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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成17行ケ10137審決取消(特許)請求事件 判例 特許
平成17行ケ10319審決取消請求事件 判例 特許
平成14行ケ347審決取消請求事件 判例 特許
平成19行ケ10211審決取消当事者参加事件 判例 特許
平成20ワ25354特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  相違点の認定 /  パリ条約 /  優先権 /  実質的に同一 /  置き換え /  実施 /  設定登録 /  請求の範囲 /  減縮 /  取消決定 / 
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事件 平成 14年 (行ケ) 533号 特許取消決定取消請求事件
原告 トムソン・エス・アー
訴訟代理人弁理士 川口 義雄
同 井上 満
被告 特許庁長官今井康夫
指定代理人 相馬 多美子
同 麻野 耕一
同 高橋 泰史
同 涌井 幸一
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/04/20
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 特許庁が異議2000−70639号事件について平成14年5月31日にした決定を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 主文と同旨 2 被告 (1) 原告の請求を棄却する。
(2) 訴訟費用は原告の負担とする。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯等 (1) 原告は,発明の名称を「記録媒体の光学読取装置」とする特許第2935418号の特許(1986年4月11日フランスにおいてした出願に基づくパリ条約による優先権を主張して,昭和62年3月31日出願,平成11年6月4日設定登録。以下「本件特許」といい,その発明を「本件発明」という。発明の数は1である。登録時の請求項の数は24であり,後記本件第1訂正により18となった。)の特許権者である。
平成12年2月14日及び同月16日,本件特許に対し,特許異議の申立てがなされた。特許庁は,これを異議2000-70639号事件として審理した。原告は,同審理の過程で,平成14年4月19日付けで本件特許の出願の願書に添付された明細書(以下,願書に添付された図面を併せて「本件明細書」という。甲第2号証は,登録時におけるその内容を示す特許公報である。)の訂正の請求をした。特許庁は,平成14年5月31日,この訂正(以下「本件第1訂正」という。)を認めた上で,「特許第2935418号の発明の数1(請求項1ないし18)に係る特許を取り消す。」との決定をし,同年6月24日に,その謄本を原告に送達した。出訴期間として90日が付加された。
(2) 訂正審決の確定 原告は,本訴係属中,平成15年1月15日付けで,本件明細書につき,特許請求の範囲の訂正を含む訂正の審判を請求した。特許庁は,これを訂正2003-39005号事件として審理し,その結果,平成15年2月19日に上記訂正(以下「本件第2訂正」という。)をすることを認める旨の審決(以下「本件訂正審決」という。)をし,これが確定した。
2 2度にわたる訂正の前後における特許請求の範囲 (1) 本件第1訂正前の本件特許の特許請求の範囲(甲第2号証・特許公報記載のもの) @ 請求項1 トラック追従操作及び/又は焦点合わせ調整動作を可能にするために平坦な記録媒体を光学的に読取る装置であって, 読取ビーム(F1,F2,F3,F4)を放射するレーザ源(1)と, 少なくとも第1及び第2の光検出デバイス(6,7)と, 前記レーザ源と記録媒体を受容するように構成された読取ゾーンとの間に配置されており,該読取ゾーンに読取ビームを放射し,戻って来る検出ビームを受け取り,該受け取った検出ビームを前記光検出デバイスに向けて送るビーム分離器(2)と, 前記ビーム分離器と前記読取ゾーンとの間に配置された集束デバイス(4)とを備え, 前記光検出デバイス(6.7)は,前記レーザ源から放射される読取ビームの伝搬方向(YY’)に垂直な平面上に該レーザ源の両側に該レーザ源に近接して配置されており,前記第1及び第2の光検出デバイスは,記録媒体の平面に関し共役でない同一の面,即ち同一の非焦点面に配置され,前記ビーム分離器は,前記光検出デバイスに同じ強度の回折ビームを提供する位相格子からなることを特徴とする記録媒体の光学読取装置。
A 請求項2 前記二つの光検出デバイスは同じチップ(16)に集積されている請求項1に記載の装置。
B 請求項3 前記レーザ源(1)は,前記光検出デバイスと実質的に同一平面に配置されている請求項1又は2に記載の装置。
C 請求項4 前記第1の光検出デバイス(6)はトラック追従操作を可能にし,前記第2の光検出デバイス(7)は読取ゾーン上での読取ビームの集束を可能にする請求項1から3のいずれか一項に記載の装置。
D 請求項5 記録されたトラックがある方向(XX’)に移動し,前記光検出デバイス(6,7)が,ディスク上の情報の移動の方向に平行に配置される請求項1から4のいずれか一項に記載の装置。
E 請求項6 前記レーザ源の出力を調整すべく,前記二つの光検出デバイスの間に配置された中央光検出デバイスを有する請求項1から5のいずれか一項に記載の装置。
F 請求項7 前記光検出デバイスが記録されたトラックの読取を実行するために使用される請求項1から6のいずれか一項に記載の装置。
G 請求項8 前記レーザ源に向かう前記位相格子のゼロ次の回折を減少させる手段を備える請求項1から7のいずれか一項に記載の装置。
H 請求項9 前記ゼロ次の回折を減少させる手段が1/4波長板を有する請求項8に記載の装置。
I 請求項10 前記1/4波長板が前記分離器と前記読取ゾーンとの間に配置される請求項9に記載の装置。
J 請求項11 前記透明プレート(23)がガラス又はポリマー材料から作られる請求項1から10のいずれか一項に記載の装置。
K 請求項12 前記位相格子が,周囲の屈折率とは異なる屈折率(n)を有しており,溝のネットワークを備える透明プレートからなる請求項1から11のいずれか一項に記載の装置。
L 請求項13 前記溝の深さ(e)が前記レーザ源(1)の放射波長に比例し,且つ剛性の透明プレートと周囲の屈折率の差に反比例する請求項12に記載の装置。
M 請求項14 前記溝(20)が平行な直線状である請求項12又は13に記載の装置。
N 請求項15 前記溝(20)が曲線状である請求項12,13,又は14のいずれか一項に記載の装置。
O 請求項16 前記溝が同心円の一部である請求項15に記載の装置。
P 請求項17 前記溝が同心楕円の一部である請求項15に記載の装置。
Q 請求項18 前記位相格子(20)が平面である請求項1から17のいずれか一項に記載の装置。
R 請求項19 前記位相格子(20)が読取ビーム(F1)の軸(YY’)に垂直である請求項18に記載の装置。
S 請求項20 前記溝が矩形の断面を有する請求項12に記載の装置。
・ 請求項21 前記溝が三角形の断面を有する請求項12に記載の装置。
・ 請求項22 前記溝が鋸歯の形状を有し,溝の一つの畝が透明プレートの面に垂直であり,該畝の高さ(e)に該透明プレートの周囲との屈折率の差(n)を掛け合わせたものが,光ビームの波長に実質的に等しい請求項21に記載の装置。
・ 検出ビームに非点収差効果をもたらす手段を有する請求項1から請求項22のいずれか一項に記載の装置。
・ 前記位相格子が検出ビームに非点収差効果をもたらすように構成されている請求項23に記載の装置。
(甲第2号証) (2) 本件第1訂正後の本件特許の特許請求の範囲 @ 請求項1 トラック追従操作及び/又は焦点合わせ調整動作を可能にするために平坦な記録媒体を光学的に読取る装置であって, 読取ビーム(F1,F2,F3,F4)を放射するレーザ源(1)と, 少なくとも第1及び第2の光検出デバイス(6,7)と, 前記レーザ源と記録媒体を受容するように構成された読取ゾーンとの間に配置されており,該読取ゾーンに読取ビームを放射し,戻って来る検出ビームを受け取り,該受け取った検出ビームを前記光検出デバイスに向けて送る位相格子ビーム分離器(2)と, 前記位相格子ビーム分離器と前記読取ゾーンとの間に配置された集束デバイス(4)とを備え, 前記光検出デバイス(6.7)は,前記レーザ源から放射される読取ビームの伝搬方向(YY’)に垂直な平面上に該レーザ源の両側に該レーザ源に近接して配置されており,前記第1及び第2の光検出デバイスは,記録媒体の平面に関し共役でない同一の面に配置され,前記位相格子 ビーム分離器は,前記検出ビーム を受け取って 前記光検出デバイスに同じ強度の回折ビームを提供し,各回折 ビーム は該位相格子 の共通 のエリア から 放射 される ことを特徴とする記録媒体の光学読取装置。
A 請求項2 前記二つの光検出デバイスは同じチップ(16)に集積されている請求項1に記載の装置。
B 請求項3を削除する。
C 請求項4を請求項3とする。
D 請求項5を請求項4とし,その文言を, 「記録された情報がある方向(XX’)に移動し,前記光検出デバイス(6,7)が,ディスク上の情報の移動の方向に平行に配置される請求項1から4のいずれか一項に記載の装置。」 とする。
E 請求項6を削除する。
F 請求項7を請求項5とする。
G 請求項8を請求項6とする。
H 請求項9を請求項7とする。
I 請求項10を請求項8とする。
J 請求項11を請求項9とする。
K 請求項12を請求項10とし,その文言を, 「前記位相格子が,周囲の屈折率とは異なる屈折率(n)を有しており,溝の形の格子 を備える透明プレートからなる請求項1から11のいずれか一項に記載の装置。」 とする。
L 請求項13を請求項11とする。
M 請求項14を請求項12とする。
N 請求項15を削除する。
O 請求項16を請求項13とする。
P 請求項17を請求項14とする。
Q 請求項18を請求項15とする。
R 請求項19を請求項16とする。
S 請求項20を請求項17とする。
・ 請求項21を請求項18とする。
・ 請求項22ないし24を削除する。
(判決注・下線部が付加訂正部分,( )部が削除訂正部分である。) (以下,決定と同様「本件発明1」,「本件発明2」・・・という。) (3) 本件第2訂正後の本件特許の特許請求の範囲 @ 請求項1 トラック追従操作及び/又は焦点合わせ調整動作を可能にするために平坦な記録媒体を光学的に読取る装置であって, 読取ビーム(F1,F2,F3,F4)を放射するレーザ源(1)と, 少なくとも第1及び第2の光検出デバイス(6,7)と, 前記レーザ源と記録媒体を受容するように構成された読取ゾーンとの間に配置された位相格子 ビーム 分離器 (2)であって ,該位相格子 ビーム 分離器(2)により 偏向 されない ビーム を前記 読取ゾーンに 放射し,戻って来る検出ビームを受け取り,該受け取った検出ビームを前記光検出デバイスに向けて送る,該位相格子ビーム分離器(2)と, 前記位相格子ビーム分離器と前記読取ゾーンとの間に配置された集束デバイス(4)とを備え, 前記光検出デバイス(6.7)は,前記レーザ源から放射される読取ビームの伝搬方向(YY’)に垂直な平面上に該レーザ源の両側に該レーザ源に近接して配置されており,前記第1及び第2の光検出デバイスは,記録媒体の平面に関し共役でない同一の面に配置され,前記位相格子ビーム分離器は,前記検出ビームを受け取って前記光検出デバイスに同じ強度の回折ビームを提供し,各回折ビームは該位相格子の共通のエリアから放射されることを特徴とする記録媒体の光学読取装置。
A 請求項2以下の請求項については,本件第1訂正後のものと同じ。
(判決注・下線部及び( )部が,本件第1訂正後の各請求項との対比において,訂正となる部分である。) 3 決定の理由 別紙決定書の写しのとおりである。要するに,本件発明は,いずれも,特開昭60-129942号公報(甲第3号証,以下「甲3公報」という。決定にいう「引用例1」である。)に記載された発明(以下「甲3発明」という。)と,特開昭60-171644号公報(甲第4号証,以下「甲4公報」という。決定にいう「引用例2」である。)に記載された発明(以下「甲4発明」という。)とに基づき,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件特許は,特許法29条2項に違反してなされたものである,とするものである。
決定が,その結論を導くに当たって認定した甲3発明の内容,本件発明1との一致点・相違点の認定は,次のとおりである。
@ 甲3発明の内容 「トラッキング用及び自動焦点用の光検知器を有する光ディスク用記録,再生ヘッドであって, ビームを放射する半導体レーザチップと, 2つの光検知器と, 半導体レーザチップと光ディスクの間に配置されており,半導体レーザチップのビームが通過し,光ディスクにスポットを形成した光ディスクからの反射光を2つの光検知器に集光する変形偏光プリズムと, 変形偏光プリズムと光ディスクとの間に配置された微少レンズとを備え, 2つの光検知器は,半導体レーザから放射されるビームの方向に光ディスクの平面と共役である同一の面に配置され,変形偏光プリズムは,ディスクからの反射光を光軸に対称に左右に2つの光検知器に集光させ,ビームは変形偏光プリズムの反射面で反射される光ディスクの光ヘッド装置。」(甲第1号証12頁1行目〜12行目) A 本件発明1と甲3発明との一致点 「トラック追従操作及び/又は焦点合わせ調整動作を可能にするために平坦な記録媒体を光学的に読取る装置であって, 読取ビームを放射するレーザ源と, 少なくとも第1及び第2の光検出デバイスと, 前記レーザ源と記録媒体を受容するように構成された読取ゾーンとの間に配置されており,該読取ゾーンに読取ビームを放射し,戻って来る検出ビームを受け取り,該受け取った検出ビームを前記光検出デバイスに向けて送る部材と, 検出ビームを光検出デバイスに向けて送る部材と前記読取ゾーンとの間に配置された集束デバイスとを備え, 前記光検出デバイスは,前記レーザ源から放射される読取ビームの伝搬方向に垂直な平面上に該レーザ源の両側に該レーザ源に近接して配置されており,前記第1及び第2の光検出デバイスは,記録媒体の平面に関し平行な同一の面に配置され,検出ビームを受け取って光検出デバイスに向けて送る部材は,前記検出ビームを受け取って前記光検出デバイスに同じ強度のビームを提供することを特徴とする記録媒体の光学読取装置。」(甲第1号証12頁30行目〜13頁7行目) B 本件発明1と甲3発明との相違点 「1.受け取った検出ビームを光検出デバイスに向けて送る部材が,本件発明1では回折ビームが位相格子の共通のエリアから放射される位相格子ビーム分離器であるのに対して,刊行物1(判決注・甲3公報)の発明ではビームがプリズムの反射面で反射される変形偏光プリズムである点で相違する。
2.光検出デバイスの配置が記録媒体の共役な平面に対し,本件発明1では共役でないのに対し,刊行物1の発明では共役である点で相違する。」(甲第1号証13頁10行目〜15行目) (以下,決定と同様「相違点1」,「相違点2」という。)
原告の主張の要点
1 本件発明の認定の誤り 本件第2訂正により,特許の請求の範囲減縮された。したがって,決定は,結果として,判断の対象となるべき発明の認定を誤ったことになるから,違法として取り消されるべきである。
2 相違点1について判断の誤り (1) 決定は,相違点1について,「回折ビームを同一のエリアの位相格子から2つの光検出デバイス(引用例2(判決注・甲4公報)では光検知器14,15)に対し,同一のエリアから放射する位相格子は引用例2に記載されており,引用例1の発明において,変形偏光プリズムに代えて,位相格子を採用することに阻害要因は認められず,引用例1の発明(判決注・甲3発明)において位相格子を採用することは容易に推考できる。」(甲第1号証13頁18行目〜22行目),としている。
(2) 甲3発明の変形偏光プリズムは,レーザ源1からのビームを通過させ,透過したビームを記録媒体に向けて放射する機能(以下「第1の機能」という。)と,記録媒体で反射されて戻ってくるビームを二つに分割して,二つの光検出デバイス6-1,6-2に向けて放射する機能(以下「第2の機能」という。)という,二つの機能を併せ備えている。
これに対し,甲4公報には,甲4発明の位相格子18が,記録媒体7から反射されたビームを二つの反射光束12,13に分割して,二つの光検出デバイス14,15に導く機能を有することは記載されているものの,レーザ源1からのビームをそのまま通過(透過)させ,透過したビームを記録媒体7に向けて放射すること,すなわち,第1の機能を有することは一切記載されていない。
単に,甲3発明の変形偏光プリズムを,甲4発明の位相格子で置き換えただけでは,正常に動作するものは作れない。
(3) したがって,甲3発明の変形偏光プリズムに代えて,甲4発明の位相格子を採用することに阻害要因はなく,当業者が容易に推考できるとした,決定の判断は誤っている。
3 相違点2についての判断の誤り (1) 決定は,「同一平面の共役点ではない面に二つの光検知器14,15を配置した構成は引用例2(判決注・甲4公報)に記載されており,引用例1の発明(判決注・甲3発明)においても光検知器を共役点を外した面に配置することは当業者が容易推考できるというものである。」(甲第1号証13頁24行目〜26行目),としている。
(2) 甲4公報は,同一平面の共役点ではない面に二つの光検出デバイス14,15を配置する,との技術思想を開示しているものではない。
甲4公報が開示する技術思想は,二つの反射光束12,13が,光軸方向に2ZずれたQ1,Q2において集光することから,Q1,Q2の中間において反射光束12,13の断面光束系が等しくなる所に光検出デバイス14,15を配置する(甲4公報3頁右下欄20行目〜5頁左上欄20行目参照),ということであり,その図10,12,22等において,二つの光検出デバイス14,15が同一平面の共役点ではない面に配置された状態となっているのは,その結果にすぎないものである。
他方,甲3発明において,記録媒体(光ディスク10)からの反射光は,変形偏光プリズム2の反射面5において左右に対称に反射されて集光されるから,二つの反射光の集光点の光軸方向のずれ(2Z)はゼロであり,この二つの反射光の集光点の中間の位置と,二つの反射光の集光点の位置とは同一である。
甲4公報に開示された技術思想を,甲3発明に適用しても,その光検出デバイス6-1,6-2の位置が変動することはなく,光検出デバイスを,共役でない同一の面に配置することにはならない。
決定の相違点2についての判断も、誤りである。
当裁判所の判断
1 本件第2訂正について (1) 本件第2訂正に係る訂正の内容は,第2の2の(3)記載のとおりである。
本件第2訂正により,本件発明1の請求項の文言は, 「トラック追従操作及び/又は焦点合わせ調整動作を可能にするために平坦な記録媒体を光学的に読取る装置であって, 読取ビーム(F1,F2,F3,F4)を放射するレーザ源(1)と, 少なくとも第1及び第2の光検出デバイス(6,7)と, 前記レーザ源と記録媒体を受容するように構成された読取ゾーンとの間に配置された位相格子ビーム分離器(2)であって,該位相格子ビーム分離器(2)により偏向されないビームを前記読取ゾーンに放射し,戻って来る検出ビームを受け取り,該受け取った検出ビームを前記光検出デバイスに向けて送る,該位相格子ビーム分離器(2)と, 前記位相格子ビーム分離器と前記読取ゾーンとの間に配置された集束デバイス(4)とを備え, 前記光検出デバイス(6.7)は,前記レーザ源から放射される読取ビームの伝搬方向(YY’)に垂直な平面上に該レーザ源の両側に該レーザ源に近接して配置されており,前記第1及び第2の光検出デバイスは,記録媒体の平面に関し共役でない同一の面に配置され,前記位相格子ビーム分離器は,前記検出ビームを受け取って前記光検出デバイスに同じ強度の回折ビームを提供し,各回折ビームは該位相格子の共通のエリアから放射されることを特徴とする記録媒体の光学読取装置。」 となった。
本件第2訂正により,本件発明1は,レーザ源から放射される読取ビームは,位相格子ビーム分離器を通過し,その際偏光されず,記録媒体から反射されてくる検出ビームもまた,上記位相格子分離器を通過し,その際二つの光検出デバイスに向けた回折ビームとなって放射される。すなわち,原告がいう,第1の機能と第2の機能とを備えるものと理解されることになる。
(2) 本件第1訂正後,本件第2訂正前の本件発明1の請求項の文言は, 「トラック追従操作及び/又は焦点合わせ調整動作を可能にするために平坦な記録媒体を光学的に読取る装置であって, 読取ビーム(F1,F2,F3,F4)を放射するレーザ源(1)と, 少なくとも第1及び第2の光検出デバイス(6,7)と, 前記レーザ源と記録媒体を受容するように構成された読取ゾーンとの間に配置されており,該読取ゾーンに読取ビームを放射し,戻って来る検出ビームを受け取り,該受け取った検出ビームを前記光検出デバイスに向けて送る位相格子ビーム分離器(2)と, 前記位相格子ビーム分離器と前記読取ゾーンとの間に配置された集束デバイス(4)とを備え, 前記光検出デバイス(6.7)は,前記レーザ源から放射される読取ビームの伝搬方向(YY’)に垂直な平面上に該レーザ源の両側に該レーザ源に近接して配置されており,前記第1及び第2の光検出デバイスは,記録媒体の平面に関し共役でない同一の面に配置され,前記位相格子ビーム分離器は,前記検出ビームを受け取って前記光検出デバイスに同じ強度の回折ビームを提供し,各回折ビームは該位相格子の共通のエリアから放射されることを特徴とする記録媒体の光学読取装置。」 というものである。
上記の文言から理解される本件第1訂正後,本件第2訂正前の本件発明1では,読取ビームが位相格子ビーム分離器を通過する点においては本件第2訂正後のものと同様であるものの,読取ビームが上記通過の際偏光されないか否かは記載されておらず,読取ビームを偏光する位相格子ビーム分離器を備えるものもそうでないものも,本件発明1に含まれることとなる。
以上から,本件第2訂正は,特許請求の範囲減縮するものと認められる。
(3) 決定は,甲3発明の認定において,甲3公報の,「半導体レーザチップ1からのビームは,ウインドを経て,変形偏光プリズム2を通過する。変形偏光プリズム2は本発明のキーエレメントである。半導体レーザチップ1からのビームは,このプリズム2に対し,p-偏光として入射し,99%以上の透過率で透過する。
その後λ/4板3を経て円偏光となり,・・・ディスク10からの反射光は,微少レンズ4に戻り,波長板3を再び通過し,円偏光はS-偏光となって,変形偏光プリズム2に入射する。この時,第2図に示すように,変形偏光プリズム2の反射面5に,S-偏光で入射したビームは光軸を対称に左右に反射され,半導体レーザチップ1の両脇に配置した左右2対の光検出器6-1,6-2上にそれぞれ集光する。」などの記載を引用しつつ(決定書8頁5行目〜18行目参照),原告が引用するとおり「・・・半導体レーザチップと光ディスクの間に配置されており,半導体レーザチップのビームが通過し,光ディスクにスポットを形成した光ディスクからの反射光を2つの光検知器に集光する変形偏光プリズムと,・・・」を備える,としている。
上記のとおり,甲3公報は,半導体レーザチップ1からのビームが,各種光学部品を通る際,その性質を変えるときは,上記のとおり「円偏光となり」,「S-偏光となって」,「光軸を対称に左右に反射され・・・左右2対の光検出器に・・・それぞれ集光する。」と表現している。このことからは,「99パーセント以上の透過率で透過し」とされている変形偏光プリズムは,その入射光を,特段偏光も回折もすることなく,単に通過させるものと解するのが相当である。
決定も,甲3発明の変形偏光プリズムが,半導体レーザチップからのビームはこれを単に通過させ,光ディスクからの反射光はこれを二つに分けて光検知器に集光させるもの,すなわち原告のいう第1の機能と第2の機能とを有するもの,と理解しているものと認められる。
そして,決定は,相違点1についての判断として,「回折ビームを同一のエリアの位相格子から2つの光検出デバイス(引用例2(判決注・甲4公報)では光検知器14,15)に対し,同一のエリアから放射する位相格子は引用例2に記載されており,引用例1の発明において,変形偏光プリズムに代えて,位相格子を採用することに阻害要因は認められず,引用例1の発明(判決注・甲3発明)において位相格子を採用することは容易に推考できる。」,としている。この記載から,決定は,第1の機能と第2の機能とを併せ有する位相格子ビーム分離器を備えた構成に係る,本件発明1の容易推考性を判断したものと認められる。
(4) 以上によれば,決定は,第1の機能と第2の機能とを併せ有する位相格子ビーム分離器を備える構成の発明,すなわち,本件第2訂正後の本件発明1の構成の容易推考性について,既に判断しているということになる。そうである以上,本件第2訂正により,決定が結果として判断の対象となるべき発明の認定を誤ったことになる,ということはない,というべきである。
本件第2訂正の結果,決定が取り消されるべきものとなるとする,原告の主張は理由がない。
2 決定の判断の誤りについて (1) 決定は,甲4発明の認定において,甲4公報の「〔発明の実施例〕」の記載である「以下,この発明の第一の実施例を第10図〜第15図について説明する。・・・」を引用している(決定書9頁28行目)。
甲4公報には,第10図ないし第15図,そのほかの図面を始め,そのどこにおいても,レーザー源,レンズ,4分の1波長板,グレーティングレンズ(手段)が一つの光軸上に配置され,その結果,光ディスクからの反射光だけでなく,レーザー源からの放射光も,上記グレーティングレンズ(手段)を通過する構成は,開示されていない。
(2) 本件特許においては,本件第1訂正及び本件第2訂正の前後を通じて,位相格子ビーム分離器が,第1の機能及び第2の機能を併せ有するための構成として,「【発明の実施の形態】」中の記載ではあるものの,例えば「【0017】該ビーム分離器は例えばガラスから成る透明プレート23を含み,み,溝21及び及び22のごとき溝の格子20が設けられている。同じく透明で例えばガラスから成るプレート25がプレート23に平行に配置され,プレート23とプレート25との間にスペースが形成され,該スペースに液晶のごとき複屈折材料24が充填されている。シール26が液晶を2つのプレート間に維持する。」(甲第2号証3頁右欄20行目〜26行目)を開示している。
甲4公報中に,このような記載はない。
(3) 以上によれば,甲4発明のグレーティングレンズ(手段)は,第1の機能を有してないか,そのような機能を有しているか否か不明であるか,のいずれかである,という以外にない。
そうすると,単に,甲3発明の変形偏光プリズムを,甲4発明の変形偏光プリズムを甲4発明のグレーティングレンズ(手段)に置き換えただけでは,正常に動作しないか,動作するか否か不明であるかのいずれかということになる。
したがって,決定が,「引用例1の発明において,変形偏光プリズムに代えて,位相格子を採用することに阻害要因は認められず,引用例1の発明(判決注・甲3発明)において位相格子を採用することは容易に推考できる。」とした判断には,少なくとも理由の不備があるといわざるを得ない。
(4) 以上のとおりであるから,相違点1についての判断の誤りをいう原告の主張には理由がある。その余の点について判断するまでもなく,決定は取消を免れない。
3 以上によれば,本訴請求は理由がある。そこで,これを認容し,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 若林辰繁
裁判官 高瀬順久