関連審決 | 異議2000-74428 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成18行ケ10550審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成18行ケ10033審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成19行ケ10007審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成18行ケ10065特許取消決定取消請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 発明者 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 相違点の判断 / 技術常識 / 分割出願 / 原出願日 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 設定登録 / 請求の範囲 / 訂正明細書 / 取消決定 / |
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事件 |
平成
15年
(行ケ)
198号
特許取消決定取消請求事件
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原告 大阪瓦斯株式会社 訴訟代理人弁理士 青山葆 同 田中光雄 同 矢野正樹 同 川原英昭 被告 特許庁長官小川 洋 指定代理人 大黒浩之 同 石井良夫 同 金公彦 同 大野克人 同 立川功 同 涌井幸一 同 宮下正之 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2004/07/22 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求める裁判
1 原告 (1) 特許庁が異議2000-74428号事件について平成15年3月26日にした決定中「特許第3050850号の請求項1ないし3に係る特許を取り消す。」との部分を取り消す。 (2) 訴訟費用は被告の負担とする。 2 被告 主文同旨 |
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当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 (1) 原告は,発明の名称を「燃料電池発電システム」とする特許第3050850号の特許(平成元年5月17日にした特願平1-123420号の出願(以下「原出願」という。)の一部の分割出願として平成10年8月28日に特許出願(以下「本件出願」という。),平成12年3月31日設定登録。以下「本件特許」という。請求項の数は3である。)の特許権者である。 (2) 本件特許の請求項のすべてについて,特許異議の申立てがなされ,その申立ては,異議2000-74428号事件として審理された。原告は,この審理の過程で,本件出願の願書に添付した明細書の訂正(以下「本件訂正」といい,訂正後の全文訂正明細書を,願書に添付した図面と併せて「本件明細書」という。)を請求した。特許庁は,平成15年3月26日,「訂正を認める。特許第3050850号の請求項1ないし3に係る特許を取り消す。」との決定をし,同年4月15日,その謄本を原告に送達した。 2 特許請求の範囲 「【請求項1】原燃料を硫黄含有量1vol.ppb以下に脱硫し,この脱硫燃料をS/Cが3.3以下で水素を主成分とするガスに改質し,この改質ガスを燃料電池用燃料として使用する燃料電池の発電方法。」(以下「本件発明1」という。) 「【請求項2】原燃料の硫黄含有量を0.1vol.ppb以下に脱硫する請求項1に記載の方法。」(以下「本件発明2」という。) 「【請求項3】原燃料が気体燃料である請求項1または2いずれかに記載の方法。」(以下「本件発明3」という。) 3 決定の理由 別紙決定書の写しのとおりである。要するに,本件発明1ないし3は,いずれも原出願の日である平成元年5月17日より前に日本国内で頒布された,「燃料電池の技術と経済性」(R&DReport NO.63,潟Vーエムシー・1985年3月5日発行,1〜16頁)(以下,決定と同じく「刊行物1」という。),特開昭61-163568号公報(以下,決定と同じく「刊行物2」という。),「燃料協会誌」(第68巻第2号,社団法人燃料協会・平成元年2月20日発行,124〜129頁)(以下,決定と同じく「刊行物3」という。),「化学装置」(第14巻第10号,轄H業調査会・昭和47年10月1日発行,24〜31頁)(以下,決定と同じく「刊行物4」という。),特開平1-123627号公報(以下,決定と同じく「刊行物5」という。)記載の各発明(以下,刊行物1に記載された発明を「引用発明」という。)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである,というものである。 決定が上記結論を導くに当たり認定した本件発明1と引用発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。 (一致点) 原燃料を脱硫し,この脱硫燃料をS/Cが3〜3.3の範囲で水素を主成分とするガスに改質し,この改質ガスを燃料電池用燃料として使用する燃料電池の発電方法である点。 (相違点) 本件発明1では,「原燃料を硫黄含有量1vol.ppb以下に脱硫」しているのに対し,引用発明では,「脱硫」しているものの,どの程度まで脱硫しているか明確でない点(以下「相違点」という。)。 |
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原告主張の決定取消事由の要点
決定は,以下のとおり,本件発明1と引用発明との相違点に関する判断を誤ったものであり,この誤りが各請求項についての結論に影響を及ぼすことは明らかである。 1 決定は,「刊行物1〜4の記載から燃料電池用燃料の脱硫はより低い硫黄含有量とすることにより,より良い結果が得られることが知られていると云える。」としている(決定書8頁36〜37行)。しかし,この認定は誤りである。 (1) 刊行物1ないし4からは,せいぜい「燃料電池用燃料は改質前に脱硫しなければならない。その脱硫レベルは,0.1ppm以下にすべきである。」という技術的事項が導かれるに過ぎないのであり,決定がいうように,「燃料電池用燃料の脱硫はより低い硫黄含有量とすることにより,より良い結果が得られること」が明らかにされているとはいえない。 すなわち,相違点自体から明らかなように,刊行物1には,燃料電池用燃料は改質前に脱硫しなければならないことが記載されているだけで,硫黄濃度をどの程度まで脱硫すべきかの記載はないし,刊行物2は,必要な脱硫の程度は0.1ppm以下でよいとしているに過ぎない。 また,刊行物3及び4には,燃料電池用燃料に要求される改質前の脱硫レベルの記載はないばかりか,そもそも刊行物3は,メタンを主成分とするガスを製造する低温水蒸気改質に関する文献であり,水素を主成分とするガスを製造する高温水蒸気改質に関する本件発明1の引用例にはならない。 以上のように,「刊行物1〜4から・・・・低い硫黄含有量とすることにより,より良い結果が得られることが知られていると云える」とする決定の認定は,誤りである。 (2) 甲第52号証(図2など)には,触媒毒濃度を下げていくと,ある濃度以下では性能の低下がなくなり,被毒が起こらなくなる現象が見られるとの実験例が明らかにされている。また,甲第46号証には,水蒸気改質反応の実験において,硫黄濃度が5vol.ppb以下になると炭素析出が劇的に変化することが示されている。このように,脱硫触媒の分野においては,濃度を変えると現象が飽和したり,傾向の異なる現象が現れたりするため,予測が極めて難しいのである。したがって,硫黄含有量を低くすれば,良い効果も比例して得られることにはならないのである。 2 決定は,「脱硫対象ガスの点で本件発明1と刊行物5のものとは共通するガスを対象としているのであるから,刊行1発明(判決注・引用発明)の脱硫に刊行物5に記載のものを用いて,その脱硫の程度を刊行物5に記載の程度にすることに格別の阻害要因はない。」としている(決定書9頁8〜11行)。しかし,この判断は誤りである。 (1) 1ppbまで脱硫するには,0.1ppm(=100ppb)まで脱硫するよりも設備とコストがかかるのである。前記のように,原出願の当時,刊行物では改質前の脱硫は0.1ppm以下でよいとされていたのであり(刊行物2),そのような場合,燃料電池用の水素を1円でも安価に製造するように努める当業者は,1ppbまで脱硫しようとはしない。 (2) 原出願日以降に発行された多くの特許公報(甲第9〜第36号証)によれば,原出願当時には,燃料電池用の水素を炭化水素から製造する場合,0.1ppm以下の脱硫が必要とされていたが,その後約11〜12年経過した後になって,初めて一部の当業者が1〜50ppbの脱硫が必要であることに気付き始めたことが認められるのである。 (3) 刊行物5には,炭化水素を0.1ppbまで脱硫した後に改質することが記載されているけれども,この記載は,水素が主成分のコークス炉ガスをメタンに改質するメタン化反応についてのものであって,本件発明1のような水素を製造する高温水蒸気改質反応についてのものではない。刊行物5には高温水蒸気改質によって製造された水素を燃料電池に使用する場合に要求される脱硫の程度については,記載も示唆もない。そもそも,メタン化反応の場合と,高温水蒸気改質反応の場合とでは,触媒被毒の程度は異なるのであるから,刊行物5は引用例として適切なものではない。 (4) 以上のように,引用発明の燃料電池において,刊行物5の脱硫の程度を組み合わせてみようとする動機付けはないというべきであり,引用発明に刊行物5に記載の発明を用いて本件発明1の「硫黄含有量を1ppb以下に脱硫」という構成を見出すことは,当業者が容易に想到し得るものではない。 3 決定は,本件発明1の効果について「当業者が予測し得る範囲内であって,格別のものとすることはできない。」と判断している(決定書9頁24〜25行)。 しかしながら,本件発明1は,炭素析出を含む硫黄被毒について格別の効果を生ずるものであり,その効果をもたらすための構成の採用には困難性がある。したがって,決定の上記判断は誤りである。 4 以上のとおり,決定は,本件発明1と引用発明との相違点の判断を誤って,本件発明1の容易想到性の判断を誤ったものであり,この誤った判断に基づく本件発明2及び3についての判断も誤りである。 |
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被告の反論の要点
1 原告の主張1について 刊行物1ないし4の記載内容については,決定が認定しているとおりであり,その点については当事者間に争いがないのである。そして,これらの記載から「燃料電池用の燃料の脱硫はより低い硫黄含有量とすることにより,より良い結果が得られる。」といえることが明らかである。 2 原告の主張2について (1) 原料中の硫黄含有量が多くなれば,被毒が増大し,触媒活性を低下させ,触媒の劣化を早めることになるのであるから,「燃料電池用燃料の脱硫はより低い硫黄含有量とすることにより,より良い結果が得られる」といえるのであり,当業者であれば0.1ppm以下のより低いレベルまで脱硫し,触媒活性の低下を防止し,触媒寿命の長期化を図ろうとすることは当然である。 (2) 硫黄が微量に含まれるだけで触媒被毒となり,触媒寿命に影響するのであるから,燃料電池の分野において高活性,長寿命化は普遍的な技術課題であって,望ましくは硫黄が全くないのがよいのである。したがって,原告が主張するような「脱硫の程度は0.1ppm以下でよい」などといえないことは明白である。原告自身が出願した発明に係る特開昭60-238389公報によれば,原出願時の技術常識として0.02ppmよりさらに高次の脱硫が求められていたことが認められるのである。高活性の触媒や長時間の触媒寿命を図るためには,0.1ppm以下のより低い脱硫レベルが求められるから,燃料電池発電において,1ppbまで脱硫する装置があれば,これを用いようとする動機付けがあることは明らかである。 3 原告の主張3について 刊行物3の記載によれば,硫黄被毒の防止により,炭素析出も防止されることが分かるのであり,硫黄被毒の防止のために脱硫をするのであるから,原告主張の効果は,当業者が予測し得る範囲内であって,格別のものとすることはできない。 4 原告の主張4について 本件発明1に進歩性がないことは明らかであるから,本件発明2及び3にも進歩性がないことはいうまでもない。 |
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当裁判所の判断
1 原告の主張1について (1) 原告は,刊行物1ないし4から,「燃料電池用燃料の脱硫はより低い硫黄含有量とすることにより,より良い結果が得られることが知られていると云える。」とした決定は誤りであり,これらの刊行物からは,「燃料電池用燃料は改質前に脱硫しなければならない。その脱硫レベルは,0.1ppm以下にすべきである。」という技術的事項が導かれるに過ぎないと主張する。 (2) そこで,各刊行物の記載を見るに, ア 刊行物1(甲第4号証)には,「燃料改質装置は,天然ガス,ナフサあるいは石炭などからイオウ化合物を除く脱硫器,脱硫されたガスを水素と一酸化炭素に改質するリフォーマ(改質器),・・・・から成る。原料中にイオウが含まれると,リフォーマの触媒および燃料電池電極の白金触媒に被毒物質として働くので,これを除去しなければならない。」(15頁)と記載されていること, イ 刊行物2(甲第5号証)には,「燃料電池発電プラントでは,原料ガス(例えば,メタン,プロパン,ブタン,ナフサ等)の改質用触媒の被毒防止のため,原料ガス中の硫黄分を0.1ppm以下に低減するための脱硫装置が必要である。」(1頁左下欄17行〜右下欄1行)と記載されていること, ウ 刊行物4(甲第7号証)には,「水素化脱硫触媒」に関して「アンモニア・水素プラントに使用される炭化水素の種類は,天然ガス(メタン),ブタン,ナフサ,エチレンプラントオフガス,製油所オフガス,アセチレンプラントオフガス,その他多岐にわたっている。これら原料中には・・・・硫黄化合物たとえばH2S,COSなどの無機硫黄,RSH,RSR,RSSR,チオフェンなどの有機硫黄や窒素化合物も含まれている。これらの各成分はいずれもリフォーミング触媒の活性を低下させカーボンの生成,ひいては触媒の崩壊を招くので・・・・硫黄化合物はSとして1ppm以下,実質的には0.5ppm以下に除去する必要がある。」(25頁右欄2〜23行)と記載されていること, が認められる。 (3) 上記各刊行物の記載によれば,原料ガスを改質して燃料電池用燃料とする際,原料ガス中に含まれる硫黄分が改質触媒を被毒し,触媒活性を低下させるため,硫黄分を一定濃度以下になるように除去する必要のあることが示されているものということができる。 そして,触媒の被毒物質は「それが微量含まれているだけで触媒の活性を低下させ,触媒を劣化させる,触媒にとって所謂『毒』となるもの」であるから(乙第1,2号証),硫黄が触媒被毒の原因物質である以上,被毒による触媒活性の低下等を防止するために,硫黄分を可能な限り少なくなるように除去すべきことは,当業者が当然に認識し得ることであり,上記各刊行物に接した当業者は,「燃料電池用燃料の脱硫はより低い硫黄含有量とすることにより,より良い結果が得られる」ことを当然に理解するものということができる。 (4) 原告は,甲第52号証,甲第46号証に基づき,脱硫触媒の分野では,濃度を変えると現象が飽和したり,傾向の異なる現象が現れ,予測が難しいと主張する。 しかしながら,甲第52号証,甲第46号証は,硫黄成分を一定の濃度以下に低減することによって,予想外に触媒被毒防止効果が飽和したとか,かえって悪化するということを示しているものではないことが明らかである。 前記各刊行物の記載によれば,触媒被毒の原因物質である硫黄をできるだけ除去すべきであることが知られていたのであり,硫黄含有量を低下させれば触媒被毒が低減すると予想する方が自然である。そして,甲第52号証も甲第46号証も,硫黄含有量を低下し過ぎると,触媒被毒の防止にとって好ましくない事態が現われるとか,その可能性があるというようなことを示唆する内容を含むものではない。 (5) 以上のとおりであって,「燃料電池用燃料の脱硫はより低い硫黄含有量とすることにより,より良い結果が得られることが知られている」とした決定の認定に誤りはなく,原告の主張1は理由がない。 2 原告の主張2について (1) 刊行物5(甲第8号証)には,「本発明者は・・・・共沈法により製造した酸化銅-酸化亜鉛混合物を水素還元することにより,各種のガス及び油中の硫黄含有量を0.1ppb若しくはそれ以下のレベルにまで低下させることが出来ることを見出した。」(1頁右下欄7〜12行),「本発明による脱硫剤は,各種のガス中及び油中の有機硫黄及び無機硫黄を0.1ppb又はそれ以下のレベルまで低下させることが出来る。しかも,その性能は,長期にわたり持続する。」(2頁右下欄1〜4行)と記載され,実施例には,コークス炉ガス,LPG,ナフサをそれぞれ0.1ppb以下のレベルまで脱硫した例が記載されている。 以上によれば,刊行物5には,各種のガス及び油(実施例では,LPGやナフサ)中の硫黄含有量を0.1ppb若しくはそれ以下のレベルまで脱硫させることが可能な触媒が開示されており,その対象となるLPG,ナフサは,本件明細書(甲第3号証)の【0003】に例示されているように,燃料電池用の原燃料となるものである。 そうすると,前記のとおり,燃料電池用燃料の脱硫に関し,被毒による触媒活性の低下等を防止するために,原料に含まれる硫黄分を可能な限り低いレベルまで脱硫しようとすることは,当業者が当然認識し得ることであるから,引用発明に接した当業者が,低レベルまでの脱硫の実現という目的の下に,引用発明の燃料電池用燃料の原燃料の脱硫に,刊行物5に記載された触媒を適用することは,容易に想到し得るものということができる。 (2) 原告は,原出願当時の技術水準では,改質前の脱硫は0.1ppm以下でよいとされていたから,1ppbまで脱硫しようという動機付けに欠ける旨主張する。 確かに,刊行物2には,脱硫レベルの具体的数値として,「0.1ppm以下」との記載があることは,前記のとおりである。しかし,既に述べたとおり,硫黄が触媒被毒の原因物質である以上,被毒による触媒活性の低下等を防止するためには,硫黄分を可能な限り少なくなるよう除去すべきであることは,当業者が当然に認識し得ることであるから,刊行物2に上記のような記載しかなかったからといって,当時,当業者にとって,さらに低いppbのレベルまで硫黄を除去しようとする動機付けがなかったということになるものではない。 (3) また,原告は,刊行物5は,コークス炉ガスをメタンに改質するメタン化反応についてのものであって,引用例として適切なものではないとも主張する。 しかし,刊行物5において触媒の被毒防止について言及する具体例がコークス炉ガスに関するものであるとしても,前記のとおり,刊行物5に記載された発明は,燃料電池用燃料の原燃料であるLPG,ナフサなどを低レベルに脱硫するという点で,引用発明と同じ目的を有しているのであるから,引用発明に刊行物5記載の発明を組み合わせることに特段の困難はないというべきであり,原告の主張は失当である。 (4) 以上からすると,「刊行1発明(判決注・引用発明)の脱硫に刊行物5に記載のものを用いて,その脱硫の程度を刊行物5に記載の程度にすることに格別の阻害要因はない。」とした決定の判断に誤りはなく,したがって,「・・・・本件発明1の「硫黄含有量を1ppb以下に脱硫」という構成を見出すことは,当業者が容易に為し得るものと云える。」とした決定の判断にも誤りがない。 3 原告の主張3について (1) 原告は,本件発明には炭素析出を含む硫黄被毒について格別の効果がある旨を主張する。しかし,本件の原出願の出願当初の明細書(乙第5号証)には,炭素析出防止については何ら記載されていない。炭素析出防止効果は,本件出願時(分割時)に加入されたものであるが,これは炭素析出防止効果が硫黄被毒防止効果に付随する自明の効果であるとの前提があったからであることが明らかである。 そうであるにもかかわらず,炭素析出防止効果が当業者の予測を超える格別な効果であると主張することは,本件明細書に記載されていない効果を主張することとなり,許されない。 (2) 硫黄が触媒被毒の原因物質であることが知られている以上,硫黄濃度を低くすれば,硫黄被毒による触媒活性の低下や触媒の劣化を防止することができることは当業者が当然に予測し得ることであり,また,本件明細書を検討しても,原燃料中の硫黄含有量を1 ppb以下という数値範囲にすることによって,当業者の予測を超えるような顕著な効果があるものとは認められない。 4 原告の主張4について 本件発明1について進歩性を否定した決定の判断に誤りがないことは,前記のとおりであるから,本件発明1についての決定の認定判断の誤りを前提とする原告の主張4は,その前提を欠き,理由がない。 5 結論 以上のとおりであるから,原告主張の取消事由は理由がなく,その他,決定には,これを取り消すべき誤りは見当たらない。 よって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 佐藤久夫 |
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裁判官 | 設樂隆一 |
裁判官 | 若林辰繁 |