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審判番号(事件番号) データベース 権利
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平成22ワ42637特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成23ワ8085各損害賠償等請求事件 判例 特許
平成24ワ16103特許権に基づく差止等請求事件 判例 特許
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事件 平成 22年 (ワ) 42609号 特許権使用差止等請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 東京地方裁判所 
判決言渡日 2013/08/30
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
判例全文
判例全文
平成25年8月30日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

平成22年(ワ)第42609号 特許権使用差止等請求事件

口頭弁論終結日 平成25年5月17日

判 決

千葉県長生郡<以下略>

原 告 大 昌 建 設 株 式 会 社

同訴訟代理人弁護士 大 津 卓 滋

同 原 田 活 也

同 佐 藤 一 誠

札幌市<以下略>

被 告 ノーベル技研工業株式会社

(以下「被告ノーベル」という。)

北海道江別市<以下略>

被 告 北都建機サービス株式会社

(以下「被告北都」という。)

被告ら訴訟代理人弁護士 高 橋 敬 一 郎

同 勝 又 祐 一

同 補 佐 人 弁 理 士 神 保 欣 正

主 文

1 原告の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

事 実 及 び 理 由

第1 請求

被告らは,原告に対し,連帯して,2000万円及びこれに対する平成22

年12月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

1
1 本件は,被告北都が製造し,被告ノーベルが使用していた別紙「被告らイ号

物件説明書」記載の物件(以下「イ号物件」という。)の使用は,P(以下

「P」という。)の有していた「法面等の加工機械」に関する特許権(特許第

2128294号。以下「本件特許権」という。平成23年10月28日特許

期間満了)を侵害すると主張して,Pから特許権侵害に基づく損害賠償請求権

を譲り受けたと主張する原告が,被告らに対し,連帯して2000万円及びこ

れに対する訴状送達の日の翌日である平成22年12月9日から支払済みまで

民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

2 前提となる事実(末尾に証拠等を付した以外の事実は争いがない。)

(1) 本件特許権

Pは,以下の特許権(本件特許権)を有していた。

ア 登録番号 第2128294号

イ 出願日 平成3年10月28日

(平成23年10月28日特許期間満了。甲1,2)

ウ 公開番号 特開平5−118053

エ 公開日 平成5年5月14日

オ 登録日 平成9年4月18日

カ 発明の名称 法面等の加工機械

キ 特許請求の範囲

本件特許権に係る,平成23年4月26日訂正後の明細書(特許請求の

範囲を含む。)は別紙訂正請求書添付の訂正明細書(甲6)のとおりであ

り(ただし,甲8・4,5頁,乙19・3頁によれば,その後,平成23

年11月1日までに,請求項2の「走行装置」とある部分は「走行装置で

ある無限軌道」に再訂正されたものと認められる。),図面は特許公報

(甲1)の5ないし10頁のとおりである(以下,訂正後の明細書(特許

請求の範囲を含む。)と当初の図面を合わせて「本件明細書」という。)。

2
その請求項2の発明(以下「本件発明」という。)の特許請求の範囲は以

下のとおりである(甲1,6,8,乙19)。

「【請求項2】 車体と,この車体に取付けられた油圧等によって該車体

を走行させることができる走行装置である無限軌道と,前記車体の上部に

該車体の一方に枢支ピンを介して一方が回動可能に取付けられたベース板

と,このベース板上に油圧等を用いた回転機構を介して回転可能に取付け

られ,前記車体が傾斜状態にあっても水平状態で回転する作業台と,前記

ベース板の他方と前記車体の他方との間に取付けられた該ベース板を回動

させる回動機構と,前記作業台の端部に取付けられた駆動アームと,この

駆動アームの先端部に取り付けられた作業アタッチメントと,前記車体あ

るいはベース板の一方の両側部に互いに距離を置いて取り付けられた一対

のウインチであって,該車体を支持し,かつ上方が拡開する状態で張設さ

れた一対のワイヤーのそれぞれを巻き取る一対のウインチとからなること

を特徴とする,急勾配の地形部分に使用される法面等の加工機械。」

(2) 構成要件の分説

本件発明は,次の構成要件に分説することができる(弁論の全趣旨)。

A 車体と,

B この車体に取付けられた油圧等によって該車体を走行させることができ

る走行装置である無限軌道と,

C 前記車体の上部に該車体の一方に枢支ピンを介して一方が回動可能に取

付けられたベース板と,

D このベース板上に油圧等を用いた回転機構を介して回転可能に取付けら

れ,前記車体が傾斜状態にあっても水平状態で回転する作業台と,

E 前記ベース板の他方と前記車体の他方との間に取付けられた該ベース板

を回動させる回動機構と,

F 前記作業台の端部に取付けられた駆動アームと,

3
G この駆動アームの先端部に取付けられた作業アタッチメントと,

H 前記車体あるいはベース板の一方の両側部に互いに距離を置いて取付け

られた一対のウインチであって,該車体を支持し,かつ上方が拡開する状

態で張設された一対のワイヤーのそれぞれを巻き取る一対のウインチとか

らなることを特徴とする,

T 急勾配の地形部分に使用される法面等の加工機械。

(3) 被告らの行為

ア 被告ノーベルは,被告北都に対し,市販のバックホウショベル1台の購

入及び改造を依頼し,被告北都が市販品を購入し改良後,平成20年6月

初旬にイ号物件1台の引渡しを受けた(乙13ないし15,20,弁論の

全趣旨)。

被告らは,イ号物件の車体の前方に,ワイヤーの巻き取りを円滑化する

ための補助具であるフェアリーダーを設置して使用していた(乙20,弁

論の全趣旨)。

イ イ号物件の構成は,別紙「被告らイ号物件説明書」の「第1 構造」の

とおりである。

イ号物件と本件発明の対比のうち,被告らにおいて明らかに争わない部

分は以下のとおりである(原告第10準備書面1,2頁,被告ら第4準備

書面1,2頁)。

(ア) 別紙「被告らイ号物件説明書」の「第1 構造」の1項の「走行台

車1」の構成は,構成要件Aを充足する。

(イ) 1項の「履帯式の走行台車1」の構成は,構成要件Bを充足する。

(ウ) 2項の「保持フレーム2」の構成は,構成要件Cを充足する。

(エ) 3,4項の「該保持フレーム2の上に垂直軸心周りに旋回自在に装

着され」た「運転装置4」の構成は,構成要件Dを充足する。

(オ) 2項の「油圧シリンダ7」の構成は,構成要件Eを充足する。

4
(カ) 4項の構成は構成要件F,Gを充足する。

(キ) 1項の「鋼索Wを巻取り・巻戻す左右一対のウインチ6」の「後側

ドラム6a」の構成が構成要件Hを充足するかは争いがある。

(ク) イ号物件が勾配の地形部分に使用される法面等の加工機械であるこ

とは争いがないが,構成要件Iの「急勾配」の地形部分に使用されるか

は争いがある。

(4) 無効審判

被告ノーベルは,Pに対し,訂正前の請求項2の発明につき明確性違反

(特許法36条6項2号違反)及び進歩性違反(同法29条2項違反)を理

由として無効審判を申し立てた(無効2011−800022。甲8)。

特許庁は,平成23年11月1日,Pの請求した訂正を認め,被告ノーベ

ルの請求は成り立たない旨の審決をした(甲8)。

被告ノーベルは審決取消訴訟を提起したが,知的財産高等裁判所は,平成

24年8月8日,被告ノーベルの請求を棄却する旨の判決をし(知財高裁平

成23年(行ケ)第10409号。乙19),同判決は確定した(弁論の全

趣旨)。

(5) Pにかかる訴えの取下げ

Pは,原告と共同して本件訴訟を提起し,被告らに対しイ号物件の製造,

使用の差止め及び廃棄を求めていたが,本件特許権の特許期間が満了したた

め,平成25年2月18日,差止め及び廃棄請求に係る訴えを取り下げ,被

告らは訴えの一部取下げに同意した。これにより,Pは本件訴訟における共

同原告としての地位を喪失した(当裁判所に顕著な事実)。

3 主な争点

(1) 構成要件H充足性(争点1)

(2) 構成要件I充足性(争点2)

(3) 明確性違反の有無(争点3)

5
(4) 進歩性違反の有無(争点4)

(5) 損害(争点5)

第3 争点に関する当事者の主張

1 争点1(構成要件H充足性)について

(原告の主張)

(1) イ号物件の「鋼索Wを巻取り・巻戻す左右一対のウインチ6」の「後側

ドラム6a」の構成は,構成要件Hを充足する。

イ号物件において,構成要件Hの「ウインチ」に対応するのは,後側ドラ

ム6aである。

後側ドラム6aは,台車1の左右の後側に設置されているのであるから,

「車体の両側部に互いに距離を置いて取付けられ」た「一対のウインチ」に

当たる。

また,後側ドラム6aは,一対の鋼索Wを上方に逆ハ字状に張設するため

に台車1の左右前方に設置されたフェアリーダーとドラム6bを経由して巻

き取り巻き戻しているのであるから,「該車体を支持し,かつ上方が拡開す

る状態で張設された一対のワイヤーのそれぞれを巻き取る一対のウインチ」

に当たる。

(2) 構成要件Hの「車体あるいはベース板の一方」とは,「『車体』あるい

は『ベース板』の二つの取り付け可能な部位のうちどちらか一方」という意

味である。

イ号物件の後側ドラム6aは車体に設置されているから,「車体」あるい

は「ベース板」のうちのどちらか一方に設置されているといえる。

(3) イ号物件は車体前方にフェアリーダーを設置しているのであるか ら ,

「上方が拡開する状態で張設された一対のワイヤーのそれぞれを巻き取る」

のに適した構造であるといえる。

(4) 仮にフェアリーダーやガイドローラー等が用いられていなければ,平行

6
に取り付けられたウインチでは上方に拡開する状態で設置されたワイヤーの

巻き取りに円滑を欠くこととはなろうが,巻き取ること自体は不可能という

わけではないのであり,構成要件Hへの該当が否定されることにはならない。

つまり構成要件Hはワイヤーが円滑に巻き取られるかどうかということを要

素としていないのである。

(被告らの主張)

(1) 構成要件Hの「車体あるいはベース板の一方」とは,「『車体』あるい

は『ベース板』の二つの取り付け可能な部位のうちどちらか一方」という意

味ではなく,車体あるいはベース板という部位の中における位置関係を示す

ために使用されていると考えるのが自然であり,構成要件Cの「一方」が車

体及びベース板の前方向を指す意味で使用されているのであるから,構成要

件Hの「一方」も車体及びベース板の前方向を指す意味で使用されていると

考えることが自然である。

イ号物件の一対のウインチは車体の前方から後方にかけた全長一杯に配さ

れているのであるから,構成要件Hを充足しない。

また,車体に対してワイヤーを繰り出したり巻き取ったりする方のドラム

は車体の後方向に位置する後側ドラム6aなのであるから,この場合におい

ても後側ドラム6aは構成要件Hを満たさない。

(2) 構成要件Hの「上方が拡開する状態で張設された一対のワイヤーのそれ

ぞれを巻き取る」一対のウインチとは,「ワイヤーを巻き取るウインチがワ

イヤーの巻取り時や繰り出し時に引っかかったりしないような構造」を意味

する。

イ号物件の一対のウインチは車体の後方に取り付けられているため,ワイ

ヤー(鋼索W)を逆ハ字状に張った状態で車体を上下左右方向に昇降走行さ

せた場合,張設されたワイヤーに保持フレーム等が引っかかるため,車体の

前方にガイドローラー等の補助具を設置しない限り,「ワイヤーを巻き取る

7
ウインチがワイヤーの巻取り時や繰り出し時に引っかかったりしないような

構造」を満たさない。

したがって,この点においても構成要件Hを充足しない。

(3) なお,被告らは車体の前方にフェアリーダーを設置しているが,これは

ウインチとは別部材であり,決してウインチ自体が「ワイヤーの巻取り時や

繰り出し時に引っかかったりしないような構造」を有しているわけではない。

本件明細書にもこのようなフェアリーダーについて記載も示唆もない。

2 争点2(構成要件I充足性)について

(原告の主張)

本件明細書の記載によれば,「急勾配」は土木機械の投入が不可能な程度の,

あるいは,自走することができない程度の勾配であることが当業者に認識でき

る。

イ号物件は,土木機械の投入が不可能な程度の,あるいは,自走することが

できない程度の勾配で使用されるものであるから,イ号物件は「急勾配」で使

用されるものとして構成要件Iを充足する。

(被告らの主張)

イ号物件は勾配の地形部分に使用されるものであることは確かであるが,

「急勾配」がどの程度の勾配を指すのか不明である以上,この点において構成

要件Iを欠くといわざるを得ない。

3 争点3(明確性違反の有無)について

(被告らの主張)

(1) 本件発明の構成要件Hのうち,「該車体を支持し,かつ上方が拡開する

状態で張設された一対のワイヤーのそれぞれを巻き取る一対のウインチ」と

はどのような構造のものかが請求項はもとより,明細書及び図面に記載され

ていない。

審決(甲8)は,「『一対のウインチ』が『該車体を支持し,かつ上方が

8
拡開する状態で張設された一対のワイヤーのそれぞれを巻き取る』のに適し

た構造を有しているという限度で理解でき,ウインチの向き等が具体的に定

められていないからといって,直ちに不明確であるとまではいえない」と認

定するが,審決がいう「『該車体を支持し,かつ上方が拡開する状態で張設

された一対のワイヤーのそれぞれを巻き取る』のに適した構造」とは,具体

的にどのようなものか全く不明であり,いやしくも「適した構造」という以

上,それがどのような構造であるのか当業者が理解可能な程度に開示されて

いなければならない。

(2) 構成要件Iの「急勾配」も具体的にどの程度の勾配を指すのかが不明で

あり,本件明細書を参照しても定義が記載されていない。

(3) 以上のとおり,本件発明に係る特許請求の範囲の記載は明確なものでは

なく,特許法36条6項2号に違反する。

(原告の主張)

審決取消訴訟判決(乙19)のとおり,無効事由は存在しない。

(1) 本件発明の「一対のウインチ」に関する構成は,「一対のウインチ」が

「該車体を支持し,かつ上方が拡開する状態で張設された一対のワイヤーの

それぞれを巻き取る」のに適した構造を有しているという限度で理解できる。

(2) 本件明細書の記載によれば,「急勾配」は土木機械の投入が不可能な程

度の,あるいは,自走することができない程度の勾配であることが当業者に

認識できるのであって,「急勾配」の範囲が数値等により具体的に定められ

ていないからといって直ちに不明確であるとはいえない。

4 争点4(進歩性違反の有無)について

(被告らの主張)

(1) 本件発明は,本件出願前に公知であった以下の引用例に基づいて当業者

容易に想到できたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を

受けることができない。

9
引用例1:実願平1−33681号の公開実用新案公報(実開平2−12

5062号)のマイクロフィルム(乙1)

引用例2:実公昭48−17479号公報(乙2)

引用例3:特開昭61−176703号公報(乙8)

引用例4:特開平2−144415公報(乙9)

引用例5:実公昭46−5886号公報(乙5)

引用例6:実公昭35−7654号公報(乙6)

引用例7:実公昭45−32029号公報(乙7)

引用例8:実願昭59−104120号の公開実用新案公報(実開昭61

−19060号)のマイクロフィルム(乙10)

(2) 引用例1(乙1)には,以下の発明(以下「引用発明1」という。)が

開示されている。

a 車体(下部走行体15)と,この車体に取付けられた油圧等によって該

車体を走行させることができる走行装置と,

b 前記車体(下部走行体15)の上部に該車体の一方に枢支ピン(ピン2

6)を介して一方が回動可能に取付けられたベース板(フレーム体19)

と,

c このベース板(フレーム体19)上に油圧等を用いた回転機構(旋回軸

受16)を介して回転可能に取付けられた作業台(上部旋回体17)と,

d 前記ベース板(フレーム体19)の他方と前記車体(下部走行体15)

の他方との間に取付けられた該ベース板を回動させる回動機構(傾動シリ

ンダ20)と,

e 前記作業台(上部旋回体17)の端部に取付けられた駆動アーム(上部

旋回体17のフロント部に装着した作業アタッチメント18)と,この駆

動アームの先端部に取付けられた作業アタッチメント(作業アタッチメン

ト18の先端部に取付けた法面バケット13’)とからなる

10
f 法面等の加工機械(油圧ショベル)

(3) 以上から,引用発明1と本件発明とは次の点において共通する。

車体と,この車体に取付けられた駆動機構によって該車体を走行させるこ

とができる走行装置である無限軌道と,前記車体の上部に該車体の一方に枢

支ピンを介して一方が回動可能に取付けられたベース板と,このベース板上

に駆動機構を用いた回転機構を介して回転可能に取付けられ,前記車体が傾

斜状態にあっても水平状態で回転する作業台と,前記ベース板の他方と前記

車体の他方との間に取付けられた該ベース板を回動させる回動機構と,前記

作業台の端部に取付けられた駆動アームと,この駆動アームの先端部に取り

付けられた作業アタッチメントとからなる,急勾配の地形部分に使用される

法面等の加工機械である点。

(4) 一方,引用発明1と本件発明とは次の点において相違する。

本件発明は「前記車体あるいはベース板の一方の両側部に互いに距離を置い

て取り付けられた一対のウインチであって,該車体を支持し,かつ上方が拡

開する状態で張設された一対のワイヤーのそれぞれを巻き取る一対のウイン

チ」を有するのに対し,引用発明1はウインチを有しない点。

(5) しかし,当業者が引用発明1に,引用例8の発明(乙10)や引用例2

〜4の発明(乙2,8,9)を組み合わせて本件発明を想到することに格別

の困難性はない。引用例2〜4においてワイヤーを巻き取るウインチは加工

機械側に設置されていないが,引用例5〜8(乙5ないし7,10)にはウ

インチを加工機械側に取り付けることが開示されており,ワイヤー取付け金

具に代えてウインチを加工機械側に取り付けることは当業者が容易に選択で

きる設計事項に過ぎず困難性はない。

(6) したがって,本件発明は特許法29条2項により特許を受けることがで

きないものである。

(原告の主張)

11
審決取消訴訟判決(乙19)のとおり,無効事由は存在しない。

(1) 引用例1(乙1)には,「車体の上部に該車体の一方に枢支ピンを介し

て回動可能に取付けられたベース板に,回転機構を介して回転可能に取付け

られ,前記車体が傾斜状態にあっても水平状態で回転する作業台」の構成

構成要件D),「前記車体あるいはベース板の一方の両側部に互いに距離

を置いて取付けられた一対のウインチであって,該車体を支持し,かつ上方

が拡開する状態で張設された一対のワイヤーのそれぞれを巻き取る一対のウ

インチ」の構成(構成要件H),「急勾配の地形部分に使用される」構成

構成要件I)のいずれも備えていない。

(2) 引用発明1において,相違点に係る構成を採用することが引用例2〜8

(乙2,5ないし10)に記載の事項から当業者が容易に想到し得ることと

はいえない。

5 争点5(損害)について

(原告の主張)

(1) 被告ノーベルは,被告北都からイ号物件の引渡しを受け,イ号物件を別

紙工事目録記載の工事に使用した。このような取引態様によれば,被告らは

共同でイ号物件を業として製造,使用しているものと評価される。

(2) 被告らは,イ号物件を使用した工事により,2000万円を下らない利

益を受けている。

特許権者であったPは,Pが代表取締役を務める原告に独占的通常実施権

を設定し,原告を通じて多数の本件特許権の実施品を製造している。

特許法102条2項により,Pが受けた損害は2000万円を下らないも

のと推定される。

(3) Pは,平成22年11月16日,被告らに対する本件特許権侵害に基づ

く損害賠償請求権を,取立委任の目的で原告に債権譲渡した。

(4) よって,原告は,被告らに対し,連帯して,2000万円及びこれに対

12
する訴状送達の日の翌日である平成22年12月9日から支払済みまで民法

所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(被告らの主張)

(1) 被告ノーベルは,被告北都に市販のバックホウショベルの購入及び改造

を依頼し,平成20年6月初旬に被告北都からイ号物件の引渡しを受けた。

その後,被告ノーベルは,イ号物件の使い勝手が悪いことから,被告北都

にイ号物件の再改造を依頼し,被告北都はイ号物件を再改造し(ウインチが

バックホウショベルに取り付けられていない,外部ウインチタイプ),平成

21年6月23日に被告ノーベルに引き渡した。

イ号物件は,別紙工事目録記載の工事1,2の一部でのみ使用し,その後,

改良したため現在は存在しない。

(2) 原告の主張(2)は否認する。

(3) 原告の主張(3)は不知。

第4 当裁判所の判断

1 争点1(構成要件H充足性)について

本件発明の構成要件Hは,「前記車体あるいはベース板の一方の両側部に互

いに距離を置いて取付けられた一対のウインチであって,該車体を支持し,か

つ上方が拡開する状態で張設された一対のワイヤーのそれぞれを巻き取る一対

のウインチとからなることを特徴とする」というものである。

原告において構成要件Hにいう「ウインチ」に対応すると主張するイ号物件

の後側ドラム6aは,車体後方の両側部に互いに距離を置いて取付けられ,車

体を支持する一対のワイヤー(鋼索W)のそれぞれを巻き取ることができると

ころ,これが「前記車体あるいはベース板の一方」に取付けられているといえ

るか,また「上方が拡開する状態で張設された一対のワイヤーのそれぞれを巻

き取る」ウインチといえるか争いがあるので,以下検討する。

(1) 「前記車体あるいはベース板の一方」について

13
ア まず,「前記車体あるいはベース板の一方」につき,原告は,「『車

体』あるいは『ベース板』のどちらか一方」を意味すると主張するのに対

し,被告らは,「『車体の前方』あるいは『ベース板の前方』」を意味す

ると主張するので,その意義について検討する。

特許請求の範囲に記載された用語は,明細書全体を通じて統一して使用

されるべきところ(特許法施行規則24条,様式29備考8),本件明細

書における「一方」という用語の使い方は以下のとおりである。

(ア) まず,本件発明である請求項2の発明の「特許請求の範囲」におい

て,構成要件Cには「該車体の一方に枢支ピンを介して一方が回動可能

に取付けられ」という文言があり,この「該車体の一方」は,車体のう

ち枢支ピンが存在する側(実施例でいえば前方)を意味している。また,

構成要件Eの「前記ベース板の他方と前記車体の他方との間に取付けら

れた該ベース板を回動させる回動機構」とは,枢支ピンに取り付けられ

たベース板を回動させる機構であるから,枢支ピンを支点とする回動を

引き起こす機構であり,このような機構が存在する「前記ベース板の他

方」とは,構成要件Cの「一方が回動可能に取付けられたベース板」の,

車体に取り付けられていない側(実施例でいえば後方)を意味し,「前

記車体の他方」とは,構成要件Cの「該車体の一方」の反対の側(実施

例でいえば後方)を意味している。

(イ) 次に,本件特許権の請求項1の発明においては,ウインチは「前記

車体の一方に取付けられた」ものとされており,この場合の「前記車体

の一方」は,その前の「該車体の一方に枢支ピンを介して一方が回動可

能に取付けられた」との記載を受けたものであるから,車体のうち枢支

ピンが存在する側(実施例でいえば前方)の意味と解される。

(ウ) 本件明細書の課題を解決するための手段を記載した段落【000

5】,実施例の構成を記載した段落【0008】,発明の効果を記載し

14
た段落【0025】にも「前記車体の一方」「前記車体2の一方」とあ

るが,これらはいずれも請求項1及び2の記載に対応するものであり,

やはり車体のうち枢支ピンが存在する側(実施例でいえば前方)と解さ

れる。

(エ) 本件明細書において,「一方」という用語を,1つの部材における

位置関係を示すのではなく,「2つの選択可能な物のどちらか」という

意味で使用している箇所は存在しない。

(オ) そうすると,構成要件Hにいう「前記車体あるいはベース板の一

方」とは,「車体あるいはベース板のうち,枢支ピンが存在する側」の

意味に解するのが相当である(また,構成要件Eの「車体の他方」とは,

枢支ピンを支点とする回動を生じさせる回動機構が存在する側と解する

のが相当である。)。

イ これをイ号物件についてみると,イ号物件の後側ドラム6aは車体の回

動機構が存在する側(後方)に取り付けられ,車体の枢支ピンが存在する

側(前方,「車体の一方」)にも,ベース板の枢支ピンが存在する側(前

方,「ベース板の一方」)にも取り付けられていないから,イ号物件は,

「前記車体あるいはベース板の一方……に……取付けられた……ウイン

チ」を充足しない。

(2) 「上方が拡開する状態で張設された一対のワイヤーのそれぞれを巻き取

る」について

ア 次に,「上方が拡開する状態で張設された一対のワイヤーのそれぞれを

巻き取る一対のウインチ」の意義については,この要件が当初の請求項2

の「ワイヤーを巻き取る一対のウインチ」(甲1)から減縮訂正されたも

のであること(甲6,8)から考えると,上方が拡開する状態で張設され

た(いわゆる逆ハの字の)ワイヤーを巻き取ることが不可能ではないとい

う程度では足りず,一対のウインチが,「上方が拡開する状態で張設され

15
た一対のワイヤーのそれぞれを巻き取る」のに適した構造を有しているこ

とを要求しているものと解するのが相当である(甲8・16頁,乙19・

18頁)。

イ そこで,イ号物件が逆ハの字のワイヤーを巻き取るのに適した構造を有

しているといえるか検討する。

イ号物件において構成要件Hの「ウインチ」に対応する後側ドラム6a

は,それ自体としては特に逆ハの字のワイヤーを巻き取るのに適した構造

を有しているとは認められない(なお,甲7・8頁の図は,10頁に「施

工機にはウィンチ1台に主ワイヤー1本と補助ワイヤー2本があり」とあ

ることなどからして,左右一対のウインチを有するイ号物件に関するもの

とは認められない。)。

ウ イ号物件は,車体前方にフェアリーダーを設置して使用されていたこと

が認められる(乙20)が,構成要件Hは,ウインチ自体の構造として逆

ハの字のワイヤーを巻き取るのに適した構造を要求しているのであるから,

イ号物件における後側ドラム6aが逆ハの字のワイヤーを巻き取るのに適

した構造を有しておらず,構成要件Hにいう「上方が拡開する状態で張設

された一対のワイヤーのそれぞれを巻き取る一対のウインチ」といえない

以上,イ号物件が構成要件Hを充足するとはいえない。

(3) 以上によれば,イ号物件は構成要件Hを充足しない。

2 争点2(構成要件I充足性)について

(1) 被告らは,構成要件Iにいう「急勾配」がどの程度の勾配を指すのか不

明である以上,イ号物件は構成要件Iを充足しないと主張する。

(2) しかし,本件明細書の段落【0003】等の記載によれば,構成要件

にいう「急勾配」は,土木機械の投入が不可能な程度の,あるいは,自走す

ることができない程度の勾配であることが当業者に認識できる(甲8・16

頁,乙19・26頁)。

16
イ号物件は,ウインチを備えている以上,ウインチとワイヤーにより車体

を支持しなければ土木機械の投入が不可能な程度の,あるいは,自走するこ

とができない程度の勾配で使用されるものと認められるから,イ号物件は

「急勾配」の地形部分に使用される法面等の加工機械として,構成要件Iを

充足する。

3 争点3(明確性違反の有無)について

(1) 以上のとおり,イ号物件は本件発明の技術的範囲に属しないと判断され

るが,所論にかんがみ,本件発明の無効事由の有無についても検討しておく

こととする。

上記1(2)アのとおり,構成要件Hの「該車体を支持し,かつ上方が拡開

する状態で張設された一対のワイヤーのそれぞれを巻き取る一対のウイン

チ」は,本件明細書に接した当業者であれば,「『該車体を支持し,かつ上

方が拡開する状態で張設された一対のワイヤーのそれぞれを巻き取る』のに

適した構造を有する一対のウインチ」という意味に理解することができるか

ら,この要件が明確性を欠くとはいえない。

(2) 上記2のとおり,構成要件Iの「急勾配」は,本件明細書に接した当業

者であれば,「土木機械の投入が不可能な程度の,あるいは,自走すること

ができない程度の勾配」という意味に理解することができるから,この要件

明確性を欠くとはいえない。

4 争点4(進歩性違反の有無)について

(1) 引用例1(実開平2−125062号のマイクロフィルム。乙1)には,

以下の発明(引用発明1)が開示されている。

a 車体(下部走行体15)と,この車体に取付けられた該車体を走行させ

ることができる走行装置である無限軌道と,

b 前記車体(下部走行体15)の上部に該車体の一方に枢支ピン(ピン2

6)を介して一方が回動可能に取付けられたベース板(フレーム体19)

17
と,

c このベース板(フレーム体19)上に油圧等を用いた回転機構(旋回軸

受16)を介して回転可能に取付けられた作業台(上部旋回体17)と,

d 前記ベース板(フレーム体19)の他方と前記車体(下部走行体15)

の他方との間に取付けられた該ベース板を回動させ,法面においても前記

作業台(上部旋回体17)を水平状態に調整操作できる回動機構(傾動シ

リンダ20)と,

e 前記作業台(上部旋回体17)の端部に取付けられた駆動アーム(上部

旋回体17のフロント部に装着した作業アタッチメント18)と,この駆

動アームの先端部に取付けられた作業アタッチメント(作業アタッチメン

ト18の先端部に取付けた法面バケット13’)とからなる

f 法面等の加工機械(油圧ショベル)

(2) 本件発明と引用発明1との一致点及び相違点は,以下のとおりで あ る

(乙19・5,24,25頁)。

ア 一致点:車体と,この車体に取付けられた駆動機構によって該車体を走

行させることができる走行装置である無限軌道と,前記車体の上部に該車

体の一方に枢支ピンを介して一方が回動可能に取付けられたベース板と,

このベース板上に駆動機構を用いた回転機構を介して回転可能に取付けら

れ,前記車体が傾斜状態にあっても水平状態で回転する作業台と,前記

ベース板の他方と前記車体の他方との間に取付けられた該ベース板を回動

させる回動機構と,前記作業台の端部に取付けられた駆動アームと,この

駆動アームの先端部に取り付けられた作業アタッチメントとからなる,勾

配のある地形部分に使用される法面等の加工機械である点。

イ 相違点1:無限軌道及び回転機構の「駆動機構」について,本件発明は

「油圧等」であるのに対し,引用発明1はどのような機構か明らかでない

点。

18
ウ 相違点2:本件発明は「前記車体あるいはベース板の一方の両側部に互

いに距離を置いて取り付けられた一対のウインチであって,該車体を支持

し,かつ上方が拡開する状態で張設された一対のワイヤーのそれぞれを巻

き取る一対のウインチ」を有するのに対し,引用発明1はウインチを有し

ていない点。

エ 相違点3:前記「勾配のある地形部分」が,本件発明では「急勾配の」

ものであるのに対し,引用発明1では勾配がどの程度であるか不明である

点。

(3) 相違点1について

本件発明においても,駆動機構は「油圧等」であって「油圧」に限定され

ているわけではないから,相違点1は実質的な相違点とはいえない。

(4) 相違点2,3について

ア 本件発明は,従来,高くて急勾配の地形部分に法面を形成する場合,全

面にわたって土木機械を投入することができず,人の手作業によっていた

ため,作業効率が悪く,危険であるなどの課題があったことから,そうし

た地形部分でも作業者がほぼ水平状態で操作できる加工機械を用いるとと

もに,当該機械について,「車体あるいはベース板の一方の両側部に互い

に距離を置いて取り付けられた一対のウインチであって,車体を支持し,

かつ上方が拡開する状態で張設された一対のワイヤーのそれぞれを巻き取

る一対のウインチ」を有する構成(相違点2に係る構成)を採用し,その

結果,ウインチの作動によってワイヤーを伸縮させるとともに,無限軌道

を駆動させることにより,無限軌道だけでは自走することができない傾斜

面部位でも車体を上下左右方向に移動することができるという作用効果を

奏するものである(本件明細書の段落【0003】〜【0006】,【0

024】〜【0028】)。

これに対し,引用発明1は,無限軌道の駆動により傾斜面を昇降走行す

19
る油圧ショベルであるから,本件発明にいう急勾配,すなわち,(ウイン

チ及びワイヤーにより車体を支持しなければ)土木機械の投入が不可能,

あるいは自走することができない傾斜面において使用することまでは想定

されておらず,引用例1(乙1)にも,そうした傾斜面部位でも一対のウ

インチを用いて車体を上下左右方向に移動させ,法面形成作業を効率よく

行うことの直接的な動機付けや示唆はない。

イ 引用例2,3,5ないし8(乙2,5ないし8,10)には,それぞれ

ウインチ及びワイヤーを用いる技術が開示されているが,いずれの引用例

にも,「車体を支持し,かつ上方が拡開する状態で張設された一対のワイ

ヤーのそれぞれを巻き取る一対のウインチ」は開示されていない(引用例

2ではワイヤーを引き上げる一対のウインチが記載されているが,ワイ

ヤーは平行に張設され,アスファルトフィニッシャは左右に進行方向を変

えることなく常に正しい方向に直進し得るものとされている。引用例3で

は2つのウインチを作動させる油圧モータの流量を変えることによってワ

イヤーの巻取り量を変えアスファルトフィニッシャの向きを変える装置が

開示されているにすぎない。引用例5の一対のウインチはワイヤロープを

平行に保持したまま保持用機械と共に並行移動するものであり,上方に拡

開する状態で張設されたワイヤーを巻き取るものではない。引用例6〜8

には,一対のウインチが開示されているとはいえない。)。

引用例4(乙9)には,傾斜した補強面上方の3台のウインチ(13a

〜13c)から繰り出された3本のワイヤー(12a〜12c)で台車

(1)を牽引し,中央の主ワイヤー(12a)は,主として台車の重量を

支え台車の昇降移動を受け持つものであるのに対し,上方が拡開する状態

で張設された左右のワイヤー(12b,12c)は,車輪(3)の舵取り

装置(17)に連結した可動連結具(9b)の先端に係止されて台車の左

右方向への移動を受け持つものであって,左右のウインチ及びこれに基づ

20
く左右ワイヤーの操作によって,台車の広大な補強面の移動が可能となる

技術が開示されているが,「車体を支持し,かつ上方が拡開する状態で張

設された一対のワイヤーのそれぞれを巻き取る一対のウインチ」が開示さ

れているわけではなく,また,走行装置が無限軌道ではないため,左右の

ワイヤーで(可動連結具(9b),舵取り装置(17)を介して)前輪を

傾動させ,その上で主ワイヤーで牽引するものであり,急勾配の未整形地

を走行することを前提としていない。

ウ 以上のとおり,引用発明1は,本件発明にいう急勾配,すなわち,土木

機械の投入が不可能,あるいは自走することができない傾斜面において使

用することまでは想定されておらず,引用例1にも,そうした傾斜面部位

でも一対のウインチを用いて車体を上下左右方向に移動させ,法面形成作

業を効率よく行うことの直接的な動機付けや示唆はないから,引用発明1

に,引用例2ないし8に記載された事項を適用することが容易であるとい

うことはできない。

また,仮に,引用発明1に,引用例2ないし8に開示された傾斜面での

走行や土木工事作業を行う機械について,ワイヤーによる牽引機構を採用

する技術を適用したとしても,引用例2ないし8のいずれにも,「車体を

支持し,かつ上方が拡開する状態で張設された一対のワイヤーのそれぞれ

を巻き取る一対のウインチ」は開示されていないから,本件発明に想到す

ることが容易であるとはいえない。

エ したがって,本件発明は,引用発明1及び引用例2ないし8に開示され

た事項に基づき容易に想到することができたとはいえない。

5 結論

以上によれば,イ号物件は本件発明の技術的範囲に属しないから,原告の請

求はすべて理由がない。

よって,主文のとおり判決する。

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東京地方裁判所民事第29部




裁判長裁判官



大 須 賀 滋




裁判官



小 川 雅 敏




裁判官



西 村 康 夫




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