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関連審決 無効2002-35057
この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成15行ケ39審決取消請求参加事件 判例 特許
平成17ワ2649特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成20行ケ10151審決取消請求事件 判例 特許
平成19行ケ10300審決取消請求事件 判例 特許
平成22行ケ10221審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 発明者 /  方法の発明 /  新規性 /  29条1項3号 /  インターネット /  アクセス /  進歩性(29条2項) /  一致点の認定 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  単一性 /  優先権 /  優先日 /  技術的意義 /  実施 /  構成要件 /  設定登録 /  誤記の訂正 /  訂正の目的 /  請求の範囲 /  減縮 /  拡張 /  変更 /  釈明 /  独立特許要件 /  訂正明細書 /  訂正要件 / 
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事件 平成 15年 (行ケ) 288号 審決取消請求事件
原告 有限会社ブリッツア
同訴訟代理人弁護士 岩坪哲
同 赫高規
被告A
同訴訟代理人弁理士 佐藤英昭
同 斎藤栄一
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/10/21
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 (1) 特許庁が無効2002-35057号事件について平成15年5月27日にした審決を取り消す。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
前提となる事実(当事者間に争いがない。)
1 特許庁における手続の経緯 (1) 原告は,発明の名称を「Webデータ収集装置およびその方法,並びに該方法に係るプログラムを記憶した記憶媒体」とする特許第3017735号(平成11年7月29日出願。優先日・同年4月30日。優先権主張国・日本。同年12月24日設定登録。以下「本件特許」という。)の特許権者である。
(2) 被告(請求人)は,平成14年2月19日,原告を被請求人として,本件特許の請求項1ないし6に係る発明についての特許について,これを無効とすることを求めて本件審判の請求をし,同請求は無効2002-35057号事件として特許庁に係属した。本件審判の手続において,原告は,同年4月30日,本件特許出願に添付された明細書(甲2。以下「本件明細書」という。)の訂正(以下「本件訂正」という。)を請求した。
特許庁は,平成15年5月27日,本件訂正の請求は認められないとした上,「特許第3017735号の請求項1ないし6に係る発明についての特許を無効とする。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は同年6月6日に原告に送達された。
2 本件明細書の「特許請求の範囲」の請求項1ないし6に記載された発明(請求項1ないし6に係る発明をそれぞれ「本件発明1」ないし「本件発明6」という。)の要旨は,次のとおりである。
【請求項1】 インターネット,イントラネット,またはエクストラネット上で,検索条件を入力し該検索条件に合致した情報を表示するページを対象としてWebデータを自動的に収集するWebデータ収集装置であって,検索対象のページを指定する手段と,検索条件を入力する手段と,該検索条件での検索の実行を指示するリクエストを生成して,検索対象のサーバに送信する手段と,検索結果であるレスポンスを受信する手段と,レスポンス中のコンテンツを格納する格納手段と,該コンテンツ中から次ページの有無を検出する手段と,次ページがあったとき,該次ページの取得リクエストを送信して該ページデータを取得し前記格納手段に格納し,次ページがある限りこれを繰り返す手段とを備えたことを特徴とするWebデータ収集装置。
【請求項2】 インターネット,イントラネット,またはエクストラネット上で,検索 条件を入力し該検索条件に合致した情報を表示するページを対象としてWebデータを自動的に収集するWebデータ収集装置であって,検索対象のページを指定する手段と,検索条件を入力する手段と,該検索条件での検索の実行を指示するリクエストを生成して,検索対象のサーバに送信する手段と,検索結果であるレスポンスを受信する手段と,レスポンス中のリンクをたどって該リンクページをダウンロードし,該ダウンロードしたページデータを格納する格納手段と,前記レスポンス中から次ページの有無を検出する手段と,次ページがあったとき,該次ページの取得リクエストを送信して該ページデータを取得し,取得したページデータ中のリンクをたどって該リンクページをダウンロードし,該ダウンロードしたページデータを前記格納手段に格納し,次ページがある限りこれを繰り返す手段とを備えたことを特徴とするWebデータ収集装置。
【請求項3】 さらに情報収集するネストレベルを指定する手段を備え,該ネストレベルまで前記コンテンツ中に含まれるURLをたどって情報収集することを特徴とする請求項1または2の何れか1つに記載のWebデータ収集装置。
【請求項4】 前記格納手段に格納する情報に対し,さらに別の検索条件での検索をかけ,その検索結果を前記格納手段に格納することを特徴とする請求項1または2の何れか1つに記載のWebデータ収集装置。
【請求項5】 検索された情報のうち,どのフィールドの情報を表示するか,その表示条件を入力する手段をさらに備え,前記格納手段に格納された情報から,前記表示条件で指定されたフィールドの情報を抽出して表示することを特徴とする請求項1または2の何れか1つに記載のWebデータ収集装置。
【請求項6】 次ページがある限り情報収集を続ける代わりに,所定の条件に基づいて情報収集を終了する手段をさらに備えた請求項1または2に何れか1つに記載のWebデータ収集装置。
3 本件訂正後の明細書(甲4。以下「本件訂正明細書」という。)の「特許請求の範囲」の請求項7ないし13に記載の発明(以下「本件訂正発明7」ないし「本件訂正発明13」という。)の要旨は,次のとおりものである。
【請求項7】インターネット,イントラネット,またはエクストラネット上で,検索条件を入力し該検索条件に合致した情報を表示するページを対象としてWebデータを自動的に収集するWebデータ収集方法であって,検索対象のページを指定するステップと,検索条件を入力するステップと,該検索条件での検索の実行を指示するリクエストを生成して,検索対象のサーバに送信するステップと,検索結果であるレスポンスを受信するステップと,レスポンス中のコンテンツをファイルとして格納する格納ステップと,該コンテンツ内を解析し,次ページの指定があるか否かを判別して次ページの有無を検出するステップと,次ページがあったとき,該次ページの取得リクエストを送信して該ページデータを取得しファイルとして格納し,次ページがある限りこれを繰り返すステップとを備えたことを特徴とするWebデータ収集方法。
【請求項8】インターネット,イントラネット,またはエクストラネット上で,検索条件を入力し該検索条件に合致した情報を表示するページを対象としてWebデータを自動的に収集するWebデータ収集方法であって,検索対象のページを指定するステップと,検索条件を入力するステップと,該検索条件での検索の実行を指示するリクエストを生成して,検索対象のサーバに送信するステップと,検索結果であるレスポンスを受信するステップと,レスポンス中のリンクをたどって該リンクページをダウンロードし,該ダウンロードしたページデータを格納する格納ステップと,前記レスポンス中のコンテンツ内を解析し,次ページの指定があるか否かを判別して次ページの有無を検出するステップと,次ページがあったとき,該次ページの取得リクエストを送信して該ページデータを取得し,取得したページデータ中のリンクをたどって該リンクページをダウンロードし,該ダウンロードしたページデータを前記格納手段に格納し,次ページがある限りこれを繰り返すステップとを備えたことを特徴とするWebデータ収集方法。
【請求項9】さらに情報収集するネストレベルを指定するステップを備え,該ネストレベルまで前記コンテンツ中に含まれるURLをたどって情報収集することを特徴とする請求項7または8の何れか1つに記載のWebデータ収集方法。
【請求項10】前記ファイルとして格納する情報に対し,さらに別の検索条件での検索をかけ,その検索結果をファイルとして格納することを特徴とする請求項7または8の何れか1つに記載のWebデータ収集方法。
【請求項11】検索された情報のうち,どのフィールドの情報を表示するか,その表示条件を入力するステップをさらに備え,前記ファイルとして格納された情報から,前記表示条件で指定されたフィールドの情報を抽出して表示することを特徴とする請求項7または8の何れか1つに記載のWebデータ収集方法。
【請求項12】次ページがある限り情報収集を続ける代わりに,所定の条件に基づいて情報収集を終了することを特徴とする請求項7または8の何れか1つに記載のWebデータ収集方法。
【請求項13】請求項7から12の何れか1つに記載のWebデータ収集方法に係るプログラムを記憶したことを特徴とするプログラム記憶媒体。
4 本件審決の理由の要旨 (本件訂正の請求の適否) (1) 本件訂正の目的の適否,新規事項の有無及び拡張変更の存否 本件訂正は,@特許請求の範囲減縮を目的とするもの,A特許請求の範囲についてする訂正に伴って,特許請求の範囲の記載に対応する発明の詳細な説明の記載を整合させるべく,明りょうでない記載の釈明を目的とするもの,B明らかに誤記の訂正を目的とするもののいずれかであり,いずれも本件明細書に記載した事項の範囲内においてするものであって,実質上特許請求の範囲拡張し,変更するものではない。
(2) 独立特許要件 ア 本件明細書の請求項7ないし13について訂正は,審判の請求がされていない請求項についての訂正であり,その内容は特許請求の範囲減縮を目的としたものであるから,その訂正により特定される本件訂正発明7ないし本件訂正発明13は,独立特許要件を具備することが必要である(特許法134条5項,126条4項)。そこで,以下検討する。
(ア) 本件訂正発明7 本件訂正発明7と米国特許第5890172号明細書(甲5の(1),(2)。以下「刊行物1」という。)に記載された発明(以下「引用発明1」という。)を対比すると,刊行物1の自動ジャンプモードは,ユーザーにより選択されたインターバルで順次検索条件に合致した情報を表示するWebページを表示するのであるから,刊行物1には「インターネット上で,検索条件を入力し該検索条件に合致した情報を表示するページを対象としてWebデータを自動的に収集するWebデータ収集方法」が記載されていることは明らかである。そして,インターネット上でWebデータを検索プロバイダにアクセスして検索する場合,検索に用いる検索プロバイダを指定することは必須であり,刊行物1に記載されたヤフー等の検索プロバイダは,本件訂正発明7の検索対象のページに相当するから,刊行物1に記載されたWebデータ収集方法は,検索対象のページを指定するステップを備えたものであることは明らかである。
また,刊行物1に記載されたWebデータ収集方法は,刊行物1の記載事項である別紙(イ)の「検索プロバイダは,クライアントに,彼らのサーバに接続して検索条件を入力させる。」及び同じく別紙(ハ)の「質問フォームはマークアップ言語でエンコードされ,質問フィールド410を有しており,ユーザーはそこに所望の検索トピックを入力することができる。」という記載からみて,検索条件を入力するステップを備えていること,同じく別紙(ハ)の「検索トピックが入力されると,FIG.1に示す通り,ブラウザによってWEBを越えてサーバ34 ヤフー.により所有される40へそれが送信される。」という記載からみて,該検索条件での検索の実行を指示するリクエストを生成して,検索対象のサーバに送信するステップを備えていること,及び刊行物1の記載事項である別紙(イ)の「検索プロバイダは,検索条件に合致するウェブのすべてのファイルのリストを提供する。」及び「ヤフーから取得される情報が,特定のトピックのために,一般のトピック識別子とファイルの場所のみを含んでいることに注意すべきである。」という記載,同じく別紙(ニ)の「検索条件"Rat"に対応してヤフー.から取得された最初のファイルが,FIG.5A-B,Cにかけて,ページ上部が502a,ページ下部が502bとしてそれぞれ示されている。これらはスクロールバー500によりアクセスされる。取得されたファイルは,広告504,検索結果のサマリー506,そして508-514および580-584で参照される複数のhot-linksを含んでいる。」という記載からみて,本件訂正発明7の「検索結果であるレスポンスを受信するステップ」に相当するものを備えていることも明らかであり,「レスポンス中のコンテンツをファイルとして格納する格納ステップ」も実質的に備えているものと認められる。
さらに,刊行物1に記載されたWebデータ収集方法は,刊行物1の記載事項である別紙(へ)の「ユーザーが選択可能な表示インターバルに基づき,選択されたインターバルでページ画像がブラウザウィンドウ406に表示される。インターバルが終ると制御は memory fetch手順846に進み,解析されたHTMLファイルの次のURLが取り出され,リスト最終判定部848において,当該URLが格納されたURL群の最後であるかどうかが判定される。・・・最終URL判定部848において,判定が肯定であれば,制御は「next」リンク判定部850へ移行する。「next」リンク判定部850では,(FIG.5Cの588の例で示す通り)最終URLが次の10個のエントリへのクエリを含むかどうか判定される。」という記載からみて,本件訂正発明7の「該コンテンツ内を解析し,次ページの指定があるか否かを判別して次ページの有無を検出するステップ」に相当するものを備え,刊行物1の記載事項である別紙(ト)の「判定が肯定であった場合,制御はjumper-browser-jumper手順852に進む。手順852では,次の10個のhot-links のためのクエリがヤフー.に送られる。それに応じて,次の10個のhot-linksを含むHTMLにエンコードされたページが取得される。・・・一方,nextリンク判定部850で否定の判定がされたら,jumper-browserの手順858において,この最後のURLがブラウザへ送られる。」という記載からみて,本件訂正発明7の「次ページがあったとき,該次ページの取得リクエストを送信して該ページデータを取得しファイルとして格納し,次ページがある限りこれを繰り返すステップ」に相当するものを備えていると認められる。
以上のとおりであるので,本件訂正発明7は,引用発明1である。
なお,刊行物1の記載事項である別紙(へ)及び(ト)の「次の10個のエントリ」,「次の10個のhot-links」という記載及びFIG.8Bの記載は,記載事項である別紙(ニ)の「そのうち最初の20件のhot-linksが表示されている。」と整合しないが,後記のとおり,これはどちらかの誤記と認められる。また,このような不整合が存在することにより上記判断が左右されるものでもない。
(注 上記の「なお」以下にある「後記のとおり」との部分は,以下の説示部分を指している。
まず,「Next20」について,原告は,FIG.5Bの「要約506」に「Found 74 Matches containing rat.Displaying matches 1-20」と明記され,かつYahoo検索サイトのヒット表示数が「20」であることは当業界において周知の事項でもあると主張している。確かに,Yahoo検索サイトの検索回答の1頁のヒット表示数は最大「20」であることから,「Next20」の記載は誤記ではないと認めることができる。
次に,原告は,「次の10個のエントリ」の記載の正当性について,刊行物1には図面を含めて複数個所に「次の10個のエントリ」という記載があり,そのいずれもが「次の20個のエントリ」の誤記と解するのは不自然であり,「10」という数値は刊行物1の発明者に意図的に選択され記載されたものである旨主張し,さらにその根拠として,刊行物1の「他の実施形態では,ユーザーが検索結果からいくつかのサイト識別情報(注:URL)が解析されるかを決めることが出来る。例えば,検索結果が20のサイト識別情報を提供するがユーザーは最初の5個の識別情報のみを欲する場合,ユーザは最初の5個の識別情報のみが提供されるよう特定することができる」との記述を挙げ,取得すべきURL(hot-links)の数はユーザにおいて選択可能であることが刊行物1に示されているから,前記「次の10個のエントリ」に示された「10」という数値もまた,ユーザが任意に選択した数であってFIG.5Cにおける588の指示数値とは無関係である旨主張している。しかしながら,誤記は錯誤により生じうるものであり,そうであれば,複数個所での誤記は発生しうるものであるから,複数個所に同じ記載があるからといって,それらが誤記ではないと直ちに認めることはできない。また,原告のi引用する刊行物1の記載であるが,「他の実施形態では」と記載されているとおり,いま問題となっている「次の10個のエントリ」に関する実施形態とは別の実施形態のものであるから,そもそも「次の10個のエントリ」の正当性の根拠になり得ないものである。そして,さらにいえば,「検索結果が20のサイト識別情報を提供するが,ユーザは最初の5個の識別情報のみが提供されるよう特定する」のであれば,「次の5個のエントリ」を検索サイトに要求することなどあり得ないことである。したがって,原告の主張する「次の10個のエントリ」の記載の正当性を認めることはできず,また「次の10個のエントリ」に示された「10」という数値はユーザが任意に選択した数であってFIG.5Cにおける588の指示数値とは無関係である旨の主張も認めることはできない。なお,「次の10個のエントリ」の記載が誤記ではなく,「10」という数値が意図的に記載されたということが,仮に認められるとしたら,それは,「next」リンク判定部で判定するのは最終URLに対応するテキスト部分に「next」があるか否かであって,「next10」あるいは「next20」の存否ではないことを示すため,すなわち「next」リンク判定部の機能を「next20」の判定と限定解釈されるのを防ぐためと想定される。) (イ) 本件訂正発明8 本件訂正発明8のうち,「インターネット,イントラネット,またはエクストラネット上で,検索条件を入力し該検索条件に合致した情報を表示するページを対象としてWebデータを自動的に収集するWebデータ収集方法であって,検索対象のページを指定するステップと,検索条件を入力するステップと,該検索条件での検索の実行を指示するリクエストを生成して,検索対象のサーバに送信するステップと,検索結果であるレスポンスを受信するステップ」を備えた部分までは,本件訂正発明7と同一であるから,本件訂正発明7について上述したとおり,刊行物1に記載されたものである。
そして,刊行物1の記載事項である別紙(ホ)の「この手順は,ユーザーに対して,ブラウザウィンドウ内のレベル1のhot-linksで示されるレベル2のファイル群の動的なツアーを見ることを可能にする。連結ブロックAで開始し,制御はmemory fetch手順840へ移行する。そこで最初のURL(FIG2 で示される格納部 230 内のhot-linksの一部である)がジャンパにより取り出される。次に,jumper-browser手順842において,最初のURLがブラウザに送られる。user I/O 208の制御により,ブラウザは,当該サイトと当該サイトにあるファイルにアクセスし,ブラウザウィンドウ406に当該ファイルがアップロードされ表示される。」という記載からみて,刊行物1に記載されたWebデータ収集方法は,「検索結果であるレスポンスを受信するステップ」に引き続いて,本件訂正発明8の「レスポンス中のリンクをたどって該リンクページをダウンロードし,該ダウンロードしたページデータを格納する格納ステップ」を備え,また,本件訂正発明7について上述したとおり,「前記レスポンス中のコンテンツ内を解析し,次ページの指定があるか否かを判別して次ページの有無を検出するステップ」を備えていると認められる。
さらに,刊行物1の記載事項である別紙(へ)及び(ト)からみて,刊行物1に記載されたWebデータ収集方法は,「次ページがあったとき,該次ページの取得リクエストを送信して該ページデータを取得し,取得したページデータ中のリンクをたどって該リンクページをダウンロードし,該ダウンロードしたページデータを前記格納手段に格納し,次ページがある限りこれを繰り返すステップ」をも備えるものと認められる。
したがって,本件訂正発明8は,引用発明1である。
(ウ) 本件訂正発明9 本件訂正発明9は,本件訂正発明7又は8の何れか1つのWebデータ収集方法において,さらに情報収集するネストレベルを指定するステップを備え,該ネストレベルまで前記コンテンツ中に含まれるURLをたどって情報収集することを発明を特定するために必要な事項としたものであるが,Webデータ収集方法において,情報収集するネストレベルを指定するステップを備え,該ネストレベルまで前記コンテンツ中に含まれるURLをたどって情報収集することは,特開平10-207759号公報(甲9。以下「刊行物2」という。)に,「取得可能なページへのリンク数を予め指定できる」として記載されており,本件訂正発明9は,引用発明1及び刊行物2に記載された発明(以下「引用発明2」という。)に基づいて,当業者が容易になし得たものである。
(エ) 本件訂正発明10 本件訂正発明10は,本件訂正発明7又は8の何れか1つのWebデータ収集方法において,前記ファイルとして格納する情報に対し,さらに別の検索条件での検索をかけ,その検索結果をファイルとして格納することを発明を特定するために必要な事項としたものであるが,ファイルとして格納する最初の検索結果である情報に対し,さらに別の検索条件での検索をかけ,その検索結果をファイルとして格納することは,特開平9-305611号公報(甲10。以下「刊行物3」という。)に,「1の検索条件に合致する検索結果を仮想データとして一時的に保存する第1の手段と,保存されている仮想データに対して別の検索条件に基づく絞り込み検索を行う第2の手段」として実質的に記載されており,本件訂正発明10は,引用発明1及び刊行物3に記載された発明(以下「引用発明3」という。)に基づいて,当業者が容易になし得たものである。
(オ) 本件訂正発明11 本件訂正発明11は,本件訂正発明7又は8の何れか1つのWebデータ収集方法において,検索された情報のうち,どのフィールドの情報を表示するか,その表示条件を入力するステップをさらに備え,前記ファイルとして格納された情報から,前記表示条件で指定されたフィールドの情報を抽出して表示することを発明を特定するために必要な事項としたものであるが,検索された情報のうち,どのフィールドの情報を表示するか,その表示条件を入力するステップをさらに備え,前記ファイルとして格納された情報から,前記表示条件で指定されたフィールドの情報を抽出して表示することは,特開平8-55132号公報(甲11。以下「刊行物4」という。)に,「データベース検索利用者により入力される,表示項目を表示するかという情報が記述されたリストを設け,検索結果のテキストを提示する際に,当該リストに表示すると記述された内容を検索結果として提示する」として実質的に記載されており,本件訂正発明11は,引用発明1及び刊行物4に記載された発明(以下「引用発明4」という。)に基づいて,当業者が容易になし得たものである。
(カ) 本件訂正発明12 本件訂正発明12は,本件訂正発明7又は8の何れか1つのWebデータ収集方法において,次ページがある限り情報収集を続ける代わりに,所定の条件に基づいて情報収集を終了することを発明を特定するために必要な事項としたものであるが,Webデータ収集方法において,所定の条件に基づいて情報収集を終了することは,刊行物2に,「利用時間および料金の制限を設定できる」として記載されており,本件訂正明細書の請求項12に係る発明は,引用発明1及び2に基づいて,当業者が容易になし得たものである。
(キ) 本件訂正発明13 本件訂正発明13は,「請求項7から12の何れか1つに記載のWebデータ収集方法に係るプログラムを記憶したことを特徴とするプログラム記憶媒体」により特定されるものであり,上記(ア)ないし(カ)で検討したとおり,本件訂正発明13のうち本件訂正発明7及び8を引用する発明は,引用発明1であり,本件訂正発明13のうち本件訂正発明9ないし12を引用する発明は,引用発明1ないし4に基づいて,当業者が容易になし得たものである。
イ 以上のとおりであるので,本件訂正発明7,8及び本件訂正発明13のうち本件訂正発明7及び8を引用する発明は,特許法29条1項3号の規定により独立して特許を受けることができないものであり,また,本件訂正発明9ないし12,本件訂正発明13のうち本件訂正発明9ないし12を引用する発明は,特許法第29条2項の規定により独立して特許を受けることができないものである。
(3) そうすると,本件訂正の請求は,特許法第134条5項,126条4項の規定に適合しないので,同請求は認められない。
(本件発明1ないし6の無効理由の有無) (1) 本件発明1ないし6と本件訂正発明7ないし12をそれぞれ対比すると,本件発明1ないし6はWebデータ収集装置の発明であって,各構成要件が手段で表現され,本件訂正発明7ないし12はWebデータ収集方法の発明であって,各構成要件がステップで表現されたものであり,両者の各構成要件は,本件訂正発明7ないし12の次ページの有無を検出するステップが,本件発明1ないし6の次ページの有無を検出する手段に対して次ページの有無を検出する手法について限定したものである点,及び本件訂正発明7ないし12においては,格納される情報がファイルとして格納される旨の限定がある点を除いて,それぞれ対応していることから,カテゴリーは異なるものの,本件訂正発明7ないし12は,本件発明1ないし6をそれぞれ実質的に限定したものと認められる。
したがって,本件発明1及び2は引用発明1であり,本件発明1及び2に係る本件特許は,特許法29条1項3号の規定に違反してされたものである。
また,同じく,本件発明3は引用発明1及び2に基づいて,本件発明4は引用発明1及び3に基づいて,本件発明5は引用発明1及び4に基づいて,及び本件発明6は引用発明1及び2に基づいて,それぞれ当業者が容易になし得たものと認められるから,本件発明3乃至本件発明6の特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
(2) 以上のとおりであるので,本件発明1ないし6に係る特許は,無効とすべきものである。
当事者の主張
(原告主張の取消事由) 本件審決は,本件訂正の請求を認めず,本件発明1ないし6が特許要件を具備しないと判断したが,本件訂正の請求の適否の判断において,本件訂正発明7,8と引用発明1との一致点の認定を誤った結果,本件訂正発明7ないし13についての独立特許要件の具備に関する判断を誤り(取消事由1),また,本件訂正発明7ないし12が独立特許要件を具備しないとしても,本件明細書の「特許請求の範囲」の請求項1ないし6については本件訂正を認めるべきであるのに,この点の判断を誤った(取消理由2)ものであり,さらに,本件発明1ないし6の特許要件の具備に関する判断において,本件発明1,2と引用発明1との一致点の認定を誤り,その結果,上記特許要件の具備に関する判断を誤った(取消理由3)ものであり,それらの誤りが本件審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。
1 取消理由1(本件訂正発明7ないし13についての独立特許要件の具備に関する判断の誤り) (1) 本件訂正発明7について 本件審決は,刊行物1(甲5の(1),(2))に記載されたWebデータ収集方法は,本件訂正発明7の「該コンテンツ内を解析し,次ページの指定があるか否かを判別して次ページの有無を検出するステップと,」との構成要件(以下「構成要件G」という。),及び「次ページがあったとき,該次ページの取得リクエストを送信して該ページデータを取得しファイルとして格納し,次ページがある限りこれを繰り返すステップと」との構成要件(以下「構成要件H」ともいう。)に相当する構成を備えているとしたが,以下に述べるように誤りである。
ア 本件審決は,引用発明1における「「next」リンク判定部850」の処理に供される最終URLが,FIG.5Cにおける符号588として示された「Next20」であるとの誤った認定をし,刊行物1に本件訂正発明7の要部をなす構成要件Gが開示されていると判断したが,誤りである。
(ア) 刊行物1の記載の大半を字義に沿って忠実に解釈する限り,引用発明1における「「next」リンク判定部850」の処理に供される最終URLはFIG.5Cにいう符号584のhot-linkであると解するほかなく,これを符号588として示された「Next20」と解する余地はない。
すなわち,引用発明1における「「next」リンク判定部850」では,最終URLが「次の10個のエントリへのクエリを含むかどうか」が判定されるが,ここにいう最終URLは,「FIG.2で示される格納部230内のhot-links」のうちの最後のものであることは明らかである。なぜなら,「「next」リンク判定部850」への制御の移行は,「最終URL判定部848において,判定が肯定である場合」に行われるものであるから,該「判定部848」によって「最終」であることが判定されたURLそのものが,「next」リンク判定部850の判定対象たる「最終URL」であることは明らかであるところ,最終URL判定部848によって「最終」であることが判定されるURLは,「memory fetch手順840」によって取り出され,「jumper browser手順842」,「遅延手順844」,「fetch next URL手順846」による処理に供されるURL群中の最終のもの,すなわち,「FIG.2で示される格納部230内のhot-links」のうちの最終のものにほかならないからである。
しかして,上記の処理に供される「hot-links」について,刊行物1には「取得されたファイルは広告504,検索結果の要約506,そして508〜514及び580〜584で参照される複数のhot-linksを含んでいる」(第7欄59〜61行,訳文18頁10〜12行),「広告のすぐ下には,"Rat"の後にマッチするものが74件あることを示す検索結果の要約506があり,そのうち最初の20件のhot-linksが表示されている」(第8欄5〜8行,訳文18頁23〜25行)などと説明されているに止まり,刊行物1の実施例として掲げられたYahoo!画面(FIG.5A)中,本件訂正発明7における「次ページの指定」に該当するもの(FIG.5Cに符号588として示された「Next20」)がhot-linksに該当する旨の記述は,刊行物1には一切存在しない。
かえって,刊行物1においては,「広告504は特別にjumperの広告領域306に表示され,全てのhot-links508〜514,580〜584はjumperのドロップダウンリストにセットされる」(第8欄31〜33行,訳文19頁1〜3行)とされ,「全てのhot-links」が「508〜514,580〜584」とされていること,また「最初のオプションとしては,ユーザはjumperボタン312,314,316,318あるいは320を選択してそれぞれ,FIG.6で示される先頭,前,ランダム,次,最後のhot-links(jumper drop-down list window586に入っている。)に戻ることができる」(第9欄2〜6行,訳文19頁40〜44行)とされており,ドロップダウンリスト586の最後には「584」のhot-linkが存在することからすれば,「判定部848」によって最終であることが判別され,さらに「「next」リンク判定部850」の処理に供される最終URLは,「584」のhot-linkであると解するほかなく,これを「588」として示された「Next20」であるとすると,明らかに論理的不整合を生ずる。換言すれば,刊行物1においては,「最終URL」に「Next20」が含まれるか否かを当業者が明確に把握できる程度の開示がなされているとは到底いえないのである。
(イ) この点に関し,本件審決は,上記の「jumperボタン312」等の記載(第9欄2〜6行,訳文19頁40〜44行)については,「「next」リンク判定部850での判定が問題となる自動ジャンプモード時とは異なる場面でのものである」との理由で,考慮に値しないものと判断しているが,誤りである。
刊行物1の(第6欄41〜46行,第6欄63〜64行,第7欄5〜21行,第9欄63〜64行,第10欄1〜9行,第10欄23〜25行,第10欄30〜45行)の記載から明らかなとおり,FIG.3に示されているjumperウインドウ300は,その内部に存するjumperボタン312等のボタンも含めて,第9欄2行にいう「最初のオプション」に関する実施例であるのみならず,「「next」リンク判定部850」での判定が問題となる自動ジャンプモードに関する実施例(FIG.8Bに表されているもの)の一部をなすものである。したがって,刊行物1内のFIG.3に関する一連の記載はすべて,自動ジャンプモードの実施例に関する記載である。
たとえば,刊行物1の文脈上,「ランダムジャンプボタン316は,解析されたリスト上からランダムに選択されたhot-linkへユーザーを戻す」(第7欄8〜9行,訳文16頁37〜39行)との記載における「解析されたリスト」と,「タイマー開始ボタン322は,解析されたリストの全てのhot-linkを連続して自動選択することを開始し,ブラウザはこれに対応して,各hot-linkに対応するURLから取得したファイルをユーザーに表示する。」(第7欄11〜15行,訳文16頁41〜45行)との記載(自動ジャンプモードに固有の記載である。)における「解析されたリスト」とを異なる意義に解する余地はない。
刊行物1には,単独ジャンプ及び自動ジャンプモードの手順に関するFIG.8Aの説明に関して,取得解析手段804で解析され得られたhot-linksは,jumperのドロップダウンウインドウ586に表示されるとされており(第10欄4〜9行,訳文21頁14〜18行),また,「URL表示手順812では,FIG.6に示すとおり,hot-linksがjumperのドロップダウンウインドウ586に表示される」と記載されている(第10欄23〜25行,訳文21頁31〜32行)。ここにおける「hot-links」の意義と,刊行物1の第9欄5行における「hot-links」の意義についても,別異に解する余地がないことは明らかである。
イ 本件審決は,刊行物1の「「next」リンク判定部」で判定するのは,最終URLに対応するテキスト部分に,next20やnext10があるか否かではなく,「「next」があるか否か」である旨断定する。しかしながら,「「next」リンク判定部850」において,最終URLに対応するテキスト部分に「next」があるか否かを判定しているということは,刊行物1には一切記載されていないし,示唆もされていない。
(ア) 刊行物1において,「「next」リンク判定部」における判定方法については,唯一,「「next」リンク判定部850では,(FIG.5cの588の例で示すとおり)その最終URLがまた次の10個のエントリへのクエリを含むかどうか判定される。」(第11欄19〜22行,訳文23頁2〜5行)と記載されているのみであり,この記載において,判定の対象は,最終URLに対応するテキスト部分ではなく,また,判定事項は「next」という「次ページ指定」そのものの存否ではなく,「次の10個のエントリへのクエリが含まれているか否か」である。したがって,何故に,この記載部分に,最終URLに対応するテキスト部分に「next」があるか否かという判定方法が開示されているということができるのかは不明というほかない。
刊行物1の頒布当時に,上記記載内容を補うに足りるWebデータ収集装置分野における技術常識が存在したはずもないから,本件審決に認定の上記技術事項が刊行物1に記載されているに等しいものと解する余地も存在しない。
この点に関する本件審決の認定は誤りである。
(イ) 刊行物1の上記(ア)の記載によれば,「「next」リンク判定部」においては,「最終のURL」が「次の10個のエントリへのクエリを含むかどうか」が判定されるのであるから,引用発明1においては,たとえば,FIG.5A〜5Cの例において最終ページに相当する,74件のhot-linksのうちの「最後の4件のhot-linksの一覧」を表示するページを取得する構成は,一切開示されていない。刊行物1の「次の10個のエントリ」が誤記であり,「次の20個のエントリ」であるものと仮定したとしても,引用発明1においては,同様に,「最後の14件のhot-linksの一覧」を表示するページは取得できない。
「最後の14件」を取得できないとWebデータ収集装置として十分に機能しないから,十分に機能させようとするなら「最後の」URLを取得できるようになっているはずだなどという解釈は,もちろん採用できない。 次ページの指定の有無を判別することによって,複数ぺ-ジの順列集合体として生成されているWebデータを1ページ目から最終ページまで適切に取得する技術手段を開示したのは本件訂正発明7が嚆矢であり,刊行物1にこのような技術が開示されていないことは明らかである。
以上のとおり,引用発明1が,「該コンテンツ内を解析し,次ページの指定があるか否かを判別して次ページの有無を検出するステップ」(構成要件G),「次ページがあったとき,該次ページの取得リクエストを送信して該ページデータを取得しファイルとして格納し,次ページがある限りこれを繰り返すステップ」(構成要件H)を備えていないことは明らかである。
ウ 本件審決が,「刊行物1の記載事項である(へ)及び(ト)の「次の10個のエントリ」,「次の10個のhot-links」という記載及びFIG.8Bの記載は,同じく記載事項である(ニ)の「そのうち最初の20件のhot-linksが表示されている。」と整合しないが,これはどちらかの誤記と認められるから,「次の10個のエントリ」等の記載と「Next20」等の記載の不整合の存否によって,本件訂正発明7が引用発明1であるとの判断は左右されないと判断し,なお,刊行物1における「次の10個のエントリ」等の記載における「10」の数値はいずれも誤記であり,正しくは「20」であると判断しているが,以下に述べるとおり,いずれも誤りである。
(ア) 検索サービスYahoo!において,ユーザーが次の何件のhot-linksを取得するかについて任意に指定し得ることは公知の事実であり,したがってまた,引用発明1における「10」という数値はユーザが任意に選択できる数値であり得る。刊行物1における複数の記載(「nextリンク判定部850では,・・・その最終URLがまた次の10個のエントリへのクエリを含むかどうかが判定される。・・・手順852では,次の10個のhot-linksのためのクエリがYahoo.TMに送られる。それに応じて,次の10個のhot-linksを含むHTMLにエンコードされたページが取得される」(第11欄19〜27行,訳文23頁2〜10行),FIG.8Bにおける「LAST=NEXT"10"?」等の記載)からすれば,刊行物1記載の実施例においては,次の何件のhot-linksを取得するかについての初期値として「10件」と設定されているものと解するしかない。
そもそも,検索サービス利用時のインターネット・ナビゲーションにおいて,検索結果のうちの最初の20〜30件が重要であるというのが常識であり,検索キーワードに合致するhot-linksのうちの21件目以降については,20件ごとのhot-linksを取得するのではなく,10件ごとのhot-linksの取得に止めることとしても何らの不都合もないばかりか,かえって,受信するコンテンツのデータ量が少なくなって快適にデータを取得できるというメリットがあるものといえる。
インターネット・ナビゲーションの効率化に関する発明である引用発明1においては,次の何件のhot-linksを取得するかについて,「20件」ではなく「10件」と設定することには十分な技術的意義が存するものである。
(イ) 上述したとおり,「次の10個のエントリ」等の記載も,「Next20」等の記載も誤記ではないというべきであり,そのことを前提に刊行物1の記載を解釈すれば,「「next」リンク判定部850」という「判定手段」は,「最終URLが次の10個のエントリへのクリエを含むか否かを判定する手段」であって,同「判定部850」はFIG.5Cで符号588として示されている「Next20」,すなわち本件でいうところの「次ページの指定」を検出しているものではないこと,引用発明1における「「next」リンク判定部850」の判定が肯定であった場合に,「手順852」で送信されるクエリは,「次の10個のエントリへのクエリ」であり,「該次ページ」とは別物の,「n=10」との条件の指定のある取得リクエストを送信していることが明らかである。
したがって,引用発明1が「該コンテンツ内を解析し,次ページの指定があるか否かを判別して次ページの有無を検出するステップ」(構成要件G),「次ページがあったとき,該次ページの取得リクエストを送信して該ページデータを取得しファイルとして格納し,次ページがある限りこれを繰り返すステップ」(構成要件H)を備えていないことは明らかである。
(2) 本件訂正発明8について 本件審決は,本件訂正発明7について上述したとおり,刊行物1に記載されたWebデータ収集方法は,「前記レスポンス中のコンテンツ内を解析し,次ぺ-ジの指定があるか否かを判別して次ページの有無を検出するステップ」を備えており,また,刊行物1の記載事項である別紙(へ)及び(ト)からみて,「次ページがあったとき,該次ページの取得リクエストを送信して該ぺ-ジデータを取得し,取得したページデータ中のリンクを辿って該リンクぺ-ジをダウンロードし,該ダウンロードしたページデータを前記格納手段に格納し,次ぺ-ジがある限りこれを繰り返すステップ」をも備えるとして,本件訂正発明8は引用発明1であると判断したが,前記(1)で述べたとおり,引用発明1が構成要件G,Hに相当する構成を備えているとの判断は誤りであるから,本件訂正発明8についての上記判断も誤りである。
(3) 本件審決は,本件訂正発明7,8を引用した本件訂正発明9〜13の独立特許要件の具備に関して,本件訂正発明7,8が引用発明1であることを前提として,その新規性ないし進歩性を否定しているが,その前提を誤るものであり,本件審決のこの点の判断は誤りである。
(4) 以上のとおり,本件明細書の請求項7ないし13についての訂正は認められるべきものであるところ,本件審決は,この訂正は認められないとし,そのことを理由に,本件明細書の請求項1ないし6についての訂正も認められないとしたものであり,この点の判断が誤りであることは明らかである。
2 取消理由2(本件訂正の請求の適否を請求項ごとに判断しなかった判断の誤り) 仮に,本件訂正発明7ないし13が独立特許要件を具備していない(よって訂正が認められない)としても,本件訂正の請求の適否は請求項ごとに判断されるべきである。しかして,本件明細書の「特許請求の範囲」の請求項1ないし6についての本件訂正の請求は,独立特許要件以外の訂正要件を具備すれば足りるところ,上記訂正請求はその要件を具備しているから,上記訂正請求は認容されるべきである。
3 取消理由3(本件発明1ないし6についての特許要件の具備に関する判断の誤り) 本件審決は,本件訂正発明7及び8が引用発明1であることを前提に,カテゴリーは異なるものの,本件訂正発明7ないし12は,本件発明1ないし6を実質的に限定したものと認められるから,本件発明1,2は引用発明1であり,また,本件発明3ないし6は進歩性を有しない旨判断している。
しかしながら,本件訂正発明7及び8が引用発明1であるとの本件審決の判断が誤りであることは,前記1で述べたとおりであるから,本件審決の上記判断は,その前提を欠いており,誤りである。
(被告の反論) 1 取消理由1(本件訂正発明7ないし13についての独立特許要件の判断の誤り)について (1) 本件訂正発明7について ア 本件審決の,「引用発明1における「next」リンク判定部850」の処理に供される最終URLは,FIG.5Cにおける符号588として示された「Next20」である」とした判断に誤りはない。
(ア) 原告は,引用発明1における「「next」リンク判定部850」の処理に供される最終URLはFIG.5Cにいう符号584のhot-linkであると解するほかないと主張する。
しかしながら,刊行物1の記載によれば,memory-fetch 手順840により取り出されるのは「URL」であって,「hot-links」であるとは記載されていない。刊行物1記載の実施例において,最初に取り出すURLはhot-linksが記載されている最初のページと一致する。しかしながら,memory-fetch手順840がhot-linksのみを取り出し,それ以外のURLは取り出さないと解釈すべき記載はどこにも見られない。memory-fetch手順840により取り出されるのは「URL」なのであるから,当業者であれば,「最終URL」が符号588の「Next20」で示されるURLを対象としていると理解することに何ら疑問を生じる余地はなく,原告の上記主張は失当である。
(イ) 本件審決の「jumperボタン312等の記載(第9欄2〜6行)は,「next」リンク判定部850での判定が問題となる自動ジャンプモード時とは異なる場面のものである」とした判断に誤りはない。
刊行物1において,「全てのhot-links」が「508〜514,580〜584」であるという趣旨の記載があること及びドロップダウンリストの最後には「584」のhot-linkが存在することから,「jumperボタン312」等の記載を,「next」リンク判定部850での判定が問題となる自動ジャンプモード時と関連付けて論じることに無理を生じることは明らかである。また,FIG.3に示されている「jumperウインドウ300」中に「タイマー開始ボタン322」があるだけで,なぜ「刊行物1内のFIG.3に関する一連の記載はすべて,自動ジャンプモードの実施例に関する記載である。」という結論が導き出せるのか不可解である。
イ 本件審決の「next判定部は「Next20」の記載を判定しているのではなく,「Next」の記載を判定しているとするのが相当である」とした判断に誤りはなく,これは極めて自然な解釈である。
原告の,「判定の対象は,最終URLに対するテキスト部分ではなく,最終URLそのものであり,また,判定事項は,「next」という「次ページの指定」そのものの存否ではなく,「次の10個のエントリへのクエリが含まれているか否か」である。」という主張は,前述したとおり,原告の誤った解釈に基づくものである。
ウ(ア) 原告は,「刊行物1の記載事項である(へ)及び(ト)の「次の10個のエン トリ」,「次の10個のhot-links」という記載及びFIG.8Bの記載は,記載事項である(ニ)の「そのうち最初の20件のhot-linksが表示されている。」と整合しないが,これはどちらかの誤記と認められるとした本件審決の判断は誤りであると主張する。
しかしながら,本件審決は,上記のような不整合が存在することにより本件訂正発明7が引用発明1であるとの判断が左右されるものでもないとしているのであって,その判断に誤りはなく,原告の上記主張は,失当である。
(イ) 原告は,「検索サービスYahoo!において,次の何件のhot-linksを取得するかについて任意に指定し得ることは公知の事実であり,したがってまた,引用発明における「10」という数値はユーザが任意に選択できる値でありうる。」と主張する。
確かに,現在のYahoo!においては,Advanced Web SearchのNumber of Resultsによって,1ページで取得するhot-linksの件数を指定できるようになっている。しかしながら,現在の,[「WEB RESULTS 21-40 out of about 89」]と,刊行物1のFIG.5の506「Found 74 Matches containing rat. Displaying matches 1-20.」に開示されている当時の表記とは明らかに異なっており,現在の検索クエリで指定できる&n=10の引数が刊行物1に開示されている当時においても適用されていたとはいえない。また,FIG.5Cの588の「Next20」に対応し,次のページへのURLリンクともなっている現在の表示は「Next」のみで,次のhot-linksの数は表示されていない。
仮に,当時もhot-linksの数を指定できるようになっていたとしても,「Next」が「最終URL」を判断する対象であるということに変わりはなく,したがって,「次の10個のエントリ」等の記載と「Next20」等の記載の不整合の存否によって,本件訂正発明7が引用発明1であるとの判断が左右されないとしていた本件審決の判断に誤りはない。
エ 以上のとおりであるので,本件訂正発明7は,引用発明1であるとした本件審決の判断に誤りはない。
(2) 原告は,本件訂正発明7が引用発明1であるとした本件審決の判断が誤りであることを前提に,本件訂正発明8が引用発明1であるとした判断も誤りであると主張するが,本件訂正発明7についての本件審決の上記判断に誤りはないから,原告の主張は,その前提を欠き失当である。
(3) 原告は,本件訂正発明7及び8が引用発明1であるとした本件審決の判断が誤りであることを前提に,本件訂正発明7及び8を引用した本件訂正発明9ないし13が独立特許要件を具備しないとした本件審決の判断も誤りであると主張するが,本件訂正発明7及び8についての本件審決の上記判断に誤りはないから,原告の主張は,その前提を欠き失当である。
2 取消理由2(本件訂正の適否の判断を請求項ごとに判断しなかった誤り) 本件訂正の請求の適否は,請求項ごとに判断されるものではなく,一体として判断されるべきものである。
無効審判の請求がされていない請求項に対する訂正については,従来と同様に独立特許要件が判断されることになるところ,無効審判請求がされていない本件訂正発明7ないし12は独立特許要件を欠くものであるから,本件明細書の「特許請求の範囲」の請求項7ないし12について本件訂正の請求は認められず,したがって,上記「特許請求の範囲」の請求項1ないし6についても訂正は認められない。
3 取消理由3(本件発明1ないし6についての特許要件の具備に関する判断の誤り) 原告は,本件訂正発明7及び8が引用発明1であるとした本件審決の判断が誤りであることを前提に,本件発明1及び2の新規性に関する判断,本件発明3ないし6の進歩性に関する判断も誤りであるとするが,本件訂正発明7及び8についての本件審決の上記判断に誤りはないから,原告の主張は,その前提を欠き失当である。
当裁判所の判断
1 取消理由1(本件訂正発明7ないし13についての独立特許要件の具備に関する判断の誤り)について (1) 本件訂正発明7について 原告は,引用発明1は,本件訂正発明7の構成要件G(該コンテンツ内を解析し,次ページの指定があるか否かを判別して次ページの有無を検出するステップ)及び構成要件H(次ページがあったとき,該次ページの取得リクエストを送信して該ページデータを取得しファイルとして格納し,次ページがある限りこれを繰り返すステップ)に相当するものを備えているとした本件審決の判断は誤りであるとし,(原告主張の取消事由)1(1)のとおり主張するので,以下判断する。
ア 原告は,「「next」判定部850」で判定される最終URLは,FIG.5Cにいう符号584のhot-linkであると解するほかなく,これを符号588として示された「Next20」と解する余地はないと主張する。
(ア) そこで検討するに,刊行物1には,「「Next」判定部850」に関して,別紙(ホ)のとおり,「FIG.8Bに検索手順の自動ジャンプモードの詳細を示す。
この手順は,ユーザーに対して,ブラウザウィンドウ内のレベル1のhot-linksで示されるレベル2のファイル群の動的なツアーを見ることを可能にする。連結ブロックAで開始し,制御はmemory fetch手順840へ移行する。そこで最初のURL(FIG.2で示される格納部230内のhot-linksの一部である)がjumperにより取り出される。次に,jumper-browser手順842において,最初のURLがブラウザに送られる。userI/O 208の制御により,ブラウザは,当該サイトと当該サイトにあるファイルにアクセスし,ブラウザウィンドウ406に当該ファイルがアップロードされ表示される。」(第10欄51〜61行,訳文22頁14〜25行)との記載,別紙(へ)のとおり,「制御は遅延手順844へ進み,ユーザーが選択可能な表示インターバルに基づき,選択されたインターバルでページ画像がブラウザウィンドウ406に表示される。インターバルが終ると制御はmemry fetch手順846に進み,解析されたHTMLファイルの次のURLが取り出され,リスト最終判断部848において,当該URLが格納されたURL群の最後であるかどうかが判定される。・・・判定が肯定であれば,制御は「next」リンク判定部850へ移行する。「next」リンク判定部850では,(FIG.5Cの588の例で示す通り)その最終URLが,また,次の10個のエントリへのクエリを含むかどうか判定される。」(第11欄3〜22行,訳文22頁33〜23頁5行)との記載がある。
上記記載によれば,引用発明1において,「「Next」判定部850」で「次の10個のエントリへのクエリを含むかどうか」が判定される最終URLは,「格納部230」内に格納されたhot-linksでジャンパ(jumper 28)により取り出されるものであると解される。
ところで,刊行物1には,別紙(ニ)のとおり,ブラウザにより取得されたファイルが「next feature 588」を含んでいることは記載されているが(第7欄64〜65行,訳文18頁14〜16行,及びFIG.5C),取得された「next feature 588」がジャンパにより「格納部230」にhot-linksの1つとして格納されるかどうかについて,明確な記載はない。
しかしながら,刊行物1には,上記のとおり,「「next」リンク判定部850では,(FIG.5Cの588の例で示す通り)その最終URLが,また,次の10個のエントリへのクエリを含むかどうか判定される。」と記載されているから,「next feature 588」が格納部230に格納されて最終URLとして取り出されることが示唆されているといえる。仮に,「next feature 588」が格納部230に格納されておらず,最終URLとして「「next」リンク判定部」で判定されるhot-linkが原告の主張するようにFIG.5Cで示される「hot-link 584」であるとするならば,この「hot-link 584」は対応するレベル2のファイルへのリンクを含むのみであって,「次の10個のエントリへのクエリを含むかどうかが判定される」という判定手順は技術的に意味のないものとなる。
したがって,刊行物1の上記記載からは,「「next」リンク判定部」で判定される最終URLは,「next feature 588」であると解するのが合理的であり,当業者であればそのように解するのが自然である。
(イ) 原告は,刊行物1のjumperボタン312等の記載(第9欄2〜6行,訳文19頁40〜44行)は,本件審決が認定した自動ジャンプモードの実施例の一部をなすものであるから,本件審決が,上記「「next」リンク判定部」の解釈に際して,上記「jumperボタン312等の記載(第9欄2〜6行)は,「next」リンク判定部850での判定が問題となる自動ジャンプモード時とは異なる場面のものである」と判断したのは誤りであると主張する。
原告の主張するように,刊行物1の「jumperボタン312」等の記載(第9欄2〜6行)は,自動ジャンプモードと共通の1つの実施例についての説明をした部分であるが,この記載中に「next feature 588」への言及はない。
ところで,刊行物1には,「jumperを使えば,ユーザはいくつかのオプションを有する。最初のオプションとしては,ユーザーはjumperボタン312,314,316,318,320のひとつを選択してそれぞれ,Fig.6で示される,先頭,前,ランダム,次,最後のhot-links(jumperドロップダウンリスト586に入っている)に戻ることができる。ユーザの選択に対応して,選択されたhot-linkに対応するファイルが取得され,ブラウザウィンドウ406に表示される。2つめのオプションは,ユーザーはタイマー開始ボタンを選択して,解析されたリストのすべてのhot-linksを時間間隔を置いて自動的に連続して選択することを開始できる。自動ジャンプモードの選択に対応して,選択されたhot-linkに対応する各ファイルが時間間隔を置いてブラウザによって取得され表示される。3つめのオプションは,ユーザーがドロップダウンウィンドウボタン310を選択し,提示されたエントリをドロップダウンリストからマウスをクリックして選択できることにある。」(第9欄1〜15行,訳文19頁39行〜20頁7行)と記載されている。
また,刊行物1には,単独ジャンプモードと自動ジャンプモードに関して,「FIG.9Bは単独ジャンプまたは自動ジャンプモードで,一度に多段階の縦断をする本発明のひとつの実施形態を利用するものである。単独ジャンプモードで,検索者がレベル5のファイル932に到達したとき,ユーザがレベル1に戻ることを欲する場合,従来のブラウザのように逆順に辿る必要はない。すなわち,ユーザーはjumperに対し,次のレベル1のhot-linkにアクセスすることを指示する。それに応じて,jumperは単独ジャンプ914によって,レベル5のファイル932からレベル1ファイル932のhot-linksで示されるレベル2ファイルにユーザーを戻らせる。多くの時間が節約され,ユーザーは他のレベル1のhot-linksの検索を進めることができる。自動ジャンプモードでは,ユーザーは,ファイル902の全てのhot-linksにアクセスするようjumperに指示する。すると,jumperはレベル2のファイル926,934,936のそれぞれにアクセスして表示するようにブラウザに指示する。これらのファイルは,jumperが時間間隔を置いてhot-links924,922,920のそれぞれを,解析されたhot-linkリストからブラウザに送ることに対応して,ブラウザにアクセスされるものである。ブラウザは,hot-links924,922,920がそれぞれ指し示すファイル926,934,936にアクセスする。これにより,ユーザーはブラウザウィンドウで時間間隔を置いたアニメーションを見ることができる。」(第5欄24〜45行,訳文14頁1〜23行)と記載されている。
上記の各記載によれば,「jumperボタン312」等の記載部分は,自動ジャンプモードとは異なる単独ジャンプモードのjumperボタンの使用法を説明した部分であることが明らかである。そして,上記のように,単独ジャンプモードは,「jumperボタン312」等を使用することにより,レベル5のファイルから,選択されたレベル1のhot-linkに対応するレベル2のファイルに直接移ることができるモードであるのに対し,自動ジャンプモードは,数ページに及ぶレベル1のhot-linksに対応するレベル2のファイルを,すべて,時間間隔を置いて自動的に表示することができるモードであるから,単独ジャンプモードでは,次ページが存在するか否かに重要性がないのに対し,自動ジャンプモードでは,次ページがある場合に次ページに移る処理が重要になるものである。なお,ブラウザによるWebデータの取得画面には,検索条件に合致した20件未満の場合もあり,この場合は「next feature」は存在しない。また,検索条件に合致した件数が20件以上であって,hot-linksの最後に「next feature」が存在し,jumperボタンによりこれが選択された場合には,次の20個のエントリを含むファイルが取得され,新たな20件のhot-linksが表示されるだけであるから,動作上何ら支障はない。したがって,いずれにしても,自動ジャンプモード以外では「next feature」に言及する必要は必ずしもない。「jumperボタン312」等の記載部分には,このようなことから「next feature」についての言及がないものと解される。
そうすると,「jumper312」等の記載部分に「「next feature」についての言及がないからといって,そのことは,「判定部848」によって「最終」であることが判別され,さらに「「next」リンク判定部850」の処理に供される「最終URL」が「next feature」ではないとする根拠とはなり得ない。本件審決の上記判断は,この趣旨をいうものと解されるのであって,これを誤りということはできない (ウ) 以上のとおり,本件審決が,「「next」リンク判定部」で判断される最終URLが「next feature 588」であると認定した点に誤りはない。
イ 原告は,「「next」リンク判定部」においては,「最終のURL」が「次の10個のエントリへのクエリを含むか」どうかが判定されるのであり,「「next」リンク判定部850」において,最終URLに対応するテキスト部分に「next」があるか否かを判定しているということは,刊行物1には一切記載されていないし,示唆もされていないと主張する。
そこで,検討するに,刊行物1の記載事項である別紙(ニ)の記載とFIG.5A〜5Cの記載によれば,検索条件「Rat」に合致したファイルが74件あることが示されているが,この74件について,刊行物1の「「next」リンク判定部850では,(FIG.5cの588の例で示すとおり)その最終URLがまた次の10個のエントリへのクエリを含むかどうか判定される。」(第11欄19〜22行,訳文23頁2〜5行)との記載に従って,hot-linksを10個ずつ取得するようにすれば,最後は「4件のhot-links」が残ってしまう。この場合,「「next」リンク判定部850」では,文字どおり,最終URLが「次の10個のエントリへのクエリを含むがどうか」の判断が行われるのであれば,その判定結果は否定となり,「最後の4個のhot-links」に対応するレベル2のファイルは,自動ジャンプモードの手順ではブラウザで表示することができない。
しかし,引用発明1が,自動ジャンプモードで,「最後の4個のhot-links」に対応するファイルを表示することなしに終了することを意図したものであるとは,技術常識からは考えられない。「「next」リンク判定部」が,最終URLに「次の10個のエントリへのクエリを含むかどうか」ではなく,「次の何個かのエントリへのクエリを含むかどうか」を判断しているものと解すれば,「最後の4件のhot-links」は,他のhot-linksと同様にブラウザに送られ,レベル2のファイルが表示できることは明らかである。そして,このように解することは,刊行物1の他の記載と何ら矛盾するものでなく,引用発明1についての技術常識にかなった合理的な解釈というべきである。したがって,当業者であれば,引用発明1において,「「next」リンク判定部」は,最終URLに対応するテキスト部分に「next」があるか否かを判定していると理解するのが自然である。この点に関する本件審決の認定に誤りはない。
なお,後述するように,刊行物1における「次の10個のエントリ」,「次の10個のhot-links」という記載は,「次の20個のエントリ」,「次の20個のhot-links」の誤記であると認めらるところ,その場合でも,「最後の14件のhot-linksの一覧」を表示するページを取得できる構成が開示されているか否かが問題となるが,上記と同様に判断される。
したがって,「「next」リンク判定部」は「Next20」ないし「Next10」の記載を判定しているのではなく,「Next」の記載を判定しているとするのが相当」とした本件審決の判断に誤りはない。
ウ 原告は,刊行物1の記載事項である別紙(へ)及び(ト)の「次の10個のエントリ」,「次の10個のhot-links」の「10」の記載は,「20」の誤記ではなく,そのことを前提にすれば,引用発明1の「「next」リンク判定部850」という「判定手段」は,「最終URLが次の10個のエントリへのクリエを含むか否かを判定する手段」であって,同「判定部850」はFIG.5Cで符号588として示されている「Next20」を検出しているものではなく,また,引用発明1における「「next」リンク判定部850」の判定が肯定であった場合に,手順852で送信されるクエリは,「該次ページ」とは別物の,「10件」という指定のある取得リクエストであることは明らかであると主張する。
(ア) 原告において,刊行物1の記載中の上記「10」を「20」の誤記ではないとする理由は,刊行物1には,「最終URLが,また,次の10個のエントリへのクエリを含むかどうか判定される。判定が肯定であった場合,制御はjumper-browser-jumper手順852に進む。手順852では,次の10個のhot-linksのためのクエリがヤフーに送られる。それに応じて,次の10個のhot-linksを含むHTMLにエンコードされたページが取得される。」(第11欄19〜27行,訳文23頁4行〜23頁10行)と記載され,FIG.8Bのフローチャートに「LAST=NEXT"10"?」と記載されており,そのすべてを誤記であるということはできないというものである。
しかし,前記アで検討したように,引用発明1において,「「next」判定部」で判定される最終URLは「next feature 588」であって,刊行物1のFIG.5Cには「Next20」として記載されている。Yahoo検索サイトの回答画面における表示件数が通常は「20件」であることは当業者に一般に知られた事実であるから,刊行物1の記載事項である,「「next」判定部」で判定される最終URLが「次の10個のエントリを含むか否か」を判定し,この判定が肯定の場合に,「次の10個のhot-linksのためのクエリ」を送信し,「次の10個のhot-linksを含むページが取得される」という記載(別紙(へ)及び(ト))の「10」は,明らかに「20」の誤りであると解される。上記「10」に関する記載はすべて関連した記載であるから,1箇所の誤りがすべてに波及するのであり,すべての記載を誤記であるとする解釈は何ら不自然なものではない。
(イ) 原告は,検索サービスYahoo!において,次の何件のhot-linksを取得するかについて任意に指定することは公知の事実であり,刊行物1に「10」という数字が複数箇所記載されていることからすれば,刊行物1では初期値として「10件」と設定されているものと解するしかないと主張する。また,ネットワークの検索サービスにおいて,ユーザーは最初の20〜30件をチェックし,目的の情報が取得できそうにないことが分かれば,別のより適当な検索キーワードを試すのが通常であり,21件目以降についてさらに20件ごとにデータを取得する必要性は乏しく,10件ごとにデータを取得していくことで十分であるとも主張する。
しかし,Yahoo検索サイトの表示数が通常20件単位であることを考 慮すれば,刊行物1にこれを「10件」として設定することの明確な記載がされてない以上,初期値として「10件」が設定されていると解することはできない。
なお,刊行物1には,「他の実施形態では,ユーザーが検索結果からいくつかのサイト識別情報が解析されるかをユーザーが決められるようにすることである。たとえば,検索結果が20のサイト識別情報を提供し,ユーザーが最初の5個の識別情報のみを欲する場合,ユーザは最初の5個の識別情報のみが提供されるようにすることができる。」(第12欄51〜56行,訳文25頁10〜15行)とも記載されているが,該記載は他の実施例についてのものであり,上記「10件」が初期設定されているという解釈とは結び付くものではない。
(ウ) 上記のとおり,刊行物1の記載事項である別紙(へ)及び(ト)の記載事項である「次の10個のエントリ」,「次の10個のhot-links」との記載における「10」は「20」の誤りであると認められるから,それが誤記ではないことを前提する原告の主張は,その前提を欠くものである。
のみならず,仮に刊行物1記載中の上記「10」が誤記ではないとしても,引用発明1において,前記ア及びイで説示したところからすれば,「「next」リンク判定部」で判断される最終URLが「next feature 588」であること,「「next」リンク判定部」においては,最終URLに対応するテキスト部分に「next」があるか否かを判定するものであることには変わりがないというべきであり,刊行物1には記載事項である別紙(へ)及び(ト)に「次の10個のエントリ」,「次の10個のhot-links」との記載及びFIG.8Bに「LAST=NEXT"10"?」との記載があり,他方,その記載事項である別紙(ニ)には「そのうち最初の20件のhot-linksが表示されている。」との記載があり,実施例の説明としては一貫性を欠くが,このことにより,上記の判断が左右されるものではない。
エ 以上のとおり,原告の上記主張はいずれも理由がなく,本件訂正発明7が引用発明1であるとの本件審決の判断に誤りがあるということはできない。
(2) 本件訂正発明8について 本件訂正発明7が引用発明1であるとの本件審決の判断に誤りがないことは前記(1)で説示したとおりであり,その誤りがあることを前提に,本件訂正発明8の新規性に関する判断も誤りであるとする原告の主張は,その前提を欠き理由がない。
(3) 本件訂正発明9ないし13について 本件訂正発明7及び8が引用発明1であるとの本件審決の判断に誤りがないことは前記(1)及び(2)で説示したとおりであり,その誤りがあることを前提に,本件訂正発9ないし13が新規性ないし進歩性を欠き,独立特許要件を具備しないとした本件審決の判断の誤りをいう原告の主張は,その前提を欠き理由がない。
2 取消理由2(本件訂正の適否を請求項ごとに判断しなかった判断の誤り)について 1つの特許出願により特許を受けることのできる発明は,1つの発明又は単一性の要件を満たす相互に技術的に密接に関連した2以上の発明であり,当該発明についての特許出願において請求項が複数存在する場合,それらの請求項は互いに関連している場合が通常であり,1つの請求項の訂正が他の請求項に影響を及ぼすことのあることは明らかである。このような関係にある請求項について,上記特許出願に添付された明細書又は図面の記載についてこれを複数箇所にわたって訂正を求める訂正請求は,その訂正が単なる誤記の訂正であるような形式的なものであるときは格別,それが特許請求の範囲に実質的に影響を及ぼすものであるときには,これを一体不可分の一個の訂正を求めているもの解すべきである。そして,このような訂正請求がされたときは,請求人において,訂正請求書の訂正事項を補正して,上記複数の訂正箇所のうち一部の箇所について訂正を求める趣旨を特定して明示しない限り,特許庁は,複数の訂正箇所の全部につき一体として訂正を許すか許さないかの判断ができるだけであると解するのが相当である。複数の請求項のうちどの請求項について,いかなる訂正をするかどうかは,請求人において適宜選択できることであり,上記のように解しても格別の不都合はないというべきである。
本件訂正の請求は,本件明細書の「特許請求の範囲」の請求項1から13に関し複数箇所について特許請求の範囲に実質的に影響を及ぼす訂正を求めるものであるところ,原告は,本件審判の手続において,本件訂正の請求書を補正して,その一部の箇所について訂正を求める趣旨を特定して明確にする措置をとっておらず,したがって,特許庁において,本件訂正の請求を一体不可分のものとして扱い,その可否を判断したことに誤りはない。
3 取消事由3(本件発明1ないし6について特許要件の具備に関する判断の誤り)について 本件訂正発明7及び8が引用発明1であるとの本件審決の判断に誤りがないことは前記1で説示したとおりであり,したがって,その誤りがあることを前提に,本件発明1及び2の新規性に関する判断,本件発明3ないし6の進歩性に関する判断も誤りであるとする原告の主張は,その前提を欠き理由がない。
4 以上によれば,原告が取消事由として主張するところはいずれも理由がなく,本件審決には他にこれを取り消すべき瑕疵は見あたらない。
よって,原告の本件請求は,理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
追加
別紙米国特許第5890172号明細書(刊行物1)の記載事項(イ)適切な情報をインターネットで見つけることのプロセスを速めるために,インターネットのいくつかのサーバは,インターネットの索引と検索エンジンを提供する。ヤフー・・・といったこれらの検索プロバイダは,2つの貴重な機能を実行する。第1に,彼ら自身のインターネットリンクを使用して,絶えずインターネットを検索し,全てのインターネットファイルを分類して索引を作成し,これらの索引を彼らのデータベースに格納する。検索プロバイダは,クライアントに,彼らのサーバに接続して検索条件を入力させる。それに応答して,検索プロバイダは,検索条件に合致するウェブのすべてのファイルのリストを提供する。それゆえに,ヤフーといった検索プロバイダは,トピックに関連づけられたウェブのすべてのファイルのインデックスを更新するだけでなく,その索引をクライアントから検索可能にするものである。ヤフーから取得される情報が,特定のトピックのために,一般のトピック識別子とファイルの場所のみを含んでいることに注意すべきである。
(第1欄62行ないし第2欄12行,訳文8頁31行〜9頁2行)(ロ)ジャンパの動作のよりよい理解のために,まず,ジャンパが実施される環境を理解する必要がある。FIGS.1-2は,ジャンパが動作するハードウェア環境を示す。FIG.1に示されるように,インターネット22はインターネット入力線24および出力線26によりクライアント20に接続される。jumper28およびブラウザ30はクライアント20の一部である。インターネット22はサーバ32,34,36,38を含む。各サーバはHTMLファイルを保持する。クライアントと全サーバは電子的にリンクされている。サーバ34は検索プロバイダとして示される。サーバは,CGI42,ユーザーの質問が入力されるフォーム44,Webの全ファイルをトピックに対応づけて更新されたインデックス46を含む記憶装置を有している。(第5欄47行ないし59行,訳文14頁25〜36行)(ハ)FIG.4は従来のブラウザのユーザーインターフェースと,検索プロバイダの質問フォームを示す。このインターフェースにより,ユーザーはWEBファイルにアクセスし,ファイル内容を表示することができる。ブラウザインターフェース400は,ネットスケープナビゲイタのものである。ブラウザインターフェースはブラウザメニューバー402,サイトウィンドウ404,そしてファイル閲覧のためのウィンドウ406を有する。ブラウザメニューバーは,戻るボタン412,ホームボタン414を有する。ビューウィンドウに示されるファイルは,ヤフーの質問フォーム408である。
この質問フォームは質問フィールド410を有している。ブラウザメニューバー402は一般に,ファイル編集および保存のために提供される。戻るボタン412はFIG.9Aに示すように,検索ツリーの逆順に,ユーザーをひとつ戻す。ホームボタン414は,ユーザーをブラウザウィンドウでホームページ900に戻す。ブラウザサイトウィンドウ404は現在表示されているファイル,この例ではヤフー.の質問フォームに対応するURLを表示する。質問フォームはマークアップ言語でエンコードされ,質問フィールド410を有しており,ユーザーはそこに所望の検索トピックを入力することができる。この例では,検索トピックは"Rat"である。検索トピックが入力されると,FIG.1に示す通り,ブラウザによってWebを越えてサーバ34ヤフー.により所有される40へそれが送信される。(第7欄27行ないし49行,訳文17頁9〜末行)(ニ)FIGS.5A-Cは,ジャンパおよびブラウザによりガイドされる検索セッションの最初の段階を示している。ブラウザインターフェース400,ブラウザにより取得されたファイル,そしてjumperウィンドウ300が示されている。これは例示的な検索のための基本的ツールである。検索条件"Rat"に対応してヤフー.から取得された最初のファイルが,FIG.5A,B,Cにかけて,ページ上部が502a,ページ下部が502bとしてそれぞれ示されている。これらはスクロールバー500によりアクセスされる。取得されたファイルは,広告504,検索結果のサマリー506,そして508-514および580-584で参照される複数のhot-linksを含んでいる。代表的なhot-link514は,URL516と,テキスト部518との双方を含んでいる。FIG.5Cにジャンパのドロップダウン・リスト586が示されている。さらに,取得されたファイルはnextfeature588を含んでいる。FIG.4に示すとおり,検索条件"Rat"の入力に対応して,検索条件がブラウザによってヤフー.へ送られる。ヤフー.のトピックインデックス46(FIG.1に示す)が検索され,関連する全てのレベル1のhot-linksおよびその他の情報を含むファイル502a-bがクライアント20に返送され,ブラウザによって502a-bのように表示される。ページ502aは広告504の見出しを有する。広告のすぐ下には,"Rat"の語にマッチするものが74件あることを示す検索結果のサマリー506があり,そのうち最初の20件のhot-linksが表示されている。主題の記述を伴う様々なhot-linksが太字・下線でこのページに表示される。たとえば,508の"Entertainment,Humor...",510の"RegionalAlternativeTheater...",512の"SpaceRAT"...,514の"Agrizap,Inc..."。(第7欄51行ないし第8欄12行,訳文18頁2〜29行)(ホ)ユーザーがジャンパのメニューバーからタイマー開始ボタン322を選択した場合,FIG.8Bに示される方法で自動ジャンプモードが開始する。・・・FIG.8Bに検索手順の自動ジャンプモードの詳細を示す。この手順は,ユーザーに対して,ブラウザウィンドウ内のレベル1のhot-linksで示されるレベル2のファイル群の動的なツアーを見ることを可能にする。連結ブロックAで開始し,制御はmemoryfetch手順840へ移行する。そこで最初のURL(FIG2で示される格納部230内のhot-linksの一部である)がジャンパにより取り出される。次に,jumper-browser手順842において,最初のURLがブラウザに送られる。userI/O208の制御により,ブラウザは,当該サイトと当該サイトにあるファイルにアクセスし,ブラウザウィンドウ406に当該ファイルがアップロードされ表示される。(第10欄37行ないし61行,訳文22頁1〜25行)(へ)制御は遅延手順844へ進み,ユーザーが選択可能な表示インターバルに基づき,選択されたインターバルでページ画像がブラウザウィンドウ406に表示される。
インターバルが終ると制御はmemoryfetch手順846に進み,解析さたHTMLファイルの次のURLが取り出され,リスト最終判定部848において,当該URLが格納されたURL群の最後であるかどうかが判定される。判定が否定である場合には,制御はjumper-browser手順842に進み,次にアクセスされたURLをインターバル表示する。jumper-browser手順842からリスト最終判定部848に至るループは,ユーザー設定可能なアニメーションを構成し,ここで,解析・格納されたURL群が,自動取得・表示処理を駆動するために利用される。一方,最終URL判定部848において,判定が肯定であれば,制御は「next」リンク判定部850へ移行する。「next」リンク判定部850では,(FIG.5Cの588の例で示す通り)その最終URLが,また,次の10個のエントリへのクエリを含むかどうか判定される。(第11欄3行ないし22行。訳文22頁33行〜23頁5行)(ト)判定が肯定であった場合,制御はjumper-browser-jumper手順852に進む。
手順852では,次の10個のhot-linksのためのクエリがヤフー.に送られる。それに応じて,次の10個のhot-linksを含むHTMLにエンコードされたページが取得される。制御は解析部854へ移行し,全URLおよび対応するテキスト識別子が広告イメージと併せて解析される。次にバッファ手順856で,解析部の出力がこのセッションのために格納される。制御は自動取得・表示のためにmemoryfetch部840へ移行する。
一方,nextリンク判定部850で否定の判定がされたら,jumper-browserの手順858において,この最後のURLがブラウザへ送られる。そして,制御は,hot-link選択部818へ戻るため,連結ブロックBへ進む。(第11欄22ないし37行,訳文23頁6〜19行)
裁判長裁判官 北山元章
裁判官 青蜉]
裁判官 沖中康人