運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

関連ワード 製造方法 /  頒布された刊行物 /  進歩性(29条2項) /  発明の詳細な説明 /  権利の濫用(権利濫用) /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  加工 /  構成要件 /  差止請求(差止) /  侵害 /  不法行為(民法709条) /  拒絶査定 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
元本PDF 裁判所収録の別紙1PDFを見る pdf
事件 平成 14年 (ワ) 7600号 特許権侵害差止等請求事件
原告 日本ケーブル・システム株式会社
訴訟代理人弁護士 畑郁夫
同 平野惠稔
同 浅田和之
補佐人弁理士 朝日奈 宗太
同 佐木啓二
被告 株式会社城南製作所
訴訟代理人弁護士 内田敏彦
補佐人弁理士 後藤文夫
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2003/12/18
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告は、別紙イ号物件目録記載の物件を製造し、販売してはならない。
2 被告は、前項の物件の完成品及び仕掛品を廃棄せよ。
3 被告は、原告に対し、金2300万円及びこれに対する平成14年8月8日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
本件は、「コントロールケーブル」の発明について特許権を有する原告が、
被告による別紙イ号物件目録記載の物件(自動車のウィンドレギュレータアッシー(車輌の窓開閉装置)、以下「イ号物件」という。)の製造販売が同特許権を侵害するとして、被告に対し、同特許権に基づき、イ号物件の製造販売の差止めと廃棄を請求するとともに、民法709条、特許法102条2項に基づく損害賠償を内金請求した事案である。
(基本的事実) 1 原告は、次の特許権(以下、「本件特許権」といい、その特許請求の範囲請求項1記載の発明を「本件発明」、本件特許出願に係る明細書を「本件明細書」という。)を有している。
特許番号 第3105507号 発明の名称 コントロールケーブル 出願年月日 平成元年2月13日(特願平1-34294号) 登録年月日 平成12年9月1日 特許請求の範囲 本判決末尾添付の別紙特許公報(以下「本件公報」という。)該当欄請求項1記載のとおり。
2 本件発明の構成要件を分説すれば、次のとおりである。
A 導管または内索の少なくとも一方の表面に亜鉛-アルミニウム合金メッキ層が設けられているコントロールケーブルであって、
B 前記亜鉛-アルミニウム合金メッキ層が1〜10重量%のアルミニウムを含み、残部が亜鉛である C コントロールケーブル。
3 被告は、イ号物件を製造し販売している。イ号物件は、別紙イ号物件目録1記載のコントロールケーブル(以下「被告コントロールケーブル」という。)を含むところ、コントロールケーブル部分の具体的構成については、同目録下線部の限度で当事者間に争いがある。
(争点) 1 構成要件A「導管または内索の少なくとも一方の表面に亜鉛-アルミニウム合金メッキ層が設けられている」の充足性 (原告の主張) この点に関する被告コントロールケーブルの構成はイ号物件目録1aのとおりであり、被告コントロールケーブルは上記構成要件を充足する。これに反する被告の主張は否認する。
(被告の主張) 本件発明の主要な目的効果は、内索に施した金属メッキと同種の金属メッキを、導管のアウタスプリングに施してなるコントロールケーブルに特有に見られるアウターケーシングと内索間で生じる「金属凝着」による滑りの悪さ、いわゆる「きしみ」現象(スティックスリップ)を防止することにある。このような本件発明の主な目的効果に照らすと、本件発明の構成要件Aにいう「導管または内索の少なくとも一方」とは、「該一方の導管又は内索と対向する他方の内索又は導管の表面は、メッキなしの鋼それ自体が露出しているか、又は鋼の表面に設けた何らかの金属(合金を含む。)メッキ層が露出している」ことを暗黙の技術的前提とする概念というべきである。
被告コントロールケーブルは、「導管または内索」の一方であるインナーケーブル(9)の表面に亜鉛-アルミニウム合金メッキ層が設けられているものの、
上記インナーケーブル(9)と対向するアウターケーシング(10、11)の表面は、別紙イ号物件目録1aのとおり、合成樹脂製のライナー(15)になっており、「一方の導管又は内索と対向する他方の内索又は導管の表面は、メッキなしの鋼それ自体が露出しているか、又は鋼の表面に設けた何らかの金属(合金を含む。)メッキ層が露出している」ことを欠く。したがって、被告コントロールケーブルは、上記構成要件を充足しない。
2 構成要件B「前記亜鉛-アルミニウム合金メッキ層が1〜10重量%のアルミニウムを含み」の充足性等 (原告の主張) (1) 本件発明の解決課題はコントロールケーブル表面の滑り性、耐食性の向上にあるから、構成要件Bにいうアルミニウムの重量割合も、そのような作用効果を奏するもの(極論すれば、仮にメッキ層内部にアルミニウム10重量%を超える部分がたまたまあったとしても、本件発明の作用効果には全く影響しない。)として、
コントロールケーブルの全体において判断すべきものである。
そして、本件明細書に「前記メッキ層中の組成は一般的にメッキ浴の組成がそのままあらわれるので、メッキ浴の組成を調整することにより調整しうる。」(本件公報5欄10行〜12行)と記載されているとおり、製造者が亜鉛-アルミニウム合金メッキ層のアルミニウム含有量を管理するには、メッキ浴の濃度を管理するほかないから、このような重量割合の管理の実情に鑑みると、1〜10重量%のアルミニウム及び残部亜鉛を標準組成とするメッキ浴において溶融メッキを行ったのであれば、上記構成要件を充足するというべきである。
(2) 被告コントロールケーブルにおける亜鉛-アルミニウムメッキ浴における重量割合は、アルミニウムが約5重量%であり、残部が亜鉛であるから、上記構成要件を充足する。
仮に被告主張の伸線加工によりメッキ層の半分近くが削れ、そのすべてが亜鉛だったとしても、被告の自認するメッキ浴の重量割合(Alが5.1〜5.2重量%であり、残部がZn)を前提とする限り、アルミニウムの重量割合が10重量%を超えることはない(溶融Zn-Al合金メッキ浴における含有割合がZn:Al=95:5であれば、伸線の過程でメッキ層が半分近く削れ、そのすべてがZnであったとしても、含有割合はZn:Al=45:5となるにすぎない。)。実際上も、川鉄テクノリサーチ株式会社の分析試験結果報告書(甲11)によれば、被告コントロールケーブルのインナーケーブル表面の亜鉛-アルミニウム合金メッキ層のアルミニウム重量割合は7.23〜8.13重量%であり、被告に原材料を納入する日本フレックス工業株式会社製造のコントロールケーブルの上記アルミニウム重量割合も7.91〜8.00重量%であるから、やはり被告コントロールケーブルは上記構成要件を充足する。
被告主張の伸線加工について反論すれば、伸線加工の前後を比較しても、
川鉄テクノリサーチ株式会社の分析試験結果報告書(甲13、14)によれば、そのアルミニウム重量割合にほとんど差はなかった。また、被告主張の腐食のメカニズムについて反論すれば、亜鉛-アルミニウム合金メッキ層に関する局部電池の一般論をいうにすぎず、本体部分の耐食性に直結した問題ではなく、実際の被告コントロールケーブルにおいても、腐食電池を原因として使用上問題となるような腐食が発生することも立証されていないから、失当である。
(被告の主張) (1) 原告主張のように、亜鉛-アルミニウムメッキ層のアルミニウム含有割合が全体的にみて10重量%以内であったとしても、同メッキ層の一部にアルミニウム含有割合が10重量%を超える部分があれば、局部電池(腐食電池)の作用により、
孔食や粒界腐食等の腐食が本体部分にまで進行する(本件公報の第8図、第9図の「赤錆発生時間」参照)ことになり、本件発明の主要な作用効果である耐食性を奏しないことになる。本件明細書が本件発明の効果の主要なものとして耐食性を掲げ、メッキ層中におけるアルミニウム含有割合が10重量%を超えると耐食性が悪くなるとして、特許請求の範囲に記載したアルミニウム含有割合の上限値につき臨界的意義を述べている以上、その上限値を超える場合には、上記構成要件を充足しないというべきである。
(2) 被告コントロールケーブルのインナーケーブルの原料である硬鋼線(亜鉛メッキ後に亜鉛-アルミニウムメッキを施したもの)のメッキ層断面は、三菱マテリアル株式会社関西分析センターの依頼試料測定報告書(乙9)のとおり、アルミニウム成分は亜鉛系メッキ層の中では不均一に分布している。そして、被告コントロールケーブルのインナーケーブルは、この硬鋼線に伸線加工を施して得られた細線を複数本撚り合わせて製造されるものであり、伸線加工とは、伸線ダイスに母線(太線)の先端を臨ませ、該ダイスを通過する際の抵抗に打ち勝って線を引き抜くことにより線の断面積を減少させて線長を引き延ばすものである(乙10の図参照)。この伸線加工により得られた細線のメッキ層は、ダイス通過時の高抵抗摩擦によりメッキ層の表面側が荒々しく削られるため、伸線加工後の細線の表面に残存するメッキ層の厚みは決して一様ではない。細線の長手方向(軸方向)部位毎に細線表面の残存メッキ層の厚みは異なるほか、表面部の削られ具合は中心軸との関係においても正確な軸対称ではないため、細線の円周方向部位が相違することによっても残存メッキ層の厚みに相違を生じる。東邦亜鉛株式会社の分析報告書(乙15)によれば、確かに、被告コントロールケーブルにおける亜鉛-アルミニウムメッキ浴の重量割合はアルミニウム約5.1〜5.2重量%、残部亜鉛ではあるが、上記のような伸線加工の結果、インナーケーブル(9)表面の亜鉛-アルミニウム合金メッキ層のアルミニウム重量割合は、長手方向部位及び円周方向部位毎に異なり、1重量%未満のところもあれば、10重量%を超えるところもあるから、上記構成要件を充足しない。仮に被告コントロールケーブルが上記構成要件を充足するとすれば、10重量%を超えるところもある被告コントロールケーブルは、本件発明の主要な作用効果である耐食性を奏しない(作用効果不奏)というべきである。
3 明白な無効理由その1-進歩性欠如 (被告の主張) 本件特許には次のような無効理由が存在することが明らかであるから、本件特許権に基づく請求は権利の濫用として許されない。すなわち、
(1) 本件特許出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開昭57-116924号公開特許公報(乙2、公開日昭和57年7月21日。以下「刊行物1」という。)によれば、(従来品には)インナーワイヤーとして使用する際に滑り性が悪いばかりでなく、耐腐食性が特に悪い欠点があることから、原材料の鋼線に亜鉛と錫を二重に鍍金した構成が記載されている。
(2) 本件特許出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開昭62-44563号公開特許公報(乙3、公開日昭和62年2月26日。以下「刊行物2」という。)によれば、亜鉛メッキよりも耐食性に優れるメッキとして、亜鉛-アルミニウム合金メッキ層が記載されており、特にその実施例には、Zn-Al合金浴中のAl濃度を、線径3.2oの場合に5%、線径4.0oの場合に10%とする旨が記載されている。
(3) したがって、刊行物1記載の発明には耐腐食性が課題の一つとして記載されているのであるから、刊行物2に記載された「亜鉛メッキよりも耐腐食性に優れている亜鉛-アルミニウムメッキ層」を刊行物1記載の構成におけるメッキ層として設けることに何らの阻害要因はなく、当業者であれば、刊行物1、2の発明に基づき本件発明を容易に想到し得たというべきである。
原告主張のように、「滑り性」がコントロールケーブルにおける重要な性能であるとしても、それは、刊行物1や本件明細書の従来の技術の項に引用されている実公昭54-25500号実用新案公報(乙25の1及び2)によれば、当業者にとっては周知の事柄であったから、刊行物1、2を組み合わせるにつき阻害要因となるものではない。したがって、本件発明は進歩性を有しないというべきである。
(原告の主張) (1) コントロールケーブルの技術分野においては、より小さな力でインナーケーブルを操作できること、すなわち、「滑り性」に優れていることが重要な評価基準となっている。この「滑り性」はコントロールケーブル特有の特性であり、他の一般的なワイヤでは考慮されない特性である。しかるところ、刊行物1及び刊行物2のいずれにも、亜鉛-アルミニウム合金のメッキ層がコントロールケーブルにおける「滑り性」を向上させることにつき、何らの記載も示唆もないのであるから、
亜鉛-アルミニウム合金の組み合わせによるメッキ層がコントロールケーブルにおける「滑り性」を向上させるという本件発明に進歩性があることは明らかである。
(2) 進歩性の判断に当たっては、技術分野の同一性ないしは関連性が要求されるべきところ、コントロールケーブルのインナーワイヤーは、鋼線を撚り合わせたものである点で一般的なワイヤと共通するが、用途及び要求される特性において、
全く異なり、力の伝達手段としてワイヤを用いるという意味において、コントロールケーブルは極めて特殊な技術分野である。文献を見ても、日本規格協会発行「JISハンドブック鉄鋼U(2001年版)」(甲16)によれば、コントロールケーブルのインナーワイヤーの用途に近い操作用ワイヤロープにさえ、「滑り性」に関する評価項目が一切出てこない。機械工学又は工業材料の代表的な書籍を見ても、産業図書株式会社発行「改訂機械工学大意」(甲17)にはそもそもコントロールケーブルに関する記載がない。日本規格協会発行「JIS工業用語大辞典(第3版)」(甲18)には、医療器具に関するコントロールケーブルシステムの名称はあるが、自動車のウィンドレギュレータの場合に技術上不可欠な「滑り性」が要求されていない。自動車向けコントロールケーブルに関する記載は、日本規格協会発行「JISハンドブック自動車部品(2001年)」(甲19)においてわずかに見られるにとどまる。
このように、コントロールケーブルのインナーワイヤーは、一般的なワイヤ(元来引っ張り荷重に耐える部材であり、主に要求される特性は「引っ張り強度」である。)とは、用途及び要求される特性において全く異なる特殊な技術分野にあるから、一般のワイヤに関するものであり、その課題を(「滑り性」とは無関係の)不メッキ部分の発生防止やメッキ高付着量の確保とする刊行物2をコントロールケーブルにおけるインナーワイヤーに関する刊行物1に組み合わせることは決して容易ではない。
(3) したがって、本件発明は進歩性を有するというべきである。
4 明白な無効理由その2-進歩性欠如 (被告の主張) 本件特許出願前に日本国内において頒布された刊行物である実公昭54-25500号実用新案公報(乙25の1)の補正(乙25の2、発行日昭和57年4月17日)の発明に、同じく本件特許出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開昭62-4859号公開特許公報(乙26、公開日昭和62年1月10日)の発明を組み合わせることによって、当業者であれば、容易に本件発明に想到し得たものというべきである。
したがって、この点でも、本件特許には無効理由が存在することが明らかであるから、本件特許権に基づく請求は権利の濫用として許されない。
(原告の主張) 被告の上記主張は争う。
5 明白な無効理由その3-進歩性欠如 (被告の主張) 本件特許出願前に日本国内において頒布された刊行物である実公昭54-25500号実用新案公報(乙25の1)の補正(乙25の2、発行日昭和57年4月17日)の発明に、同じく本件特許出願前に日本国内において頒布された刊行物2(乙3)の発明を組み合わせることによって、当業者であれば、容易に本件発明に想到し得たものというべきである。
したがって、この点でも、本件特許には無効理由が存在することが明らかであるから、本件特許権に基づく請求は権利の濫用として許されない。
(原告の主張) 被告の上記主張は争う。
6 原告の損害 (原告の主張) イ号物件の販売により得た被告の利益は、別紙損害一覧表記載のとおりである(原告はこのうち2300万円を請求する。)。
(被告の主張) 原告の上記主張事実は否認する。
争点3(明白な無効理由その1-進歩性欠如)についての当裁判所の判断
1 本件明細書によれば、本件発明(請求項1)は次の内容を有するものである(甲2、以下の括弧内の記載は本件明細書の発明の詳細な説明の該当部分を指す。)。
(1) 本件発明はコントロールケーブルに関する。さらに詳しくは、耐食性及び滑り性が優れたコントロールケーブルに関するものである(産業上の利用分野)。
(2) 一般に、コントロールケーブルの導管は、鋼線を断面矩形状に圧延し、巻線したいわゆるアウタスプリングから構成され、内索は複数本の素線を撚り合わせて形成される。かかるコントロールケーブルの使用中に導管から外部に露出した内索の部分に、例えば雨水などが付着した場合には、内索に錆を生ずることがある。
さらに、内索を構成しているストランドや素線の間隙に雨水などが侵入し、いわゆる毛管現象により導管内に雨水が溜り、アウタスプリングに錆を生じさせることがある。そこで、導管を構成するアウタスプリングや内索の素線に、亜鉛メッキや錫メッキなどの防錆処理をした鋼線が使用されている。例えば鋼線に亜鉛メッキや錫メッキを施した後に、その鋼線を圧延し、巻線してアウタスプリングを形成し、さらにその表面上にコートを形成した導管を用いたコントロールケーブルが知られている。また、素線に亜鉛メッキ層を設け、撚り合わせて形成した内索、あるいは、
その上に錫メッキ層を電気メッキで設けた内索(実公昭54-25500号公報参照)を用いたコントロールケーブルが提案されている。他方、一般の鋼線としては、亜鉛-アルミニウム合金メッキを施して防錆性能を高めたもの(特開昭62-4859号公報参照)が知られており、亜鉛メッキ鋼線を撚り合わせた鋼撚線についてはJIS-G3537で詳細に規定されている(従来の技術)。
(3) 上記コントロールケーブルは、何らメッキが施されていないものと比較すれば確かに耐食性は向上しているが、比較的短期間で腐食が発生することがあるので、耐食性が不充分である。さらに、同種の金属メッキを施した導管と内索を組み合わせると両者間で凝着が起こり、スティックスリップ、すなわちきしみが発生して操作フィーリングが悪化する。また、上記亜鉛メッキを施した鋼線を圧延し、巻線して形成したアウタスプリングと、素線に亜鉛メッキ層を設けて撚り合わせ、さらに錫メッキを施した内索との組み合わせでもスティックスリップを生ずる。そこで、本件発明は、前記従来品よりも更に一層耐食性が優れ、しかも滑り性が優れたコントロールケーブルを提供することを目的として(発明が解決しようとする課題)、本件発明の構成要件所定の構成を備えることとしたものである(課題を解決するための手段)。
(4) 本件発明のコントロールケーブルは、耐食性に優れた亜鉛-アルミニウム合金メッキ層が内索又は導管に設けられているため、例えば雨水が付着するような環境の下で使用した場合であっても、従来品よりも長時間腐食に耐え得る。しかも、かかる亜鉛-アルミニウム合金メッキ層は滑り性に優れたものであり、しかも内索及び導管に同種の金属をメッキした場合であっても、金属同士のかじりがなく、スティックスリップを生じないという作用効果を奏する(作用および実施例、
発明の効果)。
2 他方、本件特許出願前に日本国内において頒布された刊行物1(乙2、公開日昭和57年7月21日、発明の名称「インナーワイヤー」)に記載された従来技術は、その明細書によれば、次の内容を有するものである(以下の括弧内の記載は同明細書の発明の詳細な説明の該当部分を指す。)。
(1) 刊行物1の発明は、細線を撚り合わせて鋼索を構成するインナーワイヤーに関するものである(1頁左下欄10行〜11行)。従来から製作されているインナーワイヤー等は、材料の鋼線を焼加工から伸線加工し、所望の本数を撚り合わせて、かかる後に錫鍍金を施したもの、又は材料鋼線に亜鉛層を設けた後に伸線されたものを、所望の本数を撚り合わせてワイヤー単体としたものに、錫の電気鍍金を施したものが知られている(1頁左下欄下から4行〜右下欄3行)。
(2) ところが、上記の従来品は、耐腐食性、耐摩耗性及び滑り性に多くの欠点があった。すなわち、従来品の前者は、伸線加工を施したものに錫鍍金を施して所望の本数を撚り合わせたものであるから、錫鍍金の表面に鍍金による多数の凹凸及びピンホールが生じて、インナーワイヤーとして使用する際には滑り性が悪いばかりでなく、耐腐食性が特に悪い欠点がある。従来品の後者も、伸線して所望の細線を撚り合わせてワイヤー単体を構成したものに錫の鍍金を施しているので、撚り合わせた細線全体が錫層で囲繞され、耐腐食性にはそれなりの効果があるが、鍍金の際の凹凸及びピンホールによって、ワイヤーがアウター管の中で滑りが悪くなるとともに、伸線された細線1本1本の全周を囲繞するように鍍金されないので、錫鍍金されていない部分はピンホールからの水分の含侵によって腐食が早まる恐れがある。(1頁右下欄4行〜2頁左上欄3行)。
(3) そこで、刊行物1の発明は、製作容易かつ滑り性、耐摩耗性、耐腐食性に優れた効果を発揮するものを提供することを目的として(1頁左下欄11行〜14行)、その特許請求の範囲所定の構成を備えることとしたものである。従来品には、耐腐食性に大きな欠陥があったばかりでなく耐摩耗性においても欠点があったが、刊行物1の発明は、これらの欠点をことごとく解消し(2頁左下欄8行〜10行)、耐摩耗性、耐腐食性、滑り性、防錆性に優れた効果を発揮するインナーワイヤーを提供することができる(2頁右下欄2行〜4行)。
3(1) 本件発明にいう「コントロールケーブル」と刊行物1にいう「インナーワイヤー」との関係につき検討すると、上記1及び2について判示した各明細書の記載内容のほか、本件特許出願手続の経過を見ても、平成10年3月13日付け拒絶理由通知書(乙4、刊行物1をその根拠の一つとする。)、原告の同年6月1日付け意見書(乙5)、同年12月10日付け拒絶査定(乙6)、原告の平成11年3月2日付け手続補正書(乙7)及び原告の同年5月17日付け審判請求理由補充書(乙8)という特許出願手続の過程で、原告自身も「コントロールケーブル」と「インナーワイヤー」とが無関係なものとは主張していないこと、刊行物1も、本件発明と同様に、滑り性や耐腐食性の向上を技術課題とすることに照らせば、本件発明の「コントロールケーブル」の内索が刊行物1の「インナーワイヤー」に相当するものと解される。
(2) したがって、技術内容がコントロールケーブルに関するものである点では本件発明と刊行物1の従来技術とは一致しており、本件発明のコントロールケーブルの内索と刊行物1のインナーワイヤー従来技術とを対比すれば、両者は次の点で相違する。すなわち、刊行物1のインナーワイヤー従来技術が、そのメッキ層が錫鍍金を施したもの又は亜鉛層を設けた後に錫鍍金を施したものである(本件明細書の発明の詳細な説明欄の従来の技術の項に記載されている「内索の素線に(中略)錫メッキなどの防錆処理をした鋼線」や、「素線に亜鉛メッキ層を設け、撚り合わせて形成した内索、あるいはその上に錫メッキ層を電気メッキで設けた内索(実公昭54-25500号公報参照)」と同様のものである。)のに対し、本件発明は、コントロールケーブルの内索(インナーワイヤー)のメッキ層が1〜10重量%のアルミニウムを含み、残部が亜鉛である亜鉛-アルミニウム合金メッキ層である(構成要件A、B)点で相違する。
(3) そこで、上記相違点について検討すると、本件特許出願前に日本国内において頒布された刊行物2(乙3、公開日昭和62年2月26日、発明の名称「亜鉛-アルミニウム合金めっき鋼線の製造方法」)の発明の詳細な説明欄には、次の記載があることが認められる(同明細書の記載にかかわらず、促音はすべて「っ」又は「ッ」と表記する。以下同じ。)。
@ 従来の技術 「近年、亜鉛めっきよりも耐食性に優れ、且つアルミニウムめっきよりも加工性に優れた鉄鋼製品への溶融めっきとして、アルミニウム添加量約3%以上の亜鉛-アルミニウム合金浴にて亜鉛-アルミニウム合金めっきを行う方法が開発され、一部実用化されているのは、周知の通りである。」(同公報1頁右下欄12〜17行。なお、日刊工業新聞社発行「ワイヤロープハンドブック」(乙16)には、亜鉛にアルミニウムを添加すると、耐食性改善等の利点があり、鋼線への溶融めっきへの応用として、1970年後半に日本や欧州で開発されたZn-5%Al系合金めっきなどがある旨の上記と合致する記載があるほか、本件明細書の従来の技術の項にも、「亜鉛-アルミニウム合金メッキを施して防錆性能を高めたもの(特開昭62-4859号公報参照)が知られており」とあり、本件特許出願当時の原告自身の認識とも合致する。) 「亜鉛-アルミニウム合金めっきは、同一厚さであれば亜鉛めっきより耐食性がはるかに優れていることは種々の文献によって明らかである」(同公報2頁左下欄8〜10行) A 発明が解決しようとする問題点 「本発明方法は溶融亜鉛-アルミニウム合金めっき鋼線を製造するに当り、(中略)耐食性に優れ、且つ、美麗な表面肌を有し、更に加工性に優れた亜鉛-アルミニウム合金めっき鋼線を提供せんとするものである。」(同公報2頁右下欄6行〜12行) B 問題点を解決するための手段 「本発明方法に於いては、溶融亜鉛浴槽と高濃度のアルミニウムを添加した溶融亜鉛-アルミニウム合金浴槽を夫々別個に設置し、被めっき鋼線は従来の亜鉛めっき鋼線と全く同一のフラックス処理-乾燥工程を経た後、最初に溶融亜鉛浴に入り亜鉛めっきされる、次いで直ちに高濃度のアルミニウムを添加した溶融溶融亜鉛-アルミニウム合金浴槽浴に装入され亜鉛-アルミニウム合金めっきされた後、該合金浴より垂直に引き上げられる。」(同公報2頁右下欄下から7行〜3頁左上欄2行) 「以下に本発明方法について実施例を図面に従って詳述する。
図面は本発明亜鉛-アルミニウム合金めっき鋼線の製造工程の一例である。従来の溶融亜鉛めっきと全く同じフラックスにて処理され、乾燥工程を経た鋼線1は先ず溶融亜鉛浴槽2内の溶融亜鉛浴3に装入され、亜鉛めっきされる。溶融亜鉛浴3には合金層の発達を抑制するため、0.1〜0.2%のアルミニウムが添加されている。(中略)亜鉛めっきされた鋼線1は次いで浴槽4内の高濃度のアルミニウムを添加した溶融亜鉛-アルミニウム合金浴5に装入され、亜鉛-アルミニウム合金めっきが行われる。」(同公報3頁左上欄下から4行〜同頁右上欄12行) C 実施例 「表に本発明方法によって製造された亜鉛-アルミニウム合金めっき鋼線の製造条件及び性能の一例を示す。」(同公報4頁左下欄1〜3行) (同表の「Zn-Al合金浴中のAl濃度(%)」欄記載の数値) 線径 3.2o の実施例の場合 5% 線径 4.0o の実施例の場合 10% D 発明の効果 「以上の如く、本発明方法は、従来の溶融亜鉛めっきと全く同一のフラックスを使用して十分な付着量と美麗な表面肌を有する耐食性に優れた亜鉛-アルミニウム合金めっき鋼線がその機械的性質を損なうことなしに得られ、画期的な方法と云える。」(同公報4頁左下欄下から4行〜同頁右下欄2行) (4) 上記@〜Dを総合すれば、刊行物2には、亜鉛-アルミニウム合金めっき鋼線が従来の亜鉛めっきよりも耐食性等に優れていることや、そのアルミニウム含有割合としても(同合金浴中のAl濃度から判断して)5%又は10%の場合が含まれていることが記載されているということができる。したがって、刊行物1に開示された亜鉛等のメッキ層を有するインナーワイヤー従来技術に刊行物2の亜鉛-アルミニウム合金めっき鋼線の技術を組み合わせることが可能であれば、本件発明の構成及びそれに伴う効果が得られることは明らかである。
4(1) これに対し、原告は、刊行物1及び刊行物2のいずれにもコントロールケーブルにおける「滑り性」の向上に関する記載や示唆がない、用途及び要求される特性において、コントロールケーブルのインナーワイヤーと一般のワイヤとが全く異なる技術分野にあり、特殊な技術分野である刊行物1の技術(コントロールケーブルのインナーワイヤー)と一般的な技術分野である刊行物2(一般のワイヤ)の技術とを組み合わせることには阻害要因がある旨を主張する。
(2) しかし、原告の主張する阻害要因の根拠は、その指摘に係る文献にコントロールケーブルに関する記載がないか又は乏しいというにすぎない。むしろコントロールケーブルにおけるインナーワイヤーも、一般的なワイヤも、鋼線を撚り合わせたものである点で共通することは、本件明細書の従来の技術の項に「一般の鋼線」に関する言及があるほか、本件訴訟において原告の自認するところでもある。
さらに、本件明細書の従来の技術の項に引用されている実公昭54-25500号実用新案公報(乙25の1及び2)は、考案の名称を「ワイヤロープ」とするものであり、その実用新案登録請求の範囲や考案の詳細な説明を見ても、コントロールケーブルにおける必須の構成要素と解されるアウタケーシング(甲18、19。本件発明では「導管」がこれに相当する。)と常に組み合わせて使用することまでは予定されておらず、かえって同明細書の考案の詳細な説明によれば、ここにいう「ワイヤロープ」とは「針金をよった鋼索」(同公報1頁左欄30行〜31行)というほどの意味であって、その技術分野をコントロールケーブルにおけるインナーワイヤーの場合に限定するかのような記載は存しない(上記実公昭54-25500号実用新案公報の補正の掲載である乙25の2において、滑り性につき、アウターケースにロープを通す試験方法に関する記載や図示があるにとどまる。これに対し、その耐久性に関しては、「その表面が錫めっき被膜によって覆われているため、従来のワイヤロープ(亜鉛めっき)よりはるかに耐久性、滑性がよく扱い易くなる」旨が記載されている。)。そして、上記考案の目的も「従来のワイヤロープを改良して耐食性およびハンダ付け性ならびに滑り性などの諸欠点を解消する」(同公報1頁左欄31行〜33行)ことにあると記載されている。つまり、上記公報(乙25の1及び2)にはワイヤロープ自体の発明にあっても滑り性が要求されることや、その用途の一つとしてコントロールケーブルのインナーワイヤーが示唆され、該用途がワイヤロープの特殊な用途でないことが示されているのであるから、
ワイヤロープにあっても(「耐食性」とともに)「滑り性」がその重要な解決課題の一つに位置付けられていることは明らかである。原告は、ワイヤが元来引っ張り荷重に耐える部材である(主に要求される特性は「引っ張り強度」である)旨を主張するが、一般のワイヤにあっても、これを摺動を伴う用途、例えば滑車とともに用いる場合などを想定すれば、その滑り性が技術課題となり得ることは周知の事実であり、一般的なワイヤにおいても滑り性は考慮されているというべきであるから、原告の上記主張は採用の限りではない。
コントロールケーブルのインナーワイヤーと一般のワイヤとの技術課題の異同を、その材質や撚り線の構造から検討しても、本件明細書に記載された実施例1及び実施例3の導管及び内索に用いられる材料は「市販の鋼線(材質:JISG 3506 SWRH 62 A)」(日本規格協会発行「JISハンドブック鉄鋼(1985年版)」(乙27)によれば、硬鋼線材)であるところ、本件明細書の従来技術に掲げられているJISG 3537(本件公報3欄31行)も、JISG 3506 SWRH等を材料とする亜鉛めっき鋼撚り線であり、その構成区分には、本件明細書の内索を構成するストランド(12)(本件公報6欄7行〜8行、第2図、第3図)と同じ「7本撚り」、「19本撚り」の構成が予定されている(乙27の890頁)。加えて、上記文献905〜906頁(乙28)によれば、操作用ワイヤロープも、JISG 3506 SWRH等を材料とするものであり、その構成区分には、本件公報の第2図及び第3図(本件発明の内索の実施例を示す横断面図、本件公報5欄34行〜35行)と同じ「7×7」、
「7×19」の構成が予定されていることも認められる。このように、上記の刊行物において、コントロールケーブルにおけるインナーワイヤーが一般的なワイヤと全く異なる技術分野であり、その技術課題が相違するということを窺わせるかのような記載は存しない。
したがって、インナーワイヤー(刊行物1)と一般のワイヤ(刊行物2)との技術分野が大きく相違するものとはいえず、かえって「耐食性」及び「滑り性」という重要な技術課題の点で共通するのであるから、当業者にとって両者を組み合わせることに格別の阻害要因はないというべきである。
(3) 仮に本件明細書のように実公昭54-25500号実用新案公報(乙25の1及び2)をコントロールケーブルのインナーワイヤーに限定されるかのような趣旨のものと捉えても、刊行物1の技術課題は、「滑り性」の点に限られるわけではなく、上記2で判示したとおり、「耐腐食性」にもあり、かつ、「耐腐食性」に欠点がある場合には、「さびによる浸食が早くロープ切断などの事故を起す危険性があった。」(乙25の1の2欄3行〜4行)のであるから、当業者にとっても、「耐腐食性」は「滑り性」に勝るとも劣らない重要な技術課題であったということができる。しかるところ、上記3で判示したとおり、一般のワイヤに関する刊行物2の技術課題には「耐食性」が、本件明細書の従来の技術の項に掲げられた他の文献である特開昭62-4859号公開特許公報(乙26)の発明(発明の名称「耐食性のよい亜鉛合金めっき鋼線」)の技術課題にも、その名称が示すとおり、「耐食性」があったことは明らかである。このように重要な技術課題の一つである「耐腐食性(耐食性)」の観点のみからであっても、当業者にとっては両者の技術を組み合わせることに格別の阻害要因があるともいえないというべきである(本件特許出願手続における平成10年12月10日付け拒絶査定(乙6)も、同様の観点に着目したものである。)。原告の上記主張は採用することができない。
5 したがって、本件特許出願前に日本国内において頒布された刊行物1のインナーワイヤー従来技術とその表面に構成要件B所定のメッキ層が設けられたコントロールケーブルの本件発明との相違点は大きなものではなく、この相違点の存在を前提としても、当業者であれば、刊行物1に開示された従来技術に、同じく本件特許出願前に日本国内において頒布された刊行物2の亜鉛-アルミニウム合金めっき鋼線の技術を組み合わせることによって本件発明を容易に想到し得たものというべきである。したがって、本件発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は、同法123条1項2号に該当し、無効であることが明らかなものである。
そうすると、本件特許権に基づき原告が被告に対して権利行使をすることは、特段の事情がない限り、権利の濫用として許されない(最高裁判所平成12年4月11日第三小法廷判決・民集54巻4号1368頁参照)ものというべきところ、本件において特段の事情を認めるに足りる証拠はない。
結論
以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求はい ずれも理由がない。
追加
イ号物件目録以下の構成を有するコントロールケーブルを含む、別紙イ号一覧表記載の品番の各自動車のウィンドレギュレータアッシー(車輌の窓開閉装置)1コントロールケーブル部分の構成図1〜2において青色及び赤色で示されるコントロールケーブル。
a図1のAで示される部分の一部破断説明図(アウターケーシングを部分的に取り除いている。)である図2に示されるように、青色で着色したアウターケーシング(導管)(10、11)と、このアウターケーシング(導管)(10、11)内に摺動自在に挿通される、赤色で着色したインナーケーブル(内索)(9)とから構成されており、なお、アウターケーシング(10、11)は、図3に詳細に示されているように、内側から合成樹脂製のライナー(15)、圧延した鋼線を巻線したアウタースプリング(16)及び合成樹脂製のアウターコート(17)からなっており、
bインナーケーブル(9)の表面には亜鉛-アルミニウム合金メッキ層が設けられており、このメッキ層は4〜9重量%のアルミニウムを含み、残部が亜鉛である(インナーケーブル(9)の長手方向部位及び円周方向部位毎に異なり、1重量%未満のところもあれば、1〜10重量%のところも、10重量%を超えるところもある)、
cコントロールケーブル。
(注)下線部は当事者間に争いがある部分であり、本文が原告の、括弧内が被告の各主張である。
2ウィンドレギュレータアッシーの構造説明ウィンドレギュレータアッシーは、図1に示されるように、ハウジング(1)と、ガイドレール(4)と、キャリアプレート(5)と、アウターケーシングA(10)及びアウターケーシングB(11)並びにインナーケーブル(9)からなるコントロールケーブルとから構成されている。この構成は、イ号-1ないしイ号-20のすべてに共通しており、車種及び取付部位(フロント又はリア)により形状及び寸法が相違している。しかし、本件発明に関わるコントロールケーブルについては、長さ及び色が異なるのみで、その余の構成は共通している。
図1に示されるウィンドレギュレータアッシーは、三菱自動車株式会社製の「ディオン」のフロントの左側に用いられている「MR599615」であり、イ号-2に該当する。
ベースブラケット(14)には、ハウジング(1)、ケーブルドラム(2)、アウターエンドホルダー(3)及びモータ(図示せず)が固定されており、当該ベースブラケット(14)により前記モータなどがドアパネル(図示せず)に取り付けられている。インナーケーブル(9)の一端はケーブルドラム(2)に係止されており、また他端はキャリアプレート(5)に係止されている。
キャリアプレート(5)には窓ガラス(13)がボルトなどで固定され、このキャリアプレート(5)はインナーケーブル(9)に引かれてガイドレール(4)に沿って移動する。これにより、窓ガラス(13)が上下に昇降する。
インナーケーブル(9)はモータ(図示せず)により回転されるケーブルドラム(2)により巻き取られ、プーリー(6)又はケーブルガイド(7)によりガイドされるとともに方向転換されている。またハウジング(1)のアウターエンドホルダー(3)と前記プーリー(6)又はケーブルガイド(7)との間のインナーケーブル(9)はアウターケーシングA(10)又はアウターケーシングB(11)にガイドされている。
(別紙)イ号一覧表図1図2損害一覧表
裁判長裁判官 小松一雄
裁判官 田中秀幸
裁判官 守山修生