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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成17行ヒ106審決取消請求事件 判例 特許
平成27ワ22491 損害賠償請求事件 判例 特許
平成18受1772特許権に基づく製造販売禁止等請求事件 判例 特許
平成28ワ14131 特許権侵害行為差止請求事件 判例 特許
平成27ワ8736 特許権侵害行為差止等請求事件 判例 特許
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事件 平成 28年 (受) 1242号 特許権侵害行為差止請求事件
平成28年(受)第1242号 特許権侵害行為差止請求事件 平成29年3月24日 第二小法廷判決
裁判所 最高裁判所第二小法廷
判決言渡日 2017/03/24
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。
事実及び理由
全容
上告代理人新保克芳ほかの上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除く。)について1 本件は,角化症治療薬の有効成分であるマキサカルシトールを含む化合物の製造方法の特許に係る特許権の共有者である被上告人が,上告人らの輸入販売等に係る医薬品の製造方法は,上記特許に係る特許請求の範囲に記載された構成と均等なものであり,その特許発明技術的範囲に属すると主張して(最高裁平成6年(オ)第1083号同10年2月24日第三小法廷判決・民集52巻1号113頁参照。以下,この判決を「平成10年判決」という。),上告人らに対し,当該医薬品の輸入販売等の差止め及びその廃棄を求める事案である。これに対し,上告人らは,本件では,平成10年判決にいう,特許権侵害訴訟における相手方が製造等をする製品又は用いる方法(以下「対象製品等」という。)が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情が存するから,上記医薬品の製造方法は,上記特許請求の範囲に記載された構成と均等なものであるとはいえないと主張して,被上告人の請求を争っている。
2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1) 本件特許 被上告人は,発明の名称を「ビタミンDおよびステロイド誘導体の合成用中間体およびその製造方法」とする特許権(特許第3310301号。請求項の数は28である。以下,この特許を「本件特許」という。)の共有者である。被上告人は,本件特許につき,1996年(平成8年)9月3日に米国でした特許出願に基づく優先権を主張して,平成9年9月3日に特許出願をした。
(2) 本件発明 本件特許に係る特許請求の範囲の請求項13(以下「本件特許請求の範囲」といい,これに係る発明を「本件発明」という。)の記載は,別紙のとおりである。被上告人は,本件特許の特許出願時に,本件特許請求の範囲において,目的化合物を製造するための出発物質等としてシス体のビタミンD構造のものを記載していたが,その幾何異性体であるトランス体のビタミンD構造のものは記載していなかった。
(3) 上告人らの製造方法 ア 上告人DKSHジャパン株式会社は,角化症治療薬であるマキサカルシトール原薬の輸入販売をしており,その余の上告人らは,上記原薬を含有するマキサカルシトール製剤をそれぞれ販売している(以下,上記原薬に係る製造方法を「上告人らの製造方法」という。)。
イ 上告人らの製造方法を本件特許請求の範囲に記載された構成と比べると,目的化合物を製造するための出発物質等が,本件特許請求の範囲に記載された構成ではシス体のビタミンD構造のものであるのに対し,上告人らの製造方法ではトランス体のビタミンD構造のものである点において相違するが,その余の点について は,上告人らの製造方法は,本件特許請求の範囲に記載された構成の各要件を充足する。
上告人らは,被上告人において,本件特許の特許出願時に,本件特許請求の範囲に記載された構成中の上告人らの製造方法と異なる上記の部分につき,上告人らの製造方法に係る構成を容易に想到することができたと主張している。
(4) 本件明細書の記載等 本件特許の特許出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)には,トランス体をシス体に転換する工程の記載など,出発物質等をトランス体のビタミンD構造のものとする発明が開示されているとみることができる記載はなく,本件明細書中に,上記発明の開示はされていなかった。
3 原審は,上記事実関係等の下において,要旨次のとおり判断した上で,本件では,前記1の特段の事情が存するとはいえず,上告人らの製造方法は本件特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして本件発明の技術的範囲に属するとし,被上告人の請求を認容すべきものとした。
(1) 出願人が,特許出願時に,特許請求の範囲外の他の構成を容易に想到することができたにもかかわらず,これを特許請求の範囲に記載しなかった場合であっても,それだけでは,前記1の特段の事情が存するとはいえない。
(2) 上記(1)の場合であっても,出願人が,特許出願時に,特許請求の範囲外の他の構成を,特許請求の範囲に記載された構成中の異なる部分に代替するものとして認識していたものと客観的,外形的にみて認められるときは,前記1の特段の事情が存するといえる。
4 所論は,原審の上記判断は,前記1の特段の事情が認められる範囲を狭く解 しすぎている旨をいうものである。
5(1) 特許制度は,発明を公開した者に独占的な権利である特許権を付与することによって,特許権者についてはその発明を保護し,一方で第三者については特許に係る発明の内容を把握させることにより,その発明の利用を図ることを通じて,発明を奨励し,もって産業の発達に寄与することを目的とするものである(特許法1条参照)。そして,特許法70条1項は,特許発明技術的範囲は,願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならないと規定する。しかるところ,特許権侵害訴訟における相手方において特許請求の範囲に記載された構成の一部をこれと実質的に同一なものとして容易に想到することができる他の技術等に置き換えることによって,特許権者による差止め等の権利行使を容易に免れることができるとすれば,上記のような特許法の目的に反し,衡平の理念にもとる結果となることなどに照らすと,特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存する場合であっても,所定の要件を満たすときには,対象製品等は,特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,特許発明技術的範囲に属するというべきである。そして,対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情が存するときは,上記のような均等の主張は許されないものと解されるが,その理由は,特許権者の側においていったん特許発明技術的範囲に属しないことを承認するか,又は外形的にそのように解されるような行動をとったものについて,特許権者が後にこれと反する主張をすることは,禁反言の法理に照らし許されないというところにある(平成10年判決参照)。
しかるに,出願人が,特許出願時に,特許請求の範囲に記載された構成中の対象 製品等と異なる部分につき,対象製品等に係る構成を容易に想到することができたにもかかわらず,これを特許請求の範囲に記載しなかったというだけでは,特許出願に係る明細書の開示を受ける第三者に対し,対象製品等が特許請求の範囲から除外されたものであることの信頼を生じさせるものとはいえず,当該出願人において,対象製品等が特許発明技術的範囲に属しないことを承認したと解されるような行動をとったものとはいい難い。また,上記のように容易に想到することができた構成を特許請求の範囲に記載しなかったというだけで,特許権侵害訴訟において,対象製品等と特許請求の範囲に記載された構成との均等を理由に対象製品等が特許発明技術的範囲に属する旨の主張をすることが一律に許されなくなるとすると,先願主義の下で早期の特許出願を迫られる出願人において,将来予想されるあらゆる侵害態様を包含するような特許請求の範囲の記載を特許出願時に強いられることと等しくなる一方,明細書の開示を受ける第三者においては,特許請求の範囲に記載された構成と均等なものを上記のような時間的制約を受けずに検討することができるため,特許権者による差止め等の権利行使を容易に免れることができることとなり,相当とはいえない。
そうすると,出願人が,特許出願時に,特許請求の範囲に記載された構成中の対象製品等と異なる部分につき,対象製品等に係る構成を容易に想到することができたにもかかわらず,これを特許請求の範囲に記載しなかった場合であっても,それだけでは,対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情が存するとはいえないというべきである。
(2) もっとも,上記(1)の場合であっても,出願人が,特許出願時に,その特許 に係る特許発明について,特許請求の範囲に記載された構成中の対象製品等と異なる部分につき,特許請求の範囲に記載された構成を対象製品等に係る構成と置き換えることができるものであることを明細書等に記載するなど,客観的,外形的にみて,対象製品等に係る構成が特許請求の範囲に記載された構成を代替すると認識しながらあえて特許請求の範囲に記載しなかった旨を表示していたといえるときには,明細書の開示を受ける第三者も,その表示に基づき,対象製品等が特許請求の範囲から除外されたものとして理解するといえるから,当該出願人において,対象製品等が特許発明技術的範囲に属しないことを承認したと解されるような行動をとったものということができる。また,以上のようなときに上記特段の事情が存するものとすることは,発明の保護及び利用を図ることにより,発明を奨励し,もって産業の発達に寄与するという特許法の目的にかない,出願人と第三者の利害を適切に調整するものであって,相当なものというべきである。
したがって,出願人が,特許出願時に,特許請求の範囲に記載された構成中の対象製品等と異なる部分につき,対象製品等に係る構成を容易に想到することができたにもかかわらず,これを特許請求の範囲に記載しなかった場合において,客観的,外形的にみて,対象製品等に係る構成が特許請求の範囲に記載された構成を代替すると認識しながらあえて特許請求の範囲に記載しなかった旨を表示していたといえるときには,対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情が存するというべきである。
そして,前記事実関係等に照らすと,被上告人が,本件特許の特許出願時に,本件特許請求の範囲に記載された構成中の上告人らの製造方法と異なる部分につき,客観的,外形的にみて,上告人らの製造方法に係る構成が本件特許請求の範囲に記 載された構成を代替すると認識しながらあえて本件特許請求の範囲に記載しなかった旨を表示していたという事情があるとはうかがわれない。
6 原審の判断は,これと同旨をいうものとして是認することができる。論旨は採用することができない。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 鬼丸かおる 裁判官 小貫芳信 裁判官 山本庸幸 裁判官菅野博之) (別紙)下記構造を有する化合物の製造方法であって:(式中,nは1であり;R1およびR2はメチルであり;WおよびXは各々独立に水素またはメチルであり;YはOであり;そしてZは,式:のステロイド環構造,または式:のビタミンD構造であり,Zの構造の各々は,1以上の保護または未保護の置換基および/または1以上の保護基を所望により有していてもよく,Zの構造の環はいずれも1以上の不飽和結合を所望により有していてもよい)(a)下記構造: (式中,W,X,YおよびZは上記定義の通りである)を有する化合物を塩基の存在下で下記構造:(式中,n,R1およびR2は上記定義の通りであり,そしてEは脱離基である)を有する化合物と反応させて,下記構造:を有するエポキシド化合物を製造すること;(b)そのエポキシド化合物を還元剤で処理して化合物を製造すること;および(c)かくして製造された化合物を回収すること;を含む方法。