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事件 平成 24年 (ワ) 11220号 特許権侵害差止等請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 大阪地方裁判所 
判決言渡日 2013/09/26
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
判例全文
判例全文
平成25年9月26日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官

平成24年(ワ)第11220号 特許権侵害差止等請求事件

口頭弁論終結日 平成25年7月12日

判 決


当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり


主 文

1 原告の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

事 実 及 び 理 由

第1 当事者の求めた裁判

1 原告

(1) 被告は,別紙被告製品目録1及び2記載の各製品を製造し,販売し又は販

売の申出をしてはならない。

(2) 被告は,前項記載の各製品を廃棄し,その製造に必要な金型を除去せよ。

(3) 被告は,原告に対し,3億7509万6791円及びこれに対する平成2

4年10月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(4) 訴訟費用は被告の負担とする。

(5) 仮執行宣言

2 被告

主文同旨

第2 事案の概要

1 前提事実(証拠等の掲記がない事実は当事者間に争いがない又は弁論の全趣

旨により認めることができる。)
(1) 当事者

原告は,給水システム及び消防設備用配管ユニットの製造販売等を業とす

る会社である。

被告は,流体制御機器(バルブ・システム機器等)の製造販売等を業とす

る会社である。

(2) 原告の有する特許権

ア 本件特許権1

原告は,以下の特許(以下「本件特許1」といい,本件特許1に係る発

明を「本件特許発明1」という。また,本件特許1に係る出願の明細書及

び図面を「本件明細書1」という。)に係る特許権(以下「本件特許権1」

という。)を有する。

特許番号 第2909895号

発明の名称 フレキシブルチューブ

出願日 平成10年1月21日

登録日 平成11年4月9日

特許請求の範囲

【請求項1】

両端部に継手が設けられた伸縮可能なチューブ本体にその変形を阻止す

べくブレードが外嵌され且つ該ブレードの両端部が固定手段により前記

継手の外周面に固定されてなるフレキシブルチューブに於いて,外力が作

用した際に前記チューブ本体が破損するよりも先にブレードが破断又は

固定手段によるブレードの固定状態が解除されて,ブレードによるチュー

ブ本体の変形規制が解除されると共に,チューブ本体が収縮した状態でブ

レードに内装されることで,変形規制が解除された前記チューブ本体が前

記外力を吸収するよう伸長する構成にしてなることを特徴とするフレキ

シブルチューブ。
(以下,上記請求項に係る発明を「本件特許発明1−1」という。)

【請求項2】

前記固定手段が,かしめて固定可能なリング体からなる請求項1記載のフ

レキシブルチューブ。

(以下,上記請求項に係る発明を「本件特許発明1−2」という。)

イ 本件特許権2

原告は,以下の特許(以下「本件特許2」といい,本件特許2に係る発

明を「本件特許発明2」という。また,本件特許2に係る出願の明細書及

び図面を「本件明細書2」という。)に係る特許権(以下「本件特許権2」

という。)を有する。

特許番号 第4033372号

発明の名称 防食スリーブ

出願日 平成12年4月19日

登録日 平成19年11月2日

特許請求の範囲

【請求項1】

略円筒状の樹脂スリーブと,この樹脂スリーブの内周に密に挿通される金

属スリーブからなり,前記樹脂スリーブは挿通方向に対して順に大径内周

と小径内周を有し,前記金属スリーブは挿通方向に対して順に大径外周と

中間外周と小径外周を有し,樹脂スリーブの大径内周の高さと金属スリー

ブの大径外周の高さを一致させ,樹脂スリーブの小径内周の高さと金属ス

リーブの中間外周の高さおよび小径外周の高さの和を一致させ,樹脂ス

リーブの大径内周径と金属スリーブの中間外周径をほぼ一致させたこと

を特徴とする防食スリーブ。

(以下,上記請求項に係る発明を「本件特許発明2−1」という。)

【請求項2】
金属スリーブはステンレス製である請求項1記載の防食スリーブ。

(以下,上記請求項に係る発明を「本件特許発明2−2」という。)

【請求項3】

樹脂スリーブは硬質合成樹脂製である請求項1記載の防食スリーブ

(以下,上記請求項に係る発明を「本件特許発明2−3」という。)

(3) 構成要件の分説

本件各特許発明構成要件に分説すると,以下のとおりである。

ア 本件特許発明

(ア) 本件特許発明1−1

1 両端部に継手が設けられた伸縮可能なチューブ本体にその変形を

阻止すべくブレードが外嵌され

1 且つ該ブレードの両端部が固定手段により前記継手の外周面に固

定されてなるフレキシブルチューブに於いて,

1 外力が作用した際に前記チューブ本体が破損するよりも先にブ

レードが破断又は固定手段によるブレードの固定状態が解除されて,

ブレードによるチューブ本体の変形規制が解除されると共に,

1 チューブ本体が収縮した状態でブレードに内装されることで,

1 変形規制が解除された前記チューブ本体が前記外力を吸収するよ

う伸長する構成にしてなることを特徴とする

1 フレキシブルチューブ。

(イ) 本件特許発明1−2

1 前記固定手段が,かしめて固定可能なリング体からなる請求項1

記載のフレキシブルチューブ。

イ 本件特許発明

(ア) 本件特許発明2−1

2 略円筒状の樹脂スリーブと,この樹脂スリーブの内周に密に挿通
される金属スリーブからなり,

2 前記樹脂スリーブは挿通方向に対して順に大径内周と小径内周を

有し,

2 前記金属スリーブは挿通方向に対して順に大径外周と中間外周と

小径外周を有し,

2 樹脂スリーブの大径内周の高さと金属スリーブの大径外周の高さ

を一致させ,

2 樹脂スリーブの小径内周の高さと金属スリーブの中間外周の高さ

および小径外周の高さの和を一致させ,

2 樹脂スリーブの大径内周径と金属スリーブの中間外周径をほぼ一

致させたことを特徴とする

2 防食スリーブ。

(イ) 本件特許発明2−2

2 金属スリーブはステンレス製である請求項1記載の防食スリーブ。

(ウ) 本件特許発明2−3

2 樹脂スリーブは硬質合成樹脂製である請求項1記載の防食スリー



(4) 被告の行為

ア 被告は,遅くとも平成14年頃から別紙被告製品目録1記載の各製品(以

下「被告製品1」という。)を業として販売している(なお,同目録1のう

ち製品名「袋ナット×テーパおねじ」製品記号 以外の製

品については争いがある。。


イ 被告は,本件特許2の登録日である平成19年11月2日以降,別紙被

告製品目録2の番号1記載の製品(以下「被告製品2−1」という。)及

び同目録の番号2記載の製品(以下「被告製品2−2」といい,被告製品

2−1と併せて「被告製品2」という。)を業として製造販売している。
2 原告の請求

原告は,被告に対し,以下の請求をしている。

@ 本件特許権1に基づき,被告製品1の製造,販売又は販売の申出の差止

A 本件特許権1に基づき,被告製品1及びその製造に供する金型の廃棄

B 本件特許権2に基づき,被告製品2の製造,販売又は販売の申出の差止

C 本件特許権2に基づき,被告製品2及びその製造に供する金型の廃棄

D 不法行為及び不当利得に基づき,合計3億7509万6791円の損害賠

償及び利得返還並びにこれらに対する本件訴状送達の日の翌日(平成24年

10月25日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金

の支払

3 争点

(1) 本件特許権1に基づく請求に関する争点

ア 被告製品1は,本件特許発明1の技術的範囲に属するか (争点1−1)

イ 本件特許発明1は,本件特許1の出願前に頒布された「検査仕様書」と

題する書面(以下「乙1文献」という。)に記載された発明(以下「乙1発

明」という。 と同一のものであるか
) (争点1−2)

(2) 本件特許権2に基づく請求に関する争点

ア 被告製品2−1は,本件特許発明2の技術的範囲に属するか

(争点2−1)

イ 被告製品2−2は,本件特許発明2の技術的範囲に属するか

(争点2−2)

(3) 損害額及び利得額 (争点3)

第3 争点に関する当事者の主張

1 争点1−1(被告製品1は,本件特許発明1の技術的範囲に属するか)につ

いて

【原告の主張】
以下のとおり,被告製品1は,本件特許発明1の技術的範囲に属する。

(1) 被告製品1の構成

ア 被告製品1の外観は,以下のとおりである。




被告製品1の一端の構造断面は,以下のとおりである。



継手 プレスリング ブレード




プレスリング チューブ
他端の構造断面は,以下のとおりである。


継手 プレスリング ブレード




プレスリング チューブ




イ 被告製品1の構成は,以下のとおり特定される。

1 伸縮可能なチューブの両端部に継手が設けられるとともに,当該

チューブの外側にはチューブの変形を阻止するようにブレードが設け

られている。

1 ブレードの両端部がプレスリングにより継手の外周面に固定され

るフレキシブル継手である。

1 外力が作用した際に,チューブが破損するよりも先にブレードが破

断して,ブレードによるチューブの変形規制が解除される。

1 チューブが収縮した状態でブレードに内装される。

1 ブレードによるチューブの変形規制が解除された状態において,

チューブが外力を吸収して伸長する。

1 フレキシブル継手である。

1 プレスリングをかしめてブレードを継手に固定するものである。
(2) 構成要件充足性

被告製品1の構成1 から1 までは本件特許発明1の構成要件1 から

1 までの構成にそれぞれ相当するものであるから,被告製品1は,本件特

許発明1の構成要件をいずれも充足する。

構成要件

被告は,構成要件1 の「外力」について,後記【被告の主張】(2)アの

とおり限定的に解釈すべきであると主張するが,限定する理由はない。

被告製品1は,引張り試験において,ブレードが破断した後,チューブ

が伸び続ける構成(構成1 )を備えるから,構成要件1 を充足する。

構成要件1 及び1

被告は,構成要件1 について,後記【被告の主張】(2)イのとおり,
「強

制的な収縮力を付加して内装する」ものに限定して解釈すべきであると主

張するが,限定する理由はない。

被告製品1は構成1 及び1 を備えるものであり,構成要件1 及び

1 を充足する。

【被告の主張】

被告製品1は,少なくとも本件特許発明1の構成要件1 から1 までを充

足しない。

(1) 被告製品1の構成

被告製品1が前記【原告の主張】(1)記載の各写真のとおりのものであるこ

とは認める。

(2) 構成要件充足性

構成要件

構成要件1 の「外力」は,
「地震等により急激に作用する比較的大きな

外力」をいうものと解すべきである。それにもかかわらず,原告は,被告

製品1に通常の外力を加えて行った引張り試験の結果のみに基づいて,構
成要件1 を充足する旨主張しているにすぎない。

被告製品1が構成要件1 を充足することに関する証拠はない。

構成要件1 及び1

構成要件1 は,構成要件1 の構成「と共に」
「チューブ本体が収縮し

た状態でブレードに内装される」構成であるから,
「地震等により急激に作

用する比較的大きな外力を吸収し得るよう,チューブ本体に強制的な収縮

力を付加して収縮した状態でブレードに内装される」構成のものである。

また,構成要件1 は,構成要件1 及び1 を具備することにより,

「変形規制が解除された前記チューブ本体が前記外力を吸収するよう伸長

する構成」である。

被告製品1が構成要件1 及び1 を充足することに関する証拠はない。

2 争点1−2(本件特許発明1は,乙1発明と同一のものであるか)について

【被告の主張】

以下のとおり,本件特許発明1は,乙1発明と同一のものであるから,特許

無効審判により無効にされるべきものである(特許法104条の3第1項,2

9条1項3号)。

(1) 乙1文献の記載

千葉県水道局は,本件特許1の出願前である平成5年に,
「検査仕様書」と

題する書面(乙1文献)を頒布した。乙1文献には,以下の記載がある。

ア 仕様書の記載

「この仕様書によるフレキシブル継手の形状,寸法は,別紙図面のとおり

とする。」

「フレキシブルチューブの外面に用いるブレードは」「均一に編んだもの


とする。」

「性能試験は,日本水道協会のフレキシブル継手審査基準を適用する。

なお,・・・引張り試験の基準値は別表のとおりとする。
また,引張り試験の方法は,アムスラー万能試験機等に固定し,片端よ

り管軸方向に加重をかけ,ブレード部分の離脱及び破断時の強度を測定す

るものとする。」

イ 参考資料

「フレキシブル継手( )
(T型)」の設計図(赤字部分は被告が挿入

したもの)




(2) 乙1発明

構成要件1 の構成

前記(1)の「フレキシブルチューブ」は蛇腹構造をしており,伸縮可能な

ものである。フレキシブルチューブには,ブレードEが外嵌されており,

ブレードがフレキシブルチューブの変形を阻止している。

上記フレキシブルチューブとブレードとの組合せの右端部にスリーブG,

止め線H,ナットIからなる継手,該組合せの左端部に接続管@,接続金

具Aからなる継手が設けられているから,両端部に継手が設けられている。

したがって,構成要件1 の構成が記載されている。

構成要件1 の構成

前記(1)のとおり,ブレードEの両端部がプレスリングCにより継手(右

端部の接続管@,接続金具A,左端部のスリーブG)の外周面に固定され

ているから,構成要件1 の構成も記載されている。
構成要件1 の構成

前記(1)のとおり,乙1文献には,引張り試験によりフレキシブル継手に

外力が作用した際,ブレード部分の離脱及び破断が生じることについて記

載されている。仮に,フレキシブルチューブが先に破断することが前提で

あれば,
「ブレード部分の離脱及び破断時の強度を測定」という表現の代わ

りに,
「フレキシブルチューブの破断時の強度を測定」という表現になるは

ずである。したがって,引張り試験においては,フレキシブルチューブが

破損するよりも先に,ブレードEが破断し又はブレードEが離脱してその

固定状態が解除され,ブレードEによるフレキシブルチューブの変形規制

が解除されることは当然の前提となっている。

したがって,構成要件1 の構成も記載されている。

そもそも,構成要件1 は,フレキシブル継ぎ手が備える特性そのもの

に関する技術常識にすぎず,本件特許出願時以前に公知の構成であった。

構成要件1 の構成

前記(1)のとおり,フレキシブルチューブは蛇腹状でブレードEに内装さ

れているから,構成要件1 の構成も記載されている。

構成要件1 の構成

前記(1)のとおり,フレキシブルチューブは蛇腹状であり,伸縮機能を有

するから,ブレードによる変形規制が解除されると,引張り力を吸収する

ように伸長することは自明である。

よって,構成要件1 の構成も記載されている。

構成要件1 の構成

乙1文献の「フレキシブル継手」は,本件特許発明1の「フレキシブル

チューブ」に相当するから,構成要件1 の構成も記載されている。

構成要件1 の構成

前記(1)のとおり,乙1文献のプレスリングCは「プレス」して,すなわ
ち,かしめて固定されるものである。

したがって,構成要件1 の構成も記載されている。

【原告の主張】

以下のとおり,乙1文献には,構成要件1 及び1 に相当する構成が記載

されていないから,本件特許発明1は,乙1発明と同一の発明ではない。

(1) 本件特許発明1の本質的部分

本件特許発明1は,配管との接続状態が維持されて,流通流体が漏洩しな

いようにするためのものである。 従来,
@ チューブとブレードの相互の強度

関係につき何ら考慮されてこなかった点について,チューブより先にブレー

ドが確実に破断又は固定状態が解除されるように強度関係を設定し, 従来,
A

チューブの伸長量が非常に少なかった点については,ブレードと略同時に

チューブまでが破損しない程度の適切な伸長量を確保したことに本質を有す

る。

(2) 構成要件

構成要件1 は,上記(1)@に関する構成である。

乙1文献には,チューブとブレードの相互の強度関係,つまり,チューブ

より先にブレードが確実に破断又は固定状態が解除されるように強度関係を

設定することに関して何らの記載もない。

(3) 構成要件

構成要件1 は,上記(1)Aに関する構成である。

乙1文献には,ブレードと略同時にチューブまでが破損しない程度の適切

な伸長量を確保することに関する具体的構成は,何ら記載がない。

3 争点2−1(被告製品2−1は,本件特許発明2の技術的範囲に属するか)

について

【原告の主張】

以下のとおり,被告製品2−1は,本件特許発明2の技術的範囲に属する。
(1) 被告製品2−1の構成

ア 被告製品2−1は,以下の金属スリーブ及び樹脂スリーブによって構成

される。


金属スリーブ




:大径外周の高さ

:中間外周の高さ+小径外周の

高さ

樹脂スリーブ :中間外周径

:大径内周径の高さ

:小径内周径の高さ




イ 被告製品2−1の構成は,以下のとおり特定される。

2−1 略円筒状の樹脂スリーブと,当該樹脂スリーブに密着するよう

に挿通される金属スリーブとから構成される。

2−1 樹脂スリーブは,挿通方向に対して順に大径内周と小径内周と
を有している。

2−1 金属スリーブは,挿通方向に対して順に大径外周と中間外周と

小径外周とを有している。

2−1 樹脂スリーブの大径内周の高さは約13oであり,金属スリー

ブの大径外周の高さは約13oである。

2−1 樹脂スリーブの小径内周の高さは約13oであり,金属スリー

ブの中間外周の高さ及び小径外周の高さの和は約16oである。

2−1 樹脂スリーブの大径内周径は約22oであり,金属スリーブの

中間外周径は約22oである。

2−1 防食スリーブである。

2−1! 金属スリーブは,ステンレス製である。

2−1i 樹脂スリーブは,硬質合成樹脂製である。

(2) 構成要件充足性

被告製品2−1の構成2−1 から2−1" までは,本件特許発明2の構成

要件2 から2 までにそれぞれ相当するものであるから,被告製品2−1

は,本件特許発明2の構成要件をいずれも充足する。

構成要件2 の充足性

後記【被告の主張】(2)アのように,構成要件2 について樹脂スリーブ

と金属スリーブのみからなるものに限定する理由はない。

したがって,被告製品2−1は構成要件2 を充足する。

構成要件2 の充足性

後記【被告の主張】(2)イのように,小径外周を「段差をもって接続され

る部分」に限定する理由はない。被告製品2−1の中間外周テーパ部は,

中間外周から挿通方向に対して漸次減縮しているから,小径外周に当たる。

したがって,被告製品2−1は構成要件2 を充足する。

構成要件2 の充足性
防食スリーブとしての機能を果たすためには,樹脂スリーブの小径内周

の高さと,金属スリーブの中間外周の高さ及び小径外周の高さの和が,水

道本管の開孔の深さ(水道本管の径方向における外周面の開孔の上端部か

ら内周面の開孔縁部の下端部までの寸法)の範囲で一致していればよい。

そうすると,構成要件2 「樹脂スリーブの小径内周の高さと金属スリー

ブの中間外周の高さおよび小径外周の高さの和を一致させ,」は,樹脂ス

リーブの小径内周の高さと金属スリーブの中間外周の高さ及び小径外周の

高さの和が,開孔深さの範囲内で一致することをいう。

被告製品2−1が用いられる水道本管の開孔深さは10oであるところ,

構成2−1 において,樹脂スリーブの小径内周の高さと金属スリーブの

中間外周の高さ及び小径外周の高さの和は,開口深さの範囲である10o

を超え,約13oの範囲で一致する。

したがって,被告製品2−1は,構成要件2 を充足する。

【被告の主張】

以下のとおり,被告製品2−1は,少なくとも本件特許発明2の構成要件

,2 及び2 を充足しない。

(1) 被告製品2−1の構成

ア 被告製品2−1は,以下の金属スリーブ,樹脂スリーブ及びゴムスリー

ブによって構成される。
イ 被告製品2−1は,以下のとおり,金属スリーブを樹脂スリーブに,樹

脂スリーブをゴムスリーブに,それぞれ押し込んで使用される。
ウ 被告製品2−1の構成は,以下のとおり特定される。

2−1 略円筒状の樹脂スリーブ5’と,この樹脂スリーブ5’の外周

に設けられた溝部に,当該溝部を覆うように樹脂スリーブ5’に

密着するゴムスリーブ20’と,この樹脂スリーブ5’の内周に

密に挿通される金属スリーブ1’からなり,

2−1 前記樹脂スリーブ5’は挿通方向に対して順に大径内周7 ’

と小径内周7 ’を有し,

2−1 前記金属スリーブ1’は挿通方向に対して順に大径外周3 ’

と中間外周3 ’を有し,

2−1 樹脂スリーブ5’の大径内周7 ’の高さ ’は13oであり,

金属スリーブ1’の大径外周3 ’の高さ ’は12#6oであり,

2−1 樹脂スリーブ5’の小径内周7 ’の高さ ’は13#1oであ

り,金属スリーブ1’の中間外周3 ’の高さ ’は16#2oで

あり,

2−1 樹脂スリーブ5’の大径内周径 ’は21#6ないし21#7oで

あり,金属スリーブ1’の中間外周径 ’は21#6oである

2−1 防食スリーブ。
(2) 構成要件充足性

構成要件

構成要件2 の「・・・樹脂スリーブ5と,・・・金属スリーブ1からなり,」

という構成は,樹脂スリーブ5と金属スリーブ1のみからなるものをいう。

被告製品2−1は樹脂スリーブ5’と金属スリーブ1’の他に,ゴムス

リーブ20’を備える三重構造であり,ゴムスリーブを除いた状態では防

食スリーブとして機能しないものである。

したがって,被告製品2−1は構成要件2 を充足しない。

構成要件

構成要件2 の「小径外周3 」は,
「中間外周3 」よりも小さい外周径

を有し,段差をもって接続される部分をいう。

被告製品2−1の中間外周のテーパ部は,中間外周から挿通方向に対し

て漸次縮径しており,段差が一切設けられていない。

したがって,被告製品2−1は小径外周の構成を有しないから,構成要

件2Cを充足しない。

構成要件

被告製品2−1の樹脂スリーブ5’の小径内周7 ’の高さは13#1o

であり,金属スリーブ1’の中間外周3 ’の高さは16#2oであるから,

一致しない。

したがって,被告製品2−1は構成要件2 を充足しない。

4 争点2−2(被告製品2−2は,本件特許発明2の技術的範囲に属するか)

について

【原告の主張】

以下のとおり,被告製品2−2は,本件特許発明2の技術的範囲に属する。

(1) 被告製品2−2の構成

ア 被告製品2−2は,以下の金属スリーブと樹脂スリーブによって構成さ
れる。

金属スリーブ




:大径外周の高さ

:中間外周の高さ+小径外周

の高さ

樹脂スリーブ :中間外周径

:大径内周径の高さ

$:小径内周径の高さ

:大径内周径




イ 被告製品2−2の構成は,以下のとおり特定される。

2−2 略円筒状の樹脂スリーブと,当該樹脂スリーブに密着するよう

に挿通される金属スリーブとから構成される。

2−2 樹脂スリーブは,挿通方向に対して順に大径内周と小径内周と

を有している。

2−2 金属スリーブは,挿通方向に対して順に大径外周と中間外周と

小径外周とを有している。
2−2 樹脂スリーブの大径内周の高さは約10oであり,金属スリー

ブの大径外周の高さは約10oである。

2−2 樹脂スリーブの小径内周の高さは約23oであり,金属スリー

ブの中間外周の高さおよび小径外周の高さの和は約27oであ

る。

2−2 樹脂スリーブの大径内周径は約48oであり,金属スリーブの

中間外周径は約48oである。

2−2 被告製品2−2は,防食スリーブである。

2−2! 金属スリーブは,ステンレス製である。

2−2" 樹脂スリーブは,硬質合成樹脂製である。

(2) 構成要件充足性

被告製品2−2の構成2−2 から2−2" までは本件特許発明2の構成

要件2 から2 までにそれぞれ相当するものであるから,被告製品2−2

は,本件特許発明2の構成要件をいずれも充足する。

構成要件

後記【被告の主張】(2)アのように,構成要件2 について樹脂スリーブ

と金属スリーブのみからなるものに限定する理由はない。

したがって,被告製品2−2は構成要件2 を充足する。

構成要件

後記【被告の主張】(2)イのように,小径外周を「段差をもって接続さ

れる部分」に限定する理由はない。被告製品2−2の中間外周テーパ部は,

中間外周から挿通方向に対して漸次減縮しているから,小径外周に当たる。

したがって,被告製品2−2は構成要件2 を充足する。

構成要件

前記3【原告の主張】(2)エのとおり,構成要件2 は,樹脂スリーブの

小径内周の高さと,金属スリーブの中間外周の高さ及び小径外周の高さの
和が,開孔深さの範囲内で一致する構成をいう。

被告製品2−2が用いられる水道本管の開孔深さは17oであるとこ

ろ,構成2−2 において,樹脂スリーブの小径内周の高さと金属スリー

ブの中間外周の高さ及び小径外周の高さの和は,開口深さの範囲である1

7oを超え,約23oの範囲で一致する。

したがって,被告製品2−2は構成要件2 を充足する。

【被告の主張】

以下のとおり,被告製品2−2は,少なくとも本件特許発明2の構成要件

,2 及び2 を充足しない。

(1) 被告製品2−2の構成

ア 被告製品2−2は,以下の金属スリーブ,樹脂スリーブとゴムスリーブ

によって構成される。
イ 被告製品2−2は,以下のとおり,金属スリーブを樹脂スリーブに,樹

脂スリーブをゴムスリーブにそれぞれ押し込んで使用される。
ウ 被告製品2−2の構成は,以下のとおり特定される。

2−2 略円筒状の樹脂スリーブ5’と,この樹脂スリーブ5’の外周

に設けられた溝部に,当該溝部を覆うように樹脂スリーブ5’に

密着するゴムスリーブ20’と,この樹脂スリーブ5’の内周に

密に挿通される金属スリーブ1’からなり,

2−2 前記樹脂スリーブ5’は挿通方向に対して順に大径内周7 ’

と小径内周7 ’を有し,

2−2 前記金属スリーブ1’は挿通方向に対して順に大径外周3 ’

と中間外周3 ’を有し,

2−2 樹脂スリーブ5’の大径内周7 ’の高さ ’は10oであり,

金属スリーブ1’の大径外周3 ’の高さ ’は9#9oであり,

2−2 樹脂スリーブ5’の小径内周7 ’の高さ $’は23#1oであ

り,金属スリーブ1’の中間外周3 ’の高さ ’は29#65o

であり,

2−2 樹脂スリーブ5’の大径内周径 ’は47#7oであり,金属ス

リーブ1’の中間外周径 ’は47#6oである

2−2 防食スリーブ。

(2) 構成要件充足性

構成要件

前記3【被告の主張】(2)アのとおり,構成要件2 の構成は,樹脂スリー

ブ5と金属スリーブ1のみからなるものをいう。

被告製品2−2は樹脂スリーブ5’と金属スリーブ1’の他に,ゴムス

リーブ20’を備える三重構造であり,ゴムスリーブを除いた状態では,

防食スリーブとして機能しない。

したがって,被告製品2−2は構成要件2 を充足しない。

構成要件
前記3【被告の主張】(2)イのとおり,構成要件2 の「小径外周3 」

は,
「中間外周3 」よりも小さい外周径を有し,段差をもって接続される

部分をいう。

被告製品2−2の中間外周のテーパ部は,中間外周から挿通方向に対し

て漸次縮径しており,段差が一切設けられていない。

したがって,被告製品2−2は小径外周を有しないから,構成要件

を充足しない。

構成要件

被告製品2−2の樹脂スリーブ5’の小径内周7 ’の高さは23#1o

であり,金属スリーブ1’の中間外周3 ’の高さは29#65oであるか

ら,一致しない。

したがって,被告製品2−2は構成要件2 を充足しない。

5 争点3(損害額等)について

【原告の主張】

(1) 被告製品1

ア 被告製品1の販売数量,単価及び利益額

被告は,被告製品1を1年当たり少なくとも2万5000本販売した。

1本当たりの単価は約5200円であり,その利益額は少なくとも160

0円である。

不法行為に基づく損害賠償

被告は,平成21年10月から平成24年9月までの3年間に,被告製

品1を販売することにより,少なくとも1億2000万円の利益を得てお

り,原告は同額の損害を被った(特許法102条2項)。

〔計算式〕

% × % × & % %

ウ 不当利得に基づく利得返還
被告は,平成14年10月から平成21年9月までの7年間に,被告製

品1を販売することにより,少なくとも9億1000万円の売上げを得た。

本件特許発明1に関する実施料率は5%が相当であるから,被告は,法

律上の原因なく,少なくとも合計4550万円の利益を受けた(民法70

3条)。

〔計算式〕

% × % × × # & % %

エ 弁護士費用

本件特許権1の侵害相当因果関係のある弁護士・弁理士費用は,上記

イ及びウの合計額である1億6550万円の10%(1655万円)を下

らない。

(2) 被告製品2

ア 被告製品2単体の販売

(ア) 被告製品2単体の販売数量,単価及び利益額

被告は,被告製品2−1を1年当たり少なくとも2000個販売した。

1個当たりの単価は約900円であり,その利益額は少なくとも600

円である。

被告は,被告製品2−2を1年当たり少なくとも1000個販売した。

1個当たりの単価は約1800円であり,その利益額は少なくとも13

00円である。

(イ) 不法行為に基づく損害賠償

被告は,平成21年10月から平成24年9月までの3年間に,被告

製品2−1を販売することにより約360万円の利益を受けた。

〔計算式〕

× % × & % %

また,被告製品2−2を販売することにより,少なくとも390万円
の利益を受けた。

〔計算式〕

% × % × & % %

したがって,被告は,被告製品2を販売することにより,少なくとも

合計750万円の利益を受けており,原告は同額の損害を被った(特許

102条2項)。

(ウ) 不当利得に基づく利得返還

被告は,平成19年11月から平成21年9月までの23か月間に,

被告製品2−1の販売により,約345万円の売上げを得た。

〔計算式〕

× % ÷ × & % %

また,被告製品2−2の販売により,約345万円の売上げを得た。

〔計算式〕

% × % ÷ × & % %

本件特許発明2の実施料率は5%が相当であるから,被告は,少なく

とも合計34万5000円の利得を受けた(民法703条)。

〔計算式〕

' % % + % % (× # & %

イ 被告製品2を組み込んだサドル付分水栓の販売

被告は,前記アの被告製品2単体の販売数量に加え,被告製品2を組み

込んだサドル付分水栓を販売している。

被告は,被告製品2を組み込まなければ,サドル付分水栓を販売するこ

とはできなかった。したがって,被告製品2を組み込んだサドル付分水栓

に関する被告の利益額は,全て原告の被った損害とされるべきである。

(ア) 被告製品2を組み込んだサドル付分水栓の販売数量,単価及び利益額

被告は,被告製品2−1を組み込んだサドル付分水栓を1年当たり約
4500個販売した。1個当たりの単価は約1万3000円であり,そ

の利益額は少なくとも3900円である。

また,被告製品2−2を組み込んだサドル付分水栓を,1年当たり少

なくとも2500個販売した。1個当たりの単価は約3万4000円で

あり,その利益額は少なくとも1万3500円である。

(イ) 不法行為に基づく損害賠償

被告は,平成21年10月から平成24年9月までの3年間に,被告

製品2−1を組み込んだサドル付分水栓を販売することにより,約52

65万円の利益を受けた。

〔計算式〕

% × % × & % %

また,被告製品2−2を組み込んだサドル付分水栓を販売することに

より,少なくとも1億0125万円の利益を受けた。

〔計算式〕

% × % × & % %

したがって,被告は,被告製品2を組み込んだサドル付分水栓を販売

することにより,少なくとも合計1億5390万円の利益を受けており,

原告は同額の損害を被った(特許法102条2項)。

(ウ) 不当利得に基づく利得返還

被告は,平成19年11月から平成21年9月までの23か月間に,

被告製品2−1を組み込んだサドル付分水栓を販売することにより,少

なくとも1億1212万5000円の売上げを得た。

〔計算式〕

% × % ÷ × & % %

また,被告製品2−2を組み込んだサドル付分水栓を販売することに

より,少なくとも1億6291万6667円の売上げを得た。
〔計算式〕

% × % ÷ × & % %

本件特許発明2に関する実施料率は5%が相当であるから,被告は,

少なくとも1375万2083円の利益を受けた(民法703条)。

〔計算式〕

' % % + % % (× # & % %

ウ 弁護士費用

本件特許権2の侵害相当因果関係のある弁護士・弁理士費用は,上記

ア及びイの合計額1億7549万7083円の10%である1754万

9708円を下らない。

【被告の主張】

否認又は争う。

第4 当裁判所の判断

本件特許発明1は乙1発明と同一であると認められるから,本件特許1は,

特許無効審判により無効にされるべきものである(争点1−2に対する判断)。

また,被告製品2は,本件特許発明2の技術的範囲に属すると認めることが

できない(争点2−1及び2−2に対する判断)。

以下,詳述する。

1 争点1−2(本件特許発明1は,乙1発明と同一のものであるか)について

以下の理由から,本件特許発明1は,乙1発明と同一のものであると認める

ことができる。

(1) 乙1文献の記載

本件特許1の出願前に頒布された乙1文献には,以下の記載のあることが

認められる。

ア 仕様書の記載

「この仕様書によるフレキシブル継手の形状,寸法は,別紙図面のとおり
とする。」

「フ レ キシ ブ ルチ ュ ー ブの 外 面に 用 いる ブレ ー ドは , ) の

)*) とし,均一に編んだものとする。」

「性能試験は,日本水道協会のフレキシブル継手審査基準を適用する。な

お,・・・引張り試験の基準値は別表のとおりとする。

また,引張り試験の方法は,アムスラー万能試験機等に固定し,片端よ

り管軸方向に加重をかけ,ブレード部分の離脱及び破断時の強度を測定す

るものとする。」

イ 参考資料

「フレキシブル継手( )
(T型)」の設計図(赤字部分は被告が挿入し

たもの)




(2) 乙1発明の内容

前記(1)によれば,乙1文献には,以下の発明(乙1発明)の構成が記載さ

れているものと認めることができる。

フレキシブルチューブは,蛇腹構造をしており,伸縮可能である。

フレキシブルチューブには,ブレードEが外嵌されており,変形が阻止

されている。

フレキシブルチューブとブレードとの組合せの右端部にスリーブG,止

め線H,ナットIからなる継手が設けられており,左端部には接続管@,
接続金具Aからなる継手が設けられている。

ブレードEの両端部は,プレスリングCにより継手(右端部の接続管@,

接続金具A,左端部のスリーブG)の外周面に固定されている。

外力が作用した際,フレキシブルチューブが破損するよりも先にブレー

ドが離脱又は破断する。

フレキシブルチューブは蛇腹状でブレードEに内装されている。

ブレードが離脱又は破断した後,フレキシブルチューブは伸長する。

フレキシブルチューブである。

プレスリングCは「プレス」して,すなわち,かしめて固定されるリン

グ体である。

(3) 本件特許発明1と乙1発明の対比

前記(2)によれば,乙1発明の から までは,本件特許発明1の構成要

件1 から1 にそれぞれ相当するものであり,乙1文献には,本件特許発

明1の各構成要件をいずれも備えた発明(乙1発明)が記載されているもの

と認めることができる。

原告は,乙1文献には構成要件1 及び1 に相当する構成(前記(2) 及

び の構成)が記載されていない旨主張するので,以下,補足する。

ア 本件特許発明1の構成要件1 に相当する構成(前記(2) の構成)

前記(1)のとおり,乙1文献には,「引張り試験の方法は,アムスラー万

能試験機等に固定し,片端より管軸方向に加重をかけ,ブレード部分の離

脱及び破断時の強度を測定するものとする。」という記載がある。この記

載は,引張り試験において,ブレード部分の離脱及び破断が生じた後に,

フレキシブルチューブの離脱又は破断が生じるという前後関係を当然の

前提としたものである。

そもそも,フレキシブルチューブ本体は蛇腹構造のものであり,その名

のとおり伸縮可能なものである(当事者間で争いがない。)のに対し,乙
1文献のブレードはステンレス鋼()*) )であり,フレキシブルチュー

ブの外面に均一に編まれたものであるから,構造上,フレキシブルチュー

ブの伸長を防止する作用を奏するものであることが明らかである。

本件特許1の出願時以前における技術常識についても,以下の点が認め

られる。昭和41年12月刊行の石井俊二著「螺旋管とベローズ型伸縮管

継手のすべて」と題する論文(乙2)によれば,ブレードは,一般に,螺

旋管に伸びを生じたり,外部からの衝撃から防護したり,美観を保持した

りすることを目的とする部材である。また,平成9年7月1日発行の財団

法人日本建築センター編『建築設備耐震設計・施工指針(1997年版)』

(乙4)には,地震によるフレキシブル継手の破損状況が紹介されている

ところ,そこではブレードが破断したフレキシブル継手の写真が掲載され

ており,当該写真からはフレキシブルチューブがブレードの長さの約2倍

の長さにまで伸長していることが読み取れる。

以上のとおり,乙1文献には,フレキシブルチューブが破損するよりも

先にブレードが離脱又は破断することを前提とした記載があること,乙1

発明の構造からすれば,必然的に当該構成が備わっていること,本件特許

1の出願以前においても,当該構成は公知のものであったことが認められ

る。

そうすると,乙1文献に接した当業者であれば,乙1発明が本件特許発

明1の構成要件1 に相当する構成(前記(2) の構成)を備えていること

については,直ちに理解することができるものというべきである。

イ 本件特許発明1の構成要件1 に相当する構成(前記(2) の構成)

前記アのとおり,乙1文献には,フレキシブルチューブが破損するより

も先にブレードが離脱又は破断することを前提とした記載があること,フ

レキシブルチューブは蛇腹構造のものであり,その名のとおり伸縮可能な

ものであるのに対し,ブレードはフレキシブルチューブの伸長を防止する
構成のものであることが認められる。

そうすると,乙1発明においても,ブレードが離脱又は破断した後,フ

レキシブルチューブは当然に伸長する。しかも,前記アのとおり,ブレー

ドが離脱した後,フレキシブルチューブが約2倍の長さにまで伸長する構

成のフレキシブル継ぎ手が公知のものであったことも認められる。

これらのことからすれば,乙1文献に接した当業者であれば,乙1発明

が本件特許発明1の構成要件1 に相当する構成(前記(2) の構成)を備

えていることについても,直ちに理解することができるものというべきで

ある。

ウ 原告の反論について

原告は,乙1文献には,本件特許発明1の本質が何ら開示されていない

と主張するので,検討する。

(ア)本件明細書1の【発明の詳細な説明】には以下の記載がある。

【0002】

【従来の技術】従来,この種のフレキシブルチューブとしては,例えば

両端部に夫々継手を設けた波形管からなるチューブ本体に金属線やガラ

ス繊維等を編組したブレードを外嵌せしめ,その端部を前記継手の外周

面にリング体によりかしめて固定したものが存在する。

【0003】

【発明が解決しようとする課題】しかしながら,上記従来のフレキシブ

ルチューブのブレードは,流体流通時に於けるチューブ本体の伸長及び

拡径という変形を阻止することに主眼が置かれてその強度が設定されて

おり,チューブ本体及びブレードの外力に対する相互の強度関係につい

ては,何ら考慮されていないのが実情であった。

【0004】しかも,チューブ本体はその儘の状態,即ち強制的な伸縮

力を付加しない状態でブレードが外嵌されるため,それ自体に外力が作
用すれば波形管の特性で伸長はするものの,その伸長量は非常に少なく,

このため比較的大きな外力がフレキシブルチューブに急激に作用した場

合,ブレードの破断と略同時にチューブ本体までが破損することとなっ

て,流通流体が漏洩してしまうという大なる問題点を有していたのであ

る。

【0005】それ故に,本発明は上記従来の課題を解決するためになさ

れたものであり,不当な外力がフレキシブルチューブに作用しても,

チューブ本体が適切に伸長してその破損を確実に阻止できるようにする

ことを課題とする。

(イ)原告は,上記記載を根拠として,@ 従来,チューブとブレードの相互

の強度関係につき何ら考慮されてこなかった点について,チューブより

先にブレードが確実に破断又は固定状態が解除されるように強度関係を

設定し,A 従来,チューブの伸長量が非常に少なかった点については,

ブレードと略同時にチューブまでが破損しない程度の適切な伸長量を確

保したことに本件特許発明1の本質があり,当該部分に係る構成が本件

特許発明1の構成要件1 及び1 であると主張する。

そこで検討すると,前記'ア(の段落【0004】及び【0005】の

記載によれば,上記@の強度関係は,上記Aのチューブの伸長量を確保

した構成による効果,すなわちチューブ本体よりも先にブレードが破断

するという先後関係をいうにすぎないものである。

次に,上記Aについて検討すると,前記(ア)(段落【0002】)のと

おり,従来技術として,波形管からなるチューブ本体に金属線やガラス

繊維等を編組したブレードを外嵌せしめた構成のものが示されている。

この従来技術においても,金属線やガラス繊維等を編んだブレードの伸

長量が著しく少ないことは明らかであり,波形管からなるチューブ本体

の方がブレードよりもある程度伸長することは,その構造自体及びブ
レードの目的(前記ア)自体から自明である。チューブ本体よりも先に

ブレードが破断するという先後関係も,上記構成から必然的に生じる結

果にすぎない。前記(ア)の段落【0004】では,従来技術の構成によ

ると,波形管の特性で伸長はするものの,チューブ本体の伸長量が非常

に少ないとか,ブレードの破断と略同時にチューブ本体までが破損する

とされているが,構造自体からして,そのような事態がどの程度の割合

で生じるのか相当に疑問がある。現に,前記アのとおり,ブレードが破

断した後,約2倍の長さにまで伸長するチューブがあったことも認めら

れることからすれば,チューブ本体の伸長量は,当業者が適宜設定する

設計事項であり,本件特許発明1と従来技術との相違は単なる程度問題

にすぎないというべきである。

したがって,上記原告の主張を採用することはできない。

2 争点2−1(被告製品2−1は,本件特許発明2の技術的範囲に属するか)

及び争点2−2(被告製品2−2は,本件特許発明2の技術的範囲に属するか)

について

以下の理由から,被告製品2は,少なくとも構成要件2 を充足すると認め

ることができないから,本件特許発明2の技術的範囲に属するとはいえない。

(1) 構成要件2 の意義について

ア 【特許請求の範囲】の記載

前提事実(3)イのとおり,構成要件2 は,「樹脂スリーブの小径内周の

高さと金属スリーブの中間外周の高さおよび小径外周の高さの和を一致さ

せ,」というものである。

この文言からすると,樹脂スリーブの小径内周の高さと,金属スリーブ

の中間外周の高さ及び小径外周の高さの和は,同一であると解される。

構成要件2 において「樹脂スリーブの大径内周径と金属スリーブの中

間外周径をほぼ一致させたことを特徴とする」とされており,
【特許請求の
範囲】の記載において,
「ほぼ一致」と「一致」とで書き分けられているこ

とからも,上記のとおり解釈するのが合理的である。

イ 本件明細書2の【発明の詳細な説明】の記載

(ア) 本件明細書2の【発明の詳細な説明】には以下の記載がある。

【0001】

【発明の属する技術分野】

本発明は,水道本管などの金属管に開孔した場合に露出する金属の防食を

目的とした防食スリーブの構造に関するものである。

【0002】

【発明が解決しようとする課題】

従来から水道本管などに分岐管を設ける場合には先ず本管に開孔を施し,

開孔周面の防食のためにスリーブを密挿する技術は公知である。例えば,

出願人も実開平7−23892号公報に記載されたような防食スリーブ

を既に開示している。ところで,上記防食スリーブは金属スリーブと弾性

スリーブを組み合わせたものであるが,密に接触させるために金属スリー

ブの断面形状を複雑にしている。従って,製造コストが高くつくうえに,

金属部分を拡径するために変形時や拡径器具の引き抜き時に大きい力を

必要とする。また,より従来の構造において金属スリーブと通水口および

穿孔された開孔の間に若干の隙間ができた場合には,その部分に錆こぶが

発生するという課題がある。

【0003】

一方,素材をゴムで形成した密着スリーブも従来から公知であるが,この

場合には開孔に打ち込むときに強すぎればゴムが座屈して施工不具合が

発生する。また,穿孔は一般的には平滑面ではないので,ゴムが鋭利な箇

所に接触した状態で打ち込まれればゴム表面が切削され,十分な防食効果

を期待することができない場合が生ずる。
【0004】

本発明は上述した従来の課題を解決するもので,比較的簡単な施工によっ

て確実に防食効果を維持することができる構造のスリーブを開示するこ

とを目的とする。

【0005】

【課題を解決するための手段】

本発明では上記目的を達成するために,略円筒状の樹脂スリーブと,この

樹脂スリーブの内周に密に挿通される金属スリーブからなる二重構造と

した。そして,前記樹脂スリーブは挿通方向に対して順に大径内周と小径

内周を有し,前記金属スリーブは挿通方向に対して順に大径外周と中間外

周と小径外周を有し,樹脂スリーブの大径内周の高さと金属スリーブの大

径外周の高さを一致させ,樹脂スリーブの小径内周の高さと金属スリーブ

の中間外周の高さおよび小径外周の高さの和を一致させ,樹脂スリーブの

大径内周径と金属スリーブの中間外周径をほぼ一致させるという手段を

用いることとした。金属スリーブは,スリーブとしての剛性を確保する機

能を有している。また,樹脂スリーブは水道本管に穿孔された開孔に対す

る密着性を確保する機能を有している。そして,金属スリーブの完全な装

着によって樹脂スリーブを拡開し,これによってスリーブを本管の開孔に

密着させる。

【0006】

金属スリーブをステンレス製とすることによって,確実な防食を維持する。

また,樹脂スリーブに硬質合成樹脂を採用することによって,適度な変形

性と硬質度を確保する。

【発明の実施の形態】

【0009】

図3は水道本管10に設けられた開孔11にジグ を用いて防食スリーブ
を嵌挿するところを示したもので,先ず樹脂スリーブ5と金属スリーブ1

を予め一段だけ組み合わせた状態で製品として,これを開孔11に嵌合し,

続いて金属スリーブ1を樹脂スリーブ5の内側にジグのピストンなどを

利用してさらに押し込む。図4が作業完了の状態を示している。この場合,

金属スリーブの外周に形成された3段の段差によって3種類の外周径が

形成されているが,この外周径と樹脂スリーブ5の内周面7に設けられた

大径内周7 と小径内周7 の関係を説明する。即ち,図3に示したよう

に金属スリーブの外周3 の高さ と樹脂スリーブ5の大径内周7 の高

さ は一致し,金属スリーブの外周3 および3 の和の高さ と樹脂ス

リーブの小径内周7 の高さ が一致している。また,直径に関しては樹

脂スリーブの大径内周径と金属スリーブの中間の外周径3 がほぼ一致し

ている。この状態で樹脂スリーブ5に対して金属スリーブ1を押し込んで,

図3の製品の状態では樹脂スリーブの大径内周7 と金属スリーブの中間

の外周径3 が同じなので容易に挿入,かつこれを維持することができる。

続いて,さらに金属スリーブ1を押し込めば樹脂スリーブの小径内周7

が金属スリーブの中間外周3 によって,また樹脂スリーブの大径内周7

が金属スリーブの大径外周3 によってそれぞれ押し広げられて,外側に

変形する。これによって樹脂スリーブと水道本管10が密着した状態で防

食スリーブの装着が完了する。

【図3】防食スリーブを水道本管に装着する作業前を示す図
【図4】同,装着完了状態を示す図




(イ) 前記(ア)のとおり,本件明細書2の【発明の詳細な説明】の記載にお

いても,構成要件2 の「一致」と2 の「ほぼ一致」とは区別して記

載されている。実施例としても,樹脂スリーブの小径内周の高さと,金

属スリーブの中間外周の高さ及び小径外周の高さの和が,同一となるも

のが記載されている。そして,構成要件2 において「ほぼ一致」と記

載した理由は,樹脂スリーブに金属スリーブを挿入するに当たって,挿
入が困難とならないよう,金属スリーブの外周径を樹脂スリーブの内周

径より僅かに小さくすることが想定されるためであると理解されるが,

密に挿通されること(構成要件2 )からすると,その差は僅少である

必要がある。

これらの記載からしても,構成要件2 の樹脂スリーブの小径内周の

高さと,金属スリーブの中間外周の高さ及び小径外周の高さの和は,同

一であることが求められているものというべきである。

ウ 小括

前記ア及びイによれば,構成要件2 「樹脂スリーブの小径内周の高さ

と金属スリーブの中間外周の高さおよび小径外周の高さの和を一致させ,」

は,樹脂スリーブの小径内周の高さと金属スリーブの中間外周の高さ及び

小径外周の高さの和が同一の構成をいうものと解される。

(2) 被告製品2−1の構成及び構成要件2 の充足性

前記のとおり,被告製品2−1が小径外周の構成を備えるか否かについて

は当事者間に争いがあるものの,樹脂スリーブの小径内周の高さが約13o

であり,金属スリーブの中間外周の高さ(又はこれと小径外周の高さの和)

が約16oであることについては当事者間で争いがない。

そうすると,被告製品2−1において,樹脂スリーブの小径内周の高さは,

金属スリーブの中間外周の高さ(又はこれと小径外周の高さの和)よりも短

く,同一ではないから,構成要件2 を文言上充足するとは認められない。

仮に,完全な同一を求めているとまではいえないとしても,上記3oの違

いは,全体の大きさや前記(1)に述べたことに照らしても,「一致」している

とはいえない。

(3) 被告製品2−2の構成及び構成要件2 の充足性

前記のとおり,被告製品2−2が小径外周の構成を備えるか否かについて

は当事者間に争いがあるものの,樹脂スリーブ5’の小径内周7 ’の高さ $’
が23#1oであり,金属スリーブ1’の中間外周3 ’の高さ ’ (又はこ

れと小径外周の高さの和は)が29#65oであることについては,当事者間

で争いがない。

そうすると,被告製品2−2において,樹脂スリーブの小径内周の高さは,

金属スリーブの中間外周の高さ(又はこれと小径外周の高さの和)よりも短

く,同一ではないから,構成要件2 を文言上充足するとは認められない。

仮に,完全な同一を求めているとまではいえないとしても,上述のとおり,

被告製品2−2では,約6#55oの違いが認められ,被告製品2−1と同様,

全体の大きさや前記(1)に述べたことに照らしても,「一致」しているとはい

えない。

3 結論

以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求にはい

ずれも理由がない。

よって,主文のとおり判決する。

大阪地方裁判所第26民事部



裁 判 長 裁 判 官 山 田 陽 三




裁 判 官 松 阿 彌 隆




裁 判 官 西 田 昌 吾
(別紙)

当 事 者 目 録



原 告 株 式 会 社 タ ブ チ



同訴訟代理人弁護士 辻 本 希 世 士

同 辻 本 良 知

同 笠 鳥 智 敬

同 松 田 さ と み

同補佐人弁理士 辻 本 一 義

同 丸 山 英 之

同 神 吉 出

同 大 本 久 美

同 金 澤 美 奈 子

同 松 田 裕 史



被 告 株 式 会 社 キ ッ ツ



同訴訟代理人弁護士 鮫 島 正 洋

同 見 憲

同 和 田 祐 造

同訴訟代理人弁理士 小 林 哲 男
(別紙)

被告製品目録1

被告が「フレキシブル継手」の名称で製造販売する以下の製品名のもの。

1 袋ナット×テーパおねじ

2 袋ナット×ステンレス鋼管

3 袋ナット×回転式 $ + 継手

4 袋ナット×袋ナット

5 袋ナット×硬質塩化ビニル管用 ,) 継手

6 袋ナット×$ + 継手

7 )*) 袋ナット×)*) テーパおねじ
(別紙)

被告製品目録2

1 製品名「密着コア」(記号「 -− *」,呼び「25」)

2 製品名「密着コア」(記号「 -− *」,呼び「,50」)