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関連審決 審判1999-35126
関連ワード 物の発明 /  使用方法 /  新規性 /  進歩性(29条2項) /  公知技術 /  技術的範囲 /  同一の発明 /  技術的手段 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  参酌 /  技術的意義 /  均等 /  均等論 /  置き換え /  同一の作用効果 /  容易に想到(容易想到性) /  意識的除外(意識的に除外) /  特許発明 /  実施 /  加工 /  間接侵害 /  構成要件 /  方法の使用 /  業として /  差止請求(差止) /  侵害 /  対価 /  請求の範囲 /  拡張 /  変更 / 
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事件 平成 12年 (ネ) 3891号 特許権侵害差止等請求控訴事件
控訴人(1審原告) 東海機器工業株式会社
同訴訟代理人弁護士 上原洋允
同 小杉茂雄
同 内藤義三
同 神戸正雄
同補佐人弁理士 吉田昌司
同 安田敏雄
同 佐藤強
被控訴人(1審被告) 極東産機株式会社
同訴訟代理人弁護士 青柳ヤ子
同 美瀬克彦
同補佐人弁理士 役昌明
裁判所 大阪高等裁判所
判決言渡日 2001/12/04
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 控訴の趣旨 (1) 原判決を取り消す。
(2) 被控訴人は,原判決添付別紙物件目録(一)ないし(三)記載の物件を生産し,使用し,譲渡し,貸し渡し,又はその譲渡若しくは貸渡しの申出(譲渡又は貸渡しのための展示を含む。)をしてはならない。
(3) 被控訴人は,原判決添付別紙物件目録(一)ないし(三)記載の物件及びその半製品を廃棄せよ。
(4) 被控訴人は,控訴人に対し,金5000万円及びこれに対する平成11年4月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
事案の概要は,原判決別紙「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」に記載のとおりであるから,これを引用する。
ただし,3頁18行目の「なお」から同20行目の「主張している。」までを削り,7頁7行目の「別紙目録(一)ないし(三)」を「本判決添付別紙ニ号物件目録」と,14行目の「第三、2、2のとおり、訂正されるべき」を「本判決添付別紙被告方法目録傍線部分のとおり,付加,訂正されるべき」と,8頁12行目の「本件方法発明」を「本件方法発明及び本件装置発明」と各改め,原判決添付「別紙被告方法目録」の1枚目7行目の「この原点位置」から同8〜9行目の「記憶する。」までを削る。
争点に関する当事者の主張
次に当審主張を付加するほか,原判決別紙「事実及び理由」中の「第三 争点に関する当事者の主張」に記載のとおりであるから,これを引用する。
ただし,15頁15行目の「であり、」から同18行目の「明らか」まで,19頁6行目から21頁11行目までを各削り,24頁1〜2行目の「別紙目録(一)ないし(三)の第4図」を「別紙ニ号物件目録の第5図」と,同4行目の「畳常」を「畳床」と,25頁19行目の「訂正後の構成要件B″、C″」を「構成要件C,D」と,26頁2行目の「経時的要件を含めて分説すれば」を「経時的に説明すれば」と,28頁末行の「療法」を「両方」と,29頁12〜13行目の「別紙目録(一)ないし(三)の第4図」を「別紙ニ号物件目録の第5図」と,30頁18〜20行目の「被告製品は,本件装置発明の構成要件である『直線基準定規20』を有しない点で本件装置発明と相違するが」を「仮に,被告製品が,本件装置発明の構成要件である『直線基準定規(20)』を有しないとしても」と,31頁20行目の「外端センサー22」を「外端センサー53(外端センサ22)」と,32頁1行目及び同9行目の各「外端センサー22」をいずれも「外端センサー53(外端センサ22)」と各改める。
(控訴人の主張) 1 本件方法発明 (1) 本件方法発明の技術的範囲の確定可能 ア 本件方法発明の技術的意義 本件方法発明は,畳床の方向転換と位置決めを自動化することによって省力化を図ったことに特徴があり,自動制御による畳床の位置決め制御にかかわるものである。
そして,位置決め制御における当業者の技術常識は,@移動量=目標位置一現在位置の関係を数値で制御することであり,A現在位置をセンサーにより検知するということである(甲8〜10参照)。
この技術常識に照らして本件方法発明を考察するに,畳床の特定のどの位置(部分)を畳縫着機側に設定された目標位置に位置合わせするのかが問題であることが読み取れ,この点を理解するのに当業者の技術常識が必要となる(甲7参照)。
従来,「入手によって畳床の方向転換をするとともに,下前基準線(下前切断位置)に人手によって下前側を合致していたため,省力化の点で課題があった(本件明細書【0003】参照)」ところ,上記「下前基準線(下前切断位置)に人手によって下前側を合致していた」の意味は,畳床の下前基準線の位置を機械側に設定された下前切断位置(目標位置)に位置合わせするということであり,本件方法発明は,人手によって機械側に設定された目標位置に畳床の下前基準線を位置合わせしていた従来技術の問題点を解決しようとするものである。
構成要件Cの「下前基準線(L)の位置を計算するために検出センサー53で確認し」の意義について (ア) 下前基準線(L)について,本件明細書【0015】に,「平刺しの場合,間取りを測定して得た畳を切断すべき寸法,即ち,図5に示す如く畳長手方向(以下Y軸方向とする)の複数の各基準点A,B,C,D,Eにおける下前基準線Lに対する畳幅方向(以下X軸方向とする)の離間隔X0,X 1,X 2…」と記載され,また,明細書に添付の図面の図5を参酌すれば,符号Lで示す一点鎖線が,下前基準線Lであること明確である。
この下前基準線Lは,畳の丈の半分の寸法位置にあり(甲7,23,検甲6,7参照),この下前基準線Lが畳床の位置決めのための基準となるものであることは,当業者の技術常識(甲7参照)として,自明のことである。
【0003】の「人手によって畳床の方向転換をするとともに,下前基準線(下前切断位置)に人手によって下前側を合致していたため,省力化の点で課題があった。」と記載されている従来技術の意味は,畳床の下前基準線の位置を,機械側に設定された下前切断位置(すなわち目標位置)に,位置合わせするということであり,下前基準線が畳床の位置決めのための基準となっていることが明白である。
【0007】の「その上前側を畳床押込み手段41によって押付けることにより,下前側が下前基準線L(下前切断位置)に位置合わせされる。」と記載されている本件方法発明の作用の意味は,それに続く【0008】において目標位置に正確に位置決めすることが記載されているから,下前側の下前基準線Lが,下前切断位置(目標位置)に位置合わせされるということであり,厳密に下前基準線Lを下前切断位置(目標位置)に位置合わせするという意味ではなく,下前基準線Lを基準として位置決めするという程度の意味である。
【0003】の「下前基準線(下前切断位置)」及び【0007】の「下前基準線L(下前切断位置)」の記載は,下前基準線Lが畳床を切断位置へ位置決めするための基準となるという一般的な説明を括弧書きで行ったものであり,かかる記載と図5に示す記載との間に二義的な事項は存在しない。
(イ) 検出センサー53が確認する対象について 位置決めの技術において,当該検出センサーが確認する対象は,位置決め対象物の現在位置を計算できる物であることは,当業者の技術常識である(甲7〜10,20〜22参照)。
本件方法発明は,位置決めの対象物を畳床とすることが自明であり,【0003】の「下前基準線(下前切断位置)に人手によって下前側を合致していた」及び【0007】の「下前側が下前基準線L(下前切断位置)に位置合わせされる。」の記載より,畳床の現在位置を下前基準線Lをもって示すものであることが自明である。
そして,畳床の下前基準線の位置は,直接検出できないので,実施例に基づき説明すれば,検出センサーが確認する対象は,位置決め対象物の現在位置を計算できるものであり,畳床を移動させる畳床押込み手段の特定の位置である。
検出センサーで確認するものが自動位置決め技術における制御対象物の現在位置であり,その「確認する」との意味が対象物を検出するという意味であることは,当業者の技術常識である(甲8〜10参照)。
【0015】に,「また同時にマイクロコンピュータ30は第1位置検出手段24からの検出信号により,…(中略)…そしてマイクロコンピュータ30は第1位置検出手段24の検出信号により得たX軸方向の現在位置とX軸方向の目標位置との差がなくなるように,モータ駆動回路31を制御して,モータ14の駆動によりミシン本体12を目標位置に移動せしめる。」と記載されているところ,ミシン本体の位置決めも,畳床の位置決めも,その位置決め原理は同じであり,本件方法発明は,畳床の位置決め技術に関するものであるから,検出センサーで確認するものは,検出センサーによって検出された検出時点の畳床の現在位置であることが明白である。
そして,実施例の「近接スイッチ等の検出センサー53」(本件明細書6欄45行)の記載からすると,近接スイッチで畳床を直接検出することはできないから,間接的に検出することになり,畳床押込み手段41の押付けバー50を直接検出すると解するのが,当業者の技術常識である。
また,現在位置が機械側に設定された固定の位置である目標位置に対しての位置であることは,当業者の技術常識(甲8〜10参照)であるとともに,本件明細書の記載(5欄第41〜45行)からも明らかなことである。
そして,本件方法発明における「下前基準線(L)の位置を計算する」の具体的な計算は,原判決添付参考図6に示すように,Xc=Xb-Xaということになる。
ここで,Xcは,目標位置に対する下前基準線Lの位置であり,Xbは,検出センサー53により検出されたときの押付けバー50の目標位置に対する位置であり,Xaは,下前基準寸法であり,Xa,Xbは,既知量である。
(ウ) 畳の位置決めに関する過程中,どの時点における下前基準線の位置を計算するのかについて 当業者の技術常識によれば,移動量=目標位置ー現在位置の計算ができれば,その現在位置の検出時点は何時であっても良いのである。
「とき」とは,「時間」を意味するほか,「その場合」という意味をも有する(甲29参照)。
本件明細書の【0007】から【0008】の最初に記載されている「このとき,」の用法を参酌すれば,「時間」を意味するよりも「場合」を意味すると解する方が自然である(甲29参照)。
本件明細書の「発明の詳細な説明」を参酌しても,「畳床を移動中」と限定解釈する根拠を見いだせず,「畳床の移動中に検出センサーで確認する」と限定解釈する必然性はない。移動中の場合も移動以前の場合も含むものである。
したがって,「該畳床(5)の上前側に押付け力を付与して下前側を畳縫着機(10)に向けて移動するとき,該下前側の下前基準線(L)の位置を計算するために検出センサー53で確認した後」の「とき」は,時刻を表すのではなく,場合を表すものである。
(エ) 「下前基準線(L)の位置を計算するために検出センサー53で確認し」の意義は,明細書の記載及び当業者の技術常識参酌すれば,原判決添付別紙参考図6に示す如く,「下前基準線(L)の位置(Xc)を計算する(Xc=Xb-Xa)ために,検出センサー53で畳押込み手段(41)の位置(Xb)を確認し」ということである。そして,下前基準線の現在位置を計算することができるのであれば,その確認時点は特に限定されない。
構成要件Dの「該下前基準線(L)から移動された畳床(5)の下前側における畳幅方向の離間隔(X0)を計算し」の意義について (ア) 前の構成要件Cは,畳床の現在位置を検出するものであり,後の構成 要件Eは,目標位置に位置決めされた畳床を締め付けるのであるから,当該構成要件Dは,畳床の移動量を求めて移動させるものと解すべきである。
けだし,「その計算値になるように畳床(5)を押し付け,」との記載は,明瞭であり,この記載より,構成要件Dは,畳床の移動量を求めて現在位置から目標位置へ移動させるものであると全体解釈され,当業者の技術常識によれば,「その計算値になるように畳床(5)を押し付け」の計算値が移動量=目標位置ー現在位置の関係の移動量であることは,明白である。
(イ) 「該下前基準線(L)から移動された」は,その次に続く「畳床」の修飾句である。そして,「該下前基準線(L)」は,「該」という語より,その前の構成要件Cの「下前基準線(L)の位置」を指すこと明らかである。この「下前基準線(L)の位置」とは,畳床の現在位置を意味するから,「該下前基準線(L)から移動された畳床」とは,「現在位置から移動された畳床」と解されるものである。
ところで,「移動された」の意味を過去形と解したのでは,未来形である「その計算値になるように畳床(5)を押し付け,」が,畳床をこれから移動させることを意味することと整合しなくなり,意味が通じない。
一般に日本語は,見かけ上過去形をとっていても,その意味が過去を表すとは限らず,厳密に過去形と未来形の区別がなく,同じ意味で用いられる場合がある。
本件の場合も,「該下前基準線(L)から移動される畳床」と同じ意味に解すべきものであり,このように解することにより,「その計算値になるように畳床(5)を押し付け,」と整合することになる。
(ウ) 「畳床(5)の下前側における畳幅方向の離間隔(X0)を計算し」の意味は,それに続く「その計算値になるように畳床(5)を押し付け,」の記載から,「離間隔(X0)を考慮して移動距離を計算し」という意味に解すべきである。
けだし,離間隔自体は計算されるものではなく,予め入力されるデータであり(5欄22〜27行),「離間隔を計算し」とは,「離間隔を考慮して,何かの計算をする」と解さなければ,意味が通じない。そして,「何かの計算」とは,「その計算値になるように畳床(5)を押し付け,」との記載より,移動量を求めることであることは,当業者の技術常識より明らかである。
この「計算」とは,「演算をして結果を求め出すこと」という意味以外に,「考慮」という意味を有する(甲29参照)。
そして,前記移動量の計算において,「離間隔(X0)を計算し」を「離間隔(X0)を移動量に組み入れるように計算し」という意味に解するのが当業者の技術常識である。「該下前基準線(L)から移動された畳床(5)の下前側における畳幅方向の」の語句は,離間隔(X0)の修飾句であり,それ以上の意味はない。
「離間隔(X0)」の符号X0は,例示にすぎず,X1,X2…であっても良い。けだし,符号は,理解を容易にするために付されるものであって(特許法施行規則様式第29備考14,ロ),その符号のものに限定されるものではない。
また,本件明細書には,「切断刃19を切断開始位置に位置合わせ,」と記載されている(5欄30〜31行)のであるから,畳床の位置決めの目標位置と切断刃19の待機位置とは必ずしも一致する必要がないことが理解できる。
したがって,本件方法発明では,畳床を位置決めした後に,切断刃を切断開始位置に位置決めする場合も,切断刃の位置決めをすることなく,その位置から切断を開始する場合も,その両方を含むから,離間隔として,X1,X 2…を採用することを妨げるものではない。
(エ) 「該下前基準線(L)から移動された畳床(5)の下前側における畳幅方 向の離間隔(X0)を計算し」の意義は,「該下前基準線(L)から移動された畳床(5)の下前側における畳幅方向の離間隔(X0)を,移動量に組み入れるように計算し(Xd=Xc-X0),該計算値(Xd)になるように畳床(5)を押し付け,」であり,X0は例示である(原判決添付別紙参考図6参照)。
(2) 構成要件の充足性 ア 用語の対応関係 被告方法における部材名や記号と,本件特許発明の部材名や記号との対応関係は,次の表に示すとおりである。
構成要件A及びBの充足性 被告方法が本件方法発明の構成要件A及びBを充足することは争いがない。
構成要件Cの充足性 (ア) 構成要件Cの「該畳床(5)の上前側に押付け力を付与して下前側を畳 縫着機(10)に向けて移動するとき,」の「とき」とは,「場合」と解すべきものである。
被告方法は,本判決添付別紙被告方法目録7の(1),(2)(被告方法7の(1),(2)。以下同様に表示する。)の目標位置に畳床のXminの位置を合わせる工程において,「畳床2の上前側に押付け力を付与して下前側を平刺ミシン10に向けて移動する」のであるから,当該構成要件を充足する。
(イ) 構成要件Cの「該下前側の下前基準線(L)の位置を計算するために検出センサー53で確認した後,」は,「該下前側の下前基準線(L)の位置(Xc)を計算する(Xc=Xb-Xa)ために,検出センサー53で,畳押込み手段41の位置(Xb)を確認した後,」という意味である。
ここで目標位置とは,機械側に設定された固定の位置であり,この目標位置に切断刃が待機しているか否かは,問題とされない。
この検出センサー53の取付位置が,押付けバー50の原点位置か,移動中の位置かは,本件明細書に移動中の位置を検出するものであるとの限定的記載がないから,いずれの取付位置であっても,畳床の現在位置が求められる位置であればよい。
被告方法の4(1)の巾寄せの原点復帰工程で,巾寄せ20は,原点復帰している(検甲5のビデオ表示時間0:24:22,原審被告第5準備書面11頁11〜14行,平成13年5月28日の技術説明参照)。
4(1)の巾寄せの原点復帰工程の巾寄せ20を外端センサ22で確認するのは,外端センサ22で巾寄せ20を検知して原点距離Gをリセットし,目標位置から畳床2の畳基準KSまでの距離を求めるために行われるものである。
被告方法の1の巾寄せの原点復帰工程の巾寄せ20の原点復帰(リセット)は,自動位置決めの技術常識である畳床の現在位置を知るために行われるものであり,巾寄せ20は,畳床2を押して位置決めするので,巾寄せ20の位置を知れば,それにより押される畳床2の現在位置を知ることになる。外端センサ22が巾寄せ20を検知することにより,原点距離Gが分かるのであるから,巾寄せ20の現在位置を知り,結果として畳床の現在位置を知ることになる。
そして,巾寄せ20の原点復帰は,作業の開始に当たってのみ行われるのではなく,巾寄せ20が動作するごとに行われ,各動作ごとの原点復帰において,原点距離Gがリセットされ,それ以後の制御において,リセットされた新たな原点距離Gが用いられ,目標位置に対する畳床2の畳基準KSの現在位置がG-KSとして計算される(甲24の実験報告書の5〜10頁参照)。
4(1)の巾寄せの原点復帰工程は,次の畳床の位置を合わせる工程の前に行われるのであるから,この巾寄せの原点復帰工程における巾寄せ20を外端センサ22で確認するという動作は,本件方法発明の「検出センサー53で確認した後」に対応するものである。
したがって,被告方法の4(1)の巾寄せの原点復帰工程は,本件方法発明の構成要件Cの「該下前側の下前基準線(L)の位置を計算するために検出センサー53で確認した後,」の要件を充足する。
なお,4(1)の巾寄せの原点復帰工程の前の3の上前側平刺し工程において,巾寄せ20を移動させて畳を位置決めすることは当然であり,また,被告発明の明細書に,「畳押しバー16によって,畳台11上の畳を押して,」(被告明細書5欄31〜32行)と記載されており,「巾寄せ20を移動させて畳を位置決めする。」ことは明らかである。
(ウ) したがって,被告方法は,本件方法発明の構成要件Cの全ての要件を充足する。
(3) 構成要件Dの充足性 ア 本件方法発明の構成要件Dの「該下前基準線(L)から移動された畳床(5)の下前側における畳幅方向の離間隔(X0)を計算しその計算値になるように畳床(5)を押し付け,」の意義は,「該下前基準線(L)から移動された畳床(5)の下前側における畳幅方向の離間隔(X0)を,移動量に組み入れるように計算し(Xd=Xc-X0),該計算値(Xd)になるように畳床(5)を押し付け,」であり,X 0は例示である。
イ 被告方法の「7 目標位置に畳床のXminの位置を合わせる工程」は,「目標位置からの,畳基準KSの位置+偏差(X0〜X 4)の距離を求めて,その求めた値になるよう畳床を押し付ける」ということである。
この工程の重要事項は,位置決めの技術常識である「移動量=目標位置ー現在位置」を実行しているということである。
すなわち,差分値Paは,移動量のことであり,また,この差分値Paは,原点距離G,畳基準KS,偏差(X0〜X 4)から求められる,ということが重要なことである。
実寸法XAが最小の仕上がり寸法Xminの場合,差分値Paは, Pa=G-Xmin=G-(KS-X0)=(G-KS)+X 0 となり,差分値Paを求めるとき,偏差X 0が計算(考慮)される。
実寸法XCが最小の仕上がり寸法Xminの場合,差分値Paは, Pa=G-Xmin=G-(KS-X2)=(G-KS)+X 2 となり,差分値Paを求めるとき,偏差X 2が計算(考慮)される。
いずれにしても,差分値Paを求めるとき,偏差(X0〜X4)を計算(考慮)し,「Pa=(G-KS)+偏差(X0〜X 4)」となる。
被告方法は,目標位置からの,畳基準KSの位置+偏差(X0〜X 4)の距離を求めて,その求めた値になるよう畳床を押し付けるということである。
したがって,被告方法の7の目標位置に畳床のXminの位置を合わせる工程は,本件方法発明の構成要件Dを充足する。
(4) 構成要件Eの充足性 被告方法の9の下前のクセ取り平刺し縫い工程が本件方法発明の構成Eの要件を充足することは明白である。
構成要件Eの「その後,前記畳床(5)を締め付けてから数値制御により自動的にクセ取り縫着する」のは,畳床を位置決めした後に,切断刃を切断開始位置に位置決めする場合も,切断刃の位置決めをすることなく,その位置から切断を開始する場合も,その両方を含むものであり,切断刃の切断開始位置を固定し,この位置に畳床の切断開始点を一致させ,切断刃を移動させずに直ちにクセ取り縫着することに限定するものではない。
本件明細書には,「そして,切断刃19を切断開始位置に合わせ,…」と明記されている(5欄第30〜31行)のであり,切断刃19は,切断開始位置に固定されたものではなく,切断刃の待機位置がどこであるかは,本件方法発明の畳床の位置決め技術とは関係のないことである。
平成11年審判第35126号審決(以下「本件審決」という。)によれば,「なお,前記記載(段落【0015】)は,切断刃によって畳床の切断開始点からクセ取り量を切断するのに,切断刃の切断開始位置と畳床の切断開始点とをどのように設定するのか,すなわち,切断刃の切断開始位置を固定して畳床の切断開始点を切断刃の開始位置に合わせるのか,あるいは,畳床の切断開始点に対して切断刃を切断開始位置に移動させるのかについて明記するところはない。」(甲25の5頁18〜23行),「切断刃の切断開始位置と畳床の切断開始点の関係は,切断刃の切断開始位置を固定しこの位置に畳床の切断開始点を一致させるものと解するのが相当である。」(甲25の6頁6〜9行)と認定し,その理由として,「仮に,畳床の切断開始点に対して切断刃の切断開始位置を当該畳床の切断開始点に移動させるとすると,移動中の畳床の下前側における畳幅方向の離間隔(X0)を計算する必要がないことは明らかであり,これによれば,構成要件Aが『下前側における畳幅方向の離間隔(X0)を計算』することを構成に欠くことのできない事項として規定している趣旨が没却されることになるのであるから,」(甲25の6頁1〜6行)と認定している。
しかし,この理由は,抽象的な離間隔を具体的なX0として解釈したものであり,離間隔を実施例記載のX0とすれば,このような理由付けも首肯できるが,本件明細書及び審査経過を参酌しても,離間隔としてX0以外のものを採用すれば本件方法発明が成り立たないなどの意識的限定はなく,本件方法発明は,離間隔としてX0のみを採用するものに限定されない。
2 本件装置発明 (1) 構成要件A’の充足 構成要件A’をA1+A2+A3の3要件に分けて説明し,構成要件A’の充足を主張する。
ア A1「数値制御により自動的にクセ取り運動をする畳縫着機(10)と,」 「数値制御」とは自動制御の一種であるが,そのコントロールにあたって数値入力が可能で,それに応じて制御できる制御手段のことである(甲19,甲30注参照)。
「クセ」とは,畳の規格寸法(=畳基準KS,それを幾何的に表現したものが下前基準線)と実際に製造目的とする畳の形状,寸法とのずれ,凹凸のことで,数値で与えられるものであり,本件明細書には図5に例示されている以上の説明はないが,それは畳業界で常用されている言葉だからである(甲31〜34)。
「クセ取り運動」とは,このクセに対応するように畳縫着機が移動できる構造であること,さらに,その上でそれに応じた縫着や切断を行うことを指している。
「畳縫着機」という言葉は,本件装置発明で広狭二義に用いられている。
構成要件D’では,機器全体を指す場合に用いているが,ここでは移動する部分,具体的にはミシン本体を,場合によりミシン台等を含めて指す意味で用いられているので,構成要件D’以外においては,この意味で説明する。
要件A1は,実際に製造目的とする畳の形状,寸法に関する数値データが入力されると,それに応じて畳縫着機が移動して,縫着,切断可能な機器であることをいっている。
被告製品は,ミシン本体12とミシン台11からなる畳縫着機10を有しており,この畳縫着機は,予め制御装置29に畳基準KS(=下前基準線位置)と偏差(=クセ)を数値入力すると,その数値に従って自動的にクセに応じて移動して,縫着切断できるものであるので,要件A1を充足している。
イ A2「該畳縫着機(10)の側方に配置されている直線基準定規(20)」 直線基準定規は,畳縫着機のミシン本体の位置を制御する際の基準となるものである。
側方ということと,直線ということから,この直線基準定規は,Y軸方向に沿って設置され,畳縫着機が移動した際にX軸上どれだけ移動したかの基準となるものである。
X軸上の基準となる定規であればよいから,学童用の定規にあるような目盛などは必要でないし,Y軸上の基準となることも必要でなく,この定規に別の機能が備えられていてもかまわない。
本件明細書には,直線基準定規について,言葉でその概念を直接明記している記載がないとはいえ,本件明細書実施例では【0012】【0013】【0015】に,「20は畳台4の長手方向に沿って設けられた直線基準定規で,…畳台4に連結固定されている」,「24は第1位置検出手段であり,エンコーダ等よりなっていて,スケール部材22とミシン本体12との畳台4に直交する方向の相対位置を検出するするものである」,「第1位置検出手段24からの検出信号により,ミシン本体12のX軸方向の現在位置を定規20の寸法基準面20aを基準として計算する。」と説明されており,この技術的な説明内容と,直線基準定規との日本語の意味から,直線状,定規状のもので,ミシン本体12のX軸方向の基準となり得るものであればよいと理解できる。この直線基準定規は,直線状であることと,それに基づいて,何らかの位置検出手段によりミシン本体の第1位置すなわちX軸方向の位置の基準となり得ることが必要で,かつ,それで十分である。
このようにして基準が設定された後の動作について,「マイクロコンピュータ30は第1位置検出手段24の検出信号により得たX軸方向の現在位置とX軸方向の目標位置との差がなくなるように…目標位置に移動せしめる」(【0015】)というように具体的に例示しているが,このような移動に用いる手段は構成要件外の問題であり,適宜の手段の選択が可能である。
なお,畳縫着機がX軸,Y軸双方に移動できること自体は,「クセ取り」に関する構成要件A1により必要であり,【0011】には,そのY軸方向の移動手段として「ミシン台はレール上で畳台の長手方向に沿って往復走行自在であり」と記載されているが,この移動がレールによることは要件ではなく,レール云々は発明の構成とは関係がない。
被告製品の畳縫着機10の側方やや下にレール2があり,レール2にはガイド車輪67が嵌合しており,畳縫着機10のミシン台11は,そのガイド車輪67によりそれと固定された間隔で連動するようになっており,Y軸方向にY軸送りモータによりスライド移動可能になっている。
レール2は,直線状で畳台4の押付けバー50のY軸方向に厳密に平行であるので,レール2の全てにおいて,押付けバー50に対するX軸上の位置は同一である。
そして,畳縫着機10のミシン本体12は,X軸方向にはパルスモータからなるX軸送りモータによって移動可能であり,ミシン台11に配置された基準検出素子24とミシン本体12の被検出部材69によってX軸上の位置を制御している。
すなわち,レール2は直線でY軸方向に厳密に平行であるため,前記基準位置のX軸上のレール2に対する位置をXtとすれば,そのXtの値はY軸上の位置にかかわらず一定である。
そして,前記基準位置XtからのX軸方向の移動量は,制御装置29からの数値化された指示信号により,パルスモータからなるX軸送りモータによって,指示に応じた量だけ移動することが可能である。
したがって,直線状であって畳縫着機10の側方やや下にあるレール2は,ミシン本体12にとって,X軸方向における基準となっており,要件A2にいう直線基準定規に該当する。
本件明細書実施例では,レールと直線基準定規の両者が用いられ,レール2は,畳台4の長手方向に沿って往復走行自在であるように設置されているが,畳台ないしその押付けバーに厳密に平行であることは要求されておらず,図1からほぼ平行であることが窺われるにすぎない。
他方,【0012】【0013】では,直線基準定規20が「畳台4に連結固定されており」,スケール部材22と,第1位置検出手段により,「畳台4に直交する方向の相対位置を検出するもの」であるので,「ミシン台11はレール2,3上で畳台4の長手方向に沿って往復走行自在」であっても,X軸方向の位置についてはレール2,3によらず,直線基準定規20によって,その位置が決定されているものであることが理解できる。
請求項2が実施例のレール2を構成要件から除外しているのは,レール2がX軸方向の位置を決める決定要素となっておらず,直線基準定規がそれを決めているからである。
また,直線基準定規を有する畳台とは,直線基準定規が畳台の本体に連結されている,固定されている等の意味で用いていることは明らかである。本体の外部に別部材で外付けされているものも含め「有する」と表現していることは明らかである。
被告製品においては,ニ号物件目録第3図から明らかなように,被告のレール2は,畳台4の外付部材として,畳台4に固定されている(甲46の写真2〜4等)。
次に,被告製品においては,レール2は,押付けバー50に厳密に平行に設置され,ミシン台11に配置された基準検出素子24とミシン本体12の被検出部材69に基づいてX軸上の位置を制御している。
したがって,被告製品のレール2は,請求項2の直線基準定規の技術的要素を全て備えており,これに該当する。
なお,本件明細書実施例のレール2自体,請求項2の構成要件から除外されており,構成要件から除外された要件の有する機能の付加は,利用発明たり得ても,侵害の成否とは無関係だから,被告製品のレール2が同時に本件明細書実施例のレール2が有する往復走行機能を有していることは,非侵害の理由となり得ない。
ウ A3「および畳床締め付け手段(6)を有する畳台(4)と,を備えているものにおいて,」 「畳床」とは材料段階の畳のことであり,「畳台」とは,畳床を置く台のことであり,畳床締付け手段は畳台に設けられている。
「畳床締付け手段」とは,畳床を畳台に固定する手段であり,切断,縫着する際に畳床がぶれないようにするための手段である。
被告製品の畳代4には,畳床をその上方から締付け固定可能な,締付け手段6を備えているので,この要件も充足する。
(2) 構成要件B’の充足 構成要件B’をB1+B2の2要件に分けて説明し,充足を主張する。
ア B1「前記畳台(4)に,上前側を切断縫着した畳床(5)を方向転換する方向転換手段(32)と,」 「上前側」とは,「下前側」と対比する言葉であり,畳床はX軸方向両端を縫着,切断するものであるが,畳業界及び本件装置発明では,初めに直線的に縫着,切断する側を「上前側」,次に,クセ取りに従って縫着,切断する側を「下前側」と呼んでいる。
「上前側を切断縫着した畳床」とは,その初めの工程を終えた畳床のことであり,したがって,同じ畳縫着機で縫着,切断するために畳床を180度方向転換する必要があり,そのために方向転換手段が畳台に設けられているのである。
したがって,この畳縫着機によって,上前側を切断縫着することも当然予想されているが,文言上の要件としては,上前側を切断縫着した状態の畳床が設置されていればよいということになる。
畳床を方向転換して畳台の上に置き直す手段を設けた,この構成要件B1に,次のB2の押付け手段と後記C’の位置決めを組み合わせた点に本件装置発明の最大の新規性のポイントがある。
従来はこの部分は人力で行っていて,畳縫着を自動化する上で最大のネックとなっていたところを,本件装置発明が初めてこれを自動化するようにしたのである(【0023】の発明の効果に,「下前切断縫着に移行するときの方向転換及び位置決めを自動化できて」と記載されている。)。 本件明細書では,この手段の具体例として【0017】に,畳床の昇降と,シリンダ,ピニオン,ラックを用いてする方向転換手段が開示されているが,もちろんこの例に限定されるものではない。
被告製品には,(上前側を切断縫着した)畳床を方向転換する方向転換手段(32)を備えているので,この要件も充足する。
イ B2「畳床(5)の上前側を押付けて畳床(5)の下前側を畳縫着機(10)に向けて押付ける畳床押込み手段(41)を備えているとともに,」 「畳床押込み手段」とは,一方通行の押込み手段であり,上前側から下前側に向かって押し付ける。
これは,下前側で縫着,切断するために畳縫着機の位置に下前側がくるように畳床を移動させる必要があるからである。
【0021】には,押付けバーをモータで駆動する手段が開示されている。
被告製品は,畳床(5)の上前側を押し付けて畳床(5)の下前側を畳縫着機(10)に向けて押し付ける押付けバー(50)を有する畳床押込み手段(41)を備えているので,この要件も充足する。
(3) 構成要件C’の充足 C’「該畳床押込み手段(41)で押付けられた畳床(5)の下前側の下前基準線(L)の位置を計算するため確認する検出センサー(53)を備えている」 「下前基準線」とは,規格寸法を実際の畳床の上の幾何的位置として表現したもので,その意味は被控訴人が畳基準=KSとして主張するものを線として表現したものである(畳基準は,幅2尺9寸であると表現するのと,上前から2尺9寸の位置に下前基準線があると表現するのは,表現こそ異なれ,意味するところは全く同じである。甲31参照。)。
「押付けられた畳床の下前基準線の位置を計算するため確認する検出センサー」というのは,「下前基準線の位置を,計算によって求められた位置に移動するために,それに必要な位置を確認する検出センサー」という意味である。
つまり,下前基準線とは,前記のとおり規格寸法で,それ自体は例えば2尺9寸というように,予め分かっている数値であり,数値的にも幾何的にもその位置自体をわざわざ検出したり計算したりするということはあり得ない。
他方,実際の畳床は,畳床押込み手段で押し付け,移動するものであるから,この押付けのいずれかの段階で,どこからどれだけ移動させるのかが決まらないと,目的位置への位置決めが行い得ない。
したがって,それを確認するためのものが検出センサーであり,この検出センサーは,縫着,切断するために,畳床を下前基準線の位置でどれだけかを移動するについて,どこから移動させればよいかを検出できる検出センサーであることが必要で,かつ,それで十分だということになる。
そして,下前基準線を目的位置に合わせるために畳床をどこからどれだけ移動させればよいかという,そのどれだけという数値に基づく処理のことをここでは「下前基準線の位置を計算」と省略的に表現したのである。
下前基準線というものが予め設定された規格寸法であり,ここではその下前基準線を畳縫着機の所に合わせるために畳床の移動をさせるにあたって,実施例ではその移動の起点の位置を検出していることからすれば,上記のように解するのが最も合理的である。
【0021】には,畳床を「押付けバー50により移動させるのである。
このとき…近接スイッチ等の検出センサー53で確認し,…その計算値になるように押付けバー50を矢示(印)H方向に移動して位置合せをし」と記載されており,この「計算値」とは,目的たる位置合わせには,検出位置からあとどれだけを押付けによって移動させるかを意味する値にほかならないはずである。
そうだとすれば,この「計算」も「検出」も,その移動量とその起点を確定させるための「計算」,「検出」にほかならない。
本件明細書には,下前基準線を「計算」するとか,離間隔を「計算」するという表現が,請求の範囲のみならず,実施例の説明にも数か所登場するが,もともとこれらは製造する前から与えられる数値であって,それ自体としては計算する余地のないこと,いずれも,畳床の目的位置への位置決めを行うためのものとして考えれば,下前基準線等自体を計算して算出しているのではなく,上記のように,これらの与えられた数値に基づいて,そこから現実の押付けバーの動作に必要な数値を計算,算出しているものと解するのが合理的である。
上記実施例によれば,押付けバーが近接スイッチの位置に到達したことを,その近接スイッチで検出し,もって,上記計算値になるように移動することにより,畳床を目的位置に移動させることが記載されている。
上記において,近接スイッチの位置や目的位置は機器固有の既定値であるから,その全幅Xbはもちろん既定値である。
下前基準線は,製造される畳の規格寸法であるから,使用者が製造開始にあたって制御装置に数値入力するものであり,これをXaとすれば,検出後の押付けによる移動距離XCは,XC=Xb-Xaであり,自動的に計算できる。
したがって,近接スイッチの位置に押付けバーが到達したことが確認できれば,後は初めから分かっている値であるところの移動距離XC移動させれば,当然に畳床の下前基準線の位置は目的位置と合致することになる。
なお,実施例では下前基準線を目的位置に合致させるのではなく,クセ量を加えた実際の切断開始位置の一つであるXa+X0の位置と切断刃の位置を合致させている点で,実施例と請求項2の表現は異なるが,実施例のXa+X0の位置を請求項2の下前基準線と考え,切断刃19の位置を目的位置とすれば,上記のとおりとなる。
以上のように検出センサー(53)が「下前基準線(L)の位置を計算するため確認する」ものであるという趣旨は,実施例の記載,特に図示したそのメカニズムと「計算値になるように…移動して位置合わせ」との実施例の表現を参酌すれば,下前基準線を目的位置に合致させるために必要な距離を計算,移動させるに必要な確認作業,それを目的として機能するものという趣旨であり,この検出センサー自体が下前基準線自体を計算することはもとより,検出する必要もない。
現に,実施例においても,この検出センサーは近接スイッチを用い,押付けバーの到達を検出する手段をとっており,下前基準線自体は検出していないし,移動距離は予め機器固有の既定値と製造する畳の寸法に応じて自動的に計算されるものである。
被告製品は,押付けバー50がその復帰位置にあることを確認する外端センサー53(外端センサー22)を備えている。
同外端センサー53は,押付けバー50が同センサーの検出位置(=原点復帰位置)にあることを確認する。
同センサーの検出位置(=原点復帰位置)は,機器固有の位置であり,その値は予め分かっている値であり,他方,下前基準線の位置は,製造する畳の規格寸法値であり,動作開始にあたって入力され,既に分かっている値であるから,したがって,押付けバー50の位置が確認されれば,畳縫着機10に畳床の下前基準線の位置を合わせるには,押付けバー50を前記検出位置から後どれだけ(=Pa)移動(=押付け)すればよいかは,自動的に判明している。
前記で判明している数値に相当する分押し付け移動することを可能にするため,エンコーダ60により移動量を検出して,押付けによる移動の際,畳縫着機10の切断刃73の原点位置に畳床の下前基準線の位置と同じか,又は僅か少ない位置(Xmin)にくるよう微調整しているが,これは,「下前基準線(L)の位置を計算するため確認する検出センサー(53)を備え」という要件に更に付加された要件である。
すなわち,構成要件C’では,畳押付け手段によって,畳床をどの程度押付けによって移動させればよいかという目的達成のために,下前基準線の位置と畳縫着機を合わせる必要があることから,そのための位置確認のために検出センサーを設けるとしているものである。
実際のクセ取り運動は,畳縫着機が数値制御によって行うものであり,これは構成要件A1の問題であって,C’では1次移動とでもいうべきものを可能ならしめるため,その移動起点の確認のために検出センサーの手段を採用している。
構成要件C’は,切断刃と下前基準線を合致させるといっているのではなく,「下前基準線(L)の位置を計算するため確認する検出センサー(53)」といっており,畳床の下前基準線を畳縫着機のどの位置に移動させるのかその具体的な位置までは限定していない。
下前基準線=KSの位置がXminの近傍にあることは争いがないはずであり,Xminの位置と切断刃原点位置を合致させている以上,下前基準線が畳縫着機10の所まで移動されることは自明である。
構成要件C’は,クセと下前基準線との間の微細な調整については白地としており,このために畳床の方は基準寸法である下前基準線を選択し,かつ,目的位置についても,畳縫着機の所であることは構成要件B2から明らかだとしても,それ以上に,切断刃と合わせるのか,ミシン針と合わせるのか,畳縫着機のどこと合わせるのか等の細部は限定しなかったのであり,被告製品においても,KS-Xminが微小であって,計算上明らかになっているのであるから,Xminの位置と切断刃の原点位置とを合致させることは,下前基準線が畳縫着機10まで移動されることにほかならない。
請求項2は,機器の発明であるから,機器としての特徴的要素が十分に記載されていれば,その使用方法(=動作方法)が全て記載されている必要はなく,押付け手段による移動と畳縫着機による移動との間に介在する方法を具体的にどうするかを構成要件として要求していない。
請求項1の方法発明においては,畳床が押付け手段によりどこまで移動するのか,また下前基準線及びその近辺にあるX0,X 1〜Xnが指す位置のどこと畳縫着機の切断刃やミシン針のどこを合致させるように位置決めして,その後どうやって縫着,切断を開始するのかが問題となるが,請求項2においては,構成要件上,どこに位置決めして縫着,切断を開始するのかが要件になっていないことは,その文言上明らかである。
構成要件C’と構成要件B2の両者の文言を総合すれば,畳床の下前基準線が押付け手段により畳縫着機の所まで移動することは明らかであり,畳床の下前基準線を畳縫着機の切断刃の位置に一致させるまで押し付けるとは,構成要件B1もC’もいっていない。
他方,構成要件A1により,畳縫着機はクセ取り運動をすることも明らかであるから,X0,X 1〜Xnのどれから開始するかは別論,縫着,切断の開始は,このいずれかが選ばれるであろうこともいえ,畳床の押付けによる移動位置とクセ取り運動による縫着,切断開始位置との間は,請求項2では設計者や使用者に任意に選択できる事項となっている。
本件明細書実施例では,畳床の端部の一方をX0として,そこが畳縫着機の切断刃に一致するように押付けにより畳床を移動させて,そこから縫着,切断を開始する例が開示されているが,それ以外にも,押付けによる移動により,切断刃の位置と下前基準線を一致させ,その後,クセ取り運動によりX0に一致させて縫着,切断を開始する手段,中央部のX2の位置と合致させ,後は畳縫着機にY軸上の往復運動させる手段,最も幅の広い位置,又は最も幅の狭い位置と合致させ,後は畳縫着機のクセ取り運動でX0までもってくる手段等々,幾らでも選択可能である。
クセ取り運動は,実際に製造する畳の規格寸法=下前基準線からのずれに対応するためのものであるから,X軸方向への移動可能距離はせいぜい30mm程度のものである。
これに対し,畳床の幅は900mm程度あること,各規格寸法の間の差も大きいことから,方向転換しただけの畳床は,100〜500mm程度の移動が通常必要であり,クセ取り運動では対応できない。
すなわち,クセ取り運動で対応できるようにするには,畳床を畳縫着機の移動範囲,具体的には30mm程度の範囲内に合わせる必要がある。
そこで,請求項2では,下前基準線を畳縫着機の所まで押付けによって移動させることとしたものであって,下前基準線を畳縫着機の所まで移動させれば,後は数mm単位の移動であるから,畳縫着機のクセ取り運動によっても,更に若干の押付けを追加しても,いずれでも可能であることから,請求項2は基準として下前基準線を採用したものである。
以上のとおり,請求項2は,機器の発明であり,畳床の移動位置と,クセ取り運動開始位置との間の動作の方法については,構成要件とはなっていないものである。
したがって,構成要件C’において,畳床を押し付け移動し,その下前基準線位置と畳縫着機の位置を合わせるようにするといっても,それは切断刃の位置と合わせるのがX0なのか,下前基準線の位置そのものなのかという細かい点までを特定したものではなく,下前基準線の位置が畳縫着機の位置よりずれていては困るという意味である。
また,請求項2は機器の発明であり,「位置を計算するため確認する検出センサーを備えている」といっているだけであるから,検出センサーが存在し,それが位置を計算する上で上記の役割を果たしていることが必要で,かつ,それで十分である。
したがって,仮に,計算するについて別の理解があり得るとしても,この検出センサー自身が計算するとでも解さない限り請求項2の関係では時点は問題にならない。
本件装置発明は,構成要件B1の方向転換手段を設け,要件C’の検出センサーにより位置決め可能にしたこと自体に新規性,進歩性のある発明であり,従来の公知技術はこの部分を人力で行っていたものである。
このように,新規性,進歩性のポイントが別の要件にある物の発明において,そのポイント以外の箇所の動作内容について,幾つもの可能な手段の中から特定の手段に限定する必要があるとは考えられない。
新規性,進歩性として評価すべきポイントは,自動化の遅れていた畳業界に,方向転換とその後の畳床の位置決めに数値制御技術を持ち込んだこと自体にあり,数値制御技術として,多くの周知手段の中からどのような技術を選んだかにある訳ではない。
被告方法が動作開始位置をXminにしたことで特段の作用効果があるわけではない。
第1に,動作開始位置がXminであろうがXmaxであろうが,Xmax-Xminの移動幅が必要だという幾何学的に自明な論理には変更はなく,何らかの意味で影響を受けるとすれば,それは原点位置,原点復帰位置をどこにするか等の本件特許発明の請求項1,2のいずれもが要件にしていない問題によって影響を受けるにすぎない(しかも,その場合でも,クセの幅はせいぜい2,3分=5mm前後であるのに対し,通常,機器自体の全体は2m前後の大型のものであり,そのクセ取り運動のX軸上の移動可能範囲も30mm程度と余裕を持って設計するのが普通であることから,実際には全く意味がない。)。
第2に,畳床のどこの場所を畳縫着機のどの場所に合わせるかについては,幾らでもバリエーションが考えられ,それらを実行する上ではいずれも機器自体は同じで,制御装置に内蔵される数値制御のプログラムの内容を書き換えさえすれば,動作内容もそれに合わせて変更できるものであるところ,それらの数値制御プログラムを作成するには,どれが困難でどれは易しいという要素はない。
(4) 構成要件D’の充足 D’「ことを特徴とする畳縫着機」 ここでの「畳縫着機」というのは,前記のとおり,畳台その他全体を含んだ機器全体を指している。
請求項2は機器の発明であり,請求項1の方法発明とはかなりの点で要件は異なっている。
請求項2の機器が請求項1の方法の実施に用いることが可能なことは当然想定されているであろうが,請求項1の方法の実施に限定された構造を要求している訳ではない。
数値制御は請求項2の要件であっても,請求項1のようにどのステップでどのような制御をするかは具体的な限定はない。
他方,方向転換については,請求項1では,方向転換するという以上のことは何も限定されていないが,請求項2では自動化できるような方向転換手段が要求されている。
下前基準線たる位置への移動や,クセ取り運動は要件であっても,実際にどういうステップで縫着,切断するかは限定されていない。
つまり,請求項1の方法を実現可能な機器を想定はしていても,その方法に限定することなく,構成を機器の面から規定したものだからである。
本件明細書の「課題を解決する手段」の項には,請求項1の【0005】では,下前基準線とクセ取り運動との間の関係の記載があるのに対し,請求項2の【0006】の説明ではそれがなく,直線定規と方向転換手段という機器的な要素の記載に変わっている。
請求項2の構成要件を考える上では,実際にどういうステップで動作する機械かということではなく,どういう機能の機器要素から成っているかという視点で判断されるべきである。
(5) 均等論 本件装置発明の本質は,畳床の方向転換と位置決めを自動化することによって省力化を図ったものを提供することにある。
このような畳床の自動位置決め制御において,直線基準定規は全く何の用もなしていない。
クセ取り縫着に際して,直線基準定規を使用しないものは周知であり(甲18,乙1〜3参照),直線基準定規は,ミシン本体12の数値制御に当たり必要不可欠な構成要素でない。
したがって,直線基準定規は,本件装置発明の本質的部分でなく,均等の要件(1)を充足する。
本件装置発明の直線基準定規を被告製品のように「無」に置き換えても,被告製品は,畳床の自動位置決め制御を可能とし,また,クセ取り縫着もできるのであるから(乙3参照),本件装置発明と同一の作用効果を奏し,均等の要件(2)を具備する。
本件装置発明の直線基準定規を被告製品のように「無」に置き換えることは,被告製品の製造等の時点において容易に想到できたものであり(甲18,乙1〜3参照),均等の要件(3)を具備する。
均等要件(4)について,被告製品が本件装置発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれらから同出願時に容易に推考できたことを示す証拠はない。
均等要件(5)について,被告製品が本件装置発明の出願手続きにおいて特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たる等の特段の事情もない。
したがって,被告製品は,本件特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,本件装置発明の技術的範囲に属する。
(被控訴人の主張) 1 本件方法発明 (1) 本件方法発明の技術的範囲の確定不能 本件方法発明が解決の課題とし,作用効果として奏するとする人手で従来行っていたと同じ畳床の切断開始位置への位置決めを自動的に行うための具体的手段は,構成要件C及び構成要件Dである。
本件方法発明の技術的範囲は,特許請求の範囲の記載に基づいて定められるものであるところ,特許請求の範囲における構成要件C及び構成要件Dの記載はその技術内容が不明なものであり,また本件明細書の「発明の詳細な説明」の項にも構成要件C及びDの解釈に参酌することができる記載は一切存在しないため,本件方法発明の技術的範囲を確定することはできない。
本件方法発明は,構成要件Cのうち「下前基準線(L)の位置を計算するために検出センサー(53)で確認し」については,下前基準線(L)の位置を計算するとはどういうことか,下前基準線(L)の位置を計算するために検出センサー(53)で確認する対象は何であるのか等が,また,構成要件Dのうち「該下前基準線(L)から移動された畳床(5)の下前側における畳幅方向の離間隔(X0)を計算し」については,移動された畳床(5),畳幅方向の離間隔(X 0)の意義は何か,畳床の移動段階のどの時点において,畳床のどの部分を基準として,畳巾方向の離間隔(X0)の計算を行うのか等の意義が,本件明細書の「発明の詳細な説明」の記載及び図面並びに当業者の技術常識参酌しても,いずれも不明確なものであり,本件方法発明の内容を合理的に解釈することができず,全体として技術的範囲を確定することができない。
控訴人が本件方法発明の技術内容であるとして説明する内容は,本件明細書に記載されていない。
本件方法発明の技術的範囲が確定できなければ,いかなる対象物がこれに属するかの認定をすること自体が不能である。
技術的範囲を確定することができない本件方法発明によっては,いかなる権利行使も許されない。
したがって,控訴人のいかなる請求も認められない。
かかる結論は,特許制度の本質からも導かれるところである。
すなわち,特許制度は,発明性ある技術を公衆に開示した対価として一定期間の独占が認められるものである。しかるに,本件方法発明は,従来人手で行っていた切断刃の切断開始位置に畳床の切断開始点を一致させるとの位置決めを自動化したいとの目的(願望)だけを記載するのみで,肝心の,具体的にどのような技術手段として構成すればかかる目的が達せられるのかを,当業者が実施できる技術として何ら開示していないのであるから,かかる本件方法発明にいかなる独占も認められる余地はない。
したがって,被告方法がその技術的範囲に属するか否かの対比判断自体が不能であり,被告方法はその技術的範囲に属することはない。
(2) 本件審決の認定する技術的範囲との対比 仮に,構成要件C及びDが本件審決(甲25)の認定のとおりに解釈できるとした場合の被告方法との対比は,以下のとおりである。
ア 本件方法発明は,本件審決の認定によれば,畳床を移動中に下前基準線の位置を計算して,切断刃の切断開始位置に畳床の切断開始位置を一致させることを技術思想とする(甲25の6頁6〜9行)。これに対し,被告方法は,位置決めするXminの位置を畳床を移動する以前に演算記憶済みであり,切断包丁の位置に畳床のXminの位置を一致させる工程と切断包丁の位置を畳床の切断開始位置に移動させる工程とを別工程とすることを技術思想とするものであり,両者は技術思想自体を異にする。
また,構成要件を対比してみても,被告方法は,構成要件C〜Eを充足せず,同構成要件を備えることを特徴とする畳のクセ取り縫着方法に該当しないから,本件方法発明の技術的範囲に属さない。
構成要件Aは,公知の方法であり,構成要件Aを充足することは争わない。
構成要件Bは,被告方法3の(3)及び5の工程に相当するので,構成要件Bを充足することは争わない。
構成要件Cの「該畳床(5)の上前側に押付け力を付与して下前側を畳縫着機(10)に向けて移動するとき,該下前側の下前基準線(L)の位置を計算するために検出センサー53で確認した後,」は,本件審決の認定では,「移動中の畳床の下前基準線と検出センサーとの距離を確認する」ことを意味する。
これに対して,一応の対応工程となる被告方法の7の(1),(2)の工程は,畳床を移動させる以前に演算・記憶格納済みの押込量(Pa)量分だけ巾寄せ20を前進せしめて停止させるものであって,畳床の移動中「移動中の畳床の下前基準線と検出センサーとの距離を確認する」ことを行っていない。
また,この工程において,平刺ミシンが原点位置にある切断包丁の位置に畳床のXminの位置が位置合わせされるのであり,本件方法発明の如く切断刃の切断開始位置と畳床の切断開始位置とを位置合わせする方法と技術思想自体を全く異にする。
したがって,被告方法の7の(1),(2)の工程は構成要件Cを充足しない。
被告方法の4の(1)の巾寄せの原点復帰工程は存在せず,原点位置の記憶がこの工程ではじめて行われるものでもない。
すなわち,原点復帰工程は,1日の作業の開始に当たって,ミシン本体,巾寄せを本来の当初の位置として設計上定められた位置(原点位置)に戻すための工程であり,いわゆるリセット(全てを定められた当初の状態に戻す)の工程である。最初に行われる1の原点復帰工程によって,巾寄せ20の原点位置及び平刺しミシン10の原点位置の記憶が行われ,この原点位置における,巾寄せ20に取り付けられた床押し21の端面から平刺ミシン10に取り付けられた切断包丁11までの距離が一定値たる原点距離Gとして,以降の巾寸法制御の基準となっているからである。
上前平刺し工程においては,巾寄せ20が元位置に戻るときに外端センサ22に検知されることになる結果として,外端センサが原点位置の確認を単に繰り返しているにすぎない。
被告製品においては,操作盤上の原点復帰ボタンを押すことによって,この原点復帰工程が実施され,それぞれが当初の位置(原点位置)にリセットされて戻る。原点復帰工程によってミシン本体が原点位置に戻るとミシン本体の位置を示すクセ取りモータの示す値がゼロにクリアされ,巾寄せが原点位置に戻ると巾寄せの位置を示す巾寄せエンコーダの示す値がゼロにクリアされ,これにより一日の作業開始に当たり全てがゼロクリアされるのである。
巾寄せやミシン本体が原点位置に戻るたびに,各々の位置を示す情報がゼロクリアされるが,これは単にこれらの部材がそれぞれの原点位置にあることをその都度再確認しているにすぎない(甲24参照)。
なお,3の上前側平刺し工程(1)において,イ号物件では巾寄せ20を移動させておらず,移動するハ号物件についてみても,畳台1のミシン側に設けたガイドを挟み込むまでの移動を行っているだけのことであり,上前平刺しのための位置決めを行うものではない。上前平刺しの場合の位置決めは,道具を用いて人が行っている(検甲2参照)。
構成要件Dの「該下前基準線(L)から移動された畳床(5)の下前側における畳幅方向の離間隔(X0)を計算しその計算値になるように畳床(5)を押し付け,」は,本件審決の認定では,「切断刃の切断開始位置からの下前基準線の距離に離間隔(X0)を加算,減算し,得られた計算値に基づき畳床を移動させる」ことを意味する。
構成要件Cにより畳床は既に移動中のものであるところ,構成要件Dはかかる構成要件Cによって「確認した後」の工程であるから,構成要件Dも移動中の畳床についての工程である。
これに対して,一応の対応工程となる被告方法の7の(1),(2)の工程は,巾寄せ20の畳床を前進せしめる押込量Paが,畳床を移動させる前に,既に格納済みのデータである原点距離Gから同じく格納済みのデータである畳床の実仕上がり寸法の最小値Xminを控除して算出され,このPa分の押込量によって切断包丁の位置に畳床のXminの位置に位置決めがされるものであり,「切断刃の切断開始位置からの下前基準線の距離に離間隔(X0)を加算,減算し,得られた計算値に基づき畳床を移動させる」ことを行っていない。
したがって,被告方法の7の(1),(2)の工程は,構成要件Dを充足しない。
構成要件Eの「その後,前記畳床(5)を締め付けてから数値制御により自動的にクセ取り縫着する」は,本件方法発明の課題解決手段たる構成要件C,Dによって切断刃の切断開始位置に畳床の切断開始位置が自動的に位置合わせされた,その後に構成要件Eによって畳床を締め付ける工程である。
したがって,構成要件Eによってその後,畳床が締め付けられ,固定される位置は,切断刃の切断開始位置と畳床の切断開始位置が一致した位置であるから,締め付けてから直ちにクセ取り縫着を開始するのが構成要件Eの技術内容である。
これに対して,一応の対応工程となる被告方法の7の(3)工程は,切断包丁の位置に畳床のXminの位置を位置合わせした位置で床締めが上昇して畳台に固定するものである。
したがって,被告方法の7の(3)の工程は切断刃の切断開始位置と畳床の切断開始位置とを一致せしめた後に畳床を締め付けるものではないから,構成要件Eを充足しない。
被告方法では,前記の工程において平刺ミシンが原点位置にある切断包丁の位置に畳床のXminの位置が位置合わせされて畳床が固定されているのであるから,前記の工程の後に畳床の切断開始位置へ平刺ミシンの切断包丁を一致させる工程は必須の工程である。
本件方法発明は,切断刃の切断開始位置と畳床の切断開始位置とを一致させて位置合わせを行い,畳床を固定して直ちにクセ取り縫着を開始するもの(構成要件E)であるから,本件方法発明との対比に当たっては,本工程はその方法としての相違を示す必須不可欠の工程となる。
7の工程によって畳床のXminの位置に位置合わせをして固定し,しかる後に8の工程で切断包丁を既に演算記憶済みのD0分だけ外側に移動させて,畳床の切断開始位置へ一致せしめるという方法は,被控訴人の特許性有る方法であり(乙3参照),かつ,これにより発明性有る作用効果を奏する。
すなわち,本件方法発明を含め従前公知のクセ取り縫着方法は,切断開始位置に位置決めしていたことから,1日に何十枚という畳を縫着する自動縫着機としては,畳の予測される通常のクセ量の2倍量の移動量をミシンの幅方向への許容移動量として見込んで機械設計を行う必要があった。
被告方法では,Xminに位置決めした後は,切断開始位置にD0分だけ必ず外側に平刺ミシンを移動させることになるため,1日に何十枚という畳を縫着する場合でも,予測される通常のクセ量と当量の移動量をミシンの幅方向への許容移動量として見込んで機械設計をすれば足りる。
本件方法発明を含む従来の公知方法による場合(2倍量の許容移動量の見込みが必要)と,被告方法による場合(当量の許容移動量の見込みで足りる)との比較で明らかなとおり,被告方法によるときは,従来の公知方法の半分の許容移動量を見込んだミシンの設計を可能にし,コンパクトな装置の実現を可能とするものである(被告明細書【0003】〜【0006】及び【0044】参照)。
カ 本件方法発明は,以上の構成要件A〜Eの全てを備える畳のクセ取り縫着方法であることが必須要件とされているところ,被告方法は,同要件も充足しない。
9の下前のクセ取り平刺し縫い工程は,畳床の位置合わせ工程と切断刃の畳床の切断開始位置への一致工程とを分離し,更に,D0〜D 4の数値によってクセ取り縫着を行うという独自の方法を示す工程である。
これに対して,本件方法発明は,切断刃の切断開始位置に畳床の切断開始位置を一致させて位置決めするという方法であるが故に,構成要件Eによって畳床を固定すると直ちにクセ取り縫着がなされることが必須要件とされている。
また,10の下前平刺し縫い終了による原点復帰工程においては,下前平刺し縫い工程が終了するとミシン本体と巾寄せを原点位置に復帰させ,位置情報をゼロクリアする。
かかる位置情報のゼロクリアによって次回の作業が正確に実施できるのであり,被告方法としての特徴有る独自の工程であって,本件方法発明とは基本的な技術思想が異なることを示す工程である。
2 本件装置発明 (1) 本件装置発明の技術的範囲の確定不能 本件装置発明が解決の課題とし,作用効果として奏するとする「切断刃の切断開始位置に畳の切断開始位置を位置合わせするという人手で従来行っていたと同じ位置決めを自動的に行う」ための具体的手段は,本件装置発明においては構成要件C’である。
本件装置発明の技術的範囲は,特許請求の範囲の記載に基づいて定められるものであるところ,本件装置発明の構成要件C’は「該畳床押込み手段(41)で押付けられた畳床(5)の下前側の下前基準線(L)の位置を計算するため確認する検出センサー(53)を備えている」という記載からなるものである。
この構成要件C’の記載は,本件装置発明として同一の発明目的を有する本件方法発明の構成要件Cの「該畳床(5)の上前側に押付け力を付与して下前側を畳縫着機(10)に向けて移動するとき,該下前側の下前基準線(L)の位置を計算するために検出センサー(53)で確認した後,」と対応する記載となっている。
したがって,構成要件Cについて既に詳述したと全く同じ理由によって,構成要件C’はその技術内容が不明である。
本件明細書の「発明の詳細な説明」の項にも,構成要件C’の解釈に参酌することができる記載は一切存在しないため,本件装置発明の技術的範囲を確定することはできない。
構成要件C’の下前基準線(L)の位置を計算するとはどういうことか,下前基準線(L)の位置を計算するために検出センサー(53)で確認する対象は何であるのか等の意義が,本件明細書の「発明の詳細な説明」の記載及び図面並びに当業者の技術常識参酌しても,いずれも不明確なものであり,本件装置発明の内容を合理的に解釈することができないから,全体として技術的範囲を確定することができない。
本件装置発明の技術的範囲が確定できなければ,いかなる対象物がこれに属するかの認定をすること自体が不能である。
かかる結論が特許制度の本質からも導かれることは前記のとおりである。
技術的範囲を確定することができない本件装置発明によっては,いかなる権利行使も許されない。
したがって,本件装置発明によっては,控訴人のいかなる請求も認められる余地はない。
また,被告製品がその技術的範囲に属するか否かの対比判断自体が不能であり,被告製品がその技術的範囲に属することはない。
(2) 本件審決の認定する技術的範囲との対比 仮に,構成要件C’が本件審決の認定のとおりに解釈できるとした場合の被告製品との対比は,以下のとおりである。
構成要件A’は,「数値制御により自動的にクセ取り運動をする畳縫着機(10)と,該畳縫着機(10)の側方に配置されていて直線基準定規(20)および畳床締付け手段(6)を有する畳台(4)とを備えているものにおいて」を必須要件とするところ,畳台が有する直線基準定規(20)は,少なくとも,請求項2に記載された文言からして,畳台に設けられるものであり,また,直線基準定規(20)の寸法基準面(20A)がミシン本体12のX軸方向の現在位置を計数するための基準となってミシン本体12の数値制御を行うことからして,切断刃が畳に食い込む力によってミシン本体,レール及び畳台に歪みが発生しても,この歪みによる誤差を補正するために,X軸方向の現在位置を絶えずフィードバックして,モーターによってミシン本体を目標の設定位置に確実に移動せしめるという構造を有するものである。
しかしながら,被告製品は,畳台にこのような直線基準定規を具備しておらず,構成要件A’を充足しない。
控訴人は,構成要件A’を,A1「数値制御により自動的にクセ取り運動をする畳縫着機(10)と」,A2「該畳縫着機(10)の側方に配置されている直線基準定規(20)」,A3「および畳床締付け手段(6)を有する畳台(4)と,を備えているもの」の3つに分解することによって,直線基準定規は,ミシン本体の側方に配置されていれば足りるとし(A2),また,畳台は,畳床締付け手段のみを有すれば足り,直線基準定規を有することを必須の構成要件としないとして(A3),それぞれ構成要件を書き換えており,主張自体失当である。
また,直線基準定規の意義内容からしても,控訴人の主張は失当である。
構成要件A’が規定する直線基準定規(20)は,畳を切断縫着する場合の切断刃の形状によってその刃先が畳床に食い込む力が発生し,その力により「ミシン本体,走行レール及び畳台に歪が発生しても,これを補正して設定寸法通りに切断縫着する」という目的効果を持つものであり(【0002】【0003】【0015】),ここに記載された直線基準定規による効果は,同じく直線基準定規を有することを特徴とする甲11の明細書の記載によれば,「ミシン本体18の畳台4に直交する方向の位置を,畳台4に設けた定規30を基準として計数出来るので,切断刃27が畳7に食い込む力によって,ミシン本体18,レール2,3及び畳台に歪が発生しても,この歪による誤差を補正した現在位置をフィードバックして,ミシン本体18を目標の設定位置に確実に移動でき,このためミシン台11の走行に伴い,切断刃27により畳7を寸法通りに切断縫着することができる」というものである。
そして,かかる効果を奏する直線基準定規の構成は,本件明細書の記載によれば,畳台4の長手方向に沿って設けられて畳台4に連結固定されているものであり,直線基準定規20の寸法基準面20aに当接する部材を介して第1位置検出手段24によってミシン本体の畳台に直交する方向の相対的位置を検出し,これによって「ミシン本体12のX軸方向の現在位置を定規20の寸法基準面20Aを基準として計数する」ものであり,「マイクロコンピュータ30は第1位置検出手段24の検出信号により得たX軸方向の現在位置とX軸方向の目標位置との差が無くなるように,モータ駆動回路31を制御して,モータ14の駆動によりミシン本体12を目標位置に移動せしめる」というものである(【0012】【0013】【0015】)。
したがって,本件明細書における全記載及び請求項2に記載された文言と本件装置発明が発明の対象とした従来技術である,直線基準定規を具備することを特徴とする甲11の記載とからして,構成要件A’における直線基準定規とは,少なくとも,畳台に設けられるものであり,直線基準定規20の寸法基準面20aがミシン本体12のX軸方向の現在位置を計数するための基準となってミシン本体12の数値制御を行うというものであり,切断刃が畳に食い込む力によって,ミシン本体,走行レール及び畳台に歪みが発生しても,この歪みによる誤差を補正するためX軸方向の現在位置を絶えずフィードバックして,モーターによってミシン本体を目標の設定位置に確実に移動せしめることを必須の構成及び作用効果とするものである。
控訴人の「直線基準定規は,直線状であること,それに基づいて,何らかの位置検出手段により,ミシンの第1位置すなわちX軸方向の位置の基準となり得ることが必要で,かつ,それで十分である」という主張は,特許請求の範囲の明確な文言(畳台が有する)に反し,また本件明細書に開示された上記の直線基準定規に関する構成・作用・効果の技術内容に反し,かつ,本件明細書に何らの根拠もないのであり,直線基準定規の技術内容の解釈において成り立つ余地がない。
また,控訴人主張の歪まないレールは,畳台に具備されていない。
歪まないレールの側面は,ミシン本体12のX軸方向の現在位置を計数するための基準となってミシン本体12の数値制御を行っていない。
切断刃が畳に食い込む力によって,たとえ歪まないレールが歪まなかったとしても,歪まないレールは,ミシン本体及び畳台に歪みが発生した場合の歪みによる誤差を補正するためX軸方向の現在位置を絶えずフィードバックし,モーターによってミシン本体を目標の設定位置に確実に移動せしめる作用効果を奏さない。
そもそも,レール等に歪みが発生した場合の誤差を補正するための補正装置である直線基準定規に,歪まないレールが該当するなどというのはパラドックスであり,成り立つ議論ではない。
以上のとおり,歪まないレールは,直線基準定規の構成・作用・効果を有さないのであり,直線基準定規に該当しない。
構成要件B’「前記畳台(4)に,上前側を切断縫着した畳床(5)を方向転換する方向転換手段(32)と,畳床(5)の上前側を押付けて畳床(5)の下前側を畳縫着機(10)に向けて押付ける畳床押込み手段(41)と,を備えているとともに,」は,構成要件A’を充足する畳台を具備することを必須要件とするから,構成要件A’を充足しない被告製品は,構成要件B’も充足しない。
構成要件C’「該畳床押込み手段(41)で押付けられた畳床(5)の下前側の下前基準線(L)の位置を計算するため確認する検出センサー(53)を備えている」は,本件審決の認定では,「移動中の畳床の下前基準線と検出センサーとの距離を確認する検出センサー53を具備すること」と解釈される。
被告製品は,前記被告方法との対比のとおり,一応の対応工程となる7の(1),(2)の工程で,畳床を移動させる以前に既に格納済みのデータである原点距離Gから同じく格納済みのデータであるXminを控除して演算・記憶格納済みの押込量Paの分だけ巾寄せ20を前進せしめて停止させている。
したがって,被告製品は,移動中の畳床の下前基準線と検出センサーとの距離を確認する検出センサーを具備しておらず,構成要件C’を充足しない。
構成要件D’は,構成要件A’〜C’を具備することを特徴とする畳縫着機であるから,被告製品は構成要件D’も充足しない。
被告製品は,畳床のXminの位置に位置合わせをして固定し,しかる後に切断包丁を既に演算記憶済みのD0分だけ外側に移動させて,畳床の切断開始位置へ一致せしめるという被控訴人の特許性有る方法を実施する装置であり,かつ,これにより発明性有る作用効果を奏するものである。
争点に対する判断
1 争点1(本件方法発明及び本件装置発明は,技術的範囲を確定することができないものか。)について (1) 本件方法発明の技術的意義について ア 甲2によれば,本件明細書の「発明の詳細な説明」及び図面には,次の記載があることが認められる。
(ア) 「産業上の利用分野」の項には,「本発明は,畳のクセ取り縫着方法 及び畳縫着機に関するものである。」との記載がある(【0001】,3欄2〜3行)。
(イ) 「従来の技術」の項には,「ミシン台を畳台に沿って走行自在に設けるとともに,切断刃及び縫着針等を有するミシン本体をミシン台に対して畳台と直交する方向に移動自在に設け,予め設定したクセ取り寸法に従って,ミシン台の走行とともにミシン本体を畳台と直交する方向に駆動し,数値制御方式によりミシン本体の走行に伴って畳台に締め付け固定した畳床を設定寸法に切断縫着する畳縫着機において,ミシン本体,走行レール及び畳台等に歪が発生しても,これを補正して設定寸法通りに切断縫着する畳縫着機は,例えば,特公昭62-38973号公報にて本件出願人が提案し,当業界において広く利用されている。」と記載されている(【0002】,3欄5〜15行)。
(ウ) 「発明が解決しようとする課題」の項には,「前述公報で開示の技術にあっては,上前側を切断縫着(所謂平刺し)した後,下前側を切断縫着(所謂平刺し)するとき,人手によって畳床の方向転換をするとともに,下前基準線(下前切断位置)に人手によって下前側を合致していたため,省力化の点で課題があった。」(【0003】,3欄17〜22行),「本発明は,上前側を切断縫着した後,下前側をクセ取り切断縫着する場合であっても,畳床の方向転換と位置決めを自動化することによって省力化を図ったことを目的とするものである。」(【0004】,3欄28〜32行)という記載がある。
(エ) 「課題を解決するための手段」の項には,「請求項1に係る本発明では,数値制御により自動的にクセ取り運動をする畳縫着機10を用いて,畳台4上に締付けられている畳床5の下前側をクセ取り縫着する方法において,前述の目的を達成するために次の技術的手段を講じている」,「すなわち,請求項1に係る本発明では,上前側を切断縫着した畳床5を方向転換してその下前側を畳縫着機10に向けて畳台4上に載置した後,該畳床5の上前側に押付け力を付与して下前側を畳縫着機10に向けて移動するとき,該下前側の下前基準線Lの位置を計算するために検出センサー53で確認した後,該下前基準線Lから移動された畳床5の下前側における畳幅方向の離間隔X0を計算しその計算値になるように畳床5を押付け,その後,前記畳床5を締付けてから数値制御により自動的にクセ取り縫着することを特徴とするものである。」という記載がある(【0005】,3欄34〜48行)。
(オ) 「作用」の項に,「その後,畳床締付け手段6により畳床5を畳台4に固定した後,ミシン本体12を数値制御によりクセ取り運動して下前側の切断縫着がなされる。」という記載がある(【0008】,4欄23〜26行)。
(カ) 図1に制御装置29が図示されており,その説明として,「実施例」の項に,「29は制御装置であり,マイクロコンピュータ30とモータ14を駆動するモータ駆動回路31とを備え,この制御装置29は次のような動作をする。」(【0014】,5欄18〜21行),「平刺しの場合,間取りを測定して得た畳を切断縫着すべき寸法,即ち,図5に示す如く畳長手方向(以下Y軸方向とする)の複数の各基準点A,B,C,D,Eにおける下前基準線Lに対する畳幅方向(以下X軸方向とする)の離間隔X0,X 1,X 2,X 3,X 4,を,キースイッチのキー操作により入力すると,この設定された寸法を基にマイクロコンピュータ30が各ステップ毎(Y軸送り10mm毎)にX軸の目標値を定規20の寸法基準面20aが基準になるように変換計算する。そして,切断刃19を切断開始位置に合わせ,手動ハンドル13の回動又は回動軸26に連結した図示省略のモータの駆動により,ミシン台11をY軸方向に走行移動すると,マイクロコンピュータ30は第2位置検出手段25からの検出信号を入力して,前記切断開始位置を基準としたY軸方向の現在位置を数値的に算出すると共に,このY軸方向の現在位置に対するX軸方向の目標位置(設定位置)を前記切断開始位置を基準として算出する。また同時にマイクロコンピュータ30は第1位置検出手段24からの検出信号により,ミシン本体12のX軸方向の現在位置を定規20の寸法基準面20aを基準として計数する。そしてマイクロコンピュータ30は第1位置検出手段24の検出信号により得たX軸方向の現在位置とX軸方向の目標位置との差がなくなるように,モータ駆動回路31を制御して,モータ14の駆動によりミシン本体12を目標位置に移動せしめる。」(【0015】,5欄22〜45行)という記載がある。
(キ) 「実施例」の項には,「その後,締付け手段7によって畳床5を畳台4に固定し,数値制御により,畳縫着機10によって畳床5の下前側をクセ取り切断縫着すべく畳台4に沿って走行するのである」という記載がある(【0021】,6欄49行〜7欄2行)。
(ク) 「発明の効果」の項には,「本発明によれば,畳床の上前を切断縫着した後の下前のクセ取り切断縫着までを数値制御による自動化を図りつつ下前切断縫着に移行するときの方向転換及び位置決めを自動化できて省力化に寄与できる点で有益である。」という記載がある(【0023】,7欄10〜14行)。
イ 本件明細書及び図面の上記記載に照らせば,本件方法発明は,従来技術である「数値制御方式によりミシン本体の走行に伴って畳台に締め付け固定した畳床を設定寸法に切断縫着する畳縫着機」が有する問題点を解決するため,「該下前側の下前基準線Lの位置を計算するために検出センサー53で確認した後,該下前基準線Lから移動された畳床5の下前側における畳幅方向の離間隔X0を計算しその計算値になるように畳床5を押し付け,その後,前記畳床5を締付けてから数値制御により自動的にクセ取り縫着」し,畳床の方向転換と位置決めを自動化することによって省力化を図ったことに特徴があるといえる。
(2) 当業者の技術常識ないし公知技術 証拠(甲2,7〜11,23,40,乙1)及び弁論の全趣旨によれば,本件方法発明の出願当時,次の事実が当業者の技術常識ないし公知技術であったことが認められる。
建物を建てるときの柱と柱との間の距離(通常は2間)を測定する場合,地域により,(A)柱と柱の内側にて測定する場合と(B)柱と柱の芯々で測定する場合とがあった。柱と柱との距離は通常は2間,柱の大きさは通常4寸角が使用されているため,(A)の場合には柱の内側どうしの距離は12尺となり,(B)の場合には柱の内側どうしの距離は11尺6寸となる。また,柱と柱との間に畳を2枚敷き込むため(A)の場合には畳1枚の長さは6尺となり,(B)の場合には畳1枚の長さは5尺8寸となる。なお,1間を6尺3寸としていた地域では畳1枚の長さは6尺3寸となる。したがって,畳の基準となる長さには5尺8寸・6尺・6尺3寸という種類ができた。これらの長さ寸法を「畳基準寸法」といい,「五八基準」とは畳の長さ寸法が5尺8寸,幅寸法が2尺9寸を基準とする畳,「三六基準」とは畳の長さ寸法が6尺,幅寸法が3尺を基準とする畳,「本間基準」とは畳の長さ寸法が6尺3寸,幅寸法が3尺1寸5分を基準とする畳である。
畳基準寸法を用いて部屋の形状を測定し,部屋の形状から畳寸法を算出するときも,畳基準寸法に対しどの程度大きいか小さいかという表現方法により表示する。畳基準寸法5尺8寸で部屋の形状を測定したときには,畳長さ基準が5尺8寸,畳幅基準が2尺9寸と表わされる。
畳の「上前」とは,畳を部屋に敷き込んだとき,畳と畳が接する長手方向の部分であり,直線的に加工されている。「下前」とは,上前と反対側であって,敷居に接する部分であり,部屋の歪みに応じて畳を加工する必要のある長手方向の部分である。下前側の歪みを「クセ(曲)」という。畳の「框」とは,畳のそれぞれの短辺側の部分である。
畳のそれぞれの短辺側における上前からの各基準における上記畳幅基準寸法の位置を「下前基準点」といい,それぞれの下前基準点を結んだ線(仮想の線)を「下前基準線」といい,下前基準線に対して大小寸法を3〜5か所設定し,畳の下前側の形状を決定する。畳の長さは同様にその基準における上記畳長さ基準寸法に対して大小を設定し,畳の長さを決定する。これらの畳の寸法データを畳縫着機に入力して部屋の形状に適合する畳を製作する。
1枚の畳を製作するには,框縫い工程,平刺し工程,隅止め工程,返し縫い工程を経る。
畳のクセ取り縫着をするのを数値制御方式によつて行う方法については,「周知のように家屋構築に当って間取りした場合,敷設される全べてが平行長方形であるとは限らず,室内外周り即ち敷居部分は直線でなく屈折しているため,此の屈折寸法を測定し畳の寸法を定め畳を製作するものである。
ところで,畳表と同時に畳床を切断縫着する従来の畳縫着機は,ミシン台を畳台に沿って走行自在に設けると共に,切断刃及び縫着針等を有するミシン本体をミシン台に対して畳台と直交する方向に移動自在に設け,予め設定したクセ取り寸法に従って,ミシン台の走行と共にミシン本体を駆動装置によって畳台と直交する方向に駆動し,数値制御方式によつてミシン本体の走行に伴って畳台に固定した畳を設定寸法に切断縫着するという」(甲11)方法が公知であり,本件明細書でも「従来の技術」の項(【0002】,3欄5〜15行)で同様の指摘をしている。
その具体的方法は,間取りを測定して得た畳を切断縫着すべき寸法,すなわち,畳長手方向(以下「Y軸」ということがある。)の複数の各基準点A,B,C,D,Eにおける下前基準線Lに対する畳幅方向(以下「X軸」ということがある。)の離間隔X0,X 1,X 2,X 3,X 4,を入力後,手動操作でミシン本体の切断刃を畳台に固定した畳自体の框側の切断開始位置に合わせ,当該切断開始位置を基準としたY軸方向の現在位置を数値的に算出し,このY軸方向の現在位置に対するX軸方向の目標位置(設定位置)を前記切断開始位置を基準として算出するとともに,X軸方向の現在位置を数値的に算出して,X軸方向の現在位置とX軸方向の目標位置との差がなくなるように,ミシン本体を目標位置に移動せしめるというものであり,なお,その際,ミシン本体のX軸方向の現在位置を直線定規の寸法基準面を基準として計数するという方法を採ることにより,切断刃が畳に食い込む力よって,ミシン本体,レール及び畳台に歪みが発生しても,その歪みによる誤差を補正したX軸方向の現在位置をフィードバックして,ミシン本体を目標の設定位置に確実に移動でき,ミシン台のY軸方向の走行に伴い切断刃によって畳を寸法どおりに正確に切断することができるというものであった(甲11の4欄39行〜5欄30行)。
そして,一般的に,目標位置に自動的に移動,停止させる制御は,目標位置に対する現在位置を検出センサーにより検出して目標位置と現在位置との距離を算出し,当該数値に応じて自動的に移動させるという方法によっていた。
(3) 本件方法発明の技術的意義の具体的内容 前記認定・説示のとおり,本件方法発明は,その技術的意義が,畳床の方向転換と位置決めを自動化することによって省力化を図った点にあり,上記公知技術に照らせば,上前側を切断縫着した後,ミシン本体の切断刃を畳台に固定した畳自体の框側の切断開始位置に合わせるに際し,従来行っていた手動操作を自動操作としたものである。そして,本件方法発明は,特許請求の範囲,特に構成要件D,Eから明らかなとおり,畳床を押し付けた後,畳床を締め付けてから数値制御により自動的にクセ取り縫着することを構成としているから,畳台に固定した畳床の畳自体の框側の切断開始位置を,畳を切断縫着する装置上で特定(畳床の框側の切断開始位置の特定。以下,これを「畳床の位置決め」ということがある。)をして,ミシン本体の切断刃をその特定された切断開始位置に合わせ,数値制御により自動的にクセ取り縫着することを構成としているといえる。したがって,下前側を切断縫着するため畳床の方向転換をし,畳床の框側の切断開始位置の特定(畳床の位置決め)をすることを自動化することによって省力化を図るとともに,ミシン本体の切断刃をその特定された切断開始位置に合わせること,しかも自動的に合わせること(その後,自動的にクセ取り縫着すること)を当然の内容としているというべきである。
以上の認定・説示から考えると,当該畳床の確定した既定の下前基準線から予め測定して設定された離間隔X0の距離の位置が当該畳床自体の框側の切断開始位置であるから,自動化の対象となる,畳床の框側の切断開始位置を特定(畳床の位置決め)することとミシン本体の切断刃をその特定された切断開始位置に合わせることの方法としては,畳台に固定した畳床自体の框側の切断開始位置を目標位置としてミシン本体の切断刃を移動させる方法,逆に,ミシン本体の切断刃を目標位置として畳台に固定した畳床自体の框側の切断開始位置を移動させる方法,さらに,任意の位置を目標位置として,畳台に固定した畳床自体の框側の切断開始位置を移動させるとともに,ミシン本体の切断刃をも移動させる方法が想定される。
本件方法発明は,「上前側を切断縫着した畳床(5)を方向転換してその下前側を畳縫着機(10)に向けて畳台(4)上に載置した後,該畳床(5)の上前側に押付け力を付与して下前側を畳縫着機(10)に向けて移動するとき,該下前側の下前基準線(L)の位置を計算するために検出センサー53で確認した後,該下前基準線(L)から移動された畳床(5)の下前側における畳幅方向の離間隔(X0)を計算しその計算値になるように畳床(5)を押し付け,その後,前記畳床(5)を締め付けてから数値制御により自動的にクセ取り縫着することを特徴とする畳のクセ取り縫着方法」であり,本件明細書の「課題を解決するための手段」の項に,同様の記載があり(【0005】,3欄34〜48行),「作用」の項に,「その後,畳床締付け手段6により畳床5を畳台4に固定した後,ミシン本体12を数値制御によりクセ取り運動をして下前側の切断縫着がなされる」という記載があり(【0008】,4欄23〜26行),「実施例」の項に,「その後,締付け手段7によって畳床5を畳台4に固定し,数値制御により,畳縫着機10によって畳床5の下前側をクセ取り切断縫着すべく畳台4に沿って走行するのである」という記載がある(【0021】,6欄49行〜7欄2行)ところ,本件明細書には,自動化の対象となる,畳床の框側の切断開始位置を特定(畳床の位置決め)することとミシン本体の切断刃をその特定された切断開始位置に合わせることの方法をどうするかについて明示的に言及する記載はない。
【0015】は,平刺しの場合のミシン本体の位置決めの記載であり,上前側を切断縫着した後,方向転換してその畳床(5)の框側の切断開始位置を特定(畳床の位置決め)することに関するものではないが,構成要件Dの「該下前基準線(L)から移動された畳床(5)の下前側における畳幅方向の離間隔(X0)を計算しその計算値になるように畳床を押し付け,」及び構成要件Eの「その後,前記畳床(5)を締め付けてから数値制御により自動的にクセ取り縫着する」ことに関するものであって,畳床の框側の切断開始位置を特定(畳床の位置決め)した後,下前側をクセ取り切断縫着する開始前の操作を経るものであるところ,これによると,「平刺しの場合,間取りを測定して得た畳を切断縫着すべき寸法,即ち,図5に示す如く畳長手方向(以下Y軸方向とする)の複数の各基準点A,B,C,D,Eにおける下前基準線Lに対する畳幅方向(以下X軸方向とする)の離間隔X0,X 1,X2,X 3,X 4,を,キースイツチのキー操作により入力すると,この設定された寸法を基にマイクロコンピュータ30が各ステツブ毎(Y軸送り10o毎)にX軸の目標値を定規20の寸法基準面20aが基準になるように変換計算する。そして,切断刃19を切断開始位置に合わせ,手動ハンドル13の回動又は回動軸26に連結した図示省略のモータの駆動により,ミシン台11をY軸方向に走行移動すると,マイクロコンピュータ30は第2位置検出手段25からの検出信号を入力して,前記切断開始位置を基準としたY軸方向の現在位置を数値的に算出すると共に,このY軸方向の現在位置に対するX軸方向の目標位置(設定位置)を前記切断開始位置を基準として算出する。また同時にマイクロコンピュータ30は第1位置検出手段24からの検出信号により,ミシン本体12のX軸方向の現在位置を定規20の寸法基準面20aを基準として計数する。そしてマイクロコンピュータ30は第1位置検出手段24の検出信号により得たX軸方向の現在位置とX軸方向の目標位置との差がなくなるように,モータ駆動回路31を制御して,モータ14の駆動によりミシン本体12を目標位置に移動せしめる。」(5欄22行〜45行)とされ,畳床の框側の切断開始位置を特定(畳床の位置決め)することとミシン本体の切断刃をその特定された切断開始位置に合わせることの方法について直接の言及はないが,切断刃を切断開始位置に合わせることが明示されているといえる。
上記公知技術と本件明細書の記載とから考えて,本件方法発明がこれにつきどのような方法を採り得るのかを検討する。
第1に,当該畳床自体の框側の切断開始位置を目標位置としてミシン本体の切断刃を移動させる方法を採るとして考えると,方向転換してその下前側を畳縫着機に向けて畳台上に載置した畳床に対し,ミシン本体の切断刃を畳床の下前基準線に移動させ(下前基準線は仮想線であるから,この移動量は,物理的にその存在を確認し得る畳床の上前の,切断縫着する装置上での位置となる畳床押込み手段の位置を検出,確定し,切断刃からこの位置までの距離と畳幅基準寸法との相互比較により決定される。),さらに,予め測定して設定された離間隔X0の長さだけ移動させる方法(上記2段階の操作を一本化した操作を含む。)が考えられる。
第2に,ミシン本体の切断刃の位置(下前基準線に平行な線。以下同じ。)を目標位置として当該畳床自体の框側の切断開始位置を移動させる方法を採るとして考えると,方向転換してその下前側を畳縫着機に向けて畳台上に載置した畳床につき,その下前基準線の位置がミシン本体の切断刃の位置からどれだけの距離にあるかを検出,確定し(下前基準線は仮想線であるから,この距離は,物理的にその存在を確認し得る畳床の上前の,切断縫着する装置上での位置となる畳床押込み手段の位置を検出,確定し,切断刃からこの位置までの距離と畳幅基準寸法との相互比較により,前者から後者を控除した長さとなる。),その距離と予め測定して設定された離間隔X0の長さとの相互比較により決定される量(上記距離に離間隔X0の長さを加減する。)だけ畳床を移動させる方法が考えられる。
第3に,任意の位置(下前基準線に平行な線。以下同じ。)を目標位置として,当該畳床自体の框側の切断開始位置を移動させるとともに,ミシン本体の切断刃をも移動させる方法を採るとして考えると,方向転換してその下前側を畳縫着機に向けて畳台上に載置した畳床につき,目標位置として,切断縫着する装置上で任意の位置を設定し,その位置から下前基準線までどれだけの距離にあるかを検出,確定し(下前基準線は仮想線であるから,この距離は,物理的にその存在を確認し得る畳床の上前の,切断縫着する装置上での位置となる畳床押込み手段の位置を検出,確定し,上記任意の位置から上前の位置となる畳床押込み手段の位置までの距離と畳幅基準寸法との相互比較により,前者から後者を控除した長さとなる。),当該検出,確定,決定された距離と予め測定して設定された離間隔X0の長さとの相互比較により決定される量(上記距離に離間隔X0の長さを加減する。)だけ畳床を移動させ,次いで,ミシン本体の切断刃を上記任意の位置に移動させる方法が考えられる。
本件方法発明の構成,本件明細書の記載からすると,畳床を押し付けることが必要不可欠であるから,本件方法発明が畳床の移動のない第1の方法を採用しているとはいえないが,畳床を移動させる第2,第3の方法は,本件方法発明が採用し得るものである。
そして,前記公知技術及び本件明細書に関する前記認定,説示したところによれば,本件方法発明が畳床を移動させる第2の方法を採り得ることは明らかであるが,本件明細書【0015】で切断刃を切断開始位置に合わせることが明示されていることからすると,ミシン本体の切断刃を畳床の框側の切断開始位置に移動させることが示唆されていると解されるから,ミシン本体の切断刃以外の任意の位置を畳床の位置決めの目標位置とすることが排除されていてミシン本体の切断刃の位置を畳床の位置決めの目標位置とすることに限定されているとはいえず,第3の方法を採り得るといえる。
(4) 本件方法発明の技術的範囲の確定 ア 前記公知技術等を前提とすれば,構成要件Cの「該畳床(5)の上前側に押付け力を付与して下前側を畳縫着機(10)に向けて移動するとき,該下前側の下前基準線(L)の位置を計算するために検出センサー53で確認した後,」における「検出センサー53で確認」する対象は,文言上,直接的明示がないものの,文理上,仮想線である下前基準線の位置であり,しかも,切断縫着する装置上での下前基準線の位置であり,さらに,物理的にその存在を確認し得る畳床の上前の位置であり,結局,切断縫着する装置上での位置となる畳床押込み手段の位置であると理解することができる。
したがって,構成要件Cの「該畳床(5)の上前側に押付け力を付与して下前側を畳縫着機(10)に向けて移動するとき,該下前側の下前基準線(L)の位置を計算するために検出センサー53で確認した後,」とは,「該畳床(5)の上前側に押付け力を付与して下前側を畳縫着機(10)に向けて移動するとき,切断縫着する装置上での下前基準線(L)の位置を計算するために,ミシン本体の切断刃の位置又は切断縫着する装置上の任意の位置を目標位置とした上,畳床押込み手段の位置を同目標位置からの距離として検出センサー53により確認した後,」という意味となる。
イ 同様に,構成要件Dの「該下前基準線(L)から移動された畳床(5)の下前側における畳幅方向の離間隔(X0)を計算しその計算値になるように畳床を押し付け,」における「該下前基準線(L)から移動された畳床(5)の下前側における畳幅方向の離間隔(X0)を計算し」の意義は,文言上,直接的明示がないものの,文理上,前記目標位置から前記確認された畳床押込み手段の位置を基準として計算,算出された下前基準線の位置までの距離と予め測定して設定された離間隔X0の長さとの相互比較により,すなわち,上記距離に離間隔X 0の長さを加減することにより,畳床を移動させる量を計算,算出するという意味となる。
上記下前基準線の位置の計算・算出は,方向転換してその下前側を畳縫着機に向けて畳台上に載置した畳床につき,同装置上での上前の位置となる畳床押込み手段の位置を検出,確定し,前記第2の,ミシン本体の切断刃の位置を目標位置として当該畳床自体の框側の切断開始位置を移動させる方法を採るとして考えると,切断刃の位置から上前の位置となる畳床押込み手段の位置までの距離と畳幅基準寸法との相互比較により,また,前記第3の,任意の位置を目標位置として,当該畳床自体の框側の切断開始位置を移動させるとともに,ミシン本体の切断刃をも移動させる方法を採るとして考えると,目標位置として,切断縫着する装置上で任意の位置を設定し,その位置から上前の位置となる畳床押込み手段の位置までの距離と畳幅基準寸法との相互比較により,いずれも,前者から後者を控除してなされる。
したがって,また,前記第2の,ミシン本体の切断刃の位置を目標位置として当該畳床自体の框側の切断開始位置を移動させる方法を採るとして考える場合にも,前記第3の,任意の位置を目標位置として,当該畳床自体の框側の切断開始位置を移動させるとともに,ミシン本体の切断刃をも移動させる方法を採るとして考える場合にも,下前基準線(畳幅基準)に対しどの程度大きいか小さいかを表す離間隔X0は,当該畳床自体の框側の切断開始位置における離間隔を意味すると解することが必要であり,このように解することは,前記公知技術を踏襲するものとして当然であるし,本件明細書の実施例の記載(6欄46行〜49行)や図5の記載ともよく符合する。
そうすると,構成要件Dの「該下前基準線(L)から移動された畳床(5)の下前側における畳幅方向の離間隔(X0)を計算しその計算値になるように畳床を押し付け,」とは,「前記確認された畳床押込み手段の位置を基準として,切断縫着する装置上での下前基準線(L)の位置を,目標位置である上記ミシン本体の切断刃の位置又は切断縫着する装置上の任意の位置から畳床押込み手段の位置までの距離と畳幅基準寸法との相互比較により,前者から後者を控除して算出し,前記目標位置から上記下前基準線(L)の位置までの距離と当該畳床自体の框側の切断開始位置における離間隔X0の長さとの相互比較により,すなわち,上記距離に離間隔X0の長さを加減する計算をし,その計算値になるように畳床を押し付け,」という意味となる。
ウ 前記のとおり,本件方法発明は,ミシン本体の切断刃の位置又は切断縫着する装置上の任意の位置を切断開始の目標位置とするものであるから,構成要件Eの「その後,前記畳床(5)を締め付けてから数値制御により自動的にクセ取り縫着する」場合,ミシン本体の切断刃の位置を切断開始の目標位置としているときは,「前記畳床(5)を締め付けてから」,そのまま「数値制御により自動的にクセ取り縫着する」ことになり,切断縫着する装置上の任意の位置を切断開始の目標位置としているときは,「前記畳床(5)を締め付けてから」,当該目標位置にミシン本体の切断刃を合わせて「数値制御により自動的にクセ取り縫着する」ことになる。
エ したがって,本件方法発明の技術的範囲は,確定している。
(5) 本件装置発明の技術的範囲の確定 同様の理由で,構成要件C′の「該畳床押込み手段(41)で押付けられた畳床(5)の下前側の下前基準線(L)の位置を計算するため確認する検出センサー(53)を備えている」とは,「該畳床押込み手段(41)で押し付けられた畳床(5)の,切断縫着する装置上での下前基準線(L)の位置を計算するために,ミシン本体の切断刃の位置又は切断縫着する装置上の任意の位置を目標位置とした上,畳床押込み手段の位置を同目標位置からの距離として確認する検出センサー(53)を備えている」という意味となる。
したがって,本件装置発明の技術的範囲は,確定している。
2 争点2(被告方法は,本件方法発明の技術的範囲に属するか。)について (1) 被告方法 本判決添付別紙被告方法目録記載のうち傍線部分を除く部分の記載は,当事者間に争いがない。
被告方法3(1)の「上前側平刺し工程の巾寄せ20を移動させ」との点は,検甲5により認め,4(1)の「巾寄せの原点復帰工程」の点は,甲24,検甲5,弁論の全趣旨(原審被告第5準備書面11頁11〜14行,17頁末行〜18頁1行)により認め,5の「畳床の回転工程の上前側を切断縫着した畳床2を方向転換してその下前側を平刺ミシン10側に向け,反転テーブル3を下降させて,畳床2を畳台1上に載置する」との点は,検甲5により認め,7の「目標位置に畳床のXminの位置を合わせる工程」との点は,7の(1)〜(3)の内容からして,切断包丁11の位置に畳床のXminの位置を合わせる工程とするのが相当であり,8の「畳床の切断開始位置へ平刺ミシンの切断包丁を一致させる工程のXminの位置が,框側のX0の場合,切断包丁11の待機位置から切断が開始されるので,平刺ミシンの切断包丁を一致させる当該工程は行われない」との点は,直接これを確認させる証拠はないが,事柄の性質上,それ自体はこれを認めることができ,9の「数値制御により自動的に」との点は,弁論の全趣旨により認める。
(2) 構成要件の充足性 ア 構成要件A及びB 被告方法が本件方法発明の構成要件A及びBを充足することは争いがない。
構成要件C 被告方法は,3の上前側平刺し工程において,制御装置30が入力済みの寸法データから,畳基準KSに偏差(X0〜X 4)を各々加減して(別紙各被告方法目録に争いのない事実として「合算して」とあるが,誤りである。)仕上がり後の実寸法(XA〜XE)を求め,この実寸法のうち最小の仕上がり寸法をXminとして,最大の仕上がり寸法をXmaxとして代入して記憶し,最小の仕上がり寸法Xminと仕上がり後の実寸法(XA〜XE)との差をD0〜D 4として演算し記憶し,かつ,上前側の縫着及び切断が行われた後,4(1)の巾寄せの原点復帰工程として,巾寄せ20が原点復帰し,この原点復帰において,巾寄せ20を外端センサ22で確認し,外端センサ22が巾寄せ20を確認することにより,原点距離Gがリセットされ,次いで,平刺ミシンの原点復帰工程で平刺ミシン10を原点位置まで復帰させ,その後,切断包丁11の位置に畳床のXminの位置を合わせる工程で巾寄せ20が畳床2を前進させてミシン側に押し込むものである。
本件方法発明において,構成要件Cは,「該畳床(5)の上前側に押付け力を付与して下前側を畳縫着機(10)に向けて移動するとき,切断縫着する装置上での下前基準線(L)の位置を計算するために,ミシン本体の切断刃の位置又は切断縫着する装置上の任意の位置を切断開始の目標位置とした上,畳床の上前の同装置上での位置となる畳床押込み手段の位置を同目標位置からの距離として検出センサー53により確認した後,」というものである。
そうすると,被告方法は,上前側の縫着及び切断が行われた後,巾寄せの原点復帰工程がなされ,その後,切断包丁11の位置に畳床のXminの位置を合わせる工程で巾寄せ20が畳床2を前進させてミシン側に押し込むものであり,構成要件Cの「該畳床(5)の上前側に押付け力を付与して下前側を畳縫着機(10)に向けて移動するとき,」に上記巾寄せの原点復帰において,巾寄せ20を外端センサ22で確認し,外端センサ22が巾寄せ20を確認することにより,原点距離Gがリセットされるから,同構成要件の同部分を充足する。
被控訴人は,構成要件C(「該畳床(5)の上前側に押付け力を付与して下前側を畳縫着機(10)に向けて移動するとき,該下前側の下前基準線(L)の位置を計算するために検出センサー53で確認した後,」)を,甲25の本件審決の認定を前提に「移動中の畳床の下前基準線と検出センサーとの距離を確認する」と解した上で,被告方法の7の(1),(2)の工程を一応の対応工程として,畳床を移動させる以前に演算し記憶格納済みの押込量Pa分だけ巾寄せ20を前進,停止させるものであって,畳床の移動中「移動中の畳床の下前基準線と検出センサーとの距離を確認する」ことは行っていないと主張するが,構成要件Cは,「移動するとき」としているのであって,「移動中」としていないから,「移動中」と狭く限定するいわれがない上,そもそも,巾寄せの確認でなくて巾寄せの前進・押込みをする7の(1),(2)の工程を一応の対応工程としている点で不相当であり,採用しない。
次に,被告方法は,3の上前側平刺し工程において,制御装置30が入力済みの寸法データから,畳基準KSに偏差(X0〜X 4)を各々加減して仕上がり後の実寸法(XA〜XE)を求め,この実寸法のうち最小の仕上がり寸法をXminとして,最大の仕上がり寸法をXmaxとして代入して記憶し,最小の仕上がり寸法Xminと仕上がり後の実寸法(XA〜XE)との差をD0〜D 4として演算し記憶しており,外端センサ22が巾寄せ20を確認して原点距離Gがリセットされることにより,巾寄せ20に取り付けられた床押し21の端面から平刺ミシン10に取り付けられた切断包丁11までの距離である原点距離Gが確認されたといえるから,構成要件Cの「ミシン本体の切断刃の位置又は切断縫着する装置上の任意の位置を切断開始の目標位置とした上,畳床の上前の同装置上での位置となる畳床押込み手段の位置を同目標位置からの距離として検出センサー53により確認した後,」という部分を充足する。
しかしながら,被告方法の上記原点距離Gの確認は,切断包丁11の位置に畳床のXminの位置を合わせる目的で巾寄せの前進・押込みをする7の(1),(2)の工程の遂行のためにされることが明らかであり,同工程では,切断縫着する装置上でのXminの位置を計算しているところ,XminとなるのはXA〜XEのどれかであるから,これを一般的にXN,このときの偏差をXnで表すと,差分値Paは, Pa=G-Xmin=G-(KS-Xn)=(G-KS)+Xn となる。
したがって,偏差Xnが0であるとき,すなわち,Xnが畳基準KSに位置する場合,差分値Paは, Pa=(G-KS)+Xn=G-(KS+0)=G-KS となって,切断縫着する装置上での畳基準KSの位置を計算しているといえるから,被告方法は,構成要件Cの「切断縫着する装置上での下前基準線(L)の位置を計算するために,」という部分を充足するが,それ以外の場合,Xminの位置を計算しているのであって,切断縫着する装置上での畳基準KSの位置を計算しているといえないから,同部分を充足しない。
構成要件D 被告方法は,7の切断包丁11の位置に畳床のXminの位置を合わせる工程の(1),(2)で,制御装置30が,原点距離Gから畳基準KSに偏差(X0〜X 4)を各々加減して(別紙各被告方法目録に争いのない事実として「合算して」とあるが,誤りである。)算出された仕上がり後の実寸法のうち最小の仕上がり寸法Xminを控除して差分値Paを求め,Paの量だけ巾寄せ20を前進させてミシン側に押し込むものである。
本件方法発明において,構成要件Dは,前記切断開始の目標位置から下前基準線の位置までの距離と当該畳床自体の框側の切断開始位置における離間隔X0の長さとの相互比較により,すなわち,上記距離に離間隔X 0の長さを加減し,当該計算値になるように畳床を押し付けるのであり,被告方法は,前進させて押し込む量である差分値Paが当該計算値と異なるから,構成要件Dを充足しない。確認された畳床押込み手段の位置を基準として,切断縫着する装置上での下前基準線の位置を,上記切断開始の目標位置から上前の位置となる畳床押込み手段の位置までの距離と畳幅基準寸法との相互比較により,前者から後者を控除して算出する。
そうすると,差分値Paは,XminとなるのがXA〜XEのどれかであるから,これを一般的にXN,このときの偏差をXnで表すと, Pa=G-Xmin=G-(KS-Xn)=(G-KS)+Xn となる。
したがって,XNがXAであるとき,すなわち,畳床自体の框側の切断開始位置での仕上がり実寸法XAが最小の仕上がり寸法Xminの場合,差分値Paは, Pa=G-Xmin=G-(KS-X0)=(G-KS)+X 0 となり,構成要件Dと対比すると,Gが前記切断開始の目標位置から畳床押込み手段の位置までの距離に,KSが畳幅基準寸法に,X0が下前基準線(畳幅基準)に対しどの程度大きいか小さいかを表す離間隔X0に該当し,差分値Paが構成要件Dの上記計算値と一致するから,この場合には,構成要件Dを充足する。
しかしながら,畳床自体の框側の切断開始位置でない位置,すなわち,切断開始後の切断縫着途中の位置での実寸法XBが最小の仕上がり寸法 Xminの場合,差分値Paは, Pa=G-Xmin=G-(KS-X1)=(G-KS)+X 1 となり,同様の位置での実寸法XCが最小の仕上がり寸法Xminの場合,差分値Paは, Pa=G-Xmin=G-(KS-X2)=(G-KS)+X 2 となり,同様の位置での実寸法XDが最小の仕上がり寸法Xminの場合,差分値Paは, Pa=G-Xmin=G-(KS-X3)=(G-KS)+X 3 となり,同様の位置での実寸法XEが最小の仕上がり寸法Xminの場合,差分値Paは, Pa=G-Xmin=G-(KS-X4)=(G-KS)+X 4 となり, X1〜X4が下前基準線(畳幅基準)に対しどの程度大きいか小さいかを表す離間隔X0に該当せず,差分値Paが構成要件Dの上記計算値と一致しないから,この場合には,構成要件Dを充足しない。
控訴人は,離間隔(X0)のX 0が例示であり,他の離間隔X 1,X 2,X3,X 4の値を採り得ると主張するが,このような解釈は,前記説示から明らかなとおり,本件方法発明が前記公知技術を踏襲することや,本件明細書の実施例(6欄46〜49行)及び図5の記載を無視するものであり,採用し得ない。
構成要件E 構成要件Eは,「その後,前記畳床(5)を締め付けてから数値制御により自動的にクセ取り縫着する」場合,ミシン本体の切断刃の位置を切断開始の目標位置としているときは,前記畳床(5)を締め付けてから,そのまま数値制御により自動的にクセ取り縫着し,切断縫着する装置上の任意の位置を切断開始の目標位置としているときは,前記畳床(5)を締め付けてから,当該目標位置にミシン本体の切断刃を合わせて数値制御により自動的にクセ取り縫着するものである。
被告方法は,7の切断包丁11の位置に畳床のXminの位置を合わせる工程の(3)で,目標位置となる畳床自体の框側の切断開始位置であるXminの位置に,平刺ミシン10が原点位置にある場合の切断包丁11の位置が一致して巾寄せ20が停止した位置で,床締め4が上昇して畳床2を畳台1に固定し,9の畳床の切断開始位置へ平刺ミシンの切断包丁を一致させる工程で,畳床2が固定された後,畳床2の框側の切断開始位置へ平刺ミシン10の切断包丁11を一致させるために,切断開始位置とXminの差分値として演算され記憶されているD0の値の分だけ制御装置30によって平刺ミシン10を外側に移動させ,畳床2の切断開始位置へ平刺ミシン10の切断包丁11を位置合わせし,Xminの位置が,框側のXAの場合,切断包丁11の待機位置から切断が開始されるので,平刺ミシンの切断包丁を一致させる当該工程は行われず,次いで,10の下前のクセ取り平刺し縫い工程で,数値制御により自動的にクセ取り切断縫着を行うのであるから,構成要件Eを充足する。
オ まとめ 被告方法が以上を特徴とする畳床2のクセ取り縫着方法であることは明らかである。
(3) 技術的範囲 そうすると,被告方法は,畳床自体の框側の切断開始位置での仕上がり実寸法XAが最小の仕上がり寸法Xminの場合であって偏差X0が0であるとき,本件方法発明の技術的範囲に属するが,それ以外の場合,本件方法発明の技術的範囲に属しない。
3 争点3(被告製品は,本件装置発明の技術的範囲に属するか。)について (1) ニ号物件目録 証拠(甲6,検甲5),被告方法目録の記載及び弁論の全趣旨によると,ニ号物件目録記載のうち,7の「レール2は,押付けバー50と正確に平行に延びた状態でフレームに堅く固定されており, ミシン台11の外側及び内側にはそれぞれ外側のレール3及び内側のレール2上を走行する外側走行車輪64及び内側走行車輪65が設けられている(第3図)。内側走行車輪65の支持部材66には,内側のレール2をその両側から移動可能に挟持する一対のガイド車輪67が設けられている。内側走行車輪65がレール2上を走行する間中,ミシン台11がレール2に対してX軸方向にずれることが,一対のガイド車輪67により阻止される。 これにより,ミシン台11およびこれと連動するミシン本体12は,押付けバー50と正確に平行を保って Y軸方向に移動するようにレール2によって移動できる。レール2を狭持するガイド車輪67と,それに連結する支持部材66を介し,ミシン台11とレール2はX軸上連結している。 」中の傍線部分を除く部分は認めることができるが,同傍線部分は認めることができない。
すなわち,甲45には,レール2を狭持するガイド車輪67と,それに連結する支持部材66を介し,ミシン台11とレール2はX軸上連結している旨が記載されているが,ニ号物件目録によると,ミシン台11は,レール2,3に沿って走行させるようになっているのであってレール2,3の長手方向(Y軸方向)に移動自在なのであるから,ミシン台11上に長手方向に直交する方向(X軸方向)に移動自在なミシン本体12(平刺ミシン10)が設けられた構造となっているが,連結という語の通常の意味内容から考えて,ミシン台11とレール2がX軸上連結しているとは表現し得ず,ガイド車輪67のX軸方向での可動が全くないといえない以上,位置のずれが全くないとはいえない。
次に,甲46は,床押しバーに対し平行にレールが取り付けられている状態での畳仕上がり寸法と,床押しバーに対し平行でない状態でレールが取り付けられているときの畳仕上がり寸法とを比較実験し,前者では畳仕上がり寸法に違いが出ないが,後者では畳仕上がり寸法に違いが出たことから,レールの位置がずれると仕上がり寸法がずれるという結果となるとしているものにすぎず,いわば,当然の結果にすぎない。
さらに,ニ号物件目録に「フレーム」の明示的記載がない。
したがって,甲45,46に甲47を併せ考慮しても,レール2が押付けバー50と「正確に」平行に延びた状態で「フレームに堅く固定されて」いるとは認められず,また,ミシン台11がレール2に対してX軸方向にずれることが,一対のガイド車輪67により「阻止され」,これにより,ミシン台11及びこれと連動するミシン本体12が押付けバー50と「正確に」平行を保ってY軸方向に移動するようにレール2によって移動できるとは認められず,さらに,レール2を狭持するガイド車輪67と,それに連結する支持部材66を介し,ミシン台11とレール2がX軸上「連結」しているとも認められない。
したがって,7の同部分は,「レール2は,押付けバー50と平行に延びており, ミシン台11の外側及び内側にはそれぞれ外側のレール3及び内側のレール2上を走行する外側走行車輪64及び内側走行車輪65が設けられている(第3図)。内側走行車輪65の支持部材66には,内側のレール2をその両側から移動可能に挟持する一対のガイド車輪67が設けられている。内側走行車輪65がレール2上を走行する間中,ミシン台11がレール2に対してX軸方向にずれることが,一対のガイド車輪67の存在する範囲に限定される。 これにより,ミシン台11およびこれと連動するミシン本体12は,押付けバー50とその範囲で平行を保ってY軸方向に移動するようにレール2によって移動できる。レール2を狭持するガイド車輪67と,それに連結する支持部材66を介し,ミシン台11とレール2はX軸上接触している。 」とする。
なお,控訴人は,レール2が畳台4の外付部材として畳台4に固定されている(ニ号物件目録第3図の1,2,甲46の写真2〜4等)と主張するが,これを認めるに足りない。
すなわち,ニ号物件目録によると,レール2と畳台4との関係については,「フロアーに設置されたレール2,3と,レール2の側方上部でレール3の上部に設けられた畳縫着機10と,前記レール2,3の側方に配置されて畳床5(畳床2)を載置するための畳台4(畳台1)と,該畳台4の側方に設けられた制御装置29(制御装置30)とを有する。前記畳台4は,畳床5をその上方から固定する締付け手段6(床締め4)と,畳床5の方向を180度変換するための方向変換手段32(反転テーブル3)と,畳床5を縫着機10に押し込む畳床押込み手段41とを有する」との記載がある程度で,レール2が畳台4の外付部材として畳台4に固定されていることを明示する記載はない。
ニ号物件目録第3図の1,2は,レール2と畳台4とが他の部材を介してつながっている形状が図示されているといえる面があるものの,他の部材相互またレール2及び畳台4との結合状況の構造等が図面上明らかでない。
甲46の写真2〜4によると,レール2とレールアングルとが接続ボルトで接続されていることが認められるが,畳台4との間にはなお他の部材が存在することが窺われ,当該他の部材との結合状況の構造等を明らかにさせる証拠はなく,仮に,当該他の部材と上記接続ボルト等により接続されているとしても,被告製品が畳の切断縫着をする一個の機械装置である以上,各部材が全体として相互に何らかの形で結合していることは,いわば,当然であって,これをもって,直ちに「固定」と表現される結合とはいえない。
したがって,レール2が畳台4の外付部材として畳台4に固定されているとは認められない(以上のニ号物件目録についての認定・説示は,弁論再開申立書添付の甲48,49によって左右されるものでない。)。
(2) 構成要件の充足性 ア 構成要件A’の充足 控訴人は,構成要件A’を,A1「数値制御により自動的にクセ取り運動をする畳縫着機(10)と,」及びA2「該畳縫着機(10)の側方に配置されている直線基準定規(20)」並びにA3「および畳床締付け手段(6)を有する畳台(4)と,を備えているものにおいて,」という3要件に分けるが,相当でない。
すなわち,構成要件A’は,「数値制御により自動的にクセ取り運動をする畳縫着機(10)と,該畳縫着機(10)の側方に配置されている直線基準定規(20)および畳床締付け手段(6)を有する畳台(4)と,を備えているものにおいて,」であり,「該畳縫着機(10)の側方に配置されている直線基準定規(20)および畳床締付け手段(6)を有する畳台(4)と,を備えているものにおいて,」という文理から明らかなとおり,該畳縫着機(10)の側方に配置されている畳台(4)が直線基準定規(20)および畳床締付け手段(6)を有することを不可欠の要件とするところ,これをA2「該畳縫着機(10)の側方に配置されている直線基準定規(20)」とA3「および畳床締付け手段(6)を有する畳台(4)と,を備えているものにおいて,」とに分離すると,文理上,前者から直線基準定規(20)が畳縫着機(10)の側方に配置されていること,後者から畳台(4)が畳床締付け手段(6)を有することが不可欠の要件となってくるのであって,不正確だからである。
被告製品は,構成要件A’の「数値制御により自動的にクセ取り運動をする畳縫着機(10)」であり,「該畳縫着機(10)の側方に配置されている畳床締付け手段(6)を有する畳台(4)を備えているもの」であるが,直線基準定規(20)を有するものでないから,構成要件A’を充足しない。
控訴人は,畳台(4)がレール2を有するとして,レール2が直線基準定規(20)に該当すると主張するが,採用できない。
第1に,畳台(4)がレール2を有するとするのは,レール2が畳台4の外付部材として畳台4に固定されていることを根拠にしているところ,同固定の認められないことは前記のとおりであるから,仮にレール2が直線基準定規(20)に該当するとしても,畳台(4)がレール2を有していない以上,構成要件A’を充足しない。
第2に,直線基準定規の意義内容からして,レール2は直線基準定規に該当しない。
前記のとおり,畳のクセ取り縫着をするのを数値制御方式によつて行う方法については,間取りを測定して得た畳を切断縫着すべき寸法,すなわち,畳長手方向の複数の各基準点A,B,C,D,Eにおける下前基準線に対する畳幅方向Lの離間隔X0,X 1,X 2,X 3,X 4,を入力後,手動操作でミシン本体の切断刃を畳台に固定した畳自体の框側の切断開始位置に合わせ,当該切断開始位置を基準としたY軸方向の現在位置を数値的に算出し,このY軸方向の現在位置に対するX軸方向の目標位置(設定位置)を前記切断開始位置を基準として算出するとともに,X軸方向の現在位置を数値的に算出して,X軸方向の現在位置とX軸方向の目標位置との差がなくなるように,ミシン本体を目標位置に移動せしめ,その際,ミシン本体のX軸方向の現在位置を直線定規の寸法基準面を基準として計数するという方法を採ることにより,切断刃が畳に食い込む力よって,ミシン本体,レール及び畳台に歪みが発生しても,その歪みによる誤差を補正したX軸方向の現在位置をフィードバックして,ミシン本体を目標の設定位置に確実に移動でき,ミシン台のY軸方向の走行に伴い切断刃によって畳を寸法どおりに正確に切断することができるという方法が公知であった(甲11の4欄39行〜5欄30行)。
本件装置発明も,「従来の技術」の項に,「ミシン台を畳台に沿って走行自在に設けるとともに,切断刃及び縫着針等を有するミシン本体をミシン台に対して畳台と直交する方向に移動自在に設け,予め設定したクセ取り寸法に従って,ミシン台の走行とともにミシン本体を畳台と直交する方向に駆動し,数値制御方式によりミシン本体の走行に伴って畳台に締め付け固定した畳床を設定寸法に切断縫着する畳縫着機において,ミシン本体,走行レール及び畳台等に歪が発生しても,これを補正して設定寸法通りに切断縫着する畳縫着機は,例えば,特公昭62-38973号公報(注・甲11)にて本件出願人が提案し,当業界において広く利用されている。」と記載され(【0002】,3欄5〜15行),「発明が解決しようとする課題」の項に,「前述公報(注・甲11)で開示の技術にあっては,上前側を切断縫着(所謂平刺し)した後,下前側を切断縫着(所謂平刺し)するとき,人手によって畳床の方向転換をするとともに,下前基準線(下前切断位置)に人手によって下前側を合致していたため,省力化の点で課題があった。」(【0003】,3欄17〜22行),「本発明は,上前側を切断縫着した後,下前側をクセ取り切断縫着する場合であっても,畳床の方向転換と位置決めを自動化することによって省力化を図ったことを目的とするものである。」(【0004】,3欄28〜32行)と記載され,「課題を解決するための手段」の項に,「請求項2に係る本発明では,数値制御により自動的にクセ取り運動をする畳縫着機10と,該畳縫着機10の側方に配置されていて直線基準定規20および畳床締付け手段6を有する畳台4と,を備えているものにおいて,前述の目的を達成するために次の技術的手段を講じている。すなわち,請求項2に係る本発明では,前記畳台4に,上前側を切断縫着した畳床5を方向転換する方向転換手段32と,畳床5の上前側を押付けて畳床5の下前側を畳縫着機10に向けて押付ける畳床押込み手段41と,を備えているとともに,該畳床押込み手段41で押付けられた畳床5の下前側の下前基準線Lの位置を計算するため確認する検出センサー53を備えていることを特徴とするものである。」と記載され(【0006】,3欄49行〜4欄11行),「平刺しの場合,間取りを測定して得た畳を切断縫着すべき寸法,即ち,図5に示す如く畳長手方向(以下Y軸方向とする)の複数の各基準点A,B,C,D,Eにおける下前基準線Lに対する畳幅方向(以下X軸方向とする)の離間隔X0,X 1,X 2,X 3,X 4,を,キースイッチのキー操作により入力すると,この設定された寸法を基にマイクロコンピュータ30が各ステップ毎(Y軸送り10mm毎)にX軸の目標値を定規20の寸法基準面20aが基準になるように変換計算する。そして,切断刃19を切断開始位置に合わせ,手動ハンドル13の回動又は回動軸26に連結した図示省略のモータの駆動により,ミシン台11をY軸方向に走行移動すると,マイクロコンピュータ30は第2位置検出手段25からの検出信号を入力して,前記切断開始位置を基準としたY軸方向の現在位置を数値的に算出すると共に,このY軸方向の現在位置に対するX軸方向の目標位置(設定位置)を前記切断開始位置を基準として算出する。また同時にマイクロコンピュータ30は第1位置検出手段24からの検出信号により,ミシン本体12のX軸方向の現在位置を定規20の寸法基準面20aを基準として計数する。そしてマイクロコンピュータ30は第1位置検出手段24の検出信号により得たX軸方向の現在位置とX軸方向の目標位置との差がなくなるように,モータ駆動回路31を制御して,モータ14の駆動によりミシン本体12を目標位置に移動せしめる。」(【0015】,5欄22〜45行)と記載されているから,前記公知技術を前提にし,これを発明の内容としていることが明らかである。
したがって,本件装置発明の構成要件A’が規定する「直線基準定規(20)」は,その寸法基準面を基準としてミシン本体のX軸方向の現在位置を計数するという方法を採ることにより,切断刃が畳に食い込む力によって,ミシン本体,レール及び畳台に歪みが発生しても,その歪みによる誤差を補正したX軸方向の現在位置をフィードバックして,ミシン本体を目標の設定位置に確実に移動でき,ミシン台のY軸方向の走行に伴い切断刃によって畳を寸法どおりに正確に切断することができるという前記公知技術を前提にし,これを発明の内容とするものであり,本件明細書に記載,引用された特公昭62-38973号公報(注・甲11)の明細書の「発明の効果」の記載「ミシン本体18の畳台4に直交する方向の位置を,畳台4に設けた定規30を基準として計数できるので,切断刃27が畳7に食込む力によって,ミシン本体18,レール2,3及び畳台に歪が発生しても,この歪による誤差を補正した現在位置をフィードバックして,ミシン本体18を目標の設定位置に確実に移動でき,このためミシン台11の走行に伴い,切断刃27により畳7を寸法通りに切断縫着することができる。」を参酌すれば,前記同内容の作用効果を有するといえる。
控訴人は,本件装置発明の構成要件A’が規定する直線基準定規につき,本件明細書に被控訴人主張のような作用効果の記載がないところ,【0012】の「20は畳台4の長手方向に沿って設けられた直線基準定規で,…畳台4に連結固定されている」,【0013】の「24は第1位置検出手段であり,エンコーダ等よりなっていて,スケール部材22とミシン本体12との畳台4に直交する方向の相対位置を検出するものである」,【0015】の「第1位置検出手段24からの検出信号により,ミシン本体12のX軸方向の現在位置を定規20の寸法基準面20aを基準として計算する」との記載と,直線基準定規の意味から,直線状であること,それに基づいて,何らかの位置検出手段により,ミシンの第1位置すなわちX軸方向の位置の基準となり得ることが必要,かつ,それで十分であると主張するが,これが直線基準定規の構成をいうのか,作用効果をいうのか明らかでなく,その点はさておいても,いずれにしても,前記公知技術を考慮しないものであって,失当である。
被告製品は,レール2が,「押付けバー50と平行に延びており」,ミシン台11の外側及び内側にはそれぞれ外側のレール3及び内側のレール2上を走行する外側走行車輪64及び内側走行車輪65が設けられ,内側走行車輪65の支持部材66には,内側のレール2をその両側から移動可能に挟持する一対のガイド車輪67が設けられていて,内側走行車輪65がレール2上を走行する間中,「ミシン台11がレール2に対してX軸方向にずれることが,一対のガイド車輪67の存在する範囲に限定され 」,これにより,ミシン台11及びこれと連動するミシン本体12が「押付けバー50とその範囲で平行を保って」Y軸方向に移動するようにレール2によって移動でき,「レール2を狭持するガイド車輪67と,それに連結する支持部材66を介し,ミシン台11とレール2はX軸上接触している 」が,レール2が,「押付けバー50と正確に平行に延びた状態でフレームに堅く固定されて 」いるものでなく,内側走行車輪65がレール2上を走行する間中,「ミシン台11がレール2に対してX軸方向にずれることが,一対のガイド車輪67により阻止され, 」これにより,ミシン台11及びこれと連動するミシン本体12が,「押付けバー50と正確に平行を保って」Y軸方向に移動するようにレール2によって移動できるものでなく,「レール2を狭持するガイド車輪67と,それに連結する支持部材66を介し,ミシン台11とレール2はX軸上連結している 」ものでもないから,レール2は,上記直線基準定規の前記作用効果を有せず,これに該当しない。
構成要件B’の充足 被告製品において,畳台4は,上前側を切断縫着したといえる畳床5をその上方から固定する締付け手段6(床締め4)と,畳床5の方向を180度変換するための方向変換手段32(反転テーブル3)と,畳床5を縫着機10に押し込む畳床押込み手段41とを有し,押込み手段41は,押付けバ一50(巾寄せ20)と,この押付けバー50をX軸方向に移動させるための左右一対のネジ軸45と,該ネジ軸45を駆動するためのモータ42とを有し,前記一対のネジ軸45は,連動手段44により連結されており,押付け時には,方向転換された畳床5を押付けバー50により押し付け,畳床5のXminの位置が,畳縫着機10のミシン本体12の切断刃73の原点位置と合致するまで移動するのであるから,畳台4に,上前側を切断縫着した畳床を方向転換する方向転換手段(32)と,畳床(5)の上前側を押し付けて畳床(5)の下前側を畳縫着機(10)に向けて押し付ける押付けバー(50)を有する畳床押込み手段(41)を備えているので,構成要件B’を充足する。
構成要件C’の充足 構成要件C′の「該畳床押込み手段(41)で押し付けられた畳床(5)の下前側の下前基準線(L)の位置を計算するため確認する検出センサー(53)を備えている」とは,「該畳床押込み手段(41)で押し付けられた畳床(5)の,切断縫着する装置上での下前基準線(L)の位置を計算するために,ミシン本体の切断刃の位置又は切断縫着する装置上の任意の位置を目標位置とした上,畳床押込み手段の位置を同目標位置からの距離として確認する検出センサー(53)を備えている」という意味となる。
被告製品は,前記押付けバー50の内方移動位置を検出する内端センサー61と,外方移動位置を検出する外端センサー53(外端センサー22)と,押付けバー50の外方移動速度を減速させるための減速センサー62とを有する。畳床5の押付けに先立って,外端センサー53の固定された検出位置に押付けバー50の後端が達するまで押付けバー50を復帰させる。押付け時には,方向転換された畳床5を押付けバー50により押し付け,畳床5のXminの位置が,畳縫着機10のミシン本体12の切断刃73の原点位置と合致するまで移動する。制御装置29は,マイクロコンピュータを備え,モータ14,42,68等を制御するもので,畳のクセ量等が数値で入力が可能になっている。この制御装置29には,畳ごとの数値データとして予め規格寸法(畳基準KS)とこれに対する仕上がり寸法の偏差X0,X 1,X 2,X 3,X 4,が入力でき,制御装置29内では,これら入力されたデータに基づき畳の仕上がり後の実寸法XA〜XE(XAはKS+X0。以下同様)と,その内の最小値Xmin及びXminとの差D0,D 1,D 2,D 3,D 4を求め,これらのデータはメモリ(図示せず)に記憶されるようになっているから,Xminは,これにより算出され,上記検出位置や切断刃73の原点位置は,機器固有の既定値であるので,上記移動に必要な押付けによる移動量は,制御装置29により自動的に算出,指定でき,制御装置29はその指定量分移動するようモータ42を制御する。
そうすると,被告製品は,畳床5のXminの位置をミシン本体12の切断刃73の原点位置に合致させる目的で押付けバー50の位置の検出とこれに基づくミシン本体12の切断刃73の原点位置と押付けバー50との距離Gの確認をしているといえるから,前記被告方法が本件方法発明の構成要件Cを充足するか否かの判断と同様の理由で,Xminとなるときの偏差をXnで表すと,偏差Xnが0であるとき,すなわち,XNが畳基準KSに位置する場合は,切断縫着する装置上での畳基準KSの位置を計算しているといえて,構成要件C′の「該畳床押込み手段(41)で押し付けられた畳床(5)の下前側の下前基準線(L)の位置を計算するため確認する検出センサー(53)を備えている」を充足するが,それ以外の場合は,Xminの位置を計算しているのであって,切断縫着する装置上での畳基準KSの位置を計算しているといえないから,同構成要件を充足しない。
エ まとめ 被告製品が以上を特徴とする畳縫着機であることは明らかである。
(3) 均等 前記認定・説示によれば,本件装置発明の特徴は,数値制御によりミシン本体の位置決めを行う畳縫着機において,畳床の方向転換と位置決めを自動化することにより省力化を図ったものを提供することにあるといえるところ,直線基準定規は,従前の公知技術にすぎないから,本件装置発明の本質的部分でなく,均等要件(1)を充足する。
前記認定・説示によれば,本件装置発明の構成要件A’が規定する「直線基準定規(20)」は,その寸法基準面を基準としてミシン本体のX軸方向の現在位置を計数するという方法を採ることにより,切断刃が畳に食い込む力によって,ミシン本体,レール及び畳台に歪みが発生しても,その歪みによる誤差を補正したX軸方向の現在位置をフィードバックして,ミシン本体を目標の設定位置に確実に移動でき,ミシン台のY軸方向の走行に伴い切断刃によって畳を寸法どおりに正確に切断することができるという作用効果を有するところ,被告製品は,そのような作用効果を有しないから,均等要件(2)を充足しない。
(4) 技術的範囲 したがって,被告製品は,本件装置発明の技術的範囲に属しない。
4 結論 そうすると,被告方法は,XNがXAであるとき,すなわち,畳床自体の框側の切断開始位置での仕上がり実寸法XAが最小の仕上がり寸法Xminの場合であって偏差X0が0であるときは,本件方法発明の技術的範囲に属するが,それ以外の場合は,本件方法発明の技術的範囲に属しないから,被告製品は,畳床自体の框側の切断開始位置での仕上がり実寸法XAが最小の仕上がり寸法Xminの場合であって偏差X0が0であるときは,本件方法発明の実施に使用されるものといえるが,それ以外の場合は,本件方法発明の実施に使用されるものといえず,したがって,本件方法発明の実施にのみ使用されるものといえず,その製造販売等は,本件方法発明の間接侵害を構成しない。
また,被告製品は,本件装置発明の技術的範囲に属しないから,その製造販売等は,本件方法発明の直接侵害を構成しない。
なお,被控訴人が自社工場内で工場見学会を開催し,被告製品を展示してデモンストレーションを行うことは,本件方法発明を業として使用する行為(本件方法発明の直接侵害)に該当するが,控訴人は,その場合の被告方法の使用差止めやその使用により生産された畳の譲渡等の差止めを求めていない。
次に,控訴人は,口頭弁論終結後である平成13年10月9日受付で,当裁判所に口頭弁論の再開を申し立てると同時に,控訴人第12回準備書面を提出して,請求の趣旨の拡張を申し立てた。
控訴人のした上記請求拡張の申立ては,従前の「被控訴人は,控訴人に対し,金5000万円及びこれに対する平成11年4月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。」との控訴の趣旨を,「被控訴人は,控訴人に対し,金1億円及びこれに対する平成11年4月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。」と変更して請求を拡張するものであり,訴えの変更に当たる。
しかしながら,訴えの変更は,口頭弁論終結に至るまでの間にしなければならない(民事訴訟法297条,143条1項)ところ,上記請求拡張の申立ては,口頭弁論終結後にされたものであるから,不適法である(なお,控訴人は,上記請求拡張の申立てと同時に弁論再開を申し立てているが,当裁判所は弁論再開の必要性を認めない。)。
したがって,上記請求拡張の申立てを許さないこととする。
以上によれば,控訴人の本件請求は棄却すべきであり,原判決は相当であるから,本件控訴を棄却し,主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結日 平成13年8月23日)
追加
ニ号物件目録被告製品には別紙図面において側面形状が,第3図の1と第3図の2に図示されたように2種異なるバリエーションがあるが,いずれも以下本文に説明する構造を有するコンピュータ式全自動平刺機であり,「平刺ロボット21」等の商品名が用いられている。
本文中,括弧内に別名称,別番号が記載されているのは,被控訴人主張の名称,番号を参考に付したものである。
本目録末尾添付の別紙図面は,その主要部分の構造の概略を図示したものであり,第1図は平面図,第2図は正面図,第3図の1,2は畳縫着機(ミシン本体,ミシン台,以下畳縫着機をこの意味で用いる)の走行機構の側面図,第4図は畳床押込み手段の構成図,第5図は位置決め状態を示す参考図である。
図面,本文の符号の説明2,3レール4畳台5畳床6締付け手段10畳縫着機11ミシン台12ミシン本体14X軸送りモータ16連動軸24基準検出素子29制御装置32方向変換手段41畳床押込み手段42モータ44連動手段45ネジ軸50押付けバー53外端センサー60エンコーダ61内端センサー62減速センサー63入力表示装置64外側走行車輪65内側走行車輪66支持部材67ガイド車輪68Y軸送りモータ69被検出部材70走行用ピニオン71走行用ラック72縫着針73切断刃本文1被告製品は,フロアーに設置されたレール2,3と,レール2の側方上部でレール3の上部に設けられた畳縫着機10と,前記レール2,3の側方に配置されて畳床5(畳床2)を載置するための畳台4(畳台1)と,該畳台4の側方に設けられた制御装置29(制御装置30)とを有する。
2前記畳台4は,畳床5をその上方から固定する締付け手段6(床締め4)と,畳床5の方向を180度変換するための方向変換手段32(反転テーブル3)と,畳床5を縫着機10側に押し込む畳床押込み手段41とを有する。
3畳縫着機10は,レール2,3の長手方向(以下,「Y軸方向」という)に移動自在なミシン台11と,ミシン台11上に設けられてY軸方向に直交する方向(以下,「]軸方向」という)に移動自在なミシン本体12(平刺ミシン10)とを有する。
4ミシン本体12には,前記畳台4上の畳床5の上前,下前にヘリ紙,ヘリ布を平刺しする縫着針72と,縫着後の畳床5を切断する切断刃73(切断包丁11)とを備えている。
5前記押込み手段41は,押付けバ一50(巾寄せ20)と,この押付けバー50をX軸方向に移動させるための左右一対のネジ軸45と,該ネジ軸45を駆動するためのモータ42とを有し,前記一対のネジ軸45は,連動手段44により連結されている。
ネジ軸45には,押付けバー50の移動量を計測するためのエンコーダ60が連結されている。
6前記押付けバー50の内方移動位置を検出する内端センサー61と,外方移動位置を検出する外端センサー53(外端センサー22)と,押付けバー50の外方移動速度を減速させるための減速センサー62とを有する。
前記ミシン本体12は,パルス発生器とパルスモータを備えたX軸送りモータ14の駆動により連動軸16が回転することによりミシン台11上でX軸方向に一定の範囲内で移動自在である(第3図,第4図)。
ミシン台11には,該ミシン本体12のX軸方向の原点位置の検出を兼ねた基準検出素子24(クセ取り基準センサ12)とその前後に近接した内縁センサ24a,及び外縁センサ24bが配置され,ミシン本体12側には被検出部材69とその前後に近接した被検出部材69a,69bが配置されている(第3図)。
7レール2は,押付けバー50と正確に平行に延びた状態でフレームに堅く固定されており,ミシン台11の外側及び内側にはそれぞれ外側のレール3及び内側のレール2上を走行する外側走行車輪64及び内側走行車輪65が設けられている(第3図)。
内側走行車輪65の支持部材66には,内側のレール2をその両側から移動可能に挟持する一対のガイド車輪67が設けられている。
内側走行車輪65がレール2上を走行する間中,ミシン台11がレール2に対してX軸方向にずれることが,一対のガイド車輪67により阻止される。
これにより,ミシン台11およびこれと連動するミシン本体12は,押付けバー50と正確に平行を保ってY軸方向に移動するようにレール2によって移動できる。
レール2を狭持するガイド車輪67と,それに連結する支持部材66を介し,ミシン台11とレール2はX軸上連結している。
ミシン台11は基準検出素子24を有し,ミシン本体12は基準検出素子24に対応する被検出部材69を有している。
ミシン本体12がX軸送りモータによりX軸方向を移動するときは,基準検出素子24とそれに対応する被検出部材69に基づき,ミシン本体12のX軸上の位置の検出が可能になっている。
そして,後記制御装置29から,X軸方向の移動量が指定されると,基準検出素子24とそれに対応する被検出部材69に基づき,X軸送りモータにより指定されたX軸上の位置に移動することが可能になっている。
内縁センサ24a,及び外縁センサ24bは,被検出部材69a,69bと対応し,異常が発生したときに,ミシン本体12がミシン台11からX軸方向に飛び出さないよう検出することが可能になっている。
8ミシン台11にはY軸送りモータ68が設けられ,このモータ68により走行用ピニオン70が駆動され,この走行用ピニオン70が走行用ラック71と噛み合いミシン台11をレール2,3に沿って走行させるようになっている。
9制御装置29は,マイクロコンピュータ(図示せず)を備え,モータ14,42,68等を制御するもので,畳のクセ量等が数値で入力が可能になっている。
この制御装置29には,畳ごとの数値データとして予め規格寸法(畳基準KS)とこれに対する仕上がり寸法の偏差X0,X1,X2,X3,X4が入力できるようになっている。
制御装置29内では,これら入力されたデータに基づき畳の仕上がり後の実寸法XA〜XE(XAはKS+X0。以下同様)と,その内の最小値Xmin及びXminとの差D0,D1,D2,D3,D4を求め,これらのデータはメモリ(図示せず)に記憶されるようになっている。
なお,制御装置29は,次の押付け動作の制御と,前7項のミシン本体12の移動の両者を制御している。
10外端センサー53と,畳床5の位置決めの関係は次のとおりである。
畳床5の押付けに先立って,外端センサー53の固定された検出位置に押付けバー50の後端が達するまで押付けバー50を復帰させる。
押付け時には,方向転換された畳床5を押付けバー50により押し付け,畳床5のXminの位置が,畳縫着機10のミシン本体12の切断刃73の原点位置と合致するまで移動する。
上記検出位置や切断刃73の原点位置は機器固有の既定値であり,Xminは前9項により算出されているので,上記移動に必要な押付けによる移動量は制御装置29により自動的に算出,指定でき,制御装置29はその指定量分移動するようモータ42を制御する。
この指定量だけ移動させる制御は,この指定量から,エンコーダ60からのパルスによりデクリメント(1パルスごとに-1ずつの減算)することにより,制御装置はモータ42を制御している。(第1〜5図略)被告方法目録1原点復帰工程被告方法においては,作業の開始に当たって,まず原点復帰工程を実施する。この工程により,制御装置30は巾寄せ外端センサ22(巾寄せの原点位置センサを兼ねる)が検知した位置を巾寄せ20の原点位置として記憶し,クセ取り基準センサ12(平刺ミシンの原点位置センサを兼ねる)が検知した位置を平刺ミシン10の原点位置として記憶する。この原点位置においては,巾寄せ20に取り付けられた床押し21の端面から平刺ミシン10に取り付けられた切断包丁11までの距離(以下「原点距離G」という。)は常に一定であり,以降の巾寸法制御はすべて原点距離Gを基準として行われる。
2寸法の入力工程畳1枚ずつに割り付けられた畳の基準寸法(以下「畳基準KS」という。)と,この畳基準KSからの下前側の仕上がり後の実寸法との5点の位置における偏差を偏差X0,X1,X2,X3,X4として制御装置30に入力する。
3上前側平刺し工程(1)畳床2を畳台1に裁置し,巾寄せ20を移動させ,床締め4が上昇して畳床2を畳台1に下から上に向かって締め付ける。
(2)制御装置30は入力済みの寸法データから以下の演算を行って,Xmin,XmaX,D0〜D4を求めて記憶する。
○畳基準KSに偏差(X0〜X4)を各々合算して仕上がり後の実寸法(XA〜XE)を求め,この実寸法のうち最小の仕上がり寸法をXminとして,最大の仕上がり寸法をXmaXとして代入して記憶する。
○最小の仕上がり寸法Xminと仕上がり後の実寸法(XA〜XE)との差をD0〜D4として演算し記憶する。
以降の作業における寸法の制御は,Xmin,XmaX,D0〜D4の値のみが用いられる。
(3)平刺ミシン10によって自動的に上前側の縫着及び切断が行われる。
4原点復帰工程(1)巾寄せの原点復帰工程巾寄せ20は,原点復帰する。この原点復帰において,巾寄せ20を外端センサ22で確認する。
外端センサ22が巾寄せ20を確認することにより,原点距離Gがリセットされる。
(2)平刺ミシンの原点復帰工程床止め4を解除し,平刺ミシン10を原点位置まで復帰させる。
5畳床の回転工程反転テーブル3を上昇させ,ロータリーアクチュエーターによって反転テーブル3を旋回させて,畳床2を回転させて,上前側を切断縫着した畳床2を方向転換してその下前側を平刺ミシン10側に向け,反転テーブル3を下降させて,畳床2を畳台1上に載置する。
6荒落とし必要/不要の判定工程制御装置30は上前側の切り落とし代を畳床の巾寸法から控除したWdからXminを控除する演算を行い,その値が所定値以上の場合は荒落としを必要と判断して荒落とし工程に移行させる。所定値より小さいときは次項以降の工程に移行させる。
7目標位置に畳床のXminの位置を合わせる工程(1)畳床2の最小仕上寸法Xminの位置に,平刺ミシン10が原点位置にある場合の切断包丁11の位置が一致するように畳床2の位置を合わせて固定するために,制御装置30によって原点距離GからXminを控除して差分値Paを求め,制御装置30はPaを巾寄せ20が畳床2をミシン側に押し込む量として記憶する。
(2)制御装置30は,巾寄せエンコーダ23からのパルスによってカウントされる移動量値がPaと一致するまで巾寄せ20を前進させる。
(3)Xminの位置に,平刺ミシン10が原点位置にある場合の切断包丁11の位置が一致して巾寄せ20が停止した位置で,床締め4が上昇して畳床2を畳台1に固定する。
8畳床の切断開始位置へ平刺ミシンの切断包丁を一致させる工程畳床2が固定された後,畳床2の框側の切断開始位置へ平刺ミシン10の切断包丁11を一致させるために,切断開始位置とXminの差分値として演算され記憶されているD0の値の分だけ制御装置30によって平刺ミシン10を外側に移動させ,畳床2の切断開始位置へ平刺ミシン10の切断包丁11を位置合わせする。
Xminの位置が,框側のX0の場合,切断包丁11の待機位置から切断が開始されるので,平刺ミシンの切断包丁を一致させる当該工程は行われない。
9下前のクセ取り平刺し縫い工程運転スイッチを入れると平刺ミシン10は前進走行を開始し,あわせて制御装置30によるクセ取り制御によってレールに直交する方向にも前後に移動して,数値制御により自動的にクセ取り切断縫着を行う。
クセ取り制御は,制御装置30が切断開始位置を基準とした前進走行距離を常に計測して,その前進走行距離に応じてクセ取り量をD0,D1,D2,D3,D4と順に変化させるよう制御することによって行われる。
10下前平刺し縫い終了による原点位置復帰工程下前平刺し縫い工程が終了すると,畳床2の床締め4を解除し,平刺ミシン10及び巾寄せ20を原点位置まで復帰させる。
図第1図、第2図第3図第4図、第5図
裁判長裁判官 竹原俊一
裁判官 若林諒
裁判官 西井和徒