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関連審決 無効2014-800083
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審判番号(事件番号) データベース 権利
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平成28ワ14131 特許権侵害行為差止請求事件 判例 特許
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事件 平成 27年 (ワ) 12414号 特許権侵害差止請求事件
原告 デビオファーム・インターナショナル・エス・アー
同訴訟代理人弁護士 大野聖二
同 大野浩之
同訴訟代理人弁理士 松任谷優子
被告東和薬品株式会社
同訴訟代理人弁護士 吉澤敬夫
同訴訟代理人弁理士 紺野昭男
同 井波実
同 補佐人弁理士伊藤武泰
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2016/03/30
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 原告のために,この判決に対する控訴のための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
請求
1 被告は,別紙被告製品目録記載1ないし3の各製剤を生産し,譲渡し又 は譲渡の申出をしてはならない。
2 被告は,別紙被告製品目録記載1ないし3の各製剤を廃棄せよ。
事案の概要
1 事案の要旨 本件は,特許第3547755号(以下「本件特許」といい,これに係る特許権を「本件特許権」という。)の特許権者である原告が,被告の製造販売に 1 係る別紙被告製品目録記載の各製剤(以下,それぞれ,同別紙の番号に従い,「被告製品1」などといい,これらをまとめて「被告各製品」という。)は,本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。なお,本件特許は平成15年6月30日以前にされた出願に係るので,その明細書は特許請求の範囲を含む〔平成14年法律第24号附則1条2号,3条1項,平成15年政令第214号〕)の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本件発 。
明」という。なお,特許が特許無効審判により無効とされるべきものと認められるか否かは,請求項ごとに判断されるべきことに鑑み,以下,本件特許のうち本件発明に係るものを「本件発明についての特許」という。)の技術的範囲に属し,かつ,存続期間の延長登録を受けた本件特許権の効力は,被告による被告各製品の生産,譲渡及び譲渡の申出(以下「生産等」ということがある。)に及ぶ旨主張して,被告に対し,被告各製品の生産等の差止め及び廃棄を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いがないか,後掲の証拠等により容易に認められる事実) (1) 当事者 原告は,医薬品等の製造,販売及び輸出等を業とするスイス法人である。
被告は,医薬品等の製造,売買及び輸出入等を業とする株式会社である。
(2) 本件特許権及びその延長登録 原告は,次の内容の本件特許の特許権者であり,別紙存続期間の延長登録の「出願番号(出願日), 」「延長の期間」及び「延長登録日」欄記載のとおり,本件特許権の存続期間の延長登録の出願をし,その登録(以下,それぞれ,同別紙の番号に従い,「本件延長登録1」などといい,これらをまとめて「本件各延長登録」という。)を受けた。本件特許の原簿に記録された本件延長登録1ないし同7の理由となった各処分(以下,それぞれ,同別紙の番号に従い, 「本件処分1」などといい,これらをまとめて「本件各処分」という。)は,同別紙の「特許法67条2項の政令で定める処分の内容」欄記載のとおりである(甲1,2) 。
2 特許番号 特許第3547755号 登 録 日 平成16年4月23日 出願番号 特願平8-507159号 (国際出願番号 PCT/IB1995/00614号) 出 願 日 平成7年8月7日 優先権主張番号 2462/94-6 優 先 日 平成6年8月8日 優先権主張国 スイス連邦 発明の名称 オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤 (3) 本件発明 ア 本件明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである。
「濃度が1ないし5mg/mlでpHが4.5ないし6のオキサリプラティヌムの水溶液からなり,医薬的に許容される期間の貯蔵後,製剤中のオキサリプラティヌム含量が当初含量の少なくとも95%であり,該水溶液が澄明,無色,沈殿不含有のままである,腸管外経路投与用のオキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤。」 イ 本件発明を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,分説に係る各構成要件を符号に対応して「構成要件A」などという。。
) A 濃度が1ないし5mg/mlで B pHが4.5ないし6の C オキサリプラティヌムの水溶液からなり, D 医薬的に許容される期間の貯蔵後,製剤中のオキサリプラティヌム含量 が当初含量の少なくとも95%であり, E 該水溶液が澄明,無色,沈殿不含有のままである, F 腸管外経路投与用の G オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤。
(4) 被告の行為 ア 被告は,本件特許権について専用実施権の設定を受けた株式会社ヤクル 3 ト本社(以下「ヤクルト本社」という。)がオキサリプラチン(オキサリプラティヌムと同義である。 の製剤として製造販売する ) 「エルプラット点滴静注液50mg」 (以下「エルプラット50」という。, )「エルプラット点滴静注液100mg」 (以下「エルプラット100」という。)の各後発医薬品として,被告製品1,同2について,平成26年8月15日付けで厚生労働大臣から医薬品製造販売承認を得た後,同年12月12日付けの薬価基準収載を受け,同日からこれらの販売を開始した(甲6)。また,被告は,その後,ヤクルト本社がオキサリプラチンの製剤として製造販売する「エルプラット点滴静注液200mg」(以下「エルプラット200」といい,エルプラット50及びエルプラット100と併せて, 「エルプラット点滴静注液」という。)の後発医薬品として,被告製品3についても,厚生労働大臣から医薬品製造販売承認を得た(甲5)。なお,エルプラット50は,本件処分1,同3及び同5の対象となった医薬品であり,エルプラット100は,本件処分2,同4及び同6の対象となった医薬品であり,エルプラット200は,本件処分7の対象となった医薬品である。
イ 被告製品1(製品名:オキサリプラチン点滴静注50mg「トーワ」, )同2(製品名:オキサリプラチン点滴静注100mg「トーワ」)及び同3(製品名:オキサリプラチン点滴静注200mg「トーワ」)の組成・性状,効能・効果及び用法・用量は,それぞれ以下のとおりであり(甲5),被告各製品の効能・効果及び用法・用量は,エルプラット点滴静注液の効能・効果及び用法・用量と同一である(争いがない) また, 。 被告各製品は,本件発明の構成要件A,同B,同E及び同Fを充足する構成を備えている(弁論の全趣旨)。
(ア) 組成・性状 4 なお,被告製品1,同2における添加物(濃グリセリン)の使用目的は,安定剤である(甲6)。
(イ) 効能・効果 治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌 結腸癌における術後補助化学療法 治癒切除不能な膵癌 (ウ) 用法・用量 「1.治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌及び結腸癌における術後補助化学療法にはA法又はB法を,治癒切除不能な膵癌にはA法を使用する。なお,患者の状態により適宜減量する。
A法:他の抗悪性腫瘍剤との併用において,通常,成人にはオキサリプラチンとして85mg/m2 (体表面積)を1日1回静脈内に2時間で点滴投与し,少なくとも13日間休薬する。これを1サイクルとして投与を繰り返す。
B法:他の抗悪性腫瘍剤との併用において,通常,成人にはオキサリプラチ 5 ンとして130mg/m2(体表面積)を1日1回静脈内に2時間で点滴投与し,少なくとも20日間休薬する。これを1サイクルとして投与を繰り返す。
2.本剤を5%ブドウ糖注射液に注入し,250〜500mLとして,静脈内に点滴投与する。」 3 争点 (1) 被告各製品は構成要件C,同D及び同Gを充足するか(争点1) (2) 被告各製品は本件各処分の対象となった物又はその均等物ないし実質的に同一と評価される物か(争点2) (3) 本件発明は乙第5号証又は乙第9号証を主引例とすることにより新規性又は進歩性を欠くか(争点3) (4) 本件各延長登録延長登録無効審判により無効にされるべきものか(争点4)
争点に関する当事者の主張
1 争点1(被告各製品は構成要件C,同D及び同Gを充足するか)について 【原告の主張】 (1) 被告各製品の構成 被告製品1,同2及び同3の各構成を本件発明の構成要件と対比して示すと,それぞれ別紙被告製品説明書記載1,2及び3のとおりである。
(2) 構成要件Cの充足性について ア 被告各製品の構成cは,構成要件C「オキサリプラティヌムの水溶液からなり, 」に該当する。
イ 被告は,被告各製品がオキサリプラティヌム(オキサリプラチン)と等量のグリセリンを含有しているため,構成要件Cを充足しない旨主張する。
しかし,構成要件Cにいう「オキサリプラティヌムの水溶液」とは,オキサリプラティヌムを水に溶解させた液体であれば足り,グリセリンのような物質を含んでいても,オキサリプラティヌムを含んでいる限り「オキサリプラティヌムの水溶液」であることに変わりはない(本件特許に対する特許無効審判事 6 件〔無効2014-800083〕の平成27年4月22日付け審決〔甲10〕においても, 「からなり」という文言は「その他の要素を構成要素としないという意味で用いられる表現」ではない旨の説示がされており,本件発明がオキサリプラティヌム以外の第3成分を含んでもよいことを前提とした判断が示されている。
また,オキサリプラチン以外の溶質が含まれている水溶液であっても,これを「オキサリプラチンの水溶液」と呼ぶことは,当業者の技術常識である〔甲14,15,乙4〕。
) 被告が指摘する本件明細書及び平成16年1月21日付け意見書(以下「本件意見書」という。乙13)の各記載は,発明の目的に関して添加剤等を含まないオキサリプラティヌム水溶液を用いることで達成できたことを述べたにとどまり,本件発明において「オキサリプラティヌム」と水以外の成分が水溶液に含まれてはいけないと述べたものではない。
被告は, 「オキサリプラティヌムの水溶液」の解釈につき,米国出願(出願番号08/776240号)のクレームと対比させた主張もするが,日本国特許である本件特許に関し,米国のプラクティスが適用される根拠はない。
(3) 構成要件Dの充足性について ア 被告各製品の構成dは,構成要件D「医薬的に許容される期間の貯蔵後,製剤中のオキサリプラティヌム含量が当初含量の少なくとも95%であり,に 」該当する。
構成要件Dにいう「医薬的に許容される期間」は,本件明細書の記載から「当業界で一般的に要求される期間」といえ,本件明細書の「室温または冷蔵庫の温度で3ないし5年」はその一例である。
被告各製品について2年又は1年6か月の長期保存試験が行われており,被告は,それらの期間を「当業界で」 「要求される期間」と判断しているといえる。
また,エルプラット点滴静注液やオキサリプラチン水溶液の製剤を販売している他のジェネリックメーカーの製品についても24か月の長期保存試験が行われている(甲4,16の1ないし16の13)。
したがって,被告各製品についての2年(24か月)又は1年6か月(18 7 か月)が「当業界で」「要求される期間」に含まれることは明らかである。
(4) 構成要件Gの充足性について ア 被告各製品の構成gは,構成要件G「オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤。」に該当する。
イ 被告を含む多数のジェネリックメーカーが「2年間安定である」旨の記載を添付文書にしている。
「医薬的に安定」とは,従前「凍結乾燥物」を水に溶かして再構成して使用していたときと比較して用いられているものであり,当業者はその意味を理解している。
(5) 小括 以上のとおり,被告各製品は,いずれも本件発明の構成要件C,同D及び同Gを充足する(被告各製品が構成要件A,同B,同E及び同Fを充足することは,被告も争っていない。)から,本件発明の技術的範囲に属する。
【被告の主張】 (1) 被告各製品の構成 被告各製品は,いずれもオキサリプラティヌムと等量のグリセリンを含有している。
(2) 構成要件Cの充足性について ア 構成要件C「オキサリプラティヌムの水溶液からなり,」のうち,「からなり」との部分は,本件特許に係る国際出願の出願時の特許請求の範囲において, 「constitu?e par」とフランス語で規定されていたところ,上記国際出願を米国へ国内移行した際(米国出願番号08/776240号),その「Claims」に「consisting of」と翻訳され,これを日本語に翻訳したものである(乙1,2) したがって, からなり」 構成成分を限定的に記述する 。 「 は, 「consisting of」と同義であって, 「オキサリプラティヌムの水溶液からなり」とは,本件発明がオキサリプラティヌムと水のみからなる水溶液であることを意味し,他の添加剤を一切含まないものであることを意味する。
イ 本件明細書には, 「有効成分が酸性またはアルカリ性薬剤,緩衝剤もしくはその他の添加剤を含まないオキサリプラティヌム水溶液を用いることにより, 8 達成できる」「この製剤は他の成分を含まず,原則として,約2%を超える不 ,純物を含んではならない。(甲2〔2頁43行〜3頁3行〕参照)などと明記 」されていることからみても,本件発明は「オキサリプラティヌム」と「水」のみからなる水溶液であるといえ,他の添加剤を一切含まないものであるといえる。
ウ 本件特許の出願人たる原告は,その出願手続において,特許庁審査官から拒絶理由通知を受けたことから,本件意見書により,本件発明では「該水溶液が,酸性またはアルカリ性薬剤,緩衝剤もしくはその他の添加剤を含まない」と主張し,これによって特許査定を得たのであるから,本件訴訟において,本件発明が「添加剤」を含んでいてもよいなどと主張するのは,信義則に反し,許されない(包袋禁反言の原則)。
(3) 構成要件Dについて 構成要件D「医薬的に許容される期間」は,本件明細書に記載された「3ないし5年」と理解されるところ,原告は,被告各製品がそのような期間の貯蔵後に構成要件Dを充足することについて,立証していない。
(4) 構成要件Gについて 構成要件G「オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤。」における「医薬的に安定な」とは,本件明細書の「オキサリプラティヌムの比旋光度の安定性,すなわち溶液の光学純度(異性化がないこと)を意味するものとも理解される」という記載からすれば,一定の期間,異性化がない,など本件発明における特有の意味であると解されるところ,そのような意味における「安定性」を被告各製品が有することについて,原告は,何ら立証していない。
(5) 以上のとおり,被告各製品は,いずれも本件発明の構成要件C,同D及び同Gを充足するといえないから,本件発明の技術的範囲に属しない。
2 争点2(被告各製品は本件各処分の対象となった物又はその均等物ないし実質的に同一と評価される物か)について【原告の主張】 (1) 被告各製品が本件各処分の対象となった物に当たることについて 9 ア 本件各処分は,オキサリプラチンを有効成分として承認申請がされ,その結果として得られた製造販売承認であるところ,被告各製品は,いずれもオキサリプラチンを唯一の有効成分としているから,本件各処分の対象となった物に当たる。
イ 被告各製品の「用途」が本件各処分の対象となった物の「用途」と同一のものとなっていることは,被告も認めているところであるから,本件各延長登録に係る本件特許権の効力は,被告各製品に及ぶ。
(2) 被告各製品が少なくとも本件各延長登録の理由となった本件各処分の対象となった物の均等物に当たることについて 仮に,上記(1)アの主張が認められないとしても,被告各製品に含まれる濃グリセリンはあくまで添加物であるうえ,被告各製品は,本件各処分の対象となった物(エルプラット50,エルプラット100又はエルプラット200)と生物学的同等性を有することを前提に,本件各処分で用いられた臨床成績をそのまま利用して承認を得たものであるから,被告各製品は,少なくとも本件各処分の対象となった物の均等物に当たる。
【被告の主張】(1) 被告各製品が本件各処分の対象となった物に当たらないことについて 被告各製品には濃グリセリンが含まれているところ,本件各処分の対象となった物(エルプラット50,エルプラット100又はエルプラット200)は,「成分」として「オキサリプラチン」と「注射用水」のみを含み,それ以外の成分を含まないものとされている(甲11の1ないし11の3)。
したがって,被告各製品は,本件各処分の対象となった物とは, 「成分」において異なる以上(なお, 「成分」が薬効を発揮する成分〔有効成分〕に限定されるものではないことは,いうまでもない。,本件各処分の対象となった物に当 )たらないことは,明らかである。
(2) 被告各製品が本件各処分の対象となった物の均等物や実質的に同一と評価される物にも当たらないことについて そもそも,本件明細書の記載によれば,本件発明は,オキサリプラチンと水 10 のみからなる製剤であることをその本質的部分とするというべきところ(甲2〔2頁43行〜3頁3行〕参照) ,被告各製品は,濃グリセリンを含むのであるから,本件発明とは,その本質的部分において相違している。
また,被告各製品が濃グリセリンを含むのは,注射用水にオキサリプラチンのみを溶解させた水溶液の場合,オキサリプラチンの分解により類縁物質や2量体が生成することがあることから,それらの分解を抑制するために,炭素数3個のポリオール(グリセリン)を添加することが有用であることを見出したことによる。被告は,それらの知見に基づいて特許出願をし,特許第5314790号を得た(乙4)。被告各製品は,同特許に係る発明の実施品であり,被告各製品が「成分」として濃グリセリンを含むのは,本件発明とは異なる目的のためである。被告各製品は,濃グリセリンを含むことにより,本件発明が有しない効果を奏するものであって,本件発明の均等物でないばかりか,本件各処分の対象となった物の均等物や実質的に同一と評価される物にも当たらない。
3 争点3(本件発明は乙第5号証又は乙第9号証を主引例とすることにより新規性又は進歩性を欠くか)について【被告の主張】 (1) 本件発明の背景事情について オキサリプラチンは,物質特許として昭和51年(1976年)9月6日に出願され,昭和60年(1985年)9月13日に出願公告された後,特許第1314396号として登録され,平成8年(1996年)9月6日に存続期間が満了したもので,本件特許の優先日前の公知物質である。また,高純度のオキサリプラチン水溶液を制癌剤として用いることも公知であった。
本件発明は,このように公知のオキサリプラチンの水溶液について,pHを「4.5ないし6」と特定し,「医薬的に安定」であることを構成要件に追加しただけの発明にすぎず,公知のオキサリプラチン水溶液と実質的に同一であるか,少なくとも公知のオキサリプラチン水溶液に基づき容易に発明できたものである。
すなわち,以下に詳述するとおり,本件発明は乙第5号証又は乙第9号証を 11 主引例とすることにより新規性又は進歩性を欠くものであり,本件発明についての特許は,特許無効審判により無効とされるべきものと認められるから,原告は,被告に対し,本件特許権を行使することができない。
(2) 無効理由1(乙第5号証を主引例とする新規性欠如又は進歩性欠如) 以下のとおり,本件発明は,本件特許の優先日頒布された刊行物である特開平6-211883号公報(以下「乙5文献」という。乙5)に記載された発明(以下「乙5発明」という。)と実質的に同一であるか,乙5発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたか,又は乙5発明及び「薬学雑誌vol.105(10)」 (p.909-925,1985)(乙7)に記載された知見(以下「乙7知見」という。)に基づいて当業者が容易に発明をすることができた。
ア 本件発明と乙5発明との一致点 本件発明と乙5発明とを対比すると,乙5発明における光学純度の高いオキサリプラチンを用いて得られた[0.5%H2O]は,5mg/mlに相当する水溶液であり,不純物が入り込む余地はなく,本件発明における濃度「1ないし5mg/ml」の「オキサリプラティヌムの水溶液」と一致する。
また,乙5発明は,マウス腹腔内に投与されているから,腸管外経路投与用」 「である点も,本件発明と一致している。
なお,乙5発明の「シス-オキザラート(トランス-l-1,2-シクロヘキサンジアミン)白金(II)」は,本件発明における「オキサリプラティヌム」(一般名:オキサリプラチン)と同一の化合物である。
イ 本件発明と乙5発明との形式上の相違点 本件発明と乙5発明とは,次の点で形式上相違する。
本件発明の「オキサリプラティヌムの水溶液」は「pHが4.5ないし6」であることが規定されているが,乙5発明にはpHの値について記載がない点(相違点1)。
本件発明は「医薬的に許容される期間の貯蔵後,製剤中のオキサリプラティヌム含量が当初含量の少なくとも95%であり,該水溶液が澄明,無色,沈殿不含有のままである,医薬的に安定な製剤」であるところ,乙5発明にはその 12 ような記載がない点(相違点2)。
ウ 相違点1について 平成27年9月1日付け実験報告書(乙6) 同年10月21日付け実験報告 ,書(2) (乙8),同年12月15日付け実験報告書(4) (乙15)に示すとおり,被告が,乙5発明の追試ないし確認試験(以下,それぞれ「乙6実験」などという。)をしたところ,そのpHが「4.5ないし6」の範囲になることが確認された。すなわち,高純度のオキサリプラチンを水に溶解すれば,必然的に本件発明が規定するpH値になるものである。
したがって,相違点1に係る本件発明の構成は,乙5発明が当然に有していた構成にすぎない。
エ 相違点2について 相違点2に係る本件発明の構成は,乙6実験,乙8実験及び乙15実験の結果からみれば,乙5発明が必然的に有していた性質にすぎない。
また,乙7知見によれば,乙5発明も「医薬的に許容される期間の貯蔵後」において「安定」であることが推測される。
オ 小括 以上より,相違点1及び同2は,いずれも実質的なものでないか,これらの相違点に係る本件発明の構成は,乙5発明(又は乙5発明及び乙7知見)に基づいて当業者が容易に想到し得たものであって,本件発明は,新規性又は進歩性を欠くものである。
なお,被告が当事者となっていない無効不成立審決が確定していることを理由として,乙5発明に基づいて特許法104条の3の抗弁を主張することが許されないとする原告の主張は,争う。
(3) 無効理由2(乙第9号証を主引例とする進歩性欠如) 以下のとおり,本件発明は, 「CANCER RESEARCH 49, 3362-3368, June 15, 1989」(以下「乙9文献」という。乙9)に記載された発明(以下「乙9発明」という。)及び乙5発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
13 ア 本件発明と乙9発明との一致点 乙9発明で用いられている「白金類縁体,1,2-ジアミノシクロヘキサン(trans-1)オキサラート白金(II)」又は「l-OHP」は,本件発明における「オキサリプラティヌム」 (一般名:オキサリプラチン)と同一の化合物である。
そして,乙9文献の「INTRODUCTION 欄及び Drug 欄」には,オキサリプラチンを蒸留水で希釈して3.4mg/mlの水溶液とし,該水溶液を眼窩静脈叢に静脈注射し,抗ガン剤としての効果及び毒性を試験したことが記載されている。
そうすると,乙9発明の3.4mg/mlの水溶液は,水及びオキサリプラチンのみからなる水溶液であり,本件発明の「濃度が1ないし5mg/ml」の「オキサリプラティヌムの水溶液」と一致する。
また,乙9発明では,マウス眼窩静脈叢に静脈注射により投与されているから,「腸管外経路投与用」である点も一致している。
イ 本件発明と乙9発明との形式上の相違点 本件発明と乙9発明とは,次の点で形式上相違する。
本件発明の「オキサリプラティヌムの水溶液」は「pHが4.5ないし6」であることが規定されているが,乙9発明にはpHの値について記載がない点(相違点1)。
本件発明は「医薬的に許容される期間の貯蔵後,製剤中のオキサリプラティヌム含量が当初含量の少なくとも95% であり,該水溶液が澄明,無色,沈殿不含有のままである,医薬的に安定な製剤」であるところ,乙9発明にはそのような記載がない点(相違点2)。
ウ 相違点1について 乙5文献の段落【0003】【発明が解決しようとする課題】には,「光学活性な医薬品は,その異性体により抗癌性および副作用に重大な差を有しているものが多く,医薬品として取り扱う場合,特にその光学純度が重要になる。」と記載され,同段落【0023】及び【0027】の表4には,マウスを用いた 14 急性毒性試験及び抗腫瘍性の試験が開示されているところ,乙5文献に接した当業者は,乙9発明の3.4mg/mlのオキサリプラチン水溶液において,乙5文献に開示された光学純度の高いオキサリプラチン(乙5発明)を用いることを容易に想到するといえる。
したがって,相違点1に係る本件発明の構成(pH値)は,特別な値ではなく,乙9発明の3.4mg/mlのオキサリプラチン水溶液を調製する際に,乙5発明の光学純度の高いオキサリプラチンを用いることにより,当然に備えることとなる構成にすぎない。
エ 相違点2について 平成27年10月23日付け実験報告書(3) (乙10)に示すとおり,被告が,乙5発明と同様の高純度のオキサリプラチンを注射用水に溶解して,乙9発明の3.4mg/mlのオキサリプラチン水溶液を調整し,慣用技術の保管方法で一定期間保管し,該水溶液の「安定性」の確認実験(以下「乙10実験」という。)を行ったところ,1か月経過後においても,オキサリプラティヌム含量が当初含量の少なくとも95%で,澄明,無色,沈殿不含有のままであることが確認された。
したがって,相違点2に係る本件発明の構成も,乙9発明の3.4mg/mlのオキサリプラチン水溶液を調製する際に,乙5発明の光学純度の高いオキサリプラチンを用いることにより,当然に備えることとなる構成にすぎない。
オ 小括 以上より,相違点1及び同2に係る本件発明の構成は,乙9発明及び乙5発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものであって,本件発明は,進歩性を欠くものである。
なお,被告が当事者となっていない無効不成立審決が確定していることを理由として,乙9発明に基づいて特許法104条の3の抗弁を主張することが許されないとする原告の主張は,争う。
【原告の主張】 (1) 無効理由1について 15 ア オキサリプラチン水溶液(2mg/ml)のpHとしては,6.7又は6.6であるものが示されているから(甲19,20),必然的に本件発明が規定するpHの数値範囲になるという被告の主張は,事実と反している。また,乙8実験において使用されたオキサリプラチンは,乙5発明で用いられているものとは異なるし,乙5発明において旋光度を測定する際に用いる水は,乙8実験のように「注射用水」ではないから,乙8実験は,乙5発明の追試となっていない。
イ 乙5発明は,単に旋光度を測定するために溶かしたオキサリプラチン水溶液であるから,数多あるパラメータの中から,本件発明のように,pH及び濃度に注目すること自体困難である。
ウ 乙5文献は,本件特許に対する無効審判事件(審判番号2010-800191)において証拠として提出された文献であるところ,同審判事件において,乙5発明によっては,本件発明の進歩性を否定できないとする請求不成立の審決がされ,その確定登録が平成23年10月11日にされた。同登録は,特許法167条の改正に係る平成23年法律第63号が施行された平成24年4月1日より前であるから,上記請求不成立の審決の効果については,同改正前の特許法167条が適用されるところ,同条が「何人も,特許無効審判・・・の確定審決の登録があったときは,同一の事実及び同一の証拠に基づいてその審判を請求することができない。 としていることに鑑みると, 」 侵害訴訟において,同一の事実及び同一の証拠に基づいて,当該特許に関する特許法104条の3の抗弁を主張することは,許されないと解される。
したがって,被告が乙5発明に基づいて特許法104条の3の抗弁を主張することは,許されない。
(2) 無効理由2について ア 乙9文献も,本件特許に対する無効審判事件(審判番号2010-800191)において証拠として提出された文献であるところ,同審判事件において,乙9発明によっては,本件発明が進歩性を否定できないとする請求不成立の審決がされ,上記(1)ウのとおり,その確定登録が平成23年10月11日 16 にされた。
したがって,被告が乙9発明に基づいて特許法104条の3の抗弁を主張することは,許されない。
イ また,上記アの点を措くとしても,被告は,乙10実験について,乙9発明の再現である旨の主張もしておらず,主張自体失当である。特に,乙9発明では,静脈注射が行われ,技術常識によれば,注射剤には緩衝剤が含まれているから,乙9発明を再現するのであれば,緩衝剤入りの水溶液を用いるべきであり,乙10実験は,乙9発明の再現になっていない。また,乙9発明は,オキサリプラチンを試験当日に蒸留水に溶かしてマウスに投与するだけで,当該オキサリプラチンの水溶液を長期保存することは全く考えられておらず,医 「薬的に許容される期間の貯蔵後,製剤中のオキサリプラティヌム含量が当初含量の少なくとも95%であり,該水溶液が澄明,無色,沈殿不含有のままであ」り, 「医薬的に安定な」オキサリプラチンの水溶液が得られるということを容易に想定できない。
4 争点4(本件各延長登録延長登録無効審判により無効にされるべきものか)について【被告の主張】 (1) 本件発明の実施についての特許法67条2項の政令で定める処分を受けたものとは認められないことを理由とする存続期間の延長登録の無効理由について 本件発明は,争点1において主張したとおり,オキサリプラチンと水のみからなる製剤と解すべきところ,本件処分1,同3及び同5の対象となった物であるエルプラット50,本件処分2,同4及び同6の対象となった物であるエルプラット100,並びに本件処分7の対象となった物であるエルプラット200は,いずれも「緩衝剤」としてシュウ酸を含むことがあり(乙17ないし19),これらは,本件発明の実施品に当たらない。
そうすると,本件発明の実施についての特許法67条2項の政令で定める処分を受けることが必要であったとは認められず,特許法125条の2第1項1 17 号の規定に該当する。
したがって,本件各延長登録は,いずれも延長登録無効審判により無効とされるべきものである。
(2) 「特許発明実施することができなかった期間」の計算に誤りがあることを理由とする延長登録の無効理由について 以下のとおり,本件延長登録1,同3及び同4の延長期間は,特許発明実施をすることができなかった期間を明らかに超えるものであるから,特許法125条の2延長登録無効審判において無効とされるべきものである。
ア 本件延長登録1について 治験計画届出書(届出日:平成17年2月28日)による治験の対象疾患は,「治癒切除不能の進行・再発結腸・直腸癌」とするものであり,本件延長登録1の「(4)処分の対象となった物について特定された用途」である「結腸癌における術後補助化学療法」 (甲1)とは異なる。一方,医薬品製造販売承認申請書(申請日:平成20年8月29日)の効能効果の欄には「治癒切除不能の進行・再発結腸・直腸癌,結腸癌における術後補助化学療法」と明記されており,この後者の部分は,本件延長登録1と一致する。
特許発明実施をすることができなかった期間」について, 「特許・実用新案審査基準 第VI部 特許権の存続期間の延長」(以下,単に「審査基準」という。)の3.1.3項には,「この期間は,政令で定める処分を受けるのに必要な試験を開始した日,又は特許権の設定登録の日のうちのいずれか遅い方の日から,承認又は登録が申請者に到達した日,すなわち申請者が現実にこれを了知し又は了知し得べき状態におかれた日の前日までの期間である」とされ,以下の@-Bのすべての要件を満たす試験を行う期間でなければ,特許発明の 「実施をすることができなかった期間」に含めることはできない。このうち,Aの「その試験の遂行に当たって方法,内容等について行政庁が定めた基準に沿って行う必要があるため企業の試験に対する自由度が奪われている」と言えるためには,対象となる臨床試験を行うにあたっての用途が一致することが必要であることは当然であり, 「特許発明実施をすることができなかった期間」の 18 始期から終期を通じて一致すべきことは,特許権存続期間延長登録の趣旨に照らせば当然のことである。
したがって, 「特許発明実施することができなかった期間」の起算日は,上記承認申請の申請日(平成20年8月29日)であるべきで,治験計画届出書の時点では,その治験計画は,本件延長登録1に係わる用途とは異なる用途の治験に関するものであるから,本件延長登録1において, 「特許発明実施することができなかった期間」の起算日を,治験計画届出書の届出日(平成17年2月28日)とすることは,本来認められるべき特許発明実施することができなかった期間を超えて不当に起算日を繰り上げるものであって誤りである。
イ 本件延長登録3及び同4について 本件延長登録3及び同4については,上記アで述べたのと同様, 「結腸癌における術後補助化学療法」の用途については,特許発明実施をすることができなかった期間を明らかに超えるものである。
【原告の主張】 (1) 本件発明の実施についての特許法67条2項の政令で定める処分を受けたものとは認められないことを理由とする存続期間の延長登録の無効理由について 本件発明は,オキサリプラチンと水以外を含むことを許容しているから,被告の主張は,いずれもその前提で誤っている。
(2) 「特許発明実施することができなかった期間」の計算に誤りがあることを理由とする延長登録の無効理由について 審査基準の3.1.3項のAに関し,被告は,対象となる臨床試験を行うにあたっての用途が一致することが必要であることは当然である旨主張するが,上記Aは「試験」そのものに関しての要件を規定しているのであるから,行った「試験」が「その試験の遂行に当たって方法,内容等について行政庁が定めた基準に沿って行う必要があるため企業の試験に対する自由度が奪われている」ものであれば足りる。この点,オキサリプラチンに関する治験は,厚生労働省の指示のもとに行われており「その試験の遂行に当たって方法,内容等につい 19 て行政庁が定めた基準に沿」うものであることは明らかであり,本件特許に関して,「特許発明実施することができなかった期間」の計算に誤りはない。
当裁判所の判断
本件事案に鑑み,争点2から判断する。
1 争点2(被告各製品は本件各処分の対象となった物又はその均等物ないし実質的に同一と評価される物か)について (1) 本件各処分の対象となった物について ア 特許権の存続期間の延長登録の制度趣旨 特許権の存続期間の延長登録の制度は,特許法67条2項の「安全性の確保等を目的とする法律の規定による許可その他の処分であつて当該処分の目的,手続等からみて当該処分を的確に行うには相当の期間を要するものとして政令で定めるもの」 (以下「政令処分」という。)を受けることが必要であったために特許発明実施をすることができなかった期間を回復することを目的とするものである(最高裁平成26年(行ヒ)第356号同27年11月17日第三小法廷判決〔以下「平成27年最判」という。〕参照)。
すなわち,特許法は,同法67条1項において,特許権の存続期間を特許出願の日から20年と定めるが,同時に,同条2項において,その特許発明実施について政令処分を受けることが必要であるために,その特許発明実施をすることができない期間があったときは,5年を限度として,その存続期間の延長をすることができると定めて,特許権の存続期間の延長登録制度を設けた。
「その特許発明実施」について,政令処分を受けることが必要な場合には,特許権者は,たとえ,特許権を有していても,特許発明実施することができず,実質的に特許期間が侵食される結果を招く(もっとも,このような期間においても,特許権者が「業として特許発明実施をする権利」を専有していることに変わりはなく,特許権者の許諾を受けずに特許発明実施する第三者の行為について,当該第三者に対して,差止めや損害賠償を請求することが妨げられるものではない。したがって,特許権者の被る不利益の内容として,特許権の全ての効力のうち,特許発明実施できなかったという点にのみ着目した 20 ものであるといえる。。そして,このような結果は,特許権者に対して,研究 )開発に要した費用を回収することができなくなる等の不利益をもたらし,また,開発者,研究者に対しても,研究開発のためのインセンティブを失わせることから,そのような不都合を解消させ,研究開発のためのインセンティブを高める目的で,特許発明実施することができなかった期間について,5年を限度として,特許権の存続期間を延長することができるようにしたものである。
なお,特許法施行令2条は,政令処分として,医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律(平成25年法律第84号による改正前の題名は,薬事法。以下,同改正の前後を通じて「医薬品医療機器等法」という。)の承認や農薬取締法の登録を定めているところ,これらの処分は,いわゆる講学上の許可に該当し,製造販売等の行為が,一般的抽象的に禁止され,各行政法規に基づく個別的具体的な処分を受けることによって初めて,当該行為を行うことが許されるものであるから,特許権者が,許可を得ようとしない限り,当該製造販売等の行為を禁止された法的状態が継続することになる。しかし,特許法は,特許権者が,許可を得ようとしなかった期間も含めて,特許発明実施することができなかった全ての期間(5年の限度はさておいて)について,存続期間延長の算定の基礎とするのではなく,特許発明実施する意思及び能力があってもなお,特許発明実施することができなかった期間,すなわち,当該政令処分を受けるために必要であった期間に限って,存続期間延長の対象とするものとした。この点については, 「その特許発明実施をすることができない期間」とは,政令処分を受けるのに必要な試験を開始した日又は特許権の設定登録の日のうちのいずれか遅い方の日から,当該政令処分が申請者に到達することにより処分の効力が発生した日の前日までの期間を意味すると解すべきであるとした裁判例(最高裁平成10年(行ヒ)第43号同11年10月22日第二小法廷判決・民集53巻7号1270頁)に照らしても明らかである。
このように,特許権の存続期間の延長登録の制度は,特許発明実施する意思及び能力があってもなお,特許発明実施することができなかった特許権者 21 に対して,政令処分を受けることによって禁止が解除されることとなった特許発明実施行為について,当該政令処分を受けるために必要であった期間,特許権の存続期間を延長する措置を講じることによって,特許発明実施することができなかった不利益の解消を図った制度であるということができる(知財高裁平成25年(行ケ)第10195号同26年5月30日特別部判決〔以下「平成26年知財高判」という。,知財高裁平成20年(行ケ)第10460 〕号同21年5月29日第三部判決参照)。
イ 特許権の存続期間が延長された場合の当該特許権の効力 特許法68条の2は, 「特許権の存続期間が延長された場合(第67条の2第5項の規定により延長されたものとみなされた場合を含む。の当該特許権の効 )力は,その延長登録の理由となつた第67条第2項の政令で定める処分の対象となつた物(その処分においてその物の使用される特定の用途が定められている場合にあつては,当該用途に使用されるその物)についての当該特許発明実施以外の行為には,及ばない。」と規定している。
この規定によれば,特許権の存続期間が延長された場合の当該特許権の効力は,政令処分の対象となった物(その処分においてその物の使用される特定の用途が定められている場合にあっては,当該用途に使用されるその物〔以下,鍵括弧を付して「当該用途に使用される物」という。 ) 〕(以下,かかる政令処分の対象となった物を鍵括弧を付して「(当該用途に使用される)物」ということがある。)についての当該特許発明実施行為にのみ及ぶということになる。
また,前記アで説示したところに照らせば,特許権の存続期間の延長登録の制度は,特許権者が特許発明実施する意思及び能力があっても,政令処分を受けることが必要であったためにその特許発明実施することができなかったという特許期間の侵食を,特許発明全体の範囲(特許法70条)ではなく,当該政令処分を受けることが必要であったために実施することができなかった「(当該用途に使用される)物」の範囲について回復させるというものと解される。
22 したがって,特許権の存続期間が延長された場合の当該特許権の効力は,原則として,政令処分を受けることによって禁止が解除されることとなった特許発明実施行為,すなわち,当該政令処分を受けることが必要であったために実施することができなかった「(当該用途に使用される)物」についての実施行為にのみ及び,特許発明のその余の実施行為には及ばないと解するのが相当である。
もっとも,特許権者が研究開発に要した費用を回収することができるようにするとともに,研究開発のためのインセンティブを高めるという目的で,特許期間の延長を認めることとした特許権の存続期間の延長登録の制度趣旨に鑑みると,侵害訴訟における対象物件が政令処分の対象となった (当該用途に使用 「される)物」の範囲をわずかでも外れれば,存続期間が延長された特許権の効力がもはや及ばないと解するべきではなく,当該政令処分の対象となった (当 「該用途に使用される)物」と相違する点がある対象物件であっても,当該対象物件についての製造販売等の準備が開始された時点(当該対象物件の製造販売等に政令処分が必要な場合は,当該政令処分を受けるのに必要な試験が開始された時点と解される。 において, ) 存続期間が延長された特許権に係る特許発明の種類や対象に照らして,その相違が周知技術慣用技術の付加,削除,転換等であって,新たな効果を奏するものではないと認められるなど,当該対象物件が当該政令処分の対象となった「(当該用途に使用される)物」の均等物ないし実質的に同一と評価される物(以下「実質同一物」ということがある。)についての実施行為にまで及ぶと解するのが合理的であり,特許権の本来の存続期間の満了を待って特許発明実施しようとしていた第三者は,そのことを予期すべきであるといえる。なお,上記のように解すると,政令処分を受けることによって禁止が解除される特許発明実施の範囲よりも,存続期間が延長された特許権の効力が及ぶ特許発明実施の範囲が広いことになるが,上述した意味での均等物や実質同一物についての実施行為の範囲にとどまる限り,第三者の利益が不当に害されることはないというべきである。
ウ 政令処分が医薬品医療機器等法所定の医薬品に係る承認である場合につ 23 いて 本件各処分は,いずれも医薬品に係る厚生労働大臣の承認である。
医薬品医療機器等法の規定に基づく医薬品の製造販売の承認の審査事項は,医薬品の「名称,成分,分量,用法,用量,効能,効果,副作用その他の品質,有効性及び安全性に関する事項」(医薬品医療機器等法14条2項3号柱書き)と定められているから,医薬品医療機器等法所定の医薬品に係る承認がされるに際しては,当該医薬品の「用途」を特定する事項に該当すると考えられる「用法,用量,効能,効果」について必ず審査されることになる。したがって,同承認は,特許法68条の2括弧書きの「その処分においてその物の使用される特定の用途が定められている場合」に該当するものと解され,政令処分が医薬品医療機器等法所定の医薬品に係る承認である場合,同法68条の2の延長された特許権の効力の及ぶ範囲を検討する際には, 「当該用途に使用される物」についての特許発明実施か否かを判断しなければならず, 「物」及び「用途」の特定が必要となる。
医薬品医療機器等法の規定に基づく医薬品の製造販売承認を受けることによって可能となる(禁止が解除される)のは,その審査事項である医薬品の「名称,成分,分量,用法,用量,効能,効果,副作用その他の品質,有効性及び安全性に関する事項」 (医薬品医療機器等法14条2項3号柱書き)の全てについて承認ごとに特定される医薬品の製造販売であると解されるとしても,前記ア,イのとおりの特許権の存続期間の延長登録の制度目的からすると,上記審査事項の全てではなく,存続期間が延長された特許権に係る特許発明の種類や対象に照らして,医薬品としての実質的同一性に直接関わる審査事項(医薬品の成分の発明の場合は, 「成分,分量,用法,用量,効能,効果」である〔平成27年最判参照〕)の範囲で,当該政令処分を受けることが必要であったため 。
実施することができなかった「当該用途に使用される物」 (「物」 「用途」 及び )を特定することが相当というべきである。
そして,上記審査事項のうち, 「名称」は,医薬品としての実質的同一性を左右するものではなく,また, 「副作用その他の品質,有効性及び安全性」は,医 24 薬品としての実質的な同一性があれば,これらの事項もまた同一となる性質のものであって,いずれも「物」及び「用途」を特定するための独立の事項とする必要性はないのに対し,「成分,分量」は,「物」それ自体としての客観的同一性を左右するものであるところ, 「用途」に該当し得る性質のものではないから, 「物」を特定するための事項とみるべきであり,他方, 「用法,用量,効能,効果」 「物」 は, それ自体としての客観的同一性を左右するものとはいえないが,「用途」に該当し得る性質のものであるから, 「用途」を特定するための事項とみるべきである。
したがって,医薬品の成分を対象とする特許発明の場合,特許法68条の2によって存続期間が延長された特許権は,「物」に係るものとして,「成分(有効成分に限らない。)及び分量」によって特定され,かつ,「用途」に係るものとして, 「効能,効果」及び「用法,用量」によって特定された当該特許発明実施の範囲で,効力が及ぶものと解するのが相当である。ただし,延長登録制度の立法趣旨に照らして, 「当該用途に使用される物」の均等物や「当該用途に使用される物」の実質同一物が含まれることは,前示のとおりである(なお,平成26年知財高判は,「分量」については,「延長された特許権の効力を制限する要素となると解することはできない」旨判示しているが,その趣旨は, 「分量」 「成分」 は, とともに, 「物」を特定するための事項ではあるものの, 「分量」のみが異なっている場合には, 「用法,用量」などとあいまって,政令処分の対象となった「物」及び「用途」との関係で均等物ないし実質同一物として,延長された特許権の効力が及ぶことが通常であることを注意的に述べたものと理解するのが相当と思われる。。
)エ 本件各処分を受けることが必要であったために実施することができなかった「当該用途に使用される物」について 前記前提事実によれば,本件処分1,同3及び同5の対象となった医薬品がエルプラット50であり,本件処分2,同4及び同6の対象となった医薬品がエルプラット100であり,本件処分7の対象となった医薬品がエルプラット200であることが認められ,証拠(甲3)によれば,その性状・組成は,次 25 のとおりであることが認められる。
また,証拠(甲3,4,11の1ないし11の6,乙3の1ないし3の3,17ないし19)及び弁論の全趣旨によれば,エルプラット50,エルプラット100及びエルプラット200は,物」 「 を特定するための事項である「成分」及び「分量」のうち, 「分量」のみが異なるものであって,いずれも「オキサリプラチン」と「注射用水」のみを含み,それ以外の成分を含まないものとされている(ただし,25℃±2℃/60%RH±5%RHの条件下で12か月及び24か月保存後には,0.1wt%を若干超える程度〔モル濃度換算で,5×10-5M〜1×10-4Mの範囲〕のシュウ酸を含有するに至ることがある。
なお,証拠〔甲2,乙11,13,16の2〕によれば,水溶液中のオキサリプラチンが時間を追って分解し,シュウ酸イオンが自然発生するものと考えられる。)ものと認められる。
そうすると, 「物」に係るものとしての「分量」及び「用途」に係るものとしての「効能,効果,用法,用量」の点をひとまず措くとすれば,本件各処分を受けることが必要であったために実施することができなかった「当該用途に使用される物」とは, 「オキサリプラチン」と「注射用水」のみを含み,それ以外の成分を含まない製剤(ただし,保存中にオキサリプラチンが自然分解し,シュウ酸を含有するに至ることがある。)であると認められる。
(2) 被告各製品は本件各処分の対象となった「当該用途に使用される物」といえるかについて 前記前提事実,上記(1)エの認定事実,及び弁論の全趣旨によれば,本件各処分の対象となった「当該用途に使用される物」の「成分」は,いずれも「オキサリプラチン」と「注射用水」のみ(ただし,保存中にオキサリプラチンが自 26 然分解し,シュウ酸を含有するに至ることがある。)であるのに対し,被告各製品の「成分」は,いずれも「オキサリプラチン」と「水」以外に,添加物として「濃グリセリン」を含むものであり,その使用目的は, 「安定剤」であることが認められる(被告製品3における添加物(濃グリセリン)」の使用目的は,被告製品1及び同2と同じであると推認される。。
) そうすると,本件各処分の対象となった「当該用途に使用される物」と被告各製品とは,その「成分」において異なるものというほかはない。したがって,「分量,用法,用量,効能,効果」について検討するまでもなく,被告各製品は,本件各処分の対象となった「当該用途に使用される物」とはいえない。
これに対し,原告は,被告各製品がいずれもオキサリプラチンを唯一の有効成分としているから,本件各処分の対象となった物に当たる旨主張するが,政令処分が医薬品医療機器等法所定の医薬品に係る承認である場合,当該政令処分を受けることが必要であったために実施することができなかった「当該用途に使用される物」を特定するための事項としての「物」に係る「成分」が有効成分に限られないことは,前示のとおりであって,原告の上記主張は,採用することができない。
(3) 被告各製品は本件各処分の対象となった「当該用途に使用される物」の均等物ないし実質同一物に該当するといえるかについて ア 考え方 上記(2)のとおり,被告各製品が本件各処分の対象となった「当該用途に使用される物」とはいえないとしても,前記(1)イで説示したところによれば,被告各製品と本件各処分の対象となった「当該用途に使用される物」との相違が,被告各製品について政令処分を受けるのに必要な試験が開始された時点において,本件発明の種類や対象に照らして,周知技術慣用技術の付加,削除,転換等であって,新たな効果を奏するものではない場合には,その「当該用途に使用される物」の均等物,あるいはその「当該用途に使用される物」の実質同一物と認めるのが相当である。
医薬品医療機器等法所定の医薬品に係る特許発明において,当該用途に使用 「 27 される物」との均等物,あるいは「当該用途に使用される物」の実質同一物かどうかを判断するに当たっては,例えば,次のように考えることができる。当該特許発明が新規化合物に関する発明や特定の化合物を特定の医薬用途に用いることに関する発明など,医薬品の有効成分(薬効を発揮する成分)のみを特徴的部分とする発明である場合には,延長登録の理由となった処分の対象となった「物」及び「用途」との関係で,有効成分以外の成分のみが異なるだけで,生物学的同等性が認められる物については,当該成分の相違は,当該特許発明との関係で,周知技術慣用技術の付加,削除,転換等に当たり,新たな効果を奏しないことが多いから, 「当該用途に使用される物」の均等物や実質同一物に当たるとみるべきときが少なくないと考えられる。他方,当該特許発明が製剤に関する発明であって,医薬品の成分全体を特徴的部分とする発明である場合には,延長登録の理由となった処分の対象となった「物」及び「用途」との関係で,有効成分以外の成分が異なっていれば,生物学的同等性が認められる物であっても,当該成分の相違は,当該特許発明との関係で,単なる周知技術慣用技術の付加,削除,転換等に当たるといえず,新たな効果を奏することがあるから, 「当該用途に使用される物」の均等物や実質同一物に当たらないとみるべきときが一定程度存在するものと考えられる。
イ 本件発明の種類及び対象 そこで,本件発明の種類や対象について検討するに,本件明細書には,従来技術,発明の目的及び課題の解決に関し,次の記載がある。
「現在,オキサリプラティヌムは,投与直前再構成用および5%ぶどう糖溶液希釈用の凍結乾燥物として,注射用水または等張性5%ぶどう糖溶液と共にバイアルに入れて,前臨床および臨床試験用に入手でき,投与は注入により静脈内に行われる。しかし,このような投与形態は,比較的複雑で高価につく製造方法(凍結乾燥)および熟練と注意の双方を要する再構成手段の使用を意味する。さらに,実際上,このような方法は,溶液を突発的に再構成するとき間違いが起こる危険性があることが判明した」甲2 ( 〔2頁27行ないし32行〕) 「製品の誤用のあらゆる危険性を避け,上記の操作を必要とせずに使用でき 28 るオキサリプラティヌム製剤を医療従事者または看護婦が入手できるようにするため,直ぐ使用でき,さらに,使用前には,承認された基準に従って許容可能な期間医薬的に安定なままであり,凍結乾燥より容易且つ安価に製造でき,再構成した凍結乾燥物と同等な化学的純度(異性化の不存在)および治療活性を示す,オキサリプラティヌム注射液を得るための研究が行われた。これが,この発明の目的である。(甲2〔2頁37行ないし42行〕 」 ) 「この発明者は,この目的が,全く驚くべきことに,また予想されないことに,腸管外経路投与用の用量形態として,有効成分の濃度とpHがそれぞれ充分限定された範囲内にあり,有効成分が酸性またはアルカリ性薬剤,緩衝剤もしくはその他の添加剤を含まないオキサリプラティヌム水溶液を用いることにより,達成できることを示すことができた。特に,約1mg/mlより低い濃度のオキサリプラティヌム水溶液は,充分安定でないことが見出された。従って,この発明の目的は,オキサリプラティヌムが1ないし5mg/mlの範囲の濃度と4.5ないし6の範囲のpHで水に溶解し,医薬的に許容される期間の貯蔵後製剤中のオキサリプラティヌム含量が当初含量の少なくとも95%を示し,溶液が澄明,無色,沈殿不含有のままである,腸管外経路投与用のオキサリプラティヌムの安定な医薬製剤である。この製剤は他の成分を含まず,原則として,約2%を超える不純物を含んではならない。(甲2〔2頁43行な 」いし3頁3行〕) また,原告は,特許庁審査官から,平成15年7月11日付け拒絶理由通知書(乙12の1)を受け,これに対し,本件意見書を提出したが,同意見書(2頁)には次の記載がある。
「[2] 本願発明の説明 本願発明の目的は,本願明細書(3)頁20行〜(4)頁24行に記載のとおり,(1)オキサリプラティヌム水溶液を安定な製剤で得ること,かつ(2)該製剤のpHが4.5〜6であることであり,さらに(3)該水溶液が,酸性またはアルカリ性薬剤,緩衝剤もしくはその他の添加剤を含まないことである。
本願の上記溶液のpHは該溶液に固有のものであり,オキサリプラティヌムの 29 水溶液の濃度にのみ依存する。オキサリプラティヌムは下記[3]に詳述するとおり,有機金属錯体であり,配位結合が非常に弱いという性質をもつ。このため,本願発明の構成においてのみ,安定な水溶液を得ることができる。」 本件明細書及び本件意見書の上記記載に加え,前記前提事実,証拠(甲2,乙5,7,9,12の1ないし12の3,13)及び弁論の全趣旨によれば,本件発明は, 「オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤」に関するものであって,医薬品の成分全体に関する発明であるところ,オキサリプラティヌム(オキサリプラチン)は,本件特許の優先日前の公知物質であって,これを有効成分として制癌剤に用いることも,同優先日前に公知であったことが認められるから,本件発明は,新規化合物に関する発明や特定の化合物を特定の医薬用途に用いることに関する発明など,医薬品の有効成分のみを特徴的部分とする発明ではなく,製剤に関する発明であって,医薬品の成分全体を特徴的部分とする発明であると認められる。
ウ 検討 上記のとおり,本件発明は,「オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤」に関する発明であり,医薬品の成分全体を特徴的部分とする発明であって,原告は,その実施として, 「オキサリプラチン」と「注射用水」のみを含み,それ以外の成分を含まないとするエルプラット点滴静注液(製剤)について本件各処分を受けたものである。これに対し,前記前提事実,上記(1)エ及び(2)の各認定事実,証拠(乙4)並びに弁論の全趣旨によれば,被告各製品は, 「オキサリプラチン」と「水」又は「注射用水」のほか,有効成分以外の成分として,「オキサリプラチン」と等量の「濃グリセリン」を含有するもので,オキサリプラチンを水に溶解したもの(以下,「オキサリプラチン」と「水」又は「注射用水」以外の成分の有無を問わず, 「オキサリプラチン水溶液」という。)にグリセリンを加えたのは,オキサリプラチン水溶液の保存中に,オキサリプラチンの分解が徐々に進行し,類縁物質であるジアクオDACHプラチンやその二量体であるジアクオDACHプラチン二量体を主とした種々の不純物が生成するため,オキサリプラチンの自然分解自体を抑制するということを目的とし 30 たものであることが認められる。これを,本件発明との関係でみると,被告各製品について政令処分を受けるのに必要な試験が開始された時点において,オキサリプラチン水溶液にオキサリプラチンと等量の濃グリセリンを加えることが,単なる周知技術 慣用技術の付加等に当たると認めるに足りる証拠はなく, ・むしろ,オキサリプラチン水溶液に添加したグリセリンによりオキサリプラチンの自然分解を抑制するという点で新たな効果を奏しているとみることができる(なお,本件各処分の対象となった「当該用途に使用される物」については,保存中にオキサリプラチンが自然分解し,シュウ酸を含有するに至ることがあることは,前示のとおりである。また,オキサリプラチン水溶液に添加されたシュウ酸がオキサリプラチンの自然分解を抑制することは知られているが,シュウ酸は人体に有害な物質である。。
) そうすると,被告各製品は,「オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤」に関する発明であって,医薬品の成分全体を特徴的部分とする本件発明との関係では,本件各処分の対象となった物とは有効成分以外の成分が異なる物であり,当該成分の相違は,被告各製品について政令処分を受けるのに必要な試験が開始された時点において,本件発明との関係では,単なる周知技術慣用技術の付加等に当たるとはいえず,新たな効果を奏するものというべきである。
したがって, 「分量,用法,用量,効能,効果」について検討するまでもなく,被告各製品は,本件各処分の対象となった「当該用途に使用される物」の均等物ないし実質同一物に該当するということはできない。
この点,原告は,被告各製品に含まれる「濃グリセリン」があくまで「添加物」であるとか,被告各製品は,本件各処分の対象となった物(エルプラット50,エルプラット100及びエルプラット200)と生物学的同等性を有することを前提に,本件各処分で用いられた臨床成績をそのまま利用して承認を得たものであるなどと主張する。しかし,被告各製品が,エルプラット点滴静注液と有効成分である「オキサリプラチン」が共通し,生物学的同等性を有するとされており, 「濃グリセリン」それ自体が「添加物」であるとしても,上記のとおり,オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤」 「 に関する本件発明が, 31 医薬品の有効成分のみを特徴的部分とする発明ではなく,医薬品の成分全体を特徴的部分とする発明であって,そのような本件発明との関係では,上述した有効成分以外の成分の相違は,単なる周知技術慣用技術の付加等には当たらず,新たな効果を奏するものというべきであることからすれば,有効成分である「オキサリプラチン」が共通し,生物学的同等性を有するとされていることをもって,直ちに均等物ないし実質同一物と認めることはできないのであって,原告の上記主張は,採用することができない。
(4) 小括 以上によれば,被告各製品は,本件各処分の対象となった「(当該用途に使用される)物」ではなく,その均等物ないし実質同一物に該当するものということもできない。したがって,存続期間が延長された本件特許権の効力は,被告による被告各製品の生産等には及ばないものというべきである。
2 結論 以上の次第で,本件各請求は,その余の争点につき検討するまでもなく,いずれも理由がないから,これらを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 嶋末和秀
裁判官 鈴木千帆
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