審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成22行ケ10389審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成21行ケ10130審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成19行ケ10257審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成24行ケ10174審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成23行ケ10337審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
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事件 |
平成
24年
(行ケ)
10339号
審決取消請求事件
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裁判所のデータが存在しません。 | |
裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2013/05/23 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
判例全文 | |
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判例全文
平成25年5月23日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官 平成24年(行ケ)第10339号 審決取消請求事件 口頭弁論終結日 平成25年4月25日 判 決 原 告 株式会社後藤製作所 同訴訟代理人弁護士 橘 高 郁 文 被 告 美和ロック株式会社 同訴訟代理人弁理士 三 浦 光 康 主 文 原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 特許庁が無効2010−800013号事件について平成24年8月21日にし た審決を取り消す。 第2 事案の概要 本件は,原告が,後記1のとおりの手続において,被告の後記2の本件発明に係 る特許に対する原告の特許無効審判の請求について,特許庁が同請求は成り立たな いとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は後記3のとおり)には, 後記4のとおりの取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。 1 本件訴訟に至る手続の経緯 (1) 被告は,平成14年8月5日,発明の名称を「ロータリーディスクタンブ ラー錠及び鍵」とする特許出願(特願2002−226833号。国内優先権主張 :平成13年10月15日)をし,平成19年9月7日,設定の登録(特許第40 08302号)を受けた(甲26)。 (2) 原告は,平成22年1月20日,上記特許に係る発明の全てである請求項 1ないし3について特許無効審判を請求し,無効2010−800013号事件と して係属したところ,特許庁は,平成22年11月8日,「特許第4008302 号の請求項1ないし3に係る発明についての特許を無効とする。」との審決をした。 (3) 被告は,これを不服として知的財産高等裁判所に上記(2)の審決の取消しを 求める訴え(平成22年(行ケ)第10391号)を提起するとともに,平成23 年1月18日付けで特許庁に対する訂正審判請求をしたところ,同裁判所は,平成 23年2月7日,上記(2)の審決を取り消す旨の決定をし,同決定は確定した。 (4) 上記決定確定後の無効審判請求事件(無効2010−800013号事 件)において,被告は,平成23年3月4日付けで訂正請求をしたところ,特許庁 は,同年8月30日,上記訂正を却下した上で,「特許第4008302号の請求 項1ないし3に係る発明についての特許を無効とする。」との審決をした。 (5) 被告は,これを不服として知的財産高等裁判所に上記(4)の審決の取消しを 求める訴え(平成23年(行ケ)第10322号)を提起するとともに,平成23 年10月27日付けで訂正審判を請求した(訂正2011−390118号。以下 「本件訂正」という。)ところ,特許庁は,同年12月20日,本件訂正をするこ とを認める旨の審決をし,同審決は確定した。 (6) 本件訂正の確定を受け,知的財産高等裁判所は,平成24年3月7日,前 記(4)の審決を取り消す旨の判決をした。 (7) 上記判決確定後の無効審判請求事件(無効2010−800013号事 件)において,特許庁は,平成24年8月21日,「本件審判の請求は,成り立た ない。」旨の本件審決をし,同月31日,その謄本が原告に送達された。 2 特許請求の範囲の記載 本件訂正後の特許請求の範囲の記載は次のとおりである。以下,順に「本件発明 1」などといい,これらの発明を併せて「本件発明」という。また,本件発明に係 る明細書(甲27)を,図面(甲26)と併せて,「本件明細書」という。 【請求項1】内周面の母線に沿って横断面形状が略V字形のカム溝を形成した外筒 と,この外筒に回転自在に嵌合し,間隙を介して中心軸線方向に積層された複数の 仕切板を設けると共に,中心軸線に沿って鍵孔を貫通させた内筒と,この内筒の母 線に沿って延在し,内筒の外周部において半径方向に移動可能に案内されると共に, 上記カム溝と係合する外側縁が外方に突出する方向に付勢されたロッキングバーと を有し,上記仕切板の間の各スロットに,中央部に前記内筒の中心軸線に関して点 対称に形成された鍵孔を包囲し得る大きさの鍵挿通孔を形成した環状ロータリーデ ィスクタンブラーを挿設し,その実体部の1ヵ所を,内筒を軸線方向に貫通する支 軸に揺動可能に軸支すると共に,鍵挿通孔を挟んで上記支軸と対峙するロータリー ディスクタンブラーの実体部であり,円弧の一部をなす自由端部外側端縁に解錠切 欠を形成し,一方,鍵挿通孔の開口端縁に,先端の移動軌跡が鍵孔に挿入されたリ バーシブルである合鍵のブレードの平面部と干渉する係合突起を一体に突設し,各 ロータリーディスクタンブラーをこの係合突起が合鍵に近接する方向に付勢すると 共に,常態では内筒を軸線方向に貫通するバックアップピンに係止し,他方,これ らのタンブラー群の突出量が一定である前記係合突起の夫々が鍵孔に挿通された合 鍵のブレードの平面部に形成された対応する有底で複数種類の大きさと深さを有す る摺り鉢形の窪みと係合したとき,該タンブラー群が前記摺り鉢形の窪みの深さや ブレードの幅方向の位置に対応して揺動角度が変わることにより,各ロータリーデ ィスクタンブラーの解錠切欠がロッキングバーの内側縁と整合するようにし,以て, 合鍵と一体的に内筒を回動させたさせたとき,カム溝とロッキングバーとの間に生 じる楔作用によりロッキングバーを内筒中心軸方向に移動させ,内筒を外筒に対し 相対回動できるようにしたことを特徴とするロータリーディスクタンブラー錠。 【請求項2】内周面の母線に沿って横断面形状が略V字形のカム溝を形成した外筒 と,この外筒に回転自在に嵌合し,間隙を介して中心軸線方向に積層された複数の 仕切板を設けると共に,中心軸線に沿って鍵孔を貫通させた内筒と,この内筒の母 線に沿って延在し,内筒の外周部において半径方向に移動可能に案内されると共に, 上記カム溝と係合する外側縁が外方に突出する方向に付勢されたロッキングバーと を有し,上記仕切板の間の各スロットに,中央部に前記内筒の中心軸線に関して点 対称に形成された鍵孔を包囲し得る大きさの鍵挿通孔を形成した環状ロータリーデ ィスクタンブラーを挿設し,その実体部の1ヵ所を,内筒を軸線方向に貫通する支 軸に揺動可能に軸支すると共に,鍵挿通孔を挟んで上記支軸と対峙するロータリー ディスクタンブラーの実体部であり,円弧の一部をなす自由端部外側端縁に解錠切 欠を形成し,一方,鍵挿通孔の開口端縁に,先端の移動軌跡が鍵孔に挿入されたリ バーシブルである合鍵のブレードの平面部と干渉する係合突起を一体に突設し,各 ロータリーディスクタンブラーをこの係合突起が合鍵に近接する方向に付勢すると 共に,常態では内筒を軸線方向に貫通するバックアップピンに係止し,他方,これ らのタンブラー群の係合突起の夫々が鍵孔に挿通された合鍵のブレードに形成され た対応する窪みと係合したとき,各ロータリーディスクタンブラーの解錠切欠がロ ッキングバーの内側縁と整合するようにしたロータリーディスクタンブラー錠の合 鍵であって,鍵孔に挿入されたときロータリーディスクタンブラーの突出量が一定 である前記係合突起の先端と整合するブレードの平面部に,有底で複数種類の大き さと深さの摺り鉢形の窪みを形成し,この窪みが対応する前記係合突起と係合した とき,該タンブラー群が前記摺り鉢形の窪みの深さやブレードの幅方向の位置に対 応して揺動角度が変わることにより,各ロータリーディスクタンブラーの解錠切欠 がロッキングバーの内側縁と整合するようにし,以て,合鍵と一体的に内筒を回動 させたさせたとき,カム溝とロッキングバーとの間に生じる楔作用によりロッキン グバーを内筒中心軸方向に移動させ,内筒を外筒に対し相対回動できるようにした ことを特徴とするロータリーディスクタンブラー錠用の鍵。 【請求項3】上記ロータリーディスクタンブラーを捩りコイルばねによって付勢す るようにしたことを特徴とする請求項1記載のロータリーディスクタンブラー錠。 3 本件審決の理由の要旨 (1) 本件審決の理由は,要するに,@本件発明は,いずれも後記引用例1ない し24に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたもの であるとはいえない,A本件発明2に係る特許請求の範囲の記載は明確(特許法3 6条6項2号)であり,本件明細書の記載も,実施可能要件(平成14年法律第2 4号による改正前の特許法36条4項)に違反しない,というものである。 ア 引用例1:特開平9−144398号公報(甲1) イ 引用例2:実公平6−28616号公報(甲2) ウ 引用例3:実公昭55−32998号公報(甲3) エ 引用例4:意匠登録第965697号公報,平成8年10月14日発行(甲 4) オ 引用例5:意匠登録第1110356号公報,平成13年6月4日発行(甲 5) カ 引用例6:実願昭57−149628号(実開昭59−51958号)のマ イクロフィルム(甲6) キ 引用例7:実願平4−89007号(実開平6−51443号)のCD−R OM(甲7) ク 引用例8:実公昭51−15730号公報(甲8) ケ 引用例9:特開2000−96889号公報(甲9) コ 引用例10:特開昭62−194374号公報(甲10) サ 引用例11:実願平5−42779号(実開平7−14041号)のCD− ROM(甲11) シ 引用例12:特開昭62−189269号公報(甲12) ス 引用例13:特開平6−346639号公報(甲13) セ 引用例14:特開平9−41742号公報(甲14) ソ 引用例15:「工業大事典15 ハ ケ −フ タ 」85頁,平凡社,昭和36年 12月23日発行(甲15) タ 引用例16:「商品大辞典」172頁,東洋経済新報社,昭和58年5月2 0日発行(甲16) チ 引用例17:「図解 機械用語辞典 第3版」186〜187頁,日刊工業 新聞社,平成5年11月30日発行(甲17) ツ 引用例18:「広辞苑 第2版」725頁,岩波書店,昭和50年9月25 日発行(甲18) テ 引用例19:実願平3−104745(実開平6−65631号)のCD− ROM(甲19) ト 引用例20:特開平6−248843号公報(甲20) ナ 引用例21:特開2000−87610号公報(甲21) ニ 引用例22:実公昭59−19099号公報(甲22) ヌ 引用例23:「MIWA 総合カタログ 2008年版」63ないし65頁, 被告,平成20年発行(甲23) ネ 引用例24:実公昭59−19099号公報(甲24) (2) 本件審決は,その判断の前提として,引用例1に記載されたレバータンブ ラー錠に係る発明(以下「引用発明1」という。),本件発明1と引用発明1との 一致点及び相違点を,以下のとおり認定した。 ア 引用発明1:内周面の母線に沿って横断面形状が略V字形のカム溝を形成し た外筒と,この外筒に回転自在に嵌合し,間隙を介して中心軸線方向に積層された 複数の仕切板を設けると共に,中心軸線に沿って鍵孔を貫通させた内筒部と,この 内筒部の母線に沿って延在し,内筒部の外周部において半径方向に移動可能に案内 されると共に,上記カム溝と係合する外側縁が外方に突出する方向に付勢されたロ ッキングバーとを有し,上記仕切板の間の各スロットに,中央部に点対称に形成さ れた鍵孔を包囲し得る大きさの鍵挿通切欠を形成したC字状のレバータンブラーを 挿設し,その実体部の1ヵ所を,内筒部を軸線方向に貫通する支軸に揺動可能に軸 支すると共に,鍵挿通切欠を挟んで上記支軸と対峙するレバータンブラーの実体部 であり,円弧の一部をなす自由端部外側端縁に解錠切欠きを形成し,一方,鍵挿通 切欠の開口端縁に,先端の移動軌跡が鍵孔に挿入されたリバーシブルである合鍵の キー本体の端縁部と干渉する係合縁部を一体的に突設し,各レバータンブラーをこ の係合縁部が合鍵に近接する方向にタンブラーばねで付勢すると共に,常態では内 筒部を軸線方向に貫通するバックアップピンに係止し,他方,これらのレバータン ブラー群の係合縁部の夫々が鍵孔に挿通された合鍵のキー本体に谷の底部3,3a を内に凸の曲面の傾斜面として形成された刻みと係合したとき,当該刻みに対応し て各レバータンブラーの揺動角度が変わって解錠切欠きがロッキングバーの内側縁 と整合するようにし,以て,合鍵と一体的に内筒部を回動させたとき,カム溝とロ ッキングバーとの間に生じる楔作用によりロッキングバーを内筒部中心軸方向に移 動させ,内筒部を外筒に対し相対回動できるようにしたレバータンブラー錠 イ 一致点:内周面の母線に沿って横断面形状が略V字形のカム溝を形成した外 筒と,この外筒に回転自在に嵌合し,間隙を介して中心軸線方向に積層された複数 の仕切板を設けると共に,中心軸線に沿って鍵孔を貫通させた内筒と,この内筒の 母線に沿って延在し,内筒の外周部において半径方向に移動可能に案内されると共 に,上記カム溝と係合する外側縁が外方に突出する方向に付勢されたロッキングバ ーとを有し,上記仕切板の間の各スロットに,中央部に点対称に形成された鍵孔を 包囲し得る大きさの鍵挿通部を形成したロータリーディスクタンブラーを挿設し, その実体部の1ヵ所を,内筒を軸線方向に貫通する支軸に揺動可能に軸支すると共 に,鍵挿通部を挟んで上記支軸と対峙するロータリーディスクタンブラーの実体部 であり,円弧の一部をなす自由端部外側端縁に解錠切欠を形成し,一方,鍵挿通部 の開口端縁に,先端の移動軌跡が鍵孔に挿入されたリバーシブルである合鍵のブレ ードと干渉する係合部を一体的に突設し,各ロータリーディスクタンブラーをこの 係合部が合鍵に近接する方向に付勢すると共に,常態では内筒を軸線方向に貫通す るバックアップピンに係止し,他方,これらのタンブラー群の係合部の夫々が鍵孔 に挿通された合鍵のブレードに形成された対応する窪みと係合したとき,タンブラ ー群が前記窪みの深さや位置に対応して揺動角度が変わって解錠切欠がロッキング バーの内側縁と整合するようにし,以て,合鍵と一体的に内筒を回動させたとき, カム溝とロッキングバーとの間に生じる楔作用によりロッキングバーを内筒中心軸 方向に移動させ,内筒を外筒に対し相対回動できるようにしたロータリーディスク タンブラー錠 ウ 相違点1:点対称に形成された鍵孔について,本件発明1では「内筒の中心 軸線に関して」点対称に形成されているのに対し,引用発明1では「内筒の中心軸 線に関して」点対称に形成されているか不明である点 エ 相違点2:鍵挿通部及びロータリーディスクタンブラーの構成について,本 件発明1では,鍵挿通部が「鍵挿通孔」であって,この「鍵挿通孔」を中央部に形 成したロータリーディスクタンブラーが「環状ロータリーディスクタンブラー」で あるのに対して,引用発明1では,鍵挿通部が「鍵挿通切欠」であって,この「鍵 挿通切欠」を中央部に形成したディスクタンブラーが「C字状のレバータンブラ ー」である点 オ 相違点3:ディスクタンブラーの解錠切欠とロッキングバーの内側縁とを整 合させるための「係合部」と「窪み」について,本件発明1では,先端の移動軌跡 が合鍵のブレードの「平面部」と干渉する「係合突起」を有し,「ロータリーディ スクタンブラー」の開口端縁に一体に「突出量が一定」に突設した「係合突起」と, 合鍵のブレードの「平面部」に形成された「有底で複数種類の大きさと深さを有す る摺り鉢形の窪み」との係合により,「タンブラー群が摺り鉢形の窪みの深さやブ レードの幅方向の位置に対応して揺動角度が変わることにより」上記整合を行うも のであるのに対して,引用発明1では,「C字状のレバータンブラー」の開口端縁 に一体に突設した「係合縁部」と,合鍵のブレードの端縁部と干渉して,当該端縁 部に形成された対応する「本体に谷の底部3,3aを内に凸の曲面の傾斜面として 形成された刻み」との係合により,「当該刻みに対応して各レバータンブラーの揺 動角度が変わって」上記整合を行うものである点 (3) 本件審決は,その判断の前提として,引用例1に記載されたレバータンブ ラー錠用の鍵に係る発明(以下「引用発明2」といい,引用発明1と併せて,「引 用発明」という。),本件発明2と引用発明2との一致点及び相違点を,以下のと おり認定した。 ア 引用発明2:内周面の母線に沿って横断面形状が略V字形のカム溝を形成し た外筒と,この外筒に回転自在に嵌合し,間隙を介して中心軸線方向に積層された 複数の仕切板を設けると共に,中心軸線に沿って鍵孔を貫通させた内筒部と,この 内筒部の母線に沿って延在し,内筒部の外周部において半径方向に移動可能に案内 されると共に,上記カム溝と係合する外側縁が外方に突出する方向に付勢されたロ ッキングバーとを有し,上記仕切板の間の各スロットに,中央部に点対称に形成さ れた鍵孔を包囲し得る大きさの鍵挿通切欠を形成したC字状のレバータンブラーを 挿設し,その実体部の1ヵ所を,内筒部を軸線方向に貫通する支軸に揺動可能に軸 支すると共に,鍵挿通切欠を挟んで上記支軸と対峙するレバータンブラーの実体部 であり,円弧の一部をなす自由端部外側端縁に解錠切欠きを形成し,一方,鍵挿通 切欠の開口端縁に,先端の移動軌跡が鍵孔に挿入されたリバーシブルである合鍵の キー本体の端縁部と干渉する係合縁部を設け,各レバータンブラーをこの係合縁部 が合鍵に近接する方向にタンブラーばねで付勢すると共に,常態では内筒部を軸線 方向に貫通するバックアップピンに係止し,他方,これらのレバータンブラー群の 係合縁部の夫々が鍵孔に挿通された合鍵のキー本体の端縁部に谷の底部3,3aを 内に凸の曲面の傾斜面として形成された刻みと係合したとき,当該刻みに対応して 各レバータンブラーの揺動角度が変わって解錠切欠きがロッキングバーの内側縁と 整合するようにしたレバータンブラー錠用の合鍵であって,鍵孔に挿入されたとき レバータンブラーの係合縁部と整合するキー本体の部位に,谷の底部3,3aを内 に凸の曲面の傾斜面として形成された刻みを形成し,この刻みが係合縁部と係合し たとき,各レバータンブラーの解錠切欠きがロッキングバーの内側縁と整合するよ うにし,以て,合鍵と一体的に内筒部を回動させたとき,カム溝とロッキングバー との間に生じる楔作用によりロッキングバーを内筒部中心軸方向に移動させ,内筒 部を外筒に対し相対回動できるようにしたレバータンブラー錠用の鍵 イ 一致点:内周面の母線に沿って横断面形状が略V字形のカム溝を形成した外 筒と,この外筒に回転自在に嵌合し,間隙を介して中心軸線方向に積層された複数 の仕切板を設けると共に,中心軸線に沿って鍵孔を貫通させた内筒と,この内筒の 母線に沿って延在し,内筒の外周部において半径方向に移動可能に案内されると共 に,上記カム溝と係合する外側縁が外方に突出する方向に付勢されたロッキングバ ーとを有し,上記仕切板の間の各スロットに,中央部に点対称に形成された鍵孔を 包囲し得る大きさの鍵挿通部を形成したロータリーディスクタンブラーを挿設し, その実体部の1ヵ所を,内筒を軸線方向に貫通する支軸に揺動可能に軸支すると共 に,鍵挿通部を挟んで上記支軸と対峙するロータリーディスクタンブラーの実体部 であり,円弧の一部をなす自由端部外側端縁に解錠切欠を形成し,一方,鍵挿通部 の開口端縁に,先端の移動軌跡が鍵孔に挿入されたリバーシブルである合鍵のブレ ードと干渉する係合部を一体的に突設し,各ロータリーディスクタンブラーをこの 係合部が合鍵に近接する方向に付勢すると共に,常態では内筒を軸線方向に貫通す るバックアップピンに係止し,他方,これらのタンブラー群の係合部の夫々が鍵孔 に挿通された合鍵のブレードに形成された対応する窪みと係合したとき,各ロータ リーディスクタンブラーの解錠切欠がロッキングバーの内側縁と整合するようにし たロータリーディスクタンブラー錠の合鍵であって,鍵孔に挿入されたときロータ リーディスクタンブラーの係合部と整合するブレードに対応する窪みを形成し,こ の窪みが対応する係合部と係合したとき,各ロータリーディスクタンブラーの解錠 切欠がロッキングバーの内側縁と整合するようにし,以て,合鍵と一体的に内筒を 回動させたとき,カム溝とロッキングバーとの間に生じる楔作用によりロッキング バーを内筒中心軸方向に移動させ,内筒を外筒に対し相対回動できるようにしたロ ータリーディスクタンブラー錠用の鍵の点 ウ 相違点4;本件発明2では「内筒の中心軸線に関して」点対称に形成されて いる鍵孔を有する錠用の鍵であるのに対し,引用発明2ではそのような鍵孔を有し ない錠用の鍵である点 エ 相違点5:本件発明2では,鍵挿通部が「鍵挿通孔」であって,この「鍵挿 通孔」を中央部に形成したロータリーディスクタンブラーが「環状ロータリーディ スクタンブラー」である錠用の鍵であるのに対して,引用発明2では,鍵挿通部が 「鍵挿通切欠」であって,この「鍵挿通切欠」を中央部に形成したディスクタンブ ラーが「C字状のレバータンブラー」である錠用の鍵である点 オ 相違点6:ロータリーディスクタンブラーの解錠切欠とロッキングバーの内 側縁とを整合させるための構成について,本件発明2では,「ロータリーディスク タンブラー」の開口端縁に一体に「突出量が一定」に突設した「係合突起」の,そ の先端と,合鍵のブレード「平面部」に形成された「有底で複数種類の大きさと深 さの摺り鉢形の窪み」との係合により,「タンブラー群が摺り鉢形の窪みの深さや ブレードの幅方向の位置に対応して揺動角度が変わることにより」上記整合を行う ものであるのに対して,引用発明2では,「C字状のレバータンブラー」の開口端 縁に一体に突設した「係合縁部」と,合鍵のブレードの端縁部と干渉して,当該端 縁部に形成された対応する「キー本体の端縁部に谷の底部3,3aを内に凸の曲面 の傾斜面として形成された刻み」との係合により,「当該刻みに対応して各レバー タンブラーの揺動角度が変わって」上記整合を行うものである点 4 取消事由 (1) 本件発明1の容易想到性に係る判断の誤り(取消事由1) ア 相違点3の認定の誤り イ 相違点3に係る判断の誤り (2) 本件発明2の記載要件に係る判断の誤り(取消事由2) (3) 引用発明2に基づく本件発明2の容易想到性に係る判断の誤り(取消事由 3) ア 相違点6の認定の誤り イ 相違点6に係る判断の誤り (4) 引用例2ないし8に記載された発明に基づく本件発明2の容易想到性に係 る判断の誤り(取消事由4) (5) 本件発明3の容易想到性に係る判断の誤り(取消事由5) 第3 当事者の主張 1 取消事由1(本件発明1の容易想到性に係る判断の誤り)について 〔原告の主張〕 (1) 相違点3の認定の誤りについて ア 本件審決は,引用発明1においては,レバータンブラーの係合縁部が合鍵の ブレードの端縁部と干渉して係合するものであり,本件発明1のように,合鍵のブ レードの平面部と干渉して係合するものではないとして,相違点3を認定した。 しかし,引用例1の図2に示された合鍵のブレードに設けられた刻みd1ないし dnには,傾斜角度が緩やかなものから平板面と直角に近い急なものまで種々のも のがあるが,いずれもブレードの側面部から平面部にかけて形成されたものであり, 平面から見た刻みの長さも,側面から見た刻みの長さと遜色ないかそれ以上のもの となっている。特に,傾斜角度の一番緩やかなd1は,凹部がブレードの側面部 (側端縁)の上部2分の1にしか及んでおらず,完全な「有底」であるのみならず, 側面から見た凹部の長さも非常に短く,平面から見た凹部の長さの約半分にすぎな い。d1の凹部は,ブレードの平面部の方にその形態を現しているものであって, 端縁部ではなく,平面部に形成されたものであることは明白である。 また,引用例1の図9に記載されたd3は,刻みの傾斜角度が約45度位であり, 一番端だけがわずかに下に突き抜けているものである。そうすると,d3より傾斜 角度の緩やかなd2なるものは,図示はないものの,d1と同様に下への突き抜け が全くないものであり,明らかにブレードの平面部の窪みである。 したがって,本件審決の上記認定は誤りである。 イ 本件審決は,引用例1では,d1,d2として合鍵のブレードの平面部に形 成された有底で複数種類の深さを有する窪みが開示されているとの原告の主張に対 し,引用発明1においてd1,d2がブレードの平面部に形成されていることは認 めたものの,引用例1に記載されたリバーシブルキーにおける谷の底部は,図8及 び9のようにして作成されるものであって,その鍵はd1,d2だけでなくdnの 刻みも有するものであるから,ブレードの平面部に形成されているということはで きないと判断した。 しかし,d1,d2以外の多くの刻みがブレードの端縁部にあるからといって, d1,d2がブレードの平面部に形成されているという事実が否定されるものでは ない。図8のd1,d2は1つの実施例として示されているものであり,2つ以上 の異なる平面部の窪みを形成することも,図8等から当業者が当然想定し得ること である。 また,引用発明1において,その凹部が図8及び9のようにして作成されるのは 一例であって,製作方法がそれに限定されているわけではない。 したがって,本件審決の上記判断は誤りである。 ウ 以上のとおり,引用発明1においても,ブレードの平面部に窪みが形成され ているのであるから,本件審決の相違点3の認定は誤りである。 (2) 相違点3に係る判断の誤りについて ア 本件審決は,本件発明1に特有の作用効果が生ずることを挙げて,相違点3 に係る本件発明1の構成は引用例1ないし24に記載された発明から容易に想到す ることはできないと判断した。 しかし,本件にその論法を用いるのは誤りである。すなわち,引用発明1では, 「鍵違いを大きくする」ことが発明の目的や効果とされているが(【0006】 【0037】),かかる目的や効果は引用例2ないし8に記載されたディンプルキ ーにおいても同様であり,いわゆるディンプルキーが他の鍵より鍵違いを大きくす るものであることは,当業者にとって当たり前の技術である。 したがって,ブレードに刻みが設けられている引用発明1に上記技術を組み合わ せ,より一層鍵違いを大きくすることは,当業者にとって極めて容易である。 そして,そのような組合せの構成とすれば,当業者による予測の有無にかかわら ず,本件審決のいう本件発明1に特有の作用効果なるものが生ずるのが道理である。 本件審決の上記判断は,本件発明1の作用効果のみに着目し,その構成の組合せ 自体が当業者にとって容易であることを看過したものであって,誤りである。 イ 本件審決は,本件明細書の図10には解錠切欠の形成角度が異なる4種類の ロータリーディスクタンブラーが用いられることが表されており,また,ロータリ ーディスクタンブラーに設けられた係合突起の突出量が一定であるから,ロータリ ーディスクタンブラーの揺動角度を変化させると,一番左に解錠切欠があるロータ リーディスクタンブラーでは,係合突起は図のように右下に下がり,解錠切欠を右 側に設けたロータリーディスクタンブラーほど左へ回転した位置となって係合突起 は左上に上がるとして,本件発明1では,ロータリーディスクタンブラーが回転に よってわずかに上下に動くことを利用して,その係合突起を鍵のブレードの平面部 に設けた窪みに円弧に沿って当接させるものであり,そのような構成とすることは, 引用例1や他の引用例,技術常識からみて,当業者が容易に想到し得ないものであ ると判断した。 しかし,引用例1(【0017】)には,「C字状のレバータンブラー錠は,実 公昭59−19099号公報(引用例22)又は…等にも示され周知であるから, 構造や作動についての更に詳しい説明は省略する。」と記載されているところ,引 用例22には,C字状のレバータンブラー錠に関し,「支軸を中心として揺動し下 端に彎曲部を有する弧状に形成されているので,彎曲部の回動範囲が広くとれ,彎 曲部の長さが大きくとれる。したがって,彎曲部に多くのロッキングバーの係合溝 がとれ,鍵違いの数が多く取れる利点がある。」との記載がある。ここでいう「ロ ッキングバーの係合溝」とは「解錠切欠」にほかならないから,引用例22の上記 記載からすると,「C字状のレバータンブラー錠にあっては,支軸を中心として揺 動させ,広い回動範囲を利用して弧状の彎曲部の長さを大きくして位置を変えて多 くの解錠切欠がとれること,それにより鍵違いがそれだけ多く取れること」は当業 者に周知であることが分かる。 そもそも,揺動し広く回動するレバータンブラー錠の弧状の彎曲部に形成される 解錠切欠は,どの位置に設けなければならないという特段の制約はなく,彎曲部の 任意の場所に設けて構わないものであるから,解錠切欠の形成角度が異なる数種類 のレバータンブラーを用いる構成など,当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎず, それによって合鍵のブレードに形成された凹部とタンブラーの係合凸部との係合具 合が変化することは当業者であれば当然に分かることであるから,鍵違いを多く取 るためにそのような構成をとることは当業者にとって容易に想到できることである。 したがって,引用発明1のレバータンブラー錠に解錠切欠の形成角度が異なる数 種類のレバータンブラーを採用して鍵違いを多く取ることは,当業者にとって容易 に想到できる構成である。そして,引用発明1のレバータンブラー錠について,こ の構成を採用すると,深さの異なるd1,d2等の窪みが平面部に形成されるから, 本件発明1と同様,タンブラーが回転によってわずかに上下に動くことで,係合突 起を鍵のブレードの平面部に設けた窪みに沿って当接させるものとなり,それは相 違点3に係る本件発明1の構成にほかならない。 よって,相違点3に係る本件発明1の構成が,引用例1等から当業者が容易に想 到することができないものであるとした本件審決の判断は誤りである。 ウ 本件審決は,係合突起が鍵の平面部と当接する構成は,鍵の側端部と当接す るよりも,当接部(係合突起)の回転半径が小さくなり,解錠切欠の動きは,当該 解錠切欠の回転半径と当接部の回転半径の比により決まるものであるから,本件発 明1の錠の場合は引用発明1の錠の場合よりも解錠切欠の動きが大きくなり,わず かな窪み位置や深さの違いで解錠できなくなって,合鍵を製造しにくいという効果 を奏するものであると判断した。 しかし,本件明細書には,合鍵のブレードに設けられた窪みが平面部にあること により,支軸からの距離が小さくなるので,回転半径も小さくなり,動きが小さく ても解錠切欠の動きが大きくなるという作用効果についての記載や示唆はなく,こ れが本件発明1特有の作用効果ということはできない。 仮に,平面部に窪みがあるということで,そのような効果があるものとしても, 本件発明1では,タンブラーの形状,支点(支軸の位置)及び力点(係合突起先端 の位置と鍵幅)等の構成が示されておらず,支軸の位置も支軸から突起先端までの 距離等も特に制約はない。「支軸からの距離が小さくなるので,回転半径も小さく なり,動きが小さくても解錠切欠の動きが大きくなる」との作用効果は,本件審決 が本件明細書の実施例の記載からそのように認定しただけであり,本件発明1の構 成から当然そうなるものではない。 また,仮に,本件発明1では,平面部からの窪みがあることにより,本件審決の いう上記作用効果を奏するとしても,前記のとおり,引用発明1においても,「平 面部に形成された有底の複数種類の深さの窪みd1,d2等」が存在するのである から,同様の作用効果を奏するものであり,両者の作用効果に格別の相違はない。 さらに,本件審決は,本件発明1では,係合突起の先端が鍵のブレードの平面部 に設けた窪みの底面と係合すると解釈しているところ,その係合具合は,係合突起 先端が回転して深い窪みに入るほど段々とブレードの平面幅中心にずれていくので あるから,その窪みの底面は,鍵幅の中心方向へずれて傾斜した形状のものでなけ ればならない。 しかるに,本件発明1の窪みは,普通のディンプルキーの窪みであって,そのよ うな特別の形をしていない。むしろ,引用発明1のほうが,突起縁部の先端と支軸 との距離が一定での係合ができるものである。この点からしても,本件発明1に進 歩性が認められることはあり得ない。 エ したがって,相違点3に係る本件審決の判断は誤りである。 (3) 小活 よって,本件発明1の容易想到性に係る本件審決の判断は誤りである。 〔被告の主張〕 (1) 相違点3の認定の誤りについて 原告は,引用例1の図2に示されるd1の凹部は,「平面部」の方にその形態を 現しているから,その凹部は端縁部ではなく,平面部に形成された「窪み」である と主張する。 しかし,引用例1の図1における「刻み」は,少なくとも周壁が存在しないので, 外観上摺り鉢形に見えないこと,「刻み」及び「窪み」は普通一般に日常的に用い られていること,これらの語義は広辞苑等にも登載されていること,当業者の間で も「刻み」と「窪み」は使い分けられていること,引用例1に記載されたC字形状 のレバータンブラーの開口内端縁との係合態様が異なること,引用例1の図8及び 9に示す谷の傾斜面の加工方法は鋸を回転する方式であることからすると,d1の 凹部が本件発明1の摺り鉢形の窪みと同一であると解釈するのは無理であり,原告 の主張は失当である。 (2) 相違点3に係る判断の誤りについて ア 原告は,本件審決には,本件発明1の作用効果のみに着目して,その構成の 組合せ自体が当業者にとって容易であることを看過した誤りがある旨主張する。 しかし,本件審決は,相違点3を認定した上で,引用発明1は,C字状可動障害 子が支軸を中心に回転すると,左右方向にのみ移行するC字状可動障害子の内側縁 部(接触部分)が鍵の端縁部に形成された刻みに係合するのに対して,本件発明1 の環状可動障害子の所定量の係合突起(接触部分)は左右方向に移行するのみなら ず,同時に上下方向に軌跡を描きながら移行することを認定し,次いで,相違点3 に係る本件発明1の構成は,引用例に記載や示唆はなく,また,本件発明1の錠は, 引用発明1の錠より解錠切欠の動きが大きくなり,わずかな窪み位置や深さの違い で解錠できなくなって,合鍵を製造しにくいという効果を奏するものとして,その 進歩性を認めたものである。 したがって,本件審決は,本件発明1の作用効果のみに着目してその進歩性を認 めたものではなく,原告の主張は,失当である。 イ 原告は,引用例22の記載を挙げて,相違点3に係る本件発明1の構成が, 引用例1等から見て当業者が容易に想到できないとした本件審決の判断は誤りであ ると主張する。 確かに,引用例22に記載されたC字状可動障害子の構成によると,原告が主張 するように,「支軸を中心として揺動させ,広い回動範囲を利用して弧状の彎曲部 の長さを大きくして位置を変えて多くの解錠切欠がとれること,それにより鍵違い がそれだけ多く取れること」が分かる。 しかし,引用例22に記載された支軸に軸支されたC字状可動障害子には,本件 発明1の構成要素である突出量が一定である係合突起は存在しない。また,引用例 22には,係合突起を鍵のブレード部分の平面部に形成された窪みに係合させると いう構成の記載や示唆もない。 したがって,当業者は,引用例22に基づき,相違点3に係る本件発明の構成を 容易に想到することはできない。 ウ 原告は,本件明細書には,本件発明1において,合鍵のブレードに設けられ た窪みが平面部にあることにより,「支軸からの距離が小さくなるので,回転半径 も小さくなり,動きが小さくても解錠切欠の動きが大きくなる」との作用効果につ いての記載や示唆はないなどと主張する。 しかし,回転半径に関しては,高等学校等で習う扇形の円弧の長さを求める公式 l=rθ(弧の長さ:l,半径:r,中心角:θ)で表されるように,弧の長さl と半径rが比例関係となることは,広く知られている。 したがって,原告の主張は,失当である。 エ 原告は,本件審決が本件発明1では係合突起の先端が鍵のブレードの平面部 に設けた窪みの底面と係合すると解釈しているとした上で,その係合具合は,係合 突起先端が回転して深い窪みに入るほど段々とブレードの平面幅中心にずれていく のであるから,その窪みの底面は,鍵幅の中心方向へずれて傾斜した形状のもので なければならないなどと主張する。 しかし,本件審決は,「支軸の中心と係合突起の先端との距離は一定であって」 とは認定したが,「係合突起の先端が窪みの底面との当接部である」とは認定して いない。 原告の主張は,思い込みによる独自の解釈であり,失当である。 (3) 小括 よって,本件発明1の容易想到性に係る本件審決の判断に誤りはない。 2 取消事由2(本件発明2の記載要件に係る判断の誤り)について 〔原告の主張〕 本件審決は,本件発明2に係る特許請求の範囲の記載は不明確であるとはいえな いと判断した。 しかし,本件発明2の鍵が,従来の鍵とどのように異なるのかは不明確である。 例えば,本件明細書の図6と,引用例4の正面図,引用例5の【山切り加工状態を 示す参考正面図】とで,前者にはどのような特徴があり,両者間でどのような差異 があるかは全く不明である。また,引用例6の第1図等と比べても,本件明細書の 図6との差異は皆目分からない。 仮に,窪みが1列に羅列していないということであれば,例えば,引用例5の 【山切り加工状態を示す参考正面図】もそうだし,そもそも引用例1の図1もそう である。 したがって,本件発明2に係る特許請求の範囲の記載は,明確ではない。 〔被告の主張〕 (1) 原告は,単に本件審決を批判するだけであり,本件発明2の構成との関係 で,明細書記載の不備や発明の明確性要件違反を主張していない。 そもそも,明細書記載の不備や発明の不明確性の概念は,請求項に記載された事 項が明細書に記載された発明の課題や効果との関係で何ら特定されておらず,当業 者にとって,まとまりのある一つの技術的思想として捉えられないものをいうとこ ろ,本件明細書(【0016】【0035】【0036】【0039】【004 3】【0044】【0047】【0049】【0071】【0074】)の記載や 図面からすると,請求項に記載された事項を一つの技術的思想として把握すること ができるものである。 (2) 発明の明確性について 原告は,引用例4ないし6に記載された鍵と本件発明2の鍵とを区別することが できないと主張する。 しかし,本件発明2は,新規な所定量の係合突起を有する環状のロータリーディ スクタンブラーを備えた錠本体と,新規なすり鉢形の窪みを有する鍵本体とを構成 要素としているところ,鍵本体は,例えば,平成19年3月5日付け手続補正書 (乙3及び4)に記載された物を生産する方法の発明と技術力によって製作される ものであり,複数の窪みの位置がブレードの幅方向に微妙にシフトしているロータ リーディスクタンブラー錠用の鍵であって,引用例4ないし6に記載された鍵のよ うに,ブレードの長手方向であるX軸線上に複数の窪みの各底面の中心がそれぞれ 位置しているシリンダー錠用の鍵ではない。 また,引用例6に記載されているのは,ピンタンブラー方式の錠前に適用される 鍵である。本件発明は,鍵違いを大きくするという発明の課題はピンタンブラー方 式の錠前と同様であるものの,ロータリーディスクダンブラー方式の錠前であり, しかも,「振り子式原理」に基づいて,鍵違いを増幅的に大きくするという点で, ピンタンブラー方式の錠前や鍵とは異なるものである。 (3) 実施可能要件について 引用例22の「支軸を中心として揺動し下端に彎曲部を有する弧状に形成されて いるので,彎曲部の回動範囲が広くとれ,彎曲部の長さが大きくとれる」との記載 及び原告が自ら上記記載は当業者にとっては周知であると認めていることに加え, 本件明細書において,本件発明の構成要素である軸支された環状可動障害子は,突 出量の係合突起を有すること,係合突起の先端の移動軌跡は合鍵のブレードの平面 部と干渉すること,環状可動障害子の開口端縁の係合突起と合鍵のブレードの平面 部に形成された有底で複数種類の大きさと深さを有する摺り鉢形の窪みとの係合に より,タンブラー群が摺り鉢形の窪みの深さやブレードの幅方向の位置に対応して 揺動角度が変わることにより上記整合することなどが,図面と共に記載されている ことからすると,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,当業者が発明を容易に 実施することができる程度に記載されているというべきである。 (4) したがって,原告の主張は,失当である。 3 取消事由3(引用発明2に基づく本件発明2の容易想到性に係る判断の誤 り)について 〔原告の主張〕 (1) 相違点6の認定の誤り 本件審決は,引用発明2では,レバータンブラーの係合縁部と合鍵のブレードの 端縁部とが干渉して係合するものであり,本件発明2のように合鍵のブレードの平 面部とが干渉して係合するものではないとして,相違点6を認定した。 しかし,前記1の〔原告の主張〕欄記載のとおり,引用発明2では,本件発明2 と同様に,ブレードの平面部に窪みが存在するから,本件審決の相違点6の認定は 誤りである。 (2) 相違点6に係る判断の誤り ア 本件審決は,相違点6に係る本件発明2の構成は当業者が容易に想到できな いものと判断した。 しかし,その判断は,本件発明1と引用発明1との相違点3に係る判断と同様に 誤りである。その理由は,前記1の〔原告の主張〕欄記載の主張と同旨である。 〔被告の主張〕 前記1の〔被告の主張〕欄記載の主張と同旨である。 4 取消事由4(引用例2ないし8に記載された発明に基づく本件発明2の容易 想到性に係る判断の誤り)について 〔原告の主張〕 本件審決は,本件発明2は「鍵の窪みは,その深さとブレードの幅方向の位置が, 揺動による円弧に沿ったものである」ことを実質的な構成としているところ,引用 例2ないし8に記載された発明はディンプルキーであると認められるが,これらの 引用例には,ロータリーディスクタンブラー錠用であるとの記載はないから,「鍵 の窪みは,その深さとブレードの幅方向の位置が,揺動による円弧に沿ったもので ある」構成を有しているとはいえない点で本件発明2と相違すると判断した。 しかし,本件明細書の図6と,引用例4の正面図,引用例5の【山切り加工状態 を示す参考正面図】とで,両者にはどのような特徴があり,両者間でどのような差 異があるか全く不明である。引用例6の第1図等と比べても,本件明細書の図6と の差異は皆目分からない。 また,引用例2ないし8には,そこに記載されたディンプルキーについて,特に どの錠用との記載はないから,当業者において,ロータリーディスクタンブラー錠 と組み合わせることに何の支障もない。 したがって,本件審決の上記判断は誤りである。 〔被告の主張〕 前記1及び2の〔被告の主張〕欄記載の主張と同旨である。 5 取消事由5(本件発明3の容易想到性に係る判断の誤り)について 〔原告の主張〕 本件審決は,本件発明1が容易に発明をすることができないものであるから,本 件発明3も容易に発明をすることができないものであると判断した。 しかし,その前提が誤りであることは,前記1の〔原告の主張〕欄記載のとおり であるから,本件発明3についても進歩性が認められないことは明らかである。 よって,本件発明3の容易想到性に係る本件審決の判断は誤りである。 〔被告の主張〕 前記1の〔被告の主張〕欄記載の主張と同旨である。 第4 当裁判所の判断 1 本件発明について (1) 本件発明は,前記第2の2に記載のとおりであるところ,本件明細書(甲 26,27)には,本件発明について,概略,次のような記載がある。 ア 本件発明は,新規なロータリーディスクタンブラー錠に関するものである (【0001】)。 イ 比較的安全性が高いと認められるシリンダー錠には,例えばレバータンブラ ー錠がある。レバータンブラー錠は,所期の機能を発揮し,特にロッキングバーが 内筒の回動時クリック感を呈するので使用感に優れ,また,ピッキングが困難であ るから,住宅の扉口用の錠前として多用されている。 しかし,レバータンブラーの形状がほぼC字形であることから,剛性が比較的小 さく,強い力で鍵を回すと変形する場合が絶無であるとはいえない。また,合鍵の 鍵孔内に挿入される本体部(ブレード)の側端縁に鍵溝を形成するから,鍵溝の形 成箇所を多くすることができず,鍵違いの数にも限界がある。さらに,鍵の断面形 状が上下非対称であるから,ブレードの裏表に関係なく鍵孔に挿入できるいわゆる リバーシブルの鍵を作れないなど,いまだ改良の余地がある。 そこで,本件発明は,タンブラーの剛性が大きくて丈夫であり,リバーシブルの 鍵が可能であって,しかも鍵違いも大きな新規のロータリーディスクタンブラー錠 及び鍵を提供することを目的とする(【0002】【0012】〜【0016】)。 ウ 実施例 (ア) 従来のレバータンブラー錠と,本件発明のロータリーディスクタンブラー 錠との大きな違いは,タンブラーの形状が環状であること及びブレードの側端縁の 鍵溝の代りに合鍵の平面部及び端縁部に窪みを形成したことの2点である(【00 19】)。 (イ) 鍵孔の横断面形状を図5のように複雑にしたのは,いわゆるウォードの種 類を多くして鍵違いを多くする目的のほか,鍵孔内におけるピッキング工具の操作 を困難にするためである。また,鍵孔(合鍵)の断面形状を内筒の中心軸線に関し て点対称としたのは,合鍵の裏表に関係なく合鍵を鍵孔に挿入できるリバーシブル キーにするためである(【0024】【0025】)。 そして,本件発明のロータリーディスクタンブラー錠の施解錠操作に用いられる 合鍵は,図6及び7に示すように,鍵孔に挿入される本体部の先端が円弧状に成形 され,かつ面取りされると共に,図6に示す平面部及び図7に示す端縁部の所定の 箇所に窪みが形成されている。この窪みの断面形状は,例えば図5に示すように, 図面を明瞭にするためハッチングを施さない合鍵の断面形状において点線で示すよ うに,また,図6及び7に示すように,有底の逆台形であり,複数種類の深さ(図 示の実施例では4種類)がある(【0026】【0027】)。 (ウ) 図8及び9のとおり,鍵孔に合鍵が挿入されていない場合には,各ロータ リーディスクタンブラーの係止段部がバックアップピンに弾接するように係止され, 各ロータリーディスクタンブラーは図8及び9に示す角度位置に係止される。しか し,鍵孔に合鍵が挿入され,各ロータリーディスクタンブラーの係合突起が対応す る合鍵の窪みに係入したとき,図10及び11に示すように,全ロータリーディス クタンブラーの解錠切欠がロッキングバーの内側縁と整合するように,係合突起の 突出量,窪みの深さ及び解錠切欠の角度位置が設定されている。実施例では,係合 突起の突出量を一定にしておき,換言すれば,支軸の中心に関し係合突起の先端の 位置を一定にしておき,係合突起の先端が合鍵のブレードの窪みに係入してその底 面に当接したとき,窪みの深さに応じてロータリーディスクタンブラーの揺動角度 を変化させ,図8に示す複数の解錠切欠の内選択されたものをロッキングバーの内 側縁に整合させるようにしている(【0042】〜【0044】)。 エ ロータリーディスクタンブラーの係合突起の突出量を一定にする場合でも, あるいは変化させる場合でも,窪みの深さに応じてその中心位置をブレードの幅方 向,あるいはブレードの端縁部の幅方向において微妙に変化させなくてはならない ので,合鍵の複製が困難になり,錠前としての安全性が向上する等種々の効果を奏 する(【0074】)。 (2) 以上の記載からすると,本件発明は,タンブラーの剛性が大きくて丈夫で あり,リバーシブルの鍵が可能であって,しかも鍵違いも大きな新規のロータリー ディスクタンブラー錠及び鍵を提供するとの課題を解決するため,本件発明1に係 る錠の構成及び本件発明2に係る鍵の構成とすることにより,合鍵のブレードの平 面部に形成される窪みの深さに応じてその中心位置をブレードの幅方向に微妙に変 化させなくてはならないので,合鍵の複製が困難になり,錠前としての安全性が向 上する等種々の効果を奏するというものである。 2 引用発明について (1) 引用発明は,前記第2の3(2)ア及び(3)アに記載のとおりであるところ, 引用例1(甲1)には,引用発明について,概略,次のような記載がある。 ア 特許請求の範囲 【請求項1】任意数のC字状のレバータンブラーに当接して各レバータンブラーを 解錠位置に整合変位させるための選択された深さの刻みを,平板状のキー本体の両 側辺に設けたレバータンブラー錠用のリバーシブルキーにおいて,キー本体の両側 辺における対をなす刻みの谷の底部はキー本体の厚さ方向でともに傾斜させてあり, 一対の谷の底部の傾斜は,キー本体の平板面と直角をなしかつキー本体の中心軸線 を含む平面に関し互に逆向きにしてあることを特徴とするリバーシブルキー イ 発明の詳細な説明 (ア) この発明は,レバータンブラー錠用のリバーシブルキー及びその製作方法 に関するものである(【0001】。 (イ) 従来のレバータンブラー錠用のリバーシブルキーには,ならい鍵切り機等 により複製が不正に行われやすいこと,レバータンブラー錠でC字状のレバータン ブラーを裏表逆に入れても,同じリバーシブルキーによって施解錠可能であるから, 鍵違いの数の減少が余儀なくされることなどの課題がある。 この発明は,キー本体の刻みの形状を新規なものに変えることによって複製をし にくくし,かつ,鍵違いの数の減少を排除することを目的とする(【0002】 【0005】【0006】)。 (ウ) 実施例 仕切板が形成する複数のスロット内に,それぞれの先端部分にロッキングバーを 選択的に受け入れる解錠切欠きを形成したC字状のレバータンブラーを支軸で枢着 し,各レバータンブラーは,鍵孔に差し込まれるキーの側辺部と干渉する方向にタ ンブラーばねで付勢される。レバータンブラー錠は,合鍵が鍵孔に挿入されたとき, これらのタンブラー群のそれぞれが鍵孔に挿通された合鍵の対応する刻みと係合し, 各タンブラーの解錠切欠きがロッキングバーの内側縁と整合するようにしてある。 その状態で合鍵を回すと,カム溝とロッキングバーとの間に生じる楔作用によりロ ッキングバーが内筒半径方向に移動するので,バックアップピンを含み,前方のキ ーガイド,仕切板,周囲を囲むリテーナ及び後方の尾栓等からなる内筒部は全体と して解錠方向又は施錠方向に回動できる(【0013】〜【0015】)。 (エ) この発明のリバーシブルキーによれば,両側辺の刻みにおける対をなす谷 の底部を互いに逆向き傾斜面に形成してあるから,不正な複製を困難にするほか, リバーシブルにしたことによる鍵違いの減少を排除できる効果を奏する。また,こ の発明では,傾斜させた谷の底部を内に凸の曲面とした特殊なリバーシブルキーを 正確にして効率よく製作する方法を提案している(【0037】【0039】)。 (2) 以上の記載からすると,引用発明は,従来のレバータンブラー錠用のリバ ーシブルキーには,ならい鍵切り機等により複製が不正に行われやすいこと,鍵違 いの数の減少が余儀なくされることなどの課題があったため,キー本体の刻みの形 状を新規なものに変えることによって複製をしにくくし,かつ,鍵違いの数の減少 を排除することを目的として,キー本体の端縁部に谷の底部3,3aを内に曲面の 傾斜面として形成された刻みを形成するなどの構成とし,その刻みの底部までの長 さに応じて,タンブラーが揺動し,その揺動角度を変えることにより解錠できると いう原理による錠と鍵にすることにより,不正な複製を困難にするほか,リバーシ ブルにしたことによる鍵違いの減少を排除できるなどの作用効果を奏するというも のである。 3 取消事由1(本件発明1の容易想到性に係る判断の誤り)について (1) 相違点3の認定の誤りについて ア 前記第2の2に記載のとおり,本件発明1の錠は,先端の移動軌跡が合鍵の ブレードの平面部と干渉する係合突起を有し,ロータリーディスクタンブラーの開 口端縁に一体に突出量が一定に突設した係合突起と,合鍵のブレードの平面部に形 成された有底で複数種類の大きさと深さを有する摺り鉢形の窪みが係合したときに, タンブラー群が摺り鉢形の窪みの深さやブレードの幅方向の位置に対応して揺動角 度が変わることにより,ディスクタンブラーの解錠切欠とロッキングバーの内側縁 との整合を行う錠,すなわち,ロータリーディスクタンブラーが回転によってわず かに上下に動くことを利用して,その係合突起を合鍵のブレード平面部に設けた窪 みに円弧に沿って当接させるという錠である。 したがって,本件発明1にいう「窪み」は,ブレードの平面上で,かつ,その深 さとブレードの幅方向の位置が係合突起の揺動による円弧に沿ったものでなければ ならない。 他方,前記2(2)のとおり,引用発明は,キー本体の両側辺に設けられた刻みの 底部までの長さに応じて,タンブラーが揺動し,その揺動角度を変えることにより 解錠できるという原理であるから,引用発明1にいう「刻み」は,平板状のキー本 体の両側辺(端縁部)に形成されるものである。 そうすると,ブレードの平面上で,かつ,その深さとブレードの幅方向の位置が 係合突起の揺動による円弧に沿ったものである本件発明1の「窪み」と,平板状の キー本体の端縁部に形成される引用発明1の「刻み」とが相違することは明らかで あり,上記相違を前提としてされた本件審決の相違点3の認定に誤りはない。 イ 原告の主張について 原告は,引用例1の図2を根拠として,引用発明1においても,キー本体の平面 部に刻みが設けられているなどと主張する。 確かに,引用例1の図2に記載されたd1は,平面部の一部を含めてキー本体に 形成された刻みであり,その断面上の長さは平面部分の方が側面部分に比して長く なっているものである。 しかし,前記のとおり,引用発明1の錠は,両側辺に設けられた刻みの底部まで の長さに応じて,タンブラーが揺動し,その揺動角度を変えることにより解錠でき るという原理であるから,平板状のキー本体の両側辺に必ず刻みを形成する必要が ある一方,平面部のみに刻みを形成したのでは,錠として機能するものではない。 したがって,引用発明1は,キー本体の平面部に刻みを設けた構成ということは できず,原告の主張は,採用することができない。 (2) 相違点3に係る判断の誤りについて 前記(1)のとおり,本件発明1の錠は,ロータリーディスクタンブラーが回転に よってわずかに上下に動くことを利用して,その係合突起を合鍵のブレード平面部 に設けた窪みに円弧に沿って当接させるものである。 しかるに,引用例1ないし24には,本件発明1の上記構成についての記載や示 唆はなく,技術常識を考慮しても,当業者において,上記構成を容易に想到するこ とができたものということはできない。 (3) 小括 よって,その余の点について判断するまでもなく,取消事由1は理由がない。 4 取消事由2(本件発明2の記載要件に係る判断の誤り)について 本件発明2に係る特許請求の範囲の記載を分説すると,以下のとおりである。 (1) A 内周面の母線に沿って横断面形状が略V字形のカム溝を形成した外筒と, B この外筒に回転自在に嵌合し,間隙を介して中心軸線方向に積層された複数 の仕切板を設けると共に,中心軸線に沿って鍵孔を貫通させた内筒と, C この内筒の母線に沿って延在し,内筒の外周部において半径方向に移動可能 に案内されると共に,上記カム溝と係合する外側縁が外方に突出する方向に付勢さ れたロッキングバーとを有し, D 上記仕切板の間の各スロットに,中央部に前記内筒の中心軸線に関して点対 称に形成された鍵孔を包囲し得る大きさの鍵挿通孔を形成した環状ロータリーディ スクタンブラーを挿設し, E その実体部の1ヵ所を,内筒を軸線方向に貫通する支軸に揺動可能に軸支す ると共に, F 鍵挿通孔を挟んで上記支軸と対峙するロータリーディスクタンブラーの実体 部であり,円弧の一部をなす自由端部外側端縁に解錠切欠を形成し, G 一方,鍵挿通孔の開口端縁に,先端の移動軌跡が鍵孔に挿入されたリバーシ ブルである合鍵のブレードの平面部と干渉する係合突起を一体に突設し, H 各ロータリーディスクタンブラーをこの係合突起が合鍵に近接する方向に付 勢すると共に,常態では内筒を軸線方向に貫通するバックアップピンに係止し, I 他方,これらのタンブラー群の係合突起の夫々が鍵孔に挿通された合鍵のブ レードに形成された対応する窪みと係合したとき,各ロータリーディスクタンブラ ーの解錠切欠がロッキングバーの内側縁と整合するようにした J ロータリーディスクタンブラー錠の K 合鍵であって, L 鍵孔に挿入されたときロータリーディスクタンブラーの突出量が一定である 前記係合突起の先端と整合するブレードの平面部に,有底で複数種類の大きさと深 さの摺り鉢形の窪みを形成し, M この窪みが対応する前記係合突起と係合したとき,該タンブラー群が前記摺 り鉢形の窪みの深さやブレードの幅方向の位置に対応して揺動角度が変わることに より,各ロータリーディスクタンブラーの解錠切欠がロッキングバーの内側縁と整 合するようにし, N 以て,合鍵と一体的に内筒を回動させたさせたとき,カム溝とロッキングバ ーとの間に生じる楔作用によりロッキングバーを内筒中心軸方向に移動させ,内筒 を外筒に対し相対回動できるようにしたことを特徴とするロータリーディスクタン ブラー錠用の O 鍵 (2) 発明の明確性について ア 上記(1)の構成のうち,@K,Oの各記載は,鍵であることを特定し,AD の「中央部に前記内筒の中心軸線に関して点対称に形成された鍵孔」との記載及び Gの「リバーシブルである合鍵」との記載は,鍵がリバーシブルであることを特定 し,BGの「合鍵のブレードの平面部と干渉する係合突起」との記載,Lの「係合 突起の先端と整合するブレードの平面部に,有底で複数種類の大きさと深さの摺り 鉢形の窪みを形成し」との記載及びMの「前記摺り鉢形の窪みの深さやブレードの 幅方向の位置に」との記載は,鍵の平面部に有底で複数種類の大きさと深さの摺り 鉢形の窪みがあるということを特定し,CEの「その実体部の1ヵ所を,内筒を軸 線方向に貫通する支軸に揺動可能に軸支する」との記載,Gの「鍵挿通孔の開口端 縁に,先端の移動軌跡が鍵孔に挿入された…合鍵のブレードの平面部と干渉する係 合突起を一体に突設し」との記載,Lの「鍵孔に挿入されたときロータリーディス クタンブラーの突出量が一定である前記係合突起の先端と整合するブレードの平面 部に,有底で複数種類の大きさと深さの摺り鉢形の窪みを形成し」との記載,Mの 「この窪みが対応する前記係合突起と係合したとき,該タンブラー群が前記摺り鉢 形の窪みの深さやブレードの幅方向の位置に対応して揺動角度が変わる」との記載 は,後記5のとおり,支軸を中心として揺動するロータリーディスクタンブラーに 突出量が一定である係合突起が設けられて鍵のブレード平面部にある窪みに係合し, 鍵の窪みは,その深さとブレードの幅方向の位置が揺動による円弧に沿ったもので あることを特定するものであり,いずれも明確な記載である。また,その余の記載 も,形状・構造・作用・機能・特性等の観点から,本件発明2に係る鍵及びこれが 用いられる錠の構成として,明確なものである。 したがって,本件発明2に係る特許請求の範囲に記載された発明は,明確である ということができる。 イ 原告の主張について 原告は,本件発明2に係る鍵と引用例4ないし6に記載された鍵との差異は不明 であるなどと主張する。 しかし,本件発明2に係る鍵が,前記構成AないしJで特定されるロータリーデ ィスクタンブラー錠の鍵であるためには,後記5のとおり,摺り鉢形の窪みの深さ やブレードの幅方向の位置が,ロータリーディスクタンブラー錠の係合突起が動く 円弧軌道上にあることが必要である。 他方,引用例4ないし6には,いずれもディンプルキーが開示されているが(甲 4〜6),各鍵本体に形成された窪みの深さやブレードの幅方向の位置について, 本件発明2のように,ロータリーディスクタンブラー錠の係合突起が動く円弧軌道 上にあるとの記載はないから,この点において,本件発明2に係る鍵の窪みと,引 用例4ないし6に記載された各ディンプルキーの窪みとの間に差異があることは明 らかである。 したがって,原告の主張は,採用することができない。 実施可能要件について (3) 原告は,本件明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を満たさないとす る点について具体的な主張をしていないが,物の発明において,その発明を実施す ることができるとは,その物を作ることができ,かつその物を使用することができ ることを意味するところ,本件明細書(【0019】〜【0074】【図1】〜 【図14】)には,当業者であれば,本件発明2に係る鍵を作ることができ,かつ これを使用することができる程度の明確かつ十分な記載があるということができる。 したがって,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,実施可能要件を満たすも のである。 (4) 小括 よって,取消事由2も理由がない。 5 取消事由3(引用発明2に基づく本件発明2の容易想到性に係る判断の誤 り)について (1) 相違点6の認定の誤りについて 前記第2の2に記載のとおり,本件発明2の鍵は,先端の移動軌跡が合鍵のブレ ードの平面部と干渉する係合突起を有し,ロータリーディスクタンブラーの開口端 縁に一体に突出量が一定に突設した係合突起と,合鍵のブレードの平面部に形成さ れた有底で複数種類の大きさと深さを有する摺り鉢形の窪みが係合したときに,タ ンブラー群が摺り鉢形の窪みの深さやブレードの幅方向の位置に対応して揺動角度 が変わることにより,ディスクタンブラーの解錠切欠とロッキングバーの内側縁と を整合を行う錠,すなわち,ロータリーディスクタンブラーが回転によってわずか に上下に動くことを利用して,その係合突起を鍵のブレード平面部に設けた窪みに 円弧に沿って当接させるという錠用の鍵である。そのため,本件発明2の鍵は,ブ レードの平面部に有底で複数種類の大きさと深さの摺り鉢形の窪みを形成するもの であるが,係合突起に係合するブレードの平面部に形成される摺り鉢形の窪みも, 係合突起の円弧軌道上でこれに係合するものであるから,本件発明2で特定する 「摺り鉢形の窪みの深さやブレードの幅方向の位置」とは,この円弧軌道上にある 深さと幅方向の位置をいうものとなる。 他方,前記2(2)のとおり,引用発明は,キー本体の両側辺に設けられた刻みの 底部までの長さに応じて,タンブラーが揺動し,その揺動角度を変えることにより 解錠できるという原理であるから,引用発明2にいう「刻み」は,平板状のキー本 体の両側辺(端縁部)に形成されるものである。 そうすると,ブレードの平面上で,かつ,その深さとブレードの幅方向の位置が 係合突起の揺動による円弧に沿ったものである本件発明2の「窪み」と,平板状の キー本体の端縁部に形成される引用発明2の「刻み」とは,相違するものである。 また,引用発明2において,「キー本体の端縁部に谷の底部3,3aを内に凸の 曲面の傾斜面として形成された刻み」は,周壁を有しない端縁部に形成されるもの である以上,摺り鉢形とはなり得ず,本件発明2の「摺り鉢形の窪み」に相当する ものではない。 したがって,本件発明2と引用発明2との間の上記相違を前提としてされた本件 審決の相違点6の認定に誤りはない。 (2) 相違点6に係る判断の誤りについて 前記(1)のとおり,本件発明2の鍵は,ロータリーディスクタンブラーが回転に よってわずかに上下に動くことを利用して,その係合突起を鍵のブレード平面部に 設けた窪みに円弧に沿って当接させるという錠用の鍵であり,そのため,ブレード の平面部に有底で複数種類の大きさと深さの摺り鉢形の窪みを形成するが,当該窪 みの深さやブレードの幅方向での位置も,係合突起が揺動する円弧軌道上に位置す るというものである。 しかるに,引用例1ないし24には,本件発明2の上記構成についての記載や示 唆はなく,技術常識を考慮しても,当業者において,上記構成を容易に想到するこ とができたものということはできない。 (3) 小括 よって,取消事由3も理由がない。 6 取消事由4(引用例2ないし8に記載された発明に基づく本件発明2の容易 相当性に係る判断の誤り)について (1) 前記のとおり,本件発明2の鍵は,ロータリーディスクタンブラーが回転 によってわずかに上下に動くことを利用して,その係合突起を鍵のブレード平面部 に設けた窪みに円弧に沿って当接させるという錠用の鍵であり,そのため,ブレー ドの平面部に有底で複数種類の大きさと深さの摺り鉢形の窪みを形成するが,当該 窪みの深さやブレードの幅方向での位置も,係合突起が揺動する円弧軌道上に位置 するというものである。 しかるに,ディスクタンブラー型シリンダー錠装置に関する引用例2(甲2), 解錠装置に関する引用例3(甲3),電気機器用錠の鍵に関する引用例4(甲4), 鍵材に関する引用例5(甲5),シリンダー錠の鍵に関する引用例6(甲6),シ リンダー錠に関する引用例7(甲7)及びシリンダー錠に関する引用例8(甲8)に は,いずれもブレードの平面部に窪みを設けたディンプルキーが開示されているも のの,本件発明2の上記構成についての記載や示唆はない。 したがって,当業者は,引用例2ないし8に記載された発明に基づき,本件発明 2を容易に想到することができたものということはできない。 (2) 小括 よって,取消事由4も理由がない。 7 取消事由5(本件発明3の容易想到性に係る判断の誤り)について 前記のとおり,本件発明1について容易に想到することができない以上,本件発 明1の構成の全てを備える本件発明3についても,容易に想到することはできない。 よって,取消事由5も理由がない。 8 結論 以上の次第であるから,原告の請求は棄却されるべきものである。 知的財産高等裁判所第4部 裁判長裁判官 土 肥 章 大 裁判官 大 鷹 一 郎 裁判官 齋 藤 巌 |