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審判番号(事件番号) データベース 権利
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関連ワード 実施 /  権原 /  構成要件 /  侵害 /  損害額 /  実施料 /  相当因果関係 /  不法行為(民法709条) /  実施権 /  実施許諾(実施の許諾) /  請求の範囲 / 
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事件 平成 20年 (ワ) 8049号 損害賠償請求事件
三重県桑名市<以下略>
原告ド ーエイ外装有限会社
同訴訟代理人弁護士大津卓滋
同 原田活也
同 黒崎祥
同 中野大仁 東京都北区<以下略>
被告株 式会社イデアテック
同訴訟代理人弁護士山本哲男
同 千田適
同 釜田佳孝
同 徳村初美
同 奥村太朗
同 櫛田和代
同 藤澤泰子
同 補佐人弁理 士玉田修三
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2008/11/27
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1被告は,原告に対し,金6万5364円及びこれに対する平成20年4月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2原告のその余の請求を棄却する。
3訴訟費用は,これを50分し,その49を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。
24この判決は,原告勝訴部分に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
全容
第1請求被告は,原告に対し,金300万円及びこれに対する平成20年4月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要本件は,原告が被告に対し,被告が病院の増床工事の現場で設置した床用目地装置が原告の有する特許権を侵害すると主張して,不法行為に基づき損害賠償金300万円及びこれに対する不法行為の日の後である平成20年4月11日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1前提となる事実(1)当事者原告は,「1.建築工事2.建築材料の製造及び販売3.建築技術の提供.施工及びその保証4.建築金物の特許権等の取得及びその実施5.不動産賃貸業6.前各号に付帯する一切の業務」を目的とする有限会社である。(弁論の全趣旨)被告は,「1.建築金物の設計、製作、施工、販売事業2.ビル用及住宅用サッシの設計、製作、施工、販売事業3.防水工事の設計、施工事業4.前各号に附帯する一切の業務」を目的とする株式会社である。(弁論の全趣旨)(2)原告の特許権原告は,次の特許権(以下「本件特許権」といい,その特許請求の範囲請求項1の発明を「本件発明」という。)を有している。(争いのない事実,甲1,2)特許第3445218号3出願番号特願2000-106119出願日平成12年4月7日公開番号特開2001-288825公開日平成13年10月19日登録日平成15年6月27日発 明 の 名 称床用目地装置特許請求の範囲【請求項1】「目地部を介して建てられた左右の建物の目地部側の床面に形成された該目地部に開口する左右の凹部と、両端部が前記左右の凹部のほぼ中央部に位置する、該左右の凹部内をスライド移動する可動目地プレートと、この可動目地プレートの中央部を前記目地部の中央部に常時位置させる、前記左右の建物の目地部側の躯体に両端部が取付けられた中央維持機構と、前記左右の凹部を覆うように前記左右の建物の床面を形成する躯体に取付けられた先端部が前記可動目地プレートに支持される左右のカバープレートと、この左右のカバープレート間の隙間を覆う該左右のカバープレートの上面とほぼ同じ上面となるように前記可動目地プレートに上下移動可能に支持された中央カバープレートと、地震等によって前記目地部が狭くなると前記中央カバープレートを前記左右のカバープレートの押し圧によって自動的に上昇させる中央カバープレート押し上げ機構とからなることを特徴とする床用目地装置。」(3)構成要件の分説本件特許権は,次のとおり分説される。(争いのない事実)A目地部を介して建てられた左右の建物の目地部側の床面に形成された該目地部に開口する左右の凹部と,4B両端部が前記左右の凹部のほぼ中央部に位置する,該左右の凹部内をスライド移動する可動目地プレートと,Cこの可動目地プレートの中央部を前記目地部の中央部に常時位置させる,前記左右の建物の目地部側の躯体に両端部が取付けられた中央維持機構と,D前記左右の凹部を覆うように前記左右の建物の床面を形成する躯体に取付けられた先端部が前記可動目地プレートに支持される左右のカバープレートと,Eこの左右のカバープレート間の隙間を覆う該左右のカバープレートの上面とほぼ同じ上面となるように前記可動目地プレートに上下移動可能に支持された中央カバープレートと,F地震等によって前記目地部が狭くなると前記中央カバープレートを前記左右のカバープレートの押し圧によって自動的に上昇させる中央カバープレート押し上げ機構Gとからなることを特徴とする床用目地装置。
(4)被告の行為被告は,平成19年11月5日から平成20年2月7日までの間,さいたま市大宮区<以下略>所在の自治医科大学附属さいたま医療センター病床増築等工事の現場において,受注した金物一式工事(以下「本件金物工事」という。)を施工し,床エキスパンションジョイント(なお,エキスパンションジョイントを,以下「EXPジョイント」という。)工事(以下「本件EXPジョイント工事」という。)として,別紙被告装置目録記載の装置(以下「被告装置」という。)を設置した。(争いのない事実,乙3)(5)被告装置の構造及び本件発明との対比被告装置の構造は,別紙被告装置目録記載の構造aないしf及び別紙装置図面のとおりであり,被告装置は,床用目地装置として,本件発明のすべて5の構成要件を充足する。(争いのない事実,弁論の全趣旨)2争点原告の被った損害の額第3争点に関する当事者の主張〔原告の主張〕1被告は,本件金物工事を受注して被告装置を設置し(本件EXPジョイント工事),原告の有する本件特許権を侵害した。
被告が本件EXPジョイント工事で受けた利益は300万円を下らないから,被告の不法行為によって原告の被った損害の額も300万円を下らないものと推定される(特許法102条2項)。
2EXPジョイントの工事は,一般的には「金物工事」の名称で,床,天井,壁等のEXPジョイントの工事,これに関連する工事等とともに,必ず一括して発注されている。すると,ある工事がたとえ1個であったとしても,特許製品たるEXPジョイントを設置しなければその目的を達し得ないときには,当該工事を発注しようとする者は,特許権者か特許権者から実施権を付与された者でなければならないから,1個のEXPジョイントにつき特許権侵害が認められるのであれば,当該工事業者は,本来的に金物工事を受注し得なかったにもかかわらず,これを受注して,特許権者に対する関係で違法不当に利益を獲得したことになる。
このように,EXPジョイント工事の実態は,いわば関連工事の不可分一体性があるから,特許法102条2項侵害の行為により受けた利益は,特許権侵害が問題となっている本件EXPジョイント工事の単価のみを基礎に算定すべきものではなく,本件金物工事全体の価格を基礎に算定すべきである。
3仮に,特許法102条2項がそのように解釈できないとしても,結局のところ,特許権者は特許権侵害相当因果関係にある損害につき賠償請求をし得るのであるから,上記のEXPジョイント工事の実態(関連工事の不可分一体6性)を考慮すると,特許権者に当該工事全体に施工能力があると認められるなど相当因果関係を基礎付ける事情が認められる限り,特許権者は,特許権侵害者が受けた利益について,これを本来得られるはずであったのに失った損害として請求し得る。
したがって,本件EXPジョイント工事の代金217万8800円の3パーセントが損害であるとする被告の主張はその前提において誤っている。
〔被告の主張〕1被告が請け負った本件金物工事は,注文書(乙1,2)のとおり,代金総額が2050万円(別途消費税102万5000円)であり,このうち,本件EXPジョイント工事の代金は217万8800円(消費税別)にすぎない。
したがって,本件金物工事における本件EXPジョイント工事の代金額からして,原告の主張するような300万円などという利益はあり得ない。
そして,本件特許権につき第三者に対して実施許諾がされる場合,実施料率は3パーセントが相当であるから,損害額は6万5364円が相当である。
2ビル等の建設工事に際して,床,天井,壁等のEXPジョイント工事がされるとして,それぞれのEXPジョイントには,床,天井,壁ごとに別々の工法や特許が存在する。
したがって,原告の本件特許権を利用しなければ,本件EXPジョイント工事217万8800円分の仕事ができなかったとしても,他の天井や壁のEXPジョイントに係る工事には何らの影響を与えないものであり,特許法102条2項の利益の算定にあたっては,本件EXPジョイント工事部分についての利益をもって判断されるべきである。
また,被告において,本件EXPジョイント工事につき他の工法で工事をすることは可能であったから,本件特許権の侵害なくして工事の受注ができなかったという関係にはない。
3なお,被告の本件金物工事による利益は,工事台帳(乙3)に記載のとおり7であり,これを説明すれば,次のとおりである。
工事総額2124万0000円材料代金日本アルミ製品1041万3144円その他材料(国内)131万8390円中国・諸経費545万7199円計1718万8733円諸経費取付費323万8890円設計費73万9000円計397万7890円利益(率)7万3377円(0.3%)第4当裁判所の判断1前記第2の1前提となる事実に,証拠(乙1〜6)及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の事実が認められる。
(1)被告は,東急建設株式会社と清水建設株式会社の共同企業体から,平成19年3月23日付けで,本件金物工事につき代金2050万円(別途消費税102万5000円)で発注を受け(乙1,2),同日付けで,この注文を請け負った(乙4,5)。
本件金物工事のうち,本件EXPジョイント工事(床EXPジョイント・「渡廊下内部EXP・J金物」「SUS304既製品耐火1時間床-床クリアランス700」)部分の代金は,217万8800円である。
なお,これに相当する壁EXPジョイント(「渡廊下内部EXP・J金物」「SUS304既製品耐火1時間壁-壁クリアランス700」)と天井EXPジョイント(「渡廊下内部EXP・J金物」「SUS304既製品耐火1時間天井-天井クリアランス700」)の各8工事部分の代金は,それぞれ,173万4480円と87万1520円である。(乙1,4)(2)本件金物工事は,取付工程として平成19年11月5日から平成20年2月7日までかかり,代金額は,138万5000円の減額と94万円の増額,68万5000円の増額及び50万円の増額とを経て,合計2124万円となった。(乙3)そして,収支は,材料について,本体として1041万3144円,役物・曲物として131万8390円,中国・諸経費として545万7199円(材料費計1718万8733円)であり,諸経費について,取付費として323万8890円,設計費として73万9000円(諸経費計397万7890円)であって,総合計2116万6623円となり,利益額は7万3377円,利益率は0.3パーセントである。(乙3)(3)被告において,ゼネコンからの注文や受注の取引は,書面ではなく,すべて電子情報化されて,オンラインで行われており,乙第1及び第2号証の注文書,乙第4及び第5号証の注文請書は,オンラインのデジタルベースでされている。また,乙第3号証の工事台帳も,デジタルベースで管理されている。(乙6)2検討原告は,被告が本件EXPジョイント工事で受けた利益は300万円を下らないから,被告の不法行為によって原告の被った損害の額も300万円を下らないものと推定される(特許法102条2項)と主張する。
しかしながら,本件EXPジョイント工事による被告の利益が300万円を下らないことを証する証拠はなく,前記1(2)のとおり,本件金物工事全体の利益額でも7万3377円にとどまるものと認められる。
また,原告は,床,天井,壁等のEXPジョイントの工事が「金物工事」として一括して発注される関係にあり,床に特許製品であるEXPジョイントを9使用しなければ目的を達することができず,金物工事を一括して受注することができなかったから,本件特許権の侵害が問題となっている本件EXPジョイント(床EXPジョイント)工事の単価ではなく,本件金物工事全体の価格を基礎に算定すべきであると主張する。
しかしながら,床に特許製品であるEXPジョイントを使用しなければ目的を達することができないというためには,床のEXPジョイント工事を実施するには必ず特許製品を用いなければならず,他に方法がないといえなければならない。本件において,このような事実を認めるに足る主張立証はないから,本件特許権に係る製品を使用しなければ,本件金物工事を一括して受注することができなかったということはできず,本件金物工事全体の価格を算定の基礎とする根拠はないというべきである。
なお,このことは,特許法102条2項の推定としてではなく,相当因果関係の問題としてとらえても,同様であり,損害額の算定の基礎を本件金物工事全体の価格にまで広げるべき相当性はないものというほかない。
そうすると,原告の損害については,被告の主張するとおり,本件EXPジョイント工事部分の代金額を基礎として,特許法102条3項に基づき算定するのが相当である。そして,弁論の全趣旨によれば,本件特許権につき第三者に対して実施許諾がされる場合,その実施料率を3パーセントとみるのが相当であると認められる。
したがって,原告の損害は,本件EXPジョイント工事部分の代金217万8800円に3パーセントを乗じた6万5364円であるものと認めるのが相当である。
3結論以上によれば,原告の請求は,上記の限度で理由があるから認容し,その余の請求は,理由がないので,棄却することとする。
よって,主文のとおり判決する。
10
追加
11被告装置目録下記aないしfの構造を有する別紙装置図面記載のとおりの床用目地装置。
記a目地部1を介して建てられた左右の建物2の目地部1側の床面に形成された該目地部1に開口する左右の凹部3がある。
b両端部が左右の凹部3のほぼ中央部に位置する,左右の凹部3内をスライド移動する可動目地プレート4が取り付けられている。
c可動目地プレート4の中央部を目地部1の中央部に常時位置させる,左右の建物2の目地部1側の躯体に両端部が取り付けられた中央維持機構5が取り付けられている。
d左右の凹部3を覆うように左右の建物2の床面を形成する躯体に取り付けられた先端部が可動目地プレート4に支持される左右のカバープレート6が取り付けられている。
e左右のカバープレート6間の隙間を覆う左右のカバープレート6の上面とほぼ同じ上面となるように可動目地プレート4に上下移動可能に支持された中央カバープレート7が取り付けられている。
f地震等によって目地部1が狭くなると中央カバープレート7を左右のカバープレート6の押し圧によって自動的に上昇させる中央カバープレート押し上げ機構8が取り付けられている。
12装置図面
裁判長裁判官 阿部正幸
裁判官 平田直人
裁判官 柵木澄子