• この表をプリントする
  • ポートフォリオ機能


追加

この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成23ワ34237特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成23ワ26676特許権侵害行為差止等請求事件 判例 特許
平成23ワ35723 特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成24行ケ10275審決取消請求事件 判例 特許
平成23ワ32488特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 平成 24年 (ワ) 14227号 損害賠償請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 東京地方裁判所 
判決言渡日 2014/05/22
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
判例全文
判例全文
平成26年5月22日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

平成24年(ワ)第14227号 損害賠償請求事件

口頭弁論の終結の日 平成26年3月20日

判 決

徳島県阿南市<以下略>

原 告 日 亜 化 学 工 業 株 式 会 社

同訴訟代理人弁護士 古 城 春 実

牧 野 知 彦

堀 籠 佳 典

加 治 梓 子

同訴訟復代理人弁護士 八 木 啓 介

同 補 佐 人 弁 理 士 蟹 田 昌 之

大阪府守口市<以下略>

被 告 三 洋 電 機 株 式 会 社

同訴訟代理人弁護士 尾 崎 英 男

上 野 潤 一

日 野 英 一 郎

今 田 瞳

鷹 見 雅 和

主 文

1 被告は,原告に対し,1億円及びこれに対する平成

24年5月26日から支払済みまで年5分の割合に

よる金員を支払え。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

3 この判決は仮に執行することができる。

事 実 及 び 理 由
1
第1 請求

被告は,原告に対し,1億円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払

済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

本件は,p型窒化ガリウム系化合物半導体の製造方法に関する特許権を有し

ていた原告が,(1)被告は,窒化ガリウム系化合物半導体レーザー素子を組み

込んだ半導体レーザー製品を製造,販売して原告の特許権を侵害し,これによ

り損害を受けた,(2)被告は原告に無断で原告の特許権に係る発明を実施して

法律上の原因なく利得し,そのために原告に損失を及ぼしたとして,不法行為

による損害賠償請求権又は不当利得返還請求権に基づき,平成14年3月から

平成23年12月24日までの間に原告が受けた実施料相当額の損害又は被告

が受けた実施料相当額の利益12億5000万円のうちの1億円及びこれに対

する不法行為の後であり,訴状送達により支払を催告した日の翌日から支払済

みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに各項末尾掲記の証拠及び弁論の

全趣旨により容易に認められる事実)

(1) 原告の特許権

ア 原告は,平成3年12月24日,発明の名称を「p型窒化ガリウム系化

合物半導体の製造方法」とする発明について特許出願し,平成8年7月2

5日に特許権(特許番号第2540791号。以下「本件特許権」といい,

この特許を「本件特許」という。)の設定の登録がされた。請求項の数は

4である。

イ 本件特許に対し特許異議の申立てがされ,これが特許庁に係属していた

平成9年9月24日,原告は,特許請求の範囲減縮又は明りょうでない

記載の釈明を目的として,願書に添付した明細書の訂正を請求した(以下,

この訂正を「本件訂正」という。)。本件訂正は,特許請求の範囲の請求
2
項1を訂正し,明細書の発明の詳細な説明の段落【0008】を訂正する

という内容を含むものである。本件訂正前後の特許請求の範囲の請求項1

の記載は次のとおりである。

(ア) 本件訂正前の記載

【請求項1】気相成長法により,p型不純物がドープされた窒化ガリ

ウム系化合物半導体を成長させた後,400℃以上の温度でアニーリン

グを行うことを特徴とするp型窒化ガリウム系化合物半導体の製造方法

(イ) 本件訂正後の記載(訂正部分に下線を付す。)

【請求項1】気相成長法により,p型不純物がドープされた窒化ガリ

ウム系化合物半導体を成長させた後,実質的に水素を含まない雰囲気中,

400℃以上の温度でアニーリングを行い,上記p型不純物がドープさ

れた窒化ガリウム系化合物半導体層から水素を出すことを特徴とするp

型窒化ガリウム系化合物半導体の製造方法

ウ 特許庁は,平成1 0年2月18日, 上記特許異議申立事件 について,

「訂正を認める。特許第2540791号の請求項1ないし4に係る特許

を維持する。」との決定をし,上記決定は,そのころ確定した。

(甲2の2・3,乙3の1ないし12)

(2) 被告の行為

被告は,平成23年12月24日までの間,業として,p型窒化ガリウム

系化合物半導体を利用 したレーザー素子 を組み込んだ半導体レ ーザー製品

(以下「被告製品」という。)を製造,販売した。

(3) 被告製品の中のp型窒化ガリウム系化合物半導体を製造する方法(以下

「被告方法」という。)における本件特許に係る発明の構成要件充足性

ア 本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本件発明」

という。)を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,分説した

構成要件をそれぞれの符号に従い「構成要件A」のようにいう。)。
3
A 気相成長法により,p型不純物がドープされた窒化ガリウム系化合物

半導体を成長させた後,

B 実質的に水素を含まない雰囲気中,

C 400℃以上の温度でアニーリングを行い,

D 上記p型不純物がドープされた窒化ガリウム系化合物半導体層から水

素を出す

E ことを特徴とするp型窒化ガリウム系化合物半導体の製造方法

イ 被告方法

被告方法は,MOCVDにより,Mgがドープされた窒化ガリウム系化

合物半導体を成長させた後,400度以上の温度でアニーリングを行うこ

とを特徴とするp型窒化ガリウム系化合物半導体の製造方法であり,本件

発明の構成要件A,C及びEを充足する。

2 争点

争点は,本件発明の構成要件B及びDに対比される被告方法の構成,被告方

法における本件発明の技術的範囲の属否であり,これに関する当事者の主張は,

次のとおりである。

(1) 争点(1)(本件発明の構成要件B及びDに対比される被告方法の構成)に

ついて

ア 原告

被告方法は,アニーリングにより低抵抗なp型窒化ガリウム系化合物半

導体を得ることの妨げにならない程度にしか水素を含まない雰囲気又はほ

ぼ0%から理論的な最大値で1.3%のアンモニアを含む雰囲気中,40

0℃以上の温度でアニーリングを行い,これにより,Mgがドープされた

窒化ガリウム系化合物半導体から水素を出すというものである。

イ 被告

被告方法は,1.3%のアンモニアを含む,窒素ガスとアンモニアガス
4
の混合雰囲気中,400℃以上の温度でアニーリングを行うものであり,

その際に,Mgがドープされた窒化ガリウム系化合物半導体から水素を出

すかについては確認したことがない。

(2) 争点(2)(被告方法における本件発明の技術的範囲の属否)について

ア 被告方法が本件発明の構成要件B及びDを充足するか。

(ア) 原告

a 本件発明の構成要件Bについて

(a) 従来,窒化ガリウムにおいてp型ができなかった理由の一つは,

窒化ガリウムを気相成長法で成長させる場合に,窒素の原料として

用いるアンモニアが半導体層の成長中に原子状水素となって,Mg

などのp型不純物と結合して,p型不純物がアクセプターとして機

能することを妨げたことにある。本件発明は,このような原理的な

問題に対し,半導体層を成長させた後にアニーリングを行い,その

熱によって,Mg−H,Zn−H等の形で結合している水素を解離

し,当該水素がp型不純物をドープした窒化ガリウム系化合物半導

体層から出て行くようにすることで,正常にp型不純物がアクセプ

ターとして機能するようにしたものである。そして,特許出願にお

いて,「実質的に…含まない」との用語は様々な技術分野において

多用されるが,その使用例からすると,作用効果を基準に,数値的

には数%程度以下をもって「実質的に…含まない」ものと解釈され

ている。そうであるから,構成要件Bの「実質的に水素を含まない

雰囲気」は,アニーリングにより低抵抗なp型窒化ガリウム系化合

物半導体を得ることの妨げにならない程度にしか水素を含まない雰

囲気を意味する。

(b) 被告方法のアニーリングの雰囲気は,そもそもアニーリングに

より低抵抗なp型窒化ガリウム系化合物半導体を得ることの妨げに
5
ならない程度にしか水素を含まないし,仮に理論的な最大値で1.

3%までのアンモニアを含有していても,アニーリングにより窒化

ガリウム系化合物半導体がp型化しているから,アニーリングによ

り低抵抗なp型窒化ガリウム系化合物半導体を得ることの妨げにな

らない程度にしか水素を含んでいない。そうであるから,被告方法

構成要件Bを充足する。

b 本件発明の構成要件Dについて

被告方法は,アニーリングを行い,Mgがドープされた窒化ガリウ

ム系化合物半導体から水素を出すものであるから,構成要件Dを充足

する。

(イ) 被告

a 本件発明の構成要件Bについて

(a) 「実質的に水素を含まない雰囲気」は,水素を含まない雰囲気

を意味する表現であるが,雰囲気中には通常の方法で除去すること

ができない水素が存在するので,このことを許容するために「実質

的に」という文言を付したものと解される。

このことは,本件特許出願の願書に添付した明細書(以下「本件

明細書」という。)の実施例におけるアニーリング雰囲気が窒素雰

囲気又はアルゴンと窒素の混合ガス雰囲気であり,本件明細書中に

アニーリング雰囲気中に水素を含むことを許容する記載がないこと

からも明らかである。

しかも,原告は,特許異議申立事件において,特許庁が,異議申

立人が提出した「JOURNAL OF CRYSTAL GRO

WTH,42(1977)136〜143(以下「本件刊行物」と

いう。)」には,気相成長法により,p型不純物がドープされた窒

化ガリウ ム系 化合物 半導体 を成 長させ た 後,40 0℃ 以上の 温度
6
(950℃)でアニーリングを行うp型窒化ガリウム系化合物半導

体の製造方法が記載され,本件訂正前の請求項1に記載された発明

と本件刊行物に記載されている発明とが同一であるとして,取消理

由を通知したところ,本件訂正により,本件発明が水素を含まない

雰囲気中でアニーリングを行うことを示して,本件刊行物に記載さ

れている発明と区別し,本件特許を維持したのである。

そうであるから,「実質的に水素を含まない雰囲気」は,通常の

方法では除去することができない程度にしか水素を含まない雰囲気

を意味する。

(b) 1.3%のアンモニアを含む雰囲気中でアニーリングを行う場

合の作用効果は,窒素雰囲気中でアニーリングした場合の作用効果

と異なり,10%のアンモニアを含む雰囲気中でアニーリングした

場合の作用効果と同様であり,1.3%のアンモニアを含む雰囲気

は,通常の方法では除去することができない程度にしか水素を含ま

ない雰囲気であるとはいえないから,被告方法は構成要件Bを充足

しない。

b 本件発明の構成要件Dについて

被告方法では,Mgがドープされた窒化ガリウム系化合物半導体か

ら水素を出すかどうかを確認していないから,構成要件Dを充足する

ということはできない。

イ 被告方法が本件発明と均等なものであるか。

(ア) 原告

仮に構成要件Bの「実質的に水素を含まない雰囲気」が通常の方法で

は除去することができない程度にしか水素を含まない雰囲気を意味し,

被告方法が構成要件Bを充足しないと認められるとしても,その差異は,

被告方法が理論的最大値で1.3%のアンモニアを含む混合ガスを導入
7
した雰囲気である点にあるところ,@被告方法において僅かの水素源を

含ませることに課題解決手段としての本質的な差異はなく,A本件発明

の構成を被告方法に置き換えても,特許発明の目的を達成することがで

き,同一の作用効果を奏し,B被告方法実施時の技術水準において,ア

ニーリングの雰囲気に多少の水素源を加えてもp型化の妨げにならない

ことは,当業者であれば容易に想到することができ,C被告方法が本件

発明に対する公知技術から容易に推考できたものでなく,D本件発明に

は意識的限定などの特段の事情はない。

そうであるから,被告方法は本件発明の構成と均等なものとして本件

発明の技術的範囲に属する。

(イ) 被告

本件訂正によれば,「実質的に水素を含まない雰囲気中」でアニーリ

ングを行うのであるから,アニーリングの雰囲気を通常の方法では除去

することができない程度にしか水素を含まない雰囲気とすることが本件

発明の本質的な部分であり,また,本件訂正は,原告が,「実質的に水

素を含まない雰囲気」以外の雰囲気でアニーリングを行う第三者の行為

に対し本件特許権を行使しない意思を表明したものであるから,明確な

意識的限定を示す行為である。

そうであるから,被告方法は,本件発明の構成と均等なものであると

いうことはできず,本件発明の技術的範囲に属しない。

第3 当裁判所の判断

1 争点(1)(本件発明の構成要件B及びDに対比される被告方法の構成)につ

いて

前記前提事実に,証拠(乙7,8,17ないし19)を総合すれば,被告方

法は,MOCVDにより,Mgがドープされた窒化ガリウム系化合物半導体を

成長させた後,1.3%のアンモニアを含む窒素ガスとアンモニアガスの混合
8
雰囲気中,400度以上の温度でアニーリングを行うことが認められる。また,

証拠(甲39)によれば,アンモニアの流量比が2.5%未満の雰囲気におい

て,400℃以上でアニーリングすると,水素パッシベーション(水素結合)

を発生させることなく,窒化物半導体がp型化することが認められる。

これらを総合すれば,被告方法は,1.3%のアンモニアを含む雰囲気中,

400℃以上の温度でアニーリングを行い,Mgがドープされた窒化ガリウム

系化合物半導体から水素を離脱させるものであることが認められる。

2 争点(2)(被告方法における本件発明の技術的範囲の属否)について

(1) 被告方法が本件発明の構成要件B及びDを充足するか。

ア 本件発明の構成要件Bについて

(ア) 証拠(甲2の3)によれば,(a)本件発明は,紫外,青色発光レー

ザーダイオードや紫外,青色発光ダイオード等の発光デバイスに利用さ

れるp型窒化ガリウム系化合物半導体の製造方法,詳しくは,気相成長

法によりp型不純物をドープして形成した窒化ガリウム系化合物半導体

層を低抵抗なp型にする方法に関する,(b)青色発光素子は,U−Y族

のZnSe,W−W族のSiC,V−X族のGaN等を用いて研究が進

められていて,最近は,その中の窒化ガリウム系化合物半導体[Ga X

Al 1-X N(ただし0≦X≦1)]が常温で比較的優れた発光を示すこと

が発表されて注目されているが,窒化ガリウム系化合物半導体が低抵抗

なp型にできないために,ダブルヘテロ,シングルヘテロ等の数々の構

造の発光素子ができず,窒化ガリウム系化合物半導体を有する青色発光

デバイスは未だ実用化に至っていない,(c)高抵抗なi型を低抵抗化し

てp型に近づけるための手段として特開平2−257679号公報に,

p型不純物としてMgをドープした高抵抗なi型窒化ガリウム化合物半

導体を最上層に形成した後に,加速電圧6ないし30kVの電子線をそ

の表面に照射して,表面から約0.5μmの層を低抵抗化する技術が開
9
示されているが,この方法では電子線の侵入深さ,すなわち,極表面し

か低抵抗化できず,また,電子線を走査しながらウエハー全体を照射し

なければならないために面内均一に低抵抗化できないという問題があっ

た,(d)本件発明は,このような問題を解決するために,p型不純物を

ドープした窒化ガリウム系化合物半導体を低抵抗なp型とし,膜厚によ

らず抵抗値がウエハー全体に均一で,発光素子をダブルヘテロ,シング

ルヘテロ構造可能な構造とできるp型窒化ガリウム系化合物半導体の製

造方法を提供することを目的として,特許請求の範囲の請求項1の構成

を採用した,(e)本件発明のp型窒化ガリウム系化合物半導体の製造方

法は,気相成長法により,p型不純物をドープした窒化ガリウム系化合

物半導体層を形成した後,実質的に水素を含まない雰囲気中,400℃

以上の温度でアニーリングを行い,上記p型不純物がドープされた窒化

ガリウム系化合物半導体層から水素を出すことを特徴とするものであり,

これにより,従来p型不純物をドープしても低抵抗なp型にならなかっ

た窒化ガリウム系化合物を低抵抗なp型にすることができるので,数々

の構造の素子を製造することができ,また,従来の電子線照射による方

法では最上層の極表面しか低抵抗化することができなかったが,アニー

リングによってp型不純物がドープされた窒化ガリウム系化合物半導体

層全体をp型化することができるので,面内均一に,かつ,深さ方向均

一にp型化することができ,しかも,どこの層にでもp型層を形成する

ことができ,さらに,厚膜の層を形成することができるので,高輝度な

青色発光素子を得ることができるという作用効果を奏する,以上の事実

が認められる。

(イ) 「実質」とは,「物事の内容または本質」を意味し,「実質的」と

は,「実際に内容が備わっているさま。また,外見や形式よりも内容・

実質に重点をおくこと。」を意味する(広辞苑第六版)から,構成要件
10
Bの「実質的に水素を含まない雰囲気」との文言は,文字通り水素を全

く含まない雰囲気ではなく,水素を含んでいても,その内容や本質にお

いて,水素を含まないと認められる雰囲気をいうと解される。

そして,証拠(甲2の3)によれば,本件明細書の発明の詳細な説明

には,「【0009】アニーリング(Annealing:焼きなまし)はp型

不純物をドープした窒化ガリウム系化合物半導体層を形成した後,反応

容器内で行ってもよいし,ウエハーを反応容器から取り出してアニーリ

ング専用の装置を用いて行ってもよい。アニーリング雰囲気は真空中,

N 2 ,He,Ne,Ar等の不活性ガス,またはこれらの混合ガス雰囲

気中で行い,最も好ましくは,アニーリング温度における窒化ガリウム

系化合物半導体の分解圧以上で加圧した窒素雰囲気中で行う。なぜなら,

窒素雰囲気として加圧することにより,アニーリング中に,窒化ガリウ

ム系化合物半導体中のNが分解して出て行くのを防止する作用があるか

らである。」,「【0021】アニーリングにより低抵抗なp型窒化ガ

リウム系化合物半導体が得られる理由は以下のとおりであると推察され

る。【0022】即ち,窒化ガリウム系化合物半導体層の成長において,

N源として,一般にNH 3 が用いられており,成長中にこのNH 3 が分解

して原子状水素ができると考えられる。この原子状水素がアクセプター

不純物としてドープされたMg,Zn等と結合することにより,Mg,

Zn等のp型不純物がアクセプターとして働くのを妨げていると考えら

れる。このため,反応後のp型不純物をドープした窒化ガリウム系化合

物半導体は高抵抗を示す。【0023】ところが,成長後アニーリング

を行うことにより,Mg−H,Zn−H等の形で結合している水素が熱

的に解離されて,p型不純物をドープした窒化ガリウム系化合物半導体

層から出て行き,正常にp型不純物がアクセプターとして働くようにな

るため,低抵抗なp型窒化ガリウム系化合物半導体が得られるのである。
11
従って,アニーリング雰囲気中にNH 3 ,H 2 等の水素原子を含むガスを

使用することは好ましくない。また,キャップ層においても,水素原子

を含む材料を使用することは以上の理由で好ましくない。」との記載が

あることが認められる。これらの記載に前記(ア)認定の事実を併せ考え

ると,本件発明は,アニーリングという技術手段を採用して,これによ

り,p型不純物をドープした窒化ガリウム系化合物半導体から水素を出

すという作用が生じ,p型窒化ガリウム系化合物半導体が製造されると

いう効果が得られるというものである。そして,この場合のアニーリン

グ雰囲気は,真空中,N 2 ,He,Ne,Ar等の不活性ガス又はこれ

らの不活性ガスの混合ガス雰囲気中で行うのが好ましく,さらに,アニ

ーリング温度における窒化ガリウム系化合物半導体の分解圧以上で加圧

した窒素雰囲気中で行うのが最も好ましいとされる。これに対し,アニ

ーリング雰囲気中にNH 3 ,H 2 等の水素原子を含むガスを使用したりキ

ャップ層に水素原子を含む材料を使用することは,p型不純物に結合し

た水素原子を熱的に解離するというp型のための反応が進行せず,上記

作用効果を奏しないことがあるので好ましくないとされるが,逆に,p

型不純物に結合した水素原子を熱的に解離するというp型化のための反

応が進行して,上記作用効果を奏することもあると考えられることから,

アニーリング雰囲気中にNH 3 ,H 2 等の水素原子を含むガスを使用した

り,キャップ層に水素原子を含む材料を使用することが排除まではされ

ていないということができる。

そうであれば,構成要件Bの「実質的に水素を含まない雰囲気」とは,

このような作用効果を奏するような雰囲気,言い換えれば,アニーリン

グにより低抵抗なp型窒化ガリウム系化合物半導体を得ることの妨げに

ならない程度にしか水素を含まない雰囲気を意味するものと解するのが

相当である。
12
(ウ) 被告は,次のように主張して,構成要件Bの「実質的に水素を含ま

ない雰囲気」が通常の方法で除去することができない程度にしか水素を

含まない雰囲気を意味するとする。

a 被告は,本件明細書の実施例におけるアニーリング雰囲気は窒素雰

囲気又はアルゴンと窒素との混合ガス雰囲気であり,本件明細書中に

アニーリング雰囲気中に水素を含むことを許容する記載はないと主張

する。

証拠(甲2の3)によれば,本件明細書の発明の詳細な説明には,

6の実施例が掲げられていて,そのうちの実施例1及び3ないし6で

は,窒素雰囲気中でアニーリングを行い,実施例2では窒素とアルゴ

ンの混合ガス雰囲気中でアニーリングを行っていること(段落【00

24】ないし【0041】)が認められる。しかしながら,実施例は

発明の好ましい態様を開示したものであって,特許発明技術的範囲

実施例に限定されるわけではないし,本件明細書の発明の詳細な説

明の段落【0023】には,アニーリング雰囲気中に水素原子を含む

ガスを使用することが「好ましくない」と記載されているものの,水

素を含む雰囲気中でのアニーリングが排除されていないことは,前示

のとおりである。

被告の上記主張は,採用することができない。

b 被告は,原告が,本件訂正により,本件発明が水素を含まない雰囲

気中でアニーリングを行うことを示して,本件刊行物に記載されてい

る発明と区別して本件特許を維持したと主張する。

証拠(甲2の1,乙3の7ないし3の9,3の11,3の12)に

よれば,原告は,特許異議申立事件において,特許庁から,本件刊行

物には気相成長法により,p型不純物がドープされた窒化ガリウム系

化合物半導体を成長させた後,400℃以上の温度(950℃)でア
13
ニーリングを行うp型窒化ガリウム系化合物半導体の製造方法が記載

されているから,本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に記載され

た発明と本件刊行物に記載されている発明とは同一であるとして,特

許法29条1項3号の規定により特許を受けることができないとの取

消しの理 由の通知 を受け て,本 件訂正 を 請求し, その原因 として ,

「実質的に水素を含まない雰囲気中,400℃以上の温度でアニーリ

ングを行い,上記p型不純物がドープされた窒化ガリウム系化合物半

導体層から水素を出す」ことは特許明細書の段落【0023】に記載

されていたものであると述べ,また,併せて,本件刊行物には,95

0℃で,高抵抗のGaN:Zn層をNH 3 分圧が0.15気圧である

NH 3 −N 2 混合雰囲気下でアニールされることが記載されていると

ころ,このような雰囲気条件はアニーリング温度で分解して原子状水

素を供給するので,実質的に水素を含み,本件発明の雰囲気条件「実

質的に水素を含まない」と相異するとの意見を述べたことが認められ

る。

上記認定の事実によれば,原告は,取消理由を解消するために,本

件刊行物に記載されている発明が,実質的に水素を含む雰囲気中でア

ニーリングを行う発明であると評価して,実質的に水素を含まない雰

囲気中でアニーリングを行う本件発明と相違するとの意見を述べてい

るのであって,原告が,「実質的に水素を含まない雰囲気」をもって,

「通常の方法で除去することができない程度にしか水素を含まない雰

囲気」を意味すると主張したということはできない。

被告の上記主張は,採用することができない。

(エ) 被告方法は,1.3%のアンモニアを含む雰囲気中でアニーリング

を行い,これにより,p型窒化ガリウム系化合物半導体を製造するので

あって,アニーリング雰囲気中の1.3%のアンモニアから生じる水素
14
原子は,窒化ガリウム系化合物半導体をp型化することを妨げていない。

そうであ るから, 被告方 法は, アニー リ ングによ り低抵抗 なp型 窒

化ガリウム系化合物半導体を得ることの妨げにならない程度にしか水素

を含まない雰囲気中でアニーリングを行うものであって,本件発明の構

成要件Bを充足する。

イ 本件発明の構成要件Dについて

被告方法は,Mgがドープされた窒化ガリウム系化合物半導体から水素

を離脱させるというものであって,Mgはp型不純物であり,窒化ガリウ

ム系化合物半導体から水素を離脱させることは,窒化ガリウム系化合物半

導体から水素を出すものであるから,被告方法は,本件発明の構成要件

を充足する。

(2) したがって,被告方法は,本件発明の技術的範囲に属する。

3 以上によれば,被告が被告方法により製造したp型窒化ガリウム系化合物半

導体を利用したレーザー素子を組み込んだ被告製品を製造,販売した行為は本

件特許権を侵害し,かつ,これについて過失があったことを覆すに足りる証拠

はないから,原告は,被告に対し,本件特許権の侵害により自己が受けた損害

の賠償を請求することができる。

平成15年7月から平成23年12月24日までの間の被告製品の売上額が

51億7487万2414円を下らないこと,本件発明の実施に対し原告が受

けるべき金銭の額が被告製品の売上額の5%に相当する額であることは,当事

者間に争いがなく,これらの事実によれば,本件発明の実施に対し原告が受け

るべき金銭の額は,2億5874万3620円を下らない(51億7487万

2414円×5%=2億5874万3620円(小数点以下切捨て))。そう

すると,原告は,被告に対し,少なくとも2億5874万3620円を自己が

受けた損害額としてその賠償を請求することができる。

4 以上のとおりであって,原告は,被告に対し,不法行為に基づく損害賠償請
15
求権に基づき,2億5874万3620円のうち1億円及びこれに対する不法

行為の後で訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな平成24年5月2

6日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め

ることができる。

よって,原告の請求を認容することとして,主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第47部




裁判長裁判官 高 野 輝 久




裁判官 三 井 大 有




裁判官 藤 田 壮




16

  • この表をプリントする