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審判番号(事件番号) データベース 権利
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事件 平成 14年 (ワ) 23590号 特許権侵害差止等請求事件
原告 株式会社ホクエイ
訴訟代理人弁護士 奥野 泰久
補佐人弁理士 鈴江 武彦
訴訟代理人兼補佐人弁理士 中村 誠
同 幸長 保次郎
被告 株式会社サークル鉄工
訴訟代理人弁護士 大場 常夫
補佐人弁理士 原田 信市
同 原田 敬志
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2004/04/23
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告は,別紙「イ号物件目録」記載の製品を製造し,販売してはならない。
2 被告は,別紙「イ号物件目録」記載の製品及びこれらの半製品を廃棄せよ。
3 被告は,原告に対し,1億5520万円及びこれに対する平成14年11月15日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
本件は,「整列苗の分離装置における苗案内体」の発明に係る特許権と「移植機の苗供給装置」の発明に係る特許権を有する原告が,被告に対し,被告の製造販売する移植機が,原告の各特許発明技術的範囲に属すると主張して,各特許権に基づき製造販売等の差止め及び損害賠償を求めている事案である。
被告は,これに対して,@ 被告の製造販売する移植機は原告の各特許発明技術的範囲に属しない,A 原告の各特許権には無効理由があることが明らかであって,これに基づく本訴請求は権利の濫用に当たると主張して,原告の請求を争っている。
1 当事者間に争いのない事実 (1) 当事者 ア 原告は,住宅設備機器製造販売及び修理,農業機械器具製造販売及び修理等を目的とする会社である。
イ 被告は,農業機械器具の製造及び販売等を目的とする会社である。
(2) 原告の有する特許権(甲1ないし甲4) 原告は,下記ア,イの特許権を有している(以下,「本件特許権1」,「本件特許権2」という。)。
ア 特許番号 第2652476号 登 録 日 平成9年(1997)5月23日 出願番号 特願平3-209884号 出 願 日 平成3年(1991)7月25日 公 開 日 平成5年(1993)2月9日 発明の名称 整列苗の分離装置における苗案内体 イ 特許番号 第2823521号 登 録 日 平成10年(1998)9月4日 出願番号 特願平7-42469号 出 願 日 平成7年(1995)2月7日 公 開 日 平成8年(1996)8月13日 発明の名称 移植機の苗供給装置 (3) 特許請求の範囲の記載 本件特許権1及び同2に係る明細書(以下「本件明細書1」及び「本件明細書2」という。なお,本判決末尾添付の特許公報〔以下「本件公報1」(甲2),「本件公報2」(甲4)という。〕参照)の「特許請求の範囲」の各請求項1の記載は次のとおりである(以下,各発明を「本件特許発明1」,「本件特許発明2」という。)。
ア 本件特許権1(甲2) 【請求項1】個々の苗に分離可能に整然と連結した整列苗を移動させて分離部に供給して個々の苗に分離する装置において,整列苗を載せて縦方向に移動させる縦移動機構を設け,縦移動機構の左右の分離部側には整列苗の横方向の位置を案内する一対の苗案内回転体を設け,苗案内回転体は整列苗の縦移動機構による移動側面に接し,縦移動機構による整列苗の移動により自由に回転移動する整列苗の分離装置における苗案内体。
イ 本件特許権2(甲4) 【請求項1】個々の苗に分離可能に整然と連結した整列苗を移動させて分離部に供給して個々の苗に分離し植付装置に供給する装置において,整列苗を載せて分離部に分離される苗を縦方向に移動させる縦移動機構を設け,縦移動機構の左右には整列苗の移動側面を案内する一対の苗案内回転体を設け,苗案内回転体は整列苗の移動側面に接して縦移動機構による整列苗の移動により自由に回転移動し,苗案内回転体には苗案内ベルトを掛け渡し,一対の苗案内回転体の苗案内ベルトの分離部側の間隔は整列苗の縦移動機構による移動側面の幅に対応して変化し,苗案内ベルトの分離部側の反対側の間隔は整列苗の縦移動機構による移動側面の最大の幅以上とする移植機の苗供給装置。
(4) 構成要件の分説 本件特許発明1及び本件特許発明2を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下「構成要件1-A」,「構成要件2-A」などという。)。
ア 本件特許発明1 1-A 個々の苗に分離可能に整然と連結した整列苗を移動させて分離部に供給して個々の苗に分離する装置において, 1-B 整列苗を載せて縦方向に移動させる縦移動機構を設け, 1-C 縦移動機構の左右の分離部側には整列苗の横方向の位置を案内する一対の苗案内回転体を設け, 1-D 苗案内回転体は整列苗の縦移動機構による移動側面に接し,縦移動機構による整列苗の移動により自由に回転移動する 1-E 整列苗の分離装置における苗案内体 イ 本件特許発明2 2-A 個々の苗に分離可能に整然と連結した整列苗を移動させて分離部に供給して個々の苗に分離し植付装置に供給する装置において, 2-B 整列苗を載せて分離部に分離される苗を縦方向に移動させる縦移動機構を設け, 2-C 縦移動機構の左右には整列苗の移動側面を案内する一対の苗案内回転体を設け, 2-D 苗案内回転体は整列苗の移動側面に接して縦移動機構による整列苗の移動により自由に回転移動し, 2-E 苗案内回転体には苗案内ベルトを掛け渡し, 2-F 一対の苗案内回転体の苗案内ベルトの分離部側の間隔は整列苗の縦移動機構による移動側面の幅に対応して変化し, 2-G 苗案内ベルトの分離部側の反対側の間隔は整列苗の縦移動機構による移動側面の最大の幅以上とする 2-H 移植機の苗供給装置 (5) 被告の行為(甲7の2,乙6) 被告は,苗移植機を製造販売しているが(以下,被告の製造販売する苗移植機を「被告装置」と総称する。なお,被告装置の具体的構成については,後記第3の1に記載のとおり争いがある。),製品番号「CAP-2」,「CAP-4」,「CAP-W」,「BA-2」,「BA-4」の形式の移植機については,過去に製造販売していたが,現在は販売していない。
(6) 無効審判事件の係属等(甲11,12,乙3,4,15,24,弁論の全趣旨) ア 被告は,特許庁に対し,平成14年12月19日付けで本件特許発明1について,同月25日付けで本件特許発明2について,それぞれ無効審判の請求をした(無効2002-35536〔「本件無効審判1」という。〕,無効2002-35544〔「本件無効審判2」という。〕)。
イ 原告(無効審判被請求人)は,本件無効審判2の手続において平成15年3月18日に,本件無効審判1の手続において同年7月7日に,それぞれ本件明細書1,本件明細書2に記載の特許請求の範囲減縮等を内容とし,次の下線を付した部分のとおり訂正を求める旨の訂正請求を行った(以下,本件特許権1についての訂正請求を「本件訂正請求1」といい,本件特許権2についての訂正請求を「本件訂正請求2」という。)。
(ア) 本件訂正請求1について(甲12) 「【請求項1】個々の苗に分離可能に左右方向と列方向に整然と連結した整列苗を移動させて分離部に供給して個々の苗に分離する装置において,整列苗を載せて縦方向に移動させる縦移動機構を設け,縦移動機構の左右の分離部側には整列苗の横方向の位置を案内する一対の苗案内回転体を設け,苗案内回転体はベルトとその表面の弾性接触部材からなり,ベルトの内方の間隔は整列苗の左右方向より広くし,弾性接触部材の内方の間隔は整列苗の左右方向より狭くし, 整列苗の縦移動機構による移動側面に接し,縦移動機構による整列苗の移動により自由に回転移動する整列苗の分離装置における苗案内体。」 (イ) 本件訂正請求2について(甲11) 「【請求項1】個々の苗に分離可能に整然と連結した整列苗を移動させて分離部に供給して個々の苗に分離し植付装置に供給する装置において,整列苗を載せて分離部に分離される苗を縦方向に移動させる縦移動機構を設け,縦移動機構の左右には整列苗の移動側面を案内する一対の苗案内回転体を設け,苗案内回転体は整列苗の移動側面に接して縦移動機構による整列苗の移動により自由に回転移動し,苗案内回転体には苗案内ベルトを掛け渡し,一対の苗案内回転体の苗案内ベルトの分離部側の間隔は整列苗の縦移動機構による移動側面の幅に対応して,苗案内ベルトの分離部側が個別に水平方向に回転することで 変化し,苗案内ベルトの分離部側の反対側の間隔は整列苗の縦移動機構による移動側面の最大の幅以上とする移植機の苗供給装置。」 ウ 特許庁は,平成15年10月7日,本件訂正請求1及び本件訂正請求2による訂正は,平成15年法律第47号による改正前の特許法134条5項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法126条1項ただし書,2項及び3項の規定(以下,特に断らない限り,これらの各規定については,上記の各改正前の条文を指す。)に適合するものとして,それぞれ訂正を認めた上,本件特許発明1及び本件特許発明2は,特許法29条2項の規定に違反してなされたものであり,同法123条1項2号に該当するので無効である旨の審決をした(以下,本件特許発明1についての無効審決を「本件無効審決1」,本件特許発明2についての無効審決を「本件無効審決2」という。乙15,乙24)。
これに対し,原告は,本件無効審決1及び本件無効審決2について,審決取消訴訟を提起した(東京高等裁判所平成15年(行ケ)第503号,同第504号事件)。
2 争点 (1) 被告装置の具体的な構成(争点1) (2) 被告装置の構成要件充足性(争点2) (3) 本件各特許権には無効理由があることが明らかであり,本件各特許権に基づく原告の差止請求及び損害賠償請求は権利の濫用に当たるか(争点3) (4) 原告の損害額(争点4)
争点に関する当事者の主張
1 争点1-被告装置の具体的な構成 (原告の主張) (1) 被告が製造販売する被告装置の具体的な構成は,別紙「イ号物件目録」のとおりである。
なお,被告が主張する別紙被告主張装置目録に記載の「(1) 図面の説明」,「(2)構成の説明」のうち,@,A-3,B-1,B-2,B-3.C,D,Eの各記載と図3ないし6の記載については,認める。
(2) 被告が主張する被告装置の具体的な構成については,次のとおり,誤記,不明瞭な記載,不適切な記載等がみられ,妥当でない。
ア 被告主張の「多重列苗Fの幅L」について(被告主張の「構成の説明A-1」) 被告主張の幅390o,407oの数値は,その根拠が明確でない。また,これらの数値は,苗23個ないし24個(3分の1幅)を想定したものと考えられるが,被告装置の植付機に使用する多重列苗Fとしては,2分の1幅の整列苗も存在するから,3分の1幅用の装置のみについて言及するのは不適切である。
イ 被告主張の「受け止めベルトd,d’」及び「列苗幅測長ベルトe,e’」について(被告主張の「構成の説明A-2,A-4ないし7) (ア) 「受け止めベルトd,d’」及び「列苗幅測長ベルトe,e’」は,明らかに整列苗の横方向位置の移動側面を案内するものであることからすると,この名称は不適切である。被告が主張するように,単に列苗幅を測長するだけのためであるなら,例えば先端部に揺動自在な検知ローラーを設ければよいはずである。
(イ) 被告装置における「受け止めベルトd,d’」及び「列苗幅測長ベルトe,e’」の外面には多数のゴム製の弾性突起が設けられているが,これらの弾性突起は整列苗の横方向の位置の移動側面を案内するものであり,重要な構成部分といえるのに何ら記載がない。
(ウ) 「受け止めベルトd,d’」の対向内面の間隔に関し,2分の1幅の整列苗も存在することからすると,3分の1幅用の装置のみについて言及した被告の主張は不適切である。
(エ) 「列苗幅測長ベルトe,e’」の「スプリング3,3’」による付勢が,「平行状態からハ字型状態に閉じるのに必要な程度の軽微なもの」とか,「平行状態に開こうとする外力が作用したときには,その外力に追従して,‥‥‥容易に平行状態に拡開する」と構成することによる技術的意義が明確でない。スプリングでもって,「列苗幅測長ベルトe,e’」の対向内面をハ字型状に付勢するものである以上,整列苗の横方向位置の移動側面を案内する作用を有するものである。スプリングによる付勢が「軽微」であるとか,「容易に拡開する」として,その付勢の程度が弱いからといって,整列苗の横方向位置の移動側面を案内する作用に何らの影響も与えないことは技術常識からしてあり得ない。また,付勢の程度が微弱なものとするのであれば,「列苗幅を回動測長アーム3,3の回動角に基づき算出」することすら実現できないものと考えられるので,被告の主張する構成は不適切である。
(オ) 「列苗幅測長ベルトe,e’」の対向内面の間隔に関し,3分の1幅用の装置のみについて言及した被告の主張は,2分の1幅の整列苗も存在することからすると不適切である。
ウ 「多重列苗Fの幅L」,「ベルトd,d’」及び「ベルトe,e’」の間隔f,「ベルトd,d’」及び「ベルトe,e’」の具体的構成(弾性突起の存在)について,寸法表示も含め,記載が適切でない。
(被告の主張) 被告装置の具体的な構成は,別紙「被告主張装置目録」に記載のとおりであり,原告が主張するような誤記,不明瞭な記載,不適切な記載等は存在しない。
2 争点2-被告装置の構成要件充足性 (原告の主張) (1) 本件特許発明1について 原告主張の項において,以下の記号は,特に断らない限り,別紙「イ号物件目録」記載の記号を示すものとする。
ア 被告装置は,個々の苗Pbに分離可能に整然と連結した整列苗Pを移動させて,列状の苗Paに分離した後,個々の苗Pbに分離し,植付装置に供給する装置に関するものである。整列苗Pを,仮想支点41cを中心に約90度回転可能な苗当接板41aと苗分離針41bを備えた苗列分離部41に供給して列状の苗列Paに分離した後,その苗列Paを苗分離スポンジ輪52に供給して個々の苗Pbに分離することにより分離部を構成しており,その分離部は全体として本件特許発明1の分離部に相当する。
したがって,被告装置の構成aは,本件特許発明1の構成要件1-Aを充足する。
イ 被告装置の構成bは,整列苗Pを載せて苗列分離部41に分離される整列苗Pを縦方向に移動させる供給コンベア11を有しており,その供給コンベア11は本件特許発明1の縦移動機構に相当する。
したがって,被告装置の構成bは,本件特許発明1の構成要件1-Bを充足する。
ウ 被告装置の構成cは,供給コンベア11の左右の苗列分離部41側には整列苗Pの横方向の位置の移動側面を案内する一対の苗案内回転体20を設け,その苗列分離部41は分離部を構成しているから,本件特許発明1の分離部に対応し,その供給コンベア11は本件特許発明1の縦移動機構に相当する。
したがって,被告装置の構成cは,本件特許発明1の構成要件1-Cを充足する。
エ 被告装置の構成dにおいて,苗案内回転体20は整列苗Pの供給コンベア11による移動側面に接し,供給コンベア11による整列苗Pの移動により自由に回転移動する構成を有しており,供給コンベア11は本件特許発明1の縦移動機構に相当する。
したがって,被告装置の構成dは,本件特許発明1の構成要件1-Dを充足する。
オ 被告装置の構成hは,移植機の整列苗Pの分離装置における苗案内供給装置である。
したがって,被告装置の構成hは,本件特許発明1の構成要件1-Eを充足する。
カ 被告の主張に対する反論 (ア) 構成要件1-Aにおける「分離部」,「分離する装置」の解釈について 被告は,被告装置は,苗の分離方式について,二段分離式を採用しているところ,本件特許発明1は,一段分離式であり,本件特許発明1の「分離部」には,二段分離式は含まれないから,被告装置は,構成要件1-Aを充足しない旨主張する。
しかし,本件特許発明1の構成要件1-Aにおける「分離部」,「分離する装置」の意義については,特許法70条2項により,本件特許発明1の明細書の記載及び図面を考慮するとともに,本件特許発明1に係る移植機等の技術分野における周知慣用の技術手段,当業者の技術常識をも参酌して検討すべきである。
すなわち,本件明細書1には,「【0004】‥‥‥確実に整列苗の横方向の位置を案内し,苗に損傷を与えずに分離部に供給する苗案内体により,連続的に確実に個々の苗に分離する高性能・高能率な整列苗の分離装置を提供し,移植栽培を飛躍的に広げることを目的とする。」(本件公報1・3欄14行から19行)と明記されている。当業者であれば,この種の移植機における分離装置としては,一段分離式のものと二段分離式の2つの態様があることは周知慣用の技術手段であることを認識しているから,その一方のみの方式に限られない技術上の問題点であれば,分離の方式にとらわれることなく,共通の技術上の課題として,当然に認識しているものととらえるのが適切かつ自然である。
そして,構成要件1-Aにおいては,「分離部」と記載されているだけであり,一段分離式か,二段分離式かについては限定されておらず,分離する作用,効果を有するものであればよく,結果として,最終的に「個々の苗に分離する装置」を構成すればよいのであって,本件特許発明1の技術内容は,特定の分離方式に係るものでもない。また,本件明細書1においては,一段分離式のものが実施例として記載されているが,これはあくまでも実施例に過ぎない。
さらに,構成要件1-Aにおける「個々の苗に分離する装置」とは,「分離部」を有して「個々の苗に分離する装置」を意味しているのであって,一段分離式であれ,二段分離式であれ,最終的に個々の苗に分離する「分離部」だけでなく,その他必要な搬送装置や案内体等を備えたものをとらえて記載したものである。したがって,「分離部」と「分離する装置」を部分的に取り出してその意味の是非を論じても意味がない。
(イ) 「受け止めベルト」等について 被告が主張する「受け止めベルトd,d’」及び「列苗幅測長ベルトe,e’」は,整列苗が縦移動機構(転載ベルトコンベア,供給ベルトコンベア)により移動するとき,その移動側面に接し回転するものであり,ベルト外面には多くのゴム製の弾性突起が設けられ,整列苗の横方向位置の移動側面を案内するものである。
そもそも,苗移植機において使用する紙製苗筒の外径形状は,封入する培養土の性状等により一定でなく,この幅にはかなりのばらつきが予測されるものであるし,実際の植付作業の状況を想定すると,畑地は一定の完全な水平面であることの方が珍しく,通常は起伏なり,傾斜を伴っているから,走行する移植機は左右前後に揺動しながら移動し,植付作業を行うことになる。そうすると,被告も主張するように,「多重列苗Fが転載ベルトコンベアbの幅中央所定位置から片側外方に偏倚」し,「偏倚する多重列苗Fを受け止めながら所定の搬送方向に,多重列苗Fと一体的回動をする」ことがむしろ通常の状態として認識できる。したがって,被告が,「『受け止めベルトd,d’』は,例外的に転載ベルトコンベアb上の多重列苗Fを受け止めながら,所定の搬送方向に該多重列苗Fと一体的回動をすることがある。」旨主張するのは誤った認識に基づくものである。
また,「受け止めベルトd,d’」が,本件特許発明1の実施例の「苗案内体38」に相当するとの被告の主張は,発明と実施例とを混同した議論であり,適切でない。同実施例における「苗案内体38」は,固定された案内体であるのに対し,被告の主張する「受け止めベルトd,d’」は,明らかに回動可能なものであるから,「受け止めベルトd,d’」が「苗案内体38」に相当するというのは妥当でない。仮に,「受け止めベルトd,d’」が固定のものであったとしても,原告は,「列苗幅測長ベルトe,e’」と「受け止めベルトd,d’」のそれぞれが本件特許発明1の「苗案内回転体」に該当すると主張しているのであるから,被告装置が本件特許発明1の「苗案内回転体」を備えているという原告の主張は変わらない。
さらに,そもそも,「スプリング3,3’」で「ベルトe,e’」を付勢しているのであれば,その付勢方向に何らかの力が作用しているはずであり,「強制的に案内する機能を備えていない」との被告の主張は,技術常識からしても理解できない。
キ 以上のとおり,被告装置は,本件特許発明1の構成要件のすべてを具備し,本件特許発明1の技術的範囲に属する。
(2) 本件特許発明2について ア 被告装置の構成aないしdは,本件特許発明1の構成要件1-Aないし1-Dで主張したのと同一の理由により,本件特許発明2の構成要件2-Aないし2-Dを充足する。
イ 被告装置の構成eは,苗案内回転体20には苗案内ベルト21を掛け渡した構成を有している。
したがって,被告装置の構成eは,本件特許発明2の構成要件2-Eを充足する。
ウ 被告装置の構成f及びgは,一対の苗案内回転体20の苗案内ベルト21の苗列分離部41側の間隔は整列苗Pの供給コンベア11による移動側面の幅に対応して変化し,苗案内ベルト21の苗列分離部41側の反対側の間隔は整列苗Pの供給コンベア11による移動側面の最大の幅以上とするとの構成を有しており,その苗列分離部41は,分離部を構成しているから,本件特許発明2の分離部に対応し,その供給コンベア11は本件特許発明2の縦移動機構に相当する。
したがって,被告装置の構成f及びgは,本件特許発明2の構成要件2-F及び2-Gを充足する。
エ 被告装置の構成hは,移植機の整列苗Pの分離装置における苗案内供給装置である。
したがって,被告装置の構成hは,本件特許発明2の構成要件2-Hを充足する。
オ 以上のとおり,被告装置は,本件特許発明2の構成要件のすべてを具備するものであり,本件特許発明2の技術的範囲に属するものである。
(3) 本件訂正請求1,同2について ア 前記のとおり,本件特許発明1について,原告は,本件訂正請求1をしているが,訂正後の請求項によっても,被告装置は,本件特許発明1の請求項の技術的範囲に属する。
すなわち,本件訂正請求1により,従来の構成要件1-Aは,「個々の苗に分離可能に左右方向と列方向に整然と連結した整列苗を移動させて分離部に供給して個々の苗に分離する装置において,」と訂正される予定である(下線部分が訂正請求による挿入予定箇所。以下同様。)が,被告装置に使用される「整列苗P」(被告主張の「多重列苗F」)は,「左右方向と列方向に整然と連結」されているから,訂正後の構成要件1-Aを充足する。また,本件訂正請求1により,従来の構成要件1-Dは,「苗案内回転体はベルトとその表面の弾性接触部材からなり,ベルトの内方の間隔は整列苗の左右方向より広くし,弾性接触部材の内方の間隔は整列苗の左右方向より狭くし, 整列苗の縦移動機構による移動側面に接し,縦移動機構による整列苗の移動により自由に回転移動する」と訂正される予定であるが,「苗案内ベルト21」(被告主張の「列苗幅測長ベルトe,e’」)の表面には,多数のゴム製の「弾性突起21a」が設けられている上,「苗送りベルト21」(同「列苗幅測長ベルトe,e’」)の内方の間隔は,移動する整列苗P(同「多重列苗F」)の左右より広くなっているから,訂正後の構成要件1-Dを充足する。
イ 本件訂正請求2により,構成要件2-Fは,「一対の苗案内回転体の苗案内ベルトの分離部側の間隔は整列苗の縦移動機構による移動側面の幅に対応して,苗案内ベルトの分離部側が個別に水平方向に回転することで変化し,」と訂正される予定(下線部分が訂正予定箇所。)であるが,被告装置における「苗案内ベルト21」(被告主張の「列苗幅測長ベルトe,e’」)の苗列分離部41(同「列状分離機構B」)側は,個別に水平方向に回転することで変化するものであるから,訂正後の構成要件2-Fを充足する。
ウ したがって,被告装置は,本件訂正請求1,同2が認められたとしても,本件特許発明1及び本件特許発明2の技術的範囲に属する。
(被告の主張) 被告主張の項における以下の記号は,特に断らない限り,別紙「被告主張装置目録」記載の記号を示すものとする。
(1) 本件特許発明1について ア(ア) 被告装置は,列状分離機構Bと個別分離機構Dを備え,まず列状分離機構Bで多重列苗F(構成要件1-Aの「整列苗」)から列苗F1を分離し,その分離した列苗F1から単位苗F2(構成要件1-Aの「個々の苗」)を分離するいわゆる二段分離式である。これに対し,構成要件1-Aの「整列苗を移動させて分離部に供給して個々の苗に分離する装置」は,一対の回転体からなる分離部において,横移動機構上の縦移動機構に載せた整列苗から直接個々の苗に分離する装置,又は,少なくとも,単に,分離部において,整列苗から直接個々の苗を分離する装置を指すものと認められる。
したがって,被告装置の列状分離機構B及び個別分離機構Dの構成が,構成要件1-Aの「一対の回転体からなる分離部」に相当する構成をなしているか否か,多重列苗Fが,「横移動機構上の縦移動機構に載せた整列苗」に相当するか否かについて検討するまでもなく,被告装置は,構成要件1-Aを充足しない。
(イ) 原告は,構成要件1-Aの「分離部」には,一段分離式のものも,二段分離式のものも含まれる旨主張しているが,本件明細書1の目的及び唯一の実施例以外の構成のものが記載されていないこと,かつ,公知又は周知慣用の分離部であれば足りる旨の示唆もないことなどからすると,「一段分離式」のものを指すと言わざるを得ない。
イ 被告装置は,上記のとおり,列状分離機構Bのほかに,個別分離機構Dを備えているが,個別分離機構Dに向けて列苗F1を搬送する単列苗搬送機構Cの搬送コンベア12は,「苗案内回転体」に対応する部材そのものを備えていないから,個別分離機構Dについては,構成要件1-Bないし1-Dの充足性を判断するまでもない。
そして,被告装置における列状分離機構Bに向けて多重列苗Fを搬送する多重列苗搬送機構Aは,受入ローラコンベアa,転載ベルトコンベアb及び供給ベルトコンベアcを,列状分離機構Bへの多重列苗Fの搬送方向に向けて順に架設し,そのうち転載ベルトコンベアbと供給ベルトコンベアcに対しては,それらの各幅方向両外辺縁部に沿って,受け止めベルトd,d’及び列苗幅測長ベルトe,e’を回動自在に配置している。そして,受け止めベルトd,d’は,互いに平行な対向内面の間隔fを多重列苗Fの幅Lより広い425oとしているから,受入ローラコンベアaの幅中央所定位置に搭載された多重列苗Fは,転載ベルトコンベアbにおいてもその幅中央所定位置において搬送され,その限りにおいて,受け止めベルトd,d’は,多重列苗Fを案内することも,その側面に接して一体的回動をするようなこともない。例外的に,走行中の移植機が傾斜地で大きく傾いた場合において,多重列苗Fが転載ベルトコンベアbの幅中央所定位置から片側外方に偏倚することがあるので,そのときだけ偏倚する多重列苗Fを受け止めながら所定の搬送方向に多重列苗Fと一体的回動をするに過ぎない。
したがって,受け止めベルトd,d’は,構成要件1-Bないし1-Dの「苗案内回転体」に対応しない。
また,列苗幅測長ベルトe,e’は,基端側の対向間隔及び平行状態時の対向内面前面の間隔を,受け止めベルトd,d’と同じく,多重列苗Fの幅Lより広い425oとするが,ハ字型状態時における先端側端の間隔gを多重列苗Fの幅Lより狭い356oとしているから,転載ベルトコンベアbの幅中央所定の位置において搬送された多重列苗Fは,供給ベルトコンベアcにおいても,その幅中央所定位置において転載され,少なくとも列苗幅測長ベルトe,e’の基端側に当接することはなく,その搬送の途中から,多重列苗Fの先端側左右を列苗幅測長ベルトe,e’は,多重列苗Fの幅の変化に応じ,細かい開閉振動を繰り返し,多重列苗Fの搬送方向に一体的回動をするものである。
しかし,列苗幅測長ベルトe,e’は,本来,供給ベルトコンベアcの送出端所定位置に達している多重列苗Fの第3列目の列苗F1の長さ(列苗幅)を,回動測長アーム3,3の回動角に基づき算出し,個別分離機構Dの搬送コンベア12に列苗F1を乗載するタイミングを決めるために設置されているものである。そのため,スプリング3’,3’による付勢力は,列苗幅測長ベルトe,e’自体を平行状態からハ字型状態に閉じるのに必要な程度の軽微なもので,通常状態であるハ字型状態においては,供給ベルトコンベアc上を搬送される多重列苗Fをいずれかの方向に強制的に案内する機能を備えていない。ただ例外的に,走行中の移植機が傾斜地で大きく傾いた場合において,多重列苗Fが供給ベルトコンベアcの幅中央所定位置から片側外方に偏倚するのにともない,片方の列苗幅測長ベルトeまたはe’が拡開状態となるまで回動して多重列苗Fを受け止めるとともに,多重列苗Fの搬送方向に一体的回動をすることがあるに過ぎない。
したがって,列苗幅測長ベルトe,e’は,構成要件1-Bないし1-Dの「苗案内回転体」に対応しない。
構成要件1-Eは,構成要件1-Aないし1-Dの各々の結合構成を特徴とし,その結合構成において各構成要件1-Aないし1-Dが互いに有機的関連において所定の機能を発揮することにより,本件明細書1記載の目的を達成し,かつ作用効果を奏するものであるところ,被告装置は,構成要件1-Aないし1-Dを充足しないから,同様に構成要件1-Eも充足しない。
エ 以上のとおり,被告装置は,本件特許発明1の技術的範囲に属しない。
(2) 本件特許発明2について ア 上記(1)のとおり,被告装置が本件特許発明1の構成要件1-Aないし1-Dを充足しない理由と同様に,被告装置は,構成要件2-Aないし2-Dを充足しない。
イ したがって,構成要件2-Eないし2-Gについて検討するまでもなく,被告装置が,本件特許発明2の技術的範囲に属するものではないことは明白である。
(3) 本件各訂正請求について ア 本件訂正請求1について 上記のとおり,そもそも被告装置は,訂正前の本件特許発明1の技術的範囲に属するものではないから,これに限定を加える訂正が認められても,技術的範囲に属しないことは明らかである。
イ 本件特許発明2について 上記同様,被告装置は,訂正前の本件特許発明2の技術的範囲に属するものではないから,これに限定を加える訂正が認められたとしても,技術的範囲に属しないことは明らかである。
3 争点3-本件各特許権についての無効理由の有無 (被告の主張) (1) 本件特許発明1について 本件特許発明1は,次のとおり,@平成6年法律第116号による改正前の特許法36条5項1号及び2号の規定に違反し,A平成6年法律第116号による改正前の特許法36条4項の規定に違反し,B特許法29条2項の規定に違反して特許されたものであり,平成5年法律第26号による改正前の特許法123条1項2号及び4号により無効である(以下,上記の各規定(同法29条2項を除く)については,特に断らない限り,上記の各改正前の条文を指す。)。
したがって,本件特許権1には,無効理由が存することが明らかであって,本件特許権1に基づく請求は権利濫用として許されない。
ア 明細書の記載不備1(特許法36条5項違反) (ア) 本件明細書1の発明の詳細な説明によると,本件特許発明1は,往復移動する横移動機構10に,その移動方向に直交する方向に間欠移動する縦移動機構20を設け,縦移動機構20に載せた上記整列苗Pを,その縦移動機構20が横移動機構10の往復移動端において間欠移動することによって,苗案内体38及び苗案内回転体30により案内させながら移動し,かつ横移動機構10の往復移動により,苗Paを起立状態のまま分離するようにした一連の構成のものを唯一の実施例として記載している。この実施例や本件明細書1記載の目的,効果等からすると,本件特許発明1においては,横移動機構10がその目的を達成し,効果を上げるのに必要不可欠なものと認められる。しかし,構成要件1-Aないし1-Eには,横移動機構10についての記載がない。
したがって,本件特許発明1の特許請求の範囲の請求項1の記載は,「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること」を要請している特許法36条5項1号の規定に適合していない。
(イ) 本件特許発明1は,上記のとおり,「横移動機構10」の記載が欠如していること,「分離部」と「分離する装置」との関係が不明瞭であること,さらに,「整列苗」と「苗案内回転体」の回転移動との関係が不明瞭であることから,特許法36条5項2号の規定に適合していない。
イ 明細書の記載不備2(特許法36条4項違反) 本件明細書1の発明の詳細な説明は,【0016】に,横移動機構10の横移動機構枠12の移動端で行われる「間欠的移動」するものが何か明確でないし,その間欠的移動がどのような内容の移動なのかその構成を含め不明である。また,【0017】におけるプーリ22,24及びベルト25と縦移動機構20との関係や,その具体的構成が不明である。そして,【0027】における「近づいてくる側のローラ42」,「遠ざかる側のローラ42」とはいかなるローラをいうか明瞭でないし,その具体的構成が不明である。
したがって,本件特許発明1は,発明の詳細な説明が,当業者が容易にその実施をすることができる程度に本件特許発明1の構成を記載していないから,特許法36条4項の規定に反する。
進歩性の欠如(特許法29条2項違反) (ア) 本件無効審判1の審判請求書(乙3)に添付の資料甲1(実願昭60-8101号[実開昭61-125217号]のマイクロフィルム)は,本件特許発明1の出願前に頒布された刊行物であるが,同マイクロフィルムに記載された発明(以下「審判1-甲1の発明」という。)を本件特許発明1と対比すると,次のとおり,一致点と相違点が認められる。
a 一致点(括弧内の記号は,同マイクロフィルムに記載された図面の記号を示す。) (a) 審判1-甲1の発明は,個々の苗に分離可能に整然と連結した整列苗(紙筒苗2)を移動させて分離部(分離ロール12,12)に供給して個々の苗に分離する装置である。
(b) 審判1-甲1の発明は,整列苗(紙筒苗2)を載せて縦方向(分離ロール12,12の方向,すなわち搬送方向)に移動させる縦移動機構(苗載置コンベア32)を設けている。
(c) 審判1-甲1の発明は,縦移動機構(苗載置コンベア32)の左右の分離部側(搬送方向左右であって分離ロール12,12寄り)には整列苗(紙筒苗2)の横方向の位置(左右側面)を案内する一対の苗案内回転体(回転誘導体1)を設けている。
(d) 審判1-甲1の発明は,苗案内回転体(回転誘導体1)は整列苗(紙筒苗2)の縦移動機構(苗載置コンベア32)による移動側面に接し,縦移動機構(苗載置コンベア32)による整列苗(紙筒苗2)の移動により(搬送にともなって)回転移動する。
(e) 審判1-甲1の発明は,整列苗の分離装置における苗案内体(紙筒苗の分離装置における苗案内体)である。
b 相違点 審判1-甲1の発明における回転誘導体1は,駆動プーリー4,4と従動プーリー5,5にベルト8,8を張架した構成をなしていることから見て,紙筒苗2の側面が接するか否かに関わりなく回転するものであり,本件特許発明1との間には一応,相違点が認められる。
c 相違点の検討 本件特許発明1において,縦移動機構による整列苗の移動により自由に回転移動することは,審判1-甲1の発明の回転誘導体1が,紙筒苗2の側面が接したときに一体的に回転する構成と実質的には一致するといえるから,上記に掲げた相違点は実質的にみれば相違点とはいえない。
(イ) 本件無効審判1の申立て(乙3)に添付の資料甲2(特公昭44-28445号)(以下「審判1-甲2の発明」という。),本件無効審判1の申立て(乙3)に添付の資料甲3(特公昭44-28444号)(以下「審判1-甲3の発明」という。)について 本件特許発明1の「苗案内回転体」は,実施例によると,それ自体自由に回転移動し,整列苗の移動側面が接したときに,自由回転移動ではなく一体的回転移動する構成のものであると認められるが,審判1-甲2の発明に記載の苗土の繰出装置の案内ベルト8,8aは,土付苗37の移動側面が接したとき,その土付苗37と一体的に回転移動することが明らかであって,本件特許発明1の「苗案内回転体」と一致する。また,審判1-甲3の発明における苗切断部の苗受装置における案内ベルト5も,同様に,本件特許発明1の「苗案内回転体」と一致する。
(ウ) 以上のとおり,本件特許発明1と審判1-甲1の発明とは,駆動による強制回転によって苗を案内するか,自由回転するかという点において,一応の相違がみられるとしても,自由回転により苗を案内することについては,審判1-甲2の発明,審判1-甲3の発明に記載のとおり,公知事実といえる。
また,本件特許発明1は,審判1-甲1の発明に基づいて,あるいは,審判1-甲1の発明と,審判1-甲2の発明又は審判1-甲3の発明に基づいて,本件特許発明1の出願前に,当業者が容易に発明することができたものといえる。したがって,本件特許発明1は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
(2) 本件特許発明2について 本件特許発明2は,次のとおり,@特許法36条5項1号及び2号の規定に違反し,A特許法36条4項の規定に違反し,B特許法29条2項の規定に違反して特許されたものであり,特許法123条1項2号及び4号により無効である。
したがって,本件特許権2には,無効理由が存することが明らかであって,本件特許権2に基づく請求は権利濫用として許されない。
ア 明細書の記載不備1(特許法36条5項違反) (ア) 本件明細書2に記載された本件特許発明2の目的及び作用並びに効果,実施例からすると,本件特許発明2においては,横移動機構10が,その目的を達成し,効果を上げるのに必要不可欠なものであると認められるのに,横移動機構10について,構成要件2-Aないし2-Gに記載されていない。
したがって,本件特許発明2の特許請求の範囲の請求項1の記載は,「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること」を要請している特許法36条5項1号の規定に適合していない。
(イ) また,構成要件2-Cにおいて,「整列苗の移動側面を案内する一対の苗案内回転体を設け」と記載し,構成要件2-Dにおいて,「苗案内回転体は整列苗の移動側面に接し,‥‥‥整列苗の移動により自由に回転移動し,」と記載しているから,構成要件2-Eにおけるように「苗案内回転体に苗案内ベルトを掛け渡す」と「苗案内回転体」が「整列苗の移動側面」に接することはできない。
さらに,「苗案内回転体」が整列苗の移動側面に接して回転移動するという以上,その「苗案内回転体」の移動は一体的回動のはずであり,これを「自由に回転移動」するとみなすことはできない。
このため,苗案内回転体に掛け渡した苗案内ベルトについて,「分離部側の間隔を整列苗の移動側面の幅に対応して変化するようにし,反対側の間隔を整列苗の移動側面の最大幅以上とした構成」(構成要件2-F及び2-G)は,構成要件2-C及び2-Dと整合していない。
したがって,本件特許発明2の特許請求の範囲の請求項1の記載は,「特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載した項に区分してあること」を要請している特許法36条5項2号の規定に適合していない。
イ 明細書の記載不備2(特許法36条4項) 本件明細書2の発明の詳細な説明における「【0029】横移動機構10の横移動機構枠12には,横移動機構10の移動方向と直交する方向に移動する縦移動機構20を設ける。そして,縦移動機構20のベルト23上には整列苗90を載せて横移動機構10の移動端で横移動機構10の移動方向と直交する方向(図3の左方向)に間欠的に移動させる。」との記載は,第1に「間欠的に移動させる」対象が何かが明確に表現されていないし,第2に,移動させるものが具体的にどういう移動をするのか,その構成も含めて不明である。
また,「【0030】縦移動機構20には,横移動軌道枠12内の分離部50側に横移動機構10の移動方向に長くその傾斜に沿って平行プーリ21,22を設け,プーリ21には,横移動機枠12が横方向に移動し,その移動端でのみカム15とカム27により軸14の回転が伝導されるようにし,横移動機構10の移動端で整列苗90の苗列の一列分よりやや多くベルト23を移動させるようにプーリ21を回転させる。」とも記載されているが,プーリ21,22およびベルト23と縦移動機構20との関係,これらの具体的な構成がいずれも不明である。
したがって,本件特許発明2は,当業者が容易にその実施をすることができる程度に特許発明の構成を記載していないから,特許法36条4項の規定に違反する。
進歩性の欠如 (ア) 特開平5-30812号公報(本件無効審判2の申立てに添付の資料甲1-本件における乙1と同じもの。以下,同公報に記載された発明を「審判2-甲1の発明」という。)は,本件特許発明2の出願前に頒布された刊行物であるが,本件特許発明1と審判2-甲1の発明とを対比すると,次のとおり一致点と相違点が認められる。
a 一致点 審判2-甲1の発明における「個々の苗Paに分離可能に整然と連結した整列苗Pを移動させて分離部40に供給して個々の苗Paに分離する装置において,‥‥‥‥‥‥整列苗Pを載せて縦方向に間欠的に移動させる縦移動機構20を設け,縦移動機構20の左右の分離部40側には整列苗Pの横方向の位置を案内する一対の苗案内回転体30を設け,苗案内回転体30は整列苗Pの縦移動機構20による移動側面に接し,縦移動機構20による整列苗Pの移動により自由に回転移動する。」との構成は,本件特許発明2における構成要件2-Aないし2-Dと一致する。
b 相違点 (a) 構成要件2-Eにおいては,苗案内回転体に苗案内ベルトを掛け渡しているのに対し,審判2-甲1の発明は,苗案内回転体30がプーリ35,35間にベルト31を掛け渡して構成されている。
(b) 構成要件2-F,2-Gにおいては,整列苗の縦移動機構による移動側面の幅に対応する一対の苗案内回転体の苗案内ベルトの間隔は,分離部側の間隔は苗案内ベルトの分離部側が個別に水平方向に回転することで変化し,苗案内ベルトの分離部側の反対側の間隔は整列苗の縦移動機構による移動側面の最大の幅以上とするものであるのに,審判2-甲1の発明における一対の苗案内回転体は,分離部側も分離部の反対側もほぼ同じである。
(イ) 相違点の検討 a 上記相違点(a)についてみると,本件特許発明2の苗案内回転体は,本件明細書2の発明の詳細な説明【0033】や【0035】等の記載からすると,整列苗の側面に接して回動移動する苗案内ベルトを掛け渡してなるものと認められ,このような構成は,審判2-甲1の発明における苗案内回転体30の構成と実質的には一致する。
b 上記相違点(b)についてみると,本件特許発明2は,構成要件2-Fにおいて,「整列苗の幅が狭くなっても広くなっても苗案内回転体が端の苗を保持して分離部に正しく導くから,整列苗は分離ローラにより分離されるまで確実に保持されて案内され,正常に分離される。」,「後続する整列苗を先行する整列苗に密着させるべく進行させても,後続する整列苗の端の苗は,苗案内回転体に接しないし,幅の広い後続する整列苗により苗案内回転体が回転移動することもないから,整列苗の端の苗が苗案内回転体との摩擦により不要に分離されることがない。」という作用効果を挙げており,一方,審判2-甲1の発明における一対の苗案内回転体30は,スポンジ体32が整列苗Pの幅が狭くなったり広くなったりするのに伴い,そのつぶれ量を変える(審判2-甲1の発明の明細書(乙1)の3欄【0020】参照),つまり膨縮の度合いを変えることにより,本件特許発明2の上記作用効果と同様の作用効果を期待できる。
したがって,上記の相違点に係る構成は,審判2-甲1の発明を適用することにより,当業者が容易に想到することができるものである。
c 本件無効審判2の申立てに添付の資料甲2に記載の発明(特公昭44-28445号公報に記載の発明。以下「審判2-甲2の発明」という。)においては,土付苗用移植機における苗土の繰出装置における案内ベルト8.8aは,左右一対からなり,第2移送ベルト7,7aが搬送する土付苗37の幅より広くし,かつ,前方側を徐々に狭めた状態に装架されていることが認められる(同公報第1図)。したがって,本件特許発明2の構成要件2-Fは,審判2-甲2の発明の苗繰出装置の構成と実質的に共通するものである。
d 一般に,被搬送物の搬送において,その搬送路の両側に「一対の案内回転体」を設置し,送出端側の間隔を被搬送物の幅に対応して変化させ,その反対側すなわち受入端側の間隔を被搬送物の最大幅以上とすることは,本件特許発明2の出願前に周知慣用の技術思想であった。
すなわち,本件無効審判2の申立てに添付の資料甲3に記載の発明(実願昭56-57214号(実開昭57-169727号)のマイクロフィルムに記載の発明。以下「審判2-甲3の発明」という。)は,タイヤの搬送装置において,タイヤを搬送する傾斜シュート1の全部両側に設定されているベルトコンベア2A,2Bは,そのベルト2a1,2b1の対面間隔をシュート1の長手方向先端に向かって先細にするとともに,回転軸5側の対面間隔L1よりも支軸10側の対面間隔L2を小さくし,被搬送物,すなわちタイヤA1又はA2の当接部分の幅に対応してスプリング16のばね力に抗し,開閉し,これにより,タイヤA1又はA2を直径の大小を問わず,位置ずれすることなく,適正状態で搬出するものであるが,同発明のベルトコンベア2A,2B及びベルト2a1,2b1は,本件特許発明2の「苗案内回転体」及び「苗案内ベルト」に相当するものといえる。また,本件無効審判2の申立てに添付された甲4に記載の発明(実願昭60-88887[実開昭61-206518号]のマイクロフィルムに記載の発明。以下「審判2-甲4の発明」という。)のワークの姿勢整列装置において,搬送ベルト10の下流側に設置の姿勢整列部28は,回転軸41,42に基端を回動するように取り付け,遊端を互いに近づくように付勢した一対のアーム67,68と姿勢整列ベルト118,119の組合せは,本件特許発明2の「苗案内回転体」に相当するものであり,その姿勢整列ベルト118,119が本件特許発明2の「苗案内ベルト」に相当するものといえる。
(ウ) 小括 上記からすると,本件特許発明2は,審判2-甲1の発明と共通点があり,その相違点(a)として挙げられる部分も実質的にみれば同一であるし,相違点(b)として挙げられる部分も,審判2-甲1の発明及び周知技術から当業者が容易に予測できる範囲内のものである。
また,審判2-甲1の発明又は審判2-甲2,並びに,審判2-甲3の発明,又は,審判2-甲4の発明に記載の技術を組み合わせることによっても,当業者が容易に想到できるものである。
以上のとおり,本件特許発明2は,出願前に当業者が容易に発明することができたもので,特許法29条2項の規定に違反して特許されたものである。
(3) 本件各訂正請求について ア 本件特許発明1について (ア) 仮に,本件訂正請求1が認められたとしても,@「個々の苗に分離可能に左右方向と列方向に整然と連結した整列苗」及びA「ベルトの内方の間隔は整列苗の左右方向より広くし,弾性接触部材の内方の間隔は整列苗の左右方向より狭くした苗案内回転体」には進歩性がない。すなわち,実公昭49-10746号公報(乙11)に,「紙筒育苗容器13」として図示されているもの,また,実公昭56-20450号公報(乙12)に「集合紙筒苗」と記載され図示されているものは,上記@の「個々の苗に分離可能に左右方向と列方向に整然と連結した整列苗」に相当する。そして,特開昭58-212711号公報(乙13)に「連続紙筒集合鉢体苗6」を案内するものとして記載され図示されている一対の「ガイド輪7,7」の構成,あるいは,特公昭61-27002号公報(乙14)に「苗転送コンベア29」として記載し,図示されている一対の「ベルト30,30’」の構成は,上記Aの「苗案内回転体」と実質上同じ構成である。
したがって,仮に訂正が認められたとしても,その訂正後の本件特許発明1は,乙11ないし14から当業者が容易に想到することができたものであるから,特許法29条2項の規定により,特許を受けることができないものであって無効理由は解消されない。
(イ)a 特開昭58-803号公報(乙16)(以下,同公報に記載された発明を「引用発明1」という)は,本件特許発明1の出願前に頒布された刊行物であるが,引用発明1における「紙筒苗」は左右方向と列方向に連結されているから,引用発明1における「分離を所望する紙筒苗」は本件特許発明1における「個々の苗に分離可能に左右方向と列方向に整然と連結した整列苗」に実質的に対応しており,以下,同様に,「紙筒苗単体」は「個々の苗」に,「紙筒苗」は「整列苗」に,「搬送する」は「移動させて」に,「紙筒苗は右方へ進み」は「分離部に供給して」に,「分離装置」は「分離する装置」に,「紙筒苗を展開した状態で右方へ搬送するベルトコンベア」は「整列苗を載せて縦方向に移動させる縦移動機構」に,それぞれ対応している。特に,引用発明1における「育苗された紙筒苗」は「コンベアの左方上面に配設されたガイド板を利用して右方に向けて装着」されるものであるから,上記「ガイド板」は紙筒苗の移動側面に接して紙筒苗の横方向の位置を案内するものであり,一対の「苗案内体」であるといえる点で,本件特許発明1の「苗案内回転体」と共通している。そして,「苗案内体」である上記「ガイド板」は「ベルトコンベア」の左右の分離部側に設けられているものである。
したがって,本件特許発明1と引用発明1を対比すると,本件特許発明1においては,苗案内体が苗案内回転体であって,ベルトとその表面の弾性接触部材からなり,ベルトの内方の間隔は整列苗の左右方向より広くし,弾性接触部材の内方の間隔は整列苗の左右方向より狭くし,縦移動機構による整列苗の移動により自由に回転移動するものであるのに対し,引用発明1においてはガイド板であって,縦移動機構(ベルトコンベア)による整列苗(紙筒苗)の移動により自由に回転移動するものではない点が異なるだけで,それ以外は一致する。
b 実願昭59-93109号(実開昭61-7926号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(乙18)(以下,同マイクロフィルムに記載された発明を「引用発明2」という。)は,本件特許発明1の出願前に頒布された刊行物であり,これには,「マット苗」の一部(「ブロック苗」)を掻取って田面に植え付ける田植機において,「マット苗」を載せて縦送りする「縦送り装置」を設け,「マット苗」の両側には,移動する「マット苗」の側面に接触して自由に回動する「ベルト」を備え,該「ベルト」はその機能に照らすと,「縦送り装置」による「マット苗」の移動側面に接して自由に回転移動すると共に,「マット苗」の横方向の位置を案内する一対の苗案内回転体が記載されている。
c そして,一般に一対の対向するベルトにより被搬送物を搬送するに際して,上記ベルトの表面にスポンジ等の弾性接触部材を設けて,該弾性接触部材が被搬送物の移動表面に接するようにすることは,特開昭54-159979号公報(乙19),特開昭51-149677号公報(乙20),実公昭52-831号公報(乙21)等からみて,周知技術に属していることは明らかである。
また,一対の対向するベルトの表面にスポンジ等の弾性接触部材を設けて,該弾性接触部材が紙筒苗の移動表面に接するようにすることは,特公昭61-27002号公報(乙14),実願昭57-134316号(実開昭59-38706号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(乙22),実願昭62-66885号(実開昭63-177111号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(乙23)等から明らかなように,引用発明1と同じ技術分野に属する紙筒苗の移植機において,周知技術に属するものである。
上記の周知技術によれば,一対の対向するベルトの表面の弾性接触部材が,被搬送物(乙19ないし21)あるいは紙筒苗(乙14,22,23)の移動表面に接しており,この「接する」という意味は,弾性接触部材が被搬送物あるいは紙筒苗の幅方向に弾性変形することによるものであることは明らかであるから,一対の対向するベルトと被搬送物あるいは紙筒苗との関係は,ベルトの内方の間隔が被搬送物あるいは紙筒苗の幅より広く,弾性接触部材の内方の間隔が被搬送物あるいは紙筒苗の幅より狭いことは自明な事項である。
したがって,引用発明1における一対の「ガイド板」に代えて,引用発明2が備える苗案内回転体に関する技術事項を適用する際に,上記周知技術を勘案し,一対の苗案内回転体のベルトに弾性接触部材を設けて,弾性接触部材が整列苗の縦移動機構による移動表面,すなわち,移動側面に接するようにすることは単なる設計事項にすぎない。しかも,一対の苗案内回転体のベルトと整列苗との関係についても,ベルトの内方の間隔が整列苗の左右方向より広く,弾性接触部材の内方の間隔が整列苗の左右方向より狭いことは自明な事項である。
(ウ) したがって,仮に訂正が認められたとしても,訂正後の本件特許発明1は,引用発明1,引用発明2及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定に違反して特許されたものであって,無効である。
イ 本件特許発明2について (ア) また,仮に,本件訂正請求2が認められるとしても,審判2-甲1の発明,審判2-甲3の発明,審判2-甲4の発明の構成と同一の構成であることは当業者であれば容易に理解できるから,「一対の苗案内回転体の案内ベルトの分離部側の間隔は整列苗の縦移動機構による移動側面の幅に対応して,苗案内ベルトの分離部側が個別に水平方向に回転することで変化し,」の部分には進歩性がない。
(イ) 一般に,水平搬送ベルトの両側に設けた,被搬送物の移動側面を案内する一対の案内体の間隔を,案内体の前部である搬出側(出口側)は被搬送物の幅に対応させて,個別に水平方向に回転することで変化させ,搬出側(出口側)の反対側である搬入側(入り口側)は被搬送物の最大の幅以上とすることは,実願昭53-126276号(実開昭55-43748号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(乙25),特開昭60-128121号公報(乙26),実願平1-104737号(実開平3-43919号の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(乙27),実願昭53-157650号(実開昭55-72814号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(乙28)に記載されているように周知技術に属するものである。
特に,乙27においては,@審判2-甲1の発明と共通の技術的範疇に属する移植機における周知技術を開示しており,水平に架設された苗送りベルトの両側に設けた,苗(マット状苗)の移動側面を案内する一対の側板の間隔を苗(マット状苗)の幅よりも大とし,苗載台前端の苗取り口側において上記一対の側板の前部にガイド板を苗取り口方向に向かって個別に揺動自在に附勢して設け,苗載台前端で左右方向に広がろうとする苗を内側に寄せて,苗取り口に向かって円滑に苗を供給するものが示され,A案内体である一対のガイド板が個別に揺動,すなわち,水平方向に回転することで,一対のガイド板の間隔は苗(マット状苗)の幅に対応して変化し,苗取り口側の反対側における左右両側板の間隔は苗(マット状苗)の苗送りベルトによる移動側面の最大の幅以上とされ,B苗取り口においてマット状苗を一定の大きさに掻き取って移植する,マット状苗を使用する移植機における周知技術であり,マット状苗も紙筒苗も苗の形態として周知であり,各々の形態の苗の移植技術が相互に転用できることは当業者にとって自明である。
これらの周知技術を技術的前提とし,審判2-甲1の発明において,「一対の苗案内回転体」が「整列苗」の移動側面に弾性的に接する接触部を「一対の苗案内回転体」の前部とし,「一対の苗案内回転体」がその前部において個別に「整列苗」の移動側面に弾性的に接するようにすることは当業者にとって容易に想到できる。すなわち,審判2-甲1の発明において,一対の苗案内回転体のベルト(苗案内ベルト)が整列苗の縦移動機構による移動側面の幅に対応する部分である,移動側面に弾性的に接する接触部は,ベルト(苗案内ベルト)の前部である整列苗の分離部側となり,分離部側の反対側の間隔は整列苗の縦移動機構による移動側面の最大の幅以上となって,ベルト(苗案内ベルト)が整列苗の分離部側において個別に弾性的に接することでベルト(苗案内ベルト)が整列苗の分離部側は実質上個別に水平方向に回転することとなり,個別に水平方向に回転することでベルト(苗案内ベルト)の分離部側の間隔は整列苗の移動側面の幅に対応して変化することとなる。
したがって,本件訂正請求2が認められるとしても,訂正によって挿入される部分については,審判2-甲1の発明に周知技術を適用することにより,当業者が容易に想到することができる。
(ウ) したがって,仮に本件訂正請求2が認められたとしても,いずれにしても,本件特許発明2は特許法29条2項の規定に違反して特許されたものであって無効理由は解消されない。
(原告の主張) (1) 本件特許発明1について ア 特許法36条5項1号及び2号違反について (ア) 本件特許発明1は,「整列苗の分離装置における苗案内体」に関するものであり,「横移動機構10」は,実施例には記載されているが,本件特許発明1の【請求項1】に記載された構成を要件とする本件特許発明1においては直接関係がある必須の技術事項とはいえない。
(イ) また,同項2号違反になるのは,まとまりのある一の技術的思想がとらえられない場合であるところ,本件特許発明1は,「整列苗の分離装置における苗案内体」に関するものであり,請求項1により,まとまりのある一の技術思想がとらえられ,本件特許発明1は明確に記載されている。
イ 特許法36条4項違反について 本件特許発明1は,「整列苗の分離装置における苗案内体」に関するもので,請求項1に記載された発明の構成については,目的,効果とともに図1ないし図10にわたる図面を参照しつつ,その具体化した実施例についての説明も行いながら,発明の詳細な説明において明瞭に記載している。したがって,本件特許発明1の明細書は「出願時に技術常識からみて,出願に係る発明が正確に理解でき,かつ再現(追試)できる程度」に記載されており,当業者が「容易にその実施をすることができる程度」に記載されている。
進歩性の欠如について 通常,進歩性の判断は,実務慣行では,発明の認定,各引用例の認定,両者の対比による一致点及び相違点の認定,相違点についての進歩性の判断のもとに行われており,このような実務慣行に基づいて無効理由としての進歩性を論じるべきである。
審判1-甲1の発明の「回転誘導体1」は,駆動自在な回転誘導体であり,駆動自在な「回転誘導体1」(苗案内回転体)により,「紙筒苗2」(整列苗)を挟持して搬送していることは明らかである。
一方,本件特許発明1における移動側面に接する苗案内回転体は,縦移動機構による整列苗の移動により自由に回転移動するものであり,この点で審判1-甲1の発明とはその構成が異なる。しかも,この相違点は自明の事項ではなく,この相違する構成によって,【発明が解決しようとする課題】に記載された課題を解決するものであり,端の苗が倒れたりすることなく,摩擦により苗が分離されたり擦り切れたりすることがなく,また,苗に損傷を与えない等と所定の格別顕著な作用,効果【0031】ないし【0049】を奏するものである。したがって,本件特許発明1は,審判1-甲1の発明に記載された発明に基づき当業者が容易になし得たものとはいえない。
審判1-甲2の発明の「案内ベルト8a」,審判1-甲3の発明の「案内ベルト5」は,本件特許発明1のように,「縦移動機構による整列苗の移動により自由に回転移動する」構成か,審判1-甲1の発明に記載の「回転誘導体1」のように駆動自在な構成なのか,全く記載されておらず,示唆するところもない。本件特許発明1は,「縦移動機構による整列苗の移動により自由に回転移動する」との構成により,【発明が解決しようとする課題】に記載された課題を解決するものであり,本件明細書1の【0031】ないし【0049】に記載の作用,効果を奏するものである。
以上のとおりであるから,本件特許発明1は,審判1-甲1の発明,審判1-甲2の発明,審判1-甲3の発明に基づき当業者が容易になし得たものであるとの被告の主張は理由がない。
(2) 本件特許発明2について ア 特許法36条5項1号及び2号違反について 本件特許発明2は,「移植機の苗供給装置」に関するものであり,その特許請求の範囲の請求項1に記載された構成を要件とする発明である。請求項1に記載された事項が発明の詳細な説明に記載されていることは明らかであり,特許請求の範囲及び発明の詳細な説明に記載された用語の不統一もなく,両者の対応関係は明瞭である。
また,請求項1に記載された事項により,「移植機の苗供給装置」として,まとまりのある一の技術思想がとらえられるのであり,発明が明確に記載されているのは明らかである。
イ 同法36条4項違反について 本件特許発明2は,「移植機の苗供給装置」に関する発明であり,発明の構成については,目的,効果と共に,図1ないし図18の図面を参照しつつ,その具体化した実施例に関する内容についての説明も行いながら,発明の詳細な説明において,明瞭に行っている。本件明細書2において,当業者が容易にその実施をすることができる程度に記載されている。
進歩性の欠如について (ア) 本件特許発明2においては,「‥‥‥一対の苗案内回転体の苗案内ベルトの分離部側の間隔は整列苗の縦移動機構による移動側面の幅に対応して変化し,苗案内ベルトの分離部側の反対側の間隔は整列苗の縦移動機構による移動側面の最大の幅以上とする。」とされているのに対し,審判2-甲1の発明の発明に記載の発明はこのような構成を有していない。その相違点は,自明な事項でもなく,そのような相違点を示唆する記載もない。本件特許発明2は,その相違する構成により【0019】,【0020】に記載の作用,効果を奏するものである。
したがって,本件特許発明2は,審判2-甲1の発明に基づいて当業者が容易になし得たものとはいえない。
(イ) 審判2-甲2の発明によると,帯状の土付苗(整列苗)を移動させる第2移送ベルト(縦移動機構)の左右には,帯状の土付苗(整列苗)の移動側面を案内する一対の案内ベルト(苗案内回転体の苗案内ベルト)を設けることが開示されているものの,本件特許発明2におけるように,苗案内ベルト(案内ベルト)が整列苗(帯状の土付苗)の移動により自由に回転移動するかどうかの明示の記載はなく,一対の苗案内ベルト(案内ベルト)の分離部(苗切断装置)側の間隔は,整列苗(帯状の土付苗)の縦移動機構(第2移送ベルト)による移動側面の幅に対応して変化する点については何ら記載がなく,その示唆もない。
これに対し,本件特許発明2は,その相違点の構成により,本件明細書2の【0019】,【0020】に記載の作用,効果を奏するものである。
(ウ) 審判2-甲3の発明は,一対のベルトコンベアのエンドレスベルト(苗案内回転体の苗案内ベルト)は,モータで駆動自在に設けられており,ベルトコンベア(苗案内回転体)はタイヤ(整列苗)の外周面(移動側面)に接してタイヤ(整列苗)を強制的に搬送するものである。本件特許発明2におけるように,整列苗(タイヤ)の移動により自由に回転移動するものではない。また,審判2-甲3の発明においては,一対のベルトコンベアのエンドレスベルト(苗案内回転体の苗案内ベルト)の吊掛待機台(分離部)側の間隔は,タイヤ(整列苗)の外周面(移動側面)の幅に対応して互いに連動して同じ角度分をそれぞれ変化することが記載されており,タイヤの直径の大小にかかわらず,位置ずれを修正し,心出しをして強制的に搬送するタイヤ搬送装置が開示されている。一方,本件特許発明2における,「一対の苗案内回転体」の苗案内ベルト(ベルトコンベア)の分離部(吊掛待機台)側の間隔が整列苗(タイヤ)の縦移動機構(傾斜シュート)による移動側面の幅に対応して変化する点については何ら記載がなく,その示唆すらなされていない。
(エ) 審判2-甲4の発明によると,一対の姿勢整列ベルトのエンドレスベルト(苗案内回転体の苗案内ベルト)は,モータで駆動自在に設けられており,姿勢整列ベルト(苗案内回転体)は棒状ワーク(整列苗)の端部及び胴部(移動側面)に接して棒状ワーク(整列苗)の姿勢を修正しつつ,搬送方向に送るものである。これは,本件特許発明2におけるような,整列苗(棒状ワーク)の移動側面(端部及び胴部)に接して縦移動機構(搬送ベルト)による整列苗(棒状ワーク)の移動により自由に回転移動する構成ではない。
また,審判2-甲4の発明において,一対の姿勢整列ベルトのエンドレスベルト(苗案内回転体の苗案内ベルト)のワーク排出部(分離部)側の反対側の間隔は棒状ワーク(整列苗)の端部及び胴部(移動側面)の最大の幅以上とする点については開示されているものの,同発明における一対の姿勢整列ベルトのエンドレスベルト(苗案内回転体の苗案内ベルト)は,モータで駆動自在に設けられており,姿勢整列ベルト(苗案内回転体)は棒状ワーク(整列苗)の端部及び胴部(移動側面)に接して棒状ワーク(整列苗)の姿勢を修正しつつ,搬送方向に送るものであり,本件特許発明2におけるように,整列苗(棒状ワーク)の移動側面に接して縦移動機構(搬送ベルト)による整列苗(棒状ワーク)の移動により自由に回転移動するものではない。
さらに,審判2-甲4の発明においては,一対の姿勢整列ベルトのエンドレスベルト(苗案内回転体の苗案内ベルト)のワーク排出部(分離部)側の間隔は,棒状ワーク(整列苗)の端部及び胴部(移動側面)の幅に対応して,互いに連動して同じ角度分それぞれ変化することが記載されており,棒状ワークの姿勢を修正して,棒状ワークの軸線と搬送ベルトの搬送軸線が一致するように搬送する棒状ワークの姿勢整列装置については開示されているといえるが,本件特許発明2におけるような一対の苗案内回転体の苗案内ベルト(姿勢整列ベルト)の分離部(ワーク排出部)側の間隔が整列苗(棒状ワーク)の縦移動機構(搬送ベルト)による移動側面の幅に対応して変化する点については何ら記載なく,その示唆すら記載されていない。
エ 以上のとおり,審判2-甲1の発明は,その苗案内回転体は,整列苗の移動側面に接して縦移動機構による整列苗の移動により自由に回転移動するものであるのに,審判2-甲3の発明の「ベルトコンベア」及び審判2-甲4の発明の「姿勢整列ベルト」は,いずれもモータで駆動自在の構成であって構成を異にするため,そのまま組み合わせることはできないものである。
したがって,本件特許発明2が,特許法29条2項の規定に違反して特許されたものであるという被告の主張には理由がない。
(3) 本件訂正請求1及び2について 被告は,本件訂正請求1及び2が認められたとしても,無効理由は解消されない旨主張するが,次のとおり,被告の主張は理由がない。
ア 本件特許発明1について (ア) 被告は,乙19ないし21を根拠として,周知技術の認定を行い,特許法29条2項に違反すると主張するが,被告の主張は,極めて限定された一部の技術事項のみを歪曲して認定したものであり,適切ではない。また,被告の主張は,周知技術から自明な事項として,さらなる周知技術の認定を行うものであって適切でない。
(イ) 被告が提出している各乙号証(乙19ないし21)によって認定し得る周知技術は,「一対の対向する駆動自在なベルトにより被搬送物を強制的に駆動搬送するに際して,少なくとも上記ベルトの一方のベルトの表面にスポンジ等の弾性接触部材を設け,該弾性接触部材を介して一対の対向する駆動自在なベルトにより被搬送物を挟持して,被搬送物を強制的に駆動搬送すること」にあるというべきである。これらの乙号証は,いずれもベルトの表面にスポンジ等の弾性接触部材を設けた駆動自在なベルトにより被搬送物を挟持して強制的に駆動搬送する装置に係り,ベルトに被搬送物を挟持して強制的に駆動搬送するに際しては,駆動自在なベルトと被搬送物との間で滑り等が発生することなく係合させる必要があることから,そのような課題,作用,機能等の認識のもとに駆動自在なベルト表面にスポンジ等の弾性接触部材を設けた技術が開示されているのである。
しかし,これらは,引用発明2との間に,課題,作用,機能等に関して何らの共通性はなく,これら周知技術を引用発明1に対して引用発明2と共に適用するに際しての動機づけの論理が存在しない。
(ウ) 引用発明1に引用発明2と共に周知技術を適用するに際し,そのまま適用することができない阻害要因が存在する。すなわち,被告が提出する乙号証によれば,周知の技術的手段として,ベルトの表面にスポンジ等の弾性接触部材を設けた駆動自在なベルトにより被搬送物を挟持して強制的に駆動搬送する装置に係り,ベルトに被搬送物を挟持して強制的に駆動搬送するに際しては,駆動自在なベルトと被搬送物との間で滑り等が発生することなく係合させる必要があることから,駆動自在なベルト表面にスポンジ等の弾性接触部材を設けた技術が開示されているのに対し,引用発明2には,苗載台(A)の仕切枠部(2)内両側ベルト(3)(3)をそれぞれ掛装し,両ベルト(3)(3)の外側面が苗載面(a)上のマット苗の側面に接触できるよう仕切り枠部(2)の両側面から少し突出するようにして回動自在に架設し,マット苗が縦送りされる状態ではベルト(3)は回動自由となり,側面がベルト(3)に接触するマット苗はスムーズに縦送りされる,田植機における苗の縦送り装置が記載されている。したがって,駆動自在なベルトの構成に係る周知の技術的手段と,マット苗の移動によりその側面に接触して縦送りを行う,駆動自在でないベルトとの間では,ベルトとしての課題,機能が根本的に異なっている。よって,この点において,適用を阻害する要因が存在し,引用発明1に対して,引用発明2と共に周知の技術手段を適用する際に,その周知の技術手段をそのまま適用することはできない。
(エ) 被告の主張は,本件特許発明1と引用発明1の相違点をさらに分割して,全体としての論理づけを行うことなく,分割したさらなる個別の相違点をただ断片的に検討しており,このような検討は,相違点に対する適切な判断とはいえない。本件特許発明1と引用発明1との対比における相違点をさらに分割して相違点の検討を行う場合,同時にそのように分割された相違点相互の関連についての判断も行うべきである。そもそも発明は,本来,その請求項に記載された各構成要件を全体として備え,各構成要件が有機的に備わって所定の作用効果を奏するものとして認定されるものであり,請求項記載の構成要件を技術的な必然性を伴うことなく,必要以上に個別に分割してとらえ,公知技術周知技術とただ断片的に対応させるような判断は,実質的な検討を行っていないもので誤った判断である。
(オ) また,被告が主張する引用発明1,引用発明2及び周知技術には,本件特許発明1の作用,効果とされる,特に装置が傾いたり振動しても分離部に対する整列苗の位置を規制でき,端の苗が倒れたりすることなく,確実に整列苗の最前列の分離される苗列を供給でき,苗案内回転体は縦移動機構による整列苗の移動により自由に回転移動するから,縦移動機構の整列苗の移送により,整列苗とそれが接している苗案内回転体とが一体に移動でき,摩擦により苗が分離されたり擦り切れたりすることなく,苗に損傷を与えることがなく,また,整列苗を縦移動機構に載せるときにも同様に,整列苗を送り込むと整列苗とそれが接している苗案内回転体とが一体に移動するから,縦移動機構の整列苗の移送により整列苗とそれが接している苗案内回転体とが一体に移動でき,摩擦により苗が分離されたり擦り切れたりすることなく,苗に損傷を与えないとの作用効果が全く示されていない。
このような作用効果は,引用発明1,引用発明2及び周知技術から自明な事項ではなく,到底予測できないものであるから,被告の主張は,このような作用効果を誤認,看過した結果,相違点の判断を誤ったものである。
(カ) 以上のとおり,被告の主張は,相違点の判断に関し,周知技術の誤認及び看過,適用阻害要因の看過,相違点相互の関連についての判断の遺脱,作用効果の誤認及び看過により,その判断を誤ったものである。
イ 本件特許発明2について (ア) そもそも周知技術は,拒絶理由通知の根拠となる技術水準の内容を構成する資料となるものであり,通常,引用発明の認定の基礎として用いたり,当業者の技術水準や創作能力等の知識の認定の基礎として用いられるものであり,周知技術の引用にも限度がある。被告は,相違点に係わる技術事項に対し,複数の周知例を提示するだけで,相違点に対する明確な論理付け,実質的な判断を行うことなく,相違点の判断の主張を行うが,これは適切な主張とはいえない。
(イ) 被告は,乙25ないし乙28を基に,「一般に,水平搬送ベルトの両側に設けた,被搬送物の移動側面を案内する一対の案内体の間隔を,案内体の前部である搬出側(出口側)は被搬送物の幅に対応して個別に水平方向に回転することで変化し,搬出側(出口側)の反対側である搬入側(入口側)は被搬送物の最大の幅以上とすることは周知の技術」であり,さらに,「同様の技術が,農業分野においても,‥‥‥周知である」という点が周知技術であると認定しているのであって,周知技術の認定はあくまでも上記の事項である。乙27に関する被告の主張は,周知技術の認定との名の下に,実質的には,本来認定していた上記の周知技術と相違する別の技術事項を認定しているものと考えられ,この点において,周知技術の認定に誤りがある。しかも,被告は,本来認定していた周知技術とは別の技術事項をも,周知技術の名のもとに,実質的に相違点の判断の根拠としているのであって,この周知技術の認定の誤りは,本件特許発明2の無効理由の存否に影響を及ぼすものである。
(ウ) また,被告は,本件特許発明2は,審判2-甲1の発明に記載された発明に,周知技術を適用することにより当業者が容易に想到できたものである旨主張するが,乙25における「ガイド板3」は平ベルトコンベア1によって移送される物品を中心部に集約するためのものであり,乙26における揺動自在な「矯正棹(32)(32)」は,容器(A)を挟持することで,一時停止させ,容器(A)の相互間隔を一定にするためのものであり,乙27における揺動自在な「ガイド板(23)(23)」は苗を内側に寄せるためものものであり,乙28における揺動自在な「ガイド杵(8)(8)」は,育苗箱を移送経路幅の中央位置に修正するもので,審判2-甲1の発明における発明が解決しようとする課題の認識(審判2-甲1の発明が記載された特開平5-30812号公報【0003】【0004】),作用(同【0007】【0008】)とはその構成が異なり,上記の周知技術と課題,作用,機能等の共通性を見いだすことができない。
したがって,審判2-甲1の発明に被告が主張する周知技術を適用する動機付けはない。
(エ) さらに,審判2-甲1の発明に周知技術を適用するに際しては,そのまま適用することができない阻害要因が存在する。すなわち,被告が提出する周知技術は,いずれも単に水平方向に回転する一対の案内体に係るものであるのに対し,審判2-甲1の発明は,縦移動機構の左右の分離部側の整列苗の縦移動機構による移動側面に弾性的に接し,縦移動機構による整列苗の移動により自由に回転移動する一対の苗案内回転体に係るものであり,構成において相違がある上,その課題,機能も根本的に異なっているから,この点において,審判2-甲1の発明に周知技術を適用する阻害要因が存在するといえ,周知技術をそのまま適用することはできない。
(オ) 本件特許発明2においては,一対の苗案内回転体の分離部側の間隔は整列苗の縦移動機構による移動側面の幅に対応して変化し,整列苗の幅が狭くなっても広くなっても苗案内回転体が端の苗を保持して分離部に正しく導くから,整列苗は確実に保持されて案内され,又,苗案内回転体の分離部側の反対側の間隔は整列苗の縦移動機構による移動側面の最大の幅以上とし,後続する整列苗を先行する整列苗に密着させるべく進行させても,後続する整列苗の端の苗は苗案内回転体に接しないし,幅の広い後続する整列苗により苗案内回転体が回転移動することもないから,整列苗の端の苗が苗案内回転体との摩擦により不要に分離されることがないとの作用効果を有しているところ,審判2-甲1の発明及び周知技術に,これらの作用効果は何ら示されていないものであるから,到底予測することはできない。
(カ) 以上のとおり,本件特許発明2は,審判2-甲1の発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に想到できたものとはいえないから,特許法29条2項の規定に違反して特許されたという被告の主張には理由がない。
4 争点4-原告の損害額について (原告の主張) 本件特許権1及び本件特許権2が登録された日の後である平成10年10月から現在までの間に,被告による被告装置の販売金額は,少なくとも15億5200万円を下らない。
業界における同種製品の利益率から判断して,被告の被告装置の製造販売による利益率は販売価格の10%を下ることはない。したがって,被告が,前記期間に被告装置を製造販売したことによって得た利益は,少なくとも1億5520万円である。
また,被告は,本来,本件各特許権について,実施権の許諾を受けなければ被告装置を製造販売できなかったはずであり,その実施料率は販売価格の10%が相当である。このうち,平成10年10月から平成11年10月末日までの利益分は,法律上の原因なく,実施料相当額を利得した被告の不当利得であり,原告は同等額の損害を被った。そして,平成11年11月1日から現在までの被告利益分は,原告の損害に相当するから,原告は同等額の損害賠償請求権を有する。
以上により,原告は,被告に対し,本件各特許権に基づく損害賠償請求(特許法102条2項)及び不当利得返還請求として,1億5520万円及びこれに対する平成14年11月15日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(被告の主張) 原告の主張は争う。
当裁判所の判断
1 争点1(被告装置の具体的構成)について 前記のとおり(第3の1),被告装置の具体的構成については当事者間に一部争いがあるが,まず,原告が被告装置の構成として主張する別紙「イ号物件目録」の記載を前提として,被告装置が本件特許発明技術的範囲に属するかどうかを検討する。
2 争点2(被告装置の構成要件充足性)について (1) 本件特許発明1について ア 構成要件1-Aについて 整列苗を使用する苗移植機において,整列苗から畑に最終的に植え付けるに際し,その整列苗を個々の苗に分離する必要があるところ,その分離の仕方には,大きく分けて2つの態様がある。その1つは,整列苗をまず列状苗に分離し,次いでその列状苗から個々の苗に分離する,いわゆる「二段分離式」と呼ばれるものであり,他の1つは,一対の回転体などで整列苗から直接個々の苗を分離する,いわゆる「一段分離式」である(当事者間に争いがない。)。
原告は,本件特許発明1の特許請求の範囲には,「分離部」の解釈について特に限定がなく,一段分離式か二段分離式かを問わないとして,被告装置は構成要件1-Aを充足する旨主張するので,まず,この点について検討する。
イ 本件明細書1についてみると,【請求項1】には,「‥‥‥整列苗を移動させて分離部に供給して個々の苗に分離する装置において‥‥‥」(本件公報1・1欄2行ないし4行)と記載されているほか,苗を分離する方式について,特段規定されていない。
しかし,本件明細書1の各記載及び図面に照らせば,本件特許発明1における「分離部」の解釈としては,整列苗の状態から,「個々の苗に分離する」部分を示すものと解するのが自然かつ合理的である。
@ まず,本件明細書1の【0001】【産業上の利用分野】には,「‥‥‥紙筒苗のような整列苗を使用する移植機などにおいて,整列苗から個々の苗に分離する分離装置に関する。」と記載されており(本件公報1・2欄4行ないし5行),ここにおける「整列苗から個々の苗に分離する分離装置」とは,いわゆる一段分離式の方法を示したものといえる。
A また,本件明細書1の【0002】【従来の技術】においては,「紙筒苗のような整列苗から一対の回転体により個々の苗に自動的に分離する分離装置は,本発明者らが特願平2-410686号として提案した。この整列苗の分離装置は,整列苗を載せて往復移動して一対の回転体に分離される苗を供給する横移動機構を設け,横移動機構上には横移動機構の移動端で整列苗を載せて縦方向に間欠的に移動させる縦移動機構を設けていた。そして,この分離装置の苗案内体は,横移動機枠の左右上方に整列苗の幅よりやや広い間隔で縦方向に長く固定して設けていた。」(同・2欄6行ないし3欄1行)とし,【0003】【発明が解決しようとする課題】において,「前記従来の技術の分離装置の整列苗の幅よりやや広い間隔で固定して設けた苗案内体では,整列苗を確実に案内することが難しかった。つまり,整列苗の幅より広すぎる苗案内体では,整列苗の位置が分離部に対して決まらないし,端の苗が倒れたりすることがある。また,整列苗の幅にほぼ合った苗案内体では,整列苗が苗案内体に全く触れずに移送されることはなく,縦移動機構の整列苗の移送により整列苗の移動側面と苗案内体の摩擦により苗が分離されたり擦り切れたりすることがあり,正常に分離部に苗を供給できない。」(同3欄・2行ないし13行)とした上で,「【0004】本発明は,以上のような問題点を解決し,確実に整列苗の横方向の位置を案内し,苗に損傷を与えずに分離部に供給する苗案内体により,連続的に確実に個々の苗に分離する高性能・高能率な整列苗の分離装置を提供し,移植栽培を飛躍的に広げることを目的とする。」(同・3欄14行ないし19行)としているが,これらは,「整列苗」から直接「個々の苗に」分離することを前提とした記載となっている。
B さらに,本件明細書1において,【0005】【課題を解決するための手段】として,「‥‥‥苗案内体は,‥‥‥整列苗Pを移動させて分離部40に供給して個々の苗Paに分離する装置において,整列苗Pを載せて縦方向に移動させる縦移動機構20を設け,縦移動機構20の左右の分離部40側には整列苗Pの横方向の位置を案内する一対の苗案内回転体30を設け,苗案内回転体30は整列苗Pの縦移動機構20による移動側面に接し,縦移動機構20による整列苗Pの移動により自由に回転移動するものである。」(同・3欄20行ないし30行)と記載されており,整列苗Pが分離部40に供給され,分離部40において整列苗Pから個々の苗Paに分離されることが示されている。
C そして,本件明細書1の【実施例】においても,「【0026】分離部40の上方には分離部枠41を設け,分離部枠41から下方に一対の軸を設け,その軸に一対の回転体としての弾性体のローラ42をはめ込んで設ける。‥‥‥ローラ42は,ベルト25に載せられた整列苗Pの側面の上部と下部に接当する位置とし,一対のローラ42は個々の苗Paの紙筒直径より狭い間隔とし,一対のローラ42は互いの対向面が整列苗Pより遠ざかる方向に同一速度で回転させ,その周速は横移動機構10の移動速度の約3倍とする。」(同・5欄42行ないし50行),「【0027】‥‥‥整列苗Pの側面が回転する一対のローラ42が順次接当することにより連続して個々の苗Paに分離され,分離された個々の苗Paはローラ42に挟まれて整列苗Pの反対側に立垂状態のまま繰り出す。」(同・6欄1行ないし11行)とし,一段分離式の構造であることが明示されている。
D そのほか図面1,4及び10を参照しても,一段分離式の構造を備えたものしか記載されていない。
以上@ないしDの本件明細書1の各記載及び図面を参酌すれば,本件特許発明1は,一段分離式を前提とした発明と解するのが相当である。すなわち,上記のとおり,本件明細書1には,一段分離式の方法を前提とした記載あるいは図面しか存せず,二段分離式を前提とした記載や図面,あるいは,二段分離式の装置においても本件特許発明1が妥当する旨の記載は存しない。また,既に,本件特許発明1の発明者らは,整列苗を載せて一対の回転体に分離される苗を供給する横移動機構と,横移動機構上に横移動機構の移動端で整列苗を載せて間欠的に移動させる縦移動機構を設けた苗移植機において,整列苗から一対の回転体により,個々の苗に自動的に分離する装置を発明しており(本件特許発明1の先願となる特願平2-410686号・上記【0002】参照),同装置において,上記【0003】に掲げる問題点が存したため,「確実に整列苗の横方向の位置を案内し」,「苗に損傷を与えずに分離部に(整列苗を)供給する」必要があったとして,【発明の名称】「整列苗の分離装置における苗案内体」とする本件特許発明1を発明したという経緯などを総合すると,本件特許発明1は,整列苗から直接個々の苗に分離する際に生じる問題点を解決するための苗案内体の発明であると解される。
したがって,構成要件1-Aの「‥‥‥分離部に供給して個々の苗に分離する装置‥‥‥」における「分離部」の解釈としては,「個々の苗に分離するための分離部」と解するのが相当である。
ウ(ア) この点について,原告は,当業者であれば,この種の移植機における分離装置には一段分離式のものと二段分離式のものが存するから,一方のみの方式に限られない技術上の問題点であれば,分離の方式にかかわらず,共通の技術上の課題として当然認識しているものととらえるべき旨を主張する。しかしながら,そうであれば,なおさら,本件特許発明1の技術的課題が,一段分離式と二段分離式との方式の差異を問わず存在する問題であり,本件特許発明1が,方式のいかんにかかわらず当該問題を解決するものであることを本件明細書1に明記すべきであったというべきである。本件明細書1の上記各記載からすれば,二段分離方式のものについても本件特許発明1が同様に課題を解決する効果を奏することは明細書上明らかにされているとは認められず,本件特許発明1は,一段分離式を採用した際に生じる問題点を解決するための苗案内体の発明として開示されていると解さざるを得ない。原告の主張は採用できない。
(イ) また,原告は,最終的に「個々の苗に分離する装置」を構成すればよく,分離部の解釈としては,列状に分離する部分と個々の苗に分離する部分の双方を含む旨も主張する。
しかし,整列苗を列状の苗に分離する場合と,整列苗を個々の苗に分離する場合とでは,当該分離部に案内する苗案内体の役割も当然異なるというべきで,列状に分離する部分と個々の苗に分離する部分の双方を含んで分離部とするとの解釈は採り得ない。
エ ところで,原告の主張する被告装置における苗の分離装置の構成は,「a 個々の苗Pbに分離可能に整然と連結した整列苗Pを移動させて,仮想支点41cを中心に約90度回転可能な苗当接板41aと苗分離針41bを備えた苗列分離部41に供給して列状の苗列Paに分離した後,その苗列Paを苗分離スポンジ輪52に供給して個々の苗Pbに分離し植付装置に供給する装置」(別紙「イ号物件目録」(構成)参照)としており,また,別紙「イ号物件目録」添付の「苗案内供給装置説明書」の【構成の説明】によれば,「‥‥‥・回転ローラ13上に供給された整列苗Pは縦移動機構10としての回転ローラ13と転載コンベア12と供給コンベア11により縦方向Xに移動させ,その先の整列苗Pに対向させた苗列分離部41で分離される苗列を列状に分離し,苗列Paとして搬送コンベア50に倒置して供給し,列状に連結した苗列Paを苗押さえスポンジ輪51と苗分離スポンジ輪52とにより,個々の苗Pbに分離して本圃に植付ける。」としているのであって,被告装置が二段分離式を採用していることは原告も自認するところである。
オ 以上からすると,原告の主張する被告装置の構成によっても,被告装置は,構成要件1-Aを充足しないというべきである。
(2) 本件特許発明2について ア 本件明細書2の特許請求の範囲における請求項1には,「個々の苗に分離可能に整然と連結した整列苗を移動させて分離部に供給して個々の苗に分離し植付装置に供給する装置において‥‥‥‥‥‥,」と記載されているから,本件特許発明1と同様,「分離部」の解釈が問題となるが,次のとおり,本件明細書2の各記載及び図面に照らせば,本件特許発明1と同様,本件特許発明2においても,苗の分離方式については,一段分離式を前提としているというべきである。
@ 本件明細書2の【0001】【産業上の利用分野】には,「‥‥‥紙筒苗のような整列苗を使用する移植機において,整列苗から個々の苗に分離し植付装置に供給する移植機の苗供給装置…」(本件公報2・3欄4行ないし10行)」と記載されており,「整列苗から個々の苗に分離」する一段分離式の構成であることを示している。
A また,本件明細書2の【0002】【従来の技術】においては,「紙筒苗のような整列苗から個々の苗に分離する苗供給装置の,整列苗の縦方向への移動を案内する一対の苗案内回転体としては,本発明者らが特開平5-30812号として提案している。」(同・3欄11行ないし15行。なお,特開平5-30812号は本件特許発明1の公開公報。)とされ,「【0003】この苗供給装置の一対の苗案内回転体は,整列苗が横移動機構により往復移動したり機械の進行により振動しても,正しく分離部に導かれるようにしようとするもので,次々と補給される整列苗の幅が多少変化しても,その端の苗を不要に分離したりして損傷を与えることなく供給しようとするものである。つまり,機械的に整列苗を個々の苗に分離しようとすればおのずと整列苗は正しく分離部に導かれなければ正常に分離されないし,分離部に達する前に分離して倒れてしまった苗は分離部で正常に分離されないから,正常に本圃に植え付けられずに捨てられてしまい無駄を生じる。」(同・3欄16行ないし26行),「【0015】本発明は,移植機の植付装置に分離された個々の苗を供給するための苗供給装置において,整列苗を確実に分離部に供給し不要に分離されることのない苗案内回転体により,また整列苗を確実に分離部に供給しスポンジが剥がれたりちぎれてしまったりすることのない苗規制ベルトにより,また整列苗を確実に個々の苗に分離し紙筒底部からの育苗土の脱落がない分離回転体により,高性能・高能率な移植機を提供することを目的とする。」とされており,これらの記載においては,本件特許発明2は,整列苗が横移動機構により往復移動したり機械の進行により振動しても,整列苗を正しく分離部に導くためのものであることを,一段分離式の構成を前提とした移植機で説明されている。
B そして,本件特許発明2の【実施例】についてみても,「【0025】‥‥‥整列苗90を個々の苗91に分離し植付装置80に供給する苗供給装置を装備した移植機について説明する。」(同・7欄30行ないし33行),「【0049】整列苗90は一対の分離ローラ51に順次接することにより連続的に個々の苗91に分離され,分離された苗91は一対の分離ローラに挟まれて繰り出され,‥‥‥」(同・11欄15行ないし17行),「【0056】‥‥‥横移動機構枠12の横方向の移動により,整列苗90の最前列の分離される苗列は順次分離ローラ51に接することにより,転がりながら連結部を剥がされて無理なく連続的に個々の苗91に分離される。」(同・12欄10行ないし14行)などの記載がみられるが,これらは一段分離式の構成に関する説明であり,図4ないし図8の図面もすべて一段分離式の構成を示している。
上記の@ないしBの本件明細書2の各記載及び図面を参酌すれば,本件特許発明2も,本件特許発明1と同様,一段分離式を前提とした発明と解するのが相当である。
イ 他方,被告装置は,上記(1)エに示したとおり,二段分離式を採用しているものであるから,原告の主張する被告装置の構成によっても,被告装置は,構成要件2-Aを充足しないというべきである。
(3) 本件訂正請求1及び同2について 本件特許発明1及び本件特許発明2については,それぞれ訂正請求がなされ(前述の本件訂正請求1及び本件訂正請求2),これを認める審決がなされているものの,現在,これらについては審決取消訴訟が係属中であることは前記前提となる事実に記載のとおりである(第2の1(6)ウ)。
しかし,仮に,審決取消訴訟の結果,上記審決が確定して,これらの訂正が認められることが確定したとしても,上記の結論は異ならない。
すなわち,本件特許発明1の構成要件1-Aにおいて,原告が求めている訂正部分は,「左右方向と列方向に」を「整然と連結した整列苗」の前に挿入するものであるところ,同訂正が認められたとしても,上記に認定した苗の分離方式について何ら影響を与えるものではない。また,本件特許発明2については,構成要件2-Aの部分における訂正箇所は存しないから,本件訂正請求2において訂正が認められても,上記結論は異ならない。
(4) したがって,被告装置は,本件特許発明1の構成要件1-A及び本件特許発明2の構成要件2-Aのいずれの構成要件も充足しないから,各発明についてのその余の構成要件の充足性について判断するまでもなく,被告装置は,本件特許発明1及び本件特許発明2のいずれの技術的範囲にも属しないというべきである。
3 上記のとおり,原告の主張する被告製品の構成によっても,本件特許発明1及び本件特許発明2のいずれの特許請求の範囲に属するものとはいえず,また,本件訂正請求1及び2による訂正が確定したとしても,いずれの特許請求の範囲にも属さないから,原告の本訴請求は既に理由がない。もっとも,本件においては,事案の内容にかんがみ,本件特許発明1及び2に無効理由があることが明らかであって,本件訂正請求1及び同2によっても無効理由が解消されないかどうかを検討する。
(1) 本件特許発明1について ア 本件特許発明1の出願前に頒布された刊行物である特開昭58-803号公報(乙16)には,紙筒苗の分離装置に関する発明(前掲「引用発明1」)が示されており,次の記載がある。
同公報における引用発明1の実施例には,「1は本発明の紙筒苗の分離装置である。‥‥‥その構成は,分離を所望する紙筒苗2を展開した状態で右方へ搬送するベルトコンベア3の上面に当該コンベアの進行方向3’とは直交方向をもって剥離用ロール群4を回転自在に垂下せしめ」(同公報1頁右下欄13行ないし2頁左上欄3号),「1Dは上記コンベアの左方上面に配設されたガイド板」が記載されており(同公報2頁・右上欄4行ないし5行),引用発明1の作用効果として,「育苗された紙筒苗2を上記ベルトコンベア上にガイド板を利用して右方に向けて装着する。‥‥‥‥進行するベルトコンベア上の紙筒苗は右方へ進み,当該紙筒苗の側壁に回転するロール単体が接触し,第5図の如く,紙筒苗単体は各ロール単体の‥‥‥より外方へ分離され」(同公報10頁右上欄12行ないし左下欄4行),「本発明のものによれば連続している紙筒苗を極めて容易にかつ確実に分離することができる」(同公報10頁左下欄8行ないし10行)と記載されている。
また,紙筒苗は,同公報の図面1,2,4,5によればハニカム状に連結された状態であることが認められる。
イ 本件特許発明1の出願前に頒布された刊行物である実願昭59-93109号(実開昭61-7926号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(乙18。前掲「引用発明2」)には,「田植機における苗の縦送り装置」に関する発明が示されており,次の記載がある。
「本考案は田植機における苗の縦送り装置に関」(同マイクロフィルム・1頁17行)するもので,「苗載台(A)の下部側で隣り合う両苗載面(a)(a)の間の仕切り枠部(2)内両側には両ベルト(3)(3)をそれぞれ掛装するが,両ベルト(3)(3)は縦方向に間隔をおいて軸架した4個のロール(15)にそれぞれ掛装することともに,両ベルト(3)(3)の外側面が苗載面(a)上のマット苗の側面に接触できるよう仕切り枠部(2)の両側面から少しく突出するようにして回動自在に架設」(同公報4頁2行ないし9行)されており,「マット苗が縦送りされる状態では,第4図に示すように受動カム(11)が回動するので,リンク(19)により引かれて回動するストッパー(4)はベルト(3)(3)から離れ,そこで,制動解除によりベルト(3)は回動自由となり,側面がベルト(3)に接触するマット苗はスムーズに縦送りされることになる。」(同公報5頁16行ないし6頁2行)と記載されている。そして,引用発明2は,「間欠回転する多数の縦送り用スターホイル(1)の上部を突出させた苗載面(a)を有する苗載台(A)を斜設して構成する田植機において,前記苗載面(a)の側部に起立する仕切り枠部(2)にはマット苗の側面が接触するベルト(3)を回動自由に架設するとともに,該ベルト(3)には制動用のストッパー(4)を接離自在に当接し,各スターホイル(1)の回転時にはストッパー(4)がベルト(3)より離れるようスターホイル(1)側とストッパー(4)とを連動連撃して構成したから,マット苗を縦送りしない状態では制動状態のベルト(3)によりずり落ちないように良好に保持できるとともに,縦送り時には制動解除したベルト(3)が縦送りの抵抗とならないようにして良好に縦送りすることができるようになり,しかもその状態の切換えはスターホイル(1)に連動して自動的に確実に行わせることができ,欠株や植付本数の乱れあるいは苗姿勢の乱れが生じることなく確実良好に縦送りすることができて好適に実施できる特徴を有する。」(同マイクロフィルム・6頁3行ないし7頁2行)とも記載されている。
ウ 以上を前提に,本件訂正請求1による訂正が認められた場合における本件特許発明1と引用発明1とを対比する。
すると,引用発明1における「紙筒苗」はハニカム状に整然と連結されたものであるから,引用発明1における「分離を所望する紙筒苗」は,本件特許発明1における「個々の苗に分離可能に整然と連結した整列苗」に対応し,引用発明1における「紙筒苗を展開した状態で右方へ搬送するベルトコンベア」は,本件特許発明1における「整列苗を載せて縦方向に移動させる縦移動機構」に対応している。
また,引用発明1における「育苗された紙筒苗」は「コンベアの左方上面に配設されたガイド板を利用して右方へ向けて装着」されるが,ベルトコンベア上の左右の分離部側に設けられた「ガイド板(1D),(1D)」は紙筒苗の移動側面に接し,紙筒苗の横方向の位置を案内するものであるから,一対の「苗案内体」と認められ,本件特許発明1における「縦移動機構の左右の分離部側には整列苗の横方向の位置を案内する一対の苗案内回転」と共通する作用を有するものといえる。
そうすると,本件特許発明1と引用発明1とは,「個々の苗に分離可能に整然と連結した整列苗を移動させて分離部に供給して個々の苗に分離する装置において,整列苗を載せて縦方向に移動させる縦移動機構を設け,縦移動機構の左右の分離部側には整列苗の横方向の位置を案内する一対の苗案内回転体を設け,苗案内回転体は整列苗の縦移動機構による移動側面に接する,整列苗の分離装置における苗案内体」である点で一致する。
他方,本件特許発明1においては「縦移動機構による整列苗の移動により自由に回転移動する」が,引用発明1においては「ガイド板」であるから,縦移動機構(ベルトコンベア)による整列苗(紙筒苗)の移動により自由に回転移動するものではない点,本件特許発明1における苗案内回転体は「ベルトとその表面の弾性接触部材」からなり,「ベルトの内方の間隔は整列苗の左右方向より広くし,弾性接触部材の内方の間隔は整列苗の左右方向より狭く」なっているのに対し,引用発明1においてはそのような構成を備えていない点で相違する。
エ(ア) そこで,上記相違点について検討する。
引用発明2には,「マット苗」の一部(ブロック苗)を掻き取って田面に植え付ける田植機において,「マット苗」を載せて縦送りする「縦送り装置」を設け,「マット苗」の両側には,移動する「マット苗」の側面に接触して自由に回動する「ベルト」を備えており,当該「ベルト」はその機能に照らすと,「縦送り装置」による「マット苗」の移動側面に接して自由に回転移動するとともに,「マット苗」の横方向の位置を案内する一対の苗案内回転体であるということができる。そして,引用発明1は「紙筒苗の分離装置」に係る発明であり,引用発明2は「田植機における苗の縦送り装置」に係る発明であって,いずれも苗の移植に関する発明である。そして,引用発明1における「紙筒苗」も引用発明2の「マット苗」も移植される苗の形態としては極めてよく知られたものであり,これら周知の形態の苗の移植に関する技術が相互に転用できることは当業者にとって自明というべきである。
したがって,引用発明1におけるガイド板に代えて,引用発明2における一対の苗案内回転体に関する上記の技術事項を適用することは,当業者が容易に想起し得ることである。
また,乙19ないし21によれば,一対の対向するベルトの表面にスポンジ等の弾性接触部材を設け,弾性接触部材が被搬送物の移動表面に接するように構成することにより,被搬送物を搬送することが周知技術であったことが認められる。
そして,このように弾性接触部材を表面に設けたベルトにおいては,弾性接触部材が被搬送物の移動表面に接し,被搬送物の幅方向に弾性変形することにより,被搬送物を挟持し,搬送していることは明らかである。そうすると,一対の対向するベルトと被搬送物との関係は,ベルトの内方の間隔は被搬送物の幅より広く,弾性接触部材の内方の間隔は被搬送物の幅より狭くなることは当然というべきである。
(イ) 以上からすれば,上記ウにおける相違点については,引用発明1に引用発明2が有する技術事項及び周知技術を勘案することにより,当業者が容易に想到することができたものであり,本件特許発明1の作用効果も,引用発明1,引用発明2が奏する作用効果から当業者が容易に予測できる範囲内のものである。
したがって,本件訂正請求1による訂正が確定することを想定して,訂正がなされた後の特許請求の範囲の記載を前提として本件特許発明1を検討しても,同発明には,特許法29条2項の規定に違反して特許された無効理由がある。
そうすると,本件特許発明1は,特許法29条2項の規定に違反して特許された無効理由があるというべきで,この無効理由は上記のとおり本件訂正請求1による訂正では解消しないと認められるから,結局,本件特許権1に基づく権利行使は権利の濫用に当たるというべきである。
オ(ア) 上記の点について,原告は,被告の提出した周知技術は,すべて駆動自在なベルトに弾性接触部材を設けたもので,弾性接触部材を設けた作用,機能等が,引用発明2との間で共通しないから,引用発明2と共に周知技術を適用する動機付けの論理が存在しない,あるいは適用阻害要因が存在するなどと主張する。
しかし,ベルトの表面にスポンジ等の弾性接触部材を設けることについては,ベルトが駆動するか否かによって,周知技術の適用に当たって,動機付けがないとか阻害要因があるということはできない。
(イ) さらに,原告は,本件特許発明1における,装置が傾いたり,振動しても分離部に対する整列苗の位置を規制できたり,苗の損傷を与えないなどの効果が,引用発明1,引用発明2及び周知技術には示されていないなどとも主張する。
しかし,本件特許発明1の上記作用効果は,引用発明1に,引用発明2及び周知技術から予測される範囲内のものであり,これらを組み合わせれば上記のような効果を有することは当業者にとって明らかというべきである。原告の主張は採用できない。
(ウ) そのほかに原告は,周知技術に開示されている自明な事項を勘案することは適切でないなどと周知技術の認定についても縷々述べるが,周知技術の認定については,上記のとおり認定できるものであり,原告の主張は採用できない。
(2) 本件特許発明2について ア 本件特許発明2の出願前に頒布された刊行物である特開平5-30812号公報(乙1。本件特許発明1の公開公報。前掲「審判2-甲1の発明」が記載された公報。)には,次の記載がある。
(ア) 「個々の苗に分離可能に整然と連結した整列苗を移動させて分離部に供給して個々の苗に分離する装置において,整列苗を載せて往復移動して分離部の一体の回転体に分離される苗を供給する横移動機構を設け,横移動機構上には横移動機構の移動端で整列苗を載せて縦方向に間欠的に移動させる縦移動機構を設け,縦移動機構の左右の分離部側には整列苗の横方向の位置を案内する一対の苗案内回転体を設け,苗案内回転体は整列苗の縦移動機構による移動側面に接し,縦移動機構による整列苗の移動により自由に回転移動する整列苗の分離装置における苗案内体。」(同公報2頁1欄2行ないし12行)。
(イ) 「本発明は,農作物の移植栽培で,個々の苗に分離可能に整然と連結した紙筒育苗容器による紙筒苗のような整列苗を使用する移植機などにおいて,整列苗から個々の苗に分離する分離装置に関する。」(同公報2頁1欄15行ないし18行)。
(ウ) 「苗案内回転体30はベルト31とその表面に貼着したスポンジ体32からなり,ベルト31の内方の間隔は整列苗Pの横方向より広くし,スポンジ体32の内方の間隔は整列苗Pの横方向より狭くする。そして,スポンジ体32が整列苗Pの縦移動機構20の移動側面につぶれて接して整列苗Pを規制する。」(同公報3頁3欄38行ないし43行)。
(エ) 「苗案内回転体30としてベルト31とその表面に貼着したスポンジ体32からなるものを示したが,整列苗Pに弾性的に接触させるため苗案内回転体30そのものを横移動機構10の移動方向に弾性的に移動可能に保持しても良い。」(同公報4頁6欄11行ないし15行)。
イ そして,本件訂正請求2による訂正が認められた場合における本件特許発明2と審判2-甲1の発明に記載された発明とを対比する。
すると,「個々の苗に分離可能に整然と連結した整列苗を移動させて分離部に供給して個々の苗に分離する装置において,整列苗を載せて分離部に分離される苗を縦方向に移動させる縦移動機構を設け,縦移動機構の左右には整列苗の移動側面に接して縦移動機構による整列苗の移動により自由に回転移動する」ものである点で共通し,審判2-甲1の発明においては,「横移動機構」を備えているのに対し,本件特許発明2は,「横移動機構」そのものは特許請求の範囲に記載されていないものの,本件特許発明2が,「横移動機構」を具備するものであることは,本件特許発明2における発明の詳細な説明及びその実施例の記載から明らかであって,この点においても共通する。また,審判2-甲1の発明には,本件特許発明2における「個々の苗に分離し植付装置供給する装置」に対応する構成を備えているものと認められ,実質的に,移植機の苗供給装置を開示しているものである。
さらに,審判2-甲1の発明において,「苗案内回転体」は,「整列苗」の「移動側面」を「案内」するものであり,該「苗案内回転体」を構成する「ベルト」は,実質上「苗案内ベルト」であり,「整列苗」の縦移動機構による移動側面に弾性的に接するものであることから,移動側面の幅に対応するものである点で,苗案内回転体と苗案内ベルトは共通している。
したがって,本件特許発明2と審判2-甲1の発明は,「個々の苗に分離可能に整然と連結した整列苗を移動させて分離部に供給して個々の苗に分離し植付装置に供給する装置において,整列苗を載せて分離部に分離される苗を縦方向に移動させる縦移動機構を設け,縦移動機構の左右には整列苗の移動側面に接して縦移動機構による整列苗の移動により自由に回転移動し,苗案内回転体には苗案内ベルトを掛け渡し,一対の苗案内回転体の苗案内ベルトは整列苗の縦移動機構による移動側面の幅に対応するものである移植機の苗供給装置」である点において,一致している。
しかし,整列苗の縦移動機構による移動側面の幅に対応するものである一対の苗案内回転体の苗案内ベルトの間隔が,本件特許発明2において,分離部側の間隔は苗案内ベルトの分離部側が個別に水平方向に回転することで変化し,苗案内ベルトの分離部側の反対側の間隔は整列苗の縦移動機構により移動側面の幅に対応して変化し,苗案内ベルトの分離部側の反対側の間隔は整列苗の縦移動機構による移動側面の最大の幅以上とするものであるのに対し,審判2-甲1の発明では,分離部側も分離部側の反対側もほぼ同じである点が相違する。
ウ(ア) そこで,上記相違点について検討するに,乙25,26によれば,水平搬送ベルトの両側に設けた,被搬送物の移動側面を案内する一対の案内体の間隔を,案内体の前部である搬出側(出口側)は被搬送物の幅に対応して変化し,搬出側(出口側)の反対側である搬入側(入口側)は被搬送物の最大の幅以上とすることは,周知の技術であったことが認められる。
また,乙27,28によれば,農業分野においても同様の技術事項が周知であったことが認められる。特に,乙27においては,「本案のものによれば,縦送りベルトで苗を後方より押した場合,苗載台の前端部では苗が左右方向に広がろうとするが,ガイド板は内方に向かって附勢されていて,苗取り口に向かって傾斜しているので,苗は苗取り口に向かって円滑に供給され,」(実願平1-104737号(公開実用平成3-43919号公報)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(乙27)・9頁(考案の効果))と記載されていることや,同マイクロフィルム第3図の(イ)及び(ロ)の記載から明らかなとおり,水平に架設された苗送りベルトの両側に設けた,苗(マット状苗)の移動側面を案内する一対の側板の間隔を苗(マット状苗)の幅よりも大とし,苗載台前端の苗取り口側において上記一対の側板の前部にガイド板を苗取り口方向に向かって個別に揺動自在に附勢して設け,苗載台前端で左右方向に広がろうとする苗を内側に寄せて,苗取り口に向かって円滑に苗を供給することが開示されており,審判2-甲1の発明と共通の技術的範疇に属する移植機における周知技術が開示されている。また,乙27には,苗取り口においてマット状苗を一定の大きさの苗に掻き取って移植する,マット状苗を使用する移植機における技術が開示されているが,マット状苗も紙筒苗も,いずれの形態も苗の移植形態としては周知であって,各々の形態の苗の移植技術が相互に転用できることは自明である。
さらに,乙27においては,「苗載台における左右両側板それぞれの前端部に苗取り口方向に向かうガイド板を設け,かつ該ガイド板は揺動自在であって,‥‥‥」(乙27・同マイクロフィルム・2頁)と記載されていることや,同マイクロフィルム第3図の(イ)及び(ロ)の記載から明らかなとおり,案内体である一対のガイド板が個別に揺動,すなわち水平方向に回転することで,一対のガイド板の間隔は苗(マット状苗)の幅に対応して変化するものであることが認められ,当該技術は周知であったということができる。
(イ) 上記(ア)の周知技術を勘案すれば,審判2-甲1の発明において,「一対の苗案内回転体のベルト(苗案内ベルト)」が「整列苗」の移動側面に弾性的に接する接触部を「一対の苗案内回転体」の前部とし,「一対の苗案内回転体」が,その前部において個別に「整列苗」の移動側面に弾性的に接するように構成することは,当業者が容易に想起できるといえる。そうすると,一対の苗案内回転体のベルト(苗案内ベルト)が整列苗の縦移動機構による移動側面の幅に対応する部分である,移動側面に弾性的に接する接触部は,ベルト(苗案内ベルト)の前部である整列苗の分離部側となり,分離部側の反対側の間隔は整列苗の縦移動機構による移動側面の最大の幅以上となって,これにより,ベルト(苗案内ベルト)の分離部側は実質上個別に水平方向に回転することになり,個別に水平方向に回転することでベルト(苗案内ベルト)の分離部側の間隔は整列苗の移動側面の幅に対応して個別に変化することになる。また,本件特許発明2が奏する効果も,審判2-甲1の発明及び周知技術が奏する効果から容易に想到できる範囲のものというべきである。
(ウ) 以上によれば,本件訂正請求2による訂正が確定することを想定して,訂正がなされた後の特許請求の範囲の記載を前提として本件特許発明2を検討しても,同発明は,審判2-甲1の発明及び周知技術から当業者が容易に発明することができたものというべきであり,特許法29条2項の規定に違反して特許された無効理由がある。
そうすると,本件特許発明2は,特許法29条2項の規定に違反して特許された無効理由があるというべきで,この無効理由は上記のとおり本件訂正請求2による訂正によっては解消しないと認められるから,結局,本件特許権2に基づく権利行使は権利の濫用に当たるというべきである。
エ(ア) 原告は,乙25ないし28における構成は,審判2-甲1の発明の構成と異なっており,これらの周知技術と審判2-甲1の発明の課題,作用,機能等との共通性を見い出せないとして,審判2-甲1の発明と共に周知技術を適用する動機付けがない,あるいは,適用することができない阻害要因がある旨を主張する。
しかし,いずれの周知技術も,被搬送物を案内する作用を有している点で共通するものであり,これらを組み合わせることに,動機付けがないとか阻害要因があるということはできない。原告の主張は採用できない。
(イ) さらに,原告は,本件特許発明2は,一対の苗案内回転体の分離部側の間隔は整列苗の縦移動機構による移動側面の幅に対応して変化し,整列苗を正しく分離部に導くから整列苗は確実に保持されて案内され,又,整列苗の端の苗が苗案内回転体との摩擦により不要に分離されることがないなどの作用効果を有しているところ,審判2-甲1の発明及び周知技術にはこれらの作用効果が示されていないと主張する。
しかし,本件特許発明2の上記作用効果は,審判2-甲1の発明及び周知技術から予測される範囲内のものであり,これらを組み合わせれば上記のような効果を有することは当業者にとって明らかというべきである。原告の主張は採用できない。
(3) 小括 特許に無効理由が存在することが明らかであるときは,当該特許権に基づく権利行使は,特段の事情がない限り,権利の濫用に当たるものとして許されない(最高裁平成10年(オ)第364号同12年4月11日第三小法廷判決・民集54巻4号1368頁参照)。
上記の検討によれば,本件特許発明1及び本件特許発明2には,いずれも無効理由の存することが明らかである。本件では,無効審判の被請求人である原告から本件訂正請求1及び本件訂正請求2がされており,既に,各訂正を認める旨の審決も出されているものであるが,仮に,本件訂正請求1及び本件訂正請求2による訂正が確定しても,上記のとおり,本件特許発明1及び本件特許発明2の無効理由は解消されないから,特段の事情は認められないというべきで,原告の請求は権利の濫用に当たるものである。
結論
以上のとおり,被告装置は,本件特許発明1及び2のいずれの技術的範囲にも属さないものであり,かつ,本件特許発明1及び2にはいずれも無効理由の存することが明らかであって,本件特許権1及び2に基づく原告の請求は,権利の濫用に当たるものとして許されない。したがって,原告の本訴請求はいずれも理由がない。
よって,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 三村量一
裁判官 松岡千帆
裁判官 大須賀寛之