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審判番号(事件番号) データベース 権利
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関連ワード 協議 /  技術的範囲 /  発明の詳細な説明 /  存続期間 /  技術的意義 /  実施 /  権原 /  交換 /  構成要件 /  構成要件充足性 /  業として /  差止請求(差止) /  侵害 /  損害額 /  算定方法 /  販売数量(販売数) /  乗じた額 /  相当因果関係 /  不法行為(民法709条) /  請求の範囲 / 
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事件 平成 14年 (ワ) 3237号 特許権侵害差止等請求事件
原告 四国化工機株式会社
訴訟代理人弁護士 中田祐児
同 島尾大次
補佐人弁理士 廣田雅紀
同 小澤誠次
同 岡晴子
被告 株式会社中部機械製作所
訴訟代理人弁護士 大川宏
同 本山 信二郎
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2003/12/26
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 被告は,原告に対し,金4417万5592円及びこれに対する平成13年12月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを10分し,その9を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
請求
被告は,原告に対し,金33億1242万3506円及び内金31億6717万8300円については平成13年12月31日から,内金1億4524万5206円については平成14年8月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
本件は,原告が被告に対し,別紙被告製品目録記載のノズル(以下「被告ノズル」という。)を製造,販売するなどの被告の行為が原告の有する特許権を侵害するとして,損害賠償の支払を求めた事案である。
1 前提となる事実(当事者間に争いがない事実) (1) 原告の有する特許権 原告は,次の特許権(以下「本件特許権」といい,その発明を「本件発明」という。)を有していた。
(ア) 発明の名称 液体充填装置におけるノズル (イ) 出願日 昭和57年8月27日 (ウ) 登録日 昭和62年11月27日 (エ) 特許番号 第1411643号 (オ) 存続期間満了日 平成14年8月27日 (カ) 特許請求の範囲 別紙「特許公報」写しの該当欄記載のとおり(以下同公報掲載の明細書を「本件明細書」という。) (2) 本件発明の構成要件 本件発明を構成要件に分説すると,次のとおりである。
A 雌ねじ体10にねじ合った雄ねじ部15を有しかつ下端に嵌入突縁13を有する円筒状のノズル本体12と, B 雌ねじ体10の下端に設けられた角筒体1と, C 上部に円形透孔8を有するストレーナ押え部材6によって角筒体1の内部下端に保持されたストレーナ5と D よりなるノズルにおいて, E 雌ねじ体10の下端両側に外方開口状の一対の溝部11が設けられ, F 角筒体1の上端両側の内面にそれぞれ内方突出状に一対の突条3が設けられ, G 一対の溝部11に一対の突条3がはめ込まれ, H ノズル本体12の嵌入突縁13がストレーナ押え部材6の円形透孔8にはめ込まれている I ことを特徴とする,液体充填装置におけるノズル。
(3) 被告ノズルの構成 被告ノズルの構成は,別紙被告製品目録記載のとおりである。
(4) 被告ノズルの構成要件充足性 被告ノズルは,本件発明の構成要件A,DないしIを充足する。
(5) 被告の行為 被告は,業として,被告ノズルを製造販売している。
2 争点及び当事者の主張 (1) 被告ノズルは,本件発明の技術的範囲に属するか。
構成要件Bの充足性 (原告の主張) (ア) 「角筒体1」の意義 本件明細書の特許請求の範囲構成要件Bに係る部分(以下,「構成要件B」という。他の構成要件に係る部分についても同様である。)は,「雌ねじ体10の下端に設けられた角筒体1と」と記載され,その他の限定はない。したがって,構成要件Bの「角筒体1」は,雌ねじ体10の下端に設けられているものであれば足りる。
被告は,本件発明に係るノズルは,ストレーナ押え部材6でストレーナ5を保持することができない構造のもののみを指すと理解すべきであることを前提として,構成要件Bの「角筒体1」は,最下部に何らの装置も施されていないものに限定されると主張する。
しかし,そのように限定して解釈すべき根拠はない。のみならず,構成要件Cにおいて,「ストレーナ押え部材6によって角筒体1の内部下端に保持されたストレーナ5」と記載されているように,本件発明ではストレーナ押え部材6でストレーナ5を保持できることが当然に予定されていること,また,本件明細書の実施例には,角筒体1に内鍔4を設け,ストレーナ5を保持する構成が開示されていることに照らせば,この点の被告の主張は,理由がない。
(イ) 対比 被告ノズルの構成bでは,雌ねじ体10’の下端に,角筒体1’が設けられているから,被告ノズルは構成要件Bを充足する。
被告ノズルは,本件発明の構成要件Bの角筒体1に当たる角筒体1’に,「内面が角部丸み付き四角形状でその内面の最下部に内方突出状のフランジ部4’」が付加されているが,構成要件Bを充足することに影響を与えるものではない。
(被告の反論) (ア) 「角筒体1」の意義 本件明細書の特許請求の範囲の記載に照らせば,本件発明に係るノズルは,ストレーナ押え部材6でストレーナ5を保持することができない構造のもののみを指すと理解すべきである。そうすると,構成要件Bにおける「角筒体1」は,最下部に何らの装置も施されていないものに限ると解すべきである。
(イ) 対比 被告ノズルにおいては,角筒体1’の内面の最下部に,内方突出状のフランジ部4’を有し,内方突出状のフランジ部4’を設けることによって,ノズルカラー6’の最下部との間で角形メッシュ5'a を保持できるようにされている。
したがって,被告ノズルは,構成要件Bを充足しない。
構成要件Cの充足性 (原告の主張) (ア) 「ストレーナ押え部材6」について a 「ストレーナ押え部材6」の意義 構成要件Cにおけるストレーナ押え部材6は,上部に円形透孔8を有すること以外に特段の限定がない。被告は,構成要件Cのストレーナ押え部材6は,ノズルを液密状態にするためのOリングを備えたものを含まないものに限ると主張するが,本件明細書には,そのように限定して解釈する根拠はなく,Oリングの付加は,当業者が本件発明を実施するに当たり適宜考慮すべき設計事項にすぎないから,被告の主張は失当である。
b 対比 被告ノズルにおいて,ノズルカラー6’は,円形透孔8’を有し,ストレーナ押え部材6に該当する。したがって,被告ノズルは,構成要件Cを充足する。
(イ) 「ストレーナ5」について a 「ストレーナ5」の意義 構成要件Cにおける「ストレーナ5」は,以下のとおり,液体の濾過機能を有すものであれば足りると解すべきであって,ノズル内部の液体の保持機能を有するものを排除すべきであると解する根拠はない。
すなわち,本件発明において,「ストレーナ5」の機能の一つが液だれ防止にあることは,当業者であれば容易に理解し得ることである。液体充填機のノズルにおいて液だれが生じるのは,ノズル内に空気が混入するということに由来する。空気が混入すると,充填量のばらつきや発泡などノズルの作用効果に重大な悪影響を及ぼすことから,この種の液体充填装置のノズルは,液だれ防止機能を当然に備えている。特に,粘度の低い液体の場合,ストレーナ1枚では液だれ防止ができないこともあるから,複数枚のストレーナが必要になることがある。本件明細書の実施例でも,「5は内鍔4によって角筒体1の内部下端に保持された複数枚のストレーナ」(本件明細書2頁右欄2ないし4行目)と複数のストレーナの使用を予定しているが,これは,原告が本件出願時にそのような事態を想定していたことを裏付けている。
すなわち,原告は,本件出願時に液だれを防止する必要性を認識し,そのためにストレーナ5を本件発明の構成要件としたのであるから,ストレーナ5の機能が,液体の濾過に止まり,液だれ防止を含まないということはあり得ない。この点の被告の主張は,失当である。
b 対比 被告ノズルの構成c2における丸形メッシュ5'b と角形メッシュ5'a は,本件発明の構成要件Cのストレーナ5に当たるから,構成要件Cを充足する。
(被告の反論) (ア) 構成要件Cの「ストレーナ押え部材6」について a 「ストレーナ押え部材6」の意義 「ストレーナ押え部材6」は,以下の理由により,ノズルを液密状態にするようなものを除外するものと解すべきである。
すなわち,本件明細書の特許請求の範囲,発明の詳細な説明及び実施例図面のいずれを見ても,角筒体1とストレーナ押え部材6との関係から,ノズルの内部を液密状態にすることを示唆する記載はない。
特許公報(甲2)の図面によれば,角筒体1の内面とストレーナ押え部材6の外周面とは,接触しているように見えるが,角筒体1とストレーナ押え部材6を液密状態にするために,Oリング等何らかの手段が示されていない限り,両部材間には,その組立を可能とするための適当なクリアランスが設けられていると解するのが常識的である。そうすると,本件発明に係るノズルは,液体を常時充満させることを予定していないというべきである。
b 対比 被告ノズルの構成c1のノズルカラー6’は,角筒体1’との隙間を塞ぐためのOリング18を設けて,ノズルの内部を液密状態に保つ機能を有する。
被告ノズルにおいては,Oリングと丸形,角形の上下のメッシュの組合せが,ノズルに対して,液体充填時に液体の浸出を防止し,かつまた,充填待機時に液体を充満・保持するのに必要不可欠のものであり,単なる構成の付加にとどまるものではない。
したがって,被告ノズルは,「ストレーナ押え部材6」を具備しないので,構成要件Cを充足しない。
(イ) 「ストレーナ5」について a 「ストレーナ5」の意義 構成要件Cにおける「ストレーナ5」は,以下の理由から,液体の濾過を行うもののみを指し,ノズル内部の液体の保持を行うものを含まないと解すべきである。
本件明細書には,ストレーナ5について,液だれを防止するとの機能を示唆する記載はなく,単に「ストレーナの交換ないし洗浄のため」(本件明細書1頁右欄27行目),「ストレーナ5を交換ないし洗浄する場合」(本件明細書2頁右欄26行目),「ストレーナ5の交換ないし洗浄のため」(本件明細書2頁右欄37,38行目)との記載があるだけである。「洗浄」という文言が用いられたのは,ストレーナが濾過を行うことを前提として,つまった物を「洗浄」する必要があるからであること,液だれ防止を主目的とするならば,「ストレーナ」(濾過器)という文言は使用されないことからも,「ストレーナ5」は,液体の濾過を行うものに限定されると解されるべきである。
b 対比 被告ノズルは,液体充填時に液体の外部への浸出を防止するとともに充填待機時にノズル内に液体を充満・保持するため,角筒体1’とノズルカラー6’の間の隙間を塞ぐOリング18を介在させるとともに,ノズルカラー6’内の上下にそれぞれ丸形メッシュ5'b と角形メッシュ5'a を配置して保持力を高めている。
したがって,被告ノズルの構成c2の丸形メッシュ5'b と角形メッシュ5'a は,ノズル内部の液体を保持するものであって,構成要件Cのストレーナ5とは技術的意義が異なる部材であるから,ストレーナ5に当たらない。被告ノズルは,構成要件Cを充足しない。
(2) 損害額 (原告の主張) 特許法(以下「法」という。)102条2項により,被告の以下の利益額が,本件特許権侵害によって被った原告の損害額と推定されるべきである。
ア 被告の販売に係る液体充填機(被告ノズルを搭載したものと搭載していないものの両者を含む。)の販売額 被告主張の被告液体充填機の販売台数は信用できない。以下のとおり,被告による液体充填機の販売額に基づき,損害額を計算すべきである。
平成3年1月1日から平成14年8月26日までの年度ごとの被告の液体充填機の販売額は,以下のとおり,平成3年1月1日から平成13年12月31日までが合計106億6390万円,平成14年1月1日から同年8月26日までが4億8904万1096円であり,合計販売額は111億5294万1096円となる。
年度 販売額 平成 3年 8億3600万円 平成 4年 10億6000万円 平成 5年 11億2000万円 平成 6年 10億9990万円 平成 7年 11億3820万円 平成 8年 8億7820万円 平成 9年 9億8680万円 平成10年 8億2850万円 平成11年 10億9630万円 平成12年 8億3000万円 平成13年 7億9000万円 平成14年 4億8904万1096円 (平成14年の算式:7億5000万円×238/365) 合 計 111億5294万1096円 イ 被告ノズルを搭載した液体充填機の販売額 弁論の全趣旨によれば,被告ノズルを搭載した液体充填機(以下「被告液体充填機」という。)は,被告の販売した液体充填機のうちの9割であると推認される。したがって,被告液体充填機の平成3年から平成14年8月までの販売額の総額は,以下の@,Aの合計額である100億3764万6986円となる。
@ 平成3年1月1日から平成13年12月31日まで 95億9751万円 (106億6390万円×0.9=95億9751万円) A 平成14年1月1日から同年8月26日まで 4億4013万6986円 (4億8904万1096円×0.9≒4億4013万6986円) ウ 被告液体充填機の販売台数に関する被告の主張について (ア) 被告は,別紙「被告製品の販売内訳」の原告主張欄(右側)記載のとおり,少なくとも55台の被告液体充填機を販売している。被告液体充填機の販売等の詳細(納入年月,販売先,機種名,能力,標準価格)は,同原告主張欄記載のとおりである。
(イ) 被告は,6台については他社が製造し,14台については大日本印刷株式会社(以下「大日本」という。)が充填部を製造したと主張する。
しかし,被告液体充填機は,被告が製造,開発したものであり,大日本は,被告の製造に係る被告ノズルについて,サーボモーターによる駆動システムを提供したにすぎず,実質的に製造,販売に関与したのではない。仮に,大日本が,充填部を製造したとしても,被告と大日本は,被告の液体充填機の製造のために,企画し,事前に設計情報を交換し,協議を重ねた上で,完成させた。したがって,被告は大日本との共同不法行為責任を負うべきであるから,上記20台を含めるべきである。
エ 被告液体充填機の製造,販売についての利益率 被告液体充填機を販売することによる被告の利益率は,以下のとおり,30%を下らない。すなわち,被告の利益率は明らかでないが,同種の製品における原告の利益率について,その販売価格から製造原価(固定費及び変動費の両者を含む。)を控除した額の販売価格に対する割合を算定すると,30%であるから,被告の利益率も,同様であると推認される。
オ 法105条の3の適用について 被告は,被告ノズルの販売台数及び販売価格を隠そうとしており,本件訴訟において被告の明らかにした販売台数及び販売価格は,到底信用することができない。
被告ノズルの販売数量,販売価格など,被告による原告の特許権侵害によって原告の被った損害を立証するための資料のすべては,被告の支配下にあり,原告がこれらを入手することは不可能であるから,本件においては,法105条の3に基づき,上記ア,イ,エのとおりの算定方法により相当な損害額を認定すべきである。
カ 寄与率について 液体充填機においては,充填能力こそが重要な要素であるから,被告ノズルの液体充填機に占める寄与率は100%と解すべきである。
キ 弁護士費用 弁護士費用は,上記損害額の1割が相当である。
ク 結論 被告液体充填機の販売額に利益率を乗じた額に,弁護士費用相当額を加算した額は,以下のとおりである。
(ア) 平成3年1月1日から平成13年12月31日まで 31億6717万8300円 算 式 95億9751万円×0.3×(1+0.1) =31億6717万8300円 (イ) 平成14年1月1日から同年8月26日まで 1億4524万5206円 算 式 4億4013万6986円×0.3×(1+0.1) =1億4524万5206円 (ウ) まとめ 原告は被告に対し,(ア),(イ)の合計額33億1242万3506円,及び内金31億6717万8300円については平成13年12月31日から,内金1億4524万5206円については平成14年8月26日(いずれも不法行為の日の後の日)から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
(被告の反論) 上記原告の主張をいずれも争う。
ア 被告液体充填機の販売台数について 被告は,別紙「被告製品の販売内訳」被告主張欄(左側)記載のとおり,被告液体充填機を23台販売した。
原告が,具体的に被告ノズルを搭載した被告液体充填機の販売であると主張するその余の32台は,別紙「被告製品の販売内訳」右側認否欄記載のとおり,被告は,製造,販売を行っていない。その理由の内訳は,以下のとおりである。
@ 他社製 6台 A 丸ノズル搭載機 8台 B 充填部大日本製 14台 C 該当機なし 3台 D ケーサー 1台 E 以上合計 32台 イ 被告液体充填機の製造,販売についての利益率について (ア) 被告ノズルは,液体充填機の一部であり,被告ノズルの製造・販売によって被告が得た利益を直接把握することはできない。
被告の平成7年から14年までの間の決算書の損益計算書から,被告全体の利益を求めると,同期間の平均利益率は,別紙中部機械損益計算推移表のとおり,13.76パーセントである。
(イ) 控除すべき経費について 販売費・一般管理費として計上されている科目のうち,販売員旅費,広告宣伝費,発送配達費,通信交通費は,被告液体充填機その他の製品を販売するために直接要した経費であり,当該製品の売上の増減にによって変動する経費である。また,事務員給与のうちおよそ2分の1は,受注のあった製品のメンテナンスに投入された人員の人件費であり,売上の増減によって,変動する経費である。したがって,これらの経費は,被告が得た売上総利益から控除されるべき変動経費であり,その金額は別紙中部機械損益計算推移表のうちの変動経費欄記載のとおりとなる。
ウ 寄与率について 液体充填機は多数の工程からなり,液体充填機における角ノズルの重要性は低いから,寄与率はゼロである。
争点に対する判断
1 構成要件充足性について (1) 構成要件Bの充足性 ア 「角筒体1」の意義 (ア) 本件明細書の構成要件Bには,「雌ねじ体10の下端に設けられた角筒体1と」と記載され,他に何らの限定がないことからすれば,同構成要件の「角筒体1」は,その下部に何らの装置も施されていないものに限定されると解すべき根拠はない。
(イ) この点について,被告は,「角筒体1」は,ストレーナ押え部材6でストレーナ5を保持することができない構造のもののみを指すと理解すべきであると主張する。しかし,本件明細書の実施例において,「4は角筒体1の下端内側に設けられた内鍔,5は内鍔4によって角筒体1の内部下側に保持された複数枚のストレーナ」と記載され(本件明細書2頁右欄1ないし4行目),角筒体1の下端内部に内鍔4を設け,ストレーナ5を保持する構成が開示されていることから,被告の主張に係る前提は理由がないので,採用できない。
イ 対比 被告ノズルの構成bによれば,被告ノズルの角筒体1’は,雌ねじ体10’の下端に設けられ,内面が角部丸み付き四角形状でその内面の最下部に内方突出状のフランジ部4’を有する。したがって,被告ノズルの角筒体1’は,本件発明の構成要件Bの角筒体1に該当する。
(2) 構成要件Cの充足性 ア ストレーナ押え部材6について (ア) ストレーナ押え部材6の意義 ストレーナ押え部材6について,本件明細書の構成要件Cには,「上部に円形透孔8を有するストレーナ押え部材6によって角筒体1の内部下端に保持されたストレーナ5と」と, 「発明の詳細な説明」欄には,従来技術に関して,「ノズルの先端部にストレーナを簡単に取付けないし取外すことはできなかった」(本件明細書1頁右欄22ないし24行目)ところ,「ノズル先端部の有効面積を大きくするとともに,ストレーナ交換ないし洗浄のためにノズルの先端部にストレーナを簡単に取付けないし取り外すことができるように,円筒形のノズル本体に角形の先端部を設けた構造を提供することを目的とする。」(本件明細書1頁右欄26ないし2頁左欄3行目)と,作用に関して,「ストレーナ5の交換ないし洗浄のためにストレーナ5をノズル本体12から取り外す作業が,雌ねじ体10と雄ねじ体15の螺着を外して溝部11と突条3の嵌合および嵌入突縁13と円形透孔8の嵌合を簡単に外すだけで,極めて簡便になし得る。」(本件明細書2頁左欄24ないし29行目)と,それぞれ記載されている。
以上の記載に照らすと,ストレーナ押え部材6は,構成要件Cの記載どおり,上部に円形透孔8を有すること以外に格別の限定はないというべきである。
この点について,被告は,本件明細書の「発明の詳細な説明」欄に,「嵌入突縁13の周面には環状溝16が形成され,同溝内にOリング17が嵌入されている。」(本件明細書2頁右欄17ないし19行目)と記載され,図面にもその旨図示されているのに対して,角筒体1とストレーナ押え部材6の間には,このような記載がないことに照らすと,構成要件Cのストレーナ押え部材6は,Oリングを備える等のノズル内部を液密状態にする構成を意図的に除外していると解すべきである旨主張する。しかし,本件発明に係る実施例の図面において,他の部材相互の嵌合部分にOリングが付加された記載があり,角筒体1とストレーナ押え部材6の間にOリングが付加された記載がなかったからといって,液密状態にするためのシール機構を設ける構成を意図的に除外したと解することは到底できないから,被告の上記主張は理由がない。
(イ) 対比 被告ノズルの構成c1,hによれば,被告ノズルのノズルカラー6’は,円形透孔8’を頂壁7’の中央に有するとともに,ノズル本体12’の嵌入突縁13’がノズルカラー6’の円形透孔8’にはめ込まれている。したがって,被告ノズルのノズルカラー6’は,構成要件Cにおけるストレーナ押え部材6に該当する。
なお,被告ノズルのノズルカラー6’には,Oリング18が嵌入されているが,上記ノズルカラー6’の構成からすると,付加的な構成と認められ,上記判断に影響を及ぼすものではない。
イ ストレーナ5について (ア) ストレーナ5の意義 本件明細書の構成要件Cには,「角筒体1の内部下端に保持されたストレーナ5」と,「発明の詳細な説明」欄には,「ストレーナの交換ないし洗浄のためにノズルの先端部にストレーナを簡単に取付けないし取外すことができるように,円筒形のノズル本体に角形の先端部を設けた構造を提供することを目的とする。」(本件明細書1頁右欄27ないし2頁左欄3行目)と,実施例として「内鍔4によって角筒体1の内部下端に保持された複数枚のストレーナ」(本件明細書2頁右欄2ないし4行目)と,それぞれ記載されている。
以上の記載によれば,構成要件Cのストレーナ5は,液体の濾過作用を有するものであれば足り,ノズル内部に液体を保持する作用を行うものを排除すべきであると解することはできない。
(イ) 対比 被告ノズルの構成c2によれば,角形メッシュ5'a は,角筒体1’の最下部にある内方突出状のフランジ部4’との間に保持されたものであり,本件発明のストレーナ5に該当する。
ウ 結論 上記ア,イによれば,被告ノズルは,本件発明の構成要件Cを充足する。
(3) 小括 弁論の全趣旨,及び上記(1),(2)によれば,被告ノズルは,本件発明の構成要件をすべて充足する。
2 損害額の算定 (1) 被告液体充填機の販売台数 ア 被告が被告ノズルを搭載した液体充填機の販売台数 (ア) 販売台数 被告が,別紙「被告製品の販売内訳」記載の13台(番号3,15,16,22,23,25,27,32,33,35,39,41,43)の液体充填機に,被告ノズルを搭載して販売したことについては当事者間に争いがない。
また,弁論の全趣旨によれば,被告が,別紙「被告製品の販売内訳」記載の10台の液体充填機(番号4,21,36,38,40,45ないし47,50,51)に被告ノズルを搭載して販売したことが認められる。
(イ) その他の液体充填機について 原告は,別紙「被告製品の販売内訳」記載の上記(ア)以外の液体充填機について,被告が被告ノズルを搭載した液体充填機を販売したと主張する。
しかし,本件全証拠によるも上記事実を認めるに足りる証拠はない。
のみならず,証拠(乙20,23ないし26,枝番号の表記を省略する。)によれば,以下のaないしfの各事実が認められる,これらの事実によれば,別紙「被告製品の販売内訳」の番号8ないし11,18ないし20,26,28,37,42,44,48,49については,充填部を製造したのは,被告ではなく,大日本であると認められる。
a 液体充填機においては,紙パックに液体を充填する際に初めから液体を勢いよく吐出すると,液体が跳ね出たり,液体が接着部に付着したりするため,充填する液体の流速を制御する必要がある。大日本は,平成5年ころまでに,液体の流速制御についてサーボモータを利用する技術を開発し,サーボ駆動を制御する電装関係も新たに導入した。
b 被告は,小山本家酒造向けの液体充填機(別紙「被告製品の販売内訳」記載の番号8)を製造する際に,販売を担当する大日本から,充填部をサーボ駆動制御にするよう要請されたが,当時被告は,これに応じるだけの技術力がなかった。
c 平成5年当時,被告は,厚木エンジニアリングにも液体充填機を納入していたが,厚木エンジニアリングは,凸版印刷株式会社(以下「凸版印刷」という。)の子会社であり,凸版印刷と大日本は競合関係にあったため,大日本は,被告から厚木エンジニアリングを通して,サーボ駆動制御の技術が凸版印刷に流出することを恐れて,上記小山酒造向け液体充填機の製造について,充填部を自ら製造することとして,被告を一切関与させず,電装関係の図面を被告に交付しなかった。
d 平成11年に至り,被告は,上記サーボ駆動制御の技術を完成させ,別紙「被告製品の販売内訳」記載の番号36の液体充填機(平成11年3月コーシン乳業に納入した液体充填機,型番RMH-218L)について,充填部も含めて製造,販売した。
e 平成11年以降,被告は,大日本から,液体充填機の製造につき注文を受けることがあったが,液体充填機のすべてにつき,被告自らが充填部を製造したわけでなかった。
f 別紙「被告製品の販売内訳」記載の番号49の液体充填機(型番DLA-60M)は,平成13年9月に,被告が宝酒造に販売するため,大日本から受注した製品であるが,大日本と被告との間の打ち合わせ確認事項には,充填部に関する記載がない。
イ 大日本との共同不法行為の成否 原告は,仮に大日本が充填部を製造したとしても,被告は大日本と共同不法行為責任を負うと主張する。
上記ア認定の事実に証拠(甲7,11,24ないし26,39,乙24)及び弁論の全趣旨を総合すれば,被告は,年間の販売額が10億円程度,従業員数30ないし40名程度の規模の会社であり,原告と比べた場合,年間販売額が20分の1程度にすぎないこと,液体充填装置メーカーである被告と,包装資材販売業者である大日本とは緊密な関係にあるものの,事業態様及び状況に照らして,被告は大日本の下請的な立場であったこと,被告は,大日本が販売する液体充填装置の充填部については,詳細を知らされていなかったこと等の事実が認められる。
以上によれば,被告は,大日本が製造販売した充填部については,企画,設計,製造等に関与したとはいえないから,仮に,大日本が被告ノズルと同型のノズルを製造し,これを搭載した液体充填機を販売したとしても,被告が大日本との共同不法行為責任を負うことはないというべきである。
(2) 被告液体充填機の販売額 ア 上記(1)アで認定した液体充填機の販売台数は合計23台となる。このうち,別紙「被告製品の販売内訳」記載の番号22,23,25,32,33,36,38ないし41,43,45ないし47,50,51の液体充填機の販売額は,販売価格欄記載の金額のとおりである。
イ その余の別紙「被告製品の販売内訳」記載の番号3,4,15,16,21,27,35の液体充填機については,別紙「被告製品の販売内訳」の販売価格欄各記載の金額をもって販売額と認めるのが相当である。
ウ 上記ア,イにより,別紙「被告製品の販売内訳」記載の被告液体充填機の販売額を合計すると,11億9286万2000円となる。
(3) 被告液体充填機の製造,販売に係る被告の利益率 ア 被告の販売額,原価,販売管理費等 被告の平成7年から同14年までの間の決算書の損益計算書(乙28ないし35)によれば,上記期間における被告の総販売額,売上原価,販売管理費の額は,それぞれ別紙中部機械損益計算表の該当欄記載のとおりであると認められる。
イ 控除すべき経費 法102条2項所定の利益額については,被告液体充填機の販売額の増減に応じて変動する経費を控除すべきである。
証拠(甲21,22,乙24,28ないし35)及び弁論の全趣旨によれば,被告の販売費及び一般管理費のうち,販売員旅費,販売員給与(ただし,平成11年度以降のみ計上されている。),広告宣伝費,発送配達費は,被告ノズルを含む液体充填機の販売のために要する費用であると解されるから全額を,事務員給与は,メンテナンスに投入された従業員費用の性質を有する2分の1を,利益率を算定するに当たり,経費として控除するのが相当である。他方,通信交通費については,被告液体充填機の売上げの増減と関係すると認めるべき証拠がないから,控除すべきではない。
ウ 小括 上記アの総販売額から売上原価を控除し,さらにに上記イの経費を控除した被告の各年度ごとの利益額は,別紙中部機械損益計算表の差引利益欄記載の金額となる。
そして,差引利益を総販売額で除した各年度ごとの利益率は,別紙中部機械損益計算表記載のとおりであり,これらを平均すると,同期間の平均利益率は,16.84%となる。被告が,被告ノズルを搭載した液体充填機を販売した期間は,平成4年から平成13年までであり,上記平均利益率をもって,被告の利益率とした。
これに対し,原告は,原告の利益率が30%であるから,被告の利益率も30%を下らないと主張する。しかし,本件全証拠によっても,被告の利益率が,30%を下らないとする事情を認めることはできず,原告の主張は採用し得ない。
(4) 被告ノズルの被告液体充填機の販売に貢献した寄与率 ア 前提となる事実 証拠(各認定事実の末尾に付した。)によれば,以下の事実が認められ,これに反する証拠はない。
(ア) 本件発明の内容等 a 本件発明は,液体充填機に装備される角形先端部を有するノズル(以下「角ノズル」という場合がある。)に関するものである。本件発明は,@ノズル先端の有効面積を大きくするため,ノズル先端の形状を角形とし,角形先端部を角形口部に差込むことで液体の充填を速やかに行えるようにするもので,Aストレーナの交換ないし洗浄のためにノズルの先端部にストレーナを簡単に取付けないし取外すことができるように,円筒形のノズル本体に角形の先端部である角筒体1を設け,内部の螺着を外して角筒体1の突条3と雌ねじ体10の溝部11の嵌合を外して簡単に取り外せるようにしたものである(甲2)。
b 本件発明の実施品である角ノズルは,原告の製造販売する液体充填機においては,遅くとも昭和58年から搭載され,従来技術である丸ノズルに取って代わり基本的な仕様となっている(甲19,23の1,23の2)。
(イ) 本件発明に係る角ノズルの液体充填機の能力向上に対する寄与等 a 昭和61年2月から平成14年10月までの間に,原告会社の液体充填機等のカタログにおいて,本件発明に係る角ノズルについて触れた記載はない(乙3ないし19)。しかし,上記被告カタログ(乙3ないし19)及び原告カタログ(甲12,13)においても,1時間当たりの充填可能パック数が宣伝材料として使われている。
b 被告の液体充填機の1時間当たりの充填可能パック数(500〜1000mlのスタンダードカートンについて,1列,1ピッチ送りの標準的な液体充填機を対象とする)は,昭和58年から平成元年までは2000個であったところ,平成2年に2500個に,同3年からは3000個に増加した(甲20の1ないし18)。また,上記充填能力の向上は,原告においては,本件発明に係る角ノズルを搭載して初めて達成し得たと解することができる(甲19)。もっとも,液体充填機の充填能力を上げることは,コストを考慮しなければ,ノズルの本数を増やすことによっても達成できる(本件明細書1頁右欄2ないし3行目)。
c 別紙「被告製品の販売内訳」記載によれば,被告が被告ノズルを付して販売した液体充填機のうち,12台の充填能力は,1時間当たり,1500個(5台),2000個(1台),2400個(1台),2500個(4台),3000個(1台)である。
(ウ) 標準的な液体充填機の工程 a 液体充填機構は,通常,以下のとおりの工程及び装置から構成される(乙27)。
第1工程 紙パックの材料のストック装置 第2工程 紙パックの材料引き起こし装置 第3工程 紙パックの底部形成装置(くせ折・底部加熱・底部シール) 第4工程 紙パックの上部くせ折装置 第5工程 液体充填装置 第6工程 紙パック上部閉函(上部加熱・上部シール) なお,全工程にわたって,自動送り装置及び各装置の制御装置がある。
b この点について,被告は,上記のほか,第4工程として口栓装着装置,第8工程として日付刻印装置があると主張する。しかし,口栓装着装置については,乙27の充填装置にも備わっておらず,他にもこれを認めるべき適切な証拠がなく,第8工程とする日付刻印装置も,液体充填装置の機能からして,顧客の要望に応じ,製造当初から付加されることがあるにせよ,必須のものとは認められないというべきである。
また,原告は,液体充填機の構成は,@紙容器成形機構,A液体内容物充填機構,Bその他附帯機構の3つの機構であると主張し,それに沿う内容の陳述書(甲36)を提出する。しかし,甲36においても,第4工程の上部くせ折装置は,紙パックの底部形成装置と本質的に同じ作業であるとし,第6工程の紙パック上部閉函装置とあわせ一つの工程であるとするものにすぎない。
c 充填ノズルは,上記第5工程の液体充填装置の一部であり,液体充填装置は,液体を送液配管からためる装置,充填タンクから充填液を取り分けるのをコントロールする部分,充填シリンダー等の駆動部分,配管部分等からなる(弁論の全趣旨)。
イ 判断 以上の事実,すなわち,@被告ノズルである角ノズルは,液体充填機の中では,充填部のうちの一部であること,A液体充填機は,紙パックの組立,成形から充填,封緘までの一連の過程を行う大型機械であり,充填部の他にも多数の工程,自動送り装置,制御装置等からなること,B液体充填機の販売においては,時間当たりの充填能力(充填可能パック数)が重視されていること,C充填能力は,充填部以外の紙パックの搬送部分の能力等の影響を受けるものの,角ノズルによる充填能力の影響も大きいとみられること,D原告において,角ノズルを充填能力に結びつけて宣伝をした例はないこと等の事情を総合考慮すると,本件発明に係る角ノズルの液体充填機に対する寄与率を20%とするのが相当であると認められる。
(5) 小括 上記によれば,被告が原告の特許権侵害により得た利益の額は,下記のとおりとなり,同額をもって,原告の被った損害額と推定することができる。
11億9286万2000円×0.1684×0.2 ≒4017万5592円(円未満切り捨て) (6) 弁護士費用 本件事案の内容等,諸般の事情を考慮すると,本件特許権侵害相当因果関係のある損害としての弁護士費用は,400万円が相当である
結論
以上のとおり,原告の本訴請求は,被告に対し,損害金合計4417万5592円及びこれに対する不法行為の日の後(被告ノズルの販売は,いずれも平成13年9月以前のものである)であり,原告の求める平成13年12月31日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を支払いを求める限度で理由がある。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 榎戸道也
裁判官 今井弘晃