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関連審決 無効2000-35501
この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成18ネ10051特許権侵害差止等請求控訴事件 判例 特許
平成17ネ10005損害賠償等請求控訴事件 判例 特許
平成13ネ240特許権侵害差止等請求控訴事件 判例 特許
平成15ネ1223特許権侵害差止請求控訴事件 判例 特許
平成12ネ3891特許権侵害差止等請求控訴事件 判例 特許
関連ワード 協議 /  技術的思想 /  方法の発明 /  新規性 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  技術的範囲 /  技術常識 /  先行技術 /  発明の詳細な説明 /  共有 /  援用権(援用) /  技術的意義 /  容易に想到(容易想到性) /  信義則 /  禁反言 /  特許発明 /  実施 /  社会通念 /  加工 /  間接侵害 /  構成要件 /  差止請求(差止) /  侵害 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 14年 (ネ) 711号 特許権侵害差止請求控訴事件

控訴人(1審原告) 株式会社東洋精米機製作所 (以下「原告」という。)
訴訟代理人弁護士 深井潔
補佐人弁理士 辻本一義
同 窪田雅也
被控訴人(1審被告) 株式会社サタケ (旧商号株式会社佐竹製作所。以下「被告」という。)
訴訟代理人弁護士 牧野利秋
同 鈴木修
同 木村耕太郎
同 伊藤玲子
補佐人弁理士 増井忠弐
裁判所 大阪高等裁判所
判決言渡日 2003/03/13
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は原告の負担とする。
事実及び理由
控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被告は、原判決別紙イ号物件目録記載の物件を生産し、譲渡してはならない。
3 被告は、原判決別紙ロ号物件目録記載の物件を生産し、使用し、譲渡し、貸し渡し、又はその譲渡若しくは貸渡しの申出(譲渡又は貸渡しのための展示を含む。)をしてはならない。
4 訴訟費用は、1、2審とも被告の負担とする。
事案の概要
1 本件は、発明の名称を「洗い米及びその包装方法」とする後記特許権の共有者である原告が、被告による原判決別紙イ号物件目録記載の物件(以下「イ号物件」という。)の生産譲渡行為が同特許権を侵害し、かつ、イ号物件の生産にのみ使用される原判決別紙ロ号物件目録記載の物件(新精米加工システム「ネオ・テイスティ・ホワイト・プロセス」)の生産譲渡等の行為も同特許権の間接侵害に当たるとして、被告に対し、上記各物件の生産譲渡等の差止めを求めた事案である。
原審は、同特許権に係る明細書の特許請求の範囲に記載された「洗滌」とは、洗い米の製造工程において、精白米の表面に付着している糠分を水により取り除くことを意味し、その「除糠」の程度も一般的に消費者が洗米している程度であることが必要であると解した上、イ号物件の製造工程に係るロ号物件の湿式加圧精米(加水攪拌)部2(呼称につき当事者間で争いがあるため、以下、「湿式加圧精米」と「加水攪拌」とを並記した上記呼称を使用する。)では、「除糠」の程度が上記程度に達しているとはいえず、その後の工程である熱付着式低圧攪拌部3において熱付着材(固体)との低圧攪拌を経て、初めてその程度に「除糠」されるものと認められるとして、イ号物件は上記特許請求の範囲に記載された発明の技術的範囲に属さず、したがってロ号物件について間接侵害が成立することもないとして、
原告の各請求をいずれも棄却したので、これを不服として原告が控訴した。
2 争いのない事実等及び争点は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決「事実及び理由」中の「(争いのない事実等)」(2頁8行目から3頁6行目まで)及び「(争点)」(3頁7行目から13頁21行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 4頁10行目の「充足する。」の次に「なお、ロ号物件とスーパージフライスの両者は、共にボイラーを用いて洗滌水を蒸発させる点で共通し、被告側の反証である乙45、46も、原告が和歌山市内で購入したイ号物件と乙45の実験でロ号物件から排出された加工米とが同一物か否かを照合すべく立会い試験時の加工米を被告に要求したが、被告がこれを拒否した経緯があること等に照らし、その信用性は乏しいものといわざるを得ず、これらの証拠によっては、ロ号物件の加水率(米重量比。以下同じ。)が原告主張どおりの15%である可能性を否定することはできない。また、ロ号物件の実際の灯油消費量は、被告のランニングコスト表(甲81)に従っても計算上、米1トン当たり17.48リットルとなり、被告の主張する加水率5%で「米1トン当たり約12.96リットル」よりも多く、このこともロ号物件の加水率が実際には被告主張の5%より多いことを物語るものである。」を加える。
(2) 8頁20行目の「混したる」を「混入したる」と、同21行目の「稀監酸」を「稀鹽酸」と、同行目の「麩」を「 」と各改める。
(3) 10頁22行目の次に改行の上、次のとおり加える。
「(当審における当事者の補充主張) (1) 本件発明の構成要件Aにいう「洗滌」の解釈について (原告の主張) ア 本件発明は、洗滌方法全体や除糠方法の発明ではなく、洗滌(除糠)工程を終えた米粒を新規な水分除去手段によって得られる洗い米の発明であり、そのため、構成要件Aには、精白米を加工して洗い米を得る全工程ではなく、
洗滌(除糠)工程の後の工程である除水工程に関する記載がなされているのみである。したがって、本件発明で問題とされるべきは、洗滌(除糠)工程を終えた米粒について、いかなる状態の下に除水するかであって、「洗滌」は、本件発明の構成要件とはなり得ないか、そうでないとしても、当該「洗滌」が糠を何によって取り除くのかや除糠の程度がいかなるものかというような点は議論の対象とすべきではない。
以上のように解すべきことは、次の各点に照らしても明らかである。(ア) 特許請求の範囲の記載は、「洗滌時に吸水した水分が主に米粒の 表層部にとどまっているうちに強制的に除水して得られる」(構成要件A)というもので、そこでは「洗滌し」ではなく「洗滌時」と記載されているのであるから、これから「洗滌」の語のみを取り上げて議論するのは不当である。
(イ) 構成要件Aに記載されているのは、本件明細書に開示された「一般的に、洗米によって含水してから乾燥させた米に先ず亀裂が入る原因は、ひずみに弱い特性を有する米粒が吸水、除水の際、その都度、部分的(米粒表面と深層部)に膨張と収縮が生じ、ひずみが出来るからある。然らば、洗米時や除水時に、ひずみの原因となる膨張と収縮が生じない程度の、僅かの吸水量、及び除水量に押さえることが出来れば、精白米をたとえ水中へ漬けて洗米し、乾燥させても亀裂が生じないことになる。」(本件公報7欄14行〜22行)という、本件発明の本質をなす新規な技術思想である。
(ウ) 他方、洗滌(除糠)手段としては、本件明細書に「本発明の洗い米を得るための洗滌方法は短時間で効率よく除糠、除水できる方法であれば特に限定されない。精白米の洗滌に当たっては、公知の連続洗米機を用いることも出来るが一部改造の要がある。即ち、洗米層を小径となし回転数も毎分600回転以上が可能になるように改造するのが望ましい。」(同5欄9行〜15行)と記載されているとおり、従来の洗米方法と何ら変わりない方法が予定されている。
(エ) 「洗滌時に」は、通常は「洗滌中に」と理解されるところ、その間は洗米が継続的に進行し、糠が除かれる程度も進行に従って変化するから、
「除糠」の程度は正確には判断できず、これを正確に判断し得るのは洗米した後に除水を経た状態である。したがって、除糠の程度については、構成要件Aではなく、構成要件Cで判断すべき事柄である。
イ 仮に、上記主張が認められないとしても、
(ア) 本件発明の構成要件Aにいう「洗滌」が水によってなされるものであることは認めるが、「洗滌」の意義は、特許請求の範囲の記載自体から「洗いきよめること」という意味であることが極めて明確であるから、本件明細書の他の記載を参照するのは誤りである。仮に本件明細書の他の記載を参照するとしても、「本発明の洗い米を得るための洗滌方法は短時間で効率よく除糠、除水できる方法であれば特に限定されない。」(本件公報5欄9行〜11行)と記載されており、短時間の処理という要件以外には何らの限定もなされていないことが明らかである。
(イ) また、構成要件Aにいう「洗滌」を「糠を水のみによって取り除くこと」という意義に限定すべき根拠はない。
すなわち、通常の認識によれば、「洗滌」とは、水のみで行われるものではない。例えば、風呂の浴槽や洗い場、内壁、屋内の床、金物などを洗滌するといえば、タワシ、スポンジ、雑巾などを用いるのが通常である。かかる水以外の物の存在なくして「洗滌」はできないことからも明らかなように、「洗滌」を「水のみによって取り除くこと」と定義するのは、社会通念に照らして相当でない。
本件発明においても、公知の構造の回転式連続洗米機の攪拌体の存在が当然に予定されているし(本件公報9欄44行)、また、精白米の無洗化処理のために、固体である研磨材を混入させる手段も実在し(甲43の90頁左欄4行〜5行)、当業者であれば糠を取る手段として当然に予定している。本件明細書の記載上も、糠を取り去るのが水によってであることは当然としても、水に加えて、例えば固体を用いることで水と固体の両者により糠を取ることを否定してはおらず、かえって、「洗滌方法は短時間で効率よく除糠、除水できる方法であれば特に限定されない」(本件公報5欄10行〜11行)と明記されているところである。
(被告の主張) ア 原告は、本件発明は、洗滌(除糠)を終えた米粒を新規な水分除去手段によって得られる洗い米の発明であるから、「洗滌」は本件発明の構成要件とはならないか、そうでないとしても、当該「洗滌」が糠を何によって取り除くか、
除糠の程度がいかなるものかというような点は議論の対象とすべきではない旨主張する。
原告は、本件発明は、新規な水分除去「手段」によって得られる洗い米の発明であると主張するが、本件明細書には、「除水装置は、洗滌水及び付着水を除去出来る機能さえあれば公知の機器でよい」(本件公報6欄23行〜24行)などと明確に記載されているのであって、本件発明が新規な水分除去「手段」によって得られる洗い米の発明ではないことは自明であり、事実、本件明細書にも新規な水分除去「手段」は全く開示されていない(原告は、水分が米粒の表層部にとどまる短時間のうちに「除水」を行うという技術思想自体を「新規な水分除去手段」と称しているようでもあるが、このような技術思想そのものが水分除去「手段」でないことはいうまでもない。)。
そして、原告主張のように、本件発明の本質が、水分が米粒の表層部にとどまる短時間のうちに除水を行うという技術思想にあるとしても、かえって、それは、本件発明の構成要件Aにいう「洗滌」が水によって除糠するものであることを示すものである。
イ また、原告は、構成要件Aにいう「洗滌」の意義は特許請求の範囲の記載自体から明確であるから、本件明細書の他の記載を参照するのは誤りであると主張するが、「洗滌」を「洗いきよめること」と言い替えたところで何ら意味が明確になるわけでなく、本件明細書の他の記載を参照するのは当然である。
ウ さらに、原告は、構成要件Aにいう「洗滌」を「糠を水のみによって取り除くこと」に限定して解釈すべき根拠はないと主張するが、「洗滌」を水のみによって除糠することと解するのは極めて自然な解釈であるし、原告自身、「洗滌」とは、@被洗滌物に液体を接触させ、Aその液体に被洗滌物の付着物を移転させ、Bその付着物が混入した液体を被洗滌物より取り去り、よって付着物を除去することをいうと主張しているし、本件明細書が、『「洗米」又は「水洗」(「洗滌」と同義と解される。)の意味は、米粒群が水中に漬かる程の大量の水の中で攪拌して洗うこと』(本件公報8欄25〜27行)と定義している以上、水及び固体によって除糠する方式が「洗滌」に該当しないことは明らかである。
(2) 「洗滌」の要件の充足性について (原告の主張) 仮に本件発明の構成要件Aにいう「洗滌」が、糠分を水のみによって取り除くもので、除糠の程度も一般的に消費者が洗米している程度に達しているものに限定されるとしても、次のとおり、イ号物件は「洗滌」の要件を充足する。
ア イ号物件の製造工程においては、水のみによる工程であるロ号物件の湿式加圧精米(加水攪拌)部2において一般的に消費者が洗米している程度の除糠を終えるもので、これに続く熱付着式低圧攪拌部3では、湿式加圧精米(加水攪拌)部2において除糠の終了した洗い米から熱付着材を用いて洗滌水を吸収又は蒸発させているにすぎない。
(ア) 本件発明にいう「洗滌」と除糠、除水について a 本件発明の構成要件Aにいう「洗滌」は、除糠(「洗滌」の前半作用)と除水(除糠によって生じた洗滌水を取り去ることで、「洗滌」の後半作用。これが除水工程の一部であることは、本件明細書の「除水装置にて、洗滌水は勿論のこと、米粒表面に付着している付着水をも除去するのである」〔本件公報6欄21行〜23行〕との記載からも明らかである。)の2段階からなる。「洗滌」の前半作用(除糠)は、加水攪拌により、陥没部に入り込んでいた糠を陥没部より洗い流すことであり、その段階では、糠の混入した洗滌水はまだ米粒と共存する状態にある。それを「洗滌」の後半作用(除水の一部)により除去するのである。
このように構成要件Aの「洗滌」が除糠と除水の作用によって成り立っていることは、本件明細書に「本発明の洗い米を得るための洗滌方法は短時間で効率よく除糠、除水できる方法であれば特に限定されない。」(本件公報5欄9行〜11行)との記載があることによっても明らかである。
b そして、本件発明でいう「除糠」は、糠が元の位置の陥没部より離れることを意味し、糠が米肌の陥没部から剥離され、水中に浮遊して陥没部の外に出る程度に至れば足り、これによって除糠が終了するのであって、その糠がさらに米肌から遠くへ離される必要はない(その点は、上記の「洗滌」の後半作用の除水で実現されることである。)。
なお、本件明細書には、「糠粉等を水に浮遊させて洗い流す以外にない。」(本件公報7欄48行)と記載されてはいるが、これは「肉眼では見えない・・・陥没部」(本件公報7欄40行〜41行)に関する記載であるから、
その意味するところも、糠をミクロの陥没部より洗い流す、すなわち、陥没部の外に出すことにほかならず、陥没部の外に出た糠を米粒より遠くへ洗い流すとの意味まで含まない。
c 上記の意味での除糠のためには、ごく少水量で足りる。
本件明細書には「米粒群が水中に漬かる」(本件公報8欄26行)との記載があるが、これは、従来の加湿研摩のような、米粒の付着糠が湿潤軟化する程度の微量(米重量比0.8%以下)の加水ではなく、米粒の表面が自由に移動できる水に覆われた状態であることを意味するにすぎず、その範ちゅう内にある限り、水を大量に使用することも、少量で使用することもできる。事実、本件発明の実施例2は、実施例1の10分の1の加水量で洗米している(この点は別件の大阪高裁判決でも判示されている〔甲67の109頁15〜16行〕。)。
また、被告の特許出願に係る甲17(平4-229148公開特許公報)には、「洗米部に供給する水の重量を白米の重量に対して2〜50%程度の比較的少量」とする洗米加工法により、一般的に消費者が洗米する程度に除糠された無洗米が得られることが示されており、この程度の少水量でも洗滌が可能なことを被告自身も自認している。
なお、同公報の実施例には二度にわたる洗米又は洗浄過程を経る態様のものが記載されているが、発明の詳細な説明中では「洗米」と「洗浄」とが明確に使い分けられており、いずれの実施例においても、洗米室(19)による加水攪拌(実質的な除糠工程)を終えた後に「洗浄」のための給水がされているにすぎない。
(イ) イ号物件に係る製造工程(ロ号物件のネオ・テイスティ・ホワイト・プロセス〔NTWP〕製法)について a ロ号物件のネオ・テイスティ・ホワイト・プロセス〔NTWP〕製法は、最低限の水量に近いレベルで「洗滌」を行うものであるが、そのためには被洗滌物の表面を自由に移動できる付着液量が不可欠であり、逆にいうと、その付着液量さえあれば「洗滌」が果たせる。
たとえば、水を大量に使えない場合の洗滌のために合成皮革の硬・軟表面の洗滌剤(甲87)等が市販されているが、その被洗滌物の表面に付着する液量の厚みは5μmであるのに対し、ロ号物件の湿式加圧精米(加水攪拌)部2においてイ号物件(米粒表面)に付着する液量の厚みは、5%の加水率を前提としても計算上27.7μmもあることになるから、同部においてイ号物件の「洗滌」を行うことは十分に可能である。
また、甲68の実験におけるように、加水率5%の場合に白濁の余剰水が発生するのは、加水率5%でも糠が水に取り込まれていることの何よりの証拠である(なお、ロ号物件の湿式加圧精米(加水攪拌)部2においては、米粒に重力加速度Gの約28倍という大きな力が作用している上、いったん排出された余剰水を更にビニール袋内に戻し、攪拌し、排出させ、それをまた戻し・・・を短時間に繰り返しているのと同様の状態になっていることを考慮すると、単に袋を上下動させたにとどまる甲68の実験は、ロ号物件の実際の作用を過少に実現しているにすぎない。)。
b 同製法に係る「TWR加工フロー(図-3)」(甲63の3頁。以下「加工フロー図」という。)には、糠が米肌から離れているところが明瞭に図示(湿式加圧精米部A)されており、この段階で水によって糠が陥没部から離れる除糠が行われ、かつ、この段階でのみ除糠がなされ、後の工程では糠を米肌から剥離することは一切行われていないことが示されているのであるから、その湿式加圧精米(加水攪拌)部2においては、陥没部から糠が溶出しており、かつ出来上がった米粒が一般的に消費者が洗米している程度に除糠されている以上、未だ米粒の表面に洗滌水が付着しているとしても、既に一般的に消費者が洗米している程度の除糠が完了していることは明らかといえる。
(ウ) 甲79の実験について a ロ号物件の湿式加圧精米(加水攪拌)部2における加水率が被告の主張する5%であっても、一般的に消費者において洗米している程度の「除糠」が可能であることは、甲79の実験から明らかである。
すなわち、同実験では、本件発明の製法と同じく、市販普通精米20gと水1g(加水率5%)を攪拌器具で10秒間攪拌し、その後45秒間乾いたタオルで拭ったものと、「一般消費者がしている洗米」と同じく、上記のものと同一の普通精米20gをボウルに入れ、手作業で十分な水で4回洗い(その度に水を入れ替える。)、その後直ちにザルで水を切り、45秒間乾いたタオルで拭ったものを、それぞれ電子顕微鏡で1000倍に拡大して撮影したが、いずれも米肌の無数の微細な陥没部の糠が除去されていることが明らかになった。
この実験結果は、加水率が5%であっても、ミクロ的に陥没部に入り込んでいる糠を洗い流すことができ、その洗滌水をタオルで拭う「除水」によって、一般消費者がしている洗米の場合とほぼ同程度に除糠が果たせることを証明するものである(同実験の各処理における攪拌器具による攪拌度は、ロ号物件の湿式加圧精米(加水攪拌)部2の撹拌度と同一になるよう調整した。なお、同実験の処理3、処理4の拡大写真と甲83〔ロ号設備を稼動させてイ号物件無洗米を製造販売する大阪第一食糧の商品である「ハイゴールド21」〕拡大写真を比較すれば明瞭なように、同実験の処理3、処理4の「除糠」の程度は、一般的に消費者が洗米している程度に達している。)。
この結果は、甲72におけるように、5%の水に糠が混入しても、その混合水は、なお「液状」であるから陥没部から取り出せるが、他方、甲75におけるように、加湿精米の最大加水率である0.8%の水に糠が混入した場合には、その混合液は、糠と水の混合状態が「固形状」にとどまることから陥没部に入り込んでいる糠を取り出すことはできないことに由来するものと考えられ、現に、甲79の実験においても、市販普通精米20gと水0.16g(加水率0.8%)を攪拌器具に入れ、10秒間攪拌し、その後45秒間乾いたタオルで拭った場合(処理2)は、全く加水せず、単に45秒間タオルで拭った場合(処理1)と同様、米肌の陥没部に入り込んだ糠が全く除去されていない。
b 被告は、甲79の実験によっては、陥没部の除糠が加水攪拌によるものか熱付着材によるものかが明らかにはならないというもののようであるが、同実験において、全く加水せずに単に45秒間乾いたタオルで拭いた場合(処理1)は、米肌の陥没部に入り込んでいる糠は全く除去されないのに対して、加水率5%の加水撹拌後に同様に拭いた場合(処理3)はきれいに除去されていることからして、これが加水率5%の加水撹拌における水の作用(洗滌)によるものであることは明らかというべきである。
なお、タオルが加水撹拌により発生したとぎ汁を拭き取るだけの作用しかしていないことは、同実験の処理1、処理2では、いずれも糠が全く除去されていないことにより実証されている。もし熱付着材が陥没部に入り込んでいる糠を吸着させているのなら、同実験の処理2(加水率0.8%)でも除糠できたはずだからである。
また、被告は、同実験の処理4につき、消費者は、洗米して水切り後にタオルで拭うようなことは決してしないとも主張しているが、被告の主張は、水濡れのままでは電子顕微鏡で観察できないことを知りながら無理難題をいっているにすぎない。
(エ) 熱付着材の作用について ロ号物件の熱付着式低圧攪拌部3は、湿式加圧精米(加水攪拌)部2において既に一般的に消費者が洗米している程度に除糠されている洗い米から、熱付着材を用いて洗滌水を吸収し又は蒸発させているにすぎない。
熱付着材は大きさが0.6〜1.3mmであり、他方、甲79のとおり、米粒表面の陥没部が1μm程度と極めて微小であることからすれば、熱付着材がこれの約1000分の1の大きさの陥没部に入り込んで糠と接触するのは物理的に無理があり、陥没部に入り込んだ糠を取り除くことは到底できるものではない。
検乙1、2にみられるようにタピオカに糠の色が付くのも、米粒表面のミクロン単位の陥没部に水が入り込むことで糠が溶出し、これが米粒の表面に洗滌水として現れて熱付着材に吸水された結果にすぎない。
イ 仮に、ロ号物件の湿式加圧精米(加水攪拌)部2における除糠の程度が一般的に消費者において洗米している程度に達しているとはいえず、熱付着式低圧攪拌部3を経て初めてその程度に除糠しているものとしても、湿式加圧精米(加水攪拌)部2で加水率5%の加水攪拌がなされている以上、同部において除糠の一部がなされているのは明らかであって、最終的に除糠の程度が一般的に消費者が洗米している程度に達することは可能である。
ロ号物件のように、水による除糠が開始され、これが所望の作用効果へ向けて進行している過程において、本来これがなくても所望の作用効果を得られる別工程を付加し、しかも、その工程は前工程と同様の作用を担うにすぎない工程であって、さらにこれによって得られる洗い米も本件発明によって得られる洗い米と同一の物(構成要件BないしDを充足するもの)であるような場合も、本件発明の構成要件Aにいう「洗滌」の要件を充足するものと解釈されるべきである。
(被告の主張) ア 原告は、本件発明の構成要件Aにいう「洗滌」の前半作用が除糠、
後半作用が除水の二工程からなるなどと主張するが、「洗滌」と除水が互いに別個独立の工程であって、除糠は「洗滌」の作用効果にすぎないことは、原審以来の裁判所、当事者間における当然の前提であった。このような主張は、原告が当審に至って初めて主張する極めて奇異な主張というほかない。
イ 原告は、甲68の実験による余剰水の発生をもって、ロ号物件の湿式加圧精米(加水攪拌)部2でも余剰水が発生し、本件発明の構成要件Aにいう「洗滌」の要件を充足すると主張するかのようであるが、余剰水が発生するから「洗滌」が行われているという関係にはない。
なお、被告は、5%加水を行っても余剰水が発生しないことを立証するため乙44を提出しているが、ロ号物件の湿式加圧精米(加水攪拌)部2の条件が、乙44の条件よりも甲68の条件に近いとする根拠はなく、ロ号物件の湿式加圧精米(加水攪拌)部2においては、甲68におけるように袋を激しく上下に振ったりはしない。
ウ 原告は、甲63の加工フロー図に基づき、同図の湿式加圧精米部A(ロ号物件の湿式加圧精米(加水攪拌)部2に相当する。)の段階で除糠が完了している旨主張しているが、甲63は、ロ号物件の販売促進を目的とした顧客向けパンフレットであって、そこに示された加工フロー図は顧客である米穀業者にイ号物件の製造工程の原理を理解してもらうことを目的としているため、その図示はすべて極端に誇張されたイメージ図にすぎない。なるほど、上記湿式加圧精米部Aには「剥離した軟化糠」との説明とともに、糠分が米粒表面から物理的に離された様子が図示されてはいるが、実際にはこのようなことは行われていない。湿式加圧精米(加水攪拌)部2を経て加水率5%に加水された米粒が、実際にはどのような状態になるかについては、平成13年10月4日に行われた進行協議期日において、同部を経過直後のロ号物件からサンプル採取した米粒を原告代表者自らも手に取って確認しているとおり、米粒の表面が湿潤しているだけで、軟化した糠分がそのまま米粒表面に付着し、物理的に剥離などしていない。
エ 原告は、甲79の実験により、米に対して加水率5%で加水して攪拌した後、タオルで拭ったときの米粒表面の状態(処理3)が、米を十分な量の水で洗米し、水切り後、タオルで拭ったときの米粒表面の状態(処理4)に近いものであることを立証し、同実験の処理3がロ号物件によるイ号物件の製造工程と同様であり、処理4が消費者が一般的な方法により洗米した場合と同様であることを前提として、ロ号物件におけるイ号物件の製造工程は消費者が一般的な方法により洗米した場合と同程度に除糠するものであると主張し、もって、ロ号物件によるイ号物件の製造工程では本件発明の構成要件Aにいう「洗滌」が行われていると主張する。
しかしながら、第一に、被告は、ロ号物件におけるイ号物件の製造において、加水率5%の加水により糠分を湿潤軟化した後、熱付着材により除糠を行った状態が、一般的に消費者が洗米している程度に除糠されたものであることは当然の前提としており、ここでの争点は、液体である水ではなく固体である熱付着材の作用により一般的に消費者が洗米している程度まで除糠されることが上記「洗滌」に該当するか否かである。第二に、同実験の処理4は、米を十分な量の水で洗米し、水切り後、タオルで45秒間拭うものであるが、消費者が洗米するとき、洗米して水切り後にタオルで拭うようなことは決してしない。すなわち、「一般的に消費者が洗米している程度」を再現するのであれば、米を十分な量の水で洗米し、
水切り後、直ちに電子顕微鏡で観察しなければ意味がない。
また、原告は、甲72の実験等を援用して甲79の実験の処理3で除糠が行われた理由を説明しようとしているが、一般に、加水後の米粒表面や米粒と米粒の間の間隙には、表面張力により米粒に付着して直ちには米に吸水されない付着水ないし間隙水が存在し、それらの一部は以後の工程(熱付着式低圧攪拌部3及び分離乾燥部4)で熱付着材に吸収され、別の一部は蒸発等するのであるから、
ビーカーの中で水45gと糠10gを混合すると「サラサラの液体」となるからといって、ロ号物件の湿式加圧精米(加水攪拌)部2を通過する米粒表面の状態がそのようになっているわけではない。同部において加水率5%に加水された米粒がどのような状態となるかは、前記イで述べたとおりである。
オ 原告は、ロ号物件の熱付着式低圧攪拌部3における熱付着材が、湿式加圧精米(加水攪拌)部2において既に一般的に消費者が洗米している程度に除糠されている洗い米から洗滌水を吸収し又は蒸発させているにすぎない旨主張しているが、ロ号物件の熱付着材は、水を吸収するとともに、水と一緒に糠を吸収するものである。
カ 原告は、仮に、ロ号物件においては熱付着式低圧攪拌部3を経て初めて一般的に消費者において洗米している程度に除糠できるものとしても、本来これがなくても所望の作用効果を得られる別工程を付加しているにすぎないから、本件発明の構成要件Aにいう「洗滌」に含まれる旨主張するが、イ号物件の製造工程における5%の加水工程であるロ号物件の湿式加圧精米(加水攪拌)部2は、米粒表面の糠分の湿潤軟化のみを行うものであって、この工程では糠分は米粒表面から剥離されることがなく(剥離されやすい状態になるだけである。)、「除糠」は、
次の熱付着式低圧攪拌部3の工程において、専ら固体である熱付着材(タピオカ)によって行われているのであり、したがって、そもそもイ号物件の製造工程には「水によって糠を取」る工程は存在しないのである。」 (4) 10頁22行目の次に改行の上、次のとおり加える。
「5 禁反言違反等 (被告の主張) (1) 原告は、控訴審に至って突然、本件発明の特許請求の範囲の解釈に関し、@特許請求の範囲には「洗滌時」としか記載されていないから、本件発明には「洗滌」という構成要件はない、A本件発明は、新規な水分除去手段によって得られる洗い米の発明である、B本件発明は水分除去手段の発明であるから、洗滌が糠を何によって取り除くのか、また、その除糠の程度がいかなるものかは本来的に本件発明と関係ないことである、C「洗滌」とは「洗いきよめること」であり、特許請求の範囲の記載自体から意味が明確であるから明細書の他の記載を参照するのは誤りである、D「洗滌」を、水のみによって糠を取り除くことと解するのは誤りである、E「洗滌」の前半作用が「除糠」、後半作用が「除水」であり、「洗滌」は「除糠」と「除水の一部」を含む旨主張した。
(2) しかし、上記各主張は、原審等で提出されたことのない新たな主張であって、原審においては、本件発明の特許請求の範囲の解釈に当たって「洗滌」及び「除水」を不可欠の構成要件とすること等は当事者間に争いのない事項であったから、原告の上記各主張の追加は、自白の撤回に当たり許されない。
(3) 仮にそうでないとしても、特許請求の範囲の解釈に関して、特許権者が無効審判手続中で述べた意見内容と矛盾する趣旨の主張を侵害訴訟において意図的にすることは、特段の事情のない限り訴訟における信義則または禁反言の趣旨に照らして許されない。
原告は、本件特許の無効審決(無効2000-35501号事件。
乙47)に対する審決取消請求事件(東京高裁平成14年(行ケ)第184号)においても、例えばその第1回準備書面(乙50)において、「本件発明の洗い米を生産する手段は、本件明細書に詳しく記載されているが、その生産手段には『洗滌』が不可欠な要件である」(16頁14行〜16行)、「無限大の水中に米粒をザブンと漬けて」(同頁20行)、「米粒の表面には常に『自由に移動できる液状の水』が必要である」(17頁19行〜20行)、「本件発明の『洗滌』の場合は、少なくとも米粒表面の細胞に対して100%をはるかに超える加水率が必要であり」(同頁27行〜末行)、「本件発明の『洗滌』に不可欠な水量は、上限については無限大であり」(18頁5行〜6行)などと主張し、本件発明において「洗滌」がいかに必要不可欠な構成要件であり、かつ「洗滌」が大量の水を使用しなければならないものであるかをるる主張し、もって先行技術(加水精米)との差異を強調して、本件特許が無効となることを免れようとしている。
しかるに、原告は、同一発明の侵害訴訟における本件控訴審では一転して、本件発明は新規な水分除去手段の発明であるから「洗滌」の解釈などは関係がなく、したがって水の量の如何は関係がない、あるいは、水のみによって糠を除去するか否かさえ関係がないとの主張を展開し、さらに、本件発明の「洗滌」の著しい作用効果として米肌面にある陥没部の糠分がほとんど除去された洗い米とする点を、その無効審判及び審決取消訴訟において一貫して主張しているにもかかわらず、本件控訴審においては一転して、本件発明は新規な水分除去手段の発明であるから、除糠の程度は関係がないと主張している。
このような矛盾する主張が、信義則又は禁反言の趣旨に照らして許されないことは明らかである。
(原告の主張) (1) 被告は、前記被告の主張(1)の@ないしEの各主張が原審において主張されていなかった旨指摘するところ、少なくとも、A、B及びEの各主張は、
原告も原審において主張していなかったことは認める。
しかし、原審ではそのような観点からの議論がなされなかったから、これらの点を主張しなかったにすぎず、また、原審においても、原告は、『本件特許は、洗滌時の加水量など論じる要はなく、洗滌時に「吸収された水分が、どのような状態のときに除水するか」が主要件である』(原告原審準備書面(9)3頁10行〜12行)、「手を洗う場合、石鹸水が付いただけの状態で擦ることにより、
同石鹸水の中に、手又は顔の汚れが移転する。それを水で流すのは、その汚れが混入した洗滌液を取り去るだけのことである。したがって、それを取り去る手段は別に水で流さなくとも、タオルで拭くことでも達成できる。」(原告原審準備書面(3)7頁9行〜17行)として、洗滌液を拭き取ることを「洗滌」に含め、除水工程が洗滌に含まれることを前提にした主張をしている(のみならず、後者の点については、被告自身も、「洗滌」に関する原告の主張を分説した上で、「ア、米粒と水の接触 イ、付着した糠粉を水に移転 ウ、水を米粒より取り去ることにより(除水)右付着した糠粉を除去」と主張している〔被告原審準備書面(三)27頁9行〜12行〕。)。
(2) 被告は、原告の控訴審における主張の追加は自白の撤回に当たり許されないと主張するが、自白の対象となるのは、具体的事実に限られ、法規、経験則、法規の解釈等は対象外とされるところ、上記主張の追加は、いずれも本件発明の特許請求の範囲の解釈にかかわる主張であるから、そもそも自白の対象外であって、自白が成立する余地はない。
(3) 被告は、原告の主張は、本件発明に係る審決取消訴訟との関係で、
禁反言の法理又は信義則違反として許されない旨主張する。
しかし、審決取消訴訟における主張は、当審における主張と排斥関係にはなく、禁反言の法理に反するものではない。
被告が指摘する第1回準備書面(乙50。甲84はその全文)は、
次のように記載されている。「(刊行物1に記載された発明は)混水精米法、或いは加湿精米、加湿研摩、湿式精米法などと呼ばれるもので、加水量と時間を制御して、水で米粒表面を湿潤軟化させて粒々琢磨作用により、鏝仕上げのように白米表面の美麗化と超光沢化を持たせることを目的、構成及び効果としたものである。」(8頁26行〜9頁1行)、「刊行物1と、本件発明の差異の概要は、末尾に添付した〔表1〕の通り、両者は目的、構成、効果、が悉く異なることは明確である。」(7頁17行〜19行)、「本件第3方式の基本は「洗滌」だから実現できることであり、吸水性を助長する高湿化を必至とする「精米」や「研磨」(「加湿精米」)では、不可能だからである」(16頁8行〜9行)、「したがって、加湿精米における米粒に対する加水量は、上限が定められた加水制限率以下の極めて微細なものでなければならない。」(19頁5行〜6行)、『以上の通り加湿精米では、最大限の加水をしたとしても、あくまで「水分を含んだ糠」の状態で米粒より除去するものであって、「洗滌」の如く「糠を取り込んだ混合液体」の状態で除去するような大量加水をすることはないし、またそのようなことをすると、米粒の亀裂の発生どころか精白室内で米粒が粉砕され固体化して運転停止してしまう』(19頁23行〜27行)。
以上のように、原告の主張は、上記刊行物1(乙25)に記載された加湿精米との対比において、特にその加水の意義が著しく相違し、本件発明による洗い米と加湿精米による洗い米とは全く異なる技術的思想であることを主張するものである。
この主張をしたことにより、侵害訴訟において、加湿精米による実施品が本件発明の技術的範囲に属すると主張することは禁反言の法理に照らして許されないことは当然であるとしても、本件訴訟における原告の主張は、加湿精米による洗い米ではないイ号物件に関するものであるから、禁反言違反等にはならない。」 (5) 10頁23行目冒頭の「5」を「6」と改める。
(6) 12頁16行目の次に改行の上、次のとおり加える。
「(3) 本件発明は、乙25(前記刊行物1。特開昭52-43664号公報。同公報に記載された発明を「引用発明」という。)と周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができた(なお、特許庁は、平成14年3月22日、本件特許権に係る無効2000-35501号事件につき、本件発明について、引用発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明することができた〔特許法29条2項違反〕として、本件特許権を無効とする旨の審決をした〔乙47〕。)。
ア 引用発明には、以下の(a)ないし(g)に示す事項が記載されている。
(a)「玄米に対する歩留率94%もしくはそれ以下の白米すなわち6分搗きもしくはそれ以上の精白度の白米を多孔壁除糠精白筒精白室により更に精白して精白度を進行させる過程において、その白米中に水または塩水その他水溶液を添加し直ちに精米を行なうと同時に 前記多孔壁部を通して急速に除糠除水を行ない前記精白室から排出することを特徴とする 混水精米法。」(1頁左下欄特許請求の範囲) (b)「本発明は精米法の改良に係るもので、従来の歩留94%以下の高精白度精白米の縦溝に鮮明に露出する残留糊粉層の完全除去と光沢のある美麗美味の白米を得ることを目的として 開発されたものである。」(1頁左下欄17行〜右下欄1行) (c)「本発明は94%以下の歩留率になった高白度白米に対し、なるべく最終仕上歩留率に近い過程において混水し、通常米量に対し0.1〜3%の範囲で適量の加水を行ない白米粒の表面だけを湿潤して軟化し直ちに精白作用により精米する と糠を発生して含水糠となるので糠と水が同時に多孔壁部を通して精白室外に排除され、澱粉質の多い糠なので白米粒面に糠の附着が少なく除糠作用が容易となり、添加水分が米粒内質に吸収浸透されないように米粒内質を保護するとともに、・・・」(1頁右下欄18行〜2頁左上欄8行) (d)「本発明は添加水分を成るべく短時間に精白に利用し迅速に精白室外に糠と共に排除することを原則とする ので、精白転子その他の通風作用を利用して、発生糠と添加水分の精白室外排除を促進して、米粒内質の水分変化を防止する効果が得られる 。」(2頁左上欄12行〜17行) (e)「本発明は米粒総量に対する水分添加率こそ0.1〜3%であるが、せいぜい20秒内外の短時間処理なので、米粒面は水でベタ付き換言すれば米粒表面の細胞に対しては100%に近い水分添加と見てよいのである。要するに、
調湿とは逆に飽くまで内質に水分が及ばないようにし、表面だけを湿潤するのが立て前であって、表面皮層だけの軟質化を目的とするのである 。これによって米粒表面に固着している糊粉層も難なく剥離され米粒全面が均一な高白度の白米となり粒面が高密度の光沢平滑面に仕上がるのである。」(2頁右上欄6行〜17行) (f)従来は歩留り94%以下の高白度白米に水分を添加すると忽ち水分を粒内質深く浸透して砕米化するのが常識なので、白米に混水して精米するなどは夢想だにしなかったものである 。本発明は全く奇想天外ともいうべき処理法である。」(2頁左下欄18行〜右下欄1行) (g)「前述したように本発明に用いる添加水分率については0.1〜3%の実施例を挙げたが、米質によっても限外の添加水分率があり得ることは云うまでもない。」(2頁右下欄17行〜20行) イ 本件発明と引用発明との対比等 (ア) 本件明細書の「従来の技術」の欄には、「水で洗った後乾燥して得られる洗い米としては、従来例えば、精米した米を洗い、水切りをし自然乾燥または加熱乾燥したもの(特開昭57-141257号公報。乙7)、精米した米を洗い、冷風または常温の送風により乾燥したもの(特開昭61-115858号公報)、白米を水洗、水切りした後、水分を15%〜16%に調整したもの(特公昭51-22063号公報)などが知られている。」(本件公報3欄4行〜11行)と記載されていることからも明らかなように、精白米を除糠のために洗滌し、
除水して得られる、米肌面にある陥没部の糠分がほとんど除去された洗い米は、本件特許出願時当業者において周知のものである。
(イ) 本件発明と上記周知の洗い米を対比すると、本件発明は、「洗滌時に吸水した水分が主に米粒の表層部にとどまっているうちに強制的に除水して得られる、米肌に亀裂がなく、平均含水率が約13%以上16%を超えない洗い米」である点で、上記周知の洗い米と相違する。
(ウ) まず、本件特許請求の範囲の請求項1の「洗滌時に吸水した水分が主に米粒の表層部にとどまっている」とは、「洗滌時に」すなわち洗滌工程中に「吸水した水分が主に米粒の表層部にとどまっている」意味であり、「表層部」とは洗滌工程中の米粒の表層部を指すものといえる。
本件発明は、洗滌の対象すなわち出発物質に中途精白米を用いる態様を含むものである(本件明細書に「更に「精白米」の意味であるが、完全精白米は勿論のこと、過剰精白米や中途精白米をも含めて指すのである。」(本件公報8欄23行〜25行)と記載されている。)が、中途精白米の洗滌工程においては、中途精白米は洗滌の進行につれて精白除糠され、その米粒表面は時々刻々変わっていくものと認められるが、請求項1の「洗滌時に吸水した水分が主に米粒の表層部にとどまっている」は、このように時々刻々変わっていく米粒面にあって、そこに残留している糊粉層の残留状態あるいは澱粉層の露出状態がいかなる状態にあるかに関係なく、吸水した水分が主に米粒の表層部の部位にとどまることを意味するから、請求項1の「米粒の表層部」は、中途精白米の洗滌工程中米粒表面に存在している糠層(糊粉層)を含む。
そして、請求項1に記載の「米粒の表層部」は、本件明細書の記載からみて、吸水の結果生ずる米粒の亀裂発生を、米粒と水分との接触を短時間に抑えることで防止しようとするとき、この吸水が許容される米粒表層の部位であると解される。
(エ) これに対して、乙25には、前記(a)ないし(g)の記載からみて、歩留率94%もしくはそれ以下の白米すなわち6分搗きもしくはそれ以上の精白度の白米に、米量に対して0.1〜3%の範囲で水を添加して、精米(精白)を行うと同時に除糠除水を行う混水精米において、添加水分が表面皮層にとどまっている20秒内外の短時間のうちに急速に除糠除水を行い、添加水分を米粒内質まで浸透させないようにして、米肌に亀裂がない白米を製造することが記載されている。
乙25には、「亀裂」という用語を用いて説明する記載はないが、「従来は歩留り94%以下の高白度白米に水分を添加すると忽ち水分を粒内質深く浸透して砕米化するのが常識なので、白米に混水して精米するなどは夢想だにしなかったものである。」(2頁左下欄18行〜右下欄1行)と記載され、亀裂が原因で生ずる「砕米化」が避けられることが記載され、さらに、湿式精米法において、添加水分が米粒皮層あるいは米粒表面の薄層にとどまっている短時間のうちに精白除糠、除水を行えば、すなわち水分と精白米との接触時間の短時間化で白米の亀裂発生、砕米化を防止できることが、本件特許出願時、当業者の技術常識であったことからすれば、添加水分が表面皮層にとどまっている20秒内外の短時間のうちに精白除糠、除水を行い、添加水分を米粒内質まで浸透させないようにすることで砕米化につながる亀裂発生を防止していることが乙25に開示されていることは、当業者であれば直ちに理解できることである。
(オ) また、少量の水を添加する湿式精米法において、添加水分が米粒皮層あるいは米粒表面の薄層にとどまっている短時間のうちに精白除糠、除水を行えば、すなわち水分と精白米との接触時間の短時間化で白米の亀裂発生、砕米化を防止できることが本件特許出願時、当業者において広く知られていたことは、次の各文献の記載から明らかである。
すなわち、特公昭54-13382号公報の「混水の米粒接触時間が長いと米粒内質に奥深く進入し精白完了後において空中に曝すと著しく亀裂を生じ砕米になる危険が伴うので米粒と水液の接触時間は超短時間であることが必須要件であり」(1頁2欄10行〜14行)及び「例えば玄米に対する歩留93%以下の白米中に0.5〜1.5%位の範囲で混水を施し、・・・白米表面の薄層を軟質化し、しかも白米は吸水性に富むから水液が白米粒に接触する時間、米粒の濡れる時間は糊粉層の剥離可能な軟質化の条件において、短い程亀裂に対しては安全率が大である。」(1頁2欄27行〜35行)、特開昭61-283359号(乙11)の「加湿精米機の特性は、精白室に供給される白米に適量の水分を添加して白米の極めて薄層の粒表面を湿潤軟質化し、精白転子と多孔壁通風除糠精白筒とによって白米粒面の薄層だけを剥離する・・・」(2頁左上欄14行〜18行)及び「水分量が過剰なときは白米粒に水分が厚層に浸透し、しかもこの浸透量が極めて僅かでも適当な厚さの限界を超えると、直ちに米粒表皮に著しい亀裂を発生し、」(2頁右上欄4行〜8行)、特公昭55-5381号の「添加水分が米粒内質に浸透し亀裂併発の欠陥を伴う」(1頁2欄17行〜18行)、「白米粒全面に亘って均一かつ微粒子の露が付着し極めて薄層の湿潤が行える」(1頁2欄33行〜34行)、「米粒内質への水分の浸透を防ぎ、米質を損傷したり亀裂を生じない」(2頁3欄1行〜3行)、及び「添加水分をなるべく短時間に精白に利用し湿風か蒸気の含む熱により迅速に精白室外に糠とともに排除することを原則とするので・・・米粒内質の水分変化を防止した糊粉層除去の光沢無洗米が得られる」(2頁3欄5行〜11行)、特公昭61-10179号公報の「米粒面に添加する水分量と米粒面に吸湿する皮層の厚さが極めて微妙であって、その厚さは、その加湿時から精白の始まるまでの経過時間、すなわち予備時間によって定まるから、予備時間の精密な調節が必要である。この適切な標準時間は、通常10秒間以内であるが、この時間が長すぎると米粒に亀裂を生じ粒面が粗面化し」(1頁1欄21行〜28行)、
「白米に加湿を施されて米粒皮膚に適度に浸透した状態で精白室4に供給されると、米粒縦溝部の糊粉層に残留する微粉までもが精白転子3の撹拌作用によって完全に除去され」(2頁4欄11行〜15行)、「排米口18に排出する白米の粒面が粗面化している場合には、米粒皮層への加湿の浸透が厚すぎるので、・・・加湿して精白転子3の始端9に到達するまでの時間を短くして米粒皮層への加湿浸透厚さを調節する。」(2頁4欄27行〜33行)、及び「米粒全面均一に米粒皮層の適正厚さに加湿浸透して湿潤軟質化し」(2頁4欄41行〜42行)等の記載である。
(カ) そして、乙25における「表面皮層」及び上記周知事項における「白米皮層」及び「白米の表面薄層」は、「米粒内質」と対になる概念で表示されており、しかも、吸水の結果生ずる米粒の亀裂発生を、米粒と水分との接触を短時間に抑えることで防止しようとするとき、この吸水が許容される米粒の表層の部位を指すことから、本件発明における「米粒内部」(もしくは「深層部」)に対置して表示される本件請求項1に記載の「米粒の表層部」に相当する。
ウ 以上の点、すなわち、歩留率94%もしくはそれ以下の白米、すなわち6分搗きもしくはそれ以上の精白度の白米に、米量に対して0.1〜3%の範囲で水を添加して、精米(精白)を行うと同時に除糠、除水を行う混水精米において、添加水分が表面皮層(本件発明の「表層部」に相当する。)にとどまっている20秒内外の短時間のうちに急速に除糠、除水を行い、添加水分を米粒内質まで浸透させないようにして、米肌に亀裂がない白米を製造することが乙25に記載されていること、及び湿式精米法において、添加水分が米粒の表面皮層あるいは表面薄層(本件発明の「表層部」に相当する。)にとどまっている短時間のうちに精白除糠、除水を行えば、すなわち水分と精白米との接触時間の短時間化で白米の亀裂発生、砕米化を防止できることが、本件特許出願時、当業者の技術常識であったことからすれば、その表面に糠層(糊粉層)が残存している中途精白米を加水量を増やして精白、除糠と除水をする場合、米粒の表面を覆い時間とともに内部に吸収される水分が米粒の表層部にとどまり米粒の内部に浸透するに至らないまでの短時間内に精白、除糠と除水を完了すれば、米肌に亀裂のない洗い米が得られることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。
また、濡れた米を除水して、含水量が約13%以上16%を超えない範囲内の所定の含水量になるようにすることは、特開昭57-141257号公報(乙7)、特公昭51-22063号、実開昭61-121946号のマイクロフイルム等の各記載からすれば、本件特許出願時に当業者において周知であったといえるから、洗い米の平均含水率を「約13%以上16%を超えない」ように除水することは、当業者が容易になし得ることである。
そして、本件発明の効果を検討しても、先に記載したとおり中途精白米を加水量を増やして精白、除糠と除水をする場合、吸水した水分が主に米粒の表層部にとどまっている短時間のうちに精白、除糠と除水を完了することにより、
米肌に亀裂が発生することを防止できることは、乙25及び上記周知事項に基づいて当業者が容易に想到し得ることであるから、本件発明の「米肌に亀裂がない」という効果は、当業者が容易に予測できる効果である。
(4) 仮に、原告の主張のように、本件発明が新規な水分除去手段の発明であるとすれば、本件発明には何ら新規な点が存しない。
すなわち、本件明細書には、「除水」を達成する手段について、「除水装置は、洗滌水及び付着水を除去できる機能さえあれば公知の機器でよい」(本件公報6欄23行〜24行)、「公知の除水装置の中には、吸水の要因となる洗滌水や付着水の大部分を、瞬間に近い短時間に除去できるものがあるから、それを選べばよいと云うことである」(同29行〜32行)と記載され、除水手段自体は何ら新規なものでないことが明記されている上、上記箇所以外に本件明細書には除水手段に関する記載はない。
また、本件特許権に対する別件の無効審判に係る審決取消訴訟の判決(甲56)においても、「当業界には、公知の除水手段として遠心分離装置以外の除水装置も数多く知られており、洗滌米の除水には、ネットコンベアすなわちバンド式の通風乾燥機を用いることが普遍的に行われてきたことは、乙第3ないし第6号証及び弁論の全趣旨から認めることができる」(43頁22行〜24行)と認定し、公知の除水装置として遠心分離装置及びバンド式の通風乾燥機が広く知られていたことが認定されていることからしても、本件発明が水分除去手段の点で何らの新規性を有しないことは明らかである。」 (7) 13頁21行目の次に改行の上、次のとおり加える。
「(3) 被告の主張(3)、(4)は争う。」
当裁判所の判断
当裁判所も、本件発明にいう「洗滌」は、精白米の表面に付着している糠分を水により取り除くことを意味し、その除糠の程度も一般的に消費者が洗米している程度である必要があるところ、イ号物件の製造工程に係るロ号物件の湿式加圧精米(加水攪拌)部2においては「除糠」の程度が未だ上記程度に達しておらず、その後の工程である熱付着式低圧攪拌部3において固体である熱付着材との低圧攪拌を経て初めてその程度に除糠されるものと認められるから、イ号物件は本件発明の技術的範囲に属さず、したがってロ号物件について間接侵害が成立することもないものと判断する。
その理由は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決の「事実及び理由」中の「第3 判断-争点1(本件発明の構成要件A「洗滌」の充足性)について」(13頁22行目〜25頁2行目)に記載のとおりであるから、これを引用する。
1 13頁22行目の次に改行の上、次のとおり加える。
「 まず、原告が、本件発明は、洗滌(除糠)を終えた米粒を新規な水分除去手段で処理して得られる洗い米に関する発明であって、本件発明の構成要件Aには、洗滌(除糠)工程後の工程である水分除去工程に関する記載がなされているのみであるから、「洗滌」は本件発明の構成要件とはなり得ないか、そうでないとしても、当該「洗滌」が糠を何によって取り除くか等の点は議論の対象とすべきではない旨主張している点について、検討する(なお、被告は、原告の控訴審における上記主張の追加は自白の撤回に当たり許されない旨主張しているが、上記主張の追加は、いずれも本件発明の特許請求の範囲の解釈に関わる主張であって、自白の対象外の事項であると解されるから、上記被告の主張は前提を欠くものとして採用できない。また、被告は、禁反言等違反の主張もしているが、その点の判断はひとまずおく。)。
特許請求の範囲の記載によれば、本件発明は、構成要件Aに記載された方法によって製造された構成要件BないしDなる物性を有する洗い米の発明であり、
かつ、構成要件Aの「洗滌時に吸水した水分が主に米粒の表層部にとどまっているうちに強制的に除水して得られる」なる記載からして、当該洗い米が「洗滌」工程を前提とするものであることが明らかである。
原告は、本件発明の構成要件Aには「洗滌し」ではなく「洗滌時」と記載されているから、「洗滌」は本件発明の構成要件とはなっていないかのような主張をしているが、「洗滌時」とは、原告も認めるとおり「洗滌中に」という意味であるから、たとえ「洗滌し」と記載されていなくても、「洗滌」工程を前提とするものであることに変わりはなく、本件洗い米の物性はその「洗滌」がどのようなものであるかによっても当然影響されるから、その意味で、「洗滌」がどのようなものであるかは、本件洗い米を更に特定する要件であるというべきである。
また、原告は、本件発明は、洗滌(除糠)を終えた精白米について、その洗滌中に吸水した水分が主に米粒の表層部にとどまっているうちのごく短時間のうちに強制的に除水して得られる洗い米であって、その点が本件発明の本質であり新規な点である旨主張しているが、仮に上記原告の主張が肯定できるとしても、原告のいう「洗滌中に吸水した水分が主に米粒の表層部にとどまっているうちのごく短時間のうちに強制的に除水」し得るか否かは、「洗滌」の際の加水率等によっても左右されるのであるから、これらとの関係での洗滌方法も問題とならざるを得ない。
そして、本件発明の予定する洗滌方法につき、本件明細書には「本発明の洗い米を得るための洗滌方法は短時間で効率よく除糠、除水できる方法であれば特に限定されない。精白米の洗滌に当たっては、公知の連続洗米機を用いることも出来るが一部改造の要がある。即ち、洗米層を小径となし回転数も毎分600回転以上が可能になるように改造するのが望ましい。」(本件公報5欄9行〜15行)との記載があることから、本件発明が洗滌方法として従来のものと変わりないものを予定しているということはできるが、そのような洗滌方法における「洗滌」においても、糠を何によって取り除くのか、その「除糠」がどの程度か等の点は当然問題になり得るのであるから、原告主張のように本件発明の構成要件の文言の解釈に当たってこれらの点を議論の対象外とすることはできない(なお、構成要件Cの「米肌面にある陥没部の糠分がほとんど除去された」状態は「洗滌」の結果もたらされるものであるから、当該「洗滌」が構成要件Cを達成し得る程度のものである必要があり、その限りで、構成要件Aでも除糠の程度が判断される必要があることはいうまでもない。)。」 2 14頁2行目の次に改行の上、次のとおり加える。
「 なお、原告は、本件発明でいう「洗滌」の意義は、特許請求の範囲の記載自体から極めて明確であるから、本件明細書の他の記載を参照するのは誤りである旨主張するが、特許法70条は、その1項において「特許発明技術的範囲は、願書に添附した明細書の特許請求の範囲の記載に基いて定めなければならない。」と定めるとともに、2項において「前項の場合においては、願書に添付した明細書の特許請求の範囲以外の部分の記載及び図面を考慮して、特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するものとする。」と規定しているところ、「洗滌」を「洗いきよめること」等と言い替えたところで、その技術的意義が明確になるわけでなく、同条2項に則り明細書の他の記載等に基づいてその技術的意義を明らかにする必要があるから、上記原告の主張は採用できない。
また、原告は、本件明細書の他の記載を参照するとしても、本件明細書には「本発明の洗い米を得るための洗滌方法は短時間で効率よく除糠、除水できる方法であれば特に限定されない。」(本件公報5欄9行〜11行)と明記されており、その洗滌方法につき短時間の処理という要件以外には何らの限定もなされていない旨主張しているが、上記記載は洗い米に係る公知の洗滌方法により得ることが記載されているだけで、その場合においても、洗滌を何によって行うのかや除糠の程度等が問題になり得ることは前記のとおりであり、「洗滌」の技術的意義の解釈が不要になるわけではないから、この点に関する原告の主張も採用できない。」 3 16頁22行目の次に改行の上、次のとおり加える。
「 もっとも、原告は、本件発明の「洗滌」を「糠を水のみによって取り除くこと」ということに限定する根拠はないとして、通常の認識によれば、「洗滌」とは、水のみで行われるものではなく、例えば、風呂の浴槽や洗い場、内壁、屋内の床、金物などを洗滌するといえば、タワシ、スポンジ、雑巾などを用いるのが通常であること、本件発明においても、公知の構造の回転式連続洗米機の攪拌体の存在が当然に予定されており、また、精白米の無洗化処理のために、固体である研磨材を混入させる手段も実在し、当業者であれば糠を取る手段として当然に予定していること、本件明細書には「洗滌方法は短時間で効率よく除糠、除水できる方法であれば特に限定されない」(本件公報5欄10行〜11行)と明記されていること等の点を挙げている(なお、被告は、この主張についても自白の撤回に当たると主張しているが、前記と同様の理由により採用できない。)。
しかし、構成要件Aでは、「除水」の対象が「洗滌中に吸水した水分」であることが明記されていることからしても、上記「洗滌」が「水」によってなされるものであることは明らかである(この点は原告も認めるところである。)。
そして、本件明細書においては、「洗米」又は「水洗」(「洗滌」と同義と解される。)を「米粒群が水中に漬かる程の大量の水の中で攪拌して洗うこと」(本件公報8欄25行〜27行)と定義している上、「精白米の表面には肉眼では見えない無数で微細な陥没部があり、それに入り込んでいる澱粉粒や糠粉を除去するには、やはり、どうしても米粒群を水の中にザブンと漬けて、
少なくとも30回以上は撹拌して洗米する必要がある。その理由は、糠粉等が入り込んでいる陥没部は、開口面よりも深みが長く、然も大半はミクロン単位の狭い開口面だから、その奥の方に入り込んでいる糠粉等を除去するには、水中に浸して激しく撹拌している間に、糠粉等を水に浮遊させて洗い流す以外にない。 」(同7欄40行〜49行)、発明が解決しようとする課題の項に、「従来よりこのような洗い米を得るための研究がなされているが、炊いた米飯の食味が優れたものは製造されていない。
それは、精白米は除糠のため洗う場合・・・水分は米粒の表面からその内部(深層部)まで浸透して、これを乾燥する場合は、 先ず吸水によって膨張した米粒の表面が急速に乾燥し収縮する。然るに内部に至る程乾燥に多く時間を要する。従って米粒の表面は乾いて収縮しても内部に至るにつれて含水量が多くなるから収縮しない。この膨張と急速な収縮による歪み現象及び含水量の多い米粒内部の組織と収縮した組織との調和即ち細胞組織の結合関係が崩壊して、米粒表面に亀裂が発生するという問題があり、 この亀裂が原因となって砕米化し、炊飯しても美味な飯ができないという問題が生ずる。このような問題は、『通常の方法で水を使用』して洗米した場合、これを強制乾燥した場合でも自然乾燥した場合のいずれの場合も必ず生ずる問題なのである。 従って運搬や保管中(炊飯前)に砕米化し、又は炊飯中に砕けてしまい美味な飯は絶対に炊けないという大きな問題を有しているのである。従来の乾燥洗い米と称する洗い米は、上記の問題点を解決した構成を有しないので砕米の飯となり美味な飯を得ることができなかったのである。本発明はこのような点に鑑み、水洗、除水後も米粒に亀裂が入らず、しかも、炊いた米飯の食味が低下しない洗い米を得ることを目的とするものである。 」(同3欄40行〜4欄14行)、課題を解決するための手段の項に、「本発明は、洗米後も亀裂が入らず、炊いた米飯の食味も優れている洗い米を得るべく鋭意研究を重ねた結果、精白米の『水中での洗滌、除糠工程』及び除水工程を従来とは桁違いに短い時間内に行えば、米粒に亀裂が入らず炊飯に適する洗い米が得られることを見出し、発明を完成した。前記目的を達成するため、本発明の洗い米は精白米を『水中で洗滌、除糠を行い』、更に強制的に除水を行い、 この間米粒の主な吸水部は米粒の表層部にとどまり、『水への浸漬』から洗滌、除糠、除水までの数分以内に行ったものであって、米肌には亀裂が発生しておらず米肌面にある微細な陥没部の糠分がほとんど除去されており、平均含水率を約13%〜16%を超えないものとしたものである。」(同4欄16行〜28行)との各記載があること、本件明細書の全記載を精査しても、水以外のもので除糠することについては格別の記載も示唆もされていないことからすれば、本件発明の構成要件Aにいう「洗滌」が、少なくとも水単独でも一般的に消費者が洗米している程度に除糠し得るものであることを当然の前提としていることは明らかというべきである。
なお、原告は、洗滌には、例えばタワシ、スポンジ、雑巾などを用いるのが通常であること、本件発明においても、公知の構造の回転式連続洗米機の攪拌体の存在が当然に予定されており、また、精白米の無洗化処理のために、固体である研磨材を混入させる手段も実在するなどと主張しているが、現在問題としているのは、「洗滌」の一般的意義ではなく、本件洗い米の製造工程における「洗滌」の技術的意義であり、また、当該「洗滌」の媒体を問題にしているのであって、これをどのようにして攪拌等するかを問題にしているのではない。もっとも、甲43(昭和56年7月5日再版の「食品設備実用総覧」)には、「精米と研摩材との接触により研摩効果を高めて、無洗の目的を果そうとする装置もある。」との記載があるが、上記記載のみによっては、当該装置が研磨材を洗滌の媒体として用いるものかや、その作用等の詳細は明らかではないといわざるを得ず、直ちにはロ号物件における熱付着材と同視することはできないものといわざるを得ないし、また、本件明細書には、原告指摘のとおり「洗滌方法は短時間で効率よく除糠、除水できる方法であれば特に限定されない」(本件公報5欄10行〜11行)と記載されてはいるものの、上記した本件明細書の各記載に照らせば、水によって洗滌する方法の中からの選択が自由であることを記載しているのにすぎないものとも解することができるから、いずれも上記認定判断を左右するものではない。
以上のとおりであるから、この点に関する原告の主張も採用できない。」 4 21頁15行目の「証拠はない。」の次に「もっとも、原告は、ロ号物件とスーパージフライスの両者は、ボイラーを用い洗滌水を蒸発させる点で共通しており、被告側の反証である乙45、46についても、原告が和歌山市内で購入したイ号物件と乙45の実験でロ号物件から排出された加工米とが同一物か否かを照合すべく立会い試験時の加工米を被告に要求したが、被告がこれを拒否した経緯等に照らし、その信用性は乏しく、また、ロ号物件の実際の灯油消費量は、被告のランニングコスト表に従っても計算上、米1トン当たり17.48リットルで、被告主張の加水率5%で「無洗米処理1トン当たり約12.96リットル」よりも多いなどと主張するが、本件全証拠に照らしても、ロ号物件において灯油が具体的にはどのようにして使用されるかは必ずしも明らかではないといわざるを得ず、そうである以上、原告主張の点を考慮に入れても、引用に係る原判決の前記認定(原判決21頁1行目〜同15行目)を左右するに足りない。」を加える。
5 22頁12行目から13行目にかけての「白米は攪拌転子18の回転作用により」を「白米は、攪拌転子18の回転により」と改め、同16行目の「洗浄される」の次に「(ノズル48から供給される水重量は白米重量に対して約10%である。つまり、ノズル17、48により供給される全体の水重量は白米重量に対して約20%である)。」を加え、同行目から17行目にかけての括弧内を「同公報3欄24行〜36行」と改め、同頁25行目の「得ない。」の次に「なお、原告は、
同公報においては、二度にわたる洗米又は洗浄過程を経る旨の記載は実施例を除いては何らの記載もない上、「洗米」と「洗浄」とが明確に使い分けられ、いずれの実施例においても、洗米室(19)による加水攪拌(実質的な除糠工程)を終えた後に「洗浄」のための給水がされているとも主張するが、洗米工程も洗浄工程も水洗いする点では変わりはなく、「洗浄」工程においても、程度の差はあれ一定の除糠作用が考えられないわけではないから、洗米工程で除糠が完了しているものとは断定できない。」を加える。
6 25頁2行目の次に改行の上、次のとおり加える。
「オ 原告は、イ号物件の製造工程においては、水のみによる工程であるロ号物件の湿式加圧精米(加水攪拌)部2において一般的に消費者が洗米している程度の「除糠」を終えるもので、これに続く熱付着式低圧攪拌部3においては、熱付着材を用いて除糠の終了した洗い米から洗滌水を吸収し又は蒸発させているにすぎないとして、以下の(ア)ないし(エ)の点について主張しているので、順次検討する。
(ア) 本件発明にいう「洗滌」と除糠、除水について a 原告は、「洗滌」の前半作用が「除糠」、後半作用が「除水」であり、「洗滌」は「除糠」と「除水の一部」を含む旨主張する(被告は、この点についても自白の撤回に当たると主張するが、前記と同様の理由によって採用できない。)。
この点の原告の主張は、洗滌水の除去が「洗滌」工程の一部として行われることを前提としている。
しかし、本件明細書には、洗米機を使用する場合に関する記載ではあるが、「尚、ここに云う充分な洗米とは、そのまま炊飯した場合、飯が糠臭くない程度、即ち、現在一般的に消費者で洗米している程度を意味するものであり、物理的には精白米表面にある肉眼では見えない無数の微細な陥没部や、胚芽の抜け跡に入り込んでいるミクロン単位の糠粉等を、ほとんど除去している程度、即ち、再びそれを洗米した場合、洗滌水がほとんど濁らない状態を指すものである。このように、充分な洗米が行われて、前記洗米機より排出されるようになるが、大抵の洗米機の場合、米粒は大量の洗滌水と共に排出されるので、これを間髪をいれず、直ちに前記洗米装置の後工程に設けた除水装置にて、洗滌水は勿論のこと、米粒表面に付着している付着水をも除去するのである。」(本件公報6欄10行〜23行)との記載があり、同記載によると、多くの洗米機の場合、除水装置は洗米装置の後工程として別個独立して設けられていること、米粒は大量の洗滌水と共に(洗米機から)排出され、除水装置において洗滌水と米粒表面の付着水が除去されることが示されている。
また、「洗滌」は、一般的には「洗いすすぐこと」(岩波書店「広辞苑」第5版)を意味する用語であるが、そのうち「すすぎ」は「洗い流すこと」(マグローヒル科学技術用語大辞典第3版)、「水でよごれを洗い出すこと」(岩波国語辞典第6版)の意味であり、水を流しながらすすぐ場合と、水を流さないですすぐ場合(いわゆる「ためすすぎ」)がある。そして、すすいでいる最中でも、
程度の差はあれ、除糠が全く行われないとは考えにくいから、洗滌と除糠、除水は、原告主張のように截然と区別して行われるわけではなく、被告主張のように、
「洗滌」と「除水」は互いに別の工程であり、また、「除糠」は「洗滌」の作用効果であるととらえることで十分であると考えられる。
b また、原告は、本件発明でいう「除糠」は、糠が元の位置の陥没部より離れることを意味し、糠が米肌の陥没部から剥離され、水中に浮遊して陥没部の外に出る程度に至れば足り、これによって「除糠」が終了するのであって、その糠がさらに米肌から遠くへ離される必要はない旨主張する。
しかし、本件明細書中に、そのような定義に関する記載は全くない上、乙15には、「研究の成果として「米研ぎ」によって抽出除去してしまわねばならない物質はアリウロン残留物であることが判明した」(271頁右下欄8行〜11行)、「アリウロンは、一般的に糠の一部であって深層部糠とか糠粉層体とも言われるように.常温常圧の元では流動性のある粘性質な形態をし、その主成分は水溶性蛋白質や水溶性の油と糖質等との複合体である。玄米にあるアリウロンそのものは精白機によって精白されることで通常の搗精白度の場合、その8〜9割は糠と一緒に除去されると思われるが第9図に示すように一部のアリウロン残留物Aは米粒最外側の澱粉複粒体表面1に塗着したり 第1層澱粉複粒体2間に精白時の圧力等で入り込んでいる。この入り込んだアリウロン残留物Aと表面に塗り付けられたアリウロン残留物A を取り除くことがすなわち「米研ぎ」であり、取り除く手段は水による抽出以外にない。」(272頁左上欄13行〜右上欄7行)と記載されているように、一般には、洗米による除糠は、陥没部の糠分を取り除くだけでなく、
上記のように米粒の表面に塗着された糠を除くことも含まれていることが明らかである。
また、原告主張のように、米肌にある陥没部の糠分が陥没部の外に出たとしても、その位置にとどまっているのではなく、攪拌によって生じた水流によって相対的には移動するものと考えられ、水中に浮遊した糠は攪拌によって生じた水流により当該米粒とは離れてしまっているはずであって、この状態を「洗い流す」と表現することもできるし、また、この状態を指して「すすぎ」を行っているということもできるのであり、その意味でも、本件発明にいう「除糠」を原告主張のような意義に限定する理由は存しないものといわざるを得ない。
c さらに、原告は、本件発明の「洗滌」の際の加水量は、「除糠」の目的さえ達成できれば、限定されず、米粒の表面が自由に移動できる水に覆われた状態であれば足りる旨主張する。
しかし、上記原告の主張は本来の語義とはそぐわない上、本件明細書には、そのような極限的な水量で足りることを示唆するような記載もなく、そのようなことが当業者の技術常識であることを認めるに足りる証拠もない(ただし、
本件明細書の実施例2の説明文中には、@「上記洗米機の回転数を毎分1800回転となし」、A「25℃の水を注入し乍ら・・・精白米を連続的に毎分10sペースの速さで投入する」との記載があり、上記@、Aの記載から、洗米機の構造及び水の注入量を実施例1のままにして、実施例2では、洗米機の回転数だけを高めて、米の投入量を10倍にしても洗米できるタイプであり、実施例1の加水率が、
実施例2では10分の1に減少して洗米していることが窺われるが、この記載のみから現実の加水率を知ることはできない。)。
(イ) イ号物件に係る製造工程(ロ号物件のネオ・テイスティ・ホワイト・プロセス〔NTWP〕製法)について a 原告は、ロ号物件のネオ・テイスティ・ホワイト・プロセス〔NTWP〕製法は、最低限の水量に近いレベルで「洗滌」を行うものであり、そのためには被洗滌物の表面を自由に移動できる付着液量が不可欠であるとともに、その付着液量さえあれば「洗滌」が果たせる旨主張し、甲68の実験において加水率5%の場合でも白濁の余剰水が発生したことや、また、水を大量に使えない場合の洗滌のために合成皮革の硬・軟表面の洗滌剤(甲87)等が市販されているところ、その被洗滌物の表面に付着する液量の厚みよりもロ号物件の湿式加圧精米(加水攪拌)部2において米粒表面に付着すると考えられる液量の厚みの方がはるかに厚いことからも、同部において米粒の「洗滌」を行うことは十分に可能である旨主張する。
しかし、甲87の付着液は、洗滌専用液として複雑な組成から成るものであるから、液量の厚みの比較だけで原告主張のようにいうことができるのか疑問であるし、甲68の実験にしても、これと反する結果が生じた乙44の実験がある上、加水率5%の場合にも白濁の余剰水が発生するものとしても、そのことから、加水率5%であっても米粒の表面等に付着した糠が水に取り込まれることは肯定できるとしても、除糠の程度まで判明するものでないことは明らかであるから、
原告主張の点のみから、ロ号物件の湿式加圧精米(加水攪拌)部2において一般的に消費者が洗米している程度の「洗滌」が行われているものとまでいうことはできない。
b 原告は、加工フロー図によれば、「湿式加圧精米部」のAに糠が米肌から離れているところが明瞭に図示されており、これによれば、イ号物件については、この段階で水により糠が陥没部から離れる「除糠」が行われていること、そして、この段階でのみ「除糠」がなされ、後の工程では糠を米肌から剥離することは一切行われていないことが明らかであると主張する。
しかし、甲63が顧客向けの概要説明用パンフレットにすぎないことは、その体裁自体に照らして明らかであり、加工フロー図(湿式加圧精米⇒熱付着式低圧攪拌⇒分離乾燥部)も被告主張のように極端に誇張されたものであって、
原告指摘の「湿式加圧精米」のAの図にしても、「剥離した軟化糠」との説明とともに糠が米粒表面から剥離して物理的に離された様子が図示されてはいるものの、
その一部は米粒表面に付着していることが読み取れないではない上、陥没部及びその中の糠の状況については全く図示されていない。そして、原告の主張は、後の工程では糠を米肌から剥離することは一切ないことを前提にするものであるが、加工フロー図のみではそのような点までは読み取りがたく(かえって、加工フロー図の「熱付着式低圧攪拌」のB、Cには熱付着材が糠を吸着する状況が図示され、その本文中には、切手とアイロンのたとえを用いて「NTWP装置では、この残留している糠だけを熱付着材によって完全に除去し、糠層下部の細胞壁を残す加工を行うことにより、うまみ層を残すことができます。」と熱付着材により糠を取ることが明記されている。)、さらに、加水率5%程度の場合に湿潤軟化状態ではなく、原告が前提とするような状態になっているかどうかは、本件全証拠によっても明らかではないから、この点に関する原告の主張も、その前提を欠くものであって、採用しがたい。
(ウ) 甲79の実験について 原告は、甲79の実験により、ロ号物件の湿式加圧精米(加水攪拌)部2における加水率が被告の主張する5%であっても、一般的に消費者において洗米している程度の「除糠」が可能である旨主張するところ、甲79によれば、市販普通精米20gと水1g(加水率5%)を攪拌器具で10秒間攪拌し、その後45秒間乾いたタオルで拭ったもの(処理3)と、上記のものと同一の普通精米20gをボウルに入れ、手作業で十分な水で4回洗い(その度に水を入れ替える)、その後直ちにザルで水を切り、45秒間乾いたタオルで拭ったもの(処理4)を、それぞれ電子顕微鏡で1000倍に拡大して観察すると、いずれも米肌の無数の微細な陥没部の糠が除去されていること、他方、市販普通精米20gと水0.16g(加水率0.8%)を攪拌器具に入れ、10秒間攪拌し、その後45秒間乾いたタオルで拭った場合(処理2)は、全く加水せず、単に45秒間タオルで拭った場合(処理1)と同様、米肌の陥没部に入り込んだ糠が全く除去されていないことが認められる。
しかし、この実験結果によっても、ロ号物件における陥没部の除糠が加水攪拌によるものか熱付着材によるものかが明らかになったものとはいいがたい。けだし、同実験における各処理はいずれも、加水率5%の加水攪拌後、米粒をタオルによって拭う処理を行っており、その影響があるのではないかとの疑問を払拭することはできないからである。
この点について、原告は、同実験の処理1、処理2ではいずれも糠が全く除去されてないことにより、タオルが加水撹拌により発生したとぎ汁を拭き取るだけの作用しかしていないことが実証されたとし、もし熱付着材で陥没部に入り込んでいる糠を吸着させているのなら、同実験の処理2(0.8%加水の場合)でも除糠できたはずである旨主張しているが、処理2(加水率0.8%)と処理3(加水率5%)では加水率が異なり、当然に湿潤軟化の程度も異なるものと推定される上、タオルと熱付着材では吸水力等の条件も異なると考えられるから(甲73参照)、タオルでそのような結果が出たからといって、熱付着材でも同様の結果が出るかは明らかでない。
(エ) 熱付着材の作用について 原告は、ロ号物件の熱付着式低圧攪拌部3は、湿式加圧精米(加水攪拌)部2において既に一般的に消費者が洗米している程度に除糠されている洗い米から、熱付着材を用いて洗滌水を吸収し又は蒸発させているにすぎない旨主張し、
その点の根拠として、熱付着材は大きさが0.6〜1.3mmであるのに対し、米粒表面の陥没部が1μm程度と極めて微小であることからすれば、熱付着材が陥没部に入り込んで糠と接触するのは物理的に無理があり、陥没部に入り込んだ糠を取り除くことは到底できるものではない旨主張するが、加熱された熱付着剤(タピオカ)の吸水力の高さ(甲73)や、ミクロン単位で観察すれば、その表面も凹凸に富むものと考えられることにかんがみれば、この点の原告の主張も疑問の残るところであって、にわかに採用しがたく、他にロ号物件の熱付着材が洗滌水を吸収し又は蒸発させているにすぎないとの原告主張を認めるに足りる証拠はない。
以上のとおり、原告の(ア)ないし(エ)の主張はいずれも採用できず、他に、原告が主張するロ号物件の湿式加圧精米(加水攪拌)部2において一般的に消費者が洗米している程度の「除糠」ができているとする点、熱付着式低圧攪拌部3における熱付着材は除糠の終了した洗い米から洗滌水を吸収等しているにすぎないとする点を認めるに足りる証拠はない。
カ 原告は、仮に、ロ号物件の湿式加圧精米(加水攪拌)部2における除糠の程度が一般的に消費者において洗米している程度に達しているとはいえず、熱付着式低圧攪拌部3を経て初めてその程度に除糠しているものとしても、ロ号物件のように、水による除糠が開始され、本来これがなくても所望の作用効果を得られる別工程を付加したとしても、本件発明の構成要件Aにいう「洗滌」の要件を充足するものと解釈されるべきであるなどと主張するところ、原告の主張の趣旨は必ずしも明らかでないが、水と熱付着剤との併用によって初めて一般的に消費者が洗米している程度の「除糠」に達することができる場合が、本件発明の予定する「洗滌」に当たらないことは既にみたとおりである。また、水のみで上記程度の「除糠」が可能な場合に他の工程が付加されたとしても、本件発明の「洗滌」を充足し得るとみられるが、被告の主張がその点をいうものとすれば、水のみの工程であるロ号物件の湿式加圧精米(加水攪拌)部2において一般的に消費者において洗米している程度に除糠されているものと認めるに足りる証拠のない本件においては、その前提を欠く主張として採用できない。
3 その他、原審及び当審における当事者提出の各準備書面記載の主張に照らし、原審及び当審で提出、援用された全証拠を改めて精査しても、引用に係る原判決を含め、当審の認定、判断を覆すほどのものはない。」
結論
以上によれば、イ号物件は本件発明の技術的範囲に属さず、したがって、ロ号物件について間接侵害が成立することもないから、原告の請求はいずれも棄却すべきところ、これと同旨の原判決は相当であって、本件控訴は理由がない。 よって、主文のとおり判決する。
(平成14年11月22日口頭弁論終結)
裁判長裁判官 竹原俊一
裁判官 小野洋一
裁判官 黒野功久