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関連審決 無効2002-35210
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成15行ケ176審決取消請求事件 判例 特許
平成17行ケ10081審決取消請求事件 判例 特許
平成18ワ13040特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成14ワ25697特許権侵害に基づく損害賠償請求事件 判例 特許
平成16行ケ191審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 使用方法 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  相違点の認定 /  相違点の判断 /  周知技術 /  発明の詳細な説明 /  援用権(援用) /  特許出願日 /  参酌 /  技術的意義 /  発明の要旨認定 /  容易に想到(容易想到性) /  特許発明 /  実施 /  構成要件 /  設定登録 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 14年 (行ケ) 604号 審決取消請求事件
原告 有限会社マルゼン
原告 有限会社丸前商店
原告ら訴訟代理人弁護士 安原正之,佐藤治隆,鷹見雅和,弁理士 安原正義
被告 株式会社ウエスタン・アームス
訴訟代理人弁護士 宗万秀和,高橋隆二,弁理士 神原貞昭
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/05/12
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
原告らの求めた裁判
「特許庁が無効2002-35210号事件について平成14年10月30日にした審決を取り消す。」との判決。
事案の概要
本件は,原告らが,被告を特許権者とする後記請求項1記載の発明に係る本件特許について,無効審判の請求をしたところ,審判請求は成り立たないとの審決がされたため,同審決の取消しを求めた事案である。
なお,審決及び当事者の主張中には,「構成事項」と「構成要件」の用語が混在し,両者が異なる意義を有するものとして使い分けられているとは認められないので,本判決では,これらを引用する場合も含め,「構成要件」に統一して表記する。また,玩具銃の説明をする際,銃口の方向を「前」,その反対方向(ハンマのある方向)を「後」という。
1 特許庁における手続の経緯 (1) 本件特許 特許権者:株式会社ウエスタン・アームス(被告) 発明の名称:「自動弾丸供給機構付玩具銃」 特許出願日:平成5年10月8日(特願平5-252881号) 設定登録日:平成8年9月19日 特許番号:第2561429号 訂正請求:平成9年11月12日 (2) 本件手続 審判請求日:平成14年5月20日(無効2002-35210号) 審決日:平成14年10月30日 審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない。」 審決謄本送達日:平成14年11月11日(原告らに対し) 2 本件発明の要旨(上記1(1)の訂正後の請求項1記載に係る発明を「本件発明」,その特許を「本件特許」という。〔A〕ないし〔I〕は,審決が本件発明の構成要件を分説するために付したものであり,本判決もこれに従って,各事項を「構成要件A」ないし「構成要件I」という。なお,請求項2以下の記載は省略。) 【請求項1】〔A〕グリップ部内に配される弾倉部と,〔B〕上記グリップ部内にガス導出通路部が連結されて配される蓄圧室と,〔C〕銃身部の後端部に設けられ,上記弾倉部における一端の近傍に配される装弾室と,〔D〕該装弾室に供給された弾丸を発射させるべく操作されるトリガに連動して上記ガス導出通路部を開閉制御する開閉弁部と,〔E〕上記銃身部に対して設けられ,該銃身部に沿って移動し得るものとされたスライダ部と,〔F〕該スライダ部における上記銃身部の後方となる部分内に設けられ,上記スライダ部と一体的に移動する部材である受圧部と,〔G〕上記装弾室と上記受圧部との間に配され,上記スライダ部の移動方向に沿う方向に移動可能とされた可動部材と,〔H〕該可動部材内において移動可能に設けられ,上記ガス導出通路部から上記可動部材内を通じて上記装弾室に至る第1のガス通路及び上記ガス導出通路部から上記可動部材内を通じて上記受圧部に至る第2のガス通路の夫々を開閉制御し,上記開閉弁部により上記ガス導出通路部が開状態とされている期間において,上記第1のガス通路を開状態として,上記蓄圧室からのガスを上記装弾室に供給する第1の状態から,上記第2のガス通路を開状態として,上記蓄圧室からのガスを上記受圧部に作用させて上記スライダ部を後退させ,それに伴う上記可動部材の後退を生じさせて,上記弾倉部の一端から上記装弾室への弾丸の供給のための準備を行う第2の状態に移行するガス通路制御部と,〔I〕を備えて構成される自動弾丸供給機構付玩具銃。
3 審決の理由の要点 (1) 審決は,本件発明の構成要件と審判甲4-1・2(本訴甲4-1・2。「月刊アームズマガジン」(平成5年10月号,同年10月1日・株式会社ホビージャパン発行)の表紙,5頁,38〜40頁,178頁,裏(背)表紙。甲4-1は,上記記事に原告らによる説明が付記されたもの,甲4-2は,原告らによる付記がない記事そのものである。以下,まとめて単に「甲4」ということがある。また,上記雑誌の記事を「引用例」,これに記載された発明を「引用発明」という。)を対比して,次のとおり,相違点があると認定した。
(a) 相違点1(構成要件Fについて):本件発明の構成要件Fでいう「受圧部」に関して,引用例にも,それに対応する部材は「ピストンA,B」として記載されているが,当該ピストン(受圧部)が,「スライダ部と一体的に移動する部材」といえるか否かは,引用例の記載からは必ずしも明確とはいえない点。
(b) 相違点2(構成要件Gについて):本件発明の構成要件Gでいう「可動部材」は,「上記装弾室と上記受圧部との間に配され」ているが,引用例でそれに対応する「シリンダーノズル」は,「装弾室」と「受圧部との間」に配されているとはいえず,むしろ,受圧部を越えて延在している点。
(c) 相違点3(構成要件Hについて):本件発明の構成要件Hでいう「ガス通路制御部」は,「ガス導出通路部が開状態とされている期間において」「上記可動部材の後退を生じさせ」るものであるが,引用例の「シリンダー(切り替えバルブ)」(ガス通路制御部)は,ガス導出通路部の「開状態とされている期間」においては,シリンダーノズル(可動部材)の後退を生じさせるものではない点。
(2) 審決は,上記認定を踏まえ,本件発明の進歩性について,次のとおり判断した。
(a) 相違点1及び2(構成要件F,G)について 相違点1について検討すると,引用例記載の玩具銃で,「受圧部」に対応する「ピストンA,B」のうちの,一方のピストンBを「スライダ部と一体的に移動する部材」とするのは,必ずしも困難であるとするべき理由はみあたらない。
しかし,相違点2との関係で考えると,本件発明の構成要件Gでは,可動部材が「上記装弾室と上記受圧部との間に配され」る構成をとるが,受圧部として,引用例記載の「ピストン」のように,スライダ部の後部から突出する部材とするものでは,可動部材(シリンダーノズル)の後端を,受圧部(ピストン)よりも前方に配置する構成とすることは,ガス圧を作用させるという機能を考慮すれば,事実上不可能である。
そうすると,引用例記載のものにおいて,本件発明のように構成要件Gを採用することは当業者が容易に想到できることとはいえない。
(b) 相違点3(構成要件H)について 本件発明の構成要件Hは,「ガス導出通路部が開状態とされている期間において,」「上記可動部材の後退を生じさせ」るものであるが,その技術的な意義は,「装弾室に弾丸を供給するための準備動作が,比較的少量のガスにより効率良く,しかも,迅速に行われる」(【0050】)ことにあると考えられる。
これに対し,引用例をみると,作動推測図1,2と,同推測図3,4との比較から明らかなように,同号証記載のシリンダーノズル(可動部材)は,ガス導出通路部が開状態とされている期間において,わずかとはいえ,「前進」する位置をとると認められるが,このようにシリンダーノズル(可動部材)の前進さえ許容されているものでは,迅速な「可動部材の後退」が図られているといえないことは明らかである。
したがって,引用例記載のものにおいて,「ガス導出通路部が開状態とされている期間」に,「上記可動部材の後退を生じさせ」る構成をとることが容易にできるとはいえない。
(c) 作用効果との関係について 本件明細書の記載によれば,上記の各相違点で指摘した構成要件F〜Hの構成とすることによって,スライダ部における「受圧部を形成する底部を有する有底筒状部材における筒状部内に」,可動部材が「挿入される状態を選択的にとる」ことが可能となり,延いては,スライダ部内に配される「ガス圧動作部が簡単な構成をもって確実な動作を行うものとされ」て,「ガス圧を利用して装弾室に弾丸を供給するための準備動作が,比較的少量のガスにより効率良く,しかも,迅速に行われる」(【0050】)という作用効果が期待できるとされている。
一方,引用例の「写真に見えるハンマーの2つの打撃痕からも,「切り替えバルブ」の切り替えは内部の可動パーツではなく,ハンマーで行なっていると見た方が良い様だ。つまり,ハンマーが落ちると,ハンマー下部でマガジンの放出バルブを押し開いて発射用のガスを出し,BB弾を飛ばす。次に一瞬遅れてハンマー上部でスライドの「切り替えバルブ(を作動させるパーツ)」を叩き,ガスをシリンダー内に導くという具合である」という記載に示されるとおり,本件発明に係る玩具銃の構成とは大きく相違している同号証の「推理」による記載をもとに,本件発明の構成を想到することは,上記のとおり,当業者が容易にできるというものではないし,また,上記推理にとどまる同号証記載のものが,上記のような作用効果を奏するといえないことは明らかである。
そうすると,引用例記載の発明に加えて,弾丸供給機構に関する周知技術(実願平3-64235号(実開平5-8285号)のCD-ROM,平成14年(ワ)第12858号事件訴状,平成14年(ワ)第12867号事件訴状,「月刊アームズ・マガジン」(1993年2月号,平成5年2月1日・株式会社ホビージャパン発行)の表紙,5頁,90〜94頁,178頁,裏(背)表紙)の存在を勘案しても,本件発明が,それら公知の発明や周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとするのは妥当ではない。
(d) よって,本件発明の特許を無効とすることはできない。
原告らの主張(審決取消事由)の要点
1 取消事由1(構成要件Fに関する相違点の認定及び判断の誤り) (1) 相違点の認定の誤り (a) 審決は,「甲4の記載をみると,作動推測図2では,ガス圧が,銃身後部のピストンA,Bの前部に作用している状態が示されているから,当該ピストンA,Bを『銃身部の後方となる部分内に設けられ』た,『受圧部』を構成する部材とみることはできる。」と認定する。しかし,本件発明における受圧部とは,有底筒状部材51のガス圧を受ける「面」51Aであり,引用例でも,受圧部は,立体であるピストンA及びピストンB全体をいうのではなく,ピストンA,ピストンBの銃口側のガス圧を受ける「面」を指すものである(甲4-3)。よって,正確には,「甲4の記載をみると,作動推測図2では,ガス圧が,銃身後部のピストンA,Bの前部に作用している状態が示されているから,当該ピストンA,Bの銃口側の面を『銃身部の後方となる部分内に設けられ』た,『受圧部』とみることはできる。」と認定すべきである。
(b) 審決は,「上記ピストンAとピストンBの動きが別であることは明らかであるし,作動推測図3に対応する説明文中に,『ピストンがスライドを押し後退させる」という,ピストンとスライドとがそれぞれ別に動くとも解し得る記載があるところから,甲4における『受圧部』(ピストンA,B)が『スライダ部と一体的に移動する部材』といえるか否かは,甲4記載の図面や説明文からは必ずしも明確とはいえない。」と認定する。
しかし,審決では,本件発明と引用例の対比の前提として,本件発明における受圧部がスライダ部と一体的に移動することの技術的意義,目的,作用効果が正確に理解されておらず,一体的に移動するか否かの判断に誤りがある。
すなわち,本件発明において,構成要件Fの受圧部が「スライダ部と一体的に移動する」ことの技術的意義とは,「蓄圧室からのガスを,ガス導出通路部及び第2のガス通路を通じて受圧部に作用させ,それによりスライダ部を後退させる」(本件特許公報の段落【0010】)こと,「有底筒状部材51のスライダ部50を伴った後退が継続される結果,図8及び図9に示される如く,可動部材54における後方側部分が有底筒状部材51における筒状部51B内からその外部に出る状態とされ,またハンマ5は,有底筒状部材51の後端部によって,発射用可動ピン40から所定の距離だけ離隔した位置に向けて回動せしめられる」ことにある(同【0033】)。
他方,引用例作動推測図B(甲4-1,39頁)によれば,少なくとも,ピストンBはスライドと常に接触しており,ピストンBの前面部である受圧部がスライドと一体的に移動することは明らかである。
よって,本件発明における受圧部とスライダ部が一体的に移動することによる技術的意義,作用効果である「ガスをガス導出通路部及び第2のガス通路を通じて受圧部に作用させそれによりスライダ部を後退させハンマが回動される」ことと,引用例の受圧部とスライドの技術的意義,作用効果である「ピストンAおよびピストンBが後退し,ピストンA,ピストンBがスライドを押して後退させ,押されたスライドも後退するためハンマーが引かれ回動する」こととは共通である。
このように,審決が,「ピストンがスライドを押し後退させる」という引用例の記載から,「ピストンとスライドとがそれぞれ別に動くとも解しうる」としたのは,引用例の事実認定を誤り,かつ本件発明の理解を誤っている。
(c) 以上述べたことから,審決が前記第2,3(1)(a)のように相違点1を認定したのは,妥当ではない。
(2) 相違点の判断の誤り 審決は,前記第2,3(2)(a)のとおり判断するが,少なくともピストンBについては構成要件Fに該当することを認めながら,引用例の構成要件Fの該当性を否定したもので,判断に矛盾,誤りがある。
上記判断の誤りは,後記構成要件Gに関するところで,更に詳述する。
2 取消事由2(構成要件Gに関する相違点の認定及び判断の誤り) (1) 相違点の認定の誤り (a) 構成要件G項中の「上記装弾室と上記受圧部との間に配され…た可動部材」の各部材の位置関係の解釈は,本件発明の目的,作用効果を踏まえ,全体的,実質的に判断されるべきであり,引用例の記載や図示から,「シリンダーノズルの後端はピストンA,Bの前部よりも更に後方に延びている」というような形式的な点から構成要件Gとの異同を判断すべきではない。審決は,本件発明における構成要件G中の「可動部材」が「上記装弾室と上記受圧部との間に配され」ることの技術的意義の検討をせずに形式的な判断をしたもので,その判断には誤りがある。
本件特許公報の作用及び発明の効果に関する記載によれば,本件発明の構成要件Gでは,「上記スライダ部の移動方向に沿う方向に移動可能とされた可動部材」についての技術的な意義の記載はあるが「上記装弾室と上記受圧部との間に配され」については,特段の意義は記載がない(【作用】としての段落【0009】,【0010】,【発明の効果】としての段落【0050】,【0051】)。さらに,実施例の記載においても,同様である(段落【0031】)。このように,本件明細書中には「上記装弾室と上記受圧部との間に配され」については,特段の技術的意義は記載がない。本件明細書に記載された作用,効果は,「上記スライダ部の移動方向に沿う方向に移動可能とされた可動部材」という要件により生じるものであり,この場合,引用例の構造であっても,当該シリンダーノズルは,可動部材に関する本件発明の作用及び効果をすべて満たすものである。
確かに,構成要件Hは,「上記ガス導出通路部から上記可動部材内を通じて上記装弾室に至る第1のガス通路及び上記ガス導出通路部から上記可動部材内を通じて上記受圧部に至る第2のガス通路の夫々を開閉制御し」とされてはいる。しかし,これによっても,ガス導出通路部から供給されるガスは,可動部材内の第1のガス通路及び第2のガス通路を通じて,装弾室及び受圧部に供給され,それぞれ弾丸の発射とスライダ部の後退に供されることが示されているにすぎず,装弾室と受圧部との「間」に関する特段の技術的意義が示されているとはいえない。
本件発明の実施例に関する図3には,本件発明の可動部材と装弾室との位置関係が示されているが,可動部材54の前端下部は,装弾室4aの中心(装弾されたBB弾の中心)まで突出した状態が示されており,形式的には,可動部材は「装弾室と受圧部との間に配されている」とはいえない。しかし,実施例は,可動部材が「上記装弾室と上記受圧部との間に配され」た本件発明を表すものとして図示されている。つまり,可動部材の全体が完全に装弾室と受圧部との間に存在しなければならないものではなく,厳密な意味で「間」に配されているものでなくても,本件発明の要件を備えているといえる。
加えて,「上記装弾室と上記受圧部との間に配され」という場合,文言上からいっても,本件発明の可動部材(引用例におけるシリンダーノズル)のすべてが装弾室と受圧部との間に存在しなければならないのか,可動部材(シリンダーノズル)の相当部分が存在すればよいのかは,解釈の余地がある。単に「間に配する」という場合,配される物は完全に内側に設置される場合のみならず,一部が外側にはみ出した場合であっても,同様に「間に配する」と表現することは,ごく自然な使用方法である。
また,引用例では,ピストンBは,ピストンAの内側に沿って後退することが可能な構造にあり,このピストンBの後退に伴い,スライドが一体となって後退し,スライドの後退がハンマーを更に後方に回動させて,スライドオープンの位置まで押し倒していることがわかる(甲4-1の推測図@〜C及び40頁上段左の写真)。したがって,引用例においては,少なくともピストンBの受圧部とラバーチェンバーの間にシリンダーノズルが位置することになるのであって,可動部材(シリンダーノズル)は装弾室(ラバーチェンバー)と受圧部(ピストンBの前面部)に配されているといえ,審決の認定には誤りがある。
(b) 以上述べたとおり,審決が前記第2,3(1)(b)のように相違点2を認定したのは,誤りである。
(2) 相違点の判断の誤り 審決は,前記第2,3(2)(a)のとおり判断するが,誤っている。
本件発明の「受圧部」が面であり,引用例でも「受圧部」として特定すべきは面であるのにもかかわらず,審決は,「受圧部(ピストン)」であるとして,引用例における受圧部として立体であるピストン全体を認定しており,対比すべき対象をそもそも間違えている。そして,審決は,引用例における誤った受圧部の認定を基に,上記部分において,意味のない検討をして,誤った判断をしている。
さらに,引用例のように,シリンダーノズル(可動部材)の後端部がピストンBの前面(受圧部)より後方に突出したものであっても,シリンダーノズル全体としては装弾室と受圧部との間にあるといえ,当該シリンダーノズルは,本件発明の可動部材に関する作用は全部備えていることになり,また,本件特許の可動部材に関する効果は全部同等となる。
つまり,審決は,引用例と本件発明との対比に当たり,可動部材の作用効果を何ら考慮することなく単に形式的な解釈,判断をしており,その判断は誤っている。
3 取消事由3(構成要件Hに関する相違点の認定及び判断の誤り) (1) 相違点の認定の誤り 本件発明においては,ガス導出通路部が閉状態にされた直後において,スライダ部は,受圧部とともに慣性により最後退位置まで後退し,その慣性によるスライダ部の後退に伴って可動部材が後退するのであって,可動部材の後退は,ガス導出通路部が閉状態にされた後に開始されるものであり,スライダ部及び可動部材が後退するまでガス導出通路部が開口しているものではない。
しかし,審決は,「本件発明の構成要件Hにおける『ガス通路制御部』は,『開閉弁部により上記ガス導出通路部が開状態とされている期間において』,『上記スライダ部を後退させ』るにとどまらず,『それに伴う上記可動部材の後退を生じさせ』るまでの制御を行うものである。」と発明の要旨を認定しているが,このような認定は,本件明細書の作用の項の記載,実施例の作用についての記載に反するものであり,誤りである。審決が引用する本件発明の実施例には,審決が判断するようなガス導出通路部が開状態の間に可動部材が移動を開始する旨の記載はなく,また審決が指摘する本件明細書の図8及び図9は,ガス導出通路部が開状態で,かつ,可動部材が移動を開始する前の状態を示しており,図10は,ガス導出通路が閉状態となり,かつ,可動部材が移動を終了してスライダ部に完全に収納されてしまった後の状態を示しているにすぎない。つまり,明細書記載の図面にはガス導出通路が閉状態になるのと可動部材が移動を開始するのとがいずれが先かという情報は何ら示されていない。
このように,審決は,本件発明を,本件明細書の作用についての記載(段落【0010】)に反し,実施例の作用の記載(段落【0035】)にも反した独自の解釈をしており,本件発明の要旨認定において誤りがある。
(2) 相違点の判断の誤り 審決は,前記第2,3(2)(b)のとおり判断するが,引用例につき,「シリンダーノズル(可動部材)」が「わずかとはいえ,『前進』する位置をとると認められる。」と認定する。しかし,甲4-1の39頁@,A図では,シリンダーノズル端面はラバーチェンバー内にわずか突入した位置にあり,B,C図では,深く突入しているが,これはラバーチェンバー(ラバーチェンバーと一体になったバレル)がシリンダーノズル側に向かって後退したためであって,シリンダーノズルが前進したのではない。よって,審決は,本件発明と引用例の認定・対比において明確な誤りがある。
審決は,以上のような誤った要旨認定に基づいて,引用例と誤った対比を行ったもので,その判断には明白な誤りがある。
4 取消事由4(作用効果との関係についての判断の誤り) (1) 審決は,本件発明の効果の記載を「ガス圧動作部が簡単な構成をもって確実な動作を行うものとされ」と認定するが,正確には,「ガス圧動作部が全体の複雑化をまねかない簡単な構成をもって確実な動作を行うものとされる。」である。そして,構成が比較的簡単なものとなる理由は,本件発明の構成要件F,G,Hによるものではない。むしろ,特許請求の範囲請求項6記載の発明の作用効果が対応するものであり,請求項1記載の本件発明の作用効果ではない。したがって,審決の本件発明の作用効果の認定には誤りがある。
本件発明の作用効果として特に留意すべき内容は,本件明細書の段落【0051】の記載である。ここに記載された効果は,本件発明の目的【0006】に対応するものであり,従来の玩具銃にない本件発明の特徴的な効果とされている。
一方,引用例の玩具銃は,上記【0051】に記載の効果を生ずる構成を全部充足しているのであり,したがって,効果も同等になるものである。なぜなら,引用例記載の玩具銃は,本件特許権者である被告が,本件特許出願に先立ち,その実施品であるウエスタンアームズM92FSを,引用例である玩具銃専門誌の発行者に提示し,銃の通常分解と写真撮影を許し,同社担当者が実際に発射してみてその銃の構造の概要と性能を知った上で,引用例の紹介記事としたものであるからである。
本件発明の最も重要な効果である【0051】の効果の同一性について触れることなく,従たる効果について,しかも,誤った判断の下に本件発明と引用例の効果の差異を述べている審決は,本件発明の解釈,対象物の認定を誤っている。
(2) 審決は,引用例記載の玩具銃と本件発明に係る玩具銃の構成とは大きく相違すると判断する。しかし,審決が大きな違いであるとする「切り替えバルブ」(本件発明におけるガス通路制御部)の切り替えの仕方は,本件発明の特許請求の範囲において,その手段については何ら特定されていない。
審決は,本件発明の進歩性を判断するに当たって,引用例の記載と本件発明の記載とを対比すべきであるのに,引用例の記載と本件発明の「実施例」の記載とを対比しており,対比すべきものを誤っている。
審決は,このような誤った対比対象を基に進歩性の判断をしており,誤っている。
5 取消事由5(公知発明,周知技術の認定の誤り) 審決は,本件発明につき,前記第2,3(2)(c)の第3段落のとおり,公知発明や周知技術に基づいて容易に発明することができたものとはいえないと判断する。しかし,審決が公知発明や周知発明の内容に関するものとして掲記した証拠には弾丸供給機構に関する明白な記載があるのであるから,引用例はこのような弾丸供給機構を前提とするものであるはずで,これらを検討すれば,本件発明の弾丸供給機構に進歩性のないことが一層明確になる。審決の判断は誤りである。
被告の主張の要点
1 取消事由1(構成要件Fに関する相違点の認定及び判断の誤り)に対して (1) 引用例(甲4)における両者で受圧部を形成するピストンAの前端面とピストンBの前端面は,ピストンAの前端面がスライドと一体的に移動するものでないことが明らかであり,ピストンBの前端面がスライドと一体的に移動するものか否か明らかでないものである。ピストンA及びBが個別に移動し,しかも,少なくともピストンAについてはスライダから離隔するものであることが明らかである。よって,審決の判断は妥当である。なお,審決は,より正確には「「受圧部」(ピストンA,Bの前端面)」というべきところを「「受圧部」(ピストンA,B)」と記載しているが,判断の妥当性を損ねることにはならない。
原告らは,本件発明において,構成要件Fの受圧部が「スライダ部と一体的に移動する」ことの技術的意義して,2つの事項を主張する。
しかし,本件発明において構成要件Fの「受圧部」が「スライダ部」と一体的に移動する部材であることの技術的意義は,原告ら主張の2つの事項そのものにあるのではない。これらは,「スライダ部」と一体的に移動する部材である構成要件Fの「受圧部」が用いられることによりもたらされる動作である。ただし,このような動作は,構成要件Fの「受圧部」が用いられることによってのみ実現されるものではなく,スライダ部と一体的に移動する部材でない受圧部が用いられても,実現され得るものである。これらの動作を部材数が少ない簡単な構成をもって実現させることができるのが,「スライダ部」と一体的に移動する部材である構成要件Fの「受圧部」を用いることなのである(このことは, 本件発明がガス圧動作部の構成の簡略化を目的の一つとしていることに符合している。)。原告らの主張は,誤りである。
また,原告らは,引用例における受圧部とスライドの技術的意義は,本件発明の上記技術的意義と共通であるとし,それゆえ,引用例においても受圧部とスライドとは一体的に移動しているといえる旨を主張しているが,理屈の通らない主張である。両者を共通であるとし,それをもって直ちに,引用例においても受圧部とスライドとは一体的に移動しているといえるとすることには,誤りがある。
原告らは,審決では本件発明における技術的意義,目的,作用効果が正確に理解されていないと主張するが,正確に理解していないのは原告らである。審決の判断手法に誤りはない。
(2) 原告らは,審決が,少なくともピストンBについては構成要件Fに該当することを認めたとして,これを前提とした主張をするが,審決の判断の解釈を誤ったものである。
審決は,ピストンBが「スライダ部と一体的に移動する部材」であることを認めているわけではなく,ピストンBについての構成要件Fの該当性を認めているわけでもない。
2 取消事由2(構成要件Gに関する相違点の認定及び判断の誤り)に対して (1) 引用例(甲4)のシリンダーノズルは,その前端部が装弾室の位置に達しており,その後端部がピストンA及びBの前端面が形成する受圧部の位置を越えて後方に延びている。後者の部分は,その役割からして受圧部の位置を越えて後方に延在する部分を備えなくてはならないものとされている。引用例(甲4)におけるシリンダーノズルは,明らかに装弾室と受圧部との間に配されたものとはいえないものである。
原告らは,各部材の位置関係の解釈は,本件発明の目的,作用効果を踏まえ,全体的,実質的に判断されるべきであり, 審決は,本件発明における構成要件G中の「可動部材」が「上記装弾室と上記受圧部との間に配され」ることの技術的意義の検討をせずに形式的な判断をしており,その判断の仕方及び結論には誤りがあると主張する。
しかし,本件発明における構成要件Gの「可動部材」についての「上記装弾室と上記受圧部との間に配され」は,「可動部材」をその動作もしくは機能に触れることなく配置位置をもって特定している。したがって,引用例記載のシリンダーノズルとの異同の判断は,両者の配置位置を対比することで足りる。
原告らは,本件明細書中には「上記装弾室と上記受圧部との間に配され」については, 特段の技術的意義の記載がないなどと主張するが,事の実質を考慮しない形式論にすぎない。本件明細書及び図面の記載によれば,可動部材が装弾室と受圧部との間に配されることの技術的意義は,第1のガス通路及び第2のガス通路によりガスが装弾室に供給されるとともに受圧部に作用するものとされる状態を部材数が少ない簡単な構成をもって実現させることにあることが理解される。このことは,ガス圧動作部の構成の簡略化を目的の一つとしている(段落【0006】)ことに符合している。
原告らは,本件発明の実施例に関する図3によれば,形式的には,可動部材は「装弾室と受圧部との間に配されている」とはいえないなどとも主張するが,「間に配され」の意義を正しく理解しないものである。
原告らは,甲4-1の推測図@〜C及び40頁上段左の写真を援用して,引用例においては,可動部材(シリンダーノズル)は装弾室(ラバーチェンバー)と受圧部(ピストンBの前面部)に配されているといえるなどとも主張する。
しかし,上記写真は,被告製玩具銃の実物について,スライドを後退させた状態の外観を示す写真であり,上記推測図@〜Cは,被告製玩具銃におけるガスの制御動作原理を推測して動作原理を表した実体を伴わない概念図であり,実物の構造及び動作状態を正確に表したものではない。したがって,両者を比較しても無意味である。
(2) 引用例(甲4)においては, シリンダーノズルをラバーチェンバーと受圧部(ピストンA及びBの両者の前端面)との間に配されたものとすべき必然性がなく,そうするためには,シリンダーノズルの役割を変えて,その大径部を大規模に変形させなくてはならない。したがって,引用例において,シリンダーノズルをラバーチェンバーと受圧部(ピストンA及びBの両者の前端面)との間に配されたものとすることに想到することは,本件発明の構成を知らない当業者にとって容易ではない。
原告らは,審決が引用例における受圧部として立体であるピストン全体を認定し,対比すべき対象を間違えているなどと主張するが,審決は,「受圧部(ピストン)」とは, 受圧部はピストンA, Bにより構成されるということを簡明に表したものであることは明らかであり,原告らの主張は, 審決の判断を恣意的に曲解するものである。
その他,原告らの主張するところは,前記のとおり,誤りである。
3 取消事由3(構成要件Hに関する相違点の認定及び判断の誤り)に対して (1) 本件発明における構成要件Hの「ガス通路制御部」は,「開閉弁部」によって「ガス導出通路部」が開状態とされている期間において,第1の状態(第1のガス通路を開状態として,蓄圧室からのガスを装弾室に供給する状態)から第2の状態(第2のガス通路を開状態として,蓄圧室からのガスを受圧部に作用させて「スライダ部」を後退させ,それに伴う「可動部材」の後退を生じさせて,「弾倉部」の一端から「装弾室」への弾丸の供給のための準備を行う状態)に移行するものである。したがって,本件発明の「可動部材」の後退は,「ガス導出通路部」が開状態とされている期間もしくはかかる期間後において,「スライダ部」の後退に伴って生じる。
審決においては,「ガス導出通路部」が開状態とされている期間において生じることに限定的に解されている点で,いささかの混乱がある。しかし,この混乱は,本件発明の進歩性を肯定した審決の結論に影響を及ぼすものではない。なぜなら,相違点3(構成要件H)についての重要な点は,「ガス導出通路部が開状態とされている期間において」にあるのではなく, 引用例(甲4)の「シリンダー(切り替えバルブ)」(ガス通路制御部)が,「ガス導出通路部が開状態とされている期間」においてもそれ以外の期間においても,シリンダーノズル(可動部材)の後退を生じさせるものとはされていないことにあるからである(引用例(甲4)にあっては,シリンダーノズルの後退については一切図示も記述もされておらず,シリンダーノズルが後退可能な部材であるのか否かは不明であるとしかいいようがない。)。
(2) 本件発明の図8では,可動部材54の後方側部分が有底筒状部材51の筒状部51B内から外部に出た状態の一瞬が示されている。図8に示される一瞬の状態の後,直ちに,開閉弁部35aが閉状態となし,ガス圧の供給が停止される。その間,極めて短時間であり,開閉弁部35aが閉状態となす状態は図8に表されていない。極めて短時間であるから,外部に放出されるガスは微量にすぎず,本件発明の作用効果の記載と矛盾するものでない。
本件明細書の段落【0010】の記載は,ガス導出通路部が閉状態にされた直後にスライダ部の慣性による後退が開始される旨を述べているのではない。スライダ部の慣性による後退がいつ開始されるかについては触れていない。
(3) なお,構成要件Hについては,審決の認定した点以外にも相違点が認定されるべきである。
4 取消事由4(作用効果との関係についての判断の誤り)に対して (1) 原告らの本件発明の作用効果に関する主張は,本件明細書を誤解するものである。
本件明細書の段落【0050】には,「ガス圧動作部が全体の複雑化をまねかない簡単な構成をもって確実な動作を行うものとされる」ことと,「ガス圧動作部によるガス圧を利用して装弾室に弾丸を供給するための準備動作が,比較的少量のガスにより効率良く,しかも,迅速に行われる」ことが,本件発明の作用効果として明記されている。上記作用効果は,本件発明の構成要件F,G,Hによってもたらされている。よって,原告らの主張は誤りである。
(2) 引用例(甲4)記載の玩具銃には,スライダ部の後退に伴って後退する可動部材は備えられていない。それゆえ,引用例記載の玩具銃にあっては,本件発明の作用効果に相当する作用効果は得られるはずがない。よって,原告らの主張は,誤りである。
(3) また,審決は,引用例(甲4)の記載を勘案して,本件発明に係る玩具銃と引用例において推測・推理されている玩具銃との間には「構成の大きな相違」があるとしているのであり,「切り替えバルブ」の切り替えの仕方を「構成の大きな相違」としているのではない。原告らの主張は,審決の記載を正しく理解せずにするものであり,これを根拠に審決を誤りをいう点も失当である。
5 取消事由5(公知発明,周知技術の認定の誤り)に対して 審決の判断に,誤りはない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(構成要件Fに関する相違点の認定及び判断の誤り)について (1) 原告らは,審決が,引用発明と本件発明における「受圧部」との対比に当たり,引用例のピストンA,B全体を「受圧部」であると認定したが,「受圧部」は「面」であることが明白で,審決の認定に誤りがあると主張する。
(a) 確かに,審決は,その説示中において,「当該ピストンA,Bを…『受圧部』を構成する部材とみることはできる」(構成要件の対比の項),「(引用例)における『受圧部』(ピストンA,B)」(前同),「『受圧部』に関して,(引用例)にも,それに対応する部材は『ピストンA,B』として記載されているが,当該ピストン(受圧部)が」(相違点の認定の項),「『受圧部』に対応する『ピストンA,B』のうちの」(相違点に関する判断の項)などと記載している。
(b) しかし,審決には,「(引用例)の記載事項をみると,作動推測図2では,ガス圧が,銃身後部のピストンA,Bの前部に作用している状態が示されているから,当該ピストンA,Bを…『受圧部』を構成する部材とみることはできる」,「構成要件G中の『上記装弾室と上記受圧部との間に配され』という点についてみると,…シリンダーノズルの後端は,ピストンA,Bの前部よりも更に後方に延びている…から,可動部材…が『上記装弾室と上記受圧部との間に配され』ているとはいえない。」,「ピストンの前部(受圧部)」との各記載もある。
これらの記載に加え,審決の説示全体に照らして検討すれば,審決は,上記(a)の各記載においても,「ピストンA,Bの前部ないし前面部」をもって「受圧部」であるとの趣旨で説示しているものと理解される。審決に原告ら主張の誤りがあるとはいえない。
(c) ちなみに,原告らは,審判請求書において,「(引用例)記載発明のピストンAおよびピストンBは本件特許発明の受圧部に該当」と明確に主張している(乙1の26頁6〜8行)。審決は,これを受けて,「請求人の主張」欄に,「(引用例)記載の『ピストンAおよびB』は本件特許発明の『受圧部』…に該当」と,上記主張を正確に引用して摘示し,これに即して,上記(a)の各記載がされたものと認められる。よって,審決の上記(a)のような記載は,原告ら自身が審判においてした主張に基づいていることが明らかである。
(2) 構成要件Fに関するその余の取消事由については,構成要件Gとの組み合わせに係るものであるから,次の取消事由2についての判断と合わせて検討する。
2 取消事由2(構成要件Gに関する相違点の認定及び判断の誤り)について (1) 原告らは,引用例の記載や図示から,「シリンダーノズルの後端はピストンA,Bの前部よりも更に後方に延びている」というような形式的な点から構成要件Gとの異同を判断すべきでなく,本件発明の目的,作用効果を踏まえ,全体的,実質的な判断がされるべきであるとする。そして,原告らは,審決が,本件発明における構成要件G中の「可動部材」が「上記装弾室と上記受圧部との間に配され」ることの技術的意義の検討をせずに形式的な判断をしており,その判断の仕方及び結論には誤りがあると主張する。
(2) そこで,前記構成要件F及び構成要件Gに係る本件発明の「スライダ部」,「受圧部」及び「可動部材」の具体的構成,並びに「装弾室」,「受圧部」及び「可動部材」の配置関係について検討する。
構成要件Fに係る「受圧部」は,当該用語が圧力を受ける部材を表すこと自体は理解し得るものの,具体的にどのような形状,構成を備えるものかが,請求項の記載のみからは必ずしも明らかに把握し得ないので,本件明細書(甲3-1)の発明の詳細な説明欄の記載をも参酌して,検討する。
本件明細書には,段落【0007】【課題を解決するための手段】において,本件発明の備える構成につき,請求項の記載を援用した記載がなされた後,当該「受圧部」の具体的構成について「【0008】スライダ部内に設けられる受圧部は,例えば,有底筒状部材における底部により形成され,ガス通路制御部が第2のガス通路を開状態とするとき,第2のガス通路を通じたガスが,有底筒状部材における筒状部内側から底部に向けて噴射されるものとされる。」と記載されている。
したがって,本件発明において構成要件Fにより特定しようとする「スライダ部内に設けられる受圧部」とは,「有底筒状部材における底部」を指すものと理解される。
そして,構成要件Eにおいて,「スライダ部」が「上記銃身部に対して設けられ,該銃身部に沿って移動し得るものとされた」ものであること,及び構成要件Hにおいて,「可動部材内に…ガス通路制御部」を備えると特定されることを加味すれば,構成要件Gにおける「可動部材」に係る「上記装弾室と上記受圧部との間に配され,上記スライダ部の移動方向に沿う方向に移動可能とされた」との特定は,当該「可動部材」が,「スライダ部」の中に位置するように配され,この「スライダ部」を構成している前記有底筒状部材の底部である「受圧部」と「装弾室」の間に配されるものと理解される。
(3) 他方,引用例は,銃身部に沿って移動可能な「スライド」(本件発明の「スライダ部」に相当)内部に「シリンダーノズル」(本件発明の「可動部材」に対応)が収納され,当該「シリンダーノズル」内部に「シリンダー(切り替えバルブ)」(本件発明の「ガス通路制御部」に相当)が収納されており,当該「シリンダー(切り替えバルブ)」内部に,銃身軸方向に伸びて一端が前記「スライド」(「スライダ部」)と当接するように構成された「ピストンA,B」を収納した構成を備えるものである(原告らが本件発明の構成要件との対応を明示すべく赤色で付記した甲4-1の38頁右上図面参照)。
(4) そこで,まず,文章表現上の観点からみるに,引用例においては,「ピストンA,B」の「受圧部」は,「シリンダーノズル」(「可動部材」)内部に収納されているので,「ラバーチェンバー」(「装弾室」)とこれら「ピストンA,B」の「受圧部」との間に「シリンダーノズル」(「可動部材」)が配置されていると表現することは,不自然で,通常はあり得ないものと解される。
(5) さらに,技術的意義の観点からみるに,引用例においては,「シリンダー内のガスを有効に使うために,ピストンが多段式になっている事は十分考えられる」との推測の下に,二重ピストン構成を用いたものが示されている。
また,引用例に示される[参考図:慣性式](39頁)の構成においては,ガス流路の切り替え構成の詳細は示されていないものの,「EFピストンはBB弾より遙かに重い為,1テンポ遅れて動きBB弾が発射されてからスライドに当りスライドを後退させる。」と記載されているように,ピストンがシリンダー内に入るガスにより後退して,本件発明の「スライダ部」に相当するスライドに当たり,後退させることが示されている。よって,この「慣性式」においては,スライドをガス圧で直接後退させるのではなく,ガス圧で後退させられたピストンを介して,スライドを後退させる構成であることがうかがえる。なお,甲7及び8に示される「弾丸供給に関する周知技術」においても,スライドは,ガス圧で後退させられたピストンを介して後退させられるものとして記載されている。
一方,本件発明は,構成要件Fにおける「上記スライダ部と一体的に移動する部材である受圧部」と,構成要件Gにおける「上記装弾室と上記受圧部との間に配され,上記スライダ部の移動方向に沿う方向に移動可能とされた可動部材」からなる構成により,「スライダ部」内に設けられる「受圧部」にガス圧を直接作用させる構成が採用されているのであって,従来存在していたものと異なる構成を示しているものといえる。
ところで,スライドを後退させる構成が異なる場合には,作動性が異なる可能性も否定できない(甲4-1の39頁,[参考図:慣性式]についての感想を記載した部分など参照)。
この点に関し,本件明細書においては,【発明が解決しようとする課題】に関する段落【0006】に「斯かる点に鑑み,本発明は,銃身部の後端部にガス圧により発射される弾丸が装填される装弾室が設けられるとともに,銃身部に対してスライダ部が移動可能に設けられ,さらに,そのスライダ部内にガス圧を利用して装弾室に弾丸を供給するための準備を行うガス圧動作部が設けられるもとで,ガス圧動作部が,その構成が簡略化されて,蓄圧室からガス圧動作部に至るガス通路及び蓄圧室から装弾室に至るガス通路の構成を複雑化しないものとして配され,しかも,装弾室に装填された弾丸の発射後にスライダ部の移動が開始されることになる自動弾丸供給機構付玩具銃を提供することを目的とする。」と記載されるように,「スライダ部内にガス圧を利用して装弾室に弾丸を供給するための準備を行う」構成を「ガス圧動作部」と位置付け,これを簡略化することが目的の一つとして挙げられている。そして,本件発明は,前記のとおり,構成要件Fに係る「受圧部」に直接ガス圧を作用させるものであるので,引用例における二重ピストン構成を用いたものと比較した場合において,少なくとも,部品点数を簡略化した構成となし得ることが開示されているといえる。
したがって,原告らは,スライドを後退させるのにガス圧を作用させる機能において異なるところがないとして,構成要件F及び構成要件Gにより特定される構成に技術的意義が存在しないとの趣旨も主張するが,直ちに採用することはできない。
(6) 以上のとおり,審決の構成要件Fに関する相違点1,構成要件Gに関する相違点2の認定は,是認し得るものである。
そして,引用発明は,前記のように,「シリンダーノズル」(可動部材に対応)の内に「シリンダー(切り替えバルブ)」(ガス通路制御部に相当),その内にピストンA,その内側にピストンBが設けられた構造となっていること,そして,シリンダーノズルの内側とシリンダー(切り替えバルブ)の外側の間の空間を,弾丸を発射するガスが通過するものであり,一方,シリンダー(切り替えバルブ)の内側壁とピストンA,Bの前部ないし前面部との間の空間にガスが注入されることで,ピストンA,Bの前部ないし前面部が受圧部となり,ピストンA及びBが,続いてピストンBがスライド部を押して後退させる構成となっていることが認められる(甲4-1・2)。このような構成において,上記のようにガス圧を作用させる構成においては,シリンダーノズル(可動部材)の後端をピストンの前部ないし前面部(受圧部)よりも前方に配置することは,機能的にみてあり得ない。
これに対し,本件発明は,可動部材が装弾室と受圧部との間に配される構成を有するものである(実施例では,「間に配される」態様として,内壁(底部)に受圧部を有する有底筒状部材の筒状部に,後方側部分が選択的に挿入されるように可動部材が配され,可動部材の内にガス通路制御部が配される形態が示されている。)。
そうすると,審決が,「本件発明の構成要件Gでは,可動部材が,装弾室と受圧部との間に配される構成をとるが,受圧部として,引用例記載の『ピストン』のように,スライダ部の後部から突出する部材とするものでは,可動部材(シリンダーノズル)の後端を,受圧部(ピストン)よりも前方に配置する構成とすることは,ガス圧を作用させるという機能を考慮すれば,事実上不可能である。そうすると,引用例記載のものにおいて,本件発明のように構成要件Gを採用することは当業者が容易に想到できることとはいえない。」とした判断は,是認し得るものである。
3 取消事由3(構成要件Hに関する相違点の認定及び判断の誤り)について (1) 原告らは,本件発明においては,ガス導出通路部が閉状態にされた直後において,スライダ部は,受圧部とともに慣性により最後退位置まで後退し,その慣性によるスライダ部の後退に伴って可動部材が後退するのであって,可動部材の後退は,ガス導出通路部が閉状態にされた後に開始されるものであり,スライダ部及び可動部材が後退するまでガス導出通路部が開口しているものではないとし,審決の要旨認定は,本件明細書の段落【0010】及び【0035】の記載に反するものであると主張する。
(2) 審決は,構成要件Hに関しては,次のように認定判断しているものと理解される。
すなわち,構成要件Hの「ガス通路制御部」は,ガス導出通路部が開状態とされている期間において,可動部材の後退を生じさせるが,引用例では,「シリンダー(切り替えバルブ)」(ガス通路制御部)は,ガス導出通路部の開状態とされている期間においては,シリンダーノズル(可動部材)の後退を生じさせるものではなく,これが両者の相違点3であるところ,引用例のものにおいて,ガス導出通路部が開状態とされている期間において,可動部材の後退を生じさせる構成を採ることが容易にできるとはいえない,というものである。なお,審決は,構成要件Hの用語に従って,「後退を生じさせ」と表現しているが,審決の説示過程にかんがみれば(審決11頁1行等),上記の説示は,ガス導出通路部が開状態とされている期間において,可動部材の「後退を開始させ」るとの趣旨で説示しているものと解される。
(3) 本件発明に関する特許請求の範囲をみても,可動部材の後退開始時期について明文の記載がない。そこで,本件明細書の発明の詳細な説明欄及び図面を参酌することとするが,これらにも可動部材の後退開始時期そのものについては明記されていないので,本件明細書の記載及び図面からどのように解し得るかを検討する。
(a) 【図7】には,ガス圧を受けて有底筒状部材51が急速に後退している状況が示されているが,同時に,可動部材54の後方側部分における後端部に装着された環状シール部材52が,有底筒状部材51における筒状部51Bの内壁面の前方端とぎりぎりのところで当接し,かろうじてガスが密封されている状況が図示されている。そして,【図7】の状態から【図8】の状態へ移行するものとして記載されているが,【図7】の状態の直後には,可動部材54の後方側部分が有底筒状部材51における筒状部51Bの外部に出て,筒状部51Bの開口部側が開放状態となることが明らかである。そして,【図8】においては,さらに有底筒状部材51が後退し,可動部材54の後方側部分が有底筒状部材51における筒状部51Bの外部に完全に出ており,可動部材54の後方端と有底筒状部材51の筒状部51Bの前方端とは,筒状部51Bの奥行き(深さ)に匹敵するほどの距離が開いたように図示されており,ガスの密封機能は既に失われていることが明らかである。
ところで,【図7】及び【図8】の状態でも,ガス導出通路部は,開状態のままであることは明らかである。特に,本件明細書の段落【0033】,【0034】の記載によれば,ガス導出通路部が閉状態となるのは,【図8】の状態よりも,さらに有底筒状部材51のスライダ部50を伴った後退が継続した後であることが明らかである(【図10】に近い状態)。よって,ガス導出通路部は,【図7】の状態の前から開の状態であり,その状態は,【図8】の状態を経て,さらに有底筒状部材51のスライダ部50を伴った後退が継続した後に閉状態となるまでの間,継続するものであることが認められる。
一方,本件明細書の段落【0035】には,可動部材54の後方側部分が有底筒状部材51における筒状部51Bの外部にあって,筒状部51Bの開口部側が開放状態とされていることにより,有底筒状部材51における筒状部51B内のガス圧は,急速に零(大気圧)に向けて低減されることから,可動部材54は,コイルスプリング55の付勢力によって,急速に有底筒状部材51に向けて後退させられることが記載されている。
以上の各図の記載内容及び段落【0035】の上記記載に照らせば,ガス導出通路部が開状態とされている間に,コイルスプリング55の付勢力によって,可動部材54が後退を開始するものと解し得るのであり,これは,審決の認定に沿うものである。
(b) しかしながら,本件明細書の段落【0010】,【0035】の記載によれば,必ずしも上記のような理解となるものではない。
すなわち,段落【0010】には,「ガス導出通路部が開状態にされている期間に後退を開始したスライダ部は,ガス導出通路部が閉状態にされた直後において,受圧部とともに慣性により最後退位置まで後退し,その慣性によるスライダ部の後退に伴って可動部材が後退して,弾倉部の一端より後方に位置せしめられる。」との記載がある。また,段落【0035】には,「ガス圧の供給が停止されても,その直後においては,スライダ部50はその慣性によりさらに後退して最後方位置をとる。このとき,可動部材54は,その後方側部分が有底筒状部材51における筒状部51Bの外部にあって,蓄圧室33からのガス圧が供給されない状態におかれており,また,有底筒状部材51における筒状部51B内のガス圧は,筒状部51Bの開口部側が開放状態とされることにより急速に零(大気圧)に向けて低減されるので,コイルスプリング55の付勢力によって,急速に有底筒状部材51に向けて後退せしめられる。」との記載がある。
これらの記載によれば,可動部材が後退を開始する時期は,依然として明確ではないものの,上記記載の解釈としては,ガス導出通路部が閉状態にされた後に可動部材の後退が生じるように記載されていると理解するのが,解釈としてより自然で素直である。
もっとも,この点,前記(a)の見解に立てば,次のように解し得ないわけではない。すなわち,前記のとおり,【図7】の状態の直後,典型的には【図8】のような状態のときには,筒状部の開口部側が開放状態であり,ガス導出通路部が開状態であっても密封状態によって得られるガス圧は失われているのであるから,その時点以降,つまりガス導出通路部が閉状態となるよりも前から,慣性によるスライダ部の後退が生じており,それに伴う可動部材の後退も生じている(「慣性」との記載に,ガス圧が加わっている場合も含むなどと解するまでもない。また,上記明細書の記載は,慣性による後退がガス導出通路部が閉状態となって初めて生じると明言しているわけではない。)。ガス圧の供給が停止された直後において,可動部材54の後方側部分が有底筒状部材51における筒状部51Bの外部にあるように解される前記記載についても,ガス導出通路部が開状態のときに可動部材が後退を開始するが,ガス導出通路部が閉状態となったときには,なお可動部材が後退中で,未だ筒状部51Bの内部に収まっていない状態をいうものとも解し得る(この間が瞬時であることはいうまでもない。)。そうすると,上記明細書の記載は,ガス導出通路部が閉状態となった後に可動部材の後退が開始するとの意味に断定し得るものではないといえる。ただし,このような解釈は,いささか技巧的であるとの感が否めない。
(c) 要するに,【図7】,【図8】などの図面の記載を重視して解釈すれば,ガス導出通路部が開状態とされている期間において可動部材の後退を生じさせるとの審決の認定は,首肯し得るものである。しかし,そのように解することは,段落【0010】,【0035】などの明細書の記載の解釈としては,いささか技巧的であるとの感が否めない。
一方,段落【0010】,【0035】などの明細書の記載から,ガス導出通路部が閉状態にされた後に可動部材の後退が生じると理解することは,より自然で素直な解釈であるといえるが,上記図面の記載から理解し得るところとは必ずしも整合しない。
(4) 以上検討したところによれば,本件発明における可動部材の後退開始時期は,特許請求の範囲の記載はもとより,明細書の発明の詳細な説明欄,図面においても,何ら明確な記載がなく,ガス導出通路部が閉状態となる時点の前後いずれかであるかを確定するのは困難であるというほかない(特許権者である被告でさえ,「開状態とされている期間もしくはかかる期間後」と主張する。)。
そうすると,少なくとも,審決のように,ガス導出通路部が開状態とされている期間において可動部材の後退を生じさせるものであると断定することが相当であるか否かについては,疑問が残るというべきである。
ちなみに,審決の判断中には,引用例につき,「シリンダーノズル(可動部材)」が「わずかとはいえ,『前進』する位置をとると認められる。」と認定する部分がある。しかし,ラバーチェンバーがシリンダーノズル側に向かって後退したために,シリンダーノズル(可動部材)が「前進」したかのようにみえたにすぎない。したがって,審決の上記説示には,疑問がある。もっとも,審決は,「『前進』する位置をとる」と説示しており,相対的な位置関係をいうものと解する余地があり,そうであれば,必ずしも誤りであるとはいえない。
4 取消事由4(作用効果との関係についての判断の誤り)について (1) 本件明細書においては,「スライダ部内にガス圧を利用して装弾室に弾丸を供給するための準備を行う」構成を「ガス圧動作部」と位置付け,これを簡略化することが目的の一つとして挙げられており(段落【0006】),発明の効果の一つとして,「ガス圧動作部が全体の複雑化をまねかない簡単な構成」(段落【0050】),「受圧部が形成する簡単な構成とされたガス圧動作部」(段落【0051】)に言及されており,これらは,関連するものである。
(2) ところで,取消事由2について既に判示したとおり,本件発明においては,構成要件Fにおける「上記スライダ部と一体的に移動する部材である受圧部」と,構成要件Gにおける「上記装弾室と上記受圧部との間に配され,上記スライダ部の移動方向に沿う方向に移動可能とされた可動部材」からなる構成により,「スライダ部」の「受圧部」にガス圧を直接作用させる構成が採用されている。さらに検討すれば,本件発明では,「可動部材」内に「ガス通路制御部」が設けられており,「可動部材」と「受圧部」の関係を考慮するのみで,上記のような「ガス圧動作部」を構成し得ることが認められる。
一方,引用発明については,前判示のとおり,銃身部に沿って移動可能な「スライド」(本件発明の「スライダ部」に相当)内部に「シリンダーノズル」(本件発明の「可動部材」に対応)が収納され,当該「シリンダーノズル」内部に「シリンダー(切り替えバルブ)」(本件発明の「ガス通路制御部」に相当)が収納されており,当該「シリンダー(切り替えバルブ)」内部に,銃身軸方向に伸びて一端が前記「スライド」(「スライダ部」)と当接するように構成された「ピストンA,B」(その前部ないし前面部が本件発明の「受圧部」に対応)を収納した構成を備えており,ガス圧がA,Bの二重ピストンの前面部に作用し,ピストンが後退して「スライド」に当たって後退させるというように,スライドは,ガス圧で直接後退させられるのではなく,ガス圧で後退させられたピストンを介して後退させられる構成となっている。
以上からすれば,引用発明と比べ,本件発明の「ガス圧動作部」の構成が簡略化され,簡単な構成となっていることは明らかであり,引用発明にはない作用効果を発揮するものであるといえる。そして,この作用効果は,上記のとおり,請求項1記載に係る本件発明の作用効果であると認められる。
また,本件発明の構成と引用発明の構成について既に判示したところに照らせば,引用発明の「シリンダーノズル」と「ピストン(前部ないし前面部)」の関係を,本件発明の「可動部材」と「受圧部」の関係のように構成するには,「シリンダー(切り替えバルブ)」をどのように構成するかなども含んだ考慮が必要であって,容易に想到し得るものではないというべきである。
よって,原告らの主張は,採用の限りではない。
(3) 既に判示したとおり,本件発明と引用発明との間には「切り替えバルブ」の切り替え方法以外に明らかな相違が認められるものであり,「切り替えバルブ」の切り替え方法のみを問題とする原告らの主張は,当を得ないものというほかない。
5 取消事由5(公知発明,周知技術の認定の誤り)について 取消事由2について検討したように,本件発明が同じ「ブローバック」に係るものであるとしても,これに採用される構成は甲7,8に記載されるものとは異なっており,前記のように引用例のものとも大きな相違があるのであるから,原告らの主張は,採用することができない。
6 以上のとおり,審決の構成要件Hに関する相違点の認定判断には,疑問の余地がないわけではない。しかし,この点をおいても,構成要件F及びGに関する相違点についての審決の認定判断は是認し得るものであって,原告ら主張の審決取消事由1,2,4,5については理由がないことが明らかである。したがって,本件発明の進歩性を肯定し,無効事由が存在しないものとした審決の結論は是認し得るものであって,審決を取り消すべきことにはならない。
よって,原告らの請求は棄却されるべきである。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 田中昌利
裁判官 佐藤達文