「主張A」という。),B本件訂正後特許発明においては,地震,強風などで瓦に対する垂直方向(上下方向)の力がかかったとしても,瓦のいわば脚である安定駒が横桟の表面に当接する構成,すなわち最も脚の長い構成を採用しているため,浮き上がりを防止することもでき,仮に浮き上がったとしても,縦桟の高さを超えるような上下動がない限り,安定駒の底面が縦桟に乗り上げることを回避できるため浮き上がりが生じても元の状態に回復が容易である旨(以下「主張B」という。)主張する。しかしながら,次に述べるとおり控訴人の主張@ないしBはいすれも採用することができない。
@ 控訴人の主張@について 控訴人の主張@に係る本件訂正後特許発明の作用効果は,本件訂正明細書(甲24の3)に記載がないのみならず,瓦の荷重が安定駒の底面にかかることにより,引用発明と比較して浮き上がり防止効果に格別の差異が生じるものと認めることはできないし,また,瓦に対して水平方向に力が加わった際の横方向のずれについても,そもそも安定駒の側面が縦桟に当接しており,横方向のずれを規制するものと認められるから,安定駒の底面と横桟表面の摩擦力に格別の意味があるものと認めることもできない。
したがって,控訴人の主張@は採用することができない。
A 控訴人の主張Aについて 控訴人の主張Aは,本件訂正後特許発明の安定駒は,瓦の「尻側裏面」に設けられ(すなわち,引掛けと面一となるように構成される。),その一部は横桟の表面に当接しているが,安定駒の横桟の上にはなく宙に浮いた部分の存在によって,浮き上がりや,回転防止の効果が一層高められる,などというものであるが,本件訂正後特許発明の特許請求の範囲(請求項1)及び本件訂正明細書(甲24の3)の記載上,本件訂正後特許発明において,安定駒103が「尻側裏面」に設けられるということは,引掛け102と面一となるように構成されていることを意味するものでないことは先に説示したとおりであり(前記ア(ア)),また,安定駒に,横桟の上にはなく宙に浮いた部分が存在するとの点も,本件訂正後特許発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載に基づかない主張であるから,控訴人の主張Aは採用することができない。
B 控訴人の主張Bについて 控訴人の主張Bに係る本件訂正後特許発明の作用効果も,本件訂正明細書(甲24の3)に記載がないのみならず,安定駒の底面が縦桟に乗り上げ易いか否かは,本件訂正後特許発明における縦桟の高さや引用発明の凸部の高さによっても変わり得るのであるから,安定駒が横桟に当接することによって,控訴人が主張するような格別の効果が生じるものと認めることはできない。
(イ)@ 次に,本件訂正後特許発明の特許請求の範囲(請求項1)には,「浮き上がり防止」に関し,「縦棧に屋根瓦の尻側裏面に設けた安定駒の差込み側の側面を当接した際,この縦棧を横棧の表面と屋根瓦の瓦本体の尻側裏面とで形成される空間に設けて浮き上がり防止を図る屋根瓦の係止工程」と記載されているが,「浮き上がり防止」の具体的な作用効果についての記載がないことが認められる。
A また,本件訂正明細書には,「浮き上がり防止」の作用効果について,「縦棧2は,安定駒103の底面103bが横棧1の表面1aに当接した際,表面1aと瓦10の瓦本体10’の尻側裏面10aとで形成される空間Hに設けられる構成であるので,瓦10の浮き上がり防止,換言すると底面103bと横棧1の表面1aとの確実な当接を図り,瓦10の飛散防止,耐震性向上,雨仕舞の向上に利用できる。」(段落【0017】),「【発明の効果】請求項1の発明は・・・この横棧に瓦の尻側裏面に設けた引掛けを係止するとともに,縦棧に瓦の尻側裏面に設けた安定駒の差込み側の側面を当接した際,この縦棧を横棧の表面と屋根瓦の瓦本体の尻側裏面とで形成される空間に設けて浮き上がり防止を図り安定駒の底面が横棧に直接当接して安定的に葺工される構成である。・・・また安定駒の底面と横棧当接部と横棧の表面との確実な当接を図り,屋根瓦の浮き上がり防止,換言すると屋根瓦の飛散防止,耐震性向上,雨仕舞の向上が図れる特徴がある。」(段落【0019】)との記載があるが,「浮き上がり防止」がどのような作用を意味するものであるのかについての具体的な説明はない。
かえって,本件訂正明細書(甲24の3)には,「・・・通常前記軒先瓦に続いて次の瓦を葺工するが,この場合,縦棧の側面に安定駒の差込み側の側面を当接する。この際,当該安定駒の底面が横棧に直接当接する構成であり,例えば,隣接瓦間に隙間,ガタが生じない構成とする。これにより在来の横棧のみによる葺工法と同様な施工効果が発揮できる構造にする。」(段落【0013】)との記載があることに照らすと,本件訂正後特許発明は,従来周知の安定駒と同様の作用を期待して,安定駒の底面を横桟に当接させる構成としたものと認めることもできる。
さらに,甲2の1,3記載の工法のように,瓦裏面の嵌め込み凹部や突起が縦桟やV字溝に嵌合する構造が採用されているものではない点においては,本件訂正後特許発明も,引用発明と同様であるから,本件訂正後特許発明の「耐震・耐風瓦工法」にいう「耐震・耐風」を,甲2の1,3記載の工法によって奏する「耐震・耐風効果」に限定して解することはできない。
B そして,引用例1の図5(乙15)には,「縦桟(縦桟木3)に屋根瓦の尻側裏面に設けた安定駒(凸部13)の差込み側の側面を当接した際,縦桟が横桟(2)の表面と屋根瓦の瓦本体(10)の尻側裏面とで形成される空間に設けられる構成」が図示されていることが認められることに照らすと,「安定駒103の底面103bが横桟1の表面1aに当接」することによる本件訂正後特許発明の「浮き上がり防止」効果は,引用発明との対比において,「浮き上がり防止」について格別の意義を有するものではないというべきである。
(ウ) そして,「横桟の表面と対向する位置にある瓦本体の裏面」も,本件訂正後特許発明の「尻側裏面」に当たるものと認めるのが相当であることは先に説示したとおりであり(前記ア(ア)A),引用例2(乙16)によれば,「突起3,3’,突面10」は,いずれも横桟の表面と対向する位置に設けられているから,瓦の「尻側裏面」に設けられたものと認められること,引用例3(乙17)の第1図の脚片3が「尻側裏面」に設けられていることは控訴人も認めていることからすれば,引用例2,3に基づいて,「桟瓦において,瓦の尻側裏面であって,瓦の山桟部とは幅方向に反対側の差込み部側に,横桟に直接当接する安定駒を設けることが周知」であったものと認められる。
(エ) そうすると,引用発明の安定駒に,前記周知技術を適用して,相違点2に係る本件訂正後特許発明の構成とすることは,当業者において容易に想到することができたというべきである。
したがって,控訴人の前記主張は採用することができない。
なお,本件異議決定における本件特許発明進歩性に関する判断は,当裁判所を拘束するものではなく,前記認定を左右するものではない。
(3) 本件特許発明進歩性の欠如の有無について 以上に説示したところに照らせば,本件異議決定時の請求項1に係る発明(本件特許発明)も,引用発明及び前記周知技術に基づいて当業者において容易に想到することができたものと認められ,これに反する控訴人の主張は採用することができない。
(4) まとめ 以上によれば,本件特許は,特許法29条2項に違反してされたものであり,特許無効審判により無効にされるべきものと認められるから,特許法(原判決言渡し後に施行された平成16年法律第120号による改正後のもの)104条の3第1項の規定により,特許権者たる控訴人は相手方に対し,その権利を行使することができないと解すべきこととなる。
3 結論 以上によれば,その余について判断するまでもなく,控訴人の本訴請求は理由がなく,これと結論を同じくする原判決は正当として是認することができる。
よって,本件控訴は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 大鷹一郎
裁判官 長谷川浩二