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事件 平成 23年 (ワ) 21311号 特許権侵害行為差止等請求事件 
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 東京地方裁判所 
判決言渡日 2013/04/26
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
判例全文
判例全文
平 成25年4月26日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官

平成23年(ワ)第21311号 特許権侵害行為差止等請求事件

口頭弁論終結日 平成25年1月24日

判 決

広島県三原市<以下略>

原 告 三菱重工印刷紙工機械株式会社

同訴訟代理人弁護士 大 野 聖 二

同 飯 塚 暁 夫

同 清 水 亘

同訴訟代理人弁理士 鈴 木 守

東京都港区<以下略>

被 告 株式会社東京機械製作所

同訴訟代理人弁護士 松 本 好 史

同 鈴 木 雅 人

同 松 井 保 仁

同 岸 野 正

同訴訟代理人弁理士 仲 晃 一

主 文

1 原告の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

事 実 及 び 理 由

第1 請求

1 被告は,別紙被告製品目録1記載の装置を生産し,使用し,譲渡し,貸し渡

し,輸出若しくは輸入し,又は譲渡若しくは貸渡しの申出(譲渡若しくは貸渡

しのための展示を含む。)をしてはならない。

2 被告は,別紙被告製品目録1記載の装置を廃棄せよ。

1
3 被 告は,原告に対し,1000万円及びこれに対する平成23年7月9日か

ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

本件は,「印刷物の品質管理装置及び印刷機」との名称の特許権(以下「本

件特許権1」という。)及び「オフセット輪転機版胴」との名称の特許権(以

下「本件特許権2」という。)の各特許権者である原告が,被告の製造販売す

る別紙被告製品目録1記載の製品(以下「被告製品1」という。)は本件特許

権1の,同目録2記載の製品(以下「被告製品2」という。)は本件特許権2

の各技術的範囲に属すると主張し,@特許法100条1項,2項に基づき,被

告製品1の製造,販売等の差止め及び廃棄を求めるとともに,A本件特許権1

侵害による不法行為責任(民法709条,特許法102条3項)に基づき,

平成18年4月7日から平成23年5月31日までの間の被告製品1の製造,

販売等に関する損害賠償請求権1億3440万円の一部である500万円(附

帯請求として,本訴状送達日の翌日である平成23年7月9日から支払済みま

で民法所定の年5分の割合による遅延損害金)の支払を,B本件特許権2の侵

害による不法行為責任(民法709条,特許法102条3項)に基づき,平成

8年2月28日から平成23年3月26日までの間の被告製品2の製造,販売

等に関する損害賠償請求権6088万8000円の一部である500万円(附

帯請求として,本訴状送達日の翌日である平成23年7月9日から支払済みま

で民法所定の年5分の割合による遅延損害金)の支払を各求める事案である。

1 前提事実(争いのない事実以外は,証拠等を末尾に記載する。)

(1) 当事者等

ア(ア) 原告は,三菱重工業株式会社(以下「三菱重工」という。)の10

0%子会社であり,印刷機械・紙工機械の製造販売,据付け,アフター

サービス,修理,改造及び保守並びに上記機械の部品の製作販売等を営

んでいる。

2
( イ) 原告は,平成22年7月1日,会社分割(吸収分割)によって三菱

重工の印刷・紙工機械事業を承継し,これと同時に,商号を「三菱重工

印刷紙工機械販売株式会社」から現商号へと変更した。

イ 被告は,新聞用輪転機,新聞輪転機用自動化・省力化機器,商業用輪転

機,商業輪転機用自動化・省力化機器等の製造及び販売等を業とする株式

会社である。

(2) 本件各特許権

原告は,下記アのとおりの内容の特許(「本件特許1」)を有しており,

また,下記イのとおりの内容の特許(「本件特許2」。以下,これらを併せ

て「本件各特許」という。)を有していた。

ア 本件特許1

特許番号 特許第3790490号

発明の名称 印刷物の品質管理装置及び印刷機

出 願 日 平成14年3月29日

出願番号 特願2002−97824

登 録 日 平成18年4月7日

イ 本件特許2

特許番号 特許第2137621号

発明の名称 オフセット輪転機版胴

出 願 日 平成3年3月26日

出願番号 特願平3−61845

登 録 日 平成10年7月31日

ウ 本件各特許は,原告が,前記(1)ア(イ)のとおり会社分割(吸収分割)

により三菱重工から印刷・紙工機械事業を承継した際に,会社分割に基づ

一般承継により取得したものである。

エ 本件特許2は,平成23年3月26日,存続期間満了により消滅した。

3
(3) 本件各特許に係る明細書及び図面(これらを併せて,それぞれ「本件明

細書1」などといい,本判決末尾に添付する。)の各「特許請求の範囲」に

おける,次に摘示する各請求項の記載(なお,本件明細書2の請求項1につ

いては平成6年法律第116号による改正前の特許法64条による出願公告

後の補正がされたもの。)は以下のとおりである。

ア 本件特許1の請求項1(以下,同請求項に記載の発明を「本件発明1」

という。)

「印刷機の印刷部の下流に配置されて上記印刷部で用紙に印刷された印

刷絵柄を読み取るラインセンサと,当該ラインセンサで読み取られた印刷

絵柄データを記憶する印刷絵柄データ記憶部と,上記印刷絵柄の見本とな

る見本絵柄データを取得するデータ取得手段と,当該データ取得手段が取

得した見本絵柄データを記憶する見本絵柄データ記憶部と,上記印刷絵柄

データ記憶部が記憶した印刷絵柄データと上記見本絵柄データ記憶部が記

憶した見本絵柄データとを上記ラインセンサの画素単位或いは所定画素数

のブロック単位で比較して上記画素毎或いは上記ブロック毎に濃度差或い

は濃度に相関するパラメータ値の差を計算し,計算した差と所定の閾値と

の比較により印刷欠陥を検出する印刷欠陥検出手段と,上記印刷絵柄デー

タ記憶部が記憶した印刷絵柄データと上記見本絵柄データ記憶部が記憶し

た見本絵柄データとを上記印刷絵柄の幅方向に上記印刷部のインキキーの

幅単位で比較して上記インキキー幅毎に濃度差或いは濃度に相関するパラ

メータ値の差を計算し,計算した差の大きさに応じて上記インキキーの開

度を調整するインキキー開度制御手段とを備え,上記所定の閾値を,上記

インキキー開度制御手段による濃度制御において用いる上記の濃度差或い

は濃度に相関するパラメータ値の差の範囲よりも大きい値に設定したこと

を特徴とする,印刷物の品質管理装置。」

イ 本件特許2の請求項1(以下,同請求項に記載の発明を「本件発明2」

4
と いう。)

「版を装着して使用するオフセット輪転機版胴において,前記版胴の表

面層をクロムメッキ又は耐食鋼で形成し,該版胴の表面粗さRmaxを

1.0μm≦Rmax≦100μm

に調整したことを特徴とするオフセット輪転機版胴。」

(4) 本件各発明の構成要件の分説

本件各発明を構成要件に分説すると,それぞれ次のとおりである(以下,

構成要件を「構成要件A」などという。)。

ア 本件発明1の構成要件

A 印刷機の印刷部の下流に配置されて上記印刷部で用紙に印刷された印

刷絵柄を読み取るラインセンサと,

B 当該ラインセンサで読み取られた印刷絵柄データを記憶する印刷絵柄

データ記憶部と,

C 上記印刷絵柄の見本となる見本絵柄データを取得するデータ取得手段

と,

D 当該データ取得手段が取得した見本絵柄データを記憶する見本絵柄デ

ータ記憶部と,

E 上記印刷絵柄データ記憶部が記憶した印刷絵柄データと上記見本絵柄

データ記憶部が記憶した見本絵柄データとを上記ラインセンサの画素単

位或いは所定画素数のブロック単位で比較して上記画素毎或いは上記ブ

ロック毎に濃度差或いは濃度に相関するパラメータ値の差を計算し,計

算した差と所定の閾値との比較により印刷欠陥を検出する印刷欠陥検出

手段と,

F 上記印刷絵柄データ記憶部が記憶した印刷絵柄データと上記見本絵柄

データ記憶部が記憶した見本絵柄データとを上記印刷絵柄の幅方向に上

記印刷部のインキキーの幅単位で比較して上記インキキー幅毎に濃度差

5
或 いは濃度に相関するパラメータ値の差を計算し,計算した差の大きさ

に応じて上記インキキーの開度を調整するインキキー開度制御手段とを

備え,

G 上記所定の閾値を,上記インキキー開度制御手段による濃度制御にお

いて用いる上記の濃度差或いは濃度に相関するパラメータ値の差の範囲

よりも大きい値に設定した

H ことを特徴とする,印刷物の品質管理装置。

イ 本件発明2の構成要件

I 版を装着して使用するオフセット輪転機版胴において,

J 前記版胴の表面層をクロムメッキ又は耐食鋼で形成し,

K 該版胴の表面粗さRmaxを

1.0μm≦Rmax≦100μm

に調整した

L ことを特徴とするオフセット輪転機版胴。

(5) 被告の行為

ア 被告製品1

(ア) 被告は,業として,被告製品1の生産,譲渡及び譲渡の申出を行っ

ている。

(イ) 被告製品1の構成は別紙「被告製品1の構成」記載のとおりである

(以下,別紙「被告製品1の構成」記載の構成をそれぞれ「構成a」な

どという。)(甲9,10,弁論の全趣旨)。

(ウ) 被告製品1の構成a,b,hは本件発明1の構成要件A,B,Hを

各充足する。

イ 被告製品2

(ア) 被告は,本件特許2の存続期間中に,業として被告製品2の製造,

販売を行っていた。

6
( イ) 被告製品の構成jないしlは本件発明2の構成要件JないしLを各

充足する。

2 争点

(1) 被告製品1が本件発明1の技術的範囲に属するか。

ア 「見本絵柄データ」(構成要件C〜F),「上記所定の閾値を…大きい

値に設定した」(構成要件G)の充足性

イ 「上記印刷絵柄データ記憶部が記憶した…インキキー開度制御手段」

構成要件F)の充足性

(2) 被告製品2が本件発明2の技術的範囲に属するか。

(3) 本件特許2は特許無効審判により無効にされるべきものか。

ア 記載要件違反の有無

イ 本件発明2は特許出願前に日本国内において公然実施をされたものに当

たるか。

(4) 損害額

第3 争点に対する当事者の主張

1 争点(1)ア(「見本絵柄データ」〔構成要件C〜F〕,「上記所定の閾値を

…大きい値に設定した」〔構成要件G〕の充足性)

(原告の主張)

(1) 本件発明1の技術的意義

ア 本件発明1は,従来技術において,版掛け誤り判別処理装置,印刷欠陥

検査装置,断裁見当制御装置,濃度制御装置などの各種品質管理装置を個

別に独立して設けると,多くの設置スペースが必要となり,コストも高く

なるという問題点があったことから,印刷物の品質管理に係る複数の機能

を一つの装置に統合することにより,上記問題点を解決しようとするもの

である。

イ すなわち,本件発明1の従来技術において,印刷欠陥検出処理とインキ

7
キ ー開度制御処理(濃度制御処理)は,別個の装置によって行うものとさ

れていたのであって,これらの二つの機能を一つの装置に統合した印刷物

の品質管理装置は,従前,存在しなかった。本件発明1は,このような技

術水準の下で,同じラインセンサで読み取った印刷絵柄データを印刷欠陥

検出及びインキキー開度制御の双方に用いることで,両機能を一つの装置

に統合し,上記アでみた設置スペースやコスト等の問題点を解決したもの

であり,このような点に技術的意義を有する。

ウ 上記のとおり,従来技術においては,印刷欠陥検出と濃度制御は別個の

装置によって行われており,両処理の検査目的及び対象範囲も全く異なる

ものであったことから,印刷欠陥検出処理において用いる閾値を濃度制御

において用いる濃度差又は濃度に相関するパラメータ値の差(以下「濃度

差等」という。)の範囲に関連付けて考えるという知見は存在しなかった。

すなわち,印刷欠陥とは,インキが付くべきところにインキが付いてい

ない場合や,インキが付きすぎて絵柄が潰れてしまっている場合のような,

通常の濃度調整では対処できない異常をいい,画素又はブロック単位で印

刷絵柄と見本絵柄の濃度差等を比較することによって検出する。なお,比

較の単位が小さいほど,小さい印刷欠陥を検出することができる。

これに対し,濃度制御とは,見本と比べて新聞紙面の濃度が異なる場合

に,それを補正する制御をいい,具体的には,インキキーの幅の単位で,

印刷絵柄と見本絵柄の濃度差を比較し,濃度差がある場合には,濃度差を

減らすようインキの供給量を調整する処理をいうのであって,一般的には,

数ページにわたる範囲における濃度差の平均値が用いられる。

このように,両処理は,検査の目的及び検査対象範囲を全く異にするも

のであって,濃度制御が必要であるからといって印刷欠陥があるとは限ら

ず,逆に,印刷欠陥があるからといって,紙面が見本より薄い又は濃いと

いう状況になっているとも限らない。

8
以 上のことから,従来技術において,印刷欠陥検出における閾値を濃度

制御における濃度差の範囲に関連付けて考えるという知見は存在しなかっ

たのである。

エ これに対し,本件発明1は,印刷欠陥検出とインキキー開度制御(濃度

制御)を一つの装置に統合するに当たり,同じラインセンサからのデータ

を用いて両処理を行うこととしたものである。

インキキー開度制御処理は,印刷欠陥検出処理における検査対象範囲よ

りも広いインキキーの幅単位という広い範囲での濃度差の平均値を問題と

するものであることから,同一のラインセンサで読み取ったデータを用い

て印刷欠陥検出処理及びインキキー開度制御処理を行う場合,印刷欠陥検

出の閾値がインキキー開度制御処理において用いる濃度差等の範囲より小

さい値に設定されていると,濃度差等の平均値が印刷欠陥検出の閾値にな

った時点で,検査対象範囲内のいずれかの画素が,必ず,印刷欠陥検出の

閾値以上となってしまい,インキキー開度制御による対処が可能であるに

もかかわらず,印刷欠陥が検出されてしまうことになる。そこで,本件発

明1は,印刷欠陥検出において用いる「閾値」を,インキキー開度制御に

おいて用いる「差の範囲」よりも大きい値に設定する構成を採用すること

で,同一のラインセンサで読み取ったデータを印刷欠陥検出処理及びイン

キキー開度制御処理に併用しても,適切な濃度制御を行えるようにし,両

処理を両立させたものである。

これは,本件発明1が公開された現在においては当然の事項に思えるか

もしれないが,従来技術においては考えの及ばなかった事項に関するもの

であり,本件発明1は,両数値のこのような関係を明示した点に技術的意

義を有するものである。

オ(ア) この点に関し,被告は,特開2001−353852号公報(乙1。

以下「乙1文献」という。)及び特開平6−115050号公報(乙1

9
0 。以下「乙10文献」という。)を挙げて,本件発明1の従来技術に

おいて,同一の読取装置で読み取った印刷絵柄データを印刷欠陥検出処

理及び濃度制御処理の双方に用いることは公知であったと主張するが,

次のとおり,誤りである。

(イ) 乙1文献記載の発明(以下「乙1発明」という。)は,印刷装置補

助装置に関するものであり,印刷装置とは別の場所で,サンプル印刷物

について検査を行うものである。乙1発明は,本件発明1記載のライン

センサを備えておらず,本件発明1のようなリアルタイムでの濃度制御

や印刷欠陥制御を行うものではなく,前提となる装置が全く異なる。

また,乙1発明では,サンプル印刷物についてしか検査を行わないの

で,個々の印刷物に生じる可能性のある印刷欠陥を検出することはでき

ない。乙1発明では,サンプル印刷物についてしか検査を行わないとこ

ろからみて,個々の印刷物の合否判定を行うというよりは,印刷装置の

設定の調整等を行うことを目的とするものであると解され,検出対象も

本件発明1とは異なるものである。

(ウ) また,乙10文献に記載の発明は,コラム毎に印刷画線濃度等に基

づき印刷紙面の濃度判定を行い,その結果に基づき欠陥紙面の排出や欠

陥修正制御を行うものであり(【0024】,【0042】),コラム

毎の濃度判定と別に,画素単位あるいは所定画素数のブロック単位にお

ける印刷欠陥検出を行うものではなく,各処理において別個の閾値等を

設けるものでもない。

(エ) したがって,これらの従来技術との関係で本件発明1の技術的意義

を論じる被告の主張は失当である。

カ 本件発明1の技術的意義は以上のとおりであり,「見本絵柄データ」

構成要件C〜F),「上記所定の閾値を…大きい値に設定した」(構成

要件G)の意義は,上記技術的意義を前提に検討されるべきである。

10
(2) 「見本絵柄データ」(構成要件C〜F)の意義

ア 「見本絵柄データ」(構成要件C〜F)については,構成要件Cにおい

て,印刷絵柄の見本となる画像データであることが概念的に規定されてい

るのみであり,請求項1には,その取得手段を特定する記載や,これを単

一の方法で取得しなければならない旨の記載はない。また,本件明細書1

には,「見本絵柄データ」の取得方法として,@印刷部で用いられる版を

作製した製版システムから,上記版の作製に用いられたデータ(以下「製

版データ」という。)を取得する方法(請求項6)と,A所望の印刷品質

を備えた見本印刷物をラインセンサにより読み取って取得する方法(以下

「見本印刷物データ」という。)(請求項7)が記載されているが,見本

絵柄データがどちらか一方の方法のみにより取得したものでなければなら

ないことを示す記載はない。加えて,本件明細書1において,請求項7は

請求項6の発明を含むものとして記載されており,請求項7の品質管理装

置において,上記@及びAの両方の手段によって見本絵柄データを取得し

てよいことが明らかにされているというべきである。

したがって,「見本絵柄データ」とは,ラインセンサで読み取った印刷

絵柄データと比較するものであれば足り,印刷欠陥検出とインキキー開度

制御において各用いるデータがそれぞれ異なる方法で取得したものであっ

ても,「見本絵柄データ」を充足すると解するべきである。

イ この点に関し,被告は,本件発明1の技術的意義に照らせば,「見本絵

柄データ」は単一のデータであると解するべきであると主張する。しかし,

前記(1)のとおり,本件発明1の技術的意義は,同じラインセンサで読み

取った印刷絵柄データを印刷欠陥検出及びインキキー開度制御の双方に用

いることで,両機能を一つの装置に統合することを可能とした点にあるの

であって,印刷欠陥検出とインキキー開度制御のそれぞれに,別個の方法

により取得した「見本絵柄データ」を用いても,本件発明1の上記趣旨を

11
損 なうことはない。被告が本件発明1の出願経過として指摘する,原告の

平成18年2月6日付け意見書(乙5)の記載は,ラインセンサで読み取

った「印刷絵柄データ」を印刷欠陥検出及びインキキー開度制御の双方に

用いることができること並びに印刷欠陥検出機能とインキキー開度制御機

能を一つの装置に統合することにより省スペース化と低コストを実現する

ことができることを述べたものにすぎず,「見本絵柄データ」を単一のデ

ータに限定する趣旨を含むものではない。

ウ 被告は,本件発明1が,印刷欠陥検出処理における閾値をインキキー開

度制御処理における濃度差等の範囲より大きい値に設定するものである

構成要件G)ことを理由に,「見本絵柄データ」が単一のデータである

ことを要するとも主張するが,両処理において見本絵柄データとして用い

るデータが異なるものであったとしても,両者を同一のデータに変換して

比較することは可能なのであって,被告の主張は失当である。

(3) 「上記所定の閾値を…大きい値に設定した」(構成要件G)の意義につ

いて

ア 前記(1)のとおり,構成要件Gは,本件発明1が,同じラインセンサか

ら取得したデータを印刷欠陥検出と濃度制御の両処理に併用することとし

たことから,従来技術において意識されることのなかった,両処理におけ

る「閾値」と「濃度差等の範囲」との関係を明示したものであって,この

ような点に技術的意義を有するものである。

したがって,構成要件Gを充足するためには,一つのラインセンサで読

み取った印刷絵柄データを印刷欠陥検出処理手段及びインキキー開度制御

処理の両者に用いる品質管理装置において,前者の処理において用いられ

る「閾値」が,後者の処理において用いられる「差の範囲」よりも客観的

にみて大きいものとなっていれば足り,設定に当たっての主観は充足性の

議論に関係がない。

12
イ こ の点,被告は,印刷欠陥検出処理に用いられるデータとインキキー開

度制御処理において用いられるデータが異なる種類のものであった場合,

両データの大小関係を比較することができないと主張する。しかし,異な

る種類のデータであっても,同一データに変換し比較することが可能であ

ることは,本件明細書1に,「スペクトル値,網点面積率,濃度及び色座

標値を互いに関連付けるテーブル…が予め用意されており,印刷絵柄デー

タと見本絵柄データは,それぞれ同内容のデータ…に変換され…」(【0

025】)との記載があることから明らかである。そして,上記変換の結

果,「閾値」と「差の範囲」が,構成要件G所定の関係となっていれば,

構成要件Gを充足するものと解するべきである。

(4) 被告製品1の充足性

ア 「見本絵柄データ」(構成要件C〜F)

被告製品1におけるRGB基準データとCMYK目標濃度データは,画

像の保存形式は異なるものの,いずれも印刷絵柄の見本となる画像データ

であり,紙面監視手段と濃度制御手段にそれぞれ用いるものであるから,

「見本絵柄データ」(構成要件C〜F)に相当する。

イ 「上記所定の閾値を…大きい値に設定した」(構成要件G)

(ア) 被告は,印刷欠陥とは通常の濃度調整では対処できない異常を指す

ものである以上,同一のデータの組合せの比較を2つの機能に共用する

場合,当然に印刷欠陥の閾値は濃度制御において通常生じる差の範囲よ

りも大きいものとなる旨主張しているのであって,被告製品1において,

紙面監視手段において用いる閾値が濃度判定手段において用いる濃度差

等の範囲よりも大きいものであることを実質的に認めている。

(イ) 被告は,紙面監視手段に用いるRGB基準データはRGBデータで

あり,濃度判定手段に用いるCMYK目標濃度データはCMYKデータ

であって,これらの大小関係を比較することはできないと主張する。し

13
か し,RGBデータとCMYKデータは相互に関連性を有するものであ

り,例えば甲13号証の161頁には,CMYKデータをRGBデータ

に変換する式(同頁の式(1))及びRGBデータをCMYKデータに変

換する式(同頁の式(2))が示されているのであるから,両者が相互に

変換可能であることは明らかであるところ,両者を一方に変換すれば大

小の比較も可能であることは自明である。本件明細書1に,「スペクト

ル値,網点面積率,濃度及び色座標値を互いに関連付けるテーブル…が

予め用意されており,印刷絵柄データと見本絵柄データは,それぞれ同

内容のデータ…に変換され…」(【0025】)との記載があることも,

両データを同一データに変換することが可能であることを裏付けている。

したがって,被告製品1において,両データを同一データに変換した上

で,「閾値」と「差の範囲」を比較することは当然に可能である。

また,被告は,両データを比較した上での設定を行っていない旨も主

張するが,両データの大小関係が客観的にみて構成要件G所定の関係に

なっていれば構成要件Gを充足するのであるから,被告の主観は被告製

品1の構成要件G充足性に無関係である。

(ウ) したがって,被告製品1は,「見本絵柄データ」(構成要件C〜

F),「上記所定の閾値を…大きい値に設定した」(構成要件G)をい

ずれも充足する。

(被告の主張)

(1) 原告の主張は,事実については否認し,法的主張は争う。

(2) 本件発明1の技術的意義

ア 本件発明1は,本件発明1の出願当初の明細書(乙11。以下「当初明

細書」という。)の段階では,単にラインセンサで読み取った印刷絵柄デ

ータを印刷欠陥検出手段及びインキキー開度制御手段において共用するこ

とを内容とするもの(当初明細書の【請求項1】)であったところ,拒絶

14
理 由通知書(乙12)において進歩性がないとされたことから,「閾値」

と「差の範囲」に大小関係を設定すること等を追記する補正を行って,特

許査定を受けるに至ったものである。

イ 原告は,上記補正を行うに当たり,平成18年2月6日付け意見書(乙

5)において,「引用文献1〜5のいずれにも,本願発明(請求項1)の

ごとく印刷欠陥検出手段410とインキキー開度制御手段408とにおい

て,それぞれ同じラインセンサ50で読み取った印刷絵柄データと見本絵

柄データとを比較して印刷物の濃度制御及び印刷欠陥の検出を行う構成に

ついて記載や示唆はなく…」(3頁下から5行目)と記載しているが,以

下のとおり誤りである。

上記拒絶理由通知書における引用文献3であった乙1文献には,【発明

実施の形態】として,印刷装置補助装置である色見台1において,撮像

部13で印刷物2を一括読み取りした読取画像データRGB1及びRGB

2を,印刷不良検査作業とインキ供給量データ作成作業の両手段に共用す

ることが記載されている。

また,上記拒絶理由通知書に示されていない公知文献である乙10文献

には,【実施例10】として,新聞印刷検査装置(【0103】)が開示

されているところ,同装置は,CCD撮像機20で複数の新聞コラムにつ

いて測定された画線情報と,対応する原画のスキャナ情報29との比又は

差が所定の許容範囲に入っているかどうかを判断し,許容範囲外の印刷紙

面をラインから除去することにより,正常印刷時欠陥検出を行うものであ

り(【0088】,【0103】,【図12】),かつ,上記印刷欠陥検

出に用いるのと共通のCCD撮像機20による濃度の測定結果を,原画情

報29からの画線面積又はインキ量のデータと比較して,正常印刷時の濃

度判定を行い(【0096】〜【0100】),インキポンプ送り出し量

等の調整による濃度制御に上記判定結果を用いるものである(【004

15
8 】,【0050】,【0051】)。加えて,上記装置において,印刷

画像と比較される原画情報29としては,「コンピュータ組版の最終信

号」及び「先行して印刷された紙面」が利用できるとされている(【00

41】,【0044】)。

以上によれば,乙1文献記載のとおり,本件発明1の出願前の時点で,

撮像部(本件発明1の「ラインセンサ」に相当する。)で読み取ったデー

タ(本件発明1の「印刷絵柄データ」に相当する。)を印刷欠陥検出及び

濃度制御の両手段に用いる構成は公知であり,さらに,乙10文献記載の

とおり,CCD撮像機(本件発明1の「ラインセンサ」に相当する。)で

読み取った画像(本件発明1の「印刷絵柄データ」に相当する。)と,コ

ンピュータ組版の最終信号(本件発明1の「製版データ」に相当する。)

と「先行して印刷された紙面」(本件発明1の「見本印刷物データ」に相

当する。)を比較して印刷欠陥検出及び濃度制御を行うことも公知であっ

た。

ウ 以上の出願経過及び従来技術を考慮すれば,本件発明1の特徴部分は,

乙1文献及び乙10文献に開示されていない構成であり,かつ,原告が補

正により追加した構成である,印刷欠陥検出において用いる所定の閾値を,

インキキー開度手段において用いる差の範囲よりも大きい値に設定する構

成(構成要件G)に収斂することになる。

(3) 上記技術的意義を前提とした「見本絵柄データ」(構成要件C〜F)の

意義

ア 本件発明1における「見本絵柄データ」とは,印刷絵柄の見本となるデ

ータとしてデータ取得手段により取得されるデータであり(構成要件C,

D),印刷欠陥検出手段及びインキキー開度制御手段において,基準デー

タとして,印刷絵柄データとの比較に用いられるものである(構成要件E,

F)。

16
イ 前 記(2)のとおり,本件発明1は,印刷欠陥検出手段における印刷欠陥

検出のための「閾値」を,インキキー開度制御手段におけるインキキーの

開度調整のための「濃度差或いは濃度に相関するパラメータ値の差の範

囲」よりも大きい値に設定する構成(構成要件G)としたところに技術的

意義を有するものであるところ,上記大小設定を行うためには,その前提

として,両手段において同じ内容の比較が行われること,すなわち,両手

段において用いられる印刷絵柄データと見本絵柄データが同一のものであ

ることが必要となる。

しかるに,本件明細書には,「見本絵柄データ」の取得方法として,製

版データを取得する方法と見本印刷物データを取得する方法が記載されて

おり,このうち,見本印刷物データは,許容範囲内の品質を備えた印刷結

果(OKシート)をラインセンサで読み取ったデータであるから,目標品

質そのものである製版データと比較して,版の作成,用紙への印刷及び用

紙上の印刷結果の読取りという過程を経て,画像品質が3段階に劣化した

ものということができる。また,見本印刷物データはRGBデータ,製版

データはCMYKデータであるところ,RGBデータとは,レッド(R),

グリーン(G),ブルー(B)の原色を用いた色の表現法であり,RGB

各色につき0〜255の256段階の単位のない数値の組合せでRGBカ

ラースペースが表されるのに対し,CMYKデータとは,シアン(C),

マゼンダ(M),イエロー(Y),黒(K)の4色の網点面積率(網点階

調における網点面積が単位面積に占める割合)による色の表現方法であり,

0〜100(網%)でCMYKカラースペースが表されるものである。そ

うすると,見本印刷物データと製版データは,画像品質及びデータ形式の

2点において異なるものということになる。

見本印刷物データと製版データが,画像品質及びデータ形式の2点にお

いて全く異なるデータである以上,両データにおいてそれぞれ設定されて

17
い る「閾値」等の大小を比較することは意味がなく,また,そもそも,単

位の違いから,大小比較をすることが不可能である。そうすると,このよ

うな見本印刷物データと製版データを,「見本絵柄データ」として併用す

ることは,本件発明1において予定されていないというべきである。

ウ 本件明細書1の実施例の記載も,これを裏付けている。すなわち,本件

明細書1には,見本絵柄データの取得方法に関し,製版データを取得する

方法と見本印刷物データを取得する方法の「何れかの方法が好ましい。」

と記載されており(【0020】),両データを「見本絵柄データ」とし

て併用することについては記載がない。また,実施例として,「上流工程

である製版システム70から見本絵柄のデータ(見本絵柄データ)が入力

されるようになっている。」(【0022】),「見本絵柄データ記憶部

402は,製版システム70から取得した見本絵柄データを記憶する部位

である」(【0025】)等の記載の後に,「上述の実施形態では,製版

システムから版作成用の画像データを見本絵柄データとして取得している

が,所望の印刷品質を備えた見本印刷物…を読み取ることで見本絵柄デー

タを取得することも可能である。」(【0038】)との記載があり,製

版データを使用する実施形態と,見本印刷物データを使用する実施形態が

選択的に記載されている。これらの記載からみても,本件発明1において,

製版データと見本印刷物データを「見本絵柄データ」として併用すること

が予定されていないことが明らかである。

エ 原告は,本件明細書1の請求項7に請求項6の発明が引用されているこ

とを理由として,本件明細書1には,製版データと見本印刷物データを

「見本絵柄データ」として併用する発明が記載されていると主張する。し

かし,見本絵柄データの取得方法は,製版データを取得する方法と見本印

刷物データを取得する方法のいずれかによることが望ましい旨などの本件

明細書1の記載は,当初明細書から変更されていないものであるから,本

18
件 発明1は,「見本絵柄データ」として,製版データと見本印刷物データ

のいずれか一方を用いる発明として出願されたものというべきである。加

えて,本件明細書1における「もう一つは,所望の印刷品質を備えた見本

印刷物をラインセンサにより読み取ることで見本絵柄データを取得する方

法である(請求項7)。」(【0020】。なお,「(請求項7)」の記

載は,当初明細書に加筆して補正されたものである。)との記載からは,

請求項7記載の発明が,見本印刷物データを「見本絵柄データ」とする発

明であることが明らかなのであるから,請求項7は,「請求項1〜6の何

れか」ではなく,「請求項1〜5の何れか」でなければ,明細書の記載要

件に違反することになる。したがって,請求項7の記載を根拠に,本件明

細書1に,製版データと見本印刷物データを「見本絵柄データ」として併

用する発明が記載されているとみるのは相当ではない。

オ 以上によれば,「見本絵柄データ」は,印刷欠陥検出手段及びインキキ

ー開度制御手段において,基準データとして共通に用いられる単一のデー

タでなければならず,見本印刷物データと製版データを併用する場合を含

まないことが明らかである。

(4) 「上記所定の閾値を…大きい値に設定した」(構成要件G)の意義

ア 「上記所定の閾値を…大きい値に設定した」(構成要件G)とは,印刷

欠陥検出において用いる閾値を濃度制御において用いる濃度差等の範囲よ

りも大きい値に設定するというものであるが,そもそも,印刷欠陥とは,

「インキが付くべきところにインキが付いていなかったり,インキが付き

すぎて絵柄が潰れてしまっていたりするような,通常の濃度調整では対処

できない異常」(本件明細書1の【0004】)を指すものであるから,

同一のデータの組合せを印刷欠陥検出とインキキー開度制御の両機能に共

用する場合,印刷欠陥検出における閾値がインキキー開度制御において通

常生じる濃度差等の範囲より大きい値となるのは当然である。乙10文献

19
に も,「コラム毎に撮像機による印刷画線の濃度レベルをフィルムスキャ

ナによる画線面積や必要インキ量と比較し,この比較結果が許容指定値範

囲内にあれば,印刷濃度が適正であると判断する。また,許容指定値範囲

内になければ,印刷濃度が不適正であると判断する。」(乙10文献の

【0048】),「印刷紙面の各コラムの印刷濃度が適性範囲内にあって

も,印刷紙面全体として,コラム間の濃度ばらつきが許容できない程にな

る場合がある。このような状態を防止するために,コラム間の濃度ばらつ

きを小さくするように制御する。」(同【0052】)と記載されており,

印刷欠陥検出のための閾値(許容指定値範囲)が濃度制御を行う濃度差の

範囲(許容指定値内での濃度制御となる範囲)よりも大きいことが記載さ

れている。

そうすると,単に「所定の閾値」が「濃度差等の範囲」よりも大きいこ

とは各機能から自明の事項であって,印刷欠陥検出のための閾値をインキ

キー開度制御における濃度差等の範囲よりも小さい値に設定することは考

えられない。ただ,印刷欠陥検査装置と濃度制御装置が別個に設けられて

いる従来装置では,印刷欠陥検出のための閾値と濃度制御のための濃度差

の範囲がそれぞれ別々に設定されており,見本絵柄データもそれぞれ別々

に取得するので,閾値と濃度差等の範囲を比較する必要がなかっただけで

ある。

これに対し,本件発明1は,ラインセンサを一つにまとめ,印刷欠陥検

出処理とインキキー開度制御処理を一体化品質管理装置にまとめ,さらに,

両処理において用いる見本絵柄データも同一のものとしたため,印刷欠陥

検出において用いる「閾値」を,インキキー開度制御における「濃度差等

の範囲」よりも大きい値に設定することが必要となったものである。

イ したがって,「上記所定の閾値を…大きい値に設定する」(構成要件

G)とは,印刷欠陥検出及びインキキー開度制御に各同一の見本絵柄デー

20
タ と印刷絵柄データを用いることを前提に,「閾値」と「濃度差等の範

囲」を関連付け,その大小関係を積極的に設定することを意味するとみる

ほかない。

(5) 被告製品1の充足性について

ア 被告製品1の構成について

(ア) 紙面監視手段

被告製品1は,印刷部で用紙に印刷された絵柄を読取センサで読み取

るが(構成a),これは,印刷された絵柄について,一定の画素単位で,

反射光の種類及び量を測定・変換する動作を指しており,印刷絵柄デー

タ(構成b)とは,上記のとおり測定・変換されたRGBデータを指す。

被告製品1は,上記のとおりRGBデータである印刷絵柄データをRG

Bデータ用メモリに記憶し(構成b),その中で,印刷結果が良好な場

合(良紙)のRGBデータをRGB基準データとして設定し,記憶した

上で(構成c及びdの各前段),順次印刷される用紙から読み取った印

刷絵柄データ(RGBデータ)を,上記RGB基準データと比較してR,

G,Bそれぞれについて差分を求め,被告製品1の納入前に予め設定さ

れている不良紙判定用閾値を超えるものについて,不良紙と判定するも

のである(構成e)。

(イ) 濃度判定手段

被告製品1は,製版データをTIFF形式でCTPサーバーのメモリ

に記憶し,当該TIFFデータからCMYK目標濃度データを作成し,

画像サーバーのメモリに記憶した上で(構成c及びdの各後段),順次

印刷される用紙から読み取った印刷絵柄データ(RGBデータ)をCM

YK濃度データ(面積率)に変換し,CMYK目標濃度データと画素単

位で比較してC,M,Y,Kのそれぞれについて差分を求め,被告製品

1の納入前に予め設定されるインキ制御用閾値を超える場合には,各イ

21
ン キにつきインキキーの開度制御を行うものである(構成f)。

イ 「見本絵柄データ」(構成要件C〜F)の充足性について

上記のとおり,被告製品1は,紙面監視手段において,印刷絵柄データ

と比較すべきデータとしてRGB基準データを用いるのに対し,濃度判定

手段においては,印刷絵柄データと比較すべきデータとしてCMYK目標

濃度データを用いるものである。RGB基準データはRGBデータ,CM

YK目標濃度データはCMYKデータであり,両者はデータ形式において

異なるものであるから,被告製品1は単一のデータを印刷絵柄の見本とし

て用いるものではなく,「見本絵柄データ」(構成要件C〜F)を充足し

ない。

ウ 「上記所定の閾値を…大きい値に設定する」(構成要件G)の充足性に

ついて

(ア) 被告製品1において,紙面監視手段において用いられる「閾値」と,

濃度判定手段における「濃度差等の範囲」は,被告製品1納入前の段階

で別個に設定されるものであり,一方の設定に当たり他方との比較は行

われておらず,両者を関連付けた設定は行われていない。

(イ) そもそも,被告製品1において紙面監視手段に用いられる基準デー

タはRGBデータであり,濃度判定手段に用いられる基準データはCM

YKデータであって,両データは単位において異なるものであり,前者

において用いられる「所定の閾値」と,後者において用いられる「濃度

差等の範囲」の大小比較をすることができない。また,前者において用

いられるデータは,後者において用いられるデータに比べて,版の作成,

用紙への印刷及び印刷結果の読取りにより,品質が3段階に劣化したも

のであり,このように品質の異なる両データにおいてそれぞれ設定され

る「閾値」等の大小を比較することは意味がない。被告製品1は,この

ような理由から,紙面監視手段及び濃度判定手段において各用いる「閾

22
値 」等の大小を関連付けていないのである。なお,被告製品1において,

紙面監視手段と濃度判定手段が別個のシステムとして運用され,閾値等

も各別に設定されている以上,その大小を比較設定しなくとも何ら支障

がない。

(ウ) したがって,被告製品1は,紙面監視手段における「所定の閾値」

を,濃度制御手段における「濃度差或いは濃度に相関するパラメータ値

の差の範囲よりも大きい値に設定した」ものではないから,構成要件

を充足しない。

(6) 被告製品1の構成が従来技術と同一であること

ア 乙10文献には,印刷装置が印刷版を形成する際に使用される画像デー

タ(CMYKデータ)と,印刷装置から出力される印刷物を読み取った画

像読取信号(RGBデータをCMYKデータに変換したもの)とを比較し,

インキ供給量を調整する処理(【0106】,【0079】〜【008

5】)が記載されているが,上記処理は,被告製品1における濃度判定手

段と同一である。また,乙1文献には,「画像データ作成手段3」で作成

されたデータ(CMYKデータ)と印刷物の画像データ(RGBデータ)

を,いずれもCIE L*a*b*データに変換し,比較して印刷不良検

査を行う処理(【0057】〜【0059】)が記載されているが,上記

CMYKデータの代わりに良紙のデータを用いることは,従来技術である

とされており(【0009】),被告製品1の紙面監視手段は,上記従来

技術と同一である。

イ したがって,RGB基準データ及びCMYK目標濃度データを用いる被

告製品1の紙面監視手段及び濃度判定手段は従来技術を組み合わせたもの

にすぎず,本件発明1の技術的範囲に属しない。

2 争点(1)イ(「上記印刷絵柄データ記憶部が記憶した…インキキー開度制御

手段」〔構成要件F〕の充足性)

23
( 原告の主張)

(1) 被告製品1の濃度判定手段が,被告の主張する「画素」単位でデータを

比較するものであるとしても,インキキー開度制御をする以上,最終的には

データをインキキーの幅単位で集計しなければ(結果としてインキキーの幅

単位で比較することと同じ),インキキー開度制御を通じた濃度制御をする

ことは不可能である。また,インキキーの幅単位で濃度比較を行っていると

評価できる限り,インキキーの幅単位でデータを集計するに当たり,インキ

キー内における全画素の平均をとってもよいし,いくつかの画素の平均をと

ってもよいことはいうまでもない。

(2) したがって,被告製品1は,CMYK目標濃度データと印刷絵柄データ

との比較をインキキーの幅単位で行うものであり,構成要件Fを充足する。

(被告の主張)

(1) 原告の主張は争う。

(2) 被告製品1が「インキキーの幅単位」で比較を行うものではないこと

ア 被告製品1における濃度判定手段は,構成fのとおり,印刷絵柄データ

(RGBデータ)をCMYKデータ(面積率)に変換した上で,目標濃度

画像サーバーが,製版データをもとに,計算によって予め制御に適した画

素(印刷用紙を,紙面進行方向とその垂直方向にそれぞれ複数に分割した,

縦7.28mm×横12.7mmの領域)を選び出し,当該画素について

のみ,上記変換済みの印刷絵柄データとCMYK目標濃度データとの比較

を行ってC,M,Y,Kの各差分を求め,特定のインキキーの幅に属する

各画素における上記差分の平均を,インキ制御用閾値と比較することで,

インキキーの開度制御(濃度判定)を行うものである。

イ 以上のとおり,被告製品1は,「画素単位」で基準となる濃度データと

実際の濃度データとの比較を行い,C,M,Y,Kの差分を求めた上で,

特定のインキキーの幅に属する上記各画素における差分の平均をインキ制

24
御 用閾値と比較することで開度制御を行うものであり,「画素単位」で

「比較」した上で,「インキキーの幅単位」で「制御」するものであり,

「インキキーの幅単位」で「比較」を行うものに当たらず,構成要件Fを

充足しない。

ウ この点,原告は,インキキーの開度制御をする以上,最終的にはデータ

の比較結果をインキキーの幅単位で集計して,インキキー開度制御を行う

ことが不可避であり,結果としてインキキーの幅単位で比較することと同

じであると主張するが,本件発明1は,特許請求の範囲の記載において,

印刷欠陥検出処理については「画素単位或いは所定画素数のブロック単位

で比較して」(構成要件E)行うのに対し,インキキー開度制御処理につ

いては「インキキーの幅単位で比較して」(構成要件F)行うと記載して

いるのであって,原告の主張は,特許請求の範囲の記載におけるこのよう

な書き分けを無視するものである。

3 争点(2)(被告製品2が本件発明2の技術的範囲に属するか。)

(原告の主張)

(1) 「版」(構成要件I)の意義について

本件特許2の請求項1は,「版」について限定を加えておらず,本件明細

書2の発明の詳細な説明にも「版」を限定する記載はない。また,CTP版

もPS版の一種であり,刷版であることに変わりはない。したがって,

「版」(構成要件I)を限定解釈するべきではなく,「版」(構成要件I)

とは,刷版であればPS版,CTP版のいずれも含むと解するべきである。

(2) 被告製品2は,版を装着して使用するオフセット輪転機版胴であるから,

構成要件Iを充足し,本件発明2の技術的範囲に属する。

(被告の主張)

(1) 原告の主張は争う。

(2)ア 本件明細書2によれば,本件発明2は,「従来のオフセット輪転機の

25
版 胴は耐食性,耐摩耗性,汚れ除去性等の観点から,…Rmax<1.0

μmに調整されたもの…が用いられていた」(【0002】)が,このよ

うな版胴に版を装着して印刷する場合,版2と版胴1の相対位置が変化す

るいわゆる版ずれトラブルが発生する(【0004】)ことから,「上記

の版ずれトラブルを容易に防止できる版胴を提供することを目的」とし

(【0005】),版胴の表面粗さRmaxを1.0μm≦Rmax≦1

00μmに調整した(【請求項1】)ものである。

イ オフセット輪転機の刷版としてはPS版(印刷版材にフィルムを密着さ

せて使用するもの)とCTP版(印刷版材に直接データを焼き付けること

によって作成するもの)があるが,CTP版は平成5年頃から普及し始め

たものであり,本件発明2の出願当時,刷版とはPS版を指すものであっ

た。したがって,本件発明2は,PS版を使用する版胴について,上記ア

のとおり,版ずれトラブルを防止しようとする技術であるということがで

きる。

そうすると,本件発明2の技術的範囲が,その出願時には存在しなかっ

たCTP版にも及ぶというためには,CTP版における版ずれの問題が,

本件発明2が解決しようとしたPS版における版ずれの問題と技術的に同

質のものでなければならない。

ウ そもそも,版ずれ(版胴のくわえ部から印刷版がずれる現象)は,CT

P版が普及し,また,カラー印刷の多用及び印刷スピードの高速化に伴い,

色ずれの原因として考えられるようになった問題であり,CTP版の導入

以前の,PS版を使用していた時期には,ほとんど起こらないものとされ

ていた(甲11,乙7の【0006】)。これは,原告が従前製造してい

たPS版用オフセット輪転機の版胴表面は,独自にRmax<1.0μm

まで研磨されていたものと考えられるところ(本件明細書2の【000

2】),他社が製造していたPS版用オフセット輪転機の版胴表面は,そ

26
こ まで平滑ではなかったためであると考えられる。

本件発明2は,このようにほとんど起こらないものとされていたPS版

における版ずれについて,単に版胴の表面粗さを従来品よりも粗くするこ

とで防止しようとする技術であるということができるところ,CTP版に

おける色ずれは,印刷機,印刷速度,印刷部数,ブランケットの種類,イ

ンキや湿し水の種類等の印刷条件によって,版伸び又は版ずれに起因して

生じるものとされているのであって(乙7の【0006】),単に版胴の

表面粗さを調整することで解決できる問題ではない。これは,もともとR

max≧1.0μmであった版胴でも,CTP版への変更に伴って版ずれ

が起こるようになったことからも明らかである。

エ したがって,CTP版における版ずれの問題は,本件発明2が解決しよ

うとしたPS版における版ずれの問題とは技術的に異質のものであるとい

うべきであるから,本件発明2の技術的範囲は,CTP版には及ばず,本

件発明2にいう「版を装着して使用するオフセット輪転機版胴」(構成要

件I)とは,PS版用の版胴に限定して解釈されるべきである。

(3) 被告製品2のうち,別紙被告製品目録記載(1)の版胴については平成22

年8月に,同目録記載(2)の版胴については平成20年3月に,同目録記載

(3)の版胴については平成19年11月に,完全にCTP版用に変更されて

いる。したがって,これらの被告製品2は,構成要件Iを充足せず,本件発

明2の技術的範囲に属しない。

4 争点(3)ア(記載要件違反の有無の有無)

(被告の主張)

(1) 実施可能要件違反

ア 本件発明2は,オフセット輪転機版胴においてRmaxを1.0μm≦

Rmax≦100μmの範囲に調整したことにより版ずれ防止効果を奏す

ることを内容とするものであるところ,本件明細書2には,版胴のどの部

27
分 をどのように計測してRmaxの値を算出するのか,また,どの部分の

Rmaxが本件発明2の範囲内に入っていれば上記効果を奏することがで

きるのかについて手がかりとなる記載は一切ない。

イ 本件特許2の出願当時のJIS規格(乙2)において,最大高さRma

xは,「断面曲線から基準長さだけを抜き取った部分(「抜取り部分」)

の平均線に平行な2直線で抜取り部分を挟んだとき,この2直線の間隔を

断面曲線の縦倍率の方向に測定して,この値をマイクロメートル(μm)

で表したものをいう。」と定義されており,また,Rmaxが100μm

以下の場合の基準長さは8mmと定められているから,本件発明2は,版

胴のうち,基準長さである8mmについて計測した数値をクレームしたも

のということになる。本件発明2が版を装着する部分の表面粗さを問題と

するものであることが当業者にとって自明であるとしても,版胴表面の幅

は約1800mm,周長は約1100mmもあり,このうち「版を装着す

る部分」といってもなお広範であるから,上記基準長さである8mmの取

り方は無限に存在するというべきである。加えて,本件発明2の出願当時

において,研削加工精度の問題から,版胴の表面粗さを均一にすることは

困難であり,実際,同じ版胴でも測定箇所により表面粗さにかなりのばら

つきがみられることからすれば(乙16,17),このような表面粗さの

ばらつきにも配慮した測定方法の記載なくして,当業者が本件発明2を実

施することは不可能である。

ウ したがって,本件特許2は,特許法36条6項1号実施可能要件)に

違反する。

(2) サポート要件違反

ア 本件発明2は,争点(2)に関する被告の主張(2)アのとおり,オフセット

輪転機版胴においてRmaxを1.0μm≦Rmax≦100μmの範囲

に調整したことにより版ずれ防止効果を奏することを内容とするものであ

28
り ,表面粗さRmaxを上記範囲に限定したことにのみ特徴のある発明で

ある。このように,従来技術の構成の数値,形状,配列等を限定ないし変

更することにより生じた発明については,その限定,変更等による効果が

従来技術と異質のものであるか,又は同質の効果でも顕著な優位性があり,

それが当業者にとって容易でなく,かつ,その効果も予測が困難な場合に

のみ進歩性が認められる。したがって,本件発明2においては,Rmax

の上記上限値及び下限値が,従来技術との関係で臨界的意義をもつもので

なければなければならず,かつ,本件発明2の作用効果が上記のとおり従

来技術と異質又は顕著な優位性を有するものでなければならないことが明

らかである。

イ しかるに,本件明細書2には,【図2】のグラフ及びその説明(【00

09】)が示されているが,Rmaxをいかなる値にした版胴をいくつ実

験に用いたのか,図2の3つの丸印からなぜ実線のグラフが得られるのか,

いかなる条件をどのように変更して破線のグラフ及び「実験条件によるデ

ータの変更範囲」が得られたのかについては開示・示唆がない。また,

「Rmax>100μmでは,版胴の寸法精度や汚れ除去特性に問題が生

じることが考えられる」(【0010】)との記載からも明らかなとおり,

上限値については実験例がないようである。そうすると,【図2】のグラ

フは根拠のないものであり,本件明細書には,Rmaxの上限値及び下限

値の臨界的意義を基礎付ける実験例や理論的根拠の記載がないということ

になる。なお,本件明細書2の【0011】には,「Rmax≒6.0μ

m」の値が実験結果として記載されているが,この実験が【図2】記載の

実験例の一部であるのかどうかすら明確ではなく,使用した版胴が4枚で

あるのに破線が2本であることの説明も一切ない。

ウ したがって,本件明細書2には,Rmaxの範囲の記載と得られる版ず

れ防止効果との関係の技術的意味に関し,本件発明2に接した当業者が,

29
本 件発明2に示されたRmaxの範囲であれば,所望の(上限値及び下限

値において従来技術との関係で臨界的意義があるような,異質又は顕著

な)版ずれ防止効果が得られると認識できる程度の具体例を示した記載が

されているものとはいえないから,本件特許2は,特許法36条6項1号

(サポート要件)に違反するものである。

(3) したがって,本件特許2は,特許無効審判により無効にされるべきもの

に当たる。

(原告の主張)

(1) 被告の主張は争う。

(2) 実施可能要件違反について

本件発明2は,版胴の版ずれ防止を技術的課題とする発明である以上,版

を装着する部分のRmaxを問題としていることは当業者にとって自明であ

り,版胴のどの部分のRmaxであるかを全て具体的に明示しなかったから

といって,本件特許2が実施可能要件に違反するものではない。

(3) サポート要件違反について

本件明細書2には,Rmaxの数値範囲に関し,「Rmax≧100μm

では,版胴の寸法精度や汚れ除去特性に問題が生じることが考えられるので,

Rmaxの上限値をRmax≦100μmとする」,「Rmax<1.0μ

mでは従来版胴に比べて版ずれ防止効果が小さいので,その下限をRmax

≧1.0μmとする。」との記載がある。したがって,本件特許2にサポー

ト要件に違反する点はない。

(4) したがって,本件特許2は特許無効審判により無効にされるべきもので

はない。

5 争点(3)イ(本件発明2は特許出願前に日本国内において公然実施をされた

ものに当たるか。)

(被告の主張)

30
(1)ア 本件特許2の出願前である,昭和62ないし63年に被告が製造し,

昭和63年8月に東日印刷株式会社(以下「東日印刷」という。)に納入

したオフセット輪転機「ET−1」(以下「ET−1機」という。)の版

胴の表面粗さRmaxは,同機の「版胴追加工図」(乙15の1)によれ

ば1.5μmに設計されていた。

また,平成23年1月31日及び同年2月24日,ET−1機のA列1

4Pの版胴2本を測定したところ,表面粗さRzは2.47〜4.02μ

mであった。ET−1型機の版胴の表面層は耐食鋼で形成されており(乙

22の1及び乙23の1の「同表面にステンレス鋼溶着のこと」との記

載),表面が腐食しないものである上,上記測定は,刷版の掛け替えや印

刷時の摩擦のない周縁部を測定したものであり,このような部分の表面粗

さが20年程度で変化するものではないことは自明である。

以上に加えて,ET−1型機の版胴について,納入後の入替えや改造が

行われていないこと(乙26)にも照らせば,同機の版胴は,昭和63年

8月当時において,表面層の表面粗さRmaxを1.0μm≦Rmax≦

100μmに調整したものであったということになる。

イ 新聞印刷機業界の慣行として,新聞社や印刷会社との間でオフセット輪

転機について秘密保持契約が締結されることはなく,新聞社や印刷会社は,

オフセット輪転機が設置された工場を一般にも広く公開している。このこ

とは,株式会社高速オフセット摂津工場が,原告による被告製品1の表面

粗さの測定調査(乙20)を拒んでいないことからも明らかである。

(2) 以上のとおり,被告は,本件特許2の出願前から,本件発明2に記載の

版胴と同一の構成のオフセット輪転機版胴を製造販売し,上記版胴は納入先

工場において広く公開されていたから,本件特許2は,特許出願前に日本国

内において公然実施をされた発明(特許法29条1項2号)に該当し,特許

無効審判により無効とされるべきものに当たる。

31
( 原告の主張)

(1) 被告の主張は,事実については否認し,法的主張については争う。

(2) Rmax1.5μmの機械が納入されたことの立証がないこと

ア 被告は,東日印刷に納入されたET−1型機が乙14号証記載の輪転機

であり,乙15号証記載の版胴及び乙21ないし23号証記載の版胴が,

乙14号証記載の輪転機に設置されるものであることを前提として主張す

る。

(ア) しかし,そもそも,被告からは,ET−1型機の注文,販売,納入

等の取引関連書類が一切提出されておらず,東日印刷に納入されたET

−1型機が乙14号証記載の輪転機であることについては,東日印刷従

業員の陳述書(乙26)しか証拠がない。上記陳述書は,約24年前の

取引について,具体的な参照資料も示さず述べるものであり,乙14号

証自体から得られる情報以上の情報に基づき陳述されたものであるとは

解されない。

(イ) また,乙14,15号証は設計図面にすぎず,かつ,その作成日は,

ET−1型機の納入時期であるとされる昭和63年8月の約1年前であ

るところ,図面の完成から納入までの期間が1年というのは通常よりも

長いものであり,その間に乙14,15号証が修正されている可能性も

大きい。加えて,乙14号証に東日印刷の承認印等が見当たらないこと

も考慮すれば,乙14号証が,最終的に納入された製品の図面であると

の保証は全くない。

(ウ) 加えて,被告は,乙22及び23号証は,乙21号証の詳細図面で

あると説明するが,その根拠とする「L05−39003A−1」など

の記載は,版胴の部番にすぎない。乙22の2及び乙23の2には,乙

21とは異なる発注番号及び顧客番号が記載されている上,「ステンレ

スコート処理追加」の日付が,ET−1型機納入の約3年半も前である

32
「 60.3.19」と記載されているのであるから,乙22,23号証

が乙21号証の詳細図面であることの立証にも欠けるものである。

(エ) さらに,被告自身,同一部番の版胴について納入先が変更になる場

合があることを認めているのであり(乙21ないし23の表題部の記載

変更に関する被告の主張参照),乙21号証の表題部に「ET−1」等

の表示があっても,これが最終的に変更されている可能性もあるという

べきである。

(オ) 以上のとおり,乙14,15,21ないし23には多数の問題点が

存在するから,これらの証拠に基づきET−1型機の納入時の状態(表

面粗さ)を認定するべきではない。

イ 平成23年における測定結果について

(ア) 版胴の表面粗さが,約22年間にわたり使用されることによりどの

ように変化するのかは不明であり,平成23年における表面粗さの測定

結果をもって,昭和63年における納入当時の表面粗さを推測すること

は不可能である。また,刷版のかかる部分の測定結果が1箇所を除きい

ずれも1.0μm未満であること及び刷版のかからない部分の測定結果

において,最小値と最大値との間に2倍以上のずれが生じていることに

照らせば,上記版胴がRmax≧1.5μmに設計されたものであると

は考えられない。

(イ) なお,被告は,乙16の1を平成23年1月31日の測定結果,乙

17の1を同年2月24日の測定結果をそれぞれ集計したものであると

主張する。しかし,乙16の2には,測定日として「2000年(平成

12年)4月25日」と表示されているところ,測定器の測定日を合わ

せるのを失念した旨の主張自体不自然なものである上,全測定箇所につ

いて測定結果が保存されていないことも不自然である。これに加えて,

乙16の1と乙17の1の各測定結果が大きく相違していることからす

33
れ ば,乙16の1の測定結果は,表示日付のとおり平成12年4月25

日に測定されたものであるとも考えられる。これを前提に両測定結果を

比較すると,乙16の1の測定結果より乙17の1の測定結果の方が表

面粗さの数値が増加している箇所が複数箇所においてみられるのであり,

時間の経過により表面粗さの数値がどのように変化するかが不明である

ことは,この点においても明らかである。

(3) 公然性についての立証がないこと

被告は,ET−1型機に関する売買契約書等の取引書類を何ら提出してお

らず,納入先である東日印刷が守秘義務を負わないことについて立証できて

いない。

(4) 以上によれば,公然実施の主張は立証不十分であり,本件特許2が特許

29条1項2号により特許無効審判により無効とされるべきものであると

は認められない。

6 争点(4)(損害額

(原告の主張)

(1) 本件発明1に係る損害額

被告は,遅くとも平成18年4月7日から平成23年5月末日までの間に,

被告製品1の製造販売等により,少なくとも11億2000万円を売り上げ

た。これにより本件特許1の特許権者が受けるべき金銭の額(特許法102

条3項)は,1億3440万円を下らない。

(2) 本件発明2に係る損害額

被告は,遅くとも平成8年2月28日から平成23年3月26日までの間

に,被告製品2の製造販売等により,少なくとも5億0740万円を売り上

げた。これにより本件特許2の特許権者が受けるべき金銭の額(特許法10

2条3項)は,6088万8000円を下らない。

(3) 原告は,前記前提事実(1)ア(イ)の三菱重工からの会社分割により,被告

34
に 対する上記(1)及び(2)の損害賠償請求権(上記会社分割時までのもの)を

承継した。

(4) 原告は,本訴において,上記(1)の損害のうち500万円及び上記(2)の

損害のうち500万円(附帯請求として,上記各金額に対する訴状送達日の

翌日である平成23年7月9日から支払済みまで民法所定の年5分の割合に

よる遅延損害金)を請求する。

(被告の主張)

被告製品1及び2の売上高については否認し,その他の点については争う。

第4 当裁判所の判断

1 争点(1)(被告製品1が本件発明1の技術的範囲に属するか。)

(1) 「見本絵柄データ」(構成要件C〜F)の充足性(争点(1)ア前段)

ア 「見本絵柄データ」の意義

(ア) 本件発明1に係る特許請求の範囲の記載によれば,「見本絵柄デー

タ」(構成要件C〜F)とは,印刷機の印刷部で用紙に印刷された印刷

絵柄の見本となるデータであり(構成要件C),印刷欠陥検出手段及び

インキキー開度制御手段において,印刷絵柄データとの比較に用いるも

のである(構成要件E,F)と解される。

しかし,上記特許請求の範囲の記載からは,「見本絵柄データ」の具

体的内容は明らかではない。そこで,本件明細書1の記載を参酌する。

(イ) 本件明細書1には,次の記載がある。

a 【従来の技術】【0003】「…輪転印刷機で生産される印刷物の

品質管理装置としては,…版掛け誤り判別処理装置20,印刷欠陥検

査装置21,断裁見当制御装置22及び濃度制御装置23が知られて

いる。版掛け誤り判別処理装置20は,…バーコード5aをバーコー

ドリーダ(或いはカメラ)10で読み取ることで,正しく版5が装着

されているか判別するようになっている。」

35
b 【 0004】「印刷欠陥検査装置21は,…ラインセンサ11で印

刷絵柄2を読み取って,得られた印刷絵柄2の画像データと予め印刷

開始後に取込んだ印刷絵柄(正常な印刷絵柄の印刷物)の画像データ

とを所定のエリア毎に比較し,濃度差が所定の閾値を超えているエリ

アについては,印刷欠陥が有ると判断するようになっている。」

c 【0005】「断裁見当制御装置22は,…CCDカメラ12を用

いて用紙1の印刷絵柄領域2外の領域に印刷されたマーク(断裁見当

マーク)2aを撮影し…基準位置に対するずれを計測する。」

d 【0006】「濃度制御装置23は,…濃度制御用の濃度センサ1

1により印刷絵柄2を読み取り,得られた印刷絵柄2の濃度データと

予め読み取っておいたOKシートの濃度データとをインキキー7の幅

単位で比較し,その濃度差に応じて各インキキー7の開度を調整する

ようになっている。」

e 【0007】【発明が解決しようとする課題】「上記の品質管理

装置20,21,22,23は,…用紙1の走行経路に沿って複数

の入力装置10,11,12,13が設置されることになるため,

輪転印刷機内に多くの設置スペースが必要になってしまう。また,

各品質管理装置20,21,22,23は独立しており,且つそれ

ぞれに専用の表示器30,31,32,33を有しているために,

これらの品質管理装置20,21,22,23や表示器30,31,

32,33を設置するための多くの設置スペースも必要になってし

まう。さらに,このように多くの装置類が必要となるためにコスト

も高くなってしまう。」

f 【0008】「本発明は,このような課題に鑑み創案されたもので,

無駄の無い構成により省スペース且つ低コストで印刷物の品質管理で

きるようにした,印刷物の品質管理装置及び印刷機を提供することを

36
目 的とする。」

g 【0009】【課題を解決するための手段】「上記目的を達成する

ための手段として,本発明は,品質管理のためのデータ入力手段とし

てラインセンサを用い,このラインセンサで読み取った印刷絵柄デー

タを利用して各種の品質管理処理を行うことで,印刷物の品質管理に

かかる複数の機能を一つの装置に統合した。」

h 【0010】「…本発明の印刷物の品質管理装置は,…大きい値に

設定する(請求項1)。このような構成によれば,ラインセンサが読

み取った画像データを印刷欠陥の検出とインキキー開度の調整に有効

活用することができ,印刷欠陥の検出機能とインキキー開度の調整機

能(印刷物の濃度制御機能)とを一つの装置に統合して省スペース化

と低コスト化とを実現することができる。」

i 【0011】「上記の印刷物の品質管理装置は,…印刷絵柄データ

と…見本絵柄データとの比較を複数のエリアで行い,その全体的な一

致/不一致により版の掛け誤りを判別する版掛け誤り判別手段をさら

に備えることもできる(請求項2)。これにより,ラインセンサが読

み取った画像データを…版の掛け誤りの判別にも有効活用することが

でき,印刷欠陥の検出機能,インキキー開度の調整機能,及び版の掛

け誤り判別機能を一つの装置に統合してさらに省スペース化と低コス

ト化とを実現することができる。」

j 【0013】「上記の印刷物の品質管理装置が版掛け誤り判別手段

を備える場合,版掛け誤り判別手段による判別処理は次のような処理

方法が好ましい。すなわち,…印刷絵柄データの濃度ヒストグラムと

…見本絵柄データの濃度ヒストグラムとを印刷欠陥検出手段での比較

単位よりも広いエリア単位で比較して,…版の掛け誤りを判別する

(請求項3)。このように…処理を行うことで比較計算の計算量を少

37
な くすることができ,版掛け誤り判別機能の統合に伴う計算負荷を低

減することができる。」

k 【0014】「また,上記の印刷物の品質管理装置において,…ラ

インセンサを印刷部と断裁部との間に配置するとともに,印刷部から

断裁部までの用紙の走行長を調整する走行長調整手段と,走行長調整

手段を制御して上記走行長を修正する断裁見当制御手段とをさらに備

える。断裁見当制御手段は,ラインセンサの印刷絵柄データから印刷

絵柄の天地方向の境界位置と断裁基準位置とのずれを検出し,検出し

たずれを打ち消す方向に走行長調整手段を制御する(請求項4)。こ

れにより,ラインセンサが読み取った画像データを断裁見当の制御に

も有効活用することができ,断裁見当の制御機能も一つの装置に統合

してさらに省スペース化と低コスト化とを実現することができる。」

l 【0016】「なお,上記の印刷物の品質管理装置が断裁見当制御

手段を備える場合において,ラインセンサによる印刷絵柄の読み取り

は次のような方法で行うのが好ましい。すなわち,印刷絵柄の少なく

とも一方の天地方向の境界近傍は細かい分解能で読み取り,この境界

近傍を除く印刷絵柄上の領域は境界近傍よりも粗い分解能で読み取る

(請求項5)。…このように…読み取ることで解析に伴う計算量を少

なくすることができ,断裁見当制御機能の統合に伴う計算負荷を低減

することができる。」

(ウ) 本件明細書1の上記記載に照らすと,本件発明1は,従来技術にお

いては,版掛け誤り判別処理装置,印刷欠陥検査装置,断裁見当制御装

置及び濃度制御装置のそれぞれについて,@各装置の入力装置が用紙の

走行経路に沿って複数設置され,A各装置の品質管理装置がそれぞれ独

立しており,そのため各装置の品質管理装置毎に表示器が設けられ,多

くの設置スペースが必要となり,コストも高くなってしまうということ

38
を 解決課題としたものである(【0007】)。

上記解決課題を解決するためには,入力装置と品質管理装置の両面に

わたって,スペースの削減を図る必要があることになる。

本件発明1は,このうち,印刷絵柄データ入力装置の改善について,

各装置の印刷絵柄データ入力手段を統合したものとしてラインセンサを

用い,各装置が共通してこのライセンサによって読み取られたデータを

使用することとした(【0009】),すなわち,印刷絵柄データ入力

手段を一体化したものである。

他方,品質管理装置の一体化については,明確な記載はないものの,

「印刷物の品質管理にかかる複数の機能を一つの装置に統合した」

(【0009】),「印刷欠陥の検出機能とインキキー開度の調整機能

(印刷物の濃度制御機能)とを一つの装置に統合して省スペース化と低

コスト化とを実現することができる。」(【0010】),「印刷欠陥

の検出機能,インキキー開度の調整機能,及び版の掛け誤り判別機能を

一つの装置に統合してさらに省スペース化と低コスト化とを実現するこ

とができる。」(【0011】),「断裁見当の制御機能も一つの装置

に統合してさらに省スペース化と低コスト化とを実現することができ

る。」(【0014】)との記載のほか,実施例に関する「本実施形態

にかかる印刷物の(品)質管理装置は,本体である一体化品質管理装置

40にラインセンサ50と表示器60とが組み合わせられている。」

(【0022】),「一つの一体化品質管理装置40内に全ての機能

(掛け誤り判別,断裁見当制御,インキキー開度制御及び印刷欠陥検

出)が集約されているので,一体化品質管理装置40と表示器60を一

つずつ備えるだけで従来通りの品質管理を行うことができる。」(【0

034】),「一体化品質管理装置40は,上記全ての機能を集約して

備えることが必須ではなく,要求される品質管理項目に応じて必要な機

39
能 のみを備えることは勿論可能である。」(【0036】)との記載も

参酌すれば,備えられるべき品質管理装置については,各装置が一体化

されることが前提となっているものと解される。このように品質管理装

置を一体化することにより,表示器も一本化されることになる(【00

34】参照)。

(エ) 上記のとおり,本件発明1は,印刷絵柄データの入力手段を一体化

するとともに,品質管理装置(それに伴う表示器)も一体化する発明で

あると認められるが,このような装置面での一体化に加えて,取得され

る見本絵柄データについても一本化(被告のいう単一化)したものであ

るかについて,次に検討する。

a 本件明細書1には,次の記載がある。

「本発明は,品質管理のためのデータ入力手段としてラインセンサ

を用い,このラインセンサで読み取った印刷絵柄データを利用して各

種の品質管理処理を行うことで,印刷物の品質管理にかかる複数の機

能を一つの装置に統合した。」(【0009】)

「なお,上記の印刷物の品質管理装置において,データ取得手段に

よる見本絵柄データの取得方法は以下の何れかの方法が好ましい。一

つは,印刷部で用いられる版を作製した製版システムから,版の作製

に用いられた版作製用の画像データを見本絵柄データとして取得する

方法である(請求項6)。もう一つは,所望の印刷品質を備えた見本

印刷物をラインセンサにより読み取ることで見本絵柄データを取得す

る方法である(請求項7)。」(【0020】)

「見本絵柄データ記憶部402は,製版システム70から取得した

見本絵柄データを記憶する部位である。製版システム70から見本絵

柄データ記憶部402への見本絵柄データの入力は,通信ネットワー

クを介したオンライン入力でもよく,磁気ディスク等の記録媒体を介

40
し たオフライン入力でもよい。なお,ラインセンサ50では一般にス

ペクトル値が計測される一方,見本絵柄データのデータ形式としては,

各色(C,M,Y,K)の網点面積率や濃度や色座標値(L,a,

b)が用いられる。一体化品質管理装置40には,これらスペクトル

値,網点面積率,濃度及び色座標値を互いに関連づけるテーブル(図
マ マ
示略)が予め容易 されており,印刷絵柄データと見本絵柄データは,
それぞれ同内容のデータ,ここでは濃度に変換された上でそれぞれの

記憶部401,402に記憶される。」(【0025】)

b 上記【0020】の記載は,請求項6が製版システムから見本絵柄

データを取得する場合であり,請求項7が見本印刷物をライセンサで

読み取ることにより見本絵柄データを取得する場合であって,両請求

項について,いずれも単一の見本絵柄データを取得する方法を記載す

る方法として説明されているようにも見える。

そこで,上記各請求項の記載を見てみると,本件明細書1の【請求

項6】の記載は,「上記データ取得手段は,印刷部で用いられる版を

作製した製版システムから,上記版の作製に用いられた見本絵柄のデ

ータを取得することを特徴とする,請求項1〜5の何れか1項に記載

の印刷物の品質管理装置」というものであり,また,【請求項7】の

記載は,「上記データ取得手段は,所望の印刷品質を備えた見本印刷

物を上記ラインセンサにより読み取ることで上記見本絵柄データを取

得することを特徴とする,請求項1〜6の何れか1項に記載の印刷物

の品質管理装置」というものである。

ここでの【請求項7】の記載は,【請求項6】を引用する部分を含

むものであるから,その場合には,請求項6の製版システムから見本

絵柄データを取得する方法と見本印刷物から見本絵柄データを取得す

る方法が併用されることになる。

41
そ こで,前記の発明の詳細な説明の【0020】の記載に基づいて

請求項7が請求項6を引用する部分を除外して限定的に解釈すべきか,

ひいては,主たる請求項に記載された本件発明1がデータの取得方法

を併用する形態を否定しているものかが問題となる。

c そこで,まず,本件発明の解決課題との関係で上記限定解釈が導か

れるかについて考えてみると,前記のとおり,本件発明1は,印刷物

の状態に関するデータの入力装置及び表示装置を含む品質管理装置を

機能毎に各別に設けることにより,装置類が物理的に増加し,設置ス

ペースやコストの増加につながることを従来技術における問題とし,

入力装置をラインセンサのみとし,品質管理装置も統合することによ

り,上記課題を解決しようとするものであるということができる。し

たがって,本件発明1は,見本絵柄データの取得手段に起因する設置

スペースやコストの問題を解決すべき課題とするものではなく,また,

従来技術における上記課題を解決するための手段として,見本絵柄デ

ータの入力手段に関し言及するものでもない。

見本絵柄データの取得手段を各種品質管理機能において使い分けた

場合に,本件発明1における,品質管理装置を一つに統合し,省スペ

ースかつ低コストの品質管理装置を提供するという上記作用効果が阻

害されるものであれば,そのような構成は,本件発明1において予定

されていない構成であるとみるべきことになる。しかし,本件明細書

1において,見本絵柄データとして製版データを用いる場合のデータ

取得手段は,「通信ネットワークを介したオンライン入力でもよく,

磁気ディスク等の記録媒体を介したオフライン入力でもよい。」

(【0025】)とされているのであって,設置スペースやコストの

増加につながるような装置を必要とするものではない。また,見本印

刷物データを用いる場合のデータ取得手段は,ラインセンサからの読

42
み 取りによるものとされる(【0038】)のであって,ラインセン

サを,印刷絵柄データ及び見本印刷物データの取得装置として併用す

るものであり,新たな装置を必要とするものではない。したがって,

これらの取得手段を併用したとしても,装置が物理的に増加し,設置

スペースやコストの増加をもたらすものではないと解されるから,本

件発明1に係る作用効果を阻害することはない。

したがって,本件発明の解決課題との関係で限定解釈が導かれるも

のではない。

d 次に,本件明細書1の他の記載について見る。

本件明細書1の【発明の実施の形態】には,製版データを見本絵柄

データとして取得する例が記載された上で(【0022】〜【003

5】),「上述の実施形態では,製版システムから版作成用の画像デ

ータを見本絵柄データとして取得しているが,所望の印刷品質を備え

た見本印刷物(いわゆるOKシート)をラインセンサ50で読み取る

ことで見本絵柄データを取得することも可能である。」(【003

8】)との記載がされている。

したがって,本件明細書1において,製版システムから取得された

データ(製版データ)又は所望の印刷品質を備えた見本印刷物をライ

ンセンサで読み取ったデータ(見本印刷物データ)を取得し,「見本

絵柄データ」とすることが開示されているものということができ,少

なくとも製版データ及び見本印刷物データは,本件発明1の「見本絵

柄データ」(構成要件C〜F)として予定されているものであるとい

うことができる(なお,この点については,当事者間に争いがな

い。)。

また,製版データを見本絵柄データとして使用する実施例の記載

(【0022】〜【0035】)の後に,「なお,上述の実施形態で

43
は ,製版システムから版作成用の画像データを見本絵柄データとして

取得しているが,所望の印刷品質を備えた見本印刷物(いわゆるOK

シート)をラインセンサ50で読み取ることで見本絵柄データを取得

することも可能である。」(【0038】)との記載がされている点

については,製版データと見本絵柄データを併用する構成を排除する

趣旨のものとまでは解されない。

これらの点のほかに,本件明細書1に,上記データを併用する構成

を排除するものとみるべきような記載は見いだせない。

e 以上に基づき,本件明細書1の【0020】欄の記載に基づいて請

求項7を限定解釈するべきかを検討すると,同欄の記載においては,

製版データを見本絵柄データとして取得する方法と,見本印刷物デー

タを見本絵柄データとして取得する方法は,いずれも,見本絵柄デー

タの取得方法として「好ましい」ものとして挙げられているものにす

ぎず,本件明細書1の上記記載が,「見本絵柄データ」として,製版

データ又は見本絵柄データのいずれか一方のみを用いる構成に限定す

る趣旨までも含むものであるとは解されない。また,同欄の「所望の

印刷品質を備えた見本印刷物をラインセンサにより読み取ることで見

本絵柄データを取得する方法である(請求項7)。」との記載につい

ては,請求項7記載の発明が,請求項6を引用する場合を除き,見本

印刷物データのみを見本絵柄データとする構成を示すものであり,上

記記載は,このような場合における構成を示したものにすぎないもの

と解されるのであって,請求項7が請求項6を引用する場合を排除す

る趣旨の記載であるとまでは解されない。

f 以上によれば,本件明細書1の請求項7記載の発明は,「(見本印

刷物データを見本絵柄データとして取得する)請求項1〜6の何れか

1項に記載の印刷物の品質管理装置」というものであり,請求項6記

44
載 の発明は,「(製版データを見本絵柄データとして取得する)請求

項1〜5のいずれか1項に記載の印刷物の品質管理装置」というもの

であるから,本件明細書1の請求項7には,請求項6を引用する発明

として,製版データを取得する手段と見本印刷物を取得するデータの

両方を見本絵柄データの取得手段として併用する構成が記載されてい

るものと解される。請求項2ないし5は,いずれも本件発明1である

請求項1に従属するものであるところ,本件発明1は,見本絵柄デー

タを,印刷欠陥検出手段及びインキキー開度制御手段に用いるもので

あるから(構成要件E及びF),本件発明1において,見本絵柄デー

タの取得方法として,製版データ及び見本印刷物データを併用する構

成とは,製版データと見本印刷物データを,印刷欠陥検出手段及びイ

ンキキー開度制御手段における「見本絵柄データ」としてそれぞれ用

いる構成を意味するものと解することになる。したがって,本件明細

書1において,本件発明1は,このような発明を含むものとして記載

されているものと解するのが相当である。

(オ) この点に関し,被告は,製版データと見本印刷物データを,印刷欠

陥検出手段とインキキー開度制御手段において,「見本絵柄データ」と

してそれぞれ用いる構成は,@本件明細書1の記載に反するものであり,

また,A本件発明1の技術的意義にも反するものであるから,請求項7

はサポート要件に反するものであり,同記載を参酌して「見本絵柄デー

タ」の意義を解釈するのは相当ではなく,また,B本件発明1が構成要

件Gを含むものである以上,上記構成は採り得ず,かつ,C上記構成は,

本件発明1の出願経過において原告により除外されたものであると主張

する。このうち,@,Aについては,前記のとおりであるから,以下で

は,B構成要件Gとの関係及びC出願経過に関する点について検討する。

a(a) まず,B構成要件Gとの関係についてみると,被告は,この点

45
に ついて,本件発明1において,印刷欠陥検出手段において用いら

れる「所定の閾値」を,インキキー開度制御手段においてインキキ

ー開度制御が行われる「濃度差或いは濃度に相関するパラメータ値

の差の範囲」(「濃度差等の範囲」)よりも大きい値に設定するこ

とが必須である(構成要件G)ところ,そのためには,前提として,

両処理において同じ内容の比較が行われること,すなわち,両処理

において用いられる印刷絵柄データと見本絵柄データが同一のもの

であることが必要であると主張する。そして,(i)データ形式におい

て異なるものである製版データと見本印刷物データとを印刷欠陥検

出手段とインキキー開度制御手段にそれぞれ用いると,両処理にお

ける比較結果に大小関係を設定することができず,また,(ii) 見本

印刷物データは,製版データと比較して品質の劣るデータであるか

ら,これらを印刷欠陥検出手段及びインキキー開度制御手段にそれ

ぞれ用いた場合,両手段において同一の内容の比較が行われている

と評価することができないと主張する。

(b) 上記(i)について

確かに,本件明細書1には,「ラインセンサ50では一般にスペ

クトル値が計測される一方,見本絵柄データのデータ形式としては,

各色(C,M,Y,K)の網点面積率や…色座標値(L,a,b)

が用いられる。」(【0025】),「…見本印刷物(いわゆるO

Kシート)を…読み取ることで見本絵柄データを取得することも可

能である。この場合は見本絵柄データも印刷絵柄データと同じくス

ペクトル値となるので…」(【0038】)との記載があり,製版

データと見本印刷物データがデータ形式において異なるものである

ことが予定されているものと解することができる。

しかし,本件明細書1には,「…一体化品質管理装置40には,

46
こ れらスペクトル値,網点面積率,濃度及び色座標値を互いに関連
マ マ
づけるテーブル…が予め容易 されており,印刷絵柄データと見本絵
柄データは,それぞれ同内容のデータ,ここでは濃度に変換された

上でそれぞれの記憶部401,402に記憶される。」(【002

5】)と記載されているのであって,印刷絵柄データ及び見本絵柄

データのデータ形式を変換することが可能であることが記載されて

いる も のと い うこ と がで き る 。 ま た, 本 件明 細 書1 は ,請 求 項 1

(本件発明1)において,見本絵柄データと印刷絵柄データを「濃

度」又は「濃度に相関するパラメータ値」により比較して印刷欠陥

検出及びインキキー開度制御を行う旨記載しているところ,請求項

3(請求項2を引用するものであり,請求項2は請求項1を引用す

るものである。)においては,見本絵柄データと印刷絵柄データを

「濃度ヒストグラム」により比較して版掛け誤り判別を行う旨が記

載されているのであって,見本絵柄データ及び印刷絵柄データを,

各制御に適したデータ形式に変換して制御を行うことが,むしろ予

定されているものということができる。

そうすると,本件発明1が,構成要件Gとの関係で,印刷欠陥検

出手段とインキキー開度制御手段において,同じ比較単位による比

較がされていることを必要とするものであるとしても(なお,この

点については,構成要件Gの解釈において検討する。),データ形

式の変換により,両手段におけるデータ形式を同一のものとし,両

手段における比較単位を同じものとすることは可能であり,かつ,

データ形式の変換を行うこと自体は,本件明細書1においても予定

されているものと解されるのであるから,印刷欠陥検出手段とイン

キキー開度制御手段において用いられる見本絵柄データが,当初か

らデータ形式において同一のものであることを要するものではない。

47
(c) 上記(ii)について

見本印刷物データは,「所望の印刷品質を備えた見本印刷物」を

読み取ることで取得されたデータであるから(【請求項7】),そ

の品質において製版データとほぼ同一のものであると解されるので

あって,被告の主張はその前提を欠くものというべきである。

b また,C出願経過に関する点についてみると,原告は,本件特許1

出願経過において,特許庁審査官による拒絶理由通知(乙12)を

受けて,平成18年2月6日付け手続補正書において,請求項の一部

について削除し,また,請求項1に関し,本件発明1の構成要件Gに

相当する部分を追加するなどの補正を行い,これと同日付けで,意見

書(乙5)を提出していることが認められる(乙5,11,12)。

しかし,上記補正の内容や,上記意見書の内容を見ても,「見本絵柄

データ」として製版データと見本印刷物データを併用する構成を排除

したものとみるべきような記載は見いだせない。

c したがって,被告の主張はいずれも相当ではなく,構成要件Gとの

関係で「見本絵柄データ」を限定解釈することはできない。

(カ) 以上によれば,製版データ及び見本印刷物データを,印刷欠陥検出

手段及びインキキー開度制御手段における「見本絵柄データ」としてそ

れぞれ用いる構成であっても,「見本絵柄データ」(C〜F)を充足す

るものと解するのが相当である。

イ 被告製品1の「見本絵柄データ」(構成要件C〜F)の充足性

別紙「被告製品1の構成」記載のとおり,被告製品1は,紙面監視手段

において,良紙時点でティーチング(基準値取り込み)をして取得したR

GB基準データを印刷絵柄の見本として用いるものであるから(構成e),

本件明細書1における見本印刷物データを紙面監視手段における見本絵柄

データとして使用するものである。また,被告製品1は,濃度判定手段に

48
お いて,製版システムから取得したCMYK目標濃度データを印刷絵柄の

見本として用いるものであるから(構成f),本件明細書1における製版

データを濃度判定手段における見本絵柄データとして使用するものである。

したがって,RGB基準データとCMYK目標濃度データは,いずれも

「見本絵柄データ」(構成要件C〜F)を充足する。

(2) 構成要件C,D充足性

RGB基準データ及びCMYK目標濃度データがいずれも「見本絵柄デー

タ」に相当することは前記(1)イのとおりであるところ,被告製品1は,こ

れらを各取得する手段と(構成c),各記憶するメモリ(紙面監視用データ

用メモリ及び濃度制御用データ用メモリ。構成d)を備えるのであるから,

構成要件C及びDを充足する。

(3) 構成要件E充足性

ア 証拠(甲9,10)及び弁論の全趣旨によれば,被告製品1の紙面監視

手段(構成e)は,具体的には,@読取センサにより,用紙に印刷される

絵柄につき,一定の画素単位で,R,G,Bがそれぞれ0〜200の範囲

のどの段階にあるかを測定・変換し,Aこのうち,良紙時点においてティ

ーチング(基準値取り込み)したもの(RGB基準データ)を紙面監視用

データ用メモリに記憶し,また,B印刷される用紙から順次読み取ったも

の(印刷絵柄データ)をRGBデータ用メモリに記憶した上で,C印刷絵

柄データのスペクトル値(R,G,Bを0ないし200の間で読み取った

数値)とRGB基準データのスペクトル値(同)を,読取センサの画素単

位でR,G,Bそれぞれについて比較し,その差分を上記画素毎に計算し

た上で,D上記差分が不良紙判定用閾値を超える場合には,不良紙と判定

するものであると認められる。

イ 被告製品1の「RGB基準データ」,「紙面監視用データ用メモリ」,

「印刷絵柄データ」,「RGBデータ用メモリ」が,構成要件Eの「見本

49
絵 柄データ」「見本絵柄データ記憶部」,「印刷絵柄データ」,「印刷絵

柄データ記憶部」に各相当することは前述のとおりである。また,被告製

品1における比較及び差分の計算は,「画素或いは所定画素数のブロック

単位で」行われているものであると認められる。さらに,「濃度に相関す

るパラメータ値」とは,スペクトル値,網点面積率,色座標値等を指すも

のと解されるところ(【0025】),被告製品1の紙面監視手段におい

てその差を算出する「スペクトル値」は,「濃度に相関するパラメータ

値」に相当し,「不良紙判定用閾値」は「所定の閾値」に相当する。

ウ 以上によれば,被告製品1の構成eは,構成要件Eを充足する。

(4) 構成要件F充足性(争点(1)イ)

ア 証拠(甲9,10)及び弁論の全趣旨によれば,被告製品1の濃度判定

手段(構成f)は,@RGBデータ用メモリが記憶した印刷絵柄データを

RGBデータからCMYK濃度データ(面積率)に変換してCMYK濃度

データ(面積率)メモリに記憶し,A画像サーバーが,製版データをもと

に計算によって予め制御に適した領域(印刷用紙を,紙面進行方向7.2

8mm×その垂直方向12.7mmに分割したもの)を選び出した上で,

Bこの領域毎に,上記のとおりCMYK濃度データ(面積率)に変換済み

の印刷絵柄データと,濃度制御用データ用メモリに記憶されているCMY

K目標濃度データを比較し,C,M,Y,Kそれぞれについて網点面積率

の差分を計算した上で,C特定のインキキーの幅に属する上記各領域にお

ける差分の平均を,インキ制御用閾値と比較することにより,インキキー

の開度制御を行うものであると認められる。

イ 被告製品1の「印刷絵柄データ」,「CMYK濃度データ(面積率)メ

モリ」,「CMYK目標濃度データ」,「濃度制御用データ用メモリ」が,

構成要件Fの「印刷絵柄データ」,「印刷絵柄データ記憶部」,「見本絵

柄データ」,「見本絵柄データ記憶部」に各相当することは前述のとおり

50
で ある。また,被告製品1の濃度判定手段においてその差が算出される

「網点面積率」は,「濃度に相関するパラメータ値」に相当する。

ウ(ア) 被告は,被告製品1の濃度判定手段が,上記のとおり,紙面から選

び出された複数の領域において印刷絵柄データとCMYK目標濃度デー

タとの比較を行い,差分を計算するものであることから,「インキキー

の幅単位で」印刷絵柄データと見本絵柄データとの比較を行い,濃度差

等を計算するものではなく,構成要件Fを充足しないと主張する。

(イ) しかし,構成要件Fが,印刷絵柄データと見本絵柄データを「イン

キキーの幅単位で」比較し,「インキキーの幅毎に」濃度差等を計算す

るものとしているのは,インキ供給量がインキキーの開度によって調整

されるものであり,インキキーの幅単位でしか,インキ供給量(濃度)

を調整できないものであることから(【0006】,【0031】),

濃度の制御をするためには,インキキーの幅における濃度差が,全体と

してどのようなレベルにあるのか(見本絵柄データと比較して,印刷絵

柄データが薄いのか,濃いのか,その差はどの程度か)を把握する必要

があるためであると解される。そうすると,構成要件Fを充足するため

には,印刷絵柄データと見本絵柄データの濃度差が,最終的にインキキ

ーの幅毎に計算されていると評価できれば足りると解するのが相当であ

る。

(ウ) 上記アのとおり,被告製品1は,紙面から複数の領域を選び出して

印刷絵柄データとCMYK目標濃度データとの比較を行い,C,M,Y,

Kの各差分を計算するものであるが,上記のとおり計算した差分を,イ

ンキキーの幅毎に集計し,インキキーの幅における上記差分の平均値を

算出するものであるから,インキキーの幅毎に,印刷絵柄データとCM

YK目標濃度データの濃度差等が計算されていると評価することができ

る。

51
な お,上記のとおり,被告製品1は,紙面から複数の領域を選び出し

て,当該領域についてのみ,印刷絵柄データとCMYK目標濃度データ

の差分を算出するものである。しかし,構成要件Fは,上記ウ(イ)のと

おり,インキキーの幅における濃度差が,全体としてどのようなレベル

にあるのかを把握し,上記濃度差に応じてインキキーの開度を制御する

ことにより,濃度制御を行うというものであって,印刷絵柄データと見

本絵柄データとの比較及び濃度差等の計算は,上記濃度差の把握に必要

な程度でされていれば足り,インキキーの幅に属する紙面全体について

比較及び濃度差等の計算をすることは必ずしも必要ではないものと解さ

れる。そして,被告製品1の濃度判定手段(構成f)は,上記アのとお

り,制御に適した領域を選び出し,比較及び差分の計算をすることで,

濃度制御を行うというものであるから,上記領域における比較及び差分

の計算は,上記程度の濃度差の把握に十分なものであると評価すること

ができる。

(エ) 以上によれば,被告製品1の構成fは,構成要件Fを充足する。

(5) 構成要件G充足性(争点(1)ア後段)

構成要件Gの意義について

(ア) 構成要件Gは,印刷欠陥検出手段において,見本絵柄データと印刷

絵柄データの比較により,濃度差或いは濃度に相関するパラメータ値の

差(「濃度差等」)を計算し,上記濃度差等と「所定の閾値」との比較

により印刷欠陥を検出し(構成要件E),また,インキキー開度制御手

段において,見本絵柄データと印刷絵柄データとの比較により,濃度差

等を計算し,上記濃度差等の大きさに応じて,インキキー開度制御を行

うところ(構成要件F),印刷欠陥検出手段における上記「所定の閾

値」を,「濃度制御において用いる上記の濃度差或いは濃度に相関する

パラメータ値の差の範囲」(以下「濃度差等の範囲」という。)よりも

52
大 きい値に設定することを記載したものである。

(イ) このうち,「濃度制御において用いる濃度差等の範囲」の意義につ

いては,構成要件Fにおいて対応する記載がなく,その意義が明確では

ない。

そこで,本件明細書1の記載を参酌すると,本件明細書1には,「印

刷欠陥とは,…通常の濃度調整では対処できない異常を指している。」

(【0004】),「インキキー開度の変化に伴うインキ供給量の変化

が,印刷絵柄2と見本絵柄との濃度差を解消する方向にインキキー7を

作動させる」(【0031】),「印刷欠陥検出部410は,画素別濃

度比較部409で計算された濃度差を所定の閾値と比較する。ここでは,

インキが付くべきところにインキが付いていない場合や,インキが付き

すぎて絵柄が潰れてしまっている場合のように印刷濃度に異常が生じる

欠陥を検出するため,上記の閾値は,インキキー幅別濃度比較部407

及びインキキー開度制御部408による濃度制御において通常生じる濃

度差の範囲よりも,格段に大きい値に設定されている。…」(【003

3】)との記載がある。

本件明細書1の上記記載に照らすと,本件発明1において,インキキ

ー開度制御は,インキキーの開度の大小によって通常生じ得る濃度差の

範囲において,上記濃度差を解消するようインキキー開度を調整するも

のであり,このような通常の濃度調整では対処できないような,大きな

濃度差が存在する場合は,濃度調整によるのではなく,印刷欠陥がある

ものと判定することが予定されているものと解することができる。そう

すると,「濃度制御において用いる濃度差等の範囲」とは,インキキー

開度制御が,同制御により対処可能な程度の一定の濃度差等の範囲での

み行われるものであることを前提として,インキキー開度制御を行う濃

度差等の範囲,すなわちインキキー開度制御を行う濃度差等の差分の範

53
囲 の上限値を意味するものとして記載されているものと解するのが相当

である。

(ウ) なお,「濃度差等」(濃度又は濃度に相関するパラメータ値の差の

範囲)として,具体的には,濃度,スペクトル値,網点面積率,色座標

値等が想定されることは前記(3)イのとおりである。「所定の閾値」と

は,印刷欠陥検出手段において,印刷絵柄データと見本絵柄データとの

間の濃度差等につき,当該数値を超えた場合に印刷欠陥を検出するもの

として設定されるものであり,「濃度差等の範囲」とは,インキキー開

度制御を行う濃度差等の差分の範囲の上限値を意味するものと解される

のであるから,「所定の閾値」及び「濃度差等の範囲」は,印刷欠陥検

出手段及びインキキー開度制御手段において各用いられる「濃度差」又

は「濃度に相関するパラメータ値」のデータ形式(濃度,スペクトル値,

網点面積率,色座標値等)に応じて,これに対応する単位によってそれ

ぞれ設定されるものと解される。

(エ) 以上を前提に,構成要件Gの意義について検討するに,原告は,構

成要件Gは,「所定の閾値」が,「濃度差等の範囲」よりも客観的にみ

て大きいものであるという両者の関係を明示した点に意義があるもので

あるから,構成要件Gを充足するためには,「所定の閾値」と,「濃度

差等の範囲」が単位において異なるものであったとしても,両者を同一

の単位に換算して比較した結果,前者が後者より大きい値になっていれ

ば足り,両者の単位が同一であることや,上記大小関係が予め意識的に

設定されているものであることを要しないと主張する。

(オ) そこで検討するに,本件明細書1には,「このような構成によれば,

ラインセンサが読み取った画像データを印刷欠陥の検出とインキキー開

度の調整に有効活用することができ,印刷欠陥の検出機能とインキキー

開度の調整機能(印刷物の濃度制御機能)とを一つの装置に統合して省

54
スペース化と低コスト化とを実現することができる。」(【001

0】)との記載がある。

この記載から見れば,「所定の閾値」と「濃度差等の範囲」は,印刷

欠陥の検出とインキキー開度の調整に用いられるのであるから,印刷欠

陥の検出やインキキー開度の調整のために,その大小関係が予め意識的

に設定されているものと解される。

また,【発明の実施の形態】を見ると,「…ラインセンサ50では一

般にスペクトル値が計測される一方,見本絵柄データのデータ形式とし

ては,各色(C,M,Y,K)の網点面積率や濃度や色座標値(L,a,

b)が用いられる。一体化品質管理装置40には,これらスペクトル値,

網点面積率,濃度及び色座標値を互いに関連づけるテーブル…が予め
マ マ
容易 されており,印刷絵柄データと見本絵柄データは,それぞれ同内容
のデータ,ここでは濃度に変換された上でそれぞれの記憶部401,4

02に記憶される。」(【0025】)との記載があり,見本絵柄デー

タ及び印刷絵柄データが,同内容の濃度又は濃度に相関するパラメータ

値(スペクトル値,網点面積率又は色座標値等)に変換された上で記憶

部に記憶されることが記載されている。本件明細書1には,上記記載に

引き続き,上記のとおり変換された印刷絵柄データ及び見本絵柄データ

を印刷欠陥検出手段及びインキキー開度制御手段の双方に用いることが

記載されており(【0030】,【0032】),さらに,「印刷欠陥

検出部410は,画素別濃度比較部409で計算された濃度差を所定の

閾値と比較する。ここでは,インキが付くべきところにインキが付いて

いない場合や,インキが付きすぎて絵柄が潰れてしまっている場合のよ

うに印刷濃度に異常が生じる欠陥を検出するため,上記の閾値は,イン

キキー幅別濃度比較部407及びインキキー開度制御部408による濃

度制御において通常生じる濃度差の範囲よりも,格段に大きい値に設定

55
さ れている。…」(【0033】)との記載がされているのであるから,

印刷欠陥検出手段及びインキキー開度制御手段においてそれぞれ比較に

用いられる「濃度差」又は「濃度に相関するパラメータ値」は,両手段

において同一のものであり,印刷欠陥検出手段及びインキキー開度制御

手段における「所定の閾値」と「濃度差等の範囲」も,同一の単位によ

って設定されるものであって,所定の閾値を濃度差等の範囲よりも「大

きい値に設定」するとは,前者を後者よりも数字として大きい値に設定

することを意味するものと解するのが合理的であり,上記解釈が,構成

要件EないしG全体の解釈としても自然なものであるということができ

る。

なお,上記解釈は,本件発明1が,所定の閾値が濃度差等よりも大き

い「値」に設定する旨記載するものであり,両者の数値自体の大小関係

を問題とするものと解されることとも整合するものというべきである。

(カ) また,構成要件Gの技術的意義に鑑みても,所定の閾値を濃度差の

範囲よりも「大きい値に設定した」とは,両者が同一の単位によって設

定されるものであることを前提に,前者を後者よりも数値として大きい

値に積極的に設定することを意味すると解するのが相当である。

すなわち,本件発明1は,前記のとおり,省スペース及び省コストの

実現を課題とし,印刷物の状態に関するデータの入力手段をラインセン

サに統一し,印刷欠陥検出機能とインキキー開度制御機能を一つの装置

に統合することを目的とするものであり,上記場合における品質管理の

具体的方法について開示したものと解される。加えて,原告が,本件特

許1の出願経過において,特許庁審査官による拒絶理由通知(乙12)

を受けて,上記拒絶理由解消のため,平成18年2月6日付け補正書と

ともに提出した意見書(乙5)において,「…本願発明(請求項1)の

印刷物の品質管理装置及び本願発明(請求項8)の印刷機によれば,印

56
刷 欠陥検出手段410及びインキキー開度制御手段408が印刷絵柄デ

ータ記憶部401が記憶した印刷絵柄データと見本絵柄データ記憶部が

記憶した見本絵柄データ40とを比較する際に,印刷欠陥検出手段41

0が用いる所定の閾値を,インキキー開度制御手段408による濃度制

御(インキキー開度制御)において用いる差の範囲よりも大きい値に設

定するので,本来,専ら印刷物の濃度制御にのみ用いられるラインセン

サ50で読み取った情報をインキキー開度の調整に加えて,インキが付

くべきところにインキが付いていない場合や,インキが付きすぎて絵柄

が潰れてしまっている場合のような印刷欠陥の検出にも有効に活用する

ことができ,印刷欠陥の検出機能とインキキー開度の調整機能(印刷物

の濃度制御機能)とを一つの装置に統合して省スペース化と低コスト化

とを実現することができる。」(3頁8行目〜18行目),「引用文献

1〜5のいずれにも,本願発明(請求項1)のごとく印刷欠陥検出手段

410とインキキー開度制御手段408とにおいて,それぞれ同じライ

ンセンサ50で読み取った印刷絵柄データと見本絵柄データとを比較し

て印刷物の濃度制御及び印刷欠陥の検出を行う構成について記載や示唆

はなく,さらにこのとき,印刷欠陥検出手段410が用いる所定の閾値

を,インキキー開度制御手段408による濃度制御(インキキー開度制

御)において用いる差の範囲よりも大きい値に設定する構成についての

記載や示唆は見られない。」(3頁46行目〜4頁2行目)と記載して

いることに鑑みれば,構成要件Gに記載された構成は,一つのラインセ

ンサで読み取った印刷絵柄データを印刷欠陥検出とインキキー開度制御

の双方に用いることを可能とする具体的方法として記載されているもの

であることが明らかというべきである。

しかるに,本件発明1は,前記(5)ア(イ)のとおり,見本絵柄データ

と印刷絵柄データの濃度差等が,インキキー開度の調整によって対処可

57
能 な一定の範囲内にある場合に,インキキー開度制御による濃度調整を

行うものであり,上記濃度差等が,上記濃度調整によって対処可能な範

囲を超えるほどに大きい場合に,印刷欠陥を検出するものであると解さ

れるのであるから,印刷欠陥を検出するための「所定の閾値」が,濃度

調整を行う範囲である「濃度差等の範囲」よりも客観的にみて大きいも

のであることは自明の事項であるというべきである。にもかかわらず,

構成要件Gを,「所定の閾値」と「濃度差等の範囲」が,それぞれ異な

る単位により,相互に無関係に設定されている場合でも,両者を同一の

単位に換算した結果,前者が後者よりも大きい数値となっていることで

足りるものと解釈するとすれば,構成要件Gは,当然の事項を確認的に

記載したのみということになり,一つのラインセンサから入力した情報

を印刷欠陥検出及びインキキー開度制御の双方に用いる具体的構成を何

ら開示したことにならない。

そうすると,構成要件Gを,単に上記のような自明の事項を確認的に

記載したものと解することは相当ではなく,構成要件Gは,印刷欠陥検

出及びインキキー開度制御を同一の比較単位(濃度又は濃度に相関する

パラメータ値)で行うことを前提として,同一の単位によって設定され

る「所定の閾値」と「濃度差等の範囲」に関し,前者が後者より大きい

数値に積極的に設定されていることを意味するものと解するのが相当で

ある。

(キ) さらに,従来技術との関係をみても,構成要件Gは,単に「所定の

閾値」が「濃度差等の範囲」よりも結果的に大きいものであることでは

足りず,その単位が同一であり,大小関係が積極的に設定されているも

のであることを要するものと解するべきである。

すなわち,@乙10文献に記載されている印刷検査装置は,印刷胴の

後に配置した撮像機が撮影する画像に基づき,印刷紙面の印刷画線濃度

58
を 測定した上で,原画情報から測定した画線濃度と比較するものである

ところ(【請求項1】,【請求項10】,【0032】等),「コラム

毎に撮像機による印刷画線の濃度レベルをフィルムスキャナによる画線

面積や必要インキ量と比較し,この比較結果が許容指定値範囲内にあれ

ば,印刷濃度が適正であると判断する。また,許容指定値範囲内になけ

れば,印刷濃度が不適正であると判断する。そして,不良印刷紙として

排出したり,インキポンプ送出し量や湿し水送出し量を調整する。」

(【0048】)との記載に照らし,上記印刷検査装置は,許容指定値

(所定の閾値)との比較により,上記のとおり,印刷濃度の適正・不適

正(印刷欠陥の有無)を判断するものであると解される。また,A乙1

0文献には,上記印刷検査装置において,上記撮像機から得られる映像

信号から,1紙面当たり3つ以上の印刷単位領域毎に画線濃度を測定し,

原画情報から得られる必要インキ量に関する情報と比較して,上記印刷

単位領域毎の比較結果のばらつきが大きいときには,インキ送り量等を

調整することも記載されている(【請求項14】,【0033】)。そ

して,乙10文献には,上記Aのインキ送り量調整処理に関し,「印刷

紙面の各コラムの印刷濃度が適性範囲内にあっても,印刷紙面全体とし

て,コラム間の濃度ばらつきが許容できない程になる場合がある」ため,

「このような状態を防止するために,コラム間の濃度ばらつきを小さく

するように制御する」(【0052】)ものである旨記載されているの

であるから,乙10文献記載の上記@の処理における許容指定値(印刷

濃度が適正であるか否かを判断するもの)は,乙10文献記載のインキ

送り量調整処理を行う範囲(印刷濃度が適正である範囲内での濃度ばら

つきを制御するもの)よりも,客観的にみた場合,大きいものであると

解されるところである。

本件発明1が,上記のような従来技術が存在する中で,一つのライン

59
セ ンサで読み取った印刷絵柄データを印刷欠陥検出とインキキー開度制

御の双方に用いることを可能とする具体的方法を開示するものとして特

許査定されたものであることを考慮すれば,構成要件Gの意義を前記の

とおり解するのが相当である。

イ 被告製品1の充足性について

(ア) 前記のとおり,被告製品1の紙面監視手段(構成e)は,印刷絵柄

データのスペクトル値(R,G,Bを0ないし200の間で読み取った

数値)とRGB基準データのスペクトル値(同)を,読取センサの画素

単位でR,G,Bそれぞれについて比較し,その差分を上記画素毎に計

算し,上記差分が不良紙判定用閾値を超える場合には,不良紙と判定す

るものであるから,不良紙判定用閾値(「所定の閾値」に相当する。)

は,スペクトル値として設定されるものであると解される。

(イ) 他方,被告製品1の濃度判定手段(構成f)は,前記のとおり,C

MYK濃度データ(面積率)に変換済みの印刷絵柄データと,濃度制御

用データ用メモリに記憶されているCMYK目標濃度データを比較し,

C,M,Y,Kそれぞれについて網点面積率の差分を計算し,特定のイ

ンキキーの幅に属する上記各領域における差分の平均を,インキ制御用

閾値と比較することにより,インキキーの開度制御を行うものである。

なお,「濃度差等の範囲」が,インキキー開度制御を行うべき濃度差

等の差分の範囲の上限値を意味するものと解されることは前記のとおり

であるところ,「各画素における差分の平均をインキ制御用閾値と比較

することにより,インキキー開度制御を行っている。」(被告準備書面

(2)10頁)との被告の主張に照らせば,被告製品1におけるインキ制

御用閾値は,本件発明1にいう「濃度差等の範囲」とは異なるものであ

ると解される。しかし,被告が,被告製品1に関し,「比較された濃度

差が設定された一定の範囲にあればインキキーの開度を制御して補正」

60
す るものである旨主張していること(被告準備書面(4)3頁)に照らせ

ば,被告製品1において,インキキー開度制御を行う範囲を一定の差分

(C,M,Y,Kそれぞれについての網点面積率の差分)の範囲に限定

していることがうかがわれるというべきであり,上記のとおり被告製品

1においてインキキー開度制御を行う差分の範囲の上限値は,「濃度差

等の範囲」に相当するものであると解することができる。

上記上限値は,上記のとおり,C,M,Y,Kそれぞれについての網

点面積率の上限値であるから,網点面積率により設定されるものである

と解される。

(ウ) 以上によれば,被告製品1は,紙面監視手段においてスペクトル値,

濃度判定手段において網点面積率を比較単位とするものであり,「濃度

差或いは濃度に相関するパラメータ値」として異なるものを採用してい

るものであって,これにより,紙面監視手段における不良紙判定用閾値

と,濃度判定手段における前記上限値が,前者はR,G,Bの各スペク

トル値,後者はC,M,Y,Kの網点面積率を単位として設定されてい

るものであると認められる。

したがって,被告製品1は,同一の単位によって設定される「所定の

閾値」と「濃度差等の範囲」に関し,前者が後者より大きい数値に設定

されているものではなく,構成要件Gを充足しない。

(6) 以上によれば,被告製品1は,本件発明1の技術的範囲に属しない。

2 小括

よって,その余の点について検討するまでもなく,本件特許権1に基づく原

告の請求はいずれも理由がない。

3 争点(2)(被告製品2が本件発明2の技術的範囲に属するか。)

(1) 「版」(構成要件I)の意義について

ア 被告は,本件発明2は版ずれの防止を解決課題とするものであるところ,

61
C TP版における版ずれの原因は,PS版における版ずれの原因とは異な

るものであり,本件発明2によってCTP版における版ずれを防止するこ

とはできないから,「版」(構成要件I)はPS版を指すものとして限定

解釈されるべきであると主張するので,この点について検討する。

イ 本件明細書2(甲7)には,従来技術における問題点及び上記課題を解

決するための手段に関し,次の記載がある。

(ア) 【0002】【従来の技術】「従来のオフセット輪転機の版胴は…

その表面にCrメッキ施工後,研磨加工によりRmax<1.0μmに

調整されたもの,又は耐食材を肉盛溶接後研磨加工されたものが用いら

れていた。」

(イ) 【0003】【発明が解決しようとする課題】「前述の従来技術に

は,次のような問題点がある。図4に示すように,従来の版胴1に版2

を装着して印刷する場合,印圧Pを負荷して接触・回転する相手ブラン

ケット胴3との間で相互に周長差があると,版胴1に装着された版2に

接線力Fが作用することになる。」

(ウ) 【0004】「このため,この接線力Fによって,版2と版胴1間

で,上記周長差に対応した微少すべりを発生し,印刷作業の進行と共に,

このすべりが蓄積され,版2と版胴1の相対位置が変化するいわゆる版

ずれトラブルが発生する。…」

(エ) 【0005】「本発明は,上記の版ずれトラブルを容易に防止でき

る版胴を提供することを目的とするものである。」

(オ) 【0006】【課題を解決するための手段】「従来,Crメッキあ

るいは耐食鋼を肉盛溶接後,研磨加工によりRmax<1.0μm程度

に仕上げ加工されていた版胴表面粗さを,1.0μm≦Rmax≦10

0μmに調整する。」

(カ) 【0007】【作用】「版胴の表面粗さを1.0μm≦Rmax≦

62
1 00μmとすることによって,版と版胴間の摩擦係数を増加させるこ

とができ,これにより版ずれトラブルが防止できる。」

ウ 本件明細書2の上記記載によれば,本件発明2は,版を装着した版胴と

相手ブランケット胴との間に周長差があることにより,版に接線力が作用

し,版と版胴との間ですべりが生じ,このすべりが印刷作業の進行に伴い

蓄積することにより,版と版胴の相対位置が変化すること(版ずれトラブ

ルの発生)を従来技術における課題とし,版胴の表面粗さを従来技術にお

けるものよりも粗くすることで,版と版胴との間の摩擦係数を増加させ,

上記課題を解決しようとするものであると解することができる。

エ 「PS版」(Pre−Sensitized Plate)とは,予め

感光性物質を支持体に塗布した印刷版の総称であり,このうち,組版シス

テムからの画像データを直接描画する製版方式によるものを「CTP版」

(Computer To Plate)と呼び,これと区別する意味で,

フィルムを用いる製版方法によるものを「PS版」と呼ぶものとされる

(乙6)。そうすると,両者は製版方法において異なるものにすぎず,刷

版としての性質や使用方法が異なるものではないと解することができ,上

記のような製版方法の違いが,上記ウでみた版ずれトラブルの原因におい

て違いを生じるものであるとは解されない。

オ なお,被告は,甲11号証及び乙7号証の記載から,CTP版における

版ずれの原因は,PS版におけるものとは異なるものであり,その解消方

法もPS版におけるものとは異なることが明らかである旨主張する。しか

し,甲11号証には,CTP版における版ずれトラブルの解消方法として,

版胴表面にヘアーライン加工(研磨材を用いて一定方向に連続的な条痕を

付ける金属表面加工)を施し,版胴表面と刷版裏面との摩擦力を高める方

法が記載されており,このような版ずれの解消方法は,版と版胴との間の

摩擦係数を増加させて版ずれを防止しようとする本件発明2と同種のもの

63
で あるということができ,CTP版における版ずれの原因が,本件発明2

が解決しようとする版ずれの原因と同一のものであることが,むしろうか

がわれるというべきである。また,乙7号証には,CTP版における版ず

れの原因に関し,「高速に回転するブランケットとの摩擦によって,版胴

に装着した版そのものが伸びるか,版胴に装着するために折り曲げた版の

銜え(くわえ)部分が伸びるかずれるかして,版ずれが生じ…」(【00

07】)との記載がされているのであり,上記記載からも,CTP版にお

ける版ずれの原因が,本件明細書2に記載された上記版ずれの原因と同一

であることがうかがわれるというべきである。

さらに,被告は,版ずれの問題はCTP版の導入により問題視されるよ

うになったものであり,PS版において版ずれは生じないものとされてい

たものであることからも,両者における版ずれの原因が異なることがうか

がわれる旨主張するが,乙7号証には,「従来の白黒印刷においては重ね

刷りの必要がなかったため,このような色ずれの問題は生じることはなか

った。一方で,高速輪転機による新聞オフセットカラー印刷においては色

ずれが生じることが確認され…」(【0006】)と記載されているので

あって,PS版とCTP版の性質上の違いを版ずれの発生原因として指摘

するものではない。また,乙8号証の2頁には,「PS版と比較し…ある

条件下では版ズレ(ノビ)現象も見られ,…」との記載があるが,CTP

版とPS版において版ずれの原因が異なることを具体的に指摘するもので

はない。

カ 以上によれば,CTP版における版ずれの原因が,PS版における版ず

れの原因と異なるものであるとは解されず,「版」(構成要件I)を,C

TP版を除くものに限定解釈すべき理由はないものであって,CTP版も

「版」に含まれるものと解するのが相当である。

(2) 被告製品2の充足性

64
ア 被 告製品2は,版を装着して使用するオフセット輪転機版胴であるとこ

ろ,上記「版」からCTP版が除かれないことは上記(1)のとおりである

から,被告製品2は構成要件I,Lを充足する。

イ 被告製品2が構成要件J,Kを充足することは前記前提事実(5)イ(イ)

のとおりである。

ウ したがって,被告製品2は本件発明2の技術的範囲に属する。

4 争点(3)(本件特許2は特許無効審判により無効にされるべきものか。)

(1) 記載要件違反の有無(争点(3)ア)

ア 被告は,本件特許2が特許法36条4項1号又は同条6項1号に違反す

る旨主張するが,本件特許2は平成3年3月26日に出願されたものであ

るところ,平成6年法律第116号附則第6条2項により,同号により改

正された特許法36条の規定は,上記法律の施行後にする特許出願につい

て適用するとされているから,本件特許2には,同号による改正前の特許

法(以下「旧特許法」という。)36条が適用される。したがって,被告

の主張は,旧特許法36条4項・同条5項1号違反を主張する趣旨である

と解されるのであって,以下,これを前提に検討する。

イ 被告は,本件特許2の出願当時のJIS規格(乙2)によれば,Rma

x100μm以下を測定する場合の基準長さは8mmであり,版胴の大き

さ及び表面粗さのばらつきに鑑み,Rmaxの具体的測定方法の記載なく

して当業者が本件発明2を実施することは不可能であるところ,本件明細

書2の発明の詳細な説明には,上記具体的測定方法の記載がない旨主張す

る。

しかしながら,前記3(1)イでみたとおり,本件明細書2の発明の詳細

な説明には,本件発明2が,版胴の表面粗さを1.0μm≦Rmax≦1

00μmに調整するという構成を採用することにより,版と版胴間の摩擦

係数を増加させ,版ずれトラブルを防止するという作用効果を奏するもの

65
で あることが記載されているのであり,上記記載に接した当業者は,本件

発明2が,版胴表面のうち,版のかかる任意の部分におけるRmaxを上

記の範囲に調整することで,上記作用効果を奏するものであることを容易

に理解できるものというべきである。

また,Rmax(最大高さ)については,日本規格協会の発行に係るJ

IS規格(「表面粗さの定義と表示」。乙2)により,断面曲線から基準

長さだけを抜き取った部分(以下「抜取り部分」という。)の平均線に平

行な2直線で抜取り部分を挟んだとき,この2直線の間隔を断面曲線の縦

倍率の方向に測定して,この値をマイクロメートルで表したものを指すこ

とや,基準長さの標準値,上記最大高さを求める場合,きずとみなされる

ような並外れて高い山や深い谷のない部分から基準長さだけを抜き取るこ

と等が示されているのであるから,当業者であれば,上記規格に示された

測定方法等に従い,版胴表面のうち,上記のとおり,版のかかる任意の部

分のRmaxを測定し,これが全体として1.0μm≦Rmax≦100

μmとなるよう調整することは十分に可能であるというべきである。

したがって,本件明細書2の発明の詳細な説明には,当業者が容易に本

件発明2の実施をすることができる程度に,その発明の目的,構成及び効

果の記載があるものと認められる。

ウ また,被告は,本件明細書2の発明の詳細な説明には,Rmaxの範囲

の記載と得られる版ずれ防止効果との関係の技術的意味に関し,本件発明

2に接した当業者が,本件発明2に示されたRmaxの範囲であれば,所

望の版ずれ防止効果が得られると認識できる程度の具体例を示した記載が

されていないとも主張する。

特許請求の範囲の記載がいわゆるサポート要件に適合するものであるか

否かについては,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対

比し,発明の詳細な説明に,当業者において,特許請求の範囲に記載され

66
た 発明の課題が解決されるものと認識し得る程度の記載ないし示唆がある

か否か,又は,その程度の記載や示唆がなくても,特許出願時の技術常識

に照らし,当業者において,当該課題が解決されるものと認識し得るか否

かを検討して判断すべきものと解するのが相当である。

本件明細書2には,版胴のRmaxと約20万部印刷後の版ずれ量を測

定した実験例(【0009】,【図2】)が示されており,上記実験結果

において,Rmaxが1.0μmを概ね上回る範囲において,版ずれ量が

減少することが示されている。また,本件明細書2には,表面粗度Rma

x≒6.0μmの版胴における版ずれ量と,これと同寸法・形状の従来版

胴における版ずれ量をそれぞれ調査した実験例(【0012】,【001

3】,【図3】)も示されており,上記実験結果において,従来版胴に版

ずれが発生しているのに対し,Rmax≒6.0μmの版胴には版ずれの

発生が少ないことが示されている。

さらに,本件明細書の【0010】には,「なお,図2において,Rm

axが大きい程,版ずれ防止効果も優れていることが容易に推測されるが,

Rmax>100μmでは,版胴の寸法精度や汚れ除去特性に問題が生じ

ることが考えられるので,Rmaxの上限値をRmax≦100μmとす

る。また,Rmax<1.0μmでは従来版胴に比べて版ずれ防止効果が

小さいので,その下限をRmax≧1.0μmとする。」との記載があり,

Rmaxの上限値及び下限値の技術的意義について記載がされているもの

ということができる。

以上によれば,本件明細書に接した当業者は,本件明細書2の上記各記

載から,本件特許2の特許請求の範囲の記載が示す範囲と得られる効果と

の間の技術的意義を理解し,また,上記範囲であれば所望の効果が得られ

ると認識することが可能であるものと解される。

エ したがって,本件特許2に,旧特許法36条4項及び同条5項1号に反

67
す る点は認められない。

(2) 本件発明2は特許出願前に日本国内において公然実施をされたものに当

たるか。(争点(3)イ)

ア 被告は,本件特許2の出願前である昭和63年8月に東日印刷の越中島

工場に納入したVBW型オフセット輪転機の版胴は,表面をステンレス鋼

で形成したものであり,表面粗さRmaxを1.5μmに調整したもので

あるから,本件発明2はその出願前に日本国内において公然と実施された

ものに当たると主張する。

イ(ア) そこで検討すると,被告は,乙14号証の図面(以下「乙14図

面」という。)が,上記のとおり東日印刷に昭和63年8月頃納入され

たVBW型オフセット輪転機の外面視図であると主張する。

「東日印刷50年史」(乙13)には,昭和63年7月8日に東日印

刷社屋を越中島に移転し,輪転機フロアに被告製作のVBW型オフセッ

ト輪転機等を設置し,3列に並ぶ輪転機のうち,A列がまず完成した旨

が記載されているところ,乙14図面の「東日印刷株式会社殿」,「A

列O.S外面視」との記載はこれと整合するものということができる。

また,その作成年月日が昭和62年8月と記載されていることも,これ

と矛盾するものではない。加えて,東日印刷従業員Pは,乙14図面は,

上記社屋移転時にA列に納入されたオフセット輪転機等の外面視図に間

違いない旨陳述しているのであるから(乙26),乙14図面に関する

被告の上記主張は信用できるものということができ,乙14図面は,昭

和63年8月頃東日印刷に納入されたVBW型オフセット輪転機(以下

「本件輪転機」という。)の外面視図であると認められる。

(イ) これを前提に乙14図面を見ると,乙14図面右下には,「WO」

欄に「P−02531L」(ただし,「L」はレールフレーム部を示す

記号であり,輪転機を示す番号部分は「P−02531」であるとされ

68
る 。),「社名」欄に「ET−1」,「年月日」欄に「昭和62年8月

26日」と表示されているから,本件輪転機の発注番号が「P−025

31」,東日印刷の略称が「ET−1」,図面作成年月日が昭和62年

8月26日であると認めることができる。そして,乙15号証の図面

(以下「乙15図面」という。)左下の表の「出図年月日」欄「62.

8.24」と記載されている行から下2行までには,「WO」欄に「P

−02531」,「社名」欄に「ET−1」と表示されているのである

から,乙15図面は,乙14図面記載の本件輪転機の版胴追加工図とし

て,昭和62年8月に出図されたものであると認められる。

(ウ) そこで,乙15図面を更に見ると,乙15図面の左上には,版胴を

示すとみられる図面が表示され,その上部中央付近に,「1.5−S」,

「▽▽▽」の表示があることが認められる。

昭和57年6月15日改正に係る「表面粗さの定義と表示」に関する

「JIS B−0601−1982」(乙2。以下「乙2規格」という。

なお,乙19によれば,昭和62年当時は,乙2規格が有効であったも

のと認められる。)によれば,Rmaxはμmで表されるものとされ

(乙2規格3頁),最大高さの許せる最大値によって表面粗さを指示す

る場合には,数値の後に「S」を付けて表すものとされる(乙2規格5

頁)。また,「▽▽▽」は,標準数列から選択された数値である最大高

さRmax1.6S,3.2S及び6.3Sに対応するものであるとさ

れる(乙2規格17頁の解説表1)。そうすると,乙15図面の前記表

示は,Rmaxの「許せる最大値」が1.5μmであることを示すもの

と解することができるところ,乙2規格5頁の「備考1」によれば,こ

こでいう「許せる最大値」とは,指定された表面からランダムに抜き取

った数か所のRmaxの算術平均値であるとされるのであるから,乙1

5図面は,Rmaxを1.5μmに調整することを記載したものと解す

69
る のが相当である。

(エ) したがって,本件輪転機の版胴は,その納入時において,乙15図面

に従い,Rmaxを1.5μmに調整して加工されたことが推認される。

また,被告による本件輪転機の測定結果(乙16の1・2,17の1・

2)によれば,本件輪転機(A列14P。乙14図面の「14」と表示さ

れた部分に設置された版胴であると認められる。)の版胴2本の表面粗さ

Rzは,版胴のかからない部分において,2ないし4μmであり,版胴の

かかる部分においても,大半が1.0μmを超えるものであり,その平均

値は平成23年1月31日測定結果においてLS版胴につき約2.03μ

m,RS版胴につき約2.09μm,同年2月24日測定結果においてL

S版胴につき約2.24μm,RS版胴につき約2.18μmであること

が認められる。

なお,原告は,乙16の2の測定結果に,測定日付として「2000−

4−25」と表示されていることから,乙16の1記載の測定結果は平成

12年4月25日に測定されたものである旨主張する。しかし,被告は,

上記日付表示は測定機器の日付設定の誤りによるものであると主張してい

るところ,上記主張が不合理とまではいえず,乙16の1の測定結果報告

書に測定日として平成23年1月31日との記載があることにも鑑み,上

記測定は同日に行われたものと認められる。

また,乙16の1・2及び17の1・2は,Rzについて測定されたも

のであるが,乙2規格における「Rmax」は,規格の改正により,平成

13年以降,「Rz」と表示するものと改められたことが認められ(乙1

9),乙16の1・2及び17の1・2におけるRzは,本件発明2にお

けるRmaxに相当するものであると認められる。

さらに,ステンレス鋼により形成された版胴の表面(なお,この点につ

いては後述する。)は,20年程度の使用期間で腐食することはないとさ

70
れ ており(乙26),かつ,版のかからない部分は,使用による摩耗等の

影響も少ないものと解される。加えて,本件輪転機の版胴につき,納入後

の入れ替えや表面加工,改造等は行われていないものと認められる(乙2

6)。

以上の事情を考慮すれば,本件輪転機の版胴は,その納入時において,

表面粗さが1.0μm≦Rmax≦100μmに調整されたものであった

と認めるのが相当である。

(オ) また,乙21の1のプレートシリンダー組立図面(乙21の2はその

右下欄を拡大表示したものである。)には,「WO」欄に「P−0253

1」,「社名」欄に「ET−1」との表示があるので,本件輪転機のプレ

ートシリンダー(版胴)組立図面であると認められる。乙21の1には,

版胴部分に向けて「L05−39004 A −1」,「L05−39003

−1」との表示がされており,上記表示は詳細図面番号を表示したもの

と認められるところ,乙22の1及び23の1(乙22の2,23の2は,

各図面の右下欄を拡大表示したものである。)には,「機種」欄に「L0

5−39003 A −1」,「L05−39004 A −1」との表示がされ

ているのであるから,乙22の1及び23の1は,本件版胴の詳細図面で

あると認められる。

乙22の1,23の1には,「胴表面にステンレス鋼溶着のこと。」と

の表示がされているのであるから,本件版胴の表面はステンレス鋼によっ

て形成されているものと認めることができる。

(カ) 以上によれば,本件輪転機の版胴は,その納入時において,

i 版を装着して使用するオフセット輪転機版胴において,

j 前記版胴の表面層をステンレス鋼で形成し,

k 該版胴の表面粗さを1.0μm≦Rmax≦100μmに調整した

l ことを特徴とするオフセット輪転機版胴

71
で あったものと認められ,本件発明2の構成要件を充足するものであった

と認められる。

ウ 本件版胴は,前記イ(ア)のとおり,東日印刷の越中島工場に納入されたも

のであるところ,東日印刷において,本件輪転機版胴の形状が秘密として管

理されていたことをうかがわせる事情は存在しない。また,版胴の表面層が

ステンレス鋼で形成されていることや,表面粗さRmaxの数値は,当業者

が利用可能な分析技術を用いることにより,容易に判明するものであると認

められる。したがって,本件発明2は,本件輪転機の納入により,その内容

を不特定多数の者が知り得る状況となったものであり,本件特許2の出願前

公然実施されたものであると認められる。

エ 以上によれば,本件特許2は,平成11年法律第41号による改正前の特

許法29条1項2号に違反して特許されたものであり,特許無効審判により

無効にされるべきものと認められ,原告が,被告に対し,本件特許2に基づ

きその権利を行使することはできない(特許法104条の3)。

5 小括

したがって,本件特許権2に基づく原告の請求は,その余の点について検討

するまでもなく理由がない。

第5 結論

したがって,原告の被告に対する請求をいずれも棄却することとし,主文の

とおり判決する。



東京地方裁判所民事第29部




裁判長裁判官 大 須 賀 滋

72
裁 判官 西 村 康 夫




裁判官 森 川 さ つ き




73
( 別紙)

被告製品目録1



「カラー・モニター・アンド・コントロール・システム CMAC(シーマッ

ク)」を商品名とする新聞用色濃度監視制御装置




74
( 別紙)

被告製品目録2



被告が販売して下記の場所に納入し,ヘアライン加工又はショットブラスト加工

施されたオフセット輪転機版胴



(1) 大阪府摂津市<以下略>

株式会社高速オフセット 摂津工場内

(2) 埼玉県八潮市<以下略>

株式会社日経首都圏印刷 八潮工場内

(3) 千葉県八千代市<以下略>

株式会社日経首都圏印刷 千葉工場内

以上




75
( 別紙)

被告製品1の構成



a 印刷機の印刷部の下流に配置され,上記印刷部で用紙に印刷された印刷絵柄を

読み取るセンサ(以下「読取センサ」という。)と,

b 読取センサで読み取られた印刷絵柄のデータ(以下「印刷絵柄データ」とい

う。)を記憶するRGBデータ用メモリと,

c 読取センサで読み取ったデータに基づき,良紙時点でティーチング(基準値取

り込み)を行い,RGB基準データを取得する手段と,製版データから作成され

るCMYK目標濃度データをCTPサーバーから取得する手段と,

d RGB基準データを記憶する紙面監視機能用の基準データ用メモリ(以下「紙

面監視用基準データ用メモリ」という。)と,CMYK目標濃度データを基準濃

度データ(面積率)として記憶する濃度判定機能用の基準濃度データ(面積率)

用メモリ(以下「濃度判定用基準データ用メモリ」という。)と,

e 上記RGBデータ用メモリが記憶した印刷絵柄データと,上記紙面監視用基準

データ用メモリが記憶したRGB基準データとを読取センサの画素単位で比較し

て差分を計算し,当該差分と所定の閾値との比較により印刷欠陥を検出する紙面

監視手段と,

f 上記RGBデータ用メモリが記憶した印刷絵柄データをRGBデータからCM

YK濃度データ(面積率)に変換してCMYK濃度データ(面積率)用メモリに

記憶し,濃度判定用基準データ用メモリに保存されたCMYK目標濃度データと

画素毎に差分を計算し,当該差分と所定の閾値との比較により,インキキーの開

度を調整する濃度判定手段とを備える

h CMAC(新聞用色濃度監視制御装置)。




76
( 別紙)

被告製品2の構成



i 版を装着して使用するオフセット輪転機版胴において,

j 前記版胴の表面層をクロムメッキ又は耐食鋼で形成し,

k 前記版胴にヘアライン加工又はショットブラストを施して表面粗さRmaxを

約10μmに調整した

l ことを特徴とするオフセット輪転機版胴。




77