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関連審決 訂正2016-390134
この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成27ワ22491 損害賠償請求事件 判例 特許
平成27ワ8736 特許権侵害行為差止等請求事件 判例 特許
平成27ワ28468 特許権侵害差止請求事件 判例 特許
平成27ワ12415 特許権侵害差止請求事件 判例 特許
平成25ワ3357 特許権侵害差止請求事件 判例 特許
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事件 平成 28年 (ワ) 14131号 特許権侵害行為差止請求事件
5
原告 レオファーマ アクティーゼルスカブ
同訴訟代理人弁護士 城山康文
同 山内真之 10 同後藤直之
同訴訟代理人弁理士 小野誠
同 川嵜洋祐
被告中外製薬株式会社 15
被告マルホ株式会社
被告ら訴訟代理人弁護士 尾崎英男 20 同佐々木郁
同 石井奈沙
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2017/09/28
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
25 事 実 及 び 理 由第1 請求11 被告らは,別紙被告物件目録記載の製剤(以下「被告物件」という。)を生産,使用,譲渡,貸渡し,輸出若しくは輸入又は譲渡若しくは貸渡しの申出をしてはならない。
2 被告らは,被告物件を廃棄せよ。
5 第2 事案の概要本件は,発明の名称を「医薬組成物」とする特許権を有する原告が,被告らにおいて被告物件を製造及び販売しようとしているところ,これらの行為は上記特許権を侵害するものであると主張して,被告らに対し,@特許法100条1項に基づき,被告物件の生産,使用,譲渡,貸渡し,輸出若しくは輸入又は譲渡若し10 くは貸渡しの申出の差止めを,A同条2項に基づき,被告物件の廃棄を,それぞれ求める事案である。
1 前提事実(当事者間に争いがない事実及び証拠又は弁論の全趣旨により容易に認められる事実)? 当事者15 ア 原告は,医薬品製造,販売,輸出業務に従事する,デンマーク法に準拠して設立された法人である。
イ 被告中外製薬株式会社(以下「被告中外製薬」という。 は,) 医薬品の製造,販売及び輸出入等を業とする株式会社である。
ウ 被告マルホ株式会社(以下「被告マルホ」という。)は,医薬品の製造,販20 売及び輸出入等を業とする株式会社である。
? 原告の特許権原告は,次の特許(以下「本件特許」といい,これに係る明細書を「本件明細書」という。)に係る特許権(以下「本件特許権」という。)を有する。
なお,本件特許出願は,平成12年1月27日に出願された(優先権主張 平25 成11年4月23日,デンマーク王国)原出願(特願2000−613441)からの分割出願(特願2008−191182)の分割出願(特願2013−214098)の分割出願(特願2015−90105)として平成27年4月27日に出願されたものである。
ア 特許番号 第5886999号イ 発明の名称 医薬組成物5 ウ 出願日 平成27年4月27日エ 優先日 平成11年4月23日(以下「本件優先日」という。)オ 登録日 平成28年2月19日? 特許請求の範囲の記載本件特許に係る特許請求の範囲の請求項1ないし4,11及び12の記載は,10 次のとおりである(以下,各請求項記載の発明を,請求項の番号に従い「本件発明1」などといい,これらを併せて「本件各発明」と総称する。。
)なお,請求項12については,本件特許に係る訂正審判事件(訂正2016−390134)における平成29年1月30日付け審決(以下「本件訂正審決」という。)の確定により訂正された後のものである。
15 ア 請求項1ヒトまたは他の哺乳動物において乾癬を処置するための皮膚用の非水性医薬組成物であって,マキサカルシトールからなる第1の薬理学的活性成分A,およびベタメタゾンまたは薬学的に受容可能なそのエステルからなる第2の薬理学的活性成分B,ならびに少なくとも1つの薬学的に受容可能なキ20 ャリア,溶媒または希釈剤を含む,医薬組成物。
イ 請求項2単相組成物の形態である,請求項1に記載の組成物。
ウ 請求項3軟膏である,請求項2に記載の組成物。
25 エ 請求項4軟膏が,白色ワセリン,パラフィンオイル,ポリエチレンおよび流動パラ3フィン,または微晶質ワックスのような基剤を含む,請求項3に記載の組成物オ 請求項11ヒトの乾癬を処置するための,請求項1〜10のいずれか1項に記載の組5 成物カ 請求項12医学的有効量で1日1回局所適用される,請求項11に記載の組成物? 本件各発明の構成要件本件各発明を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,分説した構10 成要件をそれぞれの符号に従い「構成要件A」のようにいう。。
)ア 本件発明1の構成要件A ヒトまたは他の哺乳動物においてB 乾癬を処置するためのC 皮膚用の15 D 非水性医薬組成物であって,E マキサカルシトールからなる第1の薬理学的活性成分A,およびF ベタメタゾンまたは薬学的に受容可能なそのエステルからなる第2の薬理学的活性成分B,ならびにG 少なくとも1つの薬学的に受容可能なキャリア,溶媒または希釈剤を含20 む,H 医薬組成物。
イ 本件発明2の構成要件I 単相組成物の形態である,J 請求項1に記載の組成物25 ウ 本件発明3の構成要件K 軟膏である,4L 請求項2に記載の組成物エ 本件発明4の構成要件M 軟膏が,白色ワセリン,パラフィンオイル,ポリエチレンおよび流動パラフィン,または微晶質ワックスのような基剤を含む,5 N 請求項3に記載の組成物オ 本件発明11の構成要件O ヒトの乾癬を処置するための,P 請求項1〜10のいずれか1項に記載の組成物カ 本件発明12の構成要件10 Q’ 医学的有効量で1日1回局所適用される,R 請求項11に記載の組成物(5) 被告らの行為被告らは,被告物件を共同開発し,被告中外製薬は,平成27年5月25日,被告物件について,厚生労働大臣に対し,製造販売承認申請を行い,平成2815 年3月28日,製造販売承認を得た。
被告中外製薬は,被告物件の製造販売元であり,被告マルホは,被告物件の販売会社である。
? 被告物件の構成及び構成要件充足性被告物件は,本件各発明の構成要件を充足する。
20 なお,被告物件の構成について,原告は,別紙被告物件説明書記載のとおりであるとし,被告は,上記記載のうち,@被告物件の効能・効果は「尋常性乾癬」であり,「乾癬」全般ではなく,A被告物件の添加物の成分が正確に記載されていないとし,その余の構成は認める。
(7) 本件訂正審決の内容25 本件訂正審決は,本件発明12と乙15(「合成活性型 Vitamin D3,1α,24-hydroxycholecalciferol 外用剤による乾癬の治療」皮膚科紀要84巻3号(15989年))記載の発明(以下「乙15発明」という。)を対比し,両者の相違点を次のとおり認定した(以下,単に「相違点1」などという。)上で,相違点3について当業者が容易に想到できたものとはいえない旨判断した。
ア 相違点15 本件発明12はビタミンD3類似体である第1の薬理学的活性成分Aとしてマキサカルシトールを含有しているのに対して,乙15発明は1α,24-hydroxycholecalciferol(タカルシトールと同義)を含有している点。
イ 相違点2本件発明12は非水性医薬組成物であるのに対し,乙15発明は非水性組10 成物であるか定かではない点。
ウ 相違点3本件発明12は医学的有効量で1日1回局所適用されるものであるのに対し,乙15発明は医学的有効量で1日2回局所適用されるものである点。
2 争点15 本件特許の無効理由の有無であり,具体的には,次のとおりである。
(1) 無効理由1(特許法17条の2第3項違反)の有無(2) 無効理由2(特許法29条2項違反)の有無3 争点に関する当事者の主張(1) 無効理由1(特許法17条の2第3項違反)の有無について20 《被告らの主張》原告は,本件特許出願につき,平成28年1月18日付け手続補正で「ヒトまたは他の哺乳動物において乾癬を処置するための皮膚用の非水性医薬組成物」と下線部分を追加する補正により医薬品組成物の用途の限定を加えたが,これは,原出願の当初明細書及び本件特許出願の当初明細書の各記載事項の範囲内25 の補正ではなく,特許法17条の2第3項補正要件に違反している。したがって,本件特許の請求項1並びにこれに従属する請求項2,3,4,11,162は,いずれも特許法123条1項1号により無効とされるべきものである。
ア 本件特許出願の原出願(特願2000−613441)の出願当初の特許請求の範囲における請求項1は以下のとおりである。
「【請求項1】5 皮膚用の医薬組成物であって,少なくとも1つのビタミンDまたはビタミンD類似体からなる第1の薬理学的活性成分A,および少なくとも1つのコルチコステロイドからなる第2の薬理学的活性成分Bを含む,医薬組成物。」原出願当初明細書に記載されている発明は,当初の請求項1が示すように,10 ビタミンD類似体からなる第1の薬理学的活性成分A,およびコルチコステロイドからなる第2の薬理学的活性成分Bを含む,皮膚用の医薬組成物の発明であり,上記2種類の活性成分を含むことが特徴で,特定のビタミンD類似体に乾癬治療効果があることの発見は原出願当初明細書に記載されていない。
15 原出願当初明細書に「乾癬および関連皮膚障害」の記載があるのは,当初の請求項1の発明の医薬組成物に上記2種類の活性成分が含まれていることによって,単成分の組成物よりも治療上の効果があることを説明するためである。発明に係る上記医薬組成物の効果(2種類の成分の同時適用による効果)を説明する上で,治療の対象となる皮膚疾患の言及が必要である。その20 効果は,特定の皮膚障害の治療効果ではなく,上記医薬組成物に上記第1の活性成分Aと,第2の活性成分Bが含まれ,同時に適用されることによる治療上の効果,すなわち,治療における患者の便宜や,副作用の緩和等である。
したがって,原出願当初明細書で「乾癬および関連皮膚障害」の処置を記載しているのは,特定の活性成分による新規な治療用途の発見の記載ではなく,25 実験によるサポートを必要としない。
イ これに対し,本件補正は,マキサカルシトールとベタメタゾンを含む医薬7組成物の用途が乾癬治療剤であることを発明の特徴とする意図でなされたもので,本件明細書に記載された発明とは全く異なる発明に変質させるものである。
本件特許出願における平成27年5月19日付手続補正書による補正後の5 請求項1の記載は次のとおりであり(乙10),原出願当初明細書の記載の範囲内であった。
「ヒトまたは他の哺乳動物の皮膚用の非水性医薬組成物であって,マキサカルシトールからなる第1の薬理学的活性成分A,およびベタメタゾンまたは薬学的に受容可能なそのエステルからなる第2の薬理学的活性成分B,な10 らびに少なくとも1つの薬学的に受容可能なキャリア,溶媒または希釈剤を含む,医薬組成物。」しかし,平成27年11月19日付(起案日)拒絶理由通知(乙11)を受けて,原告(出願人)は,平成28年1月18日付手続補正(乙12)を行い,特許請求の範囲に「乾癬を処置するため」という文言を追加した。
15 この補正文言は,形式的には,原出願当初明細書に記載されている「乾癬および関連皮膚障害処置」と同じであるが,その実際の内容は全く異なる。
そのことは,原告が同日付意見書(乙13)で,上記補正により,マキサカルシトールとベタメタゾンを含む医薬組成物の用途を限定したと述べ,この補正によって,進歩性欠如の拒絶理由が解消されると主張していることから20 明らかである。
すなわち,原告は,同意見書で,「本願発明にしたがってマキサカルシトールとベタメタゾンを同時使用すると,単独使用した場合との比較において,乾癬に関与するT細胞によるサイトカインIL-17A,IL-22,TNF-αの分泌を相乗的に抑制することができる。この効果は,資料1として添付する実験報告25 書(平成27年11月2日付早期審査に関する事情説明書に資料1として添付したものと同じ)において確認される。」と述べている。つまり,原告は,8補正に係る発明について,2成分の同時使用の特徴だけでなく,乾癬に関与する細胞の試験に基づく,乾癬治療の用途発明の特徴が含まれていると述べているのである。
そもそも,原出願日から15年も後にこのような実験報告書を提出しても,5 原出願当初明細書の記載を補えるはずもないことは明らかである。しかし,原告のこのような意見書は,乙12の手続補正が,原出願明細書と同じ「乾癬を処置する」という文言を用いていても,その意味において,原出願当初明細書の記載内容とまったく異なっていることを明らかに示すものである。
なぜなら,上記のとおり,原出願当初明細書では,実験をすることなく,ビ10 タミンD類似体とコルチコステロイドの2成分を含む医薬組成物が,「乾癬および関連皮膚障害処置」における患者の便宜や,単成分の場合と比較しての副作用の緩和等の効果を奏することを記載しているに過ぎないのに対し,上記意見書は,「乾癬に関与するT細胞によるサイトカインIL-17A,IL-22,TNF-αの分泌」の実験を示して,補正に係る発明を「乾癬を処置するため」15 の用途に限定し,この補正事項によって,進歩性欠如の拒絶理由を解消すると主張しているからである。このように実験に基づいて追加された「乾癬を処置するため」という文言に託された意味内容は,原出願当初明細書に記載されている「乾癬および関連皮膚障害処置」の意味内容と全く異なることは明らかである。
20 したがって,本件補正の「乾癬を処置するため」が,原出願当初明細書の記載事項の範囲内でないことは,乙13の意見書の記載から明らかである。
ウ なお,上記意見書(乙13)では,原告は,上記補正について,「請求項1において,明細書段落0006に基づき,医薬組成物の用途を『乾癬を処置するため』と限定した」と述べている。段落【0006】の記載は次のと25 おりである。
「本発明の課題は,乾癬および爪疾患を含む他の炎症性皮膚疾患を処置する9ための2成分または多成分投薬計画の不都合を改善する皮膚用の医薬組成物を提供することにある。前記組成物の提供により,乾癬患者の大多数,特に非遵守者群(遵守者群よりも乾癬自己評価重症度が高く,若年で,発症年齢が若い)の生活の質を実質的に改善し得る。」5 本件特許の当初明細書は,原出願の当初明細書と実質上同じであるから,段落【0006】に記載の「本発明」は原出願の当初の請求項1の医薬組成物の発明を意味する。この医薬組成物は,ビタミンD類似体からなる第1の薬理学的活性成分A,およびコルチコステロイドからなる第2の薬理学的活性成分Bを含む,皮膚用の医薬組成物である。段落【0006】の「本発明10 の課題」の記載は,段落【0002】〜【0005】の,カルシポトリオールの従来技術の課題をベースに記載されているので,「乾癬患者」の生活の質を改善することが記載されているが,段落【0006】 「本発明の課題」ののポイントは「皮膚疾患を処置するための2成分または多成分投薬計画の不都合を改善する」ことにあり,段落【0006】は,原出願当初明細書の,15 広い範囲のビタミンD類似体およびコルチコステロイドを成分とする医薬組成物が乾癬治療効果を有することを記載しているのではない。
エ なお,原告は,マキサカルシトールとベタメタゾンを活性成分として含む本件各発明の医薬組成物について,ヒト及び哺乳動物における「乾癬を処置するため」の医薬組成物は,具体的には段落【0019】に記載があるとす20 る。
しかし,段落【0019】は,原出願当初明細書の段落【0019】と同じであるが,「本発明」は同段落に明記されているとおり「少なくとも1つのビタミンDまたはビタミンD類似体および少なくとも1つのコルチコステロイドを含」む医薬組成物の発明である。同段落では,単独で使用されたい25 ずれの薬理学的活性成分よりも皮膚疾患の処置において高い有効性を示すことを記載しているが,それは医薬組成物がビタミンD類似体とコルチコステ10ロイドの2成分を含むことによる効果として記載されているものである。同段落では,その皮膚疾患を「ヒトおよび他の哺乳動物における乾癬および他の炎症性皮膚疾患」と表現している。しかし,原出願当初明細書には,カルシポトリオールとベタメタゾンを含む実施例の医薬組成物以外の医薬組成物5 に関しては,実験データの記載はなく,段落【0019】の「乾癬」の記載も実験データによってサポートされているものではない。
これに対して,平成28年1月18日付手続補正及び意見書では,本件各発明の「乾癬を処置するため」の補正文言は,マキサカルシトールとベタメタゾン(及びそのエステル)を活性成分として含む医薬組成物の発明につい10 て,用途を「乾癬を処置するため」に限定したので,進歩性欠如の拒絶理由を解消すると主張しているのであり,段落【0019】の記載は,そのような補正の根拠となるものではない。
《原告の主張》ビタミンD類似体及びステロイド剤並びに両者を含有する医薬組成物が,乾15 癬を処置するための医薬組成物として扱われていることは,原出願及び本件特許の各当初明細書の全体を通じて明らかであるから,本件特許の平成28年1月18日付手続補正における「乾癬を処置するため」との用途限定は,新規事項の追加には当たらず,特許法17条の2第3項補正要件の違反はない。
ア 本件特許の当初明細書(乙9)は,請求項1「皮膚用の医薬組成物であっ20 て,少なくとも1つのビタミンDまたはビタミンD類似体からなる第1の薬理学的活性成分A,および少なくとも1つのコルチコステロイドからなる第2の薬理学的活性成分Bを含む,医薬組成物。 のもと,」 請求項3及び4においてマキサカルシトールをビタミンD類似体の1つとして記載し,請求項5において,「前記ビタミンD類似体は,ヒトおよび他の哺乳動物の乾癬およ25 び関連皮膚障害に有効である,請求項1〜4のいずれか1項に記載の組成物。」と,乾癬を処置する用途を明確に記載している。
11さらに,請求項16において,「ヒトおよび他の哺乳動物の乾癬および関連皮膚障害処置において,前記成分AまたはBの一方のみを含む任意の組成物を使用した場合に達成される効果よりも高い効果を示す,請求項1〜15のいずれか1項に記載の組成物。」として,ビタミンD類似体とコルチコス5 テロイド(以下「ステロイド剤」ともいう。)の双方を含む乾癬を処置する用途の医薬組成物が記載されている。
本件特許の当初明細書には,「乾癬および爪疾患を含む他の炎症性」という記載がある(乙9段落【0006】。すなわち,原出願当初明細書の段落)【0006】には,「乾癬および爪疾患を含む他の炎症性皮膚疾患を処置す10 るための2成分または多成分投与計画の不都合を改善する」と記載されているのである。本件特許の当初明細書が,乾癬を処置することを用途とした医薬組成物を記載していることは明らかである。
したがって,本件特許の審査過程における「乾癬を処置するため」との用途限定の補正は,本件特許の当初明細書に明示的に記載された事項を付加す15 る補正であるから,新規事項を追加する補正には当たらず,適法な補正である。
イ 本件特許の原出願である特願2000−613441の当初明細書(乙14)にも,本件特許の当初明細書と同様の記載がある。
すなわち,請求項1「皮膚用の医薬組成物であって,少なくとも1つのビ20 タミンDまたはビタミンD類似体からなる第1の薬理学的活性成分A,および少なくとも1つのコルチコステロイドからなる第2の薬理学的活性成分Bを含む,医薬組成物。 のもと,」 請求項3及び4においてマキサカルシトールをビタミンD類似体の1つとして記載し,請求項5において,「前記ビタミンD類似体は,ヒトおよび他の哺乳動物の乾癬および関連皮膚障害に有効25 である,請求項1〜4のいずれか1項に記載の組成物。 と,」 乾癬を処置する用途を明確に記載している。
12さらに,請求項16において,「ヒトおよび他の哺乳動物の乾癬および関連皮膚障害処置において,前記成分AまたはBの一方のみを含む任意の組成物を使用した場合に達成される効果よりも高い効果を示す,請求項1〜15のいずれか1項に記載の組成物。」として,ビタミンD類似体とステロイド5 剤の双方を含む乾癬を処置する用途の医薬組成物が記載されている。
したがって,本件特許の審査過程における「乾癬を処置するため」との用途限定の補正は,原出願の当初明細書に明示的に記載された事項を付加する補正でもあるから,本件特許の出願は,適法な分割出願として,原出願の時にしたものとみなされる。
10 (2) 無効理由2(特許法29条2項違反)の有無について《被告らの主張》本件発明1ないし4,11は,乙15発明に,乙16,17記載の発明(以下「乙16発明」などという。)を組み合わせて,また,本件発明12は,これらに加えて,乙24,25記載の発明(以下「乙24発明」などという。)15 を組み合わせて,本件優先日当時の当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件特許は,特許法29条2項,同123条1項2号の規定により,特許無効審判手続により無効とされるべきものである。したがって,原告は,本件特許権を被告らに対して行使できない。
なお,本件の請求原因は,本件発明1ないし4,11及び12に基づくとこ20 ろ,本件特許に係る請求項11は請求項1ないし4の従属項であり,請求項12は請求項11の従属項であるから,本件発明12に進歩性欠如の無効理由が存在することを示せば,無効理由2の主張として十分であるため,以下では,本件発明12についての無効理由2を主張する。
ア 乙15について25 乙15(「合成活性型 Vitamin D3,1α,24-hydroxycholecalciferol 外用剤による乾癬の治療」皮膚科紀要84巻3号(1989年))は,本件優先13日(平成11年4月23日)より前に刊行された(平成元年9月6日大阪大学図書館受入)論文である。
乙15は,ビタミンD類似体からなる第1の薬理学的活性成分A,およびコルチコステロイドからなる第2の薬理学的活性成分Bを含む医薬組成物の5 発明を記載している。すなわち,乙15では,ビタミンD類似体はタカルシトールであり,コルチコステロイドは,ベタメタゾン吉草酸エステルである。
乙15では,タカルシトールの軟膏(2μg/g濃度のTV−02軟膏)とベタメタゾンエステルの軟膏(0.12%BMV軟膏)を等量混合して作製した軟膏(TV−02・BMV)を試験に供している。
10 乙15においては,乾癬の治療剤であるベタメタゾン軟膏とタカルシトール軟膏を同時に塗布することによる相乗効果の検討のために,上記の混合軟膏(TV−02・BMV)を作製し,試験している。その結果,混合軟膏では各成分の濃度が半分になっているが,BMV軟膏単独塗布の効果に匹敵し,かつ,相乗効果として,TV−02軟膏単純塗布における遅効性が改善され,15 また,濃度が半分になることからステロイドの副作用を軽減できることが記載されている。
すなわち,乙15には,乾癬治療剤としてのベタメタゾン軟膏とタカルシトール軟膏を混合した組成物により,乾癬治療効果を維持しながら,タカルシトールの治療効果の遅効性を改善し,ステロイドであるベタメタゾンの副20 作用を軽減するという効果が得られることが記載されている。
イ 本件発明12と乙15発明の対比本件発明12と乙15発明は,相違点1(本件発明12はビタミンD3類似体である第1の薬理学的活性成分Aとしてマキサカルシトールを含有しているのに対して,乙15発明は1α,24-dihydroxycholecalciferol(タカル25 シトールと同義)を含有している点。)及び相違点3(本件発明12は医学的有効量で1日1回局所適用されるものであるのに対し,乙15発明は医学14的有効量で1日2回局所適用されるものである点。)で相違し,他の構成は一致する。
なお,乙15は,タカルシトール軟膏とベタメタゾン軟膏の混合物が非水性であることを実質的に開示しているから,本件訂正審決が認定した相違点5 2(本件発明12は非水性医薬組成物であるのに対し,乙15発明は非水性組成物であるか定かではない点。)は誤りである。
ウ 相違点1について(ア) 乙16(「OCTのウサギにおける経皮投与による胚・胎児発生への影響に関する試験」薬理と治療(Jpn Pharmacol Ther) Vol. 27 Supplement10 ‘99 177-183頁)は,本件優先日より前の平成11年3月30日に頒布された刊行物であり,被告中外製薬のマキサカルシトール軟膏の臨床治験薬の動物実験の結果について記載されている。そして,乙16には,乾癬治療剤として,エタノール及びMiglyol(中鎖脂肪酸トリグリセライド)を加えた白色ワセリンを基剤とするマキサカルシトールの軟膏が開示されてい15 る。
(イ) 乙17(「Novel topical vitamin D3 analogue for psoriasis.」Br.J.Dermatol. (139, Suppl. 51, 56, 1998))は,本件優先日前に刊行された(平成10年8月5日東邦大学医学部図書館受入)BritishJournal of Dermatology(英国皮膚科学雑誌)に掲載された,199820 年(平成10年)7月7−11日開催の英国皮膚科学会の学会報告の抄録で,被告中外製薬のマキサカルシトール軟膏の,第U相の二重盲検無作為化左右比較,濃度反応性臨床試験の結果を報告するものである。そして,乙17は,OCTが,カルシポトリオール及びタカルシトールと比べてインビトロにおけるケラチノサイトの増殖抑制効果が約10倍高25 いこと,1日1回のOCT軟膏の処方が尋常性乾癬の治療に効果的であり,その効果が1日1回のカルシポトリオールよりも高いことを開示し15ているといえる。
(ウ) 上記のとおり,本件優先日当時,乾癬治療剤としてマキサカルシトール軟膏は乙16,17の公知文献に記載されていた。したがって,当業者が,乙15のタカルシトール軟膏に代えて,乙16,17のマキサカルシ5 トール軟膏を用いて,ベタメタゾン軟膏と混合した,乾癬を処置するための非水性医薬組成物の発明を想到することは容易である。
なぜならば,マキサカルシトールも,タカルシトールと同じくビタミンD類似体であり,乙16,17が示すように乾癬治療効果を有する。したがって,乙15,16,17に接する当業者は,マキサカルシトール軟膏10 とベタメタゾン軟膏を混合した軟膏によっても,乙15に記載された,乾癬治療効果を維持しながら,マキサカルシトールの遅効性の改善と,ベタメタゾンによる副作用の軽減の効果が得られることを予想できるからである。乙15で言及されているタカルシトール軟膏単独塗布の遅効性は,軟膏を塗布してから乾癬治療効果が現れるまでに時間を要することであり,15 その原因はビタミンD類似体の作用(細胞の分化誘導能)の現れ方にある。
したがって,タカルシトールと同様,マキサカルシトールにおいても遅効性が予想されるが,効果が現れるまでに時間を要さない(すなわち即効性のある)ベタメタゾンの軟膏との混合軟膏による同時適用で,遅効性の問題が改善されることは乙15から予想される。また,タカルシトール軟膏20 に代えて,マキサカルシトール軟膏をベタメタゾン軟膏との混合に用いる場合でも,混合軟膏中のベタメタゾンの濃度が半分になるから,ステロイドによる副作用の軽減効果は,同じく現れることが予想できる。
(エ) マキサカルシトール軟膏とベタメタゾン軟膏の混合軟膏について,特段の阻害事由は存在しない。すなわち,乙15には,タカルシトールの軟25 膏(2μg/g濃度のTV−02軟膏)とベタメタゾンエステルの軟膏(0.12%BMV軟膏)を等量混合して作製した軟膏(TV−02・BMV)16を試験に供し,表2,表3には,14ないし28日の期間にわたって試験を行ったことが記載されている。したがって,乙15の混合軟膏の安定性に特段の問題がないことは明らかである。また,乙15のタカルシトール軟膏を乙16,17のマキサカルシトール軟膏で置換して,ベタメタゾン5 軟膏と混合しても,その成分に鑑みて,特に混合を妨げる阻害事由は存在しない。
(オ) したがって,乙15に記載されている,タカルシトールの非水性軟膏とベタメタゾンエステルの非水性軟膏を混合した非水性医薬組成物の発明を主引用発明として,乙16,17に記載されているマキサカルシトール10 の非水性軟膏を副引用発明とし,乙15のタカルシトールの非水性軟膏を乙16,17のマキサカルシトール非水性軟膏で置換することにより,相違点1は容易に想到することができる。
エ 相違点2について前記のとおり,本件訂正審決の相違点2の認定は誤りであるが,仮に相違15 点2が存在するとしても,乙16,17を参照して,マキサカルシトールとベタメタゾンを含む乾癬治療の医薬組成物を想到する当業者が,当該医薬組成物を非水性とすることに困難はない。
相違点2は,乙15のタカルシトールとベタメタゾンを含む医薬組成物が,水性(クリーム)であるとするものではなく,非水性であることが記載され20 ていないことによる相違点である。そして,本件優先日当時,市販されていたベタメタゾン吉草酸を有効成分とする軟膏のうち,最も一般的に使用されていたリンデロン−V軟膏及びベトネベート軟膏の基剤はいずれも流動パラフィンと白色ワセリンから成る油脂性基剤であった(乙4,乙22) また,。
乙16には,承認前の非臨床試験において被告中外製薬が使用していたマキ25 サカルシトール軟膏が白色ワセリンを基剤とする,非水性の油脂性基剤であることが記載されている。
17以上によると,本件優先日当時の当業者が,乙15,乙16,乙17に基づいて,マキサカルシトールとベタメタゾンを含む乾癬治療用の医薬組成物を想到するにあたって,当該医薬組成物の基剤を非水性の油脂性基剤とすることに何の困難もない。
5 オ 相違点3について(ア) 相違点3に係る構成は,容易に想到できるものである。
すなわち,本件優先日当時,販売されていた典型的な市販の0.12%ベタメタゾン吉草酸(エステル)軟膏であるリンデロン−V軟膏及びベトネベート軟膏の1日の適用回数は,いずれも,「1〜数回」とされていた(乙10 4,乙22)。すなわち,ベタメタゾン軟膏は,患者の症状によって1日複数回塗布されることもあるが,基本的に1日1回塗布される薬剤である。
一方,乙15において用いられた2μg/gタカルシトール軟膏(TV−02軟膏)は,当時帝人が開発中で,後に市販されたボンアルファ軟膏と同じ1日2回塗布がなされた(甲9)。乙15では,TV−02軟膏の15 治療効果の研究を目的とし,その一部として,TV−02軟膏とステロイド剤軟膏との等量混合物(D3+BMV混合物)の治療効果の実験が行われているので,帝人が開発中のタカルシトール軟膏と同じ1日2回塗布が選択されたと考えられる。
しかし,本件優先日前において,タカルシトール軟膏が1日1回の用法20 で乾癬処置に使用されることも公知であった。すなわち,1998〜1999年(平成10〜11年)版の英国製薬工業協会編集医薬品集(乙24)には,タカルシトール(水和物)を有効成分として含む軟膏(販売名:CURATODERM OINTMENT 4μg/g)が1日1回の用法にて1996年(平成8年)1月に承認され,製造販売されていたことが記載されている。乙225 5(Current Experience with Tacalcitol Ointment in the Treatment ofPsoriasis)は,本件優先日前の1998年(平成10年)に刊行された文18献であり,タカルシトール軟膏(CURATODERM OINTMENT 4μg/g)の1日1回の処置の有効性及び安全性を調査するために実施された市販後調査における臨床試験の結果を開示している。したがって,本件優先日当時の当業者は,タカルシトール軟膏について,1日2回の適用だけでなく,1日5 1回の適用も治療効果および患者のコンプライアンスの観点から選択しうることを知っていた。
一方,マキサカルシトール軟膏については,乙17は,被告中外製薬のマキサカルシトール軟膏の,第U相の二重盲検無作為化左右比較,濃度反応性臨床試験の結果を報告するものであるところ,乙17には「本研究は,10 1日1回のマキサカルシトール軟膏が,尋常性乾癬の管理に効果的であり,25μg/gで最大の効果を示すことを明らかにした」と明記されている。
なお,被告中外製薬が実際に本件優先日後に製品化したマキサカルシトール軟膏(オキサロール軟膏)の用法・用量は,「通常1日2回適量を患部に塗擦する。なお,症状により適宜回数を減じる。 とされている」 (乙3)。
15 以上によれば,当業者は,本件優先日当時,ベタメタゾン吉草酸(エステル)もマキサカルシトールも,乾癬の治療のために1日1回の処置でその治療効果を発揮しうることを認識していた。したがって,当業者には,乙15のD3+BMV混合物において1日2回塗布がされているからといって,マキサカルシトールとベタメタゾンを含む医薬組成物の適用を1日20 2回としなければならないと考える理由は全く存在しない。1日1回とするか,1日2回とするかは,当業者が各活性成分の濃度や患者の症状を考慮して,適宜設定できる用法・用量の選択である。本件発明12において,1日1回の用法を選択したことによって,公知技術から容易に想到される発明が,想到困難な,進歩性のある発明になるものではない。
25 なお,原告は,「乙15は,D3+BMV混合物を1日2回適用した結果,タカルシトールを1日2回適用した結果と比較して,何ら優れた乾癬19治療効果が見られなかったことを示している」と主張し,これを前提に,「この知見に触れた当業者が,適用回数をあえて1日1回に減らして,ビタミンD及びベタメタゾンを含む乾癬治療用の製剤を得る動機づけは全く存しない」と主張する。
5 しかし,前述のとおり,乙15にはD3+BMV混合物の実験データは表3に記載され,D3+BMV混合物と「BMV+Petrol」あるいは「BMV」の比較がされている(原告のいうタカルシトールとの比較ではない。 。
)そして, TV−02軟膏とステロイド軟膏との等量混合による治療は各々「の濃度を半分に下げることにはなるが,その効果は0.12%10 betamethasone軟膏単独塗布の効果に匹敵するものであるだけではなく,TV−02軟膏単独塗布の遅効性も混合することによって改善することができた」とD3+BMV混合物の優れた効果が記載されている。乙15におけるD3+BMV混合物の1日2回の処置回数は,実験結果の比較のために,2μg/gタカルシトール軟膏(TV−02軟膏)の定められた用法15 である1日2回の処置回数と同条件にしていると解される。しかし,乙15のタカルシトールを乙17のマキサカルシトールで置換する場合,既存の薬剤との比較実験を目的とした条件設定を行う必要はなく,その濃度も適宜設定可能である。有効成分濃度の設定によって,1日1回の用法が可能で,患者のコンプライアンスにとっても良好であることは,乙24及び20 25に記載の4μg/gタカルシトール軟膏の用法から当業者にとって明らかである。したがって,マキサカルシトールとベタメタゾンを含有する医薬組成物の用法の設定において,乙15の1日2回に拘束される理由はなく,1日1回の用法も適宜選択可能である。
(イ) 相違点3に係る効果についても,本件明細書には,1日1回の適用に25 よる効果について,特に1日2回の適用との比較における記載はない。
「ビタミンD及びベタメタゾンを含む医薬組成物を1日1回適用する場20合」と「ビタミンDを含む製剤及びベタメタゾンを含む製剤を交互に1日2回適用する場合」を比べた乾癬治療効果は,実験によって初めて認識されうることであるが,本件明細書には,マキサカルシトールとベタメタゾンの組み合わせについて,上記の効果の比較を確認する実験結果は記載さ5 れていない。
また,本件発明12の「1日1回」は,両成分を含む合剤の1日1回適用と,各成分の単剤を交互に1日2回適用との比較実験で導き出されるものでもない。本件発明12は,合剤を1日1回適用するか,1日2回適用するかの選択である。本件発明12は,単に「1日1回または2回局所適10 用される」から「1日1回局所適用される」を選択的に限定したに過ぎない。
これに対して,前述のように,乙15と乙17の公知技術においても,マキサカルシトールとベタメタゾンを含有する組成物について,1日2回適用でなければならないとする必然性はない。また,1日1回の適用によ15 り「患者の適用遵守が期待され」ることは,乙25の記載によるまでもなく,当業者にとって周知事項である。したがって,医薬組成物の用法として,1日1回適用も1日2回適用も適宜選択しうる。
《原告の主張》本件発明12と乙15発明とを対比すると相違点1ないし3が存在するとこ20 ろ,各相違点に係る本件発明12の構成について,当業者が乙15発明から容易に想到できたということはできない。
ア 乙15について(ア) 乙15はビタミンD及びベタメタゾンを含む製剤を開示していないこと乙15は,外来に通院する患者に対するステロイドホルモン剤の外用療法25 による副作用などの問題点に対して,活性型ビタミンD3の外用療法を行い,その結果及び検討内容を記載した論文である(乙15「はじめに」。
)21乙15における外用療法の観察は,外来に通院する乾癬患者に対し,毎日,1日2回,最長28日間(乙15「対象と方法」2及び表1ないし3の「期間」)にわたって,@TV−02軟膏(すなわちタカルシトール軟膏),ABMV軟膏(すなわちベタメタゾン吉草酸エステル軟膏),Bタカルシトール5 軟膏とベタメタゾン吉草酸エステル軟膏の混合物(以下「D3+BMV混合物」ともいう。)及びCベタメタゾン吉草酸エステル軟膏とワセリンの混合物(以下,これら@〜Cの軟膏及び混合物を総称して「軟膏・混合物等」ともいう。)をそれぞれ塗布し,乾癬の治療効果を観察したものである。
軟膏・混合物等の実際の塗布の方式は不明であるが,仮に,軟膏・混合物10 等が,毎日2回,病院において塗布されたとして,そのうち,D3+BMV混合物が,塗布の都度,タカルシトール軟膏とベタメタゾン吉草酸エステル軟膏を混合することにより作成され,患者に塗布されたのだとすれば,単に2種類の製剤をその場で混合して塗布するという治療が行われたに留まり,ビタミンD及びベタメタゾンの双方を含む製剤が開示されたとはいえない。
15 (イ) 乙15は医薬組成物を開示しないこと仮に,D3+BMV混合物がビタミンD及びベタメタゾンの双方を含むとしても,乙15は,タカルシトール軟膏及びベタメタゾン吉草酸エステル軟膏のそれぞれの組成を開示していない。したがって,D3+BMV混合物が,仮に,タカルシトール軟膏とベタメタゾン吉草酸エステル軟膏を予め混合し20 た混合物であって,病院において保管し又は患者が受け取りこれを保管し,その混合物を毎日2回,病院又は病院外において塗布するという態様で患者に塗布されていたのだとしても,当該D3+BMVがどのような成分からなる組成物であるのかを当業者は知ることができない。よって,乙15は,医薬組成物を開示したとは認められない。
25 (ウ) 乙15において軟膏・混合物等の保存状態が不明であることそもそも,乙15において,軟膏・混合物等がどのように保管され,いつ22混合を行い,どこで患者に塗布されたのかということは不明である。
タカルシトールを含む製剤については,現在,帝人ファーマ株式会社が,「ボンアルファ軟膏」「ボンアルファクリーム」及び「ボンアルファローション」,として製造販売している。そのインタビューフォーム(甲9)によると,タカ5 ルシトールは光によって分解する性状を有し(同4頁1(1),曝光試験の結)果(同5頁の表) 密栓・室温・室内散光下で,, 6か月で含量が20.6〜22.2%も低下したとされる。このように,タカルシトールは,単独でも,光に対して不安定な性質を有する物質であるから,その保存条件には細心の注意が必要である。
10 しかるに,乙15においては,タカルシトール軟膏についても,D3+BMV混合物についても,どのように保存されていたのかが全く不明である。したがって,乙15においては,D3+BMV混合物が患者に塗布された時点において,既にタカルシトールが分解していた可能性を否定できない。
すなわち,乙15において,D3+BMV混合物の乾癬治療効果を検討した15 といっても,患者に塗布された時点で何の物質がどのような割合で含まれた混合物の乾癬治療効果を検討したのかが全く不明である。
(エ) 乙15が対象とした患者数が少ないこと乙15において,D3+BMV混合物を患者に塗布したのは,症例20ないし26の7例であり,さらに,比較対象と何らかの差が生じたのは症例22及20 び23の2例のみである(しかも,比較対象は,単剤ではなく,ベタメタゾン吉草酸エステル軟膏とワセリンの混合物である)。このような極めて少ない患者に対する処置結果をもとにして乾癬治療効果を議論することはできない。
(オ) 乾癬治療効果の相違上記(ア)ないし(エ)に述べたとおり,乙15が乾癬治療効果を議論するに足25 りる試験を実施したとはいえない。仮に,乙15が乾癬治療効果を開示しているとしても,D3+BMV混合物の乾癬治療効果は,ベタメタゾン吉草酸エス23テル軟膏と同等の効果が得られたといえるに留まり,本件発明12のような顕著な乾癬治療効果は全く見られない。
イ 相違点1について(ア) 動機づけのないこと(構成の想到非容易性)5 乙15には,タカルシトール軟膏とベタメタゾン吉草酸エステル軟膏の混合物が記載されているが,たとえ当該混合物が知られていたとしても,本件発明12の「医薬組成物」となすことを動機づけられたとはいえない。
すなわち,乙15において,D3+BMV混合物の適用が,ビタミンD又はベタメタゾン単体の適用に比べて優れた乾癬治療効果を発揮したとは読み取10 れないのであるから,当業者には,ビタミンDとしてタカルシトールを用いるか,マキサカルシトールを用いるかを問わず,ビタミンD及びベタメタゾンの双方を含む製剤を開発する動機づけは存在しなかった。また,乙15のD3+BMV混合物は,マキサカルシトールを含んでいなかったばかりか,乙15にマキサカルシトールについての言及は何らなく,乙15に接した当業者が,マ15 キサカルシトールとベタメタゾンの双方を含む医薬組成物の発明に想到する動機づけは認められない。
また,本件明細書の「比較軟膏」のように非水性の軟膏であってもビタミンDの安定性は低いから,仮に,非水性の軟膏とすることを前提としても,当業者はそのような処方物である本件発明12の「医薬組成物」を得ることの動機20 づけがなかった。すなわち,乙15は,臨床医によるビタミンD及びベタメタゾンの併用治療を記載しているのみであり,医薬品の開発に関するものではない。本件明細書(甲2)段落【0004】に記載のとおり,本件特許の優先日当時,ビタミンD及びベタメタゾンを安定的に配合することが困難であるという当業者の技術常識が前提にあったのだから,ビタミンD及びベタメタゾンを25 1つの処方物中に配合することによる格別顕著な効果を認識していない当業者は,これらを配合して医薬組成物を得る動機づけを持たなかった。
24上記のとおり,当業者は,非水性のビタミンDとベタメタゾンを含む「医薬組成物」を得ることについて動機づけられたものではないので,当該組成物を乾癬の治療に用いるとの本件特許に係る医薬用途発明の構成を,容易に想到できたものとはいえない。
5 なお,被告らは,本件明細書の「比較軟膏」につき,それが不安定であったのは当該軟膏に配合されたラノリンによるものとしつつ(ラノリンが解離して生成した脂肪酸により組成物が酸性状態となり,カルシポトリオールの分解を招いたとする。,) あたかもラノリンを含まない軟膏であればカルシポトリオールは安定であるかのように主張する。しかし,ラノリンは羊脂を弱アルカリで10 「けん化」することにより製造されるため,平易にいえば,ラノリンは既に「中和」された状態になっているので,仮にそれが解離したとしても,もはや軟膏を酸性状態にすることはない。したがって,被告らの上記主張は誤りである。
(イ) 効果の顕著性本件各発明は,ビタミンD(具体的にはマキサカルシトールとして特定され15 る。)からなる第1の薬理学的活性成分Aと,ベタメタゾンからなる第2の薬理学的活性成分Bの組合せを乾癬治療に用いるという医薬用途発明に係るものであるところ,それらの薬理学的活性成分Aと薬理学的活性成分Bの組合せが,当業者の予期せぬ格別顕著な乾癬治療効果を奏することを見出したことを要旨とするものであるから,本件各発明の進歩性は当該観点から論じられるべ20 きものである。
しかるところ,本件明細書には,本件各発明の奏する上記のような格別顕著な乾癬治療効果として,段落【0028】【0029】の記載がある。
また,本件明細書には,ビタミンDであるカルシポトリオール及びベタメタゾンジプロピオネートを含む本件各発明の医薬組成物を使用した際の乾癬の25 治療効果は,その一方を単体で使用した際の効果に比べて顕著に優れていたことが示されている(【図1】等)。
25さらに,本件特許出願の当初明細書(乙9)の特許請求の範囲【請求項16】や本件明細書段落【0021】の記載を総合すると,本件明細書には,本件発明12の「医薬組成物」又は医薬用途発明につき,少なくとも,2種類の製剤を処方するのに比べて1つだけの製剤を処方する場合の処置指示はより単純5 になるので患者の適用遵守が改善されること,そして,その際にも従来の治療方法では達成できなかった優れた効果,とりわけ,従来の2種類の製剤を交互に使用する場合に比べてさえ優れた治療効果が得られることが記載されているといえる。
この点,実際に,最も単純な使用方法である,ビタミンD及びベタメタゾン10 を含む医薬組成物の1日1回の使用は,ビタミンDとベタメタゾンを交互に朝夕使用する場合に比べてさえ,乾癬治療の効果が優れていることが確認されている。
すなわち,同治療効果についてさらに詳細に検討した論文である甲10は,カルシポトリールとベタメタゾンジプロピオネートを含む製剤であるTCF15 が,カルシポトリオール又はベタメタゾンジプロピオネートを単体で用いた場合よりも効果が優れていたことのみならず,カルシポトリオールとベタメタゾンプロピオネートを1日1回ずつ別々に用いた場合と比較しても効果が優れていたことを示している(Figure 3ないし7)。
これに対して,乙15の表3において,D3+BMV混合物による治療効果20 が,タカルシトール又はベタメタゾン吉草酸エステルの一方を使用した場合の治療効果と比較して,優れていたということを示す結果は見られない(症例24ないし26は両者が同等であったことを示している)。
してみれば,本件発明12のビタミンD及びベタメタゾンを含む医薬組成物は,ビタミンDとベタメタゾンを交互に使用する場合に比べてさえ,乾癬治療25 の効果が優れていること,とりわけ,本件発明12に係る医薬組成物では1日1回の使用でも,従来の各製剤の交互使用に比べても乾癬治療の効果が優れて26いることは,当業者が当然に予測できなかった格別顕著なものである。
ウ 相違点2について乙15のD3+BMV混合物は,非水性であるか否かは明らかでなく,乙15において,非水性の混合物を選択する必然性は何ら述べられていない。したがっ5 て,乙15に開示されている情報を前提としても,当業者には,ビタミンD及びベタメタゾンを含む,非水性の製剤を開発する動機づけは存在しなかった。
エ 相違点3について(ア) 1日1回適用とする動機づけのないこと乙15は,D3+BMV混合物を1日2回適用した結果,タカルシトール又10 はベタメタゾン単剤を1日2回適用した結果と比較して,何ら優れた乾癬治療効果が見られなかったことを示している。この知見に触れた当業者が,適用回数をあえて1日1回に減らして,ビタミンD及びベタメタゾンを含む乾癬治療用の製剤を得る動機づけは全く存しないから,当該組成物の構成を容易に想到できたものとはいえない。すなわち,乙15のD3+BMV混合物の1日2回15 塗布による乾癬治療結果が,ベタメタゾン吉草酸エステル軟膏を1日2回塗布した場合に達していない(ベタメタゾン吉草酸エステルの濃度を半分にしても,元の濃度のベタメタゾン吉草酸エステルと同等の効果が得られたに過ぎない)のに,1日1回の塗布にすることで十分な治療効果が得られるとは,当業者は考えない(そもそも,乙15には,塗布回数を1回とすることについて何らの20 記載も示唆もない)。
(イ) 本件明細書が開示するマキサカルシトールとベタメタゾンを含む乾癬治療用医薬組成物の1日1回適用の効果について,乙15,16及び17に開示がないことまた,前記のとおり,ビタミンD及びベタメタゾンを含む医薬組成物を1日25 1回適用することにより,ビタミンDを含む製剤及びベタメタゾンを含む製剤を交互に1日2回適用する場合に比べても優れた乾癬治療効果が得られる上,27適用回数を1日1回とすることで,処置指示はさらに単純で,かつ,患者の適用遵守はより期待されるのであるから,1日1回適用することによる,乾癬治療効果の顕著性は大きい。
本件明細書の段落【0028】【0029】の記載は,2剤を1日1回ずつ交5 互適用する場合には患者の治療計画非遵守の問題があったが,1剤とすることにより適用遵守が改善されることを述べている。しかし,乙15,16及び17には,このことは一切記載も示唆もされていない。
本件訂正審決が認定したとおり,本件発明12は,ビタミンD類似体であるマキサカルシトールおよび局所用ステロイドであるベタメタゾンまたは薬学10 的に受容可能なそのエステルの両方を含みながらも,安定処方可能で,しかも,1日1回投与により,乾癬患者の大多数,特に非遵守者群の生活の質を実質的に改善し得る,医薬組成物を提供し得たという効果を奏し得たものであり,このような効果は,乙15ないし17の記載からは当業者といえども予測し得たものとはいえない。
15 第3 争点に対する判断1 無効理由2(特許法29条2項違反)の有無について事案に鑑み,無効理由2の有無から判断する。
(1) 乙15の記載内容本件優先日以前に頒布された刊行物である乙15「合成活性型 Vitamin D3,(20 1α,24-hydroxycholecalciferol 外用剤による乾癬の治療」皮膚科紀要84巻3号(1989年))には,以下の記載がある。
ア 431頁左欄12〜24行(「はじめに」)「外来に通院する患者に対しては専らステロイドホルモン剤の外用療法が行われているのが現状であるが,長期にわたるステロイド外用療法には副作25 用など問題点も多い。
近年乾癬の治療法として活性型vitamin D3の外用療法が注目されている。活28性型ビタミンD3の類縁体である1α,24-dihydroxycholecalciferol (TV−02)は合成された活性型ビタミンD3であり,カルシウム代謝などにおける活性は生体でできる1,25-dihydroxyvitamin D3に匹敵し, 1α-OH-vitaminD3よりも毒性が低い。今回乾癬に対してTV−02の外用療法を行ったので5 報告する。」イ 431頁左欄26〜30行(「対象と方法」)「1.対象とした患者数は全部で,26人,いずれも皮疹学的には中等度から重症のものを対象とした。使用したTV−02軟膏はワセリン基剤で,帝人より1, 2, 4μg/g濃度の3種類の供給を受けた。」10 ウ 431頁右欄13行〜432頁左欄5行(「対象と方法」)「 4. TV−02軟膏とBMV軟膏の相乗効果の検討:7人(男5,女2)を対象にして相乗効果を検討した。この内4例においては2μg/g濃度のTV−02軟膏と0.12%BMV軟膏を等量混合したもの(TV−02・BMV)と0.12%BMV軟膏とワセリンを等量混合したもの(BMV・P)を左右対称15 性に1日2回単純塗布をして,その効果を比較した。残り3例ではTV−02・BMVと0.12%BMV軟膏そのものを比較した。皮疹改善は前二者の場合と同様のスコアーで表示した。」エ 433頁右欄3〜12行(「結果」)「 TV−02軟膏の遅行性の改善を目的として,TV−02軟膏と0.12%20 のBMV軟膏の相乗効果について検討した(表3) BMV軟膏単独塗布部と。
TV−02・BMV 塗布部の間には効果発現および有効性に差はなく,TV−02軟膏単独塗布における遅効性がBMV軟膏を加えることによって改善されることがわかった。また,BMV・ワセリン塗布部での皮疹の改善程度がTV−02・BMV塗布部より若干低い傾向がうかがわれた。」25 オ 434頁右欄6行〜435頁左欄8行(「考案」)「TV−02軟膏とステロイド軟膏との等量混合による治療は各々の濃度29を半分に下げることになるが,その効果は0.12%betamethasone軟膏単独塗布の効果に匹敵するものであるだけではなく,TV−02軟膏単独塗布の遅効性も混合することによって改善することができた。また,濃度が半分になることからステロイド外用による副作用の軽減にも役立つものと思われる。」5 カ 表31015(2) 本件発明12と乙15発明の対比上記各記載によれば,乙15には,「ヒトにおいて乾癬を処置するために皮膚に塗布するための混合物であって,1α,24-dihydroxycholecalciferol(タ20 カルシトール),及びBMV(ベタメタゾン吉草酸エステル),並びにワセリンとを含有する非水性混合物であり,皮膚に1日2回塗布するもの」が記載されていると認められる。
そして,本件発明12と上記の乙15発明とを対比すると,両発明は,「ヒトの乾癬を処置するための皮膚用の医薬組成物であって,ビタミンD3の類似25 体からなる第1の薬理学的活性成分A,及びベタメタゾンまたは薬学的に受容可能なそのエステルからなる第2の薬理学的活性成分B,並びに少なくとも130つの薬学的に受容可能なキャリア,溶媒または希釈剤を含む,非水性医薬組成物であり,医学的有効量で局所適用されるもの」で一致し,前記第2,1(7)記載の相違点1及び3において相違すると認められる(なお,相違点1及び3の存在については,当事者間に争いがない。)。
5 なお,原告は,相違点2(本件発明12は非水性医薬組成物であるのに対し,乙15発明は非水性組成物であるか定かではない点。)の存在を主張するが,以下の理由により,相違点2の存在は認められない。
すなわち,乙15にはTV−02軟膏についてはワセリン基剤であることが記載されている。軟膏は基剤に活性成分を混合分散させたものといえるが,ワ10 セリンは油脂性基剤であって,混和性の点から,ワセリンと水が併用されることは考えにくい。また,乙15では,TV−02軟膏塗布と白色ワセリン塗布とが比較され(432頁),D3+BMV混合物塗布とBMV+ワセリン混合物塗布とが比較されており(431頁,433頁),通常,比較においては,活性成分以外の条件は揃えるから,TV−02の基剤はワセリンであると考え15 られる。そうすると,TV−02軟膏に,水は基剤として添加されていないと考えるのが自然であるし,TV−02軟膏と混合するBMV軟膏についても,混和性の点から,油脂性基剤が使用され,水は基剤として添加されてはいないと考えるのが妥当である。したがって,乙15発明に係るTV−02軟膏とBMV軟膏の混合物(D3+BMV混合物)についても,水が基剤として添加さ20 れていないものと理解される(なお,仮に,相違点2を一応認定するとしても,それは実質的なものとはいえないから,当業者であれば,相違点2に係る構成は容易に想到できるものといえる。)。
(3) 相違点1に係る容易想到性についてア 相違点1に係る動機付けについて25 (ア) 乙16の記載事項本件優先日以前(平成11年3月30日)に頒布された刊行物である乙3116(「OCTのウサギにおける経皮投与による胚・胎児発生への影響に関する試験」薬理と治療(Jpn Pharmacol Ther) Vol. 27 Supplement ‘99177-183頁)における以下の記載(177頁左欄1〜15行)によれば,乙16には,乾癬治療剤として,エタノール及びMiglyol(中鎖脂肪酸トリグ5 リセライド)を加えた白色ワセリンを基剤とするマキサカルシトールの軟膏が開示されている(なお,Fig.1には,マキサカルシトールの構造が示されているから,OCTは,マキサカルシトールの略称である。)と認められる。
「 はじめに10 OCTは,乾癬治療剤として,中外製薬(株)で開発中の化合物である。
今回安全性評価の一環として,ウサギを用いて胚・胎児発生への影響に関する試験を行ったので,その成績を報告する。
I 実験材料および方法1 被験物質15 OCTは Fig.1 に示す構造を有する物質である。CP PharmaceuticalsLimited (United Kingdom)にて製造され,エタノール(0.01%)およびMiglyol(3%)を加えた白色ワセリンを基剤として,OCTをそれぞれ0,2,6 および 20μg/g含有する軟膏製剤(Lot No. 0μg/g:9691,2μg/g:10852, 6μg/g:10864, 20μg/g:9748)である。なお,20 製剤の保存は室温で行った。」(イ) 乙17の記載事項本件優先日以前に頒布された刊行物である「British Journal ofDermatology(英国皮膚科学雑誌)」に掲載された乙17(「Noveltopical vitamin D3 analogue for psoriasis.」 Br.J.Dermatol. (139,25 Suppl. 51, 56, 1998))における以下の記載によれば,乙17には,OCTが,カルシポトリオール及びタカルシトールと比べてインビトロ32におけるケラチノサイトの増殖抑制効果が約10倍高いこと,1日1回のOCT軟膏の処方が尋常性乾癬の治療に効果的であり,その効果が1日1回のカルシポトリオールよりも効果が高いことが開示されていると認められる。
5 「1α,25-dihydroxy-22-oxacalciferol(OCT)は,カルシポトリオール及びタカルシトールと比べて,インビトロにおけるケラチノサイトの増殖抑制効果が約10倍高いビタミンD3類似体である。臨床効果を決定するため,軽度から中等度の慢性の尋常性乾癬の患者に1日1回OCTを処方する第U相,二重盲検無作為化,左右比較,濃度反応性臨床試験を実施し10 た。主要な効果パラメーターは,紅斑,鱗屑及び硬化の指数の合計並びに医師による治療8週目の時点での治療に対する総合評価に基づくPSI(psoriasis severity index)を用いた。
144名の患者が参加した。OCT軟膏(6, 12.5, 25及び50μg/g)の全ての濃度においてPSIの低下に対してプラセボよりも顕著な効15 果を示したが,25μg/gで最大の効果を示した。陽性対照のカルシポトリオール軟膏(50μg/g)1日1回は同程度の効果を示した。乾癬の顕著な改善又は略治した割合は,OCT25μg/gの処方で最も多く(被験者の54.7%),カルシポトリオールの処方(46.1%)に優っていた。試験期間を通じて改善効果が持続し,8週目に停滞期に達することはなかった。
20 医師及び患者による副次的嗜好(二次的効果パラメーター)はOCTの評価はプラセボよりも高く,カルシポトリオールよりもOCT25μg/gの方が優っていた(医師の評価についてp<0.05)。12名の患者が副作用のため治療を中止し,うち4名は薬物治療によるものと判断された。
本研究は,1日1回のOCT軟膏が,尋常性乾癬の管理に効果的であり,25 25μg/gで最大の効果を示すことを明らかにした。8週目の時点で応答停滞がなかったことから,更に治療を継続すれば更なる改善がみられるか33もしれないことが示唆された。最後に,医師の総合評価及び副次的嗜好は,OCT25μg/gが1日1回のカルシポトリオールよりも効果が高いことを示した。」(ウ) 構成の容易想到性5 a 前記のとおり,乙15発明は,「ヒトにおいて乾癬を処置するために皮膚に塗布するための混合物であって,1α,24-dihydroxycholecalciferol(タカルシトール),およびBMV(ベタメタゾン吉草酸エステル),ならびにワセリンとを含有する非水性混合物であり,皮膚に1日2回塗布するもの」というものである。
10 そして,乙16及び17に開示されているように,本件優先日において,乾癬治療剤としてのマキサカルシトールの軟膏が既に知られていたのであるから,当業者であれば,乾癬を処置するための混合物である乙15発明において,ビタミンD3の類似体からなるタカルシトールに代えて,同じくビタミンD3の類似体からなるマキサカルシトールを使用15 する程度のことは,容易に想到できることというべきである。
b これに対し,原告は,「乙15において,D3+BMV混合物の適用が,ビタミンD又はベタメタゾン単体の適用に比べて優れた乾癬治療効果を発揮したとは読み取れないのであるから,当業者には,ビタミンDとしてタカルシトールを用いるか,マキサカルシトールを用いるかを問20 わず,ビタミンD及びベタメタゾンの双方を含む製剤を開発する動機づけは存在しなかった」と主張する。
しかしながら,そもそも,既に乙15において,乾癬を処置するためのD3+BMV混合物が開示されている以上,当業者であれば,乾癬を処置するためのD3+BMV混合物からなる製剤の開発を試みることは25 容易に行い得ることというべきである。
また,乙15には,前記のとおり,1日2回塗布の場合における「T34V−02軟膏とBMV軟膏の相乗効果」について,「BMV軟膏単独塗布部とTV−02 BMV 塗布部の間には効果発現および有効性に差は・なく,TV−02軟膏単独塗布における遅効性がBMV軟膏を加えることによって改善されることがわかった。また,BMV・ワセリン塗布部5 での皮疹の改善程度がTV−02・BMV塗布部より若干低い傾向がうかがわれた。」,「TV−02軟膏とステロイド軟膏との等量混合による治療は各々の濃度を半分に下げることになるが,その効果は0.12%betamethasone軟膏単独塗布の効果に匹敵するものであるだけではなく,TV−02軟膏単独塗布の遅効性も混合することによって改善することが10 できた。また,濃度が半分になることからステロイド外用による副作用の軽減にも役立つものと思われる。」と記載されており,これらの記載によれば,乙15には,1日2回塗布の場合において,D3+BMV混合物が乾癬治療効果を有し,TV−02軟膏やBMV軟膏の単独適用に対してD3+BMV混合物適用がメリットを有することが開示されてい15 る。
したがって,原告の上記主張は採用できない。
c また,原告は,「乙15のD3+BMV混合物は,マキサカルシトールを含んでいなかったばかりか,乙15にマキサカルシトールについての言及は何らなく,乙15に接した当業者が,マキサカルシトールとベ20 タメタゾンの双方を含む医薬組成物の発明に想到する動機づけは認められない」と主張する。しかしながら,上記のとおり,乙16及び17には「乾癬治療剤としてのビタミンD3の類似体であるマキサカルシトールの軟膏」が開示されているのであるから,そうであれば,乙15に接した当業者が,乙15発明におけるタカルシトールに代えて,同じくビ25 タミンD3の類似体からなるマキサカルシトールを使用する動機付けはあるというべきであるから,原告の上記主張も採用できない。
35d さらに,原告は,「乙15は,臨床医によるビタミンD及びベタメタゾンの併用治療を記載しているのみであり,医薬品の開発に関するものではないところ,本件明細書記載のとおり,本件優先日当時,ビタミンD及びベタメタゾンを安定的に配合することが困難であるという当業者5 の技術常識があったのだから,ビタミンD及びベタメタゾンを1つの処方物中に配合することによる格別顕著な効果を認識していない当業者は,これらを配合して医薬組成物を得る動機づけを持たなかった」と主張する。しかしながら,そもそも,本件発明12(本件発明1)は,「医薬組成物」(構成要件H)と規定する以上に,特に安定性に係る構成は含10 まれていないところ,上記のとおり,乙15発明は,ビタミンD及びベタメタゾンを1つの処方物中に配合した医薬組成物であるから,当業者であれば,そのような医薬組成物を得る動機付けを当然に有したはずであって,原告の上記主張も採用できない。
イ 相違点1に係る顕著な作用効果について15 原告は,本件発明12は,ビタミンD(マキサカルシトール)からなる第1の薬理学的活性成分Aと,ベタメタゾンからなる第2の薬理学的活性成分Bの組合せにより,当業者の予期せぬ格別顕著な乾癬治療効果を有するものであると主張するので,この点について検討する。
(ア) 本件明細書における治療効果の記載20 原告の主張に係る作用効果,すなわち,マキサカルシトールとベタメタゾンの組合せによる乾癬治療効果に関して,本件明細書には,以下の記載がある。
a 【発明が解決しようとする課題】「【0006】25 したがって,本発明の課題は,乾癬および爪疾患を含む他の炎症性皮膚疾患を処置するための 2 成分または多成分投薬計画の不都合を軽減36する皮膚用の医薬組成物を提供することにある。前記組成物の提供により,乾癬患者の大多数,特に非遵守者群(遵守者群よりも乾癬自己評価重症度が高く,若年で,発症年齢が若い)の生活の質を実質的に改善し得る。」5 b 【課題を解決するための手段】「【0007】上記の問題を解決するために,本発明は,少なくとも1つのビタミン Dまたはビタミン D 類似体からなる第 1 の薬理学的活性成分 A,および少なくとも 1 つのコルチコステロイドからなる第 2 の薬理学的活性成分 B10 を含む,皮膚用の医薬組成物を提供する。」「【0019】さらに,本発明は,少なくとも 1 つのビタミン D またはビタミン D 類似体および少なくとも 1 つのコルチコステロイドを含み,単独で使用されたいずれの薬理学的活性成分よりもヒトおよび他の哺乳動物にお15 ける乾癬および他の炎症性皮膚疾患の処置に高い有効性を示す皮膚用医薬組成物に関する。この有効性を,乾癬および関連皮膚疾患(皮脂性乾癬および脂漏性皮膚炎など)における PASI スコアの変化率として測定することが好ましい。」c 【図面の簡単な説明】20 「【0021】【図1】図 1 は,カルシポトリオール水和物(52.2μg/g)およびベタメタゾンジプロピオネート(0.643mg/g)を含む本発明の製剤の有効性を,同一の賦形剤中にカルシポトリオール水和物(52.2μg/g)のみを含む製剤の有効性およびベタメタゾンジプロピオネート25 (0.643mg/g)のみを含む製剤の有効性と比較した 4 週間の臨床試験で得られた PASI スコアの変化率を示すグラフである。図 1 は,本発明の37製剤の有効性が 2 つの単一成分製剤から得られる有効性よりもはるかに高いことを示す。このような PASI スコアの変化からわかるように,本発明の製剤で処置した患者群においては,カルシポトリオールまたはベタメタゾンのいずれか一方を含む市販の製剤での処置またはこのよう5 な市販の製剤での交互処置によって現在まで達成できなかった(cf.)効果的な乾癬処置が達成され,すなわち,同一製剤中に 2 つの活性成分を有することの利点が示されている(EOT=処置の終了)」。
d 【発明を実施するための形態】「【0028】10 本発明の組成物は,先行技術の単一化合物療法または併用療法と比較して,皮膚疾患(乾癬,皮脂性乾癬,および関連疾患など)の処置において以下の処置利点を提供する:・臨床試験により,カルシポトリオールおよびベタメタゾンを含む本発明の組成物での乾癬患者の治療により,1 つのみの活性化合物で治療し15 た患者よりもより早い治癒開始およびより有効な斑治癒が得られることが示された。
・ビタミン D 類似体と局所用ステロイドとを組み合わせた組成物により,活性物質の直接的処置価とは別に,患者に対するさらなる利点の形態での相乗効果が得られる。カルシポトリオールなどのビタミン D 類似体の20 皮膚刺激副作用がベタメタゾンなどのステロイドの乾癬皮膚への同時適用によって緩和されることが示され,これは,製剤の不適合性により罹患した皮膚にビタミン D 類似体およびステロイドを同時適用することができない 2 成分または多成分治療計画では達成できない効果である。
ビタミン D 類似体および局所用ステロイドの両方を乾癬の併用処置に使25 用する場合,これまでは個別に適用(典型的には,一方を朝に他方を夕方に適用)する必要があったので,これら 2 種の活性化合物の相乗作用38を得ることは不可能であった(…)。あるいは 2 成分投薬計画についてある程度の相乗効果(より少ない皮膚刺激)が報告されている場合もあるが(…),実質的な割合の乾癬患者は治療計画非遵守の故にその恩恵を受け得ない。
5 【0029】・乾癬などの皮膚障害の満足な薬物療法を本発明の組成物を使用してより短期間で達成することができ,それ故,ステロイドによる副作用(皮膚萎縮およびリバウンドなど)も低減する。さらに,より穏やかな作用のステロイド第 I 群(現在乾癬処置用に投与されていないヒドロコルチ10 ゾンなど)でさえもカルシポトリオール処置に伴う皮膚刺激の緩和または消滅に有効であり得ることを認識することができる。
・したがって,活性化合物の副作用の低減により,処置耐性が顕著に改良され得る。
・1 つの製剤を必要とする場合は処置指示はより単純になるので,患者15 の適用遵守が改善され,さらにより多数の乾癬患者の有効な治療が可能になる。
・1 つの製剤を必要とする場合は処置指示はより単純になるので,患者の安全性が改善される。」e【図1】39(イ) 顕著な効果の開示の有無についてしかしながら,これらに記載されている効果は,以下に個別に検討するとおり,当業者が予測し得ない格別顕著な効果とは認められない。
5 a 治療効果について本件明細書には,「1つのみの活性化合物で治療した患者よりもより早い治癒開始およびより有効な斑治癒が得られる」ことが記載されている(【0028】 ところ,) 「より早い治癒開始」については,乙15には,「TV−02軟膏とステロイド軟膏との等量混合による治療は・・・TV−010 2軟膏単独塗布の遅効性も混合することによって改善することができた。」(434〜435頁)との記載があるので,実質的に開示されている。
また,「有効な斑治癒」については,本件明細書の実施例では,基剤にベタメタゾン及びカルシポトリオールを配合した混合物に対し,混合物における各活性成分の濃度と同じ濃度で,ベタメタゾン又はカルシポトリオー15 ルのいずれか一方のみを配合したものを調製して,比較を行っている。これに対し,乙15では,本件明細書と同じ方法で比較をしているのは,表403中の「BMV+Petrol」と表示されているもので,D3+BMV混合物に対して,BMV軟膏とワセリンを混合したもの(ベタメタゾンの濃度は0.06%。混合物中の濃度と同じである。 との比較を行っている)(症例20〜23) これらの症例を見ると,。 症例22及び23では,D35 +BMV混合物の治療効果が3(著明改善)であるのに対し,BMV+Petrolの治療効果は2(中等度改善)にとどまっている。症例21では,D3+BMV混合物もBMV+Petrolのいずれも,治療効果は3であるが,前者は期間14日に対し,後者は期間21日での評価である。
乙15には,これらの考察として,「BMV・ワセリン塗布部での皮疹の改10 善程度がTV−02・BMV塗布部より若干低い傾向がうかがわれた」との記載がある(433頁)。よって,乙15には,D3+BMV混合物の治療効果が,ベタメタゾン単独適用(BMV+Petrol)よりも高いことが示されているということができる(なお,症例24〜26は,本件明細書の実施例とは比較の方法が異なる。。
)15 ところで,乙15では,D3+BMV混合物適用とTV−02軟膏の単独適用との比較はなされていない。しかしながら,「TV−02軟膏はステロイド軟膏に較べると効果発現までに少し長い時間がかかるが,しかし,少なくとも4週間塗布の場合その皮疹の改善程度はステロイド軟膏のそれと比較して差はみられなかった。」といった記載がある(434頁)。こ20 の記載から,TV−02軟膏の乾癬治療効果は,BMV軟膏とせいぜい同程度と解されるところ,上記のとおり,D3+BMV混合物の治療効果はBMV軟膏(ステロイド軟膏)よりも高いといえるから,TV−02軟膏よりも治療効果が高いことが予測可能である。
したがって,乙15に開示されている治療効果は,本件明細書に開示さ25 れた本件発明12における有効な斑治癒の効果と実質的に変わらないというべきである。
41なお,原告は,本件発明12の治療効果に関して,甲10及び甲11を提出するが,これらが頒布されたのは本件優先日以降であるから,本件明細書に開示された範囲を超えてこれらに基づく効果を本件発明12の進歩性の判断において参酌することは許されない。
5 b 副作用について本件明細書には,「カルシポトリオールなどのビタミンD類似体の皮膚刺激副作用がベタメタゾンなどのステロイドの乾癬皮膚への同時適用によって緩和されることが示され, ・・ ・2成分または多成分治療計画では達成できない効果である。」ことが記載されている(【0028】。このよう)10 な併用による,ビタミンD類似体(乙15の場合,タカルシトール)の皮膚刺激の緩和については,乙15には記載されていないが,本件明細書において「2成分投与計画についてある程度の相乗効果(より少ない皮膚刺激)が報告されている場合もある」(【0028】 とされていることからみ)ると,予測し得ない効果とはいえない。
15 また,本件明細書には,「乾癬などの皮膚障害の満足な薬物療法を本発明の組成物を使用してより短期間で達成することができ,それ故,ステロイドによる副作用(皮膚萎縮およびリバウンドなど)も低減する。 ことが」記載されている 【0029】。
( ) これは,優れた治療効果の発揮によって治療期間が短くなり,使用されるステロイドの総量が減れば,副作用も低減20 するということを記載しているのであって,当然な内容というべきである。
乙15にも,「濃度が半分になることからステロイド外用による副作用の軽減にも役立つ」と記載され,ステロイドの使用量が減ることによって,副作用を低減できることが示唆されている。
c 適用遵守等について25 本件明細書には,「1つの製剤を必要とする場合は処置指示はより単純になるので,患者の適用遵守が改善され,さらにより多数の乾癬患者の有42効な治療が可能になる。,」「・・・患者の安全性が改善される。」ことが記載されている 【0029】。
( ) これらの効果は,乙15には記載されていないが,D3+BMV混合物に対して,当然に期待されることというべきである。
5 ウ 小括以上のとおり,相違点1に係る構成は当業者にとって容易に想到できるものというべきである。
(4) 相違点3に係る容易想到性についてア 相違点3に係る動機付けについて10 (ア) 本件優先日以前に頒布された刊行物である「英国製薬工業協会編集医薬品集1998〜1999年版」(乙24)には,タカルシトール(水和物)を有効成分として含み,尋常性乾癬を治療適応とする軟膏(販売名:CURATODERM OINTMENT 4μg/g)が1日1回の用法で1996年(平成8年)1月に承認され,製造販売されていたことが記載されている。
15 また,本件優先日以前(1998年(平成10年))に頒布された刊行物である乙25(Current Experience with Tacalcitol Ointment in theTreatment of Psoriasis)は,タカルシトール軟膏(CURATODERM OINTMENT4μg/g)の1日1回の処置の有効性及び安全性を調査するために実施された市販後調査における臨床試験の結果を開示している。当該臨床試験に20 は5205人の乾癬患者が参加し,うち53%(2756人)がタカルシトール軟膏(4μg/g)を1日1回の処置のみを受けており,試験終了時に医師が各患者における治療効果を,有効性,忍容性及びコンプライアンスの観点から総合評価(「非常に良好」,「良好」,「並」,「不良」)したところ,72%が「非常に良好」または「良好」であると評価し,また,25 処置の開始時と終了時に有効性評価のパラメータ(紅斑,浸潤,落屑)を4点スコアシステム(0:無,1:軽微,2:中程度,3:重症)で評価43したところ,合計スコアが平均して57%減少したことが記載されている。
また,その結論として,「非常に良好な局所忍容性と1日1回の適用が患者のコンプライアンスに顕著な影響を及ぼし,患者の利便性がより高まるであろう」と記載されている。
5 したがって,本件優先日前において,タカルシトール軟膏が1日1回の用法で乾癬処置に使用されることも公知であった。
(イ) 前記のとおり,乙15発明は,「ヒトにおいて乾癬を処置するために皮膚に塗布するための混合物であって,1α,24-dihydroxycholecalciferol(タカルシトール),およびBMV(ベタメ10 タゾン吉草酸エステル),ならびにワセリンとを含有する非水性混合物であり,皮膚に1日2回塗布するもの」というものである。そして,乙24及び25に開示されているように,本件優先日において,タカルシトール軟膏が1日1回の用法で乾癬処置に使用されることも既に知られていたのであるし,そもそも塗布方式(1日1回か,2回か)の検討15 は,治療効果の向上や,副作用の低減等の観点から,当業者が適宜行うことにすぎないことであるから,当業者であれば,乙15発明において,塗布の回数を1日1回とする程度のことは,容易に想到できることというべきである。
(ウ) これに対し,原告は,乙15は,D3+BMV混合物を1日2回適20 用した結果,タカルシトール又はベタメタゾン単剤を1日2回適用した結果と比較して,何ら優れた乾癬治療効果が見られなかったことを示しているから,この知見に触れた当業者が,適用回数をあえて1日1回に減らして,ビタミンD及びベタメタゾンを含む乾癬治療用の製剤を得る動機づけは全く存しない旨主張する。
25 しかし,前記のとおり,乙15には,1日2回塗布の場合において,D3+BMV混合物が乾癬治療効果を有し,TV−02軟膏やBMV軟44膏の単独適用に対してD3+BMV混合物適用がメリットを有することが開示されているから,原告の上記主張は前提を欠き採用できない。なお,乙15の塗布試験において採用されているのは,確かに,1日2回塗布であるが,そこで使用されているTV−02軟膏は,タカルシトー5 ルが2μg/g濃度,4μg/g濃度のものであるところ,4μg/g濃度のタカルシトール軟膏は,乙24及び乙25にも開示があり,そこでは乾癬治療のため,これらを1日1回塗布することも記載されているから,乙15に開示されているのが1日2回塗布であったとしても,当業者は,少なくとも4μg/g濃度のTV−02軟膏については1日110 回塗布とすることも考慮し,その場合についても,BMV軟膏を加えることによって,乙15に記載されたような効果の改善を予測するものというべきである。
イ 相違点3に係る顕著な作用効果について原告は,「ビタミンD及びベタメタゾンを含む医薬組成物を1日1回適用15 することにより,ビタミンDを含む製剤及びベタメタゾンを含む製剤を交互に1日2回適用する場合に比べても優れた乾癬治療効果が得られる上,適用回数を1日1回とすることで,処置指示はさらに単純で,患者の適用遵守はより期待されるのであるから,1日1回適用することによる乾癬治療効果の顕著性は大きく,このような効果は,乙15ないし17の記載からは当業者20 といえども予測し得たものとはいえない」旨主張するので,以下,検討する。
この点,本件明細書には,「このような PASI スコアの変化からわかるように,本発明の製剤で処置した患者群においては,カルシポトリオールまたはベタメタゾンのいずれか一方を含む市販の製剤での処置またはこのような市販の製剤での交互処置によって現在まで達成できなかった(cf.)効果25 的な乾癬処置が達成され,すなわち,同一製剤中に 2 つの活性成分を有することの利点が示されている」との記載がある 【0021】。
( ) しかしながら,45本件明細書の実施例には,交互処置のデータは示されておらず,「交互処置」がどのような適用方式であるかは不明である。むしろ,本件明細書の実施例は,単剤や混合物での処置について,1日の適用回数など回数について何ら記載がないから,【0021】で記載された「交互処置」についても,1日の5 適用回数は同じままで,適用する単剤の種類を1回毎に変更した場合の,混合物を適用した場合の効果との違いと理解するのが自然である。なお,本件明細書における効果に関する他の記載(【0019】【0028】等)を見ても,「交互処置」した場合における乾癬治療効果の違いについての記載はない。
10 したがって,少なくとも,原告が主張するような効果,すなわち,混合物を適用する場合,1日の適用回数を減らしても優れた効果が得られることを,本件明細書の記載から読み取ることはできないから,そのような効果を本件発明12の進歩性の判断において考慮することはできない(まして,原告が指摘する甲11に示されるようなサイトカイン分泌の相乗的抑制効果につ15 いては,かかるメカニズムは本件明細書には一切記載されていないから,そのような効果を本件発明12の進歩性の判断において参酌することは許されない。。
)ウ 小括以上のとおり,相違点3に係る構成は当業者にとって容易に想到できるも20 のというべきである。
(5) まとめ以上のとおり,本件発明12は,本件優先日における公知文献に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。そして,原告の請求原因は,本件発明1ないし4,11及び12に基づくところ,本件25 発明12は,他のいずれの発明に対しても従属しているから,他のいずれの発明も,同様に,当業者が容易に発明をすることができたものである。したがっ46て,本件発明1ないし4,11及び12に係る本件特許には,特許法29条2項違反の無効理由があるから,原告は,上記各発明に係る本件特許権を行使することができない。
2 結論5 よって,その余の点について検討するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第47部10 裁判長裁判官 沖 中 康 人裁判官 矢 口 俊 哉15裁判官島田美喜子は,差支えにより署名押印できない。
裁判長裁判官 沖 中 康 人2047(別紙)被告物件目録尋常性乾癬治療剤「マーデュオックス軟膏」548(別紙)被告物件説明書被告物件は、以下の構成を有する。
5a ヒトにおいてb 尋常性乾癬又は乾癬を処置するためのc 皮膚用のd 無水エタノールを添加物として含む医薬組成物であって、
10 e マキサカルシトールを有効成分として、およびf ベタメタゾン酪酸エステルプロピオン酸エステルを有効成分として、ならびにg 白色ワセリン及び流動パラフィンを添加物として含む、
h 医薬組成物であって、さらに、
15 i 白色半透明の軟膏剤であり、
q 通常、1日1回、適量を患部に塗布するものとされている。
2049
事実及び理由
全容